コンサルティング会社サバイバルマニュアル_メン獄 はじめに   本書は、2009年9月からり一年間、大手外  資系コンサルティング会社に勤務し、同社でア  ナリストからコンサルタント、そしてシニアマ  ネージャーまでのキャリアを経験した人間が、  自身の独断と偏見にのみ基づき記載する業界内  サバイバルマニュアルである。  所属業界・会社の一般的な総意ではなく、あ くまでも個人の体験をペースにした非公式マ ニュアルだ。と同時に、私かコンサルタントと して働く中で出会った尊敬すべき仲間だちとの 仕事を通して、人として、一社会人として、ど のような成長を遂げたのかを振り返る記録であ る。  2020年代、。大コンサル時代”ともいえ るブームが起こっている。15年ほど前には、大 学生の就職活動において人気上位ランキングの 常連であった国内の総合商社やメガバンクに とって代わり、今や戦略・総合コンサルティン グ会社、あるいはシンクタンクと呼ばれる企業 が上位にランクインしている。NHKの調査に よれば、就活囗コミサイトが発表した東大生・ 京大生の2023年卒業生の就活人気ランキン グにおいて、トップ10の半数をマッキンゼーや ボストンコンサルティングといったコンサル ティング企業が占めている。  かつてコンサルティングという仕事は、経営 者との広範な関係性と自らの経験・専門性を武 器とし、経営全般に対するアドバイザリー業務 を指すものだった。しかし、現代においてはそ れに加えて、最新テクノロジーを用いた経営の 効率化、事業拡張を得意とするITコンサル、 M&Aを検討しているクライアントに対して財 務や金融のアドバイスを行うFAS(ファイナン シャルーアドバイザリー・サービス)、成功報酬を前 提とした新規事業伴走型コンサルティング等、 様々な角度からの企業支援サービスが派生して おり、サービスに応じたキャリアのルートが存 在する。  業界の拡大は衰えることを知らず、即戦力の 補堽を目的とした中途採用も積極的に進み、毎 年、万を超える人間が新たにコンサルタントと してのキャリアを歩みはじめている。  長らく、コンサルティング業界は、証券業界、 広告業界と並んで激務の象徴とされてきた。コ ンサルティング会社の多くがオフィスを構える 六本木の夜景は、彼らの残業で彩られると噂さ れてきたほどだ。  だが昨今、社会全体の働き方改革の波に後押 しされながら、この業界にも少しずつ変化が訪 れている。女性向けファッション誌などで、コ ンサルタントという職業が先進的かつカジュア ルな、やりがいも得られる新世代のワークスタ イルの一例として紹介されている流れもあり、 従来の価値観にとらわれず自由にキャリアを選 びたい若者にとって、注目すべき仕事の一つと なっている。  一方で、ここ数年にわたる業界内の急激な変 化は、意図しない副作用ももたらした。人員不 足を補坿すべく拡大された採用活動は、メディ アの煌びやかなイメージに扇動され仕事の内容 を充分に理解しないままに応募してしまった一 部の層までも、両手を広げて歓迎してしまった。  そんな新時代のコンサルタントと、激務の時 代をくぐり抜けてきた生え抜き社員との間には、 仕事観の深い相違が存在することもまた確かだ。  私か入社した2009年は、業界特有の長時 間労働やパワ(ラに相当するレベルのしごきに 対し、社会・業界全体の問題意識が今ほど顕著 ではなかった。そのため、コンサルタントたち は(Iドな長時間労働を通してサバイバル術を 身につけ、生き残った者だけが会社やプロジェ クトの中核構成員となっていった。  しかし今の時代に大量採用で業界に入社した 社員たちは、幸か不幸か、突き落とされた千尋 の谷を這い登るような、高負荷な鍛錬でトレー ニングすることは許されていない。加えて、 2020年から拡大したコロナ禍は、先輩の仕 事の暗黙知やコンサルタントとしての阿吽の呼 吸を見よう見まねで盗むことができるオフィス 環境を奪い取ってしまった。  つまり、ここ数年の間にコンサルティング会 社に入社した社員の多くは、仕事の核心を会得 する時間的・空間的環境が極めて限定的にしか 与えられていないのだ。  コンサルティング会社では通常、クライアン トとの業務委託契約に基づき、特定期間におい て、「プロジェクト」単位で日々の仕事を行う。 クライアントは、小売・資源・情報通信・製 造・医療・行政・運輸など多岐にわたる。ひと くちにコンサルタント業と言っても、プロジェ クトごとで業務内容が大きく異なり、定型的な 「マニュアル」化か非常に難しい。  本書は、そんな環境下で日々、自問自答しな がら、トライアル&エラーを繰り返す新米コン サルタントたちの一助となるべく、かつて私か 長時間の就労を通して体得したサバイバル術を 可能な限り言語化したものである。  当初、この文書は私か勤務していたコンサル ティング会社を退職することを決意した際に、 最後の部下となった一人のスタッフに向けて書 いたものだ。前職では芸能関係の仕事をしてい た彼女は、コンサルティングという仕事が一体 どのようなものであるのか、ほぼ何も理解して いなかった。私か上司として彼女をスーパーバ イズできる時間が3ヶ月を切っている中、部下 がこの業界で働いていく上での道標を残せない かと考えて、マニュアル化に着手したのがキッ カケだ。  客観的に見て、私自身はキャリアを通してた いして優れたコンサルタントではなかった。し かし、だからこそ大志も大義もなくコンサルタ ントになった一大学生が、どのようにD一年とい う歳月を業界内で生き延びたのかという激動の 記録は、彼女が道に迷った時に、一つのヒント になるのではないかと考えたのだ。  第1部アナリスト編では、アナリストから出 発するコンサルタントの初歩段階において、絶 対に身につけておきたい基本動作と思考法につ いて示してゆく。業界をサバイバルするために 最低限必要なスキル、武器を手にしてもらいた い。  第H部ジュニアコンサルタント編では、コン サルタントに昇格したあとに求められる対顧客 やチーム内での仕事術について実践的に示して ゆく。いわば武器を手に社内外でどういう戦術 を組み立てるか、主体的な動き方を身につける ための指針だ。  第m部シニアコンサルダントーマネージャー 編は、キャリア形成の全貌を見渡す上で、マ ネージャーの立場ではどういう役割が求められ るのか、仕事のグランドデザインの一助になる ように記述した。  コンサルタントの働き方に一義的な定義はな い。私か現場で掴んだ経験知から、読者自身が 働き方を確立し、より自由で自分らしい仕事の スタイルへと羽ばたいていくことを望む。      大幽 アナリスト編 私大文系バンドマベコンサルタントになる  フ速い”はそれ自体が重 要な価値だ」 −スピードを生む仕事の基礎力      兵における第一の美徳は勇気で      口卜疲労に対しての忍耐で        貧困と欠乏、そして欲求が良き        兵を作る。        −ナポレオン   アサインメールは突然に  2009年10月、私は都内某所のコンサルティン グ会社のロビーにいた。いくつかの外資系のIT企 業が拠点を構えるこの巨大ビルディングには、その 年の9月に私か入社したコンサルティングファーム の本社があった。日本国内の総社員数は約3000 人という。  入社して約1ヶ月間の研修期間を終えた後、同期 が次々と有名企業のクライアントのプロジェクトへ 派遣されていくのを尻目に、2週間のアベイラブル (待機)期間を経て、ついにその日、私はプロジェク トに配属された。  2週間のアベイラブルは、世界随一のコンサル ティングファームに奇跡的に滑り込むことで維持さ れた私のプライドを砕くには十分なものだった。内 定者懇親会で先輩社員だちから「入社以降は寝る間 もなく働く」と聞いていたにもかかわらず、受け入 れ先の仕事がない、という状況に混乱した。  折しも、就職活動を終えた2008年の春から約 半年後、サブプライムローン問題に端を発するりI マンーショツクは世界中の経済に大打撃を与えてい た。大学生活のほとんどをアルバイトとバンド活動 に費やしていた当時の私は、未曾有の。不景気”の 深刻さをあまり理解していなかった。  コンサルティング会社は通常、クライアント企業 に対してコンサルテーションを行い、対価として報 酬を受け取る。しかし不景気の折、多くの企業はコ スト削減にいそしみ、人月単価の高額なコンサル ティング会社を予算削減の仕分けのターゲットとし ていた。  多くの既存契約が突如として打ち切りとなり、コ ンサルティングファーム各社は新規案件の獲得に苦 労する。残された数少ない生命線となる案件は、実 力と経験を兼ね備えた精鋭社員たちが担い、数ヶ月 前まで学生であった大量採用枠の新入社員が活躍す る余地は、急速に失われていたのである。  実はコンサルタント業界において、配属先がない ために待機せよ、と暗黙に言われているアベイラブ ルとは、ある種の。戦力外通告”に相当するとされ ていた。  新入社員以外でアベイラブルとなる社員の多くは、 直前のプロジェクトにおいて何らかの。訳あり”社 員だ。当該社員は特定のプロジェクトに配属される ことなく、日々本社の研修会場の一室に出社しタイ ムカードを押し、自己研鑚という名目でWeb研修 に励むように人事から指示を受ける。  毎日ただ決まった場所、決まった時間に出社し、 役立つかどうかもわからない新たなWeb研修を検 索して受講する。隣には明らかに覇気を失った中年 社員が研修コンテンツとは異なる動画を見て時間を つぶしていれば、奥には光を失った目で転職サイト をスクロールする別の社員がいる。彼らはもしかす ると近い将来の自分の姿なのではないか……そんな 不安を抱えながら毎日を過ごしていたのだ。  もはや、働けるのであればどんな仕事でもよかっ た。社会から、組織から必要とされたかった。はじ めて振り込まれた月給は、貧乏学生たった自分には あまりにも高額で、それに報いるためにとにかく働 きたかった。   同期が、一人また一人とプロジェクトへの配属が 決まっていく中、アベイラブル部屋にとり残された 自分自身がたまらなく惨めに思えた。明確な処遇の 差についての説明は与えられず、様々な不安が頭の 中をめぐっだ。  アベイラブル期間2週目の最終営業日−待ちに 待ったアサインメールは、あっけなく届いた。   工FZaヨe is YAMAU(凵工一 「9時に本社ロビーで。プロジェクトの担当者が迎 えにいきます。詳しくはそこで」  要件のみのシンプルなメールで、それ以上のこと は文面から何も伝わってこなかった。  だが、やっと掴んだ配属のチャンスを無駄にはで きない。大型ルーキーであるという第一印象を与え、 仕事を手にしなければならない!・ 私は約束の当日、 スーパーの生鮮売り場の鯖も顔負けの、グレーの光 沢感のあるスーツで決め込んだ。  千葉の片田舎出身の私は、大型ルーキーの素養は 見た目で表現するものと考え、伊勢丹のスーツ売り 場で「新入社員であれば少しお色を控えた方 が……」とたしなめられたのも無視し、戦闘モード の「鎧」で身を固めていたのだ。  やってきた男は「西崎です」と名乗り、こう続け た。  「君の上司は今別件で迎えに来られないから、代わ りにきた。出会い頭にこんなことを言うのもどうか とは思うけど、君の上司は少し優秀すぎるところが あって、一緒に働くにあたっては覚悟しておいてほ しい。  まず、アメリカ帰りで日本語のコミュニケーショ ンができない。そして、パフォーマンスの低い部下 に激怒して部下の腕を折ったことがある。君、英語 できる?」  完全に想定外の展開だった。  当時の私のTOEICスコアは650点程度で、 外資系の会社に来るには高いとは言えないスコアだ。 加えて受験勉強以降、完全に研鑚をサボつていた自 分は、特にリスニングとスピーキングに大きなコン プレックスを抱えていた。しかし、ここでできない と言ってしまえば、アベイラブル部屋に戻ることに なるかもしれない。そう考えるともはや退路はな かった。  「できます!・」と、頭が判断するより先に、言葉が 囗から出ていた。  煌びやかな本社と道を挟んだ雑居ビルの一室に連 れていかれると、私の上司になる男が座っていた。 想像していた外見とは異なり、髪も目も黒く、どこ からどう見ても生粋の日本人だ。年齢は20代後半だ ろうか。しかし足を組みながら英字新聞を広げ、ス ターバックスのグランデサイズのコーヒーを持つ姿 は、なるほど、確かにウォール街を思わせた。  「ヤマウチ デス」と、その男は握手を求めてきた。  (口本語で話しかけてくれているのかこ  西崎から聞いていた事前情報からかなり気難しい 性格であると推測していた私は、混乱しつつも握手 に応じ、「よろしくお願いします」と完全に日本語 で応答していた。ヤマウチは続けた。  「Fukkin「 kyokin「 jowan-nitokin「 subete kitaereba kimimo……」  私は匸一。肖も聞き逃すまいと、咄嗟に内ポケットに 忍ばせていたメモにヤマウチの発する言葉を記録し た。  (PERFECT BOI)べ」  確かにそう聞こえた。英単語を自分自身の耳が理 解できたという高揚感が脳を満たし、「わかりまし た」と大きく頷いた。  「わかりました、じやないでしよ」  ヤマウチは日本語のイントネーションでそう言っ た。訳がわからなかった。アメリカ帰りの英語しか 喋れない優秀で知られる上司が、私のために日本語 を喋ってくれているのか。  様々な可能性が脳をめぐる中、ふと西崎を見ると、 彼は下をむき必死に笑いをこらえていた。その時に なって私ははじめて、先輩社員の仕掛けたドッキリ に引っかかっていたことに気づいたのである。   歓迎会後に議事録作成  初日から「クライアントとの会議だから準備して。 あと議事録とって」と言われ、クライアント先を一 緒に訪問することになった。私かはじめてアサイン された仕事は、プロジェクト自体が開始して間もな く、クライアントとの初回キックオフの会議が、私 の社会人初の会議となった。  私は高揚していた。入社からIヶ月と2週間、研 修の成果をついに発揮する時が来たのだ。研修中、 プログラミングについては大学院の研究やインター ンで経験済みの同期の後塵を拝していたが、議事録 については上位の評価を得ていた。今こそ月給に報 いなければならない。  そう思い、クライアント先の会議室でメモをとろ うと胸ポケットに手を入れた瞬間、自分がペンすら 持っていないという衝撃の事実に気がついた(当時 は会議先にPCを持参せず、資料は紙に印刷し、議事メモも紙 でとることが一般的だった)。  どんどん進んでいくクライアントとマネージャー 陣との名刺交換、もう次の瞬間には最初のアジェン ダ(議事事項)に関する議論がはじまる。そう思った 時、私は両眼をみはり、全集中ぶm事”の呼吸で、 すべての神経を両耳へと集中させたI。と、その 時、集中させていた右耳が「ドンツ」という音を捉 えた。  隣に座る女性先輩社員がものすごい形相をしなが らこちらを睨み、ボールペンを机に叩きつけていた のである。  「(ありがとうございますございま)ス         」  吐息となんら変わらない音に成り果てたお礼を添 えつつ、ボールペンを手に取り、私は社会人として はじめての議事録をとりはじめたのだった。  会議が終わった時、既に時計は定時である18時を 過ぎていた。  クライアントのオフィスからプロジェクトルーム へと戻る途中、先輩たちはI杯目のビールが200 円になるモダン居酒屋で、簡単な歓迎会を開いてく れた。軽いつまみと各自I杯だけビールを頼み、そ れを飲み干し、プロジェクトルームへ戻った時には 既に21時を過ぎていた。颯爽と鞄を持って退社しよ うとした私に、ヤマウチは「議事録、何時にでき る?」と問いかけた。  振り向くと、先輩社員たちは誰一人として帰る素 振りを見せず、みな黙々と業務を再開し、先ほどの 会議を振り返りながら、次の一手を議論しはじめて いたのだ。  「議事録は、明日の夜までに提出しようと思ってい たのですが、遅いでしょうか……」  と、酒の入っだぼんやりした頭で、私は恐る恐る ヤマウチに聞いた。はじめての会議の緊張が酔いを 加速させていたらしい。  私か言葉を言い終えるよりも早く、「遅い!・」と いう言葉が無慈悲にも返ってきたのだった。   いわゆる”コンサルタント”のイメー   ジ  さて、この本を手にとってくれた読者は、いわゆ る「コンサルタント」についてどんなイメージを 持っているだろうか。  パリツとアイロンのかかったシャツにスリーピー スのスーツと高価な腕時計を身につけ、ホワイト ボードの前で3つの論点をMECEに(漏れなくダブ りなく)並べ、クライアントに経営課題を説くI 私も入社前はそんなステレオタイプなイメージしか なかった。その程度の理解しか持ちあわせていな かった私大法学部卒の私がなぜコンサルティング会 社に入ったのか、当時の背景を軽く話しておきたい。  高校時代にバイスタングートや銀杏BOYZには まってバンド活動をはじめた私は、ドラムにちょっ とした自信があり、大学になってからは、友人だち とオリジナル曲を作ってば吉祥寺や下北沢のライブ ハウスで月2回程度のライブをして、好評を愽して いた。時間を自由に使って音楽活動に専念すれば、 自分の才能が世間の脚光を浴びて、音楽で食べてい けるくらいの収入は簡単に得られるだろうと思って いた。  ところが東京の音楽シーンのレベルの高さ、周囲 の圧倒的な熱に飲み込まれ、根拠のない自信はしだ いに打ち砕かれていった。音楽に挫折し、自分の輪 郭をとり戻すために、その戦場を就職活動へと移し た私は、当時人気のあった外資系投資銀行や総合商 社に手当たり次第エントリーしたが、数学が足を 引っ張り、それらトップ企業が足切りテストとして 課すSPI(適性検査)を突破することはできなかっ た。  そんな中、変わり種の私を偶然拾ってくれたのが、 採用の裾野を拡げつつあったコンサルティング会社 たった。  さて、当時は、コンサルタントをめざす者たちの キャリアのスタートとなるアナリスト職は、その名 前の通り、          ・   丶    LXI く   X。・  y  と口   りまと 田除陝鴎としており、どちらかと言えばオーバーサ イズで派手な服が多かった私もパリツとしたシャツ とスーツを買いそろえ、仕事に臨む場面が多かった。  しかし時代の流れの中で、コンサルティング会社 全体の事業は多角化した。ひと囗にアナリストと いっても、その仕事はWebデザインに近い領域か らAIを使った解析業務まで非常に多岐にわたるよ うになった。かつてスーツで固められていたコンサ ルタントの服装も事業と同様に変化した。同僚たち も、リモート形式の会議であれば相手がクライアン トでもUNIQLOのフリースやスウェツトシヤツ で参加することが一般的になっていった。  私か会社を去る直前の日々においては、かれこれ 2年間スーツを着ることはなかった。あまりにも普 段着ないので、1着を残し、すべてリサイクル ショップで売り払ってしまったほどだ。  クライアント先を訪問する場合でも、ジャケット と襟のついたシャツさえ着用していれば、よっぽど 明るい色でもない限り、失礼にあたることもないだ ろう(私はかつてデニムシャツを着ていって怒られたことがあ るから、賢明な読者諸氏におかれては避けることをおすすめす る)。  このように、従来のコンサルタントのイメージも 急速に変化している時代、それでもなお、コンサル タントのコンサルタントたる所以は、一体なんなの であろうか。 − 吋l、と私は考えている。  コンサルタントのアイデンティティと  しての”速さ” コンサルタントはそれぞれ強みとなる専門性を持 ち、クライアントに価値提供を行っているが、多く の場合、クライアントが期待していることは専門的 知識や提案だけではない。プロジェクトという単位 に切り出された    ‐‐叭一―・”―   儁、 除μK冖囘匝諠  リードμし く  yと。、  直 ―のだ  コンサルティング企業に高額なフィー(報酬)を 払って依頼することはすなわち、課題検討の特急チ ケットを買っているようなものだ。そのため、コン サルタントは自身とチームの仕事に対して常にス ピードを求める。  ヤマウチや西崎をはじめとする先輩たちは、とに かく「速度にこだわる」コンサルタントであった。  まず物理的なタイピング、PCの操作が異常なほ どに速かった。オフィスの中でマウスを使っている のは私だけであり、先輩たちはPCに向かう際、マ ウスを一切使わなかった。  当時、会社では海外拠点での研修が頻繁に開催さ れていたのだが、日本オフィスのメンバーがマウス を使わずに、さまざまなショートカットを駆使して 印圧を操作しているのを見てySS己’:(まるで魔術 師だごと感嘆の声が上がるほどだった。  私かExcelをマウスを使って操作しているのを見 たヤマウチは、マウスを取り上げ、「次マウスを 使っている所を見たら、手を切り落とす」と言い 放った。最初は操作に戸惑ったものの、I週間もす ればマウスがないことに体が自然と慣れていった。  ここからは、スピードを生むための具体的な方法 を順を追って説明していこう。   一つの作業ロットを2時間にする  作業の指示をもらったものの、自分が一体何をす れば良いのかわからないまま時間だけが過ぎてい く……。そんな経験は誰にでもあるのではないだろ うか。  私もプロジェクトに配属された当初は、ヤマウチ の作業指示を理解することができず、そもそも何を 考えれば良いのかがわからないままなんとなくグ グつてば1時間各サイトを彷徨い、その結果を 印圧に貼り付けては、2時間後にヤマウチにどつ かれる、という毎日を過ごしていた。  速度を身につけるためには、まずこの「迷子の状 態で漫然と作業をしている時間」を徹底的に排除す る必要がある。その第一歩として、1日8時間のF 刎冖nl湖IM圜綢倒扁M割したい。  例えば朝、何か上司から指示された場合、日を跨 いで結果を見せるようでは遅い。朝一で指示があれ ば、遅くとも午後一に、一度何かしらの作業進捗を 上司に見せられるコミュニケーションが必要だ。  なぜなら、       ―゛・・      j’‘‐ ためだ。その日1日をかけてゆっくりと作業した内 容が、上司の意向と全く異なるものであったことが 翌日明らかになった場合、もはやリカバリーするこ とができなくなってしまう。入社1年目の私は、作 業を1日かけて行い、翌朝に報告するようにしてい たが、「え、1日かけてこれ?」「ごめん。全然指示 した内容と違うが……」と差し戻されることが頻繁 に発生していた。  1日かけた作業が生産高に結びつかないことは5 営業日のうちの20%が既に無駄になってしまったこ とを意味する。その時点で残りの4営業日でリカバ リーが必要となり、本来避けるべき残業が発生して しまう。  このような惨事を回避するために、まずは2時間 集中し、その中で何かしらのアウトプットが出せる かどうかを自分で考え、そこまでの成果をぶつけよ  作業を進める中で20分以上手が止まる場合は2時 間を待たずして、即上司に対してエスカレーション (上席への報告)することを心がけたい。20分考えて手 が止まるような場合は、作業のやり方がイメージで きていないことを意味する。作業の手順を具体的に 指示するのは上司の仕事の一環でもあるので、その 場合遠慮なく相談しよう。結果としてその方が仕事 は早く終わり、かつ残業代が節約されれば、プロ ジェクトのファイナンスも改善しクライアントの予 算を無駄にすることもなくなる。これは立派なクラ イアントと会社への貢献なのだ。   ボールが来る場所に走る  仕事の速度の本質は、物理的な作業スピードもさ ることながら、同旧9が起―  一ヽ  売 ’こ’   といえる。  鍛えられたコンサルタントの体は、「Aという事 象が発生した場合はB」「Cという事象が発生した 場合はD」というように、もはや考えたり悩む間も なくインプットした情報はそのまま神経を伝達し、 行動に移るようになっている。そのような基本動作 の集合体こそがコンサルタントのスピードの正体だ。  コンサルティング会社を退職し別の業界に就職し たOG、OBはよく、「新しい会社では同僚だちと 会話のプロトコルが通じない。コンサルティング会 社で働くことがどれだけ効率的で恵まれていること なのかがよくわかった」と過去を振り返る。  世間からはプライベートのシーンにおいても横文 字やホワイトボードを多用するコンサルタント仕草 がよく笑いの対象となっているが、特定のシーンに おいては特定のパターンを考えるよりも先に条件的 に実行する、というまさにその点こそが、コンサル ティング会社が赤い彗星の如くスピード感を持って 仕事を推進できる理由だ。  簡易な例を挙げるならば、クライアントから何か しらの資料やデータを受領した場合、その資料を チームの他のメンバーが見られるような場所に格納 し、格納場所を周知する。会議が終われば30分後に は議事の要点と期限と担当が割り振られたToDoを 展開する。これはコンサルタントであるならば誰の 指示を受けるでもなく一息にできる必要がある。  あるいはクライアントの要求仕様書に対して、会 社として提案書を作成するとなれば、提案書の目次 構成と各目次ごとに記載するメッセージをまとめ、 まずは骨子のドラフトとして他メンバーと議論する ためのいわゆる「叩き台」を作り、提案キックオフ と呼ばれるような内部会議を設定する。  これらを一呼吸でできるのが、コンサルタントな のだ。作業が正確なのは当たり前。その上で、どれ だけ速いか? このスピードへのこだわりがコンサ ルタントと他の職種とを分けるポイントだ。  もちろん作業は原則としてすべて、上司の業務指 示に従い行うものだ。しかし、指示を待っていて行 動するのと、事前にこう動くであろうと意識してお いて日々の仕事をするのでは、結果として両者の速 度は圧倒的に異なる。ボールが飛んでくる所を予測 し、予め体をその場所に移動させてボールをキャッ チするが如く、日々次の業務を予測しながら行動し てはじめて、仕事は圧倒的に「速く」なる。  そうした基本動作を所属しているメンバー全員が 無意識に行い、メンバー間の阿吽の呼吸が実現する からこそ、コンサルティング会社の仕事は組織とし て「速い」のだ。  k と      カ  尤 ’.l‘μ とヤマウチ に叩き込まれた。  かつてのコンサルタントは上司からよく【g’翊の 寺闖 こり   。丶丶くら丶 丶っ  ?  という 強烈な圧をかけられながら作業をしていた。現在は パワハラ的言動について業界の自浄作用が働いてお り、このようなフィードバックをされることはあま りないが、コンサルタント自身は事実として知って おく必要がある。  一般的に、総合コンサルティング企業のアナリス ト/アソシエイトー人の月額単価は150万円‐ 250万円であり、1日あたりで換算すれば約10万 円。8時間の営業時間で割れば時間あたり1万 2500円相当の単価になる。もし資料を4時間か けて作成すればその資料は5万円相当の価値がクラ イアントにとって存在しないと、割に合わない。プ ロジェクトごとで、安くても数千万、規模の大きな ものだと億単位のお金が動く。  このコスト意識をキャリアの早い段階で魂に刻み つけ、スピードに対するこだわりを身につけること が、コンサルタントのキャリアの第一歩になると 言っても過言ではない。   仕事の段取りを先につける  とにかく速く仕事を終わらせる、という精神論だ けでは仕事は速くならない。  上司から仕事の依頼があった時、闇雲に作業をは じめてしまうと必ずと言っていいほど失敗するだろ う。初回の報告で一所懸命作った資料を持っていっ ても、上司から返ってくる言葉は「この作業ってい つ終わるの?」「終わるイメージついている?」と いうものになる可能性が高い。  本来は上司が仕事を依頼する時に細かく指示を出 すのが望ましいが、非常に多忙ゆえ、アバウトな指 示になりがちだ。上司からの指示に対して、以下の 5つのチェック項目に沿って、「この仕事の完成形 はこういう感じ」という自分なりのイメージを作ろ I ? 4  日 ’l力 な カ?  その仕事を終えることで、上司は何か達成できる のか。作ろうとしている資料はどういう用途で誰が 読むものなのか。 2 士     ットと  ト ットよ月 丶  作ろうとしているアウトプットに対して、イン プットはどれを使えば良いのか。自分でインプット から探さなければいけないのか、それとももう既に 上司の手元にはインプットがあるのか。また、アウ トプットはどのようなファイル形式で作れば良いの か。そのアウトプットで結論として誰に何か言えれ ば良いのか。 3 −  インプットをアウトプットに変換する工程の中で、 自分が頭を使うポイントはどこなのか。その作業手 順のイメージはついているか。  Excelだけで完結する作業なのか。Excelだけで すむならどういう関数を使うのか、それともピボッ トテーブル機能を使うのか。自分だけでできない作 業なら、誰の助力がどの程度必要か。その助力を得 るための依頼は誰から誰に行うのか。 4 謌l祠7‐’‐・  ・・・。  上司の他、同僚の誰に確認を取っておけば良い仕 事なのか。同僚には何を確認してもらう必要がある のか。  いつまでにどういう状態になっていれば良い仕事 なのか。他の仕事との優先順位はどうなっているか。   −            −   正確な見積りと期待値調整で速さを   ”演出”する  年中スピードを出しすぎて、体を壊してしまって は元も子もない。「加速状態を持続可能な状態で維 持する」という絶妙なコントロールが求められるの がコンサルタントの辛いところだが、そこで覚えて おきたいのが。期待値調整”テクニックだ。  例えば同じ仕事を同じだけの時間で完了すること ができるA君とB君がいるとする。A君は本来翌日 の17時までに完了すれば良い仕事を引き受けた際、 本日中に終わらせます!・ と力強く宣言し、結果と して翌日の17時に提出することになった。一方B君 は、明日の18時までいただければ終わらせることが できるかもしれません、と控えめに宣言した上で、 結果として翌日の17時に提出したとする。  この時、二人は同じ仕事を同じ時間に終わらせて いるにもかかわらず、周囲にいる人間からはA君は 自分で定めた締切りを守れなかったルーズな人、そ してB君はしっかりと締切りに合わせて仕事ができ る人という評価になる。  A君とB君の明暗を分けたのは、B君のμ阮匝n  I、   Li     ‘’。‐祠閘のM一刪。‘”だ。 A君はそこを見誤ったため、必要のない「遅延」を 自ら招いている。  私も過去、クライアントが3日後に出てくれば嬉 しい、といった仕事を「今日中に提出します!・」な どと期限を切ってしまい、結果として終わらないこ とが多々あった。その都度先輩だちから「もっと保 守的な期限を言っておけばいいだろ!・ 3日後って 言っておいて、2日後に出せば十分喜ぶじやん!・」 と怒られたものだ。  はじめのうちは一つの作業を開始する時に、時間 を予測した上で、ストップウォッチで計測するのが 良い。おそらく予測時間をオーバーするだろうが、 どの手順や予定外の要素がネックになったかを振り 返ることが大切だ。  私はアナリスト時代によく議事録を作る仕事を頼 まれていた。議事録は通常、1時間の会議であれば 1時間で作成することが理想だが、実際に書いてみ るとなかなかそうはいかない。出席者全員の名前を メモし損ねていて関係者に確認を取らなければなら なかったり、出席者の発言の背景を確認したりと、 思った以上に時間がかかるものだ。  また、作業途中で同僚に声をかけられたり緊急の メールに返信をしたり等、。差し込み”が入ると集 中力が途切れてしまう。現実的にこうした中断は頻 繁に発生するし、そのような想定外の出来事への対 応を含めた上で、どの程度の時間があれば一つの仕 事を終わらせることができるのか、感覚を研ぎ澄ま すことが大切だ。  予定外の手順を一つずつ予測時間に組み込んでい くことで作業見積りの精度は向上し、上司やクライ アントからの「なぜそんなに時間がかかるのか?」 という質問に対しても、明確に切り返せるようにな る。正しい作業見積りを立てられず、いつまでに仕 事が終わるのか明確にできない社会人は、いつまで 経っても仕事を任せてもらうことはできないだろう。    ”拠り所になる資料”を理解する  当たり前すぎて誰も教えてくれないことだが、プ ロジェクトはクライアントとの契約に基づき、珊定 HMUMUそのため、どのような状態となればプロ ジェクトが完了したこととなるのかは、クライアン トとの合意文書を読み込むことである程度想像して おくことができる。  どんなプロジェクトにおいても必ず、クライアン 卜が発注先であるコンサルティング会社に何をして ほしいのかを取りまとめたIと仕様 書に対してコンサルティング会社が何をするつもり なのかを具体化した!狹匯胼鰄が存在する。コンサ ルタントがプロジェクトにおいてやることは、原則 としてすべてこれらの文書の記載に包含される。  これらの文書をしっかり読み込んでおくことで、 自身がやっている作業が「なんのためなのか」「ど こに向かっているのか」「いつまでに終わっている べきか」のあたりをつけることができる。  向かうべきゴールという前提情報を知っておくこ とは、作業スピードや確度に大きな影響を与えるた め、プロジェクトに配属された直後に必ず読んでお こヽつ。 スピードスキル集 その1 MVM篇  アナリストがまず一番最初に任される仕事は、 議事録だ。  要を得た議事録が綺麗に書けるかどうかでス タッフとしての周囲からの信頼がまるで違うため、 議事録については1年目でしっかりとした品質の ものを手早く作れるようになる必要がある。議事 録が書けるということは議論されている内容を理 解して、次に何をしようとしているのかがわかっ ている、ということになる。   会議前準備  投影資料がある場合、きちんと読み込んでおこ う。その会議がどのような帰結になるのかをシ ミュレーションしておくこと。  誰が何を言えば成功で、何か決まらなければ失 敗なのかを事前に仮説として持っておく。私はか つて上司から「会議前に議事録は書き終えてお け」と怒られたことがある。これは言い得て妙の 名言で、自分が説明する内容とクライアントをど う誘導するのか、の明確なイメージがあれば、6 割程度の内容は会議前に書き終えることができる のだ。   会議中  会議が開始する直前に出席者の誰がどこに座っ ているかを把握するための座席表を作っておこう。 人数が多い会議では発言者を特定する際に意外と これが役に立つ。  会議がはじまった後は全集中でとにかく聴く。  端末を使ってメモをとる場合、タイプ音が議論 の邪魔になる場合があるため注意したい。   会議後のドラフト作成  不明点は、会議終了直後に上司やクライアント を捕まえて解消しておこう。その場で解決する癖 をつけなければいけない。ただし、不明用語、業 界用語を自身が知らないだけの場合もあるので、 念のため会議中に調べた上で質問すること。  議事録は所定のフォーマットが必ずプロジェク ト毎に存在しているため、クライアントか上司に 確認し、そのフォーマットに沿って作成しよう。  議事録は会議時間と同程度の時間で書き上げる のが一般的な原則だ。そのため録音を文字に起こ すというのは二重の手間となるため、基本的に行 わない。絶対に聞き逃すことができず、技術的、 業界専門的で理解が難しい内容に限り、クライア ントの許可を得て録音する。  議事録のとり方はプロジェクトの作法に依存す るが、基本的には議論した内容が重要であり、資 料の冒頭を説明している箇所は〈資料に沿って説 明〉などの記載とし、投影資料とのリファレンス をとることなどで議事録の分量を減らし、討議内 容にフォーカスしたものとする。  その会議で何か決まり、次に何を誰がいつまで にすれば良いのかがわかるように、「決定事項」 と「祠OOO」は議事録冒頭に簡潔に書くこと(図2 参照)。  `で        き丶  卜順     かヵ酉他認等  ―  ’ 飛尸″%乙貿        砲  イで  に  ます寰とではい者も  社 合寰席 コ  ク倉’    い向必担明塲で出し            便6間作″化           をkの載畤造           能くて配の構           なっを讌に  宍            t°喘 一心″し6`し  一            、あ一汨   霄一一のす際   千べ 2倉  者一粟町多衣購  ゜皃湘本恥  .ヱニバ  跏■■ ■  ■  ■   ■  議事は出席者の喋った発言をそのまま文字起こ しするのではなく、意図を汲み取って必要に応じ て発言の背景を補足したり、冗長を排除したりし つつ見解を簡潔に記載する。必ずしも時系列に 沿って記載する必要はなく、議題ごとに構造化し て書くのが通常だ。  議事録の公開範囲を理解し、経営情報や人事情 報等、特に機密性の高い情報については記載の可 否をレビュー時に確認すると良い。  議事録は原則としてドラフトは当日中に社内に 展開すること。  当日が難しい場合は翌日の午前を締切りの目安 としたい。この目安が守れないのであれば他の作 業との優先度を調整するか、既にタスクが縊れて いる可能性が高いので、タスクシェアを上司と相 談すると良い。 第 章  「ピカソの絵を買う人は 値段を見て買わない」 −品質に説得力を持たせる      「自分の視力、見え方、スコー      プの性質を覚えろ。徹底的に覚      えて、気象、地域差、心理状態        がどのように影響するかを、全        て覚えろ。そうすれば間違えな        くなる」        −逢坂冬馬『同志少女よ、敵を撃て』   神は細部に宿る  ヤマウチの資料に対するこだわりは当時の私から すると異常とも言えるものだった。彼の作るスライ ドのオブジェクトの間隔は必ずO・2ミリ幅で指定 され、縦横に並んだオブジェクトはO・OIミリの ズレもなかった。そしてヤマウチは私の作る資料に ついても細部にいたるまで同様の品質を求めた。 ヘッダー、フッターの位置や色使いにも意味を求め た。  一貫性のない色使いやフォントの揺れが少しでも あれば、漏れなく赤人れの対象となった。100 ページ近くある紙の資料をパラパラとめくりながら 「これだけなんでフォントが違うの?」「このオブ ジェクトだけなんか左にずれてるね。なんで?」 「この数字、たぶん変だよ。データちょっと確認し て」と、数ページおきにコメントを入れていくので ある。  ヤマウチの細部へのこだわりは日常生活にまで染 み込んでいた。終業後、二人で居酒屋で飲酒をする 際も、〈炒め物、煮物、揚げ物、季節のおすすめ〉 と横並びに記載されたメニューに対して、「こうい う表記の仕方を見た時に違和感を持つようになって ほしい。この場合、全部語尾を。物”で揃えてほし い」と話していた。  書いたメールのドラフトは送信までの間に5同以 上差し戻されていたし、議事録にいたっては紙から Iメートルほど離れてから見れば赤い紙なのではな いか? と思えるほど赤ペンでコメントが入ってい た。  私の書いた原稿はもはや原形をとどめていなかっ たが、ヤマウチは決して自分の手でデータを修正す ることはせず、プリントアウトした紙に赤ペンでコ メントを残し、私自身に修正させた。印刷したA4 の用紙の余白に入り切らないコメントは付箋に拡張 され、赤いたんぽぽの花のクラフトワークのように なっていた。  修正を反映してはまた貞っ赤な原稿を受け取り、 それを反映することの繰り返し。一つの議事録を書 き上げるのに、通常は会議と同程度の時間で書き上 げることが理想とされているはずなのに、リライト に6時間以上もの時間を要していた。  その頃から、仕事以外のことに時間を使うことが 辛くなっていった。I週間が終わる頃には脳がヘト ヘトに疲れ、休日は寝ているだけで終わってしまっ た。大学の同級生と続けていたバンドの練習やライ ブ活動に休日の時間を割くことが徐々に苦痛になり、 バンド活動は停止した。仕事をしているか、寝てい るかの毎日の中、同じ悩みを共有できるのは会社の 同期だけだった。  クライアントのオフィスが山手線の東側にあって も西側にあってもアクセスが容易で、かつ本社のあ る六本木まで南北線で一本の目黒駅に住む同期が多 かった。金曜深夜、どうしてもアルコールで洗い流 したいことがあれば、権之助坂の居酒屋に同期で集 まってはビールを煽った。  4月から9月の間のどこかの月初で入社月を選ぶ ことができる少し風変わりな制度の中で、迷わず9 月入社を選んだ我が同期たちは、とにかく「楽をし て成り上がる」ことばかり考える奴もいれば、心身 を削る労働に見切りをつけてシンガーソングライ ターへ転身した奴もいた。それぞれの悩みや野望を 大量のアルコールで意識を混濁させながら話す時間 は無性に楽しかった。  慶應大学を卒業し、漫画『oZ冖t白nごとフッ トサルをこよなく愛す同期の竹田は、毎週末のよう に同期たちを合コンに誘った。躊躇する同期たちを、 oZ冖t白nMの名シーンさながら両手を天に突き上 げ「うるせエV いこう叩 (どんつ)川」と引き摺 り出す竹田の強引さは、ある種のカリスマ性を感じ させた。  基本的に知らない人間が苦手な私は竹田の誘いに 辟易していたが、昼間オフィスで顔を合わせること のない同期だちと、ただひたすら飲んで騒ぐ金曜の 深夜だけが、仕事の海で溺れそうになる私の唯一の 息抜きの時間たった。稼いだ残業代は酒に変わり、 貯金は一向に貯まることはなかった。   品質あってこその速さ  前章でコンサルタントのアイデンティティは、 「速さ」であることを述べた。しかし、高速で価値 のない資料を量産しても意味がない。速さは正確性 や品質とセットでなければならず、両者は決してト レードオフの関係ではない。  速度と品質の両立が難しいことは、他の誰でもな く私か一番よく知る所である。もともと私は、控え めにいってもミスが多い人間たった。  生まれつきの大雑把な性格が災いし、データの集 計をやれば合計値を間違えたし、両面印刷の資料の 奇数ページのみを印刷して会議に持参し、クライア ントに指摘されはじめて気づいたこともある。 ローシートの印刷時に、設定を誤りI列ごとに印 刷し、「再印刷は紙が勿体無い」という謎のサステ ナブル思考を発揮し、そのままヤマウチに提出して 叱責されたこともあった。  私と同様、ケアレスミスが多いタイプであれば、 アナリスト時代のうちに、ミスの多い自分との付き 合い方を学んでおこう。  コンサルタントのみならず、社会には実に様々な 品質に関する不文律が存在している。"Excelの ファイルを保存する時は、AIを選択した状態で ファイルを閉じる”というようなMicrosoft製品を 扱う上での暗黙のマナーにはじまり、メールや資料 の表記の揺れや誤字脱字について毎日のように指摘 を受け、当時の私は心底うんざりしていた。  そんな私にある日、同じプロジェクトを担当して いた赤城という大先輩が言った。  「僕たちの会社はクライアントに控えめに言っても かなり高い報酬をお支払いいただいている、いわば 高級商材だ。値段で他社と比較されてしまえば勝ち 目はない。僕たちは値段の勝負の土俵に乗った瞬間 に負けてしまう。    こ  。 I 藁こりS り`  丶ta4jJ M叨I MMMN叭同一l  と品質の重要性を諭してくれた。  例えば、コンサルティング会社の書いた資料に誤 字があったとする。あるいは会議をはじめる時に、 資料の投影でモタモタしたりする。これではせっか くの記念日に1年がかりで予約したレストランで、 椅子に汚れがあったり、店員のマナーが悪かったり するのと同様にクライアントの期待を裏切ることに なってしまう。  ただ空腹を満たすためだけに入っだチェーンの牛 井屋で店員の態度が悪かった、というレベルの話で は済まないのだ。悪い評判はすぐに拡散されていく。 コンサルティング業務における小さな品質問題は、 会社全体のブランドに影響を及ぼす重大な瑕疵にな り得るものだ。  この品質に対する意識は、単に資料の体裁のみに 関わる話ではない。「我々はコンサルタントである」 という強いブランド意識を社員一人ひとりが持つこ とが、あらゆる仕事の場面で細部まで感覚を研ぎ澄 まし、プラス併の創意工夫が生まれる土壌ともなる のだ。   品質担保の手順を必ず持つ  そもそもミスをする人はなぜミスをしてしまうの だろうか? 自戒を込めて私なりに辿り着いた結論 は、セルフチェックは形式的にしているものの、そ の確認作業が主観的すぎるということであった。  ミスの多い人間は、決まって「自分は一所懸命確 認しました」と言う。実際、頑張ってセルフチェッ クはしているのである。しかし、それは漫然とやっ ているに過ぎず、ある一つのチェックによってどの ようなミスを減らしたいのかという目的意識が希薄 なのだ。  卩 ミ  咸らじこ丶 、と丶う 、、ら。ど I  ヽ冽       ヽ、 哨利剣回卵、   、にヽ   卜 が品質担保に は必要になる。我々はパンやお惣菜を作っているわ けではないのだから、「気持ちを込めて丁寧に作り ました」といった。お気持ち”は不要だ。  機械的に自動的なチェックを必ずかけ、機械判別 できない点については人の目で、こういう観点で整 合性のチェックをかけています、と客観的に説明で きてこそ作業の品質に迫力を持たせられる。具体的 に見ていこう。  「サーバー」と「サーバ」が一つの文書に混在して いる等は、わかりやすい例だ。同じ意味の言葉が複 数の表記でなされている場合、読み手はその表記の 違いが何らかの意味を持つものかと考えてしまう。 このような「表記揺れ」を回避するためには、正誤 表を作り文書を閉じる前に一括検索を使って表記の チェックを行うと良い。どの表記を正とするかにつ いては、原則としてクライアント側か提供した資料 や仕様書等の言葉遣いに準じる。  また、「指摘したことが直っていない」といった 事態を回避するためには、クライアントから言われ たことをすべて一つのコメント表にまとめ、それぞ れの指摘に対してどの箇所にどう対応したのかのト レースが可能になる中間資料を手元に持っておくと 良い。現時点のアウトプットをどのように作成した のかについて、思考の整理にもなる。  多くの天が閲覧する資料については、複数の人か ら同じ箇所に違った指摘がなされ、どちらの意見を 正とすべきか等のコンフリクト(ぶつかり合い)が発 生する場合がある。そうしたケースでは、コメント を採用しない側に対し、その経緯を説明する必要が ある。せっかく書いたコメントが成果物に反映され ていないと、モチベーションが失われ、不信感へと つなかっていくことがままあるからだ。  また頻出のケアレスミスを回避するためには、ミ スしやすい項目を一覧化し、作業の終了前に必ずそ のリストに基づいてセルフチェックしよう。印乱 の資料であれば例えば、 ・ページ設定をプレビュー形式で確認したか? ・不要な作業シートが含まれていないことを確認し  たか? ・ PowerPoint側の資料に記載されている数と一致  していることを確認したか?  等の具体的なアクション単位で指差し確認をする のが効果的だ。   ストーリー性のある資料を作る  資料の品質は、もちろん体裁面に閉じた話ではな く、本質は資料に記載されている内容、すなわちコ ンテンツにある。多くのコンサルタントが上司にレ ビューを求める際に最も恐れている言葉は凹2X≫ (So What?)]圃と言われることだ。  「で?」の中には、この資料ってどう使えば良い の? どういう気持ちでこの資料を読めば良いの? というニュアンスが含まれていると考えよう。  コンサルティング会社で10年以上勤めていると、 資料のタイトルやメールの件名を見ただけで、「こ の資料の中身は期待しているものと違うな」と予感 することがよくあり、たいていその勘は当たる。 ファイルを開いて「で?」という感想を抱く資料の 多くは、そのファイル名のタイトルが的を射ておら ず、メールの本文を読んでもその資料をどう読めば いいのかのガイドが何も示されていないことが多い からだ。  すべての資料には目的がある。その資料がなんの ために書かれたもので、その資料によって誰に何を 言ってもらいたいのか、というストーリー性が必要 だ。そして上司へのレビュー依頼は、その目的を達 するために必要な情報がこの資料に過不足なく記載 されているかどうかの判断をしてもらうプロセスだ と考えると良いだろう。  ストーリー性を持った資料を作るためには、以下 の手順をおすすめしたい。 1 読み手は誰か? クライアント、社内の人など、   どういう立場の人か、どこまで現状を理解して   いる人かを考える。 2 一度深呼吸をして、読み手の人格を自分自身に   宿してみる。この時、読み手の人格がうまく想   像できないなら、読み手に対しての研究が不足   している。この場合、周囲にヒアリングして、   相手の過去や今必要としている課題を把握する   のが望ましい。 3 読み手が資料の内容をどこまで知っているのか   を想像してみる。プロジェクトの検討内容をI   切知らない人なのか、ある程度の内容を理解し   ているのかによって提示の仕方はかなり異なる。   わからない場合は、一切知らない前提で記載す   る。 4 読み手にその資料を見てどういうリアクション   をしてほしいのかを考える。何について「○   K」と言つてほしいのか、あるいは「いくら」   であれば予算を出せるのか、「どの」オプショ   ンが最適だと判断してもらいたいのかを想像し   ながら作成する。 5 期待するリアクションを導くのに必要な情報が   記載されているかどうかを考える。例えばある   議題に対してOKと言つてほしいのであれば、   読み手が承認した場合に何が起こるのか、リス クも含めてきちんと記載する。どのオプション が最適なのかを判断してもらうのであれば、各 オプションの長所と短所、推し案とその理由を 記載する。   宿題が先、宿題以上の価値を持たせる  報告や資料を出す「順番」についても注意を払い たい。どんなに内容の良い資料を準備したとしても、 出す順番を間違えるとそもそも見てもらうことすら できないことがある。仕事の品質とは内容だけでな く、カードを切る順序性を含んだ話と考えよう。  具体的な例をいうと、上司やクライアントから何 かしらの宿題をもらっている時、他に連絡事項や報 告事項があっても、宿題に関する状況報告から先に 行う必要がある。  というのも、上司もクライアントも自分が直近に 話した内容にかなり思考を引きずられる傾向がある ため、まず宿題の現況についての共有がないと、自 分のオーダーが軽視されているのではないか、とい う不信感を抱かせてしまう。  もし宿題が終わっていなければ、「先日オーダー いただいている例の件なのですが、今こういう方向 性で対応しておりまして、いつまでに完了する予定 です。本日はちょっと別件のお話をさせていただけ ないでしょうか?」といったコミュニケーションを とる必要があるだろう。  もっと言うと、宿題は終わらせるだけではあまり 意味がない。それは期待に応えたことにはなるが、 期待以上の働きではないからだ。コンサルタントと して絶えず意識しておきたいことは、Mi一gaM’一` ―?』宿題終せ た上で、さらに一つ、オーダーした側か喜ぶことを 追加で添えておくと、やっぱり一味違うな……と思 わせることができる。  例えば国内の競合会社の動向を調べる宿題をも らったとする。その場合は競合の動向を調べた上で、 参考に2つほど国外の先進事例についても添えてみ る。あるいは上司が毎週行っているデータの集計作 業をかわりにやる宿題が与えられたら、その集計作 業を次週から自動でできるように仕組み化してみる。  かつてコンサルティング会社には新入社員の椅子 を背後から蹴飛ばし「バリュー(付加価値)出て る?」と聞いてまわる妖怪のようなシニアマネー ジャーが存在した。現代社会においては流石にこの ような妖怪は絶滅危惧種だが、付加価値のない仕事 をすることはコンサルタントとしての存在価値を問 われることとなってしまう。  そうしたプラス併の何かがバリューとなり、私た ちの仕事を高級商材の域へと昇華させるのだ。    「ロジカ」を身につける  さて、アナリストと呼ばれる仕事の品質はどこで 評価されているのか、という話をしておきたい。  コンサルティング会社が請け負う仕事は非常に多 岐にわたるが、プロジェクトの関係者が多ければ多 いほど、関係者間の。調整業務”と呼ばれる仕事量 が多くなっていく。調整業務はいわば「誰にでもで きる仕事」と一般的には軽視されるが、この「誰に でもできる仕事」ができないと「彼女・彼はロジ (ロジスティックス)すらできない」ということになり、 アナリストとしての評価に致命的な傷がつく。  ロジスティックスは元々戦場における「兵站」を 表す言葉であり、前線の兵上が必要とする各種武器 や食料、医療機器の補給を滞りなく行うための作戦 行為を示すものだ。ビジネス一般では、原材料の調 達から販売にいたるまでの物流や管理システムを指 す。この生命線とも言える補給路が断たれれば、戦 力は大きく減じてしまうだろう。  コンサルタントの日々の仕事におけるロジス ティックスとは、’゛’I、″尤     ″尤一 。こす 軍り`く、。こりUこ子土  、戡   っ M一M鰊暢である。ボールの来る場所を先読みして 「いい感じにやっておく能力」が求められる。  その仕事自体にクライアントへの提供価値はない が、ロジが円滑でない会社は当たり前のことができ ない。本質的な価値を提供する以前にクライアント の心象を損ねてしまい、極めて不利な状況に追い込 まれるのだ。  例えばZoom会議がはじまる瞬間に資料の投影 にまごついてしまい、10分ほど浪費してしまった会 議を経験したことはないだろうか。あるいは、せっ かく作った資料が、いざクライアント先の会議室に 行ったら、投影するスクリーンが存在せず、ノート パソコンの小さな画面をみんなで覗き込むような事 態に陥ったことはないだろうか。一度そうなってし まうと、その後、どんなに言葉を尽くして説明をし たところで、何となくイケてない印象は拭えないだ ろう。  円滑なロジの実現は現場に最も近いアナリストの 使命であり、そして力の見せ所でもあることを忘れ てはならない。  出席者が着席すると同時にスムーズに立ち上がる 会議。まるで新品のApple製品の滑らかな立ち上が りのようなストレスのなさをクライアントに見せつ けるのである。では具体的な場面で見ていこう。   会議調整は舞台演出のように細心の注   意を払う  会議とは一つの舞台でありライブであり、そして 会議調整とはその舞台を最高のものとするためのI 連の舞台演出だと私は考えている。  繰り返しになるが、コンサルタントは一般的に月 単価X00万円相当の超高級商材だ。Iヶ月コンサ ルタントを雇うお金でクライアントは新車が買える。 超高級商材たる我々は雑務であっても一流でなけれ ばならない。雑務の中にも洗練されたストーリー性 を持たせたい。  たかが会議調整と侮るなかれ。これはプロジェク トの全体スケジュール、マイルストーンを意識し、 どのタイミングで、誰が、何についてどこまで合意 する必要があるのかを逆算しなければできない高度 なストーリー性を求められる調整業務だ。  シリアスな演出にすべき会議なのか、関係者同上 のリレーションシップを高めるためにカジュアルに 演出すべきなのか、会議の目的の数だけ、会議の演 出も存在して良い。ここをどのようにアレンジする かは設定することを任された人間の特権なので、存 分に頭を使い工夫したいところだ。  まず、会議調整はスピードが命だ。タスクが発生 した後、可能であれば1時間以内に最優先で実行す ること。なぜなら、マネージャー以上の役職者のス ケジュールは30分単位で更新されており、1分の調 整の遅れが結果としてI週間のプロジェクト遅延へ と波及するリスクがあるからだ。  会議調整の仕方はプロジェクトに応じて様々であ るが、社内であれば概ね〇utlook等のメールソフト のスケジューラを見て必須出席者の空き時間にとり あえず予定を組んでしまうのが速い。いちいちメー ルで全員に予定のお伺いをしていたら返事を刈り取 るのにI週間近くかかってしまうためだ。また、社 内会議の場合は、原則として30分で設定する。60分 の会議はリモートワークが中心となっている昨今、 ダラツとした印象になりがちだ。話すことを事前に 明確にしていれば、大半の会議は30分で終わらせる ことができる。  クライアントを巻き込んでの会議は、クライアン トの必須出席者の空き枠の候補をいくつか頂戴し、 その中で社内の人間の予定をつける方法が最速とな る。社内の人間の予定が既に埋まってしまっている 場合であっても、クライアントとの会議であれば調 整をつけることが多いためだ。会議調整を頼まれた 場合、そのタイミングで以下をすぐ確認しよう。 ・必須出席者、任意出席者 ・何を決めるのか(アジェンダ) ・会議時間 ・場所(プロジェクタ、マイクは必要か) ・投影資料を誰が準備するのか、そのレビュー者、  レビュータイミングはいつなのか?  これが曖昧な会議は必ず失敗する。だいたい会議 の調整は不明瞭な文言で雑に依頼されることが多く、 5WIHが曖昧になりがちだ。これは会議調整に 限った話ではないが、何か仕事を頼まれた場合、そ の仕事を確実に終わらせるための情報は依頼者に多 少めんどくさがられても必ず刈り取るようにしよう。  会議のインビテーション(招待)に含まれる送信 先の中で、会議が設定された背景を理解していない と思われる人がいる場合は、会議の主題と、なぜそ の人が呼ばれているのかを明記しておきたい。宛先 の人間から「これ何の会議?」と聞かれたら案内の 出し方が良くない証左である。  会議場所は特にリアルで開催の場合、注意が必要 になる。クライアント会議の場合、会社対会社でオ フィシャルにやりたいのか、相手に構えさせたくな い雑談に近い形式でやりたいのかで、確保する場所 は当然変わる。  前者の場合は机を挟み、公式さを演出する。この 会議における決定事項は会社対会社の合意であり、 重みがあることをクライアントにも感じ取ってもら い、集中してもらうためだ。後者の場合、逆にカ ジュアルに話せるようなクライアントサイドのオー プンスペースなどを利用し、机を挟まず隣に座り、 同じ画面を見ながら話すなど、なるべく気軽さを演 出するほうが良い。  この辺りの判断は今、自社とクライアント企業が どのような関係にあり、次の一手としてどのような 会議を設定すべきなのかがわかっていないと失敗し てしまう、繊細な作業だ。  意外と見落としがちなポイントが、会議室の椅子 だ。出席者と比べて十分な数が確保できているか事 前にチェックしておこう。足りない場合は他の場所 から借りる段取りをつけておこう。10名以上が出席 する会議の場合、そもそもビル内でそのような場所 は限られるので、事前に予約をしておくか、複数会 場からリモートでつなぐ等の対応が必要になるケー スもある。会議日程が決まった段階ですぐに場所を 押さえよう。  会議場所がいつもと異なる場合は、その旨を入念 に出席者に対して周知する必要があることも忘れて はいけない。皆いちいち会議の招待状の詳細など見 ていない。いざ時間になってから重要な出席者が別 ロケーションにいた、なんてことにならないように、 事前リマインドを徹底しよう。  また、投影資料が複数ある場合、どのタイミング で何を投影すべきなのかを事前に確認し、可能であ れば会議場所は事前に見た上で、端末の規格とプロ ジェクタの規格が合っているか(変換アダプタが必要な のか)、大きな会場の場合はマイクの使用方法や、画 面の切り替え方法などの操作の確認を行おう。資料 が映せないといったロジ周りのトラブルはクライア ントの心象を損ね、会議の中身以前の問題として 。イケてないスタッフ”として烙印を押されること になりかねない。  昨今はほとんどが会議を電子ファイルの投影で行 うようになってきている。もし資料の印刷が必要な 場合は、印刷時間を考慮しよう。製本を含めてかな り時間がかかる場合があるため、事前に印刷の要否、 印刷のための締切りは確認しておく必要がある。ど んなに一所懸命に作った資料もクライアントの前に 出せなければ無意味な産物だ。私自身、印刷時間の 考慮が甘かったために、泣く泣く配布を断念した資 料は1枚や2枚ではない。   zoSurprisesを徹底しよう  一連の徹底したロジ設計は、すべて関係者にネガ ティブなサプライズを与えることを回避するための 動きと言える。すべてつつがなく、予定通りに、自 動的に進行されている状態が美しいロジスティック スのあり方だ。  プロジェクトでクライアントと重要な合意を行う ような会議においては、特にzo?召訃aを徹底し たい。重要な会議のシーンを想像してみてほしい。  例えば、3ヶ月頑張ったプロジェクトの最終報告 のような場面だ。仮に、今後1年間におけるクライ アントの営業業務のやり方を抜本的に見直す案をク ライアントの役員に対して説明する場面たったとし よう。通常このような会議は、営業業務の責任者で あるクライアントの役員と営業部長、そして私たち のカウンターパートとなって一緒にプロジェクトを 進めてきてくれた業務統括部門やIT統括部門と いった関係者が一堂に集まり行われる。  クライアントの役員が事前にこの会議が「プロ ジェクトの最終報告」という情報を頭に入れている 場合、既に現場レベルでの議論はおおむね決着して おり、その結論が聞けるものと思って出席してくる のが通常だ。  そのような場において、万が一、提出するプラン に営業部長が知らない情報が含まれていたり、意に そぐわないものが入っていた場合、これはもう最終 報告どころではない。 「君たち3ヶ月、一体何を話してたの?」となって I ま、   II ヌ 4圦  − m   3ゝ  −     ・      ことがZo?司訃aのだ めには理想的だ。  この事前調整は非常に手間と根気が必要になるの だが、失敗できない会議であればこそできる限り情 報共有の根回しは済ませてから挑むようにしよう。 スピードスキル集 その2 pE篇  コンサルタントとしてキャリアを歩みはじめた からにはMicrosoft製品の操作に関しては一流を 目指したい。八百屋さんならば野菜についてよく 知っているだろう、というように、特定の職種に は社会からの暗黙の期待がある。印圧作業の遅 いコンサルタントなんて、その時点で。期待はず れ”だ。  コンサルタントになれば1日中何らかの形で 印圧を触ることになる。避けては通れない道な ので、スピードアップのスキルを習得してしまっ た方が毎日の仕事も加速するし、精神衛生にも良 い。  印圧を個人的な作業用途ではなく、クライア ントに対するアウトプットとして作成する資料は 以下のようなものが想定される。 ・各種一覧 ・簡易なコストシミュレーション・人月工数の算  出見積り ・ワークスケジュール ・課題管理簿・リスク管理・爿OOO管理等のリス ・抜け漏れ確認のチェックリスト  ロ気は簡易なコストシミュレーションを行う 場合は非常に有効なツールだ。例えば、とあるプ ロジェクトにおいて必要な人月コストを弾く際に、 マネージャー、コンサルタント、アナリストの人 数と参画率を変動値として幾つかのオプションを 出すことができる。あるいは、一人当たりの単価 によって、プロジェクト全体のコストはどの程度 変動するのかを即座にシミュレーションできる。  また。抜け漏れ”がどの程度発生しているのか を数値化して管理する場合も強力な武器になる。 一例を挙げると、全従業員のうち、現在のトレー ニング受講者は何人かを即時に把握したい場合、 従業員一覧とトレーニング受講者一覧の二つの情 報をExcelで突合して集計することが可能だ。こ のような複数の情報・データの突合作業も、 印乱の得意とするところだ。  ワークスケジュールや課題の管理簿は昨今、 }ぽやAsanaといったチケット管理システムにお いて運用されることが多くなってきているが、ク ライアント企業によってはそれらのサービスのラ イセンスを有していない、あるいは社外の人間に 対してライセンスを付与するセキュリティ面の ハードルが高いという事情のために、印圧で運 用する必要が生じるケースも多い。印乱を用い てスケジュールや課題・リスク管理を行うメリッ トとしては、現状想定している作業やプロジェク トが抱えている課題を一つのファイルで、一覧で 示せる点にある。  このように多岐にわたって業務上必須のツール なので、以下のスピードアップスキルをすぐ習得 することをおすすめする。 1  1Ξ‐I `l」 i     。こ ヽ  印圧を使用する時にマウスの利用をやめよう。 多い日であれば1日中印皀との格闘が生じるコ ンサルタントにとって、ショートカットを覚えて いるのとそうでないのとでは1日の中でも数時間 の作業スピードの差になり得る。  例えば何かしらのシートに入力されている情報 を全選択してみよう。たったこれだけのI作業で あっても、キーボードとマウスだと5秒程度要し てしまうだろう。100の手順をマウスを使って 行えば、500秒が必要になる。一方、ショート カットは1つの作業についておよそ1秒で済む。 塵も積もれば、削減できる時間は山となっていく。 2    ゛   。。l″i   罰旧  Excel使いの初級者と中級者を分けるものは何 だろうか。この点については、「関数を使った簡 易なデータの操作」「ピボットテーブルが利用で きる状態」を印皀中級者として定義したい。I MNa Ia         J詼匱以旧にのい操  同   gヽ’ ・複数の作業シート間を跨いでデータを  くroo不cで等の関数を用いて紐付けることが  できる ・数千行のデータから特定の条件に該当するデー  タを抽出し、個数や合計値を∩oczTIFや  SUMIF関数等を用いて算出することができる ・数千行のデータをピボットテーブル機能を用い  て分析し、データの傾向から示唆を出すことが  できる 一分析した結果をグラフを用いて可視化し、説明  ができる  こうした作業はコンサルタントとして最低限の スキルだ。これらができれば、例えばクライアン トから受領した請求書データー覧のうち、発注書 にて記載されていた金額以上の請求がなされてい るものはどれなのか、それはどの部署の発注に多 いのか、どの部品に多いのかといった簡易な分析 をExcel上ですぐ行うことができる。アナリスト としてこのような分析作業は頻繁に発生する。  なお、印圧のスキル向上のために参考書を買 う必要はない。いま業務に必要なやり方をその都 度(joogle検索し習得するほうが実践的なスキル となる。普段の業務で使う操作はそれほど多くな いため、参考書でExcelの機能を網羅しようとす ると挫折リスクもあるため、適宜参照するくらい にしておくと良いだろう。 3 共有を前提としたマナー  昨今は特に洳OXやSharePoint等のグラウト上 の共有フォルダを介して多くの大が同じExcel ファイルを閲覧・編集することがある。共有が前 提のファイルは、他の人の作業効率を落とさない ような配慮が求められる。  まずそもそも自分が記載する内容がExcelを用 いて記載するべき内容であるかどうかを考えたい。 印圧はあくまで、表計算ソフトだ。前述したク ライアントへのアウトプットや簡易なデータの分 析等の作業用ワークシートとして利用することが 多く、そのままプレゼンテーションや文章の記述 で利用することは少ない。箇条書きの機能にも制 約があり、議事録、議事メモ等に関しても一つの セルの中に大量のテキストを入力するような運用 になってしまうため、文章をしっかりと読ませた い用途では、ミO己やPowerPointを使い分けよう。 自分以外の誰かが自分が作成したExcelを閲   l悃劃担詞したい。印圧は非常 に多くのことが実現できてしまう最高のツールだ が、作業用途に応じて、データを更新する際の ルールはメンバー間で決めておこう。  例えば、数千行を超えるデータについて複数の 人間でメンテナンスを行うような場合、新規にプ ロジェクトに参画する人が多いとルール通りに運 用がなされず、データが破壊され、信憑性に疑い がもたれる、といった事故を招きかねない。こう なると誰がどの変更を行っだのかの履歴の追跡は 困難で、入力されたデータが本当に正しいかどう かもわからなくなり関係者は混乱に陥ってしまう (更新頻度と更新を行う関係者が多いデータについては、汐叺 サービスを利川したり、データベースへの移行を検討したり するのが良い)。  図6にExcelを扱う上での最低限のルールを示 したが、特に#Iは中途採用でコンサルティング 会社に入社したスタッフがやりがちな罠だ。セル 結合を行うとExcelの長所である計算・集計が機 能しなくなってしまうリスクがあるため、禁じ手 であることを覚えておこう。  「自分の限界を会社の限 界にするな」 −会社の〈集合知〉を徹底活用する       「覚悟」とは口 暗闇の荒野に         − I I 龠 I − 龠 I I I I       ロ 進むべき道を切り開く事          荒木飛呂彦『ジョジョの奇妙な冒険第         部   大阪出張の陣  ヤマウチと働いている頃、家に帰ることができた のは午前O時を回ってからだった。せっかくそれな りの給料をもらえるのだから……と奮発して借りた 下目黒の家には平日ほとんどいることはなく、ただ シャワーを浴び、わずかな時間寝るだけの日々が続 いた。  クライアント定例会がある毎週水曜日の前日は必 ず徹夜になっていた。どう段取っても避けられない ため、ある時から対策として火曜日は快適に徹夜が できるようにスウェツトパンツと洗顔料を持参し、 会社の椅子を4つ並べて仮眠する技を身につけた。  「徹夜対策を考えてきた」という私の言葉を聞き、 何かしら段取り面の改善を予想していたヤマウチは、 より快適に徹夜する方法を考えてきた私に呆れてい るようだった。  たまたま電車で家に帰ることができた時はその日 が終わるのが惜しく、アニメ『けいおん!・』の動画 を見て涙を流し、酒を飲んだ。殺伐とした仕事ばか りの中で、京都アニメーションの作る『けいお ん!・』の世界だけが、ひと時の潤いを与えてくれた。  入社翌年の初夏、大阪への出張が決まった。初の 出張、初の大阪オフィスー。  新幹線に乗って約束の場所を訪問すると、会議室 の机の上に男の体が横たわっていた。オフィスに霊 安室があるのか冫・。。。。。。と驚いたが、幸いにして死体 ではなかったようだ。私たちに気づいた男は机から 起き上かって「この提案の責任者である明石だ」と 名乗り、プロジェクトの背景の説明をはじめた。  元々は議員秘書たった異色の経歴を持つ明石は、 田中角栄を思わせる豪快な喋り方とリーダーシップ で周囲を引っ張るコンサルタントだった。理屈を重 ねてロジカルに仕事をリードする多くのコンサルタ ントとは異なり、クライアントへの。寝技”とも呼 ばれる地道で粘り強いコミュニケーションにより、 多くの仕事の種を会社にもたらしてきた大ベテラン だ。  出張は、とある自治体に対しての業務システム改 善の提案書を作成する短期プロジェクトだった。明 石は「他のプロジェクトメンバーを紹介する」と 言って、東京から来た私たちを隣の執務室へと誘導 した。  紹介されたメンバーは、明石に負けず劣らすの猛 者揃いだった。  提案のコンテンツ執筆を実質的に担うのは川島と いうマネージャーだった。5月上旬であるにもかか わらず、ピンクのワイシャツは第三ボタンまで外れ ており、野獣のような迫力を帯びていた。川島はヤ マウチの新入社員研修の担当トレーナーだったとい う。トレーナー期間中の川島は午後から出勤し、15 時頃にはヤマウチにその日チームで飲みに行く居酒 屋を探させたような型破りなキャラクターだ。  メンバーには、元社員の川島の妻がアルバイトと して加わっていた。彼女は、川島が新入社員たった 時の上司で、かつてシニアマネージャーにまで上り 詰めた実力と覇気に一切の衰えはなかった。あるス タッフが深夜に川島宛に送付した資料に対して、 パートタイム雇用の彼女が「あなたたちの資料には まだ誰かがレビューしてくれると思っている甘えを 感じる」と一斉返信し、全員が凍りついたという伝 説がある。  川島の右腕を務める松島は、灘高から京大という エリート街道を一直線で駆け抜けてきたスーパーコ ンサルタントだ。あらゆる無理難題を涼しい顔のま ま処理していく松島はその年代のコンサルタントの 中でもエースと称されていた。その他にも背丈が 190センチを超えるシニアマネージャーや、ラッ プスターのザーノトーリアス・B.I.G.を思わ せるような巨漢で構成されたチームは、夜の北新地 の街を歩けば人が避けていくほどの迫力を帯びてい た。  千葉の片田舎で生まれ育ち、大学から上京した私 にとって、大阪という土地はもはや外国であり、川 島と松島の話す大阪弁のスピードと強烈なイント ネーションに圧倒された。  はじめての大阪でやる気だけは縊れていたが、配 属2日で私のすべての作業品質に問題があることを 川島夫妻とエースの松島は見破っていた。私か開い たファイルのインデント(字下げ)の体裁がことごと く壊れていたために、ルールブレイカーの称号を得 た。提案書のプリントアウトさえもその作業手順を 信じてもらうことができず、最終的に川島の妻に背 後から監視された状態で印刷作業を行うという屈辱 的な時間を過ごすことになった。  あまりにもミスが多くて、大阪ネイティブの「な んでやねん川」を全身に浴びる日々−任せてもら える作業を失い、やることがなくなった私はひたす ら仕事後の飲み会の場所を探し続け、予約時間に なっても先輩たちの仕事が終わらないため、30分単 位で店に謝罪して、時間を遅らせてもらうことに心 血を注いだ。  大阪まで来だのに、依然として私かやれることは ただのバイトだった。なぜか一番働いていないのに 飲まねばプライドと自我を保てないので酒を煽り、 翌日先輩たちが働きはじめている中、寝坊した。し かし、遅刻した私の存在が問題になることはなかっ た。それほどまでに、いる意味がなかったからだ。  チームの目的であった提案書が完成した夜、東京 へと帰る新幹線で宇多田ヒカルの「Beautiful World」 を聴きながら、自分の不甲斐なさに泣いた。  東京に戻ってからも、大量に降ってくる仕事を必 死に終わらせ、酒を飲み、寝る日々。社会人が大変 とは聞いていたが、まさかこれほどとは……と呆然 としているうちに季節はめぐっていった。   ある冬の日、池袋の国道で  ある冬の日、上司のヤマウチが高熱を出し、I週 間の病欠をとらざるを得なくなった。当時の私はす べての仕事をヤマウチに相談しながら進めていたた めに、彼のいないI週間は前例のないプレッシャー を伴う時間になった。  当時ヤマウチと私は、プロジェクトの最も難しい 課題の方向性をどのようにクライアントに提案する べきかを悩んでいた。残されたプロジェクト期間は 少なく、その仕事以外のやるべき仕事も大量に積み 残っている状況の中、私一人でその課題をクライア ントの満足行く形で集結させることは実質不可能 だった。  私は思い悩んだ末、クライアントに現在の状況を 説明し、この課題を今回のプロジェクトの検討から 外すことの承認をもらうことができた。ヤマウチと 私か体力の限界まで働く姿を見てくれていたからな のか、クライアントは「そこまで無理されなくて大 丈夫です。また来年やりましよう」と言ってくれた のである。  そのクライアントの言葉を聞いて、私は心底安心 した。はじめて自分で悩んで決めて出した答えに よって、仕事が一つ前に進んだと感じ、純粋に嬉し かった。何より病床に伏すヤマウチにさらなる無理 をさせなくてすむのは、大きな収穫であった。  私は会議の後、すぐにヤマウチに電話でその結果 を伝えた。しかしヤマウチの反応は想像とはまった く異なるものだった。  「いや、それ逃げてるだけだよ。全然ダメ。全然ダ メだよ。なんでそうなるんだよ」  最初は私か言っていることを正しくヤマウチが聞 き取れていないのだろうと思った。しかし、ヤマウ チは正確に状況を理解した上で、これまでにない怒 り方をしていた。  「俺たちが限界だとか、俺が体調不良とか、そんな のお客さんになんの関係もないでしよ。なんでそれ でやることが減ると思ってるの? いいわけないだ ろ。今すぐさっきのなかったことにしてくれって 言ってきて」  自分のI週間の努力をすべて否定されたような気 がしてショックを受けた。  「無理して倒れるくらいなら最初から引き受けなけ ればいいじやないですか」と反論し、そのまま電話 を切った。職場に来られず、電話すらつながらない ような状況を招いた人間にいったいなんの許可をも らえというのか。そう反発しながらも、頭の中では ヤマウチの言っていることの正しさを冷静に理解し ているもう一人の自分がいた。  作業をしながら、涙が止まらなくなっていた。号 泣する私の向かいの席には中井手というマネー ジャーが座っていた。論理的思考、技術的素養、体 力、まさしく走攻守揃ったプロジェクトのエースマ ネージャーの中井手は、見かねて私をベランダに連 れ出してくれた。  中井手は「自分で考えて決めたことなんだから、 誰になんて言われても否定しちやダメだよ。あと、 プロなんだから人前で泣かない。もうこんな当たり 前のこと二度と言わないね。あとは自分で立ち直っ て。俺たちはプロだから」そう言って、自分の仕事 に戻っていった。  その夜、中井手は私と後輩を赤坂のバーに連れて いってくれた。エースの中井手には無類の酒好きと いうもう一つの顔があった。私はウイスキーを煽る ように飲んだ。ただでさえ寝不足の頭に数時間前に 起きたヤマウチとの一件で、アルコールがぐるぐる と体を巡っているのがわかった。  気づくとなぜか池袋の国道の中央分離帯で寝てい た。冬のツンとした空気の中、目覚めた私か最初に 目にしたのは、国道の向こうから鮮やかに昇ってく る冬の朝日たった。あまりの美しさに、直感的に自 分はもう死んだのだと思った。だが履歴を見ると、 中井手とヤマウチからそれぞれ数十件の着信がきて おり、どうやらまだ生きているらしいということが わかった。  時刻は早朝6時。酒を飲み、国道のど真ん中で寝 てみると、もはやすべてがどうでも良くなり、ヤマ ウチに自分の非を認める留守電を残しながら、家に たどり着くためのタクシーを探した。無論、中央分 離帯で吐瀉物まみれになっている人間を乗せるタク シーはなかった。   頑張り方を間違えない  さて、仕事を頑張るべきかどうか? と問われた ら、多くの人が疑いなくYESと答えるのではない だろうか。私だってそう思う。1日の3分のI以上 の時間を費やす仕事だ。せっかくやるなら頑張りた いし、誰かの役に立ちたいと願う。  しかしここで一つ冷静に考えてみたい。そもそも 仕事を頑張るとはどういうことなのだろうか。大量 の仕事を徹夜でがむしやらにやることだろうか。確 かに時に無理をしなければいけないこともあるだろ う。しかし、恒常的に睡眠不足が続いていて休日を 寝つぶし、ましてや酒に溺れて国道の中央分離帯で 目覚めるような状態は、どう考えても持続可能な状 態ではない。対クライアント同様、自分自身の健康 維持にもコミットしてはじめて。仕事は頑張れる” のである。  クライアントはなにもコンサルタント個人に対し て体を壊してまで働くことを求めている訳ではない。 納期通りに、予算通りに、品質の良い提案をコンサ ルティング会社から受け取ることができれば良いの であり、。僕が徹夜で頑張った”資料がほしいわけ ではない。  逆にいうと、  尤   s I   ”‐ あっ も ’・  ’  3    に口 叭j ’  £、   jり‥りこ     士 ま MVMMμaでしかない。自分自身の限界を勝手に 会社の限界にしてしまうことは、クライアントのみ ならず自分を含めた関係者全員を不幸にしてしまう、 裏切り行為なのだ。  では、会社としてクライアントに価値提供するた めの「正しい頑張り方とは何か」を具体的に考えて いきたい。   既に答えがある問題を自分で解いては   いけない  コンサルティング会社に対して支援を依頼するク ライアントは、世界あるいは日本有数の大企業であ ることが多い。少々乱暴な言い方をすると、現代の 大企業における経営アジェンダやDX(デジタルトラ ンスフォーメーション)の文脈において今後実施しなけ ればいけない課題は自ずから似通ってくるものだ。  例えば大人数の営業部隊を抱えている会社であれ ば、どのようにして営業効率を高めるか、が問題に なる。大人数のコールセンターを抱えている会社で あれば、コールセンターの生産性(一人当たりが処理で きる問合せ数)と顧客満足度をどのように高めるかが 問題になる。そしてそのような問題に対して、ビジ ネスの世界で一般的にどのようなソリューションを 行うべきか、王道とも言える施策が存在する。  患者の症状や検査の結果を見て、医師によって処 方する内容が大きく異なることがないように、クラ イアント企業の特定の課題に対してコンサルティン グ会社が打ち出す施策も王道とされるものが確かに 存在する。もちろんクライアント企業の個別の事情 に応じて処方内容にチューニングは必要だが、それ は王道を踏まえた上での細やかな調整となる。これ を知らずして、顧客の課題の一つひとつに、自分の 頭でゼロから解決策を考え出そうとすると、時間は いくらあっても足りなくなってしまう。  仕事のスピードをあげるために、各分野の「王 道」を語れる人間が、社内のどこにいるのかを把握 し、必要な時に瞬時にコンタクトできるようにして おこう。そんな社内有識者に力を借りることは仕事 の品質とスピードをあげるために必須の手段だ。  クライアントのどこに病状(課題)があるのかを 初期診断するためのチェック項目、それを踏まえた 上での論点の設定、それに対してどのような解決策 が有効となり得るのかの仮説出しといったプロジェ クトの骨になる議論は社内有識者を含めて短期集中 的に行い、ここに時間を必要以上に費やすべきでは ない。  例えば管理会計ならAさん、人事労務に関するこ とならBさん、データ統合基盤ならCさん、ゼロト ラストセキュリテイといえばDさん、といった形で、 テーマ別に誰を議論に入れれば。会社としての答 え”に最短ルートで辿り着けるかを事前に整理して おこう。  有識者が社内のどこにいるのかは、社内勉強会で あったり、先輩だちとの雑談であったり、会社の広 報活動等で先進事例として紹介されている記事を誰 が書いているのかを意識することで比較的簡単にわ かることなので、普段から意識して情報収集をして おきたい。  社内有識者の力を借りることは、決してサボつて いるということではない。クライアントのために自 分自身の脳を限界まで使うことは大事な姿勢だが、 求められているのはあくまでも。コンサルティング 会社”としてのベストソリューションであり、一社 員個人のベストではないのだ。  クライアントはスペシャリストでもなんでもない 新卒が一所懸命に考えた提案なんて求めていない。 王道の施策さえよくわかっていない人間が考えたア イデアは、なんの問題解決にもならないのだ。プロ ジェクトのテーマに応じて、社内有識者の頭脳をフ ルに活用し、学びと経験知を積み重ねれば良い。誰 をどの議論にどのように巻き込めばクライアントに 会社全体として最も貢献することができるのか、と いう発想が大事なのである。   有識者ヒアリングの時間の効果を最大   化しよう  社内の有識者の居場所を探しあてたら、その機会 は最大限活かしたい。この時、若手社員がやりがち なミスとして、ヒアリングの目的意識を持たずにと りあえず漫然と有識者に話を聞きに行ってしまう、 というケースだ。  実は、現在進行中のこのプロジェクトで困ってい まして、お話を聞かせていただけないでしょうか? といった漠然とした依頼をしてしまうと、思ってい た情報を聞き出せないだけでなく、有識者の心象を 損ねてその後の協力を得ることが難しくなってしま う危機的状況を招くこともある。  社内であったとしても最低限のマナーとして、同 く 狷  丶   ヽ― ―こ      ” `g   jE」`。4.‘。』・。’ようにしよ う。自分で何も勉強してこない相手にレクチャーす るのはどんな人間であっても気乗りがしないものだ。  有識者ヒアリングのコツは、最初からアウトプッ トを意識した聞き方をしにいくことだ。  具体例で示そう。  クライアントが「自社のサービスを利用してくれ ている人との接点をどのようにすれば良いのか困っ ている。他社はどのようなCRM(顧客関係管理)の 仕組みを導入しているのか知りたい」という漠然と した悩みを抱えているとしよう。この時、このオー ダーをそのまま社内の有識者に対して横流し(ス ルーパスと呼ばれる)してはいけない。聞かれた有識者 もなんの目的で何を話せば良いのかがまるでわから ないからだ。  この事例の場合、ヒアリングの前に以下の要素を クリアにしておきたい。 I クライアントはそもそもなぜその情報を知りた   いのか? 顧客からサービスに対するクレーム   が多発しているのか、それともサービスの売上   を上げるために、既に社のサービスを知つてく   れている顧客に対してクロスセル(別の商品も   セットで売ること)・アップセル(上位モデルを売るこ   と)の提案ができるようになりたいのか。 2 その情報はクライアント先でどのような使われ   方をするのか? どの会議で使われるもので、   スピーカーは誰で、その人はその会議でどのよ   うに喋りたいのかを確認する。 3 どのような事例であればIと2の要件を満たす   事例になるのかを、以下のように具体的に文書   化する。 ヒアリングの背景‥国内のソフトウェアを販売し ているクライアントにおいて、売上を上げるために 既存の顧客に対して、クロスセルーアップセルを行 いたいが、現在は顧客データの管理が匸兀的になさ れておらず、誰がなんの商品を利用してくれている のかを会社として把握できているとは言い難い。 欲しい事例‥国内において、同様に顧客のデータ が社内の各部署に点在してしまっている状態から、 そのデータを統合し、クロスセルーアップセルを実 現して売上を向上させたようなCRM高度化の事例 があれば伺いたい。  このくらいの精度の情報があれば、いわゆる社内 の有識者も、なるほどではこれとこの事例を紹介し ましようか、というように、話すべき内容の。あた り”が的確につく。  頭脳は”差の分析”にこそ使おう  社内有識者の頭脳を余すところなく使うことがで き、王道となるアプローチを概ね理解できた時、そ こではじめて自分の脳みそをしっかりと使うタイミ ングがやってくる。個別のチューニングーつまり  !J ’ り`丶―丶l   り`丶頁    一 こ} 頁畄 N偏UMhI 社内の有識者を含めた議論では、一般的な事例に 照らして、このクライアントもこういうことが問題 になるだろう、という点が話される。これは有識者 が広く業界を見ているが故にそうなる。ここに一味 加えるのは、実際に日々クライアントと顔を合わせ て現場を理解している人間の仕事になる。  コンサルタントとして働いていると、クライアン トから「ペストソリューション的な事例を持ってき てほしい」と依頼されることは少なくないだろう。 この際、そうした事例は社内有識者にアプローチし て情報収集をすれば良いのだが、集めた事例をその まま提出するだけでは、コンサルタントとしての価 値が発揮できない。  いわゆるベストソリューションとは広く世の中で 使われている最適解であり、それをそのまま自分の クライアントの事業に当て込むだけでは、うまくい かない可能性も高いからだ。  どのような会社であっても、購買、財務会計、固 定資産管理といった企業の金の流れに関する業務は、 業者選定、反社チェック、稟議、発注、検品等の似 通った業務の集合で構成され、一般化できる部分が 多いとされている(SAPといった高額なERPパッヶI ジがあらゆる業界に実装されているのはそういった理山からだ)。 それであっても、例えばスーパーマーケットの発注 とアパレルや硝子メーカーの発注が同じようにでき るのか、といえばそうではない。  扱う商材が違えば取引先のカルチャーは異なるし、 発注してから実際に商品が手元に届くまでの納期の りIドタイムや納品の場所も異なるだろう。業界特 有の慣習・法規則への対応など、王道のソリュー ションでは対応できない。何か”は常に必ず存在す るものであり、それが具体的に何なのかを見極め、 一般論に対してどのような影響を与え得るのかを考 えることこそ、現場のコンサルタントの役割である。  例えば小売業界のクライアントに対して、サプラ イチェーンマネジメント(SCM)のあるべき業務を 提案するシーンがあったとする。ここで、会社が有 する古今東西の小売業界のサプライチェーンマネジ ー− クラ ノ トに し も  り I(付加 値 bのである。広大な土地を持つ欧米におけるスー パーマーケットのマネジメントと国土の狭い日本の 事情は当然異なるし、購買パターンや週末の過ごし 方も異なる。さらに言うと、クライアントの顧客が クライアントに対して求めるものも違う。  同じ日本であったとしても、消費者の生活様式や パターンが異なる都内のスーパーマーケットと地方 都市のスーパーマーケットを同一の枠組みで捉える ことはできず、議論を単純化してベストプラクティ スに当て込もうとすれば当然失敗するし、それ以前 にクライアントの心を打つ提案とならないであろう。  クライアントの事業形態を鑑みると最も参考とな るのはこの事例だが、こうアレンジをすることがベ ストなのではないか? といった仮説を持って思考 することが大切だ。一つひとつの事例の特徴を理解 した上で、クライアントにとって何か使える部分で 何か使えないのかを見極めてはじめて、事例は事例 としての価値を持つ。 スピードスキル集 その3 prBE篇   PowerPointはよく使う型を叩き込もう  コンサルタントといえば美しきスライド、とイ メージする人も多いだろう。しかし、我々はデザ イナーではないのだから、クライアントに言いた いことが過不足なく伝わる資料が、より少ない時 間で書き上げられることに価値がある。  短時間で的確なスライドを書き上げるためには、 日々のプロジェクトでよく使用するいくつかの型 を体に叩き込んでおく必要がある。多いのは以下 のケースだろう。 ・会議アジェンダ ・現状と今後の対比 ・事実(データ)と評価と対策 ・事実の時系列の整理 ・オプションごとの比較 ・向こう3年間のロードマップ ・ざっくりスケジュール ・業務フロー  まずPowerPointを開く時は、本当にその資料 作成は必要なのかを考えたい。現時点の現場のク ライアントの温度感を非公式に把握するなど、 チャットや立ち話でクライアントに「うん」と 言ってもらえばすむ話ではないのか? 書くにし てもIスライド、あるいはミO己等の活字レベル の情報で議論できるような内容ではないのか?  そのどちらにも該当しないなら、以下のコツを 踏まえて取り掛かろう。 I  ’…″こ四苞艮  ッ ージ。己 云C  く  まず必要最低限のメッセージだけを活字で書く。 まだこのタイミングでは図やグラフは作成しては いけない。例えば、読み手のクライアントからな んらかの合意や承認を取り付けたい場合は、以下 のような資料構成になる場合が多い。 −」打合が開理 由。この会議によって決めることが、読み手に とってどのような意味(メリットーデメリット等)が あるのかを概要で示す。 現状の整理‥クライアントを含めて、我々が直 面している状況を、客観的な事実と共に正確に記 す。ここに個人的な思いを書いてはいけない。ク ライアントに関連する重要な部分については(イ ライト表示をして、読みやすく工夫する。 現状についての評価‥前述の現状への、客観的 な評価を示す。何がどの程度の問題なのかを定量 的に示せるようデータを用意すると良い。一般的 な事例との比較も有効だ。 対応案‥今起きている問題点について、どうす れば良いのかを示す。この際、一つの対応策だけ 示すと他の方法はないのか? という話になって しまうため、なんでも良いので3案くらいは記す。 その中で本命の案の合理性を説いて着地できると スマートだ。 嚠蜩のI U‘F   ’l  f  一一一一     ‥今後 どのようにプロジェクトが進んでいくのかの段取 りと、クライアントに何かしらのアクションをし てもらう必要があるのであれば、いつまでに何を してほしいのかのスケジュールを明示する。 2  ラ!   ヽ    Iヽ  事実関係を見せるためのデータについては、わ かりやすく正確に理解してもらうために図表を使 う工夫をすると良い(作成は上限2時問を口処に)。  以下、磨き込みの際に気をつけるポイントを示 す。 ・ネガティブなことであっても、可能な限りポジ  ティブな書き方をしよう(「OOがない」ではなく、  「○○をいつまでに実装することが、○○のために重要、  必要」といった書き方が推奨される)。 ・色を多用するのはやめよう。色が多いとどこを  見れば良いのかがわからなくなってしまう。基  本的には2色にとどめ、白黒印刷でも伝わる資  料を目指す。 ・スライドマスターを使用し、ヘッダーの位置や  ページ表記の位置はスライドを通して統一。 ・オブジェクトの中で箇条書きにする際は、箇条  書きの機能を用いること。 ・図表貼り付けを行う場合、貼り付けるファイル  形式によっては容量が大きくなってしまうため、  原則として拡張メタファイルでの貼り付けとし、  貼り付け元の材料は提案資料とは別ファイルで  材料として管理しておくこと。 ・スライドの色についてはクライアントやプロ  ジェクトのテーマカラーが存在している場合が  あるため、作成する前に事前に規定やフォー  マットの有無を確認しておくこと。  何よりも大切なことは、最終的な品質担保を行 うのは自分であるという自覚を持ち、アップデー ト箇所を確認するとともに、最初と最後で言って いることに矛盾はないか、各ページの数字のイン プットにすればないか、用語の揺れ、フォント、 体裁、使っている色にばらつきはないか、リフア レンズは壊れていないか、他プロジェクトの用語 が残ってしまっていないか等の細やかなチェック を行う。確認点をリスト化しておくと良い。   進捗報告資料について  週次進捗定例、月次進捗定例等の名のついた会 議で現状報告を行うために使われる資料で、通常 はプロジェクトで使われている所定のフォーマッ トがある。  この目的は、プロジェクト進行上の課題の有無 とその影響の度合い、その対応方針を示すことだ。 構成は概ね、サマリ、全体スケジュールにおける 現状(稲妻線)、各領域別の詳細報告(遅延の度合い、 規模、課題、リスクの有無の報告)、HOしO確認となる。 進捗報告は退屈な資料になりがちだが、資料の中 でサビとなるポイントを意識して書くことが重要 だ。  例えば直近の設計工程完了にあたり、この領域 に大きな遅延リスクがある。しかし、これはこう いう方針をもってして、良い感じに落ち着く予定 であるが、何かご意見はあるか、というような八 イライトシーンを2、3つくっておくと全体的に 締まりのある報告となる。  また進捗報告資料は、各領域の進捗をクライア ントのPM(プロジェクトマネージヤ士レベルに報 告するのが常であるため、必ず会議前にクライア ントの各領域担当と合意しておくこと。進捗会議 で一番恐ろしいのは、「コンサルティング会社が 勝手に書いた」と各領域担当に梯子を外されるこ とだ。  進捗は定量的に示す必要があるが、これがなか なか難しい。3日かけて作業したら50%、その倍 の時間をかければ100%の進捗になる、といっ た簡単なものではないからだ。  とはいえ、進捗は明確に根拠を持って書かれて いないといけない。進捗とは極論、オンスケか遅 延かの二択であり、これが記載されていない進捗 報告はどんなにページを重ねてもただの。お気持 ちの表明”でしかない。遅延の場合、何日分の遅 延であるかを明示し、それはなぜ発生していて、 今後どうするつもりなのかを簡潔に示す。  課題、リスク、HOしOについては、それぞれの 性質をしっかりと理解し、書き分けよう。  ざっくり言えば、既に発生してしまった問題 冫冫とTo Beの差分)が課題、今後起こるとプロ ジェクトの進捗・品質・予算に致命的な影響を及 ぼしかねない不確定事項をリスク、期日までにや らないといけないことがToDoだ。リスクが顕在 化すれば課題になり、課題に対するアクションは HOしOへと落ちる。  課題は、どんな課題がなぜ起きてしまったのか、 どうすれば良いのかを明記する。会議に出席しな かったクライアント上層部が課題管理簿のみを見 ることがあるため、なるべく背景や影響を含めて ここは詳細に記載する方が良い。  リスクは、発生したらプロジェクトが詰みにな るレベルの影響があり、比較的高い確率で起こり 得るものをピックアップして記載し、クライアン トとの議論のたたき台とする。  HOしOは、クライアントに動いてもらうべきこ とを明確に期限を提示して会議の中で渡し切る必 要がある。クライアントがやるべきことを依頼す るのに遠慮はいらない。 第4章  「3ヶ月後に何を言えれ ば成功なのか?」 −コンサルタントの型=「論点思考」 「仮説思考」       心は技術で える 心が弱い      のは、技術が りな、からだ 落合が求めたのは囗によって浮 き沈みする感情的なプレーでは なく、闘志や気迫という曖昧な ものでもなく、いつどんな状況 でも揺るがない技術だった。心 を理由に、その追求から逃げる ことを許さなかった。 −鈴木忠平『嫌われた監督落合博満は中 日をどう変えたのか』   陸上自衛隊出身の上司から叩き込まれ   たこと  稀にコンサルティング会社には本物の軍隊から やってきた海外出身の社員も働いている。友人に話 すといつも驚かれるのであるが、思えばコンサル ティング会社に求められる仕事への強いコミットメ ントと長時間労働に耐え得る体力を兼ね備える軍人 は、まさにこの業界にうってつけの人材なのだ。大 統領の元ボディガードという異色の経歴の同僚もい た。  軍隊で灼熱のアスファルトの上で腕立て伏せを気 を失うまでやらされた経験に比べたら、徹夜で資料 と向き合うことなどさほど辛いことではない、とい う異次元のタフネスを彼らは兼ね備えていた。  われらが日本人シニアマネージャーの藤木さんは、 陸上自衛隊出身たった。自衛隊時代から無線通信を 専門としていた彼は、その後ネットワーク会社や他 のコンサルティング会社にキャリアを転じ、この会 社へとやってきたのだ。ネットワーク領域に対する 深い造詣と自衛隊で鍛え抜かれた責任感は、同年代 のシニアマネージャーの中でも異彩を放っていた。 思考が研ぎ澄まされている時間を社会への最大の価 値貢献と考える彼は、飲酒を嫌った。  名実ともにプロジェクトのエースである藤木さん の下には毎日多くの相談が寄せられたが、彼の口癖 は「論点はなんなんだ?」「仮説はあるのか?」 たった。多くの相談者たちは、藤木さんに「正しい 問いを立てられていない状態で話すことは何もな い」と言われ、追い返されるのだった。  近寄り難い空気を纏うシニアマネージャーであっ たが、心優しい一面があり、ある日私かクライアン トと協力会社から糾弾され、四面楚歌の状態になっ ている会議に、どこからか私のピンチを聞きつけた 藤木さんが颯爽と現れ、すべての議題の整理をして くれたことがあった。  「論点の設定が悪いから会議が紛糾するし、出席者 が自由に発言する場になってしまっている。アジェ ンダがソリッドじゃない。もっと研ぎ澄ませ」と藤 木さんから愛のある激励を受けた。  日々の忙しさに溺れ、社会人になってから定期的 に本を読むことができなくなっていた私だが、藤木 さんのレビューを突破するために、日々の読書で視 野を広げ、「正しい問いを立て、仮説を持ってレ ビューに挑む」必要性を痛感した。  毎日深夜まで仕事をした後に眠い目を擦りながら 読書をすることは大変な作業であったが、この時期 に学んだ「論点思考」と「仮説思考」という2つの 考えは、自分のその後の仕事の進め方の基礎になっ ていった。    「論点思考」で今フォーカスする問題   を決めよう  仕事がいつまでも終わらないチームの特徴として、 闇雲に仕事を進めている、という共通項がある。 100あるやるべきことをIから100まで総当た りでやる仕事のスタイルだ。一体どこまでをいつま でにやれば「仕事が終わった」ことになるのか明確 なイメージがないまま仕事をするために、とにかく 朝から晩まで総力戦で仕事をすることになる。これ ではいくら時間と体力があっても終わらない。  先に述べた通り、コンサルタントの仕事はクライ アントとともにプロジェクトという特定の単位で行 う。そしてすべてのプロジェクトには、そのプロ ジェクトで本当に解決すべき問題、つまり論点が存 在する。その論点を意識せずに仕事を行うと、自分 たちのみならず、クライアントも含めて大きな迷路 へと足を踏み入れることとなるため、コンサルタン トの基本姿勢とも言える論点思考は早いうちに身に つけておきたいところだ。   鯒NU詞題 Ml      l       と言える。  わかりやすい例で考えてみよう。例えば、クライ アントがある日人事領域に課題があるので相談した いと持ちかけてきてくれたとしよう。それをそのま ま上司に伝達すると何か起こるだろうか? おそら く、「お客さんは人事の何を解決したいの?」と言 われてしまい、クライアントにもう一度ヒアリング をかけることになるだろう。  少し立ち止まって考えればわかることだが、ひと くちに「人事」といっても3ヶ年の採用計画をどの ように立てるべきなのか、既存の社員の評価をどの ように設計すべきなのか、ロイヤリティ(忠誠心)を どう維持すべきなのか、あるいは2ヶ月後に始まる 新卒採用の面接会場をどこにすべきなのか等、無数 の問題が存在しており、その中のどれについて話す かによって会議までに準備する資料もデータも異 なってくる。  本来であれば「人事について相談したい」と言わ れた時、「人事のどの辺りの問題を解決したいので すか?」と一歩踏み込んだ切り返しをすることがで きていれば、次の会議で焦点を当てるべきテーマが 見えてきていたはずだ。  実はクライアントにおいても、今自分が何を解決 すべきなのか、どの問題にフォーカスすべきなのか を理解しながらコンサルタントに依頼をしているこ とは少ない。  例えば「今御社イチオシのマーケティングオート メーションのツールつてどれがありますか? 今度 上司に報告が必要で……」という相談がきた場合を 想像してみよう。お題をそのまま持ち帰ったとした ら何か起こるだろうか。数日かけて社内のマーケ ティング領域の有識者からおすすめのツールを聞き 出しスライドにまとめ、それをクライアントの上司 にレポートしたにもかかわらず、「すみません、そ もそもツールを入れるべきかどうかすら結論が出て いないのですが……」という残念な返事をもらって しまった、という事象は実際に頻繁に起こるのだ。  解くべき問題をクリアカットに整理し、間違った ところに労力をさかないようにする思考が是が非で も必要なのだ。   診断のプロジェクトと治療のプロジェ   クトは異なる  コンサルティング会社の仕事の単位であるプロ ジェクトには、凋‐‐。‘刪司g呼1軸囲があ る。スコープとはつまり、このプロジェクトを通し て解決するべき論点だ。  コンサルタントの仕事には、抽象度の高い「企 画・設計」というフェーズの仕事が含まれる。この ようなプロジェクトは完成の要件が明確なシステム 開発の仕事よりも、何をもってプロジェクトを完了 とするのか、つまり自分たちがどの問題を解決する ことで仕事を終えたと言えるのかをイメージしづら いために、チームともども迷子になるリスクが高い。  そもそも自分かやっている仕事は、クライアント 内に潜む病理を診断する         ジ ク MMM吋圜であるのか、既に課題についてはある程 度の目処がついており、それに対して貝栩n詞11‥口司   を ・’する ロジ クト(U治療なのかを正し く理解しておく必要がある。  課題特定のプロジェクトとは、わかりやすい例を 挙げるならクライアント企業の売上が目標に到達し ない原因はなぜか、を特定するためのプロジェクト だ。このような場合は、後述する仮説思考を有効に 用いつつ、エビデンスを揃え、次の施策(治療法)の 示唆を出すことがスコープとなるだろう。  一方、施策検討のプロジェクトの場合は、示唆さ れている施策を具体化し、施策を実行することが ゴールになるだろう。その手段は業務手順の見直し、 システム導入、人事制度の変革等、様々なソリュー ションが用いられ、提案実行できる選択肢の幅が広 ければ広いほどそのコンサルティング会社の懐の深 さを見せることができると言える。  このように、プロジェクトという期限と予算が限 られた単位で具体的に効果がはっきりと見える成果 をあげるためには、カウンターパートとなっている クライアントも含めて「今、私たちが本当に解決し なければいけない問題は何なのか?」について共通 認識を持つことが重要だ。次図の要素を迷った時に 立ち戻る指標として、クライアントと予め合意して おきたい。   みんなで迷子にならないための論点   チェック項目  迷子になることを回避するために、自分たちが解 決すべく取り組んでいる論点が本当に正しいのかど うかを最低限、以下の観点でチェックすると良いだ ろう。 1 1  時間が無限にあれば良いのであるが、ビジネスに は納期と予算がある。答えのない問題を悶々と考え るのは時間と金の無駄であるため、してはいけない。  現代の法令や企業倫理そのものが正しいものであ るかどうかであったり、資本主義そのものが善であ るか悪であるか、といったことについては様々な意 見や立場はあるであろうが、それについて議論をし てもコンサルタントの仕事は前に進まないだろう (クライアントの経営層を通して関係省庁に対してどのような意 見を提出すべきか、というプロジェクトはあるかもしれない が……)。  もはや個人の政治信条であったり嗜好の領域に なっている場合は、限りあるプロジェクトの予算を 使うのではなく、当事者同上の居酒屋談義として存 分にやればいいだけだ。  また、既に議論が終わっている決定事項について 蒸し返して議論をすることもNGだ。クライアント の経営レベルで新規事業をやることが決まっている 以上、ターゲットセグメントをどこに定めるかを考 える場において、新規事業にチャレンジすることの 是非を論じてはいけない。まずはやってみなければ 現時点で答えがわからないというものについて、意 見があるのであれば、一度全力で取り組んだ上で、 検証の場で議論するようにしよう。 2 一l冐I         Iま月  会議の途中で、上司が「ごめん、これ結局なんで 話してるんだっけ?」と。そもそも論”に立ち戻っ てしまい、最悪の雰囲気になってしまうことがある。 これはこの問題を解くことで、「誰が、何を、どの 程度得るのか冫・」の目的意識がないままに話が進み、 迷走してしまっているヶIスだ。  例えば、新商品の仕入れ先を安価なA社とするの か、古くからお付き合いのあるB社とするのか、は たまた値段は高いが高級なC社とするのかを協議す る際、この論点が解決することで、誰が何を得るの かの共通認識が持てていないと、議論は水掛論へと 突入する。新規事業開発部がこれまでの商品とは一 線を画す新ブランドとしての協業相手を探している 場合と、購買部が昨今のインフレーションによる原 価高騰に対応するための仕入れ対策として協業相手 を探している場合とでは、議論すべき方向性が大き く異なるからだ。  今解こうとしている論点の上段にある大論点がな んなのかを「ちなみに、これってなんで知りたいの でしたっけ?」と切り返しながら明らかにし、クラ イアントが抱えている問題の全体像を明らかにする 姿勢が重要だ。 3     、 肯に’ふっ   。  来月からはじまるプロジェクトをどう進めるべき か? という大雑把な論点の設定の仕方では、何を 議論すべきなのかがわからなくなってしまう。扱う 問題の範囲があまりにも大きいためだ。1時間会話 したあげく、匸致団結して頑張ろう’・」というよ うな精神論的結論に陥らないために、より具体的に 議論できるレベルに分解して会議を進行したい。  プロジェクトを終わらせるためには、何を達成で きれば良いのか、そのためにはどんなタスクが発生 するのか、各タスクは誰がやるのか、いつまでにや るのか、どこで、どのようにやっていくのか、と いった具合だ。  クライアントと会話をする時においてもしばしば、 「新規店舗の展開をどう進めよう……」といったあ まりにも大きな単位の問題を相談されることがある。 このような場合はそのまま受け止めるのではなく、 「どう進めるか、というところをもう少し分解した いのですが……」とそれとなく誘導し、議論できる 単位に分解していきたい。  新規店舗を出すことは既に決まっていることなの かどうか、そうであるならその理由を確認した上で、 どの程度の予算で、いつまでに、どの程度、誰が、 といった具合に具体化をしていくと、プロジェクト をスピード感を持って進めることができるようにな るだろう。  なお、コンサルティング会社においては何を解決 すべきであるかが曖昧な状態で会議を開いてしまう と、上司から「で、論点は何だっけ?」といったよ うに突き放されることがよくあるため、日々、今自 分はどの問題を解くために何をしているのかを振り 返りつつ、目的意識を持って働くようにしたい。   実践I・ 仮説思考  抽象度の高いコンサルティング業務では、枝葉の 議論に引きずられると仕事の無間地獄へと突入する。 クライアントのために調べてみたいことや、将来役 立ちそうな最新技術など無限にあるからだ。しかし、 限られたプロジェクトの期間内でその一つひとつを 調べ検証することは現実問題としてできない。ド ローン技術やAI、ブロックチェーンなどのトレン トのすべてを現実的なソリューションへと具体化す る時間もない。  よって、コンサルタントの仕事は、り”{鯛問q剛 刀こ   。や゛丶、 ’ 刀り。、 いJエX k`   I  コンサルティング業界の雄、ボストンコンサル ティンググループ出身の内田和成の著書『仮説思 考』はすべてのコンサルタントの教科書となるため、 必ず読んでおきたい一冊だ。この本を読まずしてコ ンサルタント業務を行うことは、ルールを知らずに 野球をしている状態に等しい。  具体的には、まずストーリー構成を考える。 たとえば、「現状分析をするとこういう分析結 果が得られるだろう。その中でもこの問題の真 の原囚はこれで、その結果としていくつかの戦 略が考えられるが、最も効果的なのはこの戦略 だ」ということを、十分な分析や証拠のない段 階でっくり上げる。  つまり、問題に対する解決策や戦略まで踏み 込んで、全体のストーリーをつくってしまう。 そうすると、ごく一部の証拠は揃っているけれ   ども、大半は証拠がない状態になり、そこから   証拠集めを開始することになる。その場合には、   自分がつくったストーリー、つまり仮説を検証   するために必要な証拠だけを集めればいいので、   無駄な分析や情報収集の必要がなくなり、非常   に効率がよくなる。           ‐1‐`J−、内田和成『仮説思考Γ卜BCG流           問題発見・解決の発想法』  実際に仕事をしていると、仕事を進めるために必 要な情報や手がかりは断片的にしか与えられないこ とが多い。この際、これでは足りないと躍起になっ て網羅的な調査や情報収集を手探りではじめると時 間を浪費してしまう。  スピードを持って仕事を進めるためには、まず最 初に与えられている部分的な情報が最終的にどのよ うにつながり、万人が納得できそうな一つのストー リーになるのかをイメージすることが必要だ。その ストーリーが完成するために。必要な情報を逆引き 的に収集する”アプローチがコンサルタント的仮説 思考の仕事術になる。  例えば、クライアントが運営するサブスクリプ ションサービスのカスタマー離反に悩んでいて、そ の原囚を見極めるプロジェクトがあったとする。こ の際、ただ闇雲に街角調査でカスタマーヒアリング をしてみたり、競合調査を行ったりしては、1年 経っても3年経っても仕事は終わらない。通常この ようなプロジェクトはIヶ月〜2ヶ月の短期間で行 うことが多く、その時間内で確度の高い答えを導き 出す必要がある。  このケースでいえば、 ・価格が競合よりも明らかに高いのではないか? ・競合が何かしらのキャンペーンを集中的に行った  のではないか? ・そもそもこの分野のサブスクのニーズが失われて  いるのではないか?  など、離反のストーリーとしてパツと考えられる ものから順に調べていく、というカジュアルなアプ ローチが立派な仮説思考になる。 10分程度で考えられる幾つかの仮説を吐き出し、早 い段階でチーム内やクライアントの現場の方々と議 論し、どの仮説が。筋が良さそうなのか”を見極め、 確度の高そうなものから実際にデータの分析をする なりカスタマーへのヒアリングを行う等して、仮説 の確からしさを検証すると良いだろう。  具体的な思考のフローは以下のようになる。 l     jlV  RMIy  4‐‐‐‐  例えば、屋内から外に出た時に道が濡れていたと したら、どんな理由が思いつくだろうか。30秒考え るだけでも、雨が降った、誰かが道に水を撒いた、 地下から突然何かしらの理由で水が染み出した等の 理由が思いつくだろう。しかし、地下から突然水が 染み出すというようなことは大きな地震や事故がな い限りはあり得ないであろうし、概ね、通り雨が 降ったのか、夏であれば熱中症対策で誰かが水を道 に撒いたのか、そのあたりなのではないかとあたり をつけるだろう。  仮に、とあるチェーンのハンバーガーショップの 売上がここ数ヶ月下落傾向にある時はどうだろうか。 近所に競合となるような飲食店ができたのかもしれ ない。食中毒の風評が立っているのかもしれない。 仕入れ先を最近変えたために、馴染みの顧客が離反 してしまっだのかもしれない。少し考えるだけでも いくつかの筋書きを思いつくことができる。このよ うにして、一度考えられる限りのことを考え、書き 出し、一番可能性が高そうなものを上から3つほど 選んでみよう。 2 −11111釧I  仮説を書いたら、本を探して自らの仮説と一般的 に本で書かれていることに大きな差がないのか、時 間を区切って検証してみよう。3冊程度、1日〜2 日でできる範囲でもよい。 3 1’卩 LV  一 一一一‐  I I  いくつか仮説のオプションを書き出したら、どれ がもっとも。筋が良い”仮説であるかを検証しよう。 一番の近道となるのはそのテーマに詳しい社内の有 識者や、現場に一番近いクライアントに仮説をぶつ けてみることだ。最近、仕入れ先を変えるようなこ とがあったのか、近所に脅威となり得る競合店舗が できたという事実はあるのか、ということをカジュ アルに聞いてみて、書き出した仮説の確度を検証し てみよう。 4                  ‐・‐。  議論を通して確度が高そうな仮説を洗い出せたら、 それを裏付けるデータを探し検証してみよう。売上 が下がった時期と仕入れ先を変えた時期、あるいは 競合店舗が営業を開始したタイミングが重なってい るのかどうかを確認してみると良いだろう。この時 注意が必要なのは、最初に立てた仮説にこだわりす ぎてしまい、自分に都合の良いデータばかりを集め てしまうことだ。仮説は仮説でしかないため、デー タを見る中でこの仮説は間違いだ、と気づいたので あれば、躊躇なく捨て、次の仮説の検証に時間を使 う方が生産的なアプローチと言える。   高級ホチキスにならないために  コンサルタント職を揶揄する言葉に、高級文房 具・高級ホチキス、というものがある。  これはクライアント先に常駐し、クライアントが 求める各種資料をハイスピードで大量に作成する機 械のようなコンサルタントの働き方を示したものだ。  残念ながら実際にこのような仕事の仕方に陥って いるコンサルタントは少なからず存在する。中には クライアントの会議の司会の進行であったり、協力 会社の資料を束ねて通し番号だけを付与して提出す ることを自らの価値と感じている残念な層までいる。 これでは高級ホチキスと呼ばれてしまっても仕方が ないであろう。  昨今はクライアント企業においても「働き方改 革」の流れがあり、社員の労務管理、特に残業時間 が厳しく管理されるようになってきている。その際、 労務管理の必要性がない業務委託のコンサルタント を使い倒すことは、自社内の労務リスクを外部化す る仕組みとして機能している実態があり、高級文房 具は高級文房具としてそれなりにマーケットの需要 があるのは確かだ。  このようなプロジェクトはマネージャーの関与が 非常に低く、とりあえず高学歴で頭のキレのいい瞬 発力のあるスタッフをクライアント先に常駐させ、 クライアントと一蓮托生のチームとして行動させる ことが多い。会社の利益にはなっているのであろう が、クライアントにおいてもなんら革新はなく、ス タッフとしても最初はクライアントにありがたがら れる立ち位置に満足しているが、いつまでに何をや れば良いのかの目標が曖昧であるため、モチベー ションを保つことが難しくなってくる。  高級文房具とコンサルタントの違いは、クライア ントの変化にコミットできているかどうかにある (変化を起こす仕事の仕方については第8章で詳述する)。高級 文房具は、クライアントのプロジェクトに入り込み、 共に悩み、深夜まで働くが、3ヶ月働いた結果にど のような意味があったのかを説明することが難しい。  これは最初に「正しい論点の設定」をしないまま にプロジェクトに突入してしまうことにより発生す る。高級文房具案件の提案書を見てみると、決まっ て何を達成すべきなのかが記載されておらず、ただ やることだけが羅列されている。仮にあったとして も、「クライアントのビジョンに寄り添う」といっ たポエムのような抽象的な記載にとどまるのみで、 これではただ社内の工数をクライアントに貸し出し ているだけの人材派遣サービスと同じになってしま  高級文房具にならないためには、まずクライアン トの顧客の離反率を5%下げるとか、クロスセルー アップセルの割合を3%上げる等、限られたプロ ジェクト期間の中で、どのような効果を出すのかを 明確に定める必要がある。  コンサルタントの時間単価が高いのは、正しい論 点と確度の高い仮説を提案することができるからで あることを決して忘れてはならない。   仮説のない状態でクライアントと会話   をしない  クライアントはコンサルタントの月額金額をよく 知っているし、その金額の大きさについては複雑な 心象を持っている人も多い。現場が一所懸命稼いだ お金がコンサルタントを雇うために流れているのだ から、その使い方をよく思わない人がたくさんいる のは自然な感情だろう。特に小売業等の利益率が低 い領域においては、仕入れを10円単位で調整し日々 のビジネスを行っている。  そんな状況下でコンサルタントが、「何か課題で すか? どこが問題なんですか?」といった言葉を 囗にしたらどうだろうか。クライアントからしたら、 「それを知りたくてお前らを雇っているんだろうが」 と舌打ちのひとつもしたくなるだろう。クライアン トに課題を直接的な言葉で聞くことは「これから勉 強させていただきます」「ご迷惑をおかけすると思 いますが」といった言葉と同様、自分たちの存在意 義を否定するに等しい。  クライアントに何か聞くにしても、「こう思って いるんですけど、実際のところいかがですか?」と いう仮説思考を徹底しよう。仮説としての見立ては、 本質的な論点を見つけるための議論のたたき台とも なる。  をもとにクラ ノントと ヽを   I、 い S      これができるのがコンサ ルタントだ。  クライアントと会話をする際、すでに自分がどこ までの情報を持っているのかを最初に伝え、どこか らが自分の仮説であるのかを示すことはコミュニ ケーションの作法として非常に重要だ。  例えば、余剰在庫に悩んでいる物流管理部のクラ イアントと会話をする場合を想定しよう。余剰在庫 が発生する理由は一般的に「買いすぎ(需要予測の不 良)」か「売れなすぎ(販売網の不良)」のどちらかだ。 その時点で自分たちが見えている範囲として、仮に 需要予測の側に原因がありそうなのであれば、クラ イアントに対しては「どこが問題なのでしよう ね・:?」という話し方ではなく、「販売の方はかな りしっかりやられていると思ってまして、需要予測 の方で、どうしても急激な需要減に対応しきれてい ないように見受けられますが、その辺り物流管理部 の方から見ていていかがでしょうか?」という言い 方をする方がベターだ。  さらに需要予測の担当者が、特に根拠なく、3ヶ 月にI同去年と同じくらいの数量で感覚的に需要を 決めていることを知っているのであれば、「需要予 測の担当者様の業務をより科学的にすると余剰在庫 が減るのでは」というところまで踏み込める。  ちなみに、仮説思考の姿勢は対クライアントのみ ならず、社内でもあらゆる場面で求められることだ。 例えば上司に何かを相談する際も「これどうしま しようか?」という質問の仕方は歓迎されない。 「なんか仮説ないの?」と返されるだけだ。問題の 大小にかかわらず自分なりの仮説を持ち、「データ を見るとこういう傾向があるので僕はこう評価をし ているのですが、どう思われますか?」といった聞 き方をすると、そこから発展的でスピーディな議論 が可能になる。  コンサルタントにとって論点思考、仮説思考とは、 いつどこでも即座に使える思考の型として体にイン ストールしておくべきものなのである。 スピードスキル集 その4  Q`コ   ーヽ   ヽI N篇 鵬八言言パ只眺言言 ションのバリエーションが非常に多くなっている。 仕事のスピードを上げるためには、各ツールの特 性を理解し、用途に応じて使い分ける必要がある。  コンサルティング業界には、業界内のコミュニ ケーションを支える独特のプロトコル(通信規約) がある。研修等で明示的に教えられるものではな いが、日々の仕事の中で各人が上司から徹底的に 体に叩き込まれているために、そのプロトコルか ら外れたコミュニケーションがストレスに感じる ほどになっていることも少なくない。  わかりやすい例を挙げると。アンサーファース ト”という決まりだ。少し進行が遅れている仕事 について、上司から「あの仕事って今日中に終わ るの?」という質問を受けてしまった時に、「実 は差し込みの仕事がありまして」というように言 い訳からはじめると、多くの場合「終わるの か? つて聞いてんだけど」と怒られる。上司が 聞いているのは終わるか終わらないかの二択であ り、それ以外のことから喋るのはルール違反にな る。  また、発言する際は主語を明示し、必ず誰の意 見であるのかをはっきりさせる。「私の考えです が、」「○○さんから伺った話なのですが、」と冒 頭につけるだけで、聞き手はその情報が事実であ るのかどうか、推測や仮説が含まれたものである のかを判別することができる。自分の意見を述べ る場合は必ず、そう考えた理由を添えることも ルールだ。理由がなければ必ず「なんで?」と聞 かれるだろう。  コンサルタントのコミュニケーションはMEC Eであることが理想とされ、「原則として」とい う言葉を使う場合は、そこから外れる「例外」に ついても言及する必要がある。「大部分は」「や や」「概ね」という定性的な表現は可能な限り避 け、定量的に状況を説明する。 2  ミ   ーヽ  ツー    を  実はプロジェクトの現場における遅延原因の多 くは。クライアントの承認がまだ得られていな い”というものだ。我々としてやるべきことは やった。説明責任も果たした。その上で、あとク ライアントがOKと言ってくれるそのIステップ がないために次に進むことができない、というこ とは頻繁に発生する。  特にクライアントの上級職は非常に忙しく、1 日中会議で、累積したメールの未読が数千件に なっていることも多々ある。また、クライアント 側の心理として、本当に自分自身が承認してし まって良いのかの判断がつかないため、上長や他 部署の責任者にも確認をとりたいが、その作業を 行う心理的ハードルから承認が遅れてしまう、と いうことは現実的によくあるのだ。  この場合、メッセンジャーかSlack等でクライ アント先の上長や必要な関係者と現場担当者を含 めた一つのチャットグループを作っておくとコ ミュニケーションがスムーズになる。催促したい 場合はクライアントの上長と担当者宛に、こちら いかがでしょうか? と打つだけですみ、上長か らの承認なども即レスでもらえたりするため、承 認待ちのボトルネックを解消することができる。  チャットツールの導入は両社のセキュリティ規 程をクリアする必要がある点と、クライアントが チャットツールの利用に抵抗がないという2点が 大きなハードルとなり得る。クライアント先の情 報システム部がセキュリティ上の懸念から会社公 認以外のチャットツールの利用を禁止していたり、 認められていても、高齢のクライアントの場合、 こうしたツールに慣れておらず、使ってもらうこ と自体がネックになることもある。プロジェクト 開始早々に導入の可否の温度感を探って、事前調 整しておくと良いだろう。  チャットツールでは、要件を端的に伝えること。 ズフよろしいでしょうか冫ぷみたいな前置きの メッセージは不要だ。。こちらどのようにいたし ましょうか冫ぷといった相手に考えさせるような 質問は可能な限り避けたい。。こちら、こうする のが良いと思うのですが、その方針で問題ないで しょうか?″といった聞き方なら、イエスかノー のいずれかで返事ができるため、ストレスが少な い。 3          能MMEQoF吮   l一I  TeamsやSlack等を利用してのコミュニケー ションは、可能な限りPublicのチャネル機能を 使い、どのようなやり取りがどこでなされている のかを全員に可視化する。DM機能を使ってしま うと、せっかくのコラボレーションツールの良さ を殺してしまう。よく個別の質問をDMで投げか ける人がいるが、同様の疑問を持っている人がい た場合に回答者は2回同じ内容のことを回答しな ければならず、ストレスを与えてしまう。  人事に関することや機密事項でない限り、 Publicチャネルでのオープンコミュニケーション を行うことを心がけよう。 4   一卩           宍lv  チャットツールはリアルタイムでのコミュニ ケーションには非常に有効である一方で、情報が 流れ続けていくため、後からゆっくり読み直すこ とに向かない。例えば会社対会社で契約書や請求 書等の資料の授受をする場合、メールでのやり取 りの方が後からの検索が容易だ。またチャット ツールの多くはファイルダウンロードの有効期限 があるが、メールであれば永続的に保管ができる ため、証跡を残したいものは必ずメールにしたい。  メールを送る際は件名、宛先(TOとCC)に気 を遣おう。  いつまでに何をすれば良いのかを、なるべく件 名を見て判断できるようにしたい。。資料送付の 件”や。ご相談”というような件名はNGだ。大 量のメールの中に埋もれてしまう。。1月10日返 信期限希望一〇〇案件の検収依頼”というよう に具体的に記載しよう。  TOはそのメールについて返信をしてほしい天 を、CCにはそのやり取りが進行していることを 知っていてほしい天を含める。宛先は社外から社 内、役職の高い人から順に設定することが通常だ。 瑣末なことと感じるかもしれないが、コンサルタ ントなのにそんなことも知らないのか、とつまら ない減点をされないように、一般的なビジネスマ ナーとして理解しておくと良い。 5  日守く、S 7` ま黽夭’‐ヽ ’ヽ  日し   IN一一Ni  クライアントの意向に合わないことを進言しな ければいけない場合や、タスクの遅延等のネガ ティブな情報を連絡する場合、チャットやメール でのコミュニケーションよりも、可能な限り電話 や対面での説明をする方が良い。  既に厚い信頼関係を築けているクライアントな らともかく、関係性の薄いクライアントに対して ネガティブな情報のチャットでの連絡は、「え、 それだけ? 補足の説明とかないの?」といった 悪印象を与えかねない。  また、メールの文言に記載した際に20行を超え るような内容については補足として電話や対面で の説明を行う方が良い。長い文章は忙しい時に読 み込むにはかなりのエネルギーを消費するため、 補足があるとないとでは心理的に大きな差が生ま れる。。一手間を惜しまずに”積極的にコミュニ ケーションをとろう。  なお、新型コロナの流行以降、クライアント先 に常駐するという仕事の仕方が少なくなってきて しまっているが、可能な限り先方に出向いた方が コミュニケーションという観点では望ましい。五 感でクライアントの状況を感じ取ることができる オフィス環境の持つ情報量に勝るものはないから だ。 第5章  「お前がいないくらいで 潰れるようなチームじゃ ない」 −サステナブルな訛比湎スタイルとは冫。      未成熟な人間の特徴は、理相ヽ のために高貴な死を選ぼうとす る点にある。これに反して成熟 した人間の特徴は、理想のため に卑小な生を選ぼうとする点に ある」 −J・D・サリンジャー/野崎孝訳『ライ 麦畑でつかまえて』   休暇をとるための(Iドルを乗り越え   よう  人間が仕事に費やせる時間は、最大でも1日24時 間と有限だ。  提案内容の磨き込みを行える時間も限られている。 そんな状況下において、特に職歴の浅いコンサルタ ントにとっては、「休む」という行為は、「働き続け る」以上にはるかに難しいものだと感じる。常に自 分の価値を問われ続ける環境に半年も身を置いてい れば、休み即ち悪なのではないか、と感じるように なるだろう。  2019年4月からは、会社は社員の有休につい て労働基準法で時季を指定しての年5日の取得が義 務とされているものの、現場にいる一人ひとりのコ ンサルタントにとって、休むことの心理的・手続的 ハードルはあまりにも高く、勤怠上有休をとりつつ 実働はしてしまう、という状況が発生しがちだ。上 司だちとしても決して労働を「強制している」訳で はない。  時間のある限り調査と考察を重ねて、コンサルタ ントの存在意義たる提案の付加価値を上げるIそ のような半ば強迫観念によって若手コンサルタント の長時間労働は生み出されている。  私かアナリスト時代に共に働いていたコンサルタ ントたちに至っては、そもそも休むという思考その ものが欠如した修羅のようなサラリーマンが数多く 生息していた。その生活は驚くべきもので、月曜日 の朝にI週間分の着替えをスーツケースに入れて出 社し、平日家には帰らずオフィスで仮眠をとりなが ら働くのだ。オフィスの床に段ボールを敷いたり、 椅子を並べて仮眠をとる技術は、10年前のコンサル タントには基礎的なサバイバル術として普及してい た。深夜、怪しげなエステ店でシャワーを浴び、仮 眠してから仕事を再開するような人間も存在してい たのである。10年前のコンサルタントにとって、 「休む」とは精根尽き果てて机で気絶している状態 を示す言葉だった。  休めない理由はプロジェクトの繁忙期であったり、 プロジェクトの人数不足であったりと複数の要因で 構成されているのだが、まず自分が休んだ場合の影 響を正確に把握し、それを説明する、ということが 職歴の浅い社会人には難しい。  1 への影響とリスク、上司や同僚への説明という手間 と負担を天秤にかけた時、働き続けた方が、心理的 な負担が少ないという状態が頻繁に発生してしまう からだ。  ギャル男のマネージャーがくれたヒン ー方で、体力そして忍耐力もまた有限なリソース だ。生身の人間である以上、不眠不休で働き続ける ことはできない。徹夜は3日が限界だろうし、3時 間睡眠での労働を数ヶ月も続ければ心身に重篤な問 題が発生する。持続可能な労働の主体として存在し 続けるために、コンサルタントは自らの意思で休み を作り出す必要がある。  ここで、休み方の達人であった上司、西村につい て触れておきたい。かつて新卒の私とヤマウチが所 属したチームの長であった西村は、ギャル男であり 自他ともに認める女好きのプレイボーイであった。 同僚のコンサルタントが皆、寡黙に働き続け、コ ミュニケーションは仕事に関することのみであるの が普通であった職場で、西村は異色の存在だった。 女性社員とすれ違う際は必ず声をかけ、彼女たちの 外見の変化に目ざとく気づいては、褒めあげた。  人によってはセクハラになりかねない声掛けも、 女性が不快にならない絶妙な言葉でコミュニケー ションをとれていたのは、西村が天性の人たらし だったからだろう。  彼は金曜日の夜だけは合コンに参加するため必ず 20時で仕事を切り上げ、オフィスから去っていった。  彼の下で働いていたある冬の日、「今日合コンや るけど、男性が足りないからお前もこい」と言われ、 当日に人数あわせで参加したことがあった。会場に 行ってみるとミニスカートのサンタクロースのコス チュームを着た女性3人を囲むようにして同僚の男 が10人以上参加しており、狭い居酒屋の個室をむさ 苦しい熱気が満たしていた。  一人ひとりの自己紹介に対して他の9人が全員そ れぞれに関係のないコメントを入れるため、女性た ちはほとんど喋る隙もなく、もはや合コンというよ りもフリースタイルのラップパドルに近かった。男 性陣の自己紹介が終わる頃には終電がなくなったが、 私は合コンに全力でエネルギーを注ぎ楽しむ西村と いう男に畏怖すら感じていた。  西村はギャル男ではあったが、仕事に対して貞摯 な男たった。徹底的にアウトプットの品質を磨き上 げるヤマウチとは違う形ではあったが、人たらしの 才を遺憾無く発揮し、会話を通してクライアントの 本音を引き出し、チームのリソース配分を無理なく 冷静に差配した。部下が倒れるまで使い潰してしま うマネージャーも一部存在した中で、西村の後輩社 員からの支持は厚かった。西村は自分の直接の部下 だけでなく、周囲の後輩社員の心身の状態に対して も常に気を配っていたからだ。徹夜での仕事が常態 化していた会社において、後輩の健康にも目配りす る管理職は彼を除いていなかった。  ある日、深夜まで働いている私は微妙に体に熱が あることを感じていた。寒気がするにもかかわらず、 体が熱い。意識がぼんやりしている。しかし、クラ イアントとの定期会議までに資料を完成させるため には、その日のうちになんとかデータの整理を終わ らせておく必要があった。  西村は私の手が止まっているのを見抜き、「お前、 体調悪いの? あとどれくらいで仕事終わるの?」 と聞いてきた。少し微熱があり、今抱えている作業 が終わり次第帰る旨を告げると、「もう帰れ、今。 業務命令。あとは俺がやるよ。お前が1日いないく らいで潰れるようなチームじゃないよ。自惚れん な」と言い、西村は半ば強引に私の端末を閉じ、困 惑する私を事務所から追い出したのだ。  翌日の会議で、私か資料を完成させることができ なかったアジェンダの部分はすべて西村が口頭で 淡々と説明を終わらせた。ありかたいと感じる一方 で、体調管理ができなかった自分自身が情けなく、 そして管理職である人間であれば口頭で説明できる 程度の内容に、これはどの時間を費やして準備をし なければならない自分の非効率さを恥じた。  いつからか私は長時間働くことが当たり前になり すぎていて、時間をかけて悩みながら働くことで仕 事の品質が上がると勘違いをするようになっていた のだ。    「悩み」を通して作業の品質が上がる   ことはない  どんなに時間を使って徹夜で悩んだとしても、質 の良いアウトプットがなければコンサルタントの仕 事は意味がない。何も知らない経験の浅い社員が徹 夜で一所懸命に悩み抜いて出した答えよりも、10年 分の知識と経験のある社員が1秒で出した答えの方 が圧倒的に価値を持ってしまうのが、コンサルタン ト業の非情な部分だ。  答えを知らない人間が悩んでも無益だ。コンサル タントであるならば、悩むのではなく、考えなけれ ばいけない。答えを知らないなら知る人を探す、調 べる、そのようにしてインプットの量と質を上げる 他ないのだ。  ひとつの課題に対して20分以上、頭と手が止まっ ている場合はすぐにインプットできるやり方に舵を 切る必要がある。作業が進まないのはまだ考えるに 値する材料がないことを意味しているからだ。  手が止まる理由の多くは、自分自身は「考え」て いる時間が実は「悩み」の時間として消化されてし まっていることだ。仕事において、「悩む」時間は 極カゼロにすることが求められる。「これってどう すれば良いのだろう……」と悶々と1時間悩んでも 10時間悩んでも、クライアントがその時間によって 得られるリターンはないからだ。  コンサルタントの時間は何かの答えを出すための 検証(文献の調査やデータ集計を通した証明等)にこそ使う べきで、答えがないことを悶々と考えるために使う べきではない。悩んでいる時間はエネルギーを使う ので、自分としては仕事をしている気分になれるた め、時間とエネルギーを消費しながらも誰からも感 謝されないという最悪のスパイラルへとはまってい くことになる。  労働時間なんてどうでもいい。価値のあるア ウトプットが生まれればいいのだ。たとえ1日 に5分しか働いていなくても、合意した以上の アウトプットをスケジュールどおりに、あるい はそれより前に生み出せていれば何の問題もな い。「一所懸命にやっています」「昨日も徹夜で した」といった頑張り方は「バリューのある仕 事」を求める世界では不要だ。最悪なのは、残 業や休日出勤を重ねるものの「この程度のアウ トプットなら、規定時間だけ働けばよいので   は」と周囲に思われてしまうパターンだ。           ‐1‐`J−、安宅和人『イシューからはじめよ           知的生産の「シンプルな本質」』  経験から言うと、いつも仕事が終わらない人の仕 事の仕方には、ある共通点がある。一見手はせわし く動かすのだが、どこへ向かっているのか、このま ま向かえばゴールへ到達するのかがわからない状態 で作業をしているのだ。そして作業が行き詰まるた びに「悩んで」、時間を浪費してしまう。結果、2 時間PowerPointのファイル自体は開いて作業はし ても、誰に何を伝えたいかの具体的なイメージがな いので、結果として使い物にならない資料を量産し てしまう。  コンサルタントが無駄な作業に2時間使えば、ク ライアントにとっては2時間分のコストが発生して しまう。これでは、ゴミを生産しているのとあまり 違いはない。  今自分はどんな答えが欲しくて何をどのような手 順で調べ、その結果をどう取りまとめるのかの具体 的なイメージがないまま資料作成をスタートしては 絶対にいけない。そんな時は深呼吸して、手を止め、 上司ともう一度自分が何をすべきであったのかを冷 静に話し合おう。   休むことが価値提供になる  自分で意識的に休むタイミングを作る、というの は仕事の一部であるし、適切なタイミングでうまく 休むのは一つの立派な技術だ。  なぜなら適切に休みながら長く働くことが、長い 目で見た時に会社全体にも、クライアントにとって も大きな価値提供になるからだ。破綻せずに安定的 な労働力を提供できるというのは大きな信頼となり、 労働を管理する会社からすれば先の見積りが立てや すい。  私たちは、クライアントへの価値提供につながら ない悩みに時間を費やすべきではない。そんなとこ ろに時間を割くくらいなら、全力で、主体的に、休 息をとる方が良い。  どんな仕事にも、Iヶ月、あるいはI週間のサイ クルの中で、忙しさには波がある。例えば隔週でク ライアントに対しての報告会が設定されている場合、 日々の忙しさはそこに向けてピークになるだろうし、 報告会が終わった日は、比較的心理的な余裕ができ るタイミングだ。仮にそこで仕事が終わっていなく ても、その日の作業遅延は残りの営業日の中で吸収 が可能な場合が多い。タイミングを逃さず、意識的 に早く帰って休息をとろう。  働き方改革により業界全体として有休取得率は増 加傾向にあるが、それであっても管理職のマネー ジヤーたちがチームメンバーの有休消化率まで日々 モニタリングできているわけではない。有給休暇は 働く人間の権利と自覚し、時期を上司と相談して 100%取得を目指そう。閑散期のタイミングでの 有休は人件費を抑制することにもなり、プロジェク トファイナンスへ貢献するのだ。  チームを監督する側にとって、投げれば絶対に勝 てるがシーズンを通して故障が多い選手よりも、安 定的に6割程度勝てる選手の方が長期的な勝算を立 てやすくありかたいものだ。仕事も同様で、働く社 会人は体だけでなく精神の健康もしっかりとメンテ ナンスしておく必要がある。  無論、仕事の悩みはなかなか職場以外の人間と共 有しづらいものだ。そもそも多くの守秘義務を抱え ており、身内に対してもクライアントの名前すら囗 にすることができない。言えることが極端に少ない 上、日々多忙すぎて、恋人や配偶者から「私(家) と仕事、どちらが大切なの?」という、どちらを答 えたとしても詰みの質問を投げかけられることもあ るだろう。日々強いプレッシャーを受けながら、そ の内容を人に話せない状況が続けば精神は容易に摩 耗してしまう。  そんな時、同じ会社の同期は悩みを共有できる頼 もしい相手になってくれるだろう。コンサルティン グ会社の特徴であるプロジェクト単位の仕事の仕方 は、プロジェクトの長やクライアントによって、独 自の文化や慣習が色濃く形作られる。  プロジェクトにおいて苦境に立だされていたとし ても、それは自分とプロジェクトの文化・慣習との ミスマッチが原因であることも多くある。だから、 同期とは定期的に情報交換をしつつ、自分が所属し ているプロジェクトの環境が、平均的なものなのか どうか判断するのが良い。  同僚だちと夜な夜な話し込んだ時間は、大切な思 い出になり、当時よく訪れたお店は自分の人生に とって大切な場所になる。忙しい毎日だからこそ、 ふとした余暇にしっかりと安らげるような同僚とお 店を見つけ、精神の安定を確保しよう。  自分の進化を認めて客観的に示そう サステナブルな働き方のコツは、一眄陞p隲區匯自   私のアナリスト時代は、それまでの人生において これほど時間の経過がはやく感じられたことはな かった。朝起き、着替え、仕事をし、資料を書き、 会議に出て怒られて、資料を直して、酒を飲み、気 絶したように寝て、また朝起きる。ベッドまで移動 することが面倒臭くて、玄関先で倒れ込んでそのま ま朝を迎えたことも一度や二度ではなかった。  そんな高密度な生活を1年ほど過ごした時、入社 した当初はできなかった様々なことが。呼吸をする ように”できるようになっていることに気がついた。  例えば、この議事録はだいたい1時間で書けるだ ろうな、と考えて書きはじめた議事録は1時間の作 業でセルフレビューを含めて終わらせることができ るようになった。この結論を出すためには、おそら くこのデータとあのデータをこうつなぎ合わせれば 良い、そのための作業手順はこうで、このくらいで できるだろうという予測を立て、実際にその時間内 で作業を終わらせることができるようになったのだ。  できるようになった一つひとつのことは、どれも 瑣末で些細で、できて当たり前のこと。しかし、こ のできて当たり前のことがしっかりとできる人間で ある、ということを自覚でき、周囲にも認識される ようになると、任される仕事の内容も少しずつ高度 になっていく。そしてまた高度な内容の仕事に慣れ ていくことで、それが当たり前になっていく。  私は少年漫画が大好きなのだが、そこではよく怒 りに目覚めたキャラクターが唐突に力を発揮して格 上の相手を負かす、という展開が見られる。しかし 現実社会において、特に仕事という領域においては、 そんなことはまずあり得ない。今日できないことが 突然明日できるようになることはないし、進化や成 長が1日にして起こる奇跡もない。  毎日毎日、少しずつの工夫と徹底した継続を行う ことで、3ヶ月から半年、あるいは1年という時間 の中で、できるようになったことをやっと実感でき るようになるのが仕事における成長だ。陝區切k恥    私かコンサルティング会社のアナリストとなって から1年と半年近く経った頃、高久さんというシニ アマネージャーから、部下であるアナリストが体調 不良で欠席したので、急遽、議事録を代わりに書い てくれないだろうか、と依頼されたことがあった。  私は恐怖した。というのも、高久さんは資料に非 常に高い品質を求めることで知られており、彼の下 で働き、プライドを木っ端微塵にされて散っていっ た多くのスタッフをこの目で見てきたからだ。  しかし、上長からの依頼を無下に断るわけにはい かないし、そもそも期待されていなければそんな依 頼が自分に来ることもない。そう考え、私はその依 頼を受けることにした。  会議はクライアント先の重役も含めて出席する大 人数のものである。私はその場で自い紙に卓上の絵 を記載し、出席者に名前を記入後、隣の席の出席者 に手渡してもらうように依頼し、座席にいる人の顔 と名前を一致させ、後々議事録を記載する際に誰が どの発言をしたのかがわからなくならないように準 備を着々と進めた。  会議は3時間に及ぶ長丁場であった。その会議へ の出席ははじめてだったが、事前に直近の議事の内 容を読み込み、不明な単語は意味を調べておき、今 回の会議で論点となるであろう場所の目星もつけて おいたため、議論の内容は概ね理解することができ た。  会議が終わったのは夕方の17時で、終業時刻まで はあと1時間。明日の正午までにドラフトを上げて おけばおそらく期待値には応えられると考えたが、 高久さんの翌日の予定を見ると午後は会議が詰まっ ており、その時間帯は議事録を確認することができ ない。ならば、むしろ会議のない午前中に議事録を 見てもらえるように今夜のうちにドラフトを上げて おく方が良いと考え、残業をして書き上げた。  出席者は多かったが、会議中に準備したお手製の 出席者名簿のおかげでその記載に迷うことはなかっ たし、どの発言をどの出席者が行ったのかも、手元 のメモと紐付けることができた。体裁や単語は会議 前に読んでおいた議事録に記載されているものを踏 襲し、用語を揃えるように心がけた。  3時間の会議の議事録であれば通常3時間で書き 上げることが理想であるが、日本語に対して厳格な 品質を求める高久さんのレビューを受けることを考 えると、4時間程度かかると予測して作業に着手し、 結果3時間30分ほどでセルフチェックを含めて作業 を終えることができた。ドラフトを書き上げ、高久 さんに送り、その日の作業を終えた。  翌日の夜、高久さんからは「議事録ありがとうご ざいました」という言葉だけをかけられ、それ以上 のコメントはなく、拍子抜けしていたのであるが、 終業後、ヤマウチに呼び出されて話を聞くと、「高 久さん、議事録、ちゃんと訓練されてるね、つて 言ってたよ」という評価をもらうことができた。入 社当時、ヤマウチに跡形もなく修正された私の議事 録は、会社で最も高い品質を求める大シニアマネー ジャーのレビューを一発で突破したのだった。  折しも2年目の冬、はじめての昇進がかかった人 事評価の結果を聞くタイミングだった。  自分にできることをこの1年半、全力でやりきっ だとは言える一方で、それが果たして会社が求める コンサルタントの品質を満たすものであるのかどう か自信がなく、評価の結果を悶々と待っていた。  私か所属していたコンサルティング会社には通常 のプロジェクトにおける上司とは別に、キャリアに 関する相談をすることができるカウンセラーがそれ ぞれの社員に割り当てられており、人事評価の結果 はカウンセラーから伝えられることとなっていた。  カウンセラーから会社近くのスターバックスに呼 び出された私は、新年からコンサルタントになるこ とを伝えられた。私は1年半という歳月をかけ、コ ンサルタントに昇進するにあたり必要な能力を身に つけたと会社に評価されたのだ。  自分自身を育ててくれた憧れの先輩だちと同じ場 所に立てることがただ純粋に嬉しく、ヤマウチたち の期待に応えることができたことを誇りに感じた。  かくして、東京の一介のバンドマンであった私は コンサルタントとしての人生を歩みはじめた。入社 した当時はできる仕事が全くなく、先輩たちのレツ ドブルの買出しだけをしていた新米社会人は、アナ リストとしての修業期間の中で、徹底的にしごかれ、 現実的な計画を組み立てながら、速く正確に処理す るための方法論を学んだ。  雨のように降り注ぐ先輩社員だちからのレビュー と指摘、そして多くのミスを経験することによって、 コンサルタントに必要な「速さ」、細部への目配り、 そして「論点思考」「仮説思考」という基本的な思 考の型が体にインストールされ、自分が陥りやすい ミスを防ぐためにはどのような工夫を講じるべきな のかも知った。  弾丸が飛びかう戦場に素手で出陣するような無謀 な青年は、生き残るための型の大切さI何よりも 先輩たちの背中から、クライアントに対して提供す るバリューこそがコンサルタントのアイデンティ ティであることを学んだのだった。    ム ジュニア コンサルタント編 限界労働。その先 第 章  「顧客の歴史に敬意を払 え」 −クライアントを多角的に理解する      戦争を呪いながら戦争に魅入ら      れていく、俺達は・:闘い続ける      宿命なのさ。          太田垣康男『機動戦士ガンダムサン         ーボルト   PMO業務での未熟さ  2011年の冬−、私は人生ではじめての昇進 を経験した。リーマンーショツクから回復しつつ あった景気の影響もあってか、多くの同期だちと同 じように無事、入社から3年目にしてアナリストか らコンサルタントに昇格することができたのである。 不運にもステイ(昇進せず、同一のポジションに留まるこ と)評価となった同期もいる中では幸運を勝ち取っ たと言って良いだろう。  各会社により呼称や期間は多少異なるが、コンサ ルティング企業に入社すると、アナリスト、ジュニ アコンサルタント、シニアコンサルタント、マネー ジャーへとそれぞれ2年から3年の期間で昇進し、 キャリアを歩むことになる。上司からの具体的な指 示でも正確に速く作業をこなすアナリストを卒業し、 ある程度抽象的な指示でも自走することが期待され るジュニアコンサルタントになることは、その会社 の一戦力としてカウントされた証とも言える。  ヤマウチの下で壮絶な労働を1年半経験し、コン サルタントとしての基本動作を体に叩き込まれた私 は、以前とは別の社会的人格を心に宿すようになっ ていた。初歩的なミスで注意を受けることはほとん どなくなり、自分にできることの広がりに大きな手 応えを感じていた。  一部の同期や先輩が仕事に耐えきれずに辞めてい く中、昇進した私は無自覚に、自分は選ばれた一部 の人間であるという意識を持ちはじめていた。自分 は途中で逃げ出した奴らとは違うI己がどれだけ 恵まれた環境にいたかを顧みずに、単純にそんな自 意識が膨れ上がっていたのである。  当時私か所属していた部署においては工程管理業 務、すなわちPMO業務と呼ばれるプロジェクトが 多く存在していた。システム開発そのものをクライ アントから請け負うのではなく、あくまでも印q と呼ばれる他の国内企業が受託したシステム開発の 作業工程や成果物品質を第三者的に、クライアント の名の下に管理支援する仕事だ。  システム開発の進捗管理と品質管理を担うのであ れば、通常システム開発に関する豊富な知見を有し ている人間が行うべきなのであるが、システム開発 の有識者チームの一員として、私のような特にシス テム開発の経験を持だないジュニアスタッフが参画 することは、当時も今も一般的だ。  約10年前、中央省庁や金融機関のクライアントが 利用する大規模システムでは、ウォーターフォール 型開発と呼ばれるシステム開発の手法が主流だった。 顧客が定義する要求に対して、設計を行い、設計通 りに実装をし、テストを行う、という代表的なシス テム開発のアプローチだ。〈要件や設計の変更はあ まり発生しない〉という暗黙の前提をもとにした開 発手法であるために、機動性と柔軟性を欠くという 欠点を持っている。設計のドキュメンテーションを 特に重要視するこの開発手法を取り入れたクライア ントシステムでは、設計資料が何冊にも分かれたキ ングファイルに綴じられ管理されることになる。  高額のフィーを支払ってまでコンサルティング会 社という外部リソースを使わざるを得なくなってい るほどに通常業務が縊れかえっているクライアント の社員が、大量の設計資料を自分の目ですべて確認 し、品質チェックを行うことは現実論として難しい。 また、クライアント自身はそれらの設計資料の要諦 を掻い摘まんだ要約資料(ポンチ絵や一枚紙等と呼ばれ る)を作成し、社内の上層部向けに概要を説明する 役割を担っていたりするが、これらの資料作成は大 きな負担となっており、コンサルティング企業はそ の業務を代行し、商機を見出していた。  当時の私を含むシステム開発の経験のないジュニ アスタッフは、技術的な観点での品質担保はできな いため、それ以外の形式的な部分の品質担保を担っ ていた。例えばクライアントが定める成果物フォー マットや関連する資料との整合性や、用語チェック 等である。まだ精神的に未熟であった私をはじめ、 多くの同年代のコンサルタントはこの言わば「監督 役」ともいえる工程管理の立場に少しずつ精神を毒 されていった。  コンサルタントは新卒からの数年間、情報を体系 的・構造的に説明し、可視化するといういわばロジ カルシンキングを徹底的に叩き込まれた人間だ。そ れらの人間にとって、各パートナー企業が提出して くる資料はどこをどう見ても粒度がまばらであり、 論旨も明快でなく非ロジカルに見えた。  当時の私はそれを見つけるや否や、Iから100 まですべてのつっこみどころを指摘しては悦に入っ ていた。ロジカルであることが正義だと信じていた のである。だらしない日本企業の悪しき風習の破壊 者としての若きコンサルダントーそんな自己認識 のもと、日々送られてくる資料に指摘を入れては返 し、その山を見て仕事の功績と感じていたのだった。  そんな仕事の仕方は、関係会社、特に凶qと呼 ばれるシステム開発を受託している会社との衝突を 生んだ。資料を出せば山のように指摘がくるとわか れば、報告する側はなるべく提出する情報や資料を 最小限にしようとする。しかも、提出にあたって何 重ものチェックを社内でかけるようになったために、 工数は肥大化しスケジュールは遅延した。  本来、スケジュールを納期通り、予算のキャップ (上限)通りにプロジェクトを着地させなければいけ ないはずのPMOであった自分たちこそが、スケ ジュールや予算の足かせとなっていることに気づか ずに、視野狭窄に陥っていたのだ。  いつものように関係会社の一社に大量の指摘を 送ったあと、関係会社のリーダーである長谷川とい う男から強い口調で、「どう考えても指定された締 切りに終わる量の依頼事項ではありません。相手の ことを考えて依頼してくれているのであれば、そう いう頼み方にならないのではないですか」と電話が かかってきた。長谷川は国内最大手のシステムイン テグレーション企業に属する20年選手であり、叩き 上げのエンジニアであった。  たしかな知識と経験に裏付けされた技術を持ち、 一方で職人の親方のような風貌と口調が特徴的な長 谷川は、頭でっかちでプライドが肥大化していた当 時の若いコンサルタントたちにとって天敵とも言え る存在だった。長谷川は、私の資料に対する指摘事 項を「形式的すぎてシステムの実装にとってなんら 影響のない瑣末なこと」と切って捨てた。  しかし、私は私で、品質管理という職務を担って いる。それが形式的な指摘であったとしても誤りは 誤りであると強く信じていた。当時の私は、長谷川 の抗議の言葉を真剣に受け止めず、自らが陥ってい る沼にも気づかず、ただ今自分の場所から見えるこ とを、見える範囲の正しさで行い、日夜仕事を続け た。  そうして多忙な日々が過ぎ去り、気づけばマネー ジャー昇進も狙える年次に差し掛かっていた。仕事 に大きなミスはなかったし、PMOとしてのスキル であれば、社内スタッフの中ではそれなりのところ に位置しているはずだという自負もあった。しかし そんな私の自惚れを打ち砕くように、キャリアカウ ンセラーは私に「ステイ」の評価結果を伝えたので ある。  自分がマネージャーになるものと確信していた私 は文字通りショックで言葉が出ず、その日昇進の報 告をできると考えていた上司や同僚等に会うのがた まらなく恥ずかしかった。  その年昇進したのは、関係会社と敵対するのでは なく、同じ目線に立ち、良好な関係を築きながら働 いている技術的な役割を持ったチームの同僚たち だった。  その中のひとりである立川は、NTT系のシステ ム子会社から移ってきた転職組で、システムに関す る知識が豊富で、細かい設計業務を担いながら、実 際に開発を担当する長谷川だちとの連絡のハブとな る存在だった。立川は長谷川のチームから深夜に上 かってくる質問事項を丁寧に読み解き、一つひとつ 回答し、時には長谷川と共同戦線をはりながら厳し いクライアントからの期待値を調整しつつ、プロ ジェクトを前に進めていた。  一方の私はクライアントの指示とあればその指示 が現実的であるかどうかを自分自身の頭で考えるこ ともなく、右から左へ締切りを一方的に言い渡して は、長谷川たちに無理をさせていた。立川はそんな 私の態度を見て、「本当に鬼だね(笑)」と少し悲し そうに声をかけてくれたことがあった。今になって 思えばあの言葉はあまりにも一方的な要求を押し付 け、プロジェクト全体の均衡を考えない私に対する 彼なりの忠告だったのだろう。  立川は、プロジェクト全体が前に進むために、 パートナー企業を管理するのではなく、一緒に考え 前に進める仕事をしていた。そして彼はある力で戦 うだけでなく、長谷川から多くの技術を吸収し、一 つの専門性とも言える特殊スキルを身につけていた。  立川と私に対する会社からの評価の差を現実とし て見せつけられた時、自分にはプロジェクト全体の 和を意識しながら前に進める力も、特出した専門技 術も欠けていることに気づかされたのだった。   社会人3年目病に気をつけよう  赤子同然のような状態で入社したピカピカの新卒 社員でも、特殊な環境で3年も鍛えられていると、 少しずつだが仕事に習熟してくる。また、3年間の 中で出会った人だちとの関係性の中で、一人で解決 できない問題も、誰に訊けば問題解決するのかあた りがつくようになってくる。  このような習熟は大いに自信とすべきことだが、 一歩間違うと慢心となってしまう。  当時、私か陥っだのは社会人3年目病とも言える 季節病だ。仕事がそれなりに忙しく、結果も出せる ようになった若手社員が陥りがちな現象だ。周囲に 自分の忙しさを無意味にアピールしたり、忙しいこ とに文句を言いつつも、次々と仕事を求められる自 分に酔っている状態で、あとから振り返るとかなり 恥ずかしい。  この疾患に罹患すると人間は放漫になる。自分に できる仕事ができない人を見下すようになってくる。 慢心は油断を、油断は無配慮を、無配慮は周囲への 不遜な態度を呼び込む。  若手社員の中には、パソコンの操作でコピー& ペーストをできない年配の方を見ると、無意識に能 力のない人間だと見下す人間が出てくる。その程度 の差異で、できる人・できない人とラベリングして しまうような思考は、自ずと接し方や口調に表れる。 表面上、取り繕っても、敬意のない人間の言動にま わりはすぐ気づくものだ。そんな一つひとつの振る 舞いの綻びが人間関係の不信感へとつながり、関係 者間に深い溝をつくってしまう。  なかでも、クライアントの現場担当の社員や、シ ステム開発を受託している協力会社のベテラン社員 との接し方に注意したい。特に歴史の長いクライア ント企業においては、長年工場で働き、熟練工とし てのキャリアを築き上げている社員がいる。彼らは 製品の品質を限られた時間と予算の中で極限まで高 めるために改善を重ねているが、コンサルティング 会社のスタッフの中には、彼らに対して自分とは異 なる「現場の人」として接する人も少なくない。  過去の自分への自戒を込めて強調しておきたいの は、コンサルタントがクライアントの上層部から与 えられたミッションを持った中央・経営側の人間と して振る舞い、現場の声や懸念点に十分な関心を払 わずに、一方的な仕事の進め方をすれば、現場から の不信感は日々膨れ上かっていく。やがて、あらゆ ることに現場サイドの協力を得ることが難しくなり、 窮地に追い込まれることだろう。   クライアントの業界・仕事への理解を   深める  コンサルタント職に対するネガティブな評価とし て、「あいつらは現場のことを知らないのに机上で 偉そうなことを言ってばかりだ」というものがある。 この指摘を私たちは真摯に受け止める必要がある。 クライアントの現場に向き合わず一般論ばかりを言 うコンサルタントに対して、現場の当事者たちが心 を開くことは決してない。  現場とのリレーションを深めるためには何よりも 相手が肝心1   。、ど  う゛  ヽ至辱。 じ、7  1j.’Ajl。       !1冖、   翠     !l‐I  1 4!  丶  アサインのタイミングで、クライアントに関連す る本を少なくとも3冊は読み、基礎知識を押さえて おくのは最低限のマナーだ。クライアントの業界に おける最新のトレントを把握し、日経新聞の電子記 事は用語検索やタグ機能を用いて最新情報が常に目 につくようにしておくと良い。  特に現場からの叩き上げでマネジメント職にまで 上り詰めた経営者は、同じ苦労を経験し、同じ目線 を持った人間に心を開く。業界は違っても自分自身 が現場で真剣にもがき、志を持って仕事をしている 人間は匂いでわかるものなのだ。  また、若いうちに強みとなる専門分野を持つとそ の業界への理解が格段に深まり、将来にわたって武 器となる。  私の場合、新卒の頃からなにかと無線通信系の仕 事に縁があった。当時の上司たちは私に無線免許の 取得を推奨し、実際、私は社会人1年目にアマチュ ア無線技士の免許を取得した。  この資格は8年後、ある通信サービスのクライア ント企業との仕事を行っている際に思わぬ形で役に 立つこととなった。  マネージャーとしてチームを率いることになった 私は、上司からクライアントの現場リーダーのひと り黒田さんとのリレーション開拓を命じられていた。 黒田さんは無線業界を渡り歩く職人気質のエンジニ アであり、技術に理解のない外部の人間に対して、 心を開かないタイプだった。リレーション開拓に失 敗した同僚たちは皆黒田さんの話す無線技術につい ての会話にまったくついていくことができず、心象 を損ねていたのであった。  私か黒田さんにはじめてご挨拶に行った際、開口 一番「無線局の開設には何か必要か知っています か?」と尋ねてきたのである。私は咄嗟に「無線の 位置や使用する周波数帯を記載した工事設計書で しょうか」とかつて勉強したことをもとに、回答し た。するとそれまでムッツリとしていた黒田さんの 表情がパツと明るくなり、以後、少しずつ腹を割っ て話してくれるようになった。オフィスですれ違う たびに、笑顔を返してくれる関係性を作ることがで きたのだ。 釧Iので、興味のあるものでいいから若いうちの取 得をおすすめしたい。もしも日々の仕事で資格試験 にまで手が回らないのであれば、その業界を主題に した映画や小説を鑑賞し、感想をクライアントに 「先日○○を見てみたのですが」と伝えてみるのも 良い。  スーパーマーケットの裏側のドラマを描いた伊丹 十三監督の映画『スーパーの女』や、航空業界の労 務問題に焦点を当てた山崎豊子の小説『沈まぬ太 陽』にふれることで、業界の歴史的な経緯や現場で 働く人間の心情やプライドを垣間見ることができる。  クライアントが許可してくれるのであれば、率先 して現場(売り場や丁場等)の視察をしたい。クライ アントがどんな点にこだわり、情熱を持って仕事を しているのかを知るには、現場を見るのが一番だ。 働く人々の人柄や哲学をその目で見ることは、自分 のアウトプットにリアリティを持たせることになる ため、時間が許す限り、現場で何か起きているのか の一次情報は自分で刈り取りにいくと良いだろう。   マクロレベルでの把握の仕方  クライアントを取り巻くマクロの状況をクイック に理解するために、クライアントに関連する政策刪  宝QS  丁  口       は重要なインプット になる。  特に規制産業と呼ばれる領域では、関連法や国の 政策の動向を押さえることが重要だ。移動体通信事 業を生業とするクライアントである場合は、総務省 が開催する国内の電波政策や携帯電話事業の規制に 関する分科会の動向によって事業の将来性が大きく 左右される。また、医療事業に関連したクライアン トであれば厚生労働省が示す指針を押さえ、どのよ うなことが今後国内で起こっていくのかを分析して おくことも必要だ。  小売やアパレル等の業界においても、国内外の マーケットシェアや競合の動向のチェックは最低限 しておきたい。秀和システムが発刊している「図解 入門ビジネス」シリーズは業界別に情報の更新を定 期的に行っており、大局観を短時間でつかむのに重 宝するだろう。  テクノロジーの利用という観点で言えば、日本企 業の実情は海外と比較して数年単位のレベルで遅れ ているため、日本の事例だけでなく、海外ではどの ようなテクノロジーがクライアントの業界で導入さ れ、どの程度の効果が出ているのか把握しておきた い。  また、昨今はテクノロジーの急速な発達に伴い、 HOべOH冫と(joogleやAppleをはじめとする海外の メガテック企業が自動運転車両で競合関係になる可 能性等、異種業界であった会社同上が新たに競合関 係になったりすることもあり、クライアントにとっ ての将来的な真の脅威は誰になるのかを、自分なり の仮説を持って情報収集してみると面白いだろう。  こうした意識的な視点を持っていると、これまで 何気なく読んでいた日経新聞の読み解きも格段に解 像度が上かってくる。  また昨今ではng5tHに代表されるAIを利用 したサービスの精度向上も無視することができなく なっている。現時点ではAIの回答をすべてそのま ま信じることはできないが、業界やクライアントに ついて一般的にどのようなことが言われているのか をAIを使ってクイックに調べるということも数年 のうちには可能になると思われる。先端ツールをう まく取り込みながら仕事を進めよう。   ミクロレベルでの理解  クライアントの商品やサービスが自分自身の生活 にどのような点で関わっているのかをつぶさに観察 してみることもまた、大切な業界研究の一つになる。  例えばガスや電力のクライアントの場合、時々家 に訪問してくる人たちはどのようなことをしていて、 請求される金額はどのように徴収され、そのデータ はどこで管理され、最終的にどの帳票へと反映され ているのかを想像してみよう。街中で電柱の工事を している人たちはクライアントの組織図のどの場所 にいる人だちなのか、彼らはクライアントの事業の どのKPI(重要業績評価指数)に責任を持っている部 署なのか等、普段目には入っているけれども深く考 えてはいなかったクライアントの現場業務について、 その意味合いを改めて考え、不明点はクライアント に聞いてみたりすると良いだろう。  また、現場におけるクライアント間のパワーバラ ンスを把握することは、現場に張り付いているアナ リストやコンサルタントにしかできない業務だ。  プロジェクトの長であるシニアマネージャーが、 今のプロジェクトとは別に追加スコープの提案を誰 かに持っていきたいとする。この時、現場を知らな いシニアマネージャーは機械的にプロジェクトの体 制図を見て、決裁権を持っているであろうB部長に 話をしにいこうと考える。しかし、B部長は基本的 には部下の主張や当事者意識を尊重するタイプの人 であり、実質的な現場リーダーはC係長であったと する。  このようなケースにおいて、C係長の存在、そし てC係長を説得すればB部長の決裁は手続き的に終 わるであろうことをシニアマネージャーにインプツ 卜するのは現場にいるコンサルタントだけができる 仕事だ。こうした動きこそ、プロジェクトを大きく 助ける。  加えて、クライアント個人の個性の把握も大切だ。 調整をミスらない、会議のアジェンダを外さない、 と言われる人は、なぜそれができるのかを考えたこ とがあるだろうか。  私もかつて会議のアジェンダをよく外し、お通夜 さながらの雰囲気を作り出すことがあった。自分と しては練りに練ったアジェンダを持参し、十分に推 敲したはずなのに、実際に会議をやってみるとどう にも盛り上がらないのだ。  これが改善したのは、出席するクライアントの パーソナリティをイメージできるようになってきて からだ。親しい友人や家族間で会話が円滑なのは、 相手の人となりやどのような情報であれば興味を持 ち、どう言えば不快に思うのかを理解しているから だ。  初見の場合、情報は限られがちだが、クライアン トの上役であればあるほど、何かしら過去に取材さ れた記事がWebなどに出ている可能性はあり、そ こで何か語られているかで、この事業を通してどう いう世界を実現したいと思っている人物なのか、あ たりをつけられる。  SNSも有用な情報収集ツールだ。Twitterや Facebookで公開されている情報を集め、その人が 生きてきた時代背景やキャリアの変遷を想像しよう。 二nkedlnに略歴が載っていれば非常に重要なイン プットとなる。  エンジニア出身のクライアントであれば技術にこ だわりを持っている可能性が高く、その場合はテク ノロジー有識者を揃えて臨むべきである。こちらの 技術に対する造詣の深さを示すことができれば、リ レーションの深まりを実現できるかもしれない。  Facebookや社内SNSのアイコンがマラソンや フットサル、音楽活動を行っている写真である等、 特定の趣味が明らかなクライアントの場合は、それ らの話題はリレーションを深めるための有効な一手 になり得る。そんな日常的な会話で相手の心がほぐ れたタイミングで、今業務上気にしていることや課 題感をそれとなく聞き出すと、どんな情報をどんな 解像度で聞きたい人なのかを知る手がかりとなる。  カウンターパートとなるクライアントが最近、別 会社から入社してきている場合は、そのクライアン 卜自身もまだ会社の中のルールや慣習に慣れていな いことが多く、そうした場合はチャンスだ。社内に どう溶け込むのかを探っている最中でコミュニケー ションの相手が不足していることが多いので、議論 の相手になることで、長期にわたる信頼関係を築い てゆくきっかけとなる。プロジェクトの経緯や背景 など、必要な知識を積極的に提供すると重宝がられ るだろう。  クライアント内の組織体制図も、クライアントの 心情を知る重要なヒントとなる(図19参照)。体制図 表れろハー              、M誰l  尤””l”XL’lX i’を読み取る。カウン ターパートのクライアントもサラリーマンであり、 何かしらの報告義務を抱えている。経営陣であって も、顧客や株主への説明責任がある。これらの義務 はクライアントが「今したいこと」「聞きたいこと」 に如実に反映される。  明日、自分が誰かにうまく説明しなければいけな い何か重大なイベントがある時に、関係のない話を されたら人間は不機嫌になるが、まさにそこで使え る有益な情報であれば身を乗り出して聞いてくるも のだ。相手のニーズを想像し、話の準備をしよう。  実際の打合せで、クライアントから予想外の発言 が出たら、それは相手をよりよく知るための重要な ヒントだ。その言葉は自分が見落としてきたクライ アントが気にしている。何か”であり、その重要度 は高い。もしその発言の趣旨がわからないのであれ ば、「今おっしやっていた○○○つて、こういうと ころを気にされている感じですか?」といった形で、 その言葉の真意を拾い上げよう。   企業の組織一般に関する知識  新卒から生え抜きで育っているコンサルタントは プロジェクト単位での働き方しか知らないため、ク ライアント企業における一般的な組織ごとのミッ ションや業務内容を理解していないことが多い。  経営企画部、購買部、会計部、広報部、人事部等、 どの会社にも存在しているような組織が一般的にど のようなミッションを持っているのかを知らないま まにクライアントに何かを提案しても、一方的な妄 想を押し付けているにすぎなくなってしまう。  またライトの1や鬻堋決 匯卩尸FRを押さえておくことも重要だ。通常、企 業は事前に年度予算を定めているものであり、コン サルティングに対してどの程度金額を投下するのか もそのタイミングで決まっている。もし将来、より 大きな関係をクライアント企業と結びたいのであれ ば、予算の中に自分たちのプロジェクトの青写真を 事前に打ち込み、概算予算を確定しなければ、将来 の関係を築くことはできない。  年間を通して大体どのあたりでクライアントの来 年度予算の検討がはじまり、その決定はどのような プロセスを経て確定するのかを普段からクライアン トとの何気ない会話の中でヒアリングしておき、 「じやあこの間話したあの件、やるならこのタイミ ングで予算化しておかないと難しいわけです ね……」とそれとなく誘導するような動きが、管理 職の卵たるジュニアコンサルタントには求められは じめていることを覚えておこう。   エンジニアとコンサルタントの立場の   違い  昨今のコンサルティング会社の仕事をテクノロ ジーと切り離して遂行することは不可能だ。マッキ ンゼーやボストンコンサルティンググループといっ た戦略コンサルティングを売りにした老舗企業にお いても、テクノロジーに特化した部署を新設してお り、技術に関する知見の強化を進めていく大きな流 れがある。  さらに守備範囲の広い総合コンサルティング会社 では、多大なコンサルティングリソースを必要とす るクライアントの基幹業務システム刷新のプロジェ クトに関わる可能性が高い。そのため、コンサルタ ントの多くがキャリアの中で一度はSAP等の基幹 システム導入を例としたシステムインテグレーショ ンに関するプロジェクトに何らかの形で携わること になる。  さて、アナリストからコンサルタント職になると 特定の担当領域を任され、チーム全体の進捗や品質 についてコミットメントを求められる場面が増えて くるだろう。  この時、システム開発が関連しているプロジェク トは、いわゆるコンサルタント職の同僚のみならず、 プログラミングを通して実際に開発や運用を行うエ ンジニアの同僚や協力会社の社員とチームを組んで プロジェクトを推進することになる。  コンサルタントとエンジニアによって構成された チームは、通常コンサルタントが、社内外に対して のコミュニケーションのハブとなる。そのため、コ ンサルタント職の人間はエンジニアの同僚や協力会 社の作業の進捗も含めて取りまとめ、プロジェクト の状況を「可視化して報告」する役割を担うことが 多い。  この際、問題になるのは、技術的な素養のないコ ンサルタント職が、技術的なバックグラウンドを持 つエンジニア系の同僚の生産性を可視化し、管理し なければならないということだ。プログラミングを 実際にしたことがない人間が、一体どのようにその 開発の進捗や生産性を管理すれば良いのか?  結論から言うとできないのだ。コンサルティング 会社の社員には自分自身を全知全能のように勘違い している人間も多く、運悪くそういう人間が上司に いたりすると「普通にできるでしよ」と言われる場 合もあるが、自分ができない作業の生産性を正しく 評価し管理することはできない。  私もPMOロールを担った際、協力会社の出して きた開発の見積りやスケジュールの見込みが本当に 正しいかどうかについて、その正当性をロジカルに 評価し、問題点を戻り出すことにトライしていた。 例えば1つの機能のプログラムを書くのに1日分の 開発作業とテスト作業が必要なのであれば、5つの 機能のプログラムであれば5日分、というような塩 梅だ。  しかし、現実にプログラムを書くエンジニアから すれば、このような見積りは絶対にありえない。一 つひとつの機能は異なるため、その複雑さに応じて 開発やテストに必要な時間も異なるし、中核を担う 重要なプログラムであれば1つの機能の開発だけで 3日、さらにテストで3日ということも十分にあり 得る。また、先端的な技術を取り入れる場合、その 技術が想定した環境の中で動かなかったり、主要メ ンバーが実はそれはどの技術力がなかったりといっ たトラブルは日常茶飯事で、ある程度正確な予測を 立てるためには、実際にそのメンバーたちである程 度の期間、開発をしてみた上での評価が必要になる。  事業会社のように同じメンバーで長い時間チーム として働いてきたエンジニアチームの長であれば高 い確度で見積りを作れもするであろうが、コンサル ティング会社はプロジェクト内の人の入れ替わりが 頻繁に発生し、かつ期間の定められたプロジェクト 単位で働く性質上、(特にプロジェクト初期の段階におい て)見積りは不確実な前提のものにならざるを得な い。  だが、PMOロールの担当は常にクライアントや 社内に対して状況の報告や説明責任を負う。そのた め、将来の見通しがわからない状態は強いストレス となるだろう。  しかし、無理にエンジニアに対して「前提を置い てでも、いついつまでに終わると、言えないんで しょうか?」といった一方的なコミュニケーション をとっても関係性が拗れるだけだ。しっかりとした 仕事をしようとしているエンジニアであればあるほ ど「まだできるかわからない」という回答をするで あろうし、約束された納期がほしいコンサルタント とは永久に平行線になってしまう。このような進捗 に関わる管理を強要すると、エンジニアのモチペー ションを日に日に削り取っていってしまうだろう。  チーム全体が一つにまとまり、クライアントに対 して最大の価値提供を目指そうとするのなら、この ような場面でのコンサルタントの仕事は' ES5H    ゝ    頁  、刀牛 じ  ヽこ    I                 丶心        だ。  作業が終わるかどうかがわからない状態なのであ れば、どのような進め方が最もエンジニアにとって 快適であるのかをコミュニケーションし、それをサ ポートする動きをしよう。作業時間の必要性を社内 やクライアントにうまく説明するのもコンサルタン トの役割だ。不明瞭な前提でエンジニアから納期を 強引に刈り取ったとしても、その期日で期待された 品質のものが上がらないのであれば、まるで意味が ない。  現状はいつまでに終わる見込みとして作業をして いるが、実現できない場合には、こういう対応をし ていく、というそれらしい説明の仕方を自分で考え、 上司と議論し、クライアントを説得しよう。   コンサル特有の口の利き方をしない  新卒からコンサルティング会社で働き、他の会社 での勤務を経験することなくコンサルタントになっ た社員は既に数年間、コンサルタントとして特殊な 訓練を受けてきている。そのため、コンサルタント としてのコミュニケーションに特化した脳の構造と 物の伝え方になっている。  そういう社員は、世間の中では極めて特殊な思考 プロセスを身につけた、ごく一部の人間であるとい うことを自覚してほしい。コンサルティング会社内 での常識が外に出れば伝わらないことは日常茶飯事 だ。  「イエスかノーかの二択で答えて」「結論から話し て」といったスピードに重きをおいたコミュニケー ションは社内では当たり前でも、一歩業界の外に出 れば周りの人の心象を害するだろう。クライアント からしたら、コンサルタント独自のカルチャーや思 考プロセス、コミュニケーション方法など知る由も ない。極端に効率性を重視したコミュニケーション 法が、結果として自分の視野と精神を狭めてしまう こともあるのだ。  数年ほど会社にいれば、他業種から転職してきた 中途採用の社員や、バックグラウンドの全く異なる 業務委託の社員や派遣社員と一緒に働くこともある だろう。そうした多様な経歴や背景を持つ関係者を 束ね、クライアントにチーム全体として価値提供が できるようにすることが、ジュニアコンサルタント が担うチームリーダーとしての役目だ。  リーダーの仕事は、チーム全員のポテンシャル、 長所を活用してはじめて成り立つ。コンサルタント 的なコミュニケーションや資料の作り方を、背景の 異なるメンバーに決して強要することがあってはな らない。  リーダーがチームメンバー全員の個性とバックグ ラウンドを理解し、できるかぎり特性に沿った活躍 をしてもらうように敬意を払ってこそ、優れた付加 価値は生まれる。 第 章  「前提を疑え」 −「言われた通りにやりました」に潜む 罠       ブルシットージョブとは、被雇       用者本人でさえ、その存在を正       当化しがたいほど、完璧に無意       味で、不必要で、有害でもある         雇用の形態である。         −デヴィッドーグレーバー/酒井隆史他訳         『ブルシットムソヨブ クソどうでもいい仕         事の理論』   ブルシットージョブを嗅ぎ分けよう  一般的にジュニアコンサルタントに期待されるこ との一つに、自分自身が担当している領域について、 上司であるマネージャーよりも深く細かく現場の状 況を理解し、必要に応じてマネージャーに対して提 言を行うことがある。  既に数年間の実務経験を積んでいるジュニアコン サルタントは紛れもなくコンサルティング会社の即 戦力であり、担当領域の。顔”としてクライアント の前に立てるプロフェッショナルでなければならな い。そのため、ただ言われた通りに仕事をする次元 を脱し、一人のプロとして社内外から認められるた めのわかりやすい武器を持つことが求められる時期 だ。  そして強い当事者意識と俯瞰した視点からプロ ジェクトに臨み、’゛’      ・  冫ンy』FJもと4 尤 lXtヵ  一一一一卩 必匝Fli  2020年に亡くなった人類学者デヴィツドーグ レーバーが死の直前に発表した『ブルシットージョ ブ』は、コンサルティング業界にも大きな衝撃を与 えた。グレーバーは、現代の資本主義社会で本来高 い生産性を期待されるべき頭脳労働者が、苦行とも いえる本質的価値のない仕事に多くの時間を費やし てしまうメカニズムを痛烈に批判している。  一九三〇年、ジョンーメイナードーケインズ は、二〇世紀末までに、イギリスやアメリカの ような国々では、テクノロジーの進歩によって 週一五時間労働が達成されるだろう、と予測し た。かれが正しかったと考えるには十分な根拠 がある。テクノロジーの観点からすれば、これ は完全に達成可能なのだから。ところが、にも かかわらず、その達成は起こらなかった。かわ りに、テクノロジーはむしろ、わたしたちすべ てをよりいっそう働かせるための方法を考案す るために活用されてきたのだ。この目標のため に、実質的に無意味な仕事がつくりだされねば ならなかった。とりわけヨーロッパや北アメリ カでは、膨大な数の人間が、本当は必要ないと 内心考えている業務の遂行に、その就業時間の すべてを費やしている。こうした状況によって もたらされる道徳的・精神的な被害は深刻なも のだ。それは、わたしたちの集団的な魂を毀損 している傷なのである。         白じデヴィッドーグレーバー『ブル         シットージョブ クソどうでもいい仕事           の理論』  現代の代表的なブルシットージョブの一つとして コンサルタントも槍玉に挙がるが、本書をはじめて 読んだ時、私はジュニアコンサルタント時代におか したある失敗のことを思い出した。それは「言われ た通りにやってれば良い」という、プロ意識を欠い た思考のために自ら招いた地獄だった。   前提を疑う  先に「論点思考」でも少し触れたように、クライ アントや上司からの依頼内容を前提から疑い、その 依頼がクライアントが求めている問題解決のために 本当に正しい選択なのかどうかを判断することが、 指示されたことを速く正確に行えばいいアナリスト とコンサルタントとの大きな違いと言える。当初の オーダーがそうだからといって前提が間違ったまま プロジェクトを押し進めると、取り返しのつかない 無駄が生じることがある。  私はジュニアコンサルタント時代に、とある独立 行政機関向けに、日本に導入されたばかりのマイナ ンバーに関する取り扱いの手順を設計し、ドキュメ ント化する仕事をしたことがある。  例に漏れず、非常にタイトなスケジュールが切ら れており、納期までに数百ページに及ぶドキュメン トをドラフト化し、クライアントの確認をもらった 上で納品する必要があった。この仕事そのものは将 来的に国民の利便性を上げる意味のあるものと信じ ていたが、まだ制度そのものに検討事項が数多く 残っていた状態だったため、私の書いたドキュメン トにも曖昧な記載とせざるを得ない部分が多く残さ れていた。  本来、近い未来に更新されることが予定されてい る箇所は、クライアントの確認もそれほど重点的に してもらう必要はない。現時点で完成できている箇 所と今後更新される箇所を明確にした上で、後者の 更新作業を誰がどのタイミングで行うのかを決めれ ば良いだけだ。  しかし、当時の私は、役務として定められている 自分の仕事の完成を急ぐあまり、現時点で完成する ことが不可能なドキュメントを、「完成品」として クライアントに提出し、強引に承認を取ろうとして しまったのだ。当然、不明瞭な箇所が多く残ったド キュメントを手渡されたクライアントは大混乱した。  この場合、         一        ` U日      を うヽ   つ’のだ。確かにそれは私 に与えられたミッションだったが、完成させること が構造的に不可能な案件であることに気づいた時点 で、プロジェクトの軌道修正を行うことができな かった。  結果的に、多大なブルシットージョブをクライア ントに強いることになってしまったし、混乱した状 況を上司の解決に委ねるという情けない結果になっ てしまった。  つまるところ、クライアントを含むプロジェクト 全体を見て、我々はどこへ向かっているのか、何を なぜ成す必要があるのかを徹底的に考え、現在の作 業計画の有効性・妥当性に照らし合わせて舵取りを することが必要なのである。  様々なクライアントの抱えた無理難題にコミット するコンサルタントの仕事は、道筋を間違えると本 質的な価値をなにも持だない、ただ暴力的な忙しさ だけが生まれるブルシットージョブヘと転落してし まう危険性を常にはらんでいる。  もしあなたが今しようとしている仕事の意味に少 しでも疑問を持ったのであれば、仕事の前提を上司 やクライアントと議論し、チーム全体の作業の方向 性を修正していくことが求められる。今ひいてある スケジュールは既に現実的ではなくなっているのか もしれないし、そもそもチームの役割分担が実態と 合わないものとなっているのかもしれない。それは 既に存在しているWBS(Work Breakdown Structu邑や 印圧の管理簿には表れないが、その向こう側にあ る問題に意識の焦点を当てる必要がある。    「みなさん、暇そうですね」  もうひとつ、前提を疑うことの重要さを学ぶきっ かけとなった印象的なエピソードを紹介しよう。  ある日私はとあるクライアントから「最近、営業 成績が伸びずに悩んでいる。貴社の有識者の方に意 見をいただけないか」という依頼を受けた。当時私 は営業領域に関する知見を持ち合わせていなかった ため、社内の有識者に事情を話し協力を仰いだとこ ろ、中谷さんという戦略部門のディレクター(部長 職級にあたる)が会議に同席してくれることとなった。  中谷さんとの席で、クライアントは現状について 説明しはじめた。  「最近の営業成績の鈍化の原因を知るために、営業 部隊のデータを色々と眺めて分析しているが、なか なか示唆を出すことができない。何か分析の手法と して先端の事例があれば教えてほしい」  中谷さんは少し間を置いて話しはじめた。  「入り囗から会議室まで移動するとき、オフィスの 中を観察しながら歩いたんですよ。営業のみなさん の席は、あのエリアですよね。失礼なことを言うよ うですが、みなさん随分暇そうだなと思いまして。 御社の営業ってお客さんの所に行かないのでしょう か? データ分析も必要だと思うのですが、日中の この時間に、営業の人がこれだけ席に座って事務作 業しているのっておかしいと思いませんか? 私か 過去インターンをしていたリクルート社では日中席 に座ってる営業は無能だと言われていましたが」  コンサルティング企業の花形部署である戦略部門 のディレクターとはいえ、あまりにも不躾なのでは ないかと冷や汗をかきながら話を聞いていたのであ るが、クライアントの方を見るとその表情は感動で 縊れていた。  クライアントは「まさしくそうです。小細工ばか りに時間を費やし、本来顧客とのコミュニケーショ ンに時間を投下すべき営業に事務の負担を強いてい たのかもしれないと、今気づくことができました」 と感謝を述べたのだ。  中谷さんはほとんど時間を使うことなく、クライ アントからの依頼の前提を疑い、。目の前にあるに もかかわらず気づくことができていないより大きな 問題”に焦点をあてることで、自社のメンバーとク ライアントがブルシットージョブヘと陥る事態を回 避させてみせたのだった。   小さな違和感でも無視しない  無駄な仕事の発生を避けるために、小さな不安は 種のうちに摘んでおくべく具体的な行動をとる必要 がある。  嫌な予感ほどよく当たる、というのはコンサル ティングの仕事において特に顕著だ。なんとなく気 持ち悪さを感じていながらその気持ち悪さを言語化 しないでいると、I週間後に取り返しがつかないこ とになっている、ということは非常によくある。  簡単な事例を挙げるなら、クライアントとの会議 に向けて社内で上司だちと事前打合せをしている際、 数日前にこれを伝えようと話していたトピックが一 切触れられていなかった。翌日クライアントとの会 議後、「あれ? 今日ってあの件も含めて話さなく て良かったんだっけ?」と皆で慌て、クライアント との会議を再設定せざるを得なくなるといったケー スである。  このように気持ち悪さの勘を無視したが故の失敗 を、誰もが経験したことがあるのではないだろうか。 後々の大きなトラブルを未然に回避するためには、 どんなに小さな違和感であっても、言語化し、その 違和感の正体を見極めるようにしたい。  特に、上司が認識できていなそうな、自分だけが 気にしている違和感がある場合は要注意だ。それが 良いことであっても悪いことであっても、Teamsや メールですぐに共有する必要がある。その事象が持 つ意味合いを一人だけで解釈するのは危険だ。  自分自身の持っている情報だけでは機能しないが、 上司が既に持っている情報と自分が手にした情報を 組み合わせると、プロジェクトにとって非常に重要 な意味を持つ情報になる可能性がある。  例えば、明日の会議にA係長というクライアント が出席しない、という話を耳にしたとする。自分が 見えている会議の中のアジェンダのみに限定すれば、 これ自体はさほど大きな意味を持だない情報である。 しかし、上司は他のチームのアジェンダにおいて、 A係長のサポートをもらいながら、B部長に対して 何かしらの重大な決裁を迫ろうとしているかもしれ ない。情報を共有しないと、B部長の決裁は予定通 りもらうことができず、スケジュールに重大な遅延 をもたらし得る。これは情報が共有されないと上司 はわかり得ないことだ。  ネガティブであることが明らかな事象についての エスカレーションは、一切の時間的・手段的な配 慮・遠慮は不要だ。上司へのチャットや電話等の手 段、時間帯にかかわらず行うこと。深夜早朝であっ ても同様だ。仮に大袈裟すぎると後で小言を言われ たとしても、言わずに問題が爆弾化するよりはるか にましと言える。   慢性的な忙しさを放置しない  プロジェクトという閉鎖的な環境の中で黙々と働 いていると、勤怠管理の感覚がだんだんと麻痺して しまい、前提を疑ったり、小さな違和感を言語化す るための心理的な余裕が失われてしまいがちだ。 「こんなにも毎日頑張っている」ということが作業 を正当化するような状態になり、その前提を疑うこ とは日々難しくなっていく。  もう少し無理して深夜まで働けば終わるかもしれ ない、という状況も毎日続けば、仕事の見積りや計 画として既に破綻している。そんな状況がチームに おいて常態化しているようなら、ジュニアコンサル タントとしては、変化の一手を考えるようにしたい。 1 今の忙しさは一過性のものなのか、それとも過   ぎ去る見込みがないのかを考えてみる。一過性   のものであるならばいつまでか、定時からはみ   出す分の稼働は労務として問題のない残業時間   内に収まっているのか、代休で消化可能なのか   を検討しよう。労務面の手続きが必要な場合は   すぐに上司を通じて申請を行おう。 2 忙しさが一過性のものでない場合、忙しさの構   造的な理由を考えよう。自分だけが忙しいのか、   チーム全体やクライアントも含めて忙しいのか、   一歩引いて俯瞰して見てみたい。特定の個人に   忙しさが偏っているのであれば、マネージャー   に作業分担を相談する。会社全体、あるいはク   ライアントも含めてプロジェクト全体が忙しい   場合は、その根本原因を見極めよう。本来は出   席する必要のない会議で時間をロスしていない   か、チームがやらなくても良い作業までやって   いないかを徹底的に洗い出し、見直しの相談を   するとよい。 3 作業の前提がそもそも誤つていないか、予期せ   ぬトラブルの発生源になっていないか考えよう。   その問題は自社内で解決できるものなのか、ク   ライアントを含めての調整となるのかを見極め   る。例えば事例やソリューションの調査に時間   がかかっているのであれば、社内の有識者の時   間を毎週1時間ずつもらえる調整が可能かを探   りたい。また、業務ボリュームの多い作業を洗   い出し、その自動化が可能な場合は、スポット   で自動化を行うエンジニアの助力をもらえるか   相談してみると良い。  こうした社内的な工夫ではどうしようもない場合、 クライアント側との調整を試みよう。この相談は必 ずマネージャーからする必要があるが、アイデアは 現場にいるコンサルタントとしても積極的に出した い。  特に、クライアントから特段コンサルタントがや る必要のない業務の一部をお願いされ、断りきれず にやってしまっている、ということがよくある。ク ライアントの社内にある会議室の予約や、資料のメ ンテナンス等、「変革」に結びつかない些末な仕事 まで引き受けてしまっているなら、それを一部クラ イアントにお戻しする余地はあるだろう。  また、昨今減ってはいるか、資料の印刷には時間 がかかるため、紙資料での会議運営をしているので あれば、電子で投影する等の方法を提案してみよう。 加えて、クライアントとの定例会資料等が必要以上 にリッチになっていないかは再度チェックしてみる 必要がある。「変革」のために必要な資料はリッチ な進捗報告資料ではない。もしも定例会の資料作成 に多くの時間を割かれてしまっている現状があるな らば、ミoaファイル等、簡易なフォーマットでの 報告形式とさせてもらえないかなど、交渉してみる と良いだろう。   武器となるスペシヤリティ(専門性)を   持とう  ジュニアコンサルタント時代に意識したほうが良 いのは、社内外からの信頼を得るために、わかりや すく自分の武器となるスペシヤリティ(専門性)を持 つ、ということだ。一般的にどのような武器の種類 があるのかを以下に紹介したい。  一般的に、企業という社会活動の単位には共通す る機能が多く存在している。会社の組織図を見れば、 購買部、経理部、総務部、情報システム部、事業企 画部、広報部、法務部、製造部、営業部、物流管理 部といったセグメントが存在する。そしてこれらの 部署でやることはどの業界かにかかわらず、共通項 がある。  購買部であれば、特定の物品をどこからどのよう に調達するのかの計画を立て、より安く、安定的に 購入するためのルートや戦略を検討している。また、 物流管理部であれば、需要と供給の弁となりつつ運 送と物品の保管費用を最適化するための検討を日々 重ねている。そのような特定のセグメントに焦点を 当て、スペシャリストになっていくキャリアがある。 購買や物流管理、という横のカットで様々な業界の クライアントのプロジェクトに参加すると良いだろ  また、その業務で使用されることが多いシステム を複数実際に利用し、システムごとの特徴、強み弱 みを把握しておくと良い。営業でよく使われるシス テムとしてはSalesforce.comやkintoneといった 汐乱製品が一般的だ。それぞれの機能を把握し、 どのようなクライアントに対して相性が良いのか、 自分なりの意見をまとめておくと良いだろう。 2    −`ロソリ ーヽヽ ヽに、じて  r−  特定課題の解決策となり得るソリューションのス ペシャリテイを持つことも一つのキャリアの方向性 になる。古くから存在するsAPや〇racleといっ たERP製品に加え、Salesforceやy回щ|、 Microsoft Azure'Aws(Amazon Web Services)や (ioogle Cloud Platform等の汐叺やグラウトソ リューション等も、昨今ではコンサルティング会社 を支える武器となってきている。積極的に会社の研 修やトレーニングに参加してこうしたテクノロジー を学び、武器にすると良いだろう。これらのソ リューションのトレーニングは1つの講座につき数 十万円という参加費用を要することがあり、会社か らの補助で受講できるのであれば、ぜひ利用してお きたい。私の同僚には、20代にして十数種類存在す るAWSのすべての認定資格を網羅した猛者もいた。  また、この分野のスペシャリテイを身につけてい く際の注意点としては、コンサルタントとして、経 営者に対してプレゼンテーションできるような俯瞰 した目でソリューションを説明できる必要がある。 コンサルタントとしてキャリアを歩む以上、この製 品ソリューションを用いることで経営にどのような インパクトを出すことができるのか、をわかりやす く説明できなければならない。そのためには、一つ の製品のみならず、複数の製品を使い分け、製品ご との長所と短所を比較してみる経験も必要となって くる。なお、これらのテクノロジーに関する強みを 持つと、転職時においても強力な武器になり得る。 3 −  コンサルティング会社の多くは特定業界に対して、 専門性を有するグループを持っている。自動車業界、 医療業界、航空業界、移動体通信事業、というよう な単位だ。各業界の世界のトレントや国内の法制度 についての知識、業界キーマンの動向等、業界内部 の動きに高いアンテナを持ち、次の一手をマクロの レベルで先読みできるようなタレントを示す。この 領域に関して、コンサルティング会社は通常、中途 採用でその業界の中にいる人間を引き抜く形で戦力 補充を行うため、コンサルティング会社の生え抜き 社員がこの専門性を持つようになることは稀である。 自分が将来この業界で戦いたい、という確固とした 意志があるのであれば、目指してみると良いだろう。   ギャラは積極的に売り込み、昇進のた   めの材料にする  自分は今後どのようなスペシャリティを磨いてい くかを意識しつつ、自分の強みはしっかりとプラン テインクし、社内に売り込むことを忘れずにいたい。 もし会社内で昇進をしたいのであれば、自分はどの ような環境であれば活躍ができるのかをキャリアカ ウンセラーや上司に対して定期的に説明しよう。  通常、コンサルティング会社では年次ごとに評価 会議が行われ、上位の役職者が下位の役職者の評価 について話し合う。この際に、強みがない、あるい は強みが社内で認識されていない場合、評価会議の 場で「こいつって、結構頑張ってるけど、具体的に 何かできる人なんだっけ……冫・」という残念な印象 だけが残ってしまうのだ。  自分の仕事のプランテインクには様々な形があっ ていい。  一つ例を挙げよう。かつて上司であったプリンシ パル(専門性の高い上位職)のタニさんは中途採用でい わゆる事業会社からやってきた人であった。彼は通 常のコンサルタントのシニア層としては驚くほどプ レゼンが下手たった。一緒に働きはじめた当初、私 は彼がクライアントの役員クラスの前で説明するの を冷や汗をかきながら聞いていた。そのプレゼンは 私か新卒時代から学んできた。禁じ手”が多く含ま れていたし、聞き方によってはクライアントを苛立 たせてしまうのではないか、という喋り方であった からだ。そして、彼が用意する資料もお世辞にも美 しいとは言い難いものであった。  しかし、クライアントは彼を指名し続けた。その クライアントだけではない。とある業界の大手は全 社、彼を指名して離さないのである。彼の価値は上 手なプレゼンでも綺麗なスライドでもなく、業界に 関する網羅的かつ底知れない圧倒的な専門性にあっ たのだ。  彼に出会ったことは、私の中でのコンサルタント の「あり方」を大きく拡張してくれた。プレゼン用 の紙は別の誰かが書けば良い。彼はただ、ひたすら 自身の専門性を磨き続けることで、クライアントに も、会社にも最も貢献する道を選んでいたのである。   自分の折れないラインを持つことが大   事  ジュニアコンサルタントは自分自身が持つ領域に 関してはクライアントとの前線の最終防衛ラインに いる、ということを忘れたくない。自分がいる領域 で何かトラブルがあった場合、それはクライアント からチームに対してのクレームに発展するリスクを 背負っている、ということだ。  そのため、自分自身が作成するアウトプットに関 しては、上司やクライアントから何かしらの反対意 見があった場合であっても、簡単に引き下かっては いけない。これは他人の意見を聞かない、というこ とではなく、一度自分の出した意見に対して説明責 任を持つ、ということだ。  最終的に上司やクライアントの意見を取り込むに しても、   4.』      くi″   H     I I反 対意見に簡単に屈するような提出物であれば最初か ら出さないほうが良いのだ。意見をもらったら、自 分自身が納得できる取り込み方を模索しよう。  かつて私は長いものに巻かれる主義の人間であっ たために、クライアントや上司が自分の考えとは反 対の意見だった場合、基本的には彼らの考えを尊重 するようにしていた。柔軟な対応が取れる人間であ るとプラスの解釈をしていたのだが、ジュニアコン サルタントになって以降、「なんで簡単に自分の意 見を変えちやうの?」と言われることが増えていっ た。クライアントと上司がジュニアコンサルタント に期待する姿勢は、一人のプロフェッショナルとし て議論ができる関係性であって、単に言われた通り に作業してもらうことではないのだ。  その後、少しずつ、自分としてはこれに基づいて こう判断をしている、ということを面倒くさがらず に説得する癖をつけたところ、相手から「そういう 事情があるなら」「そこまで考えた上で言ったのな ら」と意見を変えてもらえる場面が多くなっていっ た。簡単に意見を変える人間は、逆にプロフェッ ショナルとしての信頼を得ることは難しいのだ。  本章では、ブルシットージョブに陥らないための プロとしての心構えを扱ってきたが、最も大切なこ とは、仕事へのモチベーションを自分自身で維持で きることだ。稀に「上司やクライアントからのポジ ティブなフィードバックや慰め、労いの言葉がなく、 自分のしていることの価値がわからない。仕事が辛 い」と話す同僚がいる。気持ちはわかるが、それで はプロ失格だと考えている。  いちいち他人から褒められなければ仕事のやる気 が出せないのであれば、プロを名乗る資格はない。 プロは自分で考え、自分で行動するものだ。  自分の仕事の評価や社会的な価値をまず自分自身 で信じることができ、その結果に責任を持つ気概の あるものだけが、真に価値ある仕事を生み出すこと ができる。多少のトラブルや衝突があっても、正し いと信じたことを継続し、最後までやり遂げる意志 を持とう。 第 章  「あなたが社長ならどう します?」 −「変化」を起こすから価値がある      幾度の戦場を越えてなお不敗      ただ一度の敗走もなく      ただ一度の勝利もない        担い手はここに一人        剣の丘で鉄を打つ        Iアニメ『Fate/Stay nightj   10ヶ月間の戦場  入社から5年目の秋、私は昇進に失敗した失意を 引きずったまま、シニアコンサルタントとして突然 新たにアサインされた仕事で文字通り地獄の日々を 経験することになった。  日本有数の物流会社の基幹機能を支えるシステム のハードウェア更改をするにあたり、新たなシステ ム群の上で、現在の業務が滞りなく行えることを担 保するためのシステムテストを私たちのチームは 担っていた。  通常、この手の業務テストはテストの正解となる 業務フローや業務マニュアルをベースとして行うの が一般的である。基本的に正解がないものをテスト することはできないからだ。しかし、都合の良い業 務マニュアルや業務フローが網羅的に存在している ことは少ない。あったとしても10年前に作られたき り一度も更新がなされておらず、実際の業務と内容 がかけ離れているといったことも珍しくない。私の クライアントもそのような状況であった。  加えて、非常に長い歴史を持つクライアントで あったために、現場の業務内容はおそろしく多岐に わたった。店頭における業務、在庫管理、そして売 上の集計から請求書の発行に至るまでのクライアン ト業務の全貌を明らかにし、それをテストシナリオ として短期間のうちに明文化する必要があったのだ。  クライアントの有識者たちの話を聞き、つなぎ合 わせ、資料に落とす。これを平日休日昼夜を問わず ひたすら繰り返し、数千の業務フローを3ヶ月で書 き上げる必要があった。  3時間寝ることができれば良い方で、毎日行きと 帰りのタクシーの中で寝て、シャワーをあび着替え て出社するような日々が続くことになった。深夜、 会社を出てタクシーに乗り込むと、既に顔馴染みに なっている運転手さんに「ご自宅でいいですか?」 とだけ聞かれるほどタクシーを毎晩使っていた。夕 クシーの月額は家賃を上回り、家を借りている意味 を考えさせられた。首都高を走る車の窓から見える ぼんやりと橙色に光る東京タワーが当時の唯一の癒 したった。文化的な生活とはほど遠い日々だったが、 失意の底にあった私にとって多忙は救いになった。 自分に足りないものから目を逸らしながら暴力的な 忙しさに酔い続けた。  上司はヌタさんと呼ばれる巨人たった。背丈が 190センチ近くある文字通りの巨人である。会社 の別の人が。燃やして”しまった仕事に突如として 現れ、その圧倒的な火力で鎮火し、そしてまた新し い修羅場へと移る火事場の英霊のような人だ。歴戦 の実績は社内でも評判を呼んでいたにもかかわらず、 決して出世が早い方ではなかった。  炎上案件の救世主は結局は。敗軍の将”であり、 必ずしも評価されやすいものではない。無責任に案 件を売り歩き、その責任を取らずにセールスの実績 だけで昇進する社員もいる中で、ヌタさんの働き方 は孤高の傭兵であった。並はずれた問題解決能力に 加えて技術的なバックグラウンドの強さ、何より強 靭な精神と底なしの体力を持っていた。  ヌタさんは誰よりもよくプロジェクトの全体像を 見ているようだった。本来の自分の守備範囲に加え て、隣のチームの作業にリスクがあればすぐカバー した。既にほぼ24時間ぶっ通しで働いているにもか かわらず、クライアントにとって、プロジェクトに とってそれが必要であれば即行動する。全体の工程 に大きな綻びをもたらす可能性のあるリスクがあれ ば、それが深夜であっても確認する透徹した当事者 意識−何か彼をそこまで突き動かすのか、当時の 私の理解の及ぶところではなかった。  ヌタさんとはアナリスト時代に一度だけ提案書作 成の仕事を共にしていたが、かつてアルバイト程度 の仕事しかできなかった私にとって、このプロジェ クトは成長した自分の姿を見せるリベンジマッチの 意味合いがあった。だが、たかだか数年の修練を詰 んだ程度の私とヌタさんの間には計測できないほど の実力と視野の差が、なおも存在していたのである。  私の仕事について、ヌタさんに褒められたことは 一度もない。元々口数が多いタイプではなかった。 彼の沈黙が承認を意味するのか否定を意味するのか、 あるいは熟考の時間であるのか、その真意は表情か らは読み取ることができなかった。彼は黙ったまま しばらくすると「だから、結局……なんだよな」と 呟き、私の顔を見る。その言葉の真意を掴めない私 は、「すみません、よくわかりません……」と言う しかなく、ヌタさんはがっかりした顔でレビューを 終わらせるといったことがよくあった。  数千の業務シナリオのテストを回帰テストを含め て約2ヶ月間で実行するこの仕事は壮絶を極めた。 日中の時間はひたすらテストを実行し、定時になれ ば翌日のシナリオの準備と協力会社への作業依頼書 を作る。夜が明けるタイミングで常駐先近くのスタ バで仮眠し、8時からまた働く。あまりにも寝てい ないため、作業の品質は上がらず、ある日ヌタさん から「脳人ってる?」と確認されたこともあった。 こちらも寝ないで働いている怒りと、一方で「たし かに自分の脳が入っているか確認したことはなかっ たので、確認は必要だ」というファクトで思考回路 がショートし、「確認します」とだけ答えて更に怒 られる一幕もあった。  休日もGWもすべて返上して働いていたために当 然、勤怠時間は異常値となり、コンプライアンス部 や人事部から休めというメールが来ていたように思 うが、もはやそのメールを開いている余裕すらない くらい忙しかった。働き方改革という言葉がにわか に社でも流れはじめた時代であったために、私たち の働き方は組織の上層部へとエスカレーションされ た。  しかし、自分たちが担うのは日本の物流の根幹を 支えるシステムであるという使命感が、私と同僚た ちの足をオフィスへと向かわせた。会社の上層部も システムの重要性を加味した例外申請を海外の本社 に認めさせ、昼夜問わずの24時間態勢の労働人形 (キリングマシン)たちはでき上かっていった。  戦場のような日々は、すべてのテストシナリオを 消化した後、突然、終わりを迎えた。新たに動き出 したクライアントのシステムがハードウェアで問題 なく動いているかを静観する時期に突入し、私と私 の後輩は午前中に出社こそするものの、近傍待機で よい状態となったのだ。特にやることがないため、 代休消化と称してクライアントの常駐先近くにある 上野駅近辺の屋台で昼間から飲酒をして時間を過ご した。  前線からの帰還兵さながら、心身がすっかり疲れ 果ててしまった私たちのチームには、約1ヶ月の代 休が割り当てられることになった。丸々Iヶ月間オ フィスに出社しなかったから、社内では私の死亡説 が流れたほどであった。  休暇後、キャリアカウンセラーに呼び出された私 は、そこでマネージャーへの昇格を告げられた。そ の年最も過酷とされた仕事で中心的な役割を果たし たことが評価会議で高く評価されたという。  昇進は素直に嬉しかった。報われたのだと思った。  しかし、この時の私は本質的に1年前から精神的 になんの成長もしていなかったと今になって思う。 私は、ただ長時間労働に耐えることができた頑丈な スタッフにすぎなかった。自分自身に足りない何か を無視するように忙しさに溺れ、欠点を直視しな かったツケはマネージャーになった後に払わされる ことになるのだが、それはまた後の話だ。    「変化」を作れる社員になろう  ジュニアコンサルタントという時間は、コンサル タントの見習い戦上とも言えるアナリストから、空 を美しく舞うマネージャーという蝶へと成るまでの、 いわばサナギの期間とも言える。蝶が舞うがごとく 仕事のイメージをこの時期にどこまで高く飛翔させ られるかで、その後のマネージャーとしての活躍は まるで異なってくる。  当時私かヌタさんの言葉に釈然としない点があっ たのは、私自身がまだアナリストの頭のまま、作業 者としての魂のまま仕事をしていたからに他ならな い。与えられた仕事をただこなし、期限とスコープ というわかりやすい2軸のマトリクスでひたすら仕 事を「終わらせよう」と作業をしていた。  コンサルタントの仕事は、ただ与えられたタスク を終わらせることではなく、変化を起こすことに肝 がある。コンサルタントは事業の展望の書かれた資 料を、時に業務改革を、先端的なシステムの実装を 売る。それら       I    じ  。 鬪一一一HロロllE一回崗Mau  そしてこの点こそが、単発のシステムの導入や移 行のみを売り物とする他の会社との差別化要素であ り、それ故にコンサルタントの月単価は高額となる。  上司であるマネージャーが、折角お声がけをいた だいたクライアントに対して「このテーマだと私た ちはお仕事を受けることができません」と、要求自 体の修正と拡大を求めているシーンを見たことはな いだろうか?  コンサルタントは、必要だと考える変化をもたら すにあたり、クライアントからいただいたお題のス コープが局所的だと感じる場合がある。バケツの底 に大きな穴が空いている時に、側面にある小さい穴 を塞ぐ作業をしても意味がない。同様に、あまりに も小さな変革テーマを切り出されたとしても、クラ イアント全体の事業に変化をもたらすファクターに はなり得ないのだ。  コンサルタントである以上、意味のない施策にク ライアントの予算や自分たちの時間を投下するのは 悪手だ。必要な変化をもたらせるだけの変革テーマ、 そして予算をクライアントから獲得しなければいけ ない。  ジュニアコンサルタントがクライアントに対して テーマの修正・拡大を要求するようなシーンは稀で あると思われるが、仕事をしている際に「これ、こ のままやってて意味あるのか?」と気づく場面は少 しずつ増えてくるだろう。その際、「もっとこの面 に対応すべきではないですか?」といった提案を関 係者に対してできるようになりたい。  ただ、降ってくる作業を素早く正確に終わらせる だけの世界を脱し、 ヽ  夕ヽトー  l   g   M      、   作業が減った等の小さなレベルでも良い。クライア ントや同僚だちから「あなたがいたから、私たちは 変わることができた」と言ってもらえるようになる こと、これがコンサルタントとしての必要条件にな る。   変化の起点は人がすべて  現場のクライアントとは良い関係を築けているに もかかわらず、なぜか進行がうまくいかないプロ ジェクトがある。毎日クライアントとコミュニケー ションをしているし、意思疎通もできている。会議 の雰囲気も良く和やかだ。しかし進捗が常に遅延状 態になっている。  このようなプロジェクトに多い傾向の一つとして、 仲の良い現場のクライアントと馴れ合いのようなコ ミュニケーションを続けるばかりで、実質的な意思 決定権を持つクライアントとの意思疎通を怠ってい る、という点がある。  クライアントの企業も複数の部署で構築されてお り、意思決定の規模が大きくなればなるほど関連す る部署の数は増えてゆく。  例えば受注予測の精度向上を目的としたシステム 導入を行うプロジェクトに参加したケースを考えて みよう。私たちの契約元(バイヤ士となるクライア ントは経営企画部であったとする。しかし、このシ ステムを実運用に堪えるものとするためには、製造 部門の協力が不可欠なので、経営企画部のみならず、 製造部門の協力を取り付けるための動きも積極的に 行わなければ、変革を起こすことはできない。  コンサルタントがカウンターパートであるクライ アント以外の部門にどこまで干渉するかは、プロ ジェクトの提案段階において役割分担として定義さ れるのが通常だ。本来はクライアント企業内の調整 に関わる話であるため、クライアント自身に調整を 担っていただきたいところだが、部署間の縦割りが 著しい会社の場合、コンサルタントが社内調整も担 うことが多い。クライアントが行う場合でも、スケ ジュールの進行予定に対して調整がどの程度進んで いるのかに目を光らせ、必要に応じてクライアント に作業を促すことも必要だ。  クライアントを「変える」ために、今自分が働き かけるべき人や部署はどこにあるのかを把握し、関 係性を積極的に開拓していく動きをしよう。    「もし○○さんが、社長であれば……」  組織を変革する際に意外に大きなハードルとなる のが、それが非効率なやり方であるとみんなわかっ ていても、長い時間を経て組織内の暗黙の常識と なってしまっている場合だ。長年の慣習で行ってい る業務手順は、そもそもその手順の妥当性について 疑問を持つことすらないかもしれない。  そんな企業に、突然外部からやってきたコンサル タントが「今のやり方は非効率だ」と面と向かって 言っても、誰も良い印象は持だないだろう。現場の 事情や苦労の歴史を知らないくせに、何を偉そうな ことをと悪い印象を与えてしまいかねない。  クライアント自身に現在のやり方の問題点に気づ いてもらい、主体的に変革に参加してもらえるよう に誘導できるかが、コンサルタントとしての腕の見 せ所になる。  対面しているクライアントとのコミュニケーショ ンの中で、も   さ      、あ I フ        。     なり7‐ というカジュア ルな問いかけをしてみるのは一つ、クライアントの 考え方を拡張する有効な手段になる。  ロジカルシンキングと併せて取り入れられている デザインシンキングという問題解決の手法において も、「もしあなたが、アメリカの大統領であった ら?」「もしドラえもんがいたら、この問題をどう 解決すると思いますか?」と発想を拡張する手法が 用いられている。  またクライアントに対して1      ・」V     ?  という質問を投げか けるのも有効な方法だ。  クライアントの中には長年一つの領域を務め、自 分の仕事に対して強い思いを持っていながらもなか なか実現できずにフラストレーションを抱えている 人がいる。特に転職を経験しているようなクライア ントは、前の会社であれば効率的にできていたこと が今の会社ではなんらかの事情でできない場合、本 来こうあるべきだという業務に対する明確なイメー ジを持っている人がいる。  例えば、クライアントが、毎日行っている様々な 雑務を自動化するためのシステムを作りたい、とい う相談を持ちかけてきたとしよう。そのままクライ アントの言う通りに雑務を自動化するシステム開発 を受託し自動化すればクライアントは楽になり、喜 ばれ、その後も継続的に仕事を受注することができ るかもしれない。  しかし、相談を受けた時に、クライアントはそも そもどのように働きたいのか? を聞いてみると、 前職ではより先進的な方法で同様の業務をこなして いたため、本当は今の雑務の単なる自動化よりも、 業務そのものの最新化を一緒に進めてくれる仲間を 探しているとわかったりする。もしそのようなクラ イアントの思いに寄り添うことができれば、クライ アントと二人三脚の強い信頼関係で、より大きなイ ンパクトのある変革を組織にもたらすことができる かもしれないのだ。  人直接言れI 附話M         I    RμU        の防 ロ        イ   隕カ       人 は自分で考えて内発的な動機づけを得たものがあっ てこそ行動へと駆り立てられるからだ。クライアン トの中にあるわだかまりを言語化し、思考の手助け をすることができれば、プロジェクトへのモチベー ションとコミットメント度も大きく向上できるだろ   クライアントの承認を勝ち取る  変化への第一歩を踏み出すのにどうしても必要な のは、クライアントからの承認−「はい」「承認 します」「そのまま進めてください」を勝ち取るこ とだ。その言葉をもらえないがためにプロジェクト が数週間遅延するということは、頻繁に起こり得る。  一見簡単なように見えるが、この承認の取り付け は、思っている以上に骨が折れる。こちらとしては OKしてくれたと都合よく解釈していたことについ て、後日クライアントから「特に承認をしたつもり はなかった」と梯子を外されてしまったり、一筆 メールで承認しますと返してください、とお願いす ると、自分の責任で承認して良いものなのかどうか の判断がつかないクライアントがメールを滞留させ てしまい、プロジェクトが遅延となることは日常茶 飯事だ。  ここでまずクライアントの気持ちになって、その 対策を書きたい。  仮にコンサルタントから、「本件の方針について、 承認をいただけないでしょうか?」という依頼を受 けた場合、なんとなく、躊躇してしまうのではない だろうか。これは自分が承認をしたことによって、 この後何か起こるのかに想像が及ばないからだ。  「そこのオフィスの椅子、5分だけお借りして良い ですか?」といったお願いならためらいはないが、 「御社から貸与いただいているパソコンに、このソ フトウェアをインストールしても良いですか?」と 聞かれた場合、情報システム部への確認が必要なの ではないか、と考えその場で回答できないことが多 いだろう。  誰もが不確定なことに対して決断を行うのは抵抗 感があるし、特に企業で働く一般社員であれば、そ の決断にどの程度の責任が伴うのかを慎重に考える だろう。  では、どのようにしてクライアントが抱く抵抗感 を払拭するのか? 1 まずそもそも、承認を取りたい内容がそのクラ   イアントが決められる範囲のことなのかを確認   したい。会社である以上、所属する組織、役職   ごとに決裁できる範囲は決められている。これ   はクライアント企業内の組織図や決裁権に関す   る情報を入手することで、ある程度整理できる。 2 本来その権限を有しているはずのクライアント   が承認を躊躇している場合、承認をした際にど   のようなことが起こるのかが正しく情報として   伝えられていないケースが多い。例えば今後構   築するシステムの基本設計について承認した場   合、それによって今後どのような制約が課され   るのか、説明する側としても勇気を伴うことだ   が、この承認によって引き返せなくなることと   リスク内容を正しく伝える必要がある。 3 もしそのリスクを当該クライアントが引き受け ることがない時は、クライアント企業内でその 判断が可能な人を別に探す。多くの場合、その 上長にあたる役員や、他部門における部長で あったりする。特に複数の部署に影響する内容 の意思決定を迫る場合は、決裁権を持つ関係者 全員の承認を取り付けている(取り付ける予定)、 という説明をしなければ、現実的に話が進まな いだろう。   関係部署を横断したロジ設計  クライアントからの承認の取付は1日にしてなら ない。ある日突然やってきた外部のコンサルタント に、「本件の承認が欲しいので、判子を押してくだ さい」と言われて、その通りに判子を押すことはな いだろう。  プロジェクトが開始されたその時から、このプロ ジェクトではどのタイミングで誰の承認が必要にな るのかを事前に逆算して考えておくことが重要だ。  そこから、将来承認を取り付けることになる関係 者とどのタイミングでコミュニケーションを行う必 要があるのかを逆算し、スケジュールに落とし込ん でおく。この一段進んだロジ設計がプロジェクトを 円滑に推進し、変革を実現するために必要な能力だ。  どのような組織であっても何か物事を変化させよ うとする時、抵抗勢力は必ず現れる。現状うまく 同っているのに、なぜ変わらなければいけないのか、 変わるための労力は一体誰が負担するのか、もし変 わった後に何か重要なトラブルがあったらどうする のか? そのような不安を持つこと自体は、責任感 を持って仕事をしている人の反応として普通のこと だ。  経営者のパートナーとしての立場を振りかざして 強引に変革を推し進めても、現場がついてこられな ければ有効に機能しない。コンサルタントとしては、 抵抗する側の理由にも丁寧に対応していかなければ ならない。  抵抗勢力は通常、自分たちのカウンターパートと なるクライアントとは別の場所に存在することが多 い。カウンターパートが購買部であった場合、購買 の業務システムを変化させるには、購入した品物を 検品する物流管理部であったり、支払処理を行う経 理部門との根回しが必要になる。プロジェクトが購 買部のクライアントを対象としているからといって 関係部署との調整を後回しにすると、役員への最終 報告の際に「ところで物流管理部や経理部との調整 はすんでるの?」と一撃を打ち込まれ、残念な結果 に終わることになる。  影響範囲の見極めを行う方法として有効なのが、 組織間の情報とデータの。流れ”に着目することで ある。先の例で言えば、購買部の場合、購買部が 。発注”するための元となるデータは誰がどのよう に提出し、誰がどのように使用することになるのか に着目すれば、購買依頼を作成する製造部門や、そ の発注データを請求書とつき合わせる経理部に対し て、新たな業務パターンを打診する必要があること がクリアにわかる。  こうした流れを掴むために、許されるのであれば クライアントの社内システムの画面や実際に現場で 使われている帳票を見せてもらったりすると良い。 情報はすべて入力元と出力先があるため、特定しよ う。これは業務全体の流れを俯瞰して分析する訓練 にもなる。  影響が及ぶであろう各部署に対する調整は、初期 段階からはじめておくことが望ましい。「今度、購 買部さんの方で、このような仕組みを新しく入れよ うとしているのですが、何か経理さんの方で気にな る部分ありますでしょうか?」といった形で話を進 めていけば、調整先の部署としても、早い段階での 相談であれば心理的に安心感があるため、抵抗も少 ない。   自分自身のミッションを理解しよう  チームの主戦力であり、一領域の顔であるジュニ アコンサルタントは、チームのミッションそのもの にコミットすることが求められる。一つひとつの作 業はどうなったら終わりかを気にするだけではなく、 このチームは、このプロジェクトは、どういう状態 に。変化”したら成功なのかを主体的に考え続けな ければいけない。  コンサルタントとしての基礎を叩き込まれたアナ リストは、自然と「自分自身のスコープと納期の死 守」を最優先の行動原理として働くようになってい る。この仕事の仕方が行き着く先は、自分のToDo をリスト化し、期限を入れ、上から順に完了ステー タスへと変えていくような仕事のスタイルになる。  しかし、一歩引いて考えてみてほしい。そもそも 仕事とは「タスクを終わらせること」なのであろう か。  一つ例を挙げたい。私はヌタさんと働いていた当 時、プロジェクト全体の課題やToDoを印皀のリ ストで管理していた。そしてその管理簿に記載され た課題を期限通りに終わらせることに注力していた。 私からヌタさんへの業務報告はその課題の一つひと つがいつどのように終わるかがほとんどだったが、   ・一・一日       丶 丶1                      という指摘を受けた。 私にとって、私の役割と仕事とは管理簿に書かれ てあることがすべてだった。しかしクライアントと プロジェクトを取り巻く環境は1時間ごとに状況が 変わっており、管理簿の通りにはなっていない。に もかかわらず、仕事の範囲を管理簿の中にとどめて しまえば、前提が覆るような問題が発生した時に、 一体どのような価値提供ができるのか。  当時私とヌタさんの会話が噛み合わなかった理由 は、私か一つひとつの課題の進捗の話をしていたの に対し、ヌタさんはExcel管理そのものの意味、そ してExcelに直接は書かれていない、より高次元な 。何か”の話をしていたのである。  クライアントへの価値提供と結びつかないのであ れば、そのタスクはどんなに緻密で正確であったと してももはや無意味だ。最終的に何か実現できたら、 ミッションは果たされたと言って良いのかを、プロ ジェクトの開始時にクライアントや上司とよく議論 し具体的なイメージを持っておく必要がある。  ミッションはプロジェクトの背景や目的によって 大きく異なるが、可能な限り定量的な変革目標を定 めるのが良い。  例えばクライアントのセキュリティ部門を担当す る場合、翌月のセキュリティインシデント(マルウェ ア感染や不正アクセスなどの脅威)をゼロにする、あるい はインシデント発生から第一報までのリードタイム の平均を○○分まで減らす、といった定量目標を設 定する。営業チームがクライアントであれば、売上 を10%拡大する、営業費用を20%削減する、といっ た数値目標も良いだろう。  具体的にどう変化するか目標を定めて仕事をして いると、一っひとっの作業が、その目標達成に近づ くものであるのかどうか見極めやすくなるし、不必 要と感じた時の説明も容易になる。   前提をおいてプロジェクトを引っ張ろ   う  リーダーとしてプロジェクトを推進するにあたり 出鼻をくじかれることの一つとして、作業に必要な 情報や、あてにしている情報がまったく出てこない ということがある。例えばシステム導入に関するプ ロジェクトがはじまるにあたり、要件定義等のイン プットについてはクライアント側からある程度のま とまったドキュメントが与えられるのが一般的で、 「ここまではこちらでやっておきますから」とクラ イアントが約束してくれる。  しかし現実問題、これが予定通りに果たされるこ とはあまりない。クライアント側のインプット作成 が遅れ、その結果こちらの作業遅延の原因となる、 というのは頻繁に発生し、待ちに待った資料がやっ てきても到底使い物にならないことも多い。そもそ も高額な業務委託料を払ってまで外部のコンサル ティング会社に仕事の一部を切り出すほど、クライ アントは忙しいのだ。細やかなドキュメンテーショ ンをする時間を期待することはできないだろう。  実際は、クライアントが途中まで書いたメモ書き のようなドキュメントから断片的な情報を読み取り、 プロジェクトを推進しなければならないことの方が 多いのだ。  もちろんクライアントの資料提出が遅れたことに よる遅延は、我々の責任の範囲外だが、問題なのは 結果としてプロジェクト全体の作業が遅れてしまう ことだ。クライアント起因の遅延であったとしても、 経営層からすれば、高額な業務委託料を払っている のになぜプロジェクトが遅れているのか、という評 価になってしまう。  クライアントの経営者からの信頼はコンサルティ ング会社にとっては生命線だ。現場のクライアント とは良好な関係を築けていたにもかかわらず、経営 層との関係が悪くて頓挫してしまったプロジェクト は星の数ほど存在する。せっかく頑張って仕事をし ているのだから、経営層からもしっかりと評価され る見せ方をしたいところだ。  期待したインプットが出てこないのなら、大きな 遅延を招かないよう、こちらで前提条件をつけて進 める他ない。不足情報の補填は追加調査をこちらで 行うため、追加予算の調整をつけてほしい、あるい は、一旦の想定で数字をシミュレーションさせてほ しい、といった提案をクライアントに対して行い、 合意を取り付けて作業をスタートする必要がある。  もう一つ補足しておくと、特に新規取引先等、ま だ関係性のでき上かっていないクライアントとの仕 事が新たにスタートした時は、まず最初のI週間で クライアントに説明可能な成果をどう実現できるの かに集中すると良い。  関係性のない状態で机上の空論ばかりを説いてい ても、彼らからすれば「いろいろと偉そうに言って るけど、この人たちは僕たちに一体どんなメリット をもたらしてくれるのだろう……」という印象を持 ち続けてしまう。  HOしOが明確になり、誰がいつまでに何をすれば 良いのかがわかりやすくなった、今まで口頭でアバ ウトにやり取りしていた設計仕様がドキュメントに 落ちて明確になった、というような小さなことでも 良い。まず翠 Sヽ’Iぶク一  ノ、 ”ヽ 直   し、言      ことこ  C う。大 きな変化を起こすためにこそ、まずはこの地道な信 頼貯金の積み上げが前提となる。  プロジェクトが完了した時、現場の人々のみなら ず経営層にも納得のいく形で定量的な変化の結果を 示すことがクライアントの高い満足度にもつながる。  どんなに素晴らしい変革のアイデアが出てもそれ を具現化できなかったら絵に描いた餅だ。そのため のロジ設計から部署間の根回しまで、トータルでコ ミットして現実を変えてこそ、コンサルタントの仕 事と言えるのである。  「作業を切り出せ」 −チームにどう動いてもらうか冫・       ((こ常にチームにこう問い続       「どんな支援があればもっと速      しいにににぺいにいas口/島田浩二他訳         『ユニコーン企業のひみっ Spotifyで学ん         こソフトウェアづくりと働き方』   大コンサル時代の幕開け  先日、フラリと新宿のゴールデン街で知人がマス ターをやっている店に入っだ。隣に座っている二人 の若者と少し会話をしたら、二人とも数ヶ月後から コンサルティング会社で働くという。なぜこの時代 にコンサルタントになるのか、という私の質問に二 人は、「直近特にやりたいことがないですし、せっ かくの大コンサル時代なので、コンサル王になろう と思いまして」と冗談混じりに答えた。  記憶を辿った時、コンサルタントという職業が 徐々に社会の中で脚光を浴びていっだのは2010 年代の後半くらいだったように思う。SNSや雑誌 において、「コンサルタントの実態!・」「本当は女性 にあってる? コンサルティングのお仕事」という ようなキヤツチーな見出しの記事や投稿が少しずつ 増えていった。  アクセンチュアージヤパンの社員数がついに1万 大を超えたのは2018年度であり、他のコンサル ティング会社の採用も指数関数的に増加していった。 まさに大コンサル時代の幕開けだったのかもしれな い。  この流れは、各コンサルティング会社が売上の拡 大を目指そうとすれば必然の結果だった。結局のと ころコンサルティング会社がクライアントに提示す る見積りは、社員がクライアントのためにどの程度 の時間を使い働いたのかで金額が大きく変動する 。人月”型商売だ。そのため、会社の売上を上げた いのであれば、コンサルタントを増やすことが最も シンプルで即効性のある施策だ。  しかし当時、市場に存在しているコンサルタント の数は、各社の需要を埋め合わせるほど多くはな かった。各社の人事は100万円程度の年収アップ とタイトルを与え、プライドの高い比較的年齢の若 いジュニアコンサルタントの引き抜きに明け暮れた。 その結果、数ヶ月ごとに転職を重ねる、業界の回遊 魚のような人間も出現した。また、社内の昇進パド ルに敗北したシニア社員が競合他社に自分の息のか かったチームメンバー数名と一緒に鞍替えする、と いったケースも発生した。この流れは現在も続いて おり、実際2022年にはデロイトトーマツコンサ ルティング社とEY社の2社間で社員の引き抜きに 関する訴訟が起こっている。  新卒採用の目標人数も年々増えていったし、コン サルティング業界全体の拡張に商機を見出した人材 斡旋の会社は、異業種からの未経験者をコンサル ティング会社に多く送り込むようになっていった。  24時間寝ないで働く、という旧態依然とした激務 の業界というイメージでは採用の目標件数に到達す ることはできないため、業界全体で「働きがいのあ るホワイトな職場」であるというイメージを採用市 場に対して発信するようになっていった。  そんな流れを私自身はやや冷めた目で見ていた。 自分たちはクライアントのオフィスで昼食も取れず に文字通り24時間寝ずに働いているにもかかわらず、 女性向けのファッション誌では小綺麗な服をまとい 本社オフィスでコーヒー片手になにやら談笑するコ ンサルタントのイメージが掲載されているのだから、 違和感を感じなかったと言ったら嘘になる。  そのような実態とかけ離れたイメージによって志 望し、入社してきた新たな層を同僚として受け入れ るのは現場のコンサルタントなのだ。  現代のコンサルティング会社では、社員一人ひと りの勤怠状況をシステム的・制度的に厳密に管理す るように少しずつなってはきているが、当時はまだ 働き方改革という言葉だけが先行して、実態が追い ついていなかった。また、クライアントからすれば コンサルティング会社が働き方改革をしていようが していまいが、求めるものは変わらない。それまで は翌朝までに出てきたものが、2日後に提出される ようになれば、単なるサービスレベルの低下にしか とられない。クライアントからクレームを直接受け るのは現場にいるコンサルタントなのだ。だから、 表向きに禁止されているサービス残業は、当たり前 のように行われていた。  その一方で、新たに入ってきた新卒・中途社員た ちは自分たちのやりたい仕事だけを受け持ち、定時 になれば仕事が終わっていなくてもパソコンを閉じ て家に帰っていく者が多く、文化のギャップを強く 感じた。会社としても働き方改革の旗を表向きには 掲げている以上、マネージャーも期限に対して強く 要求するような発言は避けるようになった。加えて、 コンサルタントとしての職務経験があるわけではな い彼らの仕事の品質は、生え抜き社員だちから見れ ばお世辞にも高いものとはいえなかった。  結局、はみ出した仕事をフォローしていたのはマ ネージャーと古参のスタツフたちだった。定時後に 古参のスタツフたちがサービス残業で新しい同僚た ちが作った資料を夜な夜な直すということが常態化 していた。  会社は成長路線を詛い、増やした人数分の新たな 仕事を受注する。しかし、実際にその仕事を遂行す るのは一部の古参の生え抜き社員だちという非常に 歪な過渡期の時代たった。  少しずつチームを任されるようになった私と同世 代のコンサルタントたちは、自分だちとまったく異 なるバックグラウンドやモチベーションを持った新 しい世代のコンサルタントに対して、どのように仕 事を任せるべきなのか日々悩んでいた。   パワー型クライアントとの戦い  働き方改革の潮流の中、選抜された狂戦上(パー サー力士のみが生き残るコンサルティング業界から、 様々な属性の社員が働くようになった時代に、私か 対峙することとなったあるクライアントは、最凶の パワハラ型クライアントであった。  それまで私か出会ってきたクライアントは幸いに して皆、物腰が柔らかく丁寧なコミュニケーション をとってくれる紳上的な振る舞いの企業が多かった のであるが、新たに担当することとなったクライア ントは明らかにそれまでと毛色が違った。  恫喝とも言えるようなフィードバックが毎日のよ うに発生した。先輩社員の中には10センチ以上ある キングファイルを投げつけられたり、不備のあった 資料を床の上で手直しさせられた、という人もいた。 煌びやかなコンサルタントとしてのキャリアに憧れ て入社してきた社員は次々と倒れていった。I週間 ごとにチームのメンバーが脱落していくため、自衛 隊出身者であったり、物理的に戦闘用に鍛え上げら れた肉体を持つ特殊部隊出身者であったりと、戦国 武将さながらのコンサルタントたちがクライアント の前に立つ役割を担うことになり、異様な空気が職 場を満たした。  そんな特殊な環境下でスイッチが入ったのか、長 時間労働と深夜の飲酒で脂肪を蓄えつつあった私は、 ジムに通いはじめた。パワー型クライアントと渡り 合うにあたって、如何なる文脈においても付け入る 隙がないよう、精神のみならず肉体の鍛錬の必要性 も感じたからだ。  会社の福利厚生により入会金が無料となる道玄坂 上のジムには、同じプロジェクトに所属する役員や 先輩社員が約束したわけでもないのに集うことと なった。平日未明の3時まで働いた朝、7時からジ ムで肉体を鍛え、汗を流す。もはやどこに向かって いるのかわからない武闘派集団プロジェクトになり つつあった。  皆があまりにも延々と仕事をしているため、新入 社員が配属されていることに誰もまる1日気づかず、 帰宅して良いのかどうかの確認を誰にすべきかわか らないまま、新入社員が24時同席に座り続けると いった異常事態が発生したりもしていた。  平成の時代にあってパワー型クライアントに遭遇 することは業界内でも珍しいことだったが、連日の 深夜労働によって脳が麻痺していたのか、当時はそ れが普通のことと錯覚していたのだ。今になって思 えば、たとえクライアントであっても恫喝的ふるま いを看過してはならず、会社として正式にクレーム を入れる等のまともな対応をしてもよかったはずだ が、良くも悪くも負けず嫌いな人間が多い武闘派の メンバーは、剣が降っても槍が降っても立ち上がり、 プロジェクトを前に進めた。  我々のみならず関係会社の社員たちもまたストレ ス耐性が高い人間が集まっていた。  ある日、進捗報告の定例会で、私の隣に座ってい た前野という関係会社のプロジェクトマネージャー が、クライアントの沖縄支店の重役からクレームが あったことをクライアントの本社社員に伝えた。激 昂したクライアントは「なぜ今お前はここにいるん だり 今すぐ羽田にいけ川」と前野氏を恫喝した。  前野氏は会議室を追い出され、午後の便で沖縄へ 向かうことになった。やはり立場上、現場のトラブ ル対応のために大変な思いをすることもあるのだ な……と同情していたのであるが、翌週、前野氏は こんがりと日焼けをして東京に戻ってきたのである。 トラブル対応の出張であっても、隙間時間を見つけ 海を楽しんでくるくらいのメンタリティでなければ、 プロジェクトマネージャーは務まらないのだという 学びを得た瞬間であった。   新卒の部下との出会い  私か片山というチームメンバーと一緒に働くよう になっだのはその頃たった。私の世代もコンサルタ ントとしてはかなり若いジ子不レーションではあっ だのだが、新卒で入社した彼女は、刀一歳であった。  コンサルティング会社に勤務する女性は、クライ アント先の部長職の男性たちに外見で舐められるこ とがないよう、目元のメイクを強くしていたり、髪 型や服装もパリッと気を張った隙のないスタイルの 人が多い。しかし大学を卒業したばかりの片山は、 当時あまりにもプロとしての迫力に欠けていた。  恫喝が日常的に飛び交うような、高いコミュニ ケーションコストを支払わなければならないクライ アントの下で仕事をする際、数ヶ月前まで大学生で あった片山を部下として迎え入れることは私にとっ ても大きなプレッシャーだった。彼女一人で私の仕 事の一部をそのまま行うことはできなかったが、一 方で、私自身の時間にも限界があり、何かしらの作 業を切り出して分業する必要があることは明白たっ た。実際、片山への指示は驚くほどすべてうまくい かなかった。  資料作成をお願いしても、期待通りのものが期限 内に提出されたことはなかった。関係会社に対して メールを送るようにお願いしたものは、すべて関係 会社から意図がわからないというクレームとなり余 計に追加の作業が必要になった。結果として、二人 がかりで遅延のリカバリーに追われることとなった ため、私自身の労働時間は減るどころかむしろ増え てしまうばかりだった。  彼女の名誉を守るために書くならば、これらの遅 延や手戻りは新人の育成方法を理解していない私自 身のスーパーバイザーとしての未熟さに起因する。 以降でその具体的な反省点を述べていきたい。   切り出す作業の見極め方  コンサルタントまでキャリアを進めた人であれば、 既に自身は相当なスピードと品質でアウトプットが 出せるようになっているだろうが、「チームのス タッフにどう自分と同じように動いてもらうの か?」は次の大きなチャレンジになる。  自分自身も作業に追われる中、誰かに何かを依頼 し、納期と品質をコントロールするのは非常に高度 なスキルだ。マネージャーになってからもこれを上 手く捌ける人は少ない。しかし、今後キャリアレベ ルを上げ、もっと多くの守備範囲を担当するように なった時、部下に自分が考えているものを作っても らうことがいつまで経ってもできなければ、時間が 足りなくなり、倒れてしまうだろう。  具体的には、まず部下にどの作業を切り出しお願 いするのか、細心の注意を払いたい。 プジクトの進行いてI     lv   °、rr’‘p I4! Iア王要機能関す 計であったり、クライアントの経営層からの直接の オーダーへの対応であったり、その作業の遅延や品 質上の問題がそのままチームや会社の炎上に直結す る、という類の仕事については、自分自身で頭と手 を動かし、作業しよう。  部下をチームに入れるのは、自分がより重要な仕 事に集中できるようにするためであって、楽をする ためではない。  一方で作業全体を見た時、ある程度時間に余裕が あったり、クライアントの期待値がそこまで高くな い作業も複数存在する。まずはそれらの作業を部下 に切り出し、どの程度の時間と自分の関与の度合い で、どんなアウトプットが上かってくるのかを試験 的に見てみると良いだろう。それによって、チーム 全体の生産性を評価できる。  私の失敗例から説明するならば、当時何を片山に 切り出し、何を切り出すべきでないかの切り分けが 致命的に下手たった。また、仕事を振った時点で、 その作業が満足のゆく仕上がりでなかったとしても、 それは彼女の責任だという感覚を持ってしまってい た。  部下の作業不備の責任は上司が背負うのが鉄則な のにもかかわらず、私は絶対にミスが許されない仕 事も、クレームのリスクが高い仕事も、まずはやら せてみて鍛える、という強引な作業依頼を片山にし てしまっていたのだ。  そんなどうしようもないダメ上司に倒れることな くプロジェクトの最後まで付き添ってくれた彼女に は、今となっては感謝の言葉しかない。彼女は現在、 コンサルティング会社で立派にマネージャー職をこ なしている。   自分でやろうと思えばできる仕事をお   願いする  部下への作業依頼の鉄則として、「自分でやろう と思えばできること」でなければ部下に投げてはい けない。通常、作業の指示は仕事のインプットとア ウトプット、そしてインプットからアウトフットへ の変換のプロセスを手順として示してはじめて成立 する。  自分にプロセスと完成形のイメージがないと、イ ンプットかアウトプット、あるいはその中間手順に ついて、部下に考えさせることになる。既に習熟し た関係性のある上司と部下であれば大きな問題が生 じないこともあるが、部下が持ってきたアウトプッ トが自分の想定と大きく異なる事態を招くことも多 い。  部下である人間が、具体的な作業の手順とアウト プットのイメージを持てるようになるまで、資料の アウトライン・構成、各スライドのメッセージ、各 スライドのボディの図のイメージまではホワイト ボードで手書きしながら一緒に議論すると良いだろ う。昨今はリモート会議が増えているため、私の場 合は自分の画面を共有しながら、上記の要素は一緒 に作り、このように埋めていってほしい、という形 で作業イメージを伝えるようにしている。  せいぜい1時間くらいで必要な情報は伝えること ができるし、結果としてこの1時間が壬戻りした場 合の2時間を節約することになる。  指示をする際には、すべてこうしろああしろ、と 言うのではなく、どうすれば良いと思うか? どう 書いたらわかりやすいと思うか?等、圜阯‘一{限に回隊          ゜      ”  ゝ  こと が重要だ。  アナリストは未来のコンサルタントだ。ただの作 業員としてではなく、自分で頭を使い、工夫させる 余地を残すよう留意しよう。  作業の進行管理に関して言うと、特に経験の浅い 新入社員の部下に作業を依頼した後は3時間以上放 置してはいけない。誰もがみな経験することである が、作業指示を受け取った時はできる気がしても、 実際に手を動かしてみるとうまくいかないことは 往々にして発生する。3時間以上その作業について 特段の連絡がない場合、おそらくは思考回路が ショート寸前になっている。  作業状況を確認し、どこで詰まっているのかを議 論し、作業工程の軌道修正をする必要がある。管理 する側も負担に感じるかもしれないが、最初の1ヶ 月ほどは細やかに進行管理を行うことで、部下自身 がどのような状態の時にエスカレーションを行うべ きかの感覚を身につけるため、手間は次第に減って いく。  大きな作業を任せる場合は、まず一部の作業をト ライアル的に実施してもらい、どの程度の品質にな るのかをチェックする。最初からまとめて大量の作 業を依頼して想定外のことが起こると、大きな壬戻 りが発生するからだ。  また、  X    、   lv ` をど ように日 す _■ y li」l ^   目 、 順】r歐閃iEiことも重要だ。  ある程度の期間一緒に働く部下には、なるべく自 分自身の仕事の。型”を多く覚えてもらい、戦力と なってもらおう。細かい作業の指示をせずとも、自 分自身でできることを少しずつ増やしてもらうこと で、長期で見ると自分自身の作業を大幅に減らすこ とができる。  例えばデータ集計作業を依頼する場合であれば、 どの数値とどの数値が一致している必要がある、と いった点であったり、おそらくはこのあたりの数値 に落ち着くはずだ、という仮説を伝えておくことで、 部下自身が、自分の作業結果に批判的な視点を持ち、 セルフチェックを行うクセが身についていく。  スライド等のドキュメンテーション作業について も、「最後に一度、最初からラストまで音読してみ よう」と事前に伝えておくと、資料の中での矛盾や、 瑣末な誤字脱字を事前に潰しておくことができるよ うになる。   社外の人間をチームに入れる場合の注   意点  チームを持つ、ということは必ずしも自分よりも 年下の新卒社員と働くということではない。即戦力 として、サブコントラクターと呼ばれる業務委託の フリーランスのコンサルタントをチームメイトとし て迎え入れることもある。  同じチームメンバーといえど、社内の人間に対す る依頼の仕方と社外の人間に対する依頼の仕方は雇 用形態が異なるため、チームリーダーはその点を踏 まえたコミュニケーションを行うことが求められる。  どのような契約で協力会社をチームに迎え入れて いるのか、そしてそれによってどのような監督責任 を会社が負うことになるのか、という点は、コンプ ライアンスに関わる重要事項になるため、必ず理解 しておこう。  具体的には準委任契約と派遣契約がどのように違 うのか、自分でしっかりと理解することが重要だ。 また、クライアントによっては再委託を禁止してい る場合もあるため、業務委託の協力会社の参加を検 討する段階で、提案書や契約書に再委託に関する制 約事項がなかったかどうかを確かめ、必要に応じて 法務部に確認をとるべきである。  これらの確認を怠ると、最悪のケースとして、コ ンプライアンス違反となり社内のみならずクライア ントに迷惑をかける結果にもなり得るため、必ず勉 強しておこう。このような細やかなバックオフィス (経理や総務などの事務部門)に関係する事務作業はプロ ジェクトの主流のタスクではないため、誰も対応し ないまま放置されてしまうことが往々にしてある。  スタッフ時代にほぼすべてのタイプのミスを経験 した私は、業務委託の協力会社の管理においても重 大なミスをおかしている。これらの知識は管理職に なるまでは研修として会社から教わるものではな かったのだが、人を自分のチームに雇い入れること への自覚があまりにも欠如していたと反省している。 協力会社の方だちとの契約に関しては社内の営業担 当者に任せきりだったために、ご法度である発注前 案件着手(正式に両者捺印の契約を取り交わす前に業務委託 の作業に着手すること)となるところだったのだ。  法務部からの指摘でかろうじてコンプライアンス 違反を回避することはできたが、せっかく働く準備 を進めてくれていた協力会社の方たちの貴重な時間 を契約手続きが完了するまでの期間、無駄にせざる を得なくなってしまった。  お願いする社外の人がフリーランスであれ業務委 託の協力会社であれ、企業間の契約関係は現場が思 うよりはるかに多くのリードタイムを要することを 念頭に置き、業務開始の少なくともIヶ月前を目処 に、発注・契約手続きの準備などの段取りをしてお くことが重要だ。  業務委託の協力会社へ作業の依頼を行う際は、社 内以上に気を遣ってインプット、アウトプットの形 式、作業手順、期日を明確に示す必要がある。当然 ながら依頼は、発注した内容の範囲内で行われる必 要があるため、契約内容はしっかり読み込んでおき たい。  最初のうちは、依頼を出した後に1日寝かせて進 捗を確認するのではなく、3時間くらい経過した夕 イミングで作業が想定通りに進んでいるか、予定外 のことが発生していないかを確認する。うまくいっ ていない場合は指示の出し方が悪かったと思うべき であり、作業者のせいにしてはいけない。依頼作業 のアウトプットはすべて自分が責任を負う覚悟を持  大切なことは、 I 。。丶1   とり。、、     ゛―   ヽI ’        りt`ことだ。 そのような良好な関係性を作ることで、徐々にメン バーそれぞれが自発的に仕事をできるようになり、 すべて細かく指示を出さなくとも、チーム全体で有 機的に動けるようになっていく。こうなれば、自分 自身の多くの作業時間を短縮できるし、チームとし てのパフォーマンスが大きく上がる。   変化を生めるチームー生めないチーム  マシュマローチヤレンジというゲームをご存知だ ろうか。限られた量の乾燥パスタ、テープ、ひも、 マシュマロ、はさみを使い制限時間内にいかに高い 塔(タワ士を築き、いかに高い場所にマシュマロを 置くことができるかをチームで競うゲームだ。 YouTubeで「マシュマローチヤレンジ TED」 と検索すると、トムーウージェック氏がこのゲーム に関する研究の結果を説明する動画がヒットすると 思うので、知らなかったという人はぜひ視聴してみ てほしい。  この研究では建築家・弁護上・CEO・ビジネス スクールの学生・幼稚園児等の共通した属性を持つ チームがマシュマローチヤレンジに挑戦した結果を 考察している。興味深いことに、このゲームで最も 悪い結果(高い塔の構築に失敗した)を出したチームは ビジネススクールの学生であり、一方で高い塔を構 築することに成功したのは幼稚園に通う子どもたち で構成されたチームであったという。  この有名なプレゼンテーションでは、プロトタイ プと細かい期間における幾度かの改善の重要性が示 唆されている。  皮肉なことに、ビジネススクールの学生たちは制 限時間のほとんどを塔の。正しい設計”に費やして しまった。しかし多くのプロジェクトがそうである ように、実際に設計の通りにやりはじめるとうまく いかない。行き詰まる度に、設計のやり直しをして いると、それだけで制限時間を使い切ってしまうの だ。  幼稚園の子どもたちのアプローチは正反対であっ た。設計に時間は使わず、とにかく無計画に塔を建 てはじめる。崩れたらその理由を考え、様々な手段 で補強し、さらに高度を伸ばしていく。その繰り返 しによってビジネススクールの学生が作る塔よりも はるかに高い塔を構築することに成功したのだ。  これは実際のプロジェクト運営においても非常に よく当てはまる話だ。  コンサルタントのプロジェクトは、2〜3ヶ月の 期間で区切られることが多い。期間内のIヶ月を 「計画」や「設計」にまるまる費やして、綺麗なス ケジュールと設計書ができ上がったとしても、それ が本当に実現するものであるのかどうかは作りはじ めてからでないとわからない。満を持して準備して も、着手した途端に様々な考慮漏れやトラブルが発 生し、スケジュールは崩壊し、リスケの相談をクラ イアントにする頃には既に2ヶ月が経過しており、 もはやプロジェクトの完遂が難しいという例は枚挙 にいとまがない。  私は設計や計画自体の意味を否定しているわけで はない。大企業においてプロジェクトを実行するた めの予算を獲得するには、ある程度綿密な計画と設 計が必要だ。しかし世の中には、実現性に乏しい絵 空事のような提案があまりに縊れている。クライア ントから「本当にこれでできますか?」と聞かれた 際、「できると思います」と自信を持って言うだけ の根拠をつくることがプロとしての責任のはずだ。  そのために私たちは高いマシュマロの塔を作り上 げた幼稚園の子どもだちから学ぶことがある。躙鬩 と  を          ジ クド U日を を I  一つの機能の開発に、実際に今のチームはどの程 度の時間が必要なのか。要になる技術は予定してい た通りに動くのか。また、クライアントの承認を正 式に得るためには、実際にはどの程度の時間を要す るのか。そのような計画の大前提となっているいわ ば肝の部分について、実際に小規模に検証をしてお き、その妥当性を評価しておくことが「変革」をリ アルに実現させるチームの秘訣だ。   失敗を美談にしない  人間の頭の中は非常に便利なもので、強烈な失敗 の体験であっても時間が過ぎれば「あの体験は、あ れはあれでよかったのかもなあ」と綺麗な思い出と して消化できるようになっている。だが、チームの リーダーが失敗を美談にし続けている限り、チーム が成長することはない。  2週間にI回は定期的にチーム全体で振り返り会 を行おう。特別な準備は必要なく、当初予定してい た仕事は客観的に見て進んでいるのか遅れているの か、その理由はなんなのか、どんな失敗があったの か、お互いにどういうサポートがあればもっと良い 成果が出せたのかをフェアに話し合う場にすると良 い。  この時、特定メンバーの仕事の成果を特別に褒め 上げたり吊し上げたりするのは、絶対にNGだ。 チームが一つの人格として、自分たちの成果を振り 返り、失敗から学び、次の2週間をどう過ごすのか をしっかりと話し合おう。  自分自身のジュニアコンサルタント時代を改めて 振り返ると、非常に反省点が多い期間であった。プ ロジェクト全体への目配りの欠如による進行の失敗、 チームマネジメントの未熟さの露呈等、多くの挫折 があった。  これらの失敗の根本には、当時の私はまだまだ個 人としての成長や成果ばかりに意識をとられがちで、 主に「自分は何をなしたのか」「自分はどう報告す るのか」「自分はどう成長できるか」を考えていた ことがあったように思う。  管理職であるマネージャーになることを見据えた ジュニアコンサルタントである期間は、少しずつで も、チームが、プロジェクト全体が適切に機能して いるのか、この仕事は本当にクライアントに対して 望ましい変化を起こすものか、もっと言えば社会の 中で有益な意味を持つものになっているのか、とい う大局的な視点をつちかってゆく必要があるのであ る。 第VS言 シニアコンサルタント・ マネージャー編 ミッションは勝つこと 第 章  「真剣にやってその程度 なら降格しろ」 −マネージャーの絶対条件       「要するに三、四〇〇〇年前か      ら戦いの本質というものは変化      していない。      戦場に着くまでは補給が、着い        てからは指揮官の質が、勝敗を        左右する」        −田中芳樹『銀河英雄伝説I 黎明篇』   美しく燃えるジョブ  本書の読者の多くは、コンサルティング業界のス タッフか業界志望者だろうか。もしそうなら、少し 目を閉じて、将来、自分自身はどんなマネージャー になりたいのかを想像してみてほしい。顧客と対話 し、予算を作り、ビジョンを掲げ、スケジュールを 引き、クライアントの課題を解決する自分自身を。 ずっと追いかけてきたマネージャーの姿にいつか自 分が追い着いた時、自分のプロジェクトをどのよう にしたいだろうか?  私はマネージャーになるまでに、あまりにも多く の倒れた同僚を見てきた。その中には先輩も同期も、 自分自身の部下もいた。もうこれ以上、仕事で苦し む人を出したくない。私はどんなに大変な仕事で あっても、誰も倒れることのないプロジェクトを作 りたいと思っていた。関わる人全員が笑顔で終われ る仕事を作り上げることが、理想のマネージャーで あると考えていた。  だが、マネージャーになった私は、自分の理想が いかに甘いものであったかを早々に思い知らされる ことになった。  休暇から仕事に戻った私のもとにある日、  「お前は赤穂浪上か?」  というメールが突然届いた。送信元はジュニアコ ンサルタント時代にお世話になったチャゲさんとい うディレクターであった。オールバックに鋭い眼光、 肩で風を切って歩くその姿は正しくゲーム『龍が如 く』の桐生一馬その人であり、特に若手スタッフか らは近づき難いシニアマネージャーとして恐れられ ていた。かつて彼に経費精算の承認をもらおうとし たスタッフはどのタイミングでサインをもらうべき なのかがわからず、彼がトイレから出てくる瞬間を 待ち構えて、涙目でサインを求めたほどである。  チャゲさんのアサインの仕方は独特で、ある同僚 は「お前は風に乗る凧だ。風の流れる方に流れろ」 と言われてアサインされたという。意味がわかるよ うなわからないような、まるで新撰組の隊長が異世 界転生で現代のコンサルティング会社に就職してし まったようなタイプの人なのだ。  少しコミュニケーションの仕方が独特だったが、 その強力なりIダーシップと仁義の厚さに惹かれ、 周囲には彼を慕う部下が集っていた。私もその一人 たった。  所属しているプロジェクトの繁忙期を越えたタイ ミングだった私は、チャゲさんからのメールに「全 力で取り組みます」と返信した。マネージャーへの 昇進が決まっていた私は、この新しい仕事でやっと 自分のチームを組閣できるとやる気に燃えていた。  私のミッションはクライアントのもとで新たに立 ち上がる部署の業務設計であった。法律の改正に伴 い、新規部署の仕事の全量を定義し、手順を定める という、それ自体は特段難しい仕事ではないはずで あったが、難しくないはずの仕事をこれ以上ないと いうくらい炎上案件にしてしまったのだ。  プロジェクトがはじまり2ヶ月が経過した頃から 少しずつ、歯車が狂いはじめた。まずこちらからの 提案がまったくクライアントに剌さらない。紙に書 いた議論したいポイントではなく、誤字脱字や体裁 の揺れといった形式面の指摘を受け続け、本題の議 論へ移ることができないままスケジュールが遅延し た。マネージャーになり新しく受け持つことになっ た事務作業に時間を割かれ、新たに大っだコンサル ティング業界未経験の同僚たちの作る資料について 自分の目でその品質を細かくチェックすることがで きなくなっていた。  遅延を埋めるために大を追加するが、メンバーが 次々とプロジェクトから脱落し、人事からの説明を 求められて余計に自分の作業時間が作れなくなって いった。  追加した分の人の予算がプロジェクト予算の想定 を大きく超え、その対処も遅れ、チャゲさんを含む 上層部に対しての説明がまったく追いつかなくなっ ていた。また、協力会社との契約更新に必要となる 手続きが漏れており、法務から説明責任を求められ、 これが作業時間をさらに圧迫した。  内部の手続きに忙殺されるために、既に不満を抱 えている顧客へのカバーが不十分になり、更なるク レームを受け、指摘は雪だるま式に増えていった。 膨れ上がる指摘にチームメンバーの上気はどんどん 低下し、さらに脱落者が増え、そして残ってくれた メンバーの残業時間の超過で社内の説明が必要にな り……と、負のスパイラルから抜け出せなくなって しまった。  そんな混沌の渦中にいる私に対して、周囲の目は 冷ややかたった。当時の直属の上司は「誰の味方を するのか選べ」「櫓を立てないからそうなる」とい う言葉をくれたが、私か陥った状況を抜本的に立て 直すべく何かアクションをとる、ということはしな かった。超高速のまま墜落していく航空機を操縦し ているが、着陸することもできず、とにかく残され たわずかな燃料を燃やしながら飛び続けるだけで、 かろうじて自我を保っていた。  ある日ディレクターの藤木さんから「お前はふざ けてこの状況を招いているのか、真剣にやってこう なっているのかどっちだ?」と問われた。当然ふざ けているつもりはないと答えたら「では早く人事と 相談してデモーション(降格)しろ」と言われた。  返す言葉はなかった。「考えておきます」と言っ て端末を閉じ、帰宅した。  帰宅する途中、かつてヌタさんと仕事をしている 時に一緒に働いていた先輩と偶然オフィスの入り囗 で会い、私の顔色を見て何かを察したのか飲みに連 れていってくれた。  私は藤木さんから言われた言葉を振り返りながら、 先輩に「自分にはマネージャーは無理だったんだと 思うんです」と話した。先輩は「それはお前が決め ることではないし、お前にマネージャーができると 判断した人たちの期待を裏切ることは俺が許さな い」と言った。  自分がどうすれば良いのか誰か教えてほしかった が、誰も教えてくれなかった。当たり前である。マ ネージャーになる人間は当然、学んだ上でマネー ジャーになる。だから年収が高いのだ。そんなこと もわからずに、ただ役職につけば、それ相応の力が 備わると当時の私は勘違いしていたのである。私は 頑丈な社員ではあったが、マネージャーとしての能 力はなかったのだ。  意を決してチャゲさんに状況を全部包み隠さず伝 え、先輩社員にすべての権限を移譲した。どこまで も惨めだった。  私は経緯を知る人間として、その仕事に残り、サ ポートに徹した。気がつけば1年が過ぎようとして いた。その年の人事評価は最低ランクだった。比較 的会社の景気は良く、まわりの人間は高い水準の ボーナスをもらっていることが表情から見てとれた。 最低評価の私にはボーナスぼっかず、一体自分はク ライアント、会社、チームの何を守れたのかと苦悶 した。会社を辞めようとすら思った。  その頃の私に「会社内で環境を変えてみてはどう か?」と第三の道を示してくれたのは、木地さんと いう別の部署にいる女性のシニアマネージャーたっ た。  木地さんとは社内のマネージャー研修で知り合っ て以降、何かと研修のクラスが重なることが多く、 とある懇親会で実は会社を辞めようと思っていると いうことを打ち明けた際、彼女から別のオプション を提案されたのだ。  彼女がいるのはソフトウェアプラットフォームや 通信事業の会社をクライアントとし、事業改革を提 案することをミッションとした花形の部署だった。 到底自分が異動して活躍できるイメージは持てな かったのだが、どうせ辞めるなら退職前に環境を変 えてみるのも悪い考えではないと思い、その提案を 受けることにした。異動は思っていたよりもスムー ズに話が進み、翌年度の4月から新しい部署で働く ことが決まった。  異動の内定を所属プロジェクトの周囲に言えずに いた。なんと言えば良いのかわからなかった。自分 が一度はマネージャーになれだのはどんな状況でも 逃げなかったI点にあったのに、その最後のプライ ドさえも捨てようとしていたのだから。  そんなある日、午後10時頃オフィスを出ようとし た時に上司から電話があり、築地の寿司屋に呼び出 された。言ってみると、上司とチャゲさん、そして 藤木さんがそこにいた。  着席するなり、チャゲさんは「辞めるのか」と私 に聞いた。もはや誤魔化しようもなかった。  「辞めます。異動してそこでゼロからやり直そうと 思います」と答えた。  チャゲさんは既にかなり酩酊しているように見え た。呂律はほとんど同っていなかったが、「俺たち は来るものは拒まないし去るものも追わない。けど な、寂しいよな」と言っているように聞こえた。  自分の中で1年間耐えてきたものが縊れ出し、涙 が止まらなくなった。そのようにして私は自分を育 ててくれた部署を逃げ出した。   如何なる手段をもってしても勝利に導  第m部をシニアコンサルダントーマネージャー編 としているのは、シニアコンサルタントは実質的に マネージャーとして振る舞うことが求められ、プロ ジェクトマネジメント面の実績をあげた上で昇進す ることが理想とされるからである。  仮に個人としての仕事の評価は高くとも、マネー ジャーとしての経験値がなく何らかの事情(クローバ ルの景気に左右されたり等)でマネージャーになってし まった場合、年収は上がるが最初の数年は辛酸を舐 めることになる。  私は最初の1年間、地獄を見た。やること為すこ とうまくいかず、上司に怒られ、クライアントの信 頼を失い、部下は倒れた。がむしやらに徹夜で働き、 その上で何も残らなかった。それは私かコンサルタ ントとマネージャーとの差を明確に意識せず、何と なく管理職になってしまったことに原因がある。で はマネージャーにはいったい何か必要であったのだ ろうか?  あえて断言したい。     丶丶     ク   洳‥に` ’゛―} カ に絶附的際条吽だ。  プロジェクトにおける勝利の条件はプロジェクト や顧客の特性にもよるが、概ね以下の点に帰結する。 ・スケジュールの遅延、品質面の瑕疵なく、予算内  でプロジェクトを完遂させること ・継続の案件が獲得できる、または将来性のある関  係性を築けたこと ・チームメンバーのロイヤリティを維持し成長させ、  社内で昇進させること  クライアントは満足、会社は儲かる、部下を昇進 させる。この3点が満たせていれば、勝ちだ。個別 の条件についてはプロジェクト開始の際に案件の責 任者となるディレクターとよく議論すると良いだろ  スタッフは試合の中で求められた役割をやってい れば良いが、マネージャーはそうはいかない。お前 のヘディングに期待していると言われて試合に出た 上で、新卒が上げてくる膝下にも満たない低いクロ スを体でゴールに押し込み得点しなければいけない。 ヘディングできる位置にボールがこなかった等の言 い訳は通用しないのである。さらにピンチとあれば フォワードであってもディフェンスに回ることも、 それが勝ちに必要とあらば自分の判断で動かなくて はならない。負けたら終わりだ。  よくチームのみんなと一緒に考え、寄り添い合う マネージャーになりたいと言う人がいる。かつての 私もそうだった。しかし会社やクライアントが求め ているのはシンプルにプロジェクトを勝利に導ける マネージャーであり、なにも一緒に負けて、悲しみ を分かち合うマネージャーではない。  マネージャーであるからには、どんな手段を用い ても勝たなければいけない。社内に人がいないなら 外部の業者を自分で連れてくる。ツールがなければ 自分で探すか、作る。手段を択ばないとはそういう ことであり、総力戦なのだ。  例えば、クライアント上層部が出席する会議、そ の失敗がプロジェクト全体の遅延や品質面の課題に 直結する恐れのある会議、ネガティブな見解を持つ クライアントが出席する可能性のある会議等、会議 の失敗が即クレームヘとつながるリスクがある会議 は必ず自分で主導するようにしたい。それらの会議 の準備のために、他の優先度の低い会議を切り捨て る勇気を持つ必要がある。  プロジェクトの主要成果物に関連する会議(会議 の結果次第でプロジェクト令体の物量に人きな影響をケえかね ないもの)や、はじめまして会議(クライアントのキャラ クターが見えない時は最悪を想定して出席していた)等、そ の結果によって大きくプロジェクトの展望が変わる ものについても、自分の目と耳で温度を感じ取り、 制御可能な状態にしたい。   勝敗はプロジェクト開始前に大体決   まつている  炎上しているプロジェクトには、提案書に書かれ ている内容が非常に抽象的であるという共通項があ る。いつまでにどのような成果を出せれば良いのか、 それはどのようなアプローチで実現可能だと考えて いるのか、この2点がまったくと言っていいほど記 載されておらず、おそらくは似たような文脈の他の プロジェクトからコピペして作成した。模造品”提 案が不幸にも受注へとつなかってしまったというも のだ。  このようなプロジェクトはどこに向かって走れば 良いのかをクライアントと合意するところからプロ ジェクトがはじまるため、初速を出すことができな い。ゴール設定が曖昧なまま時間だけが過ぎてしま うために、クライアントとしても「お金は払ってい るはずなのに、なんでまだこのレベルの検討ばかり しているの? 成果はいつ出るの?」というフラス トレーションを徐々に溜め込むことになる。  このような状況に陥らないためにも、提案段階に おいて万全の準備をしておく必要がある。以下、具 体的に見ていこう。  リーダーの役割として、提案段階でそのプロジェ クトを通して実現したいことについて数字で語るこ とから逃げてはいけない。先にも少し触れたように、 定量的な数値目標をきちんと設定する。  なぜなら、たとえ普段やり取りをしている現場の クライアントが感謝してくれていたとしても、クラ イアントの上層部が注目するのはあくまでも数字だ。 製造部門の生産性を半年で○%向上させることに成 功した、調達コストを○%削減した等、コンサル ティング会社に依頼したことによる成果報告はプロ ジェクトの最後に必ず求められる。  プロジェクトの途中で突然、成果の数値を求めら れても対応するのは難しく、これら目標は提案段階 でクライアントとある程度合意をしておき、数値達 成のための作業工程を設計しておくことが望ましい。  契約上どの程度数字にコミットするか、達成責任 を負えるかどうかは、提案段階で社内の上層部やリ スク管理を担当する部署とも綿密に協議をしておく と良いだろう。コンサルティング業務は完成責任ま で負わない準委任契約で受託することが通常である が、どのような契約文言にしておくことがクライア ントと自社にとってベストであるのかを両社の法務 部門を含めてよく協議しておこう。   駟坩繝廁刪  達成目標を定めたら、その目標はどのような手段 をもって実現できるのかの仮説を提案書上に明記し ておく必要がある。その仮説を検証すること自体が 今回のプロジェクトの範囲であり、その仮説が間 違っていた場合、次の仮説、その次の仮説をどこま で同じプロジェクトの中で検証するのかをクライア ントと合意しておく。  事前にこの合意ができていれば、万が一目標を実 現できなかった場合でも、プロジェクトのスコープ としてお約束した役務は行っているという説明責任 は果たすことができ、クライアントも自社も守るこ とができる。  このアプローチや仮説については、プロジェクト 開始前の提案段階でクライアントの上層部を含めて 妥当性を議論しておくことが推奨される。万が一仮 説が誤っていたとしても、クライアントの上層部を 含めて議論した内容であれば、クライアントとして も諦めがつくが、現場だけで検討した仮説だとする と、なぜアプローチが間違ってしまったのか糾弾を 受けるリスクがあるためだ。  少なくともここまでをプロジェクト開始までに完 了しておきたい。   勝利に必要な人材をあらゆる手段で確   保する  コンサルティング会社において、人が潤沢に社内 に余っている状況は皆無に等しい。もちろん閑散期 は存在し、いわゆるアベイラブルリストに普段より 多くの人が並ぶことはあるが、優秀な人間ほどいつ でも引っ張りだこだ。  逆にいうと、 丶丶’』     り`百‘’四凶   ’   。             、     SMSN   たって、まずプロジェクトの領域を、頭を使う(正 解を考える)仕事と手を動かす仕事とに分ける。  前者は社内の上層部に掛け合い、有識者のリソー スを10%程度でも良いのでスポットで借りつつ、短 期決着を目指そう。社内で一番優秀な人間のリソー スを占有することは不可能に近いので、週に1時間、 2時間借りられるだけでも、門外漢の人間だけで検 討を進めるよりはるかに効率的に仕事を進めること ができる。 ある程度プロジェクトの方向性が定まり、具体的 な作業ができるようになっだのであれば、特に物量 が見込まれる作業については社外の業務委託やオフ ショア(海外拠点にいる社員の参画)を含めて検討し、 プロジェクト全体の人件費をコントロールしつつ進 めると良いだろう。  また、コンサルティングファームのマネージャー はいかに社内のバックオフィスの力を引き出すこと ができるかがプロジェクト進行に大きく影響するこ とを知っておこう。  社内のプロジェクトファイナンス担当、法務担当 といった専門家の力を最大限に利用し、プロジェク 卜の財務、法務周りのリスクについてレビューを受 けておくと良い。バックオフィス担当と日頃から細 かくコミュニケーションをとっておくと、緊急の提 案が必要になった場合等に力になってくれる。  また、海外オフィスでは日本オフィスにはない専 門スキルを持ったチームや独自の労働力を提供して いるチームも存在しており、それらの戦力を有効活 用することで、クライアントに対してより質の高い 価値提供を行うことができる。   天下分け目の戦いでは「迫力のある人   間」を  プロジェクトのさなかでは、プロジェクトの成否、 あるいは会社の命運を左右するような天下分け目の 重要な会議が存在する。この会議はかなり重要なも のになるぞ、という嗅覚はマネージャーにとって特 に大切なサバイバル能力の一つになる。  冗談のように聞こえるのであるが、管理職である マネージャーなり、さらに上席の者からの説明がな いとクライアントは納得しないであろう場面で、平 気で部下に説明を丸投げする管理職というのは比較 的存在する。そういう嗅覚の働かないマネージャー はクライアントからも部下からも信頼を得ることは できず、遠くない未来に失職することになる。  決戦とも言える場面は、ある日突然訪れたりもす るので現実は恐ろしい。  例えば、毎月行っているクライアントとの月次報 告会の前日、クライアントの部長から、今回の会議 に、どうやら少し時間のできた社長が様子を見にく る、と言われたような時だ。このような際、クライ アントの部長が仮に「いつも通りで大丈夫ですよ」 と言ってくれたとしても、マネージャーとしては危 機意識を持つ必要がある。  ちょっとしたクライアントの社長の匸一。肖によって、 それまで緻密に積み上げてきたプロジェクトの進行 が大きく変わってしまうこともあり得るし、「そも そも、なんでこんなプロジェクトやってるの?」と いうような問いかけがあれば、継続案件の取得すら 危ぶまれる状況に陥るからだ。  このような場合は、必ず所属部署の上司に即連絡 し、翌日の会議に社内の可能な限り高い役職の人間 −   と同         丶丶 丶I LV ‐・‐‐卩  闖Sぶ丶?』、   すし   うり  。、 か らだ。  クライアントの社長は、百戦錬磨でビジネスの厳 しい戦いを潜り抜けてきた人生経験の豊富な、胆力 のある人間ばかりだ。コンサルタントとして優秀 だったとしても、若手や中堅クラスの社員では人間 的なスケールや凄みはまだまだ乏しい。ここぞとい う場において、人間的な経験値において迫力のある 上席を布陣に加えることは、会社としての懐の深さ を示す上で重要な作戦となる。  上司でも役員でもなんでも活用して、勝負に勝つ ための人的布陣を整えることが軍師たるマネー ジャーの責任だ。  逆にここでクライアントの社長の心を打つ会議が できれば、今後のプロジェクトのみならず、新しい 仕事につながるチャンスともなり得る。翌日の会議 に向けてIヶ月準備してきた内容もあるだろうが、 その内容を一部カットしてでも、社長に対して何を 伝えるべきなのかを社内で討議し、時間の許す限り 準備しよう。   作業に逃げない  マネージャーに必要なことは軍師として勝利のた めの大方針を練ることであり、断じて一つひとつの 資料を作ったり、社内の手続きに忙殺されることで はない。確かにマネージャーしかできない雑務も大 量にあるが、可能な限り派遣社員やバックオフィス をフル活用し、外部化すべきだ。    〜 ゝ       l’― 櫚が洌。’詞l忙しいから頭が動かない、は言い訳にな らない。。忙しくて回らない”マネージャーは自ら の無能さを証明しているようなものだ。  チャゲさんの下で働いていた時、私は完全に忙し さに逃げていた。クライアントとの定例会と社内の 会議だけで定時までのスケジュールはほぼ埋め尽く されていた上に、関係会社との契約調整や部下との コミュニケーション、細かいメールの返信、やる仕 事はいくらでもあった。そしてこんなに忙しいのだ から仕方がない、と本来やるべきことがやれていな い現状について勝手に諦めてしまっていた。管理職 になってもなお、頑張り続けていれば、長時同働い てさえいれば、きっと報われるのだという信仰を捨 て切れなかったのだ。  資料作成もまた脳と手を長時間拘束する沼だ。ど の資料について自分がどの程度時間をかけて作るべ きかにはこれまで以上に気を使い、必要以上に熱中 しないようにしたい。今書こうとしている資料は誰 とどのような用途で使うものなのか、どの程度の時 間を投下することが費用対効果として適切なのかを 冷静に見極めたい。  時間を捻出するため、    ”’廴 一一一卩      l 誠ことも必要だ。  その会議は本当に30分、1時間費やすべきものな のか、しっかり吟味しよう。アジェンダが曖昧で あったり何を求められているのかが不明瞭な会議は 断りを入れ、どうしても出席が必要な会議でも、例 外的な場合を除いて30分以内で終える算段をつけよ  またクライアントとの会議が多すぎる場合、提案 営業に必要以上の時間を費やしてしまっていないか に注意しよう。悲しいことに、予算と発注のそぶり を見せつつ、コンサルタントに提案書を作成させ、 プレゼンテーションに対する質疑から多くの情報を 取得しようとする心無い会社も存在する。  新規営業を行う場合は、何回の会議・プレゼン テーションで決着させるつもりなのかを事前にクラ イアントにも伝え、契約締結までの具体的なスケ ジュールを決めて挑むようにしたい。フリーライト (ただ乗り)されていいほどマネージャーは暇ではな い。  一方で、プロジェクト成功のために絶対に落とせ ない会議については部下に任せず、自分で資料の メッセージを練り、構成し、プレゼンテーションも 自分で行い、自分が論破された場合のバックアップ として上司を招喚しておこう。万が一にも負けては いけない戦いについては、先に述べた通りだ。   勝てるチームのコミュニケーション  大きなプロジェクトを担当することになれば、現 場の状況をすべて自分の目で確認することはできな くなる。しかし、プロジェクトの状況は日々変わっ ている。特に昨日まで順調に行っていたはずのこと が、今日になって暗転していることも日常茶飯事だ。  だからこそ、どんなに忙しい日々であっても、 チームメンバーとは必ず会話をしよう。  私の場合は、毎日決まった時間に15分程度の朝会 を設け、一人ひとりから状況の共有をしてもらう時 間を作っていた。’ヽ    丶     II ll にぶ い ぶ丶       司 い ぶ丶  ヒ hμ囘凶陬舳そうした場で日々適切なコミュニケー ションをはかれれば、メンバーたちは文字通りマ ネージャーの目となり耳となってくれ、質の高い現 場の情報を吸い上げることができる。  また、スタッフが1日迷子になっている状況が発 生すれば、その分の人件費は無駄になってしまうた め、チームの予算を管理する人間として、各スタッ フが問題を抱えていないかを常に確認し、必要に応 じてすぐにケアしよう。  もしも顔色が悪い、表情が暗い、言葉尻に棘があ るなどのネガティブな兆候がある場合、I対Iで会 話する時間を別途作ると良い。当人の主張をまずは 否定することなく受け入れる。と同時に部下の主張 に流されてもいけない。スタッフのやりたいことが 必ずしもクライアントの利益につながるわけではな いからだ。   「上に立つ者は下の者の気持ちは汲んでも顔色   は窺ったらあかん」          爪印。久保帯人『口rm冫Oエ』  これは、プロジェクト全体に対して責任を負う管 理職が心に刻む必要のある言葉だ。  勝てるチームにするためにもメンバーそれぞれの 得意領域を理解し、構成する必要がある。新卒から 生え抜きでコンサルタントをやっている社員は通常 資料の作成が手早く、クライアント上層部との対峙 にも長けている。異業種から中途で入社してきてい る社員は、事業会社の内部にいた人間としての専門 性や鋭い現場感覚を持ち合わせており、現場のクラ イアントとのコミュニケーションを任せると良いか もしれない。  またコミュニケーションは苦手だが、プログラミ ングやデータのモデリングに秀でている人について は、対クライアントや社内の調整業務のすべてを免 除し、中期的なスケジュールの中で集中して一つの 成果を出してもらうのが良いだろう。  そのようにチームの一人ひとりに対して、どのよ うな活躍を期待しているのかを開示し、互いの長所 を認め合える空気を作ることもまたマネージャーの 重要な仕事だ。  「お前つて結局何かでき る奴なんだっけ?」 −自分が進化し続ける重要性      ところで平凡な俺よ      下を向いている暇はあるのか      I古舘春一『ハイキューロ』   新天地での衝撃的なカルチャーギャッ   プ  木地さんの勧めで異動した先の部署は、メガペン チャーやいわゆるプラットフォーム企業と呼ばれる 業界を担当する部署だった。クライアントの中でも 比較的歴史の浅い領域を担うその部署は、私か育っ た部署とは何もかもが違った。それまでは主に官公 庁や行政機関に対してのサービスを主要とする部署 であり、プロジェクトが完了するまでに納品すべき 成果物が明確に定義されていた。また、成果物の内 容のみならず、形式面についても高い品質が求めら れた。  資料に誤字脱字がI文字でもあれば全資料総点検 といったことも珍しくない官公庁業界でスタッフ時 代を過ごした私にとって、新しい環境において求め られる資料は恐ろしくラフに見えた。スライドに誤 字や脱字があったとしてもクライアントから特段の 指摘はなく、これまで多くの時間を費やしていた資 料の体裁を整えるといった作業は優先順位の低いも のとして扱われた。その代わりに、新たなクライア ントたちは議論のスピードを何よりも重視した。  異動して最初のクライアントは、数々の起業家を 輩出してきたことで知られるプラットフォーム企業 だった。環境が変わったとはいえ、異動前の部署で の習慣が体に染み付いている私は、新たに私の下に ついてくれたスタッフが作成する資料に含まれる誤 字脱字をせっせと修正した。しかし、修正作業その ものに意味を見出す人はクライアント側にも社内に もおらず、カルチャーギャップに衝撃を受けた。  新たなクライアントはコンサルティング会社のI 人ひとりに対して、徹底的に「意思」を求めた。あ なたはどう思いますか? あなたのアイデアはなん ですか? これを特に管理職以上には要求した。  私は戸惑った。クライアントから「あなたはどう すれば良いと思いますか」と聞かれた時に、気の利 いた受け答えをすることができなかったのである。 自分の希望で異動したのにもかかわらず、当時の私 はまだ前部署での強烈な失敗体験を引き摺っていた。 失意の巣食った私にとって、自分自身の意思を持つ ということはたまらなく困難に思えた。  私自身が意思を持ったところで、それにどのよう な価値があるのか、と思うと言葉が出てこなかった のだ。   奇才・カワシンとの出会い  新たな部署で私の上司になった男は、転職組のカ ワシンと呼ばれる奇才であった。システムインテグ レーションを生業とする日本企業を退職後、カリ フォルニアのビジネススクールでMBAを取得し日 本へ戻ってきた彼は、これまで私か出会った上司の 中で最も自由であり、強烈な個性を放っていた。  チームの全員に英語学習と読書、そして感想のア ウトプットを強く推奨し、口nkedlnのプロフィール に英語でレジュメを公開させ、自分自身が一体何か でき何かできない人間であるのかの。価値の可視 化”を強く求めた。  カワシンは上司であっても部下であっても、彼の 主義に合わない者に対してはチャットだろうが対面 だろうが強い大阪訛りの口調でとことん糾弾し、そ の多くが問題発言として扱われ役員や人事部からの 呼び出しを受けた。しかし本人はまったく怯むとこ ろがなかった。  カワシンは私に「お前は結局何かできるやつなの か?」という、私自身が逃げ続けた問いを明確に突 きつけた。「お前はすぐに政治をやる。いろんな人 の要望を叶えようとするが、そこにお前の意思がな い。だから周囲に信用されない。お前の下にはチー ムを作ることができない」と私を評価した。  図星たった。彼は私のすべてを否定した。私か得 意とする綺麗な議事録ですら、彼はその価値を認め なかった。俺たちは日本語の美しさを売っているわ けではない。見かけだけが美しくても中身がなけれ ば価値がないと、一刀両断していった。  彼は私に「勉強量が圧倒的に不足している」とも 言った。「通常、世間がコンサルタントに期待する 思考のフレームであったり、議論の運び方であった り、そういったものの型がお前にはない。すべてゼ ロから検討されたもののように見えるから、見る人 を不安にさせる」と。  私か曲がりなりにも身につけ実践してきたはずの 論点思考や仮説思考も、表出の仕方が控えめだった こともあり、彼から見たら全くもって不十分だった のだ。カワシンはこれまで調整屋としての機能に走 りがちで議論の爆心地にいることを避けてきた私に、 コンサルタントとしてゼロからやり直すのか、現状 のままできることに甘んじるのか、その二択を突き つけてきたのである。  私は当時31歳になっていたが、特に強い専門分野 があるわけではない自分を見つめ直す必要に迫られ た。社内外の政治と調整はできる。しかし、戦略コ ンサル的な思考方法に強いわけでもなければ、英語 もできない。テクノロジーに対する理解も浅い。お よそ社会がマネージャーに求めるエリート像からは かけ離れた場所に自分かいることを自覚しなければ ならなかった。  相変わらずボロボロなプライドと生活の中、私は 足掻くことに決めた。既に30歳を過ぎてはいたが、 考えてみれば社会人生活の4分のIが経過したにす ぎず、腐つたまま過ごすには残り30年は長すぎると 感じた。意を決して自分自身の不得手なことを一つ ひとつ潰していくことにした。   自己改造プログラム  かくして私はコンサルタントとして人格矯正する ためのプログラムを実行する。  最初のターゲットは英語たった。10年後も英語に コンプレックスを持つたままコンサルタントでいる のは、こうありたいと考える自己イメージとあまり にもかけ離れていたからだ。英語コンプレックスを 徹底的に克服するため、留学を目標とした勉強を開 始することにした。渋谷の大手留学予備校の門をた たき、TOEFL対策講座を60万円で一括で購入し た。  また、コンサルティングにおける戦略的思考とは 何なのか、テクノロジーとはどういうものなのかを 一から理解し直すために、手当たり次第に書籍を買 い、始業前、クライアント先の近くのスターバック スに入り読み込んだ。世で売れているコンサルティ ング技術に関する本から各分野の先進技術に関する 本まで徹底的に押さえることにした。  英語や読書と並行して、自分自身が周囲からどの ように見られているのかを客観視する訓練をした。 そのため、F{内  丿 闖jヽ。  貝 、’‘ 、 ・‐・・卩    }‐=       /、  咬、時 間を作っていった。それは自分の弱点を明確に言語 化する機会となった。  当時所属していた部署に安木さんというディレク ターがいた。彼は「ないものを求めすぎようとして はいけない。この会社でマネージャーになったとい うことは、既に何かしらの能力があるのは間違いな い。問題は勝てる場所で戦えていないことなんじや ないだろうか」と新しい示唆を与えてくれた。  異動前の挫折経験が必要以上に私の自信を砕き続 けていることに、改めて気づかされた。安木さんの 言う通り、私は何もできないわけではない。ただ、 自分自身ができること・得意とするところの言語化 をサボつて、勝てる場所を見定められていなかった のだ。短所のみならず、長所を捉え直し、私か自信 を持って活躍できる方法を人に伝わる言葉にして いった。   英語学習について  各社で差はあるが、実は外資系コンサルティング 企業でも、英語を使わずとも仕事はできてしまう。 日本にオフィスを構えるグローバルコンサルティン グ会社は当然、日本以外の場所にもオフィスが点在 しており、基本的に現地のクライアントに対しては 現地のコンサルタントがコミュニケーションをとる。 そのため、日本オフィスに所属していれば、最も使 用頻度が高い言語は日本語となる。  また、コンサルティング企業では上流工程から下 流工程まであらゆる種類の仕事が存在しており、そ のすべての職種で慢性的に人不足という状況だ。そ のため、英語が得意な人間であれば英語を使った仕 事をすることになるが、英語を使う必要のない仕事 も大量にある。実際、私も就職してから10年近くは 英語を使う場面がなかったし、カワシンに出会うま では、英語を使えないことについて、同僚や上司か ら特に何かを言われることもなかった。  だが、社内外において流通している情報のほとん どは英語であり、英語を使えるか否かでアクセスで きる情報量に圧倒的な差が出る。加えて、クライア ントが海外の先進事例を知りたがる場合や、プロ ジェクトをクロスボーダー(多国問にまたがり構成する 形式)で進行する場合、英語ができなければ最新の 一次情報に触れることは難しい。  英語コンプレックスの解消にあたって、リーディ ングとリスニングのみが科目となるTOEICの学 習のみでは、ビジネスコミュニケーション上必要と なるスピーキングとライティング能力の向上は期待 できなかったため、海外大学留学の登竜門でもある TOEFLの試験対策に取り組んだ。  大学受験以降たいして英語学習をしてこなかった 自分にとって、その場で聞きとっだ1分間ほどの英 文の内容を正しく理解し、自分の意見を英語として 書き起こすような形式は難易度が高かった。  特にリスニングの力が弱かった私は、毎日2時間、 取りつかれたように課題の英文を反復して聴きとり、 念仏のようにシャドーインク(リスニングしながら発音 する訓練法)を繰り返した。その甲斐あって、1年後 にはある程度の英語については自然と英語のまま理 解できるように脳が慣れてくる感覚があり、1年半 を過ぎる頃にはスピーキング、ライティングカが仕 事での実用段階に達した。  TOEFLの学習は思わぬ副産物を与えてくれた。 大きな収穫は、幅広いトピックに対して、自分自身 のスタンスを明確に喋るのに自然と慣れたことだ。  TOEFL試験は英語圈の大学に非ネイティブの 学生が入学した際に、授業についていけるのかどう かを判断する基準として用いられるため、その試験 では、時事問題、人文科学、自然科学と幅広い範囲 が扱われている。アメリカの近現代史から古代マヤ 文明、政治、社会問題、地質学、天文学に至るまで 様々な題材について英文で触れ、それらについて英 語で表現することが求められるのだ。  結果、どんなトピックに関しても短時間で自分の 意見を論拠と共に提示する力が相当鍛えられたとい える。  当時の私にとって、週末通っていた留学予備校は ある意味、仕事の現実から逃避できる息抜きの場で もあった。予備校には、社会や人生に対して自分な りの問題意識を持った同志が集まっている。ティー ンエイジヤーから50歳近くの経営者まで、多様な属 性を持つ同級生たちが平等に意見交換を行う環境下 で、私はコンサルタントという鎧を外し、裸の魂で コミュニケーションすることができた。  同級生の中には、アメリカでの懇親会などで社長 の自分が英語をうまく話せないと、部下たちに示し がつかない、という理由で予備校に通っている40代 後半の経営者がいたが、そんな学習への貪欲さは強 い刺激になった。  一ま卩 丶qy     !や   丶    。  り     ヽ  !     のだ。   ソリューションーアーキテクトの資格  自己改造プログラム第二の矢は、苦手意識を持っ ているテクノロジー領域をターゲットにした。私大 文系を卒業し、特段プログラミング経験のなかった 私は、エンジニアとして入社した同期のみならず、 理系の研究室で何らかのプログラミング経験を持つ コンサルタントと比較してもテクノロジーに関する 知見が不足していた。  この頃、英語学習を通し、ただ無心で何かを継続 し習慣化することができる、という自分の強みに気 づいた。それを活かし、世界的に売上を伸ばしてい るグラウトソリューションについて集中的に勉強す る時間を作ることに決めた。過去数回、プログラミ ングを独学しようとして挫折した経験はあったが、 テクノロジーを用いて事業をどう成長させるのか? の青写真を作るソリューションーアーキテクトであ れば、自分にもできるのではないかと考えた。  学習は実際に手を動かしながら技術に触れてみる ことと、机上学習の両面を並行して行った。特にA WSや(joogle Cloudといったテクノロジーは、非 技術者にとっては日本語訳の説明を見てもその概念 を理解することは難しい。サービス提供元が配信し ている公式のトレーニングと合わせて、冖−泛∃y等 の動画学習サービスの講座を活用した。こうした手 を動かしながら学ぶ学習を通じて、これまで概念と して知っているだけだった技術の世界が少しずつ理 解できるようになっていった。  加えて、テクノロジーについての理解を客観的に 証明するため、資格試験の勉強を進めた。AWSと (joogle Cloud、そして‘く[icrosoft Azureという世界3 大グラウトサービスについて中級者向けの試験に合 格することができたのは、大きな自信となった。  その後、グラウト技術の延長で興味を持ったセ キュリティ分野についても勉強をはじめた。日本語 では受講に60万円程度かかる専門的な動画学習が、 英語で受講すれば10万円で済むことを知り、こちら を採用した。英語習得とテクノロジー学習という二 つの努力が融合し、自分の新たな強みとなっていっ た。   他者評価という壁を超えて  職場における自分のパフォーマンスはあくまでも チームの中で評価されるものであるため、自分自身 で勝手に評価することはできない。それはIスタッ フであっても管理職であっても同じだ。  自己イメージと他者評価はしばしば乖離する。自 分は不眠不休でこんなにも頑張っている、同僚の ○○よりもパフォーマンスが高い……そういう自尊 心やプライドを全否定するものではないが、客観的 に見ると、しばしば優先順位を間違えていたり、個 人技に走るあまりチームのパフォーマンスには貢献 していなかったり等、問題がある場合も多い。  自分がどのように振る舞うことで、より同僚のた め、クライアントのために貢献できるのかはしっか りと対面でコミュニケーションをとりながら、その 都度必要な軌道修正をしていきたい。  他者評価を知ることは、誰しも怖いことだ。自分 の客観的イメージを突きつけられ、時に傷つくこと もあるだろう。だがこれはプロとして長く仕事を続 ける上で、どこかで乗り越えなければならない壁だ。  マネージャーとして自分のチームを作るためには、 自分自身が周囲にどのように見られる傾向があるか をよく知った上で、チーム全体として頼りがいのあ るチームに見せるためには、どのようなメンバー構 成が必要なのかを考えられるようにならなければな らない。  自分がチームをどうプランテインクしたいのかメ ンバーともよく話し合い、役割の認識を揃えたい。 一人ひとりの個性がチームの中でどう活かされるの か、具体的なイメージを伝えよう。  忙しい時期ほどチーム内でコミュニケーションの 頻度が低くなり、お互いへの不満をくすぶらせなが ら、それをフィードバックする環境もないという状 況に陥りやすい。特に管理職であるマネージャーは、 チームメンバーとは少なくとも2週間に一度は現在 のプロジェクトの状況や、お互いがどうすればもっ と円滑に協力できるのか、カジュアルに語り合い探 り合う場を積極的に作るべきだ。  私はよくチームメンバーに対して、「どうすれば もっと○○さんの役に立てますか? 先週まではこ の点を意識していたのですが、それは○○さんのた めになっていましたか?」といった質問をし、」目倒 l同詼Nal   I     丶  ―`          II・‐‐卩   口、冫ように している。  チーム運営のすべてが行き届いていなくても、同 僚や部下の仕事環境を気遣い、問題点はすぐケアを する姿勢を示すことが、創造的なチーム作りへとつ ながる。   勝てる場所で勝負する  人間である以上、誰にでも強みと弱み、向き不向 きがある。マネージャーにとって大切なことは、自 分の特性を理解して同僚に対して開示し、必要なサ ポートを勝ち取り、欠点を補い合うチームを作るこ とだ。  平たく言うと、自他ともに強みはこれだ!・ とい う「ギャラ」を立てると、自己評価と他者評価の ギャップもかなり埋められて、楽になる。  安木さんから「自分の勝てる場所で勝負をしたほ うが良い」というアドバイスをもらって以降、私は 苦手な仕事については可能な限り断ることを覚えた。 具体的には既にクライアントと深い関係性ができて いる状態−安定的で既にでき上がったルールに 沿ったプロジェクトについては私の得意分野ではな かった。その点を明確に周囲に開示し、もしそう いった仕事を請け負うのであれば、自分とは異なる パーソナリティの右腕が必要であることを主張した。  代わりに、既存のリレーションのない顧客のとこ ろに飛び込み、プロジェクトを新規に立ち上げて軌 道に乗せるような仕事は、積極的に引き受けた。あ まりに現場が混沌とし、クライアント自身がどう進 めていいかわからないプロジェクトの難局を解決し たり、短期勝負のプロジェクトでも成果を出し、信 頼を得ることができるようになっていった。 ドラゴンクエストやファイナルファンタジーにお いても、パーティの全員の属性をバランスよく分け るように、全員が物理攻撃の得意な戦士属性である 必要はない。チームの目的は、互いの欠点を補って 勝つことだ。マネージャーでも自分の強みが戦士や 踊子等 ― − どういう仕事、どういう場所であれば他の人より 高いパフォーマンスを発揮できるのかを率直に伝え る。何かできて何かできないのかを周囲に開示する ことで、自然と勝てる場所へと自分を誘導するのだ。  「最高のチームでした」 −周囲を動かすビジョンを持つ       「勝利の信念は必ず打ち立てね       ばなりません。       これは軍の義務と尊厳の基盤そ       I劉慈欣/大森望他訳『三体H 黒暗森   グローバル案件における難局の突破  人は必ずしも費やした労力に対して一次関数的に 成長するものではない。  マネージャーとして敗軍の将たった私は、ある きっかけから徐々に自信を取り戻すことができるよ うになった。  ある日私は、社内で上司のタニさんから某企業の 新規事業の立ち上げプロジェクトに参加してくれな いか、と打診された。既に両社の役員間の強いリ レーションによってプロジェクトの開始が決定して いるにもかかわらず、それを統率するマネージャー がいない、ということだった。  クライアントのプロジェクトリーダーは外国人 たった。海外でいくつもの事業を成功に導き、クラ イアントの社長に囗説かれ、クライアントの新規事 業の責任者となったという。当然、報告資料は英語 であるし、業界のグローバル水準を知り尽くしてい るクライアントに対して提案する内容はグローバル の先端事例である必要がある。我々は会社の海外オ フィズの有識者との共同作業やコミュニケーション に通用する英語力、そしてクライアントのグループ 全体の命運をかけた新規事業というプレッシャーに 耐え得る精神力とスキルを兼ね備えた精鋭が、今す ぐに数十人単位で必要な状況であった。  しかし都合よく社内にそのような人材が数十人も 余っていることはない。精鋭とされる人間は常にど のプロジェクトにおいても引っ張りだこで、新たな 仕事を引き受ける余地などほとんどない。結果、夕 二さんの下に集まっだのは数人を除いて社歴が2ヶ 月以内の異業種からの転職組と海外オフィスのサ ポートメンバーのみだった。  中途採用の社員は、もちろん生え抜き社員とは異 なるバックグラウンドと専門性を持っているが、ク ライアントがこのタイミングで求めていたのは、コ ンサルティングスキルを十分に持った社員だった。 I週間という短期間でクライアントの現場の情報と マネジメントの意向を概ね把握し、会社全体として、 チームとしてどのように動くべきかを。阿吽”の呼 吸で意思疎通し、短期設計することが求められた。  なんとか人だけ集めたプロジェクトは、プロジェ クト開始時点から既に暗雲が立ち込めていた。プロ ジェクトを引っ張るリーダーとなるべき人間が不足 していたのだ。無理もなかった。チームの6割は業 界未経験者、2割は海外からリモートで支援してく れるメンバー、そして日本側のメンバーで英語に堪 能な人も少なかった。時差の関係で会議は深夜から 開催されるが、英語力のある社員に海外メンバーと のコミュニケーションが集中して負荷が高まる一方 で、何をすべきなのかがわからないまま、ただ漫然 と時間を過ごしてしまうメンバーもいた。  クライアントの役員層に対する中間報告まで、刻 一刻とデッドラインは近づいていた。中間報告の資 料作成はインドオフィスに所属するプリンシパルが 担当していたのであるが、報告2日前に社内のレ ビュー会で共有されたその資料の内容は、あまりに もクライアントの現場の実態とかけ離れたものだっ た。  私の職位は、資料を作成したプリンシパルよりも 低い。また、会社内の実績においても、グローバル の有識者である彼に対して、私は特段目立った実績 を上げたこともない極東の島国の一中間管理職だ。 このままこの資料がクライアントの役員の前に出た ところで、私か何かを咎められることはない。1年 前の私であれば、そう思って流していただろう。  だが、その時の私はその資料に対して猛烈な怒り を感じていた。このまま、この資料がクライアント の前に出れば、おそらくこの仕事は炎上してしまう。 私か過去やってしまったように、心身の限界まで働 いている数十名のスタッフの職務経歴に、上の人間 の報告一つによって敗軍の一行が追記されてしまう。  とにかく、それは絶対に嫌だと感じた。私はもう 人生でこれ以上敗北を繰り返したくなかったし、プ ロジェクトメンバーを敗軍にしたくなかったのだ。  レビュー会の終盤、私は拙い英語でその資料はお そらくクライアントの期待と異なるであろうことを 説明した。当時レビューを担当していたのはトルコ からやってきたタネルという役員であったが、初対 面の私の説明を真剣な眼差しで聞き取ったタネルは、 「あなたならこの資料を1日で直すことができます か?」と聞いた。  「できると思います。ただし、会社内の領域有識者 の時間を明日1時間ずつでも良いので私にくださ い」と条件を提示し、修正を引き受けた。  失敗すればプロジェクト全体が燃え上がるであろ うことが明確なこれまでにない重責であったが、私 の頭は冷静だった。何をどう書くべきか、どの程度 書くべきかのイメージが不思議と自分の中に明晰に 浮かんでいた。  なぜなら、既に現場のクライアントとチームメン バーとの真剣な議論を通して、どのようなことが現 場で問題となっているのかは概ね把握できていた。 また、クライアントの経営層との会議であれば、会 議中、フォーカスして議論するスライドの枚数はそ れほど多くならない。あとは唯一欠けているパズル のヒースであった社内の有識者の意見を束ね、それ らを一紙入魂のアウトプットとして取りまとめるだ けだからだ。  レビュー会後、資料を別の方向性からまとめ直し、 翌日私は当時自分の隣で働いてくれていた後輩と二 人で、社内の有識者数名に資料のレビューをもらっ た。私の書いたことは的を射ており、さらに有識者 からのアドバイスで補強された資料は十分な品質へ と進化した。  有識者の専門的コメントを反映し、一夜で書いた 資料はクライアントの役員の心をとらえた。その会 議は崩壊寸前であったプロジェクト内の雰囲気を明 るくすることができた。チームごとに、いつまでに 何をどのように動くべきなのかが明確になったため に、各社員が自発的に目標へ向かって働けるように なったのである。  さらに数ヶ月後、会社の歴史上でも珍しい巨額の 継続受注をそのクライアントから受託することがで きたのだ。  私自身、その時期、自分が成長曲線の真っ只中に あるということを明確に自覚することができた。そ れまで経験したあらゆる失敗や先輩だちからのアド バイス、あまり釈然と理解できなかった同僚や後輩 からの進言、現在進行形で勉強している内容、今コ ミットしているプロジェクトの内容、あらゆる情報 が立体的な一つの意味のある像として脳内に再構築 されていくのがわかった。  このクライアントには具体的に何をどこまで言う べきで、何を判断してほしいのか、社内に対してど のタイミングでどのようなサポートをどういう形で 求めれば良いのか、部下にはどのメンバーにどの粒 度の指示をどのくらいの単位で切り出せば良いのか、 そうした一つひとつのことが有機的につなかって意 味を持ちはじめ、その理由を他人に明確に説明でき るようになった。  クライアントに対しても同僚に対しても、自分が どういう人間であるのか、何かでき何かできないの かを説明することについて、怖いと思うことがなく なった。職業人としての自分と本来の自分との境界 がなくなり、融合していくようにも感じた。  それ以降、クライアントから何かを怒られること がなくなり、名指しで指名される機会も少しずつ増 えていった。  ある日、一つのプロジェクトが完了した後、クラ イアントから懇親会の誘いをいただいた。懇親会に はプロジェクトでお世話になったクライアントが多 く出席しており、私とチームメンバーが同席させて もらうことになった。  当日、少しアルコールの入ったクライアントの本 部長から、「私の長い社会人人生の中でこれまでた くさんのコンサルティング会社と一緒に仕事をして きましたが、皆さんは一番挑戦的で野心的なチーム でした。本当にお世話になりました」という言葉を もらうことができた。  チーム全体が褒められたということがたまらなく 嬉しく、込み上げる思いを隠しながら「私のチーム は強いでしょう?」と私は答えていた。  プロジェクトの価値を再定義しよう  振り返ってみれば、マネージャー時代に自分が成 長したと実感できたのは、自分一人で勝つのではな く 成I 刈刎割詞jができるようになってきた時からだ。  それまでの私は部下とのコミュニケーションを 早々に諦め、一人では抱えきれない量の仕事を担い、 自滅することが多かった。部下からしてみれば、ま ともなコミュニケーションもとってもらえないまま、 勝手に仕事を引き上げられ勝手に失敗する無能な上 司であったと思う。今でも本当に申し訳ない思いで いっぱいだ。  勝てるチームを作り、勝てるマネージャーになる ためには、上気を常に高く保ったチームにすること が必須要件になる。どんなに個々のポテンシャルや 能力が高くとも、上気が失われたチームでプロジェ クトが成功することなどありえない。失敗の中から 私か掴んでいったチームビルディングの要諦を、改 めて以下に示したいと思う。  リーダーはチームに対して大義を語れなければな らない。少し想像すればわかることだが、仕事を 。やらされている”リーダーに付いていく部下はい ない。毎日クライアントや会社の役員から叱責され、 怒られた仕事をしょんぼりと進めているマネー ジャーの下で働いていると、自分も惨めな気持ちに なるものだ。全く憧れることのできない人の言うこ とを聞くのは仕事であっても心情として難しい。  。やらされ”仕事ではなく、自分の意思で押し進め ている仕事であることを説明するためにも、たとえ 本意でない部分があるにせよ、プロジェクトの大き な意義、そのプロジェクトを通してチームそれぞれ がどのように成長するのかを語れるように準備しよ  無論、プロジェクトの内容は、クライアントへの 提案段階で定義されており、どういうアプローチで 進めれば目的を実現できるかも書かれている。だが、 同じ内容のものでも、マネージャーが自分の中にス トーリーを持ってプロジェクトの社会的意義を捉え ている場合と、ただの業務の一環である場合とでは、 チームにとってその仕事の価値づけは大きく変わっ てくる。  特に、参加する人数が数十人を超えるような大規 模なプロジェクトではスタッフは自身の仕事が社会 とどのように結びついているのかを想像することが 難しい。そのような時は、「スーパーマーケットで の買い物がこんなにも便利になる!・」「毎月の面倒 な料金支払いがこんなに簡単になる……!・」という ように、スタッフ自身や、スタッフの家族の生活が、 プロジェクトを達成することを通してどのように変 化していくのかのイメージを伝えると良いだろう。 プロジェクトの意味をより身近にリアルに感じても らうことがポイントだ。  また、プロジェクトの中には、もはや惰性とも言 える状態で続いてしまっているものが存在する。会 社の売上にはなっているが、特にクライアントの変 革に結びついている訳ではなく、社員が高級文房具 としてクライアント先に潜り込み、小銭を稼ぐタイ プのプロジェクトだ。  そのような場では、マネージャーがそのプロジェ クトの価値を再定義しなければ、高い志を持って入 社してきた若い社員のモチベーションを簡単に挫い てしまうだろう。もし自分でもそのプロジェクトの 意義を全く感じることができず、【雙編口囘膕口UNI         ヽ  、一佃 だと11い    x  II`yF    丶丶    %″ −意義会社 の人的リソースを注ぐことが、全体としての最適解 であったりする。  チームにバリューの高い仕事をしてほしかったら、 そのプロジェクトの社会的な価値をマネージャーが 自らの意思で力強く提示する必要がある。   若い部下たちとビジョンを共有する  コンサルティング会社には、極めて優秀な人材が 集結している。10年前と比較すると、学歴だけによ らない形で採用の裾野は広かっているとはいえ、国 内トップクラスの国公立、私大の学生たちが新卒で 入社してきている。多くの会社が欲しかっている優 秀な若きエネルギーが集まってきている。  そんな彼らは様々なメディアでセンセーショナル に語られる、日本企業の旧態依然とした働き方を避 けたくてコンサルティング会社に入社している。私 かマネージャーになってから出会った新卒社員の多 くも「この先どこで働いても恥ずかしくないスキル を、この会社で身につけたいと思った」「将来、父 の会社の経営を継ぐため、この業界で社会をしっか りと見据えたい」といった高い志を持って来ていた。  彼らの洞察は驚くほど鋭い。そもそものプロジェ クトの大前提や意義をしっかりと見つめ、自分が担 当する作業がどのような意味合いを持つものなのか を知りたがっている。  「このプロジェクトはなんのためにやっているので すか?」  「この仕事をすることで、クライアントにはどんな 良いことがあるのですか?」  といった若者だちからの素朴な疑問には、先輩社 員として誠意を持って答えよう。特に仕事が忙しい 時は説明に時間を割くのも骨が折れるものだが、マ ネージャーは自分自身の言葉でしっかりと語りかけ、 プロジェクトに込めたビジョンを伝えよう。  こうした疑問を放置すれば、給与水準が高くとも、 頭の回転の速い彼女彼らは早々に見限ってしまいか ねない。スタッフは常にマネージャーの背中を見て いる。何を問いかけても答えてくれない、仕事にも 意味を見出せないとなれば、早々に信頼関係は失わ れ、チームとして機能しなくなるだろう。  もしもチームのスタッフから、実務的な懸念点 (クライアントからのクレーム、特定社員の(ラスメント疑惑、 特定社員への稼働集中等、プロジェクト運営の根底に関わるか もしれない懸念点)を伝えられた場合は、I週間以内 に解決する道筋をつけたい。報告してくれたスタッ フとは日次でその状況をシェアし、改善点を伝えよ  部下への言葉遣いについて補足すると、n田UN       一=ヽρ 1’だ。そういうプレッ シャーを与えると、本当は言っておいた方が良さそ うだが確実ではない懸念点についての情報を、上司 に上げにくくなってしまうからだ。  一度そういう空気になると、マネージャーとス タッフの間には情報の分断と不均衡が生まれやすい。  単に、プロジェクトの進捗をその目で確かめたい のであれば、自分で課題管理簿を開き、主要な成果 物ファイルの状態をチェックすれば良い。気になっ ているチームの情報はいつでもマネージャーがアク セスできる場所に集約し、メンバーの日々の発言や TeamsやSlackのコメントを見ていれば把握できる ことも多い。そういう一次情報を自分で刈り取りに 行く習慣があれば、スタッフに悩みを持ちかけられ た際も、すぐに問題点を見極めて対処できるだろう。  新型コロナ流行以降、リモートワークが増えたが、 こうした一次情報を得るにはスタッフと顔を合わせ たコミュニケーションが一番効率的であることは間 違いない。週に2、3同でも、顔を合わせて話を聞 く場があると、チームでビジョンを共有し、何か懸 念点があった際もすぐに報告されるような風通しの 良い環境にすることができる。   情報は可能な限りオープンにしよう  メンバーにプロジェクトの現在地点を正しく理解 してもらうために、管理職がキャッチした情報はほ ぼすべてのメンバーがオープンに共有できるような 仕組みを作っておくことをおすすめしたい。実は、 こういう日常的、実務的な情報のオープンソース化 か、同じビジョンを共有するチームとして強い一体 感と効率を生む。  例えば、マネージャーになると複数のプロジェク トを掛け持ちで担当することが多く、各プロジェク トのリーダーとして様々な会議に出席する機会も増 えるであろう。  リーダー会議での決定事項は現場の作業にダイレ クトに影響を及ぼすが、この情報共有がなぜか翌日 や翌々日になることも多く、遅れて飛んできた議事 のみを2日遅れでメンバーが知り、それならこの作 業は後回しでよかったのに……といったタイムラグ によるストレスが意外に発生しやすい。もちろん、 公開範囲を厳密に規定すべき人事等のセンシティブ な情報もあるが、プロジェクトに関する情報は、リ アルタイムに近い共有をチームメンバー内で行える ほうが望ましい。  TeamsやSlackといったツールは、フラットな情 報共有の場としてとても有効だ。メールによる情報 の共有は宛先を自分で指定する際に、この情報を必 要としている人間を無意識に識別してしまう。チー ムメンバーAには関係なさそうな情報でも、Aはそ の情報を知ることで、より他のメンバーの意図を汲 み取った動きが可能になるかもしれない。そうした 可能性をメールコミュニケーションは知らず知らず のうちに摘み取ってしまう。 I    /F 、 I‐ ゝ/−I    、 ― きる公開チャネルのような場所に議事をタイムリー (会議後30分以内を口指したい)にシェアし、そのフィー ドバックをメンバーからももらうようなコミュニ ケーションのあり方をおすすめしたい。これはフ ラットでオープンなチーム運営のコツだ。   活躍できていない部下には環境を変え   るオプションを  コンサルティング会社のスタッフが総じて優秀で あることに疑いはないのであるが、様々な理由で十 分な活躍ができない社員がいることも事実だ。その ような部下に対して適切なヶアを行い、未来のキャ リアを提示することもマネージャーの仕事になる。  可能な限りのサポートを行った上で、どうにもう まく活躍することができないスタッフがいる場合は、 本人と密にコミュニケーションをとりながらプロ ジェクトから外す選択肢も早期に検討しよう。  マネージャーになった当初、私はチームとともに 笑い、成長するマネージャーであろうとした。チー ムメイトがどのようなバックグラウンドや技術レベ ルであったとしても、自分のチームに来たからには 笑って働ける場所にしたいと考えていた。そのため、 自分のチームにやってきたスタッフたちには、プロ ジェクトのぶ取後まで”全員一緒に走り切ってほし いという一方的な思いを抱いていた。しかし、この 甘い考えは結果として自分とメンバーの全員を不幸 にしてしまった。  とあるプロジェクトで私は米田というスタッフと 働いていた。日本の製造業から中途で入社してきた 彼は、コンサルティングという新しい仕事の仕方に うまく適応することができずにいた。私は彼にとっ てハードルの高い仕事も、他のメンバーと平等に割 り当て、チーム全体でその遅れをリカバーしようと 必死になっていた。  彼の遅れを取り戻すために陰ながら尽力してくれ たのは、田村という若い女性社員たった。彼女は多 くを語らず黙々と仕事をするタイプであったことも あり、自分と同じキャリアレペルにありながら手厚 いサポートを受けている米田と、その状況を放置し ている私に対してストレスを募らせていたのだ。  ある日、田村から呼び出された私は「私と米田さ んと、どちらがプロジェクトにとって必要だと思っ ていますか」と涙ながらに訴えかけられたのだった。  プロジェクト単位の仕事において、できない社員 を一人抱え続けるということは、その分の負荷を他 の社員に強要することになる。もし、米田をプロ ジェクトに残したいのならば、米田が軌道に乗るま での負担増はマネージャーがリカバーできる範囲ま でとするべきで、他のメンバーの負担となることを 看過してはならなかった。  結果として、チームのスタッフたちは延々と改善 しない現状と長時間労働に疲弊し、少しずつプロ ジェクトから離脱していった。  無論マネージャーは、社員の成長にコミットする 立場だからある程度、見守る期間も大切だ。  しかしそれはクライアントへの価値提供、プロ ジェクトの完遂という最低条件が守られた上での話 であり、スタッフの成長という不確定要素をチーム の前提に組み込んではいけない。もし成長を要する メンバーを抱え込むのであれば、その分の実質的な 負担を誰が引き受けるのかを明確にしなければなら ない。  活躍できないスタッフを早期にプロジェクトから リリースするのは、スタッフ自身のメンタルとキャ リアのためでもある。パフォーマンスを発揮できな い環境で長期間アサインすることは、当人の精神も 確実に蝕む。  スタッフ本人と今後どうありたいのかを話し合い、 時にはキッパリと環境を変え、再チャレンジする機 会を作る方が再起のきっかけにもなるのだ。   クライアントとのビジネスを拡張する   役割  さて、プロジェクトリーダーであるマネージャー は現場のクライアントの満足だけでなく、クライア ントの経営者からの信頼をも勝ち取り、その後のビ ジネスの拡張をしていく役割を担っている。今のプ ロジェクトを無事完了させるのは当然のことであり、 積極的に次の案件を獲得していかなければならない。  そのためには翌年・翌々年、クライアント企業と 自分たちがどのようなコラボレーションをしていく ことが理想的であるのかをクライアントの上層部と 定期的に話し合い、予算をとりに行く必要がある。 次図のように、クライアントの事業の拡張をどのよ うな角度から支援できるのかを探っていこう。  現場のクライアントとの会話を通して抽出した課 題の種をより大きなレベルで変革するためのテーマ を作り、自社の有識者を引っ張り込み、自社として のベストソリューションをプレゼンしよう。  また、定期的な上層部とのコミュニケーションは、 現場でやっていることの方向性と経営層が考えてい ることのギャップを早期に埋めるリスクヘッジにも なるため、プロジェクト開始のご挨拶の段階で定期 的なコミュニケーションの約束をしておくと、以後 の進行がスムーズになるだろう。  不確実性の時代だが、少なくとも1年後にクライ アントと会社はどのような関係性を築けているのが 理想か、今後どうしていきたいのかは、マネー ジャーとして自分自身のビジョンを持ち布石を打っ ておけるようにしたい。  自社の売上目標から見た時に、このプロジェクト はどの程度の規模感で貢献すべきなのか。あるいは クライアントの中期計画を眺めた時、追加で支援に 入り込めそうな余地はどのあたりにあるのか、逆に 競合に取って代わられるリスクのあるポイントはど こなのか?  クライアントのどの役職の人にどのような議題を 持っていけば自分の考えているビジョンは実現でき そうか。ビジョンの達成の障害となりそうなリスク シナリオはなんだろうか? 対策はあるだろうか?  そんな仮説思考を徹底的に行い、ビジョンの実現 のために打つべき布石を準備していくのである。こ うしたビッグピクチャーが自分の中にあると、自社 の役員から今後のセールスプランを聞かれた時も、 即座に説明ができるし、生産的な議論が可能になる。   己の世界観、そしてストーリーを持と   う  マネージャーが対峙するクライアントの役職は必 然的に部長以上が多く、本部長、そして、CFO、 CTO、CIO等、Cクラスと呼ばれる重役と対峙 する機会も増えていくだろう。彼らは会社の事業、 そして数百人の社員の生活を預かる立場であり、コ ンサルタントという傭兵稼業とは背負っている責任 の重みが異なる。文字通り、自分の判断ひとつで部 下数百人の人生を左右してしまうような意思決定を 行っているのだ。  当然、毎回すべての判断を正しく行える人間はお らず、彼らとてキャリアの中で苦い挫折を経験して いる。この事業を通して社会をどうすべきなのか? という問いに多くの時間と思考のリソースを使って いるりIダーたちがコンサルタントに求めることは 世界観レベルの議論であり、目先の作業の細々とし た進捗や、小規模なソリューションの話ではない。 ―  この問いに答えることができるコンサルタントを、 クライアントの上層部は事業を共に走るパートナー として求めているのである。  この事業を改革することでどんな良きことを実現 したいのかIそういう社会や未来への長い射程距 離を持った筋のいいストーリーこそが、真に有益で 革新的な提案を生む。  経営者は毎日孤独と戦っている。社外からの様々 なプレッシャーを撥ね除けながら、部下たちを守っ ている一方、優秀であればあるほどに、部下たちに は恐れられ、遠慮され、同等な立場で本音で話しあ える相手は社内に数えるほどしかいなくなっていく。 そんな時、コンサルタントは経営者の隣にいる人間 として、共に未来を議論できるパートナーでなけれ ばならない。経営者の意見に従属するのではなく、 時には反対意見もぶつけ、考えを練り上げる契機を 作り出すのだ。  自分の中に「ストーリーを持つ」とは、このクラ イアントと共に走った時にどんな理想的な未来が実 現できるかという世界観であり、広々としたビジョ ンに他ならない。  大局的なビジョンは、ただ毎日目の前の業務に時 間を溶かしているだけでは絶対に得られないものだ ろう。仕事以外で、社会と幅広い接点を持つことに 意識的に時間を使おう。社外のコミュニティに参加 してみるのも一つの有効な手段だ。一人の時間も大 切にし、優れた本を読み込み、映画を見て、旅行を し、先人たちの悩み、世界の問題に自分を投影し、 社会課題を自分ごととして考えたい。  それは、心身ともにハードではあるが、コンサル ティングという仕事の最もスリリングな醍醐味なの だから。   光を示せI  現代におけるコンサルティング会社の中間管理職 は、非常に強いストレスを伴う仕事の一つだろう。  社会の働き方改革の流れに沿って、労務管理の徹 底は現場のリーダーたるマネージャー職が責任を負 うことになる。過去のように、無尽蔵に働き続ける 戦上のようなチームメンバーの稼働に頼ることなく、 10年前と同等あるいはそれ以上の期待値を持つクラ イアントと対峙しプロジェクトを成功へと導かなけ ればならない。  無理難題と感じる場面も多いだろうが、こうした 難局を創意工夫で克服できる能力があると会社や同 僚だちから判断されているからこそ、マネージャー はその職位を任されている。マネージャーの仕事は Manage'直訳すれば(なんとかする)(辻褄を合わせる) ことなのだ。  絶対にプロジェクトを成功させるという強い信念 を持ち続けるために、日々の具体的な行動指針を自 身に課そう。誰よりもクライアントのこと、そして チームのことを自分が考えていると周囲に断言する ために、何かできるだろうか。  毎日クライアントに関するニュースを読み漁り、 関連法の条項まで調べ上げることだろうか。海外の 事例を含めた最新の文献に目を通すことだろうか。 どこまでやれば自分に自信を持つことができるかを 考え、それを日々実行しよう。  時には周囲からは「なんでそこまでするの?」と 言われるかもしれないしかし1 えるよう   9丶               自 自    に I  どのような逆境にあっても、絶対に勝算を捨てて はいけない。決して卑屈な姿を見せてはいけない。 顔を上げ、このチームは勝てると言い続けよう。  マネージャーはいつどんな時でも、同僚たち、部 下たち、そしてクライアントにとって、暗闇で道筋 を示すカンテラでなければならない。荒波と濃霧の 中でも希望を示し続ける灯台でなければならない。  光を示せI。  コンサルタントがコンサルタントたる存在証明と は、世の中のあらゆる仕事に対する、暖かな道しる べ、光となることなのだから。 おわりに   本書を書くにあたり、本屋が併設されたコ  ワーキングスペースをよく利用していた。ある  日、本棚を見ると雑誌の表紙に「高収入職種、  若者たちが流れるコンサルティング業界の実  態」といった経済誌の見出しを見つけた。   読んでみると、新卒時から日本の大手企業よ りも高い年収を獲得することができ、転職を繰 り返すことで年収を釣り上げていけるいわば 。勝ち筋”の職種としてコンサルタントが若者 たちに流行しているという主旨であった。私も 驚いたのであるが、BIG4と呼ばれるコンサ ルティング企業を転職で一周することはグラン ドスラムと呼ばれているらしい。転職のたびに 給与水準は100万円相当変わり、一周するだ けで数百万円の年収アップが叶うということだ。  キャリアに関するWeb記事でも、SNSの 話題でも、いかに。コスパよく”働くか、とい うことに焦点を当てた働き方テクニックが数多 く紹介されている。リモートワーク中は上司や 同僚の監視がないため、本職はそこそこに、 余った時間で副業をして稼ぐことが。賢い”働 き方なのだという。  ここ数年、この。賢くコスパのいい働き方” という風潮は、ますます強まっているように思  私かまだ会社にいた頃、新しくプロジェクト を立ち上げる際は、マネージャーとしてチーム メンバー候補のスタッフと面談を行っていた。 そこでは、。戦略”や。DX”といういかにも な言葉のついたプロジェクトにアサインされる ことが、自分の未来のキャリアにとって最善で あるかのように考えているスタッフが少なから ずいた。  逆にシステムのテストや運用といった仕事は、 まるで自分のキャリアの。嗜好”と合わないと 考えているようだった。勝ち組であり続けたい、 損で惨めな役回りは御免ということなのだろう。  しかし、皆が皆、同じような。戦略”案件や 。DX”案件を経験したとして、自分自身の仕 事の独自性はいったいどこにあると言えるのだ ろう。もし読者の中に、コンサルティングは 。勝ち筋”の仕事だから、という理由で選ぼう としている人がいるのであれば、少し立ち止 まって考えたほうがいいかもしれない。  私かコンサルティング会社で過ごしたり一年間 は、決してコスパの良い働き方ではなかった。 今ほど勤怠時間の報告が厳密ではなかったため、 一時期はマクドナルドの学生アルバイトの時給 の方が高いのではないかとも思えるほどに働い ていた。戦略やDXとはほど遠い場所で、クラ イアントに業務の話を聞き、深夜も土日も問わ ず、数千の業務フローを毎日書き上げた。周囲 には「そんな仕事は意味がない」と言う人もい た。  しかし、この千単位の業務フローを書く経験 を通して、私は一つの特殊技能を身につけた。 クライアントの仕事の一部を見て、話を聞くだ けで、業務の全体像が立体的に脳内に図面とし て描かれる能力を身につけたのだ。この人がこ れをしているということは前後にこういう仕事 をしている人がこれだけいるはずだ、という業 務の地図が頭の中に半ば自動的に描かれるよう になったのである。  この能力は私のキャリアを通しての最大の武 器になった。  漫画『HUNTER×HUNTERJでは、ある武 道家が、自分を育ててくれた武道への感謝の気 持ちを込めて、「1日1万回の正拳突き」を数 年間毎日行うシーンが描かれている。周囲から すれば異常、狂気とも思えるこの習慣は、結果 としてこの武道家を唯一無二の存在としてのス テージへと導く。  。狂気がスペシャリテイを作り、スペシャリ テイがキャリアを作る气  効率や勝ち筋という視点だけで自分自身の働 き方を選んでいては、唯一無二の存在には永遠 にたどり着けない。  本書を手にしてくれた読者は、おそらく自分 自身の働き方やキャリアについて、主体的に構 築していきたいと思っていることだろう。キャ リアの選択肢としてコンサルタント業界に興味 を持っている、あるいはこの業界に入っだもの の、まだうまく力を発揮できなかったり将来の 展望を思うように描けない不安から、本書を読 んでくれたのかもしれない。  この本はコンサルタントという仕事の広大な 序破急の「序」として記載した。この序をどの ように解釈し、破壊し、そして自らの仕事の領 域展開を生むものにするか、その魅惑的なス トーリーを作るのはあなた自身だ。  読者のみなさんには、自分はどのようなこと であれば、毎日夢中になって継続することがで きるのかを探しあててほしいと思っている。そ こにこそ、あなたにしかできない仕事を生むオ リジナルの才能が隠されているはずだから。  執筆を進めながら、これまでどれだけ恵まれ た仲間だちと環境に支えられ、一人の社会人と して生きてこられたのかを改めて振り返ること ができた。不得意なことだらけだった不器用な 私を見捨てずに根気強く育ててくれた上司と先 輩方、不甲斐ない敗軍の将と成り果てた時も、 最後まで支えてくれた同僚と後輩たち、誰一人 として欠けていればこのサバイバルマニュアル を書き切ることはできなかったと感じる。  本書が読者の未来を少しでも明るく灯すもの であってほしいと願ってやまない。  すべてのコンサルタントの栄光を願う。                  メン獄  【社内篇】 指示がさっぱりわかんないんですけど。 ↓もう少しだけご依頼の背景と目的を伺えると気の 利いたご支援が出来ると思うのですが。 何か言いたいのか理解不能で……。 ↓今おっしやったことを私の言葉で言い換えてみた いと思っているので、問違えてる所があったら教え ていただいてもいいですか冫・ そんな攻撃的な言い方しなくてもいいじやないです か……。 ↓○○さんの人柄を知らない社歴の短い若い社員が 驚いてしまう懸念もあり、可能な範囲でマイルドな 伝え方をしていただけると、思いを誤解なく共有で きるのではないかと考えております。 あなたに言われる筋合いはない。 ↓貴重なご意見ありがとうございます。参考にさせ ていただきます。  (何も教えてもらってないのに)「こんなことも出 来ないのか」つて言われるの意味分かんないんです けど。 ↓ご期待に添えず失礼いたしました。事前に具体的 な期待値とベースラインになるような作業手順等あ れば次回はもう少しギャップなく進められると考え ているのですが、いかがでしょうか。 これって本来あなたがやるべき仕事を面倒くさいか ら私に振ってます? ↓ちなみに本件私に振っていただいてるのってなに か理由ありますか冫・ いま取り込んでいるんであとでやります。 ↓この仕事だけ終わらせたらすぐやりますね’。  (毎同言ってることがコロコロ変わる適当なレ ビューをしてくる教育担当の先輩に)いい加減にし て!・ ↓作業の手戻りで残業時問が増えてしまうと結果と して○○さんにご迷惑をおかけしてしまうことにな ると思いますので、指示内容について最新化した内 容でいただけると助かります。 定時なので帰宅してもいいですか? ↓月末繁忙のタイミングでガッツリ残業できるよう に今日は早めに失礼させていただきます。 お前が今までやらんかったからこうなってんやろ!・ ↓現状こうなってるのって○○さんが経緯をよくご 存知だったりするのかなと思っていたのですが、何 か皆さんがちゃんと理解してないご事情があったり したのでしょうか冫・ 職場でプライベートな質問しないでください。 ↓ちょっとこの場で答えにくいことなので今度飲み 会とかの場でお話ししましょう……’。  (異性の上司に)にフ「Mしてこないで。 ↓仕事中、自分の携帯見ていないことが多くてリア クションが遅れてしまうので、Slackか内線いただ いても良いですか冫・ タバコ休憩多すぎません? ↓もしかして何かお悩みごとありますか冫 電話の声がうるさいんですけど。 ↓さっきオフィスにセキュリティ監査の人が来てた ので秘匿情報の会話する時、音量気をつけた方がい いかもです……’・ 若い子からしたらドン引きっすよ。 ↓同じことをこの間私も言ったら新卒の子に引かれ ちやって(笑)。 どうせわからないなら首突っ込まないで。 ↓現場の議論にお付き合いいただくのも恐縮ですの で。 お前マジで話通じねえ、引っ込んでろ!・ ↓後ほど個別にご説明のお時問いただいてもよろし いでしょうか。  (上席の顔色ばかり窺っている管理職に)いったい どこ見て仕事してるんつすか? ↓お客さん的に嬉しいかだけ気になりますね……。  (他課のマネージャーに)何でそんなに時間掛かっ てんの? ↓具体的にどの辺で困つちやつてますか冫 お前のチームのリソース不足はお前で解決しろ、情 に訴えてこつちに仕事振つてくんな。 ↓こちらのスタッフに残業させる分のコストは、ご 負担いただけるということで大丈夫ですか冫。  (話が不明瞭な他部署の上の人に対して)はっきり 言えやコラ。 ↓こちらの心情にご配慮いただき、「○○○○○」 という趣旨のことを遠回しに言っていただいたと認 識しました。 給料上げてよ。 ↓最近エージェントから求人案件の紹介が多くて。  (後輩に依頼した仕事が全く違うアウトプットで出 てきて)人の話聞いてた? ↓なるほどけっこう独創的な切り囗ですね……… バカが張り切るとろくなことないからジッとしてて。 ↓頑張ってくれてありがとう’・ あとは自分で説明 しやすいようにちょっとだけ直すから残業しないで 早めにあかってよく休んでください’・ また明日’・ ちょっとは自分の頭で考えろよ。 ↓ちなみにこれ、工夫してくれたポイントつてどの 辺ですか冫・ 私はお前のママじゃない。 ↓○○さん個人としての活躍を会社に私から説明で きるようになりたいなと思っていて。 毎日業務中に居眠りしてんじやね1よ。 ↓もしかして体調悪い冫 みんな心配するから無理 しないで帰りなね。 もう帰れると思ってんの? ↓中途半端は気持ち悪いんで、終わる目処だけはつ けちやいましよう! 挨拶くらいしましようよ。 ↓(こちらが大きい声で挨拶し続けるだけ。圧をか ける) 私語多すぎでしよ。 ↓一回それぞれ作業に集中する時問にしましよう か’。  「対外篇」 それ、前にも言いましたよね。 ↓実は前回お話しした点も同様の趣旨ではあったの ですが。 議事録も取ってある話をひっくり返されて、どうし たらいいんですか? ↓以前はこうおっしゃってたのですが、何かご意見 変えるキッカケありました冫。 この会議は大枠を決めるもので、そんな些事に フォーカスしてたら全く進みませんよ。 ↓後続の詳細設計で取り込ませていただきます。非 常に貴重なご意見ありがとうございます。 送ったマニュアル、メールに書いてるからちゃんと 読んでくれや。 ↓先日お送りした資料の○○により詳しく記載され ているものですので、もし他にご不明点等あれば合 わせてこのタイミングでご教示いただければと思い ます。 話の要点がさっぱり分からないんですけど。 ↓お時間いただいてしまって恐縮なのですが、一度 私の言葉で言い直しながら理解が問違っていないか 確認させてください(以降、要点だと思われること を言い直してみる)。 内部で揉んでから言うてこい。 ↓こちらは御社の社としてのご意見と受け止めて問 題ないでしょうか冫 この予算でその業務までこなすのは無理です。 ↓ご依頼の内容を実現するには○○人日程度の追加 工数が必要となってしまいまして、こちらの追加作 業分のご予算を別途相談させていただけないでしょ うか。 早く上げて欲しけりやもっと早く材料送ってよ。 ↓社内都合で恐縮ですが作業品質の担保のためには 最低限○○日をいただく必要がありまして、次回ご 依頼の際にご留意いただけますと大変助かります。  (丸投げされた時に)それはあなたの担当業務で は? ↓私で責任を負える範囲を超えてしまっていると考 えておりまして、分担を(偉い人)さん含めて改め て相談させていただけないでしょうか。 あまりに細かいことに口出しされるのは迷惑でし て……。 ↓現場レイヤーの詳細検討にお時問割いていただく のも恐縮ですので、大方針のレベルでご意見あれば いただけますと幸いです。 それを考えるのがあなたたちの仕事では? ↓そちらは御社からご提案いただけると嬉しいとこ ろではあります。 最終的に決断するのはそちらなの、わかってる? ↓御社の思いも踏まえた上での内容にしたいと弊社 としては考えておりまして。  (発注先に対して)仕事雑すぎません? ↓こちらの状況は御社内でどなたまでご確認いただ いた内容になりますか冫・ そっちかできないんだったらもうコッチでやっちや うね。 ↓契約時に合意した分担を見直すことも視野に入れ て上部含めて弊社内で議論しようと思います。 伝言ゲームしかできないならお前がいる意味ないだ ろう。 ↓○○さんのご意見はいかがですか冫・ なぜ夜中に連絡してくるんですか、明日じゃだめな のですか? ↓本件特別急がれてたりしますか冫・ それはスコープ外なんですけど。 ↓契約以上のことをしてしまって御社の法務の方に お手数おかけするのも申し訳ないので。 チェックリスト増やして対策した気になってんじや ね1よ。 ↓今回チェックリストが正しく運用されなかった点 については別途改善策を提示いただけるという理解 でよろしいでしょうか。 そのやり方古いんですよ。 ↓実は最近こういうやり方が流行ってたりしまして。 これ、やる意味あるんですか? ↓ご依頼の背景を少し詳しく伺いたいのですが。 そんなスケジュールでやるの無理っす。 ↓御社の現場にもかなりご負担がかかる進行になっ てしまうと思われるのでもう少しだけ猶予をいただ くことは可能でしょうか。 業績が上がらないのは部下のせいじやない、あなた の戦略ミスでは? ↓色々問題はあるかとは思うのですけど、一生懸命 やってもらっているので会社(上司)として現場は 守ってあげたいですよね。 そんな些末なことより、もっと大事な問題があるで しょう。 ↓役員会の報告では(大事な問題)の件についても 報告しないと(あなたが)怒られてしまう気がして いまして、優先度を相談したいです。 そのパワハラ体質、なんとかしたほうがいいっすよ。 ↓最近私も社内で同じ言い方した時に人事から注意 されてしまいまして(笑)。 進行上のトラブル、全部こっちのせいにすんな。 ↓これまでの議論の中で両社間で詰めきれてない所 なので、進め方は別途相談させていただけますか冫 共有された資料がめちゃくちゃ過ぎて仕事にならな いんですけど。 ↓先日いただいた資料の最終更新のタイミングつて ご存知だったりしますか冫  (経営陣に)そんなやり方で現場がついていくわけ ないでしよ。 ↓現場の現行業務の影響もみて判断した方が丁寧な 進行で事故も少ないかなと思っておりまして。 会社の愚痴、あまりSNSに書かないほうがいいか もよ(バレてるから)。 ↓(それとなく会話の中で言うのがポイント)最近 けっこう社員のSNSで炎上しちやうヶIスありま すもんね…。賠償額凄まじくて…。 違うレイヤーの話をまぜこぜにして話されても XC……。 ↓今会議にでてるメンバー的に話しやすいので、先 に大方針の方からお話ししちやいましようか。 僕らのことただの便利屋だと思ってるでしよ。 ↓ちょっと高いお金いただいてしまっているので、 雑用係になってしまうと(上役)さんに怒られてし まうかなと気にしておりまして。 メン獄(めんごく) 1986年、千葉県生まれ。コンサルタント。上智人学法学部 法律学科卒業後、2009年に外資系人手コンサルティング会 社に入社。システム開発の管理支援からグローバル企業の新規 事業案件まで幅広く手掛ける。2021年に退職後、医療業界 令体のDX推進を口指すスタートアップ企業にDXコンサルタ ントとして就職。主に人企業のテクノロジーを川いた業務改革 の実行支援・定着化、プロジェクト管理、運川設計が専門領域。 コンサルティング業界の内情やDXトレントを紹介し、仕事を よりホップな体験として提案するTwitter' noteが人気を博す。 イラスト 海道建太 カバーデザイン 古屋郁美 特別付録 扉デザイン 藤井靖子 初出一2022年1月、回忌にて「コンサルティ ング会社完全サバイバルマニュアル」〈アナリスト 編〉〈ジュニアコンサルタント編〉〈シニアコンサル タント〜マネージヤ編〉の3部作として掲載。単行 本化にあたり、大幅な加筆・修正を行っている。 この電子書籍は二〇二三年三月三十日刊行の単行本 を底本としています。