すごい言語化_木暮太一 はじめに 言語化は人生を「確実に」豊かにす I る  ぼくらはみんな、日々まじめに仕事をしていま す。ですが、その努力とは裏腹に望んでいること を実現できていません。  「明確に目標を立てれば、それは叶っていく」  そんなことも言われます。ぼくもその通りだと 思います。  ただ、実際にはなかなかこれが難しい。目標を 作ることが難しいのではなく、それを「明確にす ること」が難しいんです。  たとえば、できるビジネスパーソンになりたい と語っている大がいました。想いとしてはわかり ます。ですが、「できるビジネスパーソン」とは どういう状態を指すのでしょうか? 営業成績が いい人のことを指すのか、周囲のメンバーから慕 われる人のことを指すのか、もしくは有名企業に 就職することをいっているのでしょうか?  できるビジネスパーソンになりたいという表現 で、言葉にしているつもりになっていますが、じ つは何も表せていません。そして何も表せていな いから、どうすればその状態になれるかもわかり ませんし、実際に何か行動に移すこともできませ ん。  このように多くのヶIスでは、表現したつもり で表現できていないんです。これは言語化の問題 です。ぼくらが使っている言葉は、じつはとても 曖昧です。明確にしたつもりであっても、明確に なっていない。だからいざ行動に移そうと考えて も、何をしていいかわからなくなってしまうんで す。  ・ 人は、自分の感覚のうち5%しか認    識していない  人間は、自分の脳の3%しか使っておらず、自 分の筋肉の20〜30%しか使っていないと聞きます。 人は自分が持っているものを活用しきっていない わけです。  そして、ハーバード大学のジェラルドーザルト マン教授によれば、人間の意識の95%は言語化さ れていないそうです。感覚は持っていても、95% は自分で認識できずに「なんとなくそう思う」レ ベルになってしまっているということです。  ぼくらは自分の感覚を言語化していません。だ からぼくらは自分で望んでいるものを手に入れら れない。自分の実力が発揮しきれない。  しかし、残り95%の自分の感覚を言葉にできれ ば、自分が望んでいるものを自分で明確に把握で きるようになります。自分が手掛けている仕事の 意義も自分でしっかり理解できるようになります。  さらに、それを相手に伝えることができます。 相手もあなたと同じように95%の感覚を認識でき ていません。あなたがいい仕事をしているのに、 その95%は相手が実感してくれない。いい商品を 提供しているのに、それが伝わっていません。  認識できないものは存在しないのと一緒です。 ぼくらが持っているものが100でも、言語化で きているのが「5」であれば、それは「5」しか ないのと一緒です。自分の実力を高め、200を 持つようになっても、相手が認識するのはたった 「10」です。非常にもったいなくないですか?  逆にいえば、実力が変わらなくても、これまで の倍を言語化して表現できるようになれば、それ だけで「10」の価植が相手に見えるようになりま す。3倍にすれば「15」になります。  ぼくらは自分の内側の5%しか理解できずに生 きてきました。そして、ぼくらの5%しか伝えら れずに生きてきました。人生の多くの場面で、言 語化かボトルネックになっていたわけです。  しかし同時に、最高のレバレッジポイントにも なります。言語化かできるようになれば、これま で伝わっていなかった自分の価値が伝わり、これ まで気づけなかった要素に気づくことができます。 そして「言語化」というひとつの能力を高めるだ けで、仕事の成果が変わり、働き方が変わり、対 人関係が変わっていきます。  ・ ”くらは言葉にする方法を教えても    らつてこなかった  しかし、そんな大事な能力なのに、これまで手 付かずで放置されてきました。ぼくらは、言語化 に関して教えてもらったことがほとんどないので す。  ぼくらは小さい頃から「国語」を習っています。 ですが、実際に何を勉強していたのかは正直わか りません。国語の授業があるだけで、漢字の読み 書き以外、何か新しい知識を身につけた感覚はな く、何かできるようになった実感もありません。  ひとつ言えるのは、学校で習った国語は「読み 取る力」を鍛えることに主眼が置かれていたこと です。教科書を読んで、この文章の意味は何? 主人公の気持ちは? 筆者が最も言いたいこと は? など、読み取る力(「受信力」)をトレーニ ングしてきました。一方で、表現したり、自分の 感情を言葉にしたり、相手に伝えたりする「発信 力」はほとんど習っていません。  また、日本語では「以心伝心」「察する」「空気 を読む」など、言葉にしなくても伝わることが善 とされていることもあり、より言葉にする重要性 が軽視されているようにも思います。  ぼくらは相手に伝える行為どころか、自分が伝 えたいことを言葉にすることにも向き合ってこな かったのではないでしょうか。そして言葉で伝え る必要性が小さくなれば、そもそも自分が考えて いることを言葉にすることも不要になります。  こういう背景があり、ぼくらは言語化か苦手に なっています。  だから言葉にできないんです。  欧米のコミュニケーション、プレゼン、広告な どと比較すると、日本人のそれらはあまり言葉に できていない感がぬぐえません。トレーニングを 受けてきた人種とそうでない人種はやはり違うん ですよね。  でも言うまでもなく、言葉にしなければ伝わり ません。特にビジネスでは、何も言わなくても商 品を買ってほしいというのは相当に無理がありま す。言葉で伝えなければ伝わらないんです。  ぼくらはその言語化のトレーニングをこれまで してきませんでした。しかしそれゆえに、大きな チャンスがあります。これまで何もやってこな かった分野なので、誰もが同じところからのス タートですし、身につけたら身につけただけ純粋 にプラスになります。  ・ 言語化をせずにビジネスをしようと    している  これまでぼくらは言語化をせずにビジネスをし ていました。  言語化のトレーニングをせずに営業をし、言葉 をあまり意識せずに商品を説明しようとしていな いでしょうか? この状態で営業をしても「どう 表現していいかわからないけど、とにかくいい商 品なんです」のような紹介しかできません。  仮に商品が売れなかったとしても、それはぼく らの商品の質が柢いからではありません。頑張っ ているのに認めてもらえないのは、努力が足りな いからではありません。言語化できていないから です。  ぼくらはこれまでたくさん勉強し知識を仕入れ てきました。社員研修で新しいスキルを身につけ てきた方も多いでしょう。ですが、その身につけ たものを5%しか言語化できていないとしたら?  言語化能力を身につけることができれば、あな たが持っているものの残り95%を相手に伝えるこ とができます。今のあなたのままで、今の会社組 織のままで、今の商品のままで、あなたの人生は 「確実に」豊かになります。  言語化できている人を見て、自分も言語化でき るようになりたい、周囲の人たちもちやんと言葉 にして表現してほしいと感じることはありません か? お互いにしっかり言語化して会話できるよ うになったら、どれだけトラブルが減り、どれだ け仕事がスムーズになるでしょうか。  言語化能力は、センスではありません。考え方 とフォーマットを身につけさえすれば、誰でも自 分の頭の中を言語化させることができます。  本書を通じて、自分の中の感覚を言語化できる 喜びを一人でも多くの方に感じてもらえたら、本 当にうれしいです。                   木暮太一 章  「言語化」されないと. ″ 何が起こる?     ゛     `          Ily jll `   ‥‥   1111  頑張っているのに上司に小言を言われてばかり いたり、いい商品を作ったはずなのに顧客に提案 しても反応が良くない。そもそも毎日の仕事がつ まらない。   いろいろスキルを身につけてきたのに、イマイ チ成果につなかっていない気がする。  ぼくらは仕事をしている中で多くの「なんかう まくいかない」に直面しています。そしてそのた びに、解決策を探し、新しくスキルを身につけよ うとします。ですがそれでも「なんかうまくいか ない」はなくなりません。  なぜでしょうか?  それは言語化されていないからです。  ぼくらはあらゆる状況を言葉で理解しています。 相手の表情やジェスチャーから受け取ったとして も、「あ、価格帯が合わなそうだな」「今は忙しい んですね」と言葉で相手のメッセージを把握しま す。  自分の思考も言葉で行います。言葉を使わずに 考えることはできません。ビジネスで自社の商品 を提案するときも、さらにはその提案資料を作る ときも自分が考えていることを言語化しなければ いけません。そしてその考えた言葉を相手に投げ かけます。明確な言葉で考えられれば、明確に正 しい行動ができるようになります。一方で、言語 化しきれずに曖昧な言葉・的外れな言葉で考えて いたら、どんな行動をすればいいかわからなくな ります。  つまり、ぼくらの行動のベースにあるのは言葉 なんです。そして、どんな言葉を使うかによって、 思考が変わり、行動が変わり、結果が変わります。  正しく言語化されていれば、正しく伝わります。 一方で正しく言語化されていなければ、相手は理 解不足に陥ったり、誤解したりします。  冒頭でお伝えしたように、ぼくらは自分の頭の 中を5%しか言語化できていません。残り95%は 伝わっていないか、あやふやな表現をして誤解さ れているのです。  あらゆる問題は言語化されていないから起こる。 ぼくはそう確信しています。  何かを自分の中で検討するにしても、辿り着き たいゴールへの道のりが5%しか見えていません。 y    ケ    几  相手と合意を取りたくて話し合いをするにして も、そもそも相手も感じていることの5%しか言 葉で表現してきません。あとはなんとなく察する しかないわけです。これでは相手を理解しきるこ とは到底できません。  ぼくらは「なぜ伝わらないんだろう?」「なん でわかってくれないんだろう」と日々悩んだり、 ストレスを溜めたりしています。ですが、そもそ も言えていないんです。だとしたら、相手がわか らないのも無理はないです。  この「言語化できていない」は、ぼくらの仕事 のあらゆる場面で起こっています。そうだとする と、あらゆる問題は言語化されることでかなり解 消していくはずです。    一.111           `        一   ‐‐‐‐‐‐‐”...‘  ・ @指示通りにやっているはずなのに、    剥司が不満そう  上司から言われたことを無視してやろうと考え ている人は少ないと思います.むしろ、上司から 言われたことはやらなきやいけないと感じていま すよね。嫌々だったとしても、言われたことを やっています。  でも相手が釈然としないような表情を見せたり、 「そういうことじゃなくてさ……」とあきれ顔で 説教してくることもあります。  自分としては言われた通りにやっているので、 相手が不満そうにしていることが逆にストレスに なりますね。「なんだよ、そっちがちゃんと言わ ないのが悪いだろ……」と反発し、お互いにスト レスを溜めています。  要はやるべきことが相手に伝わっていないんで す。部下がすべきことを伝えているつもりで、伝 えていない。「自分で考えろ」と言われても、部 下は何を考えればいいのかわかりません。だから 動けない。  これは指示が言語化されていないから起きる職 場のストレスです。  ・ X部下が自分で考えて行動しない  部下は「上司からの指示が曖昧」と思っていま す。たしかに指示が曖昧なケースは非常に多いと 思います。ただし、多くの職場で上司も部下に対 してストレスを溜めています。  部下をマネジメントする立場の方は、なんで部 下が自分で考えて行動しないのか不満に感じたこ とがあるかもしれません。指示を待っているだけ じゃなくて自分から行動してほしい、いつも聞き に来るのではなく少しは自分で考えてほしい、そ んなストレスを抱えている上司は多いと思います。  ただし、これも言語化の問題なんです。部下は 自分で何かしなければいけないことはわかってい るし、何かしようとしています。でも、やるべき ことが自分の中で明確になっていません。「顧客 満足度を上げよう」と考えたとしても、実際に何 をしたら顧客満足度が上がるかがわかりません。 だから動けない。「自分で考えて動かない」ので はなく、考えたことが言語化されきっておらず、 何をしていいかわからないのです。  ・ aアンケートをもとに作った商品が    売れない  顧客が望んでいる商品を作るために、「どんな ニーズをお持ちですか?」と顧客にヒアリングを しに行きます。また消費者を集めてアンケートに 答えてもらったり、グループインタビューをした りします。そこで集めた声をもとに新しい商品を 作ります。  ですが、売れません。顧客の声を集めて作った はずなのに、売れません。そういうのが欲しいと 言った本人ですら、「なんか違う」と言って買っ てくれません。そんな経験をされた方もいるで しょう。  もちろん顧客がでたらめを語ったわけではあり ません。そのときは真面目に正直に答えてくれて いたと思います。でも買ってくれない。  これも言語化の問題です。顧客は自分が欲しい ものを正しく言葉にしていません。自分の感覚の 5%しか言語化できないので、ニーズに関しても 95%の要素が言葉で表現できていないのは仕方な いことです。    一。111     ・     ぷ。  上司が不満そう、部下が白分で考えて動いてく れない、顧客に響かない……。おそらくほとんど のビジネスパーソンが抱いているだろう課題は、 すべて「言語化」の問題です。  言語化していないから、「なぜか上司が不満そ う」なんです。言われたことをやっているはずな のに、なぜか上司から怒られる。  言語化しきれていないから、「部下が自分から 動かない」んです。さぼっているわけではなく、 思考が曖昧なので、やるべきことが具体的に見え ていません。だから、結果的に動かないんです。  言語化していないから、「なぜか顧客に剌さら ない」んです。頑張って作った商品でちゃんとプ レゼンしているのに、顧客に剌さらない。  言語化と聞くと「自分の商品を売るための短い キラーフレーズ(キャッチコピー)を作る」と思 われることが多いですが、それは誤解です。言語 化とは、キャッチコピーを作ることではありませ ん。そもそも何かを売るためだけに言葉で表現す るわけではありません。  言語化とは、「自分の頭の中にあるものを、言 葉に置き換えて、『誰か』に理解してもらうこと」 です。相手に何かを売るために言葉を伝えること もあるでしょう。しかし、売るためだけに言語化 が必要なわけではありません。  また、その「誰か」が自分であることもありま す。自分が考えていることは自分が一番よくわ かっていると思いきや、じつはそうではありませ ん。自分ですらわかっていないことはよくありま す。自分で自分を理解しようとするときも、言葉 にしなければいけません。  ・ 言語化しないと「目標の達成」が遠    −    のく  言語化しないことで起こる問題は、他人とのや リ取りだけではありません。自分の思考を自分で 捉えることができなくなり、自分の願望が実現で きなくなります。  たとえば、「いい人に出会いたい」「幸せになり たい」などの欲求も言語化できていないもののひ とつです。恋愛で、いい人に出会いたいと思って いる方は多いでしょう。でもその「いい人」つて どんな人でしょうか? 性格のことでしょうか。 社会貢献をしている人ですか? それともビジュ アルが自分好みの方でしょうか?  じつは「いい人」という要素がまったく言語化 されていないことに気づきます。  そして言語化されていないと、その「いい人」 に出会える可能性も柢くなります。どこを探せば いいのかわかりませんし、もし目の前にその人が 現れても自分ですら気づかないと思います。  目標を明確にしたら実現できるとも言われます が、その目標自体を言語化できなければ明確には なっていないのです。  仕事でも、言語化されていなければ自分の願望 は実現しにくくなります。  たとえば、自分の仕事が好きじゃない方は多い です。アメリカの(い邑七社の調査によれば、囗 本で自分の会社に愛着を持っている人はたった 5%しかいません。ほとんどの人は、嫌々会社に 行っているわけです。  仕事を楽しめるかどうかは自分次第なんてこと も言われます。実際に仕事を楽しめている人もい ます。しかし一方で、こんな嫌な仕事を好きにな れるほうがおかしいと感じている方もいます。自 分の仕事を好きになれる人となれない人で、何か 違うのかと言えば、ぼくはこれも言語化できてい るかどうかの違いだと思っています。仕事にやり がいを持てないのは、自分の仕事の価値を言語化 して捉えていないからです。  ・ 寓話から学ぶ言語化の価値  有名な「レンガを積んでいる人の寓話」があり ます。  その場を通りかかった大が建築現場でレンガを 積んでいる職人に「あなたは何をしているのです か?」と尋ねます。  I人目の職人はこう答えました。「レンガを積 むように言われたから、仕方なくレンガを積んで いる」  2人目の職人は、「自分の家族を養うために、 レンガを積む仕事をしている」  3人目の職人は、「私はいま歴史に残る大聖堂 をつくっているんです」  と答えたという寓話です。  I人目は「言われたから仕方なく」として、2 人目は「生活のための仕事として」、3人目は 「人々の心のよりどころとなる大聖堂を建ててい る」という自己認識を持っています。  この寓話は、同じ行為でも自分の捉え方や何を 目的とするかによって、意味が変わってくる、さ らには自分のモチベーションも変わってくるとい う示唆をしています。  ただ、ぼくはこれを単なる意識の問題としては 処理したくないです。その事柄に意味を感じられ ないのは、単にその人の考え方がネガティブだと か視野が狭いということではないと思うんです。  自分が行っている仕事の価値が言語化されてい ないから、本人に見えていないんです。だから無 意味な作業に見えてしまうのです。  やりがいを持て、仕事に興味を持てと語るのは 簡単ですが、つまらないものを無理やり「おもし ろいと感じろ」と言われても正直無理ですし、無 理やり「毎日充実しています」と口にしても何の 意味もありません。  マインドの前に、言語化です。言語化をし、自 分にとっての仕事の価値を言葉で捉えることがで きれば、まったく違うものが見えるようになりま す。     一{.    y一一一    ’  ・一。111        ゛  言語化とは、日本語の文章で表すという意味で はありません。言葉にすればいいということでは ないんです。  言葉にすればいいのであれば、「なんかモヤモ ヤする」というフレーズも言語化できていること になります。大事なのは日本語で表現することで はなく、自分が頭の中で描いているものと同じも のを、相手に描いてもらえるような言葉にするこ とです。  ぼくらはお互いに意思疎通しながら仕事をして います。その意思疎通は言葉でされることが多く、 ぼくらは日々言葉を交わしています。しかし、言 葉にして発しているからと言ってばくらが言いた いことが正しく伝わっているというわけではあり ません。  たとえば、自社商品をプランテインクしたいと 口癖のように語っている経営者さんがいます。自 分の商品をプランテインクできればビジネスにプ ラスになると感じてのことでしょう。それはそう 思います。ただし、その前に考えなければいけな いことがあります。それは「プランテインクとは 何か?」です。  プランテインクしたいのはわかりますが、ブラ ンディングとはどういうことを指しているので しょうか? 知名度を上げること? 他社と差別 化できること? 高額でも買ってもらえるように なること? いろんな意味があり得ますね。  プランティンクという言葉の意味を辞書で調べ ても意味がありません。大事なのは正しく表現す ることではなく、自分が表現したい「何」を言葉 にすることです。  プランティンクしたいと思っていても、実際に それが何を表しているかを自分で把握していなけ れば、いつまでたってもプランテインクはできま せん。それはプランテインクするための行動がで きないからです。  ・ 「いい感じにして」は指示ではない  ぼくはサラリーマン時代、上司から「いい感じ の資料にしておいて」と指示されたことがありま す。その上司はその言い方で指示をしたつもりで いたと思いますが、率直に言って「いい感じの資 料」では何をどうしていいのかわかりません。デ ザインの色合いがいい感じなのか、ページ数の話 なのか、クライアントがぐうの音も出ないほどの 理論武装をしておく、ということなのか。  結局このときは上司本人も「いい感じ」とはど ういうことなのか、自分でわかっていませんでし た。つまり「俺もよくわからないし、どう説明し ていいかわからないけど、とにかくクライアント が契約してくれるような資料を作れ」と言ってい ただけなのです。  ただ、ここに問題があります。上司に「いい感 じの資料にしておいて」と言われると、言葉で伝 えられたので「指示を受けた」と認識しがちです。 しかしこの日本語では言語化したことになりませ ん。上司の頭の中が伝わってきていないからです。  ほとんどの人はそのまま「よし、いい感じの資 料にしよう」と考えてしまいます。でも、そもそ もいい感じがどういう状態かがわからないので、 行動が止まってしまいます。何をしていいかわか らず、資料の色味を変えてみたり、レイアウトを 変えてみたり、統計データを追加してみたり、な んとなく「いい感じ」にしようとします。そして その方向性が上司が求めている「いい感じ」とた またま合致することを祈るしかありません。もし 合致していなければ、上司からするとあなたは。 「自分で考えずにトンチンカンな行動をしている」 と思われるかもしれません。  また、顧客に価植を提供しよう、顧客ニーズを くみ取れと言われることがありますね。しかしそ もそも「価値」とは何か? 何を提供すれば価値 を提供したことになるのか? またニーズとは? くみ取ると言っても、実際に桶を持って行って何 かを「汲み取る」わけではありません。何をすれ ばいいのでしょうか?  それがわかりません。じつは言語化されていな いんです。そして、本当は全然理解できないのに、 一応言葉にはなっているのでそれらのフレーズで 理解・納得しなければいけない雰囲気になってい ます。  会社の中で「価植を提供しろって言いますが、 そもそも価値って何ですか?」と質問しだらなん か怒られそうな気がします。「そんなこと自分で 考えろ’・」と言われそうですね。  たしかに自分でも考えなければいけないんです が、結果的に多くの現場で「価値」が定義されて いません。何を提供すればいいかわからないまま、 仕事をしています。言ってみれば、ゴールがどこ かわからないレースに参加させられている感じで す。  ぼくらは日々日本語を話し、日本語で相手とや り取りしています。慣れない外国語を話している ときと違い、自分が伝えたいことを言葉にできて いる錯覚に陥ります。しかし実際はできていませ ん。  ではどうすれば言語化できるのか? それを次 章から説明していきます。  。。 そもそも 1  ’ 「言語化」とは何か?          一。111  ’ヽ・=−  情報発信が欠かせない時代といわれます。情報 が謚れすぎているので、いくらいい仕事、いい商 品、いいサービスを作って待っていても誰にも伝 わらず、顧客に見つけてもらえません。だから情 報発信は欠かせません。  ただし特に最近は、この「情報発信」の意味が 誤解されているようにも思います。情報発信をし なければと、おもしろショート動画をアップして 注目を集めるケースがあります。再生数が爆発的 に伸びている動画もありますね。  しかしそれが爆発的に再生されたからと言って、 何か意味はあるのでしょうか?  たしかに暇つぶしのエンタメとしてはいいかも しれません。しかし、そのおもしろ動画が拡散さ れても、あなたのビジネスがそれに伴って大きく なっていくわけではありませんよね。  果たしてビジネスでの情報発信の目的はバズる ことなのでしょうか? たくさん「いいね」をも らうことなのでしょうか? ぼくにはそうは思え ません。ビジネス用の発信はビジネスにつながら なければ意味がありません。  ・ 自社のストーリーを発信することに    意味はあるか  かつて、スーパーの野菜売り場に農家さんの写 真が貼られて話題になったことがありました。そ れまでその農作物を誰が作ったかなんて考えもし ませんでしたが、そこで「この野菜を作ったのは 私です」と「顔」を出したことで、親近感と信頼 感を得て、爆発的に野菜が売れたそうです。  この例にならって、「顔」を出したり、会社の ストーリーを見せれば商品が売れると考えられる ようにもなりました。たしかに、誰が作ったかわ からない野菜よりは、生産者の想いが聞けたほう がいいような気もします。しかしそれは、「生産 者の想いを語れば売れる」こととは違います。  起業のストーリーを書けば自社のファンが増え てくれるのであれば、どんどん自社の歴史を出せ ばいい。しかし実際にはそれを出したところで興 味は持たれません。よほどのエピソードでない限 り、居酒屋で過去の武勇伝や苦労話を語っている 上司と同じような印象になります。飲みながら昔 の話をどや顔で語る上司が部下の心を掴めないの とまったく同じように、自社の過去ストーリーを 出しても基本的にはファンは増えません。  ぼくらがビジネスで自分の話をするのは、あく までも顧客のためです。顧客に何かしらのメリッ トがあり、それを理解してもらうために自分の話 をするのであれば構いません。ですが、単に自分 の話を聞いてもらいたいからと自社のストーリー を語るのはビジネスではありませんね。  ・ 流ちょうな説明が良いとは限らない  以前、車を買い替えたときの話です。ディー ラーの担当者さんが自動車保険についても提案を したいとパンフレットを持ってきました。自動車 保険には当然のように加入するつもりだったので、 ぼくもそのまま提案を聞くことにしました。  おそらく常に営業している保険内容だったので しょう、担当者さんはパンフレットとIPadの 動画解説を使いながら、非常に流ちょうにぼくに プレゼンしてきました。  ですが、ぼくは途中で話を聞くのをやめ、自分 でその場でネットから自動車保険に申し込みまし た。その自動車保険の意味がわからなかったから です。  車を運転するようになって20年以上たっている ので、自動車保険がなんたるものかは、ぼくもあ る程度わかっています。そして、自動車保険の保 険料の相場もある程度知っています。このときに 提案された保険は、一般のものよりも倍以上の保 険料だったんです。当然、なぜそんなに高いのか を聞きたいところですが、イマイチ納得いく説明 をしてくれませんでした。  この担当者さんは、とにかく「事故を起こして も安心です」「何回事故を起こしても大丈夫です」 を繰り返していました。  自動車保険は、事故を起こしてしまったときの ために加入するものです。そのため、事故を起こ したときに安心、というのはある意味当たり前で す。また、何度も事故を起こしてしまう可能性も ゼロではないですが、最初からそんなつもりで車 を運転する人はいないと思います。  この担当者さんの話は、慣れている感じで流 ちょうでした。資料もきれいにまとまっていて、 動画解説も見やすかったです。ただし、肝心の 「なぜぼくがこの保険を選んだほうがいいのか」 を伝えていませんでした。    一.111 ダ   ・.‘ぷ    一.111   ・      ’  ・ I  I     4  あなたは新しいスマホ機種の販促担当者になり ました.このスマホを世の中にPRし、販売台数 を伸ばしていくことがあなたの役割です.  では、あなたは何をしますか?  このとき、多くの方が「どうやればもっと売上 を伸ばせるか」「どうPRすればいいか」を考え ます。つまり、「どう」伝えるかに目が行ってし まいます。しかし「どう」を考えても、相手には 伝わりません。  伝えたいのに伝わらない場合、ぼくらは「この 人にどう伝えたらいいか・どう表現したらいい か」と口にします。一方で相手が思っているのは 「この人が何を言っているのかわからない……」 です。  伝える側は「どう(How)」を気にしていま すが、相手は「なに(What)」を考えています。 わからないのは「何」なんです。  もちろん、どう伝えるかも大事ですが、その前 に考えなければいけないのは「何を伝えたら買っ てくれるか」です。  ぼくらが商品を買うのは、伝え方を工夫された からではありませんよね。欲しいと思う要素が あったからです。欲しいと感じる要素がないのに、 「どう伝えたら、この商品を買ってくれるんです か?」と質問されても困ります。丁寧に説明され ようが、何度も足を運んでもらおうが、欲しいと 思う要素がなければ買いたくありません。  CMでいいイメージをつければ売れていた時代 がありました。もちろん悪いイメージを持たれる よりは、いいイメージを持たれたほうがいいです。 ですがそれは、いいイメージを植え付ければ売れ るということではありません。  コミユニケーションスキルはビジネスパーソン にとってとても重要なもののひとつです。また、 それ以前に自分の頭の中にあるものを相手に言葉 で伝えることは非常に重要です。  ですが、コミュニケーションスキルで重視され ているのは、話し方・聞き方・褒め方・叱り方な どの「HOW(どのようにするか)」です。どのよ うに話せば相手が納得してくれるか、どのように 叱ればいいか、などのやり方が解説されています。  これらは、言ってみれば「届け方」ですね。伝 えたい内容をどのように相手に届ければいいかの 話です。  もちろんそれも大事です。しかし、この「HO W」が活きるのは、届けるもの(伝えたい内容) が整っている場合のみです。伝えたい内容があや ふや、もしくは自分の意図がしっかり反映できて いない場合、「届け方」をいくら磨いたところで 意味はありません。  レストランでいえば、料理の提供方法や演出は 大事ですが、もっと大事なのは「何を出すか」で す。出す料理が決まっていない、もしくは整えら れていないのに「どう提供すればいいか」を考え ても意味がないですよね。  提供する料理が定まってから、より効果的な提 供の仕方を考えなければいけません。「何を伝え るか」が最重要なのです。     I                      一    一  f    `―   一一一 f11 S‐i‐ ’ヽ  「どう表現するか」を考えるのではなく、「何を 表現するか」を考える。それが言語化です。繰り 返しですが、言語化とは伝え方の問題ではありま せん。自分が伝えたいものは何か? 何を伝えた ら相手に響くのか、その伝える内容そのものを定 めることからが言語化なんです。  言語化の最終ゴールは、自分が頭の中で描いて いるものと同じものを描けるような言葉にするこ とです。自分が頭に描いている「相手に伝えたい こと」を言葉にすることが言語化のゴールです。 そしてビジネスシーンで考えれば、言葉にした結 果、商品サービスを顧客から正当に評価してもら うことも目的のひとつです。  言葉で表現できれば言語化できたと言えるわけ ではありません。言葉にしても相手が誤解してい たら「言語化した」とはならないし、相手に過小 評価されてしまっていたらそれも「言語化した」 とは言えません。  そのゴールに向けて、「何を伝えればいいか」 を考えることが言語化の第一歩です。ですが、こ こが完全に見落とされているケースが大半です。  たとえば、「自社のプランテインクをするに は?」という議題で会議を開くとします。自社の 商品は価値を持っているし、いいことをしている のに、どうも売上が増えていかない。それは自社 のプランテインクがされていないからではない か? もっとプランテインクするためにはどうす ればいいだろうか? そんな想いがあるのでしよ  その想いは理解できますし、自然なことです。 ですが、どうすれば自社のプランテインクができ るかの前に、何を伝えることで望んでいる「プラ ンテインク」に近づくかが自分で見えていなけれ ばいけません。それが自分たちで見えていなけれ ば、伝えようがありません。  しかし、多くのケースでそこを見ないまま「ど うすれば?」の議論が行われています。みんなで 集まってブレストをし、  ・頻繁に訪問したらどうか?  ・パッケージデザインを変えるのはどうだろ  ・テレビCMを出したら?  ・商品に希少な高級材料を使ったら?  ・有名タレントにイメージキャラクターを依頼   したら?  などの考えを出し合っています。そしてそれを きれいな資料にまとめて、「プランティンクする ために、こんな施策をします」と上層部に提案し ています。  いくら話し合っても、いくら具体的な施策やア イディアを出しても、そしてそれをいくらきれい な資料にまとめても、「何を伝えればプランテイ ンクができるか」を自分で明確に捉えていなけれ ば、その状態が実現するはずもありません。  言語化することはビジネスにとても重要なポイ ントです。とはいえ、「じやあ言語化しよう!」 と意気込むだけでは言語化できません。何からど う進めればいいのかがわからないからです。  ぼくは中2の頃から言語化の方法について関心 を持ち始め、30年以上研究をしてきました。社会 人になってからは、富士フイルム、サイバーエー ジェント、リクルートに勤め、社内の「伝わらな い’・」という問題を肌で感じていました。今では 年間500件以上の商業出版コンテンツのコンサ ルティングをして、これまで2000冊以上の出 版をサポートしてきました。また、経営者の想い を言語化、企業の商品サービスを言語化するお手 伝いをしています。  みなさん素晴らしいコンテンツ・商品・ビジョ ンをお持ちですが、それを言葉にできていません。 正確に言うと、ほとんどの方が「伝わらない言 葉」で表現していました。ご自身でも「いつも曖 昧な表現になってしまう」と自覚されている方も いれば、うまく表現しているはずなのに、相手に 全然伝わらないと不思議に思っている方もいまし た。ただ、いずれにしても、伝わる言葉にはなっ ていません。しかし、同時に伝わる言葉に変える ことで商業出版がどんどん決まり、売上が上がり、 社内スタッフのマネジメントが劇的に改善してい ます。  かなりの案件に携わっていますが、これだけの 数に向き合う過程で、言語化するための法則を見 つけることができました。  それが「P−DA(ピーダ)の4法則」です。 自分の頭の中を言語化するためには、次の4つの ステップがあります。そしてぼくは毎回クライア ントの商品サービスをこのPIDAの4法則に 従って言語化しています。 1 日的の整理(Purpose) :そもそも自分    は何のために言語化をしたいのかを考    える 2 項目を選定する(一尿ヨ)一何を伝えれば    明確に言語化できるのかを考える 3 その項目を定義する(ローコQ)一その項    目はどういう意味なのかを定義する 4 その定義が伝わる表現に当てはめる     (冫弓一了一意図した定義が伝わるフ     レースを使う  先はどの例で、自社のプランティンクをしたい ときのヶIスを考えます。最初に考えなければい けないのが、「目的の整理」です。何のためにプ ランティンクしたいのか? ですね。これはさほ ど難しくはありません。売上を上げるため、商品 の単価を上げるため、価格競争に巻き込まれない ため、などがあり得ます。  次に「項目の選定」です。言語化をしなければ いけない項目を考えます。つまりは、相手に何を 伝えれば、目的のプランテインクに近づいていく かを考えるわけですね。  序章でもふれたようにそもそもプランテインク という言葉は非常に曖昧です。みんな何となくの イメージで使っていますが、何を表現すれば望ん でいる「プランテインクができた状態」になるの かがわかりません。  たとえばプランテインクの目的が「自社商品が 価格競争に巻き込まれず、高単価にする」だとし ましよう。目的を決めたら次に、そのために何 (どんな項目)を相手に伝えればいいかに目を向け ます。可能性としては、自社商品の品質の高さを 表現する、自社が信頼できる会社であることを語 る、すごい企業とも取引があることを語る、など かもしれません。もしくは、価格競争に巻き込ま れないためであれば、他社商品との差別化を提示 することが有効かもしれません。差別化ポイント を示せば、他の商品と一緒にされることを防げる かもしれません。  そして3ステップ目は、「その項目を定義する」 です。たとえば、自社商品の品質の高さを表現す るとしても、「品質とは何か?」が定義されてい なければ言葉にしようがありません。品質とは壊 れにくさでしようか? 効果が短時間で出ること でしょうか? 手間をかけて作ったということで しょヽつか?  振り返ってみると、品質とは何か? 品質が高 いとはどういう状態なのかを厳密に考えたことが ないかもしれません。テレビなどの家電製品であ れば壊れにくさや画質、操作性かもしれません。 洋服などであれば、肌触りかもしれません。サー ビスであればミスが少ない、応対が早いというこ とかもしれません。  商品によって「品質」は違う意味になるはずで す。自社商品の場合、それがどんな意味になるか は自分で定義しなければいけません。  そして最後に「その定義が伝わる表現に当ては める」ことが大事です。「品質=壊れにくさ」と いう定義をした場合でも、単に「うちの商品は壊 れにくいです’・」と表現するだけではわかっても らえません(相手は信じてくれません)。壊れにく さを表現したいのであれば、たとえば「10年たっ ても壊れない」と時間を入れて表現したり、「1 年間の故障率がだったのO・001%」と割合で 表現したりすることがあり得ます。  同じことを伝える場合でも、それが理解しやす い表現になっていなければいけません。理解しや すいかどうかは相手が感じることなので、自分が いいと思う表現をするだけではさほどいい結果に はつながりません。自己流の表現をするよりも、 伝わりやすいフレーズに当てはめたほうがいいで す。   一。111 ダー一一… Ξ   ヽ  S    ` 一  白分が考えていることを言語化することは興味 ある。けれど、言葉をいちいち定義していくなん て大変すぎると感じるかもしれません。そう感じ るのは白然です。  もちろん、すべての会話のフレーズを定義しな ければいけないわけではありません。言語化する 目的に見合うものだけ言語化していけばいい。  そして結論から言えば、言語化の目的は「見え るようになること」です。  ぼくらは言葉でコミュニケーションを取ってい ます。そしてその前に、ぼくらは言葉で物事を認 識し、言葉で考えています。  「黒い」という言葉がなければ「黒」を認識で きないし、「もっと黒く塗ろう」という発想も持 てません。ウェルビーイングという言葉があって も、その意味が言語化されていなければ、ウェル ビーイングになることはできないですし、そもそ も自分が現在どのくらいウェルビーイングの状態 なのかも意識できません。  言葉がなければ、そもそも考える対象すら頭に 描くこともできず、感じることもできないのです。  つまり、言葉になっていないものは考えること すらできず、実感することなどはもっとできない のです。ビジネスでいえば、言葉になっていない ものは提供していないのと同じです。相手が実感 できないので、その要素自体を認識してもらえな いのです。  これは非常にもったいないことです。  そして逆にいうと、その要素を言語化できてい る企業は強いビジネスを作っています。  ・ スタバが店舗を「サードプレイス」    と言語化したことで得たもの  たとえば、スターバックスは「サードプレイ ス」という言葉で自店舗を表現しました。自宅で も仕事場でもない、自分の第三の場を提供します ということです。その第三の場では、素の自分に 戻れる場所のような気がして、ホッとできる、自 分を取り戻せる、そんなメッセージを発していま した。  サードプレイスというキャッチコピーにインパ クトがあったため、若干それが独り歩きしている 感じがあります。そしてスタバのように自社サー ビスを匸冐で表せばいいと考えている人もいそう に思います。ただ重要なのはそこではありません。  ポイントは、キャッチコピーとして匸言でまと めることではなく、自分たちが提供したい空間と その価値を言語化したところです。仮に匸冐にま とめなくても「家でも、職場でもない、自分に戻 れる場所を提供します」と文章で表現しても伝 わったと思います。  スターバックスが提供している場の価値や意味 合いを言語化していなければ、スタバは単に「お しゃれなカフェ」です。おしゃれでフレンドリー な店員さんがいるコーヒー屋さんです。おしゃれ なカフェは、それはそれで居心地がいい空間では あるかもしれません。しかしそれはあくまでも 「おしゃれなカフェ」どまりです。囗本にも世界 にも、おしゃれなカフェはたくさんありますので、 それらの店舗と同列に扱われていたでしょう。そ してスタバが本当に提供したいものは消費者に伝 わらなかったでしょう。  「おしゃれなカフェ」ではなく、「うちは『サー ドプレイス』を提供しているんです」となれば話 がまったく変わります。本来消費者は、カフェに おしゃれさだけを求めていたわけではありません。 特にビジネスパーソンはおしゃれな空間があるか らと言ってそこに行くわけではありません。  スタバは自分たちが提供しているものを言語化 したので、強いビジネスを作れているんです。  さらに大事なのは、言語化されたことでスタバ が提供していることが見えるようになったこと (認識できるようになったこと)です。それまで 「サードプレイス」なんて意識もしたことがな かった消費者が、「サードプレイス」の価値が見 えるようになり、それを求めてスタバまで足を運 ぶことになったのです。  物理的な空間自体は何も変わらなくても、スタ バの意味自体が変わります。つまり、「サードプ レイス」という言葉を提示することで、スタバが 提供したいものが見えるようになり、消費者もそ れを実感して求めるようになったということです。  言葉になっていなければ見えませんでした。言 葉になったから、スタバが提供したい本来のもの が見えるようになったんです。  ・ 「弱者の戦略」で見えるようになっ   I   たもの  また、ランチェスター戦略に「弱者の戦略」と いう言葉があります。これも言語化されているが ゆえに見えるようになったものですね。弱者の戦 略とは、業界2番手以下の企業が勝ち残るための 考え方で、簡単にいえば自分の勝てる分野に一点 集中するというビジネス戦略です。  大事なのは、業界2番手・3番手が弱者かどう かではありません。また「弱者の戦略」という キヤツチーなフレーズで表現されることでもあり ません。大事なのは、業界最大手とそれ以外の会 社は取るべき戦略が異なることを認識することで す。  この「弱者の戦略」という言葉がなければ、業 界2番手以降の会社も最大手と同じように考え、 同じようなビジネスをしてしまっているかもしれ ません。というのは、そもそも最大手はその商品 やそのマーケティング手法で結果を出しているか らです。その商品は売れているし、そのマーケ ティング戦略は当たっているのです。そのため、 他の2番手以降の会社がそれをマネしようと考え ても不思議ではありません。そしてマネしそうで す。  しかし、最大手がやっていることをそのまま取 り入れても、最大手と同じ土俵で戦ってしまい、 結果的に負けてしまいます。だから2番手以降の 会社は、弱者の戦略を取る必要がある。こう考え ることができるのは「弱者の戦略」が言語化され ているからなのです。   一l j    一.’.”’ .一= 一一       Ξ・一‐‐‐‐  八 、ダ .    一.’.”’ .一=一一             一.111  日本は観光資源が豊富で、外国人からは常に 「行きたい国」の上位に位置付けられています.  ただ、日本に住んでいるぼくらはあまりそう感 じてきませんでした.日本人の長期休みの旅行先 は、海外であることが多く、国内旅行もいわゆる 定番の場所しか思いつかなかった方も多いのでは ないでしょうか? そして日本が観光立国になる とも、なれるとも思っていなかった人が多いと感 じます。  この変化は何で起きたのでしょうか? もちろ ん、各エリアのみなさんが頑張って地域おこしを したり、政策として外国人旅行者を取り込もうと したことが前提にあるでしょう。ただ、日本の地 理や自然環境はほとんど変わっていません。今と 変わらない環境を持っていたのに、過去には外国 人を観光誘致できるとは思っていませんでしたね。 この変化は「観光資源」という言語化かあったか ら起きた変化だとぼくは捉えています。  近代化がされていない山奥の村を、ぼくらは長 い間「古臭い田舎」と捉えてきました。しかし、 観光資源という概念が言語化された後は、外国人 が(もしくは日本人も)訪れて体験したくなる歴史 的情緒に見えてきます。  これは決してポジティブに言い換えただけでは ありません。言語化されたことによって、その側 面を捉えることができるようになったのです。  以前、長野の山奥に滝行をしにいきました。こ のエリアでは外国人にも大人気の旅行コンテンツ になっていますが、滝行が観光客に人気のコンテ ンツになったのは、「滝行」の言い方を変えたか らではありません。たとえば、滝行を「スプラツ シュー」などカタカナにして言い換えても意味が ないし、「山奥と、水の冷たさと、自分」など、 ポエムのようなキャッチコピーを入れてポスター を作っても、本質的には何も変わりません。  言語化とは、「どう伝えるか」ではなく、「何を 伝えるか」です。滝行のどの部分を伝えるかがポ イントです。観光客に来てもらうためには、滝行 の「何(どこ)」を伝えればいいかを考える。た とえば、ぼくは滝行をすることでサウナと同じよ うに「ととのう」感覚がありました。それはやっ てみるまで気づかないポイントでした。温泉に来 た観光客に「ととのう」を伝えれば興味を持って くれるかもしれません。また、滝行をやる前は少 し恐怖感があり、同時にその恐怖感を乗り越えた 後はものすごい充実感がありました。  滝行には「ととのう」「今年イチの充実感があ る」などの要素があります。それを伝えることで、 より多くの人に興味を持ってもらえそうです。  いきなり人を惹きつける要素を見つけられると は限りません。ですが、「どう伝えればいいか」 ではなく、「何を伝えればいいか」に目を向ける ことで、新しい要素を発見できます。   一.111       ・ ‥‥‘”...‘  Ξ   ヽ  同様に、課題も言葉にならないと見えてきませ ん.パワハラという言葉がなければパワハラを認 識することができません.単に激しく怒られてい るという認識しかできず、怒られるのは何かミス をしたからだという理解しかできません.仕事で ミスをすれば何らかの指導がされますが、それが 適切なのか、行き過ぎなのかはわかりませんでし た。「パワハラ」という言葉があり、パワハラの 概念が言語化されて初めて見えてくるようになっ たのです。  かつて、あるベンチャー企業の経営者から相談 を受けました。その方は、人柄もよく、頭もきれ る優秀な経営者でした。しかし、なぜか人材がど んどん辞めていってしまいます。その状況を変え たくて、給料を上げてみたり、社員をどんどん責 任あるポジションに据えてみたり、人事組織の改 革なども行っていました。でも、それらを実行し たにもかかわらず、変わらず社員が辞めていきま す。  客観的に見ても、特段問題がある組織には見え ませんでした。社員たちも、経営者である彼のこ とを「いい人です」と口を揃えて語っていました。  ただ、ある社員が語った匸冐で、問題が明らか になりました。  その社員は、ぽつりと「うちの会社はみんな仲 はいいけど、一致団結する感じじゃないんです」 と言いました。その社員は、ベンチャー企業は 「社長をリーダーとして一致団結して何かを成し 遂げるようなサバイバルビジネスをするところ」 というイメージを持っていました。しかし、この 企業はそれがない。仲はいいし、社長はいい人だ けど、この社長のために何がなんでもやってや る’・ という気概が持てない、そんな話をしてい ました。  結局、この経営者に足りなかったのは「経営者 の求心力」だったんです。  それまで、「経営者の求心力」という言葉も概 念もその組織にはなく、そして経営者自身の中に もありませんでした。経営者に必要な素養として 目に入っていなかったのです。そのため、その足 りないものに気づけませんでした。  言葉になれば見えてきます。その経営者は人柄 の良さや優しさだけでなく、ビジョンを示し、メ ンバーを力強く引っ張っていくようになりました。 その結果、課題たった離職は格段に減っていきま した。  ..}  語彙力.センス不要の 芍/‐}    「すごい言語化」     一。111  ’ヽ    ・・  もっと言語化できるようになれば、自分の仕事 の質も上がり、提案がより剌さるようになり、よ り売上も増えていきます。自分が考えていること をもっと言語化できるようになりたいと思ってい る人は多いと思います。  しかし、いろいろ勉強しているのに、依然とし て自分の頭の中を言葉にできるようになったとは 思えません。  それは、そもそも言語化とは関係がない力を身 につけようとしているからです。さらにその前に、 言語化する力とは何なのかを言語化していません。 言ってみれば、何を身につけなければいけないか 不明確のまま、「何か」を身につける努力をして いるのです。これではその「何か」を手に入れら れる可能性は極めて柢くなります。  そこで改めて「言語化する力とは何か」を確認 しておきます。 舉キャッチコピーを磨く  よくある誤解として、「言語化する=キャッチ コピーを作る」という捉え方があります。キャッ チコピーとは、看板や広告、テレビCMなどで商 品を紹介するときに使われる文章(フレーズ)の ことです。もちろん、そのキャッチコピーを作る ことも言語化の一種ではあります。  しかし、言葉にしなければいけないのはそれだ けではありませんね。言語化とは「自分の頭の中 にあるものを言葉にすること」であって、看板や 広告に使うフレーズを作ることではありません。 というよりむしろ、ぼくらが必要としているのは 商品のキャッチコピーではありません。商談やプ レゼンの場で、自作した商品キャッチコピーを披 露したいと考えている人はいないでしょう。  ぼくらが求めているのは、自分が考えているこ とを会議でわかりやすく伝えたい、商談の場で顧 客に剌さるプレゼンをしたいというようなものだ と思います。  もともとキャッチコピーとは、キャッチするた め(目にとめてもらうため)のフレーズです。目に とめてもらうことも大事ですが、目にとめてもら うだけでは仕事になりませんね。それ以上に大事 なのは目にとめてもらった後に重要性を感じて、 納得してもらって、行動(購入)してもらうこと ではないでしょうか。  前提としてキャッチコピーは広告用の言葉だと いうことを再度思い出さなければいけません。囗 常のビジネスシーンでぼくらが使う言葉とは異な ります。だからそれを身につけたところで、一般 的なビジネスシーンでは使えないんですよね。  キャッチコピーは広告においては一定の役割を 果たします。たしかに印象的なキャッチコピーを つけて売上が上がった商品もありますね。キャッ チコピーをつければ、すごい効果がありそうと感 じるのもわかります。  ですが、キャッチコピーは「知っている商品を 選んでいた時代」の武器であることを忘れてはい けません。かつては、商品の知名度、会社の知名 度がビジネスにとって大きな武器でした。知って いる商品だから安心、知っている会社から買おう、 と考えられていましたよね。もちろん今でも知名 度はビジネスに有利に働きます。ですが、知って いるから買うという時代ではありません。  知名度がなくてもネットの評価が高ければ選ば れます。逆に「聞いたことがある会社」が手掛け ていたとしても、だからと言って買うわけではあ りません。現代では「覚えてもらうこと」の重要 度が、かつてに比べて相当柢下していると考える べきでしょう。そして同時に、キャッチコピーの ビジネス的な役割も相当柢下しています。 舉語彙力を上げる  語彙力が上がれば、言語化の能力が上がるだろ うと考えられることもあります。ですが、ここに も誤解があります。外国語を話す場合であれば、 単語を知らないから言いたいことが言えないとい う状態はあり得ます。ですが、今ぼくらが考えて いるのは日本語です。単語を知らないから言いた いことが表現できない、というわけではないんで す。  逆に単語をたくさん知っているからといって、 言語化かできるわけではありません。たとえば、 「すごい」という意味の言葉は、いろいろありま す。  目覚ましい、上々、輝かしい、素敵、妙妙たる、 見事、御膳上等  などです。意味合いは多少異なりますが、ざっ くり言うとすべて「すごい」という意味です。た しかに、すごいという言葉しか知らなければ、 「すごい」としか言えないでしょう。ただ、「妙妙 たる」という言葉を知っていても自分の仕事で使 えるでしょうか? そしてこの「妙妙たる」を使 うことで、何か効果を出せるのでしょうか? そ もそも相手がその言葉を理解していなければ意味 がありません。  そして、ぼくらが普段使わないような単語を頻 繁に使うと、日本語版のルー大柴さんみたいにな ります。ルー大柴さんはぼくも大好きで、唯一無 二のギャラを確立した一流のタレントさんです。 ただ、あの話し方は「ネタ」ですよね。素で使っ たらかなり変なことになります。「ネガティブな 人が何を言ってきても、聞き流そう」というフ レースを「厭世主義には馬耳東風を決め込む」と 表現したら、むしろコミカルに聞こえます。  たしかに語彙力を上げれば表現のバリエーショ ンが増えるでしょう。しかし、それで「言いたい ことが言えるようになる」と考えるのは誤解です。 舉短く表現する  Twitterに投稿すると文章の練習になると言わ れます。それは、140文字という短い文章にま とめなければいけないからです。短くまとめるの はそれだけ難しい。  ぼくもこれは実感しています。数万字の書籍の 原稿を書くときよりも、文字数制限が1000字 の雑誌コラムを書くときのほうが大変です。分量 としては圧倒的に書籍のほうが多く、それを書く 大変さはあります。しかし、1000字で表現し なければいけない難易度は書籍の執筆とは比べ物 になりません。  言語化=短く表現をすること、と捉える人もい ます。たしかに、何を伝えたいかがまとまってい ない場合、話が長くなりがちです。ただし、短く すれば伝わるということではありません。話を短 くするためには、前提として伝えたいことがすべ てまとまっていて、しっかり言葉になっていなけ ればいけません。  長く時間をかけても伝えられないのに、それを さらに短くしたらますます伝わらなくなります。 短くするのは、長い表現ができるようになってか らです。 舉これまでの言い方を変える  以前、ネットのニュースを見ていたら、こんな 記事が出ていました。  「『中途採用』という言葉をやめて『経験者採 用』という言葉にしよう。そうすれば、もっと転 職が増えて、適材適所が進みそう」  主旨をまとめると、そのような話でした。  人材の流動化を図りたいのはわかります。しか し、「中途採用」を「経験者採用」と呼び名を変 えたところで、人材の流動性は高まらないでしょ う。正直、こんな名称変更はどうでもいいです。  そもそも重要なのは、どう伝えるか? の前に、 何を伝えるか? です。転職を促すために、何を 伝えればいいのかが見えていなければ、単なる言 葉遊びをしているだけになります。  たとえば、転職の重要性を理解してもらい、転 職を促すことが目的だとします。そのために伝え るべき項目は、給料が上がること、働き方を改善 できること、自分の能力を活かせる場を見つけら れること、などかもしれません(すべて可能性の 話ですが)。それを伝えなければ、転職したほう がいいかもね、とはならないです。 舉ポジティブに言い換える  ポジティブに言い換えることが「言語化」と捉 えられていることもありますが、それも誤解です。 商品のデメリット要素もポジティブに言い換えれ ば長所になることもあります。たとえば、都心か ら離れた不便な場所にある住宅を「自然豊かな立 地」と表現したり、壊れやすいビンテージの車を 「手がかかるけど、愛着が出る車」と表現したり。  たしかに一般的なデメリット要素もポジティブ に言い換えることでその良さを感じてもらえる ケースがあるでしょう。しかしそれは、相手がそ の要素を価値として捉えてくれる場合のみ有効で す。都会もいいけど、自然あふれる環境で住むの もいいなあと思っていた人には「この物件、割と いいかも」と思ってもらえるかもしれません。で すが、通勤や利便性を重視していて「絶対に都市 部」と考えている人には、いくらポジティブに言 い換えたところで意味はありません。  マイナス側面を打ち消すために(もしくは、ご まかすために匸冐い換えをしている場合、あなた はその「マイナス側面」にとらわれてしまってい ます。本来打ち出すべき価値が他にあるかもしれ ないのに、「マイナスを消そう」という目になっ てしまっています。これは非常にもったいないこ とですね。  先ほどの住宅の「不便な場所」という要素を 「自然豊かな立地」と言い換えるのではなく、他 に価値になり得る要素がないか、本来のその住宅 の価値とは何かを考えたほうがいいです。もしか したら、「水道水がめちゃめちゃ体に良くて、ア トピーが治る」かもしれないし、「自分で野菜を 育てられる家」かもしれない。また、「意外に観 光客に人気のエリアで、部屋の一部を民泊で貸し 出せる」かもしれません。  言語化とは、言い方を変えてごまかすことでは なく、そもそも言えていない要素を言葉にするこ とです。  相手に(無理やり)ポジティブに捉えてもらう ことが大事なのではなく、まず自分が何を表現し たいか、自分が持っている要素のどの部分を言葉 にしたいかを考えることが重要なのです。 舉比喩で伝える  比喩を用いて伝えれば、自分が言いたいことが 言葉になると思われることもあります。ですがこ れも誤解が大きいと感じています。比喩は、自分 が説明したい内容を相手に理解してもらうために 用いるものです。  たとえば、(Google Homeを知らない人に、その 機能を説明するときには比喩を使ったりします。 「家の中にお手伝いロボットがいて、そのロボッ トに話しかけるだけで音楽をかけてくれたり、テ レビをつけてくれたり、いろんなことをしてくれ るんだよ」と話すわけです。  このような表現をすれば、(joogle Homeを知ら なかった人にその内容を説明することができるで しょう。ですが、比喩を使って相手に理解しても らえるのは、そもそもこちらが言語化できている 内容だけです。この例では、「(joogle Homeをお 手伝いロボットみたい)と表現していますので、 相手は「(joogle Home=お手伝いロボット)とし て認識します。この認識で問題ない場合は構いま せん。しかし、相手は「お手伝いロボット」と認 識しているので、「料理も作ってもらおう」「マッ サージもお願いできるのかな」と考えてしまうか もしれません。一方で、(joogle Homeが持ってい る別の価値(たとえばネットワーク化機能など)に 関しては伝わらないでしょう。  比喩が有効なのは、すでに自分の中で伝えたい ことがしっかり言語化できている場合に隕ります。 自分でもうまく表現できないケースでは、比喩を 使うとますますわかりづらくなってしまいます。 舉話し方を練習する  ぼくの友人にプレゼンテーションや、相手に伝 えることが苦手な人がいました。彼の口癖は「何 て言ったらいいかわからない」「説明している自 分自身がモヤモヤしている」でした。そして、ど うも伝わらないと嘆いていました。  あるとき、彼は落語を勉強しようと社会人向け の落語サークルに入りました。「話し方を学ぶに は落語が一番、落語を習えば俺も言葉で伝えられ るようになるはず」と話していました。  落語を学ぶことで話し上手になれるかもしれな い、というのはぼくも賛同します。実際、ぼくも 落語や漫談を研究して講演時の話し方を勉強して いました。ですが、落語を学んで身につくのは 「話し方」であって、「話す内容」ではありません。 ましてや落語を学べば自分が言いたかったことが クリアに言葉になるわけではありません。  本書のI章でも説明しましたが、言語化は「ど う伝えるか」ではなく「何を伝えるか」です。何 を伝えればいいのか自分でわかっていないときに、 話術を学んでも言葉は出てきません。言語化能力 と話し方スキルは別物なのです。  。111三  ‐111’     ‐111’ダ ・  ・ まずは、「何を表現するか」を明確   −  「どう伝えるか(どう表現するか)」は料理でいえ ば見せ方や盛り付けの話です。もちろんそれも大 事ですが、その前に「何を(何の料理を)提供す るか」が決まっていなければいけません。提供す る料理が決まっていないのに、どう盛り付けたら いいだろうか? と考えても何の意味もありませ ん。  また、仮に提供する料理が決まっていたとして も、その料理のどの部分を表現すれば目的が叶い やすいか見当をつけられていなければいけません。  ここを誤解してしまうと、大きく間違えてしま います。  広告やプレゼンで商品を紹介するときも、「と にかく、ドキツとするようなことを言おう」「イ ンパクトを出したい」などを考えてしまいます。 しかし、そもそもの「何を」が抜けていれば有効 な紹介になるはずがありません。  結果として、商品の要素と無関係に「有名人に 紹介してもらおう」と考えたり、とにかくリスク を示して相手の不安を煽ろうなどと考えてしまい ます。  繰り返しですが、言語化とは「どう表現する か」ではなく「何を表現するか」です。広告でも プレゼンでも、仕事の打ち合わせでも同じです。 いくら巧みな話術でスムーズに語ったとしても、 相手がその項目に興味を持だなかったらまったく 意味がありません。                  一。111  「言語化かキーたった。じやあ言葉にしよう」 と考えても、やる気や熱意だけで言語化できるも のではありません。白分の頭の中を言葉にするた めには、言葉にするための考え方を身につけなけ ればいけない。  言語化で表現すべき「何」は、白然に出てくる わけではありません。自分でそこに目を向けなけ ればいけません。  自社商品について自分の感じていることを言語 化したいと考えても、その商品を漠然と見ている だけでは何もわかりません。「この場で言葉にす べき部分」が見えないんです。そのため、ぼくら は新たな視点を養う必要があります。目に付いた ものを言葉にするのではなく、この場で理解して もらいたい要素に意図的に焦点を当て、意図的に 言葉にすることが求められます。  それをぼくは「ワードーディレクション」と呼 んでいます。つまり、言葉にするために自分の視 点をディレクションしていかなければいけないの です。それがワードーディレクションです。  「今回は、こういうことを相手に感じてもらい たい。となれば、相手に伝えるべきことは○○だ な」と、自分の視点を定めなければいけないわけ ですね。  ただ、これで終わりではありません。言葉にす べきポイントに正しく焦点が当たったとしても、 それを「相手に伝わる言葉」にできなければいけ ません。自分が好きなフレーズで語ればいいわけ ではなく、相手が理解できなければいけません。 そしてそれにはひとまず型に従って言葉にするこ とが一番早いです。  企業研修や経営者への言語化のコンサルティン グを続けていく中で、自分が伝えたい要素が伝わ るためには、このような言い方にしなければいけ ないという言語化フォーマットがあることに気づ きました。そしてそれを試行錯誤の結果、「型」 にしました。この型に従って言語化することで、 まず自分が何を言葉にしなければいけないかが明 確になり、相手にも伝わるようになります。           ・  一。111  ’    一・一  一一一    I  ビジネスで言語化できるようになれば、商品が もっと売れるようになり、顧客からの信頼も厚く なります。社内で上司から部下への指示も明確に なり、お互いのストレスは減っていきます。  そして、ビジネスでの言語化は比較的シンプル です。というのは、そもそもビジネスで言葉にし なければいけない項目はそれほど多くないからで す。プライベートのやり取りと違って、ビジネス シーンでは伝えるべき項目・相手に理解してもら いたい項目がある程度決まっています。  プライベートのコミュニケーションでは、自分 の気持ちや相手への感情、今日の気分などを相手 に伝えることもあります。ですが、ビジネスでは 基本的にそれらは不要ですよね。  ビジネスの目的は突き詰めて考えると、顧客に 対して自分が持っている価値を理解してもらい、 価値を提供すればいい。そして自社内ではその価 値を提供するためにすべきことを共通認識として 持ち、それに向けてみんなが正しく行動できてい ればいいです。個々人のその囗の気分を伝え合う 必要もなければ、自分の好き嫌い感情を言葉にす ることは必ずしも求められません。  ビジネスで伝えなければいけない項目を特定す ればいい。そしてその伝えるべき「何」が決まれ ば後はそれほど難しいことではありません。  ・ 「なぜそれを」「なぜ今」「なぜ私か    I    ら」  ビジネスにはいろんな場面があります。しかし、 大きく捉えるとビジネスで言語化しなければいけ ない項目は驚くほど少ないです。  ビジネスでは、「なぜそれを」「なぜ今」「なぜ 私から」買うべきかが示されていればいいです。 ビジネスで言語化しなければいけないものを言語 化して表現すること、これだけです。これさえ納 得度を高く伝えることができれば、ビジネスはう まくいき、顧客は買ってくれます。  逆に言うと、これ以外の話は雑談にすぎず、結 果につながりにくい要素です。商談の場での雑談 やアイスブレイクの技術を高めなきやと感じてし まうのは、重要な要素を言語化できていないから ではないでしょうか? 商談の場は、相手と仲良 くなることが主目的ではありませんね。相手が価 値を感じ、行動してくれれば、それで問題ないは ずです。  ぼく自身も個人向け、法人向け営業の経験があ り、買ってもらうためにいろんなことを闇雲に 語っていた時期もありました。しかし、当然なが ら購入の決定につながらない項目をいくらしゃ べっても、商談はうまくいきません。  天気の話でアイスブレイクしようとも言われま すが、それはそのあとの本質的な話を進めやすく するための助走であって、アイスブレイクしたら 成約できるわけではありません。いわば、結果に 影響を与えない要素なんです。  商談の場で言語化しなければいけないのは、 「なぜそれを」「なぜ今」「なぜ私から」買うべき か、です。極端な話、これらの要素が相手に伝わ り切れば、あいさつや雑談を一切せずにいきなり 本題に入ったとしても商談は成立します。         f 一.111    ‐111・ ・  .牋一一・一   一一一  「なぜそれを」「なぜ今」「なぜ私から」冒]うべ きかを語るといっても、「この商品は弊社にとっ て重要な商品だから!」「今買ってもらえば私か ノルマ達成できるから!」「私から買ってくれな いと、私の利益がないから!」では、語ったこと になりません.当然のことながら、相手が納得す るように、相手の立場に立って語らなければいけ ません。  相手が納得してくれるために、相手に伝える項 目を考えていきます。I章では「PIDAの4法 則」を説明しました。言語化するためには、まず 目的(?召O冷)を語り、その目的を達成するため に伝えなければいけない項目(ぼヨ)を言語化す る。そしてその項目を定義(9曾の)し、相手が 理解しやすいフォーマットに当てはめる(台覧し ことが重要でした。  ここで焦点を当てているのは、「伝えるべき項 目(一Iヨ)」の話です。ビジネスの目的を「商品 を販売し、顧客に貢献すること」だと仮定すると、 そのために伝えなければいけない項目は、ひとつ ではありません。結論を言えば、次の5段階に集 約されます。そしてこの5段階項目を言語化でき れば、自分の頭の中を相手に伝えることができま す。 ビジネスの言語化に必要な5段階項目   n圜囹n} 提供する価値の言語化(value)   n冒醐U 他社との差別化の言語化        (differentiation)   n圓醐U 自社の信頼性の言語化        (reliability)   nl醐U 価値が提供される理屈の言語        化(process)  n一回囹同一w 相手に取ってもらいたい行動       の言語化(action)  「5つ」ではなく、「5段階」と表現したのには 理由があります。ぼくらが自分の仕事、自分が手 掛けている商品を考えたときに、この順番で言語 化すべきだからです。  ビジネスの目的を、顧客に価値を提供すること で対価をいただくことだとすれば、まず考えなけ ればいけないのは、相手にどんな価値を提供でき るかです。価値を伝えることで「顧客がその商品 を買う理由」を理解してもらえます。だからまず 「価値」を言語化し、自分が何を相手に提供でき るかを言葉にします。これが第1段階です。  価値が言語化できたら、次は「差別化」です。 自分の商品には価値があるから買ってくださいと 言うだけでは受け入れてもらえません。顧客から してみれば、価値がある商品は他にもあります。 「なぜ、他ではなくあなたの商品を選ぶべきなん でしようか?」という問いに答えられなければい けません。第2段階で差別化を伝えることで、自 社商品に目を向けてもらえます。  ここまでできたら、次に「自社の信頼性」を言 葉で伝えます。というより、前の2つが語れたら ようやく自分のことを語っていい、という理解の ほうが正しいでしょう。  商品サービス自体が魅力的な内容であっても、 信頼できない業者からは買えません。お金を払っ たとたん消えてしまうリスクもあるし、そもそも その商品が口からデマカセかもしれません。商品 の価値を理解してもらっても、自社を信頼しても らえなければ、買ってもらえないのです。  ただ、多くの企業は顧客に価値や差別化を伝え る前に、自社のアピールをします。もちろん自己 紹介は大事ですが、自社を信頼してくれたらなん でも商品を買ってくれるわけではありません。正 直なところ、その商品に興味を持つまでは、その 商品を売っている天が誰だろうが関係ありません。 この商品はよさそう、他の商品よりよさそうと思 えてから初めて「この人から買って大丈夫かな」 が気になるんです。  自社が提供している価値が言葉で伝わり、他社 ではなく自社を選ぶ理由が伝えられ、かつ自社が 信用に足る会社だと思ってもらえれば、顧客の評 価は高まります。この3つを伝えられれば即買っ てくれるケースもあります。  でもそれだけでは不十分なこともあります。価 値が提供されるプロセスがわからないと、「興味 はあるけど、なんか不安……」となって決断して もらえないこともあります。  たとえば、「業務効率が3倍になるシステム」 の提案を受けたとします。普段の業務効率が3倍 になるのはとても魅力的です。しかもそのシステ ムは超有名な老舗システム会社が提供しているよ うです。ぜひ自社にも導入したいです。ただし、 ひとつ気になりますよね。どうやって業務効率を 3倍にするのでしょうか? なぜそのシステムを 導入することで業務効率が3倍になるのでしょう か? それがわからなければ導入できません。  いくら信頼できる企業が提供していたとしても、 「よくわからないけど、とにかく導入したら3倍 効率的になるんです」と言われてしまったら、導 入に踏み切れません。どのようにそのシステムの 価値が実現されるかがわからないからです。  「この商品が実際にどのように機能して、どの ように価値を発揮するのか」が相手に伝わらなけ れば、相手は納得してくれません。そして買って くれません。それを伝えるのが第4段階の「価値 が提供される理屈」の言語化です。  そして最後の第5段階は「行動」の言語化です。 誰かに望む行動を取ってもらいたいときに必要に なります。商談の場で、顧客に「ご検討よろしく お願いします」と伝えていないでしょうか? 本 当に言いたいのは「買ってください」ということ かもしれないのに、それを濁して「ご検討くださ い」と言ってしまう。  日本語の会話はこれで成立したように見えてし まうので、これで商談の場は終わります。ただ顧 客は「ご検討ください」と言われたので「検討」 を始めます。揚げ足を取っているわけではなく、 「検討」を依頼されたので、そのまま「検討」す るんです。そして、検討だけして購入しないんで す。申込書にサインをしてもらいたいなら、 「○×囗までに申込書のこの欄に、サインをお願 いします」と言わなければいけない。顧客が商品 のよさを納得しても、実際に購入手続きを取らな ければ、買ってくれません。  商談の場に隕らず、社内メンバーとのやり取り でも行動の言語化は必須です。メンバーヘの指示、 やってもらいたいことを言語化できていなければ 意図通りの仕事をしてもらえません。  ビジネスで必要な要素は、基本的にこの5つで す。この5段階項目を言語化できていれば、あな たが扱っている商品は顧客に正当に評価され、興 味を持ってもらえるようになります。  これは3章で詳しく説明しますが、社内で自分 の意見や感覚を言語化する際も同じです。社内で 新商品の企画を作る場合も、その商品の価値を考 え、差別化となるポイントを考える。そして自社 の信頼性や顧客が納得してくれるためのプロセス を言語化し、最後にその商品を販売していくため のアクションプランを言葉にする。  上司からの指示も言語化のポイントを押さえて 確認すれば誤解もなくなります。部下への依頼も、 あなたがしっかり言語化して伝えることでお互い にストレスなく仕事を進められます。     。牋一一・一一一一  一{。  ・  ・  ・  白社の商品をキャッチコピーで表現する必要は ありませんし、無理に短く説明することも不要で す。ましてや、「うまいこと言ってやろう」なん て考えなくていいんです。  ビジネスで顧客に販売することを目的にした場 合、伝えなければいけない項目は「価値」、「差別 化」、「自社の信頼性」、「価値が提供される理屈」、 「行動」の5段階に集約されます。  商談やプレゼン資料の中でこれらを語れればい いし、社内の会議で考えることもこの5段階項目 を言葉にしていけばいい。  ただ、これで終わってしまうと意味がありませ ん。こんなことをすればいいというある種の目標 を提示しただけで、「どうすれば言語化できるの か」がわかりません。価値を言語化しようと思っ ても、どうすればいいかわかりませんね。そもそ も「価値」とは何か? を明確に捉えているヶI スはほとんどありません。なので「価値を言葉に しよう」と思っても、どうしたらいいのかわから ないんです。  差別化や自社の信頼性も同じです。他社と違う 点を伝えれば差別化になるのか? だとしたら、 「他社と弊社は、会社の住所が違います」のよう なポイントでもいいのでしょうか? また、自社 の信頼性とは「創業○年」などの歴史を表現する ことで伝わるのでしょうか?  どちらも違います。差別化とは「他社と違う 点」ではありません。他店と看板の色が違ったと しても、それは「差別化戦略」とはいえません。 単なる相違点を出しても差別化を語ったことには ならないんです。  また業歴を伝えれば信頼性を感じてくれるとも 限りません。もしかしたら単に古い体質の企業と 受け取られてしまうかもしれません。  ではどうすればいいのか?  ここでもまた「どう伝えるか」ではなく「何を 伝えるか」が重要です。価値を伝えるためには、 「何」を伝えればいいのか? 差別化は「何」を 伝えることで理解してもらえるかを考えていかな ければいけない。  ここが難しい。  自分は伝えたつもりになっているけど、相手に は伝わっていない。そんなケースがたくさんあり ます。自分がどう思うかではなく、相手が理解で きなければいけませんね。  次の章で、顧客に剌さるビジネス要素が言語化 される考え方と、それを具体的に言葉にできる言 語化フォーマットを紹介します。  。。 「すごい言語化」を J  自分のものにする    一。111   ’ヽ ♂  ・    `―      ’   ダ・    ‐111・  白分の容姿が相手にどう見えているかは、白分 一人で判断することができません。同様に、白分 が使っている言葉が相手にどう理解されているか は、白分一人では判断できません。白分のことは よく見えないんです。  ぼくは19歳のときから本を書き始め、本書で63 冊目です。言葉だけで相手に興味を持ってもらい、 内容を理解してもらい、行動を促しています。多 くの企業案件にも携わり、企業の経営者とマネー ジャーがメンバーに発信している言葉をどんどん 変えてきました。伝わる言葉に言語化する作業は 圧倒的な量をこなしています。言語化能力を上げ るためのトレーニングがいろいろと提示されてい ますが、ぼくは経験上、まずは「型」に従うとこ ろから始めるのが最も早いと感じています。  ぼくがまず、この言語化の型に従ってほしいと 思うのは、そうすることで伝えるべき「何」が明 確になるからです。  一方で、表現が画一的になったり、他の人と同 じになってしまったりすることを懸念し、型にな らうことが嫌がられるヶIスがあります。しかし 「型に従う=他の人と同じ表現になる」というこ とではありません。  型に従えば、言語化で一番大事な「何」が明確 になります。そしてそれが明確になれば、あとは 多少言い回しを変えても構いません。その「何」 が相手に伝わりさえすればいいので、あとはそれ を自分なりの表現にアレンジしても問題ありませ ん。  すでに記載した通り、ビジネスでは5段階項目 だけ言語化できていれば、ほぼすべてのビジネス 案件に対応できます。  PIDAの4法則のうち目的汲ヘ、ビジネスで 顧客からの評価を上げ売上を立てること、としま しよう。そして、そのために顧客に対して提示し なければいけない項目口が先ほど解説した5段階 項目です。  ここまでは決まっています。ですから、ここか らは「D(項目の定義)」と「A(言語化フォーマッ トに当てはめる)」を扱っていきます。  それぞれの項目(価値、差別化、信頼性、価値提 供プロセス、相手に取ってもらいたい行動)をどのよ うに定義し、どんな言語化フォーマットに当ては めればいいかを考えていきます。         ‐一’・一.111 ず  .’心‐一一一  一一一   第1段階・V... 一.111 ’ヽ  価値を提供しなさい.  価値が高い商品を作ろう.  そんなことが日常的に言われていますね.そし て、世の中には価値がありそうな商品がたくさん 売られています。おもしろい商品、きれいな商品、 珍しいもの、豪華なもの、いろんな商品があって、 それぞれ「価値」を持っていそうです。こうなる と、何を打ち出していいのかわからなくなります。  商品が持つエンタメ性を語ればいいのか?  見た目のかわいさ、きれいさを訴求するのか?  希少性を伝えるのがいいのか?  など、どれもアピールポイントになり得るし、 どれも捨てがたい。漠然と考えているだけではど こに目を向けていいかわかりません。  そしてふと冷静に考えてみると「価値とは何 か?」がよくわかりません。定義がされていない んです。価値を提供したいのはやまやまですが、 肝心の価値とは何なのか、どうしたら価値を提供 したことになるのかがわからないのです。これは 形も色も名前もわからない見たことがない宝物を 探すようなものです。見つけられるわけがありま せん。  見つけられるはずもないのにみんな探しに行き ます。そしてみんな自分の感覚で「これが宝物に 違いない」と持ってきます。たまたまそれが宝物 のヶIスもありますが、ほとんどは外れています。 でも自分ではそれが宝だと信じているので「宝物 を持ってきたのに評価してくれない」と不思議 かっています。  これではいつまでだっても、顧客が欲しい宝物 を見つけることはできません。そして、自分の勘 で持ってきた宝物をどう表現しようと、顧客は 買ってくれません。それは価値ではないからです。  価値を表現するためには、まず価値とは何か? に目を向け、それを定義しなければいけません。  ・ 「価値」を言語化しようとすると    「素材」を語ってしまう  自分の価値を相手に伝えるとき、自社商品の素 材やスペック、技術力の高さを語ってしまうこと があります。  この商品には○○という成分が入っています’・  希少価値の高い材料を使っています’・  この技術を持っているのはうちしかありませ ん!・  このように自社商品のクオリティがいかに高い かを話し始めてしまいます。しかし、これではあ なたが提供している価値は伝わりません。という のは、相手が欲しいのは「素材」「技術」ではな いからです。  かつて、高度成長期あたりの日本では、モノ不 足で多くの人が満たされていませんでした。生活 の中に足りないものがたくさんあったので、モノ がたくさん売れていましたね。そんな時代ではお 客さんが買うことはほぼ確定していました。商品 を出せば基本的には買ってもらえた。そんな時代 に提供者側か考えるべきことは、「ライバル商品 ではなく、自社商品を選んでもらうこと」でした。 売り場にお客さんが来るのは確定していたので、 その売り場で選んでもらえればよかったわけです。  だからライバル商品と比べて「うちはこんなス ペシャルな素材を使っている」というようなフ レーズで買ってもらえたのです。  ・ 「ビジネスは相手の課題解決」だと    わかっていても、    自分目幺’から抜けられない  自分の商品のウリや価値を表現しようとする際 に、自分目線になってしまうことはよくあります。 そもそも商品の「ウリ」を考えたら、自分が相手 に売りたいポイントに目が行ってしまうのは自然 なことかもしれません。  顧客が商品を買うのは、「欲しいから」です。 エンタメ商品の場合は少し違いますが、実益的な 商品を想定すると、顧客がそれを欲しいと思うの は、「自分がしたいことができるようになるから」 です。現状、何かに困っていて、その困っている 状況を解決させるために商品を買うという発想で すね。  ぼくが在籍していたリクルート社では、これを 「不」と呼びます。不とは、不満・不安・不足・ 不便などの総称で、顧客が直面しているマイナス の状況のことを指します。そしてリクルート社で は、相手の「不」を解決するからこそ、それがビ ジネスになると考えています。  まずは自分たちが「ウリ」たいものではなく、 相手の「不」に目が向いていないといけません。 相手のどんな課題を解決するのか、どんな困った 状況を改善させてあげるのかを言葉にしなければ いけないわけです。  こう説明すると、すぐに理解して賛同してもら えるケースが多いです。そして多くの方が、顧客 の不に目を向けて自分の商品を説明しようとしま す。ただ、ここでもまだうまくいきません。とい うのは、ほとんどのケースで自分たちが提供した い「ウリ」をただ単にひっくり返して「課題」に してしまうからです。  以前、企業向けにお弁当を配達している会社さ んにコンサルティングに入りました。この会社さ んも自分目線から抜け出せずに苦労されていまし た。  その企業では無農薬の野菜にこだわり、できる だけ天然に近い素材でお弁当を作っていました。 そしてその「天然」を「ウリ」にしていました。 この企業の経営者さんも、商品担当者も顧客目線 になろうとはしていましたが、どうしても自分目 線の表現になっていました。それは、「ウリ」を 保持したまま顧客の「不」を言葉にしていたから です。そして、「無農薬などの天然素材のお弁当 を食べたいけど、買えずに困っている人が顧客」 という言い方になっていました。  これでは価値を定義したことになりませんし、 顧客が持っている課題を言語化したことにもなり ません。無添加・無農薬などを好む人は一部には いるでしょう。しかし、本来顧客は天然の食材が 欲しいのではありません。天然食材のお弁当を食 べることで、自分に何かしらのいい影響があるか ら欲しいと思うだけで、その「天然」が欲しいわ けではないんです。  自分目線から抜けられない、相手のことを考え ているつもりでも、自分が売り込みたいポイント に目が行ってしまう。こうなってしまうのは、価 値の定義が明確にされていないからです。価値を 定義しましよう。それを定義した後は、この商品 の打ち出し方がガラツと変わり、これまでとまっ たく違う表現ができるようになったのです。   ・V。。。 一。111  ’ヽ○           一 y           =一一一一 ’ヽ  白分が相手に与える価値を言語化していきます。 そのためにまず、価値の定義をします。価値とは 何か? を考えたとき、いくつかの定義があり得 ます。一番の定義は「価値は変化である」です。  つまり、「商品やサービスを通じて相手に変化 を提供できれば、その商品サービスは価値を持 つ」ということです。  通販番組やパーソナルトレーニングジムの広告 でビフォアアフターが強調されていることがあり ます。あれが「商品を買ったときに顧客が得られ る変化」です。ダイェットサプリの紹介でも、必 ずと言っていいほど「使用前・使用後」の写真が 使われますよね。もしくは「ウェストマイナス 10センチ’・」などの変化が語られています。  素材を語られてもピンとこないのは、その素材 があることによってどんな変化が得られるかがわ からないからです。漠然と変化のイメージを想起 させる素材もあります。「無添加・無農薬」と伝 えると、「なんかカラダによさそうだな」とイ メージされるかもしれません。ただ、イメージさ れるだけで、価値は伝わりません。  自社商品が変化を提供できるなら、提供者がそ れを言葉にして伝えなければいけません。  ただ当然ながら、変化であればどんなものでも いいわけではありません。人が欲しいのは「自分 が欲しい変化」です。なりたくない変化を提示さ れても嫌ですからね。  そして、もっと言うならば「欲しいけど、自分 一人では達成できない変化」です。自分で簡単に できてしまう変化であれば、誰もお金を払って商 品を買おうとしません。  ぽっちゃりしていた人が痩せる、給料が安かっ た人が高給取りになる、残業をたくさんしていた 人が定時に上がれるようになる、腰の痛みが取れ る(腰が痛かった人が痛くなくなる)など、自分が 欲しい変化があります。その欲しい変化の中で 「自分で頑張ってみたけど一人では実現できない 変化」をお金を払ってまで叶えようとしているわ けです。  先ほどのお弁当のケースでは、先方のお話を 伺ったうえで、この企業のお弁当は「無添加・無 農薬」ではなく、「毒出し」をテーマにすること を提案しました。守秘義務があるので正確には言 えませんが、従来のお弁当では体内に毒を溜めこ んでしまう、このお弁当を食べることで、デトッ クス効果が期待できる、というような話です。そ してその結果、この言語化かヒットし、このお弁 当商品の売上は3倍以上になりました。お弁当の 中身は一切変えていないにもかかわらず、価植を 言語化できたから売上が急拡大したんです。  そしてあなたの商品が、顧客が望んでいる変化 を与えられる場合、それを言葉にすれば価値を伝 えられることになります。この場合、単純に 「(この商品を使えば)Aたった人がBになる」と 表現すればいい。  説明したように相手が欲しい変化でなければ価 値にならず、また相手が自分で簡単に達成できて しまう変化は大きな価値にはなりません。ですか ら表現にもその意味を加えます。  「この商品を使えば、あなたができなかった (もしくは苦労していた)A↓Bの変化が得られま す」  というフレーズで伝えるのです。そうすれば、 相手は価値を感じてくれます。  ここで注意したいのが、変化には必ず「ビフォ ア」と「アフター」の両方の明記が必要、この両 方を語らなければ変化にはならないということで す。変化を語ることに目が向いていても、アフ ター(結果)しか言葉にしないケースがとても多 いです。  気分がよくなる、痩せる、売上が上がる、社員 同士の議論が活発になる、などなど、アフター (期待できる結果)だけ表現して変化を語ったよう に思えてしまうケースが非常に多いです。しかし、 「ビフォア」も語らなければ変化になりません。 というのは、誰を対象にした商品サービスかがわ からないからです。  「気分がよくなる」だけでは、誰向けで、どん な不快感を対象にしているのかわかりません。風 邪の症状なのか、二日酔いなのか、もっと重たい 病気なのかがわかりませんね。  売上が上がると言っても、個人事業主向けに月 10万円アップの話をしているのか、上場企業向け に月10億円上がることを語っているのかわかりま せんね。  変化は必ずbefore&afterの両方を語らなけれ ばいけません。   ・V... 一.111  ’ヽl  価値になる2番目の要素は「テンションが上が るもの」です.  白分がそれを得ることで変化する場合、その商 品サービスは価値を持ちます.でも、それは実用 的な商品サービスに限ります.高級旅館に泊まり に行って、「この宿はお金を払う価値がある」と 感じるのは、その旅館に泊まることで自分の何か の能力がレベルアップするからではありません。 スマホにダウンロードすればアルバムー枚を 2500円程度で済むのに、わざわざ1万円くら い払ってアーティストのライブに行くのは、ライ ブ会場で何か変化を得られるからではありません。  そこに行くことで自分のテンションが上がるか ら、高いお金を払ってでも行きたいと思うのです。 つまり、自分のテンションが上がるものは価値に なるんです。だから「座っているだけ、寝るだけ の宿」に高いお金を払うし、ライブ会場で聞きづ らい音楽に何倍ものお金を払うんです。  テンションの上がり方はさまざまです。ライブ やテーマパークなど、はしゃぐ系のテンションも あれば、極上空間でリラックスする静のテンショ ンもあります。いずれにしろ、自分の気分が高揚 したり、満たされたりするものは価値を持ちます。  自分の商品が相手のテンションを上げるタイプ のものの場合は、変化を伝えるよりも、その商品 を買ったあとのイメージが膨らみ妄想を抱けるよ うなことを語ることが大切です。  たとえば、(ワイに旅行できるとなったらテン ションが上がりそうです。さらに、「ワイキキ ビーチで昼寝した後に、近くのカフェでビールを 飲んだりできそうですよね」と情景を語れば、よ り相手のテンションが上がります。  ・ 「五感に訴える」とは?  相手により強くイメージしてもらいたいとき、 相手の五感に訴えろ、しずる感を出せと言われる ことがあります。たしかに文章で淡々と説明する のではなく、臨場感を持って表現できれば、より 価値が伝わるかもしれませんね。  ですが、冷静に考えてみると「五感」に訴える ことはできません。五感とは、視覚・聴覚・嗅 覚・味覚・触覚ですね。これらにどうやって訴え るのでしょうか?  視覚に訴えることはできます。では、どうやっ て嗅覚に訴えるのでしょうか? 味覚に訴えるん でしょうか? 食べ物ならわかりますが、そう じゃない場合、食べてもらうことは不可能です。  五感に訴えるというのは、単なる比喩です。五 感に訴える目的はわかりますが、五感に訴えるこ とはできません。これも言語化かされていない言 葉です。  五感に訴えるとは、相手に妄想してもらうこと だと理解しましよう。相手に「この商品を買った ら、私はこんな感じになるかなあ……」と妄想し てもらうこと、それが五感に訴えることです。  相手に妄想してもらうためには、イメージ(映 像・画像)で示すほうが効果的です。ダイレクト に相手が妄想を見ることができます。ただ、最終 的に映像・画像で表現するにしても、どのポイン トを提示すれば相手がいい妄想をしてくれるかは 言葉で整理しておかなければいけません。  そうでないと、単にきれいな写真を使ったり、 背景をぼかしたア上アイスディックな映像を使え ばいいと考えてしまうことになります。まずは、 相手はどんなことにテンションが上がるか、顧客 はどんな妄想を抱きたいか(どんな世界に憧れてい るか)を言葉で示しましょう。   ・V... 一.111  ’ヽ一    f・M・111      ヽ‐‐‐‐=’・ ・  人が感じる価値の3つ目は、「提供者の異様な までのこだわり」です.  提供者のこだわりが異様に強い場合、そこに価 値を感じます.たとえば、以前、超高級納豆を生 産者さんが直売していました.ひとつ1000円 でしたので、一般的な納豆と比べて20倍以上の値 段です。なぜそんなに高いのかを生産者さんが 語ってくれましたが、正直あまり意味はわかりま せんでした。しかし、彼の熱狂ぶりは十分伝わり、 話を聞きながらぼくはどんどん彼の熱意に興味を 持つようになりました。  本来、ぼくが買うのは納豆なので、納豆がおい しいかどうか、1000円を払う価値があるかど うかが重要なはずです。そして、生産者が熱狂し ているかどうかはあまり関係ないはずです。です が、そこまでの異様なこだわりを見せられると 「おもしろそうだから買ってみる」と感じます。 消費者側か理解できないほどの熱は価値になるん です。  農作物でも生産者の想いが詰まっている場合、 面白さを感じますね。そしてそのこだわりを自分 も体感してみたいと感じることがありますね。も ともとはそんなに欲しいと思っていなかった商品 でも、生産者の異様なこだわりを聞いた後は、そ れが欲しくなる。  この「こだわり」は、前の2つの価値とは違い、 実際には顧客に得はありません。相手が勝手にこ だわりを持っているだけで、それは本来自分には 何も関係ないはずです。それを買っても特に変化 は得られません。生産者がこだわりを持っている だけで、自分がそれを手に入れたときにテンショ ンが上がるわけでもない。でも相手が異様にこだ わりを持っているものは、その異様さを体感した いと感じ、価値を感じるのです。  価値の3つの定義を説明しました。これらが価 値になり得るものです。そして逆にいえば、これ ら以外は価値にはならないということです。  いくらいい素材を使っていたとしても、  ・それが顧客が欲しい変化をもたらさない  ・それを使っているからといって、顧客のテン   ションが上がるわけじゃない  ・あなた自身もその素材に強いこだわりがある   わけではない  としたら、その素材は単に「いい素材」なだけ です。価値ではありません。  かつて会社勤めをしているとき、主婦向けのサ イトを運営する事業部に異動になりました。みん な一生懸命にクライアントに提案し、朝から晩ま で働いていました。ただ、ぼくにはそのサイトの 価値がまったく見えてきませんでした。要は、こ のサイトつてどんな意味があるの? と感じてい たんです。  そこで、異動して1ヵ月くらいたったとき、先 輩社員に率直にこのサイトの価値とは何か? を 質問したんです。その人は半分あきれた顔で「こ のサイト便利でしよ。それが価値」とだけ言いま した。  このフレーズを聞いたとき、ものすごい違和感 を抱いたのを覚えています。しかし、ぼくも違和 感をどう伝えていいのかわからなかったので、そ のまま会話を終えてしまいました。  サイトが便利なのは結構なことですが、便利な サイトはネット上にごまんとあります。価値があ るサイトの使い勝手がいいのはうれしいです。し かし、価植を表現せずにただ「便利です」と言わ れても誰も使いません。  以前、Webマーケティングのセミナーに出た ときにもこんなことがありました。  講師の方が、顧客の注目を集めるために、価値 あるコンテンツを発信すべきだと熱く語っていま した。たしかに価値あるコンテンツを出したほう がいいのはその通りです。でもその「価値あるコ ンテンツ」とは何なのかがわかりませんね。  会場からその「価値あるコンテンツ」について 質問が出た際、その講師の方は、「価値あるコン テンツとは、お客さんにとっての『いいこと』で す」と答えました。  この講師の方が言いたいことはなんとなくはわ かります。でもなんとなくしかわかりません。む しろこのセリフを聞くと余計混乱し、価値とは何 かがまったくわからなくなります。  顧客にとってのいいことが価値になるのであれ ば、店舗の立地や内装の快適さ、商品パッケージ のデザインなど、顧客が気に入りそうなものはす べて「価値」になります。これはおかしいです。 もしそれらが価値なのであれば、店舗の内装が快 適であることに対して顧客がお金を払っているこ とになります。快適さは必要です。でも顧客は商 品の価値にお金を払うのであり、店舗の快適さに 払っているわけではありません。  たしかに顧客にとってのいいことが増えれば、 その商品サービスに対する印象はよくなっていく でしょう。ですが、それが決め手になりますか? パッケージのデザインがいいから買うのでしょう か? つまらない商品を扱っていても、立地が良 ければお客さんが来てくれるのでしょうか?  そうではありません。「お客さんにとっての 『いいこと』」は、顧客にとって「あったらあった でいいけど、なくても特に気にしないポイント」 です。それを並べたところで、顧客は選んでくれ ません。つまりそれは顧客にとっての価値ではな いということなんです。  ・ 「なぜ?」を繰り返しても本質は見    えてこない  「なぜ?」を5同繰り返して自分に問いかけれ ば、物事の本質に辿り着ける、という言い方もあ ります。何かトラブルが起きたときに、表面的に 理解してその都度対処するのではなく、それがな ぜ起きたのか? またその原因はなぜ生まれたの か? その原因の原因はなぜ発生したのか? な どを深く考えていくという思考法です。  この思考法は、トヨタ社の現場で作られたもの で、モノづくりの現場で課題を解決するためには 非常に有効です。トラブルを表面的な解決で終わ らせず、トラブルが起きた原因の原因までたどっ て根本治療をしていくために大切な視点です。  ただし注意点があります。この「なぜ?」を繰 り返す場合、正しく「なぜ?」を繰り返していか ないと、どんどん方向性がズレていってしまうん です。  たとえば、この数年、ぼくは筋トレをかなり頑 張っています。自分でやりたいからやっているだ けですが、それでは伝わらないので、「なぜ?」 を繰り返して本質を探っていきます。 O 筋トレを始めた それはなぜ?(なぜ筋ト    レを始めたのっ・) 0 健康体になりたいから それはなぜ?(な    ぜ健康体になりたいのっ・) O 痛風を防ぎたいから(ぼくは痛風持ちなんで    す) それはなぜ?(なぜ痛風を防ぎたい    の?) O (ワイで水上バイクをしたいから それ    はなぜ?(なぜ(ワイで水上バイクをやりた O 壮大な景色の中で(ワイの風を感じたい    から それはなぜ?(なぜ(ワイの風を感じ O 普段は感じられないから それはなぜ?    (なぜ普段は感じられない?) 0 日本にはなかなか無い景色だから それ    はなぜ?(なんで日本にないのっ・) そんなの知りません。地理的、歴史的な事情じや ないですかね。  7同「なぜ?」を繰り返した結果、ぼくが筋ト レを良いと思っているのは「地理的・歴史的な事 情じやないですかね」という言葉に辿り着いてし まいました。これが正しい答えじやないことは明 らかです。  そして、お気づきになりましたでしょうか? 最初の4回のなぜは「目的」を問うています。一 方で、後半3回のなぜは「理由」を探る問いに なっています。  なぜを繰り返せば本質に辿り着けると考えるの は誤解です。正しく問い続ければ正しい答えが見 つかります。ですがほとんどのヶIスでは正しく 問いかけすることができず、答えも違うものに なってしまいます。そして、正しく問いを立てる のは非常に難易度が高い。知らない間に別の方向 に頭が行ってしまいます。  「なぜ?」を繰り返して本質に辿り着くのは非 常に難しいです。トヨタがこの考え方で本質に辿 り着けたのは、現場が目の前にあり、考える対象 が絞られていたからだと感じます。トラブルの現 場が目の前にあったり、物理的な対象物がある場 合は「なぜ?」を適切に繰り返すことができます。 たとえばこんな流れです。 ■作業が中断されてしまった なぜ? ■必要な備品が手元に揃っていなかったから なぜ? ■作業前に揃えておかなかったから なぜ? 毎朝のチェックリストから漏れていたから  ここまで考えることができれば、作業が中断さ れた理由が「チェックリストからの漏れ」である ことに気づけます。そして適切な行動を取ること ができます。それは問題の原因が目に付きやすい からです。  ですが一方で、商品が思ったほど売れない、植 引きを要求されてしまう、などの「課題」の場合 は、想定される原因がいくつもあり得ます。それ らの原因の中で妥当なものに目が向いていなけれ ば、考えを進めたところで意味がないんです。  ・ 顧客は、自分か欲しいものを言語化    していない  「顧客に何か欲しいか聞けば『より速い馬が欲 しい!』と述べただろう」  これはヘンリー・フォードの言葉です。この言 葉は、顧客は自分自身で何か欲しいかがわかって いないという状況説明に使われます。ご存じの通 リ、フォードは「もっと速い馬」ではなく、自動 車を提供しました。顧客に欲しいものを問いかけ た場合、出てくる言葉は顧客が想定できるものの 範囲内です。当然ながら、自動車がない時代に 「自動車が欲しい’・」とは言えないわけです。  スティーブージョブズもこのフレーズを引用し、 同様の主張をしています。その結果、完成したの がIPhoneですね。  顧客は自分で欲しいものがわかっていません。 自分のことは自分が一番わかっているはずですが、 自分の感覚を明確に言葉で認識している人はかな り少ないです。顧客から「こういう商品が欲し い」といわれても、その言葉をそのまま受け取る のではなく、あなたから「現状のこんな状態を、 このように変えることをご希望でしょうか?」な ど、価値を例示する言葉を出し、認識を揃えま  しかし、多くの企業が素材や自社の技術を価値 と捉えて、その視点から抜け出せていません。こ れまで自分の商品を素材推し、技術推しでしてき た場合、これからもついつい自分たちの要素の質 の高さに目が行ってしまいがちになります。そう いう思考パターンを変えるには、要素を起点にし た変化に着目する手法を取ります。  たとえば、自社商品が採用している生地がイタ リア産で超特注のレアものだとしましょう。たし かにすごそうですが、一般消費者的には「すごそ うですね」くらいしかわかりません。おそらく価 格と見合った評価はしないでしょう。希少価値が あることは理解できたとしても、顧客は自分に とって価植がなければ買ってくれません。  このときに自分の思考を変えるためには、「だ としたら、どういう変化を相手に起こせる?」と 問いかけることです。  うちの商品は、イタリア産の超特注生地を使っ ています  ←  だとしたら、どういう変化を相手に起こせる?  このように発想すれば、自分の推しポイントを 起点にして価値を言語化することができます。そ の素材を使うことで、相手に与えられる変化をま ずリストアップしていきましよう。  たとえば、  「めちゃめちゃ肌に優しい素材なので、肌荒れ に悩んでいる人でも毎日着られて、むしろ肌質が 改善していく」  「誰も着ていないような特徴的な素材なので、 大人数が集まる場で目立てなかった人が、注目を 集められるようになる」 などです。         ・7 ・ 一.111 ず  .’心‐一一一  一一一  第2段階  一    一.111  ・ ヽ  ・ ぼくらが素材や技術を強調してしま    う本当の原因  あなたは、自社商品を顧客に売り込むとき、ど のように差別化を伝えていますか冫・ あなたの部 下は、顧客に差別化ポイントを明確に伝えられて いますか?  ぼくらが自分の商品サービスを買ってもらいた いと考えるとき、自分の要素に目を向けがちです。 そして素材を伝えたり、自社技術を解説したりし ますが、それは価植にはなりません。自社が持っ ている素材や自分が掲げている理論はあくまでも 価値を発揮するための材料にすぎません。その材 料を強調しても、顧客は「買いたい」とは思いま せん。  また、多くのシーンで商品の提案が、自分目線 の売り込みになってしまっています。もちろん誰 も「自分目線になろう」とは思っていませんし、 顧客の立場になって考えたいと考えています。し かし結果的にほとんどのヶIスで自分目線から抜 け出せていません。  ではなぜ自分目線になってしまうのでしょう か?  それはライバルとの「差」を考えているからで す。普段からライバルを研究したり、ライバルの 商品サービスを注目しています。それ自体は自然 なことですし、重要なことでもあります。  しかし、ライバルを見るのに慣れてしまうと、 いつの間にかライバルとの競争になってしまいま す。ライバルがこれをやってきたから、うちはそ れを上回るようにしなきや、ライバルがこの素材 を使っているからうちはもっといいこっちの素材 を使おう、と考えるようになってしまうのです。  本来、ビジネスの目的は顧客に価値を提供し、 対価をいただくことです。企業は顧客を見るべき ですよね。そして、顧客が望んでいるものを提供 することが「ゴール」のはずです。しかし、ライ バルを意識するがあまり、ゴールを見ずに、横の ライバルを見ながら走っているような感じになっ てしまう。そして、横を見ながら走っているので、 いつの間にかゴールからそれて全然違う方向に 走っていってしまうこともあります。そんな企業 は多いのではないでしょうか?    弓。 ‐111・              ヽ  正しく言語化できていれば正しく見えてきます し、正しい行動につなかっていきます。そして同 時に、間違った言語化かされてしまうと、間違っ た認識がされるようになります。そして間違った 認識は、ぼくらに間違った行動をさせます。その ひとつが「付加価値」という言葉です。  何か新しく商品サービスを提供したり、業績改 善案を考えようとすると、「付加価値」という言 葉が頭に浮かびます。既存の商品と比べて、より 付加価値がある商品じゃないと、と考えるわけで す。  もちろん、既存商品より価値が高いものでなけ れば、新しく出しても市場で勝てません。ですが、 「付加価値」が必要かというと、必ずしもそうい うわけではありません。  付加価値を出さなければと考えるとき、多くの ケースで「付け加える」ことを考えています。付 加価値がそういう文字(漢字)なので、どうして も何か付け加えることが必要だと思ってしまうの です。ただ、何か付け加えられたからと言って、 欲しい商品になるわけではありませんね。  たとえば、テレビの新機種を開発しているとし ましよう。付加価値を出すために、これまでのテ レビになかったカレンダー手帳機能をプラスする とします。テレビを見ているときに、今週・来週 の予定を通知してくれたり、秘書さんのように時 間を教えてくれる機能を追加しようと考えました。  ぼくが知る限り、この機能は既存のテレビには なく、新しいです。新しい機能を付け加えたまさ に「付加価値」です。  ですが、この機能を欲しがる人はいるでしょう か? この機能があるから、このテレビを選ぼう とする人はいるでしょうか? この機能をつける ことでテレビの新機種の売上が伸びるとは到底思 えません。  付加価植を提供しようとすると、どうしても何 か新しく付け加えなければいけない、という発想 になってしまいます。新機種を出すたびに「何か 付け加えなきや」と思っていると、だんだん無理 やり考えた機能を付けることになります(むしろ すでに電化製品の世界はそうなっているかもしれませ ん)。  これは、その人の経験や能力がないからではな く、「付加価値」という悪い言語化によって発想 をミスリードされた結果です。    ”ヽ。‘ぷ    I  。   e  差別化を意識したとき、よく登場するワードが あります。「USP(ユニークーセリングープロポジ ションー独白のウリ)」です。独白のウリがあれば、 他社と差別化できて白社の商品を選んでもらえる という発想です。もともと海外から入ってきた考 え方で、入ってきた当時は多くの企業がUSPに 目が向いていたように思います。  たしかに、独自のウリがあれば、選んでもらえ る理由になるでしょう。ただし結論から言うと、 この考え方はとても危険です。どう危険なのか? なぜ危険なのか? それを解説します。  ビジネスを始めるときに、この「独自のウリ」 が必要だとよく言われます。たしかにそうだろう なと、納得感があります。ライバルと似たような ものを並べていてもお客さんは来ませんからね。  独自のウリを「正しく」持つことができれば、 ビジネスに有効でしょう。しかし、「独自性」に しろ、「自分だけ」にしろ、お客さんを見なくな る可能性が高くなります。  「独自」「自分だけ」を考えるときに意識してい るのはライバル商品ですよね? ライバル商品と 比較して、「こんなことをやっているのは自分し かいない」と言っているわけです。  しかしそれは本来顧客には関係のないことです。 その商品を売っているのがあなただけだろうが何 だろうが、顧客には関係ありません。顧客が欲し いものは「顧客自身が欲しい商品」であって、 「あなたしか提供していない商品」ではありませ ん。  たとえそのような商品が世の中にまったくな かったとしても、不要であれば買いません。ライ バルもいないかもしれませんが、顧客もいなくな ります。これは「ユニーク」なのではなく「ア ローン(巴O罵)」の状態になるだけです。  商品を買ってもらうときに、まず大事なのは 「相手が欲しいと思うものを提供すること」です。 仕事をするときに大事なのは、まず「相手が望ん でいることをすること」です。要は、自分がオン リーワンかどうかの前に、それを相手が望んでい るかを考えなければいけないわけですね。  USPという言葉は、自分がオンリーワンであ りさえすれば相手が評価してくれる、商品が売れ るという誤解を招きやすい。  ぼくらに必要なのは、「自分しか売っていない もの」ではありません。相手が欲しいものを自分 しか提供していなかったら、それは本当の意味で のUSPになります。  この視点の入れ替えがとても大事です。でも視 点を入れ替えてもまだ終わりではありません。多 くの方が次のステップで同じミスをします。  そもそも、差別化は(違い谷節〜g)を打ち 出すこと」ではありません。差別化は英語で 「E才3乱吐呂」で、違いを打ち出すこと的な ニュアンスがあります。しかしそれでも差別化は 「違いを打ち出すこと」ではありません。ここを 誤解してしまうと、差別化を打ち出しているつも りで、まったく別のものを表現してしまうことに なります。  ぼくは本を書く作家でもありますが、同時に出 版社も経営しています。出版業界では、他の本と の「差別化」をかなり重要視していて、「これま での本とどこが差別化できるか」を常に考えてい ます。  かつてぼくの出版社で本を出すとき、編集を担 当していたメンバーから差別化のための作戦を聞 きました。  「この著者の過去の本や、同ジャンルの本と差 別化するために、今回はイラストレーターを変え ます。イラストをガラツと変えれば差別化できる と思います」  その本の著者さんはこれまできれいめなイラス 卜を多く使用していました。その方の好みなので しょう。今回も同じようにきれいめのイラストを 使うと、これまでの本と同じ印象になってしまう、 だからイラストのテイストをガラツと変える、と いうことでした。  ただ残念ながら、これは差別化ではありません。 イラストを変えたからと言って差別化はできませ ん。イラストを変えることでできるのは「区別」 です。イラストを変えれば、他の本と区別できる ので、過去の本と間違われることはないでしょう。 でも区別できれば買ってもらえるわけではありま せん。  差別化は、区別してもらうために行うものでは なく、「別の商品ではなくあなたの商品を選んで もらうため」に行い、そのような要素でなければ いけません。   ・  =一一一一’  ・ ’     y一一一             一   f  先日、新しくテレビを買いました。家電量販店 には何十台もモデル機種が並べられていて、どれ もすごく画質がきれいです。どの機種も同じよう に高性能で、サイズ以外はすべて同じに見えます。 おそらく、テレビを買いに来たほとんどのお客さ んがサイズ以外は白分に合ったものを選べないで しよう。  店員さんに声を掛けると「液晶と有機ELはど ちらがご希望ですか?」と聞かれました。ですが、 ぼくはその2つの区別がつきません。それぞれの 特性を教えてもらいましたが、それがぼくの生活 にどう影響するのかはわかりませんでした。  その他にも店員さんは丁寧に教えてくれます。 この機種はYouTubeやNetflix' ABEMAのボタ ンがついていてすぐ見ることができる、とか、こ の機種は非常に薄型で場所を取らない、とか。ど の売りポイントも意味はわかれど、ぼくには響き ませんでした。  さらにいえば、最近の機種はどれもネットにつ ながり、どの機種も簡単操作でYouTubeなどを 見ることができます。そして特に薄い機種でな かったとしても、だいたい薄いです。つまり、ど の売りポイントも「五十歩百歩」なんです。他社 よりも少し優れているところを猛烈にアピールさ れますが、その機種でなくても許容範囲です。と なれば、その機種でなくてもいいし、「この点が あるから選んでもらえる」という差別化ポイント にはならないんです。  これと同じような経験、あなたにもあるのでは ないでしょうか?  差別化は「他の商品との違い」ではありません。 また、「他の商品と比べて優れている点」でもあ りません。差別化とは、「他のものではなく、あ なたのその商品サービスを選んでもらうために打 ち出すもの」です。そして選んでもらうために必 要なのは、  「その目的は、他社商品では手に入れられませ ん。うちの商品であれば手に入れられます」  を言葉で伝えることです。他社商品では顧客が やりたいことができない、うちの商品だったらそ れができると伝えることが肝なんです。  こう捉えてみると、かなりすっきりと見えてき ます。先ほどの「イラストを変えて差別化を図 る」といわれても意味がわからないですね。「他 と比べて格段に薄いテレビ」も「テレビが格段に 薄いことで、できるようになること」がわからな ければ、惹かれるはずもありません。    ・    .. J‘ダ ー.111  ここで言葉にしなければいけない要素は3つで す.  1 相手の目的(あなたは〜〜〜がしたいです     よね?) 2 その目的が他社商品で手に入れられな    い理由(それは他社商品では手に入りま    せん。なぜなら〜〜〜だからです) 3 その目的を自社商品で叶えられる理由    (うちの商品であれば実現できます。なぜ    なら〜〜〜だからです) もちろん嘘をついてはいけませんし、不当に他 社商品を下げてはいけません。事実として「他社 商品ではできないが自社商品にはできる」という ことを伝えるのです。これが差別化を伝えるため の言語化フォーマットです。  言われてみれば当たり前のことかもしれません が、この3つが言葉で表現されているケースはほ とんどありません。多くの場合は、「うちの商品 は最新の技術を使っています」「希少なこの材料 を使っています」など、ライバル商品との違うポ イントしか語っていません。  最新の技術を使っていようがいまいが、顧客は どっちでもいいはずです。顧客が気にしているの は、その商品に価値があるかです。言い方を変え るならば、  その商品を買えば、自分が欲しかった変化が得 られるか、自分のテンションが上がるか  です。顧客は自分が求めている価値がそこにあ るかを、まず気にします。そして、その価値を 持っている商品を探していますね。もしその価値 を実現できるのが、あなたの商品だけであれば、 顧客はそれを選んでくれます。ただし、そのこと を明確に伝えなければならない。  「A社とは違います」とだけ伝えても、顧客は わかりません。というのは、顧客自身もじつは自 分が欲しい価値を具体的に把握していないからで す。なので、提供者側から「こういうことしたい ですよね?」と話題に出さなければいけない。そ うじゃないと顧客は自分が望んでいることに気づ かないんです。  たとえば、リビングテーブルにテレビ、DVD、 FireTVなどのリモコンがたくさん並んで いた状態を煩わしく感じていた人は多いと思いま す。でもそれを「ひとつにまとめたい」という欲 求は消費者からはそんなに上かってきません。単 に「リモコンがたくさんあって邪魔」とは感じて いたと思いますが、そういうものだと思っている ので「リモコンをひとつにしたいなあ」は言葉と して出てこないんです。  顧客の願望は提供者が言葉にしてあげなければ いけません。そして、「それをやりたいんだった ら、他社商品では難しいです。うちの商品であれ ばそれができますよ」と伝えてあげれば、顧客は あなたの商品を差別化して認識するようになりま す。         ・7 ・ 一.111 ず  .’心‐一一一  一一一  第3段階一一一 ダ ー.一.’ 一.111 ・ .  たとえば、あなたが北海道や北陸など、雪がた くさん降るエリアに家を建てる計画をしたとしま しよう.家を建てることに慣れている素人はおら ず、わからないこともたくさんあります.そのと きに、家のデザインやプランを作ってもらう建築 家は信頼できる人にお願いしたいですね.  ではこの場合、「信頼できる」とはどういう側 面でしょうか?  一般的に信頼できる人かどうかは、嘘をつかな い、優しそう、お願いしたことを漏らさずにやっ てくれる、メールの返信が早いなどの要素で判断 するかもしれません。しかしこの場合、優しそう だからと言って信頼できるとは言えなさそうです。 メールのレスポンスが早くても、それが決め手に はならなそうです。  一般的な意味での信頼ができる人だったとして も、もしその人が南国にしか住んだことがなく、 雪国の家をプランしたことがなかったら、どうで しよう?  雪国の家は詳しくないけど、人がよさそうだか ら大丈夫だよ、とは考えないと思います。人柄や 仕事ぶりも大事です。しかしビジネスでの信頼性 はそれ以上に大事な要素がある。そこに目を向け なければいけません。  ・ 『少年ジャンプ』の最後のページに    載っていた広告  子どもの頃、『少年ジャンプ』を毎週欠かさず 読んでいました。毎週月曜日の発売が本当に楽し みで、学校から帰ってからすぐに書店に買いに 行ったのをよく覚えています。  そしてその『少年ジャンプ』の最後のページに 載っていた広告を「こんな商品があるんだなあ」 と毎回友達と面白がってみていました。そこには、 「お金持ちになれる水晶」とか「女性にモテモテ になれるブレスレット」とか「身長を伸ばす機 械」が紹介されていました。  それぞれそれなりの値段がしましたし、まだ子 どもだったので、その広告を見て購入検討はしま せんでした。単に面白い商品が紹介されている、 という感覚しか持っていませんでした。ですがビ ジネスを始めてからは別の見方をするようになっ ています。その商品が珍しいものか、自分が欲し い結果を出してくれそうかという以外に、その商 品を売っている人が「ちゃんとしているか」を見 ています。  ちゃんとしているとは、服装が整っているとか、 詐欺っぽくないかとか、そういうことではなく、 「その価値を本当に提供できる人なのか」という 意味です。相手が欲しい変化を与えますと言えば、 興味は持ってくれます。お金持ちになれます、モ テますなどのプライベート欲求でも、いい人材が 採用できます、顧客の声が見えるようになります などのビジネス欲求でも、相手が望んでいる内容 を示して「この商品を使ったらできますよ」と提 示すれば興味は持ってもらえます。  でも興味を持ってくれるからと言って、買って もらえるとは限りません。その人・その商品に 頼って成果が出る保証がないからです。  広告に書いてあるからと言って、その内容を鵜 呑みにする人は少ないです。営業担当者から「御 社の課題を解決できます」と言われたからといっ て、それだけで信じることもないでしょう。  相手(の商品)がそれを本当に実現できるか、 すぐには信用できません。まず、相手の実績やこ れまでの利用者の声を聴いてみたくなりますよね。 通販番組でも必ずと言っていいほど「お客様の 声」が紹介されています。  その商品が価値を持っていれば買ってもらえる わけではありません。その商品がうたっている価 値が本当に実現されるか、相手は気にしています。 そのためそれも併せて言語化しなければいけませ ん。   ‐.一.‐  ....      ダ ー.111  結論を言えば、信頼性を相手にわかってもらう ために目を向けるべき要素は2つです.  1 これまでの自社実績、成功事例  2 自分がその商品を世の中に広めたい理    由  自社のこれまでの実績や業歴、商品を導入して くれたクライアントの数を伝えたり、それらの顧 客に成果が出たという事例を声とともに伝えれば、 お客さんは安心します。それだけの経験があれば 今回も大丈夫だろう、と考えるわけですね。そし て、先ほども紹介したように実際にこの過去実績 は多くの広告や通販番組で提示されています。  そしてもうひとつ、自分自身の想いを言葉にす ることで、あなたの信頼性は上がっていきます。 あなたは何か商品を買うときに、どちらの人を信 頼し、安心できると思うでしょうか?  A)その分野が流行りそうで、成長産業だと聞 いて参入してきた人  B)ずっと前からこの商品の重要性を感じてい て、その活動に従事してきた人  ビジネス的に、成長分野に参入するのは自然な ことですし、悪いことではありません。しかし 「この分野が成長産業で、儲かりそうなので始め ました」といわれても、「なるほど、ではあなた の商品は安心できますね」とはなりづらいと思い ます。  一方で、「じつは私自身、過去にこういう悩み がありまして、それをずっと自分一人で克服しよ うと頑張ってきたんです。周りでも同じように感 じている人がたくさんいて、この悩みを解消でき る商品があったら絶対にみんなが喜ぶと思ってい たんです。だから今その商品を手掛けているんで す」と言われたらどうでしよう?  実際には同じ品質の商品を持っていたとしても、 AとBでは、顧客が抱く信頼性が違います。  信頼性を伝えることを考えたとき、経営者の誠 実さを語ったり、社会活動を報告したりしようと 考えられるケースがあります。もちろんそれらは 大事なことだと思います。ただし、社会活動をし ているからと言って、その企業の商品サービスの 質が高いか、それを買ったら顧客が望んでいる価 値がしっかり提供されるかと言えば、そうではあ りません。残念ながら、慈善事業を多くやってい るとうたっている企業のサービスが詐欺まがいで ある事例も、ぼくらは目にしたことがあります。  つまり、人のよさをアピールすることが信頼性 につながるわけではないんです。         ・7 ・ 一.111 ず  .’心‐一一一  一一一   第4段階・V...= ・.一    一.111  「この壺を買ったら、あなたは幸せになれます」  これだけ言われて、その壺の効果を信じる人は まずいないと思います.なぜでしょう? なぜっ て、壺を買ったくらいで幸せにはならないでしょ、 と思うかもしれません。でも一方で、同じくらい 高価な宝石を買って幸福感を抱く人はいます。こ の違いは何でしょうか?  壺も宝石も飾りです。何にも使えません。見る だけのものです。何かに使うことができないとい う意味では同じです。  しかし壺を買っても満足しないし、幸せにはな れないと感じます。それはなぜでしょうか?  価値の提供プロセスが見えないからです。  「壺を買う↓幸せになる」という図式のはずで すが、壺を買うことで、どんな作用が起きて、ど ういうプロセスで「幸せ」の状態が実現するのか まったくイメージできません。「この壺を買った ら、幸せになれますよ」という日本語の意味はわ かりますね。しかし、途中過程が見えないので、 その価値を信じることができません。  一方で、宝石はそのイメージができます。  宝石を買うと……    ↓お金持ちになった気分を味わえる    017自分の価値も上がったような気がする    017一流の女性に見られる  などの想定があります。そして、それが自分の なりたい女性像に重なっていて、「宝石を買う↓ なりたい自分になれる↓幸せになれる」という図 式が成立しています。だから宝石を買ったら幸福 感を得られる。  壺も宝石も単なる物体です。それを「使う」こ とはしません。単なるモノです。でも壺は怪しく、 宝石は怪しくない。それは効果が出るプロセスが 見えるかどうかなんです。  壺の例は極端かもしれません。ですが、一般的 なビジネスでも同じようなことはよく口にされて います。  会社のビジョンを示せば、従業員の離職率が下 がる。  この人事システムを入れれば、社員の能力が見 える化できる。  会議室のイスをなくせば、会議が活性化される。  どれも一理あるとは思いますし、実際にその価 値があるものもあると感じています。しかし、 「○○をすれば××になる」の間が見えません。 ○○を取り入れることで、どのような流れで変化 が生まれていくのかを示さなければいけないので す。   ・V 一一一一一 I  一    ■      ・  一。111  価値を言語化するだけでは不十分で、その価値 がどのように実現されるかも言語化しなければい けません。そして「どのように実現されるか」は、 価値が提供されるステップを明示すること、そし て各ステップがどのような意味を持つかを明示す ることです。  先はどの「幸せになる壺」のように、幸せにな るステップがまったく見えないものはいくら価値 を言語化しても相手は買ってくれません。信じら れないからです。信じてもらうためには、壺を 買って部屋に置くことで、空気中に○○という成 分が放出され、その成分が精神を落ち着かせて、 その周りにいる人の幸福感を高め……など、幸せ にしてくれるステップを紹介しなければいけない のです。  社内の活性化を促すシステムに関しても同様で す。「このシステムを導入すれば、社員の顔が見 えるようになって、残業時間が20%減ります」。 こんなフレーズで紹介されても意味がわかりませ ん。社員の残業が20%減るのはうれしいことです ね。価値は理解できるし、残業を減らしたい会社 にとってはぜひ導入したいシステムかもしれませ ん。ただし、これだけ言われても意味がわからな い。どうやって残業が減っていくのかそのプロセ スがまったく見えないのです。  システムを導入する   ↓〜〜〜がこんな働きをする   ↓社員の顔が見えるようになる   ↓×××がこのように変わる   ↓残業が減る  というような流れを伝えることが必須なんです。  そして、このときに合わせて考えなければいけ ないのが「各ステップの意義」です。「社員の顔 が見えるようになる」と言われても、それがどう いう意義なのかがわかりません。  そもそもこの表現はかなり曖昧です。社員の顔 が見えるようになると言っても、もともとみんな 覆面をかぶっていたわけではありません。オフィ スのパーテーションが高すぎてみんながどこにい るかわからなかったわけでもありません。この場 合はおそらく、それぞれの社員の個性(向き・不 向き)を把握できるようになる、社員がいま不満 に感じていることがわかるなどの意味かと思いま す。  そう考えると、だんだん見えてきますね。しか し、まだわかりません。仮に「社員がいま不満に 感じていることがわかる」という意味だったとし ても、それがどのように残業削減につながるのか がわかりません。残業を削減するために、社員が 不満に感じていることを知る必要があるのか、そ れを知ったら残業が減るのかわかりません。  ステップを明示するとともに、各ステップがな ぜ必要なのか、どのような役割を果たすのか、そ の意義を伝えなければいけません。そしてそのス チップと意義を聞いて、「なるほど、もしそう だったら価値が提供されるだろうな」と相手が納 得してくれて、初めてあなたの提案を受け入れて くれるわけです。         ・7 ・ 一.111 ず  .’心‐一一一  一一一   第5段階一二回          I   り  一.111  ’ヽ  自分が提供しているものの価値が発揮され、十 分に価値を感じてもらうためには、相手に適切な 使い方をしてもらわなければいけません.薬もそ うですが、用量や用法を間違えると適切な効果が 出ませんよね.多すぎれば害になりますし、少な すぎれば効果を感じられません。顧客に意図した 行動をしてもらわないといけないんです。  でも、ここを伝えきっていないヶIスはよくあ ります。ぼくは30代後半あたりから、痛風が発疱 しています。自分としてはおとなしく生活してい るつもりなんですが、なかなか尿酸値が下がらず、 いつもお医者さんに薬をもらいに行っています。 そこで毎回のようにお医者さんに言われるのが 「規則正しい生活をしてください」「健康的な食生 活にしましよう」ということです。  もちろん意図はわかるし、方向性は理解してい ます。ですが、規則正しい生活をしてくださいと 言われても、どう行動したらいいのかわかりませ ん。健康的な食生活に変えるためには何をしたら いいのかもわかりません。結局、何をどうしてい いかわからないんです。  そのため、「毎日夜H時までには寝る」「毎日水 をI・5リットル以上飲む」「お酒を飲む日は週 に2日まで」などと決め、自分なりに規則正しい 生活・健康的な食生活を実践しています。  ただしそれでも尿酸値は下がりません。いろん な要因があるかもしれませんが、確実に言えるの は、お医者さんがしてくれるアドバイスをぼくは 実行しきれていない、ということです。  「規則正しい生活」が寝る時間のことでなく、 仮に食事をとる時間を毎日固定させるということ だとしたら、ぼくは何も医師の指示に従っていな いことになります。もちろん詳細を確認しないぼ くもいけないのですが、せっかく正しいアドバイ スと指示をし、本来であれば改善させられていた はずの症状が治らなかったら、医療行為の価値が 柢下してしまいますね。  相手に取ってもらいたい行動を伝えるのは当然 のことと思われるかもしれません。しかしながら、 多くの「指示」が相手に取ってもらいたい行動を 示していません。行動ではなく、ゴールやスロー ガンを提示しています。  先日も電車の中で上司が若いメンバーに仕事の アドバイスをしていました。部下のことを思って、 親身に接していることは伝わってきましたが、伝 えている指示がかなり曖昧でした。  「顧客の意図を汲んで、先回りして行動したほ うがいいよ」  「そのために、今度顧客の課題をヒアリングし て、ニーズをキャッチしな」  残念ながら、この上司の方は部下に何もアドバ イスをしていません。上司が伝えたのは「あなた はいずれこれができるようになってください」と いう「あるべき姿」を示しているだけです。つま リゴールを示しているだけで、どうすればそれが できるようになるかを伝えていないんです。  このように普段の仕事現場でされているほとん どの指示・アドバイスは、単にあるべき姿を提示 しているだけで終わっています。  あるべき姿を示されると、なんとなく指示を受 けたような気になってしまいます。しかし、実際 にはどうやってそこまで辿り着けばいいのかがわ かりません。地図も持たずにゴールだけ告げられ て放置されているのと同じ状況です。  同じようなやり取りが、いたるところで発生し ています。多くのセミナーやコンサルティングの 場で受講生に「やり方」を教えています。ですが、 ほとんどが「やり方」ではなく「あるべき姿」を 教えています。たとえば、恋愛講座だったら、  「魅力的な人になりましよう」  「相手に気を使いましよう」  「自信を持ちましよう」  と語られます。  でも、それは恋愛に成功するためのやり方では なく、恋愛に成功する人が備えている「あるべき 姿」を語っているだけです。  どうすれば魅力的な人になれるのか? どうす れば相手に気を使えるようになるのか? どうす れば自信を持てるようになるのか?  それを語らなければ教えたことになりません。    ●・  f    一II    ・]:=  一y      一一 ・   ヽ  この「伝えたつもりで、何も伝えていない」と いう現象は行動科学でも指摘されています。行動 科学では、曖昧な言葉をやめ、具体的な言葉で指 示を出さなければいけないと語られています。そ して具体的にするためには指示を「行動」で伝え ることが有効としています。概念やイメージでは なく、その人が取る「行動」で伝えれば、誤解な く伝わるということですね。  そして曖昧さを取り除くために、次の要素を盛 り込んだ表現をすればいいと定義されています。  ・ I Measurable](計測できる)  ・ 「observablej(観察できる)  ・ I Reliable J(信頼できる)  ・ f Specific](明確になっている)  この4つの要素の頭文字を取って「MoRsの 法則」と呼ばれます。このMoRsの法則に当て はまるものは、具体的な行動であるという定義で す。これだけだと意味がまったくわからないので、 少し意味を補足します。  ・ コMeasurable J(計測できるかどうか)一その   行為は、数えられる/数値化できているか  ・ 「○bservablej(観察できるかどうか)一その  行為は、誰が見ても、どんな行動をしている  かわかるか ・「r回弍り」(信頼できるかどうか)一その行為  は、誰が見ても、同じ行動だと思えるか ・「g19」(明確になっているかどうか)一誰  が見ても、何をどうするか明確になっている  か それぞれこのような意味になります。  なんとなく意味はわかる気がします。そしてM ORSの法則に完璧に従って指示出しをすれば、 非常に具体的な表現になることも理解しています。  しかしですね、難易度が高すぎるんです。この 法則を知ったからと言って、これまでの曖昧な指 示を具体的な行動指示に変えられるかというと、 かなり疑問です。よほど認識能力が高い人でない 限り、この法則を意識しながら相手に指示を出す ことはできないでしょう。  そのため、作戦を変えます。MORSの法則を 意識するのではなく、別の言い方にしましよう。 相手に指示を出すときに、伝える表現は「練習メ ニュー」と捉えたほうがわかりやすいです。  「顧客の意図を汲んで、先回りして行動したほ うがいいよ」ではなく、  「顧客の意図を汲んで、先回りして行動できる ようになるために、練習として毎日これをしよ う」というとしたら、どんな項目が入るでしょう か?  練習メニューなので相手が日々できることでな ければいけません。しかも練習なので、それを繰 り返していけばやがて「あるべき姿」に近づいて いきます。その結果、やがて部下は、顧客の意図 を汲んで先回りして行動するようになるのです。  もちろん、練習メニューの表現にしたからと 言ってすぐに100%適切な行動になるわけでは ありません。ですが、練習メニューは「練習」の 表現になっているので、正しく練習しているか、 間違っているかは周りがチェックできます。  ぼくは長年ビジネスシーンでの言語化のコンサ ルをしてきました。そこでは、指示を聞いても実 際に何をしていいかわからないという悩みが非常 に多いです。指示が曖昧、指示が「あるべき姿の 提示」になってしまっていて、聞いているほうは 何をしていいかわからないという状態になってい ます。  伝えたつもりになっても、自分が意図した行動 を相手がしていなかったら意味がありません。練 習メニューを提示するという視点で、相手にして もらいたいことを表現してみてください。あなた の意図が驚くほど言語化でき、相手の行動が驚く ほど変わっていきます。   一       すごい言語化で 4  「意味がある言葉」を   。 作る   弓。      一。111        ヽ ・   に  ・  言葉で表現したからと言って言語化できたわけ ではありません。白分が伝えたいポイントが相手 に伝わらなければいけません。さらにその前に、 白分が何を伝えたいかが明確になっていて、意味 のある言葉になっていなければいけません。  社内で飛び交っている会話、上司からの指示を 思い出すと、多くの会話で伝えている言葉が不明 確だということに気づきます。日本語では曖昧に 表現することや、相手が言いたいことを察するこ とが日常的なので、なんとなく伝えて、それをな んとなく察して、お互いに意思の疎通をなんとな くしています。  その結果、明確に伝えなければいけないビジネ スシーンでも表現が漠然としたままだったり、実 際には何も意味を持だない(何も表さない匸言葉 を使ってしまったりします。 たとえば、 ・魅力を伝える ・気持ちを整える ・自分軸で生きる ・チームをまとめる ・業務効率を上げる ・PDCAを回す などは、具体的に何を指しているかわからない 言葉です。これらはすべて「動詞」で、普段何気 なく使っている言葉も入っているかもしれません。 しかし厳密に考えると、何をすることを指してい るのかまったくわかりません。  意味がわからない言葉になってしまう理由は3 つです。  I.言葉の定義をしていないから  2.示す範囲が広すぎるから  3.比喩を使っているから I言葉の定義をしていないと、日本語なのに まったく意味がわからなくなります。  ・魅力を伝える  ・業務効率を上げる  魅力とは何でしょう? そもそも何か「魅力」 になるのでしょう? 業務効率は何で測るので しようか? 資料をすばやく作れば業務効率が上 がったようにも思いますが、その資料がそもそも 無意味なものだったら、すばやく作ったところで 「無駄な仕事をスピーディにやっただけ」です。 −示している範囲が広すぎると、意味がわか らなくなります。  ・チームをまとめる  ・PDCAを回す  チームをまとめなければいけないのはわかりま すが、どんなときに、どんな風にまとめればいい かがわかりません。チーム一丸となってとも言わ れますが、ランチの場で一丸にならなければいけ ないわけではありません。打ち合わせ時に「一 丸」となるのも狙いからは外れているように思い ます。  PDcAは「Plan(計画)↓{}o(実行)↓n 冨沁(検証)↓y巳目(対策)」の頭文字ですが、 これも何のポイントについてPDcAを考えれば いいのかわかりません。営業の仕方をPDCAを 回して検証するといっても、営業行為のどの部分 をPDCAすればいいのかわかりません。営業担 当者の服装でしょうか? 話し方でしょうか? 資料の色使いでしょうか? 自分の仕事のやり方 についてPDCAを回そうと考えても、何をして いいかわかりません。メールの出し方を検証すれ ばいいのか? 計画の立て方か? 上司への報連 相か。  もしかしたらそれら全部かもしれません。もし くは、まったく別のものかもしれません。要は 「PDCAを同そう」というフレーズだけでは、 検討要素が全般にわたってしまい、実際には何を していいかわからないのです。 −比喩を使うと、意味がわからなくなります。  ・気持ちを整える  ・自分軸で生きる  本棚を整えたり、部屋を片付けたりすることは できます。でも気持ちを実際に「整える」ことは できません。気持ちは触れないし、整えられない からです。気持ちを整えるとは、自分の中にある 複雑な感情を散らかった部屋などに例えて、それ を整理しようと表現しています。つまり、比喩な んです。ですが、実際には散らかっているモノの ようには、気持ちは分類したり整理したりはでき ません。「整える」は例えであって、実際にやっ ていることは、「諦める」や「優先順位をつける」 や「怒りが鎮まるまで、何も言わず待つ」という ことになります。  また「自分軸」も比喩です。他人の意見や評価 に惑わされず、自分が大事にしていることを貫く という意味合いでよく使われます。ただ、頭から つま先まで、お団子のように「軸」が刺さってい る人はいませんね。体の軸が整っている人はブレ ないという印象から「自分軸」という言葉になっ ているのかもしれませんが、その体の軸という言 葉ですら比喩です。  例えなので、自分軸を身につけようと伝えても、 相手は何をしていいかわかりません。我が道を通 すという意味合いに解釈した人は、自分の意見を 主張していくでしょう。仮に売れなくても自分が 好きな商品のみを売り続けるのも自分軸を通して いることかもしれません。どちらも悪くはないで す。しかし、この「自分軸で生きよう」と表現し ている人は別の内容を意図しているかもしれず、 もしそうだとしたら意図はまったく伝わっていな いということになります。  比喩を使うことがいけないのではありません。 比喩を使っても、そのあとに意味をしっかり言語 化できていれば問題ありません。いけないのは、 比喩を使って伝えた気になってしまうことです。  言葉の定義をしなければ、何を語っているのか 曖昧になります。定義は一般的に「○○とは×× のことである」という表現でされます。ただ、そ れだとかなり難しいです。いい表現を思いつかな いとそもそも定義自体ができません。そこで、 「定義の仕方」自体の定義を変えてみましよう。  定義するとは、必要条件をあげること、と捉え なおしてみます。たとえば、「安心安全の場を用 意しよう」といわれます。ただ、安心安全とは何 か? が定義されていません。なのでこの言葉を 定義します。  このときに「安心安全とは○○のことである」 と匸冐で言い換えようとすると非常に難易度が高 くなるので、「どんな要素があれば、安心安全に なったと言えるか」の条件を出します。小難しく 言うと「それが満たされるための必要条件をあげ る」ということです。  あなたが頭の中で抱いている「安心安全」の状 態になるためには、どんな要素が入っていなけれ ばいけないでしょう?  ぼくはたとえばこんな要素をイメージしていま す。  I.周囲の人が、あなたの考えを否定せず、た だ聞いてくれる  2.あなただけでなく、周囲の人も自分の考え を発言している  3.自分の考えを変えるかどうかは、その場で 決断を迫られない  これがぼくがイメージする「安心安全の場」で、 この3つが安心安全のぼくの定義です。もちろん 人によってこの定義は変わりますし、変わって問 題ありません。大事なのは、どんな要素を満たし ていれば「それ」と見なすかをリストアップする ことです。  そして自分が考えている要素(条件)を相手に 伝えれば、相手もその基準で捉えることができま すね。  ビジネスシーンでも同じです。  「ロイヤルカスタマーの心理を分析しなさい」 と指示を受けたとします。自社にとって大事なお 得意様がどんなことを感じているか、どんなニー ズがあるか、どんな商品なら買いたいと思うか、 それを分析しなさいという意味かなと思います。  ここでも、ロイヤルカスタマーとは? の定義 が必要です。上司が思うロイヤルカスタマーと、 あなたがイメージしたそれが合致しているとは限 りません。たくさん買ってくれた人、という捉え 方は危ないです。どの程度がたくさんなのか、 「たくさん」とは回数のことか、金額のことか、 これまでの年数のことか、人によってイメージが 違うからです。  そこで「ロイヤルカスタマー」と認定するため の条件をリストアップして、確認を取る必要があ ります。  ロイヤルカスタマーとして認定するための条件 (必要要素)を、  ・毎月I回以上、買ってくれる  ・毎月1万円以上買ってくれる  ・その状態が1年以上続いている  としましよう。この定義を上司に伝え、上司も 同じ定義をしているかまず確認を取ります。もし かしたら、上司は「過去に一度でも10万円以上の 商品を買ってくれた人」と捉えているかもしれま せん。  ・ 定義と具体例は違う  物事の定義をしなければいけないときに、具体 例を挙げてしまうことがあります。たとえば、 「南国リゾートとは、どういうものを指してい る?」と聞かれたとします。このときは、自分に とっての南国リゾートの定義を伝えなければいけ ません。ですがここで、「南国リゾートは、「ワ イとかグアムとか沖縄とかです」と具体例を出し て終わってしまうことがあります。  これは定義になっていません。相手は出された 具体例の共通点を探ってなんとなくイメージする しかできません。  定義とは、それが満たされるための必要要素 (必要条件)をあげることです。どんな要素があれ ば、そこが自分にとっての南国リゾートになるか を伝えなければいけませんね。  ぼくにとっての南国リゾートとは、  I.きれいな海があること  2.(夜はともかく)昼間はプールか海に入れる こと  3.晴天率が80%以上であること  です。きれいな海がなければ、南国リゾートと 言いづらいのはイメージいただけるかと思います。 また、海がきれいでもめちやくちや冷たくて入れ ないエリアがあります。そこはぼくにとっては南 国リゾートではありません。さらには、雨が降っ てしまってはリゾート感がなくなってしまうので 晴天率は重要な要素です。  ぼくはこの3つの要素が備わっていれば、海外 でも国内でも「南国リゾート」になり、次の南国 リゾートの旅行先の選択肢に入ります。  一方で、ぼくはそれほど買い物をしないので、 ブランドショップはなくても構いません(人に よっては、買い物ができないと南国リゾートに来た気 がしないと感じるかもしれません)。ぼくにとっての リソートは、買い物好きの人には「やることがあ まりない単なる海辺」に見えそうです。南国リ ソートヘの旅行に誘ったとしても、人によって定 義が違うので、ずれが生じてしまう。これでは言 語化して伝えたことにはなりません。  具体例を出すと、それだけで伝えた気になって しまいますが、実際にはどの要素を重視している かが伝わっていません。  ぼくらは会話の中であまり「その言葉の定義 は?」と質問しません。そのため、あまり厳密な 定義を考えたことがありません。「定義は?」と 問いかけると相手も困惑したり、もしかしたら 怒ったりするかもしれません。そうなりそうなと きは、「定義は?」ではなく「どんな条件の人 (どんな場合)を考えればいいでしょうか?」や 「欠かせない条件はありますか?」と聞くと、ス ムーズに答えてくれます。  ・ 「幸せになりたい」と言っている人    は、幸せになれない  わりと多くの人が幸せになりたいと口にしてい ます。しかし、そもそも「幸せとは何か?」を自 分で理解していなければ、なれるはずもありませ ん。幸せとはどういう状態なのかが自分でわかっ ていないので、何をしていいかわからないんです。  どんな項目があれば「幸せ」になるのでしょう か? お金があれば? 最愛のパートナーがいれ ば? (ワイに住めれば? 自分が好きな仕事が できていれば? よくわかりませんね。  幸せを考えるときに、どんな項目に目を向けれ ばいいのかが見えていなければ、幸せになる努力 もできません。  そのため、幸せを定義しなければいけません。 どんな条件(要素)が揃えば、幸せになったと言 えるのでしょうか?  お金があって、毎日おいしいものを食べられる  と条件をあげたとしましょう。幸せをそのよう に定義したわけですね。もちろん、この定義は各 個人のものなので、正しい017間違っているという ことではありません。  ただその条件が意図通りにあげられているかは 確認しなければいけません。  「お金があれば」のお金があるという状態は、 どんな経済状態を指しているでしょうか? 「お 金がある」を言葉通りに受け取ると、1円でも 持っていればいいことになります。1円も立派な お金ですからね。もちろん、1円持つことを意味 しているのではないことはわかります。では、い くらなのでしょうか?  たとえば「年収1000万円」「不労所得で毎 月50万円」など、自分が幸せを感じるための「お 金」を表現する必要があります。  揚げ足を取っているのではありません。「お金 がある」という条件は、実際には何も指していな いことに気づかないといけないんです。何か正 解・不正解ということではなく、大事なのは「な んとなくの表現」で終わらせないことです。  実際にみなさんがドラゴンボールを7つ集めて シェンロンにお願いできるとしても、「お金をく ださい!・」ではシェンロンはいくら出していいの かわかりませんね。   ▲−     f                         ゛     一。 Ξ Ξ ゛  欲しいものが手に入らないときは、言葉の定義 から見直すのがいいと思っています。というより、 成果が出ないのは、能力や知識が足りないのでは なく、目指すゴールの定義が曖昧、もしくは間 違っているからだとぼくは考えています。  たとえば、多くの人が「将来安心していられる ための資産が欲しい」と思っています。そして。 ゴツゴツお金を貯めています。でも多くの人が、 老後が安心か問われると「不安だ」と答えます。 思考は現実化する、目標を明確にすれば手に入る、 という前提にたてば、これだけ長い間「安心でき るための資産が欲しい」と考えていたら手に入り そうな気がします。しかし、ほとんどの方がいま だに「安心して生活できるだけの資産」を手に入 れられていません。  なぜか?  それは定義が間違っているからです。本来意図 しているものと違う定義をしてしまっているから、 願っている状況が手に入らないのです。  多くの人が「お金=資産」と思っています。た しかに会計上、現金は「資産」の項目に分類され ます。ですがぼくらが「資産が欲しい」という場 合は、会計上の分類の話をしているわけではない ですよね。会計上資産に計上されているものであ ればなんでもいいわけではないです。  お金が資産だと思って、お金を貯めようとして いるんです。そして、そう考えてしまっているか ら、将来安心できるだけの資産を手に入れられな いとぼくは感じています。  ちなみに、ぼくの中での定義では、お金は資産 ではありません。会計上は「資産」に計上されて います。でもそれでもお金は「資産」ではないと 捉えています。  ここで言いたいのは「お金がすべてじゃない」 ということではありません。ぼくが言いたいのは、 「お金は大事。それは間違いない。でも、お金は 資産ではない」ということです。  ・ 「資産」の定義を考える  そもそも資産の定義は何でしょうか? いろん な定義があるかもしれませんが、ぼくの定義は 「お金を生み出すもの」です。有形であれ無形で あれ、お金を生み出してくれるものはぼくにとっ ては資産です。  お金自体が資産なのではなくて「日々お金を生 み出すもの」が資産です。その定義でいえば、お 金は資産ではなく、お金をいくら持っていても将 来安心できる資産は増えていきません。  日本人は「いざというときのために」とお金を 貯めようとします。ただ、ある程度貯まった後も 不安は消えません。なぜなら「お金‥資産」と捉 えてしまっているからです。お金が資産であれば、 お金を使うことは自分の資産を減らすことになり ますね。せっかく資産を貯めたのに、それを使っ てしまったらまた減ってしまう。この状況が許容 できないのです。  しかしまた、何かあったらお金を使わなきやい けなくなります。そう考えてしまうと、「いつか 減ってしまう、なくなってしまう」という不安は 消えないことになります。だから将来安心できる だけの資産が欲しいと常に願いながらも、ずっと 安心できないのです。  ぼくはお金自体ではなく、お金を生み出すもの を資産と捉えていて、ずっと「資産」を構築する ことに集中してきました。投資用の不動産もたく さん持っていますし、お金を生み出すビジネスも 持っています。仮にキャッシュが手元になくても、 明日お金を生み出すものをたくさん持っていたら 構いません。だからぼくは将来安心できるだけの 資産を築くことができたんです。  お金(キャッシュ)を投資して運用できる人に とっては、キャッシュは資産です。でもダンス預 金をしているだけだったら、いくら貯めてもそれ は資産ではありません。ダンスに入れておいても、 お金は増えませんからね。  将来安心できる資産がなかったとしたら、定義 のズレを確認しましよう。定義がズレているから、 目的が達成されないという可能性が十分にありま す。  ・ 「社内の言葉」を定義する  ぼくらが仕事で日常的に使っている言葉は定義 がされていないことがよくあります。たとえば、 「組織の活性化のためには、社員同士の円滑なコ ミュニケーションが必須だ」と言われたりします。 一見して特に違和感がないフレーズかなとも思い ますし、このフレーズに賛同される方は多いで しよう。  ですが、よくよく考えてみると、このフレーズ は何を言いたいのかよくわかりません。つまり内 容が言語化されていません。  「組織の活性化のためには」とありますが、組 織の活性化とはどういう状態でしょうか? 「組 織の活性化とは何か?」が定義されていないんで す。もしあなたの組織内でこのような曖昧な言葉 が使われていたとしたら、これから何をすべきか、 どこに注力したらいいかをメンバーが共通認識と して持つことはかなり難しいでしょう。  組織が活性化するというのは、お互いの意見を 言い合えることなのか、新しいアイディアが出て くることなのか、単に売上が上がることなのか、 わかりませんね。どれも正解な気がしますが、相 手がどれを指しているかがわかりません。そして、 自分がイメージしているゴールと相手がイメージ したゴールがズレてしまう可能性は十分あり得ま す。  また、円滑なコミュニケーションとは何でしょ うか? どうすると「円滑にコミュニケーション をした」ということになるのでしょうか? そし てそもそも何をすることが「コミュニケーショ ン」なのでしょうか?  コミュニケーションカを身につけることが必要、 といわれます。ぼくも企業研修でコミュニケー ションを題材に取り上げることもありますし、 「コミュニケーションカ」は重要だと感じていま す。しかし、その重要な「コミュニケーション 力」が何なのか、厳密に説明できている人は多く ないです。  これも揚げ足を取っているのではありません。 実際に内容がわからないんです。社内のコミュニ ケーションが不足しているから、もっとコミュニ ケーションを取ろう’・  と言われたとします。あなたは明日から何をし ますか? お互いにあいさつすることが大事なの か、報連相をこれまでの倍の頻度でやればいいの か、Zoomの会議の前後に雑談をして相手の昨 日の食事を聞けばいいのか。  繰り返しですが、定義がされていなければ何を していいかわかりません。そして何をしていいか わからなければ行動できずに結果が変わりません。 「もっとコミュニケーションをしよう」という日 本語にはなっています。しかし言語化はされてい ないんです。  コミュニケーションとは何か? 何をしたらコ ミュニケーションしたことになるのか? その必 要条件をあげることが第一歩です。「毎朝、メン バー全員とあいさつをする」かもしれないし、 「お互いが我慢していることを伝え合う」、「これ くらいは言わなくてもわかるという内容も伝え る」かもしれません。  そしてその定義ができたら、それに向けての練 習メニューを考えます。もともと、普段やってい ないこと(できていないこと)は、何かしらの障害 があるからやっていないんです。そのため、「や ろう」と決めるだけでは実行に移せません。練習 が必要なんです。  「お互いが我慢していることを言い合ってくだ さい」と言われてもすんなりはできませんね。そ もそも言いづらいから我慢しているので、ルール 化されたところですんなり言えるようになるわけ ではありません。我慢していることを言えるよう になるための練習メニューを提示して、日々その 練習を繰り返すとしたら、どんなことを提示する でしょうか? その練習メニューを提示すること で、意味が不明確な言葉に意味を与え、明確にで きます。     一。 ・    一    一                       Ξ       一  「経済を同す」という言葉があります。「経済を 同す」ことは、国の大事な仕事のひとつです。で もこの「経済を同す」の定義が、なかなか曖昧で す。そして何をしたらいいのか、何をすることが 「経済を同すこと」なのかよくわからなくなって います。  よく言われるのが「経済を回す政策=国民の所 得を増やす政策」というイメージかなと感じてい ます。個人レベルでいえば「経済を回す行為=散 財をすること(単にお金を使うこと)」でしょう。  辞書的な意味でいえば正しいです。ですが、ぼ くはどちらにも違和感がありました。というより、 それらを実行しても、自分や周りが望んでいる結 果は得られないのでは? と感じていました。  でも何をしていいかわかりません。「経済を回 す」といっても「経済」というモノがあるわけで はないので、回しようがないんです。目の前にコ マがあればコマを回すことはできます。でも経済 を回すことができません。  このように行動が取れない場合も、定義が問題 になっているケースが多いです。定義が間違って いるということです。  そこで、自分なりに「経済を回す」の定義を 作ってみました。  つまりどんな要素があれば経済を回したことに なるのか、その条件を考えてみました。ぼくに とっては意外とシンプルで「他人(国民)のテン ションを上げること」でした。  国の政策でいえば、国民のテンションを上げる 政策が経済を回す政策になり、個人の行動でいえ ば、自分の周りにいる人が楽しくなったり、もっ とこういうことをやってみようと思うようになっ たり、それを応援してあげたり。それが経済を回 すことです。  こう定義をしてみると、「経済を回す意味」も 変わってきますね。みんながお金を手にすること が目的ではなく、みんなの気分を変えること、 「いろいろあるけど、今日も楽しい」と思えるよ うになることが「経済を回す」ということになり ます。要はお金の話とは限らないわけです。  そして他人のテンションを上げればいいと定義 した場合、普段カフェやコンビニで会う店員さん と会話することも経済を回すことになるかもしれ ません。誰かの活動を応援してその人がやりたい ことをサポートしてあげることも経済を回すこと になりそうです。寄付やクラウドフアンディング も経済を回していることになりますね。  ビジネスはよく恋愛に例えられます。恋人に想 いを伝えるように顧客にメッセージを伝えよう、 顧客へのDMはラブレターである、など恋愛と重 ねて考えるとうまくいくと語られることもありま すね。ぼくもそれは一理あると思っています。  ですが一方で、多くの企業が恋愛では絶対にし ないようなことをビジネスでやっています。たと えば、顧客対象のことを「ターゲット」と呼びま すよね。そして、ターゲットになんとか売り込も うとしています。  考えてみたら、ターゲットとは「的」のことで す。あなたが一方的に狙いを定め、一方的に射貫 こうとしています。つまり、相手の気持ちや考え はまったく無視して「あなたが私のターゲットだ から」と勝手に、一方的に自分の商品を売りつけ ようとしています。こんな考え方で恋愛をしよう としたら、うまくいかないどころか、迷惑行為で 警察を呼ばれかねないです。  これは単なる注意喚起ではありません。実際に 対象顧客のことを「ターゲット」と呼ぶことで、 弊害が起きています。顧客は「的」であり、自分 たちが狙いたい先です。となると、誰もその 「的」の気持ちは考えなくなりますね。その「的」 が何を必要としているか、どんなことに困ってい るか、どんな商品を欲しいと思っているか、など は自然に頭から抜け落ちてしまうようになります。  「自分たちの商品はこのくらいの価格帯だから、 そのお金を払える人を狙おう。自分たちのウリは こういうものだから、それを存分に伝えよう。相 手が理解するまで粘り強く売り込もう」  と考えるようになってしまうのです。  ビジネスで対象顧客を設定する本来の目的は、 自分たちがブレないようにするためです。商品を 作っていると、メインのお客さんだけでなく、も しかしたらこんな人たちにも買ってもらえるかも、 こういう人たちにも売れるかも、と欲が出て皮算 用を始めがちです。  そして、「だったら商品にこんな要素を入れな いと、デザインは万人受けするためにこうしよ う」など、いろんなことを考え始めるようになり ます。  こうなると誰向けの商品かわからなくなってし まい、失敗します。だから自分たちの軸がブレな いように「常に見ている相手」を設定する。そう いう意味でのターゲット(最終目標)であるべき なんです。  しかし今では多くのケースで、自社の商品を売 り込みたい相手を勝手にターゲットと呼び、自分 でも気づかないうちにストーカー的な売り込みを してしまっています。  以前、こんな経験をしました。  ある調理器具を買いに家電量販店に行きました。 いろんな機種が並んでいて、それぞれ独自の売り ポイントを持っていました。その中で、他商品と 比べてかなり高いものがありました。他と比べて、 I・5倍くらいの値段です。なぜそんなに高いの か気になり、ちょうどメーカーの担当者さんがい たので理由を聞いてみました。  その担当者さんの答えは「これは特殊な素材を 使っているんです。だから高いんです」でした。 高い素材を使っていたら、商品も高くなりそうな のはわかります。ですが、それだけの価値がない と買いません。  「価格が高いので、弊社としては年配の富裕層 をターゲットにしています。都内のタワーマン ションにご夫婦お2人で住んでいてお金にも余裕 がありそうな方がターゲットです」  「この素材を使っていることで、食パンも一度 に6枚おいしく焼けるんです。分厚いステーキも 柔らかくおいしく焼けます。こんな商品は今まで ありませんでしたよ」  といろいろ得意げに語っていたのですが、そも そも話がおかしいです。  お金持ちを「ターゲット」にしたいのはわかり ますが、その年配のご夫婦が食パンを6枚一度に 食べるでしょうか? 分厚いステーキを頻繁に食 べるのでしょうか? ぼくにはまったく想定がで きません。  こうなってしまった原因は、相手を「ターゲッ ト(的)」と呼ぶことにあるとぼくは感じていま す。自分たちが作った商品を誰に売り込むかとい う発想になってしまうからです。  まず、自社が作りたい(作れる)商品を考えま す。自社の技術を使って他社と違う商品を企画し ます。ただ、それを作るとコストが上かってしま い販売価格が高くなってしまう。高くなっちやう からそれを買える人をターゲットにしよう。  そんな発想になっています。たしかにお金に余 裕がある老夫婦であれば、その商品を買えるかも しれません。しかし、「買える」のと「欲しい」 のは違います。  相手をターゲットと呼ぶ癖がついているため、 相手が何を欲しいかは考えず、常に自分が売りだ いものが先に来てしまう。しかし現実にはその 「的」は買ってくれません。常に狙われています が、買いません。だから商品が売れなくなるんで す。  あなたが対象にしている顧客を「的」と呼ぶの はやめましょう。その代わりに違う言葉で表現し ましよう。あなたが対象にしているのは「○○に 困っている人・○○に悩んでいる人」です。言葉 を変えるだけで、それまで100%自分都合だっ た目線が、相手を考慮するようになります。   一一  ’`       ■     。               。。111   ・  ・ ・  「DXを推進する」、「安心を提供する」、「すべ てはお客様のために」。このようなフレーズをよ く耳にしますね。よく耳にしていて慣れているの で、なんとなくわかった気になってしまいます。  でも、冷静に考えると何か言いたいのかわかり ません。なぜわからないかといえば、誰が何をす るかがわからないからです。  DXを推進する↓結局、誰が何をするのでしょ うか?  安心を提供する↓誰が誰に何をする?  すべてはお客様のために↓お客様のために、何 をする?  意味がわからないのは、主語と述語が抜けてい るからです。そのため、「いつ、どこで(何に関し て)、誰が、何をする」という主語・述語を加え て文章にしましょう。  DXを推進する↓今月中に、請求業務について、          営業部が、全クライアントに          電子請求書に切り替える連絡          をする 安心を提供する↓顧客が外出時に、当社の防犯         システムが、顧客の自宅の異         常を検知し警備員を派遣する すべてはお客様のために↓新商品企画時に、当             社の経営者が、顧客             に直接要望を聞きに             伺う もちろんこれらの表現だけではなく、別のこと を指すこともあるでしょう。ですが、いろんな ヶIスを指すからといって、具体的にしなければ 何も伝わりません。具体的な主語・述語がなけれ ば、何か言いたいのかわからなくなります。一例 としてでも構わないので、主語述語を入れて文章 にして捉えてみましょう。  3章で、相手への指示やアドバイスは練習メ ニューにしなければいけないと書きました。  ほとんどの「アドバイス」が単にゴールを示し ているだけで、ゴールまで行くプロセスを語って いません。だから、アドバイスを受けたとしても 動けないんです。  これは自分自身に対しての指示でも同じです。 たとえば、TODOリストを作って「いつまでに これをやる」と自分に指示出しをしている人はた くさんいます。  売上を上げるためのアクションプランとして、 「差別化を打ち出す」「価値をわかってもらう」  稼げるようになるアクションプランとして、 「インスタでフォロワーを増やす」「自分のスキル を売る」  恋人を作るためのアクションプランとして、 「魅力的な人になる」「清潔感を出す」  などと表現してしまいます。これでは作った本 人すら何をしていいのかわかりません。  同じように、結局何をすればいいのか書いてい る自分でも説明できないようなTODOリストも あります。  ユーザーの反応を見る  お客さんの行動を観察する  マーケットリサーチをする  先輩に話を聞く  見込み客に声を掛ける  これらも行動につながらない表現です。ユー ザーの反応を見るといっても、結局何を見ればい いのかわかりません。そしてユーザーが「反 応」つぽいものをしたときに、反応を見られたと 自分の中で処理してしまいます。ユーザーの反応 を見るとは、お笑い芸人さんにとっての「リアク ションを見る」ということではないですよね。そ して、ユーザーの体の動きを目視することが目的 でもないかもしれない。意味のある「反応」を捉 えられていることもありますが、どうでもいいこ とを把握して「ユーザーの反応を見ました」と 言っているかもしれない。  お客さんの行動を観察するという言葉も同じで す。実際にそのお客さんを頭からつま先までジロ ジロ凝視するわけではありませんね。だとしたら、 何を観察すればいいのでしょうか? 動き? 目 線? 誰と来店したか? 購入金額? 一口に 「観察」といっても、どの要素を見るかによって 得られる情報はまるで違います。  何か目標があって、その目標に辿り着くために すべきことが「TODOリスト」のはずです。や るべきことのリストのはずなんですよね。ですが 多くの場合、そのリストは行動プランになってお らず、ひとまず目指すゴールのようなものが並べ られています。TODOリストは「日々の練習メ ニュー」でなければいけません。日々、どんな練 習をするのか、どんなことを毎日繰り返すのか、 それを言葉にしなければいけないんです。  請求書を出す、○○さんに電話するなどの備忘 録は練習ではなく、その行為を一度すれば終わり です。一方で、何かのゴールを達成するためにす べきことは、繰り返しやらなければいけないこと、 どんどんうまくならなければいけないことが多い です。その場合は「練習メニュー」として捉えた ほうがわかりやすいですね。      。。…鬯 :  ’     ヽ  いろいろ感じていることはあるけど、言葉にす るとどうしても「当たり前のこと」ばっかりに なってしまう。そういう悩みもあります。もう ちょっと人と違うことを言いたい、人と違った視 点を持ちたい、そんな相談を受けることも多いで す。  ただ、なぜ自分が当たり前のことしか言えない のか、考えたことがある人は少ないと思います。  あなたが「当たり前のこと」しか言えないとし たら、それはあなたが論理的に考えているからで す。当たり前のこととは、みんなが考えているこ とですよね。考えてみれば、みんなが同じように 「事実」をもとに「論理的」に考えたら、同じ結 論に至るのは当然のことです。  働き方に悩んでいる人が多くいます。その人た ちへのアドバイスを考えるとしましよう。事実を ベースに論理的に考えると、  ・自分の労働状態(収入、労働時間など)を数字 で表現する  ・自分が本当は何をしたいかを思い出す  ・自分が他の誰かに貢献できることをリスト化 する  ・その内容が合致する職業を探す(会社を探す)  という感じになりそうです。  おそらく、一般的に論理的に考えると、こうい うことがアクションプランに出てくると思うんで す。そして、おそらくこれらの項目は大きくは間 違っていないと思うんです。  ですが、当たり前すぎます。当たり前すぎて、 「そんなことはわかっている」と即座に切り捨て られそうです。  論理的に考えることは大事ですが、論理的に考 えても目新しいことは言えません。ましてやあな たの独自の考え方は出てきません。これではコメ ントをする意味がないようにも思います。  ほぼ正しいことを言っているのに、意味がない コメントになってしまう。かといって、論理を無 視して奇抜なことを言うのも、なお意味がないよ うに感じます。ではどうすればいいのか?  第二次アドバイスを示せばいいんです。  第二次アドバイスを示すとは、「よく言われて いる正論を聞いてもできない人に対して行う 『じやあこうしよう』という追加アドバイス」の ことです。  先ほどの例でいえば、「自分が本当は何をした いかを思い出す」と言われた人が、全員すんなり できるとは限りません。「本当は何がしたいかと 聞かれても、ビールを飲みたいとか、ハワイでの んびりしたいとかしか出てこない……」と、悩む 人が出てきます。  働き方に悩む人が、自分かやりたいことを探す のは正しい方向性だと思います。ですが、働き方 に悩みすぎて、もはやどんな仕事もしたくないと 感じている人もいます。そんな状態で「どんな仕 事をしたいか?」と問われても出てきません。  もしそう言われたら、この方に次はどんなこと を考えてもらうでしょうか? たとえば、「では 誰に喜んでもらうのがうれしいですか?」「たと えばどの分野で第一人者と呼ばれたいですか?」 という問いかけをすれば、新しい視点を持っても らえるかもしれません。  課題に対しての施策を出すとき、当たり前すぎ る打ち手しか思いつかないことがよくあります。 そのときは、その当たり前すぎる打ち手をやろう としてもうまくいかない人に向けた「第二次アド バイス」を出していきましよう。   一       すごい言語化で ″`。》  「自分の感覚」を   。 言語化する    一一一  ダ ー  Ξ         一。111  ・ ヽ  自分のことは自分が一番よくわかっていると言 いますね。でも本当にそうでしょうか? たしか に、他人よりも自分のほうがわかっているかもし れませんが、自分が考えていることをすべて言語 化できるかと言えば、そうではありません。  本書の冒頭でお伝えしたように、人は95%の感 覚を認識していないと言われます。なんか感じる けど、それが何かわからないわけです。料理の隠 し味と同じで、何か違うけどそれが何かわからな い状態になってしまっているわけです。  自分の感情のはずなのに自分で言葉にできず 「なんて言ったらいいだろうなあ」で止まってし まいます。  さらに、何か意見や感想を求められたとき、何 も思い浮かばないことがあります。感じたことを 言えと言われても、何も感じていないこともあり ます。  そういうとき、ぼくらはどうすればいいでしょ うか?  自分の感覚を全部自覚できるようになればいい かもしれません。ただ、感覚の中には特に重要で はなく自覚する必要がないものもあります。大事 なのは、重要な感覚を自覚することですね。  そしてその重要な感覚とは、  I.ビジネス的な発言をするとき  2.ビジネス現場で求められる個人的な発言を するとき  の2つのシーンで分かれます。別々に説明して いきますね。  ・ 「起承転結」では語らない  その前に、注意点を先にお伝えしておきます。 結論から言うと、「起承転結」で考えようとして も何も出てこないので、この考え方は頭から外し たほうがいいです。  人に何かを伝えるときのフォーマットとして 「起承転結」があります。起承転結で話をすれば まとまると考えられていることもありますが、そ れは大きな誤解です。そもそも、起承転結の 「起」「承」「転」「結」でそれぞれ何を語ればいい のでしょうか? 「結」は結論なので比較的わか りやすいです。「起」は、話を始めればいいと理 解すればなんとなく問題なく済ませられます。  ただ「承」「転」はどうしたらいいでしょう か? 何か「承」で、「転」には何を話せばいい のでしょうか? まったくわかりません。  そして、それがわからないから、なんとなくみ んな物事を時系列に並べていますね。ただそれは 事実の説明であって、あなたの意見ではありませ ん。事実の報告を求められていればそれでもいい かもしれません。ですが、あなたの意見を求めら れている場で過去の出来事を説明しても意味はあ りません。  起承転結で話すのではなく、違う視点を持つこ とで、自分の感覚は言語化されていきます。            II    ・        ♂   ・  一一一   ■    一  職場で「いい策を出せ」「白分の考えを持て」 など、ビジネス的な発言を求められることがあり ます。もちろん場合によっては必要なことです。  ただ、どう考えたらいいのかわかりません。い い策とは? 白分の考えとは? どんなものなの でしょう? なんでもよければ今考えていること を伝えますが、それではまずそうです。どんな視 点で自分の考えを言語化すればいいでしょうか?  ここでの言語化も「どう伝えるか」ではなく 「何を伝えるか」です。そして、ビジネスシーン で自分の意見が求められるときも、顧客に対して 伝えるときと同じで、考えるべき項目は隕られて います。その項目に焦点を当てて自分の頭の中を 言葉にしていけばいい。  ・ なぜ「それ」?‥ 1それはどんな    価値を持っているものなのか?  商品アイディアに意見を求められたとき、まず 考えるべきはその商品に価値があるかどうかです。 「どう思うか?」と自分に問いかけても何も出て きません。価値があるかどうかを考えます。  仕事は最終的には顧客に価値を提供するための ものです。なので、仕事でまず考えなければいけ ないのは、「自分は顧客に何を提供するか?」で す。ただし、これまで説明してきたように、顧客 に提供するものとは、その素材や物質ではなく。 「価値」です。つまり、「誰に、どんな変化を与え るものなのか」「誰のテンションを上げるものな のか」「顧客がおもしろかってくれるほどのこだ わりを持っている商品なのか」のどれかであるべ きなのです。  そして、価値があるとしたら、「誰かに、何か の変化を与えるもの」「誰かのテンションを上げ るもの」「顧客がおもしろかってくれるほどのこ だわりを持っている商品」の3つのどれかに当て はまっています。もし当てはまっていたら、「こ の商品にはこういう価値があると思います。それ が欲しいと感じるのは、都市部に住んでいる会社 勤めをしている男性だと感じました」とコメント できます。  逆にその3つに当てはまっていなければ、「こ の商品が持つ価値がわかりづらいです」「この商 品は、誰にどんな変化を提供できそうかチーム内 でブレストするのはいかがでしょうか?」と言え ます。  どんな仕事も、他の誰かのためにやっています。 それが顧客かもしれないし、社内のメンバーかも しれません。いずれにしても、その仕事は相手に とって価値がなければいけませんね。そして仕事 が価値を持つのは、相手に変化を提供したとき、 相手のテンションを上げたとき、相手がおもしろ がるくらいまでのこだわりを見せることができた とき、のいずれかに分類できます。  商品アイディアや事業展開に関して意見を求め られたら、まず自分の焦点を「どんな価値がある のか?」に向けるべきです。  ・ なぜ「それ」?‥X自社商品の存    −    在意義  そして商品が持つ価値と同時に考えなければい けないのは、これから作る商品の意義です。つま り「自社がこれからそれを手掛ける理由」です。 自社の商品に価値があったとしても、他の商品が ありすでに事足りているケースもあります。  もしそうであれば、あなたの商品はいい商品 サービス・いいアイディアとは言えません。それ があって喜ぶ人がいるから(もしくは、それがない と困る人がいるから)、自社商品が存在できるわけ です。  ここで語るべきは、「なぜ既存の商品サービス ではいけないのか?」です。第3章で「差別化の 打ち出し方」として語ったこととも大きく関連し ますが、既存商品では事足りない場合、また顧客 がやりたいことができない場合に、自分の商品に 存在価値が出てきます。  「この商品どう思う?」  と聞かれたときには、類似ライバル商品が実現 できていない顧客の願望に目を向けます。「既存 の商品では、顧客がやりたい○○ができない。そ れをこの自社商品で埋められるので、出す意味が あります」というような発言ができるといいわけ ですね。  逆にその要素が自分で見えてこない場合は、社 内で問いかけてみましよう。  「どう思う?」「いや、え1つと、その……、い い感じだと思います」  という返答ではなく、  「どう思う?」「この商品があると、顧客が未達 成だった○○という願望を実現させられるので、 それを伝えればヒット商品になると思います」 「この商品内容だと、追加で顧客の願望を叶える ことが難しいと思います」  というような主旨の返しができるといいです (もちろん、言い方には配慮が必要です)。  ・ 伝わりやすいか(相手の中に類似の成功     例刎刑羂。コー  ここでI点注意が必要です。いくら価値があっ て、類似商品との差別化がはかれるものであって も、それが顧客に伝わらなければいけません。つ まり、業界外の「初心者さん」に伝わらなければ 意味がないのです。  あなたはその道のプロです。何年も、場合に よっては何十年もその業界でいろいろ考えていま す。そして、専門知識も身について、他の人が気 づかないような区別もできるようになっています。  でも、それはあなたがその業界で仕事をしてい るからです。顧客は「初心者さん」です。その業 界のことなんて知りませんし、細かいことには気 づきもしません。プロから見ると「全然違うで しよ’・」と思うようなものでも、「え、どこが違 うんですか? 同じに見えますけど」みたいな反 応をします。  顧客を下に見ているわけではありません。提供 者が強くこだわっている要素でも、顧客はそれほ ど興味を持っていないので、気づいてもらえない んです。  興味をそれほど持っていない顧客に価値を伝え るには、わかりやすさが必要です。顧客があなた の話を聞いて、「それなら効果ありそう’・」とす ぐに感じてもらえなければいけません。  以前、珍しい研修コンテンツを持っている人か ら話を聞いたことがあります。能力開発の一環と して、駅前でダンスをさせ、自分のマインドブ ロックを外すという内容です。その研修の参加者 の中に駅前でダンスを披露した経験がある天はほ とんどいないし、またダンスなどできないようで す。それなのに無理やりダンスさせるそうです。  当然、研修参加者は嫌がりますし、かなり反発 します。仮にぼくがその参加者の立場だったら、 かなり反発すると思います。駅前でダンスをする ことが、自分の能力開発にどう関係するのかまっ たくわかりませんからね。  実際には何かあるのかもしれません。普段やっ たことがないこと、絶対にやりたくないと思うこ とをやることで何かが開けるのかもしれません。 ですが、あまりにも納得感がなさすぎます。  もしかしたら、この方は人間心理や潜在意識の プロで、この方向がベストと考えてされているか もしれません。しかし、ぼくら素人はそう考えま せん。というか、「駅前でダンスをすれば、あな たの能力が開花します」と言われても信じられま せん。  よく、「怪しい」とか「宗教っぽい」と言われ ることがありますね。「この壺を買えば、病気が 治ります」的な話です。あの壺の話が非常に怪し く聞こえるのは、壺を買ったところで病気が治る とは思えないからです。本当に治るのであれば、 たとえ数百万円でも高くはないかもしれない。で も壺を買うことで病気が治るとは到底思えない。 つまりわかりづらいんです。だから「怪しい」と いう印象になる。  ではなぜ「わかりづらい」のでしようか?  それは同様の成功事例を知らないからです。人 は何か新しい情報を見聞きしたとき、既知の情報 と重ねて理解します。「あ、あれと一緒だな」「た しかに、あの業界ではこのようなことをやって成 功してたな」と、既存の知識と結び付けることで 理解できていくんです。人が納得できるのは、 「すでに知っているものと同じ」と考えることが できた場合です。  駅前でダンスをして甲子園や箱根駅伝で優勝し たチームがあったり、世界一のセールス記録を打 ち立てた人がみんな駅前でダンスをしていたとし たら、研修参加者も頑張って実行するかもしれま せん。しかし、そのような事例は聞いたことがあ りません。だから納得できないのです。  この駅前でダンスをする研修はかなり極端です が、ぼくらのビジネスでも同じようなことが起こ り得ます。ぼくらが知らなければいけないのは、 まったく新しいものはなかなか理解されない(納 得されない)ということです。  新しい概念や常識を覆すような考え方を提示す れば、コモディティ化は避けられるかもしれませ ん。ですが、新しいものは理解してもらえて初め て価値を感じてもらえる、ということも忘れては いけません。理解(納得)してもらうためには、 顧客が「あの事例と似た感じだな。たしかにあん な感じのものはうまく機能しそうだな」とイメー ジを持てなければいけません。  異業種や海外の事例も含め、顧客がすでに知っ ていることを提示し、「ほら、あのケースではこ のような流れで成果が出ましたよね」と伝えま  ・ なぜ「今」?‥なぜ今やらなけれ    I  たとえば、新商品のアイディアや販促施策を聞 いて意見を求められたとき、「いい商品」「よさそ うな施策」と思ったとしても、それで終わっては いけません。ビジネスではいい商品であればすん なり売れるわけではありません。それを加味せず に「いいと思う」という印象だけ伝えると、安易 にコメントしている感じになってしまいます。  いい商品たったとしても、10年後に売れるので は遅いです。今評価されなければいけない。考え るべきことは、「なぜその商品が、『今』売れるの か?」です。  たとえば、居酒屋チェーンが新たに安い定食屋 業態で出店をしたとしましょう。安い定食はもち ろん需要がありますし、特段否定する要素はあり ません。ですが、なぜ「今」なのでしょうか? 日本はこれまでもデフレでした。安い商品じゃな いと売れないのは今に始まったことではありませ ん。また、かなり前から安い定食屋は存在してい ます。そこに新しく安い定食屋を出店して、どれ だけお客さんに来てもらえるでしょうか? 単体 で考えたらいい商品でも、すでに顧客が他の店舗 で十分満足していたら、あなたの商品は評価され ません。  同じように、「必要だけど、今じゃない」とい うものもあります。  たとえば、老後の備えです。老後に備えが必要 だということはおそらく誰も否定はしません。手 段はともかく老後、自分が働けなくなったときに ある程度の蓄えや収入がないと大変です。なので、 老後のためにいろいろ勉強をしておくことは大事 です。しかし「今」やらなくてもいいです。大事 だからと言って、その勉強を今日しなければいけ ない理由にはなりません。だから「またいつか」 となってしまうのです。もし顧客が「またいつ か」と感じていたら、その人が重要性を理解して いたとしても、「老後に備えるセミナー」に来て もらうことはかなり難しくなります。  現代人にはやるべきこと、やったほうがいいこ とが目の前にたくさん転がっています。それらを 順番にこなしていかなきやいけないので、「価値 がある・いい商品」というだけでは選んでもらえ ません。  社内でコメントを求められたときには、今評価 されるのか? なぜ今なのか? の視点も加味し なければいけません。  そして、その「なぜ今なのか?」を考えるとき には、社会情勢やルールが変わったかどうかを考 えると判断がしやすくなります。  たとえば、コロナで社会が大きく変わりました ね。このような社会変化があると、優先順位が一 気に上がったり、緊急性が高まったりします。  マスクはその最たる例です。コロナ前までは、 「これまで以上にウイルスや花粉をブロックする マスクができました’・」といっても「ふIん」と しか思ってもらえなかっだのが、コロナで状況が 変わった後はものすごい需要になりましたね。社 会情勢が変わって「今必要」になったのです。  法律が変わっても同じような変化が起きます。 たとえば、チャイルドシートが法律で義務化され たら、それまでチャイルドシートなしで運転して いた人たちが一気に購入することになりますし、 これから子どもが生まれる家庭の自動車には例外 なくチャイルドシートが必要になります。法律 (ルール)が変わったので、需要が一気に増えた のです。  ぼくが大好きな(ワイでも環境保護のための新 しい法律が頻繁に成立します。今では日焼け止め は自然由来の成分でできたものしか販売できなく なっています。環境保全の視点から天然素材を好 む人はもともといましたが、法律でルール化され ると一気に大きな変化になり、「今その商品を扱 う理由」が急激に大きくなります。  ・ なぜ「自分たち」?‥自分が介在    することで価値が上がるのか?  そして次は、「なぜ自分が手掛けるべきなの か?」という視点です。これはよく言われるミッ ションやビジョンの話ではありません。あなたが 手掛けることで、ライバルがやるよりも世の中に 大きな価値を提供できるか、という話です。  自社もその技術があって、その商品を提供でき るとしましよう。でも、だからといってビジネス として筋がいいとは限りません。  かつて、電子書籍が流行り始めたとき、いろい ろな企業が電子書籍の問屋になろうとしていまし た。電子書籍を売っているサイトはたくさんあり ましたが、それらのサイトにコンテンツを流すま とめ役がいなかった。そのまとめ役(いわば胴元) になれれば、電子書籍を配信するときには自分を 通さなければいけないことになり、多くの手数料 をもらえます。  当時、ある印刷会社がその胴元になろうとして いるという話を聞きました。考えてみれば、印刷 会社は多くの書籍を印刷しています。そして、出 版社から印刷にかける元データを受け取っている ので、それを電子書籍のフォーマットに変換しよ うと思えば、かなリスムーズにできます。電子書 籍の胴元になるには絶好のポジションですね。そ して、実際にやろうとしていたようで、ぼくが経 営している出版社にも営業の方が来て、いろいろ 説明をしてくれました。  しかし、結果としてどうなったかと言えば、そ の会社は電子書籍の胴元にはならず、撤退してい ます。  自分たちが「できる」のと、自分たちがやった らより価値を発揮できるというのは別の問題です。  現実には、自分たちができるかどうかよりも、 「なんとなく儲かりそうだから」という考えでビ ジネスに参入しているケースもあります。もちろ んそれがいけないわけではありません。しかし、 ここで考えるべきことは、「それができる環境に あること」ではなく「自分たちがそれを実行する 知識と能力が、他社よりもあること」です。自社 が他社よりもうまく、速く、安くできれば、その ビジネスは成功しそうです。逆にそれがなければ、 どんなに筋がいいビジネスでも自分ではできない でしょう。             ・肖  。  売上を上げるための施策を考えたり、商品のア イディアを出したりすること以外でも、白分の意 見を発信する場面があります。朝礼での1分間ス ピーチだったり、最近の出来事に関する意見を求 められたり。  このときにも自分の視点を入れて発言したいも のですが、何を伝えていいのかわかりません。  最近、AI頭脳を搭載したアプリが流行ってい ます。ぼくも使ってみましたが、人間と会話して いるようなやり取りができてびっくりしました。 ここで、上司や同僚から「AI頭脳アプリ、使っ てみた? どう思う?」と聞かれたとしましよう。  「便利だと思いました」  「AIの進化にびっくりしました」  ではかなり普通ですね。自分が何も興味ないな らこれでも構いません。でも、何かしら自分でも 感じたのなら、その感じたポイントも入れて表現 したいです。  このとき、自分の感覚を認識するためには、 「自分の気持ちが揺れた部分に目を向けること」 「自分の不安と期待に目を向けること」の2点で す。  ・ 自分の気持ちが揺れた部分に目を向    −    ける  自分の気持ちが揺れた部分に目を向ければ、自 分の視点を入れた発言ができます。  ぼくは長い間、テレビやラジオのコメンテー ターとして活動していました。もう終わってしま いましたが、フジテレビの「とくダネー」のレ ギュラーコメンテーターや、ラジオ番組でのレ ギュラーパーソナリティを務めていました。  ここでいろんなニュースに「コメント」を求め られます。ニュースや出来事の説明があったうえ で、「木暮さん、どう思いますか?」と聞かれる わけですが、ここでその出来事の説明を繰り返し ても意味がありません。また「ひどい事件です ね」「いいと思います」みたいな匸冐を伝えても、 それもコメンテーターとしては失格です。  コメンテーターはコメントをすることが仕事で す。しかし、考えてみるとコメントするのかもと もと得意だった人はいないと思うんです。コメン 卜が得意なのではなく、自分の中から自分オリジ ナルの考えを引き出すのが得意なんです。  たとえば、最近観た映画について、友達に話し てみましょう。「知る人ぞ知る映画」でも構いま せんし、誰もが知っている話題の映画でも構いま せん。とにかく自分が観た映画について友達に話 します。  どんな言葉が出てくるでしょうか?  おもしろかった  迫力があった  感動した  よかった  もっといろいろな場面を見たはずなのに、この ような匸冐感想しか出てこないという方が多いの ではないでしょうか? 自分が実際に見て、しか も「おもしろい」と思っているのに、なかなか言 葉が出てきません。  なぜか?  それはまず、焦点を絞れない問いかけだからで す。「どう思った?」では、何を答えていいのか わからず、自分の感情のどこに目を向ければいい のかもわかりません。だから答えようがないんで す。  ぼくは小学校、中学校で課された読書感想文が 大の苦手でした。何時間も、ときには何日も原稿 用紙を前に座っているのに、全然書けません。本 はちゃんと読みましたし、中身も覚えています。 でも何を書いていいかわからなくて、一人で何日 も白紙の原稿用紙とにらめっこしていました。  そして数日後、やっとの思いで原稿用紙1枚を 書き上げるのですが、出来上がった感想文は、ほ ぼ「あらすじ」でした。  これでは、感想になりませんし、自分の言葉で もありません。  なぜそうなってしまうかといえば、一番の原因 は「全体を表現しようとしているから」です。本 の内容全体、映画の内容のすべてを語ろうとする と、ありきたりの「おもしろかった」という匸冐 か、ストーリーを順になぞるかしかできなくなり ます。  自分の言葉を作るには、自分の感情が揺れたと ころだけを表現すればいい。むしろそこだけに絞 ることで、自分らしいコメントになります。  ・ 意味のある「一部分」に焦点を当て    I    る方法  コメンテーターとしてメディアに出るとき、ぼ くに求められているのは「ぼく独自の視点」です。 世間でよく言われることを語っても意味がないし、 だからと言って専門的な小難しいことを語っても おもしろくないです。  生放送の情報番組では、台本もなく、その場で とっさに答えなければいけません。ここで自分の 視点を盛り込んだ発言をするためにぼくが常に自 分に問いかけていた視点があります。  それは「教えたいことを伝える」という視点で す。  コメントを求められるとき、ぼくは常にその出 来事に関してぼくが視聴者に教えたいと思ったこ とは何かを自問していました。  「どう思った?」と聞かれても、ほぼ何も言葉 は出てきません。「どう思った?」ではなく、「こ の件に関して教えたいことは?」と自分に問い直 します。  この「教えたいこと」は、自分の気持ちが揺れ た部分に自動的に目を向かせる視点です。人に教 えたいと思うポイントは、自分の中でテンション が上かっていたり、意外に感じたことだったりし ます。「どう思った?」では、それこそ「どう」 表現していいかわかりません。繰り返しお伝えし ているように、言語化とはどう表現するかの前に、 何を表現するかです。「何」に焦点が当たらない と、言葉にならないんです。  教えたいことを自分に問いかければ、自分の気 持ちが揺れた「何」に目が向きます。そしてそれ を伝えれば自然とあなたの視点が盛り込まれた発 言になります。  「AIアプリどう思った?」という質問を「A Iアプリに関して、誰かに教えたいことは?」に 言い換えましよう。そうすれば、  「AIアプリが、人間の経営コンサルタントみ たいな回答をしてきて、本物の人間とやり取りし ている感覚になった。かなり優秀な答えをすぐ出 してくるので、もはや自分の頭脳が負けていると 思った」  「『猫ってなんで変なんですか?』という質問例 がアプリ側から提示されていて、笑ってしまった。 暇つぶし目的でも使ってもらいたいみたい」  などのコメントが出てきます。  「教えたいこと」でなぜ自分の気持ちが揺れた 部分に焦点が当たるのでしょうか?  それは「人に教えたいこと」は、誰かに共有し たいこと、誰かに聞いてもらいたいこと、かつ、 その人にも興味を示してもらえそうなことだから です。  自分の話を延々とすると嫌がられます。それは、 その話に相手は興味を持だないからです。しかし 一方で、その人が興味を持ちそうな話ばっかりし ていても、「あなた」は伝わりません。あなたの 価値観や考えていることは相手には伝わらない。  「教えたいこと」を考えれば、自分が相手に教 えたい&相手も興味を示してくれそうという、そ の2つが重なった部分に自然に目が行きます(幼 稚園児に対して、この前行ったおいしい居酒屋のこと を教えたいと思わないですよね。相手が興味を持だな いことが確定しているからです)。  教えたいことは? と自問すれば、自分の気持 ちが揺れた部分を思い出せます。そして、自分の 気持ちが揺れた部分は、一般的ではないあなただ けの感覚です。これを相手に伝えることで、自分 オリジナルの視点を交えて物事を言語化できるよ うになります。  ・ 「切り口を変える」ではなく、「教え    たい人」を変える  いつも同じ目線で考えていたら、いつも同じ対 象者しか思い浮かばないかもしれません。もし、 学生やビジネスパーソンしか思い浮かばないとし たら、意図的に別の対象者を設定します。たとえ ば、  「じやあ、主婦のみなさんに教えたいことは何 だろう?」  「シニア層に教えたいことは?」  「OLさんに『これ、すごくない?』と教えて あげたいことは?」  と考えてみます。  それまで自分が伝える対象ではないと思ってい た人にも「教えたいこと」は意外にあるものです。 教えたいことがあれば、その層の人たちにも興味 を持ってもらえそうなポイントがあるということ です。  同じテーマを語るときも、このように対象者を 変えて考えれば、自分の感覚の別の部分に焦点が 当たります。対象者が変われば、自分が「教えた い」と思う内容が変わりますからね。  たとえば、いつも同じようなコメントになって しまう、たまには違うことを言いたい、と思った ら、「教えたい人」を変え、違う人を想定してみ ましよう。これだけでびっくりするぐらい多くの 要素が自分から出てきます。  自分の感覚を「鋭い切り口で語ろう」「斬新な ポイントをつこう」と考える人も多いです。でも、 それではなかなかうまく引き出せません。必要な のは、「切り口」や「新しい目の付け所」ではな く、いろいろな人からの目線で物事を見ることで す。  いろいろな対象者をイメージして、「この人に 教えたいことは何だろう?」と考えてください。 すると、自然とその相手の目線になります。  たとえば、子どもが面白がってくれそうなこと を言えたとしたら、それは必然的に子どもの目線 になっているということです。  主婦が「それ、なにり すごい’・」と言ってく れそうなことは何か? を考え、言うことができ れば、それは自然に主婦の立場から対象物を観て いることになります。  この視点を持っていれば、「どう思います?」 「いいと思います」のような匸冐感想で終わらず に、自分が持っている感覚を言語化できます。  ・ 自分の不安と期待に目を向ける  自分の視点を入れてコメントをするために有効 なもうひとつは、「自分の不安と期待に目を向け る」です。「どう思う?」では何を答えていいの かわかりませんが、不安と期待の視点を入れれば、 自分が感じていることが出てきます。  「AIアプリを使って、この先どうなっちやう のか不安に感じたことない?」と問われれば、 「そう聞かれたら、たしかに不安なところがある かも」と出せます。  人間がいらなくなりそうだし、ぼくらの仕事が どんどん奪われる可能性もあるし、映画の世界み たいにAI同士が会話をして人間が追いやられる こともあったりするのかな……と考えたりします。  もしくは、「AIアプリがもっと進化したら、 どんなことをしてもらいたい?」と期待に目を向 けてもいろいろ出てきそうです。AIに家庭教師 になってもらう、AIに個人的な秘書になっても らって、やらなきやいけないことを全部アドバイ スしてもらう、など。  この状態でどんどん時間が過ぎたら、どんなこ とが起きそうか、自分が考えていることを言葉に すれば、自分の感覚が言語化できます。  ・ 「不安と期待」を言語化する  ここで、不安・期待の言葉自体を、言語化させ ましよう。  そもそも、不安や期待とは、個人が抱いている 妄想です。  不安とは、「もしかしたらこのままだと、こう なっちやうかもしれない」という妄想です。一方 で、期待は「これがこうなったらいいなあ」とい う妄想です。つまりはどちらも、あなたの漠然と した将来に対する感覚です。その感覚に目を向け ればいい。  この「不安」「期待」がまだ漠然としていて言 語化されていません。自分の老後に不安がある、 という人は多いですが、実際にその「不安」が何 なのかを本人は説明できません。自分でもよくわ かっていない漠然とした感覚を「不安」と言って います。  なので、不安という言葉を言い換えて、「この ままだと、こんなひどいことが起きちやうかもと 思っている」としましよう。  「自分の将来が不安」な人は、このままだと自 分はどうなっちやうと思っているのでしょう? お金が無くなって住む家がなくなっちやうかも? 足腰が弱くなって外に出られなくなるかも? 医 療費がたくさんかかるかも? 友達がいなくなっ ちやうかも?  人によって自分が抱いている妄想は違いますし、 嫌だと思う状況も違います。「外出できなくなる のは本当に嫌だけど、これまでの友達付き合いが なくなったとしてもそれは特に気にしない」とい う人もいます。「お金が無くなっちやうかもしれ ないけど、生活保護を受ければいいから別に問題 ない。それより生まれ育った家を手放さなきやい けないのは本当につらい」と感じている人もいま す。  これが不安です。  何か世の中で起きたとき、もし自分の中で「こ のままだとこうなっちやうかも」という不安があ れば、それとつなげて語ってみましよう。そうす るとたとえば、「AIアプリがこのまま進化した ら、人間の社員はいらなくなりそうだね。もしか したら、自分も仕事がなくなっちやうかも’・ と 少し危機感を覚えました」と自分の感覚を言語化 できます。  同じように、期待と紐づけることもできます。 期待は、「こんな感じになったらいいなあ」とい うプラスの妄想です。AIアプリに抱いた感覚と 自分の期待をつなげると、たとえば「AIが進化 して、自動車が完全に自動運転になったら、キヤ ンピングカーを家にして世界中を車で移動したい と思っています」「AIの恋人がリアルに欲しく なるかも」という言葉が出てくるかもしれません ね。  重要なのは、不安・期待は個人の感覚(妄想) であるという点、そしてその個人の感覚と結び付 ければ、自分の言葉にならない感覚が言語化でき ます。 − おわりに  コミュニケーションに関してメラビアンの法則 という有名な法則があります。コミュニケーショ ンにおいて相手が受け取るメッセージは、言葉 (言語情報)からが7%、話し方(聴覚情報)から が38%、表情などの見た目(視覚情報)からが55 %である、という法則です。この法則を引き合い に出して、言葉は7%しか意味がない、残り93% は非言語で伝わっているから、非言語を鍛えなけ ればいけない’・ と言われることがあります。  ですが、これは3つの大きな誤解があります。  ひとつ目の誤解は、この法則の定義です(この 誤解はよく指摘されています)。メラビアンの法則 は、そもそも「言っていることと態度・表情で表 していることが矛盾している場合」を前提にした 法則です。笑いながら怒ったり、むすっとした表 情でお礼を言ったり、言葉が伝えているメッセー ジと違うメッセージを表情や態度で表した場合、 言葉は7%分しか響かないという意味に過ぎませ ん。  「言葉が7%しか伝わらない、残りのメッセー ジはノンバーバルから伝わっている」という意味 ではないんです。もし、ぼくらのコミュニケー ションの93%がノンバーバル経由で伝わっている としたら、メールでは意図した内容の7%しか伝 わらないことになります。  2つ目の誤解は、そもそも「言語が大事、いや 非言語が大事」の議論は、伝えたい内容を自分で 明確に把握していることが前提になっていること です。たとえば、非言語コミュニケーションの達 人がいるとしましよう。でもその方も、自分が伝 えたいことを明確に自覚できていない場合は、伝 えることができません。何を伝えるべきか自分で もわかっていなければ、非言語を駆使しても伝え ようがありません。  そして3つ目の誤解は、感情伝達と情報伝達を 混同してしまっている点にあります。メラビアン の法則は、自分の感情や印象がどう伝わるかの経 路を説明しています。情報というより感情と印象 の話なんですよね。自分の感情が誤解されるとし たら、メラビアンの法則を意識して自分の言動を 振り返るのがいいかもしれません。しかし一方で、 伝えたい情報が伝わっていないとしたら、それは あなたの非言語部分を見直したところで何も改善 はされません。  ぼくらは表情や声のトーンから相手に何かしら のメッセージを発信しています。もちろんそれは 否定しません。ですがそれは「意図していない メッセージが伝わっている」だけであって、「意 図したメッセージを伝えている」のではありませ ん。  情報を伝えるとき、「言葉は7%だけだから」 と、一生懸命ジェスチャーで伝えようとする人は いません。感情ではなく情報を伝えなければなら ないとき、非言語に逃げてはいけません。特に仕 事では言葉で明確に伝えなければいけない。顧客 に「察して」とは言えないし、言葉になっていな いものを理解してもらうこともできません。  目標達成、マネジメント、プレゼンテーション、 商品企画、ぼくらのビジネスのあらゆるシーンに おいて言葉で伝えることが求められています。言 語化スキルはビジネスパーソン全員に求められて いる必須スキルです。  しかし、ぼくらはほとんど言語化スキルを磨く ことをしてきませんでした。せっかく身につけた 能力や自分の考えを伝えられずにいたのです。非 常にもったいないことです。  これまでぼくらが培ってきたものを発揮するた めに必要なのは言語化スキルです。言語化する力 を引き上げることで、目標達成、マネジメント、 プレゼンテーション、商品企画、ぼくらのビジネ スのあらゆるシーンの成果が確実に、そして格段 に上がります。  言語化スキルは最強のビジネススキルです。そ して本書で解説したように、言語化スキルはセン スやひらめきとは無縁です。誰でもトレーニング を積むことで身につけられるスキルです。  言葉にできれば、自分が手掛けているものの価 値が伝わります。  言葉にできれば、取るべきアクションが見えて きます。  言葉にできれば、コミュニケーションのストレ スが圧倒的に減ります。  あなたの頭の中が言葉になれば、部下の仕事の 成果も飛躍的に向上します。  チームメンバーが言葉にできれば、やるべきこ とが明確になり、職場の無駄なストレスが減りま す。  経営者が言葉にできれば、ブレないチームがで きあがります。  ぼくらに足りなかったのは言語化スキルでした。 ぼくはこれからも言語化スキルを広める活動を続 けていきます。  ぜひこれからも一緒に言語化に向き合っていき ましよう。 2023年初夏     木暮太一 本電子書籍は2023年6月6囗にダイヤモンド 社より刊行された『すごい言語化』(第1刷)を、 一部加筆、修正の上、電子書籍化したものです。  [著者] 木暮太一 (こぐれ・たいち) 作家・出版社経営者・言語化コンサルタント 中学校2年生の時から、わかりにくいことをわか りやすい言葉に変換することに異常な執着を持つ。 学生時代には『資本論』を「言語化」し、解説書 を作成。学内で爆発的なヒットを記録した。 ビジネスでも「本人は伝えているつもりでも、何 も伝わっていない’・」状況を多数目撃し、伝わら ない言葉になってしまう真因と、どうすれば相手 に伝わる言葉になるのかを研究し続けている。 企業経営者向けのビジネス言語化、出版コンテン ツの言語化コンサルティング実績は、毎月100 件以上、累計で1万件を超える。コンサルティン グ中に頭の中が言語化され「ずっと、それが言い たかったんです」と涙を流すクライアントも多数。 http://koguretaichi.com