それぞれの正義_仲島周兵 第1章 出会い  その日、中井修一は、珍しく定時で会社を出 ることができた。最近は、中々定時で帰ること ができずにいた。今取り掛かっている仕事が大 詰めを迎えていて、残業続きの毎日を送ってい た。  修一は、東京の大手システム会社でプロジェ クトマネージャーとして働くエンジニアである。 現在は、システムが提供するAI連携のデータ ベース新機能について、資料やサンプルとなる プログラムの開発を行っている。また、全国の 顧客対応をしているエンジニア向けの講習も担 当していた。  現在は、システムが提供するAI連携のデー タベース新機能について資料やサンプルとなる プログラムの開発を行い、全国の顧客対応をし ているエンジニア向けの講習も担当していた。  その囗、会社を定時に出ていつものように自 宅に向かう。  彼の会社は港区御成門にあり、通勤は都営三 田線から神保町で乗り換え、半蔵門線から田園 都市線で青葉台まで向かうルートである。半蔵 門線と田園都市線は直通のため、乗り換えはI 度で済むのだが、通勤時間は、乗り換えが順調 に行っても、一時間ほどかかってしまう。  その囗、青葉台駅に着くと大きく伸びをして 駅から歩きだした。改札を出て少し歩いている と、一人の小さな女の子が足元に抱き着いてき た。女の子が元気に声を掛けてきた。  「パパ、お帰り」  修一は、驚いて女の子の顔を見つめた。三、 四歳くらいのかわいらしい女の子だ。  女の子は、中井の顔をみると、驚いたように 立ち尽くしてしまった。すると、すぐに女の子 の後ろから、エコバックを二つ抱えた女性が小 走りに近づいてきた。  女の子の母親なのだろう。女性は、修一に頭 を下げながら謝った。  「すいません。この子自分の父親と間違ってし まった様です」  女の子は、母親の後に隠れて、修一の顔を覗 いていた。修一は、座って女の子に話しかけた。  「間違っちゃったの? お名前はなんて言う の?」  すると女の子は、恥ずかしそうに右手の四つ の指を立てて答えた。 「ゆか。四歳です」  修一は、笑顔で話しかけてみた。 「えらいね。ちゃんとお話できるね。すごい ね」  今のご時世、名前を聞くのも問題になるのか もしれないが、ついかわいい表情の女の子を見 て聞いてしまった。  すると母親が、女の子をみながら話しかける。 「昨日で四歳になったものね」  そして、修一に向かって。 「大変申し訳ないです。主人がずっと出張中な ので、会いたがっていて間違えて抱き着いてし まった様です。ごめんなさい」  修一は、全然大丈夫という意味で、笑顔で頭 を下げた。  それから、二人と別れて歩こうとすると、女 の子が手を振ってくれたので、修一も手を振っ て挨拶をした。 「ばいばい」  ちょっと驚いたが、とても元気をもらった気 がした。  自宅に帰ると、妻のさつきが夕食の支度をし ているところだった。  さつきが笑顔で迎えてくれる。  「お帰り。お疲れさま」  リビングに入ると、テーブルに花が飾ってあ る。彼女は、とても花が好きでいつもテーブル の花を欠かすことがない。修一は、さつきのお 帰りの言葉と花をみながら心が穏やかになる感 じがしていた。  いつも思うが「お帰り」の言葉って、結構心 にしみる。家を出ていろいろあるけど、帰って きた時の「お帰り」は、安心するしほっと温か い気持ちになる。  そして、さつきに駅前であったことを話した。  さつきは、微笑みながら答えてくれた。  「へ〜、かわいいね。でも違う人で驚いただろ うね」  「ゆかちゃん? ひょっとすると知っている子 かもしれないな?」  修一が、女の子のお母さんのことを見た感じ で伝えた。  「多分私、知っていると思うよ、『益田優子さ ん』だと思う」  修一が驚いて答えた。  「そうなの? 偶然だね?」  「ゆかちゃん、かわいいよね。いつも元気なん だよ。そう、お父さんまだ出張中なんだ」  修一が何気なく質問をした。  「ご主人も知っているの?」  「ご主人は、知らない。会ったことないよ。確 かコンサルティング会社とか話していたように 思うけど」  修一は、コンサルティングつて結構大変な仕 事だ、クライアントのことを分析したリアドバ イスしたり神経使いそうな仕事だ。そう心でつ ぶやいた。  それから、二人で食事をしながら、今日会っ たこととかをさつきが修一に話をする。それを 修一は、頷きながら聞いていた。  中井修一とさつきは、九州の宮崎の出身だ。 高校の時の同級生で、修一は宮崎の国立大学を 卒業した。さつきは、宮崎のデザインの専門学 校を出て、地元の広告デザイン会社に就職した。  二人は、高校時代からの付き合いで、将来は 結婚することもイメージしていた。修一は、卒 業後に地元の工業専門職の公務員の就職を考え ていて、二三年後に結婚できればという思い だった。  しかし、修一が卒業するその年は地元の専門 職の採用が急遽なくなってしまった。理由は定 かではなかった。修一は、焦ったが大学の就職 担当の教授とも相談して、東京の大手のシステ ム会社への就職をすることになった。大学院へ の進学も進められたが、修一は、さつきとの結 婚を漠然とだが考えていたので、就職すること を選んだ。さつきとは遠距離恋愛となるが、さ つきも承知してくれた。  東京に就職して、自分が田舎の出身だという ことを痛切に感じた。環境が都会だということ もあるが、同期入社の仲間のレベルの高さや先 輩たちのスキルの高さに驚かされた。ついて行 くのが精いっぱいだった。それでも、修一の指 導をしてくれた葛西という先輩が厳しくも優し く教育をしてくれた。  先輩の葛西郁人は、東大を出て、この会社に 入社している。大学時代は、ボート部で大活躍 をしたらしい。体育会系の先輩だが、修一を何 かと気にかけてくれた。教育係として、エンジ ニアとしては厳しく指導していたが、修一の努 力を見ていて、物事の判断の仕方や発想の仕方 など、細かいところまで指導してくれた。  開発には、何か求められているかを常に複数 の視点をもって考え、要求に対応できるシステ ムを開発することが自分たちの役割だと教えら れた。  修一は、仕事からプライベートのことまで葛 西に相談していた。さつきとの遠距離恋愛のこ とや将来の結婚も相談していて葛西の妻も食事 に招待してくれたり相談に乗ってくれたりして いた。  それから一年程して、さつきは、東京のデザ イン会社に転職した。修一との同棲は、葛西の 奥さんからのアドバイスもあった。結婚式には、 わざわざ宮崎まで来てくれた。自分にとっては 師匠であり、尊敬する人物たった。  葛西から育てられたおかげで、同期の中でも 評価されるようになった。今ではプロジェクト マネージャーまでやらせてもらえるようになっ ていた。  就職して、三年目の三月にさつきと結婚をし た。その際に青葉台に引っ越してきた。  結婚後に暫くして、さつきは、自宅近くの広 告代理店にデザイナーとして転職した。修一と の結婚生活で家庭にかける時間を増やしたいと の思いもあってのことだった。そして、自宅近 くの職場で時間もできて、その生活を楽しんで いる様たった。ただ、まだ子宝には恵まれてい ないことを少しだけ気にしていたが、修一とも 話して成り行きにまかせようということで二人 の生活を楽しんでいた。  いつもは、修一が残業終わりに帰ってくるの で、夕食は、十時や十一時くらいになる。それ でも残業の時は、さつきは一人で先に食事をし てしまうが、修一が食事をする時は、食卓に 座ってお茶を飲みながら話をすることが習慣に なっている。  お互い仕事をしていることと時間のずれで会 話する時間がなくならないように、さつきがい つも気を遣ってくれているのだ。  それで、修一もさつきの話を聞きながら食事 をしている。この囗は、定時で帰れたので、 ゆっくりと会話もできる。修一は、時には仕事 でいらいらしていることもあるが、そんな時は、 さつきは話すことをしない。そして、修一の話 を聞くようにしてくれている。その心遣いに救 われていた。そこには、さつきが生けてくれる 花がテーブルを飾ってくれていた。 **   **   **  次の囗、修一はいつもの七時に、家を出た。 修一を見送り、朝食のあと片付けをすませると、 さつきも家を出て会社に向かった。会社は、自 宅のマンションから自転車で十分くらいのとこ ろにある。  いつものコースで会社に着くと、みんなに元 気に挨拶をしてコーヒーサーバーからコーヒー を準備して席に着いた。机の上のパソコンの電 源を入れる。さっそく向かい側に座るデザイ ナーの塚本が話しかけてきた。  「中井さん。大変申し訳ない。昨日のデザイン の件だけど。クライアントの要望で、背景の明 るさをもう少し明るくして、ここのフォントを 少し大きめに変更してもらえないかな?」  さつきは、塚本の顔を見て。  「了解です。少し時間をもらっていいですか? すぐ修正します。ちょっと課長にレポート出す ように言われているので」  「大丈夫、午前中くらいでお願いできる?」 「大丈夫です」  さつきは、心の中で昨日は、逆の指示だった と思いながらも笑顔で対応していた。まあ、デ ザインの仕事では、ありかちなことだ。  課長ヘレポートを提出して、塚本から依頼さ れた変更を終えて塚本に変更データを送ると昼 休みの時間になっていた。   昼食は、いつも手作り弁当を持参している。 修一と自分の二人分を作っており、さつきは料 理が得意で作るのも好きだ。そして、それを食 べる時間も楽しい時間になっていた。  休憩スペースに移動して、弁当を広げたとこ ろで、スマホの着信音が鳴った。  スマホを見ると「葛城美由紀」からだった。  以前、さつきが働いていたデザイナー会社で さつきと同じデザイナーをしていた。福岡の大 学の芸術学部を出て優秀なデザイナーだった。  さつきは、結婚して暫くして自宅に近い今の 会社に転職した。葛城美由紀は、さつきが転職 したあとで故郷の福岡でフリーランスデザイ ナーとして独立をした。  さつきと修一は、さつきの三歳下の美由紀を 妹のように思っている。美由紀も東京に遊びに 来る時は、さつきの家に泊まったり二人を兄、 姉と慕っている関係になっている。ここ最近は、 LINEでたまに連絡を取り合うくらいだった。  「美由紀ちゃん、久しぶり? どうしたの、電 話って珍しいね」  「さつきさん、お久しぶりです。今、大丈夫で すか? お昼の時間でしょう?」  「大丈夫よ。お弁当だから。休憩スペースにい るの」  「修一さんも元気ですか?」  「うん、相変わらず忙しそうだけど、元気だよ。 多分もう少しで今の仕事がひと段落するような ことを言っていたわ」  「そうなんですね。多分その今の仕事のことな んですけど。近々、修一さん福岡で講習をされ ると思うんです。知り合いの社長から聞いたん ですけど」  「そうそう、来週、福岡に出張になってた」  「実は、その講習に私も参加させてもらう様お 願いして、了承してもらったんです」  「へ〜〜、修一君も美由紀ちゃんに会えるなら 大喜びだよ」  「それでそのあとに、食事でもしようかと思つ てるんです。修一さんに話してもらえません か?」  「それはいいけど、直接連絡してもよかったの に」  「いや、ラブラブのお二人だから、ちゃんとさ つきさんに連絡してからと思いまして」  「はは、全然大丈夫だよ。了解。今日話しとく ね」  「はい、宜しくお願いします。私も楽しみにし てますって伝えといてください」  電話を切ると、さつきは、微笑みながら。相 変わらず元気で周囲に気を遣ういい子だなと 思って、楽しみの弁当を食べ始めた。 第2章 予感  葛城美由紀は、福岡でフリーランスのデザイ ナーやWEBのシステム開発のエンジニアとし ても活動していた。東京から福岡に戻り、最初 は仕事のことで迷ったり、営業先などで苦労し たりしていた。  ある時に、大学の同期でエンジニアの太田の 紹介で、経営者のコミュニティを紹介された。 そこで主催している「佐倉 徹」と出会った。 彼は大手のシステムエンジニアを経てからソフ ト開発の会社を経営していたこともあり、IT 関連業界の人脈も広くあった。  それで、いろいろと美由紀に紹介をしてくれ た。美由紀は、そこから仕事をする中で、コ ミュニティの可能性や今後の仕事のやり方を考 えるようになった。そこで、佐倉とも相談して、 デザイナーやエンジニアのコミュニティを作る ことにした。  そこから、仕事の案件ごとにチームを作って 活動するようにしていた。地元では技術的に大 変高い評価をもらえるようになり、優秀なメン バーも福岡だけでなく九州を中心とした各地域 に仲間ができていた。  そんな中、佐倉の紹介で「R&Vテクノロ ジー社」の代表、河村祐二と出会った。彼は、 業界では知名度も高く、優秀なエンジニアであ り経営者としても注目されていた。そんな中、 河村は、美由紀に連絡をして、会社に来てもら うようにお願いした。  「河村さん、いつもお仕事ありがとうございま す。今回も面白いお話しを頂いて、メンバーも やる気十分って感じです」  「葛城さん、いつもありがとうございます。葛 城さんのチームは優秀な方ばかりで安心してお 願いできますよ。それで、ちよつとご相談もあ るのですが、今日食事でも如何ですか?」  「わ〜、嬉しいです。ぜひお願いします。私な んかに相談つて、大丈夫ですか? 天下の河村 社長が私なんかと」  「いやいや、ちよつと泣き言を聞いてもらいた いだけですよ。それじゃ、準備しますので少し 待っててもらえますか」  そう言うと河村は、カバンを取りに戻った。 そして、何やら社員と話をして、五分ほどで 戻ってきた。  「じゃ、行きましよう。せっかくなので美味し い寿司でもいかがですか?」  「え、いいですね。お寿司大好きです。行きま しよう」  二人は、会社を出て、歩いて十分ほどの路地 にある寿司屋に入っだ。  ここは、河村の行きつけのお店らしい。河村 が店主に挨拶をすると、奥の座敷を案内された。  「素敵なお店ですね。ここ私はじめてです」  「あれ、そうでしたか。私はお寿司を食べる時 は、だいたいここなんです。葛城さんもご一緒 したと思ってました」  「はい、初めてです。楽しみ」  すると、河村は店主に話しをして、注文をし た。  「葛城さん、ビールでいいですか?」  「はい、大丈夫です」  暫くして飲み物と御通しが運ばれたので、二 人で乾杯をすると、美由紀は、ビアグラスの ビールを一気に飲み干した。  「葛城さん、さすがですね」  「すいません。のどか渇いてて。あつ、河村さ んの前だからこんな一気飲みするんですよ。普 段は、おしとやかに振舞つていますから」  「いいですね。葛城さん、面白い」  「でも、佐倉さんから河村さんを紹介頂いて、 こんなにお仕事も頂き、お食事までご一緒でき るとは、本当に光栄です。佐倉さんに感謝、感 謝ですよ」  「佐倉さんは、本当に優秀な方ですよ。エンジ ニアとしても私よりもはるかにできる方だと思 います。それに、心遣いやコミュニケーション 能力の高いところはすごいです。私も信頼する 仲間だと思っています」  お刺身やお寿司が運ばれて来て、二人で今の 仕事の話や河村の業界に対する思いなど、話し が進んで楽しい時間となっていった。  「河村さん、それで、お話しというのはどんな ことですか?」  「実は、以前からお話ししていた新規事業のプ ロジェクトの人員のことなんです。中々私か納 得できる人材に巡り会えなくて。特にマネージ メントできる人材がいないんですよ。うちの大 島とも考えたのですが、彼女は技術スキルは高 いのですが、マネージメントの部分で弱い。他 のメンバーも適任が見つからない。それで、葛 城さんにも以前お話したのですが、その辺りの 状況は如何なものかと思いましてね」  「例えば、東京とかから福岡にUターンする人 材とかいればとも思っているんですが。葛城さ ん東京のほうもつながりをお持ちでしょう」  「あの件ですね。河村さん、普通のエンジニア だったら、なんとかご紹介もできるんですが、 今回のAIも含めた開発の人材って、相当高い スキルが要求されますよね。しかも、あの天才 大島さんをマネージメントするって相当なスキ ルが必要ですよね。大島さんは、凄く素敵な女 性ですし、人柄も良い方ですよ。でも技術につ いては、シビアな方ですからね」  「実は、頭にずっと浮かんでる方は一名いるん ですよね。ただ、中々「Iドル高い気がしてる んです」  「え、そうなんですか。ちよつと詳しく聞かせ てください」  葛城は、まだ自分の考えだけの状態だったた め迷ったが、話すことにした。  「その方は、私か兄と慕ってる方でして、ご夫 婦で私の東京の兄、姉の存在の方なんです。中 井さんという方なのですが、ご主人の修一さん が、TCATCH(ティーキャッチ)技研のエ ンジニアをされています。今、そこでもプロ ジェクトマネージャーをやられています。AI についても専門的知識をお持ちで、周りからの 信頼も厚く。私の大好きな兄貴分なんです」  「TCATCH(ティーキャッチ)技研なら、 私の後輩がシステム本部長をやってますよ。葛 西といいます。たしかにTCATCH(ティー キャッチ)技研さんは、(Iドルが高いですね。 もし、葛西の部下だったら相当なレベルでない とマネージャーは任せてもらえないはずですか らね。あいつは、私か認めるエンジニアでも トップクラスの人間です。今は、出世して偉く なってしまいましたが」  「そうなんですか? それは、ちょっとだけ光 が見えたかも」  「確か今度、TCATCH(ティーキャッチ) 技研の新技術の講習会が福岡で開催されますよ。 葛西から誰か参加させてみてくれと頼まれたん です。ただ、レベルは高いと念押しされました が。葛西が育てたエンジニアだと言ってました。 あっ、そう中井さんとか言ってました」  美由紀は、驚いた。こんなことがあるのかと 興奮しながら、河村に話した。  「それマジですか? 私か先ほど話していたの が『中井修二さんつて方です』  「そうですか。それはまたご縁ですね」  「わかりました。河村さん、その講習会に私も 参加させてもらえませんか? ここは、運命的 なものを感じますので、ちよつとチャレンジし てみます。修一さんとも会えるなら私は、大感 激だし、河村さんも紹介します。ちよつと、仕 掛けてみます」  「仕掛けるつて。面白い人ですね」  「いや、もしこれが成功すれば、私の密かな夢 が実現するかもしれません」  「それに、中井さんご夫婦は二人とも、宮崎の ご出身なんです。九州へのUターンつて考えも そろそろありかもしれません。お二人とも同級 生で、三十五歳になるはずです」  「葛城さんにお任せしますが、後輩とのっなが りもありますから、決して強引な感じではなく お願いします」  「大丈夫です。ダメ元ですから。修一さんなら 私も何でも話せますし、逆に話さなかったら怒 られる様な兄貴肌の方です。もちろん結果はど うなるかわかりませんが、チャレンジしてみま す」  **   **   **  修一がいつものように八時半に出社すると、 プロジェクトメンバーはすでにパソコンに向 かって作業を進めていた。修一の会社「TCA TCH(ティーキャッチ)技研」はフレックス タイム制を導入しているので、出社時間は自由 なのだが、仕事が佳境に入っており最後の仕上 げの段階にきていることもあり、メンバーは朝 早くから作業を進めている様たった。  修一もみんなに挨拶をすると、出社途中に 買ってきたテイクアウトのコーヒーをテーブル に置き、パソコンの電源を入れる。メンバーの 進捗をパソコンで確認した。今のプロジェクト チームのエンジニアはとても優秀で、スケ ジュール通りに進んでいた。自分が入社した時 とは環境もだいぶ変わった。あの当時の先輩の 葛西から鍛えてもらったことを今でも感謝して いる。  ふとそんなことが頭をよぎった。あの葛西も 今は、システム統括本部長である。やっぱりす ごい人だったんだとつくづく思う。そんな人に 巡り会い、教えを乞うことができたことに感謝 しているし、その教えを自分がみんなに伝えて 行くことが恩返しだとも思っている。  現在は、新しいデーターベースの機能をAI と連携させて、情報の最適化が行われるシステ ムを顧客ヘサービスとして展開できるモデルを 開発している。この半年程は、その開発で残業 や休日出勤もあったが、だいぶ落ち着いてきた。  パソコンに向かっていると、メールの着信が あった。開けてみると、人事の岡田課長から だった。CC(カーボンコピー。同時に配信さ れる宛先)で上司の田村課長も入っていた。  内容は、今日の午後一時に会議室Aに来るよ うにとのことだった。その際に、現在のプロ ジェクトに関する進捗の資料を持参するように とのことだった。  「なんだ? 人事に呼び出されることしたか な? 課長も同席で、しかもプロジェクトの進 捗も持参ってどういうことだ?」  直ぐに、田村課長に連絡をした。今、修一の プロジェクトは田村課長と別室で作業をしてい る。  「田村課長、お疲れさまです。あの、岡田課長 からのメールご覧になりましたか? なんの件 かおわかりになりますか?」  田村課長には、何か話が来ている様たった。  「中井君、忙しいところ悪いな。まあ、以前か ら岡田さんからは言われてたんだけどさあ。有 給消化の件だと思うよ。ほら、開発で忙しいか ら、そのうちまとめて取らせるつて返事してた んだけどね。俺も一緒に参加して、俺からも ちやんと話すから。宜しく頼む」  修一は、なんとなく気が重い感じがする。た しかに、人事のほうから有給消化の件は、何度 も連絡をもらっていたが、何せ開発の重要な時 期だから保留にしていた。メンバーには、ちゃ んと計画的に取らせているので、問題はないと 思う。多分自分の有給消化の件だろうと思った。  さつきが作ってくれた弁当を食べながら、岡 田から問い詰められるだろうことを予測して、 どのように返事をするかを考えていた。  午後一時になると、修一は会議室Aへ向かっ た。すでに田村課長と岡田課長が来ており、話 をしていた。その話を中断させるように修一が 入って来た。  話は、やはり修一の有給消化の件たった。  「中井君、田村さんからも聞いていると思うけ ど、有給消化がされてないんだよね。会社でも 率先して有給休暇を取得する様通達を出してい ることはわかっていると思うけど。うちの担当 者から何度か連絡もいってるはずだよね」  「岡田課長、すいません。連絡は何度か頂いて おります。メンバーにはちやんと取得させてい るのですが」  「岡田さん、人事の立場もわかりますが、中井 も開発が大事な時期だったので、理解してくだ さいよ。お話したように、このプロジェクトが もうすぐひと段落するので、まとめてちやんと 取らせますので。サブリーダーとも調整させま すから」  田村も修一をかばつて、話をしてくれた。し かし、そこで岡田のほうから意外な名前が出さ れた。そして、プロジェクトの進捗表の確認を された。  「これを見る限り、順調じゃない。マネージメ ントの大変さは理解しているつもりだけど、休 むことも大事なことなんだよ」  「実は、葛西本部長からも言われているんだ」  修一と田村は葛西本部長の名前が出されたこ とに驚いた。  「本部長は、中井君が新人の時の教育係だった んだろう。中井君のことをよく知っているとの ことだったよ。それで、君は頑張りすぎるとこ ろもあるし、周りのことに気を遣い過ぎて自分 のことをあとまわしにするから一度、人事の視 点から話をしてくれとのことだった。中井君の 奥さんのことも気にかけておられたよ。心配さ れてたんだよ。田村さんも同じ開発の人間だか ら、私にその役割がまわってきたと思うんだよ ね」  修一は、葛西の気遣いに、あの人の優しさを 感じた。  「本部長も優しい思いだけで私に依頼したので はないと思うよ。組織としての人の重要性や 先々のことも考えての依頼だと思う。田村さん とも相談して有給の計画を出してくれ。田村さ んも宜しくお願いしますよ」  田村も律して答えた。  「承知しました。本部長にまでご心配かけてし まい、申し訳ないです。私からも本部長に報告 しておきます。中井の有給の件は、責任をもっ て対応します」  修一も岡田に頭を下げながら挨拶をした。  それから岡田が会議室を出ると、田村と修一 は残って話し合うことにした。  「田村課長、申し訳ないです。ご迷惑をお掛け してしまいました。私も安易に考えていたこと を反省してます。まさか本部長にまでご心配か けているとは」  「葛西本部長は、君も知っているように『人』 を大事にする人だからね。特に君のことは新人 の時から見ているので、思いも強いんだろうね。 まあ『さすが葛西』と昔から言われてた人だか ら」  修一も笑顔で、そうですよね。と答えながら、 新人時代の課長の村上が何かにつけて問題が起 こると葛西さんを指名していたことを思い出し た。周りからは「村上さんの葛西(火災)保 険」とまで陰で言われていた。そして、いつも 問題を解決すると、みんなから「さすが葛西」 と言われていた。  修一は、田村とスケジュール調整を行い、会 議室にサブリーダの木下と金井を呼び出し、開 発終了後に全国で開催する講習会の段取りと担 当を再調整した。修一は、とりあえず、北関東 と大阪、福岡の三拠点の講習を担当し、福岡の 講習が終わったら長期休暇をとることで調整が ついた。  木下と金井も修一と田村課長に申し訳ないと 思いを伝えたが、修一も自分の管理が悪かった だけだから、二人は本当に頑張ってくれている よと激励して会議室をあとにした。  **   **   **  葛城美由紀から連絡が来てから次の日曜日。  修一とさつきは、青葉台の駅近くをショッピ ングと散歩をかねて歩いていた。  すると、前から小さな女の子と母親が手をつ ないで歩いて来ていた。そして修一とさつきを みつけると、女の子が手を振りながら笑顔で小 走りに近寄ってきた。  「さつきさん。こんにちは」  益田優子とゆかだった。さつきは、ゆかを抱 き上げた。  「ゆかちゃんこんにちは。いつも元気だね」  それをみて、益田優子は驚いた。 「あれ、確かこの間ご迷惑をかけた」  すると、さつきが優子に話しかけた。  「やっぱりね。修一君からゆかちゃんの話を聞 いて、ひょっとしたら優子さんとゆかちゃんか な? つて思ってたんだよ」  「え。さつきさんのご主人だったんですか?」  「はい、主人の中井修一です。修一君、こちら 益田優子さんと、ゆかちゃん」  修一も挨拶をする。  「こんにちは。先日は、失礼しました。まさか お知り合いとはね。偶然ですね」  「先日は、大変失礼しました。優しく接して頂 いてよかったです」  それから、四人は近くのレストランで一緒に ランチをすることにした。  「さつきさんつて、ご主人のこと修一君つて呼 んでるんですか?」  「うん。学生時代から付き合つてるので、なん か抜けないんだよね」  「素敵ですよ。何かずっと恋人みたいな感じで すよね」  そこで、ゆかちゃんの話や最近できた駅近く のパン屋が美味しいとかの話をしていると、修 一が頃合いをみて、優子に話しかけた。 「ご主人は、コンサルティング会社にお勤めな んですか? さつきから聞いたんですが」  「はい、そうです。出張が多くて大変なんで す」  「益田さんつて。私の親友も益田つて言うんで すよ。ただ、随分と連絡取り合つてないんです が、私たちは九州の宮崎出身で、その益田は、 宮崎の大学の同窓なんです」  すると優子が驚いて。  「主人も、宮崎の出身で大学もそうです。益田 昌也といいます」  修一とさつきはお互いに驚いて顔を見合わせ た。  なんと「益田昌也」は二人の親友だった。  益田昌也は、修一と同じ大学の同じ学部学科 たった。高校時代から付き合っていたさつきも、 キャンプやドライブ、飲み会などを益田と一緒 に楽しみ、とても仲が良かった。  修一は、大学卒業後に東京へ就職をしたのだ が、益田は大学に残り大学院の修士課程まで進 んだはずだった。同窓の中でもとても優秀だっ たが、いつも明るくキヤプテンシーもありみん なから一目置かれる存在だった。  修一も好きなアーティストを益田から紹介さ れ、それ以降大ファンになった。さつきも一緒 にコンサートにも行っていた。  ただ、修一が東京に就職してから、優秀な同 期に負けたくない一心で休みも独自に勉強をし ていたため宮崎へ帰省もしていなかった。それ でもっぱら、さつきが東京に遊びに来てくれて いたので、益田と会うことがほとんどなくなっ た。  さつきも驚いて優子に話した。  「優子さんの旦那さんつて、昌也君だったんだ。 益田の姓は知っていたけど、まさかね」  「それで、昌也は、元気ですか? 懐かしいで すね。ぜひ、会いたいと伝えてください」  優子も驚いて 「わ〜〜。こんなことってあるんですね。感激 です。もちろん、すぐに連絡してみます。ただ、 彼も忙しそうで」  偶然の重なりで、益々お互いに親しみを感じ ていた。  ゆかちゃんも三人が笑顔で会話しているのを 見ていて楽しそうに笑っていた。  さつきと優子は、花屋で知り合った。  さつきがいつも花を買っているフラワー ショップに優子とゆかが来ていた。そこで、ゆ かが楽しそうにお花を見て歌っている姿が微笑 ましく。さつきから声を掛けた。ゆかも人見知 りせずにさつきと話しをするので、優子もさつ きと直ぐに親しくなった。  それから土曜日の昼など、修一が休日出勤し ている時に、三人でランチをしたり、近くの公 園で遊んだりしていた。優子は、看護師だった が、今はゆかの育児に専念しているとのこと だった。優子は、さつきの二つ下だったので、 さつきも妹のように親しく接するようになって いた。  優子は、ゆかと自宅に戻ると、さっそく、昌 也にLINEで連絡したが、昌也からの返信は なかった。きっと仕事で忙しいのだろうと思っ ていた。今回は、どうもトラブルの様で急に福 岡へ出張していった。トラブルなので仕方がな いと優子も思っていた。それからその囗は結局 連絡が来なかった。  **   **   **  益田昌也は、コンサルティング会社「NGコ ンサルティングジャパン」の主任コンサルタン 卜として、顧客の経営分析や組織運営の支援を 行っている。特にITコンサルティングを得意 としていた。  半年ほど前に、担当役員でもある佐々木取締 役と上司の前川課長に言われて、福岡の会社が 新しくプラットフォームの開発を行うので、そ の開発について、ITコンサルティングするよ うに指示を受けた。  益田は、佐々木取締役の部屋に前川課長とI 緒に呼び出された。  「前川君、益田君、お疲れさま。益田君はとて も優秀で実績も豊富との評価を聞いているよ。 それで、君に大きな案件の担当をお願いしたい んだ」  前川課長から  「佐々木取締役、例の福岡の案件ですか? 益 田なら適任だと思います。相手との信頼関係を 構築することが肝となりますが、益田なら大丈 夫です」  どうも、前川は事前に佐々木から案件の話を 聞かされていた様たった。  「前川君、わかってるよ。益田君の実績は、社 内でも評判だからね。今回は、会社にとっても 大事な案件になる。益田君宜しく頼むよ」  益田は、少し緊張しながら答えた。 「ありがとうございます。大変光栄です」 「詳細は、前川君から聞いてくれないか。彼が 詳細をわかっているから」  「承知しました。前川課長、宜しくお願いしま す」  それから、自分の部署に戻ると、すぐに会議 室で前川課長と打合せを行った。  今回の案件は、地域活性化を大義としたもの だった。AIのエンジンを使って登録企業の特 徴や強みを管理し、登録企業や仕事内容の紹介 を通じて営業支援を行うポータルサイト(基地 局)を構築することが目的だ。  先方はシステム事業も手掛けているが、顧客 分析や市場における強みなどのデータ解析とA Iへの指示のスクリプト(命令書)などを益田 の会社で協力するものだった。そして、益田の 会社から益田と福岡支店の三名が参加するとの ことだった。そのリーダーを益田が務める。  それから二日後、福岡支店の大島、加藤、小 田島という三人のメンバーと益田の四人で福岡 の「FTMシステムテクノロジー社」へ出向い た。  先方の山科社長は、益田たちを大歓迎で迎え てくれた。先方は、システム開発、デザイナー、 データ分析、WEBシステムなど、八名体制の プロジェクトができ上かつていた。  益田たちは、先方チームの今回の案件につい て調査方法や分析のやり方、情報の入手とその データベースの作成など、プロジェクトの各担 当のリーダーとして進めることになった。 第3章 陰謀  山科幸一郎、福岡企業「FTMシステムテク ノロジー」代表取締役である。  福岡を拠点にIT関連事業を展開する会社で ある。また、ネットショップ(EC事業)も手 掛けている。今回、新たにAIを使った地域プ ラットフォームという構想で新規事業を展開し ようと目論んでいた。  実現すると、地域からのサブスク(サブスク リプション。月額定額制のサービス提供)で大 きな収益が継続的に見込まれる。また、その内 容をスポンサー契約や金額に応じた優先表示な どで、さまざまな収益を確保できる。福岡をサ ンプルモデルとして成功させたあとは、全国へ 展開しさらに越境ECなど、海外へのネット ショップへの展開も考えていた。  そのためには、地域活性を大儀として、経済 産業省の協力を得ることも考えていた。おあつ らえ向きに、今回地元選出の衆議院議員が経済 産業省の政務官についた。  選挙の際には、だいぶ協力をした貸しもある ので、上手く使えるはずだと考えていた。ただ、 構想実現のための具体的な設計図と収益モデル をつくる必要がある。しかもAIとの連携を行 うためには、そのスキルも持った人間が必要で ある。  まずは、経済産業省のほうに近づくことを決 めた。それで、経済産業省政務官、福田康弘の 秘書の若林に連絡をした。そして、なんとかア ポイントを取れる様交渉を図る。地元後援会で もこんな時のために、精力的に手伝って来たし、 後援会への献金もやって来た。  すると、アポイントは取れるが東京で会食と いう形になるとのことだった。山科は大喜びで、 接待させてもらいたいと申し出て会うことにこ ぎつけた。  「福田先生、この度は経済産業省政務官のご就 任おめでとうございます。お忙しいところお時 間を拝借して申し訳ございません」  「山科さん、いやいやこちらこそ、選挙の時は 大変お世話になった様で、後援会で一番お力添 えを頂いたと聞いております。感謝申し上げま す。それで、今日はどんなお話しなんだろうか。 なにか地域経済発展へのシステムとか聞いてま すが」  山科は、自分の構想を福田にかいつまんで話 し、経済産業省のお墨付きをもらいたいと申し 出た。もちろん正式な形でなくても、応援とい う形で了承をもらえないかと交渉する。  「山科さん、成功すれば、素晴らしいですね。 ただ、それなら正式に経産省へ申し出て承認を もらえばいいのではないですか? 簡単ではな いでしょうが、しつかり審査してくれると思い ますよ」  「先生、そこなんです。この事業は将来的にも 大きな利益を見込んでいます。また地域から全 国、海外への展開も考えています。それで早急 に開始しないといけないと考えております。そ れで、正式ではなくても、先生のお力をお借り したいと思っております。もちろん、先生には 満足頂けるように、配慮させて頂きます。若林 さんを通して」  山科は、そう言うと若林をみて、笑った。  「まあ、若林と相談してみてください。それで、 その他に何かありますか?」  すると山科が、  「実は、今回の件で優秀なITの人材を探して まして、先生のお知り合いにその辺りのご人脈 はないものかと」  すると福田が少し考えたあとに、若林に言っ た。  「若林『NGコンサルティングジャパン』の 佐々木さん。お前知ってるよな。彼に相談した らどうだ。コンサルティング業務でもITとか 今のAIとかに詳しいと話していたと思うが。 彼なら私もよく知っているから、私からの紹介 ということで話をつないでおいてくれ」  秘書の若林が、  「承知しました。すぐ連絡してみます。先方の 都合が良ければ、明日にでもアポを取りましよ う。山科さんもこちらに来られているので」  「そうだな。そうしてくれ」  すると、若林は電話を掛けるために席を立っ て廊下に出ていった。  すぐに戻ってくると、  「山科さん、明日は佐々木さんも都合が良いと のことですが、如何ですか」  「はい。さっそくのご対応ありがとうございま す。もちろん大丈夫でございます」  するとまた、廊下に出て話をしている様たっ た。今度は、時間が掛かったが、暫くして戻っ てきた。  「山科さん、明日の夕方五時に、またこちらで 宜しいですか? 女将には、もう予約を入れま した」 「先生、よろしいですか?」 「うん。お前に任せとくよ。頼んだぞ」 「承知しました」 「若林さん、ありがとうございます。感激して おります。宜しくお願いいたします」  次の日、山科は昼過ぎに若林と会っていた。  どうも、昨日の件で山科の構想を若林に話し て、今日会うことになった佐々木についてのヒ アリングもした様たった。  午後五時に三人は、昨日の料亭で顔合わせを していた。  山科は、会食が進む中で自分の構想を佐々木 に話して、できれば共同で事業展開したいと申 し出た。  佐々木のほうは、福田の紹介ということもあ り、無下に斷ることもできず。一旦持ち帰って、 近日中に返事をするということで別れた。  翌日、佐々木から山科へ連絡が入った。協議 したが、共同事業というのは難しいので、山科 のほうからコンサルティングの依頼という形で 進めて欲しいとのことだった。その代わり、会 社でもトップクラスのコンサルタントと福岡支 店の精鋭に担当させるとのことだった。  今回の件は、佐々木の会社でも異例の判断で あることを言われた。  山科は、  「佐々木さん、承知していますよ。今回の件は、 佐々木さんにも喜んで頂けるように段取りして おりますので、ご期待ください」  と何やら意味深げに伝えた。  **   **   **  山科のプロジェクトへ益田たちが参加して半 年が経過した。  情報の収集から分析など、益田がプロジェク トマネージャーとして手腕を発揮し進めていた。  各部門の担当責任者は、福岡支店の大島、加 藤、小田島が担当し、全体のマネージメントと システム開発の部分は、益田が管理していた。  課題も多く発生していたが、作業を細かく分 解し、それぞれが独立して開発を行った。さら に、共有する部分を見出して効率よく進める方 式で、高い開発効率で課題解決を行い進めてい た。  問題は、AIとの連携部分とその情報の取り 出しについての技術をどうするかということ だった。  益田は、山科に課題について話をした。山科 はその部分は、こちらで責任をもって開発をす る予定だとの返事があった。どうも、山科のグ ループ会社にシステム専門会社があるらしい。 そこに専門技術者がいて対応させるため、その 部分をパターン化して保留にし、他の部分の開 発とサンプルモデルを作って欲しいとの要望 たった。  **   **   **  山科は、この事業を企画する段階から、この サービスの肝は、AIとの連携でどの様な情報 を命令し、そのデータを分析して最適な情報を 与えることだと考えていた。  しかしながら、自分の会社やグループのシス テム会社には、そんなノウ(ウはない。全国で 見ても、そこまでの開発ができる会社は隕られ ていた。しかし、地元福岡にその分野では、最 先端の技術と実績ももつ「R&Vテクノロジー 社」があることがわかった。  社長は、業界でも有名な河村社長だ。彼は専 門誌でも取り上げられるだけでなく、経済誌に も今後最も注目すべき経営者として特集が組ま れるほどの人物たった。  そこで、河村に近づくべく、R&Vテクノロ ジー社が開発して、注目されているコミュニ ケーションツールのユーザになり、様子をうか がうことにした。  それから、そのツールのカスタマイズ(自社 の都合に合わせた開発)を依頼して、その技術 者との接点を図った。   「コミュラツク」というそのツールは、AI を搭載し、コミュニケーションの内容により、 自動振り分けや条件指定で、さまざまなツール との連携を図れる、(イグレードなツールだっ た。山科は、社内外のやりとりをすべてその ツールへ移行した。そして変更機能として、相 互に条件を指定したシークレットなやりとりを 行える依頼をした。  高い要求内容にすることで、先方の優秀なエ ンジニアとの接点をつくることが目的だった。  ツールは、一か月ほどで完成しリリースされ た。短期間で、リリースできる先方の技術力に 山科も驚いた。これは、使える。  調査したところ、R&Vテクノロジー社には、 大島という女性のエンジニアと飯島という男性 のエンジニアが社内のトップエンジニアであり、 AI技術も国内トップレベルだということがわ かった。そこで、山科は、その一人の「飯島崇 (いいじま たかし)」に目を付けた。  山科は、飯島を何度か食事に誘いながら、飯 島の様子や社内での不満などを聞き出したが、 会社に対する思いも強く、特に社長の河村に対 する尊敬の念を強く感じていた。  ただ一点だけ、同期の大島に対しては、相当 なライバル心があることがわかった。会社では、 仲良く振舞っているが、常に負けたくない思い が強く、大島が社内で「天才」と評価されるこ とに妬みの感情もある様たった。  山科は、巧みに飯島に話を持ち掛けて、AI の技術はもっと広く活用されるべきであり、そ れを今の社内だけにしておくことは罪である。 また、自分の新しい事業もAIの活用と新しい 技術を搭載するから、こちらに移籍しないかと 持ち掛ける。  初めは聞く耳を持だなかった飯島も、山科の 巧みな誘惑の言葉に負けてしまう。そして、山 科のグループ会社の開発部長・取締役の席と多 額の移籍金を条件に引き抜きを行った。  飯島は、河村を裏切ることになると悩んだが、 山科の説得に応じる結果となった。  **   **   **  益田たちの開発は順調に進んでいた。基本設 計やビジネスモデルが完成し、開発のプロトタ イプモデル案もできあがっだ。  一部疑似データでのサンプルを使ってパター ン固定の状態ながらAIとの連携も見通しがつ いたころである。  益田は、東京に戻って担当課長や担当役員に も報告を行った。  報告が終わって、三日後に、福岡支店から電 話が入っだ。先方の山科社長から緊急で会議を したいとの意向が伝えられた。  益田は、福岡へ行き、福岡支店の三人ととも に山科社長との会議に参加した。  そこで伝えられたのは、山科社長が益田の会 社との提携を中断する意向たった。理由は、益 田たちのスクリプト(命令書)の完成度が当初 の要求を満足するものでないこと。その開発の 遅れが発生していることだった。  益田は、山科社長に確認した。  「山科社長、ちょっと待ってください。それは、 どの様な報告から判断されたことでしょうか? 先週の段階では、すべて順調に進んでおり、ス ケジュールも守られています。それは、御社の 担当者も理解し、納得されているはずです。現 段階の成果物としても先週ご確認頂いたではな いですか?」  福岡支店の三人も頷いている。  山科は、平然と答える。  「益田さん、私は順調に進んでいると聞かされ ていた。しかし実態を調査すると弊社の担当者 は、まだ益田さんたちの指示待ちで開発が止 まっているということだった。これは、どうい うことでしょうか?」  すると福岡支店の三人も、顔を真っ赤にして。  「それは、おかしいですよ。設計部分は完了し プロトタイプモデル案も出させて頂いてますよ ね。それで、データの収集とその分析を指示に 従って行って頂くように、御社の担当者にお願 いしているはずです。私たちは、その回答を 待って、AIとの連携の開発を行う予定で進め ていました。そのスケジュールも提出されてい るはずです。担当者のかたをここに呼んで頂け ないですか?」  すると山科が困った顔をして答える。  「その担当者は、責任を感じて、体調を壊して 休んでいるんですよ。他のメンバーにもヒアリ ングしましたが、詳細はわからないが、おおむ ね同じ意見だと言っています」  大島、加藤、小田島の三人は、おさまりが付 かない様子たった。  益田も何か起きているのかわからず困惑して いる。  すると山科が言い出した。  「こんな現状では、とても先に進めないと思っ て、ある方にご相談をしたんです。その方も来 社して頂いているので、その方のご意見も聞い てもらいたい」  すると山科が、内線で連絡をする。  「先生、お待たせして申し訳ありません。会議 室のほうへお願いいたします」  それから二人の男性が会議室に人つてきた。  「衆議院議員の福田康弘の秘書をしております、 若林と申します。こちらが、経済産業省政務官 の福田康弘でございます」  「こんにちは、福田です。山科さんから今回の 件、いろいろと相談されているんですよ。それ で、元々は、地域産業の発展と地域経済への貢 献ということでしたね。それで、私のところに 相談にこられた。山科さんは、私もお世話に なっているので、囗を挟まさせて頂くことにさ せてもらったんですわ」  益田は、急な展開に面食らった状態だった。  「開発については、私もわからんのですが、そ もそもこの事業は、福岡の地場産業で行うこと がベストだと思っておるのですが、如何です か?」  益田は、今更何を言い出すのだと怒りを感じ ながら答えた。  「今回の事業は、山科社長から弊社の取締役で ある佐々木のほうに依頼されたものであり、弊 社のITコンサルの実績とノウ(ウの提供を行 う事業として始めたものです。大変恐縮ですが、 今更その様なお話になるとは私共も困惑してし まいますが」  すると福田が、間髪入れずに話し出した。  「君の言うように山科さんがおたくの佐々木さ んに話をされたんでしょう。実は、佐々木さん を紹介したのは、私なんですよ。佐々木さんは、 私もよく知る仲だ。それで、佐々木さんにも話 をしたんだ。本来のあるべき姿に戻すべきだと。 そして、どうも開発も上手くいってない様だか ら、この際再検討する必要があるのではないか と。それについては、佐々木さんから、私に一 任すると回答を頂いている」  益田は、佐々木と交渉したとの発言に驚いた。 支店の三人も驚きの表情で益田を見ていた。  益田は、困惑の表情で福田に説明をする。  「まず、弊社佐々木からは、この件に関して何 も連絡も指示も受けておりません。そして、開 発のほうは、順調に進んでいると認識していま す。先はども山科社長に申しましたが、こちら の作業はスケジュール通りです。山科社長のほ うからのデータ提供待ちの状態なのです。開発 全体も進捗は計画通りに進んでおります。先生 がご認識されたことと差がある様ですが、これ が私たち現場の真の情報です。担当者のほうへ ご確認して頂けないですか?」  すると若林が囗を出してきた。  「いやいや、先生にそのようなことを話されて も。先生は、この事業の目的である地域への貢 献ということでご意見を言われているのですよ。 開発がどうのこうのというのは御社と山科社長 との問題ですよね。たまたま、山科社長のほう からご相談を頂いたので、先生が心配されてお 話しされただけです。その上で御社の佐々木取 締役とも話をされて、この件は、福岡の地域活 性の目的を達成するために、再検討したらどう かとアドバイスされました。そして山科さんも 御社の佐々木さんもそれに賛成された。そうい うことです」  すると福田のほうからも。 「若林の言った通りなんですよ。私は次がある ので失礼するが、私も地域発展へ貢献する今度 の事業は、大変期待している。また、AIや新 しい技術を使っての展開となれば、囗本の経済 産業におけるサンプル事例となるはずだと思っ ているのです。あとは、双方で話し合ってもら えればいいでしょう。山科さん、これでいいで すよね」  すると山科が。  「先生、お忙しいところありがとうございまし た。貴重なご意見とご提案を頂き、感激でござ います。あとは、私のほうで進めて参りますの で、お力添え心より感謝申し上げます」  益田が怒りで席を立ち福田に詰め寄ろうとす るのを、支店の大島たちがなんとか抑えた。  「山科社長、なんですか、これは? 納得でき ません。私たちの説明は聞いてもらえず、一方 的に判断されている。これは、承諾できません。 まず、ちゃんと担当者をこの場に参加させて真 実をはっきりさせてください。私たちも大変心 外です」  山科は、不機嫌そうな顔で。  「とりあえず、精査するので今日は、お帰り頂 いてもよろしいですか? そちらも佐々木取締 役とお話されたほうがいいかと思います」  山科から追い返された形で、益田と支店の三 人は、山科の会社を出た。  大島、加藤、小田島の三人も怒りでおさまり がつかない状態だったが、とりあえず福岡支店 に戻って、現状の報告をまとめることにした。 その資料をもって、益田は、佐々木と話をしよ うと考えた。ふと、スマホを見ると、優子から のメッセージが入っている通知だったが、申し 訳ない気持ちでその通知を無視した。  そして、上司の前川課長へ電話連絡をした。 前川課長も寝耳に水だとのことで、佐々木取締 役に確認する。今、海外出張らしく、明日には 帰国するとのことで、内容はメッセージで連絡 するとのことだった。それまで支店のほうで、 詳細をまとめて東京に戻るように指示があった。  それから、益田たちは先方の担当者とのやり とりのメッセージや開発の情報、プログラムや サンプルモデルのツールなどをまとめた。そし て、益田が東京に戻る時に、三人を代表して小 田島も一緒に東京本社へ戻った。  本社に戻ると、社内の雰囲気がいつもと違う 感じを受けた。多分、今回の件が噂になってい るんだろう。益田を見つけると数人が集まって きた。  「益田さん、何かあったんです。昨日、課長が 取締役と話をされていて、その声がみんなに聞 こえた様で、益田さんが失敗したと噂になって ます」  すると小田島が興奮した状態で発言した。  「失敗なんて、そんな。益田さんも私たちもプ ロジェクトが完成に向かっていたと思っていま す。益田さんのマネージメントですごい成果が 上かつています」  益田は、小田島を制して。  「小田島君、いいよ。まずはきっちり報告しよ う。それからだ」  益田が、席に荷物を置くとすぐに、課長の前 川が席に戻ってきた。  「益田君、小田島君、すぐに会議室に行ってく れ。私もすぐに行く」  益田、小田島、前川の三人が会議室に入ると、 益田から先日の山科社長のやりとりとそこに福 田議員が参加されたこと。内容が佐々木取締役 に伝わり、取締役も納得したと主張されたこと を報告する。小田島のほうからは、プロジェク トの詳細な経過説明と現状の成果を報告した。 益田も小田島も少し興奮した様子たった。  前川は、その報告を黙って聞いていた。する  「経過や現状は、わかった。益田君や小田島君 が頑張ってくれたことは、理解している。まず は、ありがとう。私も、益田君からの報告は、 取締役に伝えているし、今回のことも概要を伝 えた。実は、取締役も昨日帰国され、先ほどま で私に話をされたところだった」  益田は前川に詰め寄り、取締役にも自分から 説明させて欲しいと言った。  「益田君、君の言い分は、わかるつもりだ。納 得もできないだろう。小田島君も同じ気持ちだ よな。結論から言うと、今回のプロジェクトは 中断する。取締役がご決定なさった」  益田と小田島は納得がいかなかった。  「ちょっと待ってください。私から取締役に説 明をさせてください。私たち四人がこれまで やってきたことが無駄になってしまいます。小 田島君たちも納得しませんよ」  小田島も続いた。  「その通りです。益田さんがいたからここまで できたんです。すごい成果を出したと私たちも 胸を張って言えます」  「まあ、ちょっと話を聞いてくれ」  前川は、冷静な感じで話した。  「たしかに、君たちのことを私も信じている。 報告を聞けば、こちらに問題がないことは、わ かる。しかし、福田議員が絡んでいる。しかも、 あの人は経済産業省の政務官だ。わが社もなに かとお世話になっている立場がある。取締役も 議員には、気を遣う立場もある。それで、今回 は、議員の顔を立てることになった。もちろん 取締役も君たちに問題があるとは思っていない。 それは、私か確認した。しかし、ここは手を引 く。先方の調整は、取締役が直接交渉をされる そうだ。悔しいだろうが、この結果をのんでほ しい」  前川も辛い様子が伺える。ただ組織の上司の 判断に従うしかないと言った感じだった。  「もちろん、この半年の君たちの成果に対する 報酬は、先方へ請求する」  小田島は、あきれた様子たった。  「そんなことより、私たちのノウ(ウを相手に 渡すことになるんですよ。金額の問題じゃない と思います。今回は、新たなノウ「ウや技術を 導入したプロジェクトです。それは、どうする んですか?」  「もちろん、わかっている。それも含めての請 求を行う。これで、この件は終わりにして欲し い。益田君、小田島君、理解してくれ」  益田は、愕然とした。こんなことがあってい いはずがない。特に小田島たちに申し訳が立だ ない。ただ、前川の立場もわからないではない。  益田は、納得できないながら、前川に任せる ことにした。小田島も益田が折れたことで渋々 納得せざるを得ない感じだった。  益田は、出張の報告書や清算を終え、小田島 と別れて帰宅することにした。前川からは暫く 休みを取るように言われた。小田島は、収まり が付かない様子だったが、福岡へ戻って行った。 第4章 再会  益田が出張してから、二日が経ったころ、優 子も心配になった。LINEも既読になってい ない。電話で連絡したが、着信することはな かった。  さすがに心配になって、優子は、さつきに相 談することにした。  優子からの連絡に、さつきも心配になって、 その夜に修一に話をした。修一もLINEが既 読にならないことや電話に出ないことに心配に なった。修一は、優子に連絡して、一度会社の ほうに連絡してみたほうがいいのではないかと 優子に話す。優子は心配の様子でいた。修一は、 明日会社に連絡をしてみて、その様子を自分に も連絡するように伝える。仕事中でもかまわな いので、すぐに連絡するように伝えた。  翌日の朝、九時になるのを待って、会社に連 絡をしてみた。昌也の担当部署の課長と話がで きた。課長の話では、トラブルが起きている様 で、会社には連絡が入っているので心配しない ように、本人にも優子に連絡するように伝えて くれるとのことだった。  優子は、電話を切ると修一に連絡をして、や り取りの内容を伝えた。修一七会社が確認して いるのなら大丈夫だと優子を元気づける(自分 も連絡したいが、知らない番号だと警戒するか もしれないと一旦様子を見ようと思っていた)。 昼過ぎに、優子から連絡が入って、昌也から電 話がきたとのことだった。ひどく疲れている様 で、明日東京に戻るという。夕方には自宅に帰 るとのことだった。優子も心配して修一や、さ つきのことは伝えられずに電話を切ったらしい。  修一も今は昌也の様子を見て、話せる時に話 をしてくれればいいし、問題がある様なら自宅 も近いので会いに行くと伝えて電話を切った。  翌日の午後四時に昌也は、自宅に戻った。随 分と憔悴しているのが伺える状態だった。だい ぶ痩せた感じも見受けられる。そして優子に話 をする。  「優子、心配かけてごめんな。スマホを見て メッセージが来ていることはわかっていたんだ けど、返信する気力も余裕もなかったんだ。 ちょっといろいろあって疲れたよ。俺、会社を 辞めようと思う」  優子は、心配で昌也を気遣い、平常心で答え た。  「お疲れさまたったね。なんか痩せたね。心配 だよ。会社のことは、あなたが考えるようにし たらいいと思うよ。でも、体のことも心配だか ら」  それで、話をするか迷ったが、昌也に修一と さつきとの出会いを話してみることにした。  「昌也さん、こんな時に話していいのか迷った んだけど、中井修一さんと、さつきさんつて 知っているでしょう?」  昌也は、驚いて優子の顔を見る。  「うん。大学の時の親友だよ、さつきちゃんも 修一の彼女だよ。確か結婚したんだと思うけど、 どうして二人の名前を知ってるの?」  優子は、さつきとの出会いのこと。ゆかをか わいかつてくれて、優子と友達になったこと。 そして先日、ゆかが昌也と間違えて修一に抱き 着いたこと。そして二人が夫婦で、先日食事し た時に、昌也が二人の親友だった偶然の出会い のことを話した。そして、今回連絡が取れなく て心配だったので、修一とさつきに相談したこ とを伝えた。  昌也も驚いたが、すぐに少し元気になった様 子たった。  「そうか、そうだったのか。それで修一と会っ だの。近くに住んでるの。驚きだ。随分と会っ てないんだ。学生時代、仲良くてさつきちゃん も一緒によく遊びにいったんだ。懐かしいな」  優子は、昌也が少し元気になっだのを見て ホッとした。そして、その夜に昌也から修一に 連絡をした。修一は、昌也のことが心配だった ので、その囗は定時で仕事を終えて自宅に帰っ ていた。昌也からの連絡に修一も大喜びたった。 ただ、仕事のこともあっだので、気を遣いなが ら話をした。  「修一、久しぶり。驚いたよ。こんなに近くに 住んでたとはね。また、優子とさつきちゃんが 知り合いになっていたのも、そこからお前につ なかったのも、優子から聞いてびっくりだよ」  「昌也、俺も同じだよ。連絡も取れてなかった から、こんな偶然があるのかと。なんか神様の 引き合わせかと思ったよ。良かったら、今から 家に来ないか? さつきも会いたいだろうし。 もちろん優子さんとゆかちゃんも一緒に。そち らの都合が良ければだけど。直接話がしたい よ」  昌也は、優子に確認をとると、修一の自宅に 行くことにした。心の中では、今の苦しい現状 から少し逃げたかったのかもしれない。  修一の自宅は、昌也の自宅から歩いて十分ほ どのところだった。優子がお邪魔したことが あっだので道はわかった。ゆかも昌也が帰って きたことや一緒に出掛けることで少し興奮ぎみ にはしやいでいた。  修一の家に着くと、さつきと一緒にマンショ ンの入り囗で出迎えてくれた。  昌也は、修一の顔をみて、笑顔ながらも涙目 の様たった。その顔を見て、修一も泣きそうに なっていた。さつきは、感激で泣いている様 たった。  「昌也、いらっしゃい。久しぶり。何か泣きそ うだよ」  「修一、俺も同じだよ。さつきちゃんも、久し ぶり。相変わらず美人だな」  「昌也君、お世辞いうのは変わらないね。嬉し いよ。感激だよ。泣いちゃう。上かつて」 「優子さん、食事はしたの? 少しは準備して るけど」  「さつきさん。はい、食事はしてきました。何 か三人を見てると私も感激で泣いちやいそうで す」  みんながリビングに入ると、ゆかがすぐに テーブルの花を見つけて。  「ママ、お花がすごい。綺麗」  と目を輝かせていた。 「やっぱり、さつきさんお花大好きなんですよ ね。綺麗です」  と優子も感激した様子たった。  「お花が、優子さんとゆかちゃんに私を出会わ せてくれたんだもんね」  とさつきもゆかの頭を撫でながら話した。  修一と昌也は、ソファーに座って、お互いの 近況や仕事の話をしていた。さつきと優子は、 飲みものを用意し、さつきの作った料理も並べ ていた。  お互いの昔話は尽きない。優子も昌也が元気 になっだのをみながら、ホッとしていた。その 様子をさつきも見ていて、優子の肩を抱きなが ら笑っていた。  修一は、迷っていたが、親友が苦しんでいる と思うと黙っていられず、話を切り出した。  「昌也、なんか大変な状況らしいな。もし、話 せるなら俺に聞かせてくれないか? もちろん 無理ならいいよ。状況もあるだろうから」  昌也は、修一なら何でも話せると思っていた し、暫く会わなかった時間もこの再会からの短 い時間でもすぐに昔の仲間に戻ったことを感じ ていた。それで、修一に話をすることにした。  昌也は、今回の一連のことを修一に話した。 それで、開発やコンサルティングの中断も納得 できるものではない。ただ、一番ショックを受 けたのは、自分の会社の対応だった。  自分に責任を押し付ける形で幕引きをして、 代議士の先生の顔を立てるというやり方に失望 していた。そして、上司に対する信頼も失った 感じがしていた。  修一は、その話を聞いて話しかけた。  「誰も昌也の責任とは思ってないんじやないか。 特に一緒に仕事した後輩たちがそれを一番理解 していると思うよ。たしかに会社の判断は、俺 も聞いていて腹が立つ。何か裏がありそうな気 がしてならない」  昌也は  「もういいんだ。俺は、会社に対して不信感を 持った状態では仕事はできない。優子にも話し たが、会社を辞めようと思っている」  修一は、優子とさつきのほうを見た。優子は 少し涙ぐんでいる感じだった。さつきも優子の 背中をさすりながら泣きそうな顔をしていた。  「そうか。わかった。話してくれて嬉しいよ。 さあ飲もう。優子さんもさつきもこっちに来て。 ゆかちゃんもおいで」  それから五人で、飲みながらいろいろな話を した。昌也も笑顔で話してくれたし、優子も少 し落ち着いた感じを受けた。  修一は、昌也の話が気になっていた。これは、 何か裏があると感じていた。 第5章 新たな出会い  修一は、講習会のために福岡へ出張すること になっていた。とりあえず、課長と調整したよ うに、これが終われば、少し休みが取れる。ま た、さつきから聞いて、懐かしい仲間の「葛城 美由紀」に会うことも楽しみだった。  講習会には、三十人ほどが参加していた。葛 城美由紀もギリギリに会場入りした様たった。 修一も始まる前に葛城の顔が見当たらなかった ので、ちょっと残念な感じだった。講習の途中 で一番後ろの席にいる美由紀を見つけると、笑 顔になった。  講習が終わると、美由紀が前のほうへ来て修 一に挨拶をした。 「修一さん、ご無沙汰してます。すごい内容で した。新技術でAIも絡んでなんかついていけ ないって感じでした」  「美由紀ちゃん、久しぶりだね。会えて嬉しい よ。相変わらず人を喜ばせるのが上手だね。内 容は、美由紀ちゃんなら理解できたはずだよ。 聞いたよ、今はデザインだけじゃなくてシステ ムも勉強して仕事にしてるって」  「はい、こちらに来て、素晴らしい方々とご縁 を頂いて、今はシステムとデザインの両方を やってます」  「すごいね。一人でやってるの?」  「実は、フリーランスなんですが、仲間が集 まってグループを作ってるんです。それで助け 合いながら頑張ってます。コミュニティも作っ てるんです」  「美由紀ちゃんらしいね。さすがだよ」  「それで、この後お時間宜しいんですよね」  「うん、大丈夫。ちょっと片付けするので、+ 分くらい待ってて。下のロビーで待っててくれ れば、行くから」  「了解です。お待ちしてます」  それから美由紀は、講習会が開催された会場 の一階ロビーで待っていると、修一がエレベー ターから降りて来た。  「美由紀ちゃん、ごめんね」  「修一さん、大丈夫ですよ。行きましよう。 ちょっとタクシーで移動します」  美由紀は、修一との食事に天神の居酒屋風レ ストランを予約していた。そこは、地元でも食 材にこだわったお店で人気のお店だった。美由 紀は、そこのネット広告のデザインを担当した こともあり、店主と仲良くなり、よく使ってい るお店だった。  「いや〜、実は福岡に来る楽しみの一つが食事 でね。あっ、もちろん美由紀ちゃんに会うのも 楽しみにしてたよ。さつきも羨ましがってた よ」  「福岡は、色んなものが美味しいですしね。 ラーメンとか水炊き、もつ鍋とか言われますけ ど、こだわった食材が九州のいろいろなところ から集まるので何でも美味しいんですよ。今日 は、私の知り合いのお店でスペシャルな料理を お願いしてますので、期待していてください。 さつきさんにも会いたいんですよね。ぜひ、今 度福岡にお二人で来てくださいよ」  「そうだね。次回は、さつきも一緒に福岡に来 るよ。多分、今回のことをさつきに話したら、 絶対に行くって言いたすからね」  「お二人は、本当に仲がいいですよね。前から 思ったんですが、やっぱり学生時代からもそん な感じなんですか?」  「いや〜、結構喧嘩もするよ。言い合いとかね。 今はだいぶ減っだけど。最後には、俺が折れ ちやうからね。やっぱり、惚れた弱みってやつ かな」  「ごちそうさまです。ここで、のろけられても 困りますけど」  二人は、天神繁華街の中でも西側なのだろう 通常『西通り』と言われる通りで降りた。そこ から歩いて五分ほどのビルの七階にあった。入 ると、掘りごたつの座敷に通された。メニュー を見ると、食材にこだわっていることがわかる 写真付きのメニューで、おすすめ料理もたくさ ん並んでいた。  二人は、近況報告から昔話をしながら二時間 ほど過ごし、気づけば午後八時になっていた。  「修一さん、もう一件付き合ってもらっていい ですか? 実は、ご紹介したい人がいるんで す」  「全然大丈夫だよ。紹介したい入って、緊張す るね。彼氏とか?」  「はは。ご心配なく、まだ彼氏はおりません。 私のお世話になっている方で、尊敬している社 長さんをご紹介したくって」  「まじ、俺で大丈夫なの?」  「その方も、優秀なシステムエンジニアだった んです。実は、その会社の社長にお願いして、 修一さんの講習に参加させてもらったんです。 まあ、お楽しみってことで」  それから二人は、店を出ると、またタクシー で移動した。そこは、表向き普通のマンション みたいだったが、横の階段から地下に降りて行 く入口があった。地下に降りる階段の横に小さ く「Uベース」という看板があった。  人口は、鉄の扉のような感じで、セキュリ ティシステムが導入されていた。カードキーで 解除して入るシステムになっているらしい。と いうことは、会員制なんだろうと修一は思った。 ただ、少し怪しい雰囲気を感じて、闇カジノの 様な店を想像して緊張していた。  扉をあけると、そこには制服を着た綺麗な女 性が待っていた。中は、驚きの空間たった。真 ん中は360度のガウンクーパーみたいになっ ている。その周りにテーブル席が贅沢な空間を 使って配置されていた。相当な広さだ。ちょっ と薄暗い感じだが、音楽はジャズが流れ、お洒 落で高級感のある雰囲気たった。女性が、美由 紀に話しかけた。  「葛城様、お待ちしておりました。こちらです。 河村様もいらっしゃっています」  そういうと、カウンターをまわり込み、奥の 個室に通された。VIPルームみたいな個室が あった様だ。修一は、ちょっと気おくれした感 じだった。  「美由紀ちゃん、す、すごいね。こんなお洒落 で高級なお店」  「修一さん、私たちのグループがよく使ってる んです。ここは会員制で午後三時から使えて、 食事もできるし、お酒も飲めるんです。素敵で しょう?」  「すごいね。素敵だよ。なんかお洒落だし、雰 囲気いいね。スタッフも制服で凛としてる」  二人は、奥の個室に行くと、一人の男性が 待っていた。  「河村さん、お待たせしました。すいません。 待たれたんじやないですか?」  「葛城さん、私も今来たところだから」  そう返事した男性は、お洒落な感じで千鳥格 子のジャケットでスタイルもよく、みるからに かっこいい素敵な男性だった。そして彼を見る と修一は、鳥肌が立つのを感じた。  「河村さん、こちらがお話した中井修一さんで す」  「修一さん、こちらが」  「あの失礼ですが『R&Vテクノロジー社』の 河村祐二さんですよね」  「修一さん、知ってるんですか」  「はい、R&Vテクノロジーの河村です」  修一は、驚きと感激の両方で、鼓動が速くな るのを感じた。  「私、ティーキャッチの中井と申します。お会 いできて光栄です。私、河村さんに憧れていて、 河村さんのインタビュー記事やコラムを拝見し ています」  「ありがとうございます。葛城さんから少しお 話は、聞いています。ティーキャッチさんつて、 葛西君のところですよね。彼は、大学の後輩な んですよ」  美由紀は、完全においてけぼり状態となった。 ただ、修一の興奮状態が伝わり、引き合わせた ことに喜んでもらえている様で嬉しかった。  「はい、弊社の葛西は、私の新人時代の教育係 で、河村さんのことも葛西から聞きまして、河 村さんの記事とかを読み始めました」  「そうですか。葛西とは、先月東京に行った時 に一緒に食事しました。相変わらすのパワーを 感じました」  「葛西本部長には私を育てて頂いて、奥様にも よくして頂いているんです」  「実は、葛城さんからお話を聞いた時に、多分 葛西が話してた優秀な人間というのが、中井さ んではないかと思ってました」  「いや、恐縮です。ただ、葛西さんのおかげで 今の自分があるんです。感謝の言葉しかないで す」  やっと美由紀も囗をはさむタイミングをつか んで。  「まあ、座ってゆっくり話しましよう。飲み物 オーダーします」  修一は、美由紀を見て。 「美由紀ちゃん、ありがとう。河村さんにお会 いできるとは思わなかった。感激だよ」  美由紀は、笑顔で修一を見ると。  「修一さんが、河村さんのことをそんなにリス ペクトされているとは思いませんでした。今日 の講習も河村さんにお願いして、参加申込をし てもらったんです」  「いや、実は葛西に聞いていたんですよ。福岡 でうちの新しい技術の講習会をやるので、誰か 参加させて欲しいって。内容は、AIとの連携 も絡むので、参考になると思う。講師もレベル の高い人材を出しているから。つてね。それで、 うちのエンジニアの参加と一緒に葛城さんも参 加したいって言っだので申し込んだんです。葛 城さんが、東京時代にお世話になった方で、最 も信頼している方だと興奮して話してたので、 私もお会いしたかったんです」  美由紀が河村を見て、  「そんな興奮してただなんて。ただ修一さんは、 すごいエンジニアだと思いますし、奥様のさつ きさんは、素敵な女性だし。私の憧れの二人な んです」  三人は、それから現在の業界の話やAIの情 報から今後の展開など、話が盛り上かつて楽し く会話をしていた。  すると、美由紀が修一に向かって。  「修一さん、河村さんにお引き合わせしたのは、 もう一つ目的があったんです。修一さんだから、 本音でお話します」  修一は、美由紀が改まった感じだったので、 少し緊張した。  「修一さん、福岡に来ませんか? 」 **   **   **  修一は、東京に戻る飛行機の中で、昨夜のこ とを考えていた。美由紀の突然の提案に驚いた のだが、自分の心のどこかにあった感情が引き 出された様たった。  今の会社に入社して十二年ほどが経った。人 に恵まれ、環境に恵まれたおかげで今の自分が ある。特に葛西には、恩以上のものを感じてい る。東京・神奈川の生活には慣れて、楽しく生 活をしているし、仕事は自分でも満足している。 自分もさつきも九州宮崎の出身だが、福岡は、 九州の中心地で生活環境も良い場所だし、仕事 もIT業界では、評価されている会社も多い。 将来は、福岡へ行くことも漠然と頭にあった。  修一が出社して、席につくとすぐに、葛西本 部長から内線が入っだ。久々に、今日一緒に食 事しないかとのことだった。突然のことで、福 岡の件もあったので何かあるのかと感じた。  それから、田村課長に出張報告を行って、事 務処理をして他の講習の様子などもヒアリング をした。講習のアンケートを見ると、各地域で の講習会も良かったみたいで、サンプルのプロ グラムの提供や今後のAIの動向などの解説も 満足頂けた様たった。  その夜、修一は葛西と食事をしていた。葛西 と二人で飲むのも久しぶりだった。葛西も出世 してから自分では誘いづらい感じだったし、付 き合いも多くて忙しそうだった。  「中井、こうして二人で飲むのも久しぶりだな。 お前も成長して、俺も嬉しいよ。でも、昔一緒 に仕事してた時のことも時々思い出すが、今な らだいぶコンプライアンスとかで指摘されそう なこともあったように思うな」  葛西は、そういうと上機嫌な様子で、ビール を美味しそうに飲んだ。  「葛西本部長、嬉しいですよ。こうして久々に 飲めるの」  「本部長は、やめよう。何か堅苦しいぞ」  「そうですか?」  「それで、どうだ? ひと段落したと田村君か らも聞いているけど」  「はい、福岡の講習で最後です。あつ、葛西さ ん、申し訳ないです」  「どうした?」  「自分の有給の件で、葛西さんにまでご心配か けてしまって。人事の岡田課長から聞きました。 自己管理ができておらず反省してます」  「いや、余計なこと言ったかもしれないけど。 お前のことだから後輩たちを優先させて、自分 のことは考えていないだろうと思ったし、さつ きさんも心配するだろうと思ってな」  「さつきのことまで心配してもらって、恐縮で す。田村課長やメンバーとも相談して、すぐ休 暇取るように調整しましたので、ご心配ありが とうございます」  「そうか。良かったよ。まあ、さつきさんと旅 行でも行って来いよ」  「それでお前、福岡で河村先輩に会っただろう。 実は今朝、河村先輩から電話があったんだ」  修一は、ドキッとして緊張した顔になったと 自分でも感じた。河村さん、何を話したんだろ うと焦った気持ちになった。  「河村さんは、俺も尊敬する先輩なんだよ。話 をしてどうだった? 感想聞かせてよ」  想像した話では無かったので少し安心した感 じで答えた。  「はい、河村さんは、葛西さんから以前紹介頂 いていて、河村さんの掲載されている雑誌とか 情報を見ていたので、まさかお会いできるとは 思わず、とても感激でした。いや〜すごいに尽 きる方です。技術的なこともすごい知識で特に AIにおけるご自身の見解もお持ちで、とても 勉強になりました。そして、優しい方でした。 何より、業界のことを気にされていて、自分の ことより、周りのことを優先されている感じを 受けました。葛西さんのことも、とても優秀だ と絶賛されてました」  「そうか、お前に話してたかな。学生時代は、 厳しい先輩だったんだぜ。『正義』が歩いてい る様な人だったわ。河村さんとは付き合い長い からな。河村さんが俺を育ててくれた様なもん だわ。俺も、河村さんを目標にやってきたから な」  それから、暫く、葛西と河村の学生時代の話 や卒業しても同じ業界にいて、葛西が目標にし ていることなどの話題で盛り上がった話となっ た。修一も、河村からの誘いの件を囗に出せず にいたので、別の話題になってくれたことに、 ほつとしていた。  葛西が少し、まじめな顔になり。  「中井は、河村さんと仕事したいと思わない か?」  と聞かれた。  修一は、突然の質問に緊張した。  「葛西さん、河村さんから何かお聞きになった んですか?」  「お前が話を切り出さないから、話しづらいん だろうと思ってな。河村さんが、福岡でお前に 会って、とても技術的にも優秀な人間でマネー ジメントカも高いものをもっていると評価した みたいだ。それで、中井を自分に任せてくれな いか? と聞かれた。それで、会社の状況もあ るし、本人とも話をしてみると返事をしたん だ」  修一は、どう対応していいかわからずにいる  「河村さんと出会って、自分の中になにか変化 が起きたのなら、それを大事に考えてみたらど うかな」  「もちろん、俺は中井が会社を離れるのは辛い し、できれば残って欲しい気持ちはある。しか しこれは、お前の人生だ。もう時期的にも先々 を考えている頃だろう。俺も経験がある。だか ら、さつきさんとも相談して結論を出せばいい と思う」  修一は、葛西の言葉に涙があふれてきた。自 分のことを最優先に考えてくれる葛西の優しさ と今までの葛西に対する感謝の気持ちで一杯に なった。  「葛西さん、ありがとうございます」  それが、修一が答えた精一杯たった。  それから二人は、別れた。  修一は、自宅に戻り、さつきと話をした。  福岡でのことや今日の葛西とのことも話をし た。  葛西のことを話し終わった時に、さつきの目 にも涙が浮かんでいた。  「葛西さん、すごい人だね。こんな人がいるん だ。修一君幸せものだよ」  [俺もそう思う。だから、亘]剣に考えたいんだ。 もちろん、これからの自分たちのことだから真 剣なんだけど、変な気を遣った思いとかじゃな くて、俺の本当の気持ちに向き合って、さつき とも話をしたい。どんな結果を自分が出したと しても、それが葛西さんの言葉に報いることに なると思う」  「そうね。私もそう思う」  それから、二人はそれぞれの思いを話し合っ た。  さつきも、心の中にあった思いも修一に対す る思いも正直に話しをしてくれた。  それから、思いを確かめるために、福岡へ 行ってみたいとさつきが言い出した。  「有給を取るように言われているので、福岡に 旅行にいくのはどう?」  「いいわね。賛成’・ でも、修一君は福岡から 戻ったばかりなのにいいの?」  「大丈夫。仕事で行くのと旅行は全然気分も違 うし、福岡の街を知りたいしね」  「そうよね。ねえ、昌也君の家族も行かないか な? いろいろあったんで、いいタイミングだ と思うのよ。ゆかちゃんも喜ぶだろうし、家族 旅行って素敵じゃない?」  「いいね。益田たちがよければ、俺は大歓迎だ よ」  「私、優子さんに明日、連絡してみる。昌也君 のフォローをお願い」  「そうだな。美由紀ちゃんにも連絡して、おす すめのコースを紹介してもらおう。美味しいお 店も詳しそうだし」  「了解。明日、優子さんに連絡してみる。昌也 君七家にいるだろうから」  「宜しくね。夜、帰ったら俺も、昌也に連絡す るって言っといて」  さつきは、益田家族のことも、忌まわしい事 件から解放してあげたい気持ちだったし、心の どこかでは、益田家族も福岡へ転居する。とい うことも頭に浮かんでいた。 第6章 変化への起点  修一は、次の囗に出社して、有給の申請をし た。土、囗を使って一週間ほど、休暇を取るこ とにした。そして、葛西には電話で連絡して、 さつきとの話の内容を伝えた。そして、宗族で 福岡へ旅行に行ってくると伝えると、葛西もそ れがいいとの返事をしてくれた。  さつきは、優子と昌也に電話して、福岡旅行 の提案をした。優子は大喜びたった。昌也はま だ気分が乗らない感じだったが、さつきが強引 に説得した。その夜に、修一も昌也に連絡して、 福岡の旅行が決まった。囗捏ち、修一の休暇に あわせての出発となった。  さつきは、すぐに、葛城美由紀に連絡をした。  「本当ですか? 嬉しいです。さつきさんに会 えるなんて。何か動き出しましたかね? うん、 うん、これはすごいことになるかもしれません ね。あつ’・ 福岡のほうは、任せてください。 私かスペシャルプランを考えてみなさんに満足 して頂けるようにします。それで、益田さんの ことを少し聞きたいのですが」  「それなら、修一君に代わるね」  「美由紀ちゃん、忙しいのに悪いね。なんかま た福岡に行くことになつちゃつたよ。楽しみに している。さつきも大喜びだよ。益田のことで しよう」  「彼は、俺と大学の同級生で、物凄く優秀な奴 だよ。ITコンサルの仕事をしているんだけど、 NGコンサルティングジャパンという一流コン サル会社の主任コンサルタントだった。いろい ろあってね。まあ、その辺は福岡で紹介した時 に話すよ」  「え!・ NGコンサルティングジャパンつてす ごい会社じやないですか? 了解です。楽しみ にしてます」  電話を切ると、美由紀は思った。これは、 ひょっとするとひょっとするかも。  次の土曜日、修一たちは、青葉台の駅で待ち 合わせて、羽田を経由して福岡へ向かった。途 中、修一は先週会うことができた『河村祐二』 とのことを益田に話した。  やはり、益田も河村のことを知っていた。 会ったことはないが、業界で注目されている社 長であり、R&Vテクノロジー社の技術力は、 とても高い評価を得ていると感じていた。そん な河村と同席できた修一が羨ましくもあったが、 修一なら河村も納得の人材と思っただろう。  飛行機が、福岡空港に着き、到着ロビーで荷 物を受け取り出て行くと、葛城美由紀が到着 ゲートで待っていてくれた。  さつきを見ると、駆け寄って笑顔で(グをし た。  「さつきさん、お久しぶりです。めっちゃ嬉し いです。ようこそ福岡へ」  「美由紀ちゃん、私もよ。嬉しい。今回はお世 話になります。こちらが、益田昌也さん、奥様 の優子さん、そしてかわいいゆかちゃん」  ゆかは、恥ずかしそうに優子の後ろに隠れて いた。  美由紀がしゃがんで、ゆかに挨拶をすると、 「ゆかちゃん、こんにちは。いらっしゃい」 「ゆかです。宜しくお願いします」  と元気に答えた。これには、みんなびっくり たった。  「すごいね。ゆかちゃん。挨拶、上手だね」  それからみんなで、地下鉄でホテルのある天 神まで移動した。福岡は、空港が中心街から地 下鉄で十五分ほどにあるので、とても便利だ。 日本でもこれだけ中心街に近い空港は珍しい。  ホテルは、福岡でも老舗のホテルで、豪華な ロビーだった。みんなは、一旦荷物を部屋に運 んで、ロビーに集合することにした。  みんなが集合すると、美由紀は予定表を配っ た。今回の『旅のしおり』を素敵なデザインで 作っていた。みんなが、流石一超のデザイナー は違うと絶賛し、その内容も事細かな解説付き で作られていた。  時間は、夕方五時を過ぎていたので、みんな で夕食に出かけることにした。  夕食は、近くのレストランに行った。土曜日 の夜ということもあり混んでいた。美由紀が予 約を入れてくれたので、スムーズに席につけた。  「とりあえず、今日は夕食をして、ゆっくりさ れてください。明日からは、スペシャルツアー となりますので、お楽しみに」  「美由紀ちゃん、ありがとう。感激だよ。本当 嬉しい」  美味しいコース料理を食べながら、さつきと 優子とゆかちゃんは、楽しそうに盛り上かつて いた。修一は美由紀に昌也を紹介していた。  「美由紀ちゃん、こっちか俺の学生時代からの 友人で益田昌也。この前話したように、昌也は 『NGコンサルティングジャパン』で主任IT コンサルタントをしてたんだ。ちょっといろい ろあって今回、退職することにしたらしいけど。 すっごく優秀で、システムエンジニアとしても 一流なんだよ。学生時代から俺とは別格の優秀 なやつなんだ」  「修一、褒めすぎ。お前のほうが学生時代は、 成績良かったと思うけど」  美由紀は、話を聞いていたが、  「『NGコンサルティングジャパン』つて超一 流のコンサル会社ですよね。私もお名前は存じ 上げています。そこの主任コンサルタントつて すごいですね。でも何かあったんですか? お 話しにくいならお話しなさらなくて結構ですけ ど。何でも気にするたちなもので」  修一は、昌也を見ると、昌也が頷いたので、 話し始めた。  「実は、昌也の会社と福岡のある企業が合同で 新しいサービスの開発を進めていたんだけど、 途中で先方から一方的に中断されたんだ。俺は、 凄く怪しいと思つているんだけど。それを昌也 の責任に押し付けた感じもあり、彼も会社への 信頼をなくした感じ。それで、会社を辞める決 断をしたんだよ」  「それは、ひどいですね。福岡と聞いたら、私 も気になります。それって、ひょっとしてです けど『FTMシステムテクノロジー』さんです か? 山科社長でしたっけ」  昌也は驚いて、  「え、葛城さんご存知なんですか?」  「実は、関係しているかわかりませんが、知り 合いのところでも問題がありました。それも 『FTMシステムテクノロジー』さんが絡んで いるんです。最近新しい事業の関連でハタハタ されている話は耳にしてます。私も仲間がいて 情報は入ってくるので」  修一は、その話に反応して、  「やっぱり、なんか怪しい話でもあるんじやな い」  「修一さん、この話ちょっと調べてみてもいい ですか? 実は、今回修一さんが来られるので、 河村さんにもアポイントをとってあるんです。 もちろん、旅行の邪魔になることはしませんが。 益田さんにも河村さんに会って頂きたいと思っ てるんです。それで先はどの話は、河村さんの ところも関係あるはずなんですよね」  「え’・ 河村社長も関係あるの?」  昌也も驚いて、  「修一から河村さんの話は、聞きました。私も 河村さんを尊敬しているんです。関係あるんで すか?」  「まだ、わからないんですが。多分。調べてみ てもいいですか? 河村さんも力になってもら えると思います」  修一と昌也は、顔を見合わせた。昌也は、遠 慮したい感じにも見受けられたが、修一は納得 できない気持ちでいた。  「昌也、美由紀ちゃんにお願いしてみないか? 俺、悔しいんだよ。お前に責任押し付けたやり 方が。納得できない。昌也いいだろう?」  「お前がそこまで言うなら。わかった。葛城さ ん、その代わりみなさんにご迷惑をお掛けする 様なことは、自分も絶対いやなのでその辺りは 宜しくお願いします」  美由紀は、頷いて、  「承知しました。それで益田さん、河村さんに 会ってもらえないですか? 多分修一さんのこ とはお聞きになっているだろうと思うのですが。 その件も益田さんに相談に乗って頂きたいんで す」  「自分も河村さんにお会いできるなら嬉しいで す。宜しくお願いします。ただ、家族との予定 もあるので、その辺りをみんなに聞いてみない と」  すると、さつきが横から、  「あの〜、聞こえてました。優子さんとこちら で話したんですが。全然大丈夫です。できれば、 昼間こちらの予定で動いて、夜にそちらのお話 しを進めて頂くのはどうでしよう?」  「さつきさん、ありがとうございます。河村さ んと調整します。河村さんもお仕事の都合もあ るので、夜のほうが良いかと思いますので」  それから、みんなで楽しく食事をしながら、 さつきと美由紀の昔のエピソードやゆかの様子 など楽しく時間を過ごしてホテルに戻った。  「修一君、楽しかったね。それに、さすが美由 紀ちゃんだよ。昌也君の件、動いてくれるって。 彼女らしいよね」  「う〜ん。まだ、どうなるかわからないけど、 このまま終わらせるのは昌也も本当はいやだと 思うんだよ。実は、俺も自分で調べてみようと 思ってたんだ」 **   **   **  次の囗は、美由紀がガイドになって、福岡を 案内してくれた。レンタカーを借りてくれて、 太宰府天満宮や九州国立博物館、福岡に戻って 福岡タワーや百道浜などをまわった。途中おす すめの食事もとても美味しいお店で、みんな大 感激たった。  その次の囗は、自由行動で、それぞれの宗族 が分かれて、福岡の天神のショッピングや美由 紀がリストアップしたお店をまわったりして一 日を過ごした。  三日目は、レンタカーで糸島のほうに向かっ てドライブしながら、二見ヶ浦や糸島の野菜農 園など、自然と触れ合う時間を過ごした。そし て、その夜に美由紀は、河村とのセッティング をしていた。ホテルに帰り、さつきだちと別れ て、修一と昌也は美由紀の案内で河村に会いに 行くことになった。さつきたちも、美由紀が手 配したお店で食事をすることになった。  美由紀が案内したのは、修一が前回連れてい かれた「Uベース」という地下の素敵な空間 たった。  いつものように、地下に降りてカードキーで 開けると、凛とした女性スタッフが立っていた。  昌也は、修一を見て驚いた表情で、  「修一、ここは何なんだ。地下に降りる時は怪 しい雰囲気で、扉をあけたら別世界の様な素敵 な空間が広かつている」  「昌也、俺も先日ここに来たんだ。素敵だ ろ?」  美由紀は、奥のVIPルームヘ二人を案内し た。  そこには、河村と女性が一人待っていた。河 村祐二と大島さゆりだった。部屋に入ると、二 人が立ち上かつて挨拶をした。  「中井さん、先日はどうもありがとうございま した。ご家族で旅行中なのに申し訳ないです。 こちらが、うちの社員でシステム開発チーム リーダーの大島です」  「大島です。本日は、宜しくお願いいたしま す」  「河村さん、お忙しい中ありがとうございます。 大島さん、初めまして、中井と申します。こち らが、私の友人で益田です」  「河村さん、大島さん、初めまして、益田と申 します。河村さんにお会いできるとは、感激で す。中井から話を聞いて羨ましかつていたとこ ろです。私も、河村さんの記事を読んで感銘を 受け、河村さんにいつかお会いできたらと思っ てました」  「修一さん、益田さん、大島さんは、R&Vテ クノロジー社のトップエンジニアでみんなから は『天才大島』と呼ばれているんです。とても 優しく素敵な方ですが、技術的なことはシビア な方です」  「葛城さん、褒められているのか貶されている のかわからないですよ。中井さんのことは、葛 城さんから聞いてます。いつも目をキラキラさ せて話してます。河村からも先日お会いして、 優秀で素敵な方だと聞いております。河村は、 普段あまり人のことを話さないですが、絶賛し ていたので、私もお会いしたかったです。光栄 です」  「大島さん、私はたいしたことないんですよ。 それよりもこちらの益田のほうがすごいやつで す。エンジニアでありながらコンサルも高い能 力をもつてるんですよ」  美由紀が、  「まあ、挨拶はこの辺で、座りましよう。河村 さんと大島さんは、食事されたんですか?私だ ちはまだなので、何か頼みますが如何です か?」  「私たちも、まだ食べてないんです。ここのパ スタ楽しみにしてたんで」  そう大島が言うと。  「そうなんですよね。ここのイタリアン侮れな いですよね」  そういうと、美由紀が飲み物と食事をタブ レットでオーダーした。  暫くは、食事をしながら「R&Vテクノロ ジー社」の説明や河村の話をみんなで聞いてい た。  落ち着いたところで、修一が話し始める。  「河村さん、葛西さんに連絡されたでしょう? 東京に戻ったらすぐに呼び出されました。私も 久々に葛西さんと飲みながらいろいろと相談に のってもらったんです。それで、とにかく自分 と妻の人生を考えてみるように言われました」  「そうでしたか? はっきり葛西君にも言いま した。自分に任せてくれないかと」  すると美由紀が、  「先日は、突然のお話になって、修一さんには 申し訳ないと思っています。実は、福岡に来ら れると聞いた時から、河村さんに会わせたいと 思っていたんです。それで、今大島さんたち チームが新規事業を進められている中で、優秀 な人材を探されていたんです。河村さんからお 話を聞いた時、真っ先に修一さんの顔が浮かん だんです。まさか、こんなタイミングでお会い できるとは思っていなかったので、勇み足だっ たかもしれません」  「それで、今回益田さんも福岡に来られると聞 いて、河村さんにもお話をしました」  すると河村が、 「益田さん、大変だったんですね。『FTMシ ステムテクノロジー』さんのことですね。実は、 うちもちょっとありましてね。一番辛い思いを したのは、大島かもしれません。それで、今日 大島も同席させたんです」  昌也が、  「もし、差し支えなければ、お話をお聞きして もよろしいですか?」  「私も、お聞きしたいと思います。実は、益田 の件は私も全然納得してなくて」  そう修一が続いた。  すると、河村が大島を見て頷くと話始めた  河村は、会社のスタッフとして、大島、飯島 というとても優秀なエンジニアがいて、特にA Iやデーターベースにおけるスキルはとても高 いものがあった。自社開発ソフトもこの二人が 中心になって進めており、大きな成果を上げて いた。  そんな中、飯島が「FTMシステムテクノロ ジー」の山科社長から引き抜きにあった。もち ろん、優秀なエンジニアであれば、当然のこと だと思う。  ただ、その際に開発途中のAI技術の情報の 持ち出しをされてしまった。後から、大島のほ うがそれを発見した。しかし、河村はそのこと を事件にすることなく、さらに開発を進める方 針でこれまで来ている。また、飯島が持ち出し たプログラムや資料には、その後に問題がある こともわかったので、自社内は大島を中心に新 たなプロジェクトで開発を進め問題解決を進め ている。  また、山科社長の新しいプラットフォームの 話も河村に耳に入っている。だいぶ強引な進め 方に河村も疑問をもっている。それで、噂レベ ルで東京のコンサル会社との決別を行い自社関 連会社での開発へ移行し、そのリーダーに飯島 が抜擢されたと聞いている。河村は、経緯と自 社の問題、また持ち出した飯島の問題の概要を 説明した。  すると大島も、続いて話した。  「私は、大変残念なんです。と言うより怒りさ え感じています。飯島君とは、入社以来お互い に切磋琢磨して頑張ってきました。お互いをリ スペクトしていたし、彼の技術力を私も高く評 価していました。しかし、結局彼は、お世話に なった河村社長を裏切ってしまった。そして、 情報やプログラムまで盗んでいったんです。私 は、彼に対して怒りしかないです」  「大島さんの、言う通りだと思います。私も飯 島さんには、失望しました。何か理由があった にしても、私も残念です」  美由紀も大島に続いた。 「ただ、私は自分なりにチームの仲間と調べて いますので、もう少ししたらわかるかもしれま せん。その時は、みなさんにご報告します」  「二人とも、その話は今は置いておこう。今は 益田さんの話を聞こう。益田さん、わが社も人 七情報もノウ「ウについても大きな損失をして しまったんです」  そして、河村は続けた。  「それで、山科さんが益田さんの会社『NGコ ンサルティングジャパン』と合同で進めている プラットフォームの案件も、実は私たちが進め ていたものと似ているサービスだったんです。 まあ、私は独自の形でもっとエンドユーザ側に 寄ったサービスでしたが。それで、噂で山科さ んの会社が他社との提携を辞めたと聞いていま した。原因は知りませんでしたが、山科さんの ことだから強引な方法を取られたのではないか と勘繰ってはいました。いろいろとその辺りは 福岡でも噂になっているので」  すると修一が、  「河村さんの会社でもそんなことがあったんで すね。やっぱりなんか裏があるように感じてい ました」  昌也は。  「私は、何か起きていたのかを知りたいだけで す。今回のことで、自分の会社の対応にも不信 感をもっています。ただ、今は家族のためにも 次のことへ向かわないといけないとも思ってい ます」  すると美由紀が、  「修一さんの言うとおり、私も何か策略みたい な怪しい感じはしています。それで、飯島さん のこともあり、少し前から調べています。ちょ うど私のチームに、山科さんのところの仕事で 関わっているメンバーがいるので」  河村は、昌也の話を聞いて、真実をはっきり する必要があると感じた。  「わかりました。この件は益田さんと弊社のこ とと同じ事件だと思いますので、葛城さんにお 願いして、私もできる限り協力します。何か起 きたのか、そして今何か起きているのかをはっ きりさせましよう」  「この話は、一旦これで終わりにしましよう。 実は、私は中井さんと益田さんにご相談があり ますので、その話を聞いて頂いても宜しいです か?」  みんなが頷いて、河村の次の言葉を待った。  「以前、中井さんにご相談した件です。葛城さ んがあまりに単刀直入に中井さんに話されたの で、少し私も驚きました。中井さんが、東京に 戻られた時に、中井さんの上司でもある葛西君 に電話をして、私の正直な気持ちを伝えました。 葛城さんは、弊社の新しいプロジェクトにも参 加してもらっていますし、内容をよく把握され ています。その上で中井さんを推薦して頂きま した。また、今回は益田さんも福岡に来られる とのことで、私もお会いすることを楽しみにし てました。今、私たちが進めているプロジェク トの話を少し聞いて頂いてもいいですか? 益 田さんにもぜひ話を聞いて頂きたいです」  昌也は、修一が河村の会社に誘われているこ とを聞いていた。その内容についてたと思って いたので具体的な内容については興味があった。 また、自分も同じ業界にいて河村の新しいプロ ジェクトの話はぜひ聞いてみたいと思っていた。  河村は、みんなの顔を見て、話を始めた。  「今回のプロジェクトは、現在のAIの急激な 変化に対応していくためのツールを提供するも ので、利用者が必要とするものをAIの分析と データベースから提案するツールです。利用者 が必要な情報を入力し、その分析と必要な情報 を予測した上で、AIに対する条件提示を自動 的に行うツールになります。このため、単なる AI利用ツールとは異なり、AIを利用するた めにデータベースによるサブAIシステムを構 築する必要があります。このツールにより、誰 もが必要な時に最新の必要情報を得られる環境 ができます。大島君簡単に説明してもらっても いいかな?」  すると大島が、河村に続いて説明を行った。 「はい、今社長の話したことが概要になります。 今回あらゆる業界の情報を蓄積して、ビジネス のマッチングに対応するだけでなく、利用者が 必要な情報を提供することも目的にしています。 例えば医療機関や弁護士などの法的機関、スマ ホやアプリなどに関するIT部門、美容や予防 医学に関する美容医療部門などさまざまな情報 の蓄積から利用者の要望を分析します。その中 で適切な質問事項を提示し、その回答内容につ いてAIへのプロンプトを提示します。また、 その際のAIエンジンも利用者により選択可能 にしています。幾つかのAIの回答を複数に表 示させて、より利用者の期待に応えられるシス テムとなります。開発における課題は、幾つか ありますが、現在後半の部分は、従来の技術の 応用開発で可能だと考えています。しかし、前 半の分析の部分にサブAI技術の課題をクリア する必要があります」  大島は、修一も昌也もAIやITスキルが高 いことを承知の上で概要を説明した。  修一と昌也はお互いに顔を見合わせ、驚きと 喜びの表情になった。  「河村さん、大島さん、ありがとうございます。 概要は大変よく理解しました。とても画期的な ツールです。利用者側に寄り添い課題解決を行 う思想も理解できます。さらに、これがあくま でも提案レベルでの提示になること。そこに利 用者の判断のサポートとなる情報の提示である ことに大変共感しました。益田も同じ考えだと 思います」  「今、中井が言った通りです。私もこれはすご い可能性と拡張性を感じました。さすが、河村 さんですね。しかもこれは、業界のさまざまな 分野の連携や拡張性の部分で新たな仕組みを作 るベース基地となると思います。たしかに、今 回の『FTMシステムテクノロジー』さんと共 同開発していたプラットフォームとも発想が近 いと思います。ただ、前半のサブAIの部分は 発想になく後半部分でさらにBtOBのビジネ スマッチングに特化した部分を重視していまし た」  大島が二人の話を聞いて。  「流石お二人、ご理解頂きありがとうございま す。そうなんです。サブAIが今回の目玉とな る部分なんです。現在開発を進めていますが、 中々苦戦しているのも事実です。それで、お二 人のお力添えを頂きたいと思っているのです。 もう一つ心配なこともあります」  大島は、河村と美由紀の顔をみて確認し、話 をつづけた。  「開発を進める中で、後半のAIへの提示する 開発に大きな問題があることがわかりました。 それを現在解析中なのですが、その開発にも中 井さんのお力をお借りしたいのです。そして、 先ほどお話した、飯塚君が持ち出したものは問 題のある状態にあると言うことです。彼が気づ いて修正できるかも疑問です。今回その件も、 河村社長が心配されているところでもあります。 実は、この開発は河村社長の意向で完成後に技 術公開を行います。核の部分の公開は難しいで すが、利用できるAPI(アプリケーションイ ンタフェース) へのプログラムはオープンソー ス化する予定です。これも、益田さんがおっ しやったように、業界の発展や新しいビジネス への支援、スタートアップ企業への支援を考え ているからです。それもあり、今回社長は飯塚 君のことを問題にしませんでした。ただ、私は 個人的にとても残念に思っています。彼は、私 以上に優れたエンジニアです。こんなことに なってしまい、とても残念ですし、悔しい思い です。二人で頑張ってきただけに、余計その思 いが強くなります」  大島の話のあとに、美由紀が話し始めた。  「大島さんの思いは私もよくわかります。飯島 さんもいい人でしたし、とても優秀な方でした。 こんな形で辞められるとは、私も疑問だらけで した。ただ、益田さんの話も合わせて考えると、 山科さんの策略に利用されたように感じてなら ないです。その部分は、だいぶ調査も進んでい るのですが、また別にご報告させて頂きたいと 思います。それで、大島さんのお話の中にあり ましたが、プロジェクトへ修一さんにご参加頂 きたいという話を前回させて頂きました。実は、 河村さんともお話をしました。益田さんが、福 岡に来られるということでプロジェクトの話も 聞いて頂きたいんです。そして、益田さんもこ のプロジェクトにご参加頂けないかと思ってい るんです。お二人のお力を貸して頂きたいと考 えています。益田さんのエンジニアとしてのス キルとマネージメントやディレクションのスキ ルについてもお力をお貸し頂きたいのです」  修一と昌也は、驚いて顔を合わせた。  「葛城さん、修一の件は彼から聞いていました が、私もですか? 彼が河村さんと仕事ができ るかもしれないチャンスがあると聞いた時は、 正直羨ましかったです。彼の技術力や実績から も当然だと思いました。ただ私は、エンジニア の経験はありますが、どちらかと言うとコンサ ルティングが本業です。お力になれるかどう か?」  すると修一が。  「いや、昌也の技術スキルは高いし、今回のA Iの知識については、俯瞰的に見れる力もある ので、十分だと思うよ。ただ、今回の件がある ので、それは心配している。それに、俺もまだ お誘い頂いたことは感激しているが、どう返事 をしていいのか迷っている」  すると河村が話しだした。  「いや、葛城さんが相変わらず直球勝負なので、 困惑されるのはごもっともです。ぜひ、一度お 二人とも検討して頂けないか? という提案で す」  美由紀は、河村の話のあと、舌を出して笑っ ていた。  「すいません。私、なんでも先を急ぐタイプな ので。河村さんの言われたようにご提案なんで す。当然、生活も福岡へ移住することになるし、 ご家族とのご相談もありますよね。ただ、私の 勝手なことを話すと、さつきさんや修一さんと 福岡で生活できたらいいな〜つて思っていて、 結構真面目に夢を描いていたもので、先走りま した。益田さんも宮崎のご出身だし、修一さん とは親友だし、なんかつなかつているって感じ て気持ちが先走りました」  修一も昌也も美由紀の言葉に苦笑いしていた。  それから、みんなで食事をしながらお互いの ことを披露して楽しく時間が経過していった。  すると河村が、美由紀の顔を見て頷くと美由 紀が修一と昌也に話し始めた。  「修一さん、益田さん、明日の夕食の件なので すが『旅のしおり』にはサプライズと書いて あったと思うんですよね」  「そうそう、気になってたんだよね。さつき七 美由紀ちゃんらしいねって話してた」  益田も、修一の返事に頷いていた。  「実は、明日の夜は、河村さんプレゼンツの福 岡の食材をふんだんに使ったイタリアンになっ ております。河村さんも参加されます」  「え’・ そうなの。それすごいね。でも河村さ んに申し訳ないですよ」  「いえいえ、ご家族で福岡に来て頂いたんです。 福岡の人間としては、当然のおもてなしをさせ て頂かないと。お邪魔にならないように私も参 加させて頂ければ嬉しいです」  「本当ですか? それは、嬉しいですよ。なあ、 修一。修一も私も憧れの方としかも宗族も一緒 に食事なんて感激ですよ」  「それでは、また私かお迎えにあがりますので、 宜しくお願いします」  美由紀が笑顔で二人に挨拶した。 **   **   **  翌日の夕方五時に、ホテルのロビーで美由紀 が修一と昌也の家族を迎えに待っていた。  益田の家族がエレベーターからおりてくると、 ゆかが美由紀を見つけて走ってやってきた。遅 れて益田夫婦がくると、  「葛城さん、今日はすいません。なんか私たち のお世話ばかりでお仕事に支障ないですか?」  優子が申し訳なさそうに美由紀に話しかけた。 昌也も頭を下げていた。  「いいえ、全然大丈夫です。私もみなさんとご  一緒できて楽しいんです。ゆかちゃんとも友達 になれたし。ね。ゆかちゃん!」  ゆかは、笑顔で小さな手でヒースサインをし ていた。  それからすぐに、修一たちもエレベーターか ら降りて来た。  「美由紀ちゃん、ありがとう。ごめんね。忙し いのに」  さつきが笑顔で、美由紀のそばに寄ってきた。  「いいえ、今日はサプライズですから。と言っ ても、昨日修一さんにも益田さんにもばらして しまったんですが」  「え! そうなの? 修一君何も言ってなかっ たよ」  「いや、サプライズだから言わないほうがいい かな? と思ってね」  美由紀は、修一に笑顔で、 「さすが、修一さん」  それから、タクシー二台に分かれて、薬院ま で移動した。薬院大通りの交差点近くで降りて、 歩いて二、三分のところにあるイタリアンレス トランに入っだ。  さつきも優子も笑顔で楽しそうだった。  店までの間に、美由紀がさつきと優子に今日 は、河村のセレクトでお店を予約してもらった こと。河村も同席してみなさんとの食事を楽し みにしていることを話した。  「え!・ そんなすごい人と食事なんて、大丈夫 なの美由紀ちゃん。修一君」  さつきが驚いて話すと、優子も、  「子どももいるんですけど、大丈夫ですか? ご迷惑にならないですか?」  「全然大丈夫ですよ。河村さんもみなさんにお 会いするのを楽しみにしてましたよ。ゆかちゃ んとも会いたいって言ってました」  それから、イタリア国旗の掲げてあるお店に 入ると、河村が先にお店のマスターと話をして いるところだった。  店に入ると、すぐに珍しい野菜や果物が木箱 に入れられて、マルシェみたいな感じで置いて あり、販売もしている様たった。お店も、堅苦 しくなく宗族料理といった雰囲気から日本とは 違う空間を感じさせていた。 「河村さん、お連れしました」  美由紀が河村に挨拶をする。  「河村さん、今日は申し訳ないです。昨日もご 馳走になって、恐縮です」  「河村さん、本当にありがとうございます。感 激です」  昌也も修一に続けて挨拶をした。  「中井さん、益田さん、とんでもない。私のわ がままにお付き合い頂き、ありがとうございま す。中井さんの奥様、益田さんの奥様、そして、 ゆかちゃん、こんにちは。今日は、ご旅行中な のに、勝手に私か入り込んでしまって申し訳ご ざいません。お許しください。ここのイタリア ンをぜひご堪能頂きたかったもんで」  「河村さん、初めまして、先日から中井がお世 話になって、ありがとうございます」  さつきに続いて、優子も挨拶をした。 「昨日は、益田がお世話になりまして、ありか とうございました。本日は、ありがとうござい ます。子どもまで参加させて頂き感謝申し上げ ます」  それからみんなで食事をしながら、お店の オーナーも食事の説明や地元糸島の野菜など食 材の話も丁寧に説明してくれた。ゆかは、自分 のためのお子様メニューに大喜びたった。  ワインもイタリアワインを出してくれて、さ つきも優子もほろ酔いの感じだった。  すると、河村がさつきと優子に問いかけた。  「中井さんの奥様も益田さんの奥様も、福岡は 如何ですか? できれば、感想をお聞かせ頂け ると嬉しいのですが」  すると、さつきが、  「はい、福岡の印象は、思っていた通りという か、食材が豊かで食べ物七美味しいし、先日は、 糸島の農園に行っだのですが、農園の人もとて も親切で、人柄の良さを感じました。お店もま わってみましたが、物価も安いので住みやすい ところだと思います。何よりも色んなところで 孑孑ルギーを感じました」  「私も、さつきさんと同じ感じです。住む環境 としては、田舎な感じもすぐ近くにあり、街は 活気があるところだと思います。子どもを育て るにもいい環境だと思いました」  「そうですか、ありがとうございます。褒めて 頂けると福岡の人間としては嬉しいです。東京 に比べると随分田舎ですが、それなりに商業施 設も充実してます。アジアの玄関口というのも あり、行政も支援を行っています。最近は、イ ンバウンドの方も増えてきてますので、その辺 りで文化の違いもあり、多少問題も抱えていま すが、私も福岡が大好きです」  すると、さつきが。  「中井のほうにお話を頂いていた件は聞いてお ります。実は、私のほうから一度福岡の街を見 てみたいし、生活の様子を知りたいと願い出た んです。とても素敵なところだとわかりまし た」  「私も、益田から今回のお話を昨日聞きました。 今、色んなことが起きてしまっていて自分でも 混乱しているところもありますので、益田や中 井さんご夫婦とも相談したいと思っています」  河村は、修一と昌也の顔をみながら、  「中井さん、益田さん、奥様にも気に入って頂 いて何よりです」  修一と昌也は、ひょっとしてこれも河村と美 由紀の狙いだったのかと思って、苦笑いしなが らお互いを見合っていた。  美由紀がそこですかさず、  「さつきさん、優子さん。福岡は本当に住みや すいですよ。私は福岡の出身ですので、昔から 福岡は大好きですが、今どんどん新しい開発プ ロジェクトも動いていて、活気もあります。課 題は、まだたくさんあると思いますが、福岡は、 素敵なところです。お二人に気に人つて頂いて 嬉しいです」 第7章 新たなるスタート  修一と昌也の宗族は、福岡から東京(横浜) に戻った。  今回の福岡の旅行は、自分たちにとって大き な変化の起点となると思っていた。  昌也は、自分も修一と同じように河村の会社 に誘われるとは思ってもいなかったが、環境を 変える良いチャンスだとも考えていた。縁が あって、こんな展開になったこと。例の事件が 河村たちにも関係していること。つなかつてい るこの状況に、運命的なものも感じていた。優 子やゆかのことを最優先に考えて答えを出した いと思っていた。  修一は、今回の旅行で、さつきの福岡の印象 や生活のイメージがどれほどできたのかも気に なっていた。しかし、美由紀が福岡にいること は気持ちの面で安心だろうし、今の仕事七美由 紀の力を借りてデザイナーとして福岡で継続で きるとしたら、福岡行きは納得してくれるかも しれない。  自分も今回、河村や大島に会い、プロジェク トの内容を聞いたことで、とても興味があった。 ただ、会社にお世話になってきた感謝の気持ち と特に葛西に対する思いもあり、悩んでいた。  さつきは、今回の旅行で福岡の土地の雰囲気 や生活をイメージできたのは自分の中で大きい と感じていた。美由紀がいてくれることも大き く、身内がいる感覚たった。  仕事のほうも、美由紀からデザイナーとして 美由紀のチームに誘われていた。この点は、ま だ修一に話してはいない。自分としては、修一 の判断に任せるつもりだが、福岡行きを拒否す る理由はないと感じていた。  優子は、今回は宗族旅行のつもりだったが、 意外な展開になったことに困惑していた。ただ、 とても楽しい旅行だったし、中井家との親睦も 深められた。特にゆかの楽しそうな様子が一番 嬉しかった。  福岡への移住も急な展開に驚いているが、今 回の事件で昌也が苦しんでいるように感じてい たので、素敵な仲間がいる福岡への移住は運命 なのかもしれないと感じていた。  昌也は、優子と夕食を食べながら、福岡移住 の話をしていた。  「優子の正直な気持ちを聞かせてくれないか? 福岡へ行くことに不安もあると思う。ゆかのこ ともあるし、今の気持ちを聞かせて欲しい」 「わかった。正直な気持ちは、福岡に行っても いいと思ってる。ゆかを育てるにも良い環境だ と思うし、生活する上でも物価も安いからこれ からのことを考えると福岡はいいところだと思 う。でも、あなたのことが心配なの。仕事のこ とはよくわからない。河村社長や葛城さんも素 敵な人だと思う。仕事のことであなたが充実で きるなら福岡に行くのは賛成です。できれば、 さつきさん家族も一緒だと心強いけどね」  「そうか。実は、河村さんに会ってから、彼の 考えを聞いて、凄く共感をした。仕事の内容も 魅力がある。今までの自分の実績も評価してく れているし、役立つと思っている。修一たちの ことは、俺も聞いてみるが、福岡へ行こうと思 う」  昌也は、福岡への移住と河村の会社への転職 を決めた。  修一とさつきも今回の福岡の件を話していた。  「さつき、俺やっぱり福岡へ行こうと思うん だ」  「修一君はそう言うと思ってた。私も今回の旅 行で福岡のイメージもわかったし、美由紀ちゃ んがいるのは安心なんだよね。ただ、仕事のほ うは大丈夫なの? それだけかな?」  「うん。仕事のほうは、葛西さんや課長にも相 談してみる。プロジェクトの仲間にも」 「もちろん、引継ぎもあるし、すぐにはいかな いけど。多分三か月くらいはかかるかもしれな い。ちょうど、前の案件が終了したところなの で、タイミングはいいんだよね」  「わかったわ。修一君に任せる。あとは、優子 さんたちがどうするかよね。明日優子さんにも 聞いてみるね」  修一と昌也の宗族は、それぞれ福岡への移住 を決めて動き出した。  昌也は、会社へ退職届を出し、すぐに福岡行 きの準備を始めた。河村と美由紀にそのことを 話し福岡のほうの住むところやゆかの保育園の こともあっだので、二週間後にまた福岡へ行く ことになった。  修一は、会社に出社して、葛西に福岡へ行く と決めたことを伝えると、葛西も賛成してくれ た。そして、彼が修一に送った言葉で、修一が 思わず涙することとなった。  「中井、会社は辞めてもいいが、チームK (チーム葛西)は辞めるなよ。どこにいてもお 前は、俺のチームのメンバーだからな」  この言葉に、心が熱くなり涙することになっ た。  チームKとは、葛西を慕うエンジニアや営業 の仲間たちで作られたグループで、仕事のこと やプライベートのこともいろいろと助け合うコ ミュニテイが作られている。修一もそのメン バーに入っていて先輩や後輩とのつながりも 作って来た。  会社のほうは、課長の田村とサブリーダーの 木下を中心に引継ぎを行う段取りとなった。た だ、修一の担当する部分が多いので、どうして も三か月ほどの引継ぎ期間が必要となった。  さつきのほうは、問題なく退職ができたので、 さつきが昌也だちと福岡へ行き、準備をしても らうようにした。  修一と昌也の福岡移住を聞かされた河村と美 由紀は、大喜びで会社のほうの受け入れ準備に 入っだ。昌也が先に入社して三か月後に修一が 入社する予定となっている。河村の構想も大き く動くことになった。  美由紀は、さつきと優子が福岡に来ることで、 白分か思い描いていたように進んだことをとて も喜んでいた。 **   **   **  (四か月後)  三か月経って、修一も河村の「R&Vテクノ ロジー」社に入社した。  入社して、すぐにプロジェクトのメンバーに 加わり、課題解決に向けての開発に着手し、昌 也とも連携して改善開発を行った。そして、次 の課題のための会議が行われた。  会議には、河村、大島、美由紀、益田そして、 フリーランスの「中野純ごと「佐藤かおり」 が参加した。佐藤は、美由紀のチームのメン バーである。  大島が最初に現状の報告を行った。  「益田さんの分析と中井さんのご協力により、 AIエンジンの問題点については改善できまし た。修正も中野君が頑張ってくれて、昨日テス ト完了となってます。益田さん、中井さん、そ して中野君、ありがとうございました。次にサ ブAIエンジンの部分ですが、仕様内容とプロ トタイプまでは、完了しています。WEB画面 のデザイン部分も佐藤さんのおかげで、ほぼ完 了しております」  すると河村が発言をする。 「みなさんのおかげで、完成も見えてきたね。 残すはサブAIエンジン部分だ。中井さんも参 加してきてくれたので、プロトタイプの確認と 具体的な開発に入って欲しい。中野君には、プ ログラムの部分で大島君と連携をとって進めて 欲しい。ここは、利用者の要望の分析から本体 AIエンジンへの受け渡しとなるとても重要な 部分となる。このシステムの肝となる部分だ。 中井さん、宜しくお願いします」  中井は、入社後に開発内容を精査していた。  「河村社長、大島さん、中野さん、佐藤さん、 宜しくお願いします。内容は精査させて頂き、 幾つかの疑問点と改善案を大島さんに提出して ますので、そこから一気に開発に進みましよう。 あと、全体の動きやユーザサイドのインター フェースの部分を昌也、あつ、益田君にも検証 をお願いしたい。これは佐藤さんと連携してシ ステムに関連する部分があれば問題を共有して 欲しいと思います。佐藤さん、宜しくお願いい たします。私も参加してみて、みなさんのスキ ルの高さに驚いています。宜しくお願いいたし ます」  益田も頷きながら。  「私も入社して感じたのは、チームワークの良 さです。みなさん自分のことだけでなく連携す る担当者への情報共有や何でも話せる雰囲気を 大島さんが中心になって作っているので、とて も仕事がしやすいというか、わくわくして仕事 ができます。宜しくお願いいたします」  美由紀は、話を頷きながら聞いていたが、立 ち上がると笑顔で発言した。  「益田さんも修一さんも転職して頂き本当にう れしいです。佐藤もお二人の凄さを感じ、とて も刺激になっています。河村さんにも少しは恩 返しできたかと思って嬉しいです。私見ですが、 お二人でないと河村さんの描いたプロジェクト は成功しないと思います。引き続き宜しくお願 いいたします」  河村も頷きながら、美由紀の話を聞いていた。  「そこで、以前からお話していた調査状況をこ の場を借りてご報告したいのですが、宜しいで しょうか?」  修一も昌也も表情が変わり、美由紀に注目し た。  美由紀は、「FTMシステムテクノロジー」 にデザインで参加している仲間の加藤からヒア リングを行った。加えて、加藤が親しくしてい る経理担当の坂本という女性からの情報を報告 した。  山科が経済産業省政務官秘書の若林と頻繁に やりとりを行っていること。坂本からは、山科 が頻繁に東京への出張清算を行っていること。 そして、頻繁に東京にあるコンサルティング会 社数社に振込が発生していることを聞き出して いた。もちろん、業務でのことも考えられる。  しかし同月に何回もの振込や複数社に渡って 行われていることは、今までになかったこと だった。振込については経理の坂本が経理課長 にも聞いてみたが、課長はそのまま清算決済を 通していること。また、飯島が頻繁に山科に呼 び出されており、毎回悲壮な顔つきで会社を出 て行くこと。これらから、一度飯島に会ってみ ることを報告した。  河村は、少し険しい顔で話し始めた。  「葛城さん、いろいろと調べてくれている様で、 ありがとう。何かあるとは思つていますが、あ まり深入りしないようにして欲しい。あなたの 正義感は私も理解しています。益田さんのこと もあるし、飯島のこともあるので余計に思いが 強いかもしれませんが、危険なことにならない ようにお願いします」  「いえ、実は調査している中で、大きなことが わかりました」  すると美由紀は、佐藤のほうを見た。佐藤は、 頷いて立ち上がった。  「私のほうから、よろしいでしょうか」  佐藤は、緊張した表情で、話し始めた。  「このことは、お話しするか迷いました。河村 社長や大島さんには大変お世話になっているし、 私もどうしたらよいかわからず、美由紀さんに 相談することにしました。その結果、自分の中 の正義というか、納得できないままではいけな いと思いみなさんにお話させて頂きたいと思い ます」  みんなは、驚き緊張した顔で佐藤の次の言葉 を待った。  「実は、私は以前飯島さんとお付き合いをして いました。そして、飯島さんから相談も受けて ました。河村社長や大島さんを裏切る形で会社 を辞める時に、私と大喧嘩となりそのまま別れ ることになりました。そして、先日飯島さんか ら突然連絡がありました。それで、迷っだので すが、飯島さんと会ってきました」  大島は驚いていた。  「付き合ってたの? 知らなかったよ。それで 飯島君は、何て言ってきたの?」  「はい、会社では付き合ってることをわからな いようにしたいと飯島さんから言われていたの で、なるべく仕事の話だけをするようにしてい ました。飯島さんは、相当憔悴している様子で した。山科さんから凄く責められている様でし た。大島さんが話されていたシステムの問題点 に気づきその対応を行っているけど、全然上手 く行かないとのこと。納期もどんどん迫ってき ているのに、会社のスタッフの技術レベルも違 いすぎて、そのフォローもしなくてはならなく て大変な状況の様子でした。それで、何を言い 出すかと思っだのですが、大島さんと会えるよ うに段取りして欲しいと言われたんです。もち ろん、断りました。大島さんの気持ちは私なり にわかっているつもりです。あんなことをして 出て行っだのだから、今更なにを言ってるのだ と思いました。ただ、彼の様子が普通ではない というか。ノイローゼ見たいになっている感じ がしました」  大島は、あきれた顔になった。  「佐藤さん、ごめんね。気を遣わせてしまって、 私のことを考えてくれてありがとう。たしかに 私は、会いたくないな」  すると美由紀が、河村のほうを向いて、話し 始めた。  「河村さん、そこで私から提案があるのです が」  「佐藤の話を聞くと飯島さんも山科さんに唆さ れた様です。もちろん、だからと言って許され ることではないと思います。彼も今後悔してい る様です。それで、今回の開発での問題点につ いても、原因までは分析できた様ですが、対応 方法に時間が掛かるとのことで、大島さんに泣 きついてきているのかと思います。大島さんの 気持ちは私も理解しているので、会わないと思 われて当然だと思います。それで、ご提案なの ですが、私か代わりに会ってみたいと思います。 それで、今回の件のことをはっきりさせること。 そして、山科さんが何を裏で動いているかを確 認したいと思います」  すると修一が、  「美由紀ちゃん、自分はよくわからないけど、 話の感じからすると飯島さんは、山科さんが裏 でなにやってるかまでわからないんじゃない の?」 「私もそう思います。それで、先ほどお話した 経理の坂本さんや加藤の話から何か裏で動いて いるのは確実なので、飯島君にスパイになって もらうように話をしようと思うんです。彼がど のように応えるか次第だとは、思いますが。私 に策はあります」  河村は、腕組みしながら考えていた。大島も 困惑した表情で河村を見ている。  「葛城さん、スパイというのはどの程度のこと なのかわかりません。ただ、私は飯島君をとて も高く評価しています。今まで一緒にやって来 た仲間なので、今回の件もよっぽどのことだっ たんだろうし、そこに山科さんが上手に付け込 んだんだと思います。実際なにがあったのかを 聞き出してもらえるのはうれしいですが」  「わかりました。とりあえず、私と佐藤で飯島 さんに会ってきます。その内容を報告して私の 提案も含めてみなさんで協議して頂ければと思 います。佐藤さん、いいよね?」  佐藤は、覚悟した感じで、答えた。  「はい。私も美由紀さんに全面的にご協力しま す」 第8章 真実の究明  次の囗、佐藤は飯島に連絡して、その日の夕 方に三人で会うことにした。  三人は、美由紀の行きつけの店で奥座敷の個 室で会うことにした。  「葛城さん、本囗はお時間を頂きありがとうご ざいます。そして、誠に申し訳ないことをした と思っております。決して許されることではな いと、自分でもわかっています。河村社長にも、 大島にも会わせる顔がないです。ただ、このま までは、さらに色んな方に迷惑をかけてしまい ます。山科社長にも開発の現状を話せないでい る状況なんです。それで、佐藤さんに泣きつい てしまいました」  「飯島さん、佐藤から話は聞きました。たしか に許されないことだと私も思っています。ただ、 そこには事情もあったのかと思います。今日は、 河村さんにも大島さんにも了承を得て来てます ので、私もちやんと話を聞かなければならない んです。今日は、正直にお話してもらえません か? 飯島さんの気持ちも含めて、現状の様子 もお話を聞けたらと思っています」  「はい。私も、そのつもりです。お時間をとっ て頂き、ありがとうございます。佐藤さんもあ りがとう」  飯島は、今にも泣きだしそうだったが、大き く息をつくと話し始めた。  「最初に山科さんから、私と大島で開発した、 コミュニケーションツールの『コミュラック』 のカスタマイズということで依頼を受けました。 それで、結構複雑な処理もあったので、現地調 整を行っていました。シークレットな情報の管 理やその履歴を残さない様な仕様もありAIと の連携も条件が追加されていました。それで、 開発が終わったところで、山科さんから声がか かりました。かいつまんでお話すると、私の技 術力を高く評価してくれているとのことで、業 界で注目をされている河村社長の一番弟子だと。 ただ、もう一人の大島がライバルとしている。 彼女は天才大島と評判だと聞いている。そこで、 今の会社から出て、山科さんのグループ会社に 移籍してAIの開発を行わないかと誘われまし た。私は、最初は相手にしない態度でした。そ れでも、河村社長の元を離れて大きな成果を出 し業界に注目されたら河村社長への恩返しにな るとか、大島よりも実力があることを示せると かで巧みに話をもって来られました。『守破離』 の考えで、河村社長から旅立つ時だと、そのた めに必要な環境やお金は、全部山科さんが面倒 みると。そして、そのためにポジションと移籍 金も用意してある。そういわれました」  佐藤は、話を聞きながら、飯島が可哀そうに 思えてきた。  「飯島さん、それはどう考えても話がおかしい と思う。騙されてるでしよう」  半分涙声の佐藤を美由紀が制して、続きを聞 くことにした。  「それで、自分も悩みましたが、河村社長への 恩返しという言葉でつい承諾してしまったんで す。すると、その条件として、開発したAIの モジュールと仕様を持ち出すことを言われまし た。流石に私もそれはできないと返事をしたん です。この技術は後に公開されるのでそのあと で利用するように話しました。すると、どうせ 公開される技術だし、その開発は自分と大島が 作ったものだから問題ないと言い出しました。 そこに、お金や地位の話を持ち出されて、つい 持ち出しをしてしまったんです。本当に申し訳 ないです」  「ただ、開発を進めていくと、そのプログラム に大きな問題があることがわかりました。ある 条件の時に、システムが止まってしまう。その 部分を解析したんですが、そこには、大島が入 れ込んでいたセキュリティのトラップがあった んです。これは、大島と私で考えたことですが。 ハッキングなどで不正利用された時にそのト ラップが働き動作が停止するように作られてい るんです。私たちもすごい技術だと思っていま した。それが、今回の開発の場合の条件で、そ この部分でエラーとなり解決ができないんです。 私も試行錯誤してプログラムの書き直しもやり ましたが、上手く行かなかったんです。納期を 考えると時間もかけられない。他のエンジニア のフォローもしなくてはならなくパニックに なってしまいました。それで、佐藤さんにお願 いして大島になんとか力を貸して欲しいと泣き つくしかないと思っていました」  美由紀は、飯島が正直に話している言葉に嘘 はないと感じた。  「飯島さん、その通りです。持ち出されたプロ グラムには、大きな問題があった様です。大島 さんがそのことを見つけて、飯島さんが持ち出 されたものには問題があると話されてました。 それで、今回新たなAIのスペシャリストの人 材が河村さんに協力することになり、大島さん と中野君も含めて、問題解決されました」  飯島は、目を見開いて驚いた。  「解決したんですか? 流石大島だ。やっぱり 彼女には勝てないのかな?」  「いえ、大島さんも苦労されていました。そこ で、私か東京の知り合いの方に参加してもらっ て、仕様から見直しセキュリティのトラップの かけ方と条件設定のデータベースの部分を改造 されたと聞いています」  「そ、そ、そうなんですか?」  飯島は、美由紀の話に自信喪失な状態だった。  「飯島さん、先はどの話に戻りますが、山科さ んとお話されていた内容を証明する様なものっ てないですか? 例えば、会話を録音とかして ないんですか?」  「いや、録音とかした記憶はないです。いつも 私は、打合せの時には、スマホの会話録音アプ リで録音をしています。山科さんとの会話も全 部ではないですが、最初の時の打合せの会話は 録音されています」  すると飯島が思い出したように、  「あっ、でもあの時はカスタマイズの打合せの あとに話されたことなので、録音した状態だっ たと思います。そうか、忘れてました」  美由紀は、佐藤と顔を合わせて頷いた。  「そのデータを預からせてもらっていいです か? そして、飯島さんを助けるために私たち も考えがあります。私たちに協力してください。 飯島さんが今日話されたことは、私から河村さ んと大島さんに伝えます。近々お二人にも会つ て頂くことになると思います。それで、お二人 が了承されれば、問題を解決したプログラムの 提供もできるかもしれません。ただし、条件は 付くと思いますよ」  「本当ですか、ありがとうございます。助けて ください。もう自分もどうしていいのかわから ないんです。河村社長にも大島にも土下座でも なんでもします。もちろん葛城さんにも協力し ます。宜しくお願いします」  それから、飯島のスマホから音声データを美 由紀のパソコンにアップロードした。そのあと、 飯島と別れた。  美由紀は、そのデータを佐藤と聞いてみた。 そこには、山科の策略的な言葉と幾つかの情報 があった。佐藤は、この件は全部美由紀に一任 するということで納得した。 **   **   **  三人で会った次の日の午後、美由紀は、河村 と大島、それから修一と昌也の五人で会議室に 集まった。  美由紀は、昨日の飯島の話をみんなに報告を した。そして、彼が佐藤の言うように憔悴して おり、ノイローゼ気味な感じを受けたことも付 け加えた。  すると大島は、悲しい顔をして、  「情けないです。同期で本当に優秀なエンジニ アだったのに、二人で世の中のために役立つす ごいシステムをつくるって、それが河村社長へ の恩返しだと話しながら頑張ってきていたのに。 そんな、陰謀みたいな話に騙されるとは」  美由紀は、そこで大島を向いて話した。  「大島さんの言うことは、その通りだと思いま す。ただ、飯島さんも苦しんだ様です。そして、 その心の隙間に山科さんが巧妙に話をもって いって誘導したと思います。実は昨日、飯島さ んからデータを預かってきました。これは、山 科さんが飯島さんを説得する時の音声データで す。彼は、いつも打合せや仕様確認の時にスマ ホの会話録音アプリで録音をしていた様です。 仕様確認の打合せのあとに山科さんが飯島さん に個別に話をしたので、録音したままで、デー タが残っていました」  みんなは、驚いた。よくそんなところまで気 づいたものだし、データも残っていたものだと みんなが言い出すと、美由紀が音声データを流 し始めた。  それは、飯島が話していたように山科がいろ いろとたとえ話を入れながら話していた。河村 への恩返しという言葉を頻繁に使っていた。  そして、今後の飯島については、お金も環境 も全部バックアップする。なにせ、自分には、 経産省が付いていると言っていた。そこには政 務官の福田代議士の名前や秘書の若林の名前も 出て来た。そして、驚いたのは昌也の前の会社 「NGコンサルティングジャパン」の名前まで 出てきている。どうも最初から昌也の会社を利 用して、ノウ(ウをもらう算段でいたことも会 話に出てきている。  データを聞き終えると、修一が発言した。  「やっぱり、昌也の会社は上手く利用されたん だよ。始めからそのつもりだったんだ。お前た ちにプロトタイプを作らせて、設計までさせて それで契約を解除するつもりだったんだな。ひ どいな。というか考え方がせこいな」  昌也は、顔をしかめながら修一の話を聞いて いた。  すると河村が、  「たしかに、陰湿なやり方に思われますね、飯 島君も山科さんに上手く言いくるめられている ね。私への恩返しという正義を振りかざしてい る。残念な話だが、飯島君の気持ちもこの会話 を聞くとわからないではない。ただ、行動した のは、本人の責任だからね」  「その通りです。やっだのは、自分の判断です から。私も同情はしますが」  大島も以前よりは少し柔らかい感じで話をし た。  すると、美由紀が話をした。  「それで、ここからが私の提案というか『策』 です。みなさんに聞いて頂きたいんです」  美由紀の「策」はこういうものだった。  まずは、山科の陰謀の裏づけを取る。  ・河村の会社からの情報・プログラムの窃盗 (音声データ)を確認する。  ・山科と若林の関係の証拠をとる。  ・不当な振込からの振込先を洗いお金の流れ をつかむ。  ・昌也の会社の「NGコンサルティングジャ パン」との関係をはっきりさせる。  最終目的は、訴訟もあるが、まず社会的な制 裁を行うものとする。  訴訟は河村の判断とするが、裏づけした事実 を山科にぶつけて、SNSやネットニュースに よる情報開示を行うことにより、彼の信用を損 ない関係者へ謝罪をさせる。  修一が  「ただどうやるの。結構危険な感じもするし、 できるの?」  と聞いた。  「修一さん、方法はあります。もちろん正当な やり方かどうかは別ですが。それで、飯島さん にも協力してもらいます。どの様なことが得ら れるかは、飯島さんと相談します」  すると、河村が、  「ちょっと待った。葛城さん、危険なことにな るならダメだ。それに正当でない情報なら証拠 としても意味を持だなくなるよ」  「河村さん、大丈夫です。危険なことはしませ ん。それに証拠として意味がなくても社会的制 裁には十分な情報となります。最終判断は、み なさんに任せます。ただ、大島さん、河村さん、 お願いがあります。例の問題解決したプログラ ムを飯島さんに提供してもらえないですか? もちろん条件付きです。そして、その条件が とっておきの切り札になります」  大島は、よくわからないという顔をした。  「私に任せてもらえませんか? 河村さん、大 島さん」  二人は、美由紀のことだから何か考えがある のだろうと思ったし、彼女への信頼は大きかっ たので承諾した。  その夜に美由紀は、飯島を呼び出した。  美由紀は、今日、河村たちに報告をしたこと を飯島に話した。飯島は、うなだれていた。そ して、問題解決のプログラムの提供の了承を河 村と大島に得られたと伝えると。顔を上げて、 生気を取り戻した様たった。  しかし、それには条件が付いている。提供す るプログラムは、一部変更を加えてある。その プログラムで開発を行うように依頼した。飯島 は、どんな条件でも現段階の問題解決が最優先 と考えていたので、美由紀の依頼を承諾した。  「飯島さん、もう一つお願いがあります。山科 さんは、内部や外部のやりとりにR&Vテクノ ロジー社(河村の会社)の『コミュラック』を 使っているはずですよね」  「はい、その通りです。山科社長の要望対応で カスタマイズしました。会社の中では『コミュ ラック』を全社員使っています」  「それって、データの履歴はどのようになって いるんですか?」  「コミュラックは、グラウト型のツールで、 データのバックアップは、サーバー側で暗号化 された情報にしてとられています。ただ、山科 さんのカスタマイズのシークレットモードと言 われる機能は、データの履歴もとられないよう に改造しています」  「そうですか。じゃ、シークレットモードだと 残らないんですね」  美由紀は、そのバックアップのデータがあれ ば、分析して山科のやり取りが履歴情報として 取れるのではないかと期待していた。しかし、 履歴が残されてないのでは仕方がないとがっか りした。  すると、飯島が思いついたように。  「あっ。シークレットモードのデータについて ですが、履歴をとらなくするためには、設定 モードでのスイッチをONにする必要がありま す。ただ、カスタマイズされて間もないことも あり、不測の事態に備えて現在はOFFの状態 のはずです。だから、今は、履歴が取られてい るはずです。通常のバックアップとは違う場所 で管理するようにしています。山科さんがON に設定してなければの話ですが。データも暗号 化されており解読にはツールが必要になります。 その暗号化と解読ツールは、私と大島が開発し ました」  美由紀は、ガッツポーズをした。  「それだ。そのデータをダウンロードできます よね」  「はい。R&Vテクノロジー社のグラウトサー バーに保存されているはずです」  「わかりました。まず、設定がOFFになって いるかを確認して連絡をもらえませんか? 飯 島さんは、今の開発を進めてもらって、プロト タイプからリリースできるシステムの開発をお 願いします」  「ありがとうございます。リリース向けのシス テムは、AIエンジンの問題解決待ちで他の部 分は、開発が進んでますので、すぐに完了する と思います。あとは、動作確認やデータ確認に 時間が必要となります」  「それでは、システムが完成して基本動作が確 認終了した段階で、山科さんに報告してくださ い。多分山科さんのことだから、そのシステム のプレスリリースとデモンストレーションに動 いてくるはずです」  「葛城さん、その通りです。すでにスケジュー ルが組まれており、そのための納期で私も八方 塞がりの状態だったんです」  美由紀は、飯島と別れて、いつもの地下の 「Uベース」で河村と大島に会うことにした。  河村と大島に飯島とのことを話した。  「飯島さんには、全面協力の返事をもらいまし た。それで、大島さんにお願いがあります。一 つは、問題解決したプログラムの提供ですが、 利用にあたって、セキュリティの設定をお願い できないですか? IDとパスワードの認証を 入れて頂き、期間限定で飯島さんの利用を可能 にして欲しいんです。それで、あちらが本稼働 するためには改めてセキュリティ情報の発行が 必要にして欲しいんです。それで、先方に大き な使用制限を与えられます。もう一つは、シー タレットデータの部分をデコードして頂き、山 科さんの外部とのやり取りの履歴を復活して欲 しいんです。多分ですが、若林秘書やその他の 陰謀のやりとりが明確になると思います。河村 さん、如何ですか?」  「驚いたね。そんなことを考えていたんだ。ま あ、データが残っていたのなら何らかの情報は 取れるでしようね。この間の話のように、証拠 となるには不正な獲得と判断されかねないです よ」  「はい、わかっています。私の考えでは、その 事実を山科さんのほうに突きつけるだけで十分 だと思っています。ネットニュースやSNSへ の開示を提示すれば、先方も無視はできないは ずです。また、加藤と坂本さんから怪しい振込 の履歴をピックアップしてもらっています。こ れらがシークレットになった情報と一致すれば、 状況証拠として十分です」  河村は、美由紀の提案に、頷きながら、  「わかった。とりあえず葛城さんの提案通りに 進めてみよう。大島君七大丈夫かな」  「社長がそういわれるのでしたら、大丈夫です。 解析もツールがあるので、すぐにデータのピッ クアップができると思います」  それで、美由紀は、河村と大島に、飯島のリ リース版の暫定モデルの完成後に、山科がプレ スリリースを行うはずなので、その時の段取り を話した。飯島もその時に真実を話すように 言ってある。 その段取りと話を聞いて、河村は納得した。お そらくこのことで山科は失脚することになるか もしれない。しかし、そうなると「FTMシス テムテクノロジー」の社員やそのクライアント への問題も出てくるだろう。その辺りも考慮す る必要があると考えていた。  「葛城さん、すべての情報が集まったところで、 私に報告をもらえないだろうか? 益田さんの こともあるしわが社の問題のことでもあるけど、 その真実を公開することだけが正義ではないと 私は思うんですよ。もしそれが自分たちの解決 になっても他に影響がある様であれば、そのこ とも考えて行動に起こす必要があると。私も検 討するので、先走ることのないようにお願いし たいのだけれど。いいですか?」  美由紀は、河村の言葉に、気づかされた。た しかに自分たちの問題の解決ばかりでいた。  「河村さん、わかりました。おつしやる通りだ と思います。いろいろとわかったら、河村さん にお預けします」  「ありがとう葛城さん、あなたの行動力と観察 力には脱帽ですよ。いろいろと配慮もしてくれ て嬉しいです。まずは、情報を集めてみて考え ましよう。もちろんみんなの意見も聞いて決定 したいと思います」 **   **   **  三日後に、大島のプログラムの改造が終わっ た。飯島へ提供するプログラムである。美由紀 経由で、飯島に連絡があった。  飯島は、覚悟を決めて、R&Vテクノロジー 社を訪れた。  会議室で河村と大島を待った。そして、二人 が会議室に入ると。  「社長、大島さん、申し訳ございませんでした。 弁解のしようもございません」  飯島が詫びの挨拶をすると。  「飯島君、葛城さんから話は聞いたよ。また音 声データも確認させてもらった。たしかに山科 さんに巧みに誘導された様だね。でも、行動し たのは君の責任だ。今回の件は、自分も残念で ならない。大島さんもひどくショックだったと 思うよ」  「飯島君、はっきりいって情けないです。ただ、 私も音声データを聞きました。あなたの心の隙 間に山科社長が入り込んだ様子はわかります。 でも社長の言うように、やっだのは飯島君だか らね。でも、葛城さんや佐藤さんの話を聞いて、 彼女たちの気持ちも理解できたので今回は、残 念な気持ちも腹立たしさも自分の胸にしまうこ とにした」   二人の言葉に、飯島も涙を流して聞いていた。  「飯島君、それで、今回の件は葛城さんに任せ ることにしたので、問題修正のプログラムを提 供することにするから、大島さんと調整して利 用してくれていいよ。ただし、制限があること は理解して欲しい」  「もちろんです。大島さん、申し訳ない。あり がとう」  飯島は、大島から修正されたプログラムとそ の仕様を受け取った。 第9章 それぞれの正義  河村、大島、美由紀の三人の打合せから一か 月ほど過ぎた。  「FTMシステムテクノロジー」社からの振込 の情報を入手できた。その振込先の会社の調査 も行うと、やはり怪しい振込先であることが判 明した。そのうちの一社は山科の妻が代表を務 める会社にも振込が実行されていた。  それらの振込は一か月に複数に渡って行われ ていた。また、大島のほうで、デコードされた 山科のメッセージ通信には、若林秘書や「NG コンサルティングジャパン」(益田の前会社) の佐々木取締役とのやり取りも見つかった。 メッセージの日時も振込と同期しており振込の 連絡も行われている。  飯島のほうは、提供されたプログラムを使っ て、システムの構築を進められた。問題修正の 仕様には、その原因と分析結果、解決した考察 まで丁寧な情報が提供された。それは、大島が 飯島のことを考えて渡したものだった。飯島は、 河村と大島に感謝の気持ちに応えるためにも、 葛城美由紀の指示に従って結果を出したいと 思った。  提供を受けて一か月ほどで、リリース版のプ ロトタイプは完成した。動作確認もほぼ終了し たところで、山科へ報告を行った。  「社長、リリース版のプロトタイプが完成しま した。基本動作検証までは終わっております。 あとは、本番用データでの確認が必要となりま す」  山科は、その報告ににっこり笑いながら、  「飯島君、できるじやない。厳しいことを随分 言っだけど、できると思ったから辛くあたった んだよ。それでは、プレスリリースの準備を本 格的に始めよう」  「社長、その件でご提案があります。一般公開 の前に社内のお披露目をされませんか? 一般 公開の場合に、企業データがある程度必要です。 データが多いほうが公開した時にいろいろな業 種に対応できるところをお見せできると思いま す。そのほうがインパクトが強いです。また、 社内発表で社内も盛り上がると思います。取締 役のみなさんや社員向けに行ったらどうかと思 うのですが如何でしょうか?」  「なるほど、たしかに君の言う通りかもしれな い。各業種のデータで公開したほうがデモンス トレーションでも効果が大きいな」  山科は、すぐに総務に連絡して、社内公開の 手配を指示した。社内公開には、社外取締役や 会社の出資者も招待されることになった。また、 福田代議士秘書の若林も招待された。山科の会 社の実績を誇示する意図が明らかたった。  会場も、社内ではなく一般公開に利用する予 定のホテルの会議室を使うことになった。一般 公開の予行演習との思惑があってのことだ。  実は、この会場も美由紀が加藤を通じて、総 務部に情報を提供したものだった。社外で行う ことに意味があったのだ。この社内向けのリ リース発表も河村と美由紀で相談して決めたこ とたった。  山科の会社内部での不正を公開して、社外や クライアントの方々への影響を小さくすること が目的だった。社内発表でも、会社の幹部や社 員が参加しての発表であれば、山科の信用問題 を提起することになるだろう。その後は、会社 の問題となる。福田代議士秘書の若林の件も考 慮した判断たった。  それから一週間後に社内向けリリース発表が 行われた。この囗までに、飯島は、さまざまな 業種のデータを登録して、システムの基本稼働 の部分を念入りにチェックしてきた。  会場には「FTMシステムテクノロジー」社 の社内取締役、社外取締役、各部署の課長職以 上、若林秘書、それとなんと「NGコンサル ティングジャパン」の佐々木取締役も参加して いた。そして葛城美由紀も開発メンバーの加藤 が所属するチームの代表として参加した。  いよいよ発表が始まった。  山科の長い挨拶が終わると、いよいよデモン ストレーションの時間となった。担当の飯島は、 会場の全面の大スクリーンにシステムの画面を 表示させた。  そして、飯島の説明で、新システムのデモン ストレーションとこれが企業間の連携や新しい 顧客開拓の基地となる環境となることを発表し た。  みんなが、拍手で飯島の発表を称えた。  するとここで、飯島が話し始めた。  「本日は、みな様にご参加頂き、ありがとうご ざいます。私七大変光栄に思っております。こ こで、みな様にお伝えしなければならないこと があります」  会場がざわつき始めた。山科も何を言い出す のかと険しい表情となった。  「実は、本システムは、私だけの成果で作り上 げたものではありません。もちろん開発チーム 全員の努力とその基本設計及び収益モデルなど 多くのノウ(ウをご提供頂いた『NGコンサル ティングジャパン』様のお力がとても大きいと いうことです。本日は、佐々木取締役もご列席 頂いている様です。心よりお礼申し上げます」  佐々木は、なぜ自分の名前が呼ばれるのかと 思い、山科のほうを睨んだ。飯島は、話をつづ けた。  「そして、最も力を貸して頂いたのは」  少し問を置いて、  「『R&Vテクノロジー』社様です。河村社長 はじめ開発リーダーの大島様にも大変なご協力 を頂きました。『R&Vテクノロジー』社のA Iエンジンが無ければ実現できませんでした。 最後の最後でどうしても問題解決ができなかっ た部分をお助け頂きました。心より感謝とお詫 びを申し上げます。実は、このシステムのAI エンジンは、元々『R&Vテクノロジー』社様 で開発したものです。その時の開発者は、大島 様と私です。今回のシステムにあたり、私は、 山科社長から引き抜きを受けました。そして、 その時にシステムの情報とプログラムを持ち出 すように言われたのです。しかし、その後問題 が発見されたのですが、私の力では解決できま せんでした。それで『R&Vテクノロジー』社 様にお力添えを頂きました。本来なら訴えられ ることをしながら河村社長からお救い頂きまし た」  山科は、立ち上がり、真っ赤な顔で、 「飯島、何を言うんだ。何考えているんだ」  飯島は、山科の発言を制して話し続けた。 「みな様には、この場をお借りして真実の報告 をさせて頂きたく、この時間を拝借しました」  すると、会場は騒然となり、取締役たちも騒 ぎだした。  大騒ぎとなる中、葛城美由紀が壇上に上がっ た。  「みな様ご静粛にお願いします。今から大事な お話をさせて頂きます。私は、開発メンバーの 加藤が所属するグループの代表で葛城美由紀と 申します」  「まずは、この音声をお聞きください」  会場に、山科が飯島を誘った時の会話が流れ た。そして、前の巨大スクリーンに映像が映し 出された。それは、山科と若林、そして「NG コンサルティングジャパン」の佐々木取締役と のやり取りが行われたメッセージだった。会場 は、静まり帰った。  「次にこれをご覧ください」  そこには「FTMシステムテクノロジー」社 から振込が実行された履歴情報とその振込先の 情報が表示された。  「この振込は、月に何回も、こちらの会社宛て に発生しており、総額すると数千万単位の金額 となります。そして、振込先の会社は、若林秘 書の奥様の経営する会社、佐々木取締役の奥様 が代表となられている法人、さらには、山科社 長が代表をされている団体でした。名目は、デ ザイン開発料、システム開発料、コンサルティ ング料となっております。これは、どう考えて もおかしいのではないでしょうか?」  山科は、経理課長篠原をにらみつけて、  「これはどういうことだ。篠原!」  篠原課長は驚いてあたふたしている。  「ちょっと待て、だいたい葛城さん。何を言い 出すんですか? まるで私か犯罪をした様な言 いぐさだ。だいたい、飯島を引き抜いたのは技 術力があると判断したからだ。どこでもよくあ る話じゃないか? プログラムや情報の持ち出 しは、飯島が勝手にやったことだ。その音声 データもフェイクじゃないのか? 俺は知らん。 振込については、ちゃんと名目通りに仕事を依 頼した対価として払ったもんだ」  「それに、メッセージの情報はツールのシーク レットモードという履歴の残らないシステムの はずだ。このメッセージも偽装したのではない か」  すると飯島が。  「社長、それはおかしい。この時期にこのよう な大きな発注は、今回のシステム開発しかあり えないです。私は開発チームのリーダーです。 この様な発注はありえない。しかも月に何度も 繰り返されること自体がおかしすぎます。それ にシークレットモードにはそれを有効にする設 定が用意されています。現在は、運用したばか りでリスクを考えて履歴削除しないようにして います。まさか、この様な使い方をされるとは 私も想定してませんでしたが」  山科は、飯島の話を聞いて、目を見開き驚い た表情になった。  ここで、会議室のドアが開いて一人の男性が 入ってきた。益田昌也たった。  佐々木は、昌也の顔を見ると、驚きと同時に 混乱している表情たった。  「なんで、ここに益田君がいるんだ」  益田は、そのまま壇上に上がり、美由紀から マイクを受け取った。  「みな様、大変失礼します。私は以前『NGコ ンサルティングジャパン』チーフコンサルタン トをしていました益田と申します。このシステ ムの設計者でもあります」  「そして、途中で不当な理由で山科さんから契 約を切られ、会社の佐々木取締役からも見放さ れました。私は、会社への不信感を抱き、会社 を辞めました。そして、ご縁を頂き『R&Vテ クノロジー』に入社しました。すると、葛城さ んのお話にあった事実を知りました。佐々木取 締役。最初から決まっていたんですね。私たち のスキルと経験を金で売ってそれを自分の懐に 入れたということですね」  佐々木は、証拠が挙かつている以上、逃れら れないと思い、項垂れるしかなかった。  美由紀は、またマイクをもらうと、  「福田経済産業省政務官の秘書の若林さんも同 席されています。若林さん、これはどう説明さ れるのでしょうか? 福田先生もご存知のこと だと解釈して宜しいんでしようか?」  若林は、震えながら、  「先生は、何もご存知ない。私か勝手にやった ことだ。山科さんが絶対上手く行くからいい思 いをしてくださいと言うので、つい魔が差した んだ。頼む、先生には言わないでくれ」  会場が騒然となる中、山科は観念したように 項垂れていた。  「みなさん、お静かにお願いします。これが、 実際に行われたことです。これには、大きな被 害を受けたかたがたくさんいます。特にR&V テクノロジー社の河村社長は、とても心を痛め ていらつしやいました。また、益田さんも信頼 していた自分の会社の上司がこの様な企みに加 担していたとは思わなかったでしょう。彼は、 退職して福岡で再出発をされました。そしてす でに成功への道を歩まれています」  「本日、お見せした情報は、隠蔽した情報や データから仲間が引き出してきたものです。 ひょっとしたら刑事事件の証拠にはならないか もしれません。ただ、今この状況も動画録画し ております。これらは、みなさんの対応によっ ては、ネットニュースとSNSへの投稿も辞さ ない覚悟です。警察の依頼があれば、すべての 情報を開示しお渡しします」  すると山科が今度は、亘]つ青な顔になり、  「やめてくれ、それだけは勘弁してくれ。うち の会社の人間は誰も悪くないんだ。俺だけが悪 いんだ。クライアントにも大きな迷惑が掛かる。 ここにいる社外取締役のみな様にも申し訳が立 だない」  すると、社外取締役の山村聡一郎が山科のと ころまで歩いていった。彼は、福岡の大手不動 産会社を経営し山科の会社の出資者でもある。  「山科さん、がっかりだ。これはどういうこと だ。ふさげるのもいい加減にしてくれ。俺はお 宅から手を引くよ。多分他の出資者も同じだと 思う。この会社もダメだよ」  その時たった。会議室のドアが開き、一人の 男が入って来た。「河村祐二」たった。  会場は、鎮まり返った。河村は、壇上に上が ると、  「みなさん、一旦着席頂いてよろしいです か?」  山科は、まさかの河村の登場に、おどおどし ていた。  「R&Vテクノロジーの河村です。少しお話を させて頂きたく参りました」  みんなは、河村に注目をして次の言葉を待っ た。  「今回の一連のことは、葛城さんがお話になら れたことに私も間違いはないと思います。山科 さん、そうですよね」  山科は、頷いた。とても河村の顔は見られな いという感じだった。  「取締役のみな様のお気持ちも察します。また、 『FTMシステムテクノロジー』のみな様やそ のクライアントのみな様もこんなことが起きて どうしていいか迷われると思います。そこで、 このあと始末は、この河村に任せて頂けないで しょうか?」  山科は、河村が何を言い出すかと不安で河村 を見上げた。  「まず、このシステムは弊社が継続して対応さ せて頂きます。飯島君にも開発責任があるので 弊社に戻ってきてもらいます。クライアントの みな様にはこのことは公開しません。ここには、 会社の管理職の方だけだと聞いておりますので、 社内にも情報公開はしないでください。そして、 山科さんには、申し訳ないが辞職してもらいま す。代わりに、専務の木村さんに代表について もらい会社の再建をお願いしてはどうかと思い ます。従来の業務を基本とされクライアントの 方々に真摯に向き合い業務遂行をお願いできれ ばと思います」  木村は、河村に深く頭を下げた。  「取締役の方もこれなら問題ないのではないで すか? そして、若林さんについては、申し訳 ないが何も報告しないわけにはいかないと思い ます。そういうお立場だと思いますよ。これは、 福田先生に報告をさせてもらいます。そのあと は、福田先生と若林さんでお話になってくださ い。もちろん、もらったお金は、全額会社に戻 して頂くことが条件です。そして、佐々木取締 役については、私も悩みましたが、益田さんが 弊社に就社して頂いた時に、一連の話をお聞き しています。彼も、彼の友人の中井さんもそし て、彼を応援しているたくさんの人も納得して 頂く形にする必要がある。それで、私のほうか ら『NGコンサルティングジャパン』の梶原社 長にお話をさせて頂きます。梶原さんとは、私 も何度かお会いして食事もした仲なので、お話 を聞いてもらえると思います。それで、あとは 梶原さんにご判断を任せます。それでよろしい ですか? 佐々木さん、もし、誠意を見せて頂 けるなら、ここに益田さんがいらっしゃいます ので、謝罪をして頂けないですか?」  佐々木もがっくり椅子から崩れ落ちた。そし て、益田のところまで這って行き、益田に土下 座をしながら謝った。  昌也も涙を流していた。そして、すぐに佐々 木の腕をとり椅子に座らせた。  その様子を会議室の後ろから修一は見ていた。 彼も涙を流していた。  壇上では、美由紀七飯島も涙を流していた。  **   **   **  一連の事件は、河村の英断により、解決に 至った。この社内発表も一般公開の場で行うこ とで会社やクライアントへの不安や不信感を与 えかねないためにクローズしたところで行うよ うに、河村が提案したものだった。  そして、その対応も今、大島や修一や昌也の 案件を持ちながら対応を受けられないと判断し て、飯島を戻す案を出した。大島もこれまでの 背景を理解してくれて受け入れを承諾した。  福田代議士の秘書の若林は、更迭されたよう だ。また「NGコンサルティングジャパン」の 佐々木取締役は、社長の梶原の判断により降格 となり北関東支店へ左遷された様だ。  R&Vテクノロジーでは、新しいAIエンジ ンの開発とサブAIエンジンの開発が終了し、 大々的に公開発表が行われた。業界では、大注 目となり、そのエンジンを使った飯島のシステ ムも地域活性への大きな貢献を果たすシステム として注目を浴びた。  そして、河村は新しいAIツールの展開と要 望対応を行うために新しいサポートの会社R& Vコンサルティングを設立した。その会社では、 ツール利用の推進や登録企業のコンサルティン グを行い地域経済と企業発展へ貢献することを 行う。そして代表取締役に「益田昌也」を指名 した。  R&Vテクノロジー社は、開発部長に「中井 修ご副部長に「大島さゆり」が就任すること になった。  葛城美由紀は、一連の開発終了で契約終了と なった。  現在は、新たなデザインの仕事の受注を行い、 中井さつきと一緒に生成AIを使った新しいデ ザインモデルのサンプルを作っていた。一般公 開していく予定で進めている。  美由紀の人のつながりはどんどん広かつてい く様で、彼女も以前お世話になった「佐倉 徹」とも連携して、あらだなコミュニティを進 めるように考えながら、パソコンに向かってい た。 おわり プロフィール 七` 仲島 周兵 宮崎県宮崎市出身 ビジネスを目的とした経営者のコミュニティの 運営企画会社代表 地元国立大学卒業後、大手システム会社にシス テムエンジニアとして就職。 福岡の大手電機メーカーのソフト開発部門へ転 職 その後フリーランスのエンジニアとして独立 地元企業の経営戦略室室長経験後に関連会社の コミュニティ運営会社代表へ就任 小説を読む事が好きで、色々な本を読む中で話 の展開を自分なりに展開させてみることに興味 をもつようになる 中高時代に小説家に憧れていたこともあり、自 分なりの表現をショートストーリーを幾つか書 く中で、杰Xむ冖冖出版をアドバイスされている 方との出会いがあり、背中を押して頂いて今回 の出版へ繋がった。 これまでに多くの開発や経営の経験をして、現 在のコミュニティの運営で多くの経営者との 交流を行っている。 私たちの仕事や生活の中には大小さまざまな出 来事が起きている。そんな日々の中での事件か ら生まれるストーリーを拾い上げて、解決から 得られるものを新たなストーリーとして作り上 げて行くことで何か伝わるものを書いて行きた いと考えている。 facebook : https://www.facebook.comynakashim χ : https://x.com/sanpe广chan instagram : httpsミw ww.instagram.com/sanpeicha/ それぞれの正義 2025年3月発行 初版 著者一仲島周兵 noPyright(C) 202S仲島周兵と1 Rights Reserved. 本書の無断複写(コピー)は著作権法上での例 外を除き、禁じられています。 それぞれの正義 2025年3月発行 初版 著者一仲島周兵 noPyright(C) 202S仲島周兵と1 Rights Reserved. 本書の無断複写(コピー)は著作権法上での例 外を除き、禁じられています。 それぞれの正義 2025年3月発行 初版 著者一仲島周兵 noPyright(C) 202S仲島周兵と1 Rights Reserved. 本書の無断複写(コピー)は著作権法上での例 外を除き、禁じられています。 それぞれの正義 2025年3月発行 初版 著者一仲島周兵 noPyright(C) 202S仲島周兵と1 Rights Reserved. 本書の無断複写(コピー)は著作権法上での例 外を除き、禁じられています。 それぞれの正義 2025年3月発行 初版 著者一仲島周兵 noPyright(C) 202S仲島周兵と1 Rights Reserved. 本書の無断複写(コピー)は著作権法上での例 外を除き、禁じられています。 それぞれの正義 2025年3月発行 初版 著者一仲島周兵 noPyright(C) 202S仲島周兵と1 Rights Reserved. 本書の無断複写(コピー)は著作権法上での例 外を除き、禁じられています。 それぞれの正義 2025年3月発行 初版 著者一仲島周兵 noPyright(C) 202S仲島周兵と1 Rights Reserved. 本書の無断複写(コピー)は著作権法上での例 外を除き、禁じられています。 それぞれの正義 2025年3月発行 初版 著者一仲島周兵 noPyright(C) 202S仲島周兵と1 Rights Reserved. 本書の無断複写(コピー)は著作権法上での例 外を除き、禁じられています。 それぞれの正義 2025年3月発行 初版 著者一仲島周兵 noPyright(C) 202S仲島周兵と1 Rights Reserved. 本書の無断複写(コピー)は著作権法上での例 外を除き、禁じられています。