めんどくさがりの自分を予定通りに動かす科学的方法_竹内康二 まえがき  自分を予定通りに動かすことができたら、どん なにいいでしょう。  「やらなければならない」とわかっているのに、 始められない。  どうしても頑張ることができず、後回しにして しまう。  ギリギリにならないと動き出せない人は、心も 体も追いつめられてつらくなります。  仕事などでは、期限を守れなかったら、人から の信頼を失ったり、自分をダメな人間だと思い悩 んだり、自己嫌悪に陥るものです。  周りの人は、仕事や勉強、健康に関して、ゴツ ゴツ行動して、成長したり、成果を出しているの に、なぜ自分にはできないのか……。  「自分の行動が思い通りにならない」という問題 は、私たちを深刻に悩ませ、消耗させます。  本書は、「なぜ、望まない結果が訪れるとわ かっているのに、必要な行動を優先的に行なえな いのか」という、多くの人が抱える問題に立ち向 かいます。  人間が生まれながらに持っている「行動の原理 原則」を知り、受け入れて、利用してしまえば、 行動の改善は案外簡単です。  行動科学に基づいた「すぐやる」「後回しにし ない」ためのシンプルな技術を使えば、今よりも 「自分を予定通りに動かす」ことが可能です。  目標達成、自分の時間の確保、心の余裕……。 もっと人生が生きやすくなります。 ●意志の力に頼って、今まで何か行動が  改善されたことがありますか?  試験が迫っているのに、勉強が手につかない。  重要な仕事を任されてうれしいのに、なぜか気 が乗らない。  脱いだ服がそのまま床に放置されている。  明日洗濯しようと毎日思っているけど、I週間 も洗濯していない。  キッチンに汚れた食器が2日分溜まっている。  自動車のオイルを交換する時期だが、そのまま にしている。  家族の誕生日が迫っていて、プレゼントは決 まっているのに、まだ買っていない。  親にそのうち電話すると言っだのに、半年電話 していない。  病院に行くための有給休暇の申請をまだしてい ない。  出張の予定は決まっているのに、新幹線の席や ホテルの予約をしていない。  先週の仕事の報告書が提出できていないままに なっている。  部下が提出した書類の問題点を指摘するのが気 まずくて、後回しにしている。  大事な商談なのに、相手との打ち合わせの日程 調整を先延ばしにしている。  やる気満々で入会したスポーツジムなのに、2 ヵ月以上行っていない。  私か耳にしたり、相談されたことのある「行動 の悩み」をちょっと思い出して書いてみましたが、 こんなにたくさんあります。  この世には、もっとたくさんの「すぐ取り掛か れない」「後回しにしてしまう」問題が存在して いることでしょう。  人は、自分で予定を立てても、その通りに動け ないものです。  ひとつ後回しにするだけ……。でも、気づくと、 いくつもの物事が積み重なり、身動きが取れなく なり、あなたの人生はむしばまれて悲惨な結果を 招きます。  自分は、めんどくさがりやだ、ズボラだ、グズ だ……。決めたことをしっかりこなせないと、こ う自分を決めつけてしまう気持ちはわかります。  しかし、この決めつけは、行動できない原因を 「心」や「性格」のせいにしてしまい、あなたを 思考停止させてしまいます。しかたがないとあき らめると、行動の改善はできません。  精神力のようなあいまいな力に頼って、今まで うまくいったことがありますか? 行動力を高め るには、もっと違う方法が必要です。 ●85年の研究成果。実践的で即効性ア  リー 行動科学ならすぐやれる!  本書でご紹介していく行動分析学では、予定通 りに行動が起こせない原因を「本人の意志の力に 求めない」という特徴があります。  意志の弱さを行動できない原因にしてしまうと、 対策は「強い意志を持つこと」というあいまいな ものになってしまいます。これでは、具体的で持 続可能な対策はできません。  さらに、予定通りに動けないことを「意志が弱 い」と評価してしまうと、自分を精神的に追い込 むことになってしまいます。  予定通りに行動を起こせないのは「本人を取り 巻く環境に原因」がある。  周りの人、場所、時間などの「環境を調整する 技術」があれば、多くの行動をコントロールでき る。このように、行動分析学は考えます。  行動分析学は行動科学の一分野であり、「行動 を予測し、コントロールすること」を目的とした 学問です。  そして、その技術を開発する研究を約85年にわ たって蓄積させてきました。  行動分析学は、アメリカの心理学者B・F・ス キナーが創始した学問です。1938年にスキ ナーが出版した『個体の行動一実験的分析 (H冫りぴり冫p!.Or of organisms: An experimental analys邑』を研究の起点にすることができます。  そして、最大の特徴は、”即効性にこだわり、 実行の(Iドルを最小限に下げた”行動力を高め る技術であることです。  この技術をあなたに身につけていただきます。 ●手につかない、気が乗らない……、後  回しグセを一発解決  手につかない、気が乗らない……。私たちは、 すぐやる、後同しにしない、という社会人として の基本となることがなかなかできません。  では、集中力をみなぎらせ、脇目もふらずに課 題に没頭する、物事を途中で放り出すなどみじん も思わない状態をつくり出すには、どうすればい いのでしょうか。  自分を変えて、日々の仕事や勉強、健康に関す る課題にすぐ取り掛かり、やり遂げる。うしろめ たさを感じずに胸を張って、趣味などのプライ ベートを楽しむにはどうすればいいのでしょうか。  「行動できない」という問題には、丸腰で立ち向 かっても太刀打ちできません。「行動分析学」と いう、データに基づいた実践的な武器を持って立 ち向かいましょう。  そして、予定通りに行動し、期限内に成果を出 しましょう。  今では、他者から監視されない環境でのリモー トワークが増えたことで、自分で時間や仕事の管 理も行なわなければならなくなりました。  予定通りに自分を動かすことができなければ、 今後の社会の変化に適応することも難しくなるで しょう。 ●現場経験と指導経験を活かした「行動  力を高める」スキル  私は、学校や企業で、一般的な対応では改善が 難しい、行動上の問題に対して、行動分析学に基 づいた方法で解決を試みる仕事を行なっています。 現場で使える行動の技術を日々考え抜いてきまし た。  また、大学で生徒たちに行動分析学を教えると いう役目も担っています。わかりやすく理解して もらうことを心がけてきました。  「現場での実践」「わかりやすく理解してもらう」、 この2点を重視しながら本書を執筆しました。  行動科学に基づいた方法は強力な効果がありま す。役立つ情報だと思いますので、おつき合いい ただければ幸いです。まずは、第1章を読んでみ てください。                  竹内康二  「すぐやる」ための行動科学←  あなたが、重要な仕事を任されたときのことを、 想像してみてください。  期限はまだまだ先なので、あなたは余裕をかま しています。少しずつ作業を進めれば、いい仕事 ができそうだと悠長に思っています。  あなたは、雑事を終わらせておけば、この重要 な仕事により集中できるだろうと考えました。ど うでもいい雑事に取り掛かり、なかなか重要な仕 事に手をつけません。  時折、手をつけようとしますが、どうにも気分 が乗らず、時間ばかりが過ぎていきます。そうこ うしているうちに、期限が近づいてきました。  いよいよあなたは、本腰を入れて仕事に取り掛 かろうとします。しかし、気が進みません。作業 に弾みがつきません。  どうにかこうにか集中力を奮い起こして仕事を 始めても、些細なことで気が散り、全然はかどり ません。  もっと時間がたっぷりある日にやろうと考えて、 今日は仕事をやめました。他の仕事をしなくてい い日に、一気に進めようと計画します。  しかし、その日の朝がきましたが気が進みませ ん。そうじをして気持ちを切り替えようとします が、終わるとお腹が減って集中できそうにないこ とに気がつきます。  そこで、ご飯を食べてから一気に仕事を片づけ ようと計画しますが、気が進みません。  こんな、先延ばしのパターンを繰り返してしま う人は驚くほど多いのです。  そもそも自分で希望して就職した会社の仕事な ので、やりたくないわけではないはずです。それ なのに、なぜか手が進まない。  これまでの努力が評価されて、重要な仕事を任 されたこともわかっているし、その期待に応えた い気持ちがあるにもかかわらず、先延ばしする 目I*……。  やりたいのにやれない自分−。  「どうせやらなければならない」とわかっていて も、ギリギリまで取り掛かれない自分−。  どうしてこうなるのでしょうか?  そんな、思い通りにならない自分を、「心理学」 の力、具体的には「行動科学」の力、もっと具体 的には「応用行動分析学」の力を使って変えるの が、本書の目的です。  応用行動分析学に基づいて、「行動を起こすた め、または、行動をやめるための対策を考える」 ということです。  私たちは、社会生活で様々な問題に苦悩し、対 処しています。問題の多くは「自分の行動が、思 い通りにならない」ことに起因しているのではな いでしょうか。  多くの人が「すぐに取り掛かれない」「先延ば ししてしまう」ことで、多くの問題を抱えてし まっています。  私たちは、「行動についての科学的な知識を深 め、思い通りに動けない自分に対処する技術」を 身につける必要があります。  行動分析学に基づいたスキルがあれば、ずいぶ ん生きやすくなります。 特に、予定通りに動けない3つ のこと←  予定通りに行動が起こせず、先延ばしが起きや すいことの代表は、仕事に加えて、勉強、健康で す。  もちろん他にも様々な領域で先延ばしが起こり ますが、これらの領域では先延ばしが顕著です。  必要なことなのに……。重要なことなのに……。 なぜか、手をつけられずに放置されてしまいます。 重要な仕事も、資格試験の勉強も、ダイエットも 後回しになってしまいます。  なぜでしょうか?  たとえば、卒業論文のような自由度のある課題 は特に始めにくいものです。  書き上げなければ卒業できないことは百も承知。 さっさと終わらせて、スッキリしたいと思うもの の始められない……。  締め切りが近づいて、周りの同級生の作業が進 み、指導教員が叱咤激励してくるまで、なぜか始 める気になれない……。  なぜでしょうか?  健康に関しては、スポーツジムが典型例でしょ う。ダイエットしたいけど、食事制限はしたくな い。そこで、ジムに入会します。  どこに入会するか検討しているときは、毎日の ように通うことを想定して、優れた施設のジムを 選びます。しかし、入会してしまうと思ったほど 通いません。数力月もすると、ほとんど行かなく なってしまいます。  あるスポーツジムのオーナーは、こんなことを 言っていました。  「ジムが儲かるのは、入会した人の多くが利用し ないからです。ほとんど利用しないのに、お金だ けは毎月払ってくれる大ばかりでありかたいで す」  行きたい気持ちがないわけではないのに、なぜ か利用頻度は上がりません。  なぜでしょうか?  「どうすれば、やる気が出るの か?」と考えるのはムダ←  仕事や勉強や健康に関する行動は、やらないま ま放置していて、いいことはありません。場合に よっては、大変まずい結果をまねきます。  仕事の納期を守らなければ、損害が発生して信 用を失います。社会的立場が危うくなり、精神的 にも追い込まれることでしょう。  勉強しなければ、必要な資格や学位は取れませ ん。そこまでに投資した時間やお金や労力も、成 果と結びつかすにムダになってしまいます。  改めて言うまでもありませんが、健康診断の数 値が悪かった場合、そのまま放置すると様々な病 気に発展するリスクがあります。高血圧や腎疾患、 肝機能障害など、場合によっては、完全な治癒が 見込めない状態となり、大変に不便な生活を送る ことになるかもしれません。  健康診断によって明確な数値が示され、改善す る方法も世にあふれていてわかっているのに、手 を打たず放置してしまう。  「そのうちやる」「いつかやる」とは思っていま すが、”そのうち”も”いつか”もなかなかやっ てきません。  先延ばしをする自分について、多くの人はどの ように分析するでしょうか。  「自分はダメだ」とか、「気持ちが弱い」とか、 「結局やる気がない」とか、自分を責める原因を 見つける人が多いのではないでしょうか。  そうした考えは反省を促し、次の行動に活かさ れるような幻想を抱かせますが、多くの場合、行 動の改善にはつながりません。  「やる気がない」というような分析をしてしまう と、先延ばしのドツボに(マります。  なぜ、「やる気がない」と判断できたのでしょ  それは、実際に行動を起こさなかったからです。 行動を起こしていないという結果を見て、「やる 気がない」と判断しているだけです。  逆に、バリバリと仕事をこなしながら「やる気 がないなあ」と思う人はいないでしょう。  「行動できているときはやる気があり、行動でき ていないときはやる気がない」という分析は、行 動の改善にはなんの役にも立ちません。  仕事、勉強、健康……、より良くなるための行 動を起こすための。強い動機”は、すでに誰もが 持っています。必要だと感じ、取り組みたいと 思っているのです。  つまり、「やる気があるのに、なぜやらないの か?」を考えるべきであって、「どうやったら、 やる気が出るのか」を考えることに意義はありま せん。 行動できないループに(マらな いために←  重要だとわかっているのに先延ばしにして、他 のことばかりやってしまうのは、なぜなのでしよ  人間は「動機もやる気もあるのに、行動が起こ せないメカニズム」を持っているのです。  間違っても、「自分がやれないのはやる気がな いからで、やる気を出すにはどうすればいいの か」などと考えないでください。  すでにあるやる気をないことにして、やる気を 回復させる方法について悩むことに意味はありま せん。  すでに今存在しているやる気を。行動に結び付 ける方法”を考えることが大切です。  「やる気がない」という分析をすることを「循環 論」と言います。  循環論とは、説明が説明になっていないような 説明を繰り返してしまう現象のことです。  たとえば、「どうして、やるべきことをやらな いのですか?」(問I)という問いに対して、「や る気がないから」と答えたとします。  さらに、「どうして、やる気がないとわかるの ですか?」(問2)と問われ「やるべきことを やっていないから」と答えます。  この場合の「やる気がない」は、行動できない 原因の説明になっていないのです。  結局、「どうして、やるべきことをやらないの ですか?」という問いに対して、「やる気がない」 を経由して、「やるべきことをやっていないから」 と答えているだけなのです。 先延ばしを解決するポイント←  予定通りに動けない自分を、「やる気がない」 と自己否定をしても意味がありません。  先延ばしを解決するには、自分のいつもの行動 パターンを冷静に観察する必要があります。 ・先延ばしとは、いったいどのような現象なの  か? ・やるべきことをせず、代わりに何をしているの  か?  このように観察するのです。  何度も繰り返される行動のパターンがある場合、 そのパターンはただの偶然ではなく、必然だと考 えたほうがいいでしょう。  そのパターンを成立させてしまう、核心となる 「コアな出来事」があるはずです。  思い通りに物事が進んでいないと認識している 一方で、ある種の手ごたえを得ているかもしれま せん。 人が持つ悲しい習性とは?←  ある重要な仕事に、なかなか手をつけられなく て、困っている人がいだとします。  後日、「あのあと、結局どうなっだの?」と聞 いてみると、最終的に締め切りに間に合ったよう です。  締め切りギリギリになると火がついたように動 き出し、土壇場の猛スパートによってなんとか帳 尻を合わせていたのです。つまり、思ったよりひ どい目には遭っていません。  実は、それが問題です。  本当にひどい目に遭えば、次からそんなことに ならないようにもするのですが、思ったほどのこ とにはなっていないので、本気の対策をするに至 りません。  しかし、そんな帳尻合わせの仕事は、長い目で 見ると徐々に問題を蓄積させていきます。  締め切りには間に合っても、完成度が柢く、間 違いが複数あるような成果物であった場合、あな たの信頼は下がります。あなたの知らないところ で、柢い評価が広まっているかもしれません。  評判は徐々に浸透し、気がつかないうちに人も 仕事もお金も離れていってしまいます。  しかし、そうした悪い結果はすぐに起きるわけ ではないし、起きていることに気づきにくいので、 行動の改善を促すことが難しいのです。  たとえ期限に間に合わなかった場合でも、「す みません」「申し訳ありません」と何度も言えば、 それでその場は切り抜けられることが多いもので す。  遅れてしまった理由をそれらしく言えば、むし ろ、ねぎらいの言葉をかけてもらったり、手伝っ てくれたりすることも少なくないでしょう。  私たちには、物事が遅れている状態を改めよう とするのではなく、言い訳を見つけようとする悲 しい習性を持っています。  言い訳は繰り返すほど上手になり、上手になれ ばなるほど、うまく切り抜けられる確率も上がり ます。  切り抜けられる経験を積んでしまうと、先延ば しの解決に向き合うのは難しくなります。  私たちの行動は一見複雑ですが、その原理は比 較的シンプルです。  「ちゃんとやらなくても、ひどい目には遭ってい ない。先延ばしにしても大丈夫」  少なくとも、本人の視点からはそのように見え ているのです。  「科学で行動をコントロール」 が一番手つ取り早い!←  繰り返しますが、私たちが思い通りに行動でき ない理由を、「やる気がない」からとする循環論 にしてはいけません。  「行動できないメカニズムを分析」することが大 切です。そうしなければ、行動改善の糸口がつか めません。  意志の力ではなく、行動科学の力を借りて解決 すべきです。  私たち人類は、自分の行動の制御、コントロー ルに関してまだまだ無知です。自分の行動の解釈 について、誤解や錯覚や思い込みばかりです。  行動できないとき、多くの人は自分に対して 「言い訳する」か「自己否定による反省をしてみ る」ものの、現実的な解決策を用意できません。 心理学的、科学的な理論を基にした「自分を動か す行動の技術」を十分に知らないからです。  知っていることがあっても、それを生活の中で 十分に使いこなすことはできていません。  日常生活における私たちの複雑な行動は、複雑 な要因によって影響を受けます。  同じような行動を繰り返していても、全く同じ ことをしているわけではなく、毎回少しずつ変化 が生じています。  しかし、私たちはそうした複雑な要因が絡み合 う世界の中でフリーズして、ただ溺れているわけ にもいきません。  人間の行動に関して、今の私たちが理解できる こと、わかる範囲のことを寄せ集め、仮説を立て て検証を繰り返すしかありません。  仮説、検証を続けてきた行動科学の研究者が蓄 積した知見を知ることで、より高い視座から自分 の行動を俯瞰してみて、改善することが可能にな ります。  自分に合った行動制御の方法を見出すには、何 度も靴を試着した上で自分の足に合った靴を見つ ける努力をするのと同じで、いくつかの方法を試 すことが必要です。本書では、先延ばしせず、す ぐやるための方法を複数紹介していきます。  ぜひ、試してみてください。  自分の行動を促す方法や、工夫の仕方を見つけ る努力はたとえ大変であっても、そこに時間と労 力をかける価値が十分あります。  先延ばしのための言い訳と、自己否定のループ から抜け出せる価値は計り知れないからです。  行動科学を知ると、着実にそして確実にメリッ トを実感することになります。 こ‥ い00。ノ」」         ‐‐‐‐ ‐………゛厂゛一‐ ‐一]二卜 誰もがi{理なく”行動力を高 めるための研究←  すぐ取り掛かれない……。先延ばししてしま 「自分の思い通りに行動ができない」という悩み は、行動科学の力で解決しましよう。行動科学の 中でも、応用行動分析学という学問はとても役に 立ちます。  この章では、応用行動分析学の特徴を説明しま す。そして、応用行動分析学の観点から、「なぜ 人は、自分の思い通りに行動ができないのか?」 を分析していきます。  応用行動分析学は、行動分析学という大きな学 問カテゴリーの中に含まれます。  行動分析学は、アメリカの心理学者B・F・ス キナーが創始した学問で、文字通り「行動を分析 する学問」です。  分析とは、行動に影響する要因(環境変数)を 発見することを意味しています。つまり、行動分 析学とは、ある行動が生じる環境側の原因を明ら かにする学問です。  そして、行動分析学から得られた知見を、行動 の改善に適用し、その効果を明らかにする学問体 系を特に応用行動分析学と言います。  たとえば、応用行動分析学は、これまで障害者 支援の分野で大きな成果を上げてきました。  障害者や障害児の中には、言葉で指示しても、 その場で求められている行動を起こせない人がい ます。そのため、行動を起こしてもらうためには 特別な方法が必要です。  応用行動分析学は、「起こしづらい行動を起こ すための方法」を研究してきたと言えます。  そのため、応用行動分析学は、自分の思い通り に行動できない人にとって非常に役立つ知見にあ ふれています。  本書を読み進めるにあたって、応用行動分析学 の基本を理解してもらうことがとても重要です。 そこで、応用行動分析学の”特徴”と”その利 点”をここから整理してお伝えします。  あなたが抱える様々な「思い通りにいかない行 動」に応用、対策ができるので、少し丁寧に読ん でいただきたいと思います。  様々な状況に対応できる臨機応変さや懐の深さ には、野性的な直感や発想力が求められます。た だし、直感や発想は、理論の理解に基づいていな ければなりません。  「自分のせいにしない」から行 動は改善する←  やってはいけないのにやってしまう、やらなけ ればならないのにやれない、行動に関する悩みは 大きくこの2つです。  行動分析学は、行動の原因を考える際に、当人 の能力や特質にばかり原因を求めず、当人をとり まく環境(他人からの働きかけも含まれる)を 。あえて重視する”ことに特徴があります。  もっと端的に、誤解を恐れずに言うなら、行動 の原因をその当人ではなく、周りの人や環境に求 めるという意味を含んでいます。  このことは、思い通りにならない自分を分析す るために、大変重要な視点となります。  思い通りにならない自分の問題を、自分の意志 のせいにしても、念じれば意志が盛り上がってく るわけではありません。行動の原因を、本人の意 志力不足のせいにしても解決には近づきません。  たとえ、意志の力で瞬間的に一時的に行動を起 こすことができても、継続することは難しく、一 時的な変化にしかならないことが多いでしょう。  行動の原因を当人に求めるよりも、そのときの 場所や相手や締め切りといった環境要因を原因と するほうが行動の改善につながります。  それらを変えることで、行動を改善できるとい う観点に立てるからです。  問題を起こすたびに自分を攻撃することはやめ ましよう。問題を引き起こす環境を改善すること に力を注ぐのです。 いつも”あいまい”だから動き 出せない←  応用行動分析学は原則的に「行動を観察するこ と」を通して、問題の原因を見つけていきます。 行動を観察することには、記録や測定も含みます。  たとえば、カウンセリングをするにしても、本 人から話を聞くだけでは、行動の原因を見つける には不十分であることが多いからです。  なぜなら、人は「どうして自分がそのようなこ とをするのか、自分でもわかっていないことが多 い」からです。  私たちは過去の自分の行動について、丁寧に記 憶しているわけではありません。  数日前に何を食べたかも忘れて思い出せないこ とが多く、感情を揺さぶるような出来事以外は、 ”なんとなく””あいまい”にしか覚えていないこ とが多いのです。  「昨日やるべき仕事を、なぜやらなかったのです か?」と聞かれても、「他にやるべきことがあっ て、忙しかったんだよね」くらいのことしか言え ません。  「その仕事を前にやっだのはいつですか? その ときは何分ぐらい取り組んだんですか?」と聞い ても、明確な答えが返ってくる可能性は柢いで しょう。  人は、自分の行動を観察することが苦手なので す。  自分を予定通りに動かしたいなら、この現実を 受け入れる必要があります。  応用行動分析学は、行動の原因として外的環境 要因を重視します。  その行動が起きている状況を観察することがで きれば、「場所、人、時間」など、その行動に影 響する要因を分析することができます。  これまで、応用行動分析学は、行動を観察、分 析するための様々な方法を開発してきました。 即効性アリ’・根拠アリ’・実行 (Iドルは低い’・←  応用行動分析学では、行動を分析する方法だけ でなく、行動を増やしたり減らしたり形成したり する様々な方法について、研究が蓄積されてきま した。  行動分析学の目的は、「行動の予測と制御」で あり、単なる分析の方法にとどまりません。  望ましい行動は増やし、望ましくない行動は減 らす。  そして、新しい行動を形成するための具体的な 方法を開発して、その効果を確かめるまでのプロ セスに焦点を当てています。  抽象的な方法論ではなく、データに基づいた具 体的な症例から、実践的な「行動の技」(対人支 援技法)が開発されてきたのです。  応用行動分析学の実践、研究は、「より即効性 があり、実施の負担が少ない方法」を開発するこ とに力を注いできました。  本書でそのすべてを紹介することはできません が、効果的な一部の方法を厳選して紹介します。  【重要】まずは、死人テストで 「行動かどうか」を判断する←  行動を分析することの重要性を述べてきました が、そもそも行動とはなんなのでしようか。  行動の定義にはいくつかのレベルがあり、学問 分野によっても解釈が異なります。  たとえば、行動とは「筋や腺による活動のすべ てである」と定義できます。しかし、こうした広 い定義では、行動の具体的なイメージが持てませ ん。  そのため、「行動か、行動ではないのか」を簡 単に判断するために、「行動を死人にできること 以外の行ない」と定義する「死人テスト」という 判断基準があります。  死人テストは、行動分析学の創始者スキナーの 直弟子オージヤンーリンズレーが提唱したとされ ています。  死人テストに従うと、死人にできないことが行 動であり、死人でもできることは行動ではありま せん。  たとえば、「車にひかれる」「笑わない」「名前 を呼ばれる」「返事をしない」「静かにしている」 「あいさつをしない」「上司に褒められる」という 表現は、死人にもできることなので、行動ではあ りません。  「爪をかむ」「夢を見る」「ピカソの絵を思い浮か べる」「映画のラストシーンで胸がシーンとなる」 「唾液が出る」「今夜の夕食のメニューを考える」 というような表現は、死人にはできないことなの で、行動です。  死人テストまで使って、「行動か、そうではな いのか、を追求することにどんな意味があるの か」と思うかもしれませんが、とても重要なこと です。 ●たとえば、「あいさつをしない」も表  現次第で改善策が変わる卩  たとえば、「あいさつをしない」という現象を 具体的に表現すると、「歩いている途中で職場の 人にあいさつをされても、あいさつを返さない」 ということだったりします。  この場合、「あいさつされても、あいさつをし なかった」と言うより、「あいさつされても、そ のまま歩き続けた」と言ったほうが明確に行動を 表現したことになります。  「なぜ、あいさつをしなかったのか」を分析する 場合、この表現の違いはとても大きいのです。  「あいさつされても、あいさつをしなかった」と いう表現だと、その人が「なぜ、あいさつをしな かったのか」について分析する材料が乏しく、 「この人は社会性のない人なのかも」と適当な推 測をしてしまうことになりかねません。これでは、 行動の改善は期待できません。  しかし、「あいさつされても、そのまま歩き続 けた」という表現であれば、「もしかして、あい さつされたことに気がつかなかっただけではない のか」という可能性に気づくことができます。  さらに、「あいさつされても、早足で歩き続け た」という表現なら、「急いでどこかに行こうと していたのではないか」と想像することも可能で す。  つまり、改善したい行動をどのように記述し、 表現するかによって、原因の推測が変わることに なります。  当然、その後の改善策にも違いが生まれます。  たとえば、上司Bさんから私か「最近、Aさん の様子がおかしいんです。仕事に集中してないん です。どうしたらいいですか?」と相談された場 合、「Aさんは具体的にどういう行動をするんで すか?」と聞く必要があります。  「集中しない」ことは死人でもできるため、行動 とは言えません。  死人にはできない行ない、つまり「具体的な行 動がなんなのか」を知ることがとても重要です。  集中しないというのが、実は「寝ている」とい う行動なのであれば、コーヒーを出してあげたり、 早寝するように助言したりすることができるで しょう。  集中しないというのが、実は「同僚との私語が 多過ぎる」という行動を意味しているのであれば、 本人と同僚の両方に作業中のルールやマナーを明 示すれば解決しそうです。  「○○しない」ことが問題だと思っている場合は、 今一度、死人テストに従って「○○している」と いう行動の表現に言い換えてみましよう。そこか ら、解決の糸口がつかめるかもしれません。  また、行動には、爪をかむことのように目に見 えるもの(顕現的行動)もあれば、メニューを考 えるといった目に見えないもの(内潜的行動)も あります。  思考や認知、検討や想像も行動です。  そういった直接目に見えない行動は、他人から は観察が難しいですが、本人が自覚し、表現でき るのであれば行動として扱うことができます。  大切なのは、その行動がなんらかの結果をもた らしているかどうかです。つまり、その行動が物 理的環境や社会的環境になんらかの影響や効果を 与えているのであれば、それは「行動」と言うこ とができます。  たとえば、「丁寧にメニューを考える」ことで おいしい料理が完成したのであれば、物理的環境 に影響を与えているし、その料理を友人が喜んで 食べてくれたのであれば社会的環境に影響を与え たことになります。 これが行動分析学の役目−望ま しい行動を増やし、望ましくない行動を 減らす←  応用行動分析学では、変えることを目的とした 行動を「標的行動」と言います。変えることを目 的とした行動には、「望ましい行動」と「望まし くない行動」の両方があり得ます。  行動分析学では、行動上の解決すべき問題を次 の2つに分類しています。 ●1 行動の不足  望ましい行動が不足しているときは、望ましい 行動を標的行動とし、その頻度、持続時間、強度 を増やすことが目的となります。  ここで、気をつけなければならないことがあり ます。  たとえば、売り上げが不足しているという問題 に対して、「売り上げを伸ばす」ということを標 的行動としないことです。  売り上げは成果であって、行動ではありません。 売り上げに影響する行動を、標的行動としなけれ ばなりません。  たとえば、商品の契約を取ることは売り上げに 影響すると思いますが、「契約を取る」ことも行 動というよりは成果に近い。  「商品の説明をすること」や、「契約書を作成す ること」であれば行動と言えます。  問題に影響する「具体的な標的行動」を見出す ことができれば、その解決に一歩近づくことがで きます。 ●2 行動の過剰  望ましくない行動が過剰であるときは、望まし くない行動を標的行動とし、その頻度、持続時間、 強度を減らすことが目的となります。  たとえば、1日に同じ質問を何回も繰り返すこ とは問題です。I回であれば特に問題のない行動 であっても、何度もしつこく繰り返されると他人 は気分を害するものです。  作業中に数秒離席するだけならそれほど問題で はありませんが、10分以上離席し続けると問題と なります。  独り言は小さな声であればそれほど気になりま せんが、大きな声の場合は問題となります。  つまり、このような行動次元(「頻度」「持続時 間」「強度」)の程度が過剰であることが問題と なっている場合、その行動次元が下がれば問題は 解決します。 とにかく記録すると効果が出 土 「望ましい行動を増やし、望ましくない行動を減 らす」  行動上の問題解決には、適切な標的行動を選び、 その行動を増やしたり減らしたりすることが必要 です。  そして、そのためには行動の増減を記録するこ とが効果的です。  ある人の標的行動が他の大より多い、または、 少ないことを評価するだけではなく、自分の過去 と現在を比べて、その行動が増加傾向なのか減少 傾向なのか、を確認することはとても大切です。  たとえば、次の図の左側の棒グラフは、ある月 の1ヵ月間に見られた、3人の不適切な行動の水 準が示されています。  この棒グラフでは、A君の不適切行動が最も多 いため、緊急の支援を要するように見えるかもし れません。  しかし、同じ行動の過去4ヵ月の傾向を示した 右の折れ線グラフを見ると、A君の不適切行動は 急激な減少傾向であることがわかります。  棒グラフのデータは、折れ線グラフの4ヵ月目 のデータです。  つまり、A君はこの数力月の間に大きな改善傾 向を見せている途中であり、介入をするよりは様 子を見守ることが求められる状態です。  A君よりもむしろB君のほうが、少しずつでは ありますが、この数カ月間に不適切行動が増加傾 向であるため、その原因について分析する必要が あります。  Cさんについても、月によって不適切行動の変 動が激しいため、その原因について分析したほう がいいでしょう。  このように、継続的に行動の記録を取ることは、 問題解決が必要かどうかの判断をする際に大きな 助けとなります。  それではここから、4つの代表的な行動の記録 法についてご紹介していきます。 @特徴がわかるから行動が改善 する「連続記録」法←  連続記録法とは、観察の間、標的行動が起こる たびに記録する方法です。次のようなカテゴリー で記録することができます。 【頻度】観察時間内に標的行動が起こった回数  たとえば、質問した回数(10回)を、観察時間 (2時間)で割ることで、生起率(5回/時間) を算出することができます。  【持続時間】その行動が、始まってから終結する までの時間  たとえば、集中してPC作業をしていた時間 (1時間)を、全体の就業時間(5時間)で割る ことで、持続時間パーセンテージ(20%)を算出 することができます。  【強度】行動の強さ  たとえば、声の大きさをデシベル計で計測した り、握力の回復度を知るために握力計を使ったり、 癇癪の激しさを5件法(「とても落ち着いている」 「落ち着いている」「普通」「興奮している」「とて も興奮している」)の評定尺度で評価したりしま す。  このように、行動の強度を算出します。  【潜時】ある刺激を提示されてから、ある行動が 起こるまでの時間  たとえば、「道具を片づけてください」と言わ れてから、片づけ始めるまでの時間。「静かにし て」と言われてから、静かになるまでの時間。始 業チャイムが鳴ってから、作業場所に戻るまでの 時間などです。  集団生活では特に重要な次元であり、潜時が長 いと仲間が仕事を開始するのを妨害してしまう可 能性があります。  たとえば、ある資格を取るための勉強をしたい が、なかなか取りかかれないことで困っていたと します。  どこに問題があるのか分析するために、机の前 に座って必要な資料(書籍やパソコン)を開いて 勉強することを標的行動とします。  そして、2週間標的行動を記録します。  2週間の間に、  「勉強机のイスに座った頻度は、I囗当たり何回 ぐらいだったのか」  「座って勉強した持続時間は、I回当たり何分ぐ らいだったのか」  「勉強したときの、集中の強度はどれくらいだっ たのか」(「全く集中してなかった」「集中してな かった」「普通」「集中できた」「とても集中でき た」など、I〜5点で採点)  「『よし、今から勉強しよう』と思ってから、実 際に座って資料を開くまでに何分くらいの潜時が あったのか」  を記録します。  すると、自分の行動の特徴が鮮明にわかると思 います。  たとえば、 ・勉強机のイスに座りさえすればそれなりに勉強  するのだけど、勉強のために座ることが少ない  のが問題 ・勉強をやっているのは週末だけで、平日は完全  にO同である ・集中力高く勉強できる時間帯や場所 ・集中できる場所と思い込んでいた所で、実は集  中できていなかった ・勉強するためにせっかく確保した時間なのに、  やろうと思ってから始めるまでに他のことばか  りしていて、取りかかるまでの潜時がとても長  い  このようなことがわかったりすると思います。  こうした特徴かわかれば、対策を立てるのはそ れほど難しくないし、特徴がわかっただけで改善 し始めることも実に多いのです。 Aやめるべき行動を減らすため の「産物記録」法←  産物記録法は、標的行動が起こったことによっ て、自然に生じる産物を記録する方法です。  つくった製品の個数、報告書の誤字脱字の数、 清掃で集めたゴミの重さなどです。  たとえば、健康のためにダイエットしたいと 思っているけど、糖分の多い炭酸飲料を飲み過ぎ ていると感じている場合、炭酸飲料を飲むことを 標的行動として減らすことを目指すとします。  その場合、飲んだあとに残るペットボトルをI 週間はゴミ袋に入れたままにして捨てずにおけば、 I週間で何リットル飲んだのかがわかります。  正確な量がわかれば、摂取カロリーに換算する こともできるし、量を減らしていく際の目標値 (たとえば、飲む量をI割減らす)を決めるのも 難しくないはずです。 B自分を知るための「インター バル記録」法←  インターバル記録法は、観察時間をインターバ ルに区切り、そのインターバルの中で標的行動が 起こったか、起こらなかったかを記録する方法で す。インターバルの時間は、標的行動の性質に よって異なり、数秒から数分まで様々です。  たとえば、60分の作業時間を12の5分インター バルに区切り、仕事に関係のない私語があったイ ンターバル数(3個)を数えることで、生起イン ターバル率(3÷12X100=25%)を算出する ことができます。  集中して仕事をしたいのに、ネットニュースや SNSばかり見てしまうことがありませんか? その場合、ネットニュースやSNSを見ることを 標的行動として、実態を把握するためにインター バル記録をつけるのは良い方法です。  8時間の労働時間を30分のインターバル16個に 分けて、標的行動があったインターバルとなかっ たインターバルに分けると、たとえば8個のイン ターバルで標的行動があったのなら、生起イン ターバル率50%となります。  平日の5日間記録するだけで、どれくらい自分 が標的行動をしているのか実態がわかるので、減 らす対策を講じるのか、様子を見るのか判断する といいでしょう。 C先延ばしをやめる「瞬間タイ ムサンプリング」法←  瞬間タイムサンプリング法は、観察時間をイン ターバルに区切り、そのインターバルの特定の時 間に標的行動が起こったかどうかを記録する方法 です。  たとえば、20分のインターバルの区切りの瞬間 にだけ対象者(自分であることもあります)を観 察し、姿勢が良いかどうかを記録するというよう なことです。  20分ごとに10同記録した結果、姿勢が良かった ことが5同あった場合、[5÷10X100=50] の計算から50%のインターバル率で姿勢が良かっ たとわかります。  この方法は、切れ目なく観察しなくてもいいの で、記録の負担が少ない長所があります。ただし、 柢頻度であったり、短い持続時間で終了したりす る行動(まはたきや、あくびなど)は、タイミン グ良く観察するのが難しいため不向きです。  観察場面で、多くの時間行なっているような行 動が対象になります。  たとえば、自分がどの場所にいるのか記録する のに使いやすい記録方法です。  職場の中を大した用もないのにうろうろしてデ スクワークを回避しているような気がするとき、 その実態を把握するために30分ごとに腕時計やス マホが振動するように設定します。そして、振動 した瞬間に、自分がデスクかその付近にいたのか、 そうではない場所にいたのかを記録します。  自分が、どれくらい仕事を回避していたのかわ かるでしょう。  「望ましい行動を増やし、望ましくない行動を減 らす」というように、行動を改善するためには、 行動の増減を記録することがスタートです。  すぐ取り掛かる、先延ばししないために、これ らの記録法を知り、実際に自分の行動を記録して みてください。行動改善のキッカケになります。 行動改善の超基本技術「ABC Iニ  応用行動分析学の特徴のひとつは、行動をその 前後の状況から分析することにあります。  問題となる行動があったなら、直前の状況の中 に「その行動を引き起こすキッカケ」を見つけ、 直後の状況に「その行動を繰り返させるような結 果が起きていないか」を分析します。  このように、ある行動を前後の状況を含めて分 析する方法を「ABc分析」こ二項随伴性)と呼 びます。  ABc分析は、英語のAntecedent(直前の状 況)、Behavi.or(行動)、consequence(直後の結 果)の頭文字をとってつけられています。ABc 分析は、応用行動分析学的アプローチの最も重要 な理論的枠組みです。  問題となる行動に対しては、まずABC分析を 行ない、その行動の前後の状況、つまりAとCを 明らかにします。  そして、その行動に影響しているAまたはCを 変えることで、B(行動)を改善していくことが 基本的な技術です。  たとえば、ビジネス文書の作成を考えてみま しよう。  上司から「自分の作成した書類をよく見直して、 誤字脱字がないか確認したほうがいい」と言われ たが、「あとでやります」と言って、先延ばしに したとしましよう。  その場合、次の図のようにABC分析をするこ とができます。  直前の状況として、作成した書類の誤字脱字を 確認するように言われます。その後、「あとでや ります」と言って、誤字脱字の確認を先延ばしに しました。  この行動をとったことで、「誤字脱字の確認と いう、とても集中力が必要な作業の上に、もし誤 字を見つけると不快な思いをする経験を、回避す ることができている」ことがわかります。  誤字脱字の確認は、とても重要なことであると 多くの人がわかっていることですが、いわゆる 「めんどうくさい」作業なので先延ばしにしがち です。  しかし、「めんどうくさい」というだけでは対 策になりません。「めんどうくさい」の正体は何 かということを考える必要があります。  誤字脱字の確認が「めんどうくさい」と感じる のは、それが自分のミスを探す自己否定の作業で あり、見つけてしまったときの精神的な負担が大 きいからです。  そうした自己否定の経験を回避するために確認 を先延ばしにするのは、気持ちとしては共感でき る行動です。  ただ、その精神的負担に「どのように対処する のか」を考える必要があります。  このように、普段あいまいに解釈している問題 をABC分析の枠組みで検討することで、問題の 要因をシンプルに理解し、納得のできる行動の解 釈を見つけることができます。 巵届7し ポジティブな結果に よって行動が増える「強化」←  たとえば、自宅のリビングで仕事の作業をして いるときに、映っているテレビ番組に好きな俳優 が登場したため、その俳優の表情や声を観聞きし たくてテレビを観続けてしまうことがあったとし ましよう。  このエピソードのABC分析をしてみると、直 前の状況は「テレビに好きな俳優が登場する」、 行動は「テレビを観る」、直後の状況は「好きな 俳優の表情や声」を観聞きして楽しむことになり ます。  最初は少しだけ観るつもりであっても、俳優が 画面からいなくなるまで観続けてしまったとき、 テレビを観る行動が強化されたということになり ます。  ある行動をした直後に本人にとって良い結果が 生じた場合、その行動が増えたり、強められたり する現象は、人や動物において普遍的であるため 「強化の原理」と言います。  ある食べ物を口にした結果、おいしければもう 一口食べる。声をかけて笑顔を返してくれた人に は、さらに会話を続ける。  このように、私たちは自発的な行動をした直後 にポジティブな結果があれば、「そのあとに、同 じ行動を繰り返すという学習メカニズムを生まれ つき備えている」と考えられています。  そのような、「強化の原理」というメカニズム があることを前提に、自分の行動を分析すると良 いでしょう。 ●1 提示型強化(正の強化)  先の例における本人にとって良い結果とは、 「好きな俳優の表情や声」になります。  この「好きな俳優の表情や声」のように、ある 行動に後続して生じることで、その行動が将来起 きやすくなるような刺激や出来事を強化子と言い ます。  つまり、自分の自発的な行動が何度も繰り返さ れているとわかったとき、その行動は強化されて いると考えるのが自然です。  その行動の直後に起きていて、その行動が繰り 返されるのに大きな影響を与えている刺激や出来 事が強化子というわけです。  たとえば、ポテトチップスが好きで繰り返し食 べている場合、強化子は食べた直後に生じる味や 食感と考えられます。  ポテトチップスを繰り返し食べる理由として、 その価格の安さや入手のしやすさなども考えられ ますが、これは食べた結果の出来事ではないので、 強化子とは言えません。強化子は行動に後続して 生じる出来事です。  これから本書では、強化子という言葉をよく使 いますので、覚えておいてください。  そして、強化子の出現によって行動が増える現 象を「提示型強化」、または「正の強化」と言い ます。  ここでの提示というのは、味や食感のように、 それまでなかった刺激が、食べるという行動をす ることで出現することを意味しています。  行動することによって強化子が出現し、その結 果が将来の行動を増やし繰り返させているわけで す。 ●2 除去型強化(負の強化)  提示型強化は、行動する前に存在しなかった刺 激や出来事が行動の結果生じることで、行動が増 えたり強まったりする現象でした。  それに対して、「行動する前に存在していたも のがなくなる」という結果によって、行動が増え たり強まったりする現象を「除去型強化」、また は「負の強化」と言います。  わかりやすく言うと、提示型強化は行動のあと に「ポジティブな刺激が出現する」ことで行動が 増える現象です。  対して除去型強化は、行動のあとに「ネガティ ブな刺激が消失する」ことで行動が増える現象で す。  たとえば、痛み止めの薬を飲んで頭痛というネ ガティブな刺激が消失することで、将来頭痛がす るときに薬を飲むようになるのは、わかりやすい 除去型強化の例です。  私たちは集中して作業に取り組むと、目の疲れ や肩凝りなどの疲労感が生じてきます。ほとんど の人にとって、目の疲れや肩凝りはネガティブな 刺激だと思います。  そこで、コーヒーを飲んで気分転換したり、ス トレッチをしたりするとその疲労感が消えます。 その後、コーヒーを飲むことやストレッチを繰り 返すようになった場合、除去型強化が起きている と考えられます。  適度に疲労感を解消しながら作業を進めていれ ば、コーヒーやストレッチは適切な休憩と言えま す。  しかし、除去型強化され過ぎて胃腸を悪くする ほどコーヒーを飲んだり、あまりに長時間スト レッチし過ぎて作業が進まなくなったりした場合 は、不適切な休憩になります。  疲労感をコントロールするために休憩すること は、予定通りに行動するための重要な技術です。  ただ、疲労感の消失が休憩する行動を強化し過 ぎてしまうと、休憩ばかりしてしまいます。  疲労感の軽減と作業パフォーマンスのバランス をとるためには、除去型強化のメカニズムを理解 することが役に立ちます。 巵届々丘 ネガティブな結果に よって行動が減る「弱化」←  たとえば、業務に必要なマニュアルを読んでみ たものの、内容が難しくて読み進めるベースが遅 くなってしまうような場合を考えてみましよう。  行動の直後に嫌悪的な出来事が起きることで、 行動が減ったり、弱まります。  難しくて理解できない体感を経験すると、マ ニュアルを読むスピードも下がり、読む回数も 減ってしまうでしょう。  このように行動の直後に起きるネガティブな出 来事によって、将来の行動が減ることを行動分析 学では弱化と言います。  強化の原理と同様に、弱化の原理も、私たちの 持って生まれた特徴として備わっています。  私たちは、口にして吐き気がしたものは食べな くなりますし、話しかけて大声で怒鳴られたらそ の人には近づかなくなります。  強化と同様に、弱化にも提示型弱化と除去型弱 化の2つの種類があります。 ●1 提示型弱化(正の弱化)  マニュアルを読み進めるベースが遅くなる例は、 提示型弱化(または正の弱化)の例です。  この例では、マニュアルを読む行動の直後に 「難しくて理解できない体験」というネガティブ な出来事が出現することで、行動が弱化されまし た。  ここでの提示型の意味は、ネガティブな刺激や 出来事が「行動の直後に出現した」ということで す。  このように、「行動の直後に出現した」ことで、 将来の行動が減るような刺激や出来事を「弱化 子」と言います。  吐き気がしたことで、それ以降その食べ物を口 にしなくなったのなら、その吐き気は弱化子です。 大声を出された結果、その人に近づかなくなった のなら、その大声が近づく行動の弱化子と言えま す。  かつてできていた行動を急にしなくなったとき は、行動をしたあとに弱化子が出現した可能性を 考えてみると良いでしょう。急に行動をしなく なった理由がわかるかもしれません。  たとえば、作業がほかどらない理由として、 ・メガネを変えたことで目の疲労や頭痛がするよ  うになっている ・イスを変えたことで腰が痛くなっている ・照明がまぶし過ぎる ・騒音が大き過ぎる  など、なんらかの弱化子が推測できれば、その 弱化子を排除する方法を考えることになります。 ●2 除去型弱化(負の弱化)  もうひとつの弱化は、除去型弱化です。  除去型弱化として、次のような例が考えられま す。  比較的好きな作業をしている最中に、マニュア ルを読むことを指示された場合、マニュアルを読 んでいる間は好きな作業ができなくなります(強 化子が失われる)。  その結果、マニュアルを読むことをしなくなる、 つまり弱化されることが予測されます。  このように、マニュアルを読む行動の前に存在 していたポジティブな出来事が、行動の直後に失 われることで、その行動をしなくなる現象が除去 型弱化です。  同じマニュアルを読むという行動が減るという 例ですが、提示型弱化の場合もあれば、除去型弱 化の場合もあることがわかります。  どちらのメカニズムによって行動が減っていっ たのかを知るためには、ABC分析が必要です。  そして、メカニズムがわかれば対策を考えるの も容易になります。  提示型弱化であれば弱化子を排除できれば解決 するし、除去型弱化であればポジティブな出来事 が失われない方法を考えれば解決できます。 巵届てこ 変化が期待できずに行 動が減る「消去」←  環境に変化が起きないことで行動が減ることが  ある社員が上司に対して、職場の環境改善につ いての意見を述べたが、その意見が取り入れられ ず、環境が改善しなかったとします。  こうした状況が繰り返されると、この社員が意 見を述べることは減っていくことになります。  行動してもその前後の状況に変化が起きないこ とで、徐々に行動が減っていく現象を「消去」と 言います。  行動が減っていくのは弱化と同じですが、行動 の前後の状況に大きな違いがあります。  弱化は、弱化子が出現するなど、環境に変化が 起きることで行動が減っていきます。  しかし、消去は、環境の変化が生じないことで 行動が減少します。 ●消去の際に起きること  先のエピソードでは、社員の意見が取り入れら れませんでした。  しかし、それまで何度もその社員の意見が取り 入れられていた場合、意見が通らなかった直後に、 その社員は次のような行動を一時的に見せる可能 性があります。 【消去バースト】  行動の頻度、持続時間、強度が一時的に増大す ることを、消去バーストと言います。  たとえば、何度も繰り返し意見を述べたり、時 間をかけて説明したり、いつもより大きな声で意 見を述べたりするようになります。  【消去誘発性攻撃行動】  消去バーストに加えて、悪態をつくなどの情動 反応が起こったり、机を叩いたリイスを蹴ったり する攻撃行動をする場合があります。こうした行 動を、消去誘発性攻撃行動と言います。  ここで参考までに、対人関係において、消去 バーストや消去誘発性攻撃行動が起きたときの対 応についてお話ししておきます。  消去バーストや消去誘発性攻撃行動が生じても、 それを強化せずに消去の手続きを継続することで、 長期的な行動の減少が見られるようになります。  バーストや攻撃に対して、叱ったり、注意した り、額にしわを寄せて顔をしかめたりしてしまう と、注目という強化子を与えてしまうことになり ます。情動反応や攻撃行動を強化してしまう、と いうことです。  バーストや攻撃の直後には注目をせず、バース トの頻度や強度が下がるのを待ってから関わるこ とが得策です。  ただし、健康を損なうような危険な行動に対し ては、注目を与えずに待つよりも、即座に警告や ペナルティや身体拘束をしてケガを防ぐ必要が生 じる場合があることも知っておかなければなりま せん。 『tt141』 未来のリスクを最小限       そ し  ずいはんせい にする「阻止の随伴性」←  行動のあとに強化子が出現するわけでもなく、 行動の前に存在していたネガティブな刺激や出来 事が消失するわけでもなければ、私たちの行動は 減っていきます。  結果に手ごたえが何もなければ、行動が減少し ていく仕組みになっています。  強化や弱化と同様に、そのような「消去」とい う仕組みが私たちには備わっているのです。  結果を生み出さない行動は自然淘汰のように消 失していき、他の有意義な行動に時間を割くよう になるのが合理的と言えます。  しかし、仕事や勉強や健康改善に関する行動と いうのは、行動の直後には大きな変化が生じない 場合が多くあります。  一定期間以上行動し続けないと、目に見える変 化が起きない場合です。  この場合、続ければ結果が出る行動であるにも かかわらず、直後の変化が小さいために行動が消 去される危険があることを理解しなければなりま せん。私たちが予定通りに行動できない理由とも 関係が深いはずです。  具体的な方法についてはあとに書きますが、適 切な行動が消去されてしまわないように細心の注 意を払う必要があります。  たとえば、インフルエンザが流行る時期に、予 防としてマスクをする行動はどのように分析でき るでしょうか。  予防というのは、インフルエンザに罹患すると 決まっているわけではなく、罹患する可能性があ るだけで、まだ何も嫌悪的な事態が生じていない 状況ですが、その可能性を下げるために取る行動 です。  また、マスクをしたからといって完全に防げる わけでもありません。  つまり、マスクをする前後の状況に変化はない ことになります。  このように行動の前後に変化がなければ、通常 は消去の原理に従って行動が減っていきますが、 予防のような行動は消去されずに維持されること が多くなります。  嫌悪的な事態を防げているという確信が強けれ ば、直後に変化がなくても、その予防となる行動 は強化されます。  このように、将来に起きる可能性のある嫌悪事 態を阻止する行動が強化される現象を、阻止の随 伴性と言います。  阻止の随伴性は、将来のリスクを最小限にする ためにあらかじめ行動することなので、予定通り に動くスキルと深い関係があります。  阻止の随伴性は、次の2種類に分けることがで きます。 ●1 弱化子出現の阻止による強化  まずは、弱化子出現の阻止による強化について お話しします。  これは、嫌悪的な刺激や出来事(弱化子)が将 来出現するのを、あらかじめ阻止する行動が維持 されている状態です。  たとえば、「ケガを防ぐためにヘルメットをす る」ことや、「お客さんのクレームを防ぐために、 商品を渡す前にキズがないかをチェックする」な どです。  このように弱化子出現の阻止(嫌悪的な刺激や 出来事の予防)は、リスク管理行動を強化する随 伴性であるため、特に、安全管理に関係する仕事 に関わる人は理解しておくと良いでしょう。  また、あまり適切ではない行動が、弱化子出現 の阻止のために、維持している場合もあります。  たとえば、仕事が締め切りまでに終わっていな いため、上司に叱られる可能性があるから、仮病 を使って会社を休むことです。  こうした不適切な回避行動は、弱化子出現の阻 止が絡んでいることが多いのです。叱責(弱化子 出現)によって、行動を制御することの副作用の ひとつとして理解しておくと良いでしょう。  叱責という弱化子の出現を阻止するために、早 くから準備をして予定通りに行動する人の様子は、 表面的には適切に見えますが、恐怖と不安に追い 立てられている随伴性とも言えます。  軽い不安が、予定通りに動くことを助ける場合 もあります。  しかし、人間関係における過度な不安や恐怖を 阻止する随伴性は、失敗の隠蔽や虚偽の報告と いった不適切な行動を促しやすく、メンタルヘル スの不調や退職のリスクを高めてしまいます。 ●2 強化子消失の阻止による強化  次に、強化子消失の阻止による強化についてお 話しします。  これは、大事な物や楽しい時間(強化子)が将 来失われる可能性を阻止するための行動が維持し ている状態です。  たとえば、わかりやすい例で言えば、財布など の貴重品が盗まれないように金庫へしまうことで す。  貴重品(強化子)が盗まれて消失する未来を防 ぐための行動をしているわけです。  他にも、  「人気のレストランが満席になるのを恐れて、数 日前から一応予約を入れておく」  「契約が取れそうなお客さんとの打ち合わせの約 束について、  念のため前日にリマインドメールを送る」  「将来の会社の損失を防ぐために予定通りに納品 する」  などがあります。  これらの例のように、強化子消失の阻止は、適 切な行動を促しやすい随伴性と言えます。  この随伴性に従って行動できれば、予定通りに 自分を動かすことも増えると思います。  しかし、明日や明後日の未来において、強化子 消失を阻止する行動なら容易にできますが、Iヵ 月後や2ヵ月後の未来の強化子消失を防ぐとなる と簡単ではありません。  まだ余裕があると判断して、行動を先延ばしに してしまうことになるでしょう。  ましてや、3ヵ月後や半年後となるとさらに難 易度は上がります。  こうした事態において、どのように立ち回れば 良いのか本書後半で検討していきます。 自分を思い通りに動かすための 「不足と過剰」の調整←  応用行動分析学における問題解決とは、行動を 増やしたり、減らしたりすることです。  望ましい行動が不足していることが問題なら、 その行動を増やすことが解決です。  逆に、望ましくない行動が過剰であることが問 題なら、その行動を減らすことが解決です。  前者のような問題を「行動の不足」。  後者の問題を「行動の過剰」と呼びます。  では、この両者について解説していきましよう。 なぜ、やったほうがいいのにや れないの?←  まずは、行動の不足にっいてです。  望ましい行動として勉強と運動を取り上げ、行 動の不足が生じやすい原因について考えてみま  「勉強が手につかない問題」や「運動が習慣化し ない問題」は、”即時の結果”と”将来の結果” の時間差によって生じています。  まず、勉強の行動の流れと、結果を考えてみま しよう。  【勉強が手につかない問題】  勉強すると、 ・解答できなくてつらい ・思うように進まない ・他のやりたいことができない  ずいぶん時間が経ってから、 ・優秀な成績が得られる ・知識が増えたことが仕事に役立つ ・教養が身についたことが実感できる  勉強とは、具体的には、練習問題に解答するこ とや、文章を書くこと、本を読むことなどです。  こうした勉強行動を行なった直後に生じる結果 は、ネガティブなものが多いものです。  練習問題に解答できなくてつらいと感じたり、 文章を書くのが思うように進まなかったり、本を 読むと他のやりたいことができなくなったりしま す。  もちろん、これには個人差があり、大によって は難問に解答できないことぼつらいというより楽 しいと感じることもあるでしょう。  ただ、ここでは、ネガティブな結果になる人の ことを想像してみてください。  多くの人にとって、勉強しているときはつらい と感じることが多く、勉強することがポジティブ な結果をもたらすのはずいぷんと時間が経ってか らです。  試験で優秀な成績が得られたり、知識が増えた ことが仕事に役立ったり、教養が身についたと実 感できるのは、特定の内容について勉強行動を数 週間から数力月継続したあとです。場合によって は。数年継続しないと実感できないこともあるで しよう。  行動分析学の知見として、人や動物の行動は即 時に生じる結果に強い影響を受け、遅れて生じる 結果の影響を受けにくいことが知られています。  時間が経ってから得られる結果、すなわち遅延 されて提示される強化子(遅延強化子)は、勉強 などの行動を強化することが難しいのです。  それに比べて、即時に生じる嫌悪的な結果、す なわち即時弱化子は、とても影響力が強く、行動 を弱化しやすい。  そのため、勉強や運動は、(即時弱化子I/)遅延 強化子」の構図になっているため、思い通りに行 動できずに、先延ばしが生じやすいのです。  運動についても、行動の流れと、結果を考えて みましよう。  【運動が習慣化しない問題】  運動すると、 ・筋肉が痛い ・呼吸が苦しい ・他のやりたいことができない  ずいぶん時間が経ってから、 ・健康増進 ・ダイエットの成功 ・体力の向上  健康、ダイエット、体力向上のために運動をし ようと計画しても、筋トレをすると筋肉が痛いし、 ジョギングなどの有酸素運動は呼吸がつらいもの。  運動の前後に着替えをして、シャワーを利用す るならそれなりの時間を使うので、他のやりたい ことはできなくなります。  つまり、即時の結果は嫌悪的な要素が強いこと が多いのです。  やはり、運動についても直後のネガティブな結 果は強力であり、将来のポジティブな結果を求め ていても、そのための行動を継続することは簡単 ではありません。 なぜ、やってはいけないことを やるの?←  自分の思い通りに行動できない問題を分析する もうひとつの視点は、行動の過剰です。  行動の過剰とは、望ましくない行動が多過ぎる という問題です。  望ましくない行動というのは、その行動をする ことによって、将来その人の生活にネガティブな 結果がもたらされる行動のことを言います。  たとえば、食べ過ぎやゲームのやり過ぎを、行 動の過剰における望ましくない行動として取り上 げてみましよう。  スナック菓子を食べ過ぎるときの行動の流れと、 結果を考えてみましよう。 【スナック菓子を食べ過ぎる問題】  食べると、 ・おいしい ・空腹感がなくなる  ずいぶん時間が経ってから、 ・虫歯になる ・肥満になる ・ニキビができる  スナック菓子を食べたとき、おいしいと感じた り、空腹感がなくなったりといったポジティブな 結果が即時に生じるため、その行動は強化され、 繰り返されます。  食べ過ぎると虫歯になったり、肥満になったり、 ニキビができたりすることがわかっていたとして も、そうしたネガティブな結果はずいぶん時間が 経ってから生じるので、食べる行動を弱化するこ とは難しいのです。  ここでも、(即時強化子I/)遅延弱化子」の対立 が生じていますが、即時の結果に軍配が上がりや すく、思い通りに行動することは難しいのです。  喫煙し過ぎるという問題もまた同様です。喫煙 するときの行動の流れと結果を考えてみましよう。 【喫煙し過ぎる問題】  吸うと、 ・気分転換ができる ・リラックスする  ずいぶん時間が経ってから、 ・肺がんのリスク ・心臓病のリスク ・歯が汚れる  過剰な喫煙は、肺がんのリスクや心臓病のリス クを大きく引き上げ、歯が変色して汚れるという ネガティブな結果を将来もたらします。  そうしたリスクを抱えたいわけではないが、そ の行動をした直後には気分転換ができ、リラック ス効果が即時に得られるため、行動が強化されま す。  やはり、ネガティブな結果が生じるのは将来で あるために、そのときの望ましくない行動の阻止 にはそれほど影響を与えません。  これらの遅延した結果の多くは、過剰な行動を した人すべてに起きるとは隕らないので不明確な 結果です。  たとえば、スナック菓子を食べ過ぎると必ず虫 歯や肥満になるわけではないし、喫煙をしたから といって必ず肺がんになるわけでもない。  将来の結果というのは、実際はそうはならない かもしれないという都合の良い希望を持たせやす いこともあり、さらに影響力を失っていきます。  しかし、過剰な行動をすることによって、将来 のネガティブな結果を受ける可能性は高くなって いるのです。  「即時結果V遅延結果の原則」 を受け入れると成功する’・←  行動の不足であっても、行動の過剰であっても、 思い通りに行動できない問題に共通して横たわっ ているのは、「遅延結果より即時結果のほうが、 影響力が強い」ということです。  私たちは、このことを「抗えない原則」として 受け入れたほうが良いと思います。  もちろん、個人差はあるし、状況によっては遅 延結果のほうが強い場合もあるし、遅延結果の影 響が強くなるような工夫も可能ではあります。  しかし、「即時結果∇遅延結果」が原則と認め て対処を考えたほうが、生産的で前向きです。  「即時結果∇遅延結果」になる自分は「意志が弱 い」と考えて反省しているだけでは、「気合を入 れる」といった精神論に頼ることになってしまい ます。問題解決に役立つ対策は生まれません。  人がそもそも抱えている「業」として「即時結 果∇遅延結果」を受け入れ、その上で対策を検討 したほうが良いのです。  「即時結果∇遅延結果」の原則は、2つ以上の行 動の選択肢があるときにどちらの行動を選ぶのか についても大きく影響しています。  応用行動分析学では、人が活動しているときは、 2つ以上の行動が同時に起こる可能性があり、実 際にはそれらがある一定の割合で選択されている と考えます。  たとえば、「勉強の課題を遂行する行動」と 「机に落書きをする行動」の関係を考えてみま しよう。  「机に落書きをする行動」は直後に強化子(描か れた絵)が随伴します(結果として表れます)。  しかし、「勉強の課題を遂行する行動」に、先 生から褒められるなどの強化子が随伴するのは、 しばらくたったあとです。  課題でまだ学習できていない部分があるならば、 「課題を遂行する行動」によって強化子が得られ るのは、さらにあとのことになるかもしれません。  多くの場合、こうした選択では時間的に遅れて から強化子が随伴するような行動よりは、その直 後に強化子が得られる行動が選択されます。  すぐに行動に取りかからず、先延ばししてしま うことの共通の要因は何かと考えるとき、先延ば しをする人に共通する特徴がいくつか指摘されて います。 ●あなたの衝動性は高い? 低い?  特に際立っている要素がひとつあり、それは 「衝動性が高い」ことです。  衝動性が高い人は、やりたいことを我慢したり、 楽しいことを先に延ばしたりするのが難しいので す。  要するに、将来のポジティブな結果のために今 我慢することが苦手なのです。  衝動性が高い人は、前もって計画して仕事に取 り組むのが不得手で、ようやく仕事に着手したあ ともすぐに気が散ってしまいます。  そうなると、予定通りに仕事を進めることは難 しくなります。こうした先延ばし行動は、あらゆ る社会やあらゆる組織において広がっています。  わかっていても手につかない、今やるべきだと 知っているのに他のことに目が向いてしまう悲劇 が起こっているのです。  ここまでで、あなたは「行動の原理原則」を学 びました。次の章からは、具体的に自分を動かす ための技術をご紹介していきます。 やってのける人は”即時結果” をちりばめる←  ここまで、「なぜ、思い通りに行動できないの か」ということについて、応用行動分析学の知見 を踏まえて説明してきました。  思い通りにいかない行動の根底にあるのは、 「行動の直後の即時的な結果がその行動の生起に 影響を及ぼしており、将来の遅延した結果はその 行動に大きな影響を及ぼしていない」という原則 です。  この「即時結果∇遅延結果」の原則に対して、 強い意志を持って立ち向かうのは得策ではありま せん。行動とその結果の影響を整備することで、 対処するほうがいいでしょう。  行動を繰り返しながら、得られるまでに時間の かかるポジティブな結果を待っていてもうまくい きません。  望んでいる結果が生じるまでの間に、中間結果 のような強化子を得られるように環境を整備する のです。  長距離走を例に考えてみましよう。  マラソンなどの長距離を走るのに、42キロ先の ゴールを目指して走るのではなく、まずはIキロ 地点にある給水所を目指して走って、次に10キロ 先を目指してみましよう。  最終ゴールを目標にしてしまうと、体力を温存 しようとして走り続けるのが難しいので、途中に 何度も細かく強化子(結果)が得られる機会を設 定するのです。  私も何度かフルマラソンに挑戦したことがあり ますが、30キロを越えたあたりで足が痛くて痛く て、体もヘロヘロになりました。  走るのをやめて歩きたくなったり、リタイヤし たくなったり、「なんでこんなことやろうとした んだろう」と思ったりしたものです。  しかし、そんなときは先のことを考えずにIキ 口先まで走ることを目標にして、到達したら自分 を褒めて励まして、次のIキロ先を目指すことで なんとか最後まで走り切ることができました。  これは気持ちが楽になるといった精神論ではな く、即時結果の強い影響力を活用した応用行動分 析学的アプローチの活用です。  勉強の場合、合格を目標にするとやり続けるの が難しくなります。つらいと感じたら、たとえば、 問題をI問解くだけで良しとする。それができた ら自分を褒め、次の問題を解く。これを繰り返し ていくことでゴールまで走り続けることができま す。  遅延結果までの長い道のりに、たくさんの即時 結果が得られる機会を設定することは、多くの人 が日常の中で自然にやっていることだと思います が、原理を理解した上で意図的、意識的に設定で きるようになれば、自分を思い通りに動かしやす くなります。  様々な行動の思い通りにいかない問題に、活路 を見出すことができるようになるのです。  「即時結果∇遅延結果」の原則のために、思い通 りに動けない行動に対して、自分で工夫して遅延 結果まで行動をつないでいく即時結果を配置する ことが、応用行動分析学で言うところのセルフマ ネジメントです。  自分の行動を管理するために、意志をコント ロールするのではなく、環境を整備して強化子を 管理しましよう。 歴史と実践に裏打ちされたセル フマネジメント技術←  ここから、応用行動分析学におけるセルフマネ ジメントについて詳細な解説をしていきます。  ザックリとした定義として、セルフマネジメン トとは、「自分自身の行動を変える、または、行 動を維持するために、自ら特定の方法を使うこ と」を意味します。  その具体的方法は多岐にねだりますが、一般的 にセルフマネジメントとして用いられる方法とし て、「標的行動の定義とキッカケの整備」「自己記 録」「自己教示」「自己評価」「自己強化」が挙げ られます。  これらは、これまでの応用行動分析学の研究に よって開発されてきた技法です。  つまり、セルフマネジメントとは、こうした 様々な応用行動分析学の技法を「状況に応じて組 み合わせることによって、個に応じた問題解決を 目指す手法」です。  これから、「これらの技法をどういった場合に」 「どのように用いると良いのか」また、「どの方法 から順番に試していけば良いのか」のガイドライ ンを提示していきます。 セルフマネジメントー 標的行動の定 善」  「具体的な行動の決定」と 「キッカケの配置」←  セルフマネジメントで最初に行なうことは、標 的行動の定義です。  標的行動とは、たとえば、漠然と「勉強するこ と」ではなく、具体的に「漢字を書くこと」や 「マニュアルを読むこと」というような具体的な 行動です。  あとで、記録が可能なように定義することが大 切です。  さらに、そうした標的行動の自発を促すキッカ ケを自ら整備することで、行動を変える効果が高 まると考えられています。  次の図には、「標的行動の定義」と「キッカケ の整備」が、標的行動に与える影響が実線の矢印 によって示されています。  このように、自分の標的行動を誘導、支援、維 持するためのキッカケを、自分自身に示す手続き の総称として「自己教示」という用語が用いられ ています。  たとえば、翌日に郵便局で振り込みをしなけれ ばならないことを忘れないために、付箋に「郵便 局」と書いて手帳に貼っておくことや、子供が給 食費を学校に持っていくのを忘れないために、就 寝前にお金の入った封筒をランドセルの横に置い ておく、というようなことです。  仕事でも、絶対にやるべきことは、付箋に書い て目につく所に貼っておくことで、行動のキッカ ケが生まれます。  スケジュールに予定を書き込んでおくことや、 当日にやるべきことを付箋に書いて貼っておくこ とは、単に忘れないためのメモという機能の役割 を担っているだけではありません。  スケジュールや付箋が目に入ることが、自己教 示として行動を始めるキッカケになるから重要な のです。  キッカケさえあれば始められるような活動、つ まり難易度は高くないが始めにくい活動の場合に は、自己教示としてキッカケを整備することに注 力するといいです。  たとえば、「脱いだ服がそのまま放置されてい る」問題を解決したい場合は、服をよく放置して いる場所の辺りに「服はクローゼットヘ’・」と書 いた付箋を貼っておきましよう。  脱いだ服を置こうしたときに、目につく場所に 付箋を貼ることが最も重要です。付箋がキッカケ になって、服を片づける行動が始発します。  付箋のインパクトも重要です。付箋は大きくて、 目を引く色が良く、「服はクローゼットヘ’・ 服 が喜ぶ’・ やればできる’・」などと、パワーフ レーズを加えるのも面白いでしょう。  「自動車のオイルを交換する時期だが、そのまま にしている」場合は、走行距離が表示されている 所に「○○キロになったらオイル交換’・」と書い た付箋を貼ればキッカケとなります。  このように、生活の中で自然に視界に入り、そ の直後に行動を起こしやすい場所にキッカケを配 置できれば、その行動は促されます。 セルフマネジメント2 自己記録  「行動が変わること」は証明さ れている←  「標的行動の定義」に対応して、標的行動が生起 したあとに行なわれるセルフマネジメントが「自 己記録」です。すなわち、自己記録とは、標的行 動の生起の有無や、質、量などに関して自ら記録 することです。  様々な行動が、自己記録によって変化すること が、多くの研究で確かめられています。この効果 は、反応性効果と呼ばれています。  一昔前に「記録するだけダイエット」という言 葉が流行しました。これは、日々の自分の食べた 物と自分の体重を記録すれば、それだけで体重が 減少するといったダイエット法です。  これはまさに、自己記録による反応性効果のこ とです。  この場合の標的行動は、「体重増加につながり にくい健康的なものを食べる」ことです。そして、 「その囗食べた物と体重」を自己記録(分析的記 述)すると、体重が減ったときに食べた物が明確 になり、標的行動が強化されます。  さらに、その記録を見ることが健康的な物を食 べることのキッカケになって標的行動が促されま す。また、体重が増えたときの食事内容も明らか になるので、その食事内容で食べることは弱化さ れ、食べる回数が減っていくかもしれません。  自己記録をするには、行動のどの指標を記録す るのかを決める必要がありますが、代表的な指標 としては次のようなものがあります。 ●1 頻度のカウント  頻度のカウントとは、一定の時間内に生じる行 動の回数を記録することです。  たとえば、計算問題をやるとき2分ごとに完了 した問題数を記録し、さらに累積的な記録も一緒 に記録することで、課題従事の改善と遂行した問 題数の増加を促すような方法です。 ●2 時間の測定  時間の測定とは、ある行動の時間の長さを記録 する方法です。  勉強時間の記録や、課題プリントーページを完 了するのに要した時間を測定して記録するような 方法です。 ●3 インターバル記録法  インターバル記録法は、観察時間を短いイン ターバル(たとえば、1分、5分、10分など)に 分け、それぞれのインターバル内で標的行動が生 起したかどうかを記録する方法です。 ●4 チェックリストによる記録  チェックリストによる記録とは、課題遂行に必 要な行動を記述して並べたチェックリストを作成 し、その行動項目が完了するごとにチェックマー クを記入します。  たとえば、「キッチンに汚れた食器が2日分溜 まっている」や「明日洗濯しようと毎日思ってい るけどI週間も洗濯していない」など、定期的に やるべきことを先延ばしにしている場合は、 チェックリストによる自己記録が効果的です。  チェックリストには、「毎日やること一食器洗 い」や「3日ごとにやること一洗濯」と記載し、 実行できた日にはチェックマークを記入したり、 正の字で実施できた頻度を記入するといいでしよ  このチェックマークや正の字をつける作業が自 己記録となって、食器洗いなどを強化します。  「実家の母親にそのうち電話すると言っだのに、 半年電話していない」といった先延ばしが起きて いる場合も、実家への電話を定期的な活動とする のがいいでしょう。家族への行動は、大事なこと とわかっていても先延ばしにされがちです。  チェックリストに「1ヵ月ごとにやること一 実家へ電話」と記載して行動を促しましょう。 ●5 分析的記述  分析的記述とは、自身の行動やそれが生起した 文脈について、自ら自由記述する方法です。  自分の引き起こした問題と、その直前の状況や 結果について記述することで、その問題を改善す る方法になります。  自己記録は記録することに負担を感じてしまう と続かないので、負担が少なく楽しく続けられる ように工夫しましよう。 セルフマネジメント3 自己教示  「低過ぎる目標を設定」する不 安を捨てよう←  自己教示には、「標的行動の定義」と「キッカ ケの整備」による自己教示だけでなく、「目標の 設定」による自己教示の方法もあります。  ここでの目標とは、達成すべきパフォーマンス の基準です。  たとえば、ジョギングをするという標的行動に 対して、I同のジョギングで5キロ走るといった 達成基準を決めることが目標の設定です。  目標の設定が効果的であることは言うまでもあ りませんが、自分に対して目標の数値を決めるの はそう簡単なことではないでしょう。  上司や指導者といった立場の人から目標数値を 設定されることは比較的よくありますが、自分に 対して自分で目標を数値レベルで決めるのはなか なか勇気がいります。  具体的な目標を設定してしまうと、「それを達 成できないかもしれない」という不安が生じます。  しかし、この不安については容易に解決できま す。高い目標設定をしないことです。  私たちは、目標というのは高くなければいけな いような気がしてしまいますが、それは思い込み です。  目標は、達成できたら徐々に引き上げていけば いいのです。むしろ、最初は低過ぎるぐらいの目 標のほうが理にかなっています。  目標を達成することは、ほとんどの人にとって 気持ちのいい強化子です。セルフマネジメントと は、最終目標への道程で小さな強化子を何度も味 わうことです。  つまり、繰り返し目標を達成することが重要な ので、初めから高い目標を設定することにはほと んどメリットがありません。  低い目標の設定は、自分を甘やかしているよう な気がして、少し高めの目標にしてしまう気持ち はわかります。  しかし、勇気を持って「あえて低めの目標を設 定」することが、自分の行動をマネジメントする 大いなるコツなのです。  たとえば、「先週の仕事の報告書が提出できて いないままになっている」場合、遅れた分、完成 度の高い物を作成したくなってしまうかもしれま せん。しかし、そもそもうまく書けないから遅れ ているので、良い目標設定とは言えません。  まずは、「今日中に思いついたことを3つぐら い箇条書きにする」ことを目標とします。ますま す遅くなってしまう、と思うかもしれませんが心 配いりません。  箇条書きができたら、箇条書きを内容ごとに分 類するといった次の目標をすぐに設定すればいい のです。他人に書いて示すような目標でなければ、 自分の目標は柢くて流動的であるほうが行動を促 すことが多いと言えます。  また、「目標の設定」は、先の「標的行動の定 義」や「キッカケの整備」と組み合わされること で、より効果的な自己教示の手続きとなります。  たとえば、英語の試験などの対策で「英文を読 むこと」と定義された標的行動に対して、「I囗 10ページの英文を読むこと」という目標を設定し ます。  さらに、この目標をメモ用紙に書いて壁に貼っ て、目に入るようにすることを、キッカケの整備 として組み合わせることができれば効果倍増とな ります。 セルフマネジメント4 自己評価  「結果を視覚化」する二重三重 のメリット←  「目標の設定」に対応した、標的行動の生起後 に実施するセルフマネジメントの手続きが「自己 評価」です。  自己評価とは、事前に設定した目標と行動の結 果を比較し、目標を達成したのかどうかを自分で 判断することです。つまり、目標の設定がなけれ ば自己評価をすることはできません。  たとえば、「I囗1時間読書をすること」を目 標として設定し、ある囗の結果が自己記録による と「I囗2時間」であったなら、自己評価として 「カレンダーの空欄に好きなディズニーギャラの シールを貼る」というような手続きが自己評価で す。  目標設定を超えた結果が出ることは、それ自体 が強化子として機能するので、その望ましい結果 を視覚的に明示することは強化子の影響力を増し てくれます。  さらに、視覚化された結果はあとから見直すこ とができるため、見るたびに気持ちがいいもので す。  また、その視覚化された結果は、他の人が見て 褒めてくれるかもしれません。  信頼できる家族や友人に見てもらうことも社会 的な環境整備であり、間接的なセルフマネジメン 卜と言えます。  目標の設定と自己評価が組み合わさったセルフ マネジメントでは、自己評価の結果に応じて自発 的に目標を修正する行動や、目標を新たに設定す る行動が促されます。  図では、「目標の設定」と「自己評価」が相互 に影響し合い、修正されていく関係が点線によっ て示されています。  大切なのは、自分の行動を強化する環境を整備 することです。  勇気を持って低めの目標設定から始めて、ポジ ティブな自己評価を味わい、徐々に目標を引き上 げていくのです。  目標は固定的であるより、流動的であるほうが いいのです。  目標を下げることに抵抗を感じたり、恥ずかし さを感じる人も多いと思いますが、自分で自分の マネジメントをしているのだし、誰が見ているわ けでもないので気にする必要はありません。  セルフマネジメントにおいては、低い目標を設 定するほうが勇気のいることで、恥ずかしさから 逃れるために高い目標を設定するほうがたやすい のです。  たとえば、「勉強の難易度が上がってきて、ほ かどらない」場合は、あえて甘い自己評価をしま しよう。9割以上の理解を目標の基準にするので はなく、3割程度の理解でも良しとするわけです。  難しいのだから3割理解できれば大したもので あるとし、それが徐々に4割、5割と上がってい くことを将来の楽しみにするような考え方を持つ ことができれば、楽しく勉強を続けることができ ます。  重要なのは達成可能な目標に対して、成功体験 としての自己評価を繰り返すことです。  「大事な商談なのに、相手との打ち合わせの日程 調整を先延ばしにしている」場合は、提案やプレ ゼンの完成度を高くしようとするあまり、準備の 時間を長くしようとしているのかもしれません。  つまり、高い目標を設定しているために作成中 のプレゼンでは柢い自己評価になっているわけで す。  しかし、商談においては、完成度以上にタイミ ングを先延ばしにすることのデメリットがとても 大きいことはみなさん同意されることと思います。  勇気を持って目標の基準を下げて、これで良し とする自己評価をして早めに日程調整をしたほう が、ほとんどの場合うまくいきます。  また、「部下が提出した書類の問題点を指摘す るのが気まずくて、後回しにしている」場合は、 指摘した後の即時的な結果は気まずいが、遅延結 果としては書類の問題を改善し、部下のスキルを 高めることができるという状況です。  標的行動は「気まずくても指摘する」ことで、 目標は「問題を改善できるように適切な方法を助 言しつつ指摘する」ことになります。  その自己評価は「気まずさもあったが適切な助 言はできた」ということになりそうです。  「気まずさを感じさせないうまい言い方をする」 ことを目標にするのは難易度が高すぎるので、勇 気を持って「気まずくはなるかもしれないけど、 誠実に伝えるべきことを伝える」ことを目標とし て、頑張れた自分を高く自己評価しましよう。  迷ったときは、セルフマネジメントの目的を思 い出してください。セルフマネジメントの目的は、 遅延結果まで行動をつなぐためのポジティブな即 時結果を配置することです。  駅伝のように強化子のたすきをつないで、ゴー ルを目指すことが目的であることを忘れてはいけ ません。 セルフマネジメント5 自己強化  「正しいご褒美」の使い方←  セルフマネジメントの手続きとして、「強化子 の選択・準備」や「自己強化」を組み込むことが できます。  強化子の選択・準備、自己強化とは、たとえば 次のような事例が該当します。  まず、強化子として「好きなアーティストの動 画を観ること」を選択します。  そして、「A4で2ページ分の文書を作成する こと」を目標とし、「その目標を達成したなら動 画を観られる」というルールを設定します。  そして、実際に文書を作成したらその分量を自 己記録し、目標以上のページ数を超えたらそのこ とを視覚化するために「スケジュールに星マーク を記入」して自己評価を行ないます。  それから、「動画を観ること」で自らに強化子 を提示する自己強化を行なうのです。  この例の構造は次の通りです。  自分の好みの強化子(動画視聴)を選択して、 その強化子を得るための「目標の設定」。  目標の達成を「自己評価」できたら、それに応 じて用意した強化子を自らに提示。  いわゆる「自分へのご褒美」を利用したセルフ マネジメントです。  自分へのご褒美、つまり自己強化の手続きは、 とても強力なセルフマネジメントとなります。  ただし、強力であるためには、目標と自己評価 に基づいていなければなりません。特に目標もな く、なんとなく自分の判断で「頑張った気がする からご褒美」というのでは、効果もイマイチとな ります。  だからといって、目標を達成するまでは自分に ご褒美を与えないストイックな態度を持つべきだ と言いたいわけではありません。  先にも言ったように、目標は柔軟に変更してい いのです。  なかなか達成できない目標に苦しんで、自己評 価をあいまいにして、適当に自分へのご褒美をあ げてしまうくらいなら、目標を変更してご褒美を あげるようにしてください。一見同じことのよう に思えるかもしれませんが、自己評価をあいまい にするのと目標を変更するのとでは雲泥の差があ ります。  自己評価をあいまいにしてしまうと、目標を達 成していなくても強化子が得られてしまいます。  すると、標的行動が強化されるのではなく、緩 やかな自己評価をすることが強化されてしまいま す。  緩やかな自己評価が強化されると、目標の達成 は必要なくなるので目標設定は形骸化します。結 果として、立派な目標が達成されないまま残り続 けることになります。  このような状況が続くことは気分のいいもので はないので、目標について考えることも立てるこ ともしなくなり、自分の力で予定通りの行動をす ることはできなくなっていきます。  予定通りに動けるようになるためには、簡単で も柢くてもいいので設定した目標を達成した感覚 を強化しなければいけません。  標的行動だけでなく、目標を設定する行動や、 自己評価をする行動も一緒に強化する流れをつ くっていくのが重要です。  前の図に示されている「強化子の選択・準備」 と「自己強化」をつなぐ、点線のだ円か一番外側 にあることによって、内側の仕組みが支えられて いるのです。  たとえば、「やる気満々で入会したスポーツジ ムなのに、2ヵ月以上行っていない」場合は、ス ポーツジムでのトレーニングがもたらす即時結果 は筋肉痛など嫌悪的なもので、体力がつき、体つ きが変わるといった遅延結果が得られるまで継続 できていないのかもしれません。  この場合、好きな海外ドラマをスマホで観るこ とを強化子として、海外ドラマを見ながらエアロ バイクのマシンやランニングマシンをする自己強 化を組み込んでみるといいでしょう。  さらに、トレーニングの直後には、サウナで 「整う」とか、冷たいアイスを食べるといった、 小さなご褒美を強化子として自分に与えたほうが 継続することができます。  また、「達成に長期間かかる大プロジェクトを 担当している」場合は、セルフマネジメントの腕 の見せ所です。  大きな遅延結果にたどり着くまでに、小さな目 標をつなぎ合わせ、標的行動を定義する。それが できたら、自己評価に基づいて自分にご褒美をこ まめに与えるサイクルを、自己強化のシステムと して構築しましよう。  このサイクルが出来上がれば、いつもの生活を するように仕事を進めることができるようになり ます。  ご飯を食べるように、息を吸うように、自然体 で仕事が回る自分をイメージして取り組みましよ  徐々にそのイメージに近づけていくことはでき ます。 ●セルフマネジメント自体を嫌いになる  と元も子もない!・  当然ですが、「強化子の選択・準備」と「自己 強化」を実施するには、相性の良い強化子が必要 です。  目標を達成できたら、ある程度即時に実行でき る強化子が望ましいと言えます。達成してから何 日も経ってからの実行だと、強化子の効果は弱く なるからです。  もちろん直後が一番望ましいですが、難しいな らその日のうちか遅くとも翌日には実行できる強 化子がいいでしょう。  また、お金や時間や労力がかかり過ぎるご褒美 (強化子)はこまめに繰り返し実施できない可能 性があるので避けましょう。  ご褒美といっても、ものすごくうれしいもので ある必要はなく、むしろつつましやかな、少しう れしいぐらいのものや活動のほうがいいのです。  たとえば、先の例にあった動画視聴のほかに、 チョコレートを食べることや、お茶を飲むこと、 近所を散歩することや、ドライブをすること、ひ とリカラオケやサウナに行くことなどです。  日常的に行なっていることでも構いません。目 標を立てたときは、達成してから強化子の活動を 行なうようにしましよう。  達成するまでの我慢がつら過ぎると、セルフマ ネジメントの仕組み自体が嫌悪の対象になってし まいます。あまり我慢が必要ない程度で達成でき る目標にするとか、好き過ぎない強化子にするほ うがいいでしょう。大切なのは目標達成の強化子 として行なっていることを、味わいながらやるこ とです。 自分で手軽に”行動管理”でき て”メンタル”も安定!←  セルフマネジメントは、自分で自分の行動を制 御し、自分の問題を自分で解決するための方法で す。そして、他者からの一方的な制御を最小限に する方法でもあるので、本人の精神的な自立を促 すものでもあります。  ここまでご紹介してきたセルフマネジメントの 方法は、必ずしもそのすべてを実施する必要はあ りません。標的行動の性質、実施する場面での環 境などの要因に応じて、必要だと思う手続きを構 成していけばいいでしょう。  セルフマネジメントは、メンタルヘルスの改善 にも役立ちます。たとえば、他者からの直接的な 指示や評価が嫌悪的になってしまう場合、他者と の関係が悪化してしまう可能性があります。  そうした場合、自己教示や自己評価を用いたセ ルフマネジメントによって他者との嫌悪的なやり 取りが減り、結果的にメンタルヘルスの改善を促 すことが考えられます。  また、セルフマネジメントは、すでに獲得され た適切な行動を別の場面でも適用させたり、長期 的に維持させたりすることに効果的です。  他者からの指示や報酬に依存した行動は、その 他者がいない場面ではできにくくなります。  それに対して、セルフマネジメントでは自己教 示や自己評価、自己強化によって行動が制御され るので、特定の他者に依存することなく様々な場 面での行動の応用と維持が期待できます。 スケジュール帳の使い方には ”ちよつとした”コツがある←  スケジュール帳を活用してセルフマネジメント を行なうことは、シンプルですが王道で効果の高 い方法です。  紙の手帳を使う人もいれば、スマホのアプリを スケジュール管理に使っている人もいるでしょう。  やるべきことをやるべき囗のスケジュール帳に 書き込めば、その記載を目にすることが行動開始 のキッカケになります。  また、「○○を△△回」やるといった目標を書 き込めば、行動が促される可能性が高まります。 「目標の設定による自己教示」をしたことになる からです。  しかし、スケジュール帳を使えば簡単に効果が 出るわけではありません。どのように活用するか で、効果は変わってきます。  まず、「やるべきことを実行する日付の欄に記 入」するのか、それとも「やるべきことを仕上げ る締め切り日の欄に記入」するのか、「開始日か ら締め切りまでの期間がわかるように記入」する のか考える必要があります。  行動を開始するキッカケとしてスケジュール帳 を使うのであれば、その行動をする日の欄に記入 するべきです。  たとえば、その作業の締め切りが1ヵ月後であ る場合は、締め切り日の欄に「○○締め切り」と 記入する人が多いかもしれません。  しかし、締め切りの日だけに記入するのは少々 リスクがあります。  その作業が何日もかけてゴツゴツ進めるような 作業である場合、計画的に作業を進めなければな りません。  締切日だけに記入すると、記載されるのは締め 切り日だけなので、それまでの作業を進めるため のキッカケになりにくいのです。  締め切り間際になってから、慌てて作業を始め ることにならないためには、作業をする囗の欄に も記入するほうがいいでしょう。  スケジュール帳を自己教示として使うと効果が あります。しかし、作業を行なうキッカケになる ような使い方をしなければ、効果は半減してしま います。 ●自分の頑張りを「わかりやすく自分に  認識させる」ことの効果  セルフマネジメントとしてスケジュール帳を使 う方法は、自己記録や自己評価としての側面もあ ります。  自己教示は行動を起こすキッカケなのに対して、 自己記録や自己評価は行動のあとに行ないます。  予定に従って実際に行動できたのかをスヶ ジュール帳に記載しますが、やり方はいくつかあ ります。  実行したものに二重線を入れる、花丸をつける、 やった内容を記入するなどのやり方があるでしょ う。目標に対して、どの程度の達成をしたのかを ○や○や△で表すのも悪くありません。  終わった作業にはあまり興味が持てず、終わっ た予定に対しては何もしない人もいるでしょうが、 行動分析学的にはちょっともったいないと言えま す。  自分が頑張ったことについて、自分にわかりや すく結果を示すことは、多くの人にとって強化子 になり得るからです。  終わった作業に対して二重線を引っ張った瞬間 に感じる満足感や達成感は、大切な強化子であり、 次の行動への動機を生み出す可能性があります。 予定通りに行動できる可能性が 上がるからこそ……←  スケジュール帳に予定を書き込んで、行動の キッカケとする。予定通りに行動できたかどうか を自己記録して確認する。  これらのセルフマネジメント技術を実行できれ ば、予定通りに行動できる可能性は飛躍的に上が ります。  しかし、そのスケジュール帳に予定を書き込む こと自体が、とても難易度の高い作業かもしれま せん。  スケジュール帳に書き込みを行なう負担度には 個人差があります。  スケジュール帳への書き込みにほとんど心理的 負担がなく、楽しんでやっている人もいることで しょう。  負担を感じない人は、自分好みの手帳を選んで、 それを持ち歩くこと自体に楽しみを感じ(強化子 が生じ)ており、色ペンなどを使って丁寧に予定 を記入するでしょう。  しかし、負担に感じる人は真逆です。  手帳を持ち歩くことも、見ることも好きではな く、予定を書き込むことを簡単にはやれません。  書かなければと思っても、あとで書けばいいと 先延ばしして、そのうち忘れてしまうことが多い のです。  さすがに重要な用事であれば書き込むかもしれ ませんが、簡略化した書き方にするため、後囗な んの予定だったのかわからなくなる場合もありま す。  文字を書く作業はそれなりに行動コストの高い 作業です。  そして、書く作業のコストの高さもまた、個人 差が大きいのです。  いわゆる筆まめな人と筆無精の人。両者にとっ てスケジュール帳に書き込みをする際の負担の程 度は大きく異なります。  筆まめな人は、自分の予定や自分の考えなどを 文字にして、その文字を見ることは強化子になり ます。  自分の文字や文章を読むたびに手ごたえや気持 ち良さを感じるため、書き込みは繰り返されスケ ジュールは充実したものになります。  さらに、書く作業が日常的になればなるほど、 書き方のコツをつかみ、書くことのコストはさら に小さくなり、スケジュール帳は文字でいっぱい になります。  一方、筆無精の人は書くことのコストが高いた め、できるだけ文字を書きたくありません。  「この予定は忘れるわけがない」と思い込むこと で書くことを避けます。書き込みがされないので、 スケジュール帳はきれいなままです。  スケジュール帳がきれいなままなので、それを 見て確認する機会も少なくなり、スケジュール帳 の存在感は薄くなっていきます。  存在感が薄くなれば、思い出すことも少なくな るため、さらに書き込む機会は減っていきます。  セルフマネジメントの技法はたくさんあります が、その方法が自分にマッチしたものであるかど うかは十分な検討が必要です。  ある人にとってとても効果的なセルフマネジメ ントの方法であっても、他の人にも同じように効 果的かどうかはわからないのです。  自分に合ったセルフマネジメントの方法を探す ことが大切です。 行動分析学的に正しい祠OOOリ ストの使い方←  予定通りに行動するためにToDoリストを使う のも、スケジュール帳の活用と並ぶ王道の方法で  セルフマネジメントのツールとしての、HO{}O リスト活用法を考えていきましよう。  まず、ToDoリストをつくるには、自分かやる べき行動を端的に箇条書きする必要があります。  これは、セルフマネジメントで最初にやるべき 「標的行動の定義」そのものと言えます。先にご 説明した死人テストを思い出しながら、標的行動 をリストに記入していきます。  「○○を頑張る」ではなく、「○○までに△△さ んに口口する」というように、「期限」と「相手」 を「明確な行動」を記入することができれば効果 が高まります。  明確な行動を記入するためには、行動を細分化 するのが一番です。  たとえば、「○○について企画を考える」とい う行動には、その前段階の「資料を集める」とか 「△△さんに相談する」といった行動が含まれま す。  たとえば、相談するには△△さんにアポイント を取ることになるので、「メールで相談日時を調 整する」行動が必要になります。  企画を考えるということを細分化すると、いく つかの行動が並行して、かつ連続的に行なわれる ことがわかります。 ●記入方法、運用法、ツールの選び方  そのため、ToDoリストの記入の方法には、い くつかのやり方が存在することになります。 【方法1】「企画を考える」などと大枠のやるべ      きことをToDoリストに記入して、そ      のために必要な行動はその都度頭の中      で考えて行動する。 【方法2】難易度が高くて行動を起こしにくい行      動や、忘れてしまいがちな行動など、      細分化された行動の中で、特に重要と      思われる行動だけをToDoリストに記      人する。 【方法3】細分化された行動をできるだけたくさ      んToDoリストに書いて、あとは深く      考えずにそれを順番にこなしていく方      法。  予定通りに行動できそうなときは[方法I]で いいでしょう。しかし、作業が思うように進まな いと感じたら[方法2]を使い、それでも動き出 せない自分に気づいたら[方法3]を使うといっ た、段階的な運用をするといいでしょう。  また、行動の期限に応じて、どのようなツール を使って記入するのかも考えたほうがいいでしょ  たとえば、期限が1ヵ月以上先ならスケジュー ル帳やカレンダーにToDoを記入するのでも良さ そうですが、数日以内にやるべきことなら付箋に 書いて机やパソコンなど目につく場所に貼ってお くのがいいでしょう。  ToDoを見ることは行動を促す。キッカケとし ての自己教示”になるので、貼る場所はかなり重 要です。  その日のうちにやらなければならないことなら、 手の甲にToDoを記入する方法もいいでしょう。  なんといっても手の甲に書かれた文字は、毎日 数十回以上視界に入るための行動のキッカケとし ての効果は抜群です。  記入するペンが油性であったとしても、徐々に 消えてしまうため、文字が消えてしまう前に作業 を終わらせたいという動機も生まれる可能性があ ります。  手に書いたToDoのメモを他人に見られるのは 少し恥ずかしいかもしれませんが、その恥ずかし さがあるからこそ、早く行動を完了させて手の甲 の文字を消そうとも思えるでしょう。 削除の喜びも重要!←  ToDoリストは、終了したら削除することも重 要です。  自分のパソコンや机や手帳にたくさんのメモや 付箋が貼られ、増え続けて処理できなくなってし まっては良くありません。  ToDoリストは、作業終了時に、記入内容に二 重線を引いたり、付箋を剥がして捨てましよう。 それが強化子となるからです。  視覚で認識できるToDoリストは溜めてしまう と、それ自体が嫌悪刺激になります。その逆に、 削除したり、捨てたりして、ToDoが減っていく と、手ごたえを感じられます。  リストの行動項目が減ることで次の行動が促さ れるなら、それは「除去型強化」です。  ToDoリストは、「企画を考える」のような行 動の強化子(企画がひらめいて文書化される)が 生じるまでに、やらなければならない動き出すた めに負担のある行動を促す役割を持ちます。  つまり、「即時結果5遅延結果」の問題への対 策なのです。  ポジティブな将来の結果を手にするまでに、や らなければならない数多くの行動をやり抜くため に、除去型強化(達成したリストの削除)を自分 で行なっているのです。  この理屈がわかれば、リストを削除することの 重要さも理解できると思います。  リストの行動が完了できたら、できるだけ早く 達成感を味わいつつ、二重線を引くなり付箋を剥 がすなりして、ポジティブな即時結果を自分に与 えてあげましょう。「よしよし」と頷きながら付 箋を剥がして、ゴミ箱に捨てましよう。  小さな喜びがこまめに得られる機会を大切にす ることが、先延ばしをせずに予定通りに行動する ためのコツです。 打率は低いが安打が多い選手が ・こ  作業を始めることができればそれなりに行動で きるけど、始めることが難しいという人はきっと たくさんいるでしょう。  これは、行動の始発に関する問題です。  「作業を始めることはできるけど、集中が続かず にすぐにやめてしまう」という問題を持つ大もい ますが、行動の始発で悩んでいる人のほうが圧倒 的に多いのです。  作業が始発できなければ、何も進捗しないわけ です。 ・重要な仕事があるのに始められない ・期限が迫っている試験があるのに勉強に取りか  かれない ・ジョギングをすると決めたのに、いざやろうと  するとできない ・美しい体をつくりたいのに、筋トレが習慣化し  ない  始発できるけど途中でやめてしまうことよりも、 始発できない問題のほうが悩みが深いのは明らか です。  集中時間が短いとしても、何度も繰り返し始発 できれば作業は進みます。「集中できない問題」 の解決も、始発の頻度を増やすことで解決が可能 です。  応用行動分析学には、行動連鎖という概念があ ります。囗常における行動というのは、小さな行 動がドミノ倒しのように連続的に生じることで成 立しているという考え方です。  たとえば、「アメをなめる」行動を考えてみま しよう。  「たくさんのアメが入っている袋を開ける」 ↓ 「袋からアメをひとつ取り出す」 ↓ 「アメを個 別に包んでいる包装を開ける」 ↓ 「中のアメを 取り出す」 ↓ 「アメを口の中に入れる」 ↓ 「舌を使ってアメを口の中で転がす」  という一連の行動が滞りなく連鎖することに よって、ようやくアメの味を楽しむことができま す。  私たちが日常の中で行なう行動の多くが、行動 連鎖によって成り立ちます。行動連鎖は、最初の 行動が始まらなければその後の行動が生じないこ とになります。  逆に言えば、最初の行動さえ起こせれば、その 後の行動連鎖は流れのままに生じてくれます。  肝心なのは、行動の始発です。  行動の始発が問題なら、その行動を細分化して 行動連鎖の最初の行動を標的とするのが一番の手 です。  たとえば、パソコンを使った作業の場合は、パ ソコンを立ち上げることが最初の行動、つまり標 的行動です。ノートパソコンを使うのであれば、 ノートパソコンをカバンから取り出して開くこと が標的行動になります。  つまり、いつも先延ばししている作業がある場 合、その作業をやるかどうかはともかく、パソコ ンを立ち上げることを標的にして、「立ち上げる ことができれば良しとして問題ない’・」と私は言 いたいのです。  パソコンを立ち上げても、作業しないなら意味 がないと思われるかもしれません。  しかし、パソコンを立ち上げたうちの3同にI 同でも作業に取り掛かれたなら十分な成果です。  3回のうち2回は作業をしないわけですが、野 球では打率3割のバッターはとても優秀とされま す。先延ばしの多い人なら、4回にI回の割合で 作業できたらすごいことです。  打率が柢くても、打席に立つ回数を増やせば安 打の数は増えます。パソコンを開く回数を上げれ ば、作業に取り組む時間も長くなります。単純な 話です。 ●「作業など完了させなくてもいい’・」  くらいの気持ちで’・  「行動を始発したからには、最後まで行動を完了 させなければならない」という完璧主義な発想を してしまうと、時間に余裕があって体調が良いと きくらいしか行動を始発できなくなってしまいま す。  途中までしか行動できないことに嫌悪を感じる ため、行動の阻止が生じるからです。中途半端な 作業になることが弱化子となり、その弱化子が出 現することを阻止するために、行動を始発しない (随伴性)ということになります。  そのため、行動を完了できる状況で作業をした いと思うわけですが、時間に余裕があって体調が 良いときなど、そう簡単に訪れるわけではありま せん。  今は余裕がないとか、体調が万全ではない、と いう理由を見つけては、先延ばしをしてしまうの です。  「時間に余裕がなくても、可能な範囲で少しでも 作業ができれば良い」  「体調が悪くても、少しぐらいならできる作業が あるかもしれない」  そういった思考を持って、最後まで作業を完了 できないとしても、行動を始発させるのが先延ば しを防ぐテクニックです。   つまり、行動の完了を標的行動にするのではな く、行動の始発を標的行動にするということです。  i望思識に””自動的に”行動し てしまう場所とは?←  行動の始発を標的とした場合、生活の中で行動 を始発できるタイミングをいろいろと探してみる ことをおすすめします。  行動の成果や時間ではなく、始発を標的にする ことで、行動するタイミングを剔出することが可 能になります。  日常生活のスキマ時間を活用できれば、行動を 始発する頻度を上げることができるのです。  たとえば、よく知られた方法としてトイレを活 用する方法があります。トイレの壁に覚えたい英 単語や歴史年表などを貼っておいて、トイレを使 用している間に記憶するようなことです。  昔からの伝統的な方法ではありますが、大変効 果的です。誰もが毎日利用する家のトイレは1日 5分の滞在だとしても、月に約150分滞在して います。  この時間を活用しないのはもったいない。しか も、トイレは個室で、他の人が入ってくることも ありません。つまり、とても集中しやすい環境で す。  この方法の最大の長所は、行動の始発を意識し て準備する必要がないことです。  トイレに座ってしまえば、自動的に行動に必要 な準備ができているため、あとは文字を読めばい いだけです。  興に乗ることができれば、5分と言わず10分や 20分滞在しても大家族でなければそれほど問題に はならないでしょう。  トイレでできるような作業しかできないのが難 点ではありますが、工夫すれば様々な作業が可能 だと思います。  心理的な抵抗感もあるでしょうが、そこは慣れ です。作業の重要性が高いのなら、チャレンジす る価値はあります。  また、人と会う約束があるとき、待ち合わせ場 所に約束の時間より30分以上早く行くようにして 相手が来るまでの時間に仕事をするのもいい方法 です。  待ち合わせることが多い仕事の人は特に有効で しょう。カフェやベンチや自動車の中など……。 持ち運べるパソコンやスマホなどで行なえる仕事 に限定されますが、こうしたスキマの時間は集中 しやすくて仕事がはかどります。  意識的に待ち合わせには早めに到着するように することで、行動の始発が増えるのです。遅刻も 減るし、一石二鳥です。暇つぶしにSNSを眺め るよりはずっといいでしょう。 行動回数が増える「ワークーレ ジャー・バランス」法←  スキマ時間を活用する別のアイデアとして、自 動車移動が多い人であれば、高速道路のサービス エリアやパーキングエリアに止まったタイミング で、仕事をする方法があります。  高速道路を運転していれば食事やトイレなどで 必ず利用するので、止まったタイミングを行動の 始発のキッカケとして活用するわけです。  最近のサービスエリアは、充電用の電源がある 席やワークスペースを設置していることも多く、 しかもほとんどの場所は滞在するだけなら無料で す。  24時間利用できることも多く、空調も完備され ています。小さなパーキングエリアはそこまでの 設備はないかもしれませんが、車内で作業するな らそれでも問題ないでしょう。  すごろくの人生ゲームで道を進みながら途中で お金を稼いでいくようなイメージで、高速道路を 進みながら仕事を進めていくのは、ゲーム感覚も あってなんだか楽しいものです。  仕事の即時結果がネガティブなら、行動は起き にくくなります。少しでもネガティブさが緩和さ れるアイデアをたくさん持つことができれば、自 然と仕事の始発が増えるに違いはありません。  必要な仕事に手かっかず息抜きとばかりに好き なことばかりしてしまっている場合は、その余暇 活動をした時間だけ仕事をするというルールを自 分に課すのも面白いでしょう。  たとえば、仕事をしたいのにそんなときに限っ て面白い動画を見つけてしまうことがあります。  そんなときは、仕事をするかそれとも動画を観 るか苦しい決断に迫られるわけですが、多くの場 合は動画を観てしまいます。  どうせ観てしまう可能性のほうが高いのなら、 動画を観るけれども動画を観た時間の分だけ仕事 をすると決めて、気分良く動画を観ましよう。  これを繰り返すと、「好きな活動」と「始発し にくい活動」を交互に行なう形になりますが、こ のやり方は大変効果的であることが知られていま す。  知り合いのサウナ好きな人が、「忙しいときで もサウナに入りたくてしようがない。サウナが我 慢できずに困っている」と私に相談してきたこと がありました。  そのとき私は、「サウナを我慢するんじやなく て、サウナに入った時間と同じだけ仕事をする ルールにすれば、サウナに入るほど仕事が進むこ とになるよ」と助言しました。  この「ワークーレジャー・バランス法」とでも いうべき方法は、余暇活動の時間を制限しないた め、仕事に使える時間が少なくなるという不安を 持つかもしれません。  しかし、そもそも手につかすに先延ばししてい る仕事なのであれば、確実性の高い行動始発の機 会が増えたほうが有益です。  実際、私か助言をした知り合いは、サウナ施設 の中で一番気が進まない作業を完了することがで きたとのことです。その後は、サウナに頼らなく てもスムーズに仕事が進むようになりました。  特に手が止まる作業については、余暇の力を借 りるのもいいでしょう。 偶然の力に従う傾向を利用して ”2分の1の確率”で始める←  先延ばししたくなる作業を目の前にしたとき、 「今やるべきか、あとでやるか」で迷うことがあ ります。  多くの場合、今やったほうがいいわけですが、 あとでやる選択肢を思いついてしまうとそちらに 引っ張られる可能性が高まります。  そんなときの対処としては、「コイントス法」 が効果的です。  コイントスは2択の決定をするのに昔から用い られる方法であり、指でコインをばしいて激しく 回転させ、手の上などで静正したときのコインの 上面が表か裏かで物事を決めます。  今でも、サッカーやアメフトなどで、試合開始 前に最初にボールを持つ側を決めるのに公式ルー ルとして行なわれています。  つまり、コイントスをしてコインが表なら今や り、裏ならあとでやることを決めるのです。  先延ばししたい仕事について、今やるかあとで やるか考えても、時間をかけて考えるほどあとで やるほうに流されるものです。  それなら、2分の1の確率で今やる可能性があ るコイントス法は、実行する価値があります。  漫画『鬼滅の刃』の女性剣士カナヲが、判断に 迷ったときコイントスをして決めていたシーンを 知っている人はイメージしやすいでしょう。  私たちは、コイントスやじやんけんやサイコロ など、偶然性によって決められたことには抵抗せ ずにあきらめて、その結果に従う傾向があります。  その偶然の力に行動の始発を促してもらうのも 一興です。どうせやるなら、楽しいほうがいいで すし。 やっぱり15分ルールは使える’・ {  私の師匠(大学院での指導教員)は、研究発表 や講演などで多くの人が本当に集中して話を聞け るのは「15分ぐらい」なのだと教えてくれました。  15分以上同じ話題を続けないほうがいいと、プ レゼンの指導をされたのです。  15分は短いように思うかもしれませんが、そう でもありません。実は、1分でも、意識して計る と案外長く感じます。  よく思い出すと自分も講演などで難しい話を聞 いているときは、だいたい15分ごとぐらいに集中 が切れて、関係のないことを考えているような気 がします。  つまり、60分の発表や講義をするなら、15分ご とぐらい、つまり3回は話の展開を変える必要が あります。  起承転結のように、60分を4分割して話題を展 開させないと聴衆は集中を維持できないというこ とです。  これも「即時結果S遅延結果」の原則で説明で きます。  60分という遅延結果に、人はなかなか耐えられ ません。60分の話を強化子なしに聞き続けること はできないのです。60分の話を聞くには、その途 中で細かく強化子が配置されていなければなりま せん。  それがなければ、他のことを考え始めてしまっ たり、眠くなってしまったりするのです。少なく とも15分にI同ぐらいは強化子が必要でしょう。  人の話に集中できるのは15分。このルールは、 自分ひとりで行なう作業についても適用可能です。  たとえば、今から卯分ぐらいの時間を使って仕 事をしようと思ったとき、15分をIセットとして 「卯分の中で何セットできるかな」と考えてみま す。  15分×6セットで卯分ではありますが、それで は一度も集中を途切れさせないで作業し続けるこ とになるので非現実的です。  現実的な計画としては、15分×5セットで計75 分、各セットごとに4分の休憩を入れて4分×4 回で計16分、作業75分と休憩16分で総計は91分と いった感じになるでしょう。  つまり、卯分の中で15分を5セット行なうこと が目的となります。逆に言えば、15分ぐらいは休 んでもいいと考えることができます。  このような発想ができることには、とても価値 があります。多くの人は、卯分の時間があるのだ から、90分すべて集中して作業することを目標と してしまいがちです。  この目標は先ほど言ったように現実的ではない ので、かなりうまく作業できたとしても集中でき ている時間は75分ぐらいでしょう。  しかし、90分を目標にしていたので、75分でき たとしても素直に喜ぶことができません。もしか したら、予定通りにできなかったと感じるかもし れません。  かなり頑張れているのに、十分ではなかったと いう自己評価になってしまい、75分の努力に対し て強化子を提示できていないのです。 ●「何時間より何セット」を意識してみ  る  セルフマネジメントの仕組みとして十分な行動 ができているのに、強化する機会を失っているの で、これは大変にもったいないことです。  15分を5セットぐらいという現実的な目標であ れば、75分で目標達成となり、ポジティブな自己 評価をすることができます。次も頑張ろうという 気にもなるでしょう。  しかも、セットごとに自己強化として、お茶を 飲んだり、チョコレートを食べたりできれば、小 さな即時結果(強化子の提示)を繰り返すことが できるので、行動の継続が期待できます。  何時間頑張れるかではなく、何セット頑張れる かを考えることで思い通りに行動できる可能性が ぐんと上がるのです。  また、15分ルールの応用も考えてみましよう。  他にやりたいことがあってやるべき作業を始め ることに抵抗があるとき、Iセットだけでもやろ うと思うことができたらすばらしいものです。  他に誘惑があるときや忙しいときでも、Iセッ ト15分できた実績にはとても価値があります。  今後、生活の中で生じる15分程度のスキマ時間 があれば、作業をする可能性が上がったからです。  さらに、15分のつもりで始めた作業であっても、 やってみると調子が出てきてポジティブな自己評 価が発生するため、もうIセットやろうと思うか もしれません。 タイマーを使うなら、数字式よ り視覚式←  15分ルールに基づいて行動するとき、タイマー を使うとさらに強力な効果が得られます。  タイマーで15分をセットして、カウントダウン をすることで、セット数を意識しながら行動する ことができるからです。  タイマーの存在は、標的行動を始発する「キッ カケ」となって、セルフマネジメントにおける自 己教示の役割を果たします。行動力を上げるので す。  近年は、様々なタイプのタイマーが販売されて いますし、スマホのアプリとしてもたくさんの種 類を使うことができます。  シンプルなキッチンタイマーでもちろん問題な いですが、砂時計やオイル時計のような時間を数 字ではなく、視覚的に表現するタイマーもありま す。  視覚的に時間を示されたほうが、直感的に残り 時間を把握できるので、より強い影響力が見込め ます。  そうした効果を目的とした商品(視覚的タイ マー)は様々なものが売られているので、ネット で検索してみるといいでしょう。  自分好みのタイマーを用意することで、15分 ルールの活用が促されるし、タイマーを使うこと 自体が楽しく感じられるようになるものです。 やるべきこと以外できなくなる 「時間課金」法←  15分ルールの応用法として、ネットカフェなど 時間で課金される環境を活用するのもひとつの手 です。  ネットカフェやコワーキングスペースでは、10 分ごとや30分ごとや1時間ごとなど、単位は様々 ですが時間の経過に伴って課金されます。  3時間パックや6時間パックといった長時間の 単位で課金される場合もありますが、時間で課金 されることに変わりはありません。  お金を使ってでも集中したい場合は、このよう な場所で15分ルールに基づいてタイマーを使うと より強い影響を自分に与え、行動を促すことがで きます。  15分間、作業せずにぼ1つとして過ごすと、お 金をムダにしたという嫌悪感が生じるからです。  この嫌悪感は、作業以外のことをした15分に対 する即時結果(弱化子)になるため、作業以外の 行動が弱化されます。  つまり、作業する行動がより促されるのです。  スマホやスマートウオッチなどで、15分ごとに アラームが鳴ったり振動したりするように設定す るといいでしょう。  ただし、お金を失うことが嫌悪的過ぎると、作 業自体が嫌いになってしまいます。お金に余裕が あるときや、「この囗だけは、ストイックに自分 を追い込んででも仕事をしなければならない」と いうときに実行することをおすすめします。  「スタートダッシュ&締め切り」 効果で大目標を楽々クリア’・←  一定時間行なう作業を、ずっと同じペースで行 なうことは難しいものです。  多くの人が、作業始めは集中して速いペースで 行ないます。そして、疲労とともに徐々にペース が落ちていきます。終了時間に近づくと、最後の 踏ん張りで集中力が復活してベースが上がります。 だいたい、このようなペースで作業をするでしょ  このように作業の最初に効率が上がることを 「スタートダッシュ効果」と呼び、終わりが近づ くと効率が上がることを「締切効果」と呼ぶこと にします。  なぜ、このような効果が生じるのでしょうか。  作業を始めたばかりのときは、作業による疲労 や、失敗や、思い通りに進まないイライラなどの ネガティブな即時結果が生じていないため、達成 のために高い動機があればスタートダッシュ効果 が生じます。  そして、作業の期限や終わり時間が近づくと、 中途半端のまま作業が終わらない結果が現実的に なるため、作業が残るというネガティブな結果に なることを阻止するために締切効果が発動します。  「弱化子出現の阻止」の随伴性です。この2つの 効果は多くの人に共通して生じる現象なので、う まく活用できるといいでしょう。  時間に余裕があって、締め切りがずいぶん先の 仕事の場合、長期に渡ってゴツゴツ仕事を続ける ことはとても難しいものです。スタートダッシュ 効果と締切効果が発揮されるタイミングは、一度 ずつしか生じないからです。  逆に言えば、スタートダッシュ効果と締切効果 をたくさん発生させることができれば作業は効率 的に進むでしょう。 ・資格試験の勉強 ・仕事上の大きなプロジェクト ・美しい体をつくるためのダイエット ・10キロやせるためのジョギング  長期に渡ることを短期間の作業に切り分けて、 締め切りをたくさん設定すればいいのです。  一般的に、長期目標を達成するために短期目標 を決めることが多いのは、こうした理由からで しょう。  短期目標を複数設定して連鎖的に実行していく ことで、短期目標ごとの締め切りができます。す ると当然、スタートダッシュ効果と締切効果が繰 り返し発生するため、作業の効率性が高まります。  長期目標のみだと目標に対する結果が生じるの はずいぷんと先になるため、遅延結果に支えられ ることになり、行動が促されにくいとも言えます。  やはり「即時結果S遅延結果」の原則から、短 期目標を設定することで即時結果の強い影響力を 活用しているのです。つまり、短期の「目標設 定」による自己教示と締切ごとの「自己評価」を 繰り返すセルフマネジメントを実行しているので す。  セルフマネジメントの根幹は、遅延結果では維 持できない標的行動に、即時結果が繰り返される 随伴性を組み込むことであるのを忘れてはいけま せん。  「頑張りたいのに、頑張りたく ない」これも人間の特徴←  ここまで、思い通りにならない自分に対して 様々な工夫をすることで、予定通りに行動できる ようになる方法を解説してきました。  しかし、人生は思い通りにはいかないものです。 人生は偶然や気まぐれに大きく影響を受けますし、 他者との集団生活を送る上では自分の思うように はできないことばかりです。  何度も失敗を繰り返しながら、人は成長してい くものです。自分の思い通りにいかない場面があ るのは、自然なことでしょう。  自分に完璧を求めてはいけません。  「困難にぶつかっては落ち込んで、前進と後退を 繰り返すことが人生である」と受け入れたほうが いいでしょう。  もちろん、思い通りにいかない自分を改善する 方向性が間違っているわけではありません。行動 を改善するべきですし、行動分析学はそのための 学問です。  ただ、改善する努力をする一方で、思い通りに いかない自分を受け入れることも大切です。  一見矛盾する2つの考え方を共存させて、両立 させることができるのが人間であり、人の能力で あり、人の大きな特徴でもあります。  こうした心理面の両価性は、大の思考や感情に おいてよく見られます。  たとえば、挑戦するとき期待と不安は共存しや すいし、大切な人の巣立ちでは喜びと悲しみが共 存します。  反対の関係にある感情が同時に生じたからと いって異常なことではなく、そのようなことが可 能なのが人の特徴であると理解しましよう。  努力したい気持ちと努力したくない気持ちが共 存するのは、おかしなことではありません。  先延ばしをするのは人として普通のことであり、 全く先延ばしをしないことを求めるのは現実的で はありません。  できないことを求め続けると、メンタルヘルス に不調が生じてしまいます。  ある程度の先延ばしをしてしまうことを見越し て、実害が出ない程度の先延ばしは認めることも 重要です。  そのうえで、実生活に大きな問題が出ない程度 に行動を管理することが肝要です。 マッチョな”打たれ強さ”より、 すぐ回復する「しなやかな強さ」 {  しかし、思い通りにいかないのが人生であると 理解したとしても、思い通りにいかなければ落ち 込んでしまうのが人の常です。  都合良くネガティブな感情の発生だけをコント ロールすることはできません。  思い通りにいかない出来事があると精神状態は ネガティブな方向へ悪化します。  ただし、落ち込むこと自体はなかなか回避でき ないとしても、落ち込んだ状態から回復すること はできます。  早めに気持ちや思考を切り替えて、精神状態を ポジティブな方向へV字回復させることができれ ば良いのです。  このように、心理的な逆境から回復していくプ ロセスをレジリェンスと言います。  レジリェンスとは、変形した物質が元に戻ろう とする物理的な力のことを言ったり、伐採された 森林が元の状態に戻ろうとする自然の回復力を意 味する言葉でもあります。  近年は、精神状態の回復力を表現することにも 使われるようになりました。  我が国では、レジリエンスという概念が広まっ た特殊な事情があります。  東日本大震災で多くの大が悲劇に遭ったことで、 強いストレスにさらされたあと、メンタルヘルス に不調を起こした大がとても多かったわけです。 ただ、調査の中で比較的早く、日常を取り戻した 人の存在も明らかとなりました。  その結果、そうした回復力の高い人の特徴、つ まり精神的なレジリエンスの高さに注目が集まっ たのです。  ビジネスの業界でも、学歴やIQよりもレジリ ェンスの高さが仕事の成功にとって重要であると いう考えが広まり、私か身を置く教育業界でも集 団活動の適応にレジリェンスの高さが必要とする 意見を聞くようになってきています。  私たちが日常生活で直面する様々な問題に対処 するためには、当然のことながら自分に合った方 法を見つけるために試行錯誤を繰り返すことが必 要です。  試行錯誤というのは、試すことと失敗すること を繰り返す中で正解を導き出す学習方法です。試 行錯誤をするには、失敗しても挑戦をやめない行 動力が必要です。  ここで言う行動力とは、失敗しても落ち込まな いような打たれ強さではなく、失敗して落ち込ん でもすぐに回復して挑戦を繰り返せるしなやかな 強さ、つまリレジリェンスです。 たとえ失敗続きでも”メンタル 的には大丈夫!ぷな自分をつく 亠 思い通りに行動できないとき、前述したセルフ マネジメントの対策を検討して実行し、その状況 に合った方法や自分に合った方法を発見する努力 をすべきです。  しかし、そのためには失敗しても試行錯誤を続 けられるしなやかな強さ、レジリェンスの高さが 必要です。  思い通りにいかない状況での対策法を知識とし て知っていたとしても、その対策の。どれを用い て”。いつどこで始めれば良いのか”など、実践 するために検討すべきことがいくつもあります。  予定通りに物事が進まない嫌悪状況で、そうし た前向きな検討をすぐに開始するのは、そう簡単 なことではありません。 自分を大切にする技術「セルフ コンパッション」とは?←  それでは、レジリェンスを高め、実践のための 前向きな検討を開始するには、どぅすれば良いの でしょうか。  失敗が続くような逆境においても、「前向きな 検討を開始するキッカケとなるような言葉を自分 にかける」のが、オーソドックスでやりやすいか もしれません。  逆境にいる自分を慰めたり、励ましたりする声 かけです。  たとえば、思い通りの結果が出なかったときに、 「良くできた部分もあったから、まあいい」と細 部に目を向けることで自分を慰める。  「完璧な人なんていないんだから、気にしても しようがない」と気持ちを切り替える。  「今回の目標には届かなかったけど、前回よりは 良くなっているから問題ない」と、物事の全体を 見るような視点で結果を捉える。  「自分の苦手なことがわかって良かった」「次か らどうしたらいいかわかった」と、今後に資する 情報が得られたことを成果と捉えたりしてみるの です。  このように、逆境にいる自分に対して優しく慰 めたり、励ましたりすることをセルフコンパッ ションと言います。  自分の大切な人、友達や家族が落ち込んでいる ときに優しく励ます行為をコンパッションと言い ます。その行為を自分に対して行なうことが、セ ルフコンパッションです。  つまり、自分の大切な人と同じくらい、自分の ことも大切に扱うことを意味しています。  仕事や作業に追われる中、思い通りに物事が進 まない状態が続くことはそれなりのストレスであ り、普段気にならない些細なことでも感情を揺さ ぶられてしまいます。  ちょっとしたことに怒りを感じたり、感情にふ り回される自分が嫌いになったりするかもしれま せん。  そんなときは、セルフコンパッションを駆使し てください。  試行錯誤しながら、落ち込んでもレジリェンス で回復し、自分に合ったセルフマネジメントの方 法を選んで実行するのです。  ネガティブな思考が繰り返されるときには、セ ルフコンパッションとして、  「集中できないときもある、ほんの少しでもいい から今できることをやろう」  「すぐ結果が出なくても、やると決めたことを実 行することが大切」  「苦手だからこそやる意味がある」  などと、自分に声をかけてみましよう。  自分の思い通りにならない状況を理解したうえ で、自分を優しく励ます言葉をかけると、行動が 促されます。 行動をしても成果が出ないとき の自分への言葉のかけ方←  セルフコンパッションのような自分への優しい 励ましの言葉は、自己強化として活用することが できます。  思うような成果が出ていないとしても、行動を 起こしたことは強化する必要があります。  成果というのは、I位になったとか、目標の契 約数を達成したとか、平均点を超えたといったよ うな、ある種の目標を達成したことを意味します。  しかし残念ながら、努力し、行動し続ければ、 その分だけ成果が得られる保証はありません。 様々な偶然の影響を受けるからです。  どんなに作業を頑張りたくても緊急事態が生じ ればその対応に追われるし、自分の体調がとても 悪いときもあります。  他の人と一緒にやる仕事であれば仲間の調子次 第で成果が変わるでしょうし、誰かと競うような 運動であれば相手の能力次第で成果が変わるで しょう。  試験の点数のようなものであれば、設問の難易 度やうっかリミスのようなものの影響を受けざる を得ません。  成果を得ることのみを強化子にしてしまうと、 大変な努力をしたけれど偶然の要因によって成果 が出ないときに、努力を強化することができませ ん。  これは大きな問題です。  行動としては申し分のないことをしているのだ から、その行動を続けるべきなのに、たまたま成 果が出なかったことで、行動が強化されずに減っ ていくのは非常にもったいないことです。  成果が出なくても行動としては間違っていない とき、その行動を強化する必要があります。  そんなときに、セルフコンパッションの言葉は 役に立ちます。  「すぐ結果が出なくても、やると決めたことを実 行したことがえらい!・」と自らに声をかけて、成 果がなくても行動したことを強化するわけです。  成果が出ないとき、自分を責めたり自分を否定 したりするのではなく、「今回の目標には届かな かったけど、前回よりは良くなっているから問題 ない」と自分を優しく励ます言葉によって自己強 化をするのです。  この自己強化はセルフマネジメントの一部とし て機能します。自己強化は、わかりやすいご褒美 を自らに与えることだけを言うわけではありませ ん。セルフコンパッションの言葉を自らに与える ことは、自己強化を実現する強化子です。 自分には100%やさしく接す ること!・←  強化子は、様々な分類の仕方が可能です。セル フコンパッションのような自らに与える言葉が、 どのような強化子と言えるのか考えてみましよう。 ●1 自己強化子S他者強化子  他者から与えられる他者強化子に対して、自分 で自分に与える強化子を自己強化子と呼びます。 つまり、セルフコンパッションの言葉は自己強化 子と言えます。  他者から褒められる言葉がとても強力な強化子 になることはわかると思いますが、このような他 者強化子には大きな欠点があります。  他者強化子が与えられるかどうかは、他者に依 存しているため、非常に不安定ということです。  他者から、欲しいときに欲しい言葉をもらうの は簡単なことではありません。  褒めてくれそうな親しい他者が見ている前で、 標的行動をしたり、行動したことを詳しく伝えた りしなければならないからです。  また、行動を見てもらえたとしても、必ずしも 望むような褒め言葉が得られるわけではありませ ん。  特に、わかりやすい成果がなければ、他者が褒 めてくれる可能性は下がります。  望む結果が出ていない相手をどのように褒めれ ば良いのか、適切な言葉を見つけるのは難しいの です。  それに比べて自己強化子は、やり方さえわかれ ば安定供給が可能です。  自分の行動の観察は常に自分でしているわけで すから、行動の直後に言葉の強化子を自らに与え ることができます。  しかも、どんな言葉で自分を励ますのかを自分 で決めることができます。  わかりやすい成果が出てないのに、自分を褒め るような言葉をかけることに抵抗を感じる人もい るでしょう。しかし、行動科学的には、成果が出 ていないときこそ行動を促す強化のメカニズムが 必要です。抵抗感を乗り越えて実行する価値はあ ります。 ●2 即時強化子S遅延強化子  セルフコンパッションのような自分にかける言 葉は、自分が求めている行動の直後に実施するこ とができます。つまり、即時結果です。  たとえ失敗しても、直後に「よし、次からどう すればいいかわかった」と励ます言葉を自分にか けることができます。  言葉による自己強化は、即時に実行しやすいこ とも大きな長所です。そのため、セルフコンパッ ションは即時強化子と言えます。  努力を積み上げて得られる成果は遅れてやって くる強化子なので、これを遅延強化子とするなら、 成果が出るまでの努力を維持するためには即時強 化子が必要です。  先に述べたように、個々の努力はうまくいった り失敗したりの繰り返しなので、即時の結果とし てはネガティブなものになりやすい。  そんなときに、自分を優しく励ます言葉をかけ ることは自己強化子であり、即時強化子でもある わけです。  即時強化子は、行動の維持に強い影響を与えま すから、セルフコンパッションの言葉がレジリエ ンスを高めることに重要であることはよくわかる でしょう。  レジリエンスが高いというのは、逆境において も自己を回復させ、日常を取り戻すための行動を し続けられることを意味しています。  だからこそ、その行動を即時強化する言葉が必 要です。 行動の改善とは、強化子の改善 ;亠  思い通りにならない自分−。  これは、思い通りにならない自分の。精神”で はなく、思い通りにならない自分の「行動」と考 えるようにしましよう。  ここまで読んできたあなたはわかると思います が、主に行動をコントロールしているのは、行動 の結果です。結果がポジティブであったり、ネガ ティブであることで、行動が増えたり減ったりし ます。行動をコントロールしているのが、意志の ようなものだと考えては、具体的な解決方法が見 つかりません。  行動における具体的な解決方法とは、どのよう な環境整備をして、どのような結果に自分を置く ことができるのかを計画することです。  行動を強化する結果である強化子を、どのよう に生活の中に組み込んでいけば、自分の望む行動 を自分にさせることができるのか、を考える必要 があります。  日々の生活の中で、行動と強化子を連動させる イメージを持つことが大切です。  行動が自然に促され、繰り返されるように強化 子を配置することが重要になります。行動を見直 すのなら、強化子を見直すことです。  つまり、行動の改善とは強化子の改善なのです。  それでは、強化子を改善するためには、何をど のような手順で進めていけば良いのでしょうか。  まずは、自分の生活の中にすでに存在している 強化子を知ることです。  自分が生活の中で自発している行動を思い起こ して、それらの行動がどんな強化子で維持されて いるのかを考えてみましょう。  影響力が小さな強化子から、影響力の大きな強 化子まで思い出してみてください。普段は自覚し ていない強化子がたくさんあることでしょう。  多くの人は、自分の強化子について大ざっぱに しか把握していません。精緻に丁寧に、自分の行 動に影響を与えている強化子について考えてみま しよう。  そして、先延ばしにしている行動と連動させて、 強化子を活用し、すぐに取り掛かるための方法を 検討していきましよう。  そうはいっても、何か手がかりがなければ検討 することが難しいのが強化子です。そこで私は、 自分の強化子を整理するための様式として「強化 子マトリクス」という表を作成しました(次の 表)。  上段の横軸には、主な強化子の種類が書いてあ ります。  行動を増やしたり強めたりする結果はすべて強 化子なのですから、強化子というのは無数に存在 します。  そのためすべての強化子の種類を分類すること はできないのですが、主な強化子の種類として5 つを取り上げました。  私たちが食事に関して無数にある栄養素を把握 するために、タンパク質・脂質・炭水化物・ビタ ミンーミネラルという5大栄養素の概念を利用し ているのを参考に、5種類にしました。  5大栄養素に倣っての、5大強化子というわけ です。 行動力を飛躍的に高める5大強 化子とは?←  5大強化子は、「生活」「対人」「トークン」「文 化」「自己」の5種類としました。それぞれにつ いて解説します。 ●1 生活  生活に関する強化子は、生きるために必要な強 化子や、体が求めているような強化子のことです。  最も代表的な強化子は食べ物に関することです。 自分へのご褒美としておいしい物を食べている人 はとても多いと思います。  食べることは、生存に必要な行為なので最も強 力な強化子のひとつです。  食べ物や飲み物を得ることだけでも強化子にな るし、食べる前の料理をする行為だけでも強化子 になり得ます。  お茶やコーヒーを入れること自体が、飲むこと と同じぐらい楽しいという人も多いでしょう。  さらに遡って、コーヒ上豆を買うこと自体でも、 コーヒ上豆の種類にこだわりのある人なら十分強 化子になります。  こうした強化子を、先延ばしにしている作業に 連動させましょう。  食べることは日々行なっていることなので、た とえば、食べる直前の15分だけでも先延ばしして いる作業に取り組めれば、その作業はその後も繰 り返されるようになり、大きな成果になっていき ます。  チョコレートの特定の銘柄のものを、先延ばし にしている作業の途中でのみ食べることにするの も筋が良さそうです。  睡眠や休憩など、体を休めることも強化子にな ります。  作業中に適宜休憩をとることや、長時間作業に 集中できたときには横になって仮眠したり、散歩 をしたり、シャワーを浴びたりするのも効果的で しょう。  最近は、入浴施設やサウナ施設の中にワーキン グスペースが設置されていることも多くなってき ました。  仕事に行き詰まっているときには、そういった 場所で仕事をしてからお風呂やサウナに入ること を試してみるのもいいと思います。  お風呂やサウナは非常にリラックスする場所で もあるので、強化子になるだけでなく、アイデア がひらめいたり考えが整理されたりする可能性も あります。 ●2 対人  対人とは、他者との関係から得られる強化子の 種類です。代表的なのは注目に関する強化子で、 他者の視線や笑顔や会話などが含まれます。  注目は、行動力を強める大きな力を持っていま す。自分の努力に対して、笑顔や褒め言葉などの ポジティブな注目があれば行動は促されます。  また、注目は他者と対面する場面だけではなく、 メールやSNSといったインターネットツールを 介して得ることもできます。  たとえば、自分が先延ばししているような行動 であっても、仲間と一緒に行動する機会を設定す ることで、努力に対して仲間と注目を与え合うこ とができます。  仲間に作業の進捗をメールして、コメントをも らうのも強化子になります。信頼できる友人や家 族に、作業の停滞や失敗をSNSで伝えて、励ま してもらうことも強化子になります。  そういった、他者からの支援をソーシャルサ ポートと言いますが、自らソーシャルサポートが 得られる状況をつくり出すこと、つまり強化子と して他者との関係を持つことは広い意味でのセル フマネジメントと言えます。 ●3 トークン  トークンとは、集めると、欲しい物や、やりた い活動の権利と交換できるような強化子のことで す。代表的なのは、貨幣やポイントです。  貨幣やポイントは、一定の量を貯めることで物 や活動と交換できるため、強化子となって行動を 増やしたり強めたりすることができます。  私たちの多くが仕事の報酬を貨幣でもらい、物 やサービスの購入に対してポイントをもらってい ることからも、強化子としての強力さは言うまで もないでしょう。  たとえば、先延ばしにしている作業に取り組ん だ囗は、自分にIポイントを与えるマイルールを 設定します。3ポイント貯まったら、ご褒美飯と して外食に行く権利を得ることにして、作業に取 り組むことを強化することができます。  ポイントの強化子は、自分の好きなタイミング で自分に与えることができるので、行動の即時結 果にすることができるという利点があります。  カレンダーなどに、ポイントを得たことを示す 記号や文字を書き入れて視覚化すると、強化子の 効果がさらに高まるでしよう。  また、信頼できる協力者がいるのであれば一定 の金額、たとえば5万円を協力者に預けて、Iキ ロの体重が減少するごとに1万円を返してもらう ような方法もあります。  この方法は、お金が移動しているだけで損も得 もしてないのですが、お金が返ってきたことは十 分に強化子の役割を果たします。  不思議に思うかもしれませんが、似たような出 来事はよく起こっています。  たとえば、給与から天引きされていた税金が年 末調整で現金として返されると嬉しいはずです。 これと似ています。  もともと自分の物であったものが返ってくるだ けでも、強化子となって行動を変える効果が見込 めます。 ●4 文化  文化に関する強化子は、趣味やスポーツ、芸術 やファッションといった余暇活動をすることに よって得られる強化子です。  休みの囗など生活の中の自由時間に、労力や時 間をかけて自発的に取り組んでいるような活動で す。  生活のためやお金のためというよりは、その活 動をすること自体が目的であり楽しみであるよう な活動です。  そうした活動に取り組むことを、強化子として 活用することができます。  たとえば、動画を観ることや読書すること、ス ポーツ観戦や登山やボルダリングなど体を動かす こと、音楽を聴いたり歌ったり絵を描いたりする こと。  ファッション情報を見たり、美容室に行ったり、 好みの服やアクセサリーを身に着けたりと、文化 に関する強化子は人によって大きく異なります。  こうした強化子を先延ばしにしている行動に連 動させることができれば、なかなか手をつけられ なかった作業も少しは楽しくなるものです。  先延ばしにしている行動をした直後に、強化子 になる活動をするように生活を設計するわけです。  大切なのは、楽しい活動をする前に目的の作業 をすることです。楽しい活動を我慢するようでつ らいと感じることもあるかもしれませんが、その 場合はあまり欲張らずに短い時間だけ作業してみ てください。  もともと先延ばしにしていたのだから、15分や 30分でもやらないよりは100倍いいです。短い 時間でも、スキマの時間を使って行動するクセを つけていきましよう。  また、とても先延ばしにしている作業であれば、 その作業をしながら同時に音楽を聴いたり、オー ディオブックを聴いたり、動画を流し観するのも 悪くないと思います。  もちろん、集中しにくい、効率が悪くなると いったことは起こるかもしれませんが、何もしな いよりはマシです。  先延ばししている作業は成果より、始発を重視 するほうがうまくいくことは先に述べた通りです。  集中できる環境を整えてから作業しようと思う と、その環境が整うまで作業は後回しになります。  短時間でも「思いついたときにやる」を繰り返 すことで、先延ばしの行動パターンを改善できる のです。 ●5 自己  自己に関する強化子は、自分に関する情報が得 られることです。  自分の成長や変化に関する情報を、記録やデー タとして与えられることであったり、自分で自分 の変化を言葉で表現することであったりします。  自分の行動についての記録をフィードバックす ることは、行動の変化をもたらすので、その フィードバックは強化子になります。  ポジティブな自分の変化を自覚したとき、いわ ゆる「成長感」や「達成感」を得ることができま す。  先述したセルフコンパッションは、自分の置か れた状況や自分の過去の振る舞い、将来の行動指 針について述べた言葉なので、自己に関する強化 子となります。  また、他者に必要とされている自分の価値に気 がつくことや、社会における自分の位置付けを知 ることも強化子になります。  つまり、自分が人の役に立っていることや、社 会の中に自分の居場所があることを感じて言語化 することも強化子になるということです。  自分の夢や目標について語ることも強化子にな り得ます。  自分の行なっていることや苦労しながらも努力 していることが、自分の目指す方向に合致してい るという感覚は自己実現と言われ、これも自己に 関する強化子と言えます。 生活の中に「行動してしまう仕 組み」を配置する←  強化子マトリクスは、前述した5大強化子の種 類が横軸になっており、縦軸は強化子が生じる夕 イミングを示しています。  この強化子マトリクスの空欄を埋めることで、 自分の生活における強化子の配置がどうなってい るのかを俯瞰することが可能になります。  強化子の観点から自分の生活を見ると、構造や バランスやレパートリーが浮き彫りになってきま す。  このマトリクスを作成しながら、強化子と先延 ばしにしている作業を連動させてリンクさせる方 法を考えていきましよう。  次の表は、強化子マトリクスの記入例です。  先延ばしにしている作業に手をつけ、行なって いくことができるようになる可能性のある強化子 が書き込まれています。  もちろん、記入する内容は個々によって異なり ます。  普段から自分の生活の中に存在している強化子 をベースに、こんな強化子もあったらいいなと思 うものを記入していくといいでしょう。  それでは、強化子が生じるタイミングごとに記 入例の説明をしていきます。 ●1 15分ごと  先に述べたように、本書では一般的に人が高い 集中を維持できる時間の基本単位として15分を目 安にしています。15分ごとに得られる強化子とは、 どのようなものがあるのかを考えてみるのはとて も有効です。  記入例の【生活】の15分ごとの欄に「ポテチー 枚」と書いてあるのは、ポテトチップスの袋を横 に置いて、時々かじりながら作業をするイメージ です。  場面によっては行儀が悪いと思われるかもしれ ませんが、この程度のことで先延ばししていた作 業が始められるならお得です。  カロリーが気になる人は、コーヒーなどの飲み 物でもいいでしょう。  15分は目安ですから、数分ごとでもかまいませ ん。  【自己】の欄にあるように、自分の集中度を確か めながら自分を褒めるようにポテチをかじると良 いでしょう。  ポテチがなくなったら、【文化】の欄にあるよ うに好きな音楽を聴いて、時どき「いい音楽だな あ」と思いながら作業をしましょう。  もし、近くに仲間がいて一緒に仕事をしている のなら、【対人】の欄にあるように時どき仲間の 笑顔や努力している姿を見ると「頑張っているの は自分だけじゃないんだ。自分には助け合う仲間 がいるんだ」と思えて、励みになります。 ●2 1時間ごと  1時間から1時間半ごとに、私たちは休憩した くなるようです。  同じような作業をしていると、あきてきて集中 が途切れることになります。この状態で無理に作 業を続けても効率が悪く、嫌悪的になるので、 【生活】の欄にあるように「お茶休憩」のような ちゃんとした休憩を取って作業の強化子とするの が得策です。  お茶を味わいながら「けっこう頑張ったな。や ればできる」などと「自分の行動を褒める」と良 いでしょう。  もし仲間がいるなら、お茶を飲みながら会話を 楽しみ、互いに努力を褒め合うことができれば最 高です。  また、このときに「1時間の作業に対してIポ イントのトークン」を自分に与え、あとでIポイ ントを15分の動画視聴や、ゲームのプレーに交換 できるマイルールをつくるのも賢いやり方です。  [トークン]では、なかなか取り組むことができ ない難易度の高い作業内容の場合は、1時間2ポ イント、3ポイントなどと柔軟に交換レートを変 えてみてください。  動画やゲームはやり過ぎて依存になりやすい活 動なので、やり過ぎを防ぐことにも役立ちます。  甘過ぎると思うかもしれませんが、制限したと ころでどうせやってしまっている活動であれば、 強化子として活用して仕事や作業を促す役に立て たほうがマシです。  依存というのはやるべきことをやらずにその活 動ばかりしているのが問題なのであって、やるべ きことをした上でその活動をやっているのであれ ば大きな問題にはなりません。 ●3 1日ごと  I囗ごとの欄は、I囗のサイクルの中でI、2 回の頻度で生じる強化子を書く欄になっています。  [生活]では、たとえば、昼食や夕食は、ほぼ毎 囗定期的に生じるとても安定したイベントです。 「食事」の直前に一仕事を行なう習慣をつくるこ とができれば、思い通りにならない自分を変える 大きなチャンスになります。  I囗に一度ぐらいの休憩として、「仮眠」を 取って疲労感を回復させることや、「散歩」をし て気持ちや思考を切り替えることも有効です。  単に強化子になるだけでなく、精神神経的な疲 労を回復させるので、その後の作業効率を引き上 げることも期待できます。  また、「読書」「ゲーム」「スポーツ観戦」など の【文化】系強化子を帰宅後に楽しむ人も多いと 思います。  単に作業後にそうした活動をしてもいいのです が、【トークン】のポイントで交換できるご褒美 活動としてリンクさせるのも良いアイデアです。  さらに、日頃から付箋やアプリなどでToDoリ ストを活用している人は、その日に完了した「リ ストの項目を消したり、付箋を捨てたり」しま しよう。  これ自体かなり気持ちの良い強化子になります。  このタイミングで、貯めると、週末のご褒美飯 が可能になるポイントを自分に与え、お酒が好き なら「晩酌」をするのもいい手です。  もし、その囗に思うように仕事ができなかった としても、一部でも努力した部分があるなら、信 頼できる人とSNSでやり取りをして、励まして もらいましょう。 ●4 1週間ごと  私たちはI週間のサイクルで行なっている活動 も多いものです。言うまでもなく、学校や仕事の 多くはI週間のサイクルで、週末の休日のときに 強化子になるような活動をすることが多くなりま す。  外食で「ご褒美飯」を食べたり、自宅で豪華な 料理をつくることもあるでしょう。  休日は、「銭湯やサウナ」に行って体調や気分 を整えたり、「カラオケやボルダリング」に出か けてスキルアップを目指したりする活動がしやす いものです。  日々の活動の強化子として貯めた「ポイント」 を、休日に行なう活動に交換して使うとちょうど 良いサイクルになります。  先延ばしにしがちな上司への仕事の報告は、頻 繁にはしたくないでしょうから、「1週間ごとぐ らいに成果を確認」した上で、進捗をメールして 「コメントをもらう」ことになりそうです。ポジ ティブなコメントであれば、もちろん強化子にな りますが、相手のあることなのでネガティブなコ メントの場合もあるでしょう。  その場合は、セルフコンパッションとして「優 しく励ます言葉」を自分にかけて、早い回復(レ ジリェンス)を目指しましょう。 ●5 1ヵ月ごと  私たちは、1ヵ月周期で行なっている強化子的 な活動も多いですが、その理由は多くの人の「給 与」が1ヵ月周期で得られていることに起因して いると考えられます。  給料日直後の金銭的な余裕に応じて、「整体や マッサージ」などの比較的料金の高いサービスを 受けたり、友人や仲間との「飲み会」を開催した り、「美容室」を利用したり、「洋服などを買った り」するものです。  こうした魅力的な活動が可能なのは、1ヵ月の 継続的な努力の結果であることはつい忘れがちに なってしまいます。思い出して、自分に褒め言葉 を与えましよう。  そして、できれば魅力的な活動の直前にも先延 ばしにしている作業の一部を行なうようにしてく ださい。  また、給料日には明細を眺めながら、1ヵ月間 の自分が「目標に向かう行動ができているのを確 認」することで、小さな自己実現ができているこ とを確認できます。  マトリクスの作成は、自分の生活がたくさんの 強化子によって支えられているのかがわかるかも しれないし、逆にとても少ない強化子しかないと 感じる結果になるかもしれません。  しかし、そうした理解に至ることができる機会 は強化子を改善するチャンスと言えます。強化子 のレパートリーを拡大し、バランス良く生活の中 に配置することを考えてみましよう。強化子を改 善することが、行動を改善することになります。 あとがき 思い通りにならないことは楽しい!・  人生は、なかなか思い通りになりません。それ は、苦しいし、悲しいし、情けなくもあります。  しかし、思い通りにならないからこそ人生は楽 しいのかもしれません。  思い通りにならない自分−。やりたいのにや れない自分−。  思考と行動が一致しない自分に向き合うとき、 私たちは自分という不可思議なものを理解したい と強烈に思います。自己理解は、人生の醍醐味で あり、代えがたい喜びでもあります。  世界を知ることと自分を知ることは表裏であっ て、どちらも知的好奇心をくすぐる対象です。  そんな自己理解の喜びは、思い通りにならない 自分に向き合い、そのメカニズムに思いを馳せる ことで得られるようです。  人の持つ業とも言える両価性や、矛盾が生じる メカニズムを知る方法は様々あると思いますが、 本書では行動科学的なアプローチによる説明に焦 点を当てています。  私か行動科学の面白さに出会えたのも、やはり 思い通りにならない自分への興味からでした。  思い通りにならない出来事が自己理解をもたら し、科学的な理解への扉を開いてくれたのです。  科学の特徴は、失敗を認めるところにあります。 失敗に至った道筋を丁寧に分析することが、将来 の発見を促すという原理に準じているのが科学で あると思います。  人の理解や自己の理解も同じやり方が有効です。 思い通りにならない自分や予定通りに進まない作 業を丁寧に分析することで、人とは何か、自分と は何かについての発見が促されます。  思い通りにならない自分に対する嫌悪感を乗り 越えて、そんな自分に向き合うことで、仕事や生 活の課題を解決できるだけでなく、自分の人生を 豊かにする大きなきっかけも得られるはずです。  本書との出会いが、本書を読んでくれたあなた の自己理解の喜びに少しでも貢献できれば幸いで す。最後までおつき合いいただき、ありがとうご ざいました。                 竹内康二