スキル_仕事で使える変な力たち_高瀬敦也 考え方を アップデートしたら、 全部スキルになった。 はじめに  「なんかスキルを身に付けなくちやなあ」「もっと 給料上げたいけど、どんなスキルがあればいいのか なあ」「これから長く仕事していくのに、スキルが ないとやってけないかもなあ」そんなことが頭をよ ぎって、この本を手に取っていただけたのかもしれ ません。  ビジネスパーソンを評価するとき、大雑把に「優 秀かそうでないか」で語られがちですが、その基準 として「スキルがあるかないか」で判断されている ケースが多くあります。そのせいか、書店にいけば 「すぐに身に付く○○術」「誰でもできる○○法」な どスキルアップを促すたくさんの本が並んでいます。 たしかに仕事をする上でスキルは必要です。スキル があれば優秀な人になってお金も稼げそうです。  しかし「スキルつてこんなにあるのか」と感じる ほど、世の中には多様なスキルが縊れています。す べてを手に入れるのは無理ですよね。そうなると 「自分にとって必要なスキルつて何だろう」と考え ます。そもそも「自分には何のスキルがあって、何 のスキルが足りてないのか」よく分かりません。こ の本はたぶん、そんな方に。使える”本です。  ビジネススキルについては多くの知識人が説明し てきました。では、ビジネスで結果を出し成功者と 言われるような人たちは、一様にそのようなスキル があったのでしょうか。私は仕事柄たくさんの優秀 な人と関わってきましたが、そんなことはありませ んでした。  本書では、たくさんの優秀なビジネスパーソンの 知恵や経験、大切にしていることなどもまとめて、 今まで言語化されてこなかった「スキルにならなさ そうなこと」や、「今までよく耳にしたスキル」に ついてもちょっと違う角度でお話します。様々なス キルを網羅的に取り上げていますので、気になると ころだけ読んでいただくのも良いと思います。  スキルとはテクニックではなく「考え方」 「スキル」が欲しいと思う人の目的は、敢えて端的 に言えば「仕事を上手くやりたい」「仕事の能力を 上げたい」ということでしょう。  結論から言います。このような目的におけるスキ ルとは、実は「テクニック」ではありません。「考 え方」です。どんなことでも考え方や捉え方でスキ ルになります。「なんでもなさそうなこと」を言語 化して自分で認識したとき、それがスキルになりま す。剣になって戦いをサポートしてくれますし、盾 になって身を守ってくれます。  武器として使い始めると、周囲の大が勝手に「○ ○力がありますよね」と高いスキルを持つ大として 評価してくれます。これが「スキルの正体」です。  従来の「知識」を土台とした「テクニック」的な スキルは、テクノロジーの進歩や社会の変化でどん どん廃れていきます。すぐにまた新しいスキルを学 ばなければなりません。また、人の能力を測る上で、 AIを含めたテクノロジーの進化は「知識」の重要 度を下げています。これからは「考える力」や「考 え方そのもの」で差がついていきます。  本書では「誰にでも持つことができて、考え方ひ とつでスキルになること」と、少しだけ「身に付け るのに便利な方法」をご紹介します。それは流行り 廃りもなければ、経年劣化するものでもありません。 「考え方」のアップデートによって身に付いたスキ ルならば、ずっと持ち続けられる「自分だけのスキ ル」になるはずです。  人は「若い人」ほど優れている  ここからは「なぜそんな本を書いたのか」、軽く 自己紹介も兼ねてお話させていただきます。  「人は若い人ほど優れている。若ければ若いほど優 れている」。私はずっとそう思っています。それは 肉体的に元気だということではありません。若い人 は「文化的な人間」として優れています。  「いまどきの若い者は……」と次世代を憂う文句は いつの時代にもありますが、5000年前のエジプ 卜遺跡にも同様の記述があったそうです。しかし当 時は奴隷制が当たり前に存在していました。300 年前は「斬り捨て御免」という特権が武士には与え られていて「無礼と感じたら斬っても処罰されな い」なんてこともありましたし、「さらし首」も 150年前までは日常です。そこまで昔の話でなく ても、25年前は飛行機の中で喫煙していたのも普通 の光景でした。どれもこれも今この時代には考えら れないことですし、もし同じことがあったら大事件、 大問題です。  「世の中は時と共に良くなっていく」。これは歴史 が証明しています。10年スケールでは「昔の方が良 かった」というようなことが語られたりもしますが、 100年スケールでは確実に世の中は良くなってい ます。歴史を作ってきたのは「大」ですから、昔の 大より今の人の方が「良い大」なのです。ですから、 「いまどきの若い者は」と次世代を憂うのは間違っ ています。大は若ければ若いほど優れています。  この考え方を拙著『大がうごくコンテンツのつく り方』で書いたところ、大きな反響がありました。  ”おじさん”だちから「いまどきの若い者は」と言 われ苦々しく感じていた若い方々から「すっきりし た」などの反応はもちろんありました。しかしそれ 以上に。おじさん”世代側から「自分を戒める機会 になった」「生きる目的が明確になった」という感 想が多く寄せられました。それは、年配者の役割を 次のように説いたからです。  年配者の存在価値とは何か。それは若い人を叱咤 したり指導することではありません。「近道を伝え 残すこと」。これだけです。親はなくとも子は育つ とはよく言ったもので、若い大は叱咤したり指導な んかしなくても勝手に育ちます。よく「人材教育」 などと言いますが、少なくともビジネスシーンにお いて「大を教え育てる」なんておこがましいと思っ ています。これは私か謙虚ぶりたいからではなく、 「人の基本的人格や性格は変わらない」と考えてい るからです。  少し話が逸れましたが、いずれにせよ若い大は自 分の力で道を進む力があります。ですから先行者で ある年配者は、後を歩む若い人が不必要な遠回りを しないよう、危険を回避できるよう、「安全な近道 を伝え残すこと」が唯一最大の役割です。「教える」 のではありません。「伝え残す」だけです。  安全な近道を伝え残したら、どの道を選ぶかは次 世代それぞれの人が勝手に決めることです。「経験 した方がいい」と考えて敢えてデコボコ道を選んだ り、単純な冒険心で危険な道を求める人もいるで しょう。でも「危険な道だと知って進む」のと「本 当は避けたかったのに危険にあってしまう」のでは 大違いです。  私はコンテンツプロデューサーとして企画業を営 んでいますが、過去に書いた二幵は、「コンテンツ」 や「企画」という分野において「ノウハウを伝え残 す」ことを目的に書きました。本書ではもう少し範 囲を広げて、「ビジネスシーンと、ひいては人間社 会で生きる人」として、私か遠回りしたことで知っ た近道を伝え残したつもりです。  私は19年間会社員生活をした後、独立起業し6年 がたちました。被雇用者でもあり、雇用者にもなり ました。受注者でもあり、発注者でもありました。 選挙権も行使しましたし、被選挙権も使いました。 様々な軸で相反しがちな立場を経験しました。  また、私は子供のころから感受性が強くて、他人 の感情と自分の感情の境界線がほとんどなく、不必 要なほどに他人の感情に影響されていました。結果 として「自分が周囲からどう見られているか」人の 目を気にして過ごしてきました。  いい人と思われたいし、格好つけたい。でも、そ れが空回りして誤解を招いたり混乱させてしまった り。当然、人と接するたびに大きな干不ルギーを使 うので、人と関わるのが嫌になったり。それでも孤 独から逃れるために無理に人と関わって、案の定ダ メージを負ったり。そんな感じでも、なんとか生き てきました。ややこしい性格な上に、相反しがちな 様々な立場を経験してきた人生です。  小さな障害物につまずいたり、道を間違えて少し 遠回りするだけでも、いちいち立ち止まってアレコ レ考えてきました。一般的にはムダな思考だったと 思います。「でも、そんなムダな思考もまとめて言 語化できればムダではなくなるかもしれない。」そ う思ってまとめてみました。次世代を生きる優秀な 若い方々の、ちょっとした近道ガイドブックになれ ばこの上ない喜びです。  最後に、こういう本ってすごく立派な人や優秀な 人が書いていますよね。洗練された理論や突き抜け た経験が多くて、読めば刺激的かつ爽快で力が湧き ます。ですが、どこか少し自分事になりづらい人も いるかもしれません。読後はやる気になっていても、 なかなか続かなかったりということもありますよね。 一方この本は、さほど大きなことを成し遂げた人が 書いているわけでもありません。カッコいい高度な ビジネス書ではありませんが、気楽に読めてきっと 。使える”ビジネス書です。数年後、読んでくだ さった方が「これさあ、なんの本だったか忘れたけ ど、そこに書いてあった。使える考え方”なんだけ ど……」と部下や後輩にお話してもらえていたら。 そんなことを想像しながら書きました。 情報収集力  私は怠け者です。ですから情報収集が面倒で嫌い です。情報収集というと、ビジネススクールに通っ たり、メディアに課金して「ビジネスに必要なこと を能動的に集める」イメージが一般的かもしれませ ん。このイメージにおいては「情報収集は仕事の一 部」です。なんか面倒でやりたくなくなりますよね。  それでも情報収集はしなければなりません。情報 はビジネスのみならず、すべての「スタート地点」 になります。情報があるから思考できますし、別の 情報を理解できます。情報のあるところに人もお金 も集まります。  情報収集が嫌いな私ですが、そんな私でも「普段 どうやって情報を集めているのか」と聞かれます。 「人よりいろいろな情報を知っている」と思われて いるからです。実は、怠け者の私だからこそ効率的 に情報収集できていると思います。そのコツや考え 方をお話したいと思います。  情報は浅く広く  まず情報は「浅く広く」とります。意外と思われ るかもしれません。一般的に「物事は深く知ってい る方が価値がある」とされています。しかし、物事 を深く知ることはとても難しいです。実際に経験す ることが必要だったり、その分野に関わる人それぞ れの考えを知らなければなりません。それにはたく さんの時間を必要とします。ですから一つのことを 深く知るのは諦めて、まずは浅くてもいいのでたく さんの物事を知ることから始めます。  そもそも好奇心が湧くのは、浅く知ってからです。 「まったく知らない物事」に脳は反応しません。身 の周りにはたくさんの情報が飛び交っています。し かし目や耳はそれに反応しません。せっかく得られ るかもしれない情報がそばにあったとしても、 「まったく知らない物事」はスルーするようにでき ています。  行動経済学者のジョージーローウェンスタインが 提唱した「情報の空白」という考え方があります。 これは、新しい情報を得ることによって自分がそれ まで「知らなかった」ということに気付き、「すで に知っていること」の中にある空白地帯を認識する と「好奇心が湧く」というものです。まずは浅く 知っておくと、その先に深くたくさん知ることがで きるようになります。  また、この世で「ヒットするものやお金を生むも の」は、総じて「何かと何かの掛け合わせ」だった リ「何かと何かの間にあるもの」です。浅く広くた くさんのことを知っていると、いろいろな物事の掛 け算を楽しんだり、それが何かと何かの間にあるこ とにも気付くことができます。「浅く広く知ること」 は、「ヒットするものやお金を生むもの」をつくり 出すことにも繋がります。  浅く広く知るべき理由はもう一つあります。それ は「浅く広くたくさんのことを知っている人」が希 少だからです。希少であることには価値があります。  今の世の中にはたくさんのコンテンツや情報があ ります。SNSを通じてコンテンツが無限に生まれ ています。以前なら世に出ることのなかった小さな 情報がSNSを通じてたくさん流れてきます。そし て、それらのコンテンツや情報はパーソナライズさ れて届きます。そうすると「自分の好きな細かい領 域」にたくさんの情報が集まりますから、人はどん どん専門的になります。実は、現代は「なにかしら の専門家だらけ」なのです。同時にこの「専門家」 は「他の物事のことはあまり知らない」ということ になります。「浅く広く知る天」はどんどん少なく なってきています。  情報収集は一人でしない  情報収集する上でもうひとつ大切な考え方があり ます。それは「天に頼り、人から集める」というこ とです。情報収集は「自分一人でやること」と考え がちです。ですから冒頭でお話した通り「メディア やスクールにお金を使って情報収集する」という思 考になります。それも悪いことではありませんが、 効率が良いとは言えませんし、楽しく続けるのは難 しいかもしれません。そこで「天に頼り、人から集 める」ことをお薦めします。  具体的には友人や知人に聞くだけです。「最近す ごいと思ったことありますか?」「いいなと思った 天いる?」「面白かった本とかマンガある?」「美味 しくて安いお店知らない?」。すると相手は丁寧に 教えてくれます。相手も「自分が良いと感じたこ と」について話すのですから楽しく話してくれます。 そしてなにより、そうして得られる情報は編集され ていて、ふるいにかけられている状態です。つまら なかったマンガの情報やイマイチだなと感じたお店 の情報は削除され、価値ある情報のみが得られます。  相手が自分のことをそれなりに知っている人なら、 さらにこんな風に聞くこともできます。「私か知っ ておいた方が良さそうなことありますか?」「最近 こんな気分なんだけどオススメある?」。このよう に「今の私にとって必要なことは何か」と聞くこと で、より一層高い精度で編集された情報になります。 もはや個人的なコンサルティングの域ですよね。  久しぶりの人と連絡をとるのもお薦めです。久し ぶりであればあるほど、その間にいろいろな出来事 があります。就職や転職、結婚や離婚など、様々な 人生のイベントがあります。質は量に比例しますか ら、母数となる時間が長ければ編集の質も上がって、 密度の高い情報が得られます。そこまで合理的に考 えなくても、単純に久しぶりの友人と連絡を取り合 うのは楽しいですし、人間として豊かな行いですよ ね。  情報は人が集め、人が発信します。この原理で考 えれば、「人と話すことで情報が集まってくる」と いうのは自然なことです。もちろん、情報は自分か らも相手に提供する必要があります。「自分と話す 時間が相手にとっても価植あるもの」でないと、次 回は話してくれないですよね。一種のマナーとも言 えます。  「情報は情報のあるところに集まる」性質がありま すから、「情報を持っている人」というキャラク ターができると、今度は相手から勝手に情報を持っ てきてくれるようになります。  情報を浅く広く拾い、深く知るためのアンテナを 広げ、人との会話を通じて編集された情報を得る。 そうして結果的に楽しく情報を集めて「情報を持っ ている人」になっていくこと、それが「情報収集 力」というスキルです。 市場理解力  市場(マーケット)を理解するにあたって、近年 では便利なツールがたくさんあります。デジタル マーケティングの進化と共に、市場(マーケット) とのコミュニケーションは数値化されてきました。 市場への意識は一部のマーケターや専門家に隕られ ていましたが、SNSのアナリティクスなどによっ て生活者にも浸透し、市場理解への欲求は一般化さ れてきています。「市場について考える」というこ とがとても身近になってきていますから、市場理解 力は今やあらゆるビジネスパーソンにとって必要な スキルになっています。  市場の動きは気分で変わる  市場というものは、ミズモノです。1分1秒ごと に変わっていきます。ですから「これってこうだ」 というように決めつけるのは短期的には不可能です。 10年スケールー00年スケールで、後から振り返っ て初めて正しく言語化できる性質のものです。  たまに、マーケティング的な視点で無理矢理に言 語化された分析が独り歩きすることがあります。 もっともらしくて理解した気にはなれますが、いざ ビジネスの現場に反映すると失敗します。  さて、そんな市場とはそもそもいったい何でしょ うか。匸冐で言うと、「人の気持ち」です。まず、 分かりやすく「人の関心」で例えてみます。  「人の関心」は1つのニュースだけで変わってしま います。例えば芸能人の不倫スキャンダルがあった とします。テレビのワイドショーでも連日取り上げ られネットでも炎上しています。では、それはいつ まで続くのでしょうか。I週間でしょうか。一か月 でしょうか。はたまた、その大が記者会見して反省 するまででしょうか。実は明確な答えがあります。 それは「次のニュース(ネタ)があるまで」です。  「有名な芸能人が電撃結婚した」「政治家の汚職が 発覚した」「サッカー日本代表が大活躍した」など、 他に世の中の大きな関心事があったとき、不倫ス キャンダルから人の関心は失われ、結果としてメ デイアも取り上げなくなります。ニュースは必要な 大にとっては情報になりますが、無関係の大多数の 大にとっては、言わば井戸端会議の「話のネタ」に 過ぎません。  ちなみに、ニュースは「メデイアが取り上げるか ら世間の関心事になる」と思われがちですが、違い ます。確かに第一報はメデイアから発せられますが、 「その後そのニュースが継続的に報じられるかどう か」は世の中の関心度合で決まります。メディアは、 世の中にニーズがあるから(ニーズがあると考えて いるから)報じているにすぎません。  ニュースを例にしましたが「どんなことが流行る か」「どんなニーズがあるか」など、市場の動きは 「人の気分」で決まります。  たとえば、「美味しくておしゃれで映えるかき水」 をつくったとします。あらゆるマーケティング手法 を駆使して、市場動向を分析し、効果的と思われる 宣伝をしたとしても、寒い囗が続けば売れません。 仮に暑かったとしても、そのときに「かき水マシン の衛生問題」が起きてニュースになっていたら、か き水を食べに行く人は減るわけです。  世の中の事象を波として捉える  すごく移り気だし、刹那的だし、気分的なもの。 それが「市場」です。私は、市場を理解するために は、「そこまでに至るストーリー」と「世の中の空 気」を感じることが重要だと思っています。ではそ のストーリーや空気はどう感じるのか。ひとつコツ として挙げられるのは、世の中の事象とその動きを 「波や流れとして捉える」ことです。  世の中のあらゆる事象は、急に現れたり消えたり しません。すべてが流れのように繋がっています。 流れは俯瞰で見ると、上がったり下がったり、進ん だり戻ったりと「波」のような形をしています。  「波」には大きく二通りあります。ひとつは「流行 りが終わったあと、しばらくすると似たようなもの がまた流行る」という波。いわゆるリバイバルと言 われるような現象です。ファッションなどでよく話 題になりますから、イメージが湧きやすいと思いま す。もうひとつは「派手の後には、地味」「明るい の後には、暗い」「角ばったデザインの後には、丸 味をおびた形」などのように相反するものが流行る 現象です。ある種の反動と言えますが、しばらくす ると元のものが受け入れられます。これは「揺り戻 し」と言われる現象です。  こうした「波」は、もっと引いてみるとさらに 「大きな波」で動いてます。「大きな波」の中に「小 さな波」があるのです。株価のチャートをイメージ してもらえば分かりやすいと思います。  たとえば本書のようなビジネス書で言えば、まず ビジネス書が「売れる時期」と「売れない時期」と いう波があります。その中に「自己啓発的なもの」 が売れる時期と「テクニカルなもの」が売れる時期 という波があります。さらにその自己啓発的な本の 内容にも、「ガンガンいこうぜ」系の力強いメッ セージが求められたり「あなたは一つだけの花です よ、そのままでいいんです」系の包容力のあるメッ セージが求められる、という波もあります。  他に分かりやすいところでは「アイドル」も多様 な波で説明できます。アイドルという存在自体に 「社会現象として盛り上がったり冷めたり」という 大きな波があります。その波の中に「一人なのか二 人なのかグループなのか」という人数の波もあった りします。キャラクターのつくり方にも、「手の届 かない憧れとして存在するのか、身近で親近感が持 てるキャラクターなのか」というような波もありま す。このあたりはAKB48を例に様々な分析が記事 化されていたので、目にしたこともあるかもしれま せん。  他には、一つの現象を複数の波で説明することも できます。たとえば、TikTokが流行るという現象 には「常に新しいSNSへ移行していく」という 「人の居場所」の流れがあり、「可処分時間における タイパ重視」という価値観の流れもあります。また コンテンツ論的には「ストック型とフロー型」や 「能動的視聴と受動的視聴」の波も見て取れます。  このように市場を「波」としてとらえると、見え てくる特徴がいくつかあります。ひとつは「波が右 肩あがりになっているときでも、社会のムードは減 衰の気配が漂っている」ということです。こちらも 株価と同じで、熱狂がピークに達した時点で、終わ りのサインが出ていることが多いです。マーケティ ング的には「レイトマジョリティー[※01]が動き 始めたらもう終わり」のような言葉で冷ややかに表 現されることもあります。市場は刺激を求め続ける 性質がありますから、反動で「飽きてくる」という のは必然的な展開です。  もうひとつ、見えてくる特徴として「1つのス トーリーが熟したタイミングでは、別のストーリー が芽吹き始めている」ということがあります。「新 しいことが始まるから以前のものが終わっていく」 のではなく「流行ったものがあるから新しい何かが 生まれている」のです。コンテンツプロデュースの 視点では「何かが終わりかけている状況そのものが、 次に流行る何かのフリ(伏線)になる」と捉えます。  こうした「人の気持ちで動く市場の流れ」を感じ たことのある読者の方は、実は多いのではないかと 思います。とりわけ自分の趣味や好きなことで感じ る「あ、そろそろ流行りも終わるな」とか「そろそ ろみんな飽きてきてるし、あっち側に移行しそうだ な」というような感覚です。しかも面白いことに、 自分の中で「そろそろ終わるな」と確信があるとき ほど、世の中はなぜかそれに気付かずにいて「もう そろそろ終わりかけているのになんで買うんだろ う」「そろそろあっちに移行するタイミングなのに、 なんでまだ追っかけてるんだろう」と疑問に感じた ことはないでしょうか。それが「世の中の空気を読 めている」「市場の流れを掴んでいる」という状態 です。  自分が市場を読めているのは、その物事が好き だったり得意なので、「無意識的に必要な情報が集 められていて、適切な判断が出来ている」というこ とです。好きな物事に対しては、自分のアンテナが 張られているので簡単に情報を拾えます。また、自 分以外のユーザーとも日ごろから情報交換できてい ますから、「界隈[※02]」の生々しい空気を掴めて いるのです。  人と話して「感情」を収集する  では、自分が好きではない物事や、もっと大きな 範囲の空気はどうやって掴めばよいでしょうか。よ く推奨される方法としては「街に出て歩く」という ことがあげられます。「新大久保を歩いて若者を観 察する」「巣鴨を歩いて年配者の庶民的生活を観る」 というようなことです。もちろんこれらはとても大 事なことです。でも毎日はできませんよね。波や流 れを感じるという意味では、毎日通わなければ変化 に気付くことはできません。そこにいる人たちが 「どんなことを感じているか、望んでいるか」まで はなかなか分かりません。  ではどうすればよいでしょうか。結局のところ 「いろいろな人と話す」ことにつきます。  意外と思われるかもしれませんが、小学校や中学 高校時代の古い友人と話すだけでも流れを読む助け になります。当時から10年20年も経ては皆それぞれ の人生を送っているでしょう。地元にいる人もいれ ば、上京したり地方に移住する人もいます。住んで いるエリアも皆バラバラです。結婚して子供がいる 人もいれば、独身だったり、バツーバツ2の人もい ます。老舗企業の御曹司もいれば、気ままなフリー ターもいるかもしれません。  古い友人は、生まれ育った土地が近くて似たよう な環境を過ごしてきた人が多く、「市場へのリサー チ」という意味では不向きなようで、実は十分な多 様性があります。むしろ社会人になって日々の仕事 で接する人の方が、価値観や生活観の幅は狭くなり ます。  大と話すとき、「外的な事実」に触れることに加 えて「内的な気持ち」に触れることが大切です。 「お金があって裕福」という外的な事実があっても 「社会的地位や家柄に縛られて窮屈な暮らしをして いる」かもしれませんし、「田舎の古民家暮らしで 経済的には豊かではない」状況でも、実は都会で精 神的に参ってしまい「ようやくたどりついた自分ら しい生き方をしている」のかもしれません。  また、時間の経過による変化もあります。スクー ルカーストで上位にいるような活発で目立つタイプ の人が、地元の公務員になって静かに暮らしていた り、地味で物静かなタイプだった人が、都会の大企 業でバリバリ活躍して派手な生活をしていたりしま す。そういう変化を知ったら「なぜ生活やキャラク ターが変化したのか」「どういう理由で今の状況に 至るのか」純粋に気になって聞きたくなりますよね。  何よりそうした変化の中で「過去と今に何を思う のか」「社会に対して言いたいことは何なのか」「ど んなことに嫉妬しているのか」など、変化のプロセ スや現状に対する気持ちを聞いてみれば、出てくる 情報は山ほどあるでしょう。こういう話が人間社会 のリアルな情報です。  情報は「感情を伴ったものにこそ高い価値」があ ります。そういう「様々な感情の集合が市場」です。 生々しい感情にたくさん触れ「事象に対する感情を 収集すること」それが「市場理解力」というスキル です。 レイトマジョリティー一分01一 新商品の購入や新サービスの 導入に消極的な消費者のこと。周囲の半数が受け入れるのを確 認してから購入を検討する。   − 界隈一※02一 ネット用語として、あるジャンルや分野のこと が好きな人々の集まり。そのコミュニティ。 やりたいことを言う力  やりたいことを語ってください。囗に出して伝え てください。これだけでビジネスはもちろん、いろ いろな事が上手くいきます。  やりたいことを語る人はあまりにも少ない  ほとんどの人は自分のやりたいことを口にしませ ん。その理由は様々です。「実現しなかったら恥ず かしい」とか、大きなスケールのことだったら「非 現実的なことだから取り合ってくれないだろう」と いった気持ちが働きます。また、忙しかったり目先 の仕事や生活に追われていたら「そんなこと言って いる暇はない」というような気持ちになります。 「やりたいことがないんだよ」という人も多いで しょう。  「やりたいこと」は大それた夢や、将来のビジョン である必要もありません。「沖縄旅行したいな」「マ ンガ喫茶でだらだらしたいな」「推しのライブにい きたいな」「身体を気にせずラーメン替え玉までい きたいな」。なんでもいいのです。「やりたいことを 言う」ことにリスクはありません。お金も時間も減 りません。それが実現しなくたって信用に傷がつい たりもしません。それどころかポジティブなことが たくさんあります。  まず、「やりたいことを言う人がとても少ない」 と言いました。つまり、やりたいことを言うだけで、 他の人から一歩抜きんでることができます。ですか ら、うまく伝えようとする必要もなければ、理論武 装して、饒舌に語る必要もありません。するとその ことに興味を示す天が出てきます。「あなたはそれ がやりたいんだね」と分かってもらえます。やりた いことを口にすると必要なモノが自然と集まるよう になって、「やりたいこと」が進むきっかけになり ます。  以前の私は、自分のやりたいことを積極的に口に するタイプではありませんでした。しかし、あると きから実現する可能性を無視して、とにかく「やり たいことを言いまくる」ことにしました。知り合い や友人に会うたびに口にします。すると、「同じよ うなことをやりたい」と考えている人から声がか かってきました。天が集まってくると実現可能性が 高まります。実現可能性が高まるとお金も集まりや すくなります。  たとえば、私かどうしてもやりたかった『ADE L33』という動画企画があります。ファンタジック なゲームバラ壬アイーで少し変な企画です。いくつ かの企業にプレゼンしたものの、やはり変な企画な ので理解されずに5年間ほど実現させることができ ませんでした。自分のYouTubeチャンネルでやる ことを考えましたが、制作費に数千万円か必要にな るので、自費でやるのは到底難しくなかなか実現の 目途がたちません。そこで会う人会う人、片っ端か ら「この企画をやりたい」と話してみることにしま した。企画と親和性がない人に対しても、ポカンと されながらも説明していました。  すると予期せぬところから「そういうことをやっ てみたかったんだ」「おもしろそうだから手伝うよ」 と連絡が来るようになりました。こうなると企画が 動き始めます。その経過をSNSで報告しながら 「本当はもっとこうしたい」「これが出来ればもっと 良いモノになる」と言っていると、今度は「こうい うものならタダで提供できますよ」「お金がボトル ネックならスポンサーするよ」という人も現れるよ うになりました。本当に意外な方々からの協力です。 こうして『ADEL33』は、有名人が多数出演する 大きなスケールで実現しました。私か「やりたいと 言った」ことで、それに気付いた人がいて実現した のです。  ここで強調したいのは、私か「スゴイ人」とか 「優れている人」だから実現できたわけでは決して ありません。「やりたいことを言う人」が極端に少 ないから、とても「目立った」のです。  いつもやりたいことを言ってばかりいたので、最 近では自分からやりたいことを伝える前に「これか らどんなことをしようとしているの?」「今、何に 興味があるんですか?」「どんなことを企んでいる んですか?」と尋ねられるようになりました。やり たいことを言い続けていると、やりたいことがどん どん仕事になっていきます。  やりたいことは自己紹介になる  ではここで、いま私かやりたいと思っていること を自己紹介を兼ねて書いてみましよう。  自宅トイレの壁紙を替えたい。歯をホワイトニン グしたい。観たかったドラマを一気観して一週間く らい浸かりたい。沖縄でワーケーションしたい。父 島でダイビングしたい。本格ゴーカートでサーキッ トを爆走したい。本格バギーで山中を爆走したい。 FIをパドックパスで観戦したい。アナハイムに大 谷翔平さんの試合を見に行きたい。オンラインサロ ンメンバーと海外視察ツアーをしたい。サンセバス チヤンで飲み歩きしたい。子供が大騒ぎしてもよい 高級レストランを出店したい。『インターステラー』 のシネマオーケストラに行きたい。好きな曲だけ集 めてオーケストラバージョンのコンサートを開きた い。有名じゃない神社やお寺をリプランテインクし たい。トイレを主語にした「トイレカフェ」をつく りたい。「世の中のニッチなものを片つ端からラン キングするメディア」を作りたい。「17歳の人だけ が使える排他的な空間」をつくりたい。「この世に 遺したいたつたひとつだけのこと」を1000字で 100人が書く本を出版したい。「一か所のバス停 の映像」だけでトリッキーだけどエモい映画をつく りたい。『ADEL33』の続編をつくりたい。新し い「マーベル」みたいなクリエイティブブランドを つくりたい。過疎って困っている自治体を盛り上げ るコンテンツをつくりたい。渋谷区を自ら稼げる自 治体にしたい。街をつくりたい。都市をつくりたい。  いかがでしょうか。「変な人だな」とか「節操な いな」と思われた方もいるかもしれませんが、意外 と私という人物に興味が湧いたのではないでしょう か。やりたいことがある人というのは、単純に魅力 的に映ります。  そして、この本にやりたいことを書いたことで、 興味のある人からきっと連絡がくると思います。そ してそういう天との出会いによって、いくつかは実 現していくことになるのです。  私は自己紹介が苦手でした。本当に苦手でした。 就職活動の自己PRはとにかく嫌でした。「学生時 代、サークル活動をがんばりました」「アルバイト をがんばりました」なんて聞いている天は絶対に退 屈だし「だからこんなことを実現する力がありま す」なんて、絶対そうは感じないだろうなと思って いました。社会人になっても自己紹介は苦手でした。 起業後にはさらに困りました。苦手でも自己紹介で きないと仕事になりませんし、紹介できる実績もな いのです。そこで私は自己紹介を諦め、「これから 私がしたいこと」を説明することにしました。する と、いろいろなことが大きく変わり始めます。どん な人でも、私の「未来の自己紹介」に興味を持って くれるようになりました。  先ほど紹介した通り、私は「やりたいこと」のス トックが常に数十個あります。そして場面に応じて、 そのうちの2〜3個をお話するようにしています。 「私は高瀬敦也です。私のつくったコンテンツを集 めてディズニ圭フンドのような世界観ゴリゴリの テーマパークをつくりたいです。FIとグランツー ルの開催を追っかけながら毎年世界旅行をしたいと 思っています。家族や友人を集めて100世帯ぐら いのコミュニティで村をつくりたいです。」  これを聞いて、バカだなあと思われた方もいるで しよう。ほぼ実現しない夢を語る中年ですよね (笑)。しかし、私のキャラクターは伝わりますし、 価値観や人生観も伝わります。質問もしやすいです よね。一般的な自己紹介は「過去」を語るフォー マットでできていますが、この自己紹介に過去の要 素はひとつもありません。  「私はこれからこういうことをしたいと思っていま す」と伝えると、「この人はこういうことがしたい んだ。だったら、自分も一緒にやってみたいな」と か、「その分野に精通している○○さんを紹介して もいいかもな」と、同じ未来に向けたコミュニケー ションが可能になります。  過去の話は、すでに完結していますが、未来の話 は他者が入り込む余地があります。仮にやりたいこ とが一致しなくても、相手は応援したい気持ちに なったり、わくわくしたりします。夢やビジョンを キラキラ語る大に出会うと、刺激も受けますし、 「この人のやりたいことに付いて行かなければ、自 分が損をするかも」という感情も湧いてきます。未 来のことは誰にも分かりませんから、どんな大にで も可能性が開かれている以上、否定的な判断はしづ らいものです。  「やりたいことを語る」ということは、「未来を語 る」ということです。未来を語る人には、可能性を 感じます。すると自然に情報と人が集まります。集 まった情報と人は、やりたいことと直結していなく ても、自分の資産として力になります。それが「や りたいことを言う力」というスキルです。 リーダーシップカ  リーダーシップは「経営者や役職者に必要な能 力」と考えている人も多いと思います。しかし、役 職者でなくともチーム内でリーダーシップを求めら れるシーンはよくあります。また、何か外注した仕 事の場合は、受注側から見れば発注元の担当者は リーダーとも言えます。ビジネスパーソンであれば 誰でも身に付けておきたいスキルです。  リーダーシップのアリナシは結果論  リーダーシップとは一般的には「統率力」「指導 力」などと表現され「目標を定めチームをつくって 成果を出す能力」というように定義されています。 そして「分かりやすいビジョンを示したり、メン バーのモチベーションをコントロールして、その過 程で起きる問題解決にも当たる」というようにも説 明されています。言われれば、その通りだと感じま す。でも本当にそうでしょうか。  私はたくさんのリーダーと接してきました。友人 の経営者や、受託元や外注先の責任者、コンサル ティングを通して関わる社長。また、その部下や従 業員とも同時にコミュニケーションをとるケースが 多くありました。その中で感じたのは、一般的な リーダー像であっても、成果に結び付かなかったり 社員がついてこない会社があるし、逆にいい加減な リーダーでも、部下に慕われ、高いモチベーション で動いている組織があるということです。  「リーダーシップとは何か」いろいろと考えてみて 思うのは、リーダーシップは「ただの結果」なのだ ということです。リーダーシップがあるとかないと かは結果論です。部下や同僚が「○○さんにはリー ダーシップがある」と感じれば、リーダーシップが ありますし、「○○さんにはリーダーシップがない」 と感じれば、ありません。リーダーシップとは本質 的に「自分ではコントロールできない他者評価」で す。  私の友人の経営者は、リーダーシップを発揮して いるときと、発揮していないときがあります。でも、 その会社は毎年増収増益で成長しています。社員も 満足して働いているようです。リーダーとして「い いからこうしろ」ということもあるし「よく分から ないからまかせるよ」というときもあります。社員 は彼の威厳を感じつつも、仕事を任され経験を積ん でいきます。彼の二面性が成長エンジンになってい ます。彼のリーダーシップは結果として非常にバラ ンスが取れているのです。  リーダーシップは、一般的には「ぐいぐい引っ 張っていく力」と思われます。なよなよしていて自 信がなさそうな人は、リーダーに向いてないと思わ れるでしょう。しかし、組織を動かすために、あえ て馬鹿なフリをしたり、あえてポンコツぶってみる ことが、必要なときがあります。もっと言えば「フ リ」ではなく本当にポンコツでダメなほうがリー ダーに相応しいときもあります。   「誰が言ったか」で反応は変わる  優れたりIダーのとるべき言動は大によって異な ります。同じシチュエーションで、同じ言葉で、同 じように指示をしたとしても「誰が言ったか」で人 の反応は変わるからです。  分かりやすい例では政治家や有名人の失言があり ます。普通は炎上して大問題になるような極論や暴 言も、意外とスルーされていて「あれ?」と感じた ことはないでしょうか。考え方やイデオロギーの異 なる大からは「許せない」となっていても、ほとん どの大が「あの人の言ってることだからしようがな い」「あの大だったらそんなことも言いそうだよね」 と受け止めていることはよくあります。カリスマ性 や実績がそう感じさせるときもありますし、周りの 優秀なスタッフが火消しをしていることもあるで しょう。しかし根本的には、キャラクターがその発 言の許容度を決めています。「誰が言っていたか」 で受け手の印象はまったく違います。  私は長い間、テレビのバラエティー番組を作って きました。たくさんのタレントさんや芸人さんと関 わってきました。つくるときには、面白く楽しく観 られるようにいろいろ考えます。そこで大切にする ことのひとつに、「それぞれのネタやトークを誰が 担うか」ということがあります。例えば「この話は 誰が言ったら楽しく聞けるのか」「このネタは誰が プレゼンしたら説得力があるのか」「この問題は誰 が仕切ったら嫌味なく受け入れてもらえるのか」と 考えます。話やネタの起点はもちろん、「そのリア クションは誰がするのがよいのか」までも考えます。 これは話の内容の伝わり方が「キャラクター」で決 まるからです。  人は物事を判断するとき内容や事実で考えません。 そのときの表情や場の空気などで判断します。アル バートーメラビアンという心理学者の研究では「表 情やしぐさなど視覚情報での判断が55%、話し方な どの聴覚情報での判断が38%で、内容などの言語情 報での判断はたった7%にすぎなかった」という データもあります。  では、自分のキャラクターをどのように判断すれ ばよいのでしょうか。それは自分では決められませ ん。周りや社会が決めます。  そもそも私は「この世に自分なんてキャラクター は存在していない」と考えています。「え?」と思 う方も多いでしょう。人は社会で生きています。 「社会との関わりで存在している」ということは 「他者の認識する自分がすべて」です。「自分は他者 が認識することで存在」しています。量子力学では 「非実在性」という考え方があります。これは「観 測以前には状態が決まっていなくて、観測によって 状態が決まる」というものです。端的に言えば「こ の世のモノは見るまで存在しない」という考えです。 「自分という存在は周囲が決める」ということは、 実は真理です。  ですから「他者が認識するキャラクターを素直に 受け入れ、その人格に期待されることを意識する」 ことは、社会で生きる上でとても大切な考え方です。 こう考えると「自己認識とのギャップで生じるスト レス」がなくなりますから、精神的にも楽になりま す。  そのためには周囲の人に「自分がどういう人間と 思われているか」聞いてみることが大切です。自分 自身の認識との意外なギャップに驚くと思います。 もちろん関係性によってその印象は違うでしょう。 たくさんの人に聞いてみてください。少し勇気のい ることですが、慣れてくるとちょっと楽しいと思い ます。  リーダーシップはそれぞれのキャラクターで  それでも自分を俯瞰で認識するのはとても難しい ことです。ここで「自分と他者の関係構築に有用な 方法」をお伝えします。それは「とにかく自分を解 放する」ということです。分かりやすく言えば「自 分の欠点や苦手なところを披露する」ということで す。  たとえば、私は小心者です。人と接するのが苦手 です。そのくせ寂しがり屋です。孤独にたえられま せん。細かいことが気になります。お腹をすぐ下し ます。ええかっこしいです。できれば誰からも嫌わ れたくありません。いい中年ですが「年下の人に慕 われるいいお兄さんギャラ」に憧れています。それ が空回りしてうまくいかず勝手に落ち込んだりする ときもあります。  いかがでしょうか。ほんの数行ですが私のキャラ クターがすんなり伝わったと思います。このように 「少し恥ずかしいと感じている部分」を披露すると 接触のハードルが下がります。またネガティブな要 素の方が共感性が高いですから、人格としても受け 入れやすくなります。最近私か初対面の人に伝えて 好評なことがあります。それは「私は人を見る目が ない」ということです。経営者としてもプロデュー ス業をする上でも致命的な感じがしますよね。しか し、他の経営者やプロデューサーにとても共感され ます。そういう人ほど信頼していた人に裏切られた り、意外な人に助けられた経験があるからでしょう。  会社員をしていると、突然の異動で役職者になる ケースもあります。すると、いきなリリーダーシッ プが求められます。しかし、リーダーになったとき 「こうありたい」と考える自分のリーダー像に寄せ るのは逆効果です。「こうありたい」というリー ダー像と周囲が認識しているキャラクターが乖離し ている場合、チームのメンバーはその乖離に困惑し ます。また、リーダーシップには「強さ」が必要と 考え、リーダーになったとたんに強さや威厳を保と うとする人も多くいます。ですが、キャラクターに 合ってない場合、部下からすると接し方が分からな くなります。意図せずパワハラ、モラハラと受け取 られる可能性も高まります。  そもそも「リーダーシップを発揮しなくちや」 「リーダーシップカをつけよう」と思っているりI ダーつてどうでしようか。もうその時点でリーダー らしさもなければリーダーの資質もなさそうですよ ね。でも、もう一周して「リーダーシップを発揮し なくちやと思っているリーダー」と開けっぴろげに 表現していたら、それはそれでポンコツで必死な感 じがかわいらしいですし、その人がりIダーつぽく いるために少し応援してあげたくなる人も増えそう です。  欠点は早めにシェアする  リーダーシップをとる上で、一番の武器は「愛さ れること」です。これはリーダーのみならずだと思 いますが、実はこれからの時代に必要な考え方です。  組織より個人が強い時代です。個人は組織のため に働くのではなく、組織が個人のための存在になり つつあります。そのような中で組織の推進力になる のは「個人としての動機や心持ち」です。「あの大 についていきたい」「あの人のために働きたい」と いう動機は個人に紐づく感情です。この個人の想い が組織の干不ルギーになります。  欠点や恥部は愛されるための武器になります。自 分で欠点だと思っていることは、他人にとっては驚 くほど「どうでもいいこと」です。いずれ露呈する 欠点を、隠したり取り繕うほど情けなく映ります。 これはリーダーとして致命的です。武器となる欠点 は、隠していると危険な爆弾になります。しかも隠 せば隠すほど爆発力が大きくなリリスクが増します。 「欠点をさっさとシェアする」ということはリスク 回避にもなります。リスクコントロールはリーダー として大切な仕事ですよね。  私か尊敬してやまない「お笑い芸人」という存在 を例にあげてみたいと思います。近年のお笑いは 「ポンコツ」と「ツツコミ」で成立しているケース が多くありますが、ポンコツの役割を担う芸人さん のキャラクターがとても個性的です。その中には自 己中心的な振る舞いをする「クズ」といわれるキャ ラクターもいます。念のため言っておきますと、本 書では「ポンコツ」や「クズ」は「希有な才能あふ れるキャラクター」として敬意を込めて表現してい ます。そうしたポンコツやクズの立ち位置にいる芸 人さんは愛されています。  彼らが本当にそういうキャラクターかどうかはと もかく、「クズ」は一般社会やビジネスシーンでは なかなか受け入れられないキャラクターです。しか し、それを観る人は笑っています。彼らのキャラク ターを受け入れていますし、好きな人も多いです。 それはなぜかといえば、彼らの欠点や性格的に尖っ た部分を「とてもよく知っているから」です。  まだ無名に近い状態でテレビに出ているときには、 性格の悪さや突き抜けた言動は決まって批判にさら されます。「性格悪いね」とか「気持ち悪い」とか 言われたりもします。しかし、徐々にそのキャラク ターが浸透していくと嫌悪感は薄れ、むしろ愛され ていきます。一般的には「悪い」と言われる言動に も抵抗感がなくなり、その「悪い行い」を期待され るようになってきます。  自分の良いところも悪いところもさらけ出して、 チームのメンバーに「自分はこういう人だ」と知っ てもらうことはとても健全です。そうすることで、 周りは「あ、こういう人なんだ」と理解した上で接 してくれます。また同様に、メンバー間でも「自分 でネガティブだと感じているところ」を共有できる とチームとしては理想的です。  リーダーに求められるのは、「こうありたいリー ダー像」に寄せることではなく、自分をよく知るこ とです。「自分がどう思われているか」聞き、他人 から見える自分を意識することです。そして欠点も 含めたキャラクターを愛してもらって、そのキャラ クターに期待されているリーダーとして行動するこ と、これが今の時代における「リーダーシップカ」 というスキルです。 紹介され力  私はたくさんの人に紹介されます。これは本当に ありかたいことです。ビジネスは人がすることです から、人との出会いですべてが変わります。では私 がなぜたくさんの人を紹介してもらえるのか。それ は私か優秀だからとか有名だからとかではありませ ん。単純に「紹介しても大丈夫だから」です。   「紹介しても大丈夫な人」になる  私か尊敬する大手IT企業社長の竹谷さんにはよ く誘っていただきます。だいたい3〜4人の会です。 参加者は毎回、なかなか接点をつくれないような大 物ばかりです。ある囗「なんでいつも誘ってくれる んですか」と聞いたところ「誉め言葉として聞いて 欲しいんですが、高瀬さんは本当に安パイなんです よ」「ちょっと気を遣う相手のときに、失礼じゃな くてそこそこ情報持ってる大ってなかなかいないん ですよね」と言われました。  私かコミュニケーション能力が高いということで はありません。さきほどお話した通り私は小心者な ので、初対面の大と会うときはものすごく緊張しま す。紹介してくれる人の顔は絶対に潰せないと思い ます。ご凡えカッコしい”でもあるので、その会食 メンバー全員に嫌われたくありませんし「いい大だ と思われたい」と考えてます。ですから会食に来る 人の情報は出来る限り集めます。著書や動画があれ ば出来る限りチェックします。ですから著書が何幵 もあったり動画をたくさんアップしている YouTuberだと困ります(笑)。  ともかく、紹介者する側の立場で考えると、とて も優秀だったり有名人だとしても、場を乱すような 発言や相手を不快にする人は呼びませんよね。紹介 は。する側”に大きなリスクが伴います。たとえば 彼氏が欲しい友人がいて、誰かを紹介したとします。 その人が実は遊び人で不誠実で、友人が傷ついたと します。友人に悲しい想いをさせてしまうのはもち ろん、これが原因で大切な友人関係が壊れてしまう かもしれません。  また、「人を誰に紹介するか」というのはセンス が問われます。竹谷さんのことを「さすがだな」と 思うのは、私とのマッチングに意味がなさそうな会 には誘わないところです。そして自分からはアピー ルしづらい実績やセールスポイントを同席者にしっ かり説明してくれます。全員をまんべんなく褒めな がら、メンバーが繋がることで広がるビジネスの可 能性を例示してくれます。完璧ですよね。その後ビ ジネスに繋がるかどうかはさておき、有益な情報を 交換できたり、刺激を受けたり、少なくとも「その 場に行ってよかったな」と感じます。  このマッチングセンスがないとビジネスセンスが ないと思われます。ビジネスというもの自体が、人 や技術のマッチングで創造されます。ですから紹介 する場面でのマッチングがいい加減すぎるとビジネ スパートナーとして疑問符を持たれてしまいます。  紹介され者責任  このように紹介には責任が伴います。「紹介者責 任」という言葉もあるくらいです。ここで改めてお 話したいのは「紹介する側に責任があるように、紹 介される側にも責任がある」ということです。ここ は意外と見落とされがちなポイントです。  紹介というシーンは、ビジネスにおいてとても重 いものです。「あの人の紹介ならちゃんとした大だ ろう」「あの人の紹介だから時間を割いて会ってみ よう」という紹介する人の信用があるからこそ、知 らない誰かに会えるのです。信用はI朝一夕ででき るものではありません。紹介者が時間やお金を費や し築いてきた信頼関係の土台で成立している機会で す。仮に相手に不快な想いをさせてしまったら「信 用していた人からの紹介だから時間をつくったのに な。あの人意外とセンスないのかも」と紹介者の信 用度を下げてしまいますし、紹介者と相手の関係も 壊しかねません。  そして、紹介という場面は、難しいことに「相手 が不快な思いをしていたとしても、それに自分は気 付きにくい」という性質があります。相手は紹介者 の顔を立てようとしますから、その場で責めるよう なことはしませんし、意味のない紹介だったと感じ ていても「すてきな人を紹介をしてくれてありがと うございます」と言って帰ります。優秀な人ほど、 合理的ですしムダなリスクは避けますから、自分の 本音を悟られないように礼をつくします。また、紹 介の場には何かしら目的や意味がありますが「紹介 者の期待に応えられているか」の判断も難しいもの です。  このような話は、経営者やフリーランスの人なら 比較的共感できる場面だと思います。一方、会社員 の人はどうでしよう。特にこの場面が「上司に連れ ていかれた会食」だとどうでしようか。新たに担当 するクライアントができたとき、前任者や上司と共 に会食する場面はよくあります。会社員のイチ担当 ですから「自分が任命されたことにどこまでの意思 があったのか」も定かではありませんし、相手が 「自分にどこまで期待してくれるか」も分かりませ ん。ですから、その会食の場は「あくまで顔合わせ に過ぎないし、その後もイチ担当として仕事をこな せばいい。」そう考えても仕方ありません。  大きな会社であればあるほど、自分のパーソナル 部分とは乖離した紹介になる可能性も高いでしょう。 しかし、「紹介者に責任があり、紹介される側にも 責任がある」という本質的な構造は同じです。むし ろ、そういう無機質で日常的な会食の場面でこそ、 「双方の信用の上でこの場がある」という意識で臨 むと一目置かれます。なぜなら、単純にそういうス タンスで紹介を受けている会社員がほとんどいない からです。これは会社のためではありません。自分 自身のためです。「組織から精神的に独立すること」 は自由を手に入れるために必要です(無所属力のと ころで詳しくお話します)。組織で受ける紹介を、 そのままイチ組織人として受けるのではなく、「個 人の人格で受けようとする意識」はその第一歩にな ります。  やや固い話になってしまったので、少し打算的な 言い方もしておきます。「紹介され力」があると営 業コストがかかりません。新たなビジネスやパート ナーをつくるとき、ほとんどの場合は営業活動が必 要になります。営業は、まず適した相手をさがすと ころから始まりますが、見つかっても会ってくれる か分かりません。会えたとしても提案に興味を持っ てくれるか分かりませんし、最終的にパートナーに なってくれるか分かりません。  紹介はこの工程のうちほとんどの部分は省くこと ができます。階段を一段ずつ登るところをエレベー ターで上がる感覚です。お金もかかりませんし労力 も少なくすみます。「自分のことを知らない無信用 の状態」で人と話すことはストレスもかかります。 とにかくいろんな部分でコスパがいいのです。  また、「紹介され力」を勘違いして「紹介してほ しい」と安易に頼む人がいます。それは「紹介者責 任」を理解していない行いです。たとえば、「友人 でもない、一度仕事で関わったことがあるくらいの 人」から数年ぶりに連絡が来て「○○さんを紹介し てほしい」と突然言われたらどう感じるでしょうか。 あまり紹介したいとは思いませんよね。仮に自分が よくても、相手に説明のしようがありません。紹介 は「人の信用を丸ごと基盤に、更なるチャンスを得 ること」です。これはあまり言語化されてない、見 落とされがちなマナーとも言えます。  「紹介され力」は「紹介したいと思わせる力」です。 紹介したいと思わせるのは難易度が高いことのよう に思われがちですがそうでもありません。「紹介し ても大丈夫な大、安パイな大」になるように心がけ るだけです。「紹介され力」のある大は、大を紹介 するのも上手になります。それはビジネスマッチン グのスキルそのものです。「人の紹介には責任があ る」と認識することで、結果的にコスパ良く自分の ビジネスに繋げ、組織からの精神的独立に繋げてい くこと、それが「紹介され力」というスキルです。 甘える力  まず、最初に「もつと甘えて良い」と思います。 真面目な人ほど「甘えたら迷惑なんじやないか」と 考えます。手堅いタイプの人は「むやみに甘えると 借りをつくつてしまう」とも考えます。人に甘える ことは、家族や親族、長い付き合いのご近所さんに は許されても、ビジネスの現場ではなかなか使えな いコミュニケーションのように思われているかもし れません。  しかし、大きな成功を納めている人や、心底ビジ ネスを楽しんでいる人ほど、この「甘える力」を軽 やかに使いこなしています。それはもう本当に華麗 なほどです。この「人に甘える」という言葉は、考 えれば考えるほど、奥深くちょっと戦略的で、でも 温かみがあって素敵な言葉だなと感じています。  甘えることで能力を拡張する  なぜ人に甘える必要があるのでしょうか。まず。 「人が一人でできることは限られているから」です。 ビジネスではなおさらです。能力的にはもちろん、 時間的にも限界があります。色々なことをやろうと したり、生産力を上げようとすればするほど、誰か の力が必要です。それでもほとんどの人は、まず 「自分一人でスタート」します。そして「なるべく 自力でやって足りないところを他人に頼ろう」とい う順番で考えます。ですから、まず、どんなことで も「可能なら自分ですべてをやり遂げる」という考 えを捨てて、「必ず誰かを頼る」と考えてスタート することをお薦めします。  また、「頼る」という言葉だと相手の都合を考え すぎたり、貸し借りを考えたり、人によってはプラ イドが邪魔するなんてこともあるかもしれません。 ですので、「頼る」「お願いする」のではなく「甘え る」という言葉に置き換えるとハードルが下がりま す。なにかするときは「必ず誰かに甘える」つもり でスタートしてしまうのです。  そう考えると、まず自分のキャパシティーを考え ずに済みます。何かはじめるとき、多くの人が自分 のキャパシティーを考えて、その限界から逆算をは じめてしまいます。「能力的にそんなノウハウがな い」とか「時間的に忙しいからできない」と考える のがオチです。誰かに甘えることを前提にすると、 能力も時間も理屈的には無限に拡張できます。無限 に拡張できると思えば、さまざまな挑戦に対して柔 軟に対応できるようになります。  また、キャパシティーを拡張すること以外に、自 分では気付かなかったアイデアやヒントを得られま す。これは「大を巻き込む」という物事の進め方で、 詳しくは前著『企画』でお話しているのでよろしけ れば読んでいただければと思います。「巻き込む」 というニュアンスは、「自分がすることの伴走者 だったり当事者にまでなってくれる」ということで す。  ほとんどの大は、人の能力は「個の中にあるも の」と認識しています。しかし、実際に人の能力と いうものは「周囲にいる大たちの能力も含めた総合 力」です。たとえば有名な建築家はたくさんの建物 をつくっていますし、有名な料理人はたくさんのお 店を開いてたくさんのお客さんをもてなします。で も、すべてその有名人の個人の能力で完結している ことはありえません。映画も分かりやすい例でしょ う。撮影技術やCG、セットのデザインや構築、そ して宣伝など様々な人のノウハウが提供されていま す。でも多くの大には「○○監督の作品」と認識さ れます。  このように、キャパシティーはもちろんですが、 アイデアやノウハウなども周囲の人が提供している 場合が多くあります。でも世の中の人は、出来上 がった映画や建物や料理は「○○さんの成果だ」と 個人の能力として認識します。人を巻き込んだ仕事 は、結果として個人のノウハウや財産にもなってい きます。  ちなみに、人を巻き込むにあたってはスタート時 点に近ければ近いほど効果的です。何かプロジェク トに参加するとき、「最初の方から参加する」のと 「終了間際や完成直前に参加する」のでは参加意識 が変わりますよね。早くから関わった事柄に対して は、それだけ自分の意思が反映されたものと認識さ れて感情移入します。   「甘え甘えられる」という相互関係  念のため確認しておくと、何か人に頼み事をする とき「インセンティブや条件をつけて合意を得る」 のが一般的なビジネスマナーです。まずこれは大前 提です。ですから甘えるときは「私はあなたに甘え させていただいてます」と、明示することが重要で す。台詞としては、「甘えさせてもらっていいです か?」という感じでしょうか。何の理由もなく甘え て頼むと、不思議と純朴さが評価され、損得なしの 関係性が生まれやすくなります。一方、インセン ティブありきの依頼は双方の利害を調整する交渉に なります。ちなみに、人は「達成感や満足感を得る ための自発的行動」に対して、金銭などの報酬を受 けると、次第に「報酬を受けること自体」が目的と なり、やる気や意欲が柢下します。これを心理学で 「アンダーマイニング効果」と言います。  前提として、甘えられることを嫌がる人はそう多 くないと思います。双方に「私はあなたに甘えてい ます」「私はあなたに甘えられています」という認 識があるという状態は健全な関係ともいえます。 「甘える」と「甘えられる」という相互関係が構築 されることにより「なぜ頼まれたのか」「なぜ頼ん だのか」という問いがなくなります。貸し借りの観 点から見ても、理屈を超越した感じがします。  ただ単に「これをやって」「OK」と交わされる 会話は、それ以上の何かを生み出すことはありませ ん。「自分はあの人に甘えている」「自分はあの人に 甘えられている」という共有認識があることに意味 がある、という点を強調しておきたいと思います。  甘えるというのは「私はあなたを必要としていま す」「あなたと継続的な関係を構築したい」「元々あ なたとは良い関係ができていると考えています」と いう意思表明です。冒頭で「人に甘えるということ は、家族や親族、長い付き合いのご近所さんには許 されてもビジネスの現場ではあまり使えないと思わ れている」と言いました。裏を返せば「あなたを親 族や馴染みのご近所さんのように親近感を持ってい ます」というラブコールです。  「甘える甘えられる」という関係からは、余計な損 得抜きに一人では生まれ得なかったものがこの世に 放たれていくことになります。一人で考え、理屈あ りきの関係性で進む仕事よりも、はるかに経済合理 性が高いのです。  そして、甘えるというのは「自分の無力さを知 る」ということでもありますし、「人のありがたみ を知る」ということでもあります。甘えることに よって、人との結び付き、社会との繋がりは多く太 くなります。これは自分の心にゆとりを生みますし。 いざというときの心の支えになります。これが「甘 える力」というスキルです。 傾聴力  「傾聴力」は最近のビジネスシーンでよく出てくる ワードのひとつです。傾聴力とは何でしょうか。 「耳を丁寧に傾ける」とか「内容をしっかり理解し 咀嚼して、感想を述べること」のようなイメージか と思います。  私は映像やイベントを制作する裏方の仕事をして いますが、たまに出演者としてMCの仕事をするこ ともあります。MCをした後、ゲストの方に「高瀬 さんは傾聴力が高いのでとても話しやすかった」と 言っていただくことがあります。でも、懺悔すると 私はMCをしているとき、実はゲストの方々の話を それほどしっかり聞いていません(笑)。「次の話を どうするか」「他のゲストヘ話をどう振ろうか」、 ディレクターの指示を見たり、配信時間を気にした りしています。ですので、ゲストの話は、聞いてい るフリをしているのが精一杯です。  そこで「傾聴力とは何なのか」改めて考えてみま した。私かMCや進行をしているとき、考えている のは「その番組やイベントが円滑に進行し完了する こと」です。そのためには「出演者に気分良く居て もらい、場の雰囲気を良くすること」が必要になり ますから「話したいことを気持ちよく話してもらう こと」を意識しています。仮に、話し手の内容を深 く理解できていたとしても、それに対するリアク ションが話し手の気分を害して場の空気が悪くなり、 その後のトークが進まなかったとしたら、それは傾 聴力があるとは言えませんよね。  私はコンサルティングの仕事もしています。業種 は様々です。映像、広告、芸能、住宅、不動産、建 築資材、観光、パチンコ、ゴルフ場、製菓、スー パー、酒造、ジュエリー、ブライダル、M&A、ソ フトウェア開発など多岐にわたります。内容も、広 告、商品開発、新事業企画、社員教育、採用など 様々ですが総じてコンサルティングと言うよりはア ドバイザーやメンターに近く、分かりやすく言えば 「悩み相談」や「愚痴聞き」です。社長やオーナー はもちろん、事業責任者や現場社員と話すときもあ ります。課題に対して具体的な解決策を一緒に考え ますが、課題が明確になっておらず、何か問題なの か分かっていないときもあります。ビジネスシーン では「壁打ち」と言われますよね。考えを整理する ためのやりとりです。  他にもそういう場面を数えきれないほど経験し、 身に付いたことや意識して良かったことを3段階で 整理してみました。  傾聴するということは「相手の話の内容を理解す ればよい」ということではありませんし、ましてや 「自分がいかに相手の話を理解しているかをアピー ルすること」でもありません。「私は傾聴力があり ますよ」という謎のアピール合戦になってしまう ケースはビジネスシーンでたまに見られます。だか らと言って「ヘラヘラして事なかれ主義でいればよ い」ということではありません。そのあたりを以下 でお話したいと思います。  相手に喋らせる  第一段階は、「喋らず相手に喋らせよう」です。 シンプルに「相手に喋らせて、気持ち良くなっても らうこと」「自分はなるべく喋らないようにするこ と」です。多くの人は「自分が話をした時間や割合 が長いほど満足」します。  その際、相手と同じ言葉を繰り返すいわゆる「オ ウム返し」をすると「あなたの話をちゃんと聞いて いますよ」というメッセージになり、相手は「自分 の話が受け入れられている」という安心感を覚えま す。これは心理学におけるバックトラッキングとい う技術です。  また、マナーやビジネスの基本で「人の話は最後 まで聞こう」ということはよく言われると思います。 話が長い大との会話は「つまらないなあ」「退屈だ なあ」と感じますよね。「時間のムダだな」と感じ て話の終わりが待てず、つい結論誘導をしがちです。 気持ちはとてもよく分かりますが、これらは大きな リスクがあります。話し手の伝えたい結論とまった く同じということはありません。微妙な差たったと しても相手は「自分の話が伝わっていない」と感じ て、不安になリストレスを感じるので注意が必要で す。  相手に「気持ちよく話せるなあ」という認識がで きると「この人といると、居心地がいいな」と感じ ます。心理的安全性が知らず知らずのうちに構成さ れていき、信頼関係が生まれます。  本当は何が喋りたいのか  第二段階は、「本当は何か喋りたいのかを聞き出 そう」です。「いま何に対して興味関心があるのか」 「どういうことに不満を感じているのか」など予測 して、質問を投げかけます。質問とは、一般的なコ ミュニケーションでは「自分の疑問を解消するため にするもの」です。しかし傾聴力という意味におい ては、質問は「自分のためではなく、相手のために するもの」です。すると、第一段階の「ただ気持ち 良く喋らせる」レベルを超えて、相手が「喋りたい 内容」を話せるようになります。すると、相手は すっきりした気持ちにもなれますし、自分の考えが 言語化できたことで達成感も得られます。  喋り足らないことにまでフォーカスを当てて、お 膳立てしてあげる。会話のキャッチボールではなく、 トスバッティングのようなイメージです。打ちやす い所にボールをポンと投げてあげて、スカッと気持 ち良くなってもらう。相手がコミュニケーションに 敏感なタイプの場合は、強い好意も持ってくれます。   「眠っている考えや想い」を掘り起こす  第三段階は「潜在的に話したいと思っていること に気付かせよう」です。人は、自分の奥深くに 「眠っている考えや想い」が埋まっているものです。 それらはほとんどの場合、人との会話や社会に発信 される誰かの言葉をきっかけに、「そうだ、私もそ う思っていたんだ」と気付きます。  また、言いたいことがあっても言う機会がなく、 自分の中で芽生えたアイデアや考えが、誰かに伝え られないまま忘れてしまうことはありますよね。そ んな「潜在的なところで眠っている思考を掘り起こ す会話」はとても喜ばれます。  このように、頭の中で「もやもやとしている整理 できていない考え」や「本当は世に出したかったの に埋もれてしまった思考」を、こちらの働きかけに よって言語化できるように導くのが本当の意味での 「傾聴力」です。  そもそも人は「自分の中にある願望や考え」をあ まり言語化できていませんし、顕在化させて認識で きていません。そこまでひとつひとつのことを丁寧 に自己認識する必要がないとも言えます。すべて言 語化して意識しながら生きているのも面倒くさいし、 しんどいですからね。しんどいから気付かないよう にしているとも言えます。広告やマーケティングの 世界では、潜在意識に訴えかける手法は常套手段で す。そうして獲得した顧客はファン化し、忠誠心も 高くなる傾向があります。潜在意識を引き出してあ げるようなコミュニケーションは、信頼関係の醸成 において有効な手段なのです。   「文脈を読む」クイズ  傾聴力の中には「文脈を読み取る力」が大きく存 在しています。文脈を読みとる力とは、簡単に言え ば、その場で言われていることだけでなく、その前 後に隠されたメッセージを読みとる力です。よく 「行間を読む」と言われたりもしますよね。  傾聴力のある人は、この文脈の理解に努めていま す。相手がムカついている表情をしているとき、こ の人は「ムカついている」という感情を伝えたいわ けではなく、「どうしてムカついてしまうのに至っ たのか理解してほしい」、もっと言えば「解決した い」「本当は仲良くしたい」という将来的な目標を 暗示しているケースがあります。そこには、過去か ら未来までの文脈が存在しているのです。そうした 文脈を考慮すれば、食事に誘って、誤解を解くこと もできるでしょう。そのためは、その人の性格や性 質に興味をもち、リサーチをすることも有用です。  こんな風に分解して説明すると「めんどくさい なあ」と感じるかもしれません。もちろん、どうで もいい相手にそこまでする必要はないでしょう。で も、自分にとって必要だったり、深く理解したい相 手の場合には、傾聴力はコミュニケーションの心強 い道具です。「文脈を考えろ」とか「行間を読め」 と言われるとウッとなる気持ちは分かります。そう いうときはクイズだと思ってください。表情や背景 にヒントがあり、隠れたメッセージを当てるクイズ です。  日本はハイコンテクストな文化の国です。「暗黙 の了解」や「阿吽の呼吸」などのように、知識や感 覚などの共有があることを前提として言葉以外でコ ミュニケーションを行う傾向があります。これに加 えて、「受信者責任か」「発信者責任か」を把握して おくことも傾聴力を理解する上で便利です。日本で は、発信者側か分かりやすく説明すべきところも。 「受信者が文脈を読みとることが当たり前」という 社会通念がありますよね。そもそも傾聴力という概 念自体が、「受信者責任に重きを置くとても日本的 な考え方」です。傾聴力を高める上では、日本には 「受信者側に責任がある」という慣習があって、「文 脈を想像してあげるコミュニケーションが土台にあ る」ことを分かっておくと「めんどくさい」ことも 受け入れやすくなります。  このように日本ならではの文化や習慣を鑑みても、 傾聴力がある人はとても重宝されます。相手に気持 ちよく喋ってもらい、潜在的な考えや想いを掘り起 こす手伝いをする。すると自然に人と情報が集まる ようになってきます。言わずもがなビジネスをする 上でもとても有利になっていきます。これが「傾聴 力」というスキルです。 褒め力  褒めましよう。とりあえず何でもいいから褒めま しよう。人も物も目に映るもの耳に入る音、とりあ えず褒めましよう。褒めていればビジネスの力がっ きます。もつと分かりやすく言えば、褒めていれば お金が人つてきます。人なら髪型でも服装でも、声 でも手の動きでも。商品ならパッケージのデザイン でも包装の具合でも。どうしてもなければ「なんか いいオーラを感じます」とかそんな適当なことでも いいです。  褒めていると良い部分に気付く  まずこのような姿勢を持つことは、言わずもがな 対人関係では良好化に繋がります。相手がその囗の 朝、混雑した電車で嫌な思いをしたかもしれないし、 パートナーと口論して出てきたかもしれません。そ のような状況でも、褒めることでムードを上げるこ とができます。  また「とにかく褒めるところを探す」ことを続け ていくと「良い部分」を探そうとする癖がつきます。 これは、どんなビジネスをする上でも、大きな武器 になります。  現代の商品やサービスは、世に出ている時点でど れもかなり洗練されています。良くて当たり前で、 むしろ悪いところに気が向くようになっています。 つまり、当たり前に感じてスルーしてしまう「大事 な良い部分」に、ほとんどの人は気付かないで過ご しています。仮に、良いと感じていてもわざわざ言 語化したりしません。自分なりに言語化して褒める ことは、世に受け入れられている理由を知ることに 繋がります。  特に、商品開発や広告宣伝の仕事において「物事 をポジティブな視点で考察できている人」は、必ず 重用されます。消費者のみならずビジネスパーソン でもほとんどの人が、世の中の物事を分析するとき ネガティブな要素を取り上げる傾向があるからです。  褒めるという行為は、強いコンプレックスがあっ たり困難な状況にある人は、嫉妬心など深い思考が 働いて褒めることが難しいときがあります。しかし そういう気持ちの人ほど褒めてみてください。心に ゆとりが生まれて、思考全体がポジティブになって きます。  そもそも日本人はあまり人を褒めません。シャイ な国民性ですし、褒めるという行為が「上から目線 で僭越だ」というような感覚もあり、褒めていたと しても褒め方がとても奥ゆかしくなります。「分か りやすく褒める」という行為自体がとても珍しいこ とになりますから、分かりやすく褒めているだけで とても珍しい人ということになります。  褒めることで得られる社会的評価はとても大きい です。「褒めた人やモノが悪いことをしたリダメ だったりしたときに信用が棄損する」と思われるか もしれません。公的に物事を保証することと違って、 そんなことで信用は損なわれません。「けなしてい たものが実際によかったとき」の方がダメージがあ りますし、「褒めもせず、けなしもせず、何も感想 を言わない人」には価値を感じにくいですよね。 「物事になんの感想も持っていなかったり、けなし たりしている人」と、「バカみたいにでもいつも褒 めまくっている人」と、どっちのそばに居たいかと 言われれば明白ですよね。  大げさに言えば、褒め続けるだけで人生が変わり ます。『イエスマン”YEs”は人生のパスワード』 (Yes Man)という映画をご存じでしょうか。 2008年にアメリカとイギリスで製作されたコメ ディ映画です。後ろ向きな性格で、何に対しても 「ノー」と答えていた人が、成り行きから「イエス」 としか言わないようになると、人生が好転したとい う話です。とても素敵な映画です。褒め続けると同 じようなことが起こります。「褒めるマン」になる と、時間もお金もかけずに「物事のよいところ見極 める力」をつけられ、人も引き寄せることができま す。これが「褒め力」というスキルです。 他人の時間を気にする力  仕事をする上で、誰かに何かを依頼するときは対 価として報酬があります。報酬の対象は「成果」の ように感じられますが、ほとんどの場合は「時間」 で計算されます。日頃は「自分の時間をお金に変え ている」にも関わらず、「他人の時間には関心が薄 くなる」人が多くいます。自分と一緒に何かをして いるときには「相手の時間を使わせている」という 認識がより希薄になります。  時間への気遣いで品位を感じさせる  優秀なビジネスパーソンや高い生産性を発揮でき る人ほど「時間」に対してシビアです。彼らがビジ ネスパートナーを判断する上で重要視しているのは 「時間に対する感覚」です。中でも「他人の時間に 対する気遣いができるかどうか」をとても繊細に見 ています。この「気遣い」は、立場の違いや利害関 係とは無関係です。  「他人の時間に対して気を遣う」姿勢はビジネス シーンの中では「品位」として認識されています。 そして、品位はビジネスに対する資質や能力にも繋 がるものとして考えられています。例えば「貴重な お時間をありがとうございます」「時間を使わせ ちやってごめんね」「30分お借りします」という心 遣いが感じられる発言や行動は、そのまま信頼に繋 がりますし、逆にこうした姿勢を伴わない言動は 「ビジネスセンスがない」とネガティブに評価され ます。  上司が部下に仕事をふるとき、本質的な理由は 「上司が使える時間を増やすため」です。上司以外 でもできる仕事であれば、時間給の安い別の人が やったほうが生産性が良いからです。中には「仕事 を部下にふるだけで、空いた時間を他の仕事に使わ ず何もしない」上司もいるとは思いますが。  仕事を外注する場面も同じ構造です。「自社には ノウハウがないから外注する」というイメージもあ るかもしれませんが、基本的には「お金で時間を 買っている」という構造です。「ノウハウやインフ ラのない仕事をイチから自社でやる」ということに は膨大な時間が必要になります。その時間を削減す るために外注しています。  ですから、仕事をふられた側の本質的な役割は、 仕事をふった側、つまり「上司や発注者の時間を使 わせない」ということになります。「自分はこの人 が使える時間を増やすためにこの仕事をしている」 という感覚を持って仕事に取り組むと、上司や発注 者からは間違いなく「品位のあるビジネスパーソ ン」として頼りにされます。  ムダな時間を過ごさせない  時間はすべての人に等しく与えられています。し かし「人がどう感じるかによって全く異なる性質の もの」になります。楽しい時間はあっという間です よね。逆に、嫌なことをするのは1分でも苦痛です。 「他人の時間に気を遣う」ということは、絶対的な 時間ではなく「相手にとっての時間の感じ方」を想 像することにも繋がります。  同じ時間を過ごしていても立場によって時間の進 み方が異なるだけでなく、価値そのものも異なりま す。例えば、仕事相手がミスをして、対応するのに 多くの時間を要して迷惑したとします。先方から 「お詫びに食事をごちそうさせてください」と誘わ れました。ビジネスシーンではよく見られるシチュ エーションです。しかしその相手が「好きなタイプ ではなく、話していてもつまらない人」だったらど うでしようか。行きたくないですよね。「時間がム ダだな」と思うでしょう。ミスの対応に時間を費や して迷惑したのに、さらに時間を使わされている感 覚でしょうか。しかし、その食事の時間に有益な情 報が得られたり、楽しいエピソードが聞けたり、ま た自分から何かを引き出してくれたとしたら、気持 ちよく会食を終えられると思います。それはごちそ うになれたとか、謝罪を受けたからではないですよ ね。その過ごした「時間に価値があった」という結 果です。  私は、誰かと会うときはとても緊張します。「自 分と過ごした時間をムダだった」と思われたくない からです。これは相手への気遣いもありますが、ど ちらかと言えば「プライド」のようなものかもしれ ません。では具体的にはどうすれば相手は有意義な 時間と感じてくれるでしょうか。もちろん相手が 「ビジネスで困っていること」「私生活で悩んでいる こと」を解決できたら最高でしょう。でもそんな簡 単にはいきません。  そこで、ひとつお薦めしたいのは、「相手がまだ 経験したことのない情報を提供する」ということで す。これは一見難しそうに思えますが、自分の体験 談で十分です。例えば、最近流行りの店で食事をし た体験、その料理が意外と美味しくなかったという 感想、その際、なぜ美味しくなかったと思ったのか、 他の客の反応はどうだったのか、その店で感じたこ とを素直に話してみてください。聞きかじった情報 やネットで見つけた情報は誰でも手に入れることが できます。しかし、自分が体験したその店での感想 は、n数はIだとしても立派なマーケット情報なの です。そのような情報は、本来は自分で足を運び体 験しなければ得られない情報であり、価値がありま す。相手にとっては先に述べた「市場理解」に繋が ります。  このように「相手が時間をかけないと体験できな かったことを自分が疑似体験させてあげる」という 考え方ができていれば、相手は自分との時間をムダ だとは感じないはずです。時間に対する正しい理解 と言えるでしょう。  成果を出せる人ほど「時間を何に使っているか、 その時間で何を得ているのか」に非常に敏感です。 相手の立場がクライアントであるか下請け会社であ るかは問わず、「相手の時間を使っている」という 意識は重要です。  これからの時代は、優秀な人ほど「自分の時間を お金に換える」という生き方を選ばなくなります。 時間の使い方を敏感に意識するようになり、有意義 な時間の使い方を模索します。ですから、他人の時 間に対して気遣いをするだけでとても信頼されます。 結果として、自分の時間の使い方も上手くなってき ます。それが「他人の時間を気にする力」というス キルです。 人脈力  人脈は腐ります。少し言葉が強かったかもしれま せんが、人脈は永続的に維持されません。人脈は生 モノですから、時間がたてば食べられなくなります。  人脈は生モノである  そもそも人脈とは何でしょうか。ビジネスにおけ る「人脈がある」という状態は、知り合いが多くて。 「仕事で困ったとき、適切なノウハウを持っている 人に簡単にアクセスできる」とか「普通はなかなか 交流できなさそうな人と連絡が取れる」などのよう なイメージだと思います。「何かあったときに頼れ るような人」との間には信頼関係があるはずですか ら、その関係性は「腐るようなものではなく長く続 くもの」であるはずですし、そうであって欲しいも のです。もちろん、幼馴染や危機を共に乗り切った 人などのような深い結び付きは簡単には無くならな いでしょう。しかしビジネスにおける人脈は腐りや すい性質があります。  そもそもビジネススキルにおける人脈は、関係性 を長く保つことが必要要件ではありません。ビジネ スとは商業活動を経て利益を得ることが主たる目的 ですから、人脈も、その目的に役立つものであれば 良いということになります。ですから無理して関係 性を維持する必要はありません。ビジネスにおいて 力を発揮する人脈は「今」「頼るに適した人」が 「どれだけいるか」です。ですから、頼れる相手が いても「今」関われなかったり、内容に合わなかっ たり、そもそも多くの知り合いがいても力を貸して くれるような関係性がなかったら、人脈があるとは 言えません。  しかしここでお話したいのは、「だから今自分の 役に立だない人と付き合わなくていい」ということ ではありません。  現在のビジネスシーンはものすごいスピードで変 化します。自分も変化していきます。未来はどうな るか分かりません。ですから「ビジネスのためだけ に人脈を作ろうとすること」に意味がないのです。 「いつか何かビジネスの助けになるかもしれないか ら、たくさんの知り合いをつくろう」。そうやって つくった。人脈”を維持するために「定期的に挨拶 したり、たまには食事にも誘わなければ」。そうい うことにはまったく意味がありません。  身近な人から繋がる脈  では、どうしたら良いのでしょうか。二つの考え 方があります。ひとつは、誰かを追うのではなく 「追われる人になること」です。当たり前の話です が「自分と繋がりたい」と多くの人が思ってくれる ような人になれば、たくさんの人脈ができます。自 分から探す必要もないですし、維持する必要もあり ません。とても難しいことのようですが、これが最 も合理的な方法ですし、それが「社会から強く必要 とされている状態」とも言えます。  もうひとつは「今、目の前や周囲にいる人を大切 にする」ということです。それだけで人脈力が増し ます。人はつい「身近にある大切なもの」を見落と します。今、自分と一緒に時間を過ごしてくれるビ ジネスパートナーや同僚やクライアントのことを、 今までよりも大切にしてください。もちろん、生理 的に合わない人や嫌いな人と付き合う必要はないで すが、「身の回りにいてくれる人」のことをとにか く大切にしてください。そういう人たちが自分の大 切な「人脈」となります。  実は、このように身の回りにいる天を大切にして いく積み重ねが、一つ目でお伝えした「人から繋が りたいと思ってもらえる天」になる近道にもなりま す。  なぜなら、人脈とはまさに「人の脈」だからです。 脈々と繋がります。自分と誰かのその先に、誰かが います。ですから、無理にたくさんの知り合いをつ くる必要はありません。本当に自分のことを評価し てくれたり、応援してくれたり、好きでいてくれる 天がいれば、そういう天たちが、自分を「その先の 人たち」に繋いでくれます。今自分の周りにいる人 たちは、「未来の自分にとって大切な誰か」を繋い でくれる人たちです。  弊社はずっと新規営業というものをしていません。 今お付き合いしてもらっているクライアントは、私 の周りにいた人からの紹介だったり、その仕事を通 じて繋がった人たちです。私自身はたいした人間で はありません。ただ、私の周りには、本当にすごい 人たちがたくさんいます。私かいまこうして偉そう にこのような本を書いていられるのも、私を評価し て周りにいてくれた人と、その先に出会った人たち のおかげです。  物事は変化します。自分はもちろん、他人もみん な変化します。興味のあることも、仕事内容も、経 済状態も、人生のフェーズもどんどん変化します。 だからこそ、今繋がっている人や自分を大切にして くれる人との縁は奇跡的なことですし、今繋がって いる人を大切にするしかないのです。  今深い関係でいる人だちとの繋がりが、薄くなっ たり無くなったりすることもあるでしょう。でもそ れは当たり前と考えてください。それも変化なので す。未来を憂うことなく、今そばにある人の繋がり を奇跡として大切にする。結果として、その先にあ る「未来に必要な誰かとの出会い」に繋げていく。 それが「人脈力」というスキルです。 好きと言う力  好きな人には「好きだ」と言葉にして伝えてくだ さい。それができたらビジネススキルは上がります。 「何冐ってんだ」という印象かもしれませんが、恋 愛のみならずビジネスにおいてもとても大切なこと なので少し読んでみてください。  好意は伝わりにくい  まず、コミュニケーションにおいて「あなたのこ とが好きです」という気持ちは伝わっているようで なかなか伝わりづらいものです。恋愛に隕らずどん な場面でも好意を伝えるのは難しいことです。  日本人は一般的に「自分の気持ちを伝えること」 があまり上手ではありません。正確に言えば、「自 分の考えや感情を表現することで、他者を不快にさ せたり気を遣わせるのは好ましくない」という美学 があります。また、「考えや感情を曖昧にしておく ことでムダな軋轢を回避する知恵」とも言えます。 「以心伝心」「空気を読む」「つうかあ」という表現 もあるように、言葉によらない意思疎通でコミュニ ケーションをする文化は、和を重んじる日本人の誇 るべき特徴だと思っています。  この土台の上で「あなたに好意を持っています」 という気持ちも「明確な言葉にしなくても伝わって いる」と思いこみがちです。しかし、このようなポ ジティブな感情ほど伝わってない場合のほうが多い ものです。なぜなら受け手である相手方も「自分の ことなんかを好きだと思ってくれない」と奥ゆかし く考えるからです。とりわけビジネスの現場では 「好き嫌いで仕事はしていない」と思われています からなおさらです。ですから、まず「好きだ」とい うことをそのまま言葉にするだけでも、ビジネス パーソンとしてはとてもレアで印象に残るというこ とになります。  シンプルに「好き」と言う  数年前になりますが、私かある有名人Nさんとお 話していたときの話です。その人の社会的影響力は 屈指です。Nさんとはそれほど濃い関係があったわ けではないのですが、なぜか私に連絡をくれます。 私はNさんのことを尊敬していましたから、もっと 頻繁に会ったり、あわよくば一緒に仕事もしたいと 思っていました。しかし、Nさんの周りにはたくさ んの優秀な大がいますし、話をするのも緊張します し、あまり連絡することはありませんでした。ある とき、久々に話す機会があったので率直に聞いてみ ました。「そんなにたくさん会ったり何かをしたわ けでもないのに、なぜ私と話そうと思ってくれるの ですか」と。彼は開口一番「高瀬さんのことが好き なんです」と言いました。これは嬉しかったです。 どんな言葉より圧倒的な力がありました。  Nさんが本当はどう思っていたのか分かりません。 彼の常套文句の可能性もあります。少なくとも私に 興味があっだのかもしれませんが、それを「好き」 という言葉で伝えるセンスに私は改めて感銘を受け ました。  このとき以来、私は少なくとも本当に好きな人に は「好き」と伝えるようにし始めました。私は自分 の気持ちを伝えるのがとても下手でしたが、「好き」 はとてもシンプルな気持ちなので、やってみるとと ても簡単でした。そして私のビジネスは明らかに上 昇気運になっていきました。  ビジネスは論理的に意思決定されていることが多 いと思います。パートナーになりたい相手を口説く とき「こういう理屈であなたにとって得だから」と いう話し方になるのが一般的です。しかし、相手に 好意があるのなら素直に「あなたのことが好きだか ら、ビジネスを一緒にやりたい」と伝えてください。 理屈を超越したこの動機は、これ以上ない褒め言葉 でもあります。  もう少し具体的な場面でお話します。もし誰かと 会食したいとします。「食事をすることで関係を築 いてビジネスに繋げる」というのは古今東西よくあ るビジネスの始め方です。しかし、相手にメリット を感じてもらえないとき、実現しないケースも多い と思います。しかし、そういうときの最強の口説き 文句は「あなたのことが好きだから一緒に食事をし たい」です。  逆の立場で考えてみてください。相手が親しい天 ではなかったり、特に有益な情報も無さそうな天 だったら、一緒に何かをするのは苦痛ですよね。し かし、そんな人からでも「あなたのことが好きだか ら一緒に食事をしたい」と言われたら、それはムダ な時間と感じなくなるのではないでしょうか。  ただし、これは好きでない相手に社交辞令で言う ことはお薦めしません。優秀な人ほどウソに気付き ますし、ウソをついた自分に対しても精神的によく ありません。  「好き」に勝る動機はありません。「私はあなたの ことが好きだからビジネスをしているんです」と相 手に伝えることは、自分の「そのビジネスに対する 覚悟」を表明していることになります。相手からす れば「前向きに一生懸命やってくれるパートナーで ある」という保証のようなものにもなりますから、 強い信頼関係も生まれます。  いまは「好き」が重宝される時代  「好き」という感情がもつ将来的な可能性は、計り 知れません。自分のことを好きだと言ってくれる人 とは、今、何も起きなくても1年後や10年後に、素 晴らしいビジネスパートナーになれる可能性があり ます。また、それがビジネスに繋がらなくても、長 い付き合いができる大切な友人になるかもしれませ ん。  成功しているビジネスパーソンは人間関係を大切 にしますが、そのスタンスは素直な気持ちに基づく ものです。一方、ビジネスがうまくいっていない人 ほど打算的に考えがちですし、目先の利益に走って 人との関わりを蔑ろにしています。成功者と言われ る人ほど、物事を長期的な視野で考える能力がある ことは歴史が証明しています。好きという感情は長 期的な価値を生む可能性を秘めています。  会社員の立場だと「好き」だけで物事を決めづら いかもしれません。ですが、好きな気持ちを伝える ことはできます。それが1年後なのか、10年後なの か分かりませんが、好意のメッセージがいつの囗か、 相手の中でぼっと再燃することは十分あり得ること です。  時代の流れにおいても、愛情や好きといった「理 屈を超えた感情」の価値が増しています。例えば何 か行動を起こすとき、理由をただ「それが好きだか ら」と言ったところで30年前だったら変な人に思わ れていたでしょう。昔に比べて、「理由のない好き という感情や趣向」が重視され、意味を持つ時代に なってきています。それに人々が気付き始め、「好 き」がお金になりやすい環境も徐々に形成されてい ます。これは、可処分時聞か増え、多様な価値観が 受け入れられるようになって、「好き」という感情 の入り込むスペースが増えたからです。  これからの時代は、この「好き」によって物事が 動く時代になります。今はその過渡期であり、多く の人がこのパラダイムシフトをビジネスチャンスと 捉えて動きはじめています。  「好き」を言葉にすると、理屈を超越した覚悟を相 手に伝えることができるのはもちろん、自分のビジ ネスに対するスタンスも明確にできます。結果とし て好きな物事に囲まれている時間が増え幸福度が増 します。そうした環境は、これからの「好きを中心 に動くビジネスシーン」で必ず役に立ちます。それ が「好きと言う力」というスキルです。 進行力  最近のビジネスパーソンは「本当に優秀だな」と 感じます。これは世間や読者に媚びてるとかでもな んでもなく、事実です。  その理由は「はじめに」で述べたように「人類は とにかく良い方向に進歩し続けている」という歴史 的事実と、近代においてはインターネットによって 膨大な情報が蓄積し、スマホの登場によって若いう ちから誰でもその膨大な情報にアクセスできるよう になったことがあげられます。たくさんの情報を浴 びることによって、無意識的に自分にとって必要な ものを取捨選択する力が備わっています。考え方は 論理的で合理的です。「社会に貢献することが自分 にも得になる」という真理も理解しています。   「実行」は「進行すること」の積み重ね  しかし、そういう人と接してきた中で、ひとつだ け意識したほうがいいと感じるスキルがあります。 それが「進行力」です。  「進行力」とは、何かやりたいことや任された仕事 を能動的に進める力です。「実行力」という言い方 のほうが馴染みがあればそういう理解でもよいです が、実現させたり完了させるにはまず「進める」こ とが必要です。進めた結果の状態から、さらに進め て、その状態からまたさらに進めていく、その先に 実行した状態があります。実は「実行力」というも のは「進行力」の積み重ねなのです。ですから「進 行する」という言葉を意識することをお薦めします。  何かやりたいことやタスクがあるとき、優秀な人 はすぐに必要な情報を集め、最も簡便なツールを選 び、スタンバイすることができます。しかし、せっ かくそれらの準備ができても「進めること」ができ なければ、何もしなかったことと同じになってしま います。逆に、不必要な情報を集め、面倒なツール を選び、非合理的な準備をしてたとしても、とにか く進めて進めまくって目的にたどり着くことのほう が価値があります。  何かつくる前にはアイデアがありますよね。世の 中でヒット作品やヒット商品が出たときに、その 「アイデアや発想が素晴らしい」と評価されること がほとんどです。しかし、実はそのアイデア自体に はたいした価値はありません。私はコンテンツプロ デューサーとしていろいろなコンテンツをつくって いますが、「アイデア自体に価値はない」というス タンスを大切にしています。  「こんな商品があったらいいな」「こんなサービス があったら流行るかも」「こんなことしたらバズる んじやないか」そんな風に思ったことがあると思い ます。しかしそのようなアイデアは同時にたくさん の人が発想しています。毎囗生まれ、そして忘れら れていきます。アイデア自体よりも、それを「実現 し、世に出すこと」の方がはるかに大変ですし価値 があります。上司に反対されたり、クライアントか らストップがかかったり、予算が足りなかったり。 足を引っ張られたり、仲間が去ったり。揶揄された リ、恥ずかしい思いをすることもあるでしょう。  アイデアは実現し、世の中に形として残すことに 価値があります。そうでないアイデアは毎日無数に 消えていく他のアイデアと同じで、元々なかったこ とと同じです。  みんなが欲しがる「進行力」のある人  私か関わってきた成功者や優秀なビジネスパーソ ンは「進行力」が圧倒的です。進め方は非合理的 だったり、スマートとは言えないことも多いかもし れません。でもとにかく、ぐいぐい進めていきます。 ビジネスシーンにおいては進行力がない、もしくは 重視してない人はとても多いです。ですから、この 進行力さえあれば、ビジネスシーンでは重宝される ということになります。  私の友人で電通を辞めて独立した人がいます。当 時は今ほど起業が当たり前ではありませんでしたし、 電通のブランドや社会的影響力は今よりも強かった と思います。  彼が起業したときにまだ会社員だった私は尋ねま した。「怖くない? 勝算は?」彼は意外な返事を しました。「電通の人間は。仕切ってなんぼ”だっ て教えられて半信半疑にやってきたけど。世の中、 意外と仕切れる人が少ないことに気付いたんだよね。 だから最低限食べていけないことはないと思ったん だ」。当時の私にはまったく考え付かない視点で目 から鱗でした。「仕切れている」というのは広告業 界では「段取りや調整をしてプロジェクトを進行さ せる」ということを意味しています。  当時私はテレビ番組を制作する仕事をしていまし たが「たしかに」と思いました。大きな規模であれ ばあるほど、いろいろなトラブルや予期せぬことが 起こります。私か企画した『逃走中』という番組で は多いときで700名を超える人が番組に関わって いました。これだけ人数がいると「当たり前に進行 すること」が何より難しいのです。しかも一発本番 で撮り直しはできません。こういう番組では、準備 した通りに制作がちゃんと進んでいるか「進行を管 理する」という役割の人を配置します。この「進行 管理」をしてくれる人は本当に頼りになります。し かし、「ちゃんと進行管理できる人」はなかなかい ません。他の多くの番組でも、希有な人材として常 に求められる存在でした。  また、経営者や投資家が最も欲している人材も、 この「進行力」のある人です。経営者や投資家は、 「やりたいことや、やるべきことを人やお金を使っ て実現する」ことが仕事です。ではどういうところ に経営資源を使いたいかと言えば、任せられる人で す。任せられる人とは、もちろん「良い結果を出し てくれる人」ですが、良い結果か悪い結果になるか は、とにかく進めてみないと分かりません。経営者 や投資家は何よりもスピードを重視します。ですか ら「まずはとにかく進めてくれる人」を強く求めて います。  些細なことで進まない  ここまでの話で「進めていくときの障壁となる物 事」はどのようなイメージだったでしょうか。「大 きな障壁を超える力がスキルだ」というような話は よくあると思います。ここでひとつ強調しておきた いのは、「大きな障壁がなくても進まないことがた くさんある」ということです。  仕事が進まない、進められない理由は無限にあり ます。「社会的な大問題」など超えるのには難易度 の高いハードルもありますが、ほとんどは「他の仕 事が忙しかった」「面倒だった」「言ったつもりだっ た」「聞いたつもりだった」「催促されてない」「ま だやらなくてよいと思っていた」などのような、言 葉にするとほんとに些細に感じることが理由で進ま ないのです。  上司やクライアントに「軽く頼まれたこと」を進 めるか否か、「アレやっておいたほうがいいかも」 と感じたことを進めるか否か、それがビジネスにお いて大きな差になります。軽い指示や頼みは、だい たいが曖昧で適当ですから本当に進めていいのか分 からないときがありますよね。そういうときでも、 「どこまで進めていいのか」「いつまでにどこまで進 めるべきか」、上司やクライアントに確認したり、 お尻を叩いたり判断させるのも、また進行力です。  「とにかく進める」ことを意識するだけでビジネス シーンにおける自身のプレゼンスは上がります。誰 かに自分をアピールするとき「どんなことがあって もとにかく物事を進める力があるところだ」と言っ てみてください。びっくりするような好反応が得ら れると思います。  今まであまり言語化されず認識されていなかった けれど、実はあらゆる仕事でもっとも必要で、言わ れてみれば「みんなが欲しがる人材」が持っている スキル、それが「進行力」です。 プレゼンカ  「プレゼン」は好きですか。私は仕事柄、毎週のよ うに何かしらのプレゼンをしていますが嫌いです。 準備も大変ですし、緊張しますし、ちゃんと説明で きて分かってもらえるか不安です。内容に自信があ ればあるほど、伝わらないとがっかりします。そん な私か得た考え方があります。それは「プレゼンは 言い訳探しのイベント」だということです。  プレゼンは「言い訳探しのためのイベント」  プレゼンは一般的に、自社や自分が「良いと考え ていることを相手に伝えて同意してもらうためのも の」と考えられがちですが、実はそうではありませ ん。相手が「これで進めましよう」と言える「言い 訳探しのためのイベント」です。基本的に、誰がプ レゼンしても相手が「100%良い」と思うことは ありません。担当者が社内の稟議を通すことができ たり、チーム内で合意形成できる理由があれば十分 です。ですから「自分の考えが正しい」と伝えるこ とではなく、「相手が使える言い訳」を提供するこ とが求められます。  よく考えてみれば、プレゼンの結果は往々にして 「過去の成功事例」「数字で表せるリサーチ結果」 「有名な○○さんが手掛けるという安心」などが決 め手になることが多いですよね。規模や予算の大き な案件であればなおさらです。これは、「なぜ決定 したのかという言い訳がしやすい」からです。しか し逆に、どんなに実績があって、有名人を起用して、 事前のリサーチ結果がよかったとしても、相手が 「言い訳」として採用できるプランでなければうま くいきません。  例えば、ある広告のコンペがあったとします。地 元に愛されるスーパー「ジモトダイスキ屋」が新た に広告をしたいと考えています。コンペに参加した のは馴染みの会社が多く、どの内容も安心感のある プレゼンでした。「ジモトダイスキ屋」の担当者は 逆に困っています。なぜなら、「正直どの会社でも いい」と思っていて、「どの会社にしても「決めた 理由」になるほどの差がないからです。実は最近上 司から「コンペは決定理由を明確にしろ。そして毎 回その理由は違うことが望ましい。毎回同じ理由で はイノベーションは起こらない」と、よく分からな いけれどもっともらしいことを言われていました。 困っていたところ、ちょうど大手企画会社「オヨヨ プランニング社」からこんな提案がありました。 「100万円増額が必要になりますが、納期を一か 月早めることができますよ。」そこで担当者が思い 出します。「そういえば、最近、社長がビジネス書 に感化されて『とにかくスピードを重視しろ』つて 全社集会で言っていたな」「これなら上司に決定理 由を明確に言えそうだ。」こうして担当者は無事に 「コンペの決定理由となる言い訳」を手に入れられ たのでした。めでたしめでたし。  例えがダメ会社とポンコツ社員になってしまいま したが、どこかでありそうな話です。ここで言いた いのは、「相手が求めている言い訳に合致した提案 をすることが大切だ」ということです。  相手が求める言い訳は、様々な要素が関連してい るので、本当の狙いや困っている部分を見極めるこ とが必要になります。  私は、オリエンテーションの段階で「相手が本当 は何を考えているか」をできるだけ深堀りするよう にしています。「予算5000万円ってなってます けど、本当はこの程度で収めたいとかあります か?」「ぶっちやけ、これって内容より企画を通す ことのほうが大事だったりします?」「本当は他に やりたいことがあるのに出来ない事情とかあったり します?」というように、「出来る限り本音を知り たい」という姿勢で聞いてみます。  この土台にあるのは「プレゼンを受け入れてもら うため」というより「互いに、時間と力を使うなら 合理的に進めたい」という気持ちです。このような 姿勢でいると、さらに「ズレだプレゼンをして相手 にムダな時間を使わせたくないな」とか「裏事情を 知ってちゃんと役に立ちたいな」という想いが先行 するようになってきます。こうした想いは相手に ちゃんと伝わりますから、悩みを共有する同志のよ うな関係構築にも繋がってきます。   「伝わらない」のが当たり前  プレゼンカを意識する上で、あと二つ知っておく と良いことをお話します。一つ目は、「自分の考え は伝わらない」と認識しておくことです。これはプ レゼンだけの話ではなく、「好きと言う力」でもお 話したように、すべてのコミュニケーションにおい て意識しておくことをお薦めします。  私はコンテンツプロデュースや広告の仕事を通し て、たくさんの生活者とコミュニケーションをとっ てきました。また、様々な経営者とのコンサルティ ングやメンタリング、受発注のやりとりをする中で、 個対個のコミュニケーションについてもいろいろ考 えてきました。その中で明確に理解できたことは、 「自分の考えや当たり前だと思っていること、感情 も、愛情も、まず伝わらない性質のものだ」という ことです。一見寂しい話のようですが、コピーライ ターや作詞家など、言葉を仕事にする人の多くが 「伝わらない」悩みを当たり前に語っています。  コミュニケーションにおける齟齬やトラブルはほ とんどの場合が、「伝わるはずだ」「伝わっていると 思っていた」と考えていたことに起因します。です から、「伝わらない」と考えることが、結果として 伝わりやすくなります。そもそも「伝わるはず」と いう感覚は「期待」ですから、伝わらないと「悲し み」や「怒り」となって大きなストレスになります。  伝わることが前提のプレゼンは「押し付け」にな ります。冒頭でお話した通り、プレゼンは互いに行 う「言い訳探しのコミュニケーション」ですから、 一方通行の「押し付けプレゼン」は成立しません。 「伝わらない」ことを前提にするということは「伝 えるために考える」ということです。結果として相 手本位になり、伝わりやすいプレゼンに繋がります。  もう一つは「熱意も言い訳になる」ということで す。熱意は一般的には「相手の心を動かす、理屈と は別次元のもの」と理解されていますが、「プレゼ ンは言い訳探しのイベント」だという理解の上では、 熱意も相手が持てる「言い訳」になります。  「これだけ成功させたいと考えてくれているなら一 生懸命やってくれるはずだ」「これだけ熱心なら適 当な仕事はしないだろう」という安心感を与えます。 これは立派な「言い訳」になります。ただ、ここで 注意したいのは「熱意」が自分本位にならないよう に気を付けることです。自分本位の熱意はやはり 「押し付け」になってしまいます。あくまで相手本 位の意識を忘れないことが大切です。  プレゼンの面白いところに、プレゼンされる側は 「正解を持っていない」ということがあります。で すから「こうしよう」と決めたとしても、そこに 100%の自信がないのです。  たとえば、プレゼンを受ける側か会社員であれば、 その上司に決裁を仰ぐ必要があります。プレゼンを 受けていた人も、実は社内ではプレゼンする側にな ることはよくあります。仮に社長だったとしても大 きな案件であれば株主やオーナーに対するプレゼン が必要になります。もしそうでなかったとしても、 自分の中で「自分を納得させるための言い訳が欲し い」という気持ちがあります。  これはビジネスだけではありません。恋愛や政治 でも同じことです。結婚するとき、付き合うとき、 何か決め手だったでしょうか。もちろん愛情が最良 の決め手ですが、「最初はなんとなく付き合った」 なんて話もよく耳にしますよね。選挙で一票を投じ るとき、よほど強い信条があるときを除いて、誰に 入れるか、どの政党に投じるか、「自分の中での言 い訳」を探すことはなかったでしょうか。恋愛も投 票も、どちらもその時点での正解は分かりません。 後になってから、その決断の善し悪しを判断するこ とができます。  「実は正解は分からない。分からないことは分かっ てるけど、でも今決めなきやいけない」。そんな 「迷いと人間らしい心情に寄り添うこと」、それが 「プレゼンカ」というスキルです。 営業力  「営業は重要です」というのはビジネスシーンでよ く言われます。では実際どの程度重要かと言えば 「超重要」です。営業力は、それさえあれば「好き なことがなんでも出来るようになる」万能のスキル です。  「営業」と聞くとどこかスマートではない、少し前 時代的なイメージもあるかもしれません。ノルマが あって厳しいとか、訪問先やクライアントにペコペ コするような、やりがいのない仕事と思ってる人も 多いと思います。それ故に仕事の種類としては不人 気ですし、採用の場面などでは「マーケ人材募集」 などのように別の言葉に置き替えられます。  実は今「○○マーケティング」と言われている仕 事のほとんどが営業だったり、その一部です。その 結果、「本当は営業の仕事をしているのに、営業力 というスキルが意識されない」ことが多くあります。 単純に営業力さえあれば出来ることも、別のスキル に置き替えられてしまってムダに遠回りすることも あります。  どんなことでも仕事にできる  一般的なビジネスシーンでは、仕事は2つしかあ りません。「何か価値をつくって世に問う仕事」か 「すでにある価値の助力になる仕事」です。  まず「何か価値をつくって世に問う」上で成功の 鍵は、営業力です。どんなに優れた価値を生み出し て世の中を変えるような可能性があったとしても、 人に伝えて広めることが出来なければ、それがどん なに素晴らしいモノか誰も気付きません。逆に言え ば「伝える力や売る力があるのなら、どんなものを つくってもビジネスになる」ということです。どん なにニッチな価値でも、マニアックな趣味のような ことでも仕事にすることができます。これが「営業 力さえあれば、好きなことがなんでも出来るように なる」という意味です。  私はどんなコンテンツや商品をつくるときでも、 「つくることよりも、伝えることや売ることに力を 注ぐべき」と考えています。つくることも大変です が、それを「世に出すことのほうが遥かに難しい」 からです。つくるのは楽しい一面も多いですから、 「つくること」に時間もお金もかけがちですが、本 当は「伝え方や売り方」に時間もお金をかけるべき です。「売り方を考えて、つくる」ような順番でも いいくらいです。  次に「すでにある価値の助力になる」という仕事 の成功の鍵も、結局は営業力です。「すでにある価 値の助力になる」ということには、「商品の一部と なる部品をつくる」とか「商品の広告を請け負う」 とか「足りない人材を提供する」など、あらゆる仕 事が含まれます。部品を使ってもらいたくても、足 りない何かを提供したくても、その部品や人材が 「優れていると知ってもらう」、つまり営業しないと 叶わないわけです。ということは逆に考えると、や はりこちらも「営業力さえあればどんな業界におい てもビジネスができる」ことになります。  儲かる業界や業種、つまり世の中に必要とされる 仕事というのは時代と共に変わっていきます。近年 ではコロナ前、コロナ禍、コロナ後で人の生活や価 値観はめまぐるしく変化しましたよね。変化が起き たときに最も武器になるのは営業力です。世の中に 必要とされるものが変わっても、営業力があれば商 材を変えればいいだけです。  私はいろいろな仕事をしています。正確にはその 時々に興味のあることを仕事にしています。これが 可能なのは、私か様々な分野にノウ(ウや技術を 持っているからではありません。それは少なくとも 「どんなことも仕事にできる営業力」があるからで す。  営業活動は日常の中にある  ではそんな営業力とはどうしたら備わるのでしょ うか。営業力とは、実は本書でご紹介している様々 な力を集めた総合力です。営業とは人との関わりで すから、特に第一章の「人を動かす」でお話したこ とを、営業力をつける目的で軽く読み返していただ いても良いかもしれません。  その上で、敢えてひとつだけ付け加えるなら、そ れは「場数」です。と言っても「飛び込み営業をた くさんこなせ」というようなことではありません。 今している仕事や友人付き合いの範囲でかまいませ ん。ちょっとした日常的な行動を「これは何かの営 業になっているかも」と捉えてみてください。クラ イアントヘのプレゼンや上司への相談はもちろん、 社内調整や会食の場所選びも、実は「営業活動」で す。仕事以外の日常にある旅行の計画や、家事分担 の相談、マッチングアプリでの出会いなどもすべて 営業活動です。「なぜ自分がそうしたいと思ったの か」「なぜ良いと思ったのか」そして、それが自分 だけではなく「なぜ相手にとっても良いことなの か」、魅力や理由を少しだけ考えてみてください。 仕事や日常生活の中で「これって営業してるな」と 思えた時、そのときの経験がどんな場面でも生かせ る「営業力」に昇華していきます。 パクるカ  ビジネスシーンでは、新しい企画や新しい発想を 求められることがよくあります。上司やクライアン トから「もっとパッと思い切った斬新なこと考えて よ」「見たことのないオッと言われるものないかな」 というような無邪気なオーダーを受けて、げんなり した経験はあると思います。「新しいことを考える」 「新しいことを生み出す」というのはとてもハード ルが高く感じます。そういうときにお薦めの方法が あります。それが「パクる」ということです。  ここではハードルを下げるために「パクる」とい う言い方をしましたが、もちろん「違法にコピーす る」ようなことではありません。ただ、よくある 「他者から学べ」「過去の経験から学べ」のように言 われてもなんだかよく分かりませんよね。ですから 「パクつて」ください。「パクる」と言われると簡単 そうだし少しやる気になります。   「ゼロイチ」は存在しない  そもそもパクるのは悪いことではありません。パ クるのは良くないとか格好悪いと思うのは、「この 世にあるモノのほとんどは新しく生み出されたもの であって、模倣されているものは少数である」とい う考えがベースになっているからです。しかし実際 には違います。この世に新しいものは存在しません。 すべて何かに影響を受けて出来ています。ヒット商 品や作品の誕生秘話にはそんなエピソードに事欠き ません。  たとえば、映画『スターウォーズ』の生みの親、 ジョージールーカスが黒澤明作品のファンで、『七 人の侍』などの映画に強い影響を受けているのは有 名な話ですし、映画『マトリックス』も『攻殼機動 隊』に影響を受けていると言われています。日々生 み出されるソフトウェアも、過去のオープンソース を組み合わせてつくるのが当たり前です。ちなみに 私か企画した『逃走中』は鬼ごっこが元ネタだと思 われていますが、発想の起点は「サッカー中継」で す。試合時間の表示が当時はカウントダウンが主流 で、それを見たときに「ずっとカウントダウン表示 しているゲーム番組」をつくれないかと考えたのが 最初です。  ゼロからイチをつくる「ゼロイチ」という言葉も ありますが、ゼロから生まれるものはありません。 何かに影響を受けたり、既存の何かに着想を得てつ くられたものが世に出てヒットしたとき、世の中は 「これ面白いね」「この手があったのか」と評価し、 「新しいもの」として認識します。この視点は、前 著『人がうごくコンテンツのつくり方』や『企画』 でもご紹介したので、関心のある方は読んでいただ ければ幸いです。  パクるのが良い理由はたくさんありますが、ここ では3つあげたいと思います。まず1つ目は、「他 者の成功体験や失敗体験を利用できる」ということ です。分かりやすい部分ですよね。言わば近道がで きるということです。  2つ目は、「すでにこの世に存在し流通している」 ということです。この世にあるということは、少な くとも誰かが欲しいと思ったか、つくりたいと思っ たわけで、そもそもニーズがあるということです。  3つ目は、「大は新しいものが苦手だ」というこ とです。一般的には「新しいもののほうが新鮮で人 の興味を引きそう」と思われていますが、大は「新 しいものを警戒する本能」があります。見たことの ないものを食べるのは躊躇しますよね。これは人の 防衛本能です。大は、既視感や既聴感があるほうが 接触するときのハードルが下がるのです。まったく 知らない物事よりも、「どこかで見たことのあるも の」から足し算したり引き算したり、何かと何かを 掛け算したものの方が、使い方や味や楽しみ方のイ メージがしやすくて受け入れやすくなります。  リスペクトして本質を知る  オマージュ、リスペクト、インスパイア、パロ ディというとカッコいい響きですが、誤解を恐れず に言えば、すべてパクリの一種です。元ネタをリス ペクトしてオマージュしてインスパイアを受けてつ くられたパロディを、「あれはパクリだよねW」と 揶揄されるシーンはよく見られます。言葉遊びのよ うになりますが、いずれにせよ、物事はすべて何か に影響を受けています。  私がつくったコンテンツも、パロディされること はよくありました。そのたびに一部のユーザーや知 り合いから「あれはあなたのつくった○○のパクリ ですよね。いいんですか?」と連絡をもらいます。 パクられるというのは、それだけ「世の中に受け人 れられている」ということですし、「よくできた フォーマット」だということになります。ですから は私はパクつてもらうたびにとても誇らしい気持ち になります。  そもそも私がつくったものも、「私の完全なオリ ジナルか」と言われれば違うでしょう。人は生まれ てから様々な影響を受けて育ちます。子供のころに 読んだ絵本や観たアニメ、思春期にハマつた音楽や 小説、今やっているゲームや毎日のように使ってい るYouTubeやTikTokなど、触れてきたすべての物 事によって人格が形成されていきます。  話題のAIは、たくさんの情報から、深層学習ア ルゴリズムによってパターンや規則性を見つけ出し て生成しますが、実は、人のアイデンティティもA Iのように生成されたものです。無意識的に吸収し たものも含めて、様々な情報が脳や意識の中で混ぜ 合わされて出てくるものが、その人のアイデンティ ティだからです。  少なくともほとんどの情報はインプットされた段 階では「いつどのようにアウトプットするか」なん て決まっていません。そう考えるとすべての創作物 に「パクリなのかオリジナルなのか」といった境界 線は存在しないと考えることが自然です。  すべての物事においてパクるということは自然な ことです。ビジネスにおいて新しいことを始めたり、 既存のものに新しいエッセンスを加えなければいけ ないときは、楽しんでパクリましよう。  そのときに必要なのはリスペクトやオマージュ、 敬意の気持ちです。その気持ちが、参考にする対象 の本質的な部分を探求する力になります。「それが、 なぜ誕生して、なぜ人に受け入れられたのか」「な ぜ、受け入れられずに消えていったのか」。当時の 時代背景や社会のムードなども、元ネタの本質の一 部です。このように様々な物事の本質を追及する力 こそが、「パクる力」というスキルです。 朝令暮改力  朝令暮改という言葉はネガティブな意味で使われ ます。しかし「朝令暮改は有用なビジネススキル」 です。朝令暮改と言われることを恐れる必要はあり ません。  朝令暮改とは「朝に出した命令を夕方にはもう改 めること。方針などが絶えず変わって定まらないこ と」[※参照]です。朝に指示されたことと違うことを 夕方に言われたら、イラつとしますよね。そもそも 「もうちょっと考えてから指示出してよ」と思いま す。ではこれが一日後だったらどうでしよう。同じ くイラつとします。  ではこれが一週間後、いや一か月後だったらどう でしよう。「もっと早く変更してよ」となりますよ ね。一か月もあると一か月前の指示の通りに作業を 進めているでしょうから、せっかくの努力もムダに なってしまい、とてもやるせない気持ちになるから です。一日後の変更だったとしても、当日夕方の変 更だったとしても、その間に急いで作業を進めてい たら同じように悲しい気持ちになるわけです。  素早く動くのは「素早くやめること」とセッ  朝令暮改と揶揄されることを恐れて判断が遅く なったり、中途半端になることは、被害を大きくす るだけで何も意味がありません。「朝令暮改だ」と 言われるということは「判断が早い」ということで す。「思慮が深ければ暮改もなかった」と思われる かもしれません。しかし、朝令して進めてみたから こそ分かることも多くあります。「朝令暮改を恐れ て最初のスタートが切れない」ことのほうが不幸で すし、機会損失も大きくなります。  現代は世の中のスピードがすべてにおいて早く なっています。早く動くことは企業の力そのものと 言えます。PDCAを同すのではなくDCだけでい いとも言われます。このような環境では「やってみ た」「言ってみた」ことを止められないのは大きな リスクです。素早く動くことは、素早くやめられる こととセットです。「誰になんと言われようとすぐ に頭を下げて止めることができる」のは現代のビジ ネスシーンでは武器になります。  ちなみに、経営者の決断スピードは従業員と比べ て圧倒的に速くなります。それは経営者が優れてい るとかではなく、単純に「判断を迫られる情報が早 くたくさん集まるから」です。ですから、従業員か らすると「朝令暮改だな」と感じる場面も多くなり ます。しかし、朝令暮改すらできない経営者よりは、 はるかに恵まれています。大きな会社やレガシー企 業[※03]と言われる組織だと判断が遅くなるとき が多々あります。朝令暮改できるリーダーの下につ いているときは、その変更を受け入れサポートする 価値があります。  朝令暮改をポジティブに意識すべきなのはリー ダーに限りません。例えば、企画会社「オヨヨプラ ンニング」の企画部員ユウキさんは期待の若手社員 です。いつも良い企画を積極的に提案して結果を出 しています。今回はスーパー「ジモトダイスキ屋」 の広告を担当することになりました。朝、部長にプ レゼンをしました。いつも期待以上の働きをするユ ウキさんのことなので、部長も「ユウキくんの企画 なら」とそのまま承認しました。ところがその囗の 夕方に、ユウキさんが自分の企画のあるリスクに気 付いたとします。ユウキさんは部長に対して、その ことを伝えるのを少しためらいます。部長は自分の ことを信じて承認してくれたわけです。部長はその 上の上司に承認を得ているでしょうから、撤回する というのは部長の顔をつぶすことになるかもしれま せん。しかし、そのまま進めることは悪手ですよね。 謝って取り下げるか、リスクを共有して修正してい くべきです。  また、この視点は上司と部下の関係だけでなく、 外部企業との取引においても同じです。このように 文章にしてみると当たり前のことに感じると思いま す。しかし、ビジネスシーンでは朝令暮改ができず に、時間やお金をムダにしている場面がとても多く あります。  朝令暮改ができるということは、「またすぐに次 のことができる」「何かを始める「Iドルを下げる」 ということでもあります。間違っていてもすぐに修 正できるということですから、初めてやることに対 しても臆することなくできます。これが「朝令暮改 力」というスキルです。  【※参照一 gOO辞書 レガシー企業【※03一 伝統のある企業。数十年という長い歴 史を持ち、従業員や売り上げが大きな規模にある企業を意味す ることが多い。 希少力  仕事をすれば報酬があります。報酬は一般的には お金です。仕事をたくさん頑張れば、たくさんお金 が手に入るということになりますが、お金がどれだ け手に入るかは仕事の内容によって異なります。で すから多くの人は「たくさんのお金を貰いやすい仕 事」を選ぼうとします。これは間違っていませんし、 能力の高い人が報酬の高いところに集まるのは当た り前のことです。  能力と報酬は相関しない  では報酬が高い仕事とはどのような仕事でしょう か。それは時代によって大きく変わっていきます。 業種で変わるのはもちろん、同じ業界でも会社に よって浮き沈みが多くありますよね。高い報酬を得 続けるためには「時代に合わせて高い報酬が得られ る業種や会社を選び続ける」ということになります。 そういうことができる人もいますが、能力が高い人 でないと難しいでしょうから、再現性も柢そうです。  しかし、仕事と報酬を考えるときに当てはまる、 普遍的なことがひとつあります。それは「希少なモ ノには価値がある」ということです。本書でもたび たびお話してきましたが、珍しいとか数が少ないと いうことだけで価値が生まれます。「希少な人材に は価値があり、高い報酬が得られる」ということで す。  「あの大は自分より仕事ができなさそうなのに自分 より多く報酬を得ているな」と感じる場面はよくあ るでしょう。しかし、「仕事ができるかできないか」 は報酬と相関しません。報酬が多い大は、単純にそ の大が希少なのです。「自分は稼げていないから仕 事ができない」と思うときや、「周りは優秀な大ば かりで自分は役にたたないのかな」と感じることが あるかもしれません。しかし、それは「その業界」 「その会社」「その時」の、自分と周囲の「状態」に すぎません。人の能力は絶対的なものではなく「相 対的な評価」であることがほとんどです。  評価とは「何と比べるか」「どこで比べるか」「い つ比べるか」で異なるものです。人類史に残る大き な出来事でさえ、国によって評価は異なりますし、 その評価も時代によって急に変わったりします。評 価はとても曖昧なものです。しかし、希少かどうか は、数字で表せますから広義には絶対的と言えます。 希少でありさえすれば報酬は増えますし、自己肯定 感も高まります。  キャラクターを掘り起こすと希少になれる  ではどのようにすれば希少になれるでしょうか。 「社会の中で希少な人材になる」というのは少し ハードルが高い印象があるかもしれません。しかし、 「社会全体の中ではたくさんいるタイプの人でも、 ある業界の中では希少だ」ということはよくありま す。今いる会社には自分のような人がたくさんいて も、別の業界では希少人材になれます。もっと言え ば、同じ会社の中でも、希少人材になり得るわけで す。  職場以外の環境でも同様です。たとえば私は東京 で生まれ育ちました。学校には電車に乗って通って いました。東京の大学に通って東京の会社に勤めま した。東京にいたら多くいる存在の一人ですが、地 方の人口の少ない村に転居したとします。すると 「めちゃめちゃ東京のことを知っている人」という 希少人材になります。  また希少であるために知っておくと良い考え方を もうひとつお話します。藤原和博さんによる有名な 話で、「一万時間頑張って何かのプロになると、 100分のIの人材になれる。100分のIだと日 本に100万人いるけれど、。一万時間で何かを習 得すること”を3同すれば100万人にI人、つま り日本で100人しかいない希少人材になれる」と いう考え方です。それが出来れば最高ですが、「全 部で三万時間となると大変そうだ」と感じる人も多 いと思います。そこで、新たに三万時間何かに取り 組むのではなく、「今持っているキャラクターを掛 け合わせて自分の希少性を認識する」のも一手です。 ここでは解釈を広げて少しゆるく考えます。  たとえば私は学生時代、飲食店を経営していまし た。これは100分のIでしょう。テレビ局で働い ていました。これも100分のIと言えるでしょう。 また会社員を辞めて起業しました。これもまた 100分のIです。学生時代に飲食店を経営し、テ レビ局で会社員をした後に起業した人は囗本には 100人以下ということになりますから希少ですよ ね。ただ、「普通はそんな風な経歴もないんだよ」 と思われるかもしれません。  ではもう少し一般化します。「私は長い間、独身 会社員生活をしていました。婚活して40代になって ようやく結婚できました。好きなものはFIと野球 で、角田さんとベイスターズのファンです。好きな お酒は薄めの(イボールです。最近、運動不足に危 機感を覚え、自宅マンションの階段を毎日10往復し て変な人と思われています」。これだけ聞くと、一 般的な人という感じもしますが、すべての特徴を掛 け合わせたら日本に100人もいないと思います。 こうした自分のひとつひとつの特徴や経験を「希少 でいるためのパーツ」と捉えられるかどうかで大き な違いがでてきます。  「私には希少性がない」と諦めず、自分のキャラク ターを掘り起こし、言語化して掛け算してみてくだ さい。言語化して社会に放つと「まさにそういう人 を探していたんだ」という出会いに繋がります。探 していた人にとっては間違いなく希少で価値の高い 人材です。  希少であるということは、それほど難しいことで はありません。「自分が希少で価値ある存在でいら れる場所」を探すこと、そして「自分の中の100 分のIのが何なのか意識して、それを複数持ってア ピールすること」が大切です。このように自分が希 少な存在でいようと心がけること、それが「希少 力」というスキルです。 スピードカ  昨今のビジネスシーンでは、「爆速」という言葉 が流行ったこともあるくらい「スピードを意識する ことは当たり前」と言われます。これは主にテクノ ロジーの進歩が加速することで、世の中のあらゆる 物事の変化が速くなり、「ビジネスもスピード感を もって動かないと生き残れない」という認識からで す。しかしビジネスの現場で速度を上げるというの はなかなか実践しにくいのも事実です。ここでは 「実際にビジネスをスピード感をもって進めている かどうか」は一旦無視して、「スピード感がある人 と思われることで社会的な評価を上げる」という視 点でお話したいと思います。  とりあえず反応する 「スピード感がある人と思われる」ために必要なの は「リアクション」の速さです。しかし、これは一 般的には「レスポンス」と認識されています。「レ スポンス」は「ちょっと考えたり悩んだりした結果 の返答」という意味で理解されていますから、一拍 の間(マ)を含むことを前提にしています。実は、 この間(マ)がビジネスパーソンを苦しませたり悩 ませたりしています。  「レスポンスは早くしろ」と言われますよね。早い 方が良いことは分かっていても、容易にはできませ ん。なぜなら、早くレスポンスをするためには「速 く考えたり速く調べたりしなければいけないから」 です。これはまさに冒頭でお話した「爆速」に含ま れる「ビジネスへの心構え」と言えますが、かなり 高度です。  レスポンスは「その内容も評価の一部」になりま すから、相手の要望に沿う「精度の高いレスポンス ができるような準備」が必要だったり、「対応でき る環境が周囲に備わっていること」も必要になって きます。それが出来ればもちろん良いですが、でき ないと「レスポンスが出来ない人」もしくは「レス ポンスは早いけど内容がいい加減な人」になってし まいます。こう考えると「レスポンスを早くする意 識」を持つだけでストレスになります。  そんなことを踏まえてお薦めしたいのが「早くリ アクションする」ということです。分かりやすく言 えば「とにかくまず反応する」ということです。と りあえず反応だけしておけば良いのです。  たとえば、会議の場面で「これどう?良いと思 う?悪いと思う?」と問われた時、「どう答えるの が適切か」を考えるときがありますよね。レスポン スをするときに「返答の内容」を考えて時間がかか ることがあります。「えI、そうですね。うIん。 それはですねI。いや、難しいですけどI。うI ん。」よくある光景です。  ここですべきなのは「即答」です。この場合だっ たら「良い」「悪い」もしくは「どちらでもない」 「分からない」でもいいと思います。とにかく早く リアクションすることです。たまに、何も言葉を発 さずに考え始める人がいます。これは本当に最悪で す。どうしても考えたかったとしても「ちょっと考 えます」というリアクションをしてからです。ちな みに、ここでお話しているのは1秒未満の話です。 0.1秒でも早くリアクションすればするほど効果 的です。  待たせるとムダに期待させる  コミュニケーションにおいて、リアクションする まで時間があればあるほど、相手にも考える時間を 与えてしまいます。「この大はどう返事するのだろ う」「いいと思っているのかな」「いいと思うならど うしてだろう」のようにいろいろ考えさせてしまい ます。  つまリコミュニケーションは「リアクションに時 間をかければかけるほどハードルが上がる」性質が あります。待ち時間は「期待」になります。時間が 長ければ長いほど「期待」は増幅します。期待値に 合わないとがっかりするのが人の気持ちです。そう いう意味では「ムダに期待させないうちにコミュニ ケーションを取る」という考え方とも言えます。  分かりやすいところでは、お笑い番組などで見る 芸人さんの華麗なコミュニケーションがあります。 どのリアクションも超速ですよね。これはリアク ションまでの時間が長いとハードルが上がって、リ アクションの内容への期待が高くなってしまい、笑 えるものも笑えなくなってしまうからです。逆に絶 妙な間(マ)を取ることで笑いを作るテクニックも ありますが、ここでは割愛します。  ちなみに、リアクションをするとき「ちょっと 待ってください」というのも何もリアクションしな いよりはマシですが、これだと相手や周りを「待た せる」ことを前提としています。  ここで、ある有名な飲食店経営者に教わった話を します。飲食店で店員さんを「すみませIん」と呼 び止めることがあると思います。忙しいときは 「少々おまちくださIい」とリアクションされるこ とが多いと思います。私も飲食店の経営をしたリバ イトをしたこともあるので、忙しいときに「ちょっ と待ってよ」という気持ちはよく理解できます。し かしこの場面での正しいリアクションは「すぐ伺い ます」「すぐ行きます」なのだそうです。この話は 目から鱗でした。  サービス業として考えるのではなく、コミュニ ケーションとして考えてみてください。この場合、 「待たせる時間」は問題ではないのです。客は「何 か頼みたいという意思が伝わっていることが分かれ ばよい」ので、どれだけ待つかを確認したいわけで はありません。もし、レスポンスとして考えるなら 「えIと、いま対応できない可能性があります」と 考えたのちに「○分待ってください」と返事をする ことになってしまいます。何も考えず「すぐ伺いま す」とリアクションしておくのが正しいのです。  少し話が逸れましたが、リアクションはとにかく 早ければ早いほど効果的です。早ければ相手に考え る余地を与えずに済み、期待値をコントロールする ことができます。そして、この考え方はレスポンス の領域にも応用できます。  たとえば、何か資料をつくるとき「明日までに やっといて」と言われたものを今日中に仕上げたと します。内容が同じなら、もちろん今日提出した方 が評価は高くなりますよね。仮にクオリティが多少 下がったとしても、早く提出した方が評価が高くな ることは多くあります。これは「早い」という評価 が、「意欲がある」「責任感がある」などの評価にも 変換されて、資料の内容自体もポジティブに受け取 られるからです。結果として早さがクオリティの減 少分を充分に補うことになります。  まずはとにかく「リアクション」です。これは にZ詢でもSlackでも同じことです。それだけで周 囲の評価は変わります。「仕事が速い人」になるの は簡単ではないかもしれません。しかし「仕事が速 い人と思われること」はさほど難しいことではあり ません。  早いリアクションを心がけていると、「反応にど れだけ時間をかけたら、相手の期待値がどれだけ変 わるか」を敏感に感じられるようになってきます。 すると、レスポンスについても、「早さとクオリ ティのバランス」を取れるようになってきます。こ れが「スピードカ」というスキルです。 稼ぐ力  「お金を稼ぐ力があれば苦労しないよ」と言われそ うです。ビジネスにおける結論的なスキルですよね。 私なんかより、比べ物にならないくらい稼ぐ力のあ る人はごまんといます。そういう人たちの話もたく さん聞いてきましたが、能力が高すぎたり特殊すぎ たりして実践しにくいことも多くありました。しか しそんな中途半端な私だからこそ分かったことがあ ります。それをお話したいと思います。  成功者は稼ぐことに貪欲  稼ぐ力とは何か。結論から言えば、「お金を稼ご うとする意欲や貪欲な姿勢」です。日本人のメンタ リティには、「お金のことを話すのは下品」「お金に がめついのははしたない」など、お金にこだわった り、お金が欲しいという気持ちを公にすることをネ ガティブに感じる文化があります。そういうメンタ リティ自体は否定しませんし、私は奥ゆかしさや品 性を重んじる日本人の性質は大好きです。しかし、 もう少し「稼ぐ」ということに欲を出して良いので はないかと思います。そもそも、「お金について公 に下品に語る」ということと「お金を稼ぎたい気持 ちを持つ」ということは別の話です。  成功者と言われる人に共通していえるのは「稼ぐ ことに貪欲だ」ということです。稼ぐこと、お金を 生み出すことに対して意思があり、意欲的です。  一方で、多くの実業家や知識人が「お金は後から ついてくる」といいます。私も最近その意味が少し だけ分かってきました。「お金は後からついてくる」 というのは、「社会を良くするために働いたり、自 分が楽しいと感じることをすることがお金を生む」 という考え方です。世の中のほとんどの人が「安全 で穏やかに楽しく生活したい」と思っていますから、 「社会を良くする」という考え方がビジネスとして も合理的なわけです。自己啓発本の類もこの文脈で 語られることが多くありますよね。  しかし理屈では分かっても、少し浮世離れした考 え方に「そうは言ってもなあ」と感じている大も多 いのではないかと思います。もしくは大きなスヶI ルでの考え方を実践できずに「うまくいかないな」 と悩んでいる大もいるかもしれません。それはむし ろ自然な感覚です。実は、「世のため人のため」を 目的に事業をしている大も、その昔は「スモールビ ジネスで目先のお金を追っていた」大がほとんどで す。元手となるお金、いわゆる「種銭」ができてか ら、「世界平和や人類の未来」のことを自分事にで きたり、自分の事業と接着できるようになっていく のです。   「商売」の楽しさを知る  では、改めて「稼ぐ力」をつけるにはどうすれば よいのでしょうか。まずは、「稼ぐことに貪欲にな ること」そして「稼ぎ方を知ること」です。  お金を稼ぐ基本は「商売」です。「ビジネス」と 言うと稼ぎ方も広いイメージになりすぎるので、 「商売」という言葉でイメージを狭めて考えてみま す。商売の基本は「安く仕入れて高く売ること」で す。いわゆる「せどり」とも言われます。もちろん 「せどり」以外にも「新たな価値を創造して売る、 使ってもらう」ということも商売ですし、そういう 商売の方が現代的な印象もあるかもしれません。し かし、社会のお金の流れの多くは「安く仕入れたも のを高く売る」という構造になっています。  しかも近年はインターネットで誰とでも繋がれま すから、「せどり」で稼ぐことが以前に比べれば容 易です。実際にメルカリなどのツールで、そうした 副業をしている人も増えています。実はこの「安く 仕入れて高く売る」という稼ぎ方はとても現代的な のです。まずは何でもよいのでやってみてください。  すると、まず「商売の楽しさ」が分かります。 「いくらかお金が手に入る」ということもそうです が、「売れたこと」が純粋に「嬉しい」と感じます。 そうなってくると、より売れるように工夫したくな ります。さきほどのメルカリの例で言えば、魅力的 な商品に見えるように写真の撮り方や載せ方を変え たり、説明文を分かりやすくしたり、キャッチコ ピーを考えたりします。そうした工夫がまた上手く いったりすると、さらに楽しくなって見せ方に別の 工夫をするようになります。これは立派な「広告」 のスキルです。  こうしてたくさん売れてくると、たくさん仕入れ ることになります。たくさん仕入れると、以前より も安く仕入れられることに気付きます。安く仕入れ ることができると、利益が増えます。そうすると、 もっと商売が楽しくなってきます。売値を下げて、 ライバル商品より優位に立つようにするかもしれま せんし、増えた利益を使ってスペックを上げたり、 デコレーションしたりして類似商品よりも良いモノ にしようとします。これが「競争力をつける」「付 加価値をつける」ということです。  競争力や付加価値がついてきて、お金もたまって くると、他者から仕入れるのではなく、イチから製 造する気になってきます。これが「ブランドをつく る」ということです。ここまで来ると仕入れ方と売 り方だけでなく、法務、税務、人事などバックオ フィスの実務もより高度に知ることになります。こ のように、ただの「せどり」だと思っていたことか ら、あれよあれよという間に、立体的なビジネスが できたり、幅広い経験やノウ(ウが手に入ります。  ここまで進むかどうかは別として、稼ぐことに貪 欲にならないと、このような展開にはなりません。 ちなみに、ここでお話したいのは、「副業をしよう」 とか「起業しよう」ということではありません。会 社員でも「会社が稼ぐことを自分事にした方がいい ですよ」ということです。  会社員は、会社が稼いでいてもいなくても、基本 的には急に給料が変わることはありません。しかし、 稼ぎ方に興味を持つと、自分の仕事の解像度が各段 に上がります。自分がいる会社の「稼ぐ構造」をよ り知りたくなるでしようし、自分と関係しない部署 の動きも気になってきます。「ここがこうなったら もっと儲かるのに」とか「もっとムダが省けるのに な」と感じるようになります。「全社を俯瞰で捉え て、自分の仕事を進める会社員」なんてめちゃめ ちゃ優秀ですよね。それが行き過ぎると一部の上司 からは疎まれる危険性があるので注意が必要ですが (笑)。少なくとも経営陣から見ると、どう見ても出 世させたい頼もしい存在です。   「会社を稼がせる」意識  私はテレビ局で19年間会社員をしていました。番 組企画の仕事をする前、最初は営業の仕事をしてい ました。仕事内容は番組のCM枠を広告代理店やス ポンサーに売る仕事でした。会社員ですから売ろう が売らまいが給料は変わらなかったのですが、 「売った分だけ数字が積みあかっていくこと」を楽 しく感じていました。  一生懸命売っていてもすべてのCM枠を売り切る ことができないときもあります。放送囗が近づくと、 より売れなくなります。あるとき「余ったCM枠を まとめてパッケージにして売れないか」と考えまし た。  当時は「CDバブル」と言われていた頃で、レ コード会社が音楽のCMをたくさん放映していまし た。レコード会社のCMは若い人をターゲットにし ていましたが、当時のフジテレビは若い人に訴求で きる媒体として評価を得ていて、相性の良い間柄で した。音楽ビジネスは。水モノ”と言われますが、 ヒット曲が出ると、急に広告宣伝費を増やすことが よくあります。そこで、余ったCM枠のうち、若い 人に支持されている番組だけをまとめて商品にしま した。放送まであと数日というタイミングでしたが、 それはあっという間に完売しました。その後他の放 送局も追随して、一般的な広告商品になっていきま した。  これは、とても刺激的で高揚感のある体験でした。 以来、私は「会社を稼がせる」ということに強い意 欲を持つようになりました。  私か企画した『逃走中』という番組では、有名に なる前からDVD化やゲーム化をしたくて、社内外 にしつこく働きかけていました。当時は人気もなく 定期的な放送が約束されていないコンテンツでした ので、むしろ「ゲーム化などで収益が上がること」 を理由にして放送させてもらうように会社にお願い していました。アプリゲームでは国内2位(当時) のダウンロード数を記録した「ヌメロン」という番 組も、ゲームアプリでお金を稼ぐことを目的として 企画しました。  私に課せられた仕事は「番組で視聴率を獲るこ と」でしたが、むしろ「会社を稼がせること」に強 い関心がありました。もう15年以上前の話ですが、 今で言う。IP[※04プを創出してお金を稼ぐこと が、近い将来のテレビ局で必要なビジネスと考えて いました。その結果、番組制作の範疇を超えた、コ ンテンツビジネス、海外へのフォーマットセールス、 ゲームのつくり方、おもちやの製造、著作権に至る まで、幅広い経験とノウ(ウを得ることができまし た。  会社員でも「お金を稼ぐ構造」が分かってくると、 「働いた分だけ給料を貰う」という意識から、「会社 を稼がせたり、会社に価値を与えたことの対価とし て給料をもらう」という意識になってきます。これ は「雇われている」という意識から解放されること を意味します。組織の中で自立した心持ちでいられ ると、精神衛生上もとても健全に過ごせます。(こ のあたりは「無所属力」でまた詳しくお話します)  私は、「売れている商品」「流行っているサービ ス」「うまくいってる事業」を見ると、悔しいと感 じます。以前はそんなことはありませんでした。し かし、「お金を稼ぐ構造」を知れば知るほど、「それ は自分にもできるんじやないか」と思うようになっ てきました。「今できなくても、これがあればでき るな」とか「アレが足りないから、そこだけ埋めら れれば同じように稼げるかもしれない」と感じます。 とは言ってもほとんどは感じているだけですし、 「やれそうだと思うこと」と「実際にやって結果を 出す」のは雲泥の差がありますから、あまり偉そう なことも言えないのですが(笑)。成功しているビ ジネスを自分事にできるようになると、社会全体に 対する解像度が各段に上がりますし、何よりビジネ スの話がとても楽しくなります。守備範囲が広くて 意欲的なビジネスパーソンとして、一段階上がれま す。  ひとつ注意したいのは、冒頭でお話した「欲」と は「お金に対する欲」ではなく「お金を稼ぐことに 対する欲」だと言うことです。言わずもがな、まっ たく違いますよね。「お金そのもの」に欲があって も、生産することはできません。よくある「楽して 稼ぐ」的なインチキ広告に釣られてしまいます。大 きく間違えば、詐欺のような犯罪に関わってしまう かもしれません。「お金そのもの」にだけ欲を持っ ても、まったく意味がありません。非生産的なばか りか、リスクをはらんでいます。  「稼ぐ力」を持つと、自分の身を守ることにも繋が ります。仕事を選ぶ時も「将来性が無い仕事やリス クの高い仕事」を避けることができます。リスクが 高くても、リスクの高さを構造的に理解した上で立 ち向かうのと、そうでないのには大きな差がありま すよね。  お金を増やそうとするときも、「稼ぐ構造」に興 味をもってするのが「投資」ですが、「お金そのも の」だけに興味をもってするのが「投機」です。 「お金を稼ぐ構造」がわかっていれば、ありえない ウマい話や詐欺まがいの話にうっかり乗ることもな いでしょう。  「お金を稼ぐ」ということに欲を持って向き合い、 お金が生み出される仕組みを知って自分事にするこ と。結果として世の中のあらゆる仕事に対する解像 度を上げて、ゆくゆくは世の中のために働く力をつ けていくこと。それが「稼ぐ力」というスキルです。 IP−71同求|’ 知的財産。たとえば映画や音楽、マンガやアニ メなど。多分野で展開してライセンス料などの大きな利益を得 られる可能性がある。 とりあえずやってみる力  行動力が大事だと言われます。耳にタコができる ぐらい聞く言葉ですね。でも、これは本当にその通 りです。その通りなのですが、少しハードルが高い 印象のある人も多いでしょう。「いつも行動しよう と思っていても結局何もしていなかった」というの もよくあるパターンです。私の中でも「行動という ものはアグレッシブな人が頑張ってやることで、エ ネルギーや決意が必要」なイメージでした。  人は「とりあえずやらない」生き物  そこで私は少しだけ言葉を置き換えました。それ は「とりあえずやってみる」ということです。かな リハードルが下がった感じがしませんでしょうか。 やるかやらないかの二択になったとき、考えたり準 備しなくてよいので「とりあえずやってみる」ので す。  「これは自分にとってやるべきだろうか」「やるべ きかもしれないが今じゃなくてもいいのかも」 「やったことで得られるメリットはあるのかな」「ど のくらいリスクがあるだろうか」「失敗したら嫌な 気持ちになるかな」「○○さんに迷惑かかるかも」 「やるにしても、アレは事前に準備しとたほうが無 難かな」「アレつてどこに売ってるんだっけ?」「買 うのももったいないかも」「誰かタダで貸してくれ ないかな」もう、考えれば考えるほど、準備をしよ うと思えば思うほど「めんどくさいな」と思います。 こうなると出てくる答えは一つ、「とりあえずやめ ておこう」となります。ですから、まずは余計なこ とは考えず、少なくとも「やりたいな」とか「楽し そうだな」と感じたら、一番簡単なことから「とり あえずやってみる」のがお薦めです。  また、「とりあえずやってみる」ことには能動的 なことだけではなく受動的なことも含まれます。友 人に「今夜飲みにいこうよ」と言われたら「とりあ えず行く。けど、つまらなかったらすぐ帰る」。「こ のネトフリのドラマ観たほうがいいよ。シーズン5 まであるけど」と言われたら「とりあえず二倍速で 一話だけ観てみる。つまらなかったら5分でやめ る」。このような感じです。「とりあえず」というの には嫌だったら「途中でやめる」という事が前提に あります。  基本的に「人は新たな行動を起こしたがらない生 き物」です。この性質を「現状維持バイアス」と言 います。経済学者のゼック(ウザーとサミュエルソ ンによって提唱された「未知のものや変化を受け入 れず、現状維持を望む心理作用」です。ベッドでだ らだらスマホをいじってるとき、宿題をしたり、部 屋掃除をするのは億劫ですよね。広義には同じこと です。なるべく同じ状態を保とうとします。ですか ら「とりあえずやらない」という選択をしがちです。  行動力がないのは当たり前ですから、まず「行動 力のない自分」を否定しないことからスタートです。 人は「とりあえずやらない」選択をしがちです。で すから、思考パターンを変えるには「とりあえずや る」と考えるのが自然なのです。  損をしないために「とりあえずやる」  また、行動しない理由としてはリスクヘの恐れが あります。これはよく聞く話だと思います。「リス クを取らないのがリスクだ」と言われると、また ちょっと圧力が強めで受け入れにくい人もいるかも しれません。ですから、「リスクを避けすぎると損 をする」と考えてください。分かりやすく言えば、 「将来人ってくるはずのお金が入ってこなくなる」 ということです。人は「得をする」と思うより「損 をする」と考えたほうが「行動する」気持ちが芽生 えます。行動経済学で「損失回避」と言われている 性質です。  もちろん「リスク回避」は人間の動物的生存本能 です。なんでもかんでもリスクを無視するのは、た だの無謀な人です。最悪の場合死んでしまいます。 生死を分けるようなリスクは避けることが前提です。  私は42歳でテレビ局を辞めました。普通に考えれ ば会社員で居つづけたほうがリスクはなさそうです。 しかし、私は「このまま会社員を続けた方がリスク が高い」と判断しました。そして「いま辞めないと 人生で損をする」と考えました。損とはお金だけで はありません。会社を辞めて起業した場合、得られ るものには時間と経験があると考えました。会社員 を続けるとそれらは得られません。「時間と経験が 得られなくなる」という損をしないために辞めたの です。  もう少しだけ詳しくお話すると、私は112歳ま で生きるつもりです。定年が65歳だとして47年間あ ります。医療も受けたいし、できることならたまに は美味しいものも食べたいですし、家族で旅行もし たいです。どう考えても「定年後に働かないで過ご す」という選択肢はなさそうです。そこで私は「一 生働く」と決めました。しかし、65歳まで会社員を 続けてから、社会に放り出されて、どれだけ世の中 の役に立てるのか不安になりました。そう考えたと き、思考が凝り固まらず体力もある40代のうちに、 いろいろな経験をして稼ぎ方を知っておくほうが良 いと思いました。  40代なら同年代の人もバリバリ活躍していますし、 自分もそれなりには社会の役に立てそうな気がしま した。社会の役に立てるのならある程度のお金を得 られそうですし、何より経験が得られます。こうし た経験を得られる機会を失うのは大きな損です。 「このまま会社員を続けると損をする」と思いまし た。  ひとつ誤解していただきたくないのは、会社員で いることがダメなのではありません。会社員でいる 方が自分にとって必要な経験ができたり、喜びや達 成感が得られるのであれば、当然会社員を続けるべ きです。私も会社員時代たくさんの経験や喜びをも らいました。フジテレビには感謝しています。当時 の私は「これ以上の経験や喜びは得られない」と感 じていたから辞めたというシンプルな話です。ただ、 即断できたわけではなく、もちろんアレコレ考えて のことでしたが、どれだけ考えても正解が分かるわ けばないので、「とりあえず起業する」ことにしま した。   「やり方」はあとで分かる  新たなことを始めるとき、「ノウハウがない」「知 り合いがいない」など不安要素は多々あるものです。 しかし、それは当たり前のことです。  初めて自転車に乗れだのはいつだったでしょうか。 私は、5歳くらいだったと思います。マンションの 駐車場で親に支えてもらい練習して、転んで泣いた りしながらなんとか乗れるようになりました。でも、 改めてよく考えれば、自転車に乗るという行為はか なリリスクがありますよね。大きな怪我をする可能 性だってあります。しかし、やってみたからこそ漕 げるようになり、漕げるから早く手軽な移動ができ るようになったし、天気の良い囗に風を感じながら 疾走する気持ちよい体験もできたわけです。仕事に おいても同じです。とりあえずやってみると、技術 やノウ(ウはあとから勝手についてきます。  私か起業するときには、「何をやる会社か決めな い」ということを決めました。「○○をする」と決 めると、それ以外のことをやるときにどうしてもブ レーキがかかるからです。特に今は変化が激しい時 代です。「○○会社」と決めていると、その○○と いう業態が急に社会から不必要になったとき、ピ ボット(事業転換)する必要があります。私の会社 は「何をしても良い会社」ですし、ピボットの必要 もありません。とにかく何でもできる会社です。厳 密に言えば「何もできなかったけど何でもできるよ うになった」感じです。  最初はやり方が分からなかったリノウ(ウがない のは当たり前です。でも一度でもやればそれは経験 になります。「こんなことってお願いできる?」「こ んなことで困ってるんだけど何かいい方法はないで すか」このような相談をいただきます。私は即答し ます。「できます’・」「あります’・」。やったことが なければもちろんやり方は分かりません。しかし受 けたからには必死でやります。調べたり、分かる人 に聞いたり、あらゆる方法でやり方を考えます。カ ジュアルにできることであれば、試しにこっそり やってみたりもします。  そして、今では知らないことでも自信を持って 「できます’・」と言えます。これは「知らないこと や初めてのことにどう対応すればよいか」を知って いるからです。  私か顧問をしている会社に「「ウスクラフト」と いう(ウスメーカーがあります。社長の遠藤さんと いう方が、まさに「とりあえずやってみる力」の権 化みたいな人です。もともとは大工だった人ですが。 (ウスメーカーを起業しました。自分がまったく知 らないことも気にせず、どんどんやります。あまり にどんどんやってしまうので心配になって「大丈夫 ですか?」と聞くと、「よく分からないけど、とり あえずやってみます」と言ってどんどん経験しノウ (ウを溜めていきます。当初外注していた広告も、 ある囗、自分ですべてやるようになっていました。 インスタも早々にアカウントをつくってフォロワー も10万人近くになり、今や立派なメディアになって います。結婚式場も始めました。全国の工務店向け に新しいSaaSのWebサービスもつくりました。 素晴らしい経営者だと思います。  「とりあえずやってみる力」のある人は、雪だるま 式に経験やノウ(ウを溜めていきますから、周りか ら見るとものすごいスピードで成長しているように も感じます。しかし本人の中ではゴツゴツと「とり あえずやってみただけ」という認識です。  とりあえずやっていれば得られたかもしれない経 験や利益は、「とりあえずやらなかった」ときに気 付くことができません。これがとても恐ろしいこと です。私はこの「気付くことができずに失う経験や 利益」をとにかく避けたいと考えています。しかし もちろん「気付いていない」のですから完全に避け ることはできません。だからこそ、いつも「とりあ えずやってみる」姿勢でいることが大切なのです。  行動することのハードルを下げて、とりあえず やってみる。その経験をノウハウや知見として、や れることをさらに増やしていく。それが「とりあえ ずやってみる力」というスキルです。 信用力  私か会社員を辞めた後「辞める前と辞めた後で何 か一番違う?」とよく質問されました。私はずっと こう答えてきました。「人に信用されるようになり ました」。すると相手は一様に驚きます。一般的に は有名企業の従業員でいるほうが信用があると思わ れていますから、「会社を辞めたほうが信用される」 とは考えられないわけです。ここからは「信用とは 何か」という話になります。  信用の定義が変わった  従来、信用力というものはビジネススキルとして 語られてきませんでした。スキルは「個人が獲得で きる能力のようなもの」ですが、信用は「肩書や資 産や学歴などに紐づく、名前や数値で客観的に判断 できるもの」だったからです。たとえば、「東大を 卒業して三菱商事の社員で高級住宅街に住んでいる 人」は信用できそうですよね。そういう肩書や資産 や学歴があるならば、「当然良い人で能力も高い素 敵な人に違いない」と思われていたということです。 あくまで信用は「客観的事実」であって、「個人の 能力や人柄」とは切り離されていました。  しかし、信用の定義はいま急速に変化しています。 私は会社を辞める数年前から、起業家や経営者とよ く食事をするようになっていました。それは意識高 く情報収集しようとしていたのではなく、単純に興 味があったからです。当時は若手起業家や経営者が 目立ち始めていたころで、会社員の私には彼らがと ても輝いて見えましたし、羨ましくもありました。 そのころに、人事異動もあり、私は熱中していた仕 事から離れることになりました。深夜も休日も厭わ ず取り組んでいた仕事でしたので、少し気落ちして いたタイミングでもありました。  時間的には余裕ができたので、私は周囲にいる起 業家や経営者の友人の仕事を手伝い始めました。フ ジテレビは当時は副業ができなかったので、就業時 間外に無報酬でやっていました。そうした「手伝 い」はとても刺激的でしたし、学びもたくさんあり ました。  社会的にはボランティアのようなものですが、私 の中では彼らとの仕事は本気でやっていたつもりで した。しかし、どんなに長くどんなに力を注いでも、 彼らとの間にはいつもどこか壁を感じていました。 それは、私か会社員たったことが原因でした。彼ら の事業に何かあっても、私に責任はありません。責 任はないどころか、いつでも会社員だけの立場に戻 れるわけです。こんな中途半端な状態で信用される わけないですよね。今思えば当然のことですが、自 分の甘さや無力さを感じる、悔しく寂しい出来事で した。  そこからは、さらに社業で関わりのない人と会う 機会を増やすようにしていました。自分が社会に必 要とされている実感が欲しかったのだと思います。  たくさんの人と会いました。たくさんいろいろな 話をしました。しかし、結局最後は「どうしたらフ ジテレビの番組で取り上げてもらえるか」「どうし たらフジテレビからお金をもらえるか」という話に なることがほとんどでした。相手は私かフジテレビ の社員だから会おうと思ったし、「フジテレビと何 かできるかも」と考えているわけです。これもとて も当たり前の話ですし、これが一般的な「信用」と いうことなのです。  私は会社員時代、それなりに多くの経験や実績を 積み上げてきたつもりでした。番組はもちろんイベ ントやゲームや広告など、それなりのノウ(ウを 持っているつもりでしたし、再現性のあるロジック も持っているつもりでした。私にはたくさんの「夕 グ」がついていると思っていました。しかし、それ は違いました。社会的には「テレビ局社員」という タグしかついていませんでしたし、少なくとも「私 個人」は信用されていませんでした。  このとき私は「会社員の肩書は、本当の信用を得 るのに支障になる」と感じました。とりわけフジテ レビの肩書は相手にとってのメリットを分かりやす くイメージさせてしまうので、余計に支障となりま した。私は「信用してもらうため」に会社を辞めま した。  会社を辞める理由をたくさんの上司や同僚に聞か れました。「私を必要としてくれる人の役に立ちた いから」と答えました。当たり前ですがあまり理解 はしてもらえませんでしたが、そこには「私個人が 信用されたい」という想いを込めていました。  起業後、最初にもらえる仕事は小さなものでした。 世の中では無名で、金額も少ない仕事です。しかし その仕事はまぎれもなく「私個人」への信用で与え られた仕事でした。一生懸命やりました。しんどい こともありましたが精神的なストレスはありません でした。  こうした小さな仕事も実績になりました。その実 績が少し大きな仕事に繋がり、また実績になります。 経験したことのない仕事ばかりでしたが、その都度 勉強して出来るようになっていきました。「私個人」 にどんどんタグがつくようになりました。タグがで きると、それがまた実績となって別のタグができま す。多種多様なタグがつきました。そうして「私個 人の未来に期待を感じさせる」のに十分な量のタグ がつきました。  信用の概念は大きく変わってきています。今まで 信用と思われていたのは「どの会社に勤めている か」「どんな学校に通っていたか」「お金はあるの か」ということです。つまり信用とは「過去」の出 来事でした。  このような信用は「実は信用できない」というこ とに世の中が気付き始めています。「信用があるの か」を知りたい場面がどういうときかと言えば、 「新しく知り合った大と今後なにか一緒にするとき」 です。「この大に頼んでいいのか」「預けていいの か」「一緒に仕事をしてもいいのか」。つまり信用と は「未来に対する期待」であり、「その大に自分の 未来を託せるか」ということなのです。  優秀な大たちや社会的に成功している大たちは、 人の所属先はほとんど気にしません。むしろ、「ど んな人なのか」「どんなことがやりたいのか」つま り「自分の未来に関わる人なのかどうか」に関心を 持っています。  未来志向で自由に動き回る  ここで、これからの時代における信用力の構成要 素を、改めて3つに整理します。  1つ目は「成功失敗の如何を問わず、何度も行動 に移している人」です。実績は必ずしも成功事例だ けではなく、失敗でも立派な実績になります。以前 は「失敗はネガティブなこと」と捉えられていまし たが、失敗のない人は、今では「失敗すらできない 人」という評価になっています。  動いている人は必ず失敗の経験があります。そし て、物事のスピードが速い今の時代は「動かないこ との機会損失が大きい」という認識があります。失 敗してひどい目に遭ったり、恥ずかしい思いをした としても、そういう経験も含めて何か「やってみ た」話は、その人が「未来に何かを実現させる力を 持っている」と感じさせ、信用に値するのです。ビ ジネスの現場では、結果はともかくなんでも進めて いく実行力が求められています。ビジネスパート ナーとしても、ひとつの大きな成功をした大よりも、 小さくてもたくさんの挑戦をしている人のほうが組 みたい相手と思われます。  2つ目は「未来志向な大」です。「自分のことを 信用してほしい」という思いが強いと、どうしても 過去の実績を話すことになります。会話のきっかけ にはなるかもしれませんが、信用とは直結しません。  変化の早い現代では、過去の実績も「そのタイミ ング、その時代だから出来たこと」という認識にな ります。「それってガラヶIの時代だから」とか 「それってまだAIが発達する前だから」と考えら れるわけです。過去の事ばかりを語る大よりも、未 来志向の人のほうが魅力的です。「一緒にいるとワ クワクする」「何か楽しいことがあるかもしれない」 と感じさせる力は立派なビジネススキルです。  3つ目は「自由度の高い人」です。今、スピード 感を持って物事を動かしている人たちは、フリーラ ンスの人に積極的に声をかける傾向があります。ど こかに所属している人と交渉するのは手間がかかる ためです。どこにも所属していない人は自分で判断 できるので、会話も早く進み重宝されます。ここで 言いたいのは「フリーランスになって仕事をしま しよう」ということではありません。いま急速にフ リーランスの需要が高まっている理由は、その「自 由度の高さ」です。自由度が高いからビジネスパー トナーとして頼もしいと思われています。  自由でいるためには「責任」が伴います。責任と 自由は表裏一体ですから、自由度の高い人は「責任 を取れる人」、言い換えれば「決定権がある人」と いうことになります。「じやあ出世しろってことだ よね」と言われそうですが、組織においてはそうと も言えます。組織のエライ人は、「肩書きがエライ」 から信用されているのではなく、速くて責任が取れ る人、つまり「自由度の高い人」だから信用される ことになります。この差は大きな違いですので、理 解しておくと組織の中で仕事をする上で役にたちま す。  もちろん、ファイナンス的な部分では、どこかの 会社に所属していることは重要な信用要素です。そ して、いまだに所属名や肩書きによって、信用でき るか判断する人がいるのも確かです。しかし、時代 は随分と変わってきています。  成功か失敗かはともかく「たくさんのチャレンジ ができる」という実績をもって、過去の自慢話より もワクワクするような未来を語り、「責任感とス ピード感」をもってできるだけ「自由に動き回る」、 それがこれからの時代の「信用力」というスキルで す。 優先順位力  物事の優先順位は「緊急度や重要度で判断する」 のが一般的です。では、その緊急度と重要度はどう 測るのかということになりますが、あまりにもヶI スバイケースで「物差し」になりません。「物差し」 がないから優先順位を間違えることになります。し かも、優先順位は「間違えていたことに途中で気付 く」ことができません。結果がでた後、「あっちを 先にやっておけばよかった」「あれを大切にすべき だった」と感じる性質のものです。ですから、まず は無理矢理にでも「物差し」を設定します。  優先順位は四次元的に考える  私かお薦めしたいのは、まずは「明日地球が滅亡 するとなったら、何をするか」です。優先順位を考 えるスタート地点は、こういうイメージでいいと思 います。少しおかしいですかね。でも分かりやすい ですよね。  もし、明日地球が滅亡すると分かっていたら、会 社に行くことはないでしょう。大切な人と美味しい ものを食べたり、綺麗な景色を見て過ごしたいと思 いますよね。また、貯金しても意味がないですから、 全財産を使って贅沢な時間を過ごすことでしょう。 現実的には、「明日に地球滅亡」となったときお金 を使えるような社会状況ではないとは思いますが。 あくまで例えなので社会システムはそのまま保たれ ているとします。  では、それが一か月後だったらどうでしようか。 あまり変わらないでしょうか。では、10年後だった らどうでしよう。毎日贅沢していればすぐに破産し ます。「まったく働かず」というわけにはいかなく なってきます。仕事をするにしても仕事の選び方も 変わってくるかもしれません。いずれにせよ、自分 の力ではどうにもならない終わりがあるとして、 「それまでにどれだけの時間があるのか」で緊急度 は変わってきますし、「人それぞれの価値観」に よって重要度も変化していきます。  多くの人は「未来は存在するものだ」という前提 でいろいろ考えます。未来は○年先までしかないと 考えてみてください。何かしら基準を設定して逆算 で考えれば、優先順位の輪郭が見えてきます。  この考え方を土台として別の例え話をします。も し仮に、100万円貰える仕事と1万円貰える仕事 が目の前に提示されているとします。どちらも同じ ような内容の仕事である場合、当然100万円の仕 事を優先しますよね。しかし、1万円貰える仕事を すると、1年後には3000万円貰える仕事に繋が る可能性があるとしたらどうでしようか。1万円の 仕事を選択する可能性が出てきます。「今日中に 100万円稼がなければ会社が潰れてしまう」とい うような状況ならば、目の前の100万円の仕事を するでしょう。しかし、そうでないならば、1万円 の仕事が3年後に3000万円に化けるかもしれな い可能性を検討する視点も大事になってきます。  別の例でお話します。企画会社「オヨヨプランニ ング」の若手社員ユウキさんには、抱えている仕事 が2つあり、ひとつはスーパー「ジモトダイスキ 屋」の集客イベント「1000体フィギュア展」の 仕事で、締め切りは今日です。もうひとつは菓子 メーカー「オカシタベスーギ」の仕事で、締め切り は7日後です。「ジモトダイスキ屋」の仕事はちょ うど1日あれば終わります。「オカシタベスーギ」 の仕事は6日間かかるので、両方やると合計ぴった リフ日間です。このとき普通は、今日が締め切りの 「ジモトダイスキ屋」の仕事を優先しますよね。と ころが「オカシタベスーギ」の仕事のことを調べて みると、今日中にある程度やっておくと、同僚の ショウコさんとコウスケ先輩に手伝ってもらえる状 態になり、ユウキさんが費やす時間は2日間で済む ことが分かりました。こうなるとどうでしよう。で きることなら「オカシタベスーギ」の仕事を優先し たくなりますよね。そこで、ダメ元で「ジモトダイ スキ屋」の仕事の締め切りを調べてみたら、なんと 本当の締め切りは明後日だということが分かりまし た。こうして合計7日間費やす仕事を3日間で終わ らせることができました。めでたしめでたし。  このように、優先順位は、緊急度や重要度だけで 判断するのではなく、そこに、将来性という視点を 取り入れて、四次元的に考えると間違えにくくなり ます。また、将来性を気にしながら物事を進めると いうことは、その可能性を常に確認することになり ますよね。「優先順位はその間違いに途中で気付き にくい性質だ」と言いましたが、「四次元的」に優 先順位をつけていると、間違えていても修正できる ようになるのです。これはつまり「物差しがある状 態」ともいえます。  公私を分けない  ビジネスで優先順位を考えるとき、当たり前にビ ジネスの範囲の中で考えます。プライベートはつい 切り離しがちです。ですから仕事を頑張るがあまり 「仕事と家庭とどっちが大事なの?」という伝統的 なセリフが出てくることもあります。  優先順位力として大事な視点の一つに、「公私を 分けずに判断する」ということが挙げられます。オ ヨヨプランニング社のユウキさんは仕事が忙しく、 しばらく彼女と会えていません。彼女はスポー ティーで冗談ばかり言う面白い人です。今週末はひ さしぶりにゆっくりできそうなので、彼女と温泉旅 行にいくつもりでした。しかし金曜日、クライアン トであるオカシタベスーギ社でトラブルが発生しま す。新商品のチョコ菓子「ウマスギモンダイ」が想 定外の大ヒットで生産が間に合わずキャンペーンを 大幅に見直すことになりました。部内中大騒ぎです。 オカシタベスーギ社も困り果てて助けを求めてきた ようでした。部内で会議した結果、この週末は「み んなで休日出勤してオカシタベスーギ社を助けよ う」ということになりました。部長も「ポケットマ ネーで出前寿司をとるから」と言ってくれて、同僚 のショウコさんやコウスケ先輩もやる気満々、 ちょっとしたお祭り状態です。マンガやドラマでも ありそうなシチュエーションです。  彼女との時間を優先する人もいれば、仕事を優先 する人もいるでしょう。いずれにしても、それまで に仕事とプライベートを並べて考えてこなかったと したら、こういう場面で判断する基準がなくなりま す。公私に区別なく優先順位の物差しを持っている 人とは、選ぶ力に大きな違いが出ます。  ここでお話したいのは「ビジネスを優先しよう」 とか「プライベートを優先しよう」ということでは ありません。「将来性を考える」ということには、 仕事だけではなく「自分の気持ちと環境」の将来も 含めることが大切だということです。  これからの時代は公私の区別がなくなっていきま す。また、人の行動は「好きだから」という個人的 な気持ちを動機にする割合が増えてきます。それは 仕事においても同様です。公私を分けると生産性も 低下するので、公私を分けることにあまり意味がな くなってきます。仮にそういう時代がまだ先だった としても、少なくとも物事の優先順位を考えるとき、 公私を区別することに無理がでる時代になってきて います。  あらゆる物事に対し優先順位をつける際に、公私 の区別なく「これは自分の人生にとって、今どれだ け意味があるか」とか「これを逃したとき自分は後 悔しないか」と考えるのがシンプルです。結局、優 先順位を考える尺度で大事なのは「幸福度」です。 緊急度や重要度、そして将来性という物差しも、す べては幸福のために存在します。ですから、優先順 位を付ける際は「自分がどういうときに幸福を感じ るか」を確認しておくことが肝心です。  私は、家族が一番大切です。優先順位の圧倒的上 位に位置しています。極端に言えば、「家族が幸福 でいられるのであれば、仕事がどうなってもいい」 とさえ思っています。もちろん仕事がめちゃくちゃ になって家族が幸せでいられるかはまた別問題です が。ちなみに家族の次に大切なのが睡眠です。一見 並列にならなさそうなことだと思います。ビジネス とも遠い気がします。しかし私にとって家族を大切 にし、睡眠を重視することはビジネスとも直結しま す。  私はとても寂しがり屋で弱い人間です。ですから、 「自分だけのためにお金を稼ぐ」ということができ ません。「自分の存在を認めてくれる家族のため」 という動機がないと働けません。また「私はとにか く寝ないとダメな人」です。極端にダメになります。 頭も悪くなるし、機嫌も悪くなるし、体調もすぐに 悪くなります。何より思考がネガティブになって何 もやる気がおきません。もうビジネスができる状態 ではなくなります。ですから、私の物差しでは「家 族と睡眠を優先すること」が、ビジネスをする上で 合理的な判断になります。  たまには自分の性格や性質をちょっとだけ振り 返ってチューニングしてみてください。自分が「普 遍的に大切にすること」や「何をすると幸せに感じ られるか」を確認することをお薦めします。その上 で公私区別なく、将来性を重視して四次元的に優先 順位を決めていく、それが「優先順位力」というス キルです。 同時進行力  同時進行とはその名の通り「いろいろな仕事や事 柄を同時に進める」ということです。ビジネスシー ンではよくマルチタスクなんて言い方もしますよね。 なんだか忙しそうですし、疲れそうです。実はそれ は逆です。ひとつだけのことをするよりも同時進行 している事柄が複数ある方が、物事は進みやすいで すし、心の負担も減ります。具体的に同時進行させ るテクニックをお伝えする前に、なぜ同時進行した ほうが良いのかお話したいと思います。  同時進行すると物事が進む  まず分かりやすいのは「シナジーが起こりやすく なる」ということです。私は会社員のころ、テレビ 番組をつくる仕事をしていました。起業後も続けて いましたが、それとは別にソフトウェア開発をする POST URBANという会社を創業しました。一見関 係ないように見えるかもしれません。しかし、その 二つの仕事があることで、多くの企画が進みやすく なっています。  そのひとつに「17歳だけが集まる」という企画が あります。私かテレビ局員だった頃に考えた企画で したが、なかなか実現させることはできませんでし た。たしかに、テレビ番組だけの企画として考える と、どこにでもありそうですし、レガシーメディア が若者に迎合して失敗しそうなコンセプトです。し かし、同時にインターネットの中で「17歳だけが集 まる」サービスがあって連動していたらどうでしよ うか。急に企画が立体的になって可能性を感じます。  逆に、Webやアプリのみで「17歳だけが集ま る」サービスを作ろうとしても、いまさら既存のS NSと戦える気はしませんし、そもそもどう世の中 に認知してもらうかのか現実味がありません。しか し、「テレビ放送のりIチカ」という要素との掛け 算によって企画の弱点が埋まってきます。「17歳だ けが集まる」という同じ企画に対して、テレビ番組 をつくる仕事とソフトウェア開発という仕事の両方 からアプローチできるからこそ、実現可能性が増し たのです。  余談になりますが、私は「テレビ」はこのような 活用の仕方に大きな可能性があると常々考えていま す。テレビの価値はそのりIチカです。たくさんの 人に伝えるのが難しい「複雑なルール」や「高度な 概念」などは、テレビ番組として「噛み砕いて分か りやすく」したり「笑いを交えて興味を持ちやす く」表現することが最適です。そして、圧倒的な リーチカで訴求させます。これができると、広めづ らいことが理由で実現できないサービスや商品を世 に出すことができます。テレビ局はそこから大きな 収益を得られる可能性があります。このあたりの話 は長くなってしまうのでご興味あれば私の YouTubeなどで見ていただければと思います。  もう一つ企画例をお話します。私は起業後にマン ガの原作をいくつかつくりました。それをきっかけ としてマンガに関わるいくつかのビジネスに関わる ことになります。私の原作はヒットしませんでした が、マンガを作るという工程やその難しさと、これ からのビジネスにおけるマンガの大きな可能性を知 ることができました。  するとその数年後、電子コミックストアを運営し ているviviONという会社の谷島さんという方から 「マンガのおもしろい原案をたくさん集めたい」と いう話がありました。オリジナルのマンガを多く出 版していくにあたり「人が直感的におもしろそうだ と感じる設定はそう簡単にはたくさん生み出せな い」という課題がありました。一方、私はたくさん の芸人さんと多く関わっていましたから、芸人さん が「架空の設定やコンセプトを創造する高い能力が あること」を知っていました。そこで、大喜利でマ ンガの原案となる設定を生み出し続ける『設定さ ん。』という動画コンテンツを思い付きました。『設 定さん。』はYouTubeで配信され大きな反響を呼ん でいます。『設定さん。』は、私か何も分からないま まにマンガの原作を作ったから思い付いたし、実現 した企画です。  谷島さんはとても優秀なマーケターで他にも仕事 でご一緒していますが、そもそも知り合っだのは私 か書いた本を読んでくれたのがきっかけです。私か 「ビジネス書の執筆という仕事を同時進行していた」 ということも企画が生まれた理由のひとつです。  マンガの原作にチャレンジしようと思ったのも、 ビジネス書を書いたのも、「マンガの原案を生む動 画コンテンツをつくるため」ではありません。『設 定さん。』は、私か「動画制作」や「マンガビジネ ス」や「ビジネス書の執筆」を同時にやっていたか ら生まれたのです。  スティーブージョブズの有名な「コネクティン グーザードッツ」という考え方があります。「過去 の経験が、その当時は思いもよらなかったことに活 かせる」「いろいろなことをしていると、その点と 点が繋がってくる」という意味で「どんなことでも ムダなことはないよ」という話です。「同時進行」 で得られるシナジーも意図せず起こりますから「コ ネクティングーザードッツ」的です。  多角経営は「ベースとなる事業にシナジーがある ように構築する」のが一般的です。大きな規模であ ればそういう考え方が無難です。しかし、「シナ ジーを生もうとして無理矢理に同時進行する」とあ まりうまくいきません。意図せずに「興味があった からやる」「縁があるからやる」「なぜか巻き込まれ たからやる」そんな自然な流れで進める方がお薦め です。シナジー前提だと、シナジーが起こらなけれ ば失敗だと感じますし、ストレスになります。です から「シナジーはあくまで結果として起これはい い」という心構えで、経験を溜めていくのかよいで しょう。「将来何かでコネクトするかもしれない点」 を打っていくつもりで進めていれば、それは「いつ か利益を生む資産」として捉えることができます。  ひとつのことに打ち込むのはとても素敵なことで すが、ビジネスにおいてはたくさんの経験が武器に なります。「信用力」のところでお話した通り、「た くさんの経験があれば、それが失敗でも信用に繋が る」時代になりました。しかし、時間は有限です。 ひとつひとつ順番にこなしていれば時間が足りませ んから同時に進めていく必要があります。「マルチ タスクが苦手だから」と、新たな出会いや仕事を逃 すのは機会損失ですし、もしかしたらその中に人生 を大きく好転させることがあるかもしれません。  同時進行すると気持ちが落ち着く  もうひとつ同時進行をお薦めしたい理由は、多く のことを同時にしていると「精神衛生が保てる」と いうことです。マルチタスクは一見「あれもやらな きや、これもやらなきや」で精神衛生的に悪そうで すがそうではありません。「ある一つのことが失敗 しても、他にも進行している様々ことがあるので問 題ない」と思えることで気持ちの余裕が生まれます。 「一つの失敗によって過度に落ち込んだり、時間を 浪費すること」もなくなります。  また、仕事Bを進めることで仕事Aが好転する ケースが多々あります。それは、気持ちの切り替え になるからです。仕事Aが忙しいときこそ、少しの 時間を見つけて仕事Bで息抜きすることができます。 散歩のようなリラクゼーションももちろん良いので すが、生産しながら息抜きできればもっといいです よね。例えば、私か共同創業したPOST URBAN社 の難波代表は、朝から晩まで仕事でコーディングに 没頭しています。そんな彼の息抜きは、趣味として のコーディングです。一般的には理解しがたいです が、彼の心身は健全で、楽しく充実した日々を送っ ています。  「タスク」とはもともとラテン語の「税」を意味す る言葉で、その後「仕事を課す」「労役」といった 意味に転じ、「課せられた仕事」を指す言葉として 一般化しました。ですから、タスクというと「重々 しい」「しんどい」などのイメージとリンクします。  同時進行するにあたって大切なのは、「なるべく タスクだと思わない」ということです。仕事は、効 率的に自分の経験値を上げて、信用を積み上げ、と きには息抜きにも使える「道具」です。しかも「お 金を貰いながらできてしまう」。そんな考え方がで きれば同時進行力のスキルが備わっていると言える でしょう。  管理しようとし過ぎない  同時進行のやり方で役に立つかもしれない具体的 なテクニックをお伝えします。私は自分が代表を務 める「ジ子不レートワン」という会社の他に、複数 の会社を経営をしています。また常時、20〜30件の プロジェクトを進めています。クライアントからい ただいてる仕事もありますし、自社の事業もありま す。いろいろな人から「どうやってタスク管理して いるのか」と聞かれます。  まず、大前提として「不必要に管理しようと考え ない」ことです。逆説的ですが、「管理しようとす ると管理できない」気持ちになります。私はたまに、 自分が今どんな案件に関わっているのか書き出して みるときがあります。すると、簡単に50件を超えて しまいます。こうなると正直うんざりしますし、進 んでいない案件があると、「何故か」と考えたり 「自分がいい加減なんじやないか」とネガティブな 感情になります。冒頭でプロジェクトの数は20〜30 だと言いましたが、それは「いま認識して進めて管 理している案件」の数です。管理していないものは 数えていません。  仕事が忙しい人ほど、実は「仕事を管理しすぎて いる」傾向があります。同時進行は「たくさんの事 をやる意欲」に意味があります。しかし管理しよう としすぎると「とりあえずやってみたい」という意 欲が減ります。このように同時進行力は「とりあえ ずやってみる力」と相互作用します。同時進行する ことが当たり前になっていないと、やってみたいこ とがあっても順番待ちになってしまい、「とりあえ ずやってみる」ことができなくなってしまいます。  とは言っても、管理しないのはビジネスパーソン としてどうなのかと思いますよね。もちろん最低限 の管理はします。それは「締め切りの設定」です。  私は「仕事で一番大切な約束事は締め切り」だと 思っています。「締め切り」は敵のように感じると きもありますが、味方です。私はコンテンツをつく るとき、締め切りがあるから完成させることができ ます。締め切りがないと「もっとこうしたい」「こ こはやはりあのままの方がよかった」などといじり 続けて、いつまでだっても完成させることができま せん。ゴールが遠い道のりも辛いですが、ゴールが 分からないでいるのも辛いものです。本書も実は何 度も書き直しています。締め切りがないといつまで 経っても出版できません。  ですから、締め切りがある仕事はもちろんのこと、 締め切りがない仕事にも締め切りを設定します。し かし、急な案件が入ってきて締め切りが重複するこ ともあるでしょう。そこで使うのが「優先順位力」 です。公私を含めた四次元的な優先順位に沿って調 整しながら進めていけばよいのです。締め切りは優 先順位を決める上でひとつの目印になります。  締め切りを設定しなくてよいものは、「忘れ去ら れてもよい案件」ということです。同時進行してい くと締め切りのない案件は往々にして記憶から無く なっていきます。稀に思い出すときもありますが、 それは「そのタイミングに何かしら縁や意味があ る」と考えて、また少し優先順位を上げたりもしま す。  また、締め切りがあると「逆算でスケジュールを 組む」ことができます。タスク管理が苦手と思う人 は、この「逆算で考える」ということが抜けている ことが多いです。  クライアントからの依頼や、上司からの指示には、 意外と「締め切りが設定されていないこと」が多く あります。おおよそでも締め切りを確認したり、締 め切りがなければ自分で勝手に設定して、そこから 逆算で進行します。  最終的な締め切りがあれば、「その締め切りまで にやること」が出てきますよね。そうしたらその 「締め切りまでにやること」の締め切りも設定しま す。その締め切りにまた別の準備があれば、さらに 締め切りを設定します。  こうなると締め切りだらけで、締め切りに追われ て辛そうですが、「仕事が終わらない」「タスクがこ なせない」ということの原因のほとんどは、「締め 切りが可視化されてないこと」が原因です。仮に手 一杯だったとしても、途中に小さな締め切りがあれ ば、「最終的な締め切りに間に合わない」というこ とに気付くことができます。気付くことができれば 誰かに助けを求めたり、上司やクライアントに早め に相談もできます。本当の締め切り直前で間に合わ ないことに気付くよりは遥かにマシです。  また、仕事の多くは複数人で進めることが多いと 思います。人数が多ければ、メンバー間での合意形 成に時間がかかって、プロジェクトが進まなくなる ことがよくありますよね。こういうときは、先々の 会議の予定を決めてしまうことです。可能であれば 締め切りに向けて必要になりそうな回数分、すべて の会議を設定してしまいます。私は、締め切りまで に必要そうな会議は片っ端から{}OOпEカレンダー に入れておきます。仮に進行していることを忘れて いても、カレンダーを見るたびに思い出せます。そ うすると、「いちいち進行管理しなくても管理され ている状態」にできます。  一人でやる仕事だったとしても、私は誰かにお願 いしてミーティングを設定します。ブレストなどと 称して、相手に私の仕事の進行を報告します。同僚 でも友人でも付き合ってくれる人なら誰でも構いま せん。「進行を止めないために誰かとのミ上アイン グを設定する」のです。自分一人だけで進める仕事 をカレンダーに入れていたとしても、忙しければス ルーしたり他の予定で上書きしがちですが、誰かを 巻き込んでいたのならそうはなりません。  このように最低限の管理とは「あまり管理しなく てもいいように管理する」ということです。禅問答 のようですよね。  同時進行するということは、たくさんのタスクを 自分に課したり、自分を追い込むことではありませ ん。多くの選択肢を持つことで発想の可能性を増や したり、逃げ場をつくって気持ちを楽にさせること です。これが「同時進行力」というスキルです。 自分時間を増やす力  時間は有限です。「限られた時間の中で、どう仕 事を進めていくか」はビジネスパーソンのみならず 多くの人が課題に感じていますよね。書店にはタイ ムマネジメントについて書かれた多くの書籍が並ん でいます。タイトルを見ると「TODOリストの活 用術」や「スケジュールの立て方」などについて書 かれているものが多くあります。もちろん、そうし たテクニックも大事かもしれませんが、これらは密 度を高めたり作業効率を上げたりと、あくまで「物 理的な生産量を増やす」考え方です。しかし私は 「幸福度」という視点から時間管理を考える必要が あると考えています。一つ一つの仕事に対する幸福 度を高めることで、モチベーションを上げ、結果と して生産量を増やすことに繋げます。  自分にしか分からない仕事で裁量を増やす  私は今、タイムマネジメントに対してほとんどス トレスを感じていません。「経営者なんだから、そ りゃ自分の時間を管理しやすいよね」と思うかもし れませんが、それは少し違います。私は「ストレス が少なくなるような環境を作っているから、ストレ スを感じずにいられる」のです。  会社員時代も、どういう風に過ごしていたかと言 われれば、とにかく「自分で管理できる時間をいか に増やすか」ということばかり考えていました。具 体的には「自分に任せてもらえる仕事を増やす」こ とです。  私はテレビ局で番組制作をしていましたが、その とき私かずっと考えてたのは、「自分の企画を通す」 ことです。それは「自己実現」とかではなく「自分 でコントロールできる時間を増やす」ためでした。  当時の私か所属していた「編成部」というところ は「番組を管理する仕事」と、「番組を企画制作す る仕事」がありました。「営業局」から異動したば かりの私は番組のつくり方なんてもちろん分かりま せんから、「他の人がつくっている番組」を管理す る仕事から始めることになります。「他の人がつ くっている番組」に対して裁量権はありませんから、 自分の時間をコントロールできません。しかし、自 分の企画で、自分がプロデューサーとして集めた チームで番組を指揮できていれば、自分の時間をコ ントロールできるようになります。これは「企画を 通して実現したから、一人前として認めてやる」と か「仕事で結果を出してるからお前のワガママを聞 いてやる」ということではありません。単純に「高 瀬にしか分からない部分が増えてくるから、高瀬に 任せざるを得なくなる」という理屈です。  裁量権は、一般的には「役職に付随するもの」と 考えられがちですが、「他人には見えないような深 い部分」は役職者も判断しようがないので、「結果 として現場責任者に裁量が与えられる」という状態 になります。  組織というものは、「一人では隕られる生産量を 増やすため」に存在します。端的に言えば、「役職 者や上司がすべての仕事にかまっていると生産性が 柢くなるので、仕事の大部分を部下や現場にまかせ る」ことになります。これが組織の存在理由の大き なひとつです。これを逆手にとれば、上位の役職者 ではなくても、自分の時間をコントロールできる場 面を増やすことができます。  「自分に任せてもらえる仕事が多い」環境では幸福 度が高まります。それは「仕事を自分にまかせても らえる」という喜びもありますが、それよりも「自 分の時間を自分でコントロールできるようになるこ と」が大きな理由です。ストレスは「自分で物事を 決められないとき」に感じます。国内2万人に対す るアンケート調査と研究では、所得、学歴などより も「自己決定」が幸福感に強い影響を与えることが 分かっています。[※参照]  私か「自分に任せてもらえる仕事を増やす」こと を考え、実現してきたのは、単純にワガママだった からです。厳密に言えば、「ワガママに過ごしたい けど、ワガママに振舞えるほど精神が強くないので、 ワガママに過ごせるように環境を整えようとしてい た」感じです。  小さな仕事から領地を増やす  本書を書くにあたっていろいろと思い返していま したが、会社員時代も起業後も、私はつくづく「自 分の時間をコントロールできる状況を増やすこと」 ばかりを考えていた気がします。もう少し強く言え ば、「いかに自分がコントロールできる領地を増や すかの戦い」でした。  「会社員だから」とか「経営者だから」という立場 はまったく関係ありません。経営者でも「自分の時 間がコントロールできない」と嘆いている人はたく さんいます。自分の時間をコントロールできている 人は、「自分にしかできない領域、自分にしか分か らない領地」をどんどん増やしています。  そうしたくても「忙しくって、新しい仕事なんて つくっている暇がない」ということもあるでしょう。 「信じられないくらい忙しい」という時期はありま すよね。よく分かります。しかし、そこから抜け出 すための方法はやはり「自分で仕事をつくる」しか ありません。「自分にしかコントロールできない状 態」や「他人や上司が関与できない環境」をつくる のが最善の解決法です。もちろん、新たな仕事をつ くると瞬間的にはさらに忙しくなります。めちゃめ ちゃ忙しくなるでしょう。「それまでの仕事」と 「新たにつくった仕事」が重なる時期があるからで す。しかしそれは環境を変える過渡期ですので、理 屈抜きの頑張りどころです。すると不思議と「それ までの仕事」が減っていきます。  「新たにつくった仕事」は会社からすれば新たな生 産分野ですから、将来的に利益が見込めるのであれ ば「元々やっていた仕事は減らして、君が作った仕 事に使う時間を8割にしていいよ」となります。 元々やっていた仕事が「自分以外の人もコントロー ルできる仕事」だったとすると、それは「他の人で もできる仕事」ということですから、「自分しかコ ントロールできない仕事」が生まれれば、「それま での仕事」は他の誰かに移されていきます。  「とはいえ難易度高いよ」と感じる人もいるかもし れません。では、どうするかといえば、やっぱり小 さいところからでも徐々に広げていくしかありませ ん。ここで、たいしたエピソードではありませんが 少しだけ私か新入社員のころのお話をします。  私か新卒入社後、最初に配属されたのは営業局で した。もちろん仕事のことなんて何も分かりません から、上司や先輩から指示を受けてやるようなサ ポート業務がほとんどです。もちろん自分に裁量は ありませんし、自分の時間をコントロールなんてで きません。  ある囗、懇親目的の社内ボーリング大会があり、 営業局が優勝しました。すると上司から「せっかく 優勝したし、その。報告”を営業フロア内に貼り出 したいから、翌朝までに作ってくれ」と言われまし た。まさに新入社員がやらされがちな「どうでもい い、仕事とも言えないようなこと」ですよね。ただ の張り紙です。上司も私に負担をかけるつもりもな く、テキストのみでA4サイズのシンプルなものを 想定していたようでした。  しかし、私は学生時代からフライヤーのようなも のをつくるのが好きだったこともあり、やる気に なってしまいました。仕事終わりの22時くらいだっ たでしょうか。グラフィックデザインをしている友 人がいたので、「ごはんを奢るから」と頼み、彼の 家におしかけ一緒に作ってもらいました。結局一晩 中かかりました。  すると、その張り紙が予想外に評判になりました。 他の部署や、社外の広告会社の人からも「あのポス ターみたいなのいいね」と話題になりました。それ がデザイン的に優れてたというよりも、「ただの社 内のボーリング大会の結果報告ごときにここまでや るの?」という感じです。当時は簡単にグラフィッ クデザインできるアプリもありませんし、AIで生 成することもできませんから「アイツは暇なのか (笑)?」と、そんなものに工数をかけた意欲を褒 められます。そもそもそんな「張り紙」に誰も期待 していませんでしたから、(Iドルが柢く簡単に目 立つことができました。  それ以来、レイアウトやデザインに関わる仕事を ふられるようになりました。社外に向けたセールス シートなどでも、デザインやキャッチコピーにアイ デアや意見を求められるようになってきます。デザ インやコピーなど、広告的な表現を考えるのは元来 好きなことでしたから、俄然仕事が楽しくなります。 すると「さっき頼んだデザインの仕事が忙しいだろ うから、あっちの仕事はやらなくていいや」と仕事 の配分も変わってきます。自分がコントロールでき る時間が増えてストレスは軽減されていきました。  一方で「アイツはやっぱリモノ作りとかクリエイ ティブなことが好きなんだな」と、私のキャラク ターや好きな仕事の種類も周囲に浸透して、後に希 望する部署へ異動するきっかけにもなりました。  ほんのちょっとしたどうでもいい仕事なら、「自 分がコントロールできる領域にすること」はそんな に難しいことではありません。小さな仕事は、リス クが柢く実績をつくりやすいですし、なによりも自 分の裁量で進められる可能性が高いです。自分で好 き勝手にできてストレスも小さくできます。これが 「自分で管理できる時間を増やしていく」というこ とです。  動機は「ワガママに自分の時間をコントロールし てストレスなく仕事したい」ということで構いませ ん。結果として、自分で仕事をつくり、自分が仕 切って、上司や役職者が管理できない状態にする。 実はこの状態は「組織としては生産力を増やせる理 想的な状態」ですし、経営者から見れば頼もしい存 在です。会社の業績アップにも寄与できますし、自 分の評価も上がります。これが「自分時間を増やす 力」というスキルです。  【※参照一 神戸大学社会システムイノベーションセンターの 西村和雄特命教授と同志社大学経済学研究科の八木匡教授「幸 福感と自己決定−日本における実証研究」全国の20歳以上70歳 未満の男女を対象にした国内2万人に対するアンケート調査 投資力  投資の話は、私か尊敬する藤野英人さんの著書や、 私も仕事で関わっているYouTubeチャンネル「お 金のまなびば’・」など、造詣の深い方の書籍や動画 がたくさんあるので、そういうものを観ていただい た方がよいのですが、ここでは「今の時代に改めて 確認しておいた方がいいかもな」ということを少し だけお話します。  お金は使わなくても減るもの  そもそも日本の教育はお金の話が少なすぎます。 日本は資本主義経済ですから、ビジネスはもちろん、 生活していく上でもお金の知識は必要不可欠です。  まず、お金の起源は物々交換からですが、交換し たいものがないと交換できなかったり、大きなもの を交換するのは大変ですから、「小さくて価値が下 がりにくい他の物」と交換するようになります。た とえば布や革や塩などですが、これを自然貨幣や物 品貨幣と言います。しかしこれらは製造が容易にで きてしまったり価植も普遍的ではないので、鋳造貨 幣や紙幣が生まれていきます。  このように「これにはこれくらいの価値がありま すよ」という「信用」を具現化したのがお金です。 お金は「場所や時間を超えて価値をやりとりするこ と」を可能にしました。このあたりの話はたまに耳 にしたこともあるかと思います。「お金は信用をや りとりするための道具にすぎない」「だからお金は 使わないと意味がない」というような話です。これ らは本当に真理なのですが、この真理を実生活にお いて活用している人は少ないと思います。「やっぱ りお金は貯金しないと不安」「それってお金持ちだ から言えること」のような感覚です。これもまた当 たり前の感覚です。私も小心者なので、「お金は信 用の形にすぎないからパンパン使おう」という気持 ちにはなかなかなれません。  しかし、そんな小心者だからこそたどり着いた結 論があります。それは「投資しよう」ということで す。なぜその結論に至ったかと言えば、それは「お 金は減るものだから」です。  「お金は使わなければ減らない」と思っていません か。お金は使わなくても減ります。厳密には、今ま では減らなかったのですが、最近は減るようになっ てきました。その理由は物価です。いままでの日本 はデフレでした。これからインフレです。物価が上 がるということはお金の価値が下がるということで す。お金は見た目の数字は変わっていなくても、価 値は囗に囗に下かっていきますから、お金が減って いるのと同じことになります。  デフレの期間はとても長かったので、40歳代以下 の人は「物価が上がらない状態を当たり前」のこと としてビジネスをしてきました。ですから多くの人 はインフレの状態でビジネスをするということに慣 れていません。「お金は減る。減る前に物に変えた り、別の価値を生み出す物事に使う。そうしないと 損をする。」こういう思考が必要です。この思考が 「投資する」という考え方です。いずれこの思考パ ターンが当たり前になりますが、皆が慣れてくるの にはもう少し時間がかかるでしょうから、この思考 を持てること自体がスキルになるとも言えます。  何に投資するかは人生のタイミングで変わる  そしてもうひとつ重要なことは「何に投資する か」ということです。その答えは人生のタイミング によって変わります。お金は社会状況や時代によっ て価値が変わりますが、使う人の状況によっても変 わります。  「お金を物事に変えて価値を高めていくこと」が投 資ですが、物事には「経験」も含まれます。若いと きにする経験はレバレッジ[※05]が無限大です。 その経験が後に大きな財を生む可能性が高いです。 たとえば、10万円あったとします。18歳のときにで きる経験と70歳のときにできる経験に違いはあるで しょうか。仮にそのときの感動が同じで、得られる 経験値も同じだったとしても、その経験を生かせる チャンスは若い人の方が圧倒的に多いわけです。 「若いときにたくさんの経験をしたほうがいい」と いうのはこういう理屈です。しかも経験は自分の中 だけに存在しますから減ることはありません。盗ま れたり無くなることもありません。お金を「無くな らない減らない資産」に変えることができるのです。  「お金は使わなくても減る。だから投資して別の価 値に変える。価値は人生のタイミングで変わる。だ から若いうちは経験へ投資する。その経験がまたお 金を生む。」このことだけを知っておいてください。 そうすると、「お金をいつ何に使うか」「それは投資 なのか浪費なのか」を考えたり振り返ったりするよ うになってきます。このようなお金への意識は人生 を豊かにするだけでなく、身を守ります。それが 「投資力」というスキルです。 レバレッジー※05】 小さな力で大きな物事を動かす、「てこの 原理」のこと。金融業界では、少ない資金で大きな金額の取り 引きができる仕組みのこと。 コンプレックスカ  向上心は、使命感や興味から生み出されると思わ れがちですが、少し違います。これらの気持ちがあ れば知識や技能は無意識的にでも向上します。「好 きこそものの上手なれ」という言葉もあるように、 本来は好きなことを仕事にする方が、ストレスもあ りませんし生産性は高いです。このことを前提とし て、「自然には知識や技能が向上しないこと」の原 動力となってくれる「コンプレックス」について考 えてみます。  コンプレックスが富を生む  強い向上心はコンプレックスが干不ルギー源です。 コンプレックスを原動力に向上するというのは、少 しネガティブなやり方のようですが、私はとてもポ ジティブに考えています。なぜならコンプレックス は多くの人が潜在的に持っているものであり、実は 「コンプレックスを原動力に向上するという考え方 が、コンプレックスを解消したり、コンプレックス を抱えて生きていく上で有益」だからです。  ちなみに私はコンプレックスの塊です。「何をそ んなにコンプレックスを感じるんだ」と思われるか もしれませんが、私なんかよりもはるかに社会的に 力があり、お金持ちで、尊敬も集める知人も皆、深 いコンプレックスを持っています。彼らがなぜ尊敬 されるビジネスパーソンになったかと言えば、コン プレックスをうまく利用してきたからです。  私は幼少期のころから自分を他人と比較するタイ プでした。勉強やスポーツや容姿など、自分よりも 優れた人を見るたびに劣等感を感じていました。と りわけ人気者と言われるような存在のクラスメート や、社交的で快活な性格の友人のことを羨ましく 思っていました。「自分には本当の友達なんていな いかも」とずっと孤独と不安を感じていました。ま た、思春期のころは、街に出て遊んでいる人や大人 の世界を知っている人に劣等感を持っていました。  一般的にコンプレックスがあっても、逃げる人が 多いです。私もそうでした。コンプレックスを乗り 越える努力をして「劣等感を抱いていた部分を愛お しく感じられるようになる」ならそれが最善ですが、 容易ではありません。そこで、「コンプレックスは ビジネススキルを向上させる原動力である」という 思考の転換が役立ちます。極端に言えば、コンプ レックスを感じるたびに「この感情は自分に富をも たらすのだ」と考えるのです。これは、成功してい ると言われている大たちの多くが実践しています。  有名なサービスやコンテンツを生み出したり、大 金持ちになったりした大は、「不幸な環境で育って いたり、満たされない気持ちを抱えていた」という 話がよくあります。マークーザッカーバーグやイー ロンーマスクなどの世界的成功者が、モテなかった 青年時代や、人種差別を受けた経験を力に変えたと いう話はよくあります。お笑いや音楽で成功した人 の多くが、その成功プロセスを「モテなかったヤツ の逆襲だ」と表現していたりもします。   「発信」は負のエネルギーから  そもそも「発信そのものが負の干不ルギーだ」と も言えます。「哲学は寒い国で生まれやすい」とい う話もありますよね。もちろん暖かい地域にも哲学 者はいますが、「陽気な雰囲気よりは陰鬱とした雰 囲気の方が思考が深くなりやすい」というひとつの 例えです。  発信の代表たるものは芸術です。昔の人は何か発 信したいとき、芸術以外で発信することはできませ んでした。そして、名作として残る芸術作品は負の 干不ルギーの表現であることが多いです。貧困や失 恋など解決しがたい状況や、自分の思考や想いを周 りの人に理解してもらえない苦しみを、キャンバス や木や楽器にぶつけたわけです。昔はコミュニティ が狭いですから、「ちょっと異質」というだけでも 受けるストレスは相当なものだったろうと思います。  では、現代ではどうかと言えば、SNSで同じこ とが起きてます。怒りや悲しみと言わないまでも、 ちょっとした疑問や違和感のシェアも、程度の差は あれ負の干不ルギーの発信です。そういう意味では SNSの発信は芸術活動とも考えられます。「満た されてる入ってSNSやらないよね」なんて揶揄も 一時期よく聞かれたことですが、「芸術的な負のエ ネルギーの発信」という文脈だと少し納得ですよね。  昔と違うのは、「楽器や絵具が買えなくても簡便 に無料で発信できる」ということと、「発信の範囲 が数百人の地域コミュニティから全世界数億人に なった」ということです。伝わる人数が多くなれば、 共感する人と出会う確率は格段に増えます。現代で は、負の干不ルギーは発信することである程度解消 されるので、SNSは溜めたストレスの捌け口にも なっています。それが行き過ぎた結果、炎上や誹謗 中傷という社会問題が起きています。  このように「何かを世に放つ」ということには大 きな干不ルギーが必要で、それは正の干不ルギーだ けたと足りないのです。  こう考えてみると「発信が苦手だ」と言ってる人 は「実は結構、満たされている」という一面が見え てきます。一方「負の于不ルギーを溜め込んでる人 は、大きな成功を収める可能性がある」ということ ですから「満たされてても満たされてなくてもどっ ちでもいい」ということになります。みんな(ツ ピーですね(笑)。  私は、コンプレックスを持だなくなったわけでは ありません。しかし、コンプレックス自体に悩まな くなりました。それはコンプレックスが原動力にな ると知ったからです。精神科医アルフレッドーアド ラーも言っています。「自分が劣っているから劣等 感があるのではない。どんなに優秀に見える人も劣 等感を持っている。目標があれば、劣等感があるの は当然だ」。  「劣等感はあって当たり前のもの」と認識して、行 動するのに必要な干不ルギーとしてポジティブに付 き合っていくこと、それが「コンプレックスカ」と いうスキルです。 馬鹿なフリカ  謙虚であることの大切さは、偉大な人ほど説きま す。私もそう思っていますが、思っている以上に大 切なのだと思います。しかし、謙虚でいることはと ても難しいものです。難しいからこそ偉大な先人た ちが口を酸っぱくして伝えているのでしょう。  謙虚でいるのは難しい  この本のようなビジネス書を手にしたり、自分を 成長させたいと思うような優秀な人こそ謙虚で居続 けることは難しいものです。成長していることを嬉 しく感じるでしょうし、確認してみたくもなります。 自分より優秀だと思っていた人を追い抜いたと感じ たりする場面もあるでしょう。「実るほど頭を垂れ る稲穂かな」という素敵な言葉もあります。しかし、 頭を垂れるのは刈り取られる直前です。すくすく伸 びているイネは出穂してもまっすぐピンとしていま す。若い人や勢いよく伸びている人ほど難しいので す。  また、「自分の態度や話し方」は何も変わってな くても「周りの見方」が変わります。それは「圧倒 的な結果」を残したり「社会的や経済的に大きな存 在」になると、周りが畏怖心を感じるようになるか らです。もともとフランクに話したり、大口をたた くキャラクターだったとしても、「アイツは横柄に なった」と思われたりします。  このように、謙虚でいることの大切さには「学ぶ 姿勢を保ち成長を続けるという内的な意味」の他に、 「社会的評価に繋がる外的な意味」があります。内 的な謙虚さは「とても複雑で奥深いもの」ですから テクニカルに身につく性質のものではありませんが、 少なくとも対外的に謙虚な姿勢を見せることはでき ます。ここではまず、「外的な意味での謙虚さ」に ついて考えてみます。  謙虚さとはキャラクター  まず「謙虚さ」の認識を変えます。そもそも謙虚 さとは「心持ちや態度」のようですが、実は「キャ ラクター」です。ですから謙虚である大は謙虚だし、 そうでない大は謙虚ではないのです。ですから自分 に自信があり、周囲と折り合いが付きにくい大は 「謙虚と思われるために演じればよい」ということ になります。  文頭の。見出し”では読む人の気を引きたくて 「馬鹿なフリ」と横柄に言いました(笑)。本当に言 いたいことは「能ある朧はツメを隠す」です。歳を 重ね達観した人は、内面も含め稲穂のように首を垂 れますが、「現役バリバリで勢いがあるのに謙虚に 見える人」は、実はほとんど「ツメを隠している」 状態です。  こんな場面がありました。ある会合です。知人の 有名実業家Aさんと、初対面のBさん。あと他数名 です。途中からBさんが雄弁に語りはじめます。少 し空気が読めていない感じです。しかも話の内容は Aさんの専門分野です。Bさんはそのことを知らな いようでした。BさんはAさんに「いかに自分がそ の分野に長けているか」を語っています。私を含め 他の同席者は少しパラパラして聞いていましたが、 Aさんは「素晴らしいですね」「なるほどですね」 と関心しながら話を聞きます。Aさんは本来おしゃ べりなタイプなのにあまりにもおとなしく聞いてい るので、私も「あれ? その話ってAさんの専門分 野じゃなかったかな」と感じるほどです。  そうして会が終わりBさんは満足げに帰っていき ました。その後Aさんに本音を探ると「よくしやべ る人だよね」「たまにいるよね。ああいう人」とい うような言い方で実はネガティブな印象だったこと を吐露しました。「自分の優秀さをわかってほしい」 という想いが先行して、相手への礼儀を欠いたり不 快にさせてしまったケースです。Bさんは爪を隠せ ず、Aさんは爪を隠していたとも言えます。  このように「自分がよく知っていることや、自信 のある分野でこそ発言や主張を控える」というのは ビジネスの現場で意識しておきたいテクニックです。 これは私か尊敬する先輩から言われた言葉で、今で も大事にしているコツです。  自分が詳しいことや得意分野が話題に上がると、 「それは○○だと思いますよ」とか「○○したほう がいいですね」と、つい言いたくなることがありま す。しかし、「自分が詳しいことや自信あること」 は強力な武器やカードですから、最初に使ってしま うのは本来もったいないのです。ビジネスは戦いに 例えられることが多いですが、自信を持って言える 主張は相手を制す最終兵器になるかもしれません。 一時的なアピールや自尊心を満たすために使うのは 得策ではありません。そこまでではないにしても、 ここぞとばかりに急に意気軒昂になったりするのも あまり格好良くはないですよね。  ここでひとつ誤解していただきたくないのは、 「謙虚ではないキャラクターが悪いということでは ない」ということです。長所と短所は紙一重ですか ら、謙虚でなく一見横柄ともいうべき雰囲気が推進 力になっている人もいるでしようし、そのキャラク ター自体が周囲の人に愛されている場合もあります。  「自分の強みや成功体験を他者に知って欲しくな る」のはビジネスをしている人なら当たり前の気持 ちです。しかし、自分が優秀であるということを安 易に伝えようとするのは、逆効果を生む可能性を孕 んでいます。実際、「アピール強めの人」に対して 好感を抱いた経験はあまりないと思います。自慢話 や嫌味のように感じてしまいがちです。  「能ある鷹のツメ」は、どんなに隠してても見える 人には見えますし、優秀な人ほど、優秀な人を見分 ける力を持っています。安心してください。あなた の良いところは、伝わる人にはちやんと伝わります。 不自然なアピールや主張は必要ありません。  このように外的に謙虚でいると、そのうちに「自 分は能ある鷹のつもりだったけど能がなかった」と か「本当は鷹ですらなくてスズメくらいだった」と か「馬鹿なフリしてたつもりだったけど本当にバカ だった」と感じることもできるようになります。結 果として、「内的な意味での本当の謙虚さ」を心得 ることができて、自分を人間として大きく成長させ ることもできるようになるのです。 寝る力  寝ましよう。最近では睡眠の重要性がいろいろな ところで説明されています。ほとんどの人が知って います。しかし、それでも多くの人は寝ません。仕 事をする、深酒をする、スマホをいじる、理由は 様々です。毎晩同じ時間に寝る必要はありません。 とにかく睡眠時間を確保してください。それだけで ビジネスはうまくいきます。  「それでも、無理なんだよ」という声も聞こえてき ます。しかし、優先順位力のところでもお話しまし たが「何を優先するか」です。私は何よりも睡眠を 優先しています。スケジュールを組むときは、常に 睡眠時間を確保してそこから逆算して予定を入れて いきます。「この囗は深酒しそうだな」と思ったら 朝予定は入れません。さらに、自然に起きられる夕 イミングも計算します。  ちなみに私は「入眠時間15分十卯分単位」で睡眠 時間を設定しています。睡眠サイクルの話は聞いた こともあると思います。人は一晩ずっと寝ているよ うで、実は小さな睡眠を繰り返しています。これは ウルトラディアンリズムとも言われる生体リズムの 一つで、人は約卯分単位で繰り返す体内時計を持っ ています。寝ているときだけではなく、起きている ときにも繰り返しています。「会議や講義で集中力 が保てるのは90分」と言われる理由のひとつでもあ ります。人にはいろいろ生体リズムがあり、一日24 時間を繰り返すリズムも代表的な生体リズムで、 サーカディアンリズムと言われます。  睡眠不足になると健康を害したり、判断力が低下 するなど、様々な学問の見地から「寝ないことのリ スク」が発信されていますから、ここで細かくお話 する必要はないでしょう。本書におけるスキルとい う点で敢えてあげるとするならば、よく寝てるだけ で「考え方がポジティブに働く」ということと「意 欲的になる」ことが大きいと思いますし、私も常々 実感しています。  ノルウェー科学技術大学の研究でも、睡眠を減ら すと、翌朝のポジティブな気持ちが減少することが 報告されています。睡眠を一晩減らしただけで喜び、 熱意、注意力、満足感が悪化し、三夜後にはさらに 柢下したそうです。  ビジネススキルを上げる目的は、「仕事を上手く こなしたい」「生産性を上げたい」「お金を稼ぎた い」などでしょう。そのためのスキルを手に入れる にはいずれも一定の労力が必要です。宣]面目な人や 向上心の高い人ほど睡眠時間を削って努力しがちで すから、「睡眠はビジネススキルだ」と捉えてみて ください。このスキルだけは労力が不要です。寝る だけです。寝れば仕事は上手くこなせますし、生産 性は上がりますし、結果としてお金も稼げるように なります。最も楽に結果が出せて、多くの人が軽視 しているコスパ最強の力、それが「寝る力」という スキルです。 スルー力  私か起業後に最も向上させた力は、このスルー力 かもしれません。「スルーする」というのは一般的 に「無視をする、気にしない」のように理解されて いますが、ここでいうスルーカも同様の意味です。 「ビジネスシーンでスルーする」のは、ルール違反 やマナー違反のように感じるかもしれません。しか し現代のビジネスではこのスルーカは本当に必要な スキルなのではないかと感じています。  対処しないという対処  ビジネスをしているといろいろなことが起こりま す。信じられないこと、予期しないこと、自分の価 値観では理解不能なことが起こります。これらの 「とんでもないこと」にひとつひとつ向き合ってい たら、体と心が持ちません。  私も起業後たくさんの信じられないことが起こり ました。「取引先と突然連絡がとれなくなる」「雇っ ていた人が急にいなくなる」「契約内容が無視され る」「味方だと思っていた人が知らない間に敵に なっていた」などなど。意図しているのか天然なの か分からない摩訶不思議なことが日常的に起こりま す。こうしたことは、実は経営者や長くビジネスを している人であれば。あるある”です。  ビジネスにはたくさん喜びがありますが、同じだ けショックなことや嫌なことが起こります。こうし た「とんでもないこと」に対処していくのがビジネ スです。しかし「対処しない」ということもビジネ ススキルには存在するということをお伝えしたいと 思います。ただ、「まったく対処しない」と言うこ とではありません。「対処しないという対処」をす るのです。実は意外なことに「とんでもないこと」 ほど少し時間がたつと、勝手に終息したり好転する ことがあります。「対処することを前提」として、 「これはどう対処するか判断するためにも、スルー してみよう」というイメージです。  真面目な人ほど「とんでもないこと」にもすぐに 対処しようとします。そういう人こそ「一旦ス ルー」をお薦めします。言葉を置き換えるなら、べ とアイングとなりますが、冷静になったり心を落ち 着けたりする時間を持つということでもあります。  具体的な例では、Slackやにツ’詢などのチャット ツールで連絡が来た際、むやみに対応せず保留しま す。例えば、怒っている相手からにZ圃か来たとき や、複雑な案件が舞い込んできたときを思い浮かべ てください。怒っている相手に何気ない匸冐を返し て火に油を注ぐことになったり、複雑な話を呑み込 めていないのに無防備に返信して、ややこしくなっ た経験があると思います。こういうときは一旦ボー ルをキープするのも対処です。  「ボールは抱えないほうがよいのでは?」と思う方 もいるかもしれません。たしかにマルチタスクをこ なす心構えとして、ボールを早く打ち返したり、誰 かに渡したりする意識は大切です。ただ、それは通 常のビジネスシーンでの考え方です。ここでのお話 はあくまで「とんでもない」ことへの対処の仕方で す。手元に来たボールを自分だけで持ち続けるのが 不安な場合は、関係者や上司と共有するのもよいで しょう。  また、返事が来ないと、相手は「なぜ返事が来な いのか」と考えますよね。一部のチャットツールで は”既読や未読”も分かったりします。もし相手が 怒っていた場合、「自分が言い過ぎたのではないか」 と考えてくれるかもしれませんし、難しいことを 言ってきた相手は「自分の伝え方が悪かったのか な」と考え直してくれるかもしれません。「一旦ス ルーする」ことは、「相手に再考の余地をそれとな く与える」というコミュニケーション技術でもあり ます。  情報を選択する  最近のビジネスシーンではたくさんの情報が飛び 交っています。優秀なビジネスパーソンほど情報を 浴びていますし、情報が集まってくる人こそ優秀な 人の証でもあります。しかし情報は自分に有益なも のばかりではありません。ストレスになったリト ラップになったりすることも混ざっています。  最近ではSNSから届くメッセージやリフライが ストレスになるケースがよくあります。所謂「クソ リプ」と言われるような「心をザワつかせる反応」 があって傷ついた経験のある方も多いでしょう。他 には、ただタイムラインを追っているだけでも、 「自分が落ち込んでいる時に他人の幸せそうな生活 を見てしまい、一層気持ちが暗くなる」なんてこと もよくありますよね。高度な情報社会を生きる上で、 スルースキルを持だなければ平常心でいることもま まならなくなります。  スルーカとはつまり「情報を選択する」というこ とです。上司からの叱咤もフォロワーからのマウン ティングも情報です。現代はとにかく情報で溢れて いますし、獲りにいかなくても目や耳からどんどん 入り込んできます。能動的に獲りに行った情報に対 しては、「どんな内容でも受け取る精神的な準備」 ができていますが、パーソラナイズやアルゴリズム で最適化された(と思われる)情報は、無意識のう ちに受け取ることになります。ある意味で「無防備 な状態」で体に入ってきますから、それがネガティ ブなものだと受けるダメージも大きくなります。  身の回りのだくさんの出来事すべてを情報と捉え て、意識的に選択する。どう考えても「異常なとん でもないこと」に関しては意識的にスルーする。意 識的にスルーすることで、自分や相手に冷静になる 時間や再考する余地をつくる。結果としてムダな時 間や労力を減らし精神的に健全でいること、それが 「スルーカ」というスキルです。 国語力  この本でお話しているスキルは、「努力しなけれ ば手に入れられない」ことではなく、「考え方ひと つで誰でも簡単に手に入れられますよ」というスタ ンスでお話してきたつもりです。しかし、この国語 力というのは、ご存じの通り「一朝一夕で手に入れ られない」タイプのスキルです。しかしこの国語力 はとても大切です。  今まで「国語」は小学生や中高生以外には無関係 と思われていましたが、近年は大人の国語力が注目 されています。ビジネスパーソンに向けた国語力を テーマにしたビジネス書も売れています。  国語力がないと事象や感情を認識できない  国語力は人の「思考や行動に作用」します。そし て「自分の感情が何であるかの理解」も国語力で変 わります。  たとえば、悲しいという感情には「がっかり」 「切ない」「胸が苦しい」など程度の差や悲しさの状 況を踏まえた種類がありますが、国語力がないとそ れが「死にたい」という極端な表現になったりしま す。語彙力がないと自分の感情の理解を間違ったり 飛躍させてしまうことになります。詐欺に引っか かってしまったり、犯罪に誘われても「それが良く ないことだ」と理解できなかったりするのも国語力 の問題です。このあたりはノンフィクション作家石 井光太さんの著書『ルポ誰が国語力を殺すのか』 で詳しく説明されているのでぜひ読んでいただきた いです。  少し話が逸れますが、「世界で最もグルメな国は どこか」を考えようとすると、当然定義に困ります よね。そこで「味を表す単語が多い言語の国はそれ だけ味に対するこだわりがある」と考えた人がいた そうです。一番多かったのはタイ語でした。たとえ ばタイ語には「甘い」という意味の単語の他に「す ごい甘い」「甘辛い」という単語が別に存在します。 日本語で表すには「すごい」や「辛い」などふたつ の単語が必要になりますよね。適合する単語がある と認識に繊細な印象がありますし、区別に対するこ だわりを感じますよね。これは単語の話ではありま すが、「事象を適切に表現できる語彙量」は自分の 認識はもちろん、他者と共有する上でも有用です。  ビジネスは「事象を把握し、論理的に対処したり 発想する」ということの繰り返しです。しかし「事 象を把握する」には、その事象を「適切に言語化」 できなければなりませんし、「論理的に対処する」 には「筋道立てて考えられる能力」が必要です。か くいう私も国語力に自信があるわけではありません。 本を書いていても校正でたくさん直されます。  国語力があるかどうかは判断しにくい  では、どうやって国語力を上げるかと言われれば、 「本を読む」というのが良い方法に間違いありませ ん。思考が深かったり話が面自かったり、ユーモア がある人はたくさんの本を読んでいます。ちなみに 私はさほど本を読みません。本を書いているくせに 恥ずかしい限りです。そんな私かお薦めしたいのは 「人と話すこと」と、その話を「要約すること」で す。  国語力が少し厄介なのは「自分に国語力があるか どうか判断しにくい」というところにあります。 「国語力が足りていないのは国語力がないことが理 由」ですから分からないのは当たり前ですよね。で すから相手の話を要約してそれが相手の「意図や気 持ちに沿っているか」「本意を汲み取れているか」 を判断してもらうのが効果的です。もちろん大事な クライアントとの会議などではなく、友人や職場の 同僚で試すのが良いでしょう。ビジネスで求められ る国語力とは、「事象を言語化して把握すること」 ですから、人の話の要約をすることは実践的なト レーニングになります。  また、併せてお薦めしたいのは「書くこと」です。 自分の中にある情報や「なんとなく分かっているつ もりのこと」は、「アウトプットする過程で認識を 確認すること」ができます。ただ目的もなく書くの はしんどいですから、SNSで発信するのが良いで しょう。いまやSNSでの発信は日常ですし、「個 人の力」が問われる時代においては必須とも言えま すから一石二鳥です。  具体的にはnoteのように比較的長文で発信する のがベターです。長文は短文と違って構成やストー リーを考えますから、国語力を鍛えるにはもってこ いです。内容も自分が好きなことや興味のある分野 で充分です。飽きずに長く続けられることが大切で す。私はsNsやNewsPicksなどで頼まれてもいな い長文をよく書いていました。今思えば書くことが 好きでした。中学生のときは競馬が好きすぎて同人 誌のような競馬新聞を作って記事を書いていました し、もっと幼いころは絵本を書いていました。その おかげか、世の中で発信される記事やメッセージに 対して最低限の理解はできているように思います。  このように「会話の要約と長文でのsNs発信」 は、ストレス少なく国語力を向上させるのに良い方 法かと思います。結果としてビジネスで起きた事象 に対して「論理的に対処したり発想する」ことがで きるようになります。  物事の考え方や捉え方は「自分の中にある絶対的 なもののようで、実はあいまい」です。また、国語 力は自分の理解力や想像力を左右します。すぐ身に 付くものでないだけになかなかやる気が起きません が、大切な場面では「自分の認識や思考を別の言葉 に置き換えられないか」考えてみるのも良いかもし れません。こうした確認は考えの幅を広げるだけで なく、身を守ることになります。これが「国語力」 というスキルです。 逃げる力  「逃げる力」なんてビジネス書ではあまり馴染まな いかもしれません。多くの場面では「仕事を変え る」とか「会社を変える」とか「環境を変える」な どの言葉に変換されるでしょう。しかし、このよう な言葉になると「現実にはそんな簡単に変えられな いんだ」と難しく捉えられがちです。実行できたと しても真面目な人なら「それって逃げてるだけなん じや」と自己否定してしまうかもしれません。だか ら敢えて「逃げる力」をビジネススキルと表現しま した。逃げるというのは悪いことではなく、むしろ 良いことで立派なビジネススキルです。   「逃げる」という生存戦略  私はたくさん逃げてきました。新入社員のころは、 怖い先輩と飲みにいくのが嫌で、いろいろな理由を つけては逃げていました。中堅社員になってからも、 プレッシャーのかかる取引先の担当から逃げたくて、 その仕事ができないフリをしたこともあります。起 業した大きな理由のひとつに「会社員当時の自分を 取り巻く環境から逃げたかった」ということもあり ます。  もちろん「逃げてさえいれば良い」ということで はありませんが、「逃げるというカード」もビジネ スパーソンとしては持っておいた方がよいというこ とです。そもそも逃げるというのは、動物なら持つ ていて当たり前の能力です。恐怖や不安から「逃げ たくなる」というのは生存本能で、「逃げる行為」 は生存戦略そのものと言えます。  もちろんビジネスにおいては「困難や問題に対処 する」のが日常です。しかし対処しきれない状況や 心理的環境がある時は、まず逃げて「ある程度の安 全が保たれる状況」になってから対処すれば良いの です。良さそうな住処を見つけたばかりのウサギが トラに襲われたとします。ウサギは、襲われている 最中に「ここには住めなくなるな、ほかの水場やエ サ場をどう工面しよう」とか考えていたら死んでし まいます。まずはとにかくトラから逃れることだけ 考えるわけです。  危機的な環境でもすぐ対処できたり、ストレスを 感じさせない大もいます。そういう人のことを頼も しく優秀に感じるでしょう。しかしその大はたまた まその難局に慣れていたり、ストレスを隠している だけだったのかもしれません。もしくは自分が難局 に感じていただけで、その大にはむしろ得意な状況 だったのかもしれません。そして、スマートに仕事 をこなしている人も、実は別の場面ではうまく逃げ ているかもしれません。  恐怖やストレスを感じると、周囲を疑ったりする こともあるでしょう。思い悩んだりすると寝不足に なったり、体調を崩したりもします。そのような状 況では、仕事もままならないのは当然です。  「逃げる」というのは、実はビジネスの常套手段で す。的確に状況分析をして、万一の時は潔く「逃げ る」というカードを切ります。投資の「損切り」の 感覚にも近いかもしれません。  身を守りながら戦う  実際、私の周りにいる優秀なビジネスパーソンは、 実はとても逃げ上手です。嫌なことやリスクからう まく逃げています。これ以上頑張っても無理だとい う臨界点を見極めることに長けています。それは 「逃げるというカードがビジネスにおける戦術のひ とつ」であると知っているからでしょう。  このようにお話していると、困難な状況への反応 は「向き合って解決する」か「逃げる」の二択のよ うに感じますがそうではありません。どちらも「対 処する」という意味では同じで、対処の仕方が違う だけです。これを知っていると、「どのタイミング で逃げるか」を考えながら「向き合って解決する」 ことができるようになります。そうすると不思議な もので、少し心のゆとりが生まれて逃げる前に対処 できてしまうこともあります。逃げるというカード を「対処する方法のひとつ」という認識で持つと、 身を守りながら戦うことができます。  大事なことなので改めて同じようなことを言いま す。膨大な仕事量に追われている時や解決困難なト ラブルに見舞われている時、体や心に警告音が鳴り 響いているときがあります。「これ以上働けば倒れ てしまうぞ」と体や心が警告を送っているはずです。 そのサインを無視して無理をしてしまうと、たとえ 仕事を完遂してもダメージが大きく残ります。心身 に支障を伴う前に、迷わず逃げるべきです。猛暑囗 にずっと外にいたら熱中症で死んでしまいますよね。 空調の効いた涼しい部屋に入るのは「暑さから逃げ ること」ですが、それは「対処」です。  逃げる時に「なぜ逃げるのか」と複雑な理論構築 をする必要はありません。「逃げるのは良くない」 という固定観念は想像以上に沁みついています。 「ここから逃げないと危険だから逃げる」。それだけ です。逃げる先はいくらでもあります。会社を辞め る。学校を辞める。生まれ育った土地を捨てる。 「人生を左右する大事」と感じるかもしれません。 でも、そんなことは絶対にありません。たいしたこ とありません。逃げることでしか生まれない未来も あるのです。 楽する力  「楽しようとするな」。昔はよく上司や先輩から言 われたセリフです。(ラスメントヘの意識の高まり からか最近では見られなくなつてきましたが、それ でも似たような訓示はあると思います。このセリフ が意図するところは「手を抜くとミスするぞ」「適 当にやってるといつまでも仕事を覚えられないぞ」 のようなことだと思います。これは一部ではその通 りです。丁寧に仕事をすることはいろいろな意味で 大切でしょう。しかし敢えて言葉尻だけとると「楽 しようとすることはいけない」という考え方は間 違っています。むしろ「楽しようと考えること」は ビジネスにおいてとても有効です。  楽をしたい気持ちがイノベーションの起点  実は社会のイノベーションの起点は「楽するため にどうしたらよいか」考えた結果であることがとて も多くあります。「疲れないようにする」「家から出 たくない」「両手が必要なことを片手で済ます」「ク リックする回数を減らす」など、すべて「楽をした い」という気持ちです。エスカレーター、ワンタッ チ傘、Eコマースの誕生など例をあげればキリがあ りません。歴史的にテクノロジーの進化は「人の怠 惰な願望」が起点になっていることがほとんどです。 ですから「楽をするためにはどうしたらよいか」を 考えることは、大とビジネスの関係において健全な ことです。  例示した「社会を変えるようなイノベーション」 は、少し自分事にしにくいかもしれません。もう少 し身近に捉えるには、「自分の工数を減らす」「自分 のストレスを軽減する」と考えるとよいです。その ためには自動化することが一番良いですが、技術や お金が必要になったりしますから少し難易度が高い かもしれません。最も一般的で分かりやすい方法は 「誰かに代わりにやってもらうこと」です。  誰かにやってもらうにしても一般的には対価が必 要ですよね。一時的なことなら、友情や人助けなど を動機として協力してもらえるかもしれませんが、 長く続けることはできません。対価が名誉や実績の 場合もありますが、一般的にはお金です。「自分が 作業している物事を、お金などの対価と引き換えに 誰かにやってもらうこと」、それが「仕組み」です。  例えば、自分が一か月働いて30万円稼げる仕事が あるとします。それは「誰でも簡単にできる仕事で はない」のですが、「センスの良い誰かがいれば、 仕事を教えることができそうだ」とします。懸命に 探してセンスの良い人を見つけました。その人に自 分の仕事を教えます。その人は一か月25万円なら継 続的にやってくれることになりました。すると自分 は何もしなくても月5万円を稼ぐことができるよう になります。  この仕組みができると、それまで使っていた時間 が自由に使えるようになります。この時間を使って 別の仕事をします。そうすると今までより、たくさ んの物事を生産できます。これが「生産力を上げ る」ということです。余った時間を使ってつくった 仕事をまた他の誰かにやってもらい、それを継続で きるようにします。それは何度も繰り返すことがで きます。  「仕組み」と聞くともっと高度なシステムを想像し がちですが、「自分の仕事を誰かにやってもらって 対価を支払う。そうして自分の時間を空けて生産力 を上げる」というのは基本中の基本とも言える「仕 組み」です。これを「仕組み」と捉えられるかそう でないかでは大きな違いがあります。「仕組み化」 できると、構造的には無限に生産力を上げていくこ とができます。ビジネスとは生産することです。 「生産し続けること」が正しいかどうかはともかく、 少なくとも資本主義経済において、たくさん生産で きるということには高い価値があります。  簡単にお話しましたが、「仕組み化して生産力を 高めることができる人」はビジネスパーソンとして 一流です。たくさん生産して、お金を稼ぎ、たくさ ん納税したり寄付をすると、多くの人を助けること に繋がります。自分には無理だと思わずにぜひ目指 してほしいと思います。  とは言え「仕組化しよう」「生産力を上げよう」 と思ってもなかなか実行することは難しいですよね。 まずは「仕組み化したい」「生産性を高めたい」と いう意欲を持つことが大切になりますが、その意欲 を持つ上でお薦めしたいのが「楽をする」ことです。 「自分が楽をするため」なら身近な感じもしますし、 いろいろ考えられそうな気がしてきます。ここでひ とつだけ意識しておいたほうが良いポイントは「楽 な状態を継続するためにはどうしたらよいかを考え ること」です。継続できないと楽はできませんし、 結果的に面倒なことが増えてしまいます。  自分の存在価値を確認しておく  ここまで、「楽をするための仕組み化」の考え方 について書いてきました。ここでもうひとつ、「仕 組化を考えるときにあまり言語化されてこなかっだ けれど、意識すべき大切なこと」についてお話した いと思います。  楽をするための仕組化を進めていったとき、自分 の工数は大きく減ります。しかし、何もしなくてよ いということにはならず、「仕事を頼んだ人がちや んとやっているかのチェック」が必要だったり、 「社会やその仕事をとりまく環境が変化するたびに、 やり方を変える」など、メンテナンスが必要になり ます。先ほどの例で言えば、30万円の仕事を別の人 に25万円でやってもらっていますから、差額の「5 万円で管理やメンテナンスの仕事をしている」こと になるわけです。それだとしても一人でやっていた ときよりは圧倒的に自分の工数は減るわけですから、 それで良いのです。これが一般的な形です。  しかし、仕事の内容や仕組みによっては自分の工 数がほぼゼロになる場合があります。これはこれで とても良いことですが、見方によっては「自分かい なくてもよい」ということになります。30万円を稼 いでいた仕事が、「自分が創造した仕事ではなく、 別の企業から請け負っていた仕事」だとします。す るとその企業から見れば、「30万円ではなく25万円 でできる仕事だった」と認識することもできます。 自分の存在が無価値となれば、その仕事において自 分のプレゼンスは失われますし、場合によっては仕 事を失うかもしれません。  もちろん現実的には「クライアントとの信頼関 係」があったり、そこに「メンテナンス」や「仕事 を教える」という価値があったり、「自分が頼んだ 仕事だからその人もやってくれている」という場合 も多いでしょう。ですから、仕組み化したからと いって「自分が無価値になって仕事を失う」という ことはあまりないのですが、構造としてはそのよう に捉えられてしまうリスクがあるのが「仕組み」だ という理解は必要です。  コロナ禍における接触確認アプリやオリンピック での「大手企業の中抜き問題」を思い出される人も 多いかもしれません。それがいいか悪いか、その大 企業が無価値なのかどうかはさておき、ビジネスに おける「仕組み」の構造と性質を理解する上では良 い例かもしれません。  中抜きと揶揄される構造のみならず、実はこうし た「仕事と仕事を繋ぐ仕事は省いていこう」とする のが世の中の大きな流れです。卸売や問屋を介さず 生産者と小売店が直接取引をしたり、小売店も介さ ずに消費者と直接取引するDtOCと言われるビジ ネスが高く評価されています。  少し話が逸れましたが、仕組み化を考えるときに 「自分がどういうポジションでどういう価値を保持 しているのか」は確認しておくことが大切です。  仕組みは、最初に構築するときが最も難しく、お 金も労力も知恵も必要とされます。その仕組みに参 加している関係者や受益者は、最初は「仕組みを考 えたりつくってくれた人」に恩義を感じます。しか し、時間がたつと人間の記憶は薄れていくものです から、「仕組みをつくった人の価値」を感じる度合 いも減っていきます。一般的に日本人は義理固い性 格ですし、手の平を返すような大は少ないかもしれ ませんが、稀に「仕組みをつくった大」を邪魔に感 じて追い出そうとする大もいます。  仕組み化のプロセスの中で、価植の保全をするた めの代表的な方策が「権利を持つこと」です。権利 は一般的に契約によって守られます。これは単純に 「利益や立場を失わないため」ということもありま すが、信頼する相手だからこそ「後々ムダにモメて 関係が壊れてしまう」のを防ぐ意味もあります。仕 組みは考えた人やつくった人が敬意を持たれるべき ですが、ビジネスの現場にはそう考えない人もいま すので注意が必要です。  「楽をしよう」と考えることは悪いことではありま せん。イノベーションを生み、生産力を高める上で 必要な発想です。「いつか必ず楽になろう」「時間の 制約からもストレスからも自由になろう」と考え、 自分の存在価値を保持しながら「楽に続けられる状 態」へ仕組み化していく。その怠惰かつ力強い意欲 が、「楽する力」というスキルです。 頑張らない力  楽したり頑張らなかったり、と「お前は働く気が あるのか」と怒られそうです(笑)。  仕事で成果を出すためには、頑張ります。頑張り 方はそれぞれです。頑張ることはとても良いことで すが、私は「その分量」が大切だと感じています。  頑張る目的は成果を出すためです。成果とは、自 社の売上を増やすとか、ユーザーが楽しむとか、ク ライアントに満足してもらうとかですが、これらの 成果は「どの程度の頑張りで最大化するか」を見極 めることが必要です。そしてこの最大化の指標が 「自分にあるのか」「相手にあるのか」の視点を持て るようになるとビジネスに対する考え方が少し変わ ると思います。  80%の完成度を20%の力で  私はコンテンツプロデューサーとして企画業をし ています。映像や商品、サービスや事業など、様々 な企画を考えたリコンテンツをつくったりしていま す。つくるからには良いものにしたいので頑張りま す。細かい部分にもこだわってつくってきました。 なんでもかんでも自分の時間と力を100%注ぎま した。出来上がったときはとても満足しました。そ して、それが商品として世に出るときはワクワクし ます。自分が頑張って100%力を注いだ商品です からヒットしたり高く評価されることを期待します。  しかし、毎回必ずがっかりします。なぜなら「心 血注いでつくったものが、そのまま完全に伝わるこ とがない」からです。「ここまでは伝わってるけど ここは伝わってない」「ここを分かってくれれば、 もっと楽しめるのに」「ここが分からないなんて、 もったいない」「これの価値はそこじゃなくてこっ ちなのに」。頑張ってつくったからこそ、伝わらな かった部分に落胆します。  一方で、ユーザーやクライアントは、充分に楽し んだり満足していました。つくったのは自分ですが、 それを評価するのはユーザーやクライアントです。 つまりユーザーやクライアントに伝わってない部分 があったとしても、それは「不必要なものだった」 と言えますし「この世に存在してない」とも言えま す。私は徐々に気付いてきました。私がつくってい たのは商品ではなく作品でした。  作品は芸術です。もちろん芸術はとても素晴らし いものです。人類の歴史そのものですし、人が人で あるための表現活動だとも思います。しかし、ビジ ネスにおけるものづくりは芸術作品ではありません。 あくまで商品です。  私は根本的に考え方を変えました。「100%で ある必要はない。80%でいいんだ」「残りの20%は 伝わらない部分だから100%にする必要はない」 と。では、この80%まで持っていくには何%の力が 必要でしょうか。80%だと感じるかもしれませんが、 私の感覚では20%で充分です。20%の力で80%の結 果は出せます。これは私か優秀だからとか要領がい いからとかではありません。  たとえばフィギュア作品があるとします。大きさ は20センチくらいだとしましよう。作り手は細部ま でこだわるのが普通です。塗装も丁寧に行います。 しかしこのフィギュアは、スーパー「ジモトダイス キ屋」の集客イベント「1000体フィギュア展」 で、その他999体と共に展示される予定でした。 会場は駐車場でとても広く、30メートル離れたとこ ろからしか見学できなかったとします。このとき見 学に来た人は、その丁寧な作業と細部のこだわりを 残念ながら確認できません。むしろ1000体の フィギュアが並んでるその数とスケールに感動しま す。  この例えでは、見学者つまりユーザーに対しては 「伝わらないムダな頑張りをした」ということにな ります。ユーザーだけではありません。このイベン トの主催者に対しても同様です。このイベントは 「たくさんのフィギュアを並べるのが特徴」ですか ら、主催者にとっては適切なコストでたくさんつく れた方が嬉しいわけです。小さなフィギュアをこだ わってつくるとき、「80%の完成度までもっていく 干不ルギー」と、100%の完成度までもっていく ために必要な「残りの20%に要する干不ルギー」は 後者のほうがはるかに大きな于不ルギーが必要にな ります。80%の完成度でよければ20%の労力でI体 つくれますから、同じ労力で5体つくれる計算です。 お客さんに伝わらない完成度100%のフィギュア ー体よりも80%の完成度で5体納品してくれる人の 方が主催者からすれば頼もしい存在になるのです。  この考え方は画像や音声のデータで例えても分か りやすいかもしれません。何か画像を共有するとき 解像度を下げて送りますよね。おおよその雰囲気を 確認するだけであれば視認できない解像度は不必要 だからです。音楽をMP3に変換するときも同じで す。人間の耳が認識できない帯域など不要な音は カットされています。このようにビジネスにおいて。 「人に伝わらないことは省き、空いたスペースを他 のことに使う」というのはどんな場面でも当たり前 に行われていることです。  それは人に伝わるのか  「神は細部に宿る」といいます。建築家のミースー フアンーデルーローエが唱えた言葉で「ディテール にこそ作品の本質があるから細部までこだわってつ くった方が良い」という趣旨です。クリエイターを 中心に絶大な支持を集めた考え方です。私はクリエ イターの端くれでもあるので、よく理解できますし 好きな言葉です。  でも、細部までこだわるためには「頑張ること」 が必要そうですよね。80%の労力では細部までこだ わっていない様です。「他のことには目もくれず、 根詰めて頑張って100%までもっていくこと」で 「神が宿る」と思えます。しかしこれは間違いです。 細部へのこだわりが「伝わらなくてもよいと思って いる自己満足」なのか、「人に伝えるための意図的 なこだわりなのか」で大きな違いがあります。前者 は、「ビジネスにおいて不必要な20%の頑張り」で すが、後者は「そもそもビジネス上必要な80%の部 分」です。つくるものが「細部にこだわらないと当 たらないコンテンツ」だったとしたら、細部にこだ わることは当然必要です。  「細部にこだわること」と「頑張る」ことはまった く異なる概念です。ここはとても誤解されがちです。 「頑張らないスキル」というのは、「なんとなく持て る力の80%でやめておく」ということではありませ ん。クライアントやユーザーにとって必要なことは 当然頑張ってやります。あくまで「人に伝わらない ことは頑張らない」ということです。  その結果残せた力があると、他の「人に伝わるこ と」で頑張ることができますし、いろいろな仕事を たくさんできるようになります。つまり生産力が上 がります。たくさん生産できれば、経験やノウハウ も溜まります。こうして成長した自分を、それまで に仕事をくれたクライアントや共に仕事した仲間に 還元してください。その方がよっぽど喜ばれます。  伝わらないことをしていて仕事の量も幅も狭めて 成長できないでいると、クライアントや仲間に対し て恩返しもできません。自分が使う時間や労力は 「人に伝わるのか伝わらないのか」で判断し、頑張 る分量を決め、空いた力を使って生産量を増やすこ と、それが「頑張らない力」というスキルです。 ポジショニングカ  ビジネスのあらゆる場面において、「自分のポジ ションをどこに置くのか」は重要な要素です。ポジ ショニングによって成果や評価、報酬も変わってき ます。そして何よリポジショニングによっては「ビ ジネスをかなり気楽に進めることができる」ように なります。この本では、「ビジネスで成功するため の学び」というよりは、「どうすればストレスなく ビジネスを楽しめるか」ということをお伝えしてい るつもりです。この点で、このポジショニングカは 大切なスキルになります。  自分はどこにいるのか  ポジショニングをする上で、まず始めにしなけれ ばならないのは、自分の立ち位置(ポジション)の 確認です。自分が「その状況、環境においてどうい う存在なのか」「どう思われているのか」「何を期待 されているのか」そして「何を期待されていないの か」。この自分の位置認識の精度が高ければ、ポジ ショニングカのスキルがあると言ってもよいでしよ  自分の立ち位置を把握するということは「自分を 客観視する」ということになります。自分を客観的 に捉えるのは難しいですよね。しかも状況は刻々と 変化しますから、このスキルの獲得難易度は高いよ うに感じるかもしれません。でも大丈夫です。実は ビジネスをしている人のほとんどが、自分のポジ ションを確認していません。ですから立ち位置の確 認を心がけるだけで良いのです。  たとえば、「クライアントから仕事を頼まれた」 というシチュエーションでも関係性やタイミングに よって立ち位置ほまちまちです。「相手にとって自 社は絶対的に必要な存在なのか、競合する複数社の うちのひとつなのか」「初めての取引なのか、長年 の付き合いがある関係なのか」「クライアントの担 当者はベテランなのか、異動したてであまりよく分 かってないのか」「自分は自社の中で決定権がある のか、ないのか」「自分の役割は淡々と説明する人 なのか、場を和ませるムードメーカーなのか」、挙 げればきりがありません。  社内のみの環境でも同じです。上司から仕事を頼 まれたとします。同じ仕事だとしても状況ほまちま ちです。「急ぎなのかそうでないのか」「自分にしか できない仕事なのか他の人でもできるのか」「他の 人ができる仕事を自分の成長のために敢えて渡して くれたのか、他の人が忙しいから自分が指名された のか」。上司と自分の関係性もあります。「長い付き 合いなのか、浅い関係なのか」。浅い関係でも「上 司が着任したてなのか、自分が異動してきたのか」。 「会社は好調な業績なのか、あまり良くないのか」。 もっと細かく言えば「朝の始業直後なのか終業間際 なのか」など、こちらも例示すれぼきりがありませ ん。  この例えを読んで「もし自分が当事者だったら」 とイメージすると、仕事に向かうスタンスがそれぞ れ違うことは明らかですよね。仕事を受け取るとき のリアクションから、その後のコミュニケーション まですべて変わってきます。これが「まず自分の立 ち位置を確認する」ということになります。言われ てみればイメージできるのに、何故か多くの人がお ろそかにします。最初は立ち位置を確認していたと しても、その後忘れてしまう人がほとんどです。で すからたまに立ち位置を確認するだけでスキルにな ります。  ムダなポジションニングが避けられる  「立ち位置が確認できる」ということは「全体が見 えている」ということになります。その状況や組織 において「足りているポジション」「足りていない ポジション」「余剰しているポジション」なども分 かってきます。すると、そうした隙を見越して、足 りてないところを埋めたり、余剰しているところを 利用したりできますし、足りているところでムダに 動いてしまうこともなくなります。  サッカーで考えると分かりやすいかもしれません。 サッカーは卯分間一か所に留まらず動き続けるス ポーツです。IチームH人いますが「広いフィール ドのどこに選手がいるか」が勝敗を左右します。あ る程度のフォーメーションは決まっていても、状況 は一秒ごとに変化します。ボールだけを追うのでは なく「味方がどういう風に動き、敵はどう動いてい るか」。鳥瞰図を頭に描いて、攻撃と守備のどちら においても最適なポジショニングが要求されます。 これはビジネスにおけるポジションニングと同じで す。  「足りていないスペースに飛び込んできてくれる選 手」はとても頼もしいです。しかしもっと大切なの は「足りているスペースにいないようにすること」 です。自分では活躍しているつもりでも、全体から 見れば「ムダに動きまわっているだけの人」になっ てしまいます。この「やらなくていいことはやらな い」というのは忘れられがちなスキルです。「ポジ ショニング的には求められていないのにやってしま う」のはよくある間違いです。  これは「与えられた仕事以外はしなくていい」と いう話ではありません。混同しやすいので注意が必 要です。逆に意欲的な人であれば、「あえて足りて いるポジションを獲りに行く」という立ち位置のっ くり方もあるでしょう。いずれにせよ、それはあく まで「自分の立ち位置と全体が見えているからこそ できる戦術」と言えます。  誰かにとって必要とされる存在になる  ポジショニングカは、ストレス少なく楽しくビジ ネスするための力です。この視点で、改めて「ポジ ションを取るためにはどうするか」一般的な認識も 含めて確認したいと思います。  まず、超プロフェッショナルになることです。分 かりやすく言えば「替えの効かない人材になる」と いうことです。これは当たり前の話ですよね。組織 内において人より秀でた部分があれば、替えの効か ない人材になります。さきほどのサッカーで例える なら、超一流プレーヤーです。超一流プレーヤーを 生かすべく他の選手を配置するようになりますから、 ポジショニング云々の問題からも解放されることが できます。  「それが出来れば苦労しないよ」と言われてしまう かもしれませんが、現実のこととして再認識は必要 です。ほとんどの人はこの「超一流プレーヤーを生 かすためのプレーヤー」として働いています。です から、諦めずにこの超一流プレーヤーを目指すこと が理想ですし、そうでないにしても「この構造を分 かってポジションニングすること」も重要です。  超一流プレーヤーほど絶対的なポジションにはな りませんが替えの効かない人材になることはできま す。フィールドプレーヤーは10人いますがキーパー は一人です。実際にはキーパーのいないサッカー チームなんてないでしょうが、なり手の少ないポジ ションは替えの効かない人材になれる可能性が比較 的高くなります。  さらにもう少し簡単にポジションを取れる方法を お話します。専門的な能力ではなく、人格的な部分 でポジションをとります。  ポジショニングカにおける基本的な視点は「誰か にとって必要とされる存在になる」ことです。相手 が単純に「あなたが必要だ」と感じれば、ポジショ ンは必然的に確保されます。  私か会社員で若手社員の頃の話です。ある「実績 もある気難しい上司」がいました。部員は当然、積 極的にはあまり近づきません。私も「あまり関わり たくないな」と思っていましたが、その人の裁量で いろいろなことが決まるので、いちいち顔色を伺い ながら仕事をしているのが嫌になりました。そこで 思い切って二人きりでの飲みに誘いました。最初は 説教じみた話ばかりでしたが、徐々にプライベート な話になります。仕事の話では敵わなくても、プラ イベートの話になれば、似たような境遇の経験もあ りますから対等に話ができます。そうなると私とし ても、楽しく過ごせるようになってきます。それか らは、定期的に二人で飲みにいくようになりました。 プライベートの話では徐々に意見を求められるよう になってきます。仕事では相変わらず気難しい雰囲 気でしたが、プライベートでは私は先輩に頼られる ようになっていました。その後、私は仕事の場面で も臆することなくコミュニケーションがとれるよう になりました。  上司が裁量をもっているから媚びを売ってかわい がられようとしたのではありません。むしろ逆かも しれません。プライベートの話ではかなリズケズケ と失礼なことを言っていました。飲みの場で媚びを 売っていただけでは、私の中での畏怖心は解けな かったでしょう。私は仕事ではイチ部下ではありま したが、それ以外では必要な情報やアドバイスをく れる人になっていたのです。上司にとって「足りて いないスペース」にポジショニングして必要な人に なれたことで、私はストレスから解放されたのです。  これはクライアントとの関係でも同様です。たと えば、クライアントは大手菓子メーカー「オカシタ ベスーギ」で、自分は下請けでチョコレートを納品 する「シタウケカカオ」の社員だったとします。オ カシタベスーギ社が新商品「ウマスギモンダイ」を 計画しました。他のチョコレートエ場と競合になり ましたがギリギリ安くして受注したとします。しか も、その取引は自社の売上50%を占めるような大口 案件です。言わば。一方通行”の関係ですからオカ シタベスーギ社との取引は毎回緊張の連続でしょう。  そんな中で「ウマスギモンダイ」に合うような チョコレートを頑張って開発しました。その結果 「ウマスギモンダイ」はチョコレートが美味しいと 評判になりました。口どけはソフトなのに暑くても 溶けません。「こんなチョコ菓子はない」と大ヒツ 卜、製造が追いつかなくなってニュースになるほど です。こうなると、シタウケカカオ社のチョコレー トが美味しくて売れていますから、オカシタベスー ギ社にとってシタウケカカオ社が必要不可欠になり ます。立ち位置は大きく変わりますよね。  もし美味しすぎるチョコレートをつくるような技 術がなくても、一方通行の関係は変えられます。た とえばオカシタベスーギ社の菓子がどうしても流通 できていない地域があるとします。そこは地域密着 型スーパー「ジモトダイスキ屋」が市場を独占して いて、オカシタベスーギの菓子を取り扱っていませ ん。そこで調べてみると、ジモトダイスキ屋が開業 当初に売上が伸びず困っていた頃、シタウケカカオ 社は大量のチョコをキャンペーン用に無償提供した ことがありました。ジモトダイスキ屋からすればシ タウケカカオ社は恩人です。そこで、オカシタベ スーギの菓子を取り扱うようにお願いしてみるとジ モトダイスキ屋は快く販売してくれることになりま した。こうなるとオカシタベスーギ社にとって、シ タウケカカオ社はただの「下請け」ではなく営業に 協力してくれた「パートナー」になります。立場は 大きく変化します。立場が変化すると、また一緒に 多くのビジネスができるでしようし、なによリスト レスは軽減します。  上司と部下、クライアントや下請けなど、ビジネ スではよくある二者間の関係では、多くの人が。一 方通行”が当たり前と思っています。しかし、それ は双方向に変えることも可能です。媚びへつらった り、弱みを握るような方法もあるかもしれませんが、 それは根本的なポジションを変えるものではありま せんし、何より非生産的で気持ちのいいものではあ りません。あくまで「その人にとって必要な存在に なっているか」という視点が大切です。  ポジションをとれば報酬が上がる  もう少しだけお話すると、フリーランスの立場で 業務委託で働くようなヶIスでも同じです。今後、 フリーの立場の人は増えるでしようし、この本を読 んでいる方の中にも多いと思います。  私は起業後、ある会社のK社長とブレストや壁打 ちのようなことをしながら、徐々に仕事を手伝うよ うになっていました。なんとなくスタートした仕事 だったので報酬の話は当初からありませんでした。 K社長からは「いつもいろいろしてもらってるから 何かお支払いしないといけないと思ってるんです よ」とふわっとしたことも言われていましたが、結 局しばらく無報酬のまま手伝っていました。「近い うちには報酬があるだろう」と期待していた私も甘 かったですが、こういう状況は、立場の弱いフリー ランスだとあるあるですよね。  あっという間に半年が過ぎていました。起業直後 の半年ですから、無報酬はかなりつらいです。ただ、 そのときの私は何故かそれを受け入れていました。 その仕事が比較的やりがいがあっだのと、他の社員 と仲良くなっていて居心地がよかったこともありま すが、起業直後で自分に自信がなかったり、どこか 意地になっていたところもあるかもしれません。そ うこうしているうちに、社員の人たちが私を頼るよ うになってきます。便利な存在ですからそうもなり ますよね。社長ともコミュニケーションもとってく れるし、上司でも部下でもなく利害関係もなさそう で、なんでもやるわけですから。  するとK社長から突然「今月から毎月50万円の請 求書をください」と言われます。そのとき私は「こ ういうことか」と理解しました。そう、ポジション が変わり始めていたのです。私はそれからは、ます ます他の社員との仕事に深く関わるようにします。 あっという間に、かなりの案件が私を(ブに動くよ うになってなってきます。すると、そのわずか三か 月後にまたK社長から「今月から毎月100万円の 請求書をください」と言われました。  私から報酬の増額をお願いしたわけではありませ ん。私は「いてもいなくてもいい無報酬の存在」か ら「100万円の価値がある存在」「100万円払 うと言わないといなくなるかもしれない、いなくな ると困る存在」になっていたのです。  雇われている人の立場が弱いとは限りません。相 手にとって「いなくなると困る」というポジショニ ングができれば、報酬は勝手に上がります。たとえ、 どんなに働いていなくても、ミスをしていたとして も関係ありません。  雇用関係にはいろいろな考え方や方法があります が、相手にとって必要な存在になれば報酬は増えま す。自分の価値を高める方法はいろいろありますが、 「仕事ができるできない」「報酬が多い少ない」とい うのは絶対的な能力で決まるものではありません。 相対的なものですし、場所とタイミングで大きく異 なります。自分の立ち位置を常に把握して、相手に 必要な存在になるように行動する。それが「ポジ ショニングカ」というスキルです。 無所属力  「信用力」のところでお話した通り、「肩書きが信 用と無関係」になってくると、所属するということ の価値も変わってきます。一方で、人は「所属する こと」が好きです。というよりも「所属してないと 不安」という方が正しいかもしれません。何かに 「所属してること」自体はもちろん悪いことではあ りませんが、「今の所属先は能動的に選んだのか、 自分の生き方に適した所属先なのか」考えてみるの もよいと思います。  所属の概念が変わりつつある  信用の捉え方が変わるにつれ、所属の概念も変わ りつつあります。そもそも所属というものは、きわ めて文化的な概念です。所属とは本質的にはコミュ ニティを対象とするもので、歴史的には最小単位を 家族として、その集まりが村です。村は自然と属し ていくものであり、生きていく上での必然でした。 また、他のコミュニティとの関わりはほとんどあり ませんでした。  時代が変わり、人が増え、コミュニティ同士の関 わりが多くなるにつれて「所属名が人を表わす」よ うになりました。労働集約型の社会では、従業員に 個性がない方が安定的な生産ができますし、リスク が少なくなります。終身雇用を前提とした組織の中 では、企業と従業員が似たキャラクターであること が都合よくなります。言わば会社のカラーに染まる ことが自然で合理的でした。結果的に「所属先が個 人のアイデンティティそのもの」になっていたので す。  また、精神的な部分でも所属先をアイデンティ ティ化する理由があります。多くの人は初めて会う 人に対して、無意識的に自分の知ってる「所属」に 当てはめようとします。これは「未知の存在は、既 知の存在にカテゴライズすると安心できる」という 本能のようなものがあるからです。  たとえば自己紹介するとき、「ユウキです」と名 乗った後「オヨヨプランニングで働いています」と か「タノシイ大学の3年生です」となることがほと んどですし、相手を知ろうとするときも同様に「ど ちらにお勤めですか」とか「大学はどこですか」と なります。たとえば「東大卒で大手銀行に勤めるA 型の40代既婚男性」と「IT企業でテレワークで働 くB型の30代独身男性」と言われたらどうでしよう か。これだけの情報でも、どういうキャラクターの 人物かそれなりにイメージできますよね。自分が 知っている情報を集めて、「この人はこういうタイ プだ」と決めつけることで安心できるのです。東北 大学の研究[※参照]でも、脳は膨大な情報をカテゴ リー化し、情報を整理した上で思考や判断に使って いることが分かっています。  しかし近年では「自分を記号化するための所属」 に意味がなくなってきて、その価値は下がっていま す。「所属」の概念的価値が下がった理由は、結局 のところ「個人の力が大きくなったこと」が理由で す。個人の力が大きくなったのは、言わずもがなテ クノロジーのおかげです。テクノロジーはいろいろ な物事を単純化し本質的にしていますから、「所属 から人が解放される」のは必然とも言えます。  このような変化の中で、「自分の価値観とのズレ」 を感じつつも「所属することは社会的メリットが大 きい」と考え、妄信的に「所属すること」にしがみ ついたり、追いかけている人はとても多いです。こ れは、所属意識と帰属意識を混同していることもひ とつの原因です。たとえば「日本人」や「広島県 人」は所属とも言えますが、内在的な「郷土愛」が あって、誇りをもって「日本人です」「広島県人で す」と言えるのは帰属意識が高いからです。また、 帰属意識には「個を主体として帰属先に貢献した い」という想いが根底にあることがあり、それはア イデンティティとも言えますから少しややこしいの です。  いずれにせよ、「所属先」は自分にとって必要な コミュニティであるべきで、「所属していること」 自体が、過度な制約とかストレスになってるのはよ くありません。ここで必要となってくるのが「無所 属力」というスキルです。会社員の方は無関係のよ うに感じるかもしれませんが、むしろ「組織にいる からこそ持っておくべきスキル」です。最近では 「人的資本経営」という経営スタイルが急速に広 がっています。人材をコストや資源として考えるの ではなく、投資対象と位置付ける経営の在り方です。 企業側も相互依存するような個人と組織の関係を見 直すようになってきています。  自分のアイデンティティと所属を区別する  ひとつ私のエピソードをお話させてください。 「信用力」のところでお話したしたように「自分に は会社員のタグしかない」ことに気付いた私は、会 社員でいながら会社員のタグを外してみることにし ました。  社外で新たに知り合う人には会社員であることを 伏せ、タカハシと名乗り、名刺やメールアドレスも つくりました。なぜタカハシにしたかと言えば、電 話で私かタカセと名乗る時「タカ「シさんです か?」と聞き返されることが多かったからです。単 純に私か早口で活舌が悪いからなのですが、もし夕 カ(シで振舞っているときに誰かが「タカセ」と声 をかけてきても「この人はタカ「シなのに活舌悪い な」と思ってくれるかもと思ったからです。どうで もいいですね(笑)。ともかく私は、フジテレビに 勤めるタカセではなく、無名のフリーランス企画屋 「タカ「シ」として別の顔で生活してみることにし ました。  「なんでもやります」と一見怪しい営業をしている と、意外とすぐ仕事が入ります。ある大手ゲーム会 社X社から仕事の手伝いを依頼されました。当時は スマートフォングームが広まり始めた頃です。X社 もスマホゲームに本格的に進出しようとして新ゲー ム開発を計画していました。私の知人が経営してる 会社がプロジェクトの一部をサポートしていたので、 私は知人の会社から派遣されるような形です。無給 を前提に「雑用でもなんでもいいので企画会議に混 ぜてもらえないか」と頼みました。  私はそのプロジェクトでゲーム作家のような立場 で会議に参加することになりました。と言っても謎 のフリーランス作家ですから、偉そうにアイデアを 披露するようなことを期待されていたのではなく、 リサーチやネタ出しをするような本当に末端の存在 です。その会議には有名なゲームクリエイターやX 社のプロデューサーなどがいて、私はその場ではか なり浮いていたと思います。しばらくは会議で発言 してもほぼ無反応でしたし、有名クリエイターの人 には露骨に無視されていました。会議が終わって帰 るときに「お疲れ様でした」と言ってもリアクショ ンはなく、私は一人でエレベーターに乗って帰る 日々が続きました。  このプロジェクトでは、会議のたびにX社のプロ デューサーから宿題が出されました。「この問題に ついて悩んでいるので、良いアイデアがあれば次の 会議までに提出してください」といった形です。で すが、他の会議参加者たちはなぜかアイデアを持っ てこないのです。私は毎回アイデアや情報をたくさ ん考え、提出していました。すると「この人は意外 と使えるかも」と思ってもらえたのかどうか分かり ませんが、少しずつ雰囲気が変わっていきました。 X社のプロデューサーからも意見を求められるよう になりました。徐々に私の存在が大きくなり、会議 終了時にはX社のプロデューサーがわざわざエレ ベーターまで来て私を見送ってくれるようになりま した。それを見た有名クリエイターの人が、初めて 私に声をかけてくれました。「あのう、タカハシさ んつていままでどんなゲームつくってきたんです か」と。返事は適当に濁しましたが、このときは本 当に嬉しかったです。  嬉しかったのは、無視していた人を見返せたとか、 自信がついたとかいうことよりも、「会社員のタグ を外せた瞬間」だったからです。これ以来私は、周 囲にいてくれる人が「フジテレビのタグ」に紐づく のか、「私個人」に紐づくのかをとても敏感に捉え るようになりました。もちろん「フジテレビの夕 グ」で一緒に仕事をしてくれる人とも有難く充実し た仕事をしていましたが、「自分のアイデンティ ティ」と「所属すること」は明確に区別できるよう になりました。  所属先がアイデンティティになると、「失うこと ができない」という意識が働き自由度も下がります し、自立心が削がれ結果として責任感も薄まります。 何より自己肯定感が少なくなります。「自分のアイ デンティティは所属している組織だけにあるもので はない」という意識を持つことが、自立した個人と して組織に対する責任感を高めます。結果として、 組織や所属先が求める「投資したい人材」になって いきます。これが「無所属力」というスキルです。  【※参照一 東北大学大学大学院生命科学研究科 筒井健一郎 准教授らの研究 所属力  「無所属力」についてお話してきましたが、ここで 今度は「所属力」のお話をします。無所属的な意識 がビジネスには必要であると同時に、所属力も必要 なスキルです。人は実は「完全な無所属で生きてい く」のは難しいものです。「所属先をアイデンティ ティにする」のは時代にそぐわないと言いましたが、 人は社会の中で生かされていますから、社会と完全 に隔絶することはできません。ここでお話したいの は、「所属することをもっと気楽にカジュアルに捉 えて欲しい」ということです。  人にはコミュニティが必要  人は生まれながらどこかに属しています。一般的 には生まれた「家族」や「土地」があります。親族 やご近所さんなどと関わる「地域」があります。通 う「学校」があり「部活」もあるでしょう。部活に 入らなくても、一緒に遊んだり学んだりする「友人 グループ」もあるかもしれません。大学に行ったの ならば「サークル」や「バイト先」などと強く関わ る人もいます。就職すれば「会社」や「部署」があ ります。これらは広義にはすべてコミュニティと言 えます。ただ、その中にいたとしても「精神的に属 しているかどうかは自分で決めるもの」です。  特に、親族、地域、学校、職場などのコミュニ ティは、結び付きも強くなりやすいですし、「自分 のアイデンティティだと認識しやすい」性質のもの です。社会通念的にも、これらのコミュニティには 「所属していて当たり前」ですし、もっと言えばコ ミュニティのメンバーと仲良くするのが普通で、 「交流していることが社交的である証」のように思 われがちです。逆に言えば、親族、地域、学校、職 場のコミュニティとうまく付き合えない人は、「少 し変わった人」と思われる傾向があります。しかし、 それは間違っています。  「この世で変わらないのは、変わるということだけ だ」という風刺作家ジョナサンースウィフトの名言 にもある通り、人は変わるものですし、世の中も変 わります。コミュニティとの関わりも当然変化しま す。以前は居心地のよかったコミュニティも、ある 囗を境に居心地が悪く感じることもあるはずです。 自分が属するコミュニティは自分で選ぶべきですし、 その時々で変えて良いのです。  私はオンラインサロンを運営しています。「コン テンツファクトリー2030サロン」という名前で す。このサロンをやってみて分かったことは、「人 にはコミュニティが必要だ」ということと「コミュ 三アイは自由に出入りするものだ」ということです。  私のサロンには本当に多様な人がいます。年齢も 10代〜50代。脚本家、茶人、登録者45万人ユー チューバー、弁護士、大学生、主婦、イラストレー ター、医師、木工職人、エンジニア、音楽プロ デューサー、レストラン店主、ナレーター、放送作 家、2次元コンテンツ会社のマーケ責任者、老舗大 道具会社のいずれ5代目、老舗たくあんメーカーの いずれ4代目、AI Vtuberの人、お祭り企画者、広 告会社経営者、芸能プロダクション社長、出版社社 長、イベント会社社長、パーソナルジム社長、グッ ズメーカー社長などなど。経歴も生き方もバラバラ の人たちでコミュニティが形成されています。抜け ていく人もいますし、新しく入ってくる人もいます。 一度抜けてまた戻ってくる人もいます。メンバーが サロンに居る理由は様々ですが「少なくとも今は居 心地が良い」から属しています。  「コンテンツファクトリー2030サロン」はコン テンツを世に出した人を応援したり、足りない部分 を補い合う目的で立ち上げたサロンです。コンテン ツの発信はもちろんのこと、メンバー間でのビジネ スマッチングがあったり、新事業や新会社も立ち上 がっています。  しかし、最近ではそうした目的以前に「個人の居 場所のひとつ」として機能しています。メンバー曰 く、「知らない人たちの集いだけど『高瀬の本を読 んで共感した人たち』という前提が、交流の「Iド ルを下げている」ことが理由だそうです。私か書い たのは「コンテンツ」や「企画」についてでしたが、 総じて伝えていたのは「人の気持ち」や「人生」に ついてでした。そういう部分でもメンバー同士に 「人生の価植観が大きく違うことはないだろう」と いう安心感があるそうです。  コミュニティを離れる恐怖から解放される  私は、オンラインサロンは大ったり抜けたりしな がら「居心地のいい場所を選んで、3つほど大って いること」をお薦めしています。ひとつのコミュニ ティだと「失うと孤独になるかも」という気持ちが どこかで働いて判断が鈍るからです。3つほどそれ なりに居心地のよいコミュニティがあれば何の不安 もなく抜け去ることができます。学校や会社は「ひ とつしか所属できないし、居続けるもの」と思われ がちです。でも学校も会社もアイデンティティなど ではなく、「この世に無限にあるコミュニティのひ とつ」だと考えてください。  社会学の用語で「サードプレイス」という概念が あります。自宅や職場とは別の、イチ個人としてく つろぐことができる第三の居場所のことです。3つ でも4つでも良いですが、複数の居場所を持つこと は現代社会を生きる上で必要です。最近では、副業 できる会社も増えてきました。本来は「複業」が望 ましいですが、それができなくても自分の中では 「副業ではなく複業として、どれかが無くなっても 大丈夫だ」と捉えておくことをお薦めします。  もちろん一つのことに没頭できるのは、素晴らし いことですし幸せなことです。しかし、「世の中も 自分も変化するのだ」ということを頭の片隅におい て、その仕事やコミュニティから離れる恐怖を感じ ないように心がけることはとても大切です。  いままでは「所属」の時代でしたが、これからは 「諸属」の時代と言えます。自分でコミュニティを 選び、かつそのコミュニティからいつでも離れられ る状態にしておく。そうすることで、自分の「精神 的なコンディションの安定」に保険をかけておく。 結果として、どこに所属していても冷静かつ合理的 な判断ができるようになります。これが「所属力」 というスキルです。 コミュニティカ 「所属すること」の考え方についてお話ししてきま したが、「コミュニティ」について、もう少しだけ 深堀りしたいと思います。コミュニティとは、英語 で「共同体」や「地域社会」を意味する言葉ですが、 IT用語としてはインターネットなどを通じて「特 定の目的や話題について交流するユーザーの集合」 などを指していることが多いです[※参照]。コミュ ニティヘの理解と意識は、これからビジネスをして いく上で急速に重要度が増しています。  コミュニティの中で生きていく  今、社会は急速にコミュニティ化しています。小 さなコミュニティがたくさんあり、多くの人が「コ ミュニティ」の存在を意識しています。  近年までは「知らない人」との関わりは、マスメ ダイアを通さないと起こりませんでした。しかしイ ンターネットの発達に伴い、メデイアを介さずに 「知らない大」と繋がれるようになりました。以前 だったら知り合えなかった「ニッチな趣向の人同士 が繋がれるようになった」のです。そうなると「自 分の好きな物事だけで大とコミュニケーションする こと」が可能になります。「自分の好きな情報や大 とだけ接している」ほうが気持ちよく過ごせますか ら、その他大勢の大とは関わらなくなります。その 結果。界隈”と言われるようなニッチな集合がたく さんできています。これが「現代に小さなコミュニ ティがたくさんできている」理由です。  仮に「一万人に一人しかいないような超ニッチな 趣向の人」たったとしても、日本全体では一万人も いますから、ビジネス的にも立派な市場として成立 します。ビジネス的にも成立するコミュニティなら 長く存在することができますから、小さなコミュニ ティはさらに増えていきます。  多くの人が「小さなコミュニティの中でだけでも 生きていける」ことに気付いています。  一般的には、ビジネスをするときに規模や影響力 はとても重要です。規模や影響力があれば、なんで もできます。大きな予算を使って派手に宣伝できま すし、影響力があればお金をかけた宣伝をしなくて もたくさんの人に知ってもらうことができます。イ ンフルエンサーと言われている人たちがこれに該当 します。ビジネスをする上ではたくさんお金のある 企業やたくさんフオロワーがいる人が有利です。こ れは今後も当面変わらない構造です。ただ、さきほ どお話ししたように、ニッチなコミュニティの中で ビジネスが成立するようになると、規模や影響力と 無関係でいられます。近年ではこの「コミュニティ のみでビジネスをすること」が当たり前で、その数 も増えています。  また、ニッチなコミュニティの中にいる人は、 「コミュニティの内側にある情報」を重視します。 世の中で流行っているものや、一般的に良いとされ ているものには見向きもせず、「コミュニティ内の 情報こそ正しいし自分に有益な信用できるものだ」 と感じるようになります。排他的であるからこそ守 られているような安心感を覚えるのはニッチなコ ミュニティでよく見られる傾向です。「マス広告を 信用できない」という感覚はこの構造の延長で起 こっています。言わずもがな信用や安心はコミュニ ケーションの最低条件です。マス的な情報の伝え方 は徐々に必要とされなくなり、これからのビジネス はコミュニティを軸に動いていきます。  オンラインサロンのようなコミュニティのつくり 方もこれからが本番です。DAO[※06]のように 新しいテクノロジーやサービスも、コミュニティを 前提に構築されています。企業活動をする上で、コ ミュニティは資本や人材と並ぶ経営資源になってい きます。コミュニティを理解することはもちろん、 運営すること、つくることも、これからのビジネス パーソンにとって必要不可欠なスキルです。  現代において、意図的に構築されたコミュニティ ほど「コミュニティであり続けることに意欲的」な ので本質的な構造が理解しやすいと思います。まず は物見遊山のような感覚でもいいので、DAO[※ 06]やオンラインサロンといった新しいコミュニ ティを体感してみることをお薦めします。  【※参照一 IT用語辞典バイナリ DAO−71同求|「 分散型自律組織。ブロックチェーン上で世界 中の人々が協力して管理・運営される組織を指すことが多い。 なりたい自分になる力  何か願い事があるとき、一般的には必要な知識を 増やしたりそこまでの道筋を探したりして、少しず つ近づけるように努力をすると思います。それも悪 くはないですが、願いを叶えるためには「環境を意 識すること」が一番の近道です。  たとえば「結婚したい」とします。それには結婚 相手が必要です。その相手は誰でもいいというわけ にはいきませんよね。相手に求める条件があるで しょうし、「最低限こういう大は嫌だな」とかもあ るでしょう。つまりこの場合は、結婚するのが目的 ではなく「理想的な大と結婚すること」が目的です。 であれば、まず「そういう相手が多くいる環境に身 を置くこと」がチャンスを増やすことになるわけで す。銀行に勤める大と結婚したいなら、自分が銀行 で働くことが近道です。しかも、大は「そばにいる 人のことを好きになる」ようにできています。これ はザイアンス効果と言われる「接触回数が多ければ 好意を持ちやすくなる」現象で、マーケティングの 考え方の基本にもなっています。また、銀行に勤め る人を間近で感じることによって「実は私か理想と する結婚相手は銀行に勤める人じゃなかった」と気 付くこともできます。  なりたい自分の環境に身を置く  このように、目的への最短距離をとる上で「環境 を選ぶこと」は合理的で自分を鼓舞するためにも大 切なことです。ここで改めて「なりたい自分と環 境」の関係を考えてみます。  今の自分と、理想とする自分の姿にギャップを感 じることはありませんか。むしろ、そのギャップが あるのは一般的で、そのギャップにストレスを感じ ることも多いかもしれません。もちろん「今の自分 サイコー’・」という人もいると思いますし、それは とても素敵なことです。しかし、ほとんどの人は 「理想の自分を追っている時間」が長いと思います。 また、その理想の姿はその時々で変わっていたりも するでしょう。  いずれにせよ、なりたい自分になるには、「理想 とする人」や「なりたい自分のような人」がいる環 境に身を置くことが重要です。実は多くの人は「な りたい自分」がせっかく見えているのに、何故か 「なりたい自分のような人」のいる環境から身を遠 ざけがちなのです。その理由は二つあります。一つ は「なりたい自分になっている人」への畏怖や嫉妬。 もう一つは、なりたい自分へ近づいたときに「そう はなれない」と感じることへの恐怖です。  これは、人の行動を抑制するありかちな感覚で、 端的に言えば「結果を知ることから逃れる」という ある種の防衛本能みたいなものです。ただ、そうい う風に過ごしていると、なりたい自分になることは 限りなく不可能です。  ここでお話したいのは、「なりたい自分への劣等 感を抱えて生きていくのはしんどいですよね」とい うことです。なりたい自分がいる環境に身を置くと いうことは、「なりたい自分の正しい情報が手に入 る」ということです。外から見るのと中に入るのと では情報量に圧倒的な差があります。情報は正しい 判断をするために必要不可欠です。正しい判断がで きないと損失が出たり不幸になったりします。なり たい自分があるのなら、そして現実の自分との間に ギャップがあってストレスがあるのなら、まずはそ の環境に身を置いてみてください。すると正しい情 報が入ってきます。なりたい自分になるには近道で すし、なりたい自分じゃなかったとしても早く気付 くことができます。  何か願いがあるのならしっかり願うべきです。願 わないと叶うものも叶いません。中途半端に願うの はしばらくは心地よいですが、時間がたつにつれて 「叶わなかった願い」として念が残ります。状況に よっては、叶わなかったことを他人のせいにしてし まうこともあります。願いがあるのなら叶えようと 動いてみてください。しかし、「行動しろ」「努力し ろ」と言われても間違ったベクトルになってしまう ときもあります。ですから、まずは「なるべく近い 環境に身を置くこと」が良いのです。そうすること で「願ったことの結果」がでます。結果があれば、 それがどんな結果でも次に進むことができます。結 果は経験となって資産になります。  願いを叶えるために環境を強く意識すること、そ して実際にその場所に身を置くこと、結果として 「次の自分」を知ること、これが「なりたい自分に なる力」というスキルです。 未来予測しない力  未来はどうなるか分かりません。そんなの分かり 切ったことですよね。でも、ビジネスでは未来を予 測して動きます。できるだけ予測しようとします。 社会の未来だけでなく、自分自身の未来もいろいろ 考えます。キャリアデザインを考えていないとダメ な人のように言われたりします。  私もずっと自分の未来のことをアレコレ考えてま した。会社員をやめて独立起業する前後はめちゃめ ちゃ考えました。そして今はもう、未来のことを考 えるのは止めました。止めたと言うより諦めたとい うほうが正しいかもしれません。  ここでまた少しだけ、私か会社を辞めたときの話 をします。この本を読んでいる会社員の方の中にも 「いつかは起業したいな」と考えてる方も多いで しょう。起業後6年がたちましたが「なんで会社を 辞めたのか」と、いまだに多く質問されます。会社 員として働く中で「このままでいいのかな」と思う 人がとても多いのだと思います。私もそんな一人で した。  最初のきっかけは人事異動です。心血注いでいた 仕事から外れショックを受けます。会社員ですから 異動なんて当たり前の話です。いま思えばたいした ことのない普通のことですが、転職経験もなく、同 じ部署でH年過ごしていた当時の私にとっては大き な出来事でした。会社員であれば同じような経験を している方も多いと思います。「自分の人生を自分 で決められない」。そんな風に自分が会社員である ことを再認識します。当時の私は「無所属力」を 持っていませんでした。私は精神的に会社や部署に 依存していたということです。  その後、視野を広げようと経営者や起業家と多く 交流する中で、仕事をする人は「雇用者と被雇用者 という二種類に大別される」と気付きます。40歳に なるまで会社員をしていましたから「残りの人生を 被雇用者以外で過ごしてみたい」と思うようになり ました。  一方で、会社では私は部長になる年齢も近づいて いました。部長と言ってもその上には上司がたくさ んいるので、いわゆる中間管理職です。少なくとも 5年間は続くことになります。管理職という仕事が 嫌だったというわけではないのですが、「経験値が 高く体力的にもまだ衰えない40歳代でもう少し生産 的な仕事をしたい」と感じていました。  ここで「かっこ悪いエピソード」も付け加えます。 私は20〜30歳代のころ、仲良くしてくれていた後輩 と飲みにいくたびに言っていました。「ずっとこの 会社にいることはないから。近い将来起業するか ら」酔っ払いながら気持ちよく語っていました。す ると、あるとき後輩に言われます。「で、いつ辞め るんですか」と。「このままでは”やめるやめる詐 欺”だ。なんてダサいんだ。これは本当に起業しな くちやいけない」と思ったことも一つのきっかけで す。酔った勢いで偉そうに語っていたことが自分を 追い込んでいました。本当にかっこ悪いですよね。  そんな風にいろいろ考えながら決めた退職でした が、19年勤めた会社ですから、退職が現実になるに つれて未来のことをさらに考えるようになります。 「この歳で独立してやっていけるのかな」「どんな仕 事があるんだろう」「今お付き合いのある人はこれ からも相手してくれるだろうか」。仕事については もちろんのこと、私生活についてもアレコレ考えま す。当時私は独身でしたから「この歳で不安定な人 と結婚してくれる人なんて現れるんだろうか」「一 生独身かもな」「親も心配するかな」「老後はひとり ぼっちだな」なんてことまで考えていました。考え ていることに何の意味もありませんし、考えたとこ ろで解決もしません。アレコレ考えれば考えるほど 不安になって「あれ?そもそもなんで会社辞めるん だっけ?」と、いろいろなことがわからなくなって きます。  そんな中で、やはりお金のことはよく考えました。 「年収いくらくらいになるのかな」「○○社の社長さ んは辞めるときは仕事手伝ってと言ってくれてた な」「一回50万円くらいの発注だって言っていたな。 年に4同だから合計200万円にはなりそうだな」 「こっちの会社は月10万円で顧問をやってほしいと 言ってくれていたな。年間120万円だな」そんな 風に毎日のように計算します。「会社員時代の給料 と同じくらいだといいな」とは思っていました。甘 く見積もると同じくらいにはなりそうでしたが、厳 しめに見積もると3分のIくらいでした。  未来は「未来の自分」が起点になる  このような感じで「見えるはずもない未来」のこ とを考えながら、独立後の生活が始まります。しば らくして、起業家の先輩と話をする機会がありまし た。「どう?やっていけてる?」「どんな仕事してい くの?」私はちまちま計算していた収入見込みを交 えつつ話しました。「コレコレこうだからしばらく はやっていけそうです」。すると先輩はいいました。 「ふうん。あのね、そんな仕事は半年でほとんどな くなるよ」。私はその助言に不安を感じつつ「先輩 なりの激励だろう」と捉えることにしました。  そしてその半年後、見事にほとんどの仕事がなく なっていました。仕事を頼まれるときは「いやあ、 本水くよろしくお願いしますよ」などと言ってくれ ていても、半年後には「とりあえず今回はここまで ということで」となったり、「いやあ、あの件なん だけど、会社の方針が変わっちやって」となるなど、 どこかドラマやマンガで見たことのあるようなシー ンのオンパレードです。半年前、毎日のように計算 して「起業しても大丈夫だろう」と考えていた未来 予測は、まったく役にたちませんでした。  また、その頃、私か尊敬している芸人さんと退職 の報告を兼ねて食事をしました。「高瀬さんのこと だからお金は大丈夫なんでしよ」と言われて、私は つい「はい、お金のことは大丈夫です」とウソをつ いてしまいました。このときは自分が情けなくてた まりませんでした。  しかし、その数か月後から収入は増えていきます。 半年前にはまったく予想できなかった別の仕事をも らえたからです。  起業してからは、とにかくたくさんの人と会って いました。昼も夜も年間500回くらい会食をして いました。収入のほとんどはこの会食で使い果たし ていました。このあたりの話は『街録Ch』でもお 話していますのでよろしかったらご覧ください。こ のときに知り合った方たちがきっかけで新しい仕事 をもらったり、小さくてもいろいろな仕事が生まれ ていました。会社員時代には予測することはできま せん。会ったことのない人たちでしたから。  そのあと順風満帆かと言えばそうではありません。 相変わらず私は半年先や一年先の売上を計算してい ましたが、まさかの展開で仕事がなくなるのも相変 わらずでした。一方で、また新たな出会いや繋がり から新しい仕事が生まれます。毎週のように売上予 測が大きく増減します。  そうこうしていると、そのうち仕事が無くなるこ とにも慣れてきますし、未来を予測することが無意 味に思えてきました。それからは先々のことはとも かく「目の前の仕事をやる」「もらえた仕事を誠実 にやる」「つくった仕事を全力でやる」ことに フォーカスします。すると、徐々に売上が増えてき ます。初めて仕事をした人が、また誰かを紹介して くれます。またその人と仕事が生まれ、その仕事を 頑張ります。  そんなことを繰り返してるうちに、私は「いろい ろな人」と「いろいろなこと」をして「いろいろで きる」ようになっていました。会社員時代にはもら えるはずのない仕事の依頼が、たくさん来るように なっていました。私は変化していたのです。  会社員時代には想像できない未来がありました。 未来が予測できないのは、社会が変わったり天変地 異があるからだけではありません。未来予測ができ ないのは「自分が変わる」からです。  会社員時代に予測しようとしていた未来は、あく まで会社員時代の能力や経験やキャラクターを起点 としたものです。半年後に未来を予測するときは、 「経験値が増え、ビジネスパートナーが増えたり変 わったりしている自分を起点とする」ことになりま す。その半年後、また半年後となる数年後なんて予 測できるはずがありません。  未来はいいことばかりではないでしょう。ただ、 未来は常に「今」を起点としています。今の先が 「今」で、その先は「その今の先」にしかありませ ん。「今にフォーカスして今を大切にすること」が 理にかなっている働き方ですし生き方です。未来予 測を諦めて今に集中することで未来を憂う気持ちか ら解放されること、それが「未来予測しない力」と いうスキルです。 未来を知る力  ここで少しスキルつぽくない話をします。今まで もスキル本っぽくない話ばかりだったと思いますが、 さらに少し変な話をします。  「逆因果」でポジティブ思考に  最近、私かよく感じてるのが「時間は未来から過 去にも流れているんだな」ということです。ご存じ の方も多いかもしれませんが「逆因果」という「時 間を逆回しにした因果関係」のことです。普通は 「今起こっていることは過去に原因がある」と考え ますよね。その逆で、「今起こっている出来事は未 来の現象の影響を受けている」という考え方です。 原因は過去にあるのではなく未来にあるということ です。これは「量子もつれの説明になる」として ちょっと話題になった量子力学的な考え方です。  たとえば、好みのパートナーのタイプが「スポー ティーで冗談ばかり言う面白い人」だったとします。 後に理想通り、「スポーティーで冗談ばかり言う面 白い人」と結婚して幸せになったとします。これを 逆因果で考えると「未来に、スポーティーで冗談ば かり言う面白い人と結婚することになっていたので、 理想のタイプがスポーティーで面白い人になってい た」ということになります。もうちょっとロマン チックな言い方をするなら、「理想的な伴侶に出会 うためのヒントとなる。未来のパートナーの特徴” が、過去の自分に。好みのタイプ”として与えられ ていた」という感じです。  恋愛もそうですが、仕事でも同じで「こんなこと やりたいな」とか「面白そうだな」という感覚も、 「未来の自分がやっているから、そのヒントが今の 自分に逼「味”として提示されている」と考えるこ とができます。さらに強烈に「やらなきやいけない 気がする」のように感じてる時は、「確実に未来に 導かれているような気」になったりします。  私は本を書くたびに「自分の人生にとても大切な 人」と出会っています。本を読んで連絡をくれたり、 本をきっかけに講演した先で出会った人たちです。 そうして繋がった人たちは、ただのビジネスパート ナーというよりは友人のような感覚に近く、一生付 き合っていくような気もしています。ちなみに私の 妻も、拙著をきっかけに出会いました。そういう人 たちは「私と出会ってくれるためのヒントとして本 を手に取ったのかも」と感じています。  そもそも本を書くことになったきっかけも、導か れてるような自然な流れでしたし、「書きたい」と いうより「書かなきやいけない」という感覚でした。 ですので「拙著を起点に今起きてる出会いとか事 象」が、過去の私に「本を書かせた」のだと思って いたりします。  なぜこんなこと言い出したかと言えば、この考え 方は「単純にポジティブになれる」のでお薦めした かったからです。  仕事でもなんでも、「無駄だったな」とか「失敗 したな」とネガティブに感じる出来事はたくさんあ りますよね。でも、それは「未来の自分を形成する、 その道筋に誘導するヒントなんだ」となれば、大事 な時間や経験と思えるわけです。  「今つらいことが将来の糧になるんだよ」的な訓示 や啓発はよくありますが、本当にキツいときとか、 打ちひしがれているときは、そう簡単には考えにく いものです。私もそういう場面では「そんなポジ ティブになれないよ」といつも思っていました。で すが、これが「最先端科学で証明されようとしてる 現象で、未来の自分に必要なヒントなんだ」と思っ たら「少し信じてみようかな」と前向きになれまし た。  私か単純なだけかもしれませんが、ここ数年の私 の土台になってる考え方なので少しだけ共有させて いただきました。 結ぶ力  ここまで読んでくださった方にはお分かりかもし れませんが、本書では一貫して「人との関わり」に ついてお話してきました。ビジネスとは「人と人」 で起こります。一人ではなにも起きません。人との 結び付きがあるから、何かが起きます。とりわけ組 織よりも個人の力が大きくなった昨今では、ビジネ ススキルとは「人との関係におけるスキルだ」と 言っても過言ではないでしょう。  本書におけるビジネススキルは、「従来型のテク ニックのようなこと」ではなく「考え方である」と 捉えてお話してきました。最後にここで「人との関 わり」について、その考え方を改めてアップデート したいと思います。それは「結ぶ」ということです。  「結ぶ」という行為には一手間があります。ただ くっつけるのとは違い、一手間があると解けにくく なります。「結ぶ」という感覚はとても日本的です。 私はたびたび「日本人の伝統的な文化や感性を大切 にしたい」と言ってきましたので、ここでも一つ披 露したいと思います。  「結び」という言葉は、神道にある「産霊」がルー ツといわれていて、昔は清音で「むすひ」と発音し ていました。「産(むす)」には「生み出す」、「霊 (ひ)」には「不思議な神霊の力」という意味があり ます。また、息子(むすこ)は「生す子」、娘(む すめ)は「生す女」が語源になっていて、「神霊の 力によって生み出された」という意味があります。 「結び」には「何かを生み出す神の力そのもの」と いう奥深い解釈があります。また『古事記』では天 地が形成された始まりの時に三神が現れたとされて いますが、そのうち高御産巣日神(たかみむすひ) と神産巣日神(かみむすひ)という二神にも「むす ひ」が使われています。  このように日本人にとって「結び」は古くから続 く精神文化であり、とても大切にされてきました。 身近なところでは「おみくじ」は神様とのご縁を 願って結びますし、正月の「しめ飾り」は一種の魔 除けのような意味で飾られています。またお祝いの 場で使われる「水引」も人と人、心と心を結ぶ縁起 が良いものとされ、囗本の伝統工芸として大切に伝 えられてきました。結び方も目的や願いによって 様々で、そこには高い精神性があります。  「人との関係」をビジネススキルと捉えると、どう しても打算的になって感情や想いが置いて行かれが ちです。ですから、人との関係は「関わり」を超え た「結び」と考えます。言うならば「関係」ではな く「結係」ですね。  「ビジネススキルを高める」とは「自分と人を結ぶ こと」「人と人を結ぶこと」です。縁を願い、一手 間かけて解けにくくします。そしてそこには想いと 願いがこめられています。すべてのスキルの力の源、 それが「結ぶ力」というスキルです。 生きる力  どんなに優秀でも、どんなに成果を上げても、死 んでしまえばそこで終わりです。どんなにやり残し たことがあっても、後戻りはできないし、やり直す こともできません。でも、生きている限りどうにか できます。  生きることに執着する  成功者と言われる人は、「干不ルギッシュで少し 豪快で恐れを知らない」キャラクターイメージが一 般的です。しかし、そういう人ほど「生きる」こと に執着しています。表向きには「いつ死んでもい い」みたいなことを言っている人ほど「生き残る」 ことに執着しています。  ビジネスとはまさに生き残りの戦いですよね。良 いものや社会に必要とされるものが残り、そうでな いものは淘汰されていきます。ビジネスで成功して いる人は、ビジネスの能力が高いのではなく、生き 残る能力が高いから成功しているとも言えるでしょ う。「執着」には無意味なことが多いですが、ひと つだけ確実に意味があると言える「執着すべきこ と」があります。それは「生きること」です。  生きていなければビジネスも何もありません。で すからまずは、健康でいることが大切です。睡眠、 運動、食事の優先順位を上げるのはビジネスパーツ ンにとっても当たり前の考え方です。成功者と言わ れている人は、これらの優先度が一様に高いです。  また、大きな壁に向かって努力するのは素晴らし いことです。しかし、それで心身を削り、体を壊し てしまっては元も子もありません。ビジネスにおい てはリスクをとることが必要ですが「生きる」ため にリスクを取るのは矛盾します。生き残るためにリ スクを減らして「死なないように生きること」はと ても大切なことです。  本書では一貫して「ストレスを軽減すること」を 重視した考え方をお話してきました。それは経済合 理性や生産性の観点からでもありますが、単純に 「死なないため」でもあります。ストレスが多く苦 しみながら生きると病気になります。極端には死ん でしまいます。  もちろん、私は死を否定しているのではありませ ん。TikTokなどでも話題になった考え方を少しだ けご紹介します。「10億円を貰える」としたらどう しますか。しかも貰うにあたってのリスクはゼロで す。もちろん貰いますよね。でも「貰ったら明日死 んでしまう」としたらどうでしよう。当然貰いませ んよね。つまり自分の明日にはそれだけ価値がある ということになります。そして、その明日を迎えた いのに迎えられない人が、世界中にたくさんいます。  仕事は生きるためにする  働き方を考えたときライフワークバランスの話は 必ず出てきますが、私は「仕事とプライベートの境 界線がない方が幸福度が上がる」と考えています。 プライベートの価値が高いと感じるなら「仕事に時 間を費やすのは不幸だ」と感じるでしょう。価値が 柢いと感じていることに多くの時間を費やすと、精 神的に苦痛です。仕事とプライベートを分けた時点 で、どうしてもストレスが溜まる構造なのです。毎 日の大部分を仕事に費やしているのであれば、仕事 はライフの一部ですよね。プライベートをご褒美の ように考える生き方は、本質的には誤りです。  私は「仕事=人生」と捉えてきました。これは 「仕事が人生そのもの」というわけではなく、「生き ている時間すべてが価値ある時間であるべき」とい う考え方です。仕事とプライベートを分けていない からこそ、「仕事時間をストレスフリーに過ごせる ようにしよう」と考えています。これが本書で「い かにストレスを減らすか」とお話してきた理由です。  多くの仕事がスマートフォンだけでもできる状態 になりつつあり、単純労働は徐々にロボットに置き 換えられています。ツールが揃い、場所や時間を選 ばずに仕事ができるようになっています。このよう な社会の変化に併せて「働き方の自由度が高くなる ほど、生産性が高まる」と感じる人が増えてきます。 これからは益々「仕事とプライベートの境界線が薄 れる時代」になり、それに適応した人ほど活躍して いくでしょう。  そもそも人は生きていくために仕事をしていまし た。私たち人間の一番大きな仕事は「生きていくこ と」です。  縄文人には、仕事とプライベートの区別なんかあ りませんでした。生きる目的もありません。生きる ために生きていました。木の実を取りに行きました。 貝を獲りにいきました。狩りをしました。穴を掘り、 柱を建て、わらを刈り取ってきて家を建てました。 それが彼らの「仕事」でした。すべて生きていくた めですよね。食べ物を獲るスキルが高い人や、猛獣 から身を隠すスキルが高い人が生き残りました。仕 事のスキルは、生きるためのスキルでした。  時代はどんどん変化します。当然仕事のスキルも 変化します。戦国武将は刀や弓や鉄砲のスキルを必 死で会得しました。農民は開墾し、コメを育てるス キルを磨きました。どちらも生きていくためのスキ ルです。50年前の会社員は、社業をこなすスキルは もちろんですが、麻雀やゴルフの会得も必須でした。 社内外のコミュニケーションツールとして当たり前 だったからです。それは立派なビジネススキルと言 えるでしょう。私か社会人になった頃でも、「先輩 の吸うタバコの銘柄を覚え、言われたらすぐに出せ るように何箱か持っておく」という謎のスキルがあ りました。今思うとどれもくだらないですよね。で も、そういう人が評価されたり出世できました。こ れが当時の会社員にとって生き残るためのスキル たったわけです。  現代は「生きていることが当たり前」の時代です。 それは本当に幸せなことです。しかし結果として 「生きていくために」というスタート地点を忘れが ちです。多くの人が「お金を稼がなければ」という 考えからスタートします。違いますよね。「生きて いくためにお金を稼ぐ」のです。そう考えると「生 きる目的」や「生き方」がお金と繋がるようになり ます。  「生産するため生きる時代」は終わりを告げました。 「生きるために働く」ことができるようになってき ました。これは元に戻っただけともいえます。テク ノロジーの進歩は物事を単純化しています。単純化 は、人をあるべき姿、根源的な生活スタイルに引き 戻します。ひとつ昔と大きく違うのは、「生き方」 が自由に選べるということです。自分が選ぶ「生き 方」に必要なスキルを得ていくこと、それが「生き る力」をつけるということです。   おわりに  私は大資本家でもないですし、誰もが知ってる有 名人でもありません。でも自分で選んだ人生を自分 なりに生きています。自分の足で歩き、幸せを感じ ながら生きています。  でもそれは自分の力ではありません。月並みな言 い方になってしまいますが、今の私かあるのは今ま で私と関わってくれた人のおかげです。嫌な思いを したこともありますが、それはすべて自分で選んだ ことの結果です。たくさんの人に迷惑もかけてしま いした。でもそうしたすべてのことが、今の私をつ くっています。この本に書いた経験は私の経験では ありますが、その経験をさせてくれたのは私の周り にいてくれた方々のおかげです。こうした経験のど こか一片でも誰かに伝わり、疑似体験となって役に たてば、少しは恩返しになるのではないかと考えま した。  人は社会の中で生きています。社会というのはビ ジネスを土台に回っています。ビジネススキルとい うのは「社会の中で生活するスキル」に他なりませ ん。つまり「生きていく力」です。本書はビジネス 書としてビジネスの文脈で書きました。でも、書き たかったのは「人間社会で生きていく上で持ってお くと良いですよ」というスキルです。  「スキル」とは、何かのモノのように受け渡しでき る性質ではありません。「事象に対する考え方」で す。考えた結果、行動があって、その行動がもたら す結果がスキルとして認識されているにすぎません。 つまり、何か起こるたびに「幸せになろう」と考え、 自分の幸せのために行動したら、その結果得られる 学びは「自分が幸せになるスキル」になります。  本書でご紹介したのは、欠点だらけの私か自分な りに「幸せになるためにはどうしたらよいか」と考 え、遠回りしながら得てきたスキルです。価値観は 人それぞれですから腑に落ちないところもあったと 思いますが、「幸せへの近道の標」になっていれば 嬉しいです。  「自分の人生を幸せにしよう」と本気でしっかり考 えている人は意外と少ないです。「自分にとっての 幸せ」を考えることが幸せへの第一歩です。  自分なりの人生を背伸びしすぎず「最大限に幸せ にするにはどうしたらよいのか」と考え、行動した 結果に得られる力、それがあなただけに備わる「幸 せになる力」という人生最高のスキルです。   本書執筆の機会をくださった小早川幸一郎社長、 編集の小山文月さんに心より感謝いたします。