一橋MBA戦略ケースブック_沼上幹 はしがき  アベノミクスによって、日本経 済が活況を呈し、本格的な発展軌 道に乗るのか、それとも一時的な 効果しか得られずに、あっという 間に失速してしまうのか。いや、 それどころか、投資が活発になっ ているように見えるだけで、その 他の実質面では短期的な効果すら 出ていないという声も聞こえてい るO 日本経済の行く末にはいまだ に不確実性がつきまとっていると いうことであろうO  その不確実性の源泉は、もちろ ん国際経済の状況などもあるが、 このマクロ経済政策の下で囗本の 企業経営者たちがどのように行動 するかというところにもあるOマ クロ経済がどのように推移するの かは、単に金融政策や財政政策に 依存するばかりではなく、経営者 たちがどのような意思決定を行な い、どのように経営管理をするの かに依存しているのであるO  ここでいう「経営者」とは、大 規模企業のトップばかりではないO 中堅企業・中小企業のトップ・マ ネジメント、大企業の中の事業部 長やプロダクト・マネジャーなど も、「経営者」層の厚みを構成す る人々であるOさらには、目の前 にあるビジネス・チャンスを活用 して、環境の機会と脅威を自社の 強みと弱みに結びつけて考え、な すべき活動の選択肢を生成し、そ れを選び取っていく、という作業 をしているすべての人が、何らか の意味で「経営」をしている人で あるOそういった「経営者」層が どれほどの力量をもっているのか が、その国の経済の底力を規定し ていると考えられるO  経営者の力量は、最終的に経営 意思決定の現場でどれほどの紐験 を積むかに依存しているOだから、 本を読んだからといって即座に経 営者の力量が高まるわけではないO しかしながら企業の意思決定の現 場にいる人々が日々の意思決定を 通じて、現実の体験からどれだけ 体系的に学んでいくことができる かという点は、明らかに概念とフ レームワークを学んでいるかどう かに依存するOもちろんすべての 概念とフレームワークを自作する という手もあるのだろうが、実際 には過去に蓄積されたものを活用 し、そこに自分なりのアレンジを 加えていったほうがはるかに効率 的であるO しかも、特定の業界の みで使える概念とフレームワーク ではなく、多様な業種で活用でき るという一般性という点でも、過 去に蓄積され、時代を経て多様な 業種の経験を通じて篩にかけられ、 生き残ってきた概念には価値があ るはずであるO  しかし、その種の概念とフレー ムワークは簡単には身につかないO どのような道具も自分で使ってみ て初めて体になじんでくるように、 経営の意思決定のための概念とフ レームワークも自分で何度も使い ながら自分の頭になじんでくるも のであるO本を読んだだけでは、 「知っている」かもしれないが 「使える」にはならないOプラク ティスを繰り返さないとならない のであるOそのプラクティスを繰 り返すには、見本があるとよいO 自ら分析を繰り返して戦略思考力 を鍛えようと思っている人が、ま ず初めに見本として参考にする分 析例を示すことが、この本を作成 した基本的なねらいであるO  本書はまさにこのプラクティス の結果として生成してきた本であ るO現実と理論の絶え間ない往復 運動を厳しく繰り返し、その結果 として到達した分析結果がここに 盛り込まれているOこれから経営 者へと成長していきたいと考えて いる若きビジネス・パーソンに とって、戦略思考のプラクティス を始める上で役立つ見本例が多数 収録されているはずであるO残念 ながら今から見本を見てプラク ティスを始めても、学習の効果が 顕れるには時間がかかるから、ア ベノミクスの効果を底上げするの には間に合わないだろうO しかし、 日本経済はアベノミクスだけで発 展するわけではないO日本経済が 長期的に健全な発展を達成する基 盤を構築するためには、戦略思考 力の高いビジネス・パーソンが 日々増え続け、分厚い人材層を形 成していかなければならないOこ のストラテジストたちの層を長期 的に厚く創りあげていくことを著 者たちは期待している。本書を通 じて、囗本の次世代の経営者層の 厚みが一層充実していくことを心 から祈っているO   2015年1月 国立にて           沼上 幹 序章 戦略思考力の高度   化をめざして  戦略という言葉はすでに一般化 し、多くの企業人が「戦略的に考 える」ことの大切さを意識するよ うになってきた。しかし、言葉の 上では、「戦略的に考えることが 重要だ」と認識していたとしても、 実際にはその言葉を語る人々の間 では、「どのように考えることが 戦略的なのか」という点で意見が 一致していないことが多い。  その典型例は、「戦略なんて実 は本質的にはシンプルなのです」 というような発言に見られるOい ろいろ複雑なロジックを展開する 議論に嫌気がさした実務家が、 「そんなくどくどしいものは使え ない」と思って発する言葉であろ うO  実際、組織で実行することまで 考えれば、戦略がシンプルに表現 されなければならないことは明ら かであるO複雑なロジックの体系 として戦略を提示しても、多くの 組織メンバーが理解できないよう なものでは、戦略の実現が難しく なるO実現できない戦略など、考 えるだけ時間の無駄であるから、 組織メンバーが皆で理解できて、 組織的な連動が実現できるように 戦略的ストーリーを単純化するこ とは必須であるO  しかも、そもそも、「戦略の本 質はシンプルだ」という言葉は トートロジー(同語反復)的でも あるO「本質」というのは、いろ いろ複雑なことを煎じ詰めて最後 に残ったもののはずだから、本来 シンプルでないとならないはずな のであるO戦略がまだ複雑である とすれば、まだ「本質まで煎じ詰 めていない」からであり、もう一 段「本質まで煎じ詰めれば」、必 ずシンプルなものになるはずだと 皆が定義的にみなしているのであ るO トートロジーだから意味がな いと主張しているのではないOむ しろ、「単純なメッセージとして 人に語れるところまで、本質を突 き詰めて考えよ」という指針は戦 略家にとって意義深いものだと思 われるO  最終的に表現され、皆に伝えら れる「戦略」は「シンプル」でな ければならないO組織メンバーの 連動を確保し、組織力を発揮する 上では「シンプルなメッセージ」 になっていることが不可欠だから であるO徹底的に思考して、その 単純化された本質へと純化してい かなければならないOその点に疑 いはないO  しかし、ここで誤解してはなら ないのは、最終アウトプットとし てめざすべき戦略的ストーリーが 単純であるとしても、そこに至る までの作業が全部単純だというこ とにはならない、ということであ るOたどり着くべき到着点が単純 なら、それを明らかにするための 思考もまた単純でよい、というこ とにはならないO戦略の本質に向 かう単純化のプロセスを進めるた めには、複雑な概念やフレーム ワークが必要であり、それ抜きで は、思考のプロセス自体が混乱し、 あれほど望まれた「シンプルな本 質」に到達できないのであるO戦 略は「本来は単純なのに、それを (間違って)難しく考えるからわ からなくなる」というたぐいのも のではないO本来的に難しい思考 作業を経て、「シンプルな本質」 を生み出していくものなのであるO  戦略というのは、そもそも、組 織のメンバーに進むべき方向を指 し示す基本方針のようなものであ るOだから、組織が直面している 状況を分析し、どこに皆の努力を 集中するべきかを示さないとなら ないOそのためには、組織の直面 している現実がどのようなもので あり、何か背後のメカニズムなの かを把握する作業が決定的に重要 であるO  現実は複雑であり、日々変動し ているOその一見複雑な現実の背 後にある本質的なメカニズムを解 明する作業がまず行なわれ、その 「本質的なメカニズム」の理解に 基づいて、組織メンバーの力を一 点に集結するべく「シンプルな戦 略的シナリオ」が提示されるOこ の作業自体も、シンプルなものに 向かっていく作業ではあるO現実 が複雑だからといってそのまま複 雑に記述するのではなく、その本 質的に重要な部分がどうなってい るのかを明らかにするのだから、 分析の結果として出てくる現実の 理解は、初めに見た「現実」より もはるかにシンプルにはなってい るはずであるO  しかし、分析プロセス自体は単 純でシンプルではないO分析作業 を進める際には試行錯誤の連続で あり、多様な概念を援用して、 「ああでもない、こうでもない」 と目の前の霧を晴らすための思考 の冒険が繰り広げられるO自分な りの答えにたどり着き、その後、 実行を経て過去をふり返ってみる と「なんだ、こういうことだった のか」と思い返すことになるから、 その時点では「戦略はシンプル だ」と思うかもしれないO しかし、 その分析の最中に使われる思考法 は複雑であり、その複雑さをうま く管理する諸概念とフレームワー クがなければ思考は発散するばか りであり、とても単純化の作業を 進めていくことはできないOたと え戦略分析の概念が面倒で、フ レームワークが複雑なものに見え たとしても、それらを抜きにして 「シンプルな本質」への旅をうま く切り抜けることはできないだろ うOその意味では、分析のプロセ スを混乱から救うためには、一見 複雑に見える概念とフレームワー クを丹念に学び活用していかなけ ればならないのであるO  複雑な現実を整理し、解明して いくための概念的道具を経営戦略 論は多数提供してきたO市場全体 を、比較的同質的に反応する市場 部分へと分解するセグメンテー ションや、それに対応して対応策 を整理するマーケティング・ミッ クスのフレームワーク、業界の利 益ポテンシャルを見極めるための 5つの競争要因(ファイブ。 フォーセズ・モデル)、あるいは 補完的プレーヤーまで含めたシッ クス・フォーセズ・モデルなどは その典型であろうOこれらの一見 面倒なお作法を学ぶことは、複雑 な現象を単純化していく思考作業 のために非常に有益であるOそも そも基本的な概念をもたなければ、 非常に複雑な現実の状況に圧倒さ れてしまうはずであるOわれわれ は経営現象を整理するのに有用な 概念とフレームワークを手に入れ ることで、初めて世界を整序でき、 問題に直面していることを認識で きるようになるO  しかし、概念やフレームワーク は、「知っている」というだけで は複雑な現実を整理する概念的道 具として有益さを発揮できないO それを「使える」というレベルに まで自分自身の戦略思考力を高め る必要があるのであるO「知って いる」ではなく「使える」という レベルに到達するには、実際に自 分で何度も使ってみるしか手はな いO 日々、市場のセグメンテー ションを繰り返し、ファイブ・ フォーセズ・モデルで業界の利益 ポテンシャルを分析する実践を重 ねる必要があるOその実践を重ね るためには、何かお手本あるいは 見本のようなものがあると初めの 一歩を踏み出しやすいOそのよう な分析の実践を繰り返しながら概 念とフレームワークを身につけよ うと考えている読者に対して、具 体的な見本例を提供するのが本書 の基本的なスタンスであるOより 具体的にいえば、本書は戦略論の 概念とフレームワークを使って以 下のような企業や業界を分析して いるO  まず第1章では、花王とP&G の洗剤におけるマーケティング戦 略が分析されるO花王は台所用洗 剤の市場では、かつてP&Gに大 きくシェアを奪われたが、衣料用 の洗剤ではP&Gの攻撃的なマー ケティング戦略に対して有効な対 抗策を繰り広げ、市場シェアを防 衛することに成功しているOこの 両者の競争を、台所や洗濯機、部 屋干しなど、それぞれの製品が使 われる補完的な製品や空間のコン テクストまで視野に入れることで 分析を行なうOいわば、商品が使 われるエコシステム全体を視野に 入れて、マーケティング戦略を分 析する、ということであるO  第2章では、大和ハウスエ業の 女性向け賃貸住宅に見られるマー ケティング戦略を分析するO大和 ハウスの業績が近年好調である理 由のひとつは、同社が女性向け賃 貸住宅の建設で優位に事業を展開 していることであるO単身女性向 けの賃貸住宅という事業は、@単 身女性という最終顧客とFその賃 貸住宅を建設し運営する土地オー ナー(施主)という2つの市場を 同時に視野に入れて取り組まない と適切な商品設計ができないO同 社はまさに2つの市場でそれぞれ 的確なセグメンテーションを行な い、その両者に適合するマーケ ティング戦略をとってきたがゆえ に成功してきたのであるO  これに続く第3章では、国内の 生命保険市場のトレントが分析さ れるO現在、国内の生命保険市場 はすでに成熟しているという見解 と、いやまだ成長しているという 見解が両方存在しているOこの両 者の見解の検討を皮切りにして、 コーホート分析(ここでは世代別 の集団に注目した市場トレントの 分析)を行なうと、生命保険市場 は成熟していると解釈するのが適 切であること、またネット生保が 実際には今後脅威になりえること が明らかになるO洗剤や賃貸住宅 のように形のある商品とは異なり、 生命保険という形のない商品はこ れまで戦略分析の対象としては頻 繁には取り上げられることはな かったO しかし、本章を読めばわ かるように、このような商品でも 戦略的な市場の分析が可能であり、 また有用であることが明らかにな るはずであるO  第4章では、逆に非常に重量感 のある製品分野を取り上げ、企業 間の競争戦略の分析が行なわれるO 造船業界の国際競争がテーマであ るO第4章では、主として現代重 工業という世界最大の韓国造船会 社に対して、差別化をして追随す るチャレンジャーのサムスン重工 業、低価格のニッチ戦略をとる囗 本の名村造船所や独自の製品分野 に特化する三井海洋開発などの ニッチヤーの打ち手を分析してい くOその結果、リーダー企業がフ ルライン・フルカバレッジ戦略を とると業界が過剰生産能力をもつ ことになり、その結果、その後の 水平分業が発達する可能性がある、 という業界全体の変化について示 唆が得られるO  第5章は、ネット通販の成長に 伴って大きな変化を綛験しつつあ る物流企業に焦点を当て、業界の 構造分析法(シックス・フォーセ ズ・モデル)を用いて分析を行 なっているO一見、ネット通販が 発達すると物流企業の需要が高 まって、物流企業の業績が良くな りそうだが、業界の構造分析法を 用いて分析を進めていくと、ネッ ト通販企業と物流企業の間で利益 ポテンシャルの激しい奪い合いが 行なわれていることが明らかにな るOネット通販業者は大規模な倉 庫投資を行なって、特定の物流業 者への依存度を減らして利益を増 加させようとし、物流業者は独自 の投資によって中堅・小規模通販 業者などが自由に使えるインフラ づくりをめざし、利益ポテンシャ ルを維持しようとしているO需要 は増加傾向にあるとしても、物流 業者は危機に直面しているという こともできるのであるO  最終章(第6章)では、コンビ ニ業界の構造分析が行なわれるO 特にセブンーイレブンと下位 チェーンとの経営状態が大きく異 なることに注目し、コンビニ業界 には良循環・悪循環のメカニズム が作用していることを明らかにす るOとくに重要なポイントは、コ ンビニ業界が、最終顧客を獲得す る市場競争と、優秀なフランチャ イジー(店舗経営者)を獲得する 市場での競争と、メーカーに PB(プライベート・ブランド) 開発などを協力してもらう調達市 場での競争という3つの市場での 競争が相互依存しているというこ とであるOセブンーイレブンは、 良き立地・良きフランチャイジー の獲得という市場での優位性と、 良き商品開発をさせるためのメー カーとの間での優位性と、最終顧 客からの支持という3つの側面が 良循環を形成しているO  これらいずれの分析も、典型的 な顧客のニーズと商品の特徴を フィットさせればよい、というよ うな単純な分析にはなっていないO 個々の商品ではなく、それを含む エコシステムをとらえないとなら ないとか、複数の市場を結びつけ て考えなければならないとか、競 争相手の行動がもたらす長期的な 意図せざる結果を視野に入れる必 要がある、というように、分析に 際して戦略家が視野に収めなけれ ばならない空間は広く、時間は長 いO戦略家が最終的に組織メン バーに伝える戦略のメッセージは 単純だとしても、そのメッセージ を生み出すために戦略家が考えな ければならないことは複雑化し、 高度化しているO複雑なリアリ ティーに直面しても、その背後の メカニズムをとらえ、シンプルな 戦略的メッセージへと昇華させ、 組織が決定的な一撃を加えられる ようにするために、戦略思考力の 高度化かぜひとも必要であるO本 書がそのための出発点を提供でき れば、執筆者一同、望外の喜びで ある。 第1章 エコシステム全   体をとらえるマーケ   ティング戦略   一食器用洗剤及び衣    料用洗剤を事例として  本章の目的は、食器用洗剤と衣 料用洗剤における各社のマーヶ ティング戦略を分析することによ り、差別化戦略の立案に当たって は、補完財も含めたエコシステム 全体の変化を考える戦略的視野の 広さがいかに重要であるかを示す ことであるO広域の戦略的視野を 確保することが重要であることを 示唆するべく、本章では、P&G と花王、ライオンの競争戦略に関 する2つの事例分析を行なうO2 つとは、1990年代後半の食器用 洗剤市場における競争の事例と、 2000年代の衣料用洗剤市場にお ける競争の事例である★lO  この2つの事例は、ある意味で は対照的な推移をたどっているO 食器用洗剤市場ではP&Gの挑戦 が成功し、衣料用洗剤市場では花 王とライオンによる防衛が成功し たからであるO  食器用洗剤市場では、業界1位 のライオンと業界2位の花王が 70%程度のシェアを維持してきた が、1995年にP&Gがコンパクト タイプの「ジョイ」を投入し、そ れからわずか3年後の1998年に は同市場でシェア1位を奪取する ことに成功している★20  これに対して衣料用洗剤市場に おいては、P&Gのチャレンジが あり、そのチャレンジも一定の成 果を達成してはいるのだが、それ でもなお、最終的に花王とライオ ンが市場シェアを維持することに 成功しているO同市場では、2000 年代に主流の剤型が、それまでの 粉末から液体に代わるという大き な市場の変化が起きており、この タイミングでP&Gは他社に先駆 けて液体洗剤に注力してシェア拡 大に取り組んだO しかし、P&G は衣料用洗剤市場においては食器 用洗剤のように大きくシェアを拡 大することができなかったのであ るO  「洗剤」という一見同じように 見える市場で、P&Gから同じよ うな挑戦が生じたにもかかわらず、 なぜ、P&Gは食器用洗剤市場で は容易にシェアを拡大できたのに、 衣料用洗剤市場ではリーダー企業 (花王)がシェア防衛に成功した のだろうかOこれが本章で明らか にしようとする問いであるO  本章の結論を先取りすれば次の とおりであるO食器用洗剤市場に おいては、水栓の変化(湯・シャ ワー等)など食器洗いを取り巻く エコシステムが大きく変化してい たにもかかわらず、花王とライオ ンはそれを視野に入れた競争対応 を行なっていなかったOそのため、 P&Gはエコシステムの変化に合 わせた差別化を行なって、その差 別化製品に経営資源を集中投入し、 シェアを大きく拡大することがで きたOこれに対して衣料用洗剤市 場においては、花王とライオンが 洗剤だけでなく、洗濯機や部屋干 し、柔軟剤などのエコシステム全 体を視野に入れて競争対応したた め、P&Gのチャレンジを退ける ことができたのであるO  本章では、まず第1節で、1990 年代の食器用洗剤市場を概観し、 この時期に新規参入してシェアを 拡大することがいかに困難であっ たかを確認するOその上で、第2 節で、P&Gが食器用洗剤市場に おいてシェアを大きく拡大できた 要因をマーケティング戦略の視点 から分析するO続く第3節では、 2000年代の衣料用洗剤市場を概 観し、1990年代の食器用洗剤市 場との類似点と相違点を確認するO その上で、第4節で、P&Gが衣 料用洗剤市場においてシェアを大 きく拡大できなかった要因を分析 する。最後に第5節では、これま での分析をまとめ、戦略的視野の 広さがいかに重要であるかを示唆 して本章を締めくくる。  第1節 P&G参入による    食器用洗剤市場の激変  本節では、1990年代の食器用 洗剤市場を概観し、この時期に シェア逆転劇が生じたことがいか に興味深い現象であったのかを確 認していくO  1990年代後半の食器用洗剤市 場においてP&Gは短期間でシェ アを大きく拡大したO市場に参入 した1995年にはわずか6%に過 ぎなかったシェアが、その4年後 の1999年には33%にまで、27ポ イントも増加したのであるOこれ に対して市場リーダーだったライ オンは、同じ期間に36%から 22%へと14ポイントもシェアを 失っているOそれまでの過去10 年間におけるライオンのシェア変 動がプラス・マイナスフ%の範囲 に収まっていたことを考えると、 これがいかに大きな変化であった のかが理解できるであろうO  しかも興味深いことに、この シェア大変動が起こったとき、食 器用洗剤市場は成熟期にあり、し かも寡占化か進んでいたO成熟し、 寡占化か進んだ市場では、一般的 に考えれば市場シェアの大きな変 動は起こりにくいOなぜなら、成 熟期に入るとブランド選好も確立 されて、それほど簡単にブランド スイッチが起こらなくなり、また 寡占企業は暗黙のコミュニケー ションを図って価格水準を維持し、 市場での利益性を確保するように 振る舞うというのが定石だからで あるO しかし、実際には、1990 年代後半の食器用洗剤市場では P&Gが参入から4年という短い 期間で27ポイントもの市場シェ アを獲得し、業界第1位へと上り 詰めたのであるO  当時、食器用洗剤市場が成熟市 場であったことは明確であるO例 えば、図1-1-1は食器用洗剤の市 場規模と、そのうちのレギュラー 洗剤とコンパクト洗剤の内訳の推 移を示したものであるO食器用洗 剤市場は1980年代半ば頃までは 成長していたが、その後は大きな 成長は見られない。例えば 1980〜85年までの年平均成長率 (CAGR : Compound Annual Growth Rate)は4.1%であったのに対し て、1985〜90年及び90〜95年 の年平均成長率はそれぞれ− 2.9%と−0.9%であった。明らか に、1990年代半ばには成熟した 市場になっていたのであるo si-i-i Mm洗剤の匐匍規模推召 ・;a万回:・  レノ瀰  1qijc I冫ax- 96 96 9一口9冫qx 96 qa ;1010027・c5:〕51cI冫 111:Ilj畷遯佃lj篦s,lり1111-デーyレー1・iaa                            !哩:・ 1qs\£l*i・りゴンバク}jliのII」・屬匐.憫ij?・l,・伺・・11=IE・をEi!!!14;ijLで111,;|・ ||¶1114111jii・;ft rnレ「」-y・7・y々・・ヶ-,・・l.yiL;111各1=Iu;l?耜1=威 三百 人する直前の1994年には、花王 とライオンの2社で70%もの シェアを占めていたO試みにハー フインダール・ハーシュマン指数 (またその逆数の等規模換算企業 数)を計算してみると、1985〜 94年までの10年間は、おおよそ 0.3 (3.3社)前後で推移している ★30このように、寡占化か進ん だ成熟期の安定した業界だったの であるO 図1-1-2食器用洗剤のi穹シェア推移               PSG     ■その匐 目白 0 1984 86 88 90 92 94 s6 98 200G 02 cM 06 08 10 12c\} 出現:翕|=111「トイp夕l」-グフヅマー・fイ冫グ妛劃名零112り垂者作癩 ムシド 場が成長期(1975〜80年までの 年平均成長率は14.3%)であった にもかかわらず、P&Gは売上げ を大きく拡大させることができな かった★50 1990年代は市場が成 熟期であったことを踏まえると、 教科書的にいえば、シェアを拡大 させることは1970年代よりもさ らに困難であったはずであるOこ のような背景を考えれば、やはり、 このシェア逆転劇がこの時期に生 じたというのは非常に興味深いこ となのであるO 第2節 P&Gのマーヶ    ティング戦略の分析  本節では、P&Gの「ジョイ」 が成熟市場においてシェアを大き く拡大できた要因をマーケティン グ戦略の視点から明らかにしてい くO「マーケティング戦略の視点」 とは、ターゲット・セグメントの 特徴を明確にして、それとマーヶ ティング・ミックスとを対応させ て考えていくという分析のスタン スを指している。マーケティン グ・ミックスとは、ターゲット市 場への働きかけの手段を総称して いうものであり、プロダクト (Produet)・プライス(Price)・プ レイス(Place)・プロモーション (Promotion)という4つのPに分 けて考えるのが一般的であるoこ の4つのPとターゲット・セグ メントのフィット関係を考察した 結果、P&Gは「食器用洗剤を薄 めずにスポンジに直接つけて使用 する、比較的若い消費者」をター ゲットに、高い洗浄力や除菌効果 など、他社と差別化した洗剤に経 営資源を集中投入したため、短期 間でシェアを大きく拡大すること ができた、ということが明らかに なるO 顫ジョイのマーケティング戦  略  ターゲット・セグメントー  水回り、調理器具の変化  P&Gが1995年に食器用洗剤市 場に参入した際、「ジョイ」の ターゲット・セグメントとして設 定したのは、「食器用洗剤を薄め ずにスポンジに直接つけて使用す る、比較的若い消費者」である ★60「食器用洗剤を薄めずにス ポンジに直接つけて使用する」と いうのは、「洗い桶やジンクに はった湯や水に食器用洗剤を薄め、 食器を浸け置きしてから洗う」と いう行動と対比されるものであるO 食器洗いの行動は、かつてはこの 「浸け置き」が主流であったO し かし、1980年代以降、「スポンジ に直接」が主流になってきたO図 1-2-1には、食器用洗剤を薄めず にスポンジに直接つけて使用する 消費者の割合が示されているO同 図に見られるとおり、「スポンジ に直接」という消費者は増加をつ づけ、1990年代半ばには70%以 上を占めるまでに成長してきてい るO また、「スポンジに直接」と いう消費者の割合は、より若い世 代に多く見られたO少し古いデー タではあるが、1981年の調査時 点で見ると、洗剤を薄めずにスポ ンジに直接つける消費者の割合は、 全体平均が約55%だったのに対 し、20代では約72%であったO この傾向はその後も進展していっ たと考えられるO若い世代を中心 に「スポンジに直接」という行動 が増加してきた背景には、洗剤を 薄めた湯や水に食器や調理器具を 浸け置きしておかなくても、簡単 にそれらを洗い、すすぐことがで きるような水回りの変化や調理器 具の変化があったOその環境に若 い世代から順に行動習慣を適応さ せていったのであるO 図1-2-1翕器用洗副叨使用方法の変化 1%3 −jポンジIIこ声援づ17てjlu用 鵐めで●.用−そ4]他 寸口 7口 sD               ・ 5ロ   ー            ・ り口 3口          ・     ・ 2口               一 二\ . マ    1976  1981     1992 1995(竺: 1じ1qsil::i,「海方・all」|:「そs」包|司IsI合を」」;すデータl」ない ill所;191:赭ひろみ:199:.'台H.li」||脅亀洸韜への一考肓』「」,11111f卜?刻究J111」・.111111.5-124.1内IEls2:,   'jl剤に111・るiil!¶捫j.,;aとsIlj・sIしっ1.1て|'・j11λ7:ari?・紀i・jl.;li ・ に箚・一拓i」4-,l:jIs利一   掌編」捫IsI,1111.3151、・Ili・|||十t.c【lg91:,'la剞l.;よる「・Qju:つ1・・c」ljll略II」・j・:;|;;11:究』;Jiqllj   lj]り.pJI.=12-51.11jillf:]sli』.j1釦朗i111111憊1政ziへ411傾倒.:・j!1Å7at7:郤可   l1121・jl指・惓fl.,l.・1刮=l々l」衢31・a.pl.lj1130よ111a!・EII黠   例えば,「スポンジに直接」を 促進する水回りの変化は,1980 年代後半に急速に進んでいた.具 体的には,シングルレバー水栓と 呼ばれるワンタッチで水量や湯温 の調節ができる操作性の良い水栓 の普及が進み、水道の蛇口にシャ ワーが取りつけられるようになっ たのは特に80年代後半のことで ある★70図1-2-2には住宅建築 時期別のシングルレバー水栓普及 率の推移を描いてあるO戸建住宅 や分譲の集合住宅では、1980年 代半ばには50%台だったシング ルレバー水栓が1980年代末から 90年代初頭には70%を超えてい るOシングルレバー水栓が普及す れば、比較的容易に適温の湯を使 うことができるようになり、食器 洗いが容易になっていったはずで あるO食器洗いを容易にするシャ ワーも1980年代の末から普及し ていくO例えば、INAXがシャ ワーと整流吐水(通常の水流)の 切り替えが可能なキッチン用の蛇 口を発売したのは1988年のこと であり、その後このタイプの蛇口 が普及していった★80  図1-2-2畦宅建築範砌別のシングルレバー水曜普及率の推移  (q4)  ◇)|一丁0  qJ  召0               ・  冫u  ・60  .50  40               ・  30  20           _戸廸|・竺宅  I                  匡色l翌i(is1    0     |   .     .  !    1qelig.i 1.12--lj5鋩 t!か・91琢 92--qe1 199/-・・2c(11を ii::201111Eに囑柘したプ冫々-Fに・l・で,11モliiXlflモ純と水羲fXI工をIs:1うたiII=lであiた妁.岾畑61  一sijり71一一j,|こよるilのである・I亅濫牲がある ||¶1111:Xi皿春r・,||・lll!,liijl[.2:20:21,「爾まわil空1111をIII心としだ冖エ1・ルギ・・=」喰適性|こ|剩する11「耄:   乖15憚乖1わ;;卜|lllこ|司・す・Fンう・-1・j佐」:?鉤,4jii褫alx121gjal:?j!i.. pjx6U14(Kよ   1」“lll忤|;黠   水栓が変化したばかりでなく, フライパンや鍋も洗いやすいもの へと変わってきた点にも注目する 必要がある.太平洋戦争前に発明 されていたフツ素樹脂加工(例え ばテフロン加工)は日本でも 1960年代半ばから普及しはじめ ていたが、1970年代以降に用途 が拡大され、1990年代には多く の調理器具に利用されるように なっていた★90  このように、台所の水回りや調 理器具など、食器洗いを取り巻く 環境が1980年代後半から大きく 変化してきたOこれら食器洗いを 取り巻く補完財の集合をシステム としてとらえ、やや大げさではあ るが「エコシステム」と呼ぶとす れば、食器洗いを取り巻くエコシ ステムが1980年代後半から大き く変化し、その結果、浸け置きを しなくても食器洗いが行ないやす くなったほか、高濃度の洗剤が付 着した食器を洗い流すことも容易 になったため、洗剤を薄めずに直 接スポンジにつけて使用する消費 者が増加してきたのであるO  社会全体として見ると1980年 代後半から食器洗いのエコシステ ムが変化してきたととらえること ができるが、個別消費者のタイプ で見るならば、その変化は若い世 代に多く見られたという点を指摘 しておく必要がある01人ひとり の消費者に注目して考えればわか るように、食器洗いのエコシステ ムが変化するのは、調理器具を新 しく買い揃えたり、最新のキッチ ンを利用しはじめたりするタイミ ングであるO このような変化が個 人に生じるのは、比較的若い時期 (20代〜40代前半)に経験する 就職や結婚、新居の購入といった タイミングにおいてであるOその ため、この時期に「スポンジに直 接」という行動の変化が見られた のは、若い消費者が中心だったの であるO  ここまでの考察の結果、ター ゲット・セグメントは「食器用洗 剤を薄めずにスポンジに直接つけ て使用する、比較的若い消費者」 だととらえることができるであろ うOこのターゲット・セグメント のニーズに、4つのPがどれほど フィットしているかを確認し、そ の上で、そのフィット関係が競争 相手との対比・相互関係の中でど のように位置づけられるかを考え ていくのがマーケティング戦略の 分析であるoまず4つのPとの フィット関係を分析していくこと にしよう★100  Product (製品)-「肌への  やさしさ」と「洗浄力」  P&Gが投人した「ジョイ」は、 それまで主流であったレギュラー タイプの2倍の濃度をもつ濃縮型 の洗剤であり、非常に強い洗浄力 をもちながらも、肌にやさしい、 という特徴をもつ洗剤であったo しかし、強い洗浄力と肌へのやさ しさは両立しにくいo例えば、洗 剤をアルカリ性にすると洗浄力が 高まるO しかし、人の肌は弱酸性 であるから、アルカリ性の洗剤は 肌にはやさしくないOそのため、 人の肌に触れることのない業務用 の食洗機用洗剤はすべてアルカリ 性であるが、花王やライオンの手 洗い用の洗剤はすべて中性もしく は弱酸性である★110洗浄力と 肌へのやさしさの間にはトレード オフ関係が見られ、花王とライオ ンは手洗い用の洗剤の場合、洗浄 力よりも肌へのやさしさを重視す る製品系列を揃えていたのであるO  しかし、「ジョイ」は独自の界 面活性剤「MG」を配合すること で、このトレードオフ関係をある 程度克服することに成功したOこ の「MG」という界面活性剤は、 他の界面活性剤と結合することに よって大きな粒子となり、それに よって強い洗浄力を発揮するとい う特徴かあるOこの「大きな粒 子」になるという特徴が「ジョ イ」の肌へのやさしさのカギであ るO界面活性剤の粒子が小さいと 皮膚に浸透しやすくなるが、大き な粒子になると人の皮膚に浸透し にくくなり、その分だけ肌荒れを 防ぐことができるようになるので ある★120ただし、P&Gは 「ジョイ」を弱アルカリ性にし、 「肌へのやさしさ」を若干犠牲に しながら、洗浄力を高める方向に 製品特徴を振っているoこの点が 「ジョイ」の特徴であるo  Promotion(販促)一洗浄  力強調の背景  「ジョイ」は強い洗浄力と肌へ のやさしさという二律背反しがち な特徴を両方ある程度兼ね備えた 洗剤であったO しかし、P&Gは この2つの特徴のうち、洗浄力を 優先した製品づくりを行ない、ま たプロモーションでもその洗浄力 を前面に押し出していたO前述の とおり「ジョイ」も界面活性剤の 工夫で肌荒れをかなりの程度抑え ているのであるから、一見、その 両者を同時に強調したプロモー ションを行なうべきであるように 思われるが、この時点でのター ゲット市場を考えてみると、実は P&Gのとった選択が適切であっ たことがわかるO  まず第一に、洗剤を薄めずに、 「スポンジに直接」という使用方 法をとる消費者の中には、肌荒れ を気にする消費者はそもそも多く はないO気にしているのであれば、 「スポンジに直接」という行動を 避ける傾向が出てくるはずだから であるO しかも、実は、1960年 代〜70年代に社会問題にもなっ ていた「食器用洗剤による肌荒 れ」は、1990年代半ばには激減 していた★130問題が激減して いた理由は、洗浄力を維持したま ま肌荒れを抑えたマイルドタイプ の洗剤を各社が推進し、肌荒れの 問題を解決してきたからであるO 実際、1983年にはマイルドタイ プのシェアが80%にまで拡大し ていた★140  図1-2-3は、花王とライオンに 対する食器用洗剤による肌荒れの 苦情件数の推移を示したものであ るOこの図から、1980年代に肌 荒れを訴える消費者が大きく減少 していたことが確認できるであろ う0 1980年代末以降も肌にやさ しいという特徴をもった製品が新 たに発売されているため、1990 年代半ばには肌荒れを起こす消費 者はさらに減少していたはずであ るOこの時点で多くの消費者は、 「スポンジに直接」という行動を とっても、肌荒れは起こりにくい と認識しているケースが多かった と考えられるO「肌にやさしい」 というのは、いわば消費者の要求 水準をすでに超えるほどに進化し ていたOそれゆえに、「肌にやさ しい」というのは一部の消費者に は訴求できたとしても、多くの消 費者には魅力ある特徴として映ら なかったはずであるOそのため、 い洗浄力を実感してもらうインパ クトの強いテレビ・コマーシャル であったO このテレビ・コマー シャルでは、油で汚れた皿にジョ イをつけた手で触れると、その部 分だけが真っ白になる映像を組み 込み、その洗浄力の高さを消費者 に印象づけた★150  なお、P&Gがこのように「肌 へのやさしさ」に訴求力がないと 想定して洗浄力を前面に押し出し ていたのに対し、花王とライオン は、肌へのやさしさを訴求した製 品を開発し、プロモーションにお いてもその点を強調していた ★160 日ジョイ発売後の競争の分析  P&Gの「ジョイ」が当時の ターゲット・セグメントのニーズ とうまくフィットしていたとして も、他社製品と比較して、より適 合していたのか否か、また他社製 品と並列されたコンテクストの中 でどのようなポジションをとって いたのかを理解する必要があるO このような点を確認するために、 プロダクト・マップを用いた分析 を行なっておくことにしたいO  プロダクト・マップとは、複数 の製品特性に関する消費者の認知 を複数次元で表現する手法であるO 具体的には、横軸に「肌へのやさ しさ」をとり、縦軸に「洗浄力」 をとった2次元平面上に各社の製 品を位置づけていくといった具合 であるO このプロダクト・マップ を用いて、P&Gのジョイによる 差別化が成功したことを確認した 上で、その後、競合企業とどのよ うな競争が繰り広げられたのかを 確認していこう.   食器用洗剤のプ囗ダクト・  マップ(1996年)  まず図1-2-4で,ジョイ発売直 後(1996年)のプロダクト・ マップを確認しよう★17. "1ご ̄4Q廼翊コンパクト?澗仂フ囗タクト・ミ・りプ(IS961j   ・゜.'i・・i「゛' ト   フ盲,'I`I    ご=7;;A  。i,……  '‘゛ 宍か  ・:・  2コ  iO  CC  EI: 11.1 I=・1;fii:l・..1・・lilEII:1111.1・|.|:|.11111:11  「ジョイ」が発売された時点で 市場を支配していたライオンと花 王の製品系列は、いずれも、やや 洗浄力を優先した製品とやや肌へ のやさしさを優先した製品として 位置づけられていたO例えば、花 王に注目してみようO右下、すな わち肌へのやさしさを強調したポ ジションに「モアコンパクト」が あり、左よりの中ほど、すなわち やや洗浄力を強調した位置に 「ファミリーフレッシュコンパク ト」がある02つの点を結んだ直 線を描いてみれば明らかなように、 それは右下がりになるOつまり、 先述のとおり、洗浄力と肌へのや さしさの間には、一方の知覚を強 化しようとすると、他方が減ると いうトレードオフ関係が見られる のであるOライオンの2製品を結 ぶ直線は、花王のそれよりも原点 に近いので、肌へのやさしさと洗 浄力の両面で、花王よりも劣った 製品として知覚されていたことが 同図から読み取れるOなお、プロ ダクト・マップに表現されている のは、あくまでも消費者の知覚で あるから、製品の客観的な性能が ライオンのほうが劣っていたとい うことではない。  ところで同図には、花王とライ オンそれぞれ2製品ずつを描き込 んでいるが、この2つの製品は同 時に発売されたものではないO競 争の相互作用の時間展開を追いか けるためには、もう少し時系列の 議論が必要であろうO時間的な順 序は以下のとおりである。 @「ジョイ」発売以前:モアコ  ンパクト(花王)とママポケツ  テイ(ライオン) A 1995年:「ジョイ」の投入 B 1996年:フアミリーフレッ  シュコンパクト(花王)と  チヤーミーコンパクト(ライオ  ン)の投入  この順序関係を見れば明らかな ように、「ジョイ」が投入された 時点では、右下の2つの製品と 「ジョイ」が非常に強いコントラ ストを形成していたO明らかに 「ジョイ」は、P&Gが、洗浄力を 前面に押し出して消費者に訴求し た製品だったのであるOこのよう に、1995年時点でP&Gは他社と の決定的な差別化に成功したので あるO しかも翌年に花王とライオ ンが投人した対抗商品は、洗浄力 を高めた知覚を形成することに若 干成功してはいるものの、「ジョ イ」の高い洗浄力のイメージには 遠く及ばないOこれはどの独自ポ ジションを獲得したために、 P&Gはジョイの発売からわずか 4年で市場シェア1位を獲得でき た、と考えることができるのであ るO  食器用洗剤のプ囗ダクト・  マップ(2004年)  P&Gのジョイに対抗して花王 とライオンがその後どのような戦 略をとっていったのかを確認して いこうO「ジョイ」投入から9年 を経た2004年のプロダクト・ マップを描くと、花王が洗浄力の 高さを強調して同質化を図り、 P&Gは新たな軸でさらなる差別 化を図っていたことが確認できるO  1996年と同様に「肌へのやさ しさ」を横軸とし、「洗浄力」を 縦軸として2004年時点の製品を プロットしたプロダクト・マップ を図1-2-5に示したOP&Gの製 品は引き続き、洗浄力において高 く評価されているものの、花王が 2004年に発売した「フアミリー キュキュット」が、洗浄力だけで なく、肌へのやさしさにおいても、 P&Gの製品を上回って知覚され ていることが確認できるO「フア ミリーキュキュット」はP&Gの 製品よりも肌へのやさしさでも洗 浄力でも上回っているのであるか ら、P&Gに対して明らかに優位 に立つはずだと予想されるO しか し、それにもかかわらず、この時 点でP&Gはシェアを落としてい ないO 2004年時点では、P&Gの シェアが33%であり、花王は 29%のシェアを保持するに留まっ ているO花王のシェアは、1996 年時点の31%と比べると、2ポイ ントのマイナスであるO 11'¨昌rlな豐習囗ダクト・マッフ〔2004年〕  IOC         心  su     今u 口      ジョノ    。?回  g,ぷ温 勇  △  ▲  4c            罰筈                 ●ご ̄   0  20  司口  6G  sG  100 「li」・il・・::|Is卜i」●翁皿丿司MIIモ1●!」111「,卩。2より1冨作|ll   P&Gが市場シェアを失わな かった理由は,肌へのやさしさと 洗浄力の2次元に加えて、除菌と いう軸を新たに導入して差別化を 図っていたからであるO図1-2-6 に、新たに「洗浄力」を横軸とし、 「除菌効果」を縦軸としたプロダ クト・マップを作成したO洗浄力 (横軸)では花王に追いつかれ、 追い越されているものの、新たに 設定した除菌効果の軸では圧倒的 に「除菌ができるジョイ」が高く 知覚されていることが同図から明 らかになる0 P&Gが1998年に投 人した「除菌ができるジョイ」が 除菌効果において圧倒的な差別化 に成功していたことが確認できる であろう。 圜1-2一日食器用コンパクト轟創司フ囗ダクト・マッフ(2004年)            7膸 |         翫以 5丶 ゛      匐 ̄ 宍茴  00  20  司口涓9力60  80  1011 「lt・il・・:「||粧・」●価闘:S1111;1●}」IIII. J>。2より1者們:11  除菌効果が訴求力を持った理由 も、洗浄方法の変化によるもので あるO具体的には、「スポンジに 直接」の場合、「浸け置き」より もスポンジに汚れが多く付着する ため、菌が繁殖しやすくなるOも ちろん一般の消費者が、実際に菌 の数が増加したことを確認するこ とはできないが、洗浄方法を「ス ポンジに直接」に変えると、少な くともこれまでよりもスポンジが 汚れやすくなるため、「スポンジ の除菌」というニーズが増大する のであるO しかも、1996年には 全国各地で病原性大腸菌0157に よる集団食中毒事件が多発してい たO このことがきっかけとなり、 目に見えない菌を除菌したいとい うニーズが消費者の間で急速に高 まっていたこともあり、「スポン ジの除菌」という新たな軸が他社 製品との差別化に有効に機能した のである★180  また、プロダクト・マップから は、2004年時点において、花王 は洗浄力の高さで同質化を図って いたが、ライオンは「肌へのやさ しさ」「洗浄力」「除菌効果」のい ずれの軸においても競合企業の製 品と明確な差別化を図れていない ことも確認できるO 1995年から 2004年までの間に、花王が2ポ イントの市場シェア低下を綛験し だのに対して、ライオンがそれを はるかに上回る17ポイントの シェア低下を綛験した背景には、 このような製品特性の訴求不足が あるように思われるO  食器用洗剤のプ囗ダクト。  マップ(2007年)  さらにP&Gの除菌効果という 新しい軸での差別化に対して花王 とライオンがどのような戦略を とったのかを確認していくことに しようO図1-2-7に示した2007 年のプロダクト・マップからは、 花王は引き続きP&Gに対して同 質化を図って対抗しているが、ラ イオンは同質化も差別化も不十分 であることが確認できるO 11-2-7昌氛溜鼠ぼ創司フ囗ダクト・マッフ(2007年)  100  SO          ly               ・曷鈩 S     ……、。。、。ご93亠‘¨S6)  '・   言余、4气媼戸       咫詒-。 %ぎ白  口          玉石   0  20  40  6G  sG  100 「ltlil・・::||柵・潼li闘」司呎11;12}」911、p,2よ。・]・削゛、E瑜  2004年には、P&Gの「除菌が できるジョイ」の除菌効果が圧倒 的に高く評価されていたが、2007 年には、花王が2005年に発売し た「フアミリーキュキュツトクェ ン酸効果」が、ややP&Gよりも 低いポジションではあるが、それ に近い位置にあり、花王は除菌効 果でも同質化を図っていったこと が確認できるOこれに対してライ オン(△のマーカー)は、2007 年の時点においても目立った差別 化を図れていないO容器から高濃 度の泡か直接出てくる 「CHARMY泡のチカラ」を2007 年に発売したものの、同様の機能 をもつP&Gの「スーパー泡ジョ イ」とほぼ同じ位置にあり、差別 化できていないO  この時点ではライオンは市場 シェアが18%で、業界3位なの であるから、マーケティング戦略 上の定石としては同質化ではなく、 差別化、とりわけ模倣されない差 別化や差別化の連打がめざすべき 方向の基本であるOそのような視 点で見ると、残念ながらチャレン ジャーとしてのライオンは明確な 差別化に成功できていないといわ ざるを得ないO  このように花王はP&Gに同質 化して対抗しているが、ライオン は同質化も差別化もできていないO この点も先ほどの確認と同様に、 ライオンがこの間に市場シェアを 挽回できていない理由として重要 であるように思われるO  P&Gのシェア拡大要因のまと  め  ここまでの分析を積み重ねるこ とで、P&Gは市場ニーズの変化 を巧みに利用した鮮明な差別化に よって、市場シェアを高めていっ たことがわかるOとりわけ注目す るべきポイントは、P&Gの差別 化戦略は、食器洗いを取り巻くエ コシステムに起こってきた変化を 考えると非常に読み解きやすいと いうことであるOキッチンの水回 りの変化によって、湯とシャワー を簡便に使える環境が増加し、 フッ素樹脂加工の調理器具が増加 したことによって、容易に油汚れ が落とせるようなエコシステムが 発達していたOその結果として、 まずこの種のエコシステムが整い やすい20代〜40代前半の消費者 から順に「スポンジに直接」とい う行動が一般化するOそれまでに 手荒れという問題がほとんど解決 されてきたがゆえに、このター ゲット・セグメントには洗浄力と いう訴求ポイントが強く作用する 基盤が成立していたOここに、肌 にもやさしい特徴をもつ「ジョ イ」であるのに、洗浄力のみを訴 求ポイントとしてプロモーション を行ない、消費者の知覚の中に明 確なポジションを形成するOさら に他社が洗浄力で追随してくると、 「スポンジに直接」という行動習 慣から発生する除菌の問題を新し い差別化次元として付け加え、折 からの0157事件による注目度 アップもあって、他社の追随を寄 せ付けなかったのであったO  本事例から、差別化戦略を考え る際に、単に消費者のニーズとい うキーワードで考える以上に、消 費者がその商品を使うエコシステ ム全体をとらえる戦略的な広域視 野が重要だという示唆が得られる のであるO  第3節 食器用洗剤とは    異なる展開を見せた衣    料用洗剤市場  戦略的な広域視野の重要性を理 解するために、食器用洗剤と対照 的な衣料用洗剤の事例を分析する ことにしよう。衣料用洗剤市場で は、食器用洗剤のヶ一スと同様に 当初はP&Gが先手をとって仕掛 けたにもかかわらず、花王とライ オンがそのチャレンジの効果を一 定程度抑えることに成功しているO この対照的な事例でも戦略的な広 域視野の重要性が確認できるO ・食器用洗剤市場との類似性  2000年代の衣料用洗剤市場は、 1990年代の食器用洗剤市場と非 常に類似した状況にあったO市場 が類似していたというのは、具体 的には次の3つの点においてであ るO第一に成熟期にあり、第二に 寡占化か進んでおり、第三に補完 財の変化によってエコシステムが 変わり、シェアの変動が起こりや すい状況が起こっていた、という 3点であるO  2000年代の衣料用洗剤市場が 成熟期にあったことは、衣料用洗 剤の市場規模と、そのうちの剤型 別の市場規模の推移を示した図 1-3-1から確認できる。市場規模 は1990年頃までは成長していた が、その後はそれほど大きな成長 が見られない。1980〜90年の年 平均成長率(CAGR)は3.5%で あったのに対して1990〜2000年 及び2000〜2010年の年平均成長 率はそれぞれ- 2.3%と1.1%で あった。2000年代はプラスと なっているものの、1%程度の微 増というべきであり、この時点で 示した図1-3-2から確認できる0 1990年代以降、花王とライオン、 P&Gの大手3社で9割前後の シェアを維持しつづけているO ハーフインダール・ハーシユマン 指数は、1990年代以降、概ね 0.32前後(等規模換算企業数は 3.1社前後)で推移している★190 これらのデータからは、食器用洗 剤と同様、成熟期の安定した寡占 業界だったということができるO l緬 2G 132 32 30 33     sIs甸Isiili%iisI slss 卿柵 G           ・ 1984 86 召8 qG 92 94 96 98 2000 02 G4 06 08 10 12〔\j 出所;・aLliiaJI・1ゝ?りー夕づノー冫-i・ぞンダ羮・・各4-.吸l・l下者作成 三三 コシステムの変動が新たなニーズ を生み出していたOその中でも最 も重要なものは、節水型洗濯機の 普及が生み出した問題を巡るもの であるO節水型の洗濯機は、文字 どおり使用する水量を節約してい るため、粉末洗剤の溶け残りが発 生しやすくなっていたOそのため、 「洗剤の溶け残りが発生しない」 ことに対するニーズが2000年代 には増大していたのであるO  洗濯機が節水型になったことは、 洗濯1回当たりの洗濯物の量と、 洗濯物1kg当たりの水使用量の推 移を示した図1-3-3から確認でき るO1回の洗濯における洗濯物の 量は、2000年代には、1991年の 1.5倍程度にまで増加したのに対 し、水の使用量は、1.3倍程度に しか増加していない★200その 結果、洗濯物1kg当たりの水使用 量は、同じ縦型洗濯機の場合、 1991年には約19必だったが、 2000年代には16必程度にまで減 少しているOさらに、2000年代 に普及しはしめたドラム式洗濯機 の場合、縦型洗濯機よりも水使用 量が大幅に少なく、洗濯物1kg当 たりの水使用量は、約8忿である。 ai-3-3洗濯興叨冰使用●の変t \] 1.5  2  2.5  3  3.5  41kil 末洗剤の不満点として「低温では 粉の溶け残りがある」と回答する 消費者は、1999年の約18%から、 2004年には約24%に増加してい た★210また、2005〜2010年の 5年間に使用する洗剤を粉末から 液体に変更した消費者のうち、 「水によく溶ける」ことを理由に、 洗剤を変更した消費者は83%に も上っていた★220  このように、「溶け残り」の問 題ゆえに、粉末タイプから液体夕 イプへの移行が急速に生じていっ たO衣料用洗剤のタイプ別市場規 模の推移を描いた図1-3-1を見れ ば、2000年代後半以降、液体洗 剤市場が急拡大し、とりわけ 2009年以降には液体コンパクト 洗剤の市場が急速に拡大している ことが確認できるO 2010年時点 で液体タイプが市場の54%を占 めるようになり、2012年には液 体コンパクトタイプだけで市場の 38%を占めるようになっているO 目食器用洗剤市場との相違点  安定した成熟・寡占市場にエコ システムの変化が起こっていたと いう意味で、2000年代の衣料用 洗剤市場は、1990年代の食器用 洗剤市場と非常によく似た状況に あったO しかし、環境側には類似 性が見られるものの、企業の視点 から見ると大きな相違点もあったO それは、洗剤メーカーが、柔軟剤 という補完財を自社のコントロー ル下に保有していた点であるO し かも、柔軟剤市場の状況は明らか に独特の特徴を備えていたO  まず、柔軟剤市場では花王とラ イオンの2社が非常に高いシェア を占めていた。図1-3-4は、柔軟 剤の市場規模と企業別の内訳の推 移を示したものである。2000年 代初頭には花王とライオンの2社 で95%前後のシェアを占めてい たことが読み取れるであろう。 2000〜2003年までのハーフイン ダール・ハーシュマン指数は0.5 を超えており、等規模換算企業数 は2社を下回っていた。実質上、 この業界には2社しか存在しな かったといえるほどの状況だった のである。 図1-3-4 £戦創の市謚規躙攤祁 lii卜Ri 贏亠 1qqQ 92 94 96 qa 20c・c 02 ・口4 06 c・a 10 12(年; ili.II)・屬趣驫1121跖年尨準一で?ワレ・り14み 山11・:ljlj傴哨フ}イレタI]-ク'・Jヅマーヶi・iyダ要覧1名fiモ吸よ11‘1冨作成 子犬 が生じていたO衣料用洗剤は成熟 期にあったのだが、その補完財で ある柔軟剤は成長期にあったので あるO柔軟剤使用者が増加してい たことは、柔軟剤の使用頻度の推 移を示した図1-3-5から確認でき るO柔軟剤を常に使用する消費者 の割合は、1991年の28%から、 2000年に46%、2010年には62% へと拡大していたO 2000年から 2010年までの市場規模の年平均 成長率(CAGR)は3.4%であり、 2000年代の柔軟剤市場は高成長 市場だったのであるO  図1-3-5柔軟剤の便用頻度の推移                  I使用しない   %     31%  17% 19%   たまに使用                  1時々使用   常に使用             14%  18%     13%  i■冫i゛  28%     46%  59% 62% 19印      p000  p005  p010(年)  正・調査対皿は‥l壺鴎点から5乍皿内に而濯機を睛人した齔帯  出所ln本石鹸洗剤T蹇トホームページ「全自随洗佃機と洗濯行動の変正|   (hapyywwwjs向り「gyw甬廴k乱1d/2k11(iφiJ3htm).日本卜敲洗剤T東会ホームページ   「全自町雇i桟と洗i乾保麑のぎ及と雇濯卜町の変化」   (|・叩//wwwj叭ar齔w,瀞廴kallld/aJ1ヽminr叺hrl・φ、山山煕120111、「最近の家庭洗iの実田   皿回と皿費者皿讚」r懴碓恥贔消皿卜学』第2冨]2ひ.pp7&3-77nより筆者卜成   なお、性別・年齢別の柔軟剤使 用率を示した図1-3-6から、柔軟 剤の使用率は、男性よりも女性の ほうが高く,女性の中でも30 代〜60代の使用率が特に高いこ とが確認できるO 鬨・|-3-6 11別一年雛政男・淞肖|!使用=i・.           ̄ | レ      |  , \       |  | \       |  | \       |  | \       |  | j ___コ_コ    リン.・..・./.・1;II.・liン・, !:.:1111 E:III.・ ..・: . III・..I. I..・●.・ |.:I.I r・-・ ・]・..・.・.'.I.・. ,.・. :.:・がi.゜'!・ヨし|.・I ・・.:.y;.・.・ :  .|・II  ●・.・.・.・.・・.l.:|.・・..|;; ・..:lll・:,・l:,|・.j::|.・I::旡I: ...・.|・:i・!・・・・E  1990年代から2000年代にかけ て柔軟剤使用者が増加した背景に も、洗濯を取り巻く環境の変化が あったO具体的には、洗濯機の変 化と世帯構成・住宅環境の変化で あるO  洗濯機の変化  洗濯機の変化としては、2点を 指摘することができるO第一に、 先述のとおり、節水型の洗濯機が 普及したことであるO洗濯の際の 水使用量が少ないほど、洗濯物同 士の摩擦が増え、衣類やタオル等 の「ごわつき」が生じやすくなっ てしまう★230そのため、節水 型洗濯機の普及が進むと、柔軟効 果に対するニーズが高まり、柔軟 剤利用者が増加するのであるO  第二に、1990年代以降に全自 動洗濯機が普及したことも柔軟剤 の成長を後押ししたO二楷式洗濯 機で柔軟剤を使用する場合、最終 すすぎが終わった後に柔軟剤を投 入し、もう一度洗濯機を回す必要 があるため、手間がかかってしま うOこれに対して、全自動洗濯機 には通常、柔軟剤自動投入機能が 付いているため、全自動洗濯機が 普及すると、容易に柔軟剤を使用 できるようになるO  全自動洗濯機の販売台数が二槽 式洗濯機のそれを上回ったのは 1990年であるため、全自動洗濯 機の普及率が大きく拡大したのは、 1990年代のことである★240つ まり、1990年代から全自動洗濯 機が主力となり、2000年代に節 水型が普及してきたという洗濯機 の変化が柔軟剤市場の成長を促進 したのであるO  世帯構成や住宅環境の変化  世帯構成や住宅環境の変化を背 景として「部屋干し」が増加して きたことも、柔軟剤市場の成長を 後押しする重要な要因であった0 2005年の調査では、約9割の消 費者が部屋干しをすることがある と回答している★250部屋干し の場合、外干しよりも乾燥に時間 がかかるため、菌が増殖して嫌な 臭いが発生しやすくなるOそのた め、柔軟剤のもつ香りや除菌と いった効果に対するニーズが高ま り、柔軟剤の利用者が増加するの であるO  共働き世帯や有業単身世帯では、 夜間に洗濯物を干すことが多く、 囗中には留守となるため部屋干し の割合が多くなるO実際、部屋干 しの頻度に関するアンケート結果 を確認すると、「夜洗濯時」が 40%、「外出時」が33%となって いる★260また、世帯構成別の 世帯数の推移を示した図1-3-7か ら、専業主婦世帯が減少している のに対して、共働き世帯は概ね横 ばいであり、有業の単身者が多く 含まれる65歳未満の単身世帯が 大きく増加していることが確認で SI 1-3-7単身世吊・共●き世帯・専業主帰世碯の世碯懃の推郤 口]  G 1980   1985 1990 1995 20cc 2005 2cIc(嵋 ijl所:祗廁涓紕I;|・、I,・1'lil勢調査。斤11:11ぶi)‘1・・矜詐喩  世帯構成の変化のほかに、住宅 環境の変化も部屋干しの増加に影 響を与えている。単身者向けの集 合住宅では、そもそもベランダが ない建物もあるほか、高層住宅で は、ベランダに洗濯物を干すこと を禁止されている建物もあるから である。住宅と部屋干しの関係に ついて調査したアンケートでは、 「ほとんどいつも外干し」と回答 した割合は、持家戸建住宅、持家 集合住宅、賃貸集合住宅の順にそ れぞれ、60%、43%、29%であっ た★27.また、2008年の住宅戸 数を20年前と比較すると、戸建 住宅は、概ね410万戸の増加で あったのに対して、集合住宅は、 概ね930万戸の増加であり、集合 住宅が大きく増加していることが 確認できる★28。  以上のような洗濯機の進化や、 世帯構成、住宅環境の変化のほか に、柔軟剤の香りを楽しむこと自 体が流行になっていることも柔軟 剤使用者が増加した要因のひとつ である。2010年の調査では、「自 分から良い香りを漂わせたいとき に最もよく使うもの」として、柔 軟剤が1位(29.5%)であった ★290また、柔軟剤を購入する 理由に関するアンケートでは、1 位:香りが良い(68% )、2位: やわらかく仕上がる(57.4%)、3 位:香りが長続きする(39.1%) となっており、柔軟剤の本質サー ビスである柔軟効果はもちろん重 要ではあるが、それにもまして、 香りに対するニーズが近年高まっ ており、この補助的サービス部分 で差別化できる市場になってきて いることが確認できる★30.多 くの消費者が柔軟効果を得て、香 りを楽しむために柔軟剤を利用し ているのである。 第4節 衣料用洗剤市場    におけるマーケティン    グ戦略  節水型洗濯機の普及と柔軟剤市 場の成長というエコシステムの変 化に直面した衣料用洗剤市場では、 成熟期の安定した寡占業界という 特徴とは異なる独特の競争が展開 されていた。食器用洗剤とほぼ同 様のプレーヤーたちは、いったい どのようなマーケティング戦略を 展開していたのであろうか。以下 での分析の結果、衣料用洗剤市場 においては、花王とライオンが洗 剤だけでなく、洗濯機の進化や部 屋干しの増加といったエコシステ ム全体の変化を視野に入れ、補完 財である柔軟剤も活用した差別化 を行なって対応したため、P&G のチャレンジを一定水準に抑え込 むことができた、ということが明 らかになるO 顫液体洗剤市場における  P&Gのマーケティング戦略  液体洗剤が普及をばしめる 2000年代前半の段階でのター ゲット・セグメントは、「節水型 の洗濯機を使用しており、子ども がいるため洗濯物の量が多い30 代〜40代の消費者」であったO ここでポイントとなるのは、ター ゲット・セグメントとなる世帯に おいて実際に洗濯を行なっている のは多くの場合女性であり、柔軟 剤の使用率が高いセグメントと一 致しているということであるO有 職主婦でも専業主婦でも、洗濯物 の「ごわつき」に対する不満や、 部屋干しをしなければならない住 環境などの特徴は共通であると思 われるので、ここでは区別してお かなくても大きな問題は生じない と思われるO  結婚や出産を機に最新型の洗濯 機を購入する消費者が多いことを 踏まえれば、子どもを抱える30 代〜40代の世帯は、2000年代前 半時点で節水型の洗濯機を利用し ている割合が高いはずであるO実 際、節水型洗濯機の代表格である ドラム式洗濯機利用者の家族構成 には、乳幼児〜小学生の子どもを 抱える世帯の割合が高いことが、 パナソニックの調査でも明らかに なっている★310節水型の洗濯 機で粉末洗剤を使用すれば、溶け 残りが発生しやすくなるO 2000 年の調査では、P&Gが同年発売 した「液体アリエール」の主な購 入者は、幼児から中学生までの子 どもを抱える35〜44歳の主婦が いる世帯であり、他の洗剤から乗 り換えた消費者のうち、8割以上 は粉末洗剤から乗り換えていたこ とが明らかになっている★320  ターゲット・セグメントとなる 世帯において主に女性が洗濯を行 なっていることは、夫と妻の家事 時間を見れば明らかであるO表 1-4-1は、夫と妻の家事時間の推 移を示したものであるO夫の1囗 の平均家事時間は、共働き世帯か 専業主婦世帯かにかかわらず、概 ね10分程度であるのに対して、 妻の1囗の平均家事時間は共働き 世帯であっても3時間以上となっ ているOこのことから、ターゲッ ト・セグメントとなる世帯におい て実際に洗濯を行なっているのは、 多くの場合女性であるということ ができるO SI -4- 1共慂き世帯と専菫主鬢世帯の夭と狸の家1;;で閼のr移22・1日平均・でも1 尚垂三回匹 夫J,;;ilで・£;挧哭I(ぞ哭・掃j       1  。5 記 ぶ I・|¶111・・:1.4省饐。|・|、jlf二lti刮1.似lil各囎1111」:|;1.g們=i  このように考えると、液体洗剤 のターゲット・セグメントと、柔 軟剤使用率が高いセグメントが一 致しているのは偶然ではないこと がわかる。なぜなら、先に指摘し たとおり、節水型の洗濯機で大量 の洗濯物を洗うと、衣類やタオル の「ごわつき」が生じやすくなり、 柔軟剤を必要とするようになるか らである。  このような背景によって液体洗 剤が普及をばしめる2000年代初 頭から2000年代半ばにかけて、 P&Gは2つの液体洗剤を市場投 入して市場シェア獲得をめざして いったOまず2000年に洗浄力を 訴求した「液体アリエール」を投 入し、2005年には柔軟剤入りで 香りのよさを訴求した「液体ボー ルド」を投人したO当初はやや高 めの価格設定であったが、P&G は2005年には上記2製品とも粉 末洗剤と同一水準の価格設定とし て、本格的な切り替えを狙って いった★330   しかし、すでに述べてきたよう に、このP&Gのマーケティング 戦略は一定の成功を収めたものの、 食器用洗剤の時ほどには有効に機 能しなかったOその理由を以下で 分析していこうO 目液体洗剤市場での競争の分  析  衣料用洗剤と柔軟剤との機能  付加競争  結論を先取りすれば、「液体 ボールド」がもつ「柔軟剤入り」 であることや「香りがよい」と いった機能は、少なくとも、柔軟 剤市場において多様な補助的サー ビスで差別化を競っていたこの局 面では、ターゲット・セグメント には訴求力をもたなかったOこの ことは、「液体ボールド」だけで なく、柔軟剤と競合する機能を付 加した洗剤全般についていえるこ とであるOなぜなら、柔軟剤のほ うが洗剤よりも特定の機能の効果 を高めやすいからであるO柔軟剤 に注目が集まり、そこから得られ る多様な機能を消費者が求めてい る局面では、消費者の要求を満た すべく多様な機能の提案が行なえ る柔軟剤に機能を追加し、それを 訴求するほうが適切だったのであ るO  柔軟剤のほうが洗剤よりも特定 の機能の効果を高めやすいのは、 繊維が水中でマイナスに帯電する 性質をもっていることによるもの であるO柔軟剤の基剤であるカチ オン界面活性剤は、水中でプラス に帯電するため、水中でマイナス に帯電する繊維と電気的に結びつ きやすいOそのため、例えば、単 独では繊維に吸着しにくい香料で あっても、カチオン界面活性剤と の複合体を形成させることで繊維 に容易に吸着させることが可能に なるOまた、防しわや肌への刺激 を抑える目的で添加するシリコー ンも単独では繊維に吸着しにくい が、カチオン界面活性剤と併用す ることで吸着させやすくすること ができる★340  これに対して、洗剤は通常、水 中でマイナスに帯電するアニオン 界面活性剤を基剤としているOプ ラスに帯電する成分を添加すれば 繊維とは結びつきやすいのだが、 プラスに帯電する成分は、アニオ ン界面活性剤と電気的に結合し、 洗浄効果が大幅に低下してしまう ため、添加できないOそのため、 例えば、柔軟剤入り洗剤の場合、 カチオン界面活性剤の代わりに、 通常の柔軟剤よりも柔軟効果の低 い鉱物などを配合して対応してい るのである★350こうしたこと から、柔軟剤単体で差別化された 機能を付加していくほうが、この 時点での消費者ニーズには明らか にフィットしていたのであるO  柔軟剤に多様な機能を付加して 差別化し、それを消費者が受け入 れるのであれば、洗剤の側には 「溶け残りが出ない」とか「洗浄 力が高い」というような基本的な 機能以外の要求が弱くなっていくO 例えば、香りを強く求めている消 費者を考えてみれば、この点を理 解することは容易であるO香りの 効果を高めやすい柔軟剤が提供さ れていれば、強い香りを求める消 費者は、柔軟剤で香りのニーズを 満たし、洗剤は香りの少ないもの を選択することになるOこのよう に考えれば、洗剤の側での香りに よる差別化はかえってマイナスに 作用する可能性すらあるのであるO  柔軟剤に付加的な機能を追加し て差別化する動きは2000年前後 から起こっているOそこで、1990 年代後半以降に売れ筋となってい た柔軟剤と洗剤がそれぞれ訴求し ていた機能の推移を比較すること で、柔軟剤に機能を付加すること による差別化が、洗剤側での機能 付加による差別化の有効性を低下 させていたことを確認していこうO  製品別シェア1〜10位までの 柔軟剤が訴求していた機能の推移 を表1-4-2に示したO 2000年前 後に本質サービスである柔軟効果 以外の機能を付加した商品が増加 し、特に2000年代後半以降は、 香りを訴求した商品が上位を占め ていることが確認できる。 表1-4-2売れ筋柔軟創の柔軟励果以外の訴求機能の雇移  へ年     1997  2002  2007  2印2 ノ・ア  '  1亡 七王jl・2`yグ1,3花王|八Ξング1/31花王|ハミング1/31七王|八2ング(濃縮)」  2寸 花王|ハミング| 兔三ハミング|    9豐WJ SlJ翕グ心1  3寸ライオン|ソフランCI 气言二呉サーバーグ.゛言言グ5  べ ‰昌ご 言言晉勁帽えダま回ヽ螽刄ご2J  9・・バー一旧巧ざ詒%ご亡≒ず7゛郷气ジご回  6怕   ≒yj昌ド≒召鷁尸≒昌%賞−゛≒V゛1  ミヅニ乱7一回八え心グつ¨'l UjlyjjP;`(こ;宍で万巾7y2宍多  8・ ニヰ芸三顋言言祐三.  9心 P&G〔バウンス〕   ライJ鴫水性向上 |ふんわりソフラン|  霄り      .、  L亙り一ハ ライオン[部屋干しソ花王[フローラルハミ  10血〔μ萌訌J      〔フアーフア1 フラン〕部厚干し ング(濃縮)〕香り で屈櫛戸宍翼ご二匸二)゛゜二'¨゛`7‘゛¨   洗剤市場についても同様の表 1-4-3を作成しているO同じ時期 にシェア1〜10位までの洗剤が 訴求していた機能の推移を見ると、 洗剤市場でも2000年代に洗浄効 果以外の機能を付加した商品が増 加していることが確認できるOた だし、2つの表を比較すると、 2000年代に柔軟剤の使用者が増 加するにつれて、柔軟剤と競合す る機能を訴求する洗剤が売れなく なっていることが確認できるであ ろうOまた、柔軟剤と競合する機 能を訴求した液体洗剤は、2007 年に一度10位にランクインした だけであることも確認できるOこ れは、液体洗剤のターゲット・セ グメントが柔軟剤を多用しており、 付加的な機能に対するニーズを柔 軟剤によって満たしていることに よるものと考えられる。 £1-4-3 %れ箟衣祠用洗剤の洗浄・架以外の訴S樋・の疸郢 シ・J年     1997  2002  2007  2012  1寸 花王【アタ・31グ】齔Ξ.フタ・iグl t王Lアタ・1グ」  昌雷:;豐昌  2忸   5“も靨」`- ヲイ逋ン|卜1りフ|   l二・-゜翦氣ll昌l  −゛ぷ≒j° 一一一ライオン1トリフ:  鶚Iこ靆4認    日本リーjx:パワーpsG「アlsエーJbピュpsGIアI」・-Jb4オン戔干[アタリク詞活髀  4价     づ一フ1       J,ゴIu―冫]Jりーノ・胴(渣葆)バイオEx:    フ冫オン[ドつム式|冫イオンa珮屋tし四雇f冫タック筱lきJ  5回     夕・ジシュ] 卜・s・凋四1し z毅刪λり 4才Exジ・,Iし:li仙】    龕・【嗤犲アタ・ツク】P&口|ア|リ・一儿濃白うイjンIs窟fしライオン|トップN腦ox  6・ |・ ̄゛函i厂'JIlij必了乱・71 1・じミiii冫・J14冫I畆117盲i          F5G[ア|,エー・ジェラノ・ン1プルータイ花J1ニューヒース]  7寸PgG!スーパーチアー] ル冫オ・フシュ】(・鋪l ヤ)溜百肓入り 泄臼哨.冒り  ‥‥‥‥=一一'1ズg"'¨sS鴛智喉でぷご忿          ライオン【フj,一タイ卩&G【ア|リ・-ル頑固ライオン|卜・冫フンつ  9倡 石I[新沂饐ぴ凋   卜]ln剤入り 再n月]s可刪入り ヂナクIリア】    PsG:フルバワーぷ一口享|リーバ|パワーsGI求-,・トトノレ冫りつイjン|卜・yノクリ  1口l   ナア]く湘鉢】 りー・づ]亙劇l毓lλり.アリキlgド]c液鑛】 i! : 櫚斟iJ1た眞贔li・抄鵺罘以匁の謫黠を冨冨|.た良IwI.濃い個棡けli・喊翊と竸余す芯懊slt詆濠す言崗lil.   al洗可に|い「l穡惓:・」とs1た,な・.u:・すぺでの可sI:酋111い・コいていxi‘. m:曩りをs冷L・崗   贔に・1み.「有司」と記載  ||¶・:・・・l「・iレタり−7・yヅマーyiノンダ・・Ja年蕋より琴蠢詐l   以上のとおり,花王とライオン は、衣料用洗剤の補完財である柔 軟剤での高いシェアを活かし、柔 軟剤にさまざまなニーズを満たす 機能を付加して差別化することに よって、P&Gの洗剤での差別化 を阻正していたのであるO  明確な差別化が困難な衣料用  洗剤同士の競争  前述のとおり、洗剤に柔軟剤と 競合する機能を付加して訴求する ことは困難であったOそのため、 洗剤での差別化においては、本来 の機能である洗浄力を高めること や、柔軟剤とは競合しない機能を 付加することが必要であったO 「液体アリエール」は、この2つ を同時に追求した洗剤であり、強 い洗浄力だけでなく、液体である ことによって溶けやすさを訴求し ていたO しかし、P&Gは、「液体 アリエール」で一定の成功を収め るものの、食器用洗剤「ジョイ」 の時ほど明確な差別化を他社製品 に対して図ることはできなかったO なぜなら、食器用洗剤の場合とは 異なり、衣料用洗剤市場では、花 王とライオンが洗浄力の高い洗剤 の開発を怠ることがなかっただけ でなく、粉末洗剤の溶け残りの問 題も把握し、その他のニーズも視 野に入れて競争対応したからであ るO  具体的には、「液体アリエール」 発売翌年の2001年に、花王は粉 末アタックの水への溶解性を従来 品の5倍に高めるとともに、洗浄 力を20%向上させる大幅なリ ニューアルを行なって対抗した ★360ライオンも花王と同様、 2001年に粉末トップの溶解性と 洗浄力を向上させるリニューアル を行なったO  こうした対応の結果、各商品が どのように認識されていたのかを 確認するため、2006年のプロダ クト・マップを見てみようO図 1-4-1に液体洗剤のプロダクト・ マップを示した★370同図から、 「液体アリエール」は最も洗浄力 が高い洗剤として知覚されていた ことが確認できるO しかし、図 1-4-2に示した粉末洗剤のプロダ クト・マップと比較すると、花王 の「粉末アタック」のほうが、さ らに洗浄力が高い洗剤として知覚 されており,ライオンの「粉末 トップ」も比較的近い位置にある ことが確認できる。 l,lj ̄1衣科用雇体翫剤司フ囗タクトーマップ(2006年)  eo S      匐ば 渥6o.     0 屋     ロ      ア!,ニール な    二丿一ヒース’    fsGI 亂。   11゛・゜    ● i          。,つ  ゜        よ售   G  20  40  60  80  130 。。一一一,−,。ぶな 図1-4-2衣科用・末洗剤のフロダクト・マッフ(2006年)  100   1   1   1  ¨‘1     惴ば 涓                O 欒 P・   −、。    。。−、 ;         ゜ ro                アタ・lgク l              、a;        ▲詒j夕   ▲よ螽  2G・   ・   ・   ・   0   ・   ・   ・   ‘c        2a  4a洗19力'60       aG  10a !|¶lii::囗姪iiljjl・|JIJ 2脯|卩|・isI卩sII、l.:!2;jl栲rl'眤   残された問題は水への溶解性を 消費者がどう評価したか、という 点になる。残念ながら、それを直 接確認できるデータはないOただ し、花王が「粉末アタック」の溶 けやすさを高めた上で、その後、 液体洗剤にも注力して急速に同質 化していったがゆえに、この水へ の溶解性の問題は長く差別化の源 泉として維持できたわけではないO  本格的な粉末からの切り替えを 図るため、2005年にP&Gが液体 洗剤の価格を引き下げたところ、 他社も液体洗剤の価格引き下げに 追随したため、結果的に2006年 から液体洗剤市場が大きく成長し ていくことになった★380液体 ]]じ ilJ ]祐ユナしユ匸二三:TO9 ゛ 白21゛  花王が2010年にシェアを大き く伸ばしたのは、同社が「液体ア タック」の洗浄力を高め、プロ モーションを強化したことによる ものであるO図1-4-1から読み取 れるとおり、洗浄力の軸で「液体 アリエール」は、他社製品を上 回ってはいるものの、圧倒的な差 をつけるほど明確な差別化にまで は至らなかったOそのため、他社 による競争対応によって簡単に シェアを逆転されたものと思われ るO  以上のとおり、P&Gは洗浄力 と水への溶けやすさを訴求した 「液体アリエール」で他社製品と 明確な差別化を図ることはできな かったoこれに対して花王は、 2009年に、柔軟剤とは競合しな い「すすぎが1回で済む」ことに よる「節水・節電・時間短縮」と いう機能を訴求した液体コンパク ト洗剤「アタックNeo」を発売し、 他社との差別化に成功しているo 液体コンパクト洗剤市場の市場規 模と企業別売上高の推移を示した 図1-4-4から、花王が同市場にお いて圧倒的なシェアを維持してい 難子ド シェアを占めているO 0 1 -4一可衣斜用液体コンパクト洗剤の駟塲規覩と企業別売上肩の推移  ヒ: 。      一一 ,・・。ごi:I\ jご  = に」≒舁気罘よご匸−。二匸 ゛・‘゜12‘゛'  節水・節電・時間短縮という機 能が、多くの消費者に対して訴求 力をもつことはいうまでもないが、 実は「アタックNeo」がヒットし た背景にも、エコシステムの変化 があったo 2010年頃までに販売 されていたドラム式洗濯機の標準 洗濯時間は、図1-4-5に示したと おり、縦型洗濯機よりも長かったo そのため、ドラム式洗濯機の利用 者には、「時間短縮」という機能 による差別化が、特に強く訴求し たのであるo また、ドラム式洗濯 機は縦型洗濯機よりも水使用量が 大幅に少ないため、ドラム式洗濯 機が普及するにつれ、相対的に水 使用量が多くなった縦型洗濯機利 用者には、「節水」という機能に よる差別化が、特に強く訴求した のであるo「アタックNeo」の ヒットは、柔軟剤の使用者が増加 し、差別化のために洗剤に付加で きる機能が限られるなか、花王が エコシステムの変化をとらえ、柔 軟剤とは競合しない新たな軸でう まく差別化したことによるものと いえるであろうo 圜1-4-5パナソニック圜眺濯鬪の標準洗濯畤月の推移 6‘j             -;冫゛ 31]− − − − − − − − 20 ̄  ̄  ̄  ̄  ̄  ̄  ̄  ̄  ̄  ̄ o poE];i ;,[:{}4 ;ll】()h PI:0・Es 冫,:]l】/;llx:18冫,{}【:9 ;,l】|・E]卩{}||(!≡・ "ii::1;i;ii‘?r;;;i'I'!il117.‘1。:。;j,'1夕,"'‘I)゜2゛-゛'^-5‘'i“。'1一'二`J',。"‘NlOlJ‘ij`゜'i:J゛゜‘c'゛ll jlIIli:|-‘ラj,JuI:;・d17假こ=)jl:ildII.|111=|。111;亅。II?・il・レy?・ix・・|・ホー。』。ペー冫I'浬i,i力と|15111n,iii・μllJlj・I,。・。ヘー・   :(hi‘i',',IIitj?,:,;:i,Ili,j,j゛ljj;。l,‘?jj,II,li,'。。,。。。。。。,。。I。。。。。。。。I。。。。。。,I,エI,   P&Gがシェアを大きく拡大で  きなかった要因  食器用洗剤と市場の特徴が類似 しているように見える衣料用洗剤 市場においてP&Gはシェアを大 きく拡大することには成功しな かったOもちろん現時点でも十分 に高いシェアを保持していると評 価することは可能ではあるが、そ れでもなお食器用洗剤の成功には 遠く及んでいないOこのような結 果になった要因を整理すると、次 のとおりであるO  衣料用洗剤市場においても食器 用洗剤市場と同様、エコシステム の変化を背景として、新たなニー ズが生じていたO具体的には、洗 濯機が節水型になったことによる 「粉末洗剤の溶け残りの解消」や、 住宅環境の変化等により部屋干し が増加したことによる「部屋干し の嫌なニオイの解消」などであるO しかし、衣料用洗剤市場では、花 王とライオンがこうした変化を しっかりと認識していた上、その 対応においては、洗剤だけでなく、 補完財である柔軟剤も活用してい たOそのため、柔軟剤の利用者が 増加するにつれ、柔軟剤と競合す る機能をもつ洗剤は消費者に訴求 しにくくなっていたO柔軟剤がう まく達成できる差別化要素を活発 に追求することで、洗剤の側の差 別化が利く範囲を狭めていったの であるO  P&Gが「液体アリエール」の 差別化で訴求した洗浄力の高さと 水への溶けやすさは、重要な訴求 ポイントではあったが、花王とラ イオンの迅速かつ継続的な対応に よって十分なインパクトを発揮で きないままに押さえ込まれたO  振り返って全体的にとらえ直し て見れば、ここでもやはり、洗濯 機や部屋干しという環境、柔軟剤 など、補完的な機能を果たす他の 活動をすべて含めたエコシステム のダイナミクスが競争の成否を読 み解く上で重要な役割を果たして いることがわかるO衣料用洗剤の 事例でも、先の食器用洗剤の事例 と同様に、エコシステム全体をと らえる広域視野が重要であること が明確になるOとりわけ補完財の 一部を自社がコントロールしてい る場合には、エコシステム全体の 中で、どこにどのような競争を現 出させ、何を有効打にし、何を無 効な差別化にするのかという思考 が重要である、という示唆が得ら れるのである。  第5節 まとめ  エコシステム全体を視野に入れ て戦略を考える必要がある。この 結論自体は必ずしも新しいもので はないO IT系のビジネスでは企 業人ばかりでなく、一般消費者で すら、そのことに気づいているは ずであるO例えば、近年スマート フォンの普及に伴ってデジタルカ メラの売れ行きが悪化しているが、 その要因は、単にスマートフォン の画質が向上したことだけによる ものではないOその背景には、イ ンターネットやSNSの普及とい う写真を取り巻くエコシステムが 変化した結果、消費者の写真の楽 しみ方が変化し、画質という差別 化軸よりもインターネットとの接 続性という差別化軸のほうが訴求 力をもつようになったという変化 があるであろうO  また、携帯音楽プレーヤー市場 におけるiPodのシェアの高さは、 音楽の保存方法が記録メディアか らHDDへ変わるというエコシス テムの変化に対応したことや、製 品の良さだけでなく、補完財であ る汀unesによって競合企業との 差別化を図ったことによるもので あるoこのように、補完財を含め たエコシステム全体を視野に入れ る広域視野が必要だというのは、 現代を生きるわれわれにとって戦 略思考の基礎といってもよいほど 重要な視点であるo  しかし、いったん汀を離れる と、エコシステムが重要だという 視点は必ずしも常に意識されるも のではないOロン・アドナーが 『ワイドレンズ』の中で強調する ように、タイヤビジネスを自動車 修理工場のスキルと相互依存した システムで考えるという思考は、 しばしば忘れられているOとりわ け本章で強調したかったのは、囗 常的にわれわれが使用している洗 剤のような製品ですら、相互依存 した製品群の中のひとつとしてと らえ、そのエコシステム全体の変 化という視点から問題をとらえな ければならないということであるO  もちろん本章に登場したエクセ レント・カンパニーはこの点を十 分に理解した戦略的な打ち手を とっていたが、必ずしもすべての 企業人にとって、エコシステムを 視野に入れてマーケティング戦略 を策定することが戦略思考の常識 にまではなっていないと思われるO 本章の議論が、IT系以外の日常 的な製品についても、エコシステ ム全体のダイナミクスを視野に入 れる戦略的な広域視界が重要だと いうことを認識する契機になれば と願っているO  参考文献  〈論文・書籍〉 Adner, R. [2012], The Wide Lends: A  New Strategy for Innovation,  Portf0110(清水勝彦監訳『ワイドレ  ンズーイノベーションを成功に  導くエコシステム戦略』東洋経済  新報社、2013年) 阿部誠・古川一郎・守口剛[2003]、  『マーケティング・サイエンス入  門』有斐閣 江川直行[2008]、「最近の柔軟剤の  開発動向」『フレグランスジャーナ  ル』第36巻12号、pp.68-73 尾下博幸12008]、「洗濯機の変遷、  洗濯行動の変化と最近の衣料洗剤  のトレント」『洗濯の科学』第53  巻4号、pp.28-35 金沢成寿[1995]「調理家電におけ  るフツ素コーティングの応用」  『National technical report』第41巻  1号、pp.84-91 小板橋恵美子・沖田富美子・中山和  美・丸山昌史[2009]、「洗濯行動  からみた住空間評価の研究その1  洗濯行動の実態および洗濯空間の  評価」『学術講演梗概集E-2、建築  計画II、住居・住宅地、農村計画、  教育J pp.59-60 厚生省生活衛生局食品化学科  [1991]、「食品用洗浄剤の安全性に  関する調査研究平成元年度厚生科  学研究(食品衛生調査研究事業)  報告書」 佐々木大輔・金田英之・兵藤亮・蓼  沼裕彦[2008]、「洗濯環境の変化  が衣類の風合いに及ぼす影響とそ  の抑制技術について」『繊維製品消  費科学』第49巻2号、pp.123-129 佐藤ひろみ[1979]、「台所用合成洗  剤への一考案」『人間科学研究』第  1号、pp.115-124 独立行政法人国立科学博物館  [2011]、『技術の系統化調査報告第  16集』 日本石鹸洗剤工業会[1992]、『油脂  石鹸洗剤工業史−1980年代の歩み  ー』 沼上幹[2008]、『わかりやすいマー  ケティング戦略新版』有斐閣 沼上幹十一橋MBA戦略ワーク  ショップ[2011]、『戦略分析ケー  スブック』東洋経済新報社 沼上幹十一橋MBA戦略ワーク  ショップ[2012]、『戦略分析ケー  スブックVol.2』東洋経済新報社 沼上幹十一橋MBA戦略ワーク  ショップ[2013]、『戦略分析ケー  スブックVol.3』東洋経済新報社 富士経済[1986]、『トイレタリー  グッヅマーケティング要覧1986年  版』 富士経済[1988]、『トイレタリー  グッヅマーケティング要覧1988年  版』 富士経済[1990]、『トイレタリー  グッヅマーケティング要覧1990年  版』 富士経済[1991]、『トイレタリー  グッヅマーケティング要覧1991年  版』 富士経済[1992]、『トイレタリー  グッヅマーケティング要覧1992年  版』 富士経済[1993]、『トイレタリー  グッヅマーケティング要覧1993年  版』 富士経済[1994]、『トイレタリー  グッヅマーケティング要覧1994年  版』 富士経済[1995]、『トイレタリー  グッヅマーケティング要覧1995年  版』 富士経済[1996]、『トイレタリー  グッヅマーケティング要覧1996年  版』 富士経済[1997]、『トイレタリー  グッヅマーケティング要覧1997年  版』 富士経済[1998]、『トイレタリー  グッヅマーケティング要覧1998年  版』 富士経済[1999]、『トイレタリー  グッヅマーケティング要覧1999年  版』 富士経済[2000]、『トイレタリー  グッヅマーケティング要覧2000年  版』 富士経済[2001]、『トイレタリー  グッヅマーケティング要覧2001年  版』 富士経済[2002]、『トイレタリー  グッヅマーケティング要覧2002年  版』 富士経済[2003]、『トイレタリー  グッヅマーケティング要覧2003年  版』 富士経済[2004]、『トイレタリー  グッヅマーケティング要覧2004年  版』 富士経済[2005]、『トイレタリー  グッヅマーケティング要覧2005年  版』 富士経済[2006]、『トイレタリー  グッヅマーケティング要覧2006年  版』 富士経済[2007]、『トイレタリー  グッヅマーケティング要覧2007年  版』 富士経済[2008]、『トイレタリー  グッヅマーケティング要覧2008年  版』 富士経済[2009]、『トイレタリー  グッヅマーケティング要覧2009年  版』 富士経済[2010]、『トイレタリー  グッヅマーケティング要覧2010年  版』 富士経済[2011]、『トイレタリー  グッヅマーケティング要覧2011年  版』 富士経済[2012]、『トイレタリー  グッヅマーケティング要覧2012年  版』 富士経済[2013]、『トイレタリー  グッヅマーケティング要覧2013年  版』 堀内雅子[1982]、「洗剤に関する消  費者意識と残留洗剤について」『群  馬大学教育学部紀要芸術・技術・  体育・生活科学編』第18巻、pp.  39-51 堀内雅子[1996]、「洗剤の消費実態  と食器への洗剤残留」『群馬大学教  育学部紀要芸術・技術・体育・生  活科学編』第31巻、pp. 123-130 丸山賢次[2012]、「柔軟仕上げ剤に  おける香りの世界」『繊維製品消費  科学』第53巻10号、pp.800-802 八塚春子、井上隆、前真之[2012]、  「水まわり空間を中心とした省エネ  ルギー性と快適性に関する研究:  第15報水まわり空間に関するア  ンケート調査」『学術講演梗概集  2012 (環境工学I)』、pp.601-602 山田勲[2011]、「最近の家庭洗濯の  実施状況と消費者意識」『繊維製品  消費科学』第52巻12号、pp.  763-770 吉川サナエ[1994]、「洗剤による手  荒れについて」『川崎市公害研究所  年報』第20号、pp.52-59 吉村達四郎[1978]「ふつ素樹脂  コーティングの用途開発特性と応  用例PCTFE」『工業材料』第26巻  12号、pp.24-27 〈新聞〉 『週刊粧業』1999年7月5囗、p.33 『週刊粧業』2004年7月19囗、  p.49 『日経産業新聞』1996年4月13日、  p.1 『日経産業新聞』1999年7月19日、  p.15 『日経流通新聞』1995年3月9日、 p.16 『日経流通新聞』1996年11月2日、 p.8 『日経流通新聞』2000年11月4日、 p.6 『日経流通新聞』2004年10月11日、  p.2 『日経流通新聞』2007年12月9日、  p.2 く雑誌) 『日経ビジネス』「P&GVS花王一  学び続ける老舗企業」2002年7月  29日号、pp.142-147 『日経ビジネス』「花王3−多機能型 の洗濯洗剤 粘土のチカラで衣服 を柔軟に」2006年10月16日号、 pp.108-110  〈ウェブサイト〉 LIXILホームページ「いいナビ」  (http://iinavi.inax.lixil.co.jp/) 総務省統計局ホームページ「国勢調  査」(http://www.stat・goj p/data/  kokusei/2010/index.htm?utm_source=  twitterfeed&utm_medium=twitter) 総務省統計局ホームページ「社会生  活基本調査」(http://www.stat.goj p/  data/shakai/2011/index.htm) 総務省統計局ホームページ「住宅・  土地統計調査」(http://  www.stat.goj p/dataとjyutaku/) 日経トレンディネットホームページ  『洗浄力と時間短縮の両立へ〜洗濯  乾燥機の最新技術【第1回】』  (http://trendy.nikkeibp.co.jp/article/  pickup/20130620/1050221/?ST=  life&P=2) 日本石鹸洗剤工業会ホームページ  「家庭用製品一覧表(2013年7月  現在)」(http:べjsda.org/w/OO isda/9  books b.html)    一 日本石鹸洗剤工業会ホームページ  「全自動洗濯機と洗濯乾燥機の普及  と洗濯行動の変化」(http://  www.jsda,0rg/w/0 l_katud/a_seminar  07.html) 日本石鹸洗剤工業会ホームページ  「全自動洗濯機と洗濯行動の変化」  (http://wwwjsda.org/w/Oしkatud/2  kurashi 63.htm)     一 日本石鹸洗剤工業会ホームページ  「手肌をいたわる『台所用洗剤』」  (http://wwwjsda.org/w/03 shiki/  daidokoro ca228.html)      − ネットリサーチディムスドライブ  ホームページ「『柔軟仕上げ剤(柔  軟剤)』に関するアンケート」  (http://www.dims.nejp/  timelyresearch/2013/130823/) パナソニックホームページ「ドラム  式洗濯乾燥機NA-VX8200L 他4  機種を発売」(http://panasonic.co.jp/  corp/news/official.data/data.dir/2012/  08/jnl20821-2/jnl20821-2.html) ライオンホームページ「柔軟剤と香  りに関する意識・実態調査」  (http://www.110n.coj p湘/company/  press/2010/2010078.htm) ★1 食器用洗剤については、手洗  い用のみを分析対象とし、食洗機  用洗剤は対象としない。なお、  1990年代の食洗機の普及率は10% 以下であり、手洗い用洗剤への影 響はほとんどなかったものと考え られる。また、衣料用洗剤につい ては、おしやれ着用洗剤は分析対 象としない。 ★2 コンパクトタイプとは、それ  まで主流であったレギュラータイ  プの洗剤を2倍に濃縮した洗剤で、  一般的な容量は300m &程度、  メーカー推奨の使用方法は、水1  召に対して洗剤0.75m召を加えて  薄めるものである。レギュラータ  イプとは、一般的な容量は600m  召程度で、メーカー推奨の使用方 法は、水川?に対して洗剤1.5m £ を加えて薄めるものである。なお、 食器用洗剤や衣料用洗剤は、リ ニューアルによってたびたび名称 が変更されているが、無用の混乱 を来さないよう、本章では「一般 的な呼称」または「剤型十一般的 な呼称」のように表記することを 基本とする。 ★3「その他」のシェアの内訳が わからないため、日本石鹸洗剤工 業会ホームページで2013年に食器 用洗剤を製造していることが確認 できた3社が「その他」のシェア  を均等に占めていると仮定して算  出した。この場合、ハーフィン  タール・ハーシュマン指数は最小  値が得られる。 ★4 富士経済『トイレタリーグッ  ヅマーケティング要覧2012 No.3』  p.15及び『日経産業新聞』1999年  7月19日、p.15 ★5 年平均成長率の算出に当たり、 市場規模は生産額を用い、1990年 基準でデフレートした。なお、 1977年以前は用途別の統計値がな いため、1975年の生産額は、1978 年の液体洗剤に占める食器用洗剤 の比率から推計した。 ★6 ジョイの使用量の目安には  「水川?に対して0.75m d」との記  載がある。多くの消費者が洗剤を  薄めずに利用しているにもかかわ  らず、他社製品も含めてすべての  食器用洗剤に同様の記載がある。  そのため、この記載は肌荒れを起  こした消費者からの訴訟対策とし  て書かれているものと考えられる。 ★7 主な水栓には、シングルレ バー水栓のほか、湯や水それぞれ にハンドルがついている旱水栓や ツーバルブ水栓などがあるが、シ  ングルレバー水栓と比較すると操  作性が低い。 ★8 LIXILホームページ「いいナ  ビ」(http://iinavi. inax. lixil. co .jp/) ★9 吉村[1978]及び金沢 [19951 ★10 ただし、水章では4つのP すべてを個別に確認することはせ ず、特筆すべきものに絞って分析 を行なう。 ★11 囗本石鹸洗剤工業会ホーム ページ「家庭用製品一覧表(2013 年7月現在)」「http:/とjsda.org/w/OO. jsda/9books.」b.html) ★12『日経流通新聞』1995年3月 9囗、p.16 ★13 囗本石鹸洗剤工業会ホーム  ページ「手肌をいたわる『台所用  洗剤』」(http://wwwjsda.0rg/w/03  shiki/daidokoro_ca228.html) ★14 囗本石鹸洗剤工業会[1992]、 『油脂石鹸洗剤工業史−1980年代 の歩みー』 ★15『日経産業新聞』1996年4月 13囗、p.1 ★16『日経ビジネス』「P&G VS花 王一学び続ける老舗企業」2002 年7月29囗号、pp.142-147 ★17 プロダクト・マップを描く 際、本来は複数の消費者ヘアン ケートを行なう必要があるが、 1990年代に消費者が各製品をどう 認識していたかを把握するのは困 難であるため、本章では、その当 時、小売店に対して行なったアン ケート結果を活用して簡易的なプ ロダクト・マップを描くこととす る。 ★18『日経流通新聞』1996年11 月2囗、p.8 ★19「その他」のシェアの内訳が わからないため、日本石鹸洗剤工 業会ホームページで2013年に食器 用洗剤を製造していることが確認 できた5社が「その他」のシェア を均等に占めていると仮定して算 出した。 ★20 1週間の洗濯回数は、1991 年に10.9回だったが、2010年には 9.2回に減少している。1回の洗濯 における洗濯物の量が増加した背 景には、洗濯物を溜めて洗うこと により1週間の洗濯回数が減少し たことのほか、消費者の清潔意識 が高まった結果、それほど汚れて いないものまで洗濯するように  なったことがある。 ★21『週刊粧業』1999年7月5日、 p.33、『週刊粧業』2004年7月19 日、p.49 ★22 山田勲[2011]、「最近の家 庭洗濯の実施状況と消費者意識」 『繊維製品消費科学』第52巻12号、 pp.763-770 ★23 佐々木大輔・金田英之・兵 藤亮・蓼沼裕彦[2008]、「洗濯環 境の変化が衣類の風合いに及ぼす 影響とその抑制技術について」『繊 維製品消費科学』第49巻2号、 pp.123-129 ★24 独立行政法人国立科学博物 館[2011]、『技術の系統化調査報 告第16集J p.147 ★25 囗本石鹸洗剤工業会ホーム ページ「全自動洗濯機と洗濯乾燥 機の普及と洗濯行動の変化」 (http://wwwjsda.0rg/w/O廴katud/a. seminar07.html) ★26 囗本石鹸洗剤工業会ホーム ページ「全自動洗濯機と洗濯乾燥 機の普及と洗濯行動の変化」 (http://wwwjsda.0rg/w/O廴katud/a. seminar07.html) ★27 小板橋恵美子・沖田富美 子・中山和美・丸山昌史[2009]、 「洗濯行動からみた住空間評価の研 究その1洗濯行動の実態および洗 濯空間の評価」『学術講演梗概集 E-2、建築計画II、住居・住宅地、 農村計画、教育J pp.59-60 ★28 総務庁統計局「昭和63年住 宅統計調査」、総務省統計局「平成 20年住宅・土地統計調査」より。 なお、戸建住宅は、約2330万戸か ら約2750万戸に、集合住宅は、約 1140万戸から約2070万戸に増加。 計算が合わないのは、四捨五入に よるものである。 ★29 ライオンホームページ「柔  軟剤と香りに関する意識・実態調  査」(h叩://www.lion.co.jp/ja/  company/press/2010/2010078.htm)な  お、2位はヘアケア製品(20.5%)、  3位は香水(15.5%)である。 ★30 山田勲[2011]、「最近の家 庭洗濯の実施状況と消費者意識」 『繊維製品消費科学』第52巻12号、 pp.763-770oなお、丸山賢次 [2012]は、柔軟剤を利用して香り を楽しむ消費者が増加した背景と して、1990年代にアロマテラピー がブームとなったことを指摘して  いる。 ★31 パナソニックホームページ  「ドラム式洗濯乾燥機NA-VX8200L  他4機種を発売」(http://  panasonic.co.jp/corp/news/official.  data/data.dir/2012/08/jnl20821-2/in  120821-2.html) ★32『日経流通新聞』2000年11 月4囗、p.6 ★B『日経流通新聞』2000年11 月4囗、p.6及び富士経済[2005]、 『トイレタリーグッヅマーケティン グ要覧』、富士経済[2006]、『トイ レタリーグッヅマーケティング要 覧』 ★34 江川直行[2008]、「最近の 柔軟剤の開発動向」『フレグランス ジャーナル』第36巻12号、pp. 68-73 ★35『日経ビジネス』「花王3−多 機能型の洗濯洗剤 粘土のチカラ で衣服を柔軟に」2006年10月16 日号、pp.108-110 ★36 従来品が水に溶けるのに要 する時間は150秒だったが、リ ニューアル後は30秒に改善。 ★37 縦轆は、本来同じ属性で評 価すべきところであるが、利用で きるデータの制限から「消臭・除 菌・柔軟などの付加価値」として いる。そのため、これらのプロダ クト・マップから、どの製品とど の製品が競合していたのかを、正 確に読み取ることは困難であるが、 洗浄力を訴求していた洗剤なのか、 それともその他の機能を訴求した 洗剤なのかを把握する上では問題 ないであろう。 ★38 尾下博幸[2008]、「洗濯機 の変遷、洗濯行動の変化と最近の 衣料洗剤のトレント」『洗濯の科 学』第53巻4号、pp.28-35 第2章 縮小市場におけ    る成長セグメントの    取り込み    一大和ハウス賃貸住    宅事業の二重のマーヶ    ティング戦略  第1節 大和ハウス賃貸   住宅事業の成長  本章の目的は、マーケティング のフレームワークであるSTP(エ スティーピー:Segmentation ・ Targeting ’ Positioning)と、4 P's (フォーピーズ:Product ・ Price ・ Place ・ Promotion)を川い て、巧みなマーケティング戦略の 深層構造を明らかにすることであ るo対象事例として、大和ハウス エ業株式会社(以下、大和ハウ ス)の賃貸住宅事業の伸長を取り 上げる。  大和ハウスは競合企業である積 水ハウス株式会社(以下、積水八 ウス)と過去50年以上にわたっ て住宅事業のシェアを競ってきた が、近年は事業施設や商業施設事 業の伸長に伴い、売上高と営業利 益で積水ハウスを上回る業績を上 げているO しかしながら、その事 業伸長の内実をよく見てみると、 実は最も大きなセグメントは賃貸 住宅事業であるO大和ハウスは、 賃貸住宅事業において積水ハウス のシェアを抜き、高い収益性を上 げているのであるO  賃貸住宅市場で同社がシェアを 向上させた背景には、「防犯配慮 型賃貸住宅」の導入があるO防犯 配慮型賃貸住宅とは、単身世帯、 とりわけ単身女性世帯向けに構築 された、防犯と収納、専用化粧台 など女性の求めるサービスを備え たやや高価格帯の賃貸住宅であるO 「縮小市場」といわれる囗本の賃 貸住宅市場において、大和ハウス がなぜ防犯配慮型賃貸住宅を他社 に先駆けて市場投入することがで きたのか、また、それがどのよう なマーケティング戦略を内包した 商品投入であったかは大変興味深 い問いであるO本章はこの問いを 巡って考察を巡らせていくO  本章の結論を先取りするならば、 大和ハウスが防犯配慮型賃貸住宅 で成功した背景には、同社の直接 顧客である家主=土地オーナー (一次顧客)と間接顧客=賃貸住 宅の借り手(二次顧客)という2 つの顧客に関して明確なセグメン テーションとターゲティングを行 なっていたこと、すなわち「二重 のターゲティング」にあるOこの 点を本章では論じていくことにし たいO 顫大和ハウスと積水ハウスの  企業間競争  概観  大和ハウスの住宅部門の成長性 を支えているのは、高収益な賃貸 住宅事業であるO同社の平成26 年3月期(2013年度)に達成し た業績を見てみればその点は明ら かである0 2013年度の同社の賃 貸住宅事業と住宅販売事業を合わ せた住宅事業の売上高合計は1兆 4125億円★1、そのうち賃貸住宅 事業は6887億円、住宅販売事業 (戸建及びマンション事業の合計) は6371億円と、賃貸住宅事業の ほうが規模が大きいことがわかるO  営業利益を見れば、賃貸住宅事 業の位置づけはさらに高いことが わかるO同社の2013年度の住宅 事業の営業利益975億円のうち、 住宅販売事業の営業利益は240億 円で住宅事業全体の約24.6%を占 めるにすぎないが、賃貸住宅事業 の営業利益は642億円であり、住 宅事業全体の約65.8%を占めてい るO  大和ハウスとは対照的に、住宅 業界のリーダーである積水ハウス は、一貫して戸建住宅に軸足を置 きながら、その中でも「中高級」 価格帯の住宅に特化した事業戦略 をとっているO積水ハウスの平成 26年1月期の住宅販売事業の売 上高は7140億円、賃貸住宅事業 の売上高は7646億円であり、賃 貸住宅事業のほうが規模が大きい 点は大和ハウスと同様である★20  しかし営業利益を見てみると、 住宅販売事業が778億円で住宅事 業全体の52.5%を占めている一方 で、賃貸住宅事業の営業利益は 564億円と住宅事業全体の約 38.1%にとどまっているO このよ うに住宅販売事業の収益性に軸足 を置いた経営を行なっている点が、 積水ハウスの特徴であるO  囗本の新規住宅着工数は2008 年までは100万戸を維持してきた が、2008年のリーマン・ショッ クを境に80万戸割れを記録し、 人口減少やストック住宅の増加を 背景に、今後も大胆な回復は見込 めないOその厳しい環境に直面し ながら、大和ハウスと積水ハウス は共に特徴のある戦略を採用して 対応してきているO積水ハウスは ハウスメーカーのリーディングカ ンパニーとして高級戸建住宅を中 心にした戦略を追求しているOこ れに対して大和ハウスは、戸建住 宅ではなく賃貸住宅の分野で積水 ハウスを超える業績を上げるよう になってきたのであるO  大和ハウスと積水ハウスの成  長率と利益率の推移  実際に大和ハウスと積水ハウス の住宅事業における業績推移を 2013年度までのデータで比較し てみようOまず賃貸と戸建から構 成される住宅事業全体の業績推移 を確認するために、図2-1-1には 横軸に住宅部門の過去5年平均成 長率(CAGR)をとり、縦軸に売 上高営業利益率をとって、両社の 各年の数字をプロットしてあるO 図の右上に行くほど、成長率も利 益率も高い状況であり、左下に行 くほどそれが低い状況を示してい るO右下は、成長率は高いが利益 率が低い状況を、また左上は、利 益率は高いが成長率が低い状況を 示しているO 図2-1-12社の饐宅部門売・茹且去5年平均慶長率と営業利効弔     8011- ………i‘………… 八]|:j      FI]11 ”     一一' 厂Ollj17 ̄ ̄ ̄・・yTこ'゛謡谷"' ̄ ̄ ̄………' 51  ; 4.S/χ  。。。/"  。。、。・レ……jブ………'  T'ご'ごこ   ̄こ・二j`1二二乱76゛7‘'¨¨`15  図2-1-1を見ると、住宅メー カーの両雄が異なるパターンの業 績推移を示していることがわかる。 誤解を恐れずに簡略化していえば、 かつて高業績だった積水ハウスは 2009年から2011年の間に売上高 のマイナス成長を経験しているの に対して、大和ハウスはほぼ一貫 して売上高を成長させながら、 2013年度においても積水ハウス を引き離す高い売上高成長率を維 持していることがわかるだろうO  もう少し図を丁寧に見れば、も ともと2006年度の時点では成長 率も利益率も大和ハウスより高 かった積水ハウスが、その後 2009年度まで成長率も利益率も 低下させていることがわかる0 2010年度以降には積水ハウスの 利益率は急速に回復するのだが、 成長率の回復には時間を要したこ とが読み取れる0 2013年度には、 消費税増税前の駆け込み需要の影 響から、戸建住宅や分譲マンショ ンの業績が伸び、再び2006年度 の水準に戻るのだが、2006年度 よりもわずかに成長率・利益率と もに及ばないO  これに対して大和ハウスは 2006年度から2008年度までの利 益率では積水ハウスに及ばないも のの、2009年度においても赤字 に陥らず、2010年度以降も6%以 上の利益率を保っているO成長率 については、たしかに2009年度 から2011年度までは1%以下の 低水準にとどまっていたものの、 2012年度には3.5%、2013年度に は約9%という高い水準を達成し ているO大和ハウスは住宅不況期 においても収益性を維持し、以降、 売上高を安定的に成長させ住宅業 界のリーディングカンパニーであ る積水ハウスとの差を急速に縮め つつある状況にあることがわかるO  戦略の焦点一賃貸事業か持  家事業か  積水ハウスと大和ハウスの住宅 部門に見られる、このような業績 推移パターンの違いはどこから生 まれてくるのだろうかOこの点を もう少し事業領域を細かく分割し て、両社の戦略の差を明確化する ことにしようOここから両社は持 家ビジネス中心か、あるいは賃貸 住宅ビジネス中心かという点で異 なる戦略を追求していることがよ り鮮明になるO  住宅事業は持家事業(一戸建て とマンションの販売)と賃貸住宅 事業(賃貸住宅の建設請負及び管 理運営)に大まかに分けることが できる。積水ハウスと大和ハウス が、持家事業と賃貸住宅事業のバ ランスをどのようにとってきたの かを確認するために、図2-1-2を 見てほしい。図の横軸には賃貸住 宅事業の成長率をとり、縦軸には 持家事業の成長率をとって、両社 の各年の数字がプロットされてい るO ・2-卜22社の档冢辜菫と鎧鑓畦宅・箆の退去5年平崎成医率  il°‘゜` ・・9    ダ's t1 51口!・、・  ス201al. //゛  20c6 匚士卒匸ラニy-     ゾ。ゾ201j丶ヽ、//゛‘゛“‘  -51°゛、'二  ゛   一一・-。・・l,・− 二二。。。。、。。。。、、。111こ7'゛5・  図を見ると、両社の事業バラン スの取り方が明確に違うことがわ かるはずである。積水ハウスは賃 貸住宅事業の成長率を約3〜7% 程度の間に保ちつつ、持家事業の 成長率を大きく上下させているO 賃貸住宅事業の成長性を一定に維 持したまま、持家事業の市況に合 わせて業績が変わっている状況で あるO  これに対して大和ハウスは明確 に異なるパターンを示しているO まず明らかに積水ハウスよりも図 中で右側にプロットされている点 が目立つOつまり、賃貸住宅事業 の成長率は大和ハウスのほうが常 に大きい0 2007年度の16.6%か らはその後低下していくものの、 2011年度の6.2%の成長率を底と して、2013年度には且3%にま で成長率を高めているO持家事業 の成長率についても、2010年度 以降は大和ハウスのほうが高く なっている点も、同社の業績回復 に貢献していると思われるO しか し両社の成長率の決定的な差は賃 貸住宅事業に起因するととらえる のが適切であろうOここから大和 ハウスは賃貸住宅事業を成長のド ライバーとしている、という戦略 的な志向性が浮かび上がってくるO  成長性だけでなく、収益性の面 でも賃貸住宅事業は大和ハウスの 中核を占めている。図2-1-3は過 去4年間の営業利益の平均額を持 家事業と賃貸住宅事業に分けて、 両社を比較したものである。ここ から、賃貸住宅で稼ぐ大和ハウス、 持家住宅で稼ぐ積水ハウスという コントラストがより明確になるだ ろう。 図2-1-3 2社の錢宅部門の営望利益{週去4年間の平均Jの内訳 61口【】-             ■           552    ■大酊。11ウヌ   ・I-14          棡冰癶ウス j oI 。、。。ここ。。、……、。、。。  貝糾 il!lii:all:Ti資1:卜よi]・泪゛』=Ji  では市場シェアでは、大和ハウ スはどのように成長してきている のだろうか。両社の賃貸住宅(新 規建設)の市場シェアの変化を 追った図2-1-4を見ると、大和八 ウスの賃貸住宅市場シェアが、こ の7年間で約5ポイント (5.3%→10.2%)増加しているの に対し、積水ハウスの賃貸住宅市 場シェアは2ポイント (6.2%→8.2 % )の増加にとどま り、この間に大和ハウスが賃貸住 宅に軸足を置いた成長戦略で成果 を出してきたことが読み取れる ★3. 闖2-1-4 2社の住宅部門の市曜シェア推梛 !%j .●.Å匐,・ 1りX貝回 魯冰j1りX貝回--λ和八りふ戸迚 徊冰」・1・コX戸腟 12.C.             1().21.MI 13.0             日.2% 9.C・  6.2荀 6.C・  5,3恥 40  3.1恥            3.2% ..   尚古 3.0   .1 1 1 .  .  2006 07 C・8 09 1G 11 12 13(年齠 |11111:各ltll卜11・よi)下削1=畋  大和ハウスの賃貸住宅事業戦  略の特徴  大和ハウスと積水ハウスの業績 推移の比較を要約すると,収益性 が高く成長率の高い賃貸住宅部門 をもつ大和ハウスが、低成長時代 に入っだ持家部門に強みをもつ積 水ハウスとの差を縮めて猛追して いる、ということができるだろうO しかし、これは例えば「賃貸住宅 建設の市場が高成長で、持家の建 設需要が低成長であったために、 両者の業績の差が出ているのだろ う」というような外部要因によっ て説明がつく単純なケースではな いO  なぜなら、後に見るように、賃 貸住宅市場は全体として見ると衰 退市場だからであるO重要なポイ ントは、この衰退市場の中で、大 和ハウスは成長する事業を創り出 してきたということであり、それ を実現した大和ハウスの戦略が注 目に値するということであるO大 和ハウスの賃貸住宅事業の成功は、 同社のマーケティング戦略の特徴 に原因を求めることができるO本 章の結論を先取りするならば、大 和ハウスは、二次顧客(居住者) と一次顧客(土地オーナー)への STPを連動させた「二重のターゲ ティング」を行なうことで、模倣 されない強みを蓄積してきたので あるOこれが同社の賃貸住宅事業 における成功のカギであるO  二重のターゲティングというの は、直接顧客(一次顧客)とその また先の間接顧客(二次顧客)の 両者を明確にとらえ、両者を連 動・総合したターゲット選定のこ とであるO大和ハウスが賃貸住宅 を建築する場合、賃貸住宅を建築 しようという土地オーナー(一次 顧客)と賃貸住宅建設の契約を取 り結ぶ必要があるO賃貸住宅を建 設するに当たり、大和ハウスは、 その土地オーナー(その後の賃貸 住宅の大家)が居住者(二次顧 客)を引きつけられるように、特 定のセグメントの居住者層にとっ て非常に魅力的な賃貸住宅を建て るノウハウを蓄積しているのであ るO  居住者がどのようなタイプの人 かによって、どのような賃貸住宅 が魅力的かが変わるのだから、ど の土地をもつオーナーを開拓する のがよいのかという問題と、その オーナーがどのような居住者を顧 客ターゲットとするかという問題 は同時に決定しなければならない 問題であるO特に全体としては衰 退市場の中における成長セグメン トを切り出してくるという同社の 戦略は、この二重のターゲティン グがきわめて重要であったOより 具体的にいえば、大和ハウスは 「賃料相場がやや安い地域の土地 のオーナー」(一次顧客)と「都 市部の単身女性」(二次顧客)を 連動させて、成長力を獲得してい たのであるO  大和ハウスの二重のターゲティ ングの特徴を理解するために、次 節では、まず、そもそも大和ハウ スの賃貸住宅が誰を対象とした、 どのような商品であるのか、簡単 に整理しておくことにしたい。こ うすることで大和ハウスの賃貸住 宅市場における戦略が具体的にイ メージしやすくなるはずであるO  第2節 二次顧客(居住    者)に対するマーケ    ティング・ミックス  大和ハウスの賃貸住宅市場にお ける戦略を理解するために、まず 同社が主に単身女性向けに発売し た「防犯配慮型賃貸住宅」が、具 体的にどのようなマーケティング 戦略をとっているのかを整理して おくことにしよう★40以下では、 二次顧客向けには「D-room」と 呼ばれる防犯配慮型賃貸住宅がど のようなものであるのかを4つの P(Product ・ Price ・ Place ・ Promotion)に沿って解説してい くことにするo 顫二次顧客(居住者)に対す  る4つのP  (1 (Product (商品)-SW夕  イプの発売  大和ハウスが最初に防犯配慮型 賃貸住宅を発売したのは2010年 8月であるoその防犯配慮型賃貸 住宅をさらに発展させる形で、 2011年6月に女性向けの賃貸住 宅であるSWタイプの賃貸住宅が 発売されたo SWとは「セキュリ ティー・フオー・ウィメン」の略 であり、セキュリティーを特に重 視した女性向け賃貸住宅の呼称で あるo  大和ハウスが単身女性向けに SWタイプのような防犯配慮型賃 貸住宅を発売したことは、主に都 会における女性を被害者としたス トーカー犯罪件数の増加という環 境要因の変化にマッチしていたO 従来よリストーカー被害について は社会問題化してきているが、 SNS(ソーシャル・ネットワー ク・サービス)の発達した近年は、 特にストーカー被害に関する ニュースが頻繁に世間を騒がせて いるO図2-2-1は東京都のストー カー被害相談受理件数を2011年  このような社会環境の変化をと らえて、大和ハウスは都会に住む 女性向けに、防犯性能をプラスし た、しかも女性向けに収納力の大 きさやデザイン性を高めた「セ ジュールウイツトーSW」と「セ ジュールオッツーSW」を2012年 に発売した。図2-2-2で示した写 真にあるように、SWシリーズは ウォークスルークローゼットやペ ニンシュラキッチン★5を装備す るなど、生活動線を考えた空間や、 幅広の洗面化粧台といった女性向 けの美容志向の住宅設備を備えて いる。このような商品特性ゆえに、 swシリーズは単身女性を中心に ヒットし、2013年9月期の累計 契約戸数は5万1535戸となって いる★6. 図2-2-2セジコールウィットーswの内装 ’へ……………  ● ̄Xyl. ijjlal匸tj コ g・亠1  (2)Price (価格)一相場より  やや高めの設定  大和ハウスの賃貸住宅の賃料は、 その土地の賃貸相場よりも少し高 い賃料を示しているo大和ハウス の賃貸住宅D-roomは、例えば江 戸川区や練馬区といった東京都の 中でも比較的賃料相場が低い地域 に新築物件を多く建設しているo その「比較的賃料相場が安い地 域」の中では大和ハウスのD- roomはやや高めの価格設定をさ れているo  この点を確認するべく、試みに 大和ハウスが東京都の練馬区の4 昌≒コぶま昌 ご昌ご言言ゴ ヅヅゴおこ二 行なった(表2-2-1)。 S2-2- 1大和ハウスと他事奎洒の縛鈿魯件の平均値比穀 回良百議レ無。。。。。。I。,。。。 崕白后こ⊆ふij。s.t,a。;,17,乙y:;, ・i=・=`心忌どが,:I・。;j=四.m諡ft・J・で澀昌竚。・・・こー」・・●i・・………j。  ヘドニック・アプローチとは, 商品の価格をさまざまな性能や機 能の束としてとらえて、それらの 性能・機能を原因変数、価格を結 果変数として回帰分析を行ない、 どの性能・機能が重要な役割を果 たしているのかを追究する手法で ある★70不動産物件に関しては、 「最寄り駅」や「駅からの徒歩時 間」、「部屋の広さ」、「階数」など が賃料を規定する上で大きな役割 を占める重要な性能・機能であるo これらを原因変数側に置いて、価 格(対数)の回帰分析を行ない、 大和ハウスのD-roomがその傾向 線から外れているか、すなわち高 価格帯に位置するかどうかを確認 することにしよう。  練馬区桜台と江古田、小竹向原、 氷川台の4地域を選定した理由 ★8は、都心の池袋から10分以 内という、通勤に便利な「都会の 単身女性」が選好する好立地の典 型例と考えられる点であるo地域 についてランダム・サンプリング を行なっている訳ではないので、 一般化した知見が得られるのかと いう問題はあるものの、典型的な 地域でD-roomの価格づけを知る という意味では十分であろう。  回帰分析を行なう際に、被説明 変数を賃料(管理費含む)の自然 対数、説明変数を@池袋からの乗 車時間、F駅からの徒歩分数、B 広さ、C階数、D大和ハウス物件 かどうか(ダミー変数:大和ハウ ス物件であれば1、そうでなけれ ばゼロ)としたOサンプルは駅か ら徒歩10分以内の単身世帯向け の新築物件に限り、比較可能な 40件をデータとして活用したO  回帰分析を行なった結果、賃料 に影響を及ぼしていたのはB物件 の広さとD大和ハウスの物件かど うか、の2つのみであった。池袋 からの乗車時間や駅からの徒歩時 間は、ここでは「典型的な地域」 を絞ってサンプルを選択したため、 サンプル内で大きな差がなく、そ の結果、それによる価格への影響 が弱かっだのではないかと思われ るO この回帰式からわかることは 2つあり、第一に物件の広さが賃 料に影響していること、第二に物 件の広さが同じであっても、大和 ハウスの物件であることで賃料設 定が高くなるということであるO 大和ハウスの賃貸物件の賃料は、 同じ広さの他の物件と比較して約 7.8%ほど高い価格設定となって いるo例えば同じ8万円の賃貸物 件であったとしても、大和ハウス の物件であれば約6240円高くな るo  この約7.8%のプレミアムには、 実はホームセキュリティの代金 (月額5000円程度)が含まれてい るのだが★9、それを考慮しても D-room独自の価値が居住者に魅 力的に映らなければ、このプレミ アムは達成できないoそれだけ居 住者から見た「防犯配慮型住宅」 としてのD-roomの価値は高いと いうことが推測できるo  (3)Place (流通チャネル)と  Promotion(広告)-D-room  のCM  賃貸住宅を借りようとする人は、 近年では、まずa)インターネッ ト流通チャネル(SUUMOや HOME'Sといった賃貸住宅検索サ イト)を通して賃料や立地などを 検討しながら、候補地にあたりを つけた後で、b)地場の不動産仲 介業者に直接物件について聞きに 行く、というのが一般的であるo インターネット流通チャネルであ るSUUMOやHOME'Sといった 他業者との比較検討が可能なサイ トにおいては、D-roomは同一地 域では比較的高価格帯の物件とし て賃借者の目に映ることになるo  D-roomのCMでは、20代の女 優(上野樹里)が、歴代の仮面ラ イダーに対して賃貸の部屋を守っ てほしい、という依頼をするス トーリーになっているo しかしそ うした無茶な要望も、「D-room」 であればかなえられる、という メッセージが視聴者に対して打ち 出されているo仮面ライダーとい う正義の味方をもち出すことで、 侵入犯という「悪」を倒すイメー ジが、これから入居を考える顧客、 特に若い単身女性にストレートに 伝わる内容になっている。  大和ハウスがどのような二次顧 客(賃貸住宅の居住者)を対象と して、D-roomの4つのPをどの ように構築しているのか、という ことをここまで考察してきたoこ こでの到達点は、大和ハウスが、 @都会に住む単身女性をターゲッ トとした魅力的な商品を、A他社 よりもわずかに高い価格で賃貸し てもらうことを狙い、Bそれを促 すようなチャネルや広告を組み合 わせている、ということになる。  第3節 賃貸住宅事業の   STP   −  セキュリティーに高い関心をも つ都会の単身女性をターゲットに SWシリーズを提供する大和ハウ スのマーケティング戦略は、適切 でオーソドックスなもののように 見える。このことは、しかし、さ らに近年の賃貸住宅市場全体の状 況と、その中における都会の単身 女性セグメントの位置づけを確認 することでさらに明確になる。こ の市場環境の概観を行なった上で、 大和ハウスの賃貸住宅市場がどの ような特徴をもつのかを改めて確 認する作業を本節では行なってお きたい。本節の結論をやや定式化 していうなら、以下のとおりであ る。 1 大和ハウスがシェアを伸ば  した賃貸住宅市場は、実は全体  として見ると急速に縮小してい  くという逆境にあった。 2 全体としては縮小傾向にあ  る賃貸住宅市場の中で、単身世  帯は増えており、特に女性の単  身世帯が都市部、例えば東京都  で急速に増えていたO都市部の  単身女性世帯は衰退市場の中の  成長セグメントであった。 3 その成長セグメントを獲得  するために、都会の中でも賃貸  相場が相対的にやや安い地域の  土地オーナーに大和ハウスは焦  点を当てたOこのような独特の  一次顧客のセグメンテーション  とターゲティングを行なうこと  で、大和ハウスは全体としては  衰退市場の中における成長セグ  メントを取り込むことができた  のであるO  以下、それぞれの部分について 流れを追って説明していこうO 顫賃貸住宅市場の縮小  囗本の新規住宅着工数(持家と 賃貸住宅の合計)が縮小していく トレントに沿って、賃貸住宅の着 工数も年々減少傾向にある。図 2-3-1の棒グラフを見ると、1996 年以降のわが国の新規住宅着工数 は年々減少してきていることがわ かる。1990年には170万7000戸 もあった新規住宅着工件数が、 1998年には119万8000戸に減少 し、その後はその水準が2008年 頃まで続くOしかし、リーマン・ ショックの影響が本格的に表れる 白石匸 100万戸割れの状況は続いている。 @2-3-1 0本の新規畦宅翦工飄と笳貝/捐尿此黶の推移 l*.=l              {‘・} |。8c・0- 。             一一12c・  万言 15c〇・              一一4c・ 0               .n IsEiE1 9・EI s2 sx ヨ6 H!!冫IEIIEjil[χ, c・4 cIE c・li it: I冫l‘作:1 1111111:illl・,Q:I!睿illil・.Ei,il・:3]:2:よ・』`III・・扣・11111 図中の折れ線は,持家着工数に 対する賃貸住宅着工数の比率を表 しているOこれは新規に建設され た住宅が、個人が所有する住宅 (持家)なのか賃貸住宅なのかと いう比率であるOこの比率が高い ほど賃貸住宅側に新規住宅着工市 場がシフトしていることを示し、 この比率が低いほど持家のほうに 新規住宅着工市場がシフトしてい ることを示しているO「100%」と いうのは持家と賃貸住宅の着工数 が同数だったということを示し、 「60%」というのは持家着工数の 60%しか賃貸住宅が着工されな かったということを意味している。  図から明らかなように、全体と して新規住宅着工数が減少してい るなかで、賃貸/持家比率は右肩 下がりに推移しているのであるか ら、賃貸住宅の着工数は住宅市場 全体の縮小と同様に、あるいはそ れ以上に減少している「二重の縮 小市場」なのであるO  しかも、賃貸/持家比率の変動 幅が大きいことをここで確認して おきたい。賃貸住宅と持家の比率 は、1988年には108%、つまり賃 貸住宅のほうが持家よりも若干多 く建設されていた状況であった。 しかし2000年には53%にまで賃 貸住宅の建設割合は低迷したOそ の後2005年から2009年には賃貸 住宅の新規着工数は徐々に盛り返 し、70%台で推移したものの、 リーマン・ショック後に再び低下 し、2012年には57%にまで低下 しているO賃貸住宅の市場は、長 期間を範囲として見ると、きわめ て変動の激しい市場なのであるO  賃貸住宅の変動性が高いのは、 マクロ経済の景気に敏感に影響を 受けるからであるO持家も賃貸住 宅も、共にある程度景気動向には 左右されるものの、持家の場合は 不景気の時期には優良な住宅建築 を奨励する景気浮揚策を政府が採 用するために一定の需要水準を確 保できるO しかし賃貸住宅の場合、 持家建築を奨励する景気浮揚策を 当てにすることはできないO賃貸 住宅の建設に踏み切る土地オー ナーは、事業として利益を上げる ために、ある程度ラフにでも投資 収益率を意識して投資を決定するO 賃貸住宅の建設意思決定は、ある 種の設備投資であるため、マクロ の景気動向に強く影響を受けるの であるO大和ハウスが直面してい る環境は、全体としては縮小傾向 が続くなかで、しかも景気動向に 合わせて変動性が激しく表れる市 場なのであるO大和ハウスが賃貸 住宅市場で業績を拡大してきた、 というのは実はこのような逆風の 吹いている環境下においてなので あるO 目都市部単身女性世帯への  ターゲティング  賃貸住宅市場が縮小しているに もかかわらず、成長しているセグ メントがあるOそれは都会の単身 世帯向け賃貸住宅である。実際に、 東京都の賃貸住宅に住む単身世帯 数は1985年から2010年の25年 間で、92万1143世帯から292万 2488世帯へと3倍以上に増加し ている★10.その中でも、成長 市場は単身女性向けの賃貸住宅で あるO事実、大和ハウスの大野直 竹社長は、新設住宅着工数の今後 の読みを「年間60万〜70万戸」 と低水準が続くことを予測してい るものの、「女性の市場は成長し ており、これに注力すれば、賃貸 住宅市場の成長以上の伸びが可能 と見て」いる★11。  実際に大野社長が指摘している ように都市部における女性の単身 世帯が成長セグメントであること をデモグラフィツク・データで確 認しておきたいO図2-3-2は、東 京都の単身世帯数割合の推移を男 女別に示したものであるOここで、 東京都では以下のようなパターン が見られることがわかるはずであ るO 92-3-2東京揶學身懦蜀数比本の推移 5nll レブ 2口~2爿jp5-,卩9迴so~3x.・ 25・・・2日原爿口~lj.・爿5~爿s.   {男性} 3b戞         ..を..・9臼1-66年重 匸。 jl¶吶:】--21]・斤1111ji一?-夕l・'jtl作慮 1 男女各世代ともに、20代前  半から徐々に年齢が上がるにつ  れて、まず単身世帯の比率が低  下し、その後、40代半ば以降  に少し上昇する傾向が見られるO 2 近年の若い世代ほど、30  代・40代前半の単身世帯比率  が落ち込まず、単身のままとど  まる人が多いO 3 コーホート(同時代生まれ  の集団)が若くなるにつれて  20代後半以降の単身世帯比率  が厚くなる傾向は、男性よりも  女性のほうが顕著である。つま  り、東京都では20代後半以降  の女性が単身世帯のまま暮らす  傾向が顕著になってきている。  まず、図2-3-2における男性の 単身世帯比率(全世帯における単 身世帯の割合)の推移を 「1961〜65年生まれコーホート」 と「1971〜75年生まれコーホー ト」に限って対比してみようOな お、簡便のため以下ではコーホー トの最初の年(たとえば1961年) を使って、「61年コーホート」の ように呼ぶことにする。  76年コーホートに比べると61 年コーホートにおける20〜24歳 の単身世帯比率は高くなっている が、61年コーホートはその後急 速に単身世帯の比率を低下させ、 30〜34歳では単身世帯の比率は 28.3%にまで低下している。  61年コーホートよりも15歳若 い世代の76年コーホートは、 20〜24歳時の単身世帯比率が61 年コーホートより低いところから 始まっているものの、その後の単 身世帯の減少の割合が緩やかであ り、30〜34歳の時点でも35.1% の単身世帯比率を保っている。基 本的には、ここに晩婚化の影響が 出ていると読むのが妥当であろう。  同様の傾向は女性についても確 認できる。同じく61年コーホー トと76年コーホートを比較する と、20〜24歳の時の単身世帯比 率がほぼ同程度からスタートする ものの、61年コーホートの単身 世帯比率は加齢とともに急速に低 下し、30代前半ですでに14.5% までに低下する。同様の傾向は 76年コーホートにも見られるが、 低下傾向は緩やかであり、30代 前半では24.2%までの低下にとど まっているO 61年と76年の2つ のコーホートの30代前半におけ る単身世帯比率の差は9.7ポイン トである。同様の数字を男性につ いて計算すると6.8ポイントであ るから、女性のほうが世代が若く なるにつれ単身世帯傾向が強まっ ている、と考えてよいだろうO  さらに女性については、コー ホートが若くなるほど20代の単 身世帯の比率が大幅に高くなって いる(曲線が上にシフトしてい る)ことがわかる。特に76年 コーホートと81年コーホートを 見れば、それまでのコーホートと 比較すると20代後半の単身世帯 比率が大幅に高まっていることが 見て取れる。このままの傾向が続 けば、東京における女性の単身世 帯は20代〜30代にかけてさらに 厚みを増してくる可能性が高いよ うに思われるO  コーホートを比較した図では、 男女どちらの単身世帯割合の成長 率が高いのかを即座に読み取るの が難しい可能性があるので、図 2-3-3にそれをストレートに描い ておく。この図を見れば、東京都 では一貫して女性のほうが男性よ りも単身世帯の割合の成長率が高 いことがわかる。10年間の平均 成長率は20代後半の男性で1.7%、 女性で3.7%であり、30代前半の 男性で1.5%、女性で3.6%と、そ れ以降の世代でも2ポイント以上 の差がついている。セキュリ ティー重視の防犯配慮型賃貸住宅 のターゲットである都会に住む単 身女性セグメントは、3〜4%の 成長率で安定的に拡大を続けてい スTjVtズkl ~。。。。。Sgn  1ヨ。口・     1女胖J  !':。[]・  4.口・        こl.x哂 36s  qロ・  言仁匸匸匸  !II・・!i'lil荀,jlfrlll系l・・』データ1;;‘・1=F・11=・ い言匸よ広口‘゛ぶ ヅ駿工1ご噐臨 からスタートし、その加齢と共に、 より単身世帯比率の高い曲線を描 いていく可能性が示唆されるO次 世代のコーホートがこの傾向を強 めていくかぎり、これまでの成長 率はさらに増加することが予想さ れるOこの東京都の分析例でわか るように、都会における女性単身 世帯セグメントの成長をとらえる べく、大和ハウスが都会の単身女 性を最終的なターゲットとしてい るのはきわめて適切な選択だった のである。 ・一次顧客(土地オーナー)  に対するセグメンテーショ  ン  成長セグメントである「都会の 単身女性」をターゲットにした賃 貸住宅を事業の柱とするために、 大和ハウスは一次顧客である土地 オーナーに対してどのようなマー ケティング戦略を採用したのだろ うかOここでいう「土地オー ナー」とは、いわゆる地主のこと であるO個人住宅に使うには少し 広すぎる土地を都市部に保有する、 例えば金融資産1億円以上のいわ ゆる富裕層のことをイメージして いただければよいO実は大和ハウ スは、比較的家賃相場の安い「手 ごろな土地」を手に入れるために、 東京都23区の中でも例えば江戸 川区や練馬区といった、通勤には 便利であるけれども少しだけ家賃 相場の低い土地のオーナーをター ゲットとし、新築賃貸物件を建設 していったのである。  いままで見てきたように、東京 の20代後半以上の女性の単身世 帯セグメントは、年率3%以上の 成長率で拡大していった。しかし ながら東京都の新築賃貸物件の件 数を示した図2-3-4を見ると、賃 貸住宅の建設件数は頭打ち状態に あるO東京都の賃貸住宅建設件数 は、2003年に7万1000戸に達し た後、2008年に微減し、さらに 2013年には5万8000戸を割り込 んでいるOこの賃貸住宅の減少傾 向の背景には、先に見たようにマ クロ経済的な要因に加え、東京都 において賃貸住宅の建設可能な土 地が減少し始めていることがひと つの原因として考えられるO 図2-3-4東京都の貸家種類別建設件数の推移 (戸l    一●一貝冢全体 →一鉄肯→一鉄鉗鉄トコンクリート ロ⊇  '998  2003  2QC8  2C,13 f年1 1111頑|ぞ勢淵今|IMいい'-夕よ・J筆MI戉 千獅 うまく取り込むことができないO それゆえ、大和ハウスが東京で賃 貸住宅事業を展開するときに、第 一に必要なのは土地を提供してく れる土地オーナーの存在であるO 適切な土地を取得しなければ、都 会に住む単身女性が好むような賃 貸住宅を建設することはできないO さらに東京の土地は好立地であれ ばあるほど、商業施設や他の賃貸 住宅で埋め尽くされており、新規 に空き地を取得するのはきわめて 難易度の高い作業となるO  賃貸住宅のマーケティングにお いて、立地がいかに重要かを認識 するために、まず首都圏でどのよ うな賃貸物件が好まれているかを 示した図2-3-5を見ていただきた い。この図によれば、「家賃が適 切」であれば、次に重要な項目は 「立地環境が良い」ことであるO ここでいう好立地の要素としては、 例えば「駅から近い」ことがあげ られるO駅から近いことは通勤に 便利なだけでなく、人目が多いた め防犯上の観点からも優れているO しかしながらそうした人気立地に は、すでに賃貸物件や他の商業施 設などが建設されている。逆にい えば、賃貸住宅の建設においては、 適切な立地を先に押さえてしまえ ば、後から競争業者が同じ場所に 追随することはできないO現在空 き地であれば、他社よりも先に魅 力的な提案を土地オーナーに対し て示し、先取しなければならない。 図2−3−5首都圈にぉける胃肓住宅物件を決めた理自 していくために、独自のセグメン テーションを行なって適切な立地 を押さえていったO大和ハウスが ターゲットとして選んだのが、や や賃料相場が安い地域の土地オー ナーであったOこのような地域は、 他の賃貸住宅が立地している地域 よりも二次顧客(居住者)にとっ て利便性が低く魅力的ではないか もしれないO しかし、そこに大和 ハウス独自の付加価値を提案し、 賃貸住宅用の土地を獲得していっ たのであるO  このような「比較的賃料の安い 地域」の土地オーナーたちにとつ て、大和ハウスの提案はどの程度 魅力的に映るのだろうか。大和ハ ウスと積水ハウスの賃貸住宅自社 サイトに見られるデータから、そ の魅力度を探つてみることにしよ う。単身世帯向けの賃貸物件(ワ ンルーム・IK ・ IDK ・ ILDK)に 限定して、郤内における両社の新 築物件の人居可能物件数と賃料相 場、最多進出地区、その件数を表 2-3-1に整理しておく。 衷2-3-1大和jxゥスと翩冰J丶ゥスの瞿内詞鈿住宅の憂出状況  この表から、まず、大和ハウス の進出している地区の賃料相場の 平均は積水ハウスと較べると 3700円ほど安く、特に東京都の 中でも江戸川区という、通勤に便 利で比較的家賃相場が手ごろな地 区を賃貸住宅の新規建設場所の ターゲットとしていることがわか るO  賃料相場が比較的安い地域を ターゲットに設定することには、 3つのメリットがあるO第一に、 賃料相場が高い地域と比較して、 土地を見つけやすいという点であ るO賃料相場が安いということは、 賃料相場が高い地区と比較して入 居者にとって土地がもつ直接的な 魅力が相対的に低いことを表して おり、それだけ競合が新規に進出 する可能性が低くなるからであるO  第二に他の地域と比較して、大 和ハウスが自社の物件を利用して、 入居率を高めることができるとい う説得を、土地オーナーにしやす い点であるO賃料相場が安いとい うことは、他の地域と比較して、 立地そのものの需要が少ないこと を意味するOその立地そのものの 需要を、大和ハウスがもつ賃貸住 宅の価値によって補うことで同じ 地域の他の物件に較べると入居率 を高められるということを土地 オーナーに納得してもらいやすい 状況にあるのであるO  第三に、重要な競合である積水 ハウスとの進出地域のすみ分けを 行なうことで、土地オーナーに対 する大和ハウスの交渉力が強化さ れるという効果も見込める、とい うことを指摘できるO大和ハウス にとって特に重要な競合である積 水ハウスは、賃貸住宅を世田谷区 や大田区といった比較的賃料相場 の高い、いわゆる山の手地区を重 要な進出地区としている。  大和ハウスは、この積水ハウス の進出注力地域を避けるようにし て、江戸川区や練馬区などの比較 的賃料相場の安い地域に注力して いるのであるOそうした賃料相場 の安い地域の土地オーナーから見 れば、自社の地域に営業活動を展 開しているハウスメーカー等の中 でも、入居率を高めるためにでき るだけブランドカの高い業者を選 定したい動機をもっていると考え られるO したがって、積水ハウス が注力していない地域においては、 大和ハウスは有利に競争を進める ことになり、結果として土地オー ナーから大和ハウスが指名される 可能性が高まるのであるO  大和ハウスの採用している「比 較的賃料相場の安い郊外の土地 オーナー」というターゲティング はこれらの重要な意味をもってい るのであるO大和ハウスは比較的 賃料相場の安い土地オーナーに対 して、「都会の単身女性を中心と した層が好むような賃貸住宅を建 てないか」という営業活動を行な うことで、かなりの高い確率で賃 貸住宅建築地を獲得してきたと推 測されるO  第4節 一次顧客に対す    るマーケティング。    ミックス  すでに何度も指摘しているよう に、大和ハウスが賃貸住宅事業で 成功を収めている背景には、一次 顧客と二次顧客の二重のターゲ ティングがある。同社は、「都会 の単身女性」というターゲティン グを行なうと同時に、「郊外の土 地オーナー」というターゲティン グを行ない、その両者を組み合わ せることで、競合他社とすみ分け ながら、衰退市場における成長セ グメントをとらえることに成功し てきたのであるOここまでは一次 顧客と二次顧客のそれぞれについ て、独自のセグメンテーションに 基づくターゲット設定を行なった ところまでは確認してきた。  本章の最後に、この2つのター デッドが「うまく結びつけられて いる」ということを確認する作業 を行ないたいoすなわち、一次顧 客に対するマーケティング・ミッ クスを考察することで、それが二 次顧客の都会の単身女性に対して 大和ハウスの構築したマーケティ ング・ミックスとどのように関連 しているのか、ということを分析 していくのであるo 顫一次顧客に対する4つのP  (1 product (商品)  「防犯配慮型賃貸住宅」は、最 終顧客である女性単身者にとって メリットがあるばかりでなく、土 地オーナーにとってもメリットが あるOなぜならば、入居者をス トーカー被害のような犯罪から守 る、という防犯配慮型賃貸住宅の 性能は、土地オーナーが所有して いる賃貸住宅そのものを、器物損 壊といった物理的被害から守る機 能も保有しているからであるO少 なくとも、犯罪が起きたときに警 察による捜査がスムーズに進み、 犯人を特定する監視の目を、賃貸 住宅自体がもち合わせることで、 土地オーナーの重要な資産を犯罪 の手から守っているのであるo  いま、土地オーナーの視点から 考えて、通常の賃貸住宅が、窓ガ ラスを割られて不法侵入された場 合を考えてみよう。このような犯 罪が起きたときに、建物被害の責 任は当然ながら入居者にはないの で、建物自体の被害届を出す主体 は建物の所有者である土地オー ナーもしくは管理会社となるo D-roomのような高度な防犯性能 をもたない通常型の賃貸住宅の場 合、土地オーナー(あるいは管理 会社)は警察に第一報を入れると 同時に、現場での立ち会いや、警 察からの事情聴取など、さまざま な対応を迫られることになるOそ れに加え、壊された建物の復旧の 手配、保険会社への連絡など、す べての対応を自ら担っていくこと になるOこのことを考えただけで も土地オーナー(管理会社)は犯 罪被害から免れたい動機を強くも つO  土地オーナーにとって、犯罪の 被害はそのような一次的被害だけ ではない。入居者が仮に不法侵入 といった犯罪被害にあったとき、 入居者の実に4割がその賃貸物件 から退去するといわれている ★12.これは犯罪の二次的被害 である。そのような被害を考慮す ると、土地オーナーにとって犯罪 被害が賃貸経営に与えるリスクは、 きわめて大きいものであるといえ ようO  大和ハウスの防犯配慮型賃貸住 宅は、たしかに一次顧客(土地 オーナー)の犯罪被害に対する不 安を解消する機能をもっているO この機能が高いがゆえに、犯罪者 が賃貸住宅に近づいても早期発見 して対処でき、そのような対処が できるがゆえに犯罪者が賃貸住宅 に近づくことを避ける、という効 果が期待できる。防犯性能の高さ ゆえに、大切な賃貸物件の資産を 無傷のまま保全することが容易に なり、土地オーナーにとっても大 きなメリットがあるのであるO こ のように同じプロダクトの性能が 一次顧客(土地オーナー)と二次 顧客(居住者)の双方にとって、 それぞれ若干異なる意味合いで重 要性をもつという作り込みがなさ れている点が、大和ハウスの二重 のターゲティングの巧みなところ である。  (2)Price (価格)  土地オーナーに対するPriceは、 土地オーナーが大和ハウスの賃貸 物件を建設するときに支出する初 期コストと建設後にかかるランニ ングコスト、大和ハウスの賃貸物 件の賃料から期待される収入のフ ローのそれぞれの側面を考える必 要がある。なぜならば、どれほど の収益を上げることができるかと いう予測に基づいて、初期コスト についての許容範囲が変わるから である。  土地オーナーが大和ハウスの賃 貸住宅を購入する際に支出する金 額は、低層の集合住宅の場合19.7 万円/m2であり★13、積水ハウス の18.8万円/m2と比較すると、や や高い金額である★14.建設後 のランニングコストについては、 主にホームセキュリティの月額費 用が土地オーナーの負担となる。 しかしながらこれはD-roomの賃 料のプレミアムと相殺され、実際 は土地オーナーの負担とはなって いないので、ここでは特に考慮し ないことにしよう。  それでは以上の支出面を収入面 と合わせて考えるとどうなるであ ろうかOまず入居率(稼働率)に 注目しよう。東京における賃貸物 件の平均入居率は88.5%であるの に対し★15、大和ハウスの入居 率は、97.6%という驚異的な高水 準を示している★16.大和ハウ スにとって重要な競合である積水 ハウスの入居率も96.0%と高水準 である★17。  この坪単価と入居率が果たして どの程度のインパクトをもつのか を理解するために、簡単な例で計 算をしてみることにしよう。いま、 @大和ハウスとF積水ハウス、B それ以外の事業者の建設した賃貸 物件がすべて月額賃料8万円であ ると仮定することにしよう。賃貸 物件は8世帯を収容できると想定 して、入居率と賃料と世帯数を掛 け合わせた賃貸収入を計算し、そ こから建設費を引いて収支を計算 した結果が表2-4-1に示されてい テヤ 白回 の差は年間収入で約70万円の差 となり、積水ハウスとのわずか 1.6%の差でさえも年間収入では 約12万円の差となる。  もちろん、利率がここでの想定 より高ければ、大和ハウスにとっ ては若干数字が不利な方向に変わ る可能性もある。ただし、利率は すべての企業のケースでも同様に かかるので、それほど大きな差に はならない。たとえば3%であれ ば、年間の収支で大和ハウスが7 万円ほど積水ハウスを下回ること になるO しかし、逆に、ここでは 大和ハウス側に不利に想定してい る仮定もある。典型的には、入居 率の高さがそれであるO大和ハウ スが進出している「家賃相場がや や低めの地域」で積水ハウスがこ の表に示されているほどの入居率 を達成できるかどうかは不明であ るOそのような地域での賃貸住宅 の開発ノウハウの蓄積などを加味 すれば、大和ハウスの賃貸住宅は 土地オーナーから見れば建設費用 の投資時点ではやや高いけれども、 長期的な視点から見れば決して高 くはない商品である、と判断する のが適切であろう。  (3)Place (流通チャネル)と  Promotion(広告)  チャネルとプロモーションにつ いては、一次顧客と二次顧客の間 に重なり合いや有機的な連携は少 ないo しかし、大和ハウスがD- roomで優位を創り上げた背景に は、同社がもつ営業網(流通チャ ネルとプロモーションの両方を兼 ねる)の強みが転用されていると いう点があったことを忘れてはな らないo  東京には大和ハウスの営業所が 13ヵ所、D-roomを扱う大和リビ ング直営店の支店が16支店、大 和エステートが7支店存在するo これらの営業網を通じて、土地 オーナーは大和ハウスの賃貸住宅 を購入することになるoこのよう な人的販売の営業網は、そもそも D-roomのためにつくられたとい うわけではないo大和ハウスは、 以前から、その流通店舗事業を通 じて、ロードサイド(主要幹線道 路沿い)の土地オーナーとの関係 を構築していたのであるo大和八 ウスの営業担当者が土地オーナー を訪問し、土地活用の提案を行な うというface to faceの強固な流 通経路が先に構築され、それを活 用して郊外の土地オーナーへの営 業活動が行なわれてきたのであるo  土地オーナーに対する特色的な プロモーションとしては、全国3 万人の土地オーナーに対するオー ナー会という組織を形成している ことを指摘できるo大和ハウスは 栃木県二宮工場に土地オーナー向 けの賃貸住宅体験館「D-roomプ ラザ館 夢」を2013年10月に オープンしている。この体験館に は全国から土地オーナーが集まり、 防犯機能や設備仕様を目で見て確 認することができる。それ以外に も、「笑福座」という小劇場で、 泥棒が賃貸住宅に入ろうとして失 敗する芝居を見せるなど、「笑い」 を軸としたオーナーへの明快なプ ロモーションを行なっていること など、多様な取り組みを抜け目な く行なっている。加えてどのよう などこの会社にもいえることであ るが、各社が最終顧客向けに行 なっているCMは、広く伝えら れるものであるがゆえに、最終顧 客に対するイメージ形成ばかりで なく、一次顧客にも同様のイメー ジを形成することになる。そのよ うな波及効果があるがゆえに、二 次顧客に対して形成している 「D-room」のCMによる防犯セ キュリティーのイメージは、土地 オーナーにとっても訴求力をもち、 営業網による人的販売の支援をし ていることになるのである。  表2-4-2には、ここまでに述べ てきた一次顧客と二次顧客に対す るSTPとマーケティング・ミツ クスを整理してあるO大和ハウス は、STPの部分で積水ハウスと一 般事業者の両方とすみ分け・差別 化し、その上で、居住者と土地 オーナーの両方に共通に訴求する プロダクトを提供し、そのプロダ クトの価値を十分に評価してもら いながら比較的高めの価格設定を 行なっていたO最終顧客にはセ キュリティーと住みやすさという プロダクトの魅力を訴求し、その 結果として地域ではやや高めの家 賃をとりながらも、非常に高い入 居率を達成できているO ・2-4-2大和ハウスか石なっている2重のSTp・4p'Sのまとめ 且匸≒ の結果、建設単価がやや高めでも 回目 業網の強さも活用され、都会にお ける同社の賃貸住宅事業の強さが 形成されてきたのであるO  第5節 まとめ  賃貸住宅建設の最大のボトル ネックは、東京都という限られた 土地における、賃貸物件の建設地 を有する土地オーナーの存在であ る。つまり、大和ハウスの都会の 単身女性を狙ったマーケティング 戦略において、東京で賃貸住宅事 業を展開するときに、第一に必要 なのは土地を提供してくれる土地 オーナーの存在である。適切な土 地を取得しなければ、都会の単身 女性が好むような賃貸住宅を建設 することはできない。さらに東京 の土地は好立地であればあるほど、 商業施設や他の賃貸住宅で埋め尽 くされており、新規に空き地を取 得するのはきわめて難易度の高い 作業となるOそこで大和ハウスは、 最大のライバルである積水ハウス と市場をすみ分けながら、防犯と いうサービスを提案することで一 次顧客である土地オーナーを獲得 し、同時に二次顧客にも防犯サー ビスを提供しながらわずかに高い 賃料と管理費を収受していく、と いう儲かるビジネス・モデルを構 築していったのであるo  土地オーナーと都会の単身女性 を同時に獲得するための「防犯」 というキーワードを見いだし、 ホームセキュリティという補完財 を巧みに自身のビジネス・モデル に内包させた点がD-roomの成功 のカギであったo大和ハウスが巧 みなSTPと4P'sによって「縮小 市場における成長」を実現するに 至った背景には、一次顧客と二次 顧客に共通するキーワードを中核 に置いてターゲット市場とマーケ ティング・ミックスの適合関係を 多様に、また多重に形成してきた 戦略の妙があったのである。  参考文献  〈書籍〉 沼上幹[2008]、『わかりやすいマー  ケテイング戦略(新版)』有斐閣 沼上幹十一橋MBA戦略ワーク  ショップ[2011]、『戦略分析ケー  スブック』東洋経済新報社 沼上幹十一橋MBA戦略ワーク  ショップ[2012]、『戦略分析ケー  スブックvol.2』東洋経済新報社 沼上幹十一橋MBA戦略ワーク  ショップ[2013]、『戦略分析ケー  スブックvol.3』東洋経済新報社 長谷川誠二・池上博史[2008]、  『リーディングカンパニーシリーズ  「大和ハウスエ業」』出版文化社 樋口武男[2010]、『先の先を読め  複眼経営者「石橋信夫」という生  き方』文藝春秋  〈雑誌〉  『Boss』「経営戦記・’営業一筋40  年¨に託された大和ハウスの再成  長」2012年2月号  『PHPビジネスレビュー松下幸之助  塾』「憂国対談新しい日本への処 方箋厳しい現実から時代の先を読 み夢を語ろう大和ハウスエ業会長 兼CEO樋口武男建築家安藤忠雄」 2013年3月・4月号 『SAPIO』「SAPIOビジネスリポー  ト(第15回)「大和ハウス変わっ  ているのは踊るCMだけじやな  かったロボットも倉庫も作る最強  ハウスメーカーの未来展望」」2014  年2月号 『イグザミナ』「BIG INTERVIEW 大 野直竹大和ハウスエ業社長住まい 方の変化にチャンス一都市部攻 め住宅のシェア向上を目指す。」 2011年9月号 『経済界』「SPECIAL INTERVIEW 大野直竹(大和ハウスエ業社長) 高齢者や女性市場へも積極的に進 出し事業の拡大を目指します」 2012年1月10日号 『財界』「特別インタビュー日本活 性化策大和ハウスエ業会長兼 CEO(住宅生産団体連合会会長) 樋口武男住宅産業は関連事業も含 めて4兆8千億円の経済効果をも たらす。内需を中心とした景気浮 揚策を」2011年9月6日号 『週刊ダイヤモンド』「数字で会社 を読む大和ハウスエ業巨額投資を 続けてハウスメーカーからデベ ロッパーへ脱皮」2013年10月26 日号 『人材教育』「大和ハウスエ業カギ は仕組みと現場カカリスマリー ダーの経営哲学を受け継ぎ人間力 を組織で強化する」2013年9月号 『日経アーキテクチュア』「変化し  てこそ成長がある:企業買収で急  拡大する大和ハウスの向かう先」  2013年7月10日号 『プレジデント』「大和ハウスエ業  一人当たり受注棟数トップの鍵  「点検・確認・念押し」」2011年5  月2囗号 『文藝春秋』「文藝春秋九〇周年特 別企画トップ対談日本の力、未来 への提言大和ハウスエ業「住」を コアにした多角経営大和ハウス 「不断の挑戦」」2013年2月号 『ヤノ・レポート』「戸建事業での 都市圈強化、地域特性商品企画、 環境配慮型商品展開により国内 シェア拡大を進める「大和ハウス エ業」の動向」2012年5月10日 号 『リベラルタイム』「Talking大和八  ウスエ業社長大野直竹我々は社会  とともにある!」2011年8月号  『リベラルタイム』「Talking大和八  ウスエ業社長大野直竹全てのこと  を一番にやる!」2014年2月号  〈ウェブサイト〉 HOMEALSOKホームページ(http://  www.alsok.coj p/person/stalker/ls/) SUUMOr小竹向原駅、江古田駅、  桜台駅の賃貸・部屋探レ時報 検  索結果桜台駅(東京都)から探す  賃貸住宅[賃貸マンション・ア  パードレ時報 検索結果](http://  suumo.jp/jj/chintai/ichiran/FR301FC  001/?ar=030&bs=040&ra=013&cb=  0.0&ct=9999999&md=01&md=  02&md=03&md=04&ts=2&et=  10&mb=0&mt=9999999&cn=0&shkr  I=03&shkr2=03&shkr3=03&shkr4=  03&fw2=&ek=004314950&rn=  0043&ek=037004830&ek=  037016150&rn=0370) 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financial/index.html) 大和ハウスエ業ホームページ「女性  のためのアイテムが満載の防犯配  慮型賃貸住宅商品「セジュール  ウイツトーSW」「セジュールオッ  ツーSW」発売」(https://  www. daiwahouse. co .jp/release/  20110627132106.html) ダイワハウスの賃貸検索サイトD-  room T桜台物件検索結果一覧」  (http://www.daiwahouse.coj p/chintai/  result/index.asp?eki_cd=2281  050&min=0&max=0&station=  0&areamin=0&areamax=0&tiku_y.  d=0&route=&default=) 大和ハウスエ業株式会社「賃貸住宅  事業について」(2013年10月21  囗)(http://www.kantei.goj pとjp/  singi/gskaigi/kaikaku/wg4/dai3/siryou  2・pdf) 大和リビング株式会社「決算公告」  (2004年度〜2013年度)(http://  www.daiwaliving.coj p/company/ir/  index.html) 賃貸管理ビジネスNAVIr増え続け  る侵入犯罪」(2006)(http://  www.chintaikanri.biz/article/topics/  detail/post-1 .html) 麗澤大学 清水千弘教授ホームベー  ジ「第2章.ヘドニツク・アプ  コーチ」(http://www.cs.reitaku-  u.acjp/sm/shimizu/Lecture/Reitaku-  Univ/ReaVstateFinance/Hedonic.pdf) ★I 大和ハウスの住宅事業は、  「戸建住宅」「賃貸住宅」「マンショ  ン」「住宅ストック」のそれぞれの  セグメントの合計とした。 ★2 積水ハウスの住宅事業は、  「戸建住宅事業」「賃貸住宅事業」  「リフォーム事業」「不動産フィー  事業」「分譲住宅事業」「マンショ  ン事業」のそれぞれのセグメント  の合計とした。 ★3 なお図2-1-4からは、2006年 から2013年の間に、積水ハウスは 戸建住宅の市場シェアを仲ばせて いない(3.1%→3.2%)ことがわ かる。賃貸住宅でも大和ハウスほ ど伸びず、戸建住宅ではシェアが ほとんど変わっていないという点 は、積水ハウスがシェアを追わず に、注文住宅の高付加価値セグメ ントに特化する戦略をとっている ことが予測される。 しかし、いず れにせよ、積水ハウスの問題とは 独立に、大和ハウスが賃貸住宅市 場で成功しているという事実は明 らかである。 ★4 防犯配慮型賃貸住宅とは、  ホームセキュリティを標準搭載し  た賃貸住宅のことである。ホーム セキュリティとは、入居物件に不 審者が侵入したなどの非常時に、 センサーが異常を感知することで、 あるいは居住者が非常ボタンを押 すことで、警備会社に連絡がいき、 現地に警備員が急行するというシ ステムである。 ★5 ペニンシュラキッチンとは、  「半島」型のキッチンのことで、  キッチンの両端のうちどちらかが  壁面に接し、ダイニングとガウン  ターで対面するように設置された  キッチンのことである。 ★6 大和ハウスエ業株式会社「賃 貸住宅事業について」。なお、sw 仕様でないものも含めた防犯配慮 型賃貸住宅の累計契約戸数は2013 年3月期で8万9510戸である。 ★7 麗澤大学、清水千弘教授ホー ムページ ★8 もうひとつの重大な理由とし て、他事業者が多く該当物件を有 していることがある。回帰分析を 行なう際に、大和ハウスのみなら ず他事業者のサンプルも多く取れ ることがこの地域を選定した理由 である。 ★9 セコム・ホームセキュリティ  及びHOMEALSOKホームページ ★10 国勢調査データ ★11『経済界』2012年1月10日  号 ★12 賃貸管理ビジネスNAVIr増  え続ける侵入犯罪」(2006) ★13 大和ハウスフィナンシャル  ファクトブック(2013) ★14 積水ハウス2014年1月期 Fact Bookより、賃貸住宅の3.3m2 単価は62万3000円であり、そこ からm2単価18万8000円(1000円 未満切捨て)とした。 ★15 タスホームベージ(2013) ★16 大和ハウスフィナンシャル  ファクトブック(2013) ★17 積水ハウス2014年1月期 Fact Book ★18 支出については、一括借り 上げではない場合を想定した。一 括借り上げとは、賃貸物件を建設 するハウスメーカーが、入居率に かかわらず一定の賃料収入を土地 オーナーに支払う契約のことであ る。一括借り上げの場合は賃料の 10%程度の手数料がかかる。それ 以外にも、一般的な賃貸経営の支 出として租税公課や修繕費などが かかり、実際の賃貸経営はこの図 に示したものよりも厳しい。 第3章 顧客のトレント   の変化と市場動向   一生命保険業界の深    層構造  本章は、コーホート分析の手法 を用いて生命保険市場のトレント を分析する。特に生命保険への加 入パターンやインターネットに対 する意識の変化に注目して、生命 保険業界の深層構造を明らかにし、 それに基づいて生命保険市場が今 後どのように変化していくのかに ついても検討したい。  生命保険は、人生で2番目に大 きな買い物(1番は住宅)と呼ば れるほど、消費者の生活に与える 影響は大きいO しかしながら、リ スクに備えるという性質をもった 無形財である金融商品の一種であ るために、身近であるもののわか りにくい特殊なものではないだろ うかO本章では、一般的な消費者 を頭に描き、消費者の動向変化と いう側面から、消費者が生命保険 という商品にどのように加入して いるのかを、わかりやすく分析し ていくことをめざしている。  生命保険は20代や30代に加入 してから、場合によっては老後に 至るまで加入をし続ける長期間の サービスであるO したがって、市 場動向を考える際は、いまの消費 者がどのような加入行動を示して いるかを分析するとともに、その 消費者が加齢とともにどのような 変化を見せるかについて分析して いくことが重要であるO  本章の議論を読み進むにつれて、 国内の生命保険市場について楽観 視できない、ということがおわか りいただけるはずである。国内の 生命保険市場は、市場全体のトレ ントから考えられるよりも急速に 縮小する可能性があり、またイン ターネット生命保険も急速に拡大 する可能性がある。  本章では、3つのステップを踏 んでこれらの結論を導いていく。 第一に、生命保険市場全体がどの ような動向を見せているかについ て、近年のデータに基づいて明ら かにするO生命保険市場は、代表 的な2つの指標から考えると、楽 観的にも悲観的にも見えるという 点を確認する。  第二に、一般的な顧客の生命保 険加入行動を確認した上で、その 加入行動が時代とともにどのよう に変化しているかについて、コー ホート分析という手法で分析して いくOこの分析に基づいて考える と、若い単身世帯の市場は拡大し ていくが、2人以上世帯の生命保 険市場が今後急速に縮小する予兆 を見せていることが明らかとなる。  第三に、今後の生命保険市場の ひとつの重要なポイントである若 い単身世帯の市場において既存の 生命保険会社にとって新たな脅威 といえる、インターネット・チャ ネルについて検討する。インター ネット・チャネルは、一時的に成 長が鈍化しているものの、顧客の 意識を分析していくことで、特に 若年層において、インターネッ ト・チャネルに対する親和感が上 昇しており、今後の拡大を予期さ せるO  第1節 2つの指標によ    る2つの見方  第1節では、生命保険業界がど のような現状にあるのかについて、 生命保険業界全体の数値を用いな がら整理を行なっていく。生命保 険業界には、代表的な指標によっ て、2つの見方が存在する。ひと つは、保有契約高をベースとした 悲観的な見方である。もうひとつ は、収入保険料をベースとした楽 観的な見方であるO保有契約高と は、生命保険会社が保障する金額 の総合計のことであるOつまり、 死亡保険金額1億円の生命保険を 販売した生命保険会社の保有契約 高は1億円となるOこれに対して 収入保険料とは、生命保険会社が 顧客から受け取る保険料の総合計 額のことであるOつまり保険会社 の収入金額のことであるOこの2 つの指標のいずれを用いるかで生 命保険業界の状況を悲観的に見る か、楽観的に見るかの見解の相違 が生まれているO 顫保険契約高で見る悲観的見  方  保険契約高で見ると、生命保険 業界は衰退局面にある。実際、直 近10年間の保険契約高は右肩下 がりの減少を続けている。図3- 1-1は、GDPデフレータによる調 整を行なった上で過去10年の保 有契約高の推移を表している0 2012年の保険契約高は2002年比 で19%減であり、この10年間に 平均してマイナス2.3% (CAGR) のマイナス成長をしてきた。 國3-|-|個人|ヌ院のl石口F;IIごIの1’l弔 ………匚 |・・,_.  り  | |  卜|‥ ……i  リ  | | ノ  リ  レレ|  〕 リ 勹 | ! \匚_二_匚_二_レ」_二  ,‥‥, ・.・ .,.・|. ・.・ ・:,・ ・|.・ .・=‘ | ・・.・・.・: 匸yしレ匸よ犬ヅプ………匚,ズ,/……二立レ号……こ…………  保有契約高という指標は,どれ だけの保障を保険会社が請け負っ ているかを表す指標であるO生命 保険が死亡保障メインで,商品数 が限られていた時代であれば保有 契約高で業績を測ることに違和感 はないO しかしながら、近年は医 療保障などさまざまな商品が販売 されているO例えば、医療保障に ついていえば、多くの保険金額を 必要としないため、保有契約高の みを見て、生命保険業界の行く末 を悲観的であると判断するのは早 計であろうOそれでは、もうひと つの代表的な指標である、収入保 険料はどのような推移をたどって いるのだろうかO 目収入保険料で見る楽観的見  方  保険契約高では年率2.3%のマ イナス成長だった生命保険業界も、 収入保険料で測定するとむしろプ ラス成長の業界だと位置づけられ るO図3-1-2は、過去10年の生 命保険会社全体の個人の収入保険 料の推移を表したものである★1. 同図からは、収入保険料が若干の 増加傾向を見せていることがわか るOただし、同図において注意し なければならないのは、株式会社 かんぽ生命保険(以下、かんぽ生 命)の値が2007年10月から算入 されている点である★2.郵政民 営化によって、この巨大保険事業 が2007年度に半年分、また翌 2008年度からは通年で統計上組 み込まれるようになったために、 生命保険会社全体の収入保険料は 大幅に増加しているように見える。 この部分を差し引いて図を読み解 かなければ生命保険業界のトレン トを正確に読み解くことはできな 廴丶。 国31冫船人沚墺の収入|・il墺1・・1の挺弓  o■              i l〕 ダ   〕    卜 口|   !    卜 口i j 卜  卜 口i j 卜   二二_匚匚匚___匚_   勁i..・冫で;・lモ・ン:・i・・.・l・E: ;;j ・:・4 :1.ぺ | ;・ ゾヅニトニご∧ノ:……二:ブプI 、 ……レバ:………Λ匸j。、匸:………  しかし、かんぽ生命の統計編入 を差し引いたとしても、この10 年間で保険料収入は増加傾向にあ るO直近の値は2002年比で50% 増、また10年間の年平均成長率 は4.6%と、保有契約高で見られ た減少傾向と異なり、収入保険料 で生命保険業界を見ると明らかに 成長市場である。  収入保険料が年率4.6%で成長 しているという傾向は、現在の人 口構成を考えるとやや意外に思わ れる。なぜなら、生命保険業界で は長らく、国内の人口減少や少子 高齢化の影響を受けて、今後の市 場の縮小が叫ばれてきたからであ るO高齢化が進み若者が減れば、 働いている人の数が減ることにな るO退職した大は高額の生命保険 が不要になり、若年層が減れば新 たな生命保険加入者が減るOそう なれば生命保険の掛け金を支払う 人が減り、生命保険業界は衰退期 に入る、と多くの人が予想してき たのである。  しかしながら、実際は生産年齢 人口の減少は見られるが生命保険 の収入保険料の減少は見られないO 図3-1-3は、横軸に生産年齢人口、 縦軸に収入保険料をとり、各年度 における両者の値をプロットした ものである。簡単にいえば、生産 年齢人口とは、15歳以上65歳未 二回 収入保険料も減少すると予想する  \ lご]]]ユニj、0. lJ j  しかし、図3-1-3はそれとは逆 の傾向を示しているO 2002年か ら始まって2012年に至るまで、 徐々に生産年齢人口が減少して図 の右から左に移動していくにつれ て、グラフは上に上かっていく。 たしかに生産年齢人口は減ってい るのだが、収入保険料はかえって 増加しているのであるO  生産年齢人口が減少していると いう逆境下でも保険料収入が増加 している状況を見ると、今後七人 目減少や少子高齢化という厳しい 経営環境の中で、なおも生命保険 市場は規模を維持し、場合によっ ては成長を続ける、という楽観的 なシナリオを信じることも可能で あるように見える。  生命保険業界を保険契約高で見 るならば、年率でマイナス2.3% の衰退業界であり、収入保険料で 見るならば年率4.6%の成長業界 である。生産年齢人口が減ってい るという逆境の中で、上の2つの 対照的な数字をどのように解釈す ればよいのだろうかOこのように 数字が相矛盾する傾向を示す場面 では、数字を表層に見えているま ま単純に受け取っておけばよいこ とにはならない。それらの数字の 背後にあるメカニズムを明らかに する必要があるのである。この場 合、おそらく人口動態と保険サー ビスの需要をしっかり読み解いて いくことが特に必要だと思われるO 次節から、その作業に取りかかる ことにしたいO  第2節 人口動態分析に    よる市場縮小傾向の解    明    −  本節においては、増加傾向に あった収入保険料をさらに詳細に 分析することで、生命保険業界に 起きている現象を背後のメカニズ ムにまで遖って解明していくO本 節の結論を先に述べると、この先 の生命保険市場を楽観視するには 不安が残る、ということである。 一見平穏に見える推移であっても、 水面下で市場が大きく変容してい るからである。その要点は以下の とおりであるO ・収入保険料の拡大傾向は、貯 蓄性商品の拡大という一時的な 要因によって起きていたO しか しながら、この一時的な要因を 除いたとしても、収入保険料は 若干の上昇傾向を見せている。 ・2人以上の世帯からの収入保 険料は、若い現役世代の水準の 低下と、加齢による保険料の上 昇の鈍化により、今後急速に減 少する傾向を見せている。さら に2人以上世帯の数そのものの 減少がこの傾向に拍車をかけて いるO ・縮小する2人以上世帯の市場  を支えていたのが単身世帯市場  の拡大であるO しかしながら、  今後、単身世帯数の増加ペース  が鈍化し、それとともに想定よ  りも単身世帯の保険加入率が伸  びなければ、これまでのように、  減少する2人以上世帯の市場規  模を補うことはできなくなるだ  ろうO 顫生命保険市場拡大の要因  生命保険市場が拡大しているよ うに見えた原因は、貯蓄性商品の 拡大であるO生命保険会社が販売 している商品は、保障性が強い商 品と貯蓄性が強い商品に大別する ことができるO個々の商品を見る と、いずれにも保障と貯蓄の両面 が含まれているとしても、商品ご とにどちらがメインになるかとい う点で分けることが可能であるO 通常、生命保険が保障性の商品の 典型であり、個人年金保険が貯蓄 性の高い商品の典型であるOこの 10年間の収入保険料の成長を支 えてきたように見えるものは、実 は、本来の意味での保険商品(保 障性の強い商品)の拡大ではなく、 市況や金利動向によって販売が左 右されやすい運用商品(貯蓄性の 強い商品)が売れたためであるO  この点を確認するために図3- 2-1は描かれているO同図は、先 に見た図3-1-2のグラフから、ま ずかんぽ生命の数字を除き、その 上で残った数字を種類・払込方法 別に分類したものである。この図 からは、この期間の前半と後半で は成長の源泉が異なることがわか るO前半の2002年から2005年に かけての拡大は、「一時払いの個 人年金保険」が大きく寄与してい た★3.「一時払いの個人年金保 険」は2002年から2005年の間に 4.2倍に成長し、その後減少した ものの2009年まで比較的大きな 収入をもたらしていたOこれは、 銀行窓口における個人年金保険商 品の販売が2002年に開始されて、 そこで一時払いの個人年金の収入 が増加したのがきっかけであった。 後半の2008年から2012年の拡大 には、「一時払いの個人保険」が 大きく寄与していたO図には表れ ていないが、この「一時払いの個 人保険」のデータを細分化して見 ると、この中でも大きく増加した のは、「一時払い終身保険」であ る★4.この「一時払いの個人年 金」と「一時払い終身保険」はと もに、保障性の商品というよりは、 貯蓄性の商品であるO 図3-2-1商・・払込方法別収入保険料【かんぽ生痼を詮く】 lふI 皿圖  2G02 03 04 05 G6 07 0s eg IG 11 121年度} ilE:入ll睨フJig縋消,il・ll皿.僵』|・ll」り豼,l=.浤迴|¶llタフレーターljl蔔J,・式]にjりデフb-}消み 出111:秣式!11.111隋碵・lii:イ冫シJ々タンX ,l:舶1111融統,;|・1;・:粐|;JI加よi]1:冨田成 百目鼻 時払い終身保険」とは1回の保険 料の払い込みで、終身にわたる死 亡時の保障に加え、解約返戻金に よる資産形成効果がある商品であ る★5.つまり、商品特性上、一 時払いの個人年金は投資信託と、 一時払い終身保険は定期預金と比 較される商品であるといえる。  このように収入保険料を細分化 して見るならば、生命保険市場は 貯蓄性商品が一時的に拡大してい るという面が見られるものの、そ の本来の強みである保障性の商品 については拡大しているとは言い 難い。生命保険会社にとって最大 の強みである保障性の商品は 4.6%の成長市場ではなく、基本 的には成長率が1.6%の横ばいに 近い市場なのであるO  しかしながら、これで疑問が解 消されたわけではないOなぜなら、 生産年齢人口は2002〜12年の間 に7%程度減少しているにもかか わらず、収入保険料が1.6%の横 ばいであるということだけでも、 まだ直感に反するからであるO生 産年齢人口が減少しても、収入保 険料を維持しつづけることができ るのかどうか。それを考えるため には、なぜ現在時点で収入保険料 が横ばいを維持できているのかを 明らかにする必要がある。  実は、生命保険市場を2人以上 の世帯と、単身世帯とに分けて考 えると2人以上の世帯の収入保険 料は、これまでも縮小傾向にあっ たが、この先、縮小のスピードが 加速する傾向が見て取れるOさら に、これまでは縮小傾向にあった 2人以上の世帯の収入保険料を補 う形で単身世帯の収入保険料が増 加していたOすなわち、単身世帯 の市場規模がこれまで以上に増加 していかないかぎり、生命保険市 場全体の縮小は免れないO 目コーホート分析から見た生  命保険加入行動  生命保険会社が手掛ける保障性 商品や年金商品などに対する消費 者の需要のトレントは、消費者が どのように保障を考えるのかとい うような意識の変化にも大きく左 右されるものの、何よりもまず何 歳から何歳の人口が何人存在する かという人口構成と、その時代・ 年代・世代ごとの購買行動の変化 に影響を受けることは間違いないO ここではコーホート分析という手 法で、生命保険市場の変化を時 代・年齢・コーホート(同一の特 徴を共有する集団)の効果に分解 して見ていくことで、この現象の 背後のメカニズムに迫ることにし たい。  特に注目するのは、例えば 1965〜70年生まれの世代が示し てきた保険商品の購買行動と、 1977〜82年生まれの世代が示す それが、ライフサイクル・パター ンとして異なる、という点である。 この種の問題にアプローチするに はコーホート分析という手法が有 益であるO コーホートとは、同じ 時期に生まれた人々の集合や同じ 歴史的事件を綛験した人々の集合 などを指す。本章では同じ時期に 生まれた人々をコーホートと考え、 生まれた時期が異なると、そのラ イフサイクルを通じた保険との付 き合い方が変わってきているとい う点に注目した分析を行ないたいO  ここでの分析視角を簡単に表現 するならば、われわれは市場を 「さまざまな異なる年代のコー ホートの行動が足しあわされたも の」としてとらえるということで あるOあるいは多様な世代のライ フサイクルが重合されて現在のマ クロ・パターンが生まれていると 言い換えてもよい。逆にいえば、 市場全体のトレントを、各コー ホートの示すライフサイクル・パ ターンへと分解していくという方 向で分析を進めるのであるOこの ような分析を行なう上でコーホー ト分析は非常に有用であるO  コーホート分析は、時代と年齢 層を表したデータから、時代の効 果・年齢の効果を視野に入れて、 同時に同世代のコーホートが時と ともにどのようなライフサイクル を描いているのかを推測していく ことを可能にするO正確には時代 の効果と年齢の効果、コーホート の効果をすべて分別できないので はあるが、それぞれの切り囗を総 合的に用いることで、市場のトレ ントの背後にあるメカニズムを考 察していくことが可能になるので あるO  市場をコーホート(世代)のラ イフサイクル・パターンに分解し て見ていくために、まず典型的な ライフサイクル・パターンを把握 しておくことにしようO このパ ターンが時代とともに変わってい くのであるO  (1)消費者の生命保険の加入行  動のモデルケース  まず、一般的な消費者を頭の中 に思い浮かべ、消費者の生涯にわ たる保険の加入パターンを理解し ていこう。生命保険は、日々の生 活に起こりえるリスクを金銭的に 保障する商品であるO人生で起こ りうるリスクを常日頃意識して生 きている人はほとんどいない。通 常は何かライフイベントが起こっ たときを機会に、リスクについて 考え、保険を購入するのであるO つまり、生命保険の加入、見直し の動機は、結婚や出産など、大き なライフイベントが起き、保障を 意識するときである。そのときに はじめて、どのような年齢・時期 に、どのようなリスクが問題なの かを考えるのであるOそのような リスクに対する意識を高めた状態 であれば、図3-2-2に示される消 費者の生命保険加入行動はすんな りと理解できるだろう。横軸に一 般的な消費者の一生涯とライフイ ベントをとり、その際に必要とな る生命保険を上に列挙し、必要な 死亡保障額を矢印で、また保険会 社に支払う保険料を編みかけのつ いた曲線で示しているO 圜3-2-2消翦洒叨生畠促険加入行1帰1  ノ言二 匸二 畷 婚 一 二 居  一 二  考   子 孑 l  孑 子   漏 i 得  独 独   生 生    韭 立 匹らに襲いかかるリスクについても それほど強く意識している人は多 くはないO しかし、就職して経済 的に自立したり、結婚をして責任 を負うべき人と暮らすようになる と、自分が入院したときの保障と して医療保険への加入を考えたり、 死亡したときに配偶者に財産を残 せるように死亡保障への加入を考 えたりするのであるO  〈子ども誕生〉  就職・結婚の次に訪れるライフ イベントは子どもの誕生である。 子どもが誕生することで、自分が 死亡した際も、子どもが独立する までの期間、生活費や学費などの 保障が必要となるO したがって、 死亡保障額は子どもの誕生ととも に増加するOもちろん子どもの数 が増えれば、必要な保障額も増え るO しかも子どもが成長していく と学費がかさみ、大学卒業までカ バーする費用が必要であるO図中、 32歳で生まれた第一子が22歳で 大学を卒業し独立することが想定 され、第二子が同じく22歳で独 立すると想定されているOこの独 立までの養育費・教育費を負担す るために死亡保障額が必要なので、 死亡保障額自体は40歳前後で ピークを迎えるようになっているO  〈住宅購入〉  40歳前後になり、住居の購入 を行なうと、住宅ローンを借りる ときに団体信用生命保険にセット で加入するのが通例なので、通常 の保険で補償されるべき必要死亡 保障額は減少する★6.死亡保障 という矢印がこのあたりでピーク を迎えることになっているのであ る。さらに、50歳後半になり、 子どもが独立していくと、生活費 や学費の心配をしなくてよくなる ため、必要死亡保障額は減少して いくだろうO  しかし保険は死亡保障だけが重 要なのではない0 40歳ころを ピークに死亡保障は減少していく が、同時に、年を取り、老後が近 づくとともに、老後の生活費とい う新たな不安が生まれるOそのた め、個人年金など新たに貯蓄性の 商品への加入を考えていくだろうO  このような消費者の加入行動を 前提に、生命保険会社に支払う保 険料をイメージしたものが、同図 の背面の曲線である。加齢ととも に死亡率や病気のリスクが上昇す るために、保険料は自然と逓増し ていく。これに加えて先に見たよ うなライフイベントの発生によっ て保険料は上昇し、子どもの独立 を境に減少に転じていくだろうO  この保険との付き合い方のライ フサイクルを見るだけでも、本章 の冒頭にあった保険契約高(保障 額の総額)が微減で、収入保険料 (保険料の総額)が増加している 背景のヒントが得られるOつまり 単に高齢化が進むだけで、保険契 約高が下がり、収入保険料が上が るという局面が発生しうるという ことであるO しかしそれも時代・ 世代交代とともに変わる。この変 化をコーホート分析によって明ら かにしていこう。 〈コーホート分析の基本的見方〉  それでは、実際に分析に移る前 に、コーホート分析の3つの効果 の基本的な見方を簡単に説明して おこうOコーホート分析とは、あ る一定の出生コーホートが、加齢 や外部環境の変化によって、どの ように変化していくかを分析する 手法である★7。  年齢効果とは、ある時点で各年 齢層がどのような傾向を見せてい るかについて着目し、年齢によっ てどのような差が生じているかを 見るものである。例えば、現時点 において若年層はスマートフォン の普及率は高いが、高齢層では低 いという傾向の差を見るのであるO  時代効果とは、同一年齢層に着 目し、時代の変化とともにどのよ うな変化が生じているかを見るも のである。例えば、5年前の20 歳代と現在の20歳代を比べて、 若年層のスマートフォンの普及率 が高まってきている、という傾向 を確認するのであるO  最後に、出生コーホート効果と は、同一の時期に出生した人々を ひとつのコーホート(集団、この 場合、世代)として見た場合に、 そのコーホートが時代の変化とと もにたどるパターンが、前の世代 と比べてどのように変わってきて いるのか、それが全体にどのよう な影響を及ぼしているのかという ことを見るものである。例えば、 若い時から携帯電話やパソコンを 使用していたコーホートは、それ よりも前の世代よりもスマート フォンの普及率上昇スピードが速 い傾向がある、ということを確認 する作業などがその典型であるO  次からは、先に見た消費者の生 命保険の加入パターンを頭に入れ て、消費者の生命保険加入行動に 起きている変化を分析していこうO 収入保険料で見た保険市場は、一 時払いの貯蓄性のものを除いて保 障性の商品のみを見ると、この 10年にわたって微増傾向を示し ていたOこの微増傾向を、さらに 2人以上の世帯と1人世帯に分け てとらえるなら、前者(2人以上 世帯)は微減、後者(1人世帯) は増加しており、両者の傾向が総 合されて、全体が微増になってい たといえる。  初めに2人以上世帯の生命保険 加入行動に起きている変化を分析 していこう。その後に、同傾向に その年齢層の世帯数を掛け合わせ ることで市場規模を考慮に入れた 分析を行なっていくO2人以上世 帯の傾向の結論を先取りすると、 世帯の払込保険料は今後急速に減 少していく傾向を見せている。 年々、若い現役世代において、払 込保険料の水準は下がり続けてい る。さらに、本来加齢によって上 昇していくはずの払込保険料の上 昇率が緩やかになっている。つま り、保険の入り囗の水準自体が下 がるとともに、加齢によって水準 が上昇していかないため、払込保 険料は減少していくと予想される のである。  (2)個別世帯のパターン | 年齢効果と時代効果  図3-2-3で示したものが、払込 保険料について、同一時点での年 齢間比較を行なったものであるO すなわち、横軸に世帯主の年齢を、 縦軸に世帯の払込保険料をとり、 年齢層別に払込保険料(2人以上 の世帯)を線で結んでいるOこの 図が1994年から6年ごとに描か れているO 図3-2-a払込俣険料叨囘一喝貞周の年齢層比栽 ]ゾダ回‘’……゛ピレ ノ匸 29au1 3口~s51a6--4・1 42-47a48~5s154-5gま臼0-65a 6Ei以1 二万] るライフサイクルを表したもので はないということである。図3- 2-2が同一人物のライフサイクル だったのに対し、図3-2-3はそれ ぞれの年齢層が別の人々である。 しかし、各年齢層が別々の人々で あるにもかかわらず、同図の全体 像からは、消費者の生命保険の加 入パターンで見たように、加齢と ともに払込保険料が上昇し、50 代前半をピークとして減少に転じ ているのが見て取れるO  例えば2012年の曲線を見てみ よう。2012年に20代の層の払込 保険料は23万2000円であるが、 48〜53歳では47万1000円と2 倍以上に増加している。また、そ れよりも高齢の人々は払込保険料 が低下し、66歳以上になると33 万9000円になっているO世代間 で同じパターンのライフサイクル を繰り返していれば、このような 年齢層別のグラフを見ても、ほぼ 個人のライフサイクルの図をその まま集計したような形状が得られ ることになるO  しかしながら、大まかに似てい るようには見えても、やはり世代 と時代の影響で少しずつ異なる形 状になってきていることも事実で ある。図3-2-3に描かれている時 代別の曲線の形状の相違を確認し てみるとよい。特にこの図で注目 されるのは、曲線全体が時ととも に下方にシフトしているというこ とであるO 2012年の年齢効果の 曲線は、他の年齢効果の曲線と比 べて、ほとんどの年齢層において 一番下に位置しているO例えば、 36〜41歳では、1994年では43 万2000円であったが2012年にな ると32万6000円と、18年で10 万6000円も減少(1994年比24% 減)している。特に若い現役層に おいて2012年の値が1994年と比 較して大きく減少しているのが見 て取れるだろう。  この減少傾向に着目して描いた グラフが図3-2-4である。同図は、 払込保険料の各年齢階級における 時代効果を示している。図3-2-3 と異なり、横軸に年代を、縦軸に 世帯の払込保険料をとり、各年齢 層の世帯の払込保険料を線で結ん でいるO同図を見ると、各年代に よって払込保険料の大小はあるが、 総じて同様の減少傾向を示してい ることがわかる。例えば30〜35 歳の曲線を見てみよう。1994年 時点での払込保険料は36万3000 円であった。しかしながら、2012 年時点では5万2000円減少 (1994年比14%減)し、31万 1000円となっているO 29歳以下 の曲線や、先に見た36〜41歳の 曲線と合わせ、特に20代や30代 の若年層において、減少幅が大き く、保険離れが進行していること が明らかとなるO 千千 ☆レ..  19寸4た 2GGG電 2口[16t 20124 1.1:.:内li .・lll匐1・l翩li°・揶瑤滌.li内qt4.1支「!li=・ノレーターG11a・」り;こぶ:」デ・」しー:・消λ jll所:・lモ命保険重化そンター|・.IJjl傾:陥に11・rる仝111jilll査.・各年.IsI;1111デー9ぶ;]1・習作躪 言言 3-2-5である。同図は各世代別に ライフサイクルのパターンを描い ているという意味では本章の基本 的な狙いに一番近い図である。例 えば1959〜64年出生コーホート の曲線を見てみよう。同出生コー ホートが30〜35歳であったとき、 払込保険料は36万2000円であっ たO時を経て、同出生コーホート が42〜47歳になったとき、払込 保険料は45万円へと上昇してい るO 図325粘叺保険料の同出生コホトの経年比較 (干眄  レ牛  冫哨,卜E胚i函ぺa l?・-7xjs璢9う司印・3活邸廴匸 汪11蜀廢jl民経li計算褌諸国内総,i産寸出111デリレーダー;迚暁カ式1によりラブレー;・済み 111卜:'l:aμ陥文化セングーrlj.彖皿険,二llTし个[k]実卜調卜」齠l」呎個票データよ・J下抒卜成 白土  第一に、コーホートが若くなる につれて、加齢とともに上昇する 払込保険料の上昇率が緩やかに なっているということである。こ こで、1965〜70年出生コーホー トと、そのひとつ前の1959〜64 年出生コーホートの推移を比較し てほしい。どちらのコーホートも 30歳から47歳にかけて払込保険 料が上昇しているO しかしながら、 1959〜64年出生コーホートと比 較すると、1965〜70年出生コー ホートの42〜47歳の払込保険料 の水準は約4万7000円も低く なっている。どちらの世代も若い ときから、徐々に払込保険料を高 めていくというライフサイクルを 描いてはいるか、その「高めてい く」という程度が弱くなっている のである。  一般的には、ライフサイクルを たどるうちに、48〜53歳に到達 するところまで払込保険料が増加 していくO しかし、現在42〜47 歳になっている1965〜70年出生 のコーホートが、あと6歳ほど年 をとって48〜53歳に到達すると きには、この払込保険料のピーク の高さが低くなっている可能性が あることが予想されるのである。  この傾向は、より最近の出生 コーホートでも顕著に表れている。 例えば1971〜76年出生コーホー トを見てほしい。この世代の人々 は、30代前半の時期から30代後 半になったときに、払込保険料の 上昇がほとんど見られない。この 傾向が続けば、この世代の48〜 53歳時点のピークはさらに低く なっていく可能性があるO  第二に、初期段階の若年層にお ける払込保険料の水準が急速に低 下している傾向も図3-2-5から顕 著に見られる。1971〜76年出生 コーホートは、1965〜70年出生 コーホートよりも20代の払込保 険料が低く、同じく1977〜82年 出生コーホートは以前の出生コー ホートと比べ20代の払込保険料 は低水準である。ピークに向かう 勾配が緩やかなだけでなく、そも そものスタート時点が低水準に なってきているのである。  この状況を簡単に戯画化してい えば、図3-2-6のようになる。か つて払込保険料のライフサイクル の図が29歳以下の高いポイント からスタートして48〜53歳の ピークに向けて急峻に上昇して いったのに対して、近年の若い世 代のライフサイクルは低いところ から始まり、ピーク時でも山が低 いまま推移する可能性があるとい うことである。図中のAのよう なライフサイクルからなる人々か ら構成されていた保険市場の消費 者が、Bのようなライフサイクル からなる人々から構成されたもの に変わるとすれば、将来市場の推 移については厳しい見積もりを強 いられることになるだろう。払込 保険料は、急速に縮小していくこ とが予測されるのであるO 図3-2-6ライフサイクルの変化 1/匸  .  (3沛場規模の推移  ここまででは、個別の世帯(2 人以上の世帯)がどのような払込 保険料のパターンを示すように なっているのかを明確化した。し かし、実際の市場規模は、そこに 世帯数を掛け合わせないとわから ないO特に、団塊の世代や団塊 ジュニア世代など、世帯数自体が 多いコーホートがいると、その コーホートの行動が市場全体に及 ぼす影響が大きく表れるOその点 を考慮に入れた分析が必要なので あるOこのように世代別の市場規 模に注目して分析を進めていくと、 @市場規模の大きなゾーン(世 代)が市場から退出し、Aこれか らボリュームゾーンにならなけれ ばならない層が保険離れを起こし ていることが判明するO l 年齢効果と時代効果  図3-2-7で示したものが、払込 保険料に、世帯数と生命保険加入 率を掛け合わせた値の同一時点で の年齢間比較を行なったものであ る★8.この図で注目されるのは、 年齢効果の移り変わりであるOつ まり、市場規模のピークとなる年 齢層が、高齢化していくというこ とである。1994年の年齢効果で は、市場規模が大きな層は48〜 j  回矢鮒坤二仁71こ  個人のライフサイクルに注目し て払込保険料の推移を見ると、ど の時代・どの世代においても50 代前半がピークとなっていた。つ まり、人口のボリュームゾーンが 変化したことによって、市場規模 の年齢効果の形状が変化したため、 市場の大きさという視点で見ると、 どこが一番大きなセグメントであ るのかというのが変わってきてい るのである。  高齢者世代の市場規模が大きく なっていくこと自体は保険会社に とっては望ましい面もある。実際、 高齢者世代の世帯数はこの先も増 加していくと考えられるO しかし、 個々の高齢者に注目してみれば、 それぞれの個人が保険に対しても つニーズはそもそも低く、払込保 険料の水準も下がっていく傾向に ある。それゆえに払込保険料の低 下傾向を打ち消すほどに高齢者の 数が増えるという状況がいつまで 続くのかを注意深く見守らなけれ ばならない。また、今後は、高齢 層の中でもさらに高齢化が進むた め、加齢とともに保険料を支払わ ない顧客へと変わっていく人も出 てくるだろう。そうなれば、図 3-2-7の右端が徐々に上にシフト していく傾向も弱くなっていくこ とになるであろう。  各年齢階級によって、市場規模 の変化の仕方が異なることは、図 3-2-8の各年齢階級における時代 効果を確認することで明らかにな るO同図からは市場規模が拡大す る高年齢層と、縮小する低年齢層 の2つが存在することがわかるO 例えば、60〜65歳の曲線を見て みようOこの年代の市場規模は、 1994年の1兆1970億から2012 年には1兆5370億の市場規模へ と増加(28%増)していると推 定される。同様の傾向は66歳以 上の市場規模についても見られるO 先に見たように、1人ひとりの消 費者のライフサイクルからすれば。 この年齢層の払込保険料は低下し ているのだが、団塊の世代の高齢 化に伴って、この年齢層に入って くる人口が多くなっているために、 市場規模が大きくなっているので ある。 図3-2-B市唱迦梭の月一年齢厨の鴎点同比較 ☆⊇] ()                            .一一G6al!u・  1994  20c一丁  20cG 20'2・;年j ii・E.内|・1111111K・涓I;|・り蓚i。lql」1・」1・疾ぶ|11111'・7V->- ・1;fil.||'Jχ: iこ1:Ji'・7し一卜誦み 1111・li:2A.KI一則¨i駭;j・.a7 :|・|麕Iぷla.名il:・liより,MIIll,l=.Qiili』11:&f,|ll{iliII'Ixj}1‘,j!nlRili』. .・|:gliilillittンジー?.Q保肩i:lll・もtII・l.jミ.皀,凋皀・各卜・冫・]1:剔1:If 言言 以下という年齢層を見ると,時代 とともに確実に市場規模が低下し てきているO  先ほど見た、払込保険料の時代 効果では、総じて減少傾向が見て 取れたOこれに対し、世帯人口を 加味した時代効果では、増加する 高年齢層の存在が確認できたOつ まり、高齢化が進展し、払込保険 料の減少を上回るほど高齢の世帯 が増加したことによって、高齢層 の市場規模が拡大していることが わかるO II 出生コーホート効果 個々人の払込保険料と人口を掛 百弊 ダブル ,厶心立l  ひとつは、1941〜46年出生 コーホートや、1947〜52年出生 コーホートが示していたような市 場規模の水準に、それ以降の出生 コーホートが届きそうにない点で ある。同出生コーホートは、団塊 の世代と呼ばれる出生コーホート で、他の世代と比較して人口が多 かったO したがって同出生コー ホートは大きな市場規模を有して いたO しかしながら、この団塊の 世代以後の出生コーホートでは払 込保険料自体の低下も相まって、 市場規模が高い水準に達していな 廴丶。  例えば、1959〜64年出生コー ホートの推移を見てみると、 48〜53歳の時点まで市場規模が 伸びてはいるのだが、その水準は 団塊の世代の水準にはるかに及ば ないO 1947〜52年出生コーホー トの71%程度の水準に留まって いるのであるO  もうひとつの注目すべき点は、 団塊の世代が突出して大きな市場 を形成していたというばかりでな く、その後の出生コーホートを見 ても、若い世代へ向かうにつれて 市場規模が低下し、1953年以降 のすべての出生コーホートが、同 年代で比較した際、若い出生コー ホートの水準は、上の世代の出生 コーホートの水準を上回ることが ないということである(曲線がす べて下にシフトしている)Oつま り、すべての出生コーホートにお いて、水準が低下しているという ことであるO  具体的には、1965〜70年出生 コーホートが36〜41歳であった 水準と、現在36〜41歳である 1971〜76年出生コーホートの水 準を比較すると、前者が1兆 1190億円、後者が9750億円と前 者のほうが1440億円高い水準に なっている。これは、若年層にお いて生命保険の加入率が低下して いることに加え、先に見た払込保 険料の加齢に伴う上昇率が緩やか になっていることや、若年層にお ける払込保険料の水準が急速に低 下しているのが原因であろうOそ の結果として、高齢層を除くすべ ての年齢層において市場規模が縮 小している。  2人以上の世帯のみに限って見 ると、収入保険料は微減であった。 これが微減である理由は、すべて の世代・年齢層がおしなべて同様 に微減であったからではない。実 際に生じていたのは、本来、払込 保険料が減少していく50代後半 から60代の人々が、1人当たり の払込金額を減らしつつも、その 人数が増加していたために、全体 としては減少が緩やかであったと いうことである。直近の市場規模 の上昇は、払込保険料の上昇に よってではなく、世帯数の増加に 多くを依存していたO今後の市場 を担うべき団塊の世代ジュニア層 も払込保険料は大きく上昇してい ないO しかるに、今後の高齢層の 市場の縮小を、現役層の上昇で補 えない可能性が高いOこう考えれ ば、今後の生命保険業界でも2人 以上の世帯について見れば、市場 規模の減少傾向は強まっていくと 考えられるOこれを果たして単身 世帯市場が補えるかどうかが生命 保険業界の将来を占うひとつのカ ギとなるO 囲増加する単身世帯の市場と  生命保険市場の今後  今後の生命保険市場の動向は、 単身世帯がどれほど保険に加入し、 どれほどの保険料を払い込んでい くのかという点に左右されるだろ う。しかし以下の分析で示すよう に、今後、単身世帯数の増加ペー スが鈍化するために、たとえ加入 率が上昇したとしても、減少する 2人以上世帯の市場規模をこれま でと同様に補うことはできなくな る可能性が高い。つまり、単身世 帯市場は2人以上世帯の落ち込み を補うことができないのではない かと思われるのである。  2010年時点で、単身世帯数は、 現役層、高齢層ともに増加してい る(2000年比20.8%増)Oこのう ち、高齢層の単身世帯数の増加は、 死別・離婚などが原因と考えられ るO高齢者が、配偶者の死亡に よって保障内容を手厚くするとい うことは考えにくいため、高齢層 の単身世帯が増加したからといっ て、市場規模が大きくなるという 傾向は強くはないと思われる。つ まり、問題は、現役層の単身世帯 の市場規模がどのように変化した のかを考えればよい。  現役層の単身世帯が市場規模を 拡大していたのは、次の3つの要 因に分解できる。世帯数の増加と 加入率の増加、1人当たりの払込 保険料の増加の3つであるOこの 3つの要因すべてが近年の日本を 特徴づけている。  例えば独身世帯数は増加傾向に ある。現役層の単身世帯数は、晩 婚化や生涯独身傾向の高まりなど により2000〜2010年の間に 15.8%増加したO また、独身世帯 の加入率も増加傾向を示している。 2013年の加入率は2004年比で 9.9ポイント増であるO 1人当た りの払込保険料も同7.9%増と なっているOおそらく、独身でい る期間が長くなると想定した場合 には、自分が病気になった時のた めに医療保険への加入を考えたり、 将来の人生設計を考えて、貯蓄性 の保険に積立を行なったりするよ うになるのではないだろうか。  それでは、増加していく単身世 帯の市場の存在によって、生命保 険市場を楽観視していいのだろう か。直近における単身世帯の生命 保険加入率は49%と低く2人以 上世帯の78.4%という高い加入率 と比較すると30%近くの開きが ある★9.この数字を明るくとら えれば、今後加入率が上昇してい く余地が十分にある、ということ も可能であろう。また、拡大して いく単身世帯をターゲットとして、 生命保険会社各社が単身世帯向け の生命保険を販売していくことも 想定されるため、払込保険料が上 昇していくシナリオ七十分に描け るだろう。しかしながら、厚生労 働省の人口統計によると、単身世 帯の世帯数は直近がピークで、今 後は徐々に減少していくことが予 想されている。つまり、これまで のようなペースで単身世帯の市場 が拡大していくことは予想しがた いO  図3-2-10は、これまでの議論 を参考に、今後の生命保険市場を シミュレートしたものであるO同 図に示したように、生命保険市場 全体で考えたとき、この先減少し ていく2人以上世帯の市場規模を 補うほど単身世帯の市場規模が拡 大していかないため,決して行く 末を楽観視してはいけないだろうo 03-2- 10生命探険市嘱シミュレート                皿黯世lびらの収工恢・剽 110価ユII         o2λjt卜,冨から眤貨2λ保琲砿 12.000 H].000 1ヨ.(1100 寸.(1100 4000 ユ|Vノ|ノ|ノI)  0 2ロロロ    2c・c・6 2012 2018 2c・2x 2c3011堵嶝'I ilモ;1ミュしー・ノ.1.1二あたー,てlj.TI,igXJ乱二仙‘2を-ilIIいた.ぞンフk=1110511とL.:ll・低l]11駱4j.  11.QIILiil,2λl,I,1111L裂と41二,III妲|:会保障・太||「||」・idl・光一liの#pl・ldiiii」|ILた-2Å低回l・lilgJ・EI,」&  11哨扞lj、||¶tコ・・●・・1ごとに,11111刈|=・111;III ・jll,l・.LI・・;i・・}j・皿・きた食化*s≪.°ljl..JUIIA4:|二・  ・iと|.た.111」911!.lilc邱I.込ll険抖:1.11:;り0.5111 s}Ji』』||と1...』111λ;91か|:ll!」0.5ポ・fyl・sJ」卜』111き!Jコ lll・S・:|ll・li誦;j綛芻翕:lil夕a剥名11;一両jl;.|lll鷦・Filiい.11111nl:l毎:甲・Å||III:j鼈Ilq ・皿11“「:||・夲sXIII:.lil  嗤のll喙蓍.・μ全|嚠||.|・廴・:s13卜jli」,2A111.111;:116j民IIlll,l・.aall』閹Ag,||「:・IIIた;JI‘,曹保R扣」,  ゛|モ命g映えt・lyターフ,14111\険lこ|笥才&全;(|‘ilIs.・卜.工i・liより,111.jlll・i「幻啗rl」|=.蝨保瞋』」||Åや,  |||・Ilisly:;]j!,込保戚l=li』。l=すfi:農文正・l冫ター:,tgil\河口剩1・・11111.1柯il:・lllり‘li斤冖瀘  しかしながら,今後の市場の成 長を担うひとつのカギが若年単身 層であることに間違いはないだろ うO先に述べたように増加する若 年単身層は、単身であるという特 性上、自らの死後について考える というよりも、自らのけがや病気 について身近にとらえられるため、 医療保障に加入しやすいと考えら れるOつまり、今後の市場のひと つの重要なポイントは、若者の医 療保険への取り込みであるといえ るO  第3節「若者」「医療保    険」と親和性が高いイ    ンターネット生命保険  前節においては、日本国内の生 命保険市場が縮小していく可能性 が高いことを述べた。しかしなが ら、市場を詳細に分析していくと、 市場の中身が変容していることが 明らかとなった。中でも、若者を 中心とした医療保険の需要は今後 の市場を支える大切なポイントと なりそうであるO  若者と医療保険という2つの キーワードを考えたとき、既存の 生命保険会社にとって新たな脅威 と考えられるのが、インターネッ ト生命保険(以下ネット生保)で ある。なぜなら、販売チャネルの 特性を考えたとき、インターネッ ト・チャネルは、若者と、さらに 医療保険と親和陸が高いと考えら れるからだ。つまり、ネット生保 が、今後の生命保険市場全体の重 要なポイントである、若年層の医 療保険の分野で急速に拡大してい くために、既存の生命保険会社に とって十分な脅威となりえるので はないだろうかO  このような問題を考えるために、 本節では、3段階の議論を行なっ ていくO第一に、ネット生保とは どのようなものなのかについて簡 単に説明するO一般的に安価であ るという点と、医療保険が他の保 険と比較して、ニーズが身近であ るという商品の特性上、インター ネット・チャネルでの生命保険の 販売が、特に若年層を対象とした 医療保険に向いていることを指摘 するO  第二に、ネット生保の成長の鈍 化が見られるという指摘に対し、 生命保険への加入動機を3つに分 けることで分析するO現在の成長 の鈍化は、新しいサービスが誕生 したとき特有の、ベントアップデ マンドが消失したことによる一時 的な現象であるといえる。  第三に、インターネット・チャ ネルに対する顧客の意識を分析す るO顧客の意識をコーホート分析 していくことで、特に若年層にお いて、インターネット・チャネル に対する意識が好転しており、 ネット生保の拡大の土壌が醸成さ れつつあることが見て取れるO ・インターネット生命保険と  は  生命保険の販売方法は、戦後か らこれまで、対面チャネルでの販 売が中心であったO特に、大手生 命保険会社は多くの営業職員を抱 え、生命保険の販売活動を行なっ ていたO生命保険は、潜在型の ニーズの商品であるため、対面で の販売は、生命保険の販売に適し ていたといえるOここで「潜在 型」というのは、普通の人は何も きっかけがなければ「そうだ、保 険に加入しよう」と突然欲求を抱 くということが起こりにくい商品 だということであるO大切な友人 を亡くすとか、結婚や出産を綛験 するのでないかぎり、人生に潜む リスクを意識する人は少ない。  生命保険は、自分自身の健康に ついてリスクを強く意識するよう にならないかぎり、「いつ加入す るか」という加入の意思決定機会 そのものが顕在化しにくい商品で あるO しかし、本当のリスクが目 の前に来た時には保険料が高くな りすぎるOだから、「潜在的」で あるうちに、リスクへの気づきを 与えて早めに備えを始めるという のが適切であるOこのリスクへの 気づきを与える契機を営業職員が 提供できるのであるO  このように営業職員は生命保険 と適合的なチャネルであるのだが、 しかし同時にこの営業職員を多数 抱えることで、保険会社には人的 コストが多くかかるということも また事実である。この問題を克服 するひとつの方法がネット生保で ある。対面チャネルをインター ネットに置き換えて、販売をイン ターネット上で完結させるために、 ネット生保は従来型の生命保険と 比べ人的コストを非常に低く抑え ることが可能である。このコスト 節約分を保険料に反映させて、こ れまでの生命保険よりも安価な保 険を提供することがネット生保で は可能になる。  しかし、これまでの「常識」か らすれば、ネット生保が追求して いる価格訴求だけでは、顧客が保 険加入に踏み切ってもらえないの ではないだろうか。ネット生保に は、このような疑問が投げかけら れているため、近年のネット生保 の売上推移について、否定的な解 釈が支配的になっているように見 える。  2008年に、SBIアクサ生命保 険株式会社(現アクサダイレクト 生命保険株式会社)とライフネッ ト生命保険株式会社(以下、ライ フネット生命)が誕生し、その後、 ネット生保の契約件数は右肩上が りに増加してきたものの2013年 度に入るとその成長に陰りが見え 始めている。ライフネット生命の 2012年度の新規契約件数は2011 年度を下回った。また2013年度 の新規契約件数も、前年同期比を 下回っているO この傾向は、ライ フネット生命だけではなく、同じ インターネット専業で事業を行な うアクサダイレクト生命にも見ら れるO  もともと生命保険は、ニーズが 潜在型の商品であるといわれてき たO したがって、営業職員などを 介さず、インターネットを通じて ダイレクトで保険を販売すること は難しいと考えられてきた。この 考え方に基づいて、近年のイン ターネット専業企業の業績成長の 陰りを解釈するならば、「これま でのネット生保の成長は一時的な 変則的事態に過ぎず、所詮、潜在 型商品の生保はネットでは売れな いのだ」という見解の正しさを証 明しているようにも見えるOつま り、インターネットを通じた商品 の販売は、能動的に需要が発生す る商品とは融和陸が高いが、潜在 的な需要が存在する保険のような 商品とは融和陸が低いという本質 的な部分を社会全体で学んだ結果 が現状の停滞なのだという理解で ある。  ネット生保の将来性  それでは、ネット生保はこれ以 上の拡大は見込めないのであろう かO否、実際にはこの統計数字を 読み解くにはもう少し深く考える 必要があるO実際、ネット生保は この先急速に拡大する可能性が大 いに残されているOその理由とし て2つあげることができるO第一 に、現在のネット生保の成長鈍化 は一時的な現象である可能性が高 いということ。第二に、消費者の インターネットに対する選好が変 わりつつあり、インターネットと の関わり方の変化により、とりわ け若い世代については、保険とイ ンターネットとの親和歐が高まり つつあること。この2つの理由か ら、現在見られるネット生保の成 長鈍化は、次の成長へ向けた一時 的なものだと考えるほうが適切で はないか、というのが本章のスタ ンスである。  とりわけ重要なポイントは、医 療保険と若者の意識の変化であるO すでに述べてきたように、保険商 品には死亡保障を中心とする生命 保険ばかりでなく、けがや病気が 対象となる医療保険もあるO身近 な人が死亡するという事件はリス クを強烈に意識させるが、同時に 頻繁には起こりにくい。それより も、職場の同僚がけがや病気で入 院するほうが頻度は高いであろう。 医療保険は比較的心理的な障壁が 低いと考えれば、営業職員による プッシュがなくても、顧客が比較 的スムーズに医療保険に加入する 可能性が残されている。  このように考えると、ネット生 保の拡大へのカギとなるエント リーポイントは、当面の間、死亡 保障ではなく、医療保険となる可 能性が高い。つまり、まず医療保 険に入り、その後、知識が蓄積さ れ、ライフイベントが生じること で、死亡保障にも入る、というパ ターンが見られる可能性があると いうことであるO  インターネットそのものへの抵 抗感が薄れ、ネット保険が認知さ れれば、価格で優位に立つネット 保険は、十分に選択肢として想起 されるようになる可能性があるO 今後、若い単身世帯が増加してい くなかで、医療保険の加入が増加 し、その際にネット生保が選択肢 にあがることでネット生保が拡大 していくシナリオは十分に予想で きようO本節はこの点を分析して いくO 目ペントアップデマンド消失  による一時的成長の鈍化  現在のネット生保の需要低迷は、 ベントアップデマンドが消失した ことにより、一時的に成長が鈍化 しているように見えているだけだ という可能性があるOベントアッ プデマンドとは、繰越需要や繰延 需要などと訳され、本来顕在化し ておかしくない需要が次の時期に 繰り越されて出てくる需要のこと をいうO例えば景気後退期などに 買い換えを我慢していた顧客の需 要は累積的に積み上げられていて、 景気回復期にそれが一気に顕在化 するOこのように繰り越される需 要をペントアップデマンドというO 類似の現象は新しい製品・サービ スが登場したときなどにも見られ る。これまで欲しかったけれども 利用可能ではなかった製品・サー ビスの潜在需要が厚く累積的に積 み上がり、「これが欲しかったの だ」という新製品・サービスの登 場によって一気に需要が顕在する。 これまで潜在化していた需要が一 気に顕在化することによって一時 的に需要が急拡大するが、同時に、 その累積的に積み上かっていた需 要が一巡すると、定常的な需要部 分へと落ち着くのであるOこのポ イントを理解するために簡単な仮 設例を考えて見ようO  例えば25歳以上の大が欲しが る新製品が登場したとしよう。こ のとき、登場した直後の市場は 25歳以上の人口すべてである。 欲しいと思う大が多数累積されて いるので、当初は相当量の需要が あるO しかし、次の年は、@新た に25歳になった人の中でこの製 品を欲しがる大と、A26歳以上 でまだこの製品を購入していない 大が対象になる。最初の年に購大 した大が多ければ26歳以上でま だこの製品を購入していない大が 随分少なくなっているに違いないO さらに次の年には、また新たに 25歳になってこの商品を購入す る大と、それまで購入していな かった人の合計が需要になる。こ の後者の需要部分(まだ購入して いない対象層)は、新製品導入時 には、あたかも在庫が積み上がっ ているように、満たされない需要 として「積み上がっている」のだ が、これが解消されると、毎年の 需要量は徐々に新規に顧客対象に なる人の流入量と等しいところに 近づいてくる。  このように考えるなら、初期段 階の「満たされていなかった需要 部分」が解消されるまでは旺盛な 需要が見られ、それが解消される と、毎年新たに生まれる需要部分 のみになるので、一見、需要が低 迷しているように見える。しかし、 それを「衰退」と考えてはならな い。「需要の繰り越し」あるいは 「需要の積み残し」が解消された 後の安定需要期に入っだと考えな ければならない。そうなると、残 された問題は、安定需要期に入り、 次々と新たに顧客対象になってく る顧客層がどれほど多くこの製品 に引きつけられるようになってい くかというポイントの見極めにな るOベントアップデマンドについ て、ここで考えたいのはまさにこ のような問題であるO  3つの加入方法から見た分析  簡単にいえば、需要を「過去か らの積み残し」の部分と、「新た な流入」部分の2つに分けて、こ の「新たな流入」部分がどれほど 低下傾向にあるのか、増加傾向に あるのかということを見極める必 要がある、ということである。こ の点を理解するために、生命保険 への加入の仕方を、次の3つに分 類して考えることにしよう。 @ 生命保険契約がない状態か  ら加入する新規加入:この部分  は純粋に新規流入分であり、今  後の定常的な需要を支える部分  である。この新規生命保険加入  者のうち何%がネット生保に流  れているかという点を注視して  おかないと長期的な判断で間違  いを犯すことになる。 F 既存の契約に追加して加入  する追加加入:この部分も、新  規流入分である。ただし、すで  に何らかの保険には加入してい  るので、既存の累積された顧客  層が前提になっており、場合に  よっては、この追加加入が増え  ると、タイムラグを経て、次の  「見直し」によってネット生保  に切り替える潜在的な顧客層が  増える可能性がある。 B 既存の契約を見直して加入  する見直し加入:この部分がほ  ぽペントアップデマンドに対応  する。すでに他の生命保険に加  入している累積顧客ベースが大  きかったので、その中で早めに  切り替える人のプールが存在し  たと考えると、その大たちが急  速にネット生保に切り替えるこ  とで、初期の成長を支えていた  可能性があるO  このように3つの部分に分かれ ることを理解した上で、図3-3-1 を見てみることにしようO同図は、 ライフネット生命の新規加入件数 を、加入方法による内訳を見たも のである。同図からは、ネット生 保の始まった2008年から3年後 の2011年までは、成長の原動力 として、新規加入ばかりでなく。 「見直し」が貢献していたことが 明らかになるOまた2012年にラ イフネット生命の新規加入数が頭 打ちになっだのは、新規流入分 (新規十追加加入)は増えている ものの、「見直し」が減少してい るからであるO新規は一定水準を 維持し、また将来の見直しにつな がる可能性のある追加加入は増え ているOこの全体的なパターンを 見るかぎり、ネット生保の新規加 人件数が頭打ちになったからと いって、その勢いが止まったと判 断するのは早計であろうO H3-3-1ライフネット生S叨新規jl入件数 鷁7 S口OQO ̄o雷l・ 5口.000 ご一千ニノiノ!ノノ11 2°゜゜゜   o       ̄   ̄ -]⊇\S\i\■\I/  。寺 。  I C・  凵  12(年糒) 「HI*:りイフi・・gF」|:.Q・-ふページより“li名・作成  生命保険はスイッチングコスト が高い商品であるため、保険の見 直しには一定以上の動機が必要と なる。ネット生保初期段階におい て、最も早くスイッチする特定の 顧客層、すなわち、イノベーター や、価格弾力性の非常に高い層が 保険の切り替えを終えたため、一 時的に新規契約の成長が鈍化して いるのではないだろうか。これま での成長は、ベントアップデマン ドによって一時的に押し上げられ ていたように見えていたためであ り、現在の成長の鈍化はこのペン トアップデマンドの消失によるも のである、と考えるほうが適切で あるように思われる。 囲インターネット・チャネル  に対する顧客の意識  ネット生保が今後本格的に既存 の市場を侵食していくのか否かを 考えるには、新規流入部分をどれ ほど奪えるかを見る必要がある。 とりわけ新規加入者のような比較 的若い世代が、生命保険をイン ターネット経由で購入するという 購買行動を示すようになるのかど うか、という点を考えておくこと が重要である。このインターネッ トを介して保険を購入する行動が 若年層から浸透して徐々に一般化 していけば、何年か後に追加加入 の層もインターネット経由が増加 していくことになると思われる。 この点を考察するためには、イン ターネット・チャネルについて、 顧客の意識がどのように変化して いるのかを明らかにする必要があ る。ここでは、前節において用い たコーホート分析の手法を用い、 顧客のインターネット・チャネル に対する意識を分析していくO  分析を進めていくと、若い世代 を中心に、一般にインターネッ ト・チャネルに対する選好は高 まっており、インターネットでの 金融取引も徐々に拡大しているこ とがわかる。これまでインター ネット・チャネルには「なじみや すい」と思われていた財・サービ スばかりでなく、金融取引までイ ンターネット経由で活発化してき ているということは、今後のネッ ト生保の拡大への土壌が出来上が りつつあると考えることができる ように思われるO  年齢効果と時代効果  図3-3-2は、今後、インター ネットから生命保険に加入したい と考える割合の年齢効果である。 同図では、どの時期の調査でも 29歳以下が低く、33〜35歳の年 齢層で高くなり、その後低下して いるというパターンが見られる。 S3- 3-2インターネット・チャネルに対する顧客笳瀰 (%)      一同一時点悶の年飴肥比較 20.0            -20回G年 180   - =2c09年 160                                            pnlp年 140 120 10.0 80 60 40 20 ,@]   291口!30~35直36~4'烝42~17筬48~53a54~591 60~651 111所:゛ljli保険・文化-ヒ冫ター「・'I'.lfirM*にllするな|・l,卜聴ljll査」各年Ji例!I,‘1データより1・:・a・皿皿  29歳以下の関心が低いのは, おそらくインターネットへの関心 が低いというよりも,単に保険に 関する知識が薄いことの反映であ るように思われる。実際29歳ま での年齢層は、生命保険会社から の営業職員からの加入を望む割合 が33.8%と、30代の29.5%と比 較すると高いことがわかる。  同図で注目すべき点は、年齢効 果の曲線が、時を経るとともに上 にシフトしていることである。特 に若年層において曲線の上昇幅は 大きくなっている。例えば2009 年の20代の割合は、9.9%である のに対し2012年では15.6%と、 5.7ポイントも上昇している。若 い世代であればあるほど、イン ターネットを利用して情報を収集 する傾向が強く、インターネッ ト・チャネルを選好する傾向が出 てきているのではないだろうか。  この傾向は、図3-3-3で示した、 インターネットからの加入意向の 推移の時代効果を見るとさらによ くわかる。同図からは、先ほど確 認したように、インターネットか ら生命保険に加入したいと考える 割合が時を経るとともに上昇して いるのが見て取れるO図中の一番 上に描かれている33〜35歳の年 齢層を示す曲線では2006年には 仕4%であった割合が2012年に は19.0%と、7.6ポイントも上昇 している。2008年にネット生保 が創業し、ネット生保の認知度が 上がってきたことが主な要因だと 考えられるが、1.7倍に増えてい る点は注目に値するO '宍と二謚4でTT  ・・J    。づ●  ―冫・9迴u丶  匸三白二三  8.0                       ̄ ̄/ ̄ ̄  ユノニ    卩[。][。]L5  2l.]1.19  p[JI;コ1琢でI  nlりMp151夊tそンター'tliiM!iに111了る貨lll次珊、;lijFIモlli・IsIIデー92:;爭泪li・  ここに竺。。 二次昌なお 3-4で表したのが、インターネツ 卜からの加入意向の出生コーホー ト効果である。同図から、ネット 生保の今後の需要動向を探る上で 重要なポイントが2つ読み取れる。 1点目は、若い出生コーホートで あればあるほどインターネットか らの加入意向か高くスタートして いるということである。例えば 1977〜79年出生コーホートでは 20代の時点で8.8%の値を示し、 1983年以降出生コーホートでは 20代の時点で15.6%の値を示し ているO  7:3-3-4夕a二趾ら二に詰1湿rl゛s‘l -ぶこ応   /2bo                     −▲−195c-52年    11コー,E・i-卜   二20.01                     -●-・193e-bJ年   itコーs-卜  15.1j     ●●                                   1962一回年   卜匹   1主コー-卜  10.0   一一一ダ         1962・ア一丁年   |     /゛`″A  −.弋サ士  5.0                                    −●・197^-万年   |●一一゛s。     11コーi-卜                              19,「ノーノ9年  口.0之    11コーt-卜   急|||||||||||lg   汕・ヨ12 35 38 41 44 47 5C 53 56 59 62 65 J  19sqt・`陦   7盧蟶旋旋癨皈s癨峨s莖皈ヒ   `M     Xil卜jiljl口しJ以圸   1↑コーg-卜     下下・下下・下下・下下下  a.:n=|牢・4:al・.,い{つjヽXXIIl,jリー・-|・IJ1111匐を亠・|;じて11ないもiXIJ,伺jJ仙eIJ!|¶,lリー;5-|・   と1111じぶうなisIIIIIをぷしてぃる  1111;li:,ljliiQI険割|;センターj・|=.応1111こ|・tす全|・hl戈葱lll発.各11EJli仮il.!データll卩1削“|=・   2点目は,若い現役世代になる ほど,加入意向が加齢とともに増 加する程度が高まっているという ことであるo 1956〜58年出生 コーホート以後は,すべての世代 が右肩上がりの曲線になっている が、若いコーホートになればなる ほど、その右肩上がりの曲線の傾 きが急峻になってきている。若い 世代ほど、そもそもインターネッ トに親和する層になっているとい うばかりでなく、現在の時点であ る程度の年齢層に到達している世 代も、インターネットとの関わり 方が深くなるように学習が進んで きているように見えるO  このような傾向は、生命保険に 関する今後の意向に見られるだけ ではなく、他の分野での消費者の 実際の行動にもすでに表れている。 図3-3-5は、インターネットで金 融取引を利用したことがない人の 割合を表している。同図からは、 インターネットでの金融取引は拡 大していることがわかる。また、 その傾向は若い世代層ほど強いO 例えば2006年で30代の値は 48%であったのに対し2010年に は37.3%まで低下しているO 50 代では、62.6%が、57.6%へと、 30代ほどの低水準ではないが、 同じく低下傾向を見せている。今 後、若い世代においてインター ネットでの金融取引が拡大してい けば、時代を経るとともに、さら にインターネットでの金融取引が 一般的になっていくと考えられる。 写-3-5世l弋別インターネットで金融取引をill用したことがない割合 65.0・        圜' 600' へ     30代 こ  ゛“゛`一一-。 卜々-゛ 二 匹  −●-50代 35.0                                       一睡−60代 六六 t・li:|]辟Iμj・一子勿耐総合‘Ji.a圃査丿金碵RjlJAR.・ilaμlyl.:2口10年:よ11゛11名・作皿  つまり、インターネット取引の 拡大は、金融業界においても例外 ではなさそうだということである。 事実、銀行や証券、損害保険にお いては生命保険業界よりも先行し てインターネット化か進んでいる。 各業界においてインターネット専 業で業務を行なう会社は右肩上が りで成長しており、一定以上のプ レゼンスを発揮している。生命保 険業界においても同様の流れが起 きると考えられるO 第4節 まとめ  ニーズが「潜在型」であり、こ れまで営業職員での販売が中心で あった生命保険業界において、イ ンターネット・チャネルでの販売 がどの程度拡大していくか否かと いうことは非常に興味深いテーマ である。  生命保険という商品は、ニーズ が「潜在型」であるがゆえに、そ の必要性はわかるものの、いざ加 入するという行動になかなか移り にくい。したがって、インター ネット・チャネルへの加入意向か 高まっていたとしても、いかにし て加入させるかという仕組みが構 築されていかないかぎり、急成長 は難しいとも考えられる。つまり、 顧客がどのような経路をたどって インターネット・チャネルから生 命保険に加入するのか、という情 報が決定的に重要となるだろう。 インターネット損保や、インター ネット銀行などの他の金融サービ スを行なうホームページからの流 入が考えられるのか、または盛ん に見直しを勧めるCMに絶大な 効果があるのだろうかO  どのような経路からネット生保 へと流入してくるのかというエン トリーポイントの認識は、今後の ネット生保、さらには若い単身者 の保険商品市場での競争にとって 非常に重要な状況になる。そして この情報は、既存の営業職員チャ ネルから得られるのではなく、実 際にネット生保のサービスを展開 することで獲得され、蓄積されて いくことになるはずであるO既存 の生命保険会社は、すでに営業職 員チャネルを保有しており顧客情 報を熟知しているとか、インター ネット・チャネルの規模はまだま だ小さいなどといって、インター ネット・チャネルを無視すること はできないのではないだろうかO  本章で目的としていたのは、あ くまでも市場のメカニズムの解明 であり、市場予測ではない。本章 では、主に、コーホート分析とい う手法を用いることで生命保険市 場を2つの観点から考察した。ひ とつは顧客の生命保険加入行動の トレントの変化から見る生命保険 市場の動向である。一見すると平 穏な推移に見えた生命保険市場も、 顧客を年代別に分けて分析してい くことで、水面下では市場が大き く変容しようとしていることが明 らかになったO  2つ目に、生命保険の販売チャ ネルという観点から、新たに登場 したインターネット・チャネルに 対する考察を行なったO本章では、 この先の市場の拡大が見込める医 療保険の若者単身世帯を契機に、 インターネット・チャネルが拡大 していくのではないかという読み 筋を示したO  これまで見てきたように、市場 は、1人ひとりの顧客の行動を足 し合わせたものである。戦略を策 定する際には、市場のトレントを 把握することが重要であるのはい うまでもないが、市場全体の集計 数字だけをみて判断するのではな く、顧客の1人ひとりのトレント への分解・分析を行ない、マクロ なパターンの背後にあるメカニズ ムを把握することが重要なのであ るO  参考文献  〈書籍〉 岩瀬大輔[2009]、『生命保険のカラ  クリ』文藝春秋 出口治明[2008]、『生命保険はだれ  のものか』ダイヤモンド社 出口治明[2009]、『生命保険入門新  版』岩波書店 ニッセイ基礎研究所[2011]、『概説  日本の生命保険』日本経済新聞出  版社 沼上幹[2000]、『わかりやすいマー  ケテイング戦略新版』有斐閣 沼上幹十一橋MBA戦略ワーク  ショップ[2013]、『戦略分析ケー  スブックVol.3』東洋経済新報社 株式会社保険研究所[2002]、2002  年度版『インシユアランス 生命  保険統計号』 株式会社保険研究所[2003]、2003  年度版『インシユアランス 生命  保険統計号』 株式会社保険研究所[2004]、2004  年度版『インシユアランス 生命  保険統計号』 株式会社保険研究所[2005]、2005  年度版『インシユアランス 生命  保険統計号』 株式会社保険研究所[2006]、2006  年度版『インシユアランス 生命  保険統計号』 株式会社保険研究所[2007]、2007  年度版『インシユアランス 生命  保険統計号』 株式会社保険研究所[2008]、2008  年度版『インシユアランス 生命  保険統計号』 株式会社保険研究所[2009]、2009  年度版『インシユアランス 生命  保険統計号』 株式会社保険研究所[2010]、2010  年度版『インシユアランス 生命  保険統計号』 株式会社保険研究所[2011]、2011  年度版『インシユアランス 生命  保険統計号』 株式会社保険研究所[2012]、2012  年度版『インシユアランス 生命  保険統計号』 生命保険文化センター[1994]、平  成6年度『生命保険に関する全国  実態調査』 生命保険文化センター[1997]、平  成9年度『生命保険に関する全国  実態調査』 生命保険文化センター[2000]、平  成12年度『生命保険に関する全国  実態調査』 生命保険文化センター[2003]、平  成15年度『生命保険に関する全国  実態調査』 生命保険文化センター[2006]、平  成18年度『生命保険に関する全国  実態調査』 生命保険文化センター[2009]、平  成21年度『生命保険に関する全国  実態調査』 生命保険文化センター[2012]、平  成24年度『生命保険に関する全国  実態調査』 ※本章で行なったコーホート分析に  当たり、東京大学社会科学研究所  附属社会調査・データアーカイブ  研究センター SSJデータアーカ  イブから『生命保険に関する全国  実態調査』(生命保険文化セン  ター)の個票データの提供を受け  た。 生命保険文化センター[2004]、平  成16年度『生活保障に関する調  査』 生命保険文化センター[2007]、平  成19年度『生活保障に関する調  査』 生命保険文化センター[2010]、平  成22年度『生活保障に関する調  査』 生命保険文化センター[2013]、平  成25年度『生活保障に関する調  査』 日経リサーチ金融総合定点調査  [2006]、『金融RADAR』 日経リサーチ金融総合定点調査  [2010]、『金融RADAR』  〈雑誌〉 週刊東洋経済臨時増刊『生保・損保  特集号2013年度版』東洋経済新報  社  〈ウェブサイト〉 総務省統計局『日本の統計2013』  (http://www.sは.goj p/data/nihon/  indexl.htm) 内閣府 国民経済計算確報(http://  www.esri.ca0.goj眄p/sna/kakuhou/  kakuhou_top .html) ライフネット生命保険株式会社 株  主・投資家情報(http://ir.lifenet-  seimei.co.jp/) ★1 生命保険会社全体の収入保険 料を見る際には、団体保険などの 収入保険料を含む数値を見ること が一般的であるが、本章では、後 に個人保険にフォーカスを当て分 析を行なっていくために、個人保 険の収入保険料の推移を記載した。 なお、団体保険などを含む全体の 収入保険料の推移を見ても、傾向 はさほど変わらない。 ★2 図3-1-2で示している生命保 険会社全体とは、生命保険協会に 加盟している会社(2012年度末43 社)である。2007年10月に、郵 政民営化によって、簡易保険を引 き継いだかんぽ生命が設立された。 簡易保険とは、民間の生命保険と 異なり、支払いに政府の保証が付 くことや、法人税などの納付が不 要であるなど、多くの点で民間の 保険会社と比べ、有利な競争条件 を与えられていた。そのため、簡 易保険は日本最大規模の保険事業 であった。 ★3 生命保険の主な払込方法には、 一時払い、年払い、半年払い、月 払いの4つがある。月払いとは、 毎月1回指定の方法で保険料を支 払う方法である。これに対し一時 払いは、契約時に保険期間全体の 保険料全額を一時に払い込む方式 である。まとまった金額を払い込 むほど、保険料総額は安く設定さ れている。実態的には、個人保険 では月払いで保険料を払い込む契 約の件数が圧倒的に多い。その一 方で個人年金では、一時払いで保 険料を払い込むことが多い。 ★4 2008年から2012年にかけて、 一時払いの個人保険の収入保険料 は4.3倍に増加している。この一 方で、同期間において新規契約件 数のうち、終身保険の新規契約件 数が2.1倍へと増加している。収 入保険料と件数という異なる数値 を比較しているが、一時払いの個 人保険のうち、増加に大きく寄与 したのが終身保険であると推論す ることは違和感ないだろう。 ★5 一時払い終身保険は、契約時 から、一時払い保険料よりも大き な保障(死亡保険金)が発生し、 保障は生涯にわたり確保される。 また、解約返戻金は、短期間(モ デル例では4年目)で元本(一時 払い保険料分)を回復し、以後は 元本が保証されたまま増加してい く。このように、一時払い終身保 険は、短期で解約すると元本割れ を起こすデメリットはあるが、解 約返戻金の利回りは定期預金より 良い場合が多く、保険商品という よりは、一時的に余剰資金を預け 入れる預金のような機能をもって いることがわかる。つまり、低金 利である現在の市況を反映し、投 資・貯蓄先のひとつとして一時払 い終身保険が選好されていると考 えられる。今後の市況の変化に よってはこれ以上の拡大が見込め ないばかりか、新規契約が取れな い、既契約の保険が解約されるな どの状況に陥る可能性がある。 ★6 住宅購入に伴い住宅ローンを 組むと、基本的に団体信用生命保 険に加入する。団体信用生命保険 は、住宅ローンの返済中、契約者 が死亡した場合、保険会社がロー  ンを返済するものである。した  がって、住居の購入によって以後  の住宅費用が必要となくなるため  必要補償額は減少する。 ★フ コーホート分析の解説につい ては、沼上十一橋MBA戦略ワー クショップ[2013]第1章、第2 章を参考にしている。 ★8 直近の2人以上世帯数(2010 年)は、団塊の世代と呼ばれる 60〜66歳や、団塊の世代ジュニ アと呼ばれる36〜41歳が他の世 代と比べ、世帯数が多い。また、 民間生命保険加入率(2012年)は、 30代から7割を超え、多くの保険 が必要となる50歳前後で85%を 超えるなど、加齢とともに高くな る傾向がある。 ★9 単身世帯の加入率は、『生活 保障に関する調査』(2013年)よ り2人以上世帯の加入率は、『生命 保険に関する全国実態調査』(2012 年)より 第4章 造船業界におけ   る市場地位別の競争   戦略分析   一水平分業化進行の    可能性  本章では、造船業界におけるグ ローバルな企業間競争を、リー ダー企業である韓国の現代重工業 の行動を中心として読み解いてい く。ここで造船業界に注目するの は、日本企業が世界市場で直面し ている典型的な競争環境の変化が この業界で鮮鋭に観察されるから であるOかつて日本企業は欧米企 業からシェアを奪って世界首位に 立ったが、近年は韓国企業にその 座を奪われ、さらに中国企業が台 頭してきているO しかし、大きな トレントとしては国際競争力の変 遷が起こる中でも、日本企業の中 に独自の競争ポジションを維持で きている企業もある。欧米→日→ 韓→中という国際競争力の変遷に さらされている他の業界にとって も、こうして強いポジションを確 保している日本企業の戦略的な特 徴を学ぶことは意義深いのではな いだろうかOこのような問題意識 に基づいて、本章では主に韓国と 日本の企業に視座を置き、市場地 位別のマーケティング戦略のフ レームワークを用いて考察を巡ら せていく。  本章の結論を先取りすれば、次 のとおりであるO  第一に、造船市場において、 リーダー企業(現代重工業)が とった生産能力の規模拡大を伴う フルライン・フルカバレッジの製 品戦略は、短期的には成功したが、 長期的な視点からは最適ではな かった可能性が高い。  造船市場は、需要変化の波動が 約30年という長期の間隔で大き な上下変動をしながら、数十年か ら100年単位の超長期的には右肩 上がりに成長していくという構造 的な特徴をもっているO仮に15 年の成長フェーズの後に、15年 の衰退フェーズが到来すると考え てみてほしいO 15年という期間 は、小規模企業が大規模企業に成 長するのに絶好の機会であるが、 同時に大規模企業が倒産するのに も十分な長さであるOこれが繰り 返され、しかし超長期では成長す るというところに、造船業界の特 徴がある。一方では、長期需要変 動における停滞期にも存続できる ように固定費を無駄に高くしない ような戦い方が望ましいように思 われるO しかし同時に、需要の成 長フェーズではできるだけ早い夕 イミングでの積極的な投資により 市場シェアを高めることも必要で あるOそれゆえ、超長期では成長 トレントにある市場において、比 較的長く続く成長フェーズと、同 じく比較的長い停滞期をどのよう に戦っていくのかという全体観あ るいは戦略観が必要な業界なので ある。  この両者のバランスをいかにダ イナミックに読み込むかという点 が重要だと考えるならば、従来の 市場地位別マーケティング戦略の 定石を盲目的に当てはめることの 危険性が見えてくるだろうO需要 の好調期にリーダー企業の定石を そのまま当てはめてフルライン・ フルカバレッジの戦略を採用する と、それを達成するための固定的 な設備投資がオーバーシュートし やすい。  本章の結論の2つ目は、この リーダー企業の過剰投資によって、 停滞フェーズでは他の企業が独特 の戦略を遂行できるようになる、 ということであるO造船市場にお けるリーダー企業の過剰投資は今 後、造船需要が停滞期を迎えるに 当たりドックの低稼働率という問 題をもたらす。このドックの低稼 働率を逆手にとって、リーダー企 業をはじめとする造船企業をある 種の「下請け」として活用するポ ジション取りが可能になるO典型 的には、通常の船舶に高度技術を 上乗せするような海洋資源開発用 の船舶を企画する企業にとっては、 船舶部分の建造・改造を安価に調 達できるようになるということで あるO逆に成長フェーズで積極的 な設備投資を行なったりーダー企 業は、海洋資源開発船の船舶部分 を受注することで、需要の衰退期 を生き残ることが可能になる。  このような船舶部分の低コスト での生産という機能と、そこに上 乗せする資源開発システムの企画 という機能が分化することを観察 すると、船舶市場でも水平分業化 が進んでいく可能性が示唆されるO これまでの造船市場では垂直統合 のビジネス・モデルをもつ企業間 の競争が前提となっていたが、新 しい海洋市場では水平分業のビジ ネス・モデルをもつ企業との競争 や補完を考慮する必要があるとい うことを示唆しているOつまり、 リーダー企業をはじめとする主要 な企業の過剰投資を契機として、 業界が水平分業化に進むインフラ が整えられる、ということである。  このような結論に到達するべく、 本章では次の手順で議論を進める こととしたいO第1節では、市場 地位別マーケティング戦略のフ レームワークを用いて、本章の分 析対象となる企業を分類するO第 2節では、分析の前提となる造船 業界の特徴を説明するO第3節で は、2000年以降の造船市場にお いて各社がどのような戦略をとっ たのかを示し、それぞれの戦略を 評価するO第4節では、造船好調 期にリーダーをはじめとする大手 造船会社がとった過剰な固定設備 を伴う行動が、今後の海洋市場に 与える影響を考察する。第5節で は、第4節までに得られた結論を まとめるとともに、今後の戦略策 定に向けて得られた知見を明らか にしたい。 第1節 市場地位別の分   類   − 圓本章の分析対象企業  本章では、造船業界の中から、 韓国企業2社と日本企業2社を事 例として取り上げ、それぞれ次の とおり市場地位別に分類する。韓 国企業のうち、業界首位の現代重 工業をリーダーとし、その座を奪 おうとするチャレンジャーとして サムスン重工業を取り上げる。圧 倒的な規模を活かしてフルライ ン・フルカバレッジの戦略をとる 現代重工業に対して、サムスン重 工業は高付加価値分野に集中する ことで堅実にシェアを伸ばしてい る。戦い方の異なる韓国企業2社 の競争状況を具体的に読み解くこ とで、韓国企業の成功要因を安易 に為替レートの安さや積極的な投 資姿勢、技術の模倣に求めるよう な短絡的な思考から脱却した深い 分析が可能になるO  日本企業のうち、中堅造船会社 の名村造船所をフォロワーとし、 三井海洋開発をニッチヤーと位置 づける。名村造船所は創業100年 以上の歴史をもつ中堅造船会社で あり、近年は現代重工業やサムス ン重工業を上回る営業利益率を達 成している。名村造船所の製品の 中心は、低付加価値製品に位置づ けられる「バルカー」という種類 の船である。バルカーの建造は技 術的にそれほど難しくないため、 中国等の新興企業の参入が最も多 いO名村造船所が利幅の薄いはず の製品系列に特化しながら、いか にしてリーダーやチャレンジャー を上回る利益率を実現しているの かを分析するOこれに対して、三 井海洋開発は、新たな成長市場で ある海洋市場で先行して、独自の 生存領域を築いてきたO海洋市場 というのは、海洋資源開発のため の船の市場であり、海底油田から 原油を引き上げてタンカーに積み 込むための船などがその典型であ るOかつて海洋市場には囗本の他 の大手造船会社も参入していたが、 ほとんどの会社が撤退していったO 当時は、市場自体が未発達であっ たことに加えて、海洋資源開発用 の特殊船の建造には技術上・事業 上のさまざまなリスクが存在した ため、多くの企業が十分な利益を 出せなかったのである。しかし、 三井海洋開発は、粘り強く海洋市 場で経験を積むことで、技術力を 高めてきただけでなく、ビジネ ス・モデルを洗練させていったO このような三井海洋開発の特異な ビジネス・モデルを説明するとと もに、今後、リーダー企業をはじ めとする大手造船会社が海洋市場 への参入を進展させた場合の影響 を考察するO 目各社の業績の推移  図4-1-1は、分析対象企業であ る現代重工業とサムスン重工業、 名村造船所の3社と比較対象企業 回万万 ⊇。1=ij j   韭丿呉  図から、リーダーである現代重 工業が、2000年代に大きく売上 規模を伸ばし、圧倒的な地位を築 いていることは明らかである★1. 2012年における現代重工業の売 上高は、チャレンジャーである業 界2位のサムスン重工業のそれの 約1.58倍である。さらに、その サムスン重工業と日本の重工系造 船会社5社合計の売上高がほぼ同 規模であり、韓国企業と日本企業 とでは規模には大きな差が存在す ることも、この図から読み取れる であろう。  現代重工業の利益率低下と他  3社の業績  図4-1-2は、各社の営業利益率 の推移を示しているOこの図から 2つのポイントを指摘したい。第 一に、現代重工業の利益率が近年 低下傾向にあり、2012年にはサ ムスン重工業を下回るようになっ ている、という点である。現代重 工業の利益率は2005年から上昇 して2010年には17.5%という高 い水準にまで達した。しかし、そ の後、現代重工業の利益率は下降 して、2012年には5.9%となり、 サムスン重工業が8.3%でそれを 上回っている。第二に、フォロ ワーである名村造船所の営業利益 率は、2004年以降に上昇して、 2012年時点では14.4%に達し、 現代重工業とサムスン重工業を上 回るまでになっている。名村造船 所の利益率の高さは、同じ経済環 境下に置かれている日本の重工系 造船会社と比較するとさらに明確 になる。2002年から2003年にか けては名村造船所も重工系造船会 社も大きく利益率を低下させてい るが、翌年から名村造船所の利益 率は上昇し、重工系造船会社との 差が大きく開いている。 ・ご1-2主要企堊の宮麋利蝨乖の推移 2cI.c¶ 15.c’         − 10.c’                        一。-?1一一コ→一騙化・工瑩   j、ブ]TTj………=、・=・エ・  5.゜气`I气  /?・`ヽ●-4‘4`●’ ・-◆一口4・エ・ja・5tcil  0.c  `、……い 4a・  千千  2回Ξ・xJ05 c6 17・况Ic9 1冂1・で2;t・。 臨号元こ。7。澁;=4・・……・・・●=l・・・・=l・-・・……・--一日自・・=●’・・・、・・ ・。  ニッチヤーである三井海洋開発 の業績推移は、他の企業とは分け て、図4-1-3に示している。三井 海洋開発の売上高は増加傾向にあ るものの、営業利益はむしろ低下 傾向にあるO しかし、これは同社 の業績が低下しているというより も、三井海洋開発が進めているビ ジネス・モデルの変更のために、 財務諸表土の営業利益では評価し づらい利益構造になっているため であるO 二]] 二二 百二才 と合弁して関連会社を設立して運 営されるため、三井海洋開発の財 務諸表の営業利益には反映されな い。しかし、実際には、三井海洋 開発は関連会社を通じて多くの利 益を稼いでいる。図4-1-3の棒グ ラフでは、三井海洋開発の連結財 務諸表土の営業利益に加えて、関 連会社(持分法適用会社)の持分 割合調整後の営業利益を表示して いる★20 2012年における三井海 洋開発の財務諸表土の営業利益 34億円に対して、関連会社の営 業利益はその2.4倍の83億円に まで達している★3。  売上規模を順調に伸ばしてきた 現代重工業の利益率低下、サムス ン重工業の着実な利益率向上、名 村造船所と三井海洋開発の高業績 は、どのように説明できるのだろ うかO本来であれば、業界のリー ダー企業が最も多くの利潤を獲得 し、2番手以下が低い利益率に甘 んじるというのが多くの人の抱く イメージではないだろうか。しか も、ニッチヤーはともかく、フォ ロワーに分類されている企業が最 も利益率が高いというのはどのよ うにして説明されるのだろうか。 この点を理解するためには、造船 業界の特徴を把握しておく必要が ある。  第2節 造船業界の概観  本節では、各社の戦略を分析す るための前提として、市況と製品 セグメントの2つについて説明す る。  第一に、一般商船の造船市場は 2000年代に急激に成長したが、 現在、低迷期へと向かいつつある。 これに対して、今後の成長が期待 されているのが海洋市場である。 造船会社は、成長期から低迷期へ と向かう一般商船の造船市場と、 成長期にある海洋市場という、2 つのコントラストのある市場に対 して、どのように対応するかとい う問題に直面している。このセグ メント別の市況について考察して おかなければ、各社の戦略を評価 することができない。  第二に、造船業界における付加 価値の高め方について、である。 造船市場において付加価値を高め るには、船を大型化していくとい う方向と、船の種類を高度化(高 度技術化)していくという方向の 2つがある。これらの2つの方向 を理解しておくことで、各社の戦 略が明確になる。たとえば、リー ダー企業の現代重工業は、この高 付加価値化のための2つの方向を 両方追求しているOこれに対して チャレンジャーのサムスン重工業 は、船の種類の高度化に集中して いるO 顫成長期から低迷期へと転換  しつつある造船市場  図4-2-1は、造船の竣工量ベー スの市場規模の推移と造船国別の 内訳を示したものであるO造船の 市場規模は2000年代になって伸 長し、特に2005年〜2011年にか けては、年平均13.8%という高 い成長率を達成した。しかし、そ の後の2012年には造船竣工量は 減少に転じている。この間の国別 内訳を見ると、中国の成長が著し い。各国の2005年から2011年に かけての成長率は、トップの韓国 が12.5%であるのに対して、日本 レニ  他の産業での経験と同様に、造 船業界でも、中国の新興企業は低 い労働コストを武器として付加価 値が相対的に低い製品から攻めて くるOこれに対抗するために、先 行する韓国や囗本の企業としては、 より高度な技術を必要とする製品 セグメントに主戦場を移すか、既 存の製品セグメントで何らかの差 別化を図る、という対応をしてき たO  一般商船の造船市場の規模は 2012年から減少に転じているが、 海洋市場は成長ポテンシャルが高 く、新たな成長市場として期待さ れているO海洋市場は、海底から 石油や天然ガスを採掘・生産する ための浮体式の洋上生産プラント や特殊船の建造を対象としており、 高い技術力が要求されるO当該市 場はこれまでニッチ市場とみなさ れてきたが、在来型の陸上石油ガ ス田の発見が少なくなり、海上で の石油ガス開発技術が発達してき たことで、今後は海上から資源を 獲得することが多くなると予想さ れているOそのため、海洋市場の 成長が今後ますます高まると期待 されているのである。図4-2-2は、 造船と海洋の受注額の推移を示し ている。造船受注額が2007年以 降、急激に減少しているのに対し て、海洋関連の設備・船舶の受注 額は緩やかに増加し、2012年に は造船を上回っている。 rなご・l・再洋sIIの受注額推穆 25G   5鈿 ・海洋 2100 100      一一一 二乱 (1           ・  2sc・0 0' c2 03 0ご05 05 c・7 ・se os 10 11 121勵1 ‘l"M)豐zコ1。、ま=、望ご昌‘1一界翦冫I“I¨゜I“11`1111`」1ヽ'11゛l。  もう一度、図4-2-1と図4-2-2 を見比べていただきたい。同じよ うな図に見えて、実は両者には微 妙な違いがある。図4-2-1は竣工 ベースの数字で作成され、図4- 2-2は受注ベースの数字で作成さ れている。実際、図4-2-1では竣 工のピークは2011年であったが、 図4-2-2の受注ベースでは2007 年がピークになっている。3年か ら4年のタイムラグが発生してい るのである。船舶は、注文を受け た後、およそ3年の建造期間をか けて完成(竣工)させて顧客に引 き渡される製品であるO  逆から見れば、図4-2-2の受注 ベースの数字は、3年程度先の造 船市場(竣工)の動向を推し量る ための指標となる。2008年以降、 造船受注は急激に落ち込んでおり、 造船市場は低迷期を迎えつつある。 これに対して受注ベースで見れば、 2012年には海洋市場の受注額が 一般商船の受注額を上回っている のだから、大手造船会社にとって、 今後成長が見込まれる海洋市場の 戦略的重要性は明らかに増してい るのであるO 回船の種類・大きさと付加価  値の関係  造船・海洋市場における各社の 競争戦略を理解するために、製品 セグメントについて確認しておこ う。造船市場においては、船の種 類(船種)と船の大きさ(船型) によって、おおまかに製品の付加 価値の高さを分類することができ る。主な船種とその用途は、表 4-2-1に示されているとおりであ る。参考として、2012年・2013 年時点の各船種の価格水準を記載 しているO 毒4-2-1齠軅の用直と価格帯(2012年・2C13年闖点) ●・船宿笳(一匿酉衄) ●.涓i\耐冨Ci洋涓淵国見朗可魃画・酘俑】 V可:|刪;・|ミli・のS-jlページ「Sぐ1.111を1さえ&い7」b>'*9\|j Chi ijt:」・」s・●・w.11・l」・・1卻」・1、ClXrlsln   TI・:51:・ln:1「SL31.1116rjiS」・j・.1-・nd.ljsjrlr,VIILJ,X・h」,p.la,r週刊柬i・1筱淌.l「櫑迴不況IJ油li・|齦;MI   寸i二JIる.加13\IU爿5 H、 卩.la.λ‘i・:葹舶海114-・ページ91111龝il illllp・J・,1・,・,・.doIIli・.EI」.kl,・・:   ・を老・1・にLて蔘者作成 ,ごうと2二)3!二)  第一に、一般商船(造船市場) において、最も付加価値が低いと される船種がバルカーであり、最 も付加価値が高いとされるのが LNG船であるOバルカーは、鉄 鉱石や石炭、穀物などを運ぶため の船であり、特別な仕組みが最も 少なくて済む船種である。そのた め、バルカーには技術蓄積の少な い中国等の新興造船会社でも参入 が容易であり、その結果として競 合する企業が多くなり、価格も低 くなるOコンテナ船は、まさにコ ンテナ輸送を行なうための輸送船 である。現代の海運業界では、コ ンテナが倉庫兼船艙、トラック車 体となり、一貫輸送を効率化する 役割を果たしているので、重要な 船種ではあるO しかし、コンテナ に対応するための加工が必要なた めにやや価格が高くなる傾向はあ るものの、多くの企業が参入でき るセグメントであるため大幅に高 価になるわけではない。  これに対して、LNG船は液化 天然ガスを運搬するためにマイナ ス162度以下に冷やすなど独特の 性能を発揮する船であり、安全性 の確保と効率性の達成のために技 術の巧拙の差が出る船種である。 技術的な差別化が利くがゆえに、 多くの企業が競争できるわけでは ないので、LNG船の価格が最も 高くなっている。  船型による広い価格帯  表から確認してほしい第二の点 は、表中に随分広い価格帯が示さ れているという点であり、そのバ ラツキの源泉が船の大きさにある ということであるOたとえばタン カーであれば、3000万〜1億ド ルまで幅広い。この差は主として 船型(船の大きさ)によって変 わってくる部分であるO同じ船種 でも船型が大きいほど価格が高く なるO船型が大きいほど価格が高 くなる理由は、物理的な条件と技 術的な条件の2つの要因によって 競合できる企業が少なくなるから であるO  物理的な条件とはドックの大き さの制限ゆえに、競争相手の数が 限られるということであるO当た り前のことだが、大きなドックで 小さな船を建造することは可能で あるが(非常に非効率だが)、小 さなドックで大型船を建造するこ とは物理的に不可能であるO船型 が大型になるほど、それを建造で きるドックを保有する企業が限ら れるため、競争相手の数が減り、 付加価値を高くすることが可能に なるのである。  技術的な条件とは、大型化に 伴って技術的な難易度も上がると いうことである。船が大きくなる と、船体構造の強度を確保するた めに、より厚い鋼板や特殊な鋼材 を使用しなければならず、これに は高度な加工・溶接技術が求めら れる。大型船は、単に形が大きく なるだけではなく、それを建造す るのに必要な技術や現場のノウハ ウなどが変わってくるOそれゆえ に、競争相手の数が限られ、より 大きな付加価値を獲得できる可能 性が高まることになる。  海洋市場の成長  表から確認していただきたい第 三のポイントは、下段の表を見て わかるように、一般商船よりもさ らに付加価値の高い分野として、 近年、海洋市場が成長してきてい る、ということである。一般商船 ではLNG船が高価格であると指 摘したが、海洋資源開発の船はそ の比ではないOたとえば、天然ガ スの浮体設備であれば、LNG船 の20倍以上の価格で取引されて いる。  近年、海洋資源開発のために、 特別な装備を施された海上プラン トの市場が成長している。船体自 体には独特の技術は必ずしも必要 ではないが、その船を海上で安定 的に係留する技術や、その船体に 装備されるプラントの技術につい ては非常に高い技術力を必要とす るO特に1000メートル級の深い 海底から資源を取り出すための海 上プラントは、きわめて高度な技 術を必要とするため、競争が緩や かで高い付加価値を確保できる市 場セグメントであるO  ここまでの解説で明確になった ように、造船業においては、@船 の種類を変更することで高価格に なるという方向(バルカー→コン テナ船→LNG船→海洋資源開発 用船舶)があると同時に、A船型 を大きくすることで価格を高めて いくという2つの方向が存在する。 このような2つの方向性を明らか にするために造船業の市場セグメ ントを図示しだのが、図4-2-3で ある。図中には造船業における付 加価値向上のための道筋も矢印で 示されている。 図4-2-3造船蘖における付加価値回上の2つの道筋   。ざ冰可々可沒怐        沺哩の呂変化 淘海十'岷  言二二   グま?PG略;   1ンテフ鴎 皿⊇   尚        レ。-回−=回  1つ目の道筋として、図の上方 にいくほど、船種の付加価値が高 くなる。船種の順番は表4-2-1と ちょうど逆になっているO2つ目 の道筋として、ボリュームゾーン の船種であるコンテナ船とタン カー、バルカーには、右側にいく ほど船型が大型化し、付加価値が 高まることを示している。  このような基本的な業界の構図 が明確になると、各社がこれまで に採用してきた戦略を、この構図 の中に位置づけ、評価していくこ とができるようになる。リーダー である現代重工業は、圧倒的な規 模を活かして、@船種の高度化と いう上方向とA船型の大型化とい う右方向の道筋を同時に追求する ことで、すべての製品系列に対応 するフルライン・フルカバレッジ 戦略をとってきたと位置づけられ るOチャレンジャーであるサムス ン重工業は、ある程度、製品系列 を絞りながら、上方向への戦略で ある@船種の高度化に集中するこ とで、特定セグメントでリーダー に先行する戦略をとってきたと考 えられる。  このような位置づけの明確化に よって、次に問われるべきポイン トが明確になっていく。たとえば、 2000年代の造船市場の好調期に は、いずれも成功していたリー ダーとチャレンジャーの戦略は、 今後の停滞期を迎えるに当たりど のように評価できるだろうかO今 後も、これらの戦略は高業績を生 み出すことになるのだろうか。  また、フォロワーである名村造 船所は、図4-2-3の最下段にある バルカー、つまり最も付加価値の 低いセグメントに集中している。 当該セグメントは、中国等の新興 企業の参入が多く、価格競争に陥 りやすいと思われるOそれにもか かわらず、名村造船所はなぜ、そ のような製品セグメントで高業績 を達成できているのだろうかO  さらに、ニッチヤーである三井 海洋開発は、図4-2-3の最上段に ある海洋資源開発用の浮体式生産 設備のセグメントを対象とし、企 画・設計の部分に特化したビジネ ス・モデルを築いている。近年、 リーダー企業をはじめとする大手 造船会社が海洋市場への参入を強 化していることは、三井海洋開発 に対して、どのような影響を及ぼ すのであろうか。これらの問いに 答えるべく、次節では、各社の競 争戦略について順番に分析してい くO 第3節 造船市場におけ   る市場地位別の競争戦   略分析 顫リーダーとチャレンジャー の戦略分析  現代重工業(リーダー)の概  要  現代重工業は1972年に創業し、 1985年に世界最大の造船所と なった★4.設立からわずか13 年で世界一になったのであるOそ の後、2002年には韓国財閥の現 代グループから離脱し、独自の企 業グループを形成するようになっ たO現在、現代重工業は、韓国造 船会社の中でも多角化の進んだ企 業であり、図4-3-1に示すとおり、 造船・海洋以外にも多くの事業に 進出している。2012年における 現代重工業の全社売上高は3兆 9303億円である。このうち、造 船・海洋部門の売上高は35.6% を占め、精油部門(41.1%)に次 いで2番目に大きい事業部門と なっている★5.ただし、エンジ ン機械部門(4.7%)の多くが船 舶向けエンジンであり、実質的に は造船・海洋部門関連(40.3%) の事業といえるため、同部門は精 油部門と同規模での同社の二本柱 のひとつである。営業利益率では、 2012年時点でエンジン機械部門 が11.6%で最も高く、造船・海 洋部門が5.9%、精油部門が1.2% となっている。 図4-3-1硯代禳工業の部r¶IU売上高構成(2c12年)       j 、り                  \一エンジン機柾47%  i.じ各齠|JI』の皿画。にliセクメン1・」|11の珀引を含めでいる。その惴にlj,la・械。電気電子シ   ヌテ亠、癬一堊プラン}、ダlj-ンエネルギー{・同・戔甓・lj、令肖絮の111覃部rl}を含め   ている-  111所;皿代屯|で1「了XJ7」6レ・-1Jt3」2年!のセグメ冫1データよ‘i下・耆n喩 万灘 「造船分野のマーケット内のポジ ションは下げない」方針を表明し ており★6、今後も造船・海洋部 門は現代重工業にとって重要な事 業であると位置づけられているO  現代重工業(リーダー)のフ  ルライン・フルカバレッジ戦略  現代重工業は、超大型・高付加 価値の船舶から中小型船舶まで、 幅の広い製品ラインを展開するフ ルライン・フルカバレッジ戦略を とっているO同社の戦略の強みは 2つあるO第一に、現代重工業は、 造船の資機材調達において圧倒的 な市場シェアを活かし、調達にお ける規模の経済を実現しているO 具体的には、グループ会社間で資 材・機材の規格統一化を進めて共 同調達することで、買い手の交渉 力を高めているのであるO  現代重工業の造船・海洋部門は、 現代重工業に、現代三湖重工業と 現代尾浦造船を加えた3社で構成 される。現代重工業は2002年に、 アジア通貨危機後に経営不振に 陥っていた旧三湖重工業を買収し て企業グループに組み入れたOさ らに、造船市場の拡大に合わせて、 韓国最大の修繕専門造船所であっ た現代尾浦造船の新造船への転換 を進め、2005年には修繕からの 完全撤退を実現した★7.このよ うにして、現代重工業は2000年 代に企業グループとして規模を拡 大し、買い手の交渉力を高めて りーダーの座を確固たるものとし たのである★8。  第二に、現代重工業は船舶の主 要機材のひとつであるディーゼ ル・エンジンを内製しており、垂 直統合度の高いビジネス・モデル を築いている。エンジンは船の建 造コストの10%〜15%を占める 重要部品である★9.現代重工業 のエンジン機械部門は、造船・海 洋部門よりも高い利益率を達成し ている★10.エンジンを内製し て、市場価格よりも安価に調達で きることは、現代重工業の造船・ 海洋部門にとってコスト面で大き な強みとなりえるOこのメリット を得られるのも、やはリフルライ ン・フルカバレッジ戦略を採用し て、造船部門が大規模だからであ るOこの大規模な買い手部門があ るからこそ、コア部品の内製にも 規模の経済が発揮されるのである。  現代重工業は、市場全体をター ゲットとしたフルライン・フルカ バレッジ戦略をとることで、調達 における規模の経済性とディーゼ ル・エンジンへの後方統合による コア部品の規模の経済(安価な調 達)という競争優位を獲得してい るO しかし、フルライン・フルカ バレッジ戦略には弱点もある。幅 広い製品系列を揃え、多種多様な 船種・船型を柔軟に受注するため には、多様な種類の生産能力を抱 えておく必要がある。特定の船 種・船型に特化すれば無駄のない 経営資源の蓄積と活用が可能であ るが、フルライン・フルカバレッ ジの場合には、常に使うわけでは ない経営資源も保有している必要 性が生まれやすい。船を組み立て るドックや重量物を運ぶための大 型クレーンといった物理的な設備 に加え、多様な製品に対応できる 設計・技術員等の人的資源など、 常に必要とは限らない資源が保有 されることになるのである。この ような未利用資源という余剰が発 生するがゆえに、フルライン・フ ルカバレッジ戦略は、市場で圧倒 的な地位を築いて豊富な資源を有 するリーダー企業だからこそ、と りえるカネのかかる戦略なのであ る。  これに対して、規模で劣るチャ レンジャー以下の企業は、リー ダーほどは資源を豊富にもってい ないのだから、ターゲット・セグ メントを絞らないと、リーダーに 対抗することは難しいOチャレン ジャーであるサムスン重工業は、 高付加価値分野に集中しているO  サムスン重工業(チャレン  ジャー)の集中戦略  サムスン重工業は、韓国財閥の サムスングループの系列企業であ り、いわゆる「選択と集中」によ り高付加価値船で競争力を確保し ている。2012年度におけるサム スン重工業の売上高は1兆288億 円、営業利益率は9.5%である ★11.サムスン重工業は、造 船・海洋事業以外に建設事業も行 なっているものの、造船・海洋部 門の売上高が全体の94.1%を占 め、現代重工業ほど多角化は進ん でいない。サムスン重工業は、特 に近年、造船分野ではLNG船や 大型コンテナ船といった高技術・ 高付加価値市場をリードしており、 海洋分野ではドリルシップや FPSO (Floating Production, Storage and Offloading system: 浮体式海洋 石油・ガス生産貯蔵積出設備のこ と)で世界最多の建造実績を記録 している★12。  「選択と集中」とは、裏返せば、 何をしないかということであるo サムスン重工業は、他の韓国造船 会社が2000年代に需要の高かっ たバルカーを製品ラインに加える 中で、「バルカーでは競争力がな い」と判断し、参入を見送ってき た★13.その代わりに、将来へ の布石として、現代重工業や他の 大手造船会社に先行して海洋分野 に取り組み、実績を積み重ねてき たのであるO   リーダーとチャレンジャーの  製品戦略の比較  2000年代の市場の成長期にお いて、現代重工業とサムスン重工 業は、どのように製品系列を変化 させていったのだろうか。ここで は、前節で説明した図4-2-3「造 船業における付加価値向上の2つ の道筋」のフレームワークを当て はめて、現代重工業とサムスン重 工業の戦略の違いを読み解いてい こうO  図4-3-2から図4-3-4は、それ ぞれ2002年、2007年、2012の現 代重工業とサムスン重工業の船 種・船型別の受注残高を示してい る★14.受注残高とは、すでに 受注済みの契約のうち、顧客への 引き渡しが完了していないものの ことであり、今後2、3年の仕事 予定を示しているO受注残高に着 目することで、年ごとにバラつき のある単年分の受注量や竣工量よ りも、製品系列の構成の違いを明 確に確認することができる。もち ろん、両社が置かれている競争状 況を正確に知るためには、それ以 外の他社も含めた比較が必要とな るOここでは、両社の製品戦略の 違いを明確にするために、敢えて 2社に絞って分析を行なうO 図4-3-2現代重工業とサムスン重工業の受注残高比較(2002年時点)          墹代曵工業    サムスン曵工業    夕体可竺産設爾  - 海洋市場    オフショア船    ガス湎搬船      茴l     LNG略 造船市鴫コンテ7岶 小皿中型大皿    中型大型 ]百果]言………    バルカー 小型中重大屋 出可.CLark)nR,s・ar,h[2∽31.Tnu£9弥wu1刄汕g,V・・.1.10. Ncxl. Jip21に沿よ1J筆者作咬 図4-3-3現代重工業とサムスン重工業の受注残高比駮(2007年時点)          回代重工莱    サムスン膃工莱 一子でqSO  ら.    力λF徼船      ヒヨ      LNG餡 造佃市場コンテ7嵋 小型中型大型    収重大型 ]言だ¨ ヰ.    ベルガー     大型址大型 111所:CL,lrh)nnes・aE-h[aX洛Fi〃a仏w.Vミ67,VgL15,汕汢丱£842より筆者作成 図4-3-4現代重工業とサムスン重工業の受注残高比敢(2012年晒点)          回代弔工杲    サムスン爾工柴    浮体武生涯忽悁   LNG-FpSC    LNG-I卜PSO 画洋市場           遜弓    岫淤プ    オフソヨア船   石石7フて7了y,・        その他オフショア佃    ガス運搬船      ぷ簇       LNG酘 造船市嵋コンテア船 小型中型大型    中型大型  ]゛二回    バルカー 小型中型大型超大型 禺所:CLark狗|ばe阯arLILS13」,卜WM54仇元,W畍ば,‰XNo1陳匐Jより筆膏作成  図4-3-2から図4-3-4では、図 の上方にいくほど、船種の付加価 値が高くなるOこれに対して、ボ リュームゾーンの船種であるコン テナ船とタンカー、バルカーの3 船種については、右側にいくほど 船型の大型化により付加価値が高 まることを示しており、左から順 に小型・中型・大型・超大型に区 分してあるO濃く網カケしている 部分は、両社を比較して、他方の 会社よりも2倍以上の受注残高を 有していることを示している。受 注残高がない船種・船型について は、空白で示している。  空白がない現代重工業  2002年を図示した図4-3-2か らは、その空白部分に注目するこ とで現代重工業とサムスン重工業 の製品系列の違いを明確にとらえ ることができるO 2002年当時、 同図に見られるように、現代重工 業は海洋市場以外ではほとんど空 白がないO同社は造船市場で主要 な船種のすべてを手掛けており、 小型から超大型まで幅広い製品系 列をもっていた。これに対して、 空白の目立つサムスン重工業の製 品系列はやや狭い。現代重工業が タンカーのすべての船型と、コン テナ船・バルカーの超大型以外の 船型を建造しているのに対して、 サムスン重工業はバルカー全般を 扱っていないだけでなく、コンテ ナ船とタンカーの小型も製品系列 に加えていないO また、全部で6 セルある両社がともに扱っている 船種・船型のシェアを比較すると、 現代重工業がタンカーの超大型で 優位に立っているものの、その他 のセグメントでは大きな差はない、 ということもこの図から読み取れ るO  この図を次の図4-3-3と比較し てみると、2002年から2007年ま での5年間で両社の製品構成に、 次のような変化があったことが読 み取れるO現代重工業は、バル カーの中・小型を受注していない が、コンテナ船とタンカーの中 型・大型でシェアを伸ばすととも に、バルカーでは超大型の船型を 製品ラインに加えているO  技術の高度化目立つサムスン  重工業  サムスン重工業は、造船市場の 中で最も付加価値の高いLNG船 でシェアを伸ばすとともに、オフ ショア船のドリルシップを現代重 工業に先駆けて製品ラインに加え ているO現代重工業もFPSOに参 入しているが、この表の上へ向か う動き、すなわち技術の高度化は サムスン重工業のほうに強く見ら れることは明らかであろう。逆に、 下半分のセルの中で強い網掛けに 変わった部分が多いことを見てわ かるように、この間に現代重工業 は低付加価値の船で市場シェアを 高めているO両者の戦略的な方向 性の違いは、この時点ですでにか なり明確であったと思われる。  この傾向はその5年後の2012 年にはさらに明確になる。2012 年を描いた図4-3-4からは、2012 年時点の製品構成として、現代重 工業のフルライン戦略とサムスン 重工業の高付加価値分野への集中 戦略がいままで以上に明確に表れ ているO現代重工業は、低付加価 値分野における製品ラインの幅を 広げつつ、高付加価値分野で同質 化を進めている。現代重工業は、 製品ラインに改めてバルカーの小 型・中型を加えているO LNG船 でサムスン重工業との差を縮め、 出遅れていたオフショア船のドリ ルシップ等にも進出しているが、 しかし、図中のLPG船よりも下 の部分に強みをもっていることは 明確であるO  これに対して、サムスン重工業 は、造船市場においては、タン カーの船型を大型に集中させ、製 品ラインがさらに絞られている。 しかも、海洋市場においては、ド リルシップのシェアを維持しつつ、 世界初となる液化天然ガスの浮体 式生産・貯蔵・積出設備(LNG- FPSO)の受注に成功している。  リーダーである現代重工業は、 圧倒的な規模をいかしてフルライ ン・フルカバレッジの製品戦略を とり、市場全体としてのシェアの 維持・向上を追求しているO他方、 チャレンジャーであるサムスン重 工業は、ボリュームゾーンの船 種・船型を徐々に絞りつつ、高付 加化価値分野に集中している。さ らに、図4-3-2から図4-3-4を通 して眺めれば、サムスン重工業が より上方へと、自社の集中する製 品セグメントを機動的に移してい ることがわかる。決定的セグメン トに集中しつつ、リーダーによる 同質化を避けるために、機動的に 主戦場を変更していくことが、 チャレンジャーの戦略の定石であ り、サムスン重工業はまさに長期 にわたってその戦略シナリオを実 現してきているのである。  リーダーとチャレンジャーの  戦略の評価  2000年以降の造船市場の好調 期において、現代重工業とサムス ン重工業は、それぞれの市場地位 別の定石にそった戦略を採用して、 ある種のすみ分けをしながら利益 を上げることに成功した。これら の戦略は短期的には成功したかに 見えるが、現在のように、造船市 場が成長期から低迷期へと移行し つつあるなかで、そのまま高業績 を生み出せる戦略なのであろうか。 特に、近年の現代重工業の利益率 の低下の理由は、どのように説明 されるだろうかO造船市場の需要 変化をより長期的な視点から眺め ることで、現代重工業がとっだ規 模拡大を伴うフルライン・フルカ バレッジ戦略は適切ではなかった 可能性が示唆されるOこの結論に 至るためには、好況と不況が長期 的に繰り返すという造船市場の構 造的な特徴を理解する必要がある。  図4-3-5は1930年から2012年 までの造船竣工量の推移を示して いるOそこから読み取れる特徴は 2つあるO 134-3-5 S・地域別造船竣工届の推郤(1曾30~2012年) 二二  土 圧三石子 そのため、前回の造船ブームで建 造された船舶が寿命を迎えること によって約30年間隔で更新需要 が生じる。これが造船業の波動を 生み出す要因であるO  第二に、2000年以降の世界の 造船竣工量が未曽有の規模へと急 激に増加している点も図から明ら かであるOこの主な理由は、中国 をはじめとする新興国経済の発達 によって海上輸送量が増加し、今 後もさらなる増加が期待されるた めに、新造船の需要が拡大したこ とによるOこれに、1970年代に 建造された船の更新需要が重なっ たことで、2000年代後半の建造 量の波は急激に高くなったと考え られる。しかし、造船ブームの山 が高くなることは、その後の谷の 局面との落差もまた大きくなるこ とを意味しているOたとえば、前 回の造船ブームでは、1975年に ピークを迎えた後に、1980年に はその38%にまで落ち込み、20 年近くをかけて元の水準に戻って いるOもちろん、人は過去から学 ぶため、そのまま繰り返すわけで はないけれども、今回の造船ブー ム後も厳しい低迷期が数年にわ たって続くことが予想される ★15。  成長期の後に数年間の低迷期が 到来することを考慮すれば、成長 期に増大する需要に対応するため に生産能力を高めるだけでなく、 その後の低迷期に備えて、固定費 を過度に増やさないような戦略が 適切であると評価されるO しかし、 同時に需要の拡大期に設備投資を 絞ってしまっては、企業の成長力 は高まらないO このバランスをど のようにとるかが、造船業では重 要なのである。  低迷フェーズでは足かせにな  る現代重工業の戦略  このような観点から見ると、現 代重工業がとったフルライン・フ ルカバレッジの戦略は、成長 フェーズでその成長を最大化する 方向に大きく舵を切ったもので あったように思われ、それが今後 の低迷フェーズでは大きな足かせ になる可能性が示唆されるO同社 は、成長期においては外部からの 調達や内製ディーゼル・エンジン の生産で規模の経済のメリットを 受けることができたO しかし、い くらトップ・シェアだとしても、 生産量が70%や60%へと低下し ていけば、これまで享受できてい た規模のメリットは弱まっていか ざるをえない。逆に、いったん稼 働率が低迷し始めると、これまで フルライン・フルカバレッジを維 持するために抱えていた余剰経営 資源がさらに余ってしまうという 問題を抱える可能性が高い。先に も述べたとおり、フルライン・フ ルカバレッジの戦略を採用するた めには、多様な船種・船型に対応 できるドック等の固定的な生産設 備や労働者の熟練を保有していな ければならないOこの余剰資源を 抱えていても、成長フェーズでは、 多様な船種・船型に対応できるが ゆえに、背後で標準化が進められ さえすれば、部品のレベルで調達 や内製に規模の経済を発揮できるO しかし、需要の低迷フェーズでは この規模の経済性が十分には発揮 できなくなる。  しかも、もし過剰な固定設備を 保有していないとしても、労働者 の熟練や段取りの組み方、ビジネ ス・プロセスの回し方など、多様 な点でフルライン戦略は特定船 種・船型に特化した集中戦略とは 異なっている。それゆえに、部品 調達・部品内製における規模のメ リットが薄れていくにつれて、フ ルライン戦略の企業の効率性は、 特定の船種・船型で集中戦略を とっている企業が達成できる効率 性よりも劣ることになる可能性が 高いOなぜなら、集中戦略をとっ ている企業は、部品調達・部品内 製における規模の経済は享受でき なかったものの、同一の船種・船 型の累積生産量が大きく、学習効 果によって、特定船種・船型を建 造するためのコストを低下させて いると考えられるからである。こ れらのことから、好況と不況が長 期的に繰り返す造船市場において、 リーダー企業の定石であるフルラ イン・フルカバレッジ戦略を採用 した現代重工業は、需要の低迷期 には強い逆風に直面する可能性が 高いと考えられる。  フルライン・フルカバレッジの 戦略をとったりーダーの現代重工 業に対して、チャレンジャーであ るサムスン重工業は、より高付加 価値の船種へと資源を集中させる ことで差別化を図ってきたOこの ような差別化集中戦略は、造船市 場における長期的な需要の上下動 の波に適していただけでなく、今 後の成長分野である海洋市場に りーダー企業の現代重工業に先ん じて参入することに成功したとい う点でも、高く評価できる。  さらに、中国企業の追い上げに 対する頑健性という点でも、サム スン重工業に軍配が上がる。中国 企業がこれから低価格を武器にバ ルカーの需要を奪いに来れば、需 要の低迷フェーズというトレント に加えて、この中国企業からの競 争によっても、現代重工業は生産 規模を維持することが難しくなるO これに対してサムスン重工業は、 現時点では少なくとも中国企業と の競争を避けることができる市場 を主戦場に選んでいるOこれらの 総合的な効果が、サムスン重工業 と現代重工業との利益率の逆転と いう近年の傾向を生み出してきた のだと考えられるのであるOその 意味で、この10年間にわたる現 代重工業の戦略とサムスン重工業 の戦略は、両者の命運を大きく分 ける可能性がある重要なポイント であったと考えられるO 目イ氏付加価値分野に集中する  名村造船所の戦い方  リーダーとチャレンジャーの2 社については、今後の需要低迷期 に大きく業績の差が出てくる可能 性が示唆されたO しかし、需要の 低迷期には、この上位2社のよう な巨大企業以外にとって、どのよ うな意味をもつのだろうかOはた して、バルカーのような低価格セ グメントはすべて中国企業に奪わ れてしまい、囗本の中堅企業など は消え去ってしまうのだろうかO この問いに対して、明確に「戦い ようがある」という答えを出して いる企業があるOその一例である 名村造船所の戦略を検討する作業 に移ることにしようO  名村造船所は、佐賀県伊万里市 に工場を有する中堅造船所であるO 2012年度における売上高は1184 億円(そのうち造船部門が1036 億円)、営業利益率は13.3% (造 船部門は14.4%)である。名村造 船所は低付加価値船であるバル カーの中でも、さらにターゲット を絞り込んだ戦略をとっており、 具体的には、@同型船の連続建造 による効率化と、F特定用途への 最適船型の開発による付加価値向 上を実現している。これらの戦略 をとっだ結果、当初フォロワーで あった名村造船所は、近年では、 コスト集中と差別化集中の両面を 併せもち、フォロワー(徹底的な コストダウン)とニッチヤー(独 自の差別化)の両面を保有する企 業へと進化したととらえることも できるO  連続建造による効率化  名村造船所は、2000年初旬か らの造船市況の好調期に乗じて、 大型(ケープサイズ)のバルカー の連続建造を基軸とした建造体制 に移行した★16.図4-3-6は、 名村造船所の手持工事の推移であ り、徐々にバルカーヘ集中してい ることがわかる。2002年時点で  ゾ yO] ご言でこでこ論言 ストを武器とする韓国や中国の新 興企業の新規参入が多いため、価 格競争が起こりやすい(ただし、 総じてコスト高の体質をとなって いる国内造船大手や韓国造船大手 との競合は限定的であるといえ る)O  このような製品セグメントにお いて、名村造船所は船種・船型を 絞ることで、設計の共通化や建造 工程の学習効果を高めている。そ れによって、過度な設備投資を避 けつつ、スループットの向上によ る生産能力の向上が可能になるO 特定の船種・船型に絞ることで、 初めて可能となるプロセスの無駄 を徹底的に排除し、非常に高いコ スト競争力を身につけているので あるOフルラインによる規模の経 済性追求とは異なり、特定市場に 特化することによるプロセスの効 率性追求が行なわれている、とい うことであるO  最適船型の開発による付加価  値の向上  名村造船所は、このようにス ループットの向上によるコスト競 争カアップを行なっているばかり ではなく、独自開発による差別化 も行なっているOバルカーという 船種は、一般的には付加価値が低 く、コモディティ化しがちな製品 セグメントである。しかし、この ような市場の中において、用途を 絞り込んだ自社独自の開発を進め ることで、独自の付加価値の向上 を名村造船所は実現しているOこ の独自開発力が、需要の低迷期に おいても、同社が受注量をそれほ ど落とさずに、高業績を維持して いる理由であると考えられるOこ のような開発を成功させるには、 技術力だけでなく、顧客である船 主・海運会社の要望を巧みに製品 企画に盛り込んで、他社に先駆け て顧客のニーズにフィットさせる マーケティング能力が重要になる。  名村造船所が開発した船の代表 例が、西豪州向けの最大船型 「WOZMAX」(25万重量トン型鉱 石運搬船)である★17.名村造 船所は、喫水や船体主要寸法に制 限のある西豪州主要3港の港湾条 件を考慮して、浅い喫水に抑えつ つ、25万トンという最大の積載 重量を実現した船舶を開発した ★180 WOZMAXは、2005年こ ろから開発に着手された船であり、 2010年に一番船の引き渡しが完 了した後も、受注や引き合いが続 くヒット船型になっている。この ような売れる製品の開発を成功さ せるためには、経験・技術の蓄積 だけでなく、顧客である船主・海 運会社による船の使用状況に適合 させるためのマーケティング能力 が必要になるOそのために、名村 造船所は、開発の区切りごとに顧 客の生の意見を聴取するとともに、 顧客と合同で船を使用する港の現 地調査を実施している。こうして、 顧客の要望を適切に吸い上げたり、 丁寧な説明によって、一部の顧客 が抱いている懸念点を解消させた りすることが可能になる。  名村造船所は、まず同型船の連 続建造で効率性を高めるコスト集 中戦略をとり、その後、マーケ ティングカと独自技術を蓄積する ことで、その後の製品開発に結び つけたOこうして、徐々にバル カーという付加価値の低いはずの 製品セグメントの中で差別化集中 戦略の特徴も併せもつようになり、 フォロワーとニッチャーの両面を 併せもつポジションへと変わって きたと考えられる。その結果とし て、全体的に造船需要が低迷しつ つある中でも、名村造船所は受注 量をそれほど落とすことなく、 リーダーやチャレンジャーを上回 る利益率を達成しているO 囲海洋市場で特異なポジショ  ンをとる三井海洋開発  現代重工業とサムスン重工業、 名村造船所は、それぞれの異なる 市場ポジションに沿った戦略を とっているが、ドックをもって造 船を行なっているという点では共 通しているOこれに対して、海洋 市場におけるニッチヤーである三 井海洋開発は、自らは建設を行な わずに、企画・設計に特化すると いう水平分業のビジネス・モデル を築いているO  三井海洋開発は、三井造船のグ ループ会社であるが、通常の造船 会社とは一線を画した特異なポジ ションをとっている0 2012年に おける売上高は1869億円、営業 利益は35億円(営業利益率 1.5%)であるOただし、第1節 で説明したとおり、三井海洋開発 は、関連会社を通じた取引で多く の営業利益を稼いでいる。三井海 洋開発の特異性は、ターゲットと する製品セグメントとビジネス・ モデルの2つに分けられるO  三井海洋開発のターゲット・セ グメントは、FPSO等の洋上の石 油・ガス生産設備であるOその中 でも、ライバルが存在しないよう な技術的に難しい深海のプロジェ クトを選んで受注することで、独 自の生存領域をもつニッチヤーと して活動しているO海洋開発を行 なう場合、開発する油田・ガス田 の井戸元が深くなるほど、設備を 係留するために高度な技術が求め られるO海が深くなると、洋上の 船を一定の範囲内にとどまるよう に係留するのは実はかなり難しいO 特に、水深1500メートル以下の 深海に耐えられる技術を有するの は、オランダのSBMオフショア 社と三井海洋開発の2社だけであ るといわれる★19.このように、 三井海洋開発は石油・ガス生産設 備の中でも競合他社が対応できな いニッチな製品セグメントをター ゲットとしている。  ビジネス・モデルの特徴  三井海洋開発のビジネス・モデ ル上の特徴は2つあるO@自らは 企画・設計やプロジェクト管理に 特化して、建造部分を他社に外注 しているOA海洋資源開発用の設 備・船舶を受注・販売するだけで なく、リースやオペレーションの サービスを提供している(した かって、ファイナンスが重要な活 動になる)。これらのサービスが 関連会社を通じて行なわれるため、 第1節で説明したとおり、三井海 洋開発を単独で見た場合の営業利 益は低くとどまっている。しかし 実際には、関連会社を通じて、よ り多くの利益を稼いでいるのであ るO図4-3-7には、三井海洋開発 のビジネス・モデルにおける2つ の特徴を、一般的な造船会社の場 合と比較して示しているO図に示 されている特徴を簡単に述べてお こうO 114-3-ア三井海洋開発のバIリューチ・-ン ま許子ゑ半  ゛S‘゛゛゛:L士、11J14 71 “゛“) 匹7!匚匝  第一に、三井海洋開発は、工場 ここにこ鷁?に謡 二言匸四禦ご ご球言言昌昌 上に原油処理用の設備を据えつけ たものである。既存のタンカーを 改造する場合はシンガポールや中 国の造船会社に外注し、大型の設 備等で新たにタンカーを建造する 必要がある場合には、韓国の造船 会社を利用することが多い。この ように、他社でできる建造工程は 外注しつつ、自社は付加価値の高 い設計やプロジェクト管理に特化 するというビジネス・モデルを構 築しているO  第二に、三井海洋開発は、設備 を建造して販売するだけでなく、 それを自社保有し、リースやオペ レーションのサービスを提供して いるO従来は、顧客であるオイル メジャーや国営石油会社が、自ら 海洋資源開発用の設備を建造・保 有し、その後の石油開発・生産に 至るまでの一連のプロセスを直轄 していた。しかし近年では、海洋 資源開発プロジェクトの大型化に 伴って、顧客が資金負担やリスク を軽減するために、リースやオペ レーションをアウトソースする場 合が増えているOそのため、三井 海洋開発は、総合商社等の社外 パートナーと合弁会社を設立して、 これらのサービスを提供している。  三井海洋開発は、ライバル企業 が対応できないような、きわめて 高度な技術が要求される製品セグ メントに特化している。しかし、 同社の特異なポジションは、その ような製品の設計・製造段階にお ける技術蓄積だけによってもたら さるのではないO三井海洋開発は、 設備の操業(オペレーション)段 階の技術ノウハウや、顧客の資金 負担を軽減するための金融機能と いった、複合的な技術・機能を組 み合わせることで、独特のビジネ ス・プロセスを構築しており、そ の特異なポジションを構築・維持 しているのである。  第4節 造船市場の変化    が海洋市場に与える影    饗  リーダー企業である現代重工業 をはじめとする大手造船会社は、 造船市場が低迷期を迎えつつある なかで、新たな成長分野である海 洋市場への参入を積極化しているO このことは、海洋市場にどのよう な影響をもたらすだろうか。特に、 当該市場で先行する三井海洋開発 のような企業の優位性は、今後も 持続するのであろうかO本章の最 後に、この点を考察しておきたい。  本節における結論を先取りする と、@造船市場の需要が低迷する なかで、過剰能力を抱える造船会 社が海洋市場の船体建設部分への 参入を進めることで、価格下落が 起こる可能性が高い。それを逆手 にとって、A三井海洋開発のよう に建造部分以外に優位性をもつ企 業は、大手造船会社をある種の 「下請け」として安価に使うポジ ション取りが容易になるO  リーダー企業をはじめとする大 手造船会社が海洋市場への参入を 積極化させる理由は2つある。第 一に、造船市場が今後、数年間の 低迷期を迎えつつあるなかで、大 手造船会社は、新たな成長分野と して海洋市場を位置づけているO 第二に、2000年代の造船好況期 にドック等の固定設備を過剰に抱 えてしまった大手造船会社は、当 該設備を活用できる関連分野とし て海洋市場の船体建造への参入を 加速させるOこのことは、本来は 高付加価値の製品セグメントであ るはずの海洋市場において、価格 下落という大手造船会社にとって 好まざる結果をもたらすと考えら れるOなぜなら、固定設備の稼働 率を向上させて、固定費を少しで も回収するためには、採算性が低 くなろうとも、安値で受注しよう という動機が働くためである。  ただし、価格下落は、あくまで 建造部分にとどまると考えられるO 韓国の大手造船会社は近年、海洋 市場への参入を進めているが、基 本設計分野での綛験や技術蓄積が 不足しているOそのため、基本設 計は、シェルやBPといった設計 能力を有するオイルメジャーや、 三井海洋開発のような海外のエン ジニアリング会社に任せざるを得 ない。実際のところ、現代重工業 等の大手造船会社が近年、海洋市 場で高いシェアを占め、実績を積 み重ねているのは、あくまで建造 部分であって、基本設計部分では ないO将来的にはリーダー企業を はじめとする大手造船会社が基本 設計部分の技術力を高めることで、 従来の造船のビジネス・モデルと 同様に、設備の設計から建造まで すべてを一貫して、垂直統合で担 当できるようになる可能性もあるO しかし、付加価値の高い設計・エ ンジニアリング業務の技術蓄積を 短期間で実現することは困難であ るOこのため、まずは建造部分か ら参入することになり、まずその 部分で競争が激しくなり、価格下 落がおきるO  これに対して三井海洋開発のよ うに建造部分以外に優位性をもつ 企業は、これを逆手にとって、大 手造船会社を互いに競わせながら 「下請け」として安価に活用する というポジション取りが可能にな るOつまり、船舶部分の建造・改 造が過剰供給能力になれば、その 部分をこれまでよりも安価に調達 できるようになるため、それをう まく使いつつ、より優位性の高い 部分に特化する水平分業のビジネ ス・モデルを採用した企業が登場 しやすくなるということであるO 三井海洋開発は、前節で説明した とおり、企画・設計部分に特化し たビジネス・モデルをすでに確立 しているOこのため、同社の事業 にとって、より安価に船舶部分の 建造・改造を調達できることが、 有利に働くことは容易に想像でき る。しかし、それ以外の部分に優 位性をもつ企業がそこに特化して、 水平分業のビジネス・モデルへと 移行することで、供給能力が過剰 になっている建造・改造部分をう まく使うポジション取りをするこ とが可能であるOたとえば、タン ク等の貯蔵設備やガスの分離精製 設備といった中核機材の供給(設 計・製造)に特化するということ も、水平分業のビジネス・モデル の一例といえるO このようにして、 特定の部分における過剰な供給能 力の発生を起点として、これまで 垂直統合のビジネス・モデルが前 提となっていた造船業界が、水平 分業のビジネス・モデルへと変化 していく可能性が出てくるのであ るO 第5節 まとめ  本章では、造船業界における企 業問競争を、市場地位別のフレー ムワークを用いて読み解いていっ たOその結果として、次の2つの 結論を得た。  第一に、造船市場において、 リーダー企業である現代重工業が とっだ生産能力の規模拡大を伴う フルラインの製品戦略は、短期的 には成功したが、長期的な視点か らは最適ではなかった可能性が高 い。造船市場は、需要変化の波動 が約30年という長期の間隔で高 さを増しながら到来するという構 造的な特徴をもっているO需要の 好調期に積極的に市場シェアを獲 得しようとしてフルライン・フル カバレッジの戦略とそれによって 可能になる調達・内製の規模の経 済を追求すると、固定的な設備の オーバーシュートが起こりやすい。 フルライン・フルカバレッジとい うリーダー企業の定石は、そのま ま適用するのではなく、注意深く 背後のメカニズムを確認する必要 があることが示唆される。  第二に、造船市場におけるリー ダーの過剰投資は、今後の造船需 要の停滞期を迎えるに当たり、 ドックの低稼働率という問題をも たらす。このドックの低稼働率を 逆手にとって、リーダー企業をは じめとする造船企業をある種の 「下請け」としてポジション取り が可能になる。  このことは、これまでの造船市 場では垂直統合のビジネス・モデ ルをもつ企業間の競争が前提と なっていたが、新しい海洋市場で は水平分業のビジネス・モデルを もつ企業との競争や補完を考慮す る必要があるということを示唆し ているO  この2つ目の結論は、需要変化 の波が繰り返される特徴をもつ他 の業業界でもすでに観察されてい る。典型的には半導体業界なども、 この議論に該当するように思われ る。半導体業界にはシリコンサイ クルと呼ばれる比較的短期の需要 の波動が存在する。そのため、高 価な最新設備を導入しても、投資 資金を回収する前に需要が低迷し て設備が陳腐化してしまうという リスクが存在するO従来は、設 計・開発から製造までを自社で行 なう垂直統合型の半導体デバイス メーカーが主流であった。しかし、 現在では、台湾のTSMCのよう に製造に特化したファウングリー と、米国のクアルコムのように設 計・開発に集中するファブレス企 業との水平分業が一般化している。  囗本の多くの造船会社は、過去 の造船不況のつらい経験を教訓に して、2000年代の造船好調期に あっても設備投資を抑制して、過 度に生産量を増やさない戦略を とったOただし、これらは基本的 に垂直統合を前提とした、不況期 を耐え忍ぶための対処策であった 性が大きくなると考えられるO Aコロendlx可慳?二繁ど・j lx:*や二零の受沖残71g |サムスン・工杲】                      (・●廖l:干口WT)     ffifl US名S)舶・   aO21螽螽O7櫑a12櫑 o■    l侭蔵i屋l僵 雫?    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v・1・,N・ll.ll.・x152卜孥名詐織  参考文献  〈論文〉 麻生潤[2013]、「船種別造船市場と  韓国造船業」『同志社商学第64巻  第5号』同志社大学商学会、pp.  619-630 具承桓・加藤寛之[2013]、「日韓造  船産業の競争力転換とその要因分  析一成熟産業における製品戦略と  多角化戦略の罠−」東京大学  Discussion Paper, MMRC DP No.423. 具承桓・加藤寛之・向井悠一朗  [2010],「造船産業のダイナミズム  と中手メーカーの製品戦略一国際  競争構図の変化と新たな取り組み  ー」東京大学Discussion Paper,  MMRC DP No.286.  〈書籍〉 Clarkson Research [2003] , World  Shipyard Monitor, Vo口0 Clarkson Research [2008] , World  Shipyard Monitor, Vo口5 Clarkson Research [2009] , World  Shipyard Monitor, Vo口6 Clarkson Research [2013] , World  Shipyard Monitor, Vol.20 Lloyd's Register of Shipping [1954] ,  Annual Summary ofMerchant Ships  Launched 1954 Lloyd's Register of Shipping [1964] ,  Annual Summary ofMerchant Ships  Launched 1964 Lloyd's Register of Shipping [1966] ,  Annual Summary ofMerchant Ships  Launched 1966 Lloyd's Register of Shipping [1970] ,  Annual Summary ofMerchant Ships  Launched 1970 Lloyd's Register of Shipping [1976] ,  Annual Summary of Merchant Ships  Completed 1976 Lloyd's Register of Shipping L 1986 1,  Annual Summary of Merchant Ships  Completed 1986 Lloyd's Register of Shipping [1992] ,  Annual Summary of Merchant Ships  Completed 1992 日本船舶輸出組合・日本船舶技術研  究協会[2011]『オフショア産業向  け舶用市場調査』2011年3月 日本船舶輸出組合・日本船舶技術研  究協会[2012]『韓国の造船業に関  する経営実態調査』2012年3月 日本造船工業会[1995]、「造船関係  資料1995年8月」 日本造船工業会[2000]、「造船関係  資料2000年8月」 日本造船工業会[2005]、「造船関係  資料2005年8月」 日本造船工業会[2008]、「造船関係  資料2008年3月」 日本造船工業会[2013]、「造船関係  資料2013年9月」 沼上幹[2008]、『わかりやすいマー  ケティング戦略 新版』有斐閣 〈雑誌〉 『COMPASS』「韓国の大手造船所第  1回現代重工業」2003年5月号、 pp.28-31 『COMPASS』「現地ルポ西九州の中  堅造船所」2004年5月、pp.42-47 『COMPASS』「韓国造船業 再び拡  大へ」2006年5月、pp.12-21 『COMPASS』「猛る韓国造船業 み  なぎる自信とにじむ不安」2010年  11月号、pp.46-58 『COMPASS』「日本が切り開く新鋭 バルカー」2011年1月、pp.55-62 『COMPASS』「現代重工業、最強の 秘密」2012年5月、pp.46-54 『週刊エコノミスト』「2014年の経  営者宮崎敏郎三井海洋開発社長」  2014年5月6日・13日合併号、  pp.4-5 『週刊東洋経済』「構造不況の造船  海洋資源に走る」2013年10月5  日、p.100  〈ウェブサイト〉 maritimejapan.comホームページ  (http://www.maritimejapan.com/) SPEEDAホームページ(http://  www.uzabase.comi/speeda/) 現代重工業ホームページ(http://  www.hhiir. com/EN/) サムスン重工業ホームページ(hltp://  www.shi.samsung.co.kryEng/) 商船三井のホームページ(http://  www.mol.coj p/) 大宇造船海洋ホームページ(http://  www.dsme.c0.kr/) 三井海洋開発ホームページ(http://  www.modec.comjp/) 三菱重工業ホームページ(https/  ww.mhi.coj p/)  〈ウェブ記事〉 maritimejapan.comホームページ「国  産造船舶に国産主機を(低速  ディーゼル機関業界の現状と課  題)」2005年3月14日(http://  www.maritimejapan.com/topPage/  content.php?post_id=20326) ★1 現代重工業の売上高円換算額  が、2009年に減少しているのは、  為替レートが2007年から2009年  にかけて大きく円安・ウォン高に  推移したためである。2007年、  2008年、2009年の期中平均レート  (ウォン/円)はそれぞれ0.127、 0。097、0.074である。現代重工業 のウォン・ベースの売上高は2011 年まで一貫して増加している。 ★2 関連会社(持分法適用会社) の利益は、連結財務諸表において 営業外損益項目の「持分法による 投資損益」に計上される。ただし、 「持分法による投資損益」には、関 連会社で発生する営業外収支や法 人税等が加味されていることに加 え、未実現損益の調整等の連結決 算固有の会計処理も含まれている。 本章では、関連会社による利益の 規模をより理解しやすい指標とし て、関連会社の持分割合調整後の 営業利益を使用している。 ★3 2013年度における三井海洋開 発の業績は売上高2544億円(過去 最高)、営業利益37億円で好調を 維持しており、さらに関連会社の 持分割合調整後の営業利益は129 億円で前年度比46億円の増益を達 成している。 ★4『COMPASS』「韓国の大手造 船所第1回現代重工業」2003年5 月号、p.28 ★5 精油部門は、現代重工業が 2010年に経営権を中東企業から取 得して新たに追加された事業部門 である。 ★6『COMPASS』「現代重工業、 最強の秘密」2012年5月、p.490 現代重工業・李載星社長のインタ ビュー記事より。 ★7『COMPASS』「韓国造船業再 び拡大へ」2006年5月、p.19 ★8 2012年末時点の生産能力を比 較すると、現代三湖重工業・現代 尾浦造船の2社合計が現代重工業 1社の1.1倍に相当する。出所: Clarkson Research [2013] , World Shipyard Monitor, Vol.20, No.l, p.22 ★9 maritimejapan.comホームベー  ジ(http://www.maritimejapan.com/)  の業界情報より。 ★10 現代重工業はエンジンの内 製だけでなく外販も行なっており、 世界シェア1位の舶用ディーゼ ル・エンジン製造会社となってい る。 ★11 サムスン重工業ホームペー ジ(http://www.shi.samsung.c0.kr/ eng/)のIR資料、2014年2月より。 ★12 サムスン重工業の技術力を 示す事例として、2009年に開発し た「環境配慮型LNG-SRV (Shuttle and Regasification Vessel)」が世界 最高の環境配慮型船舶を対象とす る「Green Ship Award」を受賞して いることがあげられる。日本船舶 輸出組合・日本船舶技術研究協会 [2012]『韓国の造船業に関する経 営実態調査』2012年3月、p.56 ★13『COMPASS』「猛る韓国造船 業 みなぎる自信とにじむ不安」 2010年11月号、p.52 ★14 図4-3-2から図4-3-4では、 現代重工業とサムスン重工業の製 品戦略の違いを視覚的に示すこと を目的として、詳細な数値は割愛  している。詳細な数値を含めた製  品構成の変遷については、章末の  Appendixに記載している。 ★15 国内大手造船会社である三 菱重工業は2010〜2020年の中期 的な需要を年間5200万総トンと予 測している。これは2011年のピー ク時点の建造量の約半分の水準で ある。三菱重工業IR資料「船舶・ 海洋事業本部 事業説明会」2012 年6月11囗、p.6 ★16 ただし、名村造船所が、完 全に大型(ケープサイズ)に特化 しているわけではなく、営業の基 本方針としては、中型(パナマツ クス)以上の船種・船型を軸に据 えている。出所:『COMPASS』 「現地ルポ西九州の中堅造船所」 2004年5月、p.43 ★17『COMPASS』「日本が切り開  く新鋭バルカー」2011年1月、  pp.55-62 ★18 喫水や積載重量の設定以外  にも、@推進性能と操縦性能のバ  ランスを考慮した船首形状の最適  化や、Fバラストポンプの大型化  による荷役効率の向上、といった  細かな設計上の工夫が施されてい  る。 ★19『週刊エコノミスト』「2014 年の経営者宮崎敏郎三井海洋開発 社長」2014年5月6囗・13日合併 号、pp.4-5 第5章 ネット通販の普   及による利益ポテン   シャルの変化   一宅配便業界  本章では、業界の構造分析手法 を用いて、アマゾン・ドット・コ ム(以下、アマゾン)や楽天など のネット通販の普及により、ヤマ ト運輸(以下、ヤマト)や佐川急 便(以下、佐川)を代表とする宅 配便業界の利益ポテンシャルがど のように変化するかについて考察 する。一見すると、ネット通販の 普及はヤマトや佐川にとってビジ ネス・チャンスであり、利益率を 高める方向に作用すると思われが ちだが、全体的な構造を視野に入 れていくと、両者の利益性は必ず しも向上することなく、場合に よっては低下する可能性すらある、 というのが本章の基本的な主張で ある。  ここ数年、囗本においてイン ターネット商取引(eコマース) は加速度的に普及しているo経済 産業省「電子商取引に関する市場 調査」(平成18〜24年度)によ ると、小売業(旅行や保険など サービス商品を除く)におけるe コマースの市場規模は、2005年 度の1兆7000億円から2012年度 には4兆9980億円まで拡大して いる(図5-O-1)。年平均成長率 (CAGR)に換算すると、ここ7 年間で年平均16.6%の成長を遂 げていることになる。小売業全体 に占めるeコマースの割合である EC化率は、2005年度の1.20%か ら2012年度には3.55%まで増加 しており、今後もこの傾向が継続 してeコマースの市場規模はさら に拡大していくことが予想されて いる。 図5-0-1 eコマース市場規模の碓移{小売業} 二丑。。≫≪  s | |     |   |     | |   20c5 06 c・7 c8 09 10 n 12(午混) 卜、卜I卜Iが卒剔り「Illr布凧引に|かI'ill」工洞卜。を一今日こ下田1成  この市場成長に伴い、販売した 商品を配送する宅配便の取扱個数 も増加しているo総務省「信書便 事業の現状」によると、宅配便取 扱個数は2005年度の31億7400 万個から、2012年度には35億 2600万個へと約3億5200万個増 加している(図5-0-2). 2005年 度から2012年度までの年平均成 長率は1.67%である。 7お ̄2足配便翠摎咽黜の推移 3.E・UCI 。。☆ノノ 2.9]l]            | |                 |  7!l::・I ・ l]6[l,I !IH I:19 1:]|| |2;な度]  しかも同期間中の前半よりも後 半の取扱個数の伸びが著しい。 2005年度から2008年度までの成 長率は年平均0.97%であるのに 対して、2009年度から2012年度 までは2.37%と、ここ最近の成 長が加速しているO国内人口の減 少や、お中元・お歳暮といった慣 習の希薄化といった現状を鑑みる と、宅配便取扱個数の成長の背後 にはネット通販の存在があること は想像に難くない。この取扱個数 の数字を見ると、ネット通販の普 及は宅配便業者にとっても追い風 であるように見える。新規参入が 増えないかぎり、市場の成長は既 存企業間の対抗度を低下させるた め、既存企業の利益ポテンシャル が高まるはずだからであるO  しかし、本当にそうなのだろう かO図5-0-3はヤマト宅急便の単 価の推移を示している。これを見 てわかるとおり、リーマン・ ショックのあった2008年度を境 に急激に単価が下落し、2012年 度の平均単価は2008年度のそれ よりも20円低い。2008年度から 2012年度までの下落率は、デフ レータによる調整を行なっても約 2.9%である。年平均で換算する と、2008年度以降は毎年0.76% 単価が下落していることとなる。 ちなみに、デフレータによる調整 前の実際の単価で見ると、直近4 年間で単価は55円下落し、年率 でマイナス2.20%と急低下して いるO 05-0-3宅急硬単爾の握祁  昌 1.・ ノレ  645-               ・   7コ[][]5 CJi∃ C17 1口13()9 1(1 11 1F・i汪・屁) jlll卜・'S11]EI・EI)。し・17・-夕1・耆考:こT者作瑜・iデフL・-夕15隹|  単価下落の原因  ネット通販により取扱個数が増 え、その結果として需要増に直面 しているはずの宅配便業界が、な ぜ低価格化に直面しているのだろ うか。実はネット通販の普及その ものが宅配便の単価下落の原因で ある、という側面が見られるO大 口需要家であるがゆえに、単価を 低く抑える交渉力をもつからであ るO宅配便取扱個数に占めるネッ ト通販の割合は、いまや3割を占 めるまでになり、取扱個数に占め る割合が高いネット通販向けの単 価下落が、全体の平均単価の下落 をもたらしたと考えられるのであ る★1.佐川の場合、アマゾンと の取引を中止した2013年4月以 降、半年で平均単価が約25円上 昇している(図5-O-4、デフレ調 整前)。このことは、ネット通販 業者の存在が、平均単価に大きく 影響を及ぼしていることを示唆し 図5-0-4佐川宅配使の単価の推移(四半翔別) 二千  乙121G1 2ごIElqG2 2212gQJ 21U12gQ1 201]iEQ・ 2Q131U2  ただし、現状では単価が下がっ てはいるものの、利益率には大き な影響を与えてはいない。図5- O-5はヤマトホールディングス・ デリバリー事業の営業利益率 (ROS)、及び佐川ホールディング スの連結営業利益率の推移を表し ている。ヤマトのROSは、リー マン・ショックからの回復後、さ ほど変化していない。佐川の場合 は連結ベースのため、宅配便事業 の動向を正確に表しているとは言 い難いものの、おおむね同様の動 きで推移しているO 図5-0-5ヤマトと佐川のROSの雇移 噐 50    ●   ̄い゛マト彎yl'茹十  一呀丿卜・!7町高冷.'迚雨) 40   ・' ●       ● 一華・.、.●.‘● 30 十三  2c103 s4 c寸 06 07 08 09 10 凵12 Q言溶l . SI「・IcEr八りし-9を・剔:筆田卜戌  単価下落が利益率低下に直結し ない理由は、以下の2点であると 推察されるo第一に、個数増加に 伴う積載効率の向上である.図 5-O-6は、ヤマトのトラック1台 当たりの平均配送個数の推移であ るo過去5年間で、積載個数は年 平均4.3%成長している。ネット 通販向け配送の単価は安いものの、 取扱個数の増加によってトラック の積載効率が向上し、他の宅配物 も合わせた全体コストが低下して いることが、利益率が大きく下が らないひとつの要因だと考えられ るO ≒7 ̄¨1豐黔絮毘年間配送個蟲 二 29.c]0               ・ 27.c・口0               ・ レ匸\   pon.9  7丁cg pc,10  F011 g一丁1卩皿戻i 119.11;。・マ:・||11資1:11-参S・にy名作・  第二に、大口法人向け宅配は効 率的に行なえる点である。大口法 人の場合は出荷側が仕分け作業を 行なうことが多い。例えばアマゾ ンの場合、小田原の物流拠点から 出荷する際には、アマゾン側のス タップが荷物の仕分けを行ない、 行き先に応じて分けられたヤマト 専用の荷車に載せている★2.そ の結果、「トータルでの作業効率 が個人や小口商流と比べ3〜5割 も高くなり、その分コストが下が る」(山内雅喜ヤマト運輸社長) という★3。  このように、ネット通販向けの 荷物は増加し、単価は下落してい る。そのトータルの効果として利 益率は増えてもいなければ、減少 もしていないO しかし、利益率と いう表層的な数字が変化していな くても、ネット通販向けの荷物量 の増加と単価の下落という明確な 変化は生じているO しかもその背 後にはさらにいくつかの構造変化 が見られるOそれゆえ、現在の表 層的に安定している利益率に惑わ されることなく、宅配便業界が現 在の構造に基づいてどれほどの利 益を上げ続けられるポテンシャル をもつのかを確認する作業が重要 であると思われる。なぜなら、長 期的に達成可能な利益水準は、こ の背後の構造によって左右される からであるO短期的な現状ではな く背後の構造を見ることで、本当 に安心できる状況なのか、それと も危険な状況なのかを判別できる のである。  利益ポテンシャルに対する影  響  以下の分析で明らかになるよう に、ここ数年のネット通販の普及 は、宅配便業者にとって非常に大 きな構造変化をもたらしてきたO 本章では業界構造分析というアプ ローチから、ネット通販の普及が 宅配便業者の業界構造にどのよう な変化をもたらし、利益ポテン シャルに影響を与えるのかを分析 するO  本章の要点は以下の3点である。 ・宅配便業界は過当競争を引き 起こしやすい業界ではあるのだ が、@広域な配送ネットワーク というインフラによる規模の経 済性、B仕分け作業や配送作業 に関する経験効果という2つの 強力な参入障壁が存在するため、 寡占化による業界内の安定的競 争を維持しつづけることができ ている。それゆえ、現状におい ては利益ポテンシャルを保ちつ づけている。 ・アマゾンや楽天といった大手 ネット通販業者が買い手の集中 度を高めており、宅配便業者の 買い手に対する交渉力が一部で 弱まっている。 ・ネット通販業者が物流拠点を 分散して設立したことにより、 「ドアtOドア」で行なわれてい た配送が、「発地・拠点間」配 送と「拠点・着地間」配送の2 つに分割された。この変化は、 単に配送距離を短くするだけで はなく、業界の基本的な構造を 変えることになる。「発地・拠 点問」配送と「拠点・着地問」 配送という2つのフェーズにお いて代替可能な業者が登場する ことにより、既存企業間の競争 が激化するだけでなく、買い手 の交渉力が増加する。現状では 利益ポテンシャルを維持してい るものの、これに対する対応策 をとらないかぎり、長期的に宅 配便業界は利益ポテンシャルを 維持することができなくなって  しまう。これが、表層的な利益  率推移だけでは把握できない、  業界構造の分析から得られる知  見である。  本章の構成は以下のとおりであ る。第1節では、基本的な業界構 造分析フレームワークを用いて、 宅配便業界の構造を分析する。既 存企業間の対抗度、新規参入の脅 威、売り手の交渉力、買い手の交 渉力、代替品の脅威、補完財とい う業界全体の構造を俯瞰した議論 を、後の議論のベースとして行な いたい。第2節では本章のメイン テーマである、宅配便業者と買い 手業者の間における利益の奪い合 いの基本構造について議論する。 買い手にはいくつかのセグメント が存在するが、本節では特にアマ ゾンや楽天といった大手ネット通 販業者との関係性にフォーカスす るO第3節では、ヤマトが現在推 し進めている、ゲートウェイを利 用した高速配送ネットワークの構 築という戦略を、宅配便業者と ネット通販業者の間における利益 の奪い合いという観点から考察す る。  第1節 宅配便業界の業    界構造分析  本節では宅配便業界を中心とし た業界構造分析を、シックス・ フォーセズ・モデルを用いて行な うOこれは、既存企業間の対抗度、 新規参入の脅威、買い手の交渉力、 売り手の交渉力、代替品の脅威と いう伝統的なファイブ・フォーセ ズ分析に加えて、補完財もしくは 補完的プレーヤーの動向を分析す ガ三讐 玉子玉灘卜 宅配便業界に関する主なプレー ヤーを表したものである。 05-1-1宅配昃杲男の見取り図  li蜀参入    iF擢参入 エ1:卅匸 ≒rl羅竺 1  業界構造分析の結論は以下の3 点であるO第一に、宅配便業界は 過当競争を引き起こしやすい業界 であるにもかかわらず、寡占化に よって業界内の競争が安定的であ るため、現状においては利益ポテ ンシャルを保ちつづけることがで きている。第二に、寡占化か進ん でいる原因は、@広域な配送ネッ トワークというインフラによる規 模の経済性、A仕分け作業や配送 作業に関する経験効果という2つ の強力な参入障壁が存在する業界 の中で、これまでに激しい競争が 繰り広げられ、その結果として弱 小企業が淘汰されてきたためだと いうことである。第三に、楽天や アマゾンといった大手ネット通販 業者が買い手の集中度を高めてお り、宅配便業者の買い手に対する 交渉力が一部で弱まっている。こ のネット通販業者の集中度の高ま り方次第で、宅配便業者の利益ポ テンシャルは低下していく可能性 もあるO  本節では、シックス・フォーセ ズのうち、「宅配便業者とネット 通販業者との関係性」という本章 のテーマに関して特に重要な、既 存企業間の対抗度、新規参入の脅 威、買い手の交渉力の3つに重点 を絞って議論するO宅配便業者と ネット通販業者の交渉力の強弱に 注目しているので、その文脈にお いては売り手の交渉力や補完財は 決定的に重要な要因ではない。な お、代替品の脅威については本章 の内容と直接的に関連してはいな いのだが、今後の宅配便業界を占 う上で考慮すべきトピックである ため付記することとするO ・既存企業間の対抗度一寡  占化による高い安定度  宅配便は固定費が大きく、サー ビスの質の差別化が難しい商材で あるため、厳しい競争に陥りやす いという側面もあるO しかし現状 では、業界の寡占化か進んでいる がゆえに、既存企業間の対抗度が 抑えられており、比較的安定した 業界だと評価できるO  図5-1 -2 2012年度宅配便シェア            フクツー宅配便            (楓山通運ほか)       1框ド 3n 門澀・           うパック         {日本郵便}           0.9%  卜         儁 宅便(ヤマト)                   42.7%          飛脚宅配便(佐川)            38.9%  出所:|!l十交通省「f戚24年度宅配便等取扱実績関係資料」   業界内の対抗度を高める要因と しては、第一に固定費が大きいと いう点があげられる。集荷作業や 仕分け作業のために全国各地に拠 点を配置しているだけでなく、配 送のために大量のトラックが必要 となる。ドライバーを正社員とし て雇用している場合は人件費も固 定費といえる。このように、固定 費が大きい場合、損益分岐点が高 いため、稼働率を上げるためには 多少の値引きちいとわない。しか も価格競争に陥ったときに、貢献 利益さえ出ていれば各社操業を継 続するため、低価格が永続し、価 格競争が激しくなってしまう。第 二に、サービスの質で差別化する のが難しいという点も、利益を上 げにくくする方向に作用する。業 界の黎明期においては、宅配のス ピードや正確性、決済サービスや 取扱店舗数といった点でサービス の差別化を図ることができたが、 現在では残っている宅配便業者の サービスの質は横並びになってき ており、それらは差別化のポイン トにはなりにくくなってきたO  しかし、これらの利益ポテン シャルに不利に働く要因が存在す るにもかかわらず、宅配便の業界 では寡占化か進んできたため、利 益ポテンシャルを一定に保つよう な力も働くようになってきたと考 えられるO業界の寡占化は、ここ 10年におけるハーフインダー ル・ハーシュマン指数(HHI)の 推移から見て取れる。HHIとは、 各企業の市場シェアを2乗して足 し合わせたものである。  HHIは、競争業者の数が多け れば多いほど小さくなるだけでな く、企業間の格差が小さいほど (シェアが拮抗すればするほど) 小さくなる。それゆえ、HHIが 小さければ小さいほど、激しい競 争に陥りやすいと推測できる。国 土交通省が発表している宅配便取 扱個数のシェアをもとに、2003 年度、2007年度、2012年度にお ける宅配便業界のHHIを算出し たところ、2003年度は0.269、 2007年度は0.279、2012年度は 0.348となった。  HHIの逆数は等規模換算売り 手数あるいは等規模換算企業数と 呼ばれる。例えば、等規模な企業 が4社あるとHHIは0.25であ り、3社なら0.33であるOそれぞ れ逆数をとると、4と3になるO このような考えを一般化すると、 0.279というような数字の逆数、 すなわち3.58を、この業界が等 規模企業から構成されていたら何 社ある場合と同程度の集中度か、 ということを表す指数として読む ことができるのであるO  この等規模換算企業数を川いる と、2003年度は業界内に対等な シェアを保有する企業数が3.72 社あるのに対して、2012年度は 2.87社となるOこの変化は、等規 模の企業が市場から9年間で約1 社消えたということを意味してお リ、業界の寡占化か進行している ことがわかる。なお、2003年度 調査では、現在シェア3位である 日本郵便が民営化前であったため 含まれていないOこの日本郵便を 2003年度のデータに含めていれ ば、当時のHHIはさらに小さ かったはずである。そのように見 ると、この9年間で宅配便業界か ら2社が消え、2強1弱という構 造へと業界が変化してきたと考え られるのであるO  最終的に競争業者が減少し、 残った上位企業は利益を安定的に 確保できるようになってきたのだ が、その間に淘汰されてきた下位 企業は利益を確保することが難し い状況であった。ヤマト、佐川に 次いで業界3位であった日本通運 のペリカン便も、事業開始から 2009年に日本郵便に統合される まで、一度も黒字化したことがな かったといわれている★4.それ ゆえ、業界内で撤退や統合が相次 ぎ、業界が寡占化されてきたので あるO下位企業が退出してきたこ とで、業界構造は安定してきてい るといえるO宅配便業界は熾烈な 価格競争を引き起こしやすい商材 であるにもかかわらず、業界が寡 占化されているために、過当競争 を防ぎ、現在生き残っている少数 の企業にとっては利益ポテンシャ ルが保たれているのである。 目新規参入の脅威一高い参  入障壁  少なくとも今日の段階では、宅 配便業界の新規参入の脅威はきわ めて小さい。その理由は、宅配便 業界には@広域な配送ネットワー クというインフラによる規模の経 済性とA仕分け作業や配送作業に 関する経験効果、という2つの参 入障壁が存在するためである。  第一に、配送ネットワークによ る規模の経済性である。発地から 着地まで「ドアtOドア」で配送 を行なう場合、関東のみといった 地域限定で行なう地場宅配便業者 より、全国的に配送を行なう業者 のほうが圧倒的に有利になる。そ のためには、トラックや物流拠点 といった有形資産への投資が必要 なのはもちろんのこと、取次店の 確保といったチャネル政策七重要 となる。  この巨大な配送ネットワークの インフラは、既存企業に規模の経 済性というメリットをもたらして いる。同じ操業度で比較した場合、 より大規模な配送能力をもつ宅配 便業者のほうが平均費用を抑える ことができるOすでに既存企業は 大規模な配送能力を保有している ことを考えると、これらの既存企 業と同等の条件で競争できるよう に同業界に参入しようと考えるな ら、相当な規模で参入しなければ ならない。少なくとも全国ネット ワークの業者として参入する場合 には、小規模に参入して徐々に成 長していくという手が取りにくい のであるO したがって長年かけて それらの配送ネットワークを構築 してきたヤマトや佐川が存在する 宅配便業界の参入障壁は非常に高 いといえる。  第二に、経験効果であるO例え ば、ラスト・ワンマイル配送に関 してはさまざまなデータやノウハ ウの蓄積がある。地域内において 効率的な配送ルートを見つけ、そ れをドライバーに徹底させること も重要となる。また、コストを引 き上げる大きな要因である再配達 を防ぎ、ファーストデリバリー (1回目の配送による受け取り) の比率を高めるためには、1戸ご との不在率といったデータを蓄積 することが非常に重要となるO経 験効果は配送業務だけでなく、物 流拠点での仕分け作業においても 当てはまる。作業員の習熟度に伴 い、荷物1個当たりにかかる人 的・時間的コストは低減する。こ れらの綛験効果は、これまでに配 送された荷物の量に依存して蓄積 されるものだと考えられるO  図5-1-3は、ヤマトにおける宅 急便の累積取扱個数と平均費用の 関係を表している★50 2003年度 から2012年度のデータで計算す ると、宅配便の場合、累積取扱個 数が2倍になると、1単位あたり のコストが87.5%になる。 S5-1-3宅急使の累積取扱個数と平均頁用 三] |.1;!]l],IE]l][jl l,心E I,2()cI,0cI:; |.・!],11]l]〔I I司.1.1E〕100 l£l]cI,l];jl::   ・寸lg便猖柘迦很傴髱                 lf渭1 1jl=・i:ヤ々1,1-j・ページ‘4-il-1yjEa・11=s 矢玉 ストを100とし,既存企業A社 は10年間毎年100個配送すると 仮定している。87.5%経験曲線の 場合、10期目であるt+9期の単 位コストは64.3となる。もし一 般的に規模の経済で指摘されてい る3分の2乗則(総費用が生産規 模の3分の2乘倍になるという規 則性)を使うならば、新規参入で あるB社がA社の3.5倍の個数 を配送する規模で参入したとして も、規模の経済のみでA社と同 等の単位コストを達成することは できない★6.実際の企業で当て はめると、ヤマト宅急便の2012 年度の取扱個数は約14.8億個な ので、新規参入業者は年間で約 44.4億個配送したとしても、ヤマ トの蓄積した経験効果に対応でき るコスト水準に到達できない。 2012年度の国内全体の宅配便取 扱個数が約35億個であることを 鑑みると、新規参入業者が規模の 経済のみでヤマトの経験効果を凌 駕することは不可能であり、ヤマ トにとって脅威となるような新規 参入企業が登場するとは思われな いO m5-1-1経験勍罘と規模の経済の誠戸 −£。。、いド芯孤孤孤ここ謡鴇回、 ΞΞ噐:十。。‥。‥。。。、‥。−。、‥。−。、ぎ 妓ご匐亠。 ・l]0.:でI !17E !l・(1ノ6.6ノ:l.了71:。9 61!。11 67.165.6 64.:l 卜千 nt応Q佝コ元卜                                        b.。。ヨ  このように、大手宅配便業者は すでに巨大な配送ネットワークを 構築し、大量の経験効果を蓄積し ているため、参入障壁は非常に高 いものだといえる。ただし、後の 議論で見るように、ここで述べて きた2つの参入障壁は、ネット通 販業者が物流拠点を全国各地に設 立することで低下しつつあり、こ のことは業界構造を変質させる重 要な変化として注目される。この 点については第2節で詳しく言及 するO 囲買い手の交渉力-強まる  「超」大口法人の影響力  宅配業における買い手(荷主) は、大きく分けると個人、小口法 人、大口法人という3つに分類さ れる。ネット通販出品者と、アマ ゾンや楽天などのネット通販業者 との関係については、出品者が ネット通販業者に手数料を払って いるため、一見すると「出品者= 買い手・ネット通販業者=売り 手」という関係が目立つように見 える。その側面は確かに存在する のだが、その一方で、出品者はア マゾンや楽天というプラット フォームを魅力あるものにするた めのパーツであり、テナントと百 貨店の関係性に似ているととらえ られる面もあるO本項では後者の 側面をより重視し、「出品者=売 り手・ネット通販業者=買い手」 という関係性で整理している。  宅配便業者における買い手の交 渉力については、宅配便業者の個 人及び小口法人に対する交渉力は 強いが、大口法人に対しての交渉 力は近年急速に弱まっている。三 者に対する交渉力を決定づける キーワードは、「買い手の購入量」 であるOある商品を1個しか買わ ない個人より、100万個買う企業 のほうが価格交渉力は強い。宅配 便業者の売上高に占める買い手の 購入量の比率が高まるため、強い 交渉力をもつからであるO特に、 ネット通販の普及により、アマゾ ンや楽天といった「超」大口法人 の存在感が急速に増している。配 送個数が増えたとしても、そこに 占めるアマゾンや楽天等の「超」 大口法人の割合が増えるのであれ ば、宅配便業者にとって利益ポテ ンシャルは低下する可能性がある。  「超」大口法人である大手ネッ ト通販業者が宅配便業者に対する 価格交渉力を高める理由は、取扱 個数ばかりではない。大手ネット 通販業者は全国に自前の物流拠点 を置くことで、大手宅配便業者に 依存する程度を引き下げつつあり、 買い手の交渉力が高まっていると 考えられる。この点についてはも う少し詳細に検討する必要がある ので、後の第2節で重点的に議論 することにしたい。 EI代替品の脅威一目に見え  ない代替も  代替品の脅威に関しては、何を 運ぶのかによってその大きさが異 なってくる。最後まで物理的な製 品を配送しなければならないモノ であれば、宅配便業界にとっての 代替品の脅威は弱いといえるだろ う。しかし、音楽の配信がCD販 売に代わり、Kindleなどの電子書 籍のダウンロードが書籍販売に代 わるということを考えると、情報 的なコンテンツの領域では代替品 の脅威が強いといえるであろう。 3Dプリンタが多くのモノを再現 できるようになれば、宅配便業界 が配送する必要のあるモノが減少 する可能性もあるo  さらに、もう少し目に見えない 形の代替はすでに発生してきてい るかもしれない。例えば、現在の デジタル機器のほとんどは、ネツ トワークを通じたアップデートが 可能になっているO新商品を買わ なくても機能が向上するため、 ハードウェアの購入頻度が減少す るOその結果、配送機会が減少す るという目に見えない代替が起 こってきているという考え方もで きる。しかし、多様な技術進歩の スピード次第ではあるものの、水 やワイン、野菜など、代替できな い製品カテゴリーも多く、いまし ばらくはモノの配送が増加傾向に あり、代替の脅威にさらされて利 益ポテンシャルが低下傾向に入る ということはないように思われる。  以上に述べてきたとおり、宅配 便業界は過当競争を引き起こしや すい業界ではあるのだが、@広域 な配送ネットワークというインフ ラによる規模の経済性、A仕分け 作業や配送作業に関する経験効果、 という2つの強力な参入障壁が存 在するため、寡占化による業界内 の安定的競争を維持しつづけるこ とができ、現状においては利益ポ テンシャルを保ちつづけているO  しかし、大手ネット通販業者が 買い手の集中度を高めており、宅 配便業者の買い手に対する交渉力 が一部で弱まっているO さらに、 ネット通販が物流拠点を全国各地 に設立することによって、利益ポ テンシャルがより一層低下する可 能性があるO次節ではそのメカニ ズムについて議論する。 第2節 ネット通販の普   及に伴う利益ポテン   シャルの変化  本節では、先ほど簡単に検討し た買い手の交渉力について、もう 少し詳細な分析を行なうことにし たいOより具体的には、ネット通 販業者が全国各地に独自の物流拠 点を置く戦略をとることによる、 宅配便業者の利益ポテンシャルの 変化について考察を深めるOネッ ト通販業者の独自物流拠点設立に 伴う配送プロセスの分割によって、 ネット通販業者が潜在的に使える 宅配便業者数が増加し、競争が促 進されるため、宅配便業者の利益 ポテンシャルが低下することを本 節での分析を通して指摘するO ・ネット通販業者の物流拠点  設立ラッシュ  近年、大手ネット通販業者は全 国主要地域に次々と物流拠点を設 立し、在庫を分散させている。表 5-2-1は、アマゾンと楽天の物流 拠点の設立動向を表したものであ るOアマゾンは2000年11月の日 本進出以来、物流拠点は千葉県の みで運営していたが、2009年10 月の大阪・堺を皮切りに、全国主 要地域に立てつづけに拠点を設立 しているO m5-2-1アマゾンと濠夭の物洳氤aの設立黻囘 ll¶両:i・・11111J・・ ・|];li:;9112sII;」`を匐考1こ・a・が&岷 尚難 ⊇白玉 をとるのである。  また近年では、大手メーカーの 商品を仕入れているだけでなく、 FBA(フルフィルメント・バイ・ アマゾン)というサービスも行 なっている。FBAとは、アマゾ ン・マーケットプレイスで販売す る、個人や小規模店舗の商品にお ける物流部分をアマゾンが全面的 に引き受け、アマゾンの物流拠点 で製品の在庫・仕入れ・梱包・発 送等を行なうものであるO  出品者がFBAを利用する大き な理由のひとつは、アマゾンの価 格交渉力である。個々の企業単体 では、宅配便業者に対する価格交 渉力はあまりにも小さいO しかし、 圧倒的な購買量を背景に強い価格 交渉力をもつアマゾンの物流ネッ トワークに乗ることで、自社が負 担する配送料を減らすことができ る。もちろんアマゾン側もFBA を行なうことでメリットがあるO FBAによって短納期で配送する ことが可能になるので、顧客サー ビスが向上するばかりでなく、宅 配便業者から得られる配送料の数 量割引部分の一部を流通業者が人 手できるからである。  メーカーから仕入れた商品をで きるかぎリスピーディに個人に配 送するためにも、また多くのマー ケットプレイス参加者を誘引して 最終顧客に商品を届ける上でも、 商品を在庫する物流拠点はアマゾ ンにとって非常に重要である。そ のため、アマゾンは物流関連費用 に多額の投資を行なっているOク レディ・スイス証券による見積で は、アマゾンは粗利益の40%以 上を物流センターに投資し、 4.4%を営業利益にしている★70 このように、同社の物流センター への投資意欲は非常に高い。  これに対して楽天の場合、かつ ては物流についてそれほど大きな 投資を行なってこなかったO過去 の楽天にとっては、ネット上の出 店スペースを貸すことが仕事で あって、その後のモノについての リアルな仕分けや梱包、配送と いった物流業務は出店企業任せ だったのである。上記のクレ ディ・スイス証券の推計では、楽 天は粗利の57%を営業利益にし ており、物流センターへの投資に は積極的ではなかった。もし楽天 がそのまま旧来のビジネス・モデ ルを維持していれば、ヤマトなど の宅配便業者は個別に中小規模の 業者と取引するという状況を維持 できるため、宅配便業者は厳しい 価格交渉には直面しないで済んだ ものと思われる。  しかし、楽天は近年、この旧来 のビジネス・モデルを変更してき ている。楽天市場で購人した顧客 が高い運賃負担を強いられる点、 配送のスピードや品質といった サービスも個別の中小業者により 未統一であったため、消費者が知 覚するサービス品質がアマゾンに 比べて低かった点を問題視したか らである。  これらの問題を解決するべく、 楽天は、出店企業に対して物流機 能を提供する「楽天スーパーロジ スティクス」(RSL)の提供を 2012年8月に開始したOこれは、 出店企業の商品在庫を物流セン ターで預かり、仕分け、梱包、発 送といった業務を、出店企業に代 わって行なうというサービスであ り、アマゾンのFBAと類似のも のである。楽天はそれまで、千葉 県市川市に物流拠点を1つもって いるだけだったが、表5-2-1で示 しているとおり、2013年以降立 てつづけに拠点を設立しているO さらに、現在九州と東北に物流拠 点の設立を検討しており、2015 年内には全8拠点となる予定で、 拠点数においてアマゾンと同等と なると予想されている★8.この ような物流拠点への投資と宅配業 務の一元管理化によって、ヤマト などの宅配便業者は多数の中小業 者ではなく、少数の巨大なネット 通販会社に直面することになる。 アマゾンや楽天の物流拠点への投 資を考えると、宅配便業者の直面 する買い手側はますます交渉力を 高めてきているのである★9. 目ネット通販物流拠点設立に  よる配送プロセスの変化  ネット通販業者が物流拠点を設 けることにより、配送のプロセス も変化している。図5-2-1で表し ているとおり、従来は、商流とし ては楽天などのネット通販業者を 難玉子 宍とズな 分割  丁勾100km     舛   ゾ y一吻友皿点がある喝合 発哇     物流拠点     石迴 に・づ]     `、ノ|    I二一I    平咄160km しかし、通販業者の物流拠点が 設立され、通販業者が物流業務の 一部を担うようになっていくと、 配送が「発地・拠点間」配送と 「拠点・着地間」配送との2回に 分割されることになるo  この2分割の効果は、宅配便業 者が受け取れる金額の多寡に影響 を与えるため、少し丁寧に考察を 加えておく必要があるoここで図 5-2-1のような状況を想定しよう。 通販業者の物流拠点を経由しない 場合には、発地と着地の間の距離 が100 km であると仮定しようo 図の下段に示されている状況は、 通販業者の物流拠点がつくられた 場合の設例であるo発地の出店業 者から楽天などの通販業者の物流 拠点を経ないと購入者(着地)へ と到達できなくなるので、総距離 は少し遠回りになる。ここでは、 出店業者(発地)から通販業者の 物流拠点までが60 km、さらにそ の通販業者の物流拠点から購入者 (着地)への距離がそれぞれ60 kmである想定しておこう。  本当は図の上段のケースでも、 途中でヤマトなどの宅配便業者の 中継基地を経由するから、構造的 には類似のものになるはずなのだ が、通販業者が物流拠点を構築し た場合には、宅配便業者が相手に 課金できる距離が変わってくる。  例えば、10個の荷物を運ぶ ケースを考えてみよう。上段の ケースでは10個の荷物について、 着地が10個異なるのであれば、 100 km x10個の配送距離をサー ビスとして提供していることにな る。実際の移動距離をどう短縮し て効率化するかは、ヤマトなどの 宅配便業者の努力によって左右さ れ、宅配便業者は自らの利益を自 分の努力で高める自由度をもって いる。  しかし、通販業者が物流拠点を つくると、この自由度が大幅に制 限されることになるoまず、出店 業者が販売する10個の商品は、 通販業者の物流拠点に運び込まれ る。この距離を仮定どおり60 km とすれば、10倍の体積の荷物が1 個ということになるoこの部分を 600 km 分として通販業者に要求 することは難しいと考えられるた め、180 km 分に相当する費用を 請求できると想定しておこう ★10.次いで、この荷物が物流 拠点から購入者に配送されるので、 物流拠点から着地までが60 kmx10個=600 km になる。  この設例では、合計で780 km 分に相当する配送コストしか要求 できなくなり、当初の1000 km よ りも距離が短くなるoある程度の 売上数量が見込めるようになると、 通販業者が物流拠点を構築すれば 物流拠点までの配送でコストダウ ンを要求できるようになるために、 宅配便業者が不利になるのであるo  さらに、通販業者が物流拠点を 構築すると、拠点・着地問の混載 配送も可能になるOアマゾンの物 流拠点では、異なる出品者からの 荷物であっても1つの段ボールに まとめて配送することができるO 例えば、同じ囗に書籍と靴を異な る出品者から購入しても、同じ段 ボールに梱包されて届けることが 可能である。これにより、若干重 量は高まるものの、複数回運んで いた荷物を1回で運ぶことが可能 になるため、配送距離はさらに短 縮する。  このように、一見遠回りに見え る物流拠点を通した配送は、実は 宅配便業者が課金できる配送サー ビスの量を減少させる効率的な方 法である。そのため、通販業者は 自社の物流拠点を設立して、そこ を介した配送を増やそうとしてい るOその結果、配送プロセスが分 割され、拠点・着地間の距離が短 くなり、全国配送ネットワークを もたない宅配便業者を活用するこ ともできるという状況が生まれつ つあり、ネット通販を担う宅配便 業界の参入障壁を下げるという構 造変化が起こってきているのであ る。この点について次項で重点的 に議論するO 囲配送プロセスの変化による  代替可能業者の増加  ネット通販業者が物流拠点を設 立し、配送プロセスが分割される という状況は、いま現在の物流費 を削減するばかりでなく、第1節 で述べた「広域な配送ネットワー クというインフラによる規模の経 済性」と「経験効果」という2つ の参入障壁の効力を弱め、業界構 造を大きく変える可能性を秘めて いる。具体的には、「発地・拠点 間」では宅配便ではない長距離輸 送物流企業が、「拠点・着地間」 では地場の中堅宅配便業者が代替 可能な業者として増加する。その 結果、既存企業間の対抗度が高く なるだけでなく、買い手の交渉力 も高まるため、宅配便業者の利益 ポテンシャルは低下することにな る。  具体的に「発地・拠点間」と 「拠点・着地間」の各フェーズに おける競争関係の変化について見 ていこう。  発地・拠点間配送一宅配便  業者以外のプレーヤーの参入  発地・拠点間配送に関しては、 宅配便業者以外のプレーヤーが参 入する可能性がある。アマゾンの ホームページを見ると、同社の物 流拠点への自社便による納品は禁 止されており、納品できる配送業 者は、ヤマト運輸・佐川急便・日 本通運・郵便事業・福山通運・西 濃運輸・名鉄運輸・カトーレッ ク・フットワークエクスプレス・ エコ配の10社とある★llo 2013 年4月にアマゾンとの取引を中止 したとされる佐川の名前があった り、2012年3月30日付で卜一ル エクスプレスジャパン(株)に社 名変更したフットワークエクスプ レス(株)があったりするなど、 ホームページに記載されている企 業が現状を正確に表しているとは 言い難いが、特筆すべきことは、 日本通運や名鉄運輸など、宅配便 が主力サービスとはいえない長距 離輸送物流企業がリストに入って いることであるO  ドアtOドアで配送を行なう場 合、これらの業者にとって最大の 参入障壁は、「ラスト・ワンマイ ルといった配送作業に関する綛験 効果」であったO しかし、物流拠 点が設立されたことにより、全国 数力所の物流拠点に運ぶだけで事 足りるようになるため、この参入 障壁はきわめて小さくなったO  拠点一着地間配送一地場中  堅業者の参入  拠点・着地聞配送に関しては、 地場の中堅宅配便業者が参入する と考えられる。アマゾンのホーム ページを見ると、千葉県内の配送 にはカトーレック(2012年度売 上高約645億円)を、大阪府・兵 庫県・広島県の一部の配送には TMG(2008年の年商約38億円) を利用するなど、利用人数が多い 大都市圈の配送をヤマトなどの大 手だけではなく、中堅宅配便業者 に委託しているO楽天の場合、自 社のネットスーパー事業「楽天 マート」の配送を地場の中堅業者 と組んで行ない、将来的には楽天 市場での購入品も合わせて届けよ うとしている★12。  こちらの場合は、「大量配送に よる規模の経済性と綛験効果」 「配送ネットワークの広さによる 競争優位性」という参入障壁が低 下すると考えられる。  第一に、大量配送によって生み 出されていた2つの参入障壁が低 下するO1点目に「規模の経済 性」である。ヤマトなど大手は全 国各地に仕分けのための拠点を もっているO しかし、中堅宅配便 業者がネット通販の商品を配送す る場合、その物流拠点に関する費 用はアマゾンや楽天といったネッ ト通販業者がもつ。ヤマトが大規 模な物流拠点で発揮する規模の経 済性のメリットを、中堅物流業者 が単独で克服することは難しいと 思われるが、通販業者がそのイン フラを提供してくれるのであれば、 大手宅配便業者が享受してきた規 模の経済性は競争優位にはなりに くくなるO2点目に、「仕分け作 業における綛験効果」も、規模の 経済性と同様に低下するO仕分け 作業は買い手であるネット通販業 者に依存することになるため、ヤ マトの蓄積してきた経験効果と中 堅物流業者の経験効果の差は重要 なポイントにはならなくなるO  第二に、中堅宅配便業者が参入 する最大の理由として、「配送 ネットワークの広さ」という参入 障壁が低下する点が指摘できるO 地場の中堅宅配便業者が全国に配 送ネットワークを構築することは きわめて難しいOだからこそ、い ままでの宅配便業界は「ヤマト VS佐川VSペリカン便」といった 全国配送ネットワークをもつ企業 同士で、全国規模の競争が展開さ れていた。しかし、ネット通販業 者が分散して物流拠点を設立した ことにより、その全国配送ネット ワークをもたない業者でもネット 通販の配送業務に参入できるよう になってきた。これまで全国規模 で2、3社と競争していた大手宅 配便業者は、地域ごとで異なるプ レーヤーとの競争に身を置くこと となり、寡占による安定的な業界 構造が変容する可能性がある。 EI宅配便業者の利益ポテン  シャル低下  ここまでの議論をまとめると図 5-2-2のようになる。本章で筆者 が強く主張したいことは、ネット 通販業者の物流拠点設立という戦 略により、「ドアtOドア」配送が 「発地・拠点間」「拠点・着地間」 という2つの配送に分割されたこ とに伴う利益ポテンシャル低下の 可能性である。配送の分割は代替 可能な業者を増加させ、買い手の 交渉力強化と既存企業間の競争激 化をもたらす。その結果、宅配便 業者はネット通販の普及によるパ ⊇]す 二謙雪艶言言 だろう。しかし、ネット通販関連 の配送の比率が今後ますます増加 すると、利益ポテンシャルが相対 的に低い市場が大きな割合を占め るため、全体的な利益率も低下す るおそれがある。 第3節 大手宅配便業者    の動きと今後の展望 圓佐川・ヤマトによる値上げ 交渉が示ず現在”の力関 係  既述のとおり、2013年4月に 佐川はアマゾンとの取引を中止し たOこれに先立ち、2012年後半 から、佐川はアマゾンに対して1、 2割程度の値上げを交渉し、これ を拒否されたために取引を中止し たといわれている★13.しかし 同時に、ヤマトもアマゾンに対し て2014年3月に値上げ交渉を行 なうという報道が流れた★14. 報道によると、アマゾンはこの要 請に応じるというO値上げ交渉の 結果、佐川は要求を退けられ、ヤ マトは受け入れられるという異な る結果が見られるOその背後には、 ここまでに論じてきたのとは異な る宅配便業者の交渉力の源泉があ るように思われるO  現状においては、アマゾンの業 務へのファインチューニングを達 成し、受け取る人が感じる「配送 品質」の高さをヤマトと比較可能 なレベルで達成できる業者がいな い、ということである。実際、佐 川がアマゾンから撤退した後、ア マゾンはその分を日本郵便に委託 したが、配達品質の維持を理由に ヤマトに変更したといわれている ★15.アマゾンとしては、佐川 撤退後もヤマト依存を極力抑えた かったのだろうが、結局それは実 現せず、ヤマトヘの依存度を高め る結果になった。そのタイミング でヤマトから取引を打ち切られる と、アマゾンは事業が立ちいかな くなる恐れがあるOアマゾンがヤ マトの値上げ要請を受け入れる背 後には、このようなヤマト独自の 交渉力の源泉が存在するのであるO  ただし、この独自の交渉力の源 泉は、あくまでも“現状において ばと強調されなければならない。 なぜなら、第2節で述べたように、 宅配便業界の利益ポテンシャルが 構造的に低下していく可能性が高 いからであるO現在のヤマトの交 渉力の強さは、代替可能な業者の 供給能力がヤマトの抜けた穴を埋 めるには至っていないからこそ存 在しているO しかし、物流拠点が 分散して配置されるようになれば、 長期的には代替可能な業者は増加 するだろうOその供給能力の総計 が大きくなれば、ヤマトの交渉力 は低下していく可能性が高いO  現時点では、アマゾン等の通販 業者の物流システムとうまく適合 して対応できる企業がヤマトのみ であるとしても、通販業者が物流 拠点への投資を強化し、自社が行 なう業務を増やし、宅配部分は比 較的多くの企業が担当できるよう に業務プロセスを設計していけば、 代替的な宅配便業者の数を増やし ていくことができるO  「ネット通販業者の物流拠点設 立による宅配業務の代替可能業者 の増加」という業界構造の変化は、 ヤマトのような宅配便業者側の抜 本的な対策なしには止めることが できないのであるo 目業界構造変化への対応策  前節で述べたとおり、宅配便業 界はネット通販業者の戦略によっ て、長期的に利益ポテンシャルが 低下する可能性が高いo図5-2-2 の状況を考慮すると、宅配便業者、 特にヤマトをはじめとする大手宅 配便業者のKFS (Key Factors for Success)としては、「ネット通販 業者に対して代替不可能なサービ スを提供すること」及び「個別配 送を行なう小口の業者が多数残る ように心がけること」の2点があ げられる。  前者、すなわち「ネット通販業 者に対して代替不可能なサービス を提供すること」という方向性は、 おそらく同社も常に心がけている ところであろうO とりわけ、アマ ゾンや楽天などのネット通販業者 の物流拠点との連携に関して、ヤ マトでなければならないという独 自性をいかに出すのかが重要とな るOそのために非常に微細な作業 手順・手続について、できるかぎ リヤマトのシステムへと最適化さ れたものとなるために、ネット通 販業者側の情報システムや作業者 の標準作業手順を改変するよう働 きかけているはずである。そのよ うにヤマト側が働きかけることで、 積み上げられるスイッチング・コ ストがどの程度になるかというの は、今後のネット通販業者の設備 投資のやり方と、ヤマトとネット 通販業者の両方の現場をよく知る 経営管理者たちの工夫によって大 きく左右されるであろうOこの種 の問題は、実に繊細な細部に大き な違いを生み出すタネが含まれて いる可能性があるO神は細部に宿 るのである。  ヤマトの超高速配送システム  後者、すなわち「個別配送を行 う小口の業者が多数残る」ために、 また大手通販業者にとってもヤマ トが一段と魅力的になるようにす るために、現在ヤマトが推し進め ている改革としては、超高速配送 システムの構築があげられるOヤ マトは現在、3都市間ゲートウェ イを用いて配送の超高速化を進め ており、2016年から大都市間で の当日配送サービスを始めると発 表した。現在厚木にあるゲート ウェイと呼ばれる大型物流施設に 加えて、関西、中部圈にそれぞれ 200億円を投じ大型物流施設を設 けて配送網を整備し、現在の料金 水準を維持して当日配送をめざす という★16。  この超高速配送システムを支え るカギは、荷物を溜め置かずに常 に動かしつづけることである。図 5-3-1に見られるように、現在の ヤマト宅急便(上段)では,集荷 された荷物は全国69ヵ所のベー ス店に集められる.そこで荷物が 十分な量になるまで溜め置かれ, 1日に1回,夜9時になると全国 の各ベース店に向けて69×68便 の幹線輸送車が一斉に出発するO  |ペー-       ペー-  |ぺ・j,j        ぺ 7,f・  ]白曇い.    卞皇子     辻」 べ,犬 ぷlこ二,.い肩 尚輿| レぐD |べ・.4 ・丶. ./・   ●.. .,.I   ‘ぺ・リ ・ i*・ ・lj!・.=・XiR.・jUjJ;:・!I.|Jl,i・li・it!・;ごi-!・:・.・一嵋  しかし、ゲートウェイのネット ワークが完成すると、集められた 荷物はすぐにゲートウェイに配送 され、3都市間を絶え間なく荷物 が動くことになるO荷物を溜め置 かず、常に動かしつづけるという 基本コンセプトは、リーン生産方 式に通じるところがある。この輸 送法に加えて、FRAPS (フリー ラック オート ピック システ ム)と呼ばれる高速仕分けシステ ムを各ベース店に導入することに より、ヤマトは当日配送網を拡大 しようとしている。  このようなシステムは、アマゾ ンなど、大手ネット通販業者に とっても魅力的であろう。これら の企業の荷物も高速に配送できる ので、超高速システムはヤマトの 「他社に替えられない価値」を高 める手としても重要である。同時 に、大手ネット通販業者の荷量を 確保できるのはヤマトにとっても 「かけがえのない価値」をもつ。 大手通販業者の大量の荷物量が存 在するがゆえに、24時間絶え間 なく荷物を配送してもヤマトが赤 字にならないですむからである。  超高速のゲートウェイのシステ ムは、大手通販業者との相互依存 関係を高めるばかりでなく、中小 のネット通販業者が生み出す小口 ニーズにも対応することを視野に 入れて推進されている。ゲート ウェイの導入によって、物流拠点 を分散してもつことができない中 小ネット通販業者が大手並みの配 送スピードを実現できるようにな るからである。ネット通販業者は 受注分を一括して発注すれば、ヤ マトの高速仕分けシステムと高速 配送ネットワークによって当日配 送を行なうことができ、配送サー ビス面で大手ネット通販業者と対 等に渡り合うことが可能になる。  中小ネット通販業者への効果  中小ネット通販業者が大手と並 ぶスピードを達成できるようにな るという意味で、このサービスは、 物流拠点をもつことができない中 小ネット通販業者を多数生き残ら せる効果があるかもしれない。ま すます集中度を高めていくアマゾ ンや楽天のような業者のみになっ ていけば、ヤマトにとっては買い 手の交渉力は高まっていくばかり であり、大手通販業者の物流シス テム投資次第では、宅配便業者の 利益ポテンシャルは低下していっ てしまう。その意味では、中小 ネット通販業者が多数生き残り、 ネット上の小売店も通販業者も共 にロングテールでありつづけてく れることが、宅配便業者にとって は望ましい。  上記の高速配送インフラの構築 は、ネット通販業界のロングテー ルを維持するように見えるO しか し、残念ながらそれだけでは足り ない。配送サービスが大手と同程 度に維持できるだけでは、中小 ネット通販業者が生き残ることは 難しいのであるO  その最大の理由は、アマゾンや 楽天がもつフィルター機能であるO ロングテールが成り立つためには、 数多あるテール部分の中から、消 費者が自分の求めているものを検 索するためのフィルターが必要と なる。アマゾンはこのフィルター の役割を果たしている。多様な商 品の中から、キーワード検索で欲 しいものを見つけることができる し、購買履歴から欲しそうなもの を提案もしてくれるo大量の品揃 えの中から、顧客とモノがうまく 出合えるようになっているのであ る。いくら良い商品で、配送ス ピードが速くても、エンドユー ザーに見つけてもらえなければ意 味がない。  それゆえ、アマゾンや楽天が用 意するフィルター機能が、例えば Googleの提供する検索機能より も格段に優れた機能を発揮するの であれば、高速の配送システムだ けで中小のネット通販業者が生き 残るのは難しい。しかし逆に、 Googleなどの提供する一般的な 検索サービスが大手通販業者の用 意するフィルター機能と遜色がな いほどまでに進化するか、あるい はヤマト自体が荷物の流れのデー タから独自のフィルター機能を提 供できるようになるのであれば、 補完財の領域における技術進歩が 今後の利益ポテンシャルを左右す る重要な要因となるoこのことが、 業界の構造分析から明確になるの であるo ・まとめ  本章はネット通販業界の規模拡 大に伴って、その主たる供給業者 である宅配便業界の利益ポテン シャルがどのように変化するのか を論じてきたOもともと差別化の 難しかった宅配便業界ではあった が、大規模な全国配送ネットワー クの構築と過去の業務を通じた経 験効果の蓄積といった重要な参入 障壁を築き上げ、厳しい競争を通 じて少数の企業のみが生き残った がゆえに、比較的安定的な利益を 稼得できる状況で落ち着いていた。  しかし、近年のネット通販業者 の集中度の高まりと、上位2社に よる物流インフラへの投資などか ら、宅配便業者がネット通販業者 に課金できる配送距離が減少して いるOまた、徐々にネット通販宅 配のセグメントへの新規参入が容 易になり、既存業者の利益ポテン シャルが低下する傾向が出現して きている。  このような状況に対応しようと して、ヤマトも大規模な投資を行 なって超高速配送システムを構築 してきている。それがうまく完成 すれば、物流システムに独自に投 資する余力のない中小ネット通販 業者も、大手と比肩するサービス を顧客に提供できるようになるの で、この業界のロングテールを維 持しやすくなるであろうO しかし、 このロングテールを維持するため には、欲しい商品と欲しい人とを マッチングさせるフィルター機能 が必要である。それゆえ、今後の ヤマトのような宅配便業者とネッ ト通販業者の問における交渉力の 推移を分析していくに当たって、 Googleのような検索サービスや ヤマト自身の物流情報などから、 アマゾンや楽天がもつフィルター 機能に対抗できるものが提供され るかどうかということが非常に重 要になる。広域の業界構造分析は、 このような知見を生み出す重要な 知的テンプレートなのであるo  参考文献  〈書籍〉 沼上幹[2008]、『わかりやすいマー  ケティング戦略新版』有斐閣 沼上幹[2009]、『経営戦略の思考法  時間展開・相互作用・ダイナミク  ス』日本経済新聞出版社 〈新聞〉 『日本経済新聞』2014年1月23日  朝刊、p.1 『日本経済新聞』2014年3月12日  朝刊、p.1 〈雑誌〉 『月刊ロジスティクス・ビジネス』  「特集クロネコヤマト解剖」2006  年7月、pp.12-27 『月刊ロジスティクス・ビジネス』  「特集宅配便市場のすべて」2009  年5月、pp. 10-27 『月刊ロジスティクス・ビジネス』  「特集『ペリカン便』消滅後」  2010年5月、pp.16-25 『月刊ロジスティクス・ビジネス』  「特集止めない物流」2011年6月、 pp.16-21 『月刊ロジスティクス・ビジネス』  「特集実勢トラック運賃」2012年  4月、pp.10-43 『月刊ロジスティクス・ビジネス』  「特集当日配達・送料無料」2012  年5月、pp.10-37 『月刊ロジスティクス・ビジネス』  「特集物流不動産2012」2012年10  月、pp.16-47 『月刊ロジスティクス・ビジネス』  「特集物流のプロになる」2012年  11月、pp.20-29 『月刊ロジスティクス・ビジネス』  「特集それでも運賃は上がらない」  2013年4月、pp. 14-45 『月刊ロジスティクス・ビジネス』  「特集物流不動産2013」2013年10  月、p.20-65 『月刊ロジスティクス・ビジネス』  「『衰退への危機感が革新へと駆り  立てる』ヤマトホールディングス  木川眞社長」2013年11月、pp.6-7 『月刊ロジスティクス・ビジネス』  「特集クロネコヤマト独走」2013  年11月、pp. 14-38 『週刊ダイヤモンド』「特集楽天vs  アマゾン日本で勝つのはどちら  だ!!」2012年12月15日、pp.  28-55 『週刊東洋経済』「宅配便 新・ゆ  うパックが失態 34万個「大遅  配」の顛末」2010年7月17日、  pp.16-17 『週刊東洋経済』「特集新・流通モ  ンスターアマソン」2012年12月  1日、pp.36-69 『週刊東洋経済』「特集物流最終戦 争」2013年9月28日、pp.40-67 『日経アーキテクチュア』「羽田ク  ロノゲート常識を覆す次代の物流  拠点」2013年11月25日、pp.  70-77  『日経コンピュータ』「特集物流IT  ウォーズ」2013年11月14囗、  pp.24-41  『日経ビジネス』「特集物流大激変  ヤマト、アマゾン『超速配送』の  舞台裏」2013年9月16囗、pp.  28-50  〈ウェブサイト〉 SGホールディングス株式会社2014  年3月期第2四半期(中間)決算  説明資料(http://www.Sg-  hldgs.coj p/finance/pdf/h26finance.  pdf) SPEEDAホームページ(http://  www.uzabase.comi/speeda/) アマゾンホームページ「フルフィル  メントby Amazon (FBA)よくあ  るご質問」(http://  services.amazon.co.jp/support/  ftilfillment-by-amazon-faq.html) 経済産業省「平成18年度電子商取  引に関する市場調査報告書」  (http://www.meti.goj p/policy/iし  policy/statistics/outiook/H18EC  070330.pdf) 経済産業省「平成20年度我が国の  IT利活用に関する調査研究事業  (電子商取引に関する市場調査)報  告書」(http://www.meti.goj p/policy/  iし,policy/statistics/outlook/h20  houkoku・pdf) 経済産業省「平成22年度我が国情  報経済社会における基盤整備(電  子商取引に関する市場調査)報告  書」(http://www.meti.goj p/policy/iし  policy/statistics/outlook/h22houkoku.  pdf) 経済産業省「平成24年度我が国情  報経済社会における基盤整備(電  子商取引に関する市場調査)報告  書」(http://www.meti.goj p/'press/  2013/09/20130927007/20130927007-  4.pdf) 国土交通省「平成24年度宅配便等  取扱個数の調査及び集計方法」  (http://www.mlit.goj p/common/  001007227・pdf) 総務省「信書便事業の現状」(http://  www.soumu.goj p/main content/  000255696・pdf) ヤマトホームページ「資料宅急便取  扱個数の推移」(http://  www・yamato-hd.coj p/news/140305  news 2.html)    − ★I『週刊東洋経済』2013年9月  28日号、p.41 ★2『日経ビジネス』2013年9月  16日号、p.38 ★3『週刊東洋経済』2013年9月  28日号、p.42 ★4『月刊ロジスティクス・ビジ  ネス』2009年5月号、p.12 ★5 宅急便の平均費用は(宅急便 平均単価XO−ヤマトホール ディングス・デリバリー事業セグ メントの営業利益率)」によって算 出した。 ★6 3分の2乗則は、生産規模の 拡大と総費用の関係についての経 験則である。平均費用を計算する には、さらにそれを生産量で割る 必要がある。フル稼働を仮定する なら、マイナス3分の1乗になる。 もしこの規則性が当てはまるとす ると生産規模が2倍の場合、平均 費用は約80%になる。 ★7『週刊東洋経済』2013年9月 28囗号、p.54 ★8『週刊東洋経済』2013年9月 28囗号、p.55 ★9 アマゾンや楽天といった大手  だけでなく、中堅ネット通販業者 も、自前の物流拠点を抱えるよう になっている。例えば、アパレル 通販ソソタウンを運営するスター  トトウデイは、習志野市茜浜に  10.8万m2の巨大倉庫を設立した。 ★10 10の三乗根は約2.15である。  ゆうパックの料金表によれば、都  内で60サイズの荷物を運ぶ料金が  600円、140 (長さ2.3倍、体積  12.7倍)サイズの荷物は1400円  (2.3倍)であるから、本文中の数  字はやや宅配便業者に有利なもの  となっている。 ★11 アマゾンホームページ「フ ルフィルメントby Amazon (FBA) よくあるご質問」(http:// services.amazon.co.jp/support/ fulflllment-by-amazon-faq.html)よ り ★12『週刊ダイヤモンド』2012 年12月15日号、p.38 ★13『週刊東洋経済』2013年9月  28囗号、p.46 ★14『日本経済新聞』2014年3月  12囗朝刊、p.1 ★15『週刊東洋経済』2013年9月  28囗号、p.44 ★16『日本経済新聞』2014年1月 23囗号朝刊 第6章 コンビニエンス   ストア業界の二極化   要因   −   −セブンーイレブン優    位の構造分析  本章では、財務分析と業界構造 分析を使って、コンビニエンスス トア業界(以下、コンビニ業界) の構造を明確化し、近年の二極化 がなぜ起こっているかを明らかに するO コンビニ業界のフランチヤ イザー(以下、フランチャイザー 企業)は、セブンーイレブン・ ジャパン(以下、セブンーイレブ ン)と下位企業の収益性の格差が 拡大し二極化か進行している★1. セブンーイレブンは、良循環が働 くことによりロイヤリティ収入を 増加させ、収益性を高めているが、 悪循環に陥った下位企業は収益性 を低下させっづけるため、フラン チャイザー企業間の格差は今後も 拡大する、というのが本章の基本 的な主張である。  囗本の小売業界では既存の業態 の多くが徐々に規模を縮小してき ているが、その中でコンビニ業界 は成長市場だととらえられてきた。 たしかに2013年のコンビニ業界 の売上高は前年比プラス4.0%の 成長を遂げているという意味では、 まだ成長を継続しているO しかし、 この成長は新規出店も含めた全店 ベースでの値であり、既存店の売 上高に注目するなら、年間を通じ てマイナス1.1%であった★2. 対前年比5.2%という活発な新規 店舗数の拡充によって、対前年比 4.0%の売上アップを得ているの であって、既存店のみに注目すれ ばすでに2012年から今日に至る まで月別の変動はあるものの年間 を通じて見れば微減が続いている ★3。  プロダクト・ライフサイクルの ステージで見るならば、成長期と いうよりも成熟期に入っていると とらえるのが適切であろう。成熟 期では、各社の戦略的なポジショ ンの取り方次第で大きく収益性に 差が出てくるO まさに現在、コン ビニ業界ではこの企業間格差が大 きく開いている状況を確認できるO  図6-O-1は、フランチャイザー 企業の主要6社における2008年 度から2012年度までの売上高営 業利益率(以下、ROS)の推移を 示している★4.コンビニ業界を 牽引してきたセブンーイレブンが 高いROSを維持しているにもか かわらず、ミニストップとスリー エフの下位企業はROSを大幅に 低下させており、収益性の格差が 拡大しているO 図6-0-1主要フランチャイザーt貰{単体}の日CSの推移 二⊇ ≒三 芳谷栄 ブンの2008年度から2012年度に かけての平均成長率は売上高が 3.4%、営業利益が1.2%である。 さらに、業界全体では対前年比売 上高が4.0%の増加にとどまって いるにもかかわらず、セブンーイ レブンの売上高は対前年比で 7.2%の増加であり、業界の中で 高い成長率を誇っている。  これに対して、ミニストップと スリーエフの2008年度から2012 年度にかけての平均成長率は売上 高および営業利益ともにマイナス であるOその結果、他企業とセブ ンーイレブンの利益率の差が大き く広がっている。セブンーイレブ ンとミニストップのROSにおけ る格差は、2010年度から2012年 度にかけて19.7%から22.4%へ と2.7ポイント広がり、スリーエ フとの格差は28.8%から30%へ と1.2ポイント広がっている。セ ブンーイレブンと下位企業の収益 性は大きく二極化してきているの である。  本章は、市場が衰退し業界全体 の利益ポテンシャルが低下してい るなかで、「なぜセブンーイレブン と下位企業の収益性が二極化する のか」を明らかにすることを目的 としているO結論を先取りすれば、 次のとおりである。  第一に、ロイヤリティ収入の格 差によリフランチャイザー企業間 で収益性に差が生まれているO第 二に、消費者獲得と出店、協力 メーカーの獲得、フランチャイ ジー獲得のすべての競争に勝つこ とで良循環が働き、フランチャイ ザー企業間でロイヤリティ収入の 格差が生じている。  本章ではまず第1節で、フラン チヤイザー企業のROSが二極化 する原因を、財務分析の手法を用 いて明らかにしていく。第2節で は、ロイヤリティ収入の格差が生 まれる原因を、業界の構造分析の 手法を用いて考察する。これらの 分析結果を総合して、第3節で本 章の結論を引き出すことにする。  第1節 フランチャイ    ザー企業の財務分析  本節では、セブンーイレブンと 下位企業のROS二極化かどのよ うにして起こるのかを財務分析に よって明確化していく。財務分析 の諸手法は、ROSの違いを生み 出す環境要因などの因果関係その ものを明らかにするものではないO いわば会計的な数字の操作によっ て、どのような会計的な数字の構 成によって、ROSの違いが生ま れているのかということを明らか にするものであるO一見、単なる 数字操作によるトートロジーに見 えるかもしれないが、実際のとこ ろ、企業ごとに会計的な数字の構 成が異なり、その差異が各社の基 本的な活動の構造の違いから生み 出されていることが示唆されるこ とになるOいわば、会計数字の操 作から企業の戦略の実態を推測し ていく分析法なのであるO  各社のROSの相違を明らかに するために、ROSを分解する作 業を行なっていくことにしよう。 図6-1-1に示されたとおり、ROS は、営業利益=売上総利益一販管 費を用いて、売上高総利益率と売 上高販管費率に分解できる(ROS =営業利益/売上高=売上総利 益/売上高一販管費/売上高)。 売上総利益は売上高から売上原価 を引いたものであるから、売上総 利益率は売上高と売上原価によっ て決まってくる。セブンーイレブ ンのようなフランチャイズチェー ンの場合、売上高は、直営店の売 上高とフランチャイジーからもた らされるロイヤリティ収入の合計 である★5.さらに売上原価は直 営店の仕入れを意味しているOま た、販管費は地代家賃と減価償却 費が主たる構成要素であるが、本 章では後にその構成比率の高い地 代家賃に注目した分析を行なうO           i蹙・扮.1●  `-・ig痞矼An ・.      J   売・言  //-:   ;     、.」托il』温亭  口  ..直g痞児し設 ・_−…………    `|回回入く;  ぶ昌・く       ………囗イヤリテー・ 阮   J`・`丶`丶     ・・   売・a  丶 ・・1   収λ  51     `・`丶`・゛・.   売・・  L//才減価l刧ii爭..      |.兎唇頁千ヤ゛\j  売・祠  丶           し7n  このように財務諸表の数字を分 解していくと、後のデータで示さ れるように、セブンーイレブンは 1店舗当たりのロイヤリティ収入 が高いため、高い収益性を維持す ることができている、ということ が明らかになる.これに対して、 下位企業は1店舗当たりのロイヤ リティ収入が少ない。これがセブ ンーイレブンと下位企業との格差 が広がる根源的な理由であるO  しかも、このロイヤリティ収入 の差に近年の出店競争の特徴が追 い打ちをかけている。後に詳しく 説明するように、現在の出店競争 はフランチャイジー側ではなく、 フランチャイザー企業側が大きな コスト負担をする方法が多くとら れるようになってきている。こう なると、セブンーイレブンと競争 する下位フランチャイザー企業は、 フランチャイザー企業側がコスト を負担する店舗数が増加すること で販管費が増加し、収益性をさら に低下させることになる。以下で は、売上高総利益率と売上高販管 費率に分けて収益性の二極化要因 を突き止めていく作業を行なう。 顫売上高総利益率の比較  まず各企業の売上高総利益率の 推移を見ておきたい。図6-1-2は、 2008年度から2012年度にかけて の主要フランチャイザー企業の売 上高総利益率の推移を示している。 3社とも売上高総利益率は増加傾 向であるものの、3社の間には大 きな格差が存在し、とりわけセブ ンーイレブン(およびローソン) の売上高総利益率が一貫して圧倒 的に高いレベルで推移しているこ とが読み取れるo 図6-1-2 主要フランチャイザー企裏(単僖3の売よ肩総和昌覃の推邵   こ二、こ二  二乙-≒ニブ¨  驚  90           −   ・  !   匹  。   −      6ニニふご竺_  75    ° ̄ ̄゛匹  yI口 .i・●4゛・1'゛'・・'。111"I・゜     '  寺千  20c日  コg  lc・  11  121q澀】 jli;i・i:各!lljllli,1sI;1;.I;|。セブン&y411:]|言t3短iilJ;]・ali;i  すでにROSの分解をした図6- 1-1でも確認したように、コンビ ニの店舗は、フランチャイザー企 業が運営する直営店とフランチャ イジーが運営する加盟店の2つに 大きく分類できるので、フラン チャイザー企業の売上高総利益率 は、直営店とフランチャイジーの 構成比によって大きく変わってく るO誤解をおそれずに簡略化する なら、売上高総利益率は直営店 利益+ロイヤリティ収入/直営店 売上高+ロイヤリティ収入のよ うに書けるのだから、直営店の利 益率が高いばかりでなく、フラン チャイジーが多く、またそこから 得られるロイヤリティ収入が高い ほど、フランチャイザー企業の売 上高総利益率は高くなる。  図6-1-3には、2012年度末時 点における主要フランチャイザー 企業の店舗数と直営店率及び加盟 店率を図示している。2012年度 末時点におけるセブンーイレブン の店舗数1万5074店は2位であ るローソンの店舗数9752店の約 1.5倍であり、他社の店舗数を大 きく引き離している.主要フラン チャイザー企業の直営店の比率は, スリーエフの10.6%を除き,5% 以下であり各社間において特段大 きな差はないといえるo 図5-1-3恚?igj4宍X;Sj;;―置屬{単体}の晒舗数,砌昂晒率及ぴ加圃店串   15,074G                                   扣j・   97.3s                           ■自若2       9;ご 0.77           95.5恥               回こ                  2.'寸日』と    6cs,宀   ヱ ヱ 亠X.ユ コ こ謚   27..・-イ.・ノ'y L-ンン .17ミ!.-マー1 t-ク,Il,gtンク].ミニスト・,プス|.一二..j ||¶嘶:aalQD誦足・11卩JIlg・r=ぶ   図6-1-4から確認できるように, セブンーイレブンの売上高に占め るロイヤリティ収入は84.5%で あり、残りの15.5%が直営店の 売上げなどである。これに対して、 スリーエフの売上高に占めるロイ ヤリティ収入は43.9%であり、 直営店の売上げが50%以上を占 めていることがわかる。この点で はローソンとファミリーマートも、 それぞれ6ポイントと17ポイン トの差があり、セブンーイレブン の高水準が際立っているO 図6-1-4主要フランチャイザー企杲(塚体)叨売よ綛曜入に占める囗イヤIり・イ収入 90 81.5%の司a{2012年度3 al口           78.311 70 _ _  67.591    64.71哩・ 63.3s 一一 − − − − ・j− − − − − − 一 一 − − − − − − 1・− − − − − − − cIフンーイ。・ブ冫   ローソン j冫ミ」-マーヽj-91.・《づ冫・クヌミニスト・5・フス」-T.ノ にjllも;ぷご、rjll;認昌1罵驚JJI゛・゛I¨III   また、総利益を計算する際に売 上高から引かれる売上原価の側を 見ても、フランチャイズチェーン の場合には注意するべき点がある。 なぜなら、フランチャイザー企業 の売上原価に計上されている棚卸 商品は、直営店で扱っているもの のみだからであるOつまり、直営 店の割合を減少させ加盟店の割合 を増やせば、売上原価が減少する ので、売上高総利益率を上昇させ ることができるO フランチャイ ジーの構成比が大きいフランチャ イザー企業は、売上原価が低めに なり、その結果として総利益が大 きめになる、という傾向をもつの であるO  このような関係があることを確 認するべく、図6-1-5に、主要フ ランチヤイザー企業の直営店比率 と売上高総利益率の2008年から 2012年にかけての増減の関係を 図示した。縦軸に各社の売上高総 利益率がどれほど変化したか,横 軸には各社の直営店比率がどれほ ど変化したかを示しているo 36-1-5 1声フランチャイザー企望(単体)司画s店比率と売上凋叙利鎰宰の5年堋粫の振夥  2s    ●りークルKサンクス  lb i。卜。    ●・-口 1      ミ=−rj一一ふ。  二号  一日 -フ ーe -5 -1 一日 -2 -1 0 。。,−−。。。。,−。ぷ二回。。   ゛  ミニストップの直営店比率は 年々減少しており、それに伴って 売上高総利益率が増加している0 2008年度に9.4%だった直営店比 率は、2012年度には4.1%にまで 約5ポイントも低下しており、そ の間に売上高総利益率は69.3% から78.2%へと約9ポイント増 加しているO  セブンーイレブンもミニストッ プと同様に直営店比率は年々減少 しており、それに伴って売上高総 利益率が増加している。2008年 度に9.4%だった直営店比率は、 2012年度には4.1%にまで約5ポ イントも低下しており、その間に 売上高総利益率は69.3%から 78.2%へと約9ポイント増加して いるO他の主要フランチャイザー 企業も同じ傾向を示しており、直 営店比率を減少させ、それに伴っ て全体的に売上高総利益率が上昇 しているO  売上高総利益率とフランチャイ ジー比率あるいはロイヤリティ収 入の高さとの関係を確認していけ ば、セブンーイレブンが他社より 高い売上総利益率を維持している 最大の理由が、1店舗当たりの口 イヤリティ収入を高い水準で維持 していることだという点が明らか になる。  図6-1-6は、2012年度におけ る主要フランチャイザー企業の加 盟店1店舗当たりの年間平均ロイ ヤリティ収入と売上高総利益率の 関係を示しており、縦軸に売上高 総利益率、横軸にロイヤリティ収 入を加盟店数で除した値をとっだ ものであるOセブンーイレブンの 1店舗当たりの平均ロイヤリティ 収入は、業界2位と3位のローソ ンやファミリーマートと比較して も約1000万円以上差があり、口 イヤリティ収入に大きな格差が生 まれていることがわかる。この1 店舗当たりのロイヤリティ収入の 格差が営業総収入の増加をもたら し、セブンーイレブンの売上高総 利益率を高めているO 圜6-1-6主麦フランチャイザー企望(単体)の加盟店|店舗当たりの年間平均囗   イヤリディ収入と売よ高庇利益率叨植移(2囗12年度) L%j  /\  '5c・(1  ,1,gcI(l  g.5{;・(1  :1()()()  .・j500 爿u・00             (万円j      1,x哨当たりのi吻「イi,樋」フィlλ i・l:・l・・ノ」冫Kサンタ剛j2111μΓlilJ・卜か尋公表であi.ためa ≫iiの・碵を秡.11』 XII・li:a斤.'j,・tt.f&s;‘,・・j・..'iをtlll.lilj,「il.kgM」畄a●|.,セブン&夕41」11「.コーポレートー・つ卜  りfJ」111?者作成 圓売上高販管費率の比較 曇万熟号 点でセブンーイレブンが非常に良 い数字を達成していることが明確 になったO総利益の側面ではなく、 販管費の側面に注意を向けてみて も、やはリセブンーイレブンは優 れているのだろうか。  先にも触れたように、販管費は 主として、地代家賃と減価償却費 から構成されている。このうち、 各社の地代家賃の差がどのように して生まれるのかを明らかにする には、まず、フランチャイズ契約 のタイプの違いに注目する必要が ある。近年のフランチャイザー企 業では、フランチャイズ契約に多 様なタイプがあり、それに応じて フランチャイザー企業の販管費が 変わってくるのである。以下で見 るように、実はセブンーイレブン は比較的販管費のかかりにくいフ ランチャイジーの比率が他のフラ ンチャイザー企業よりも高い。そ の点がセブンーイレブンのROSの 高さの一因にもなっているのであ る。  図6-1-7は、2008年度から 2012年度にかけての主要フラン チャイザー企業の売上高販管費率 の推移を図示している。 図6- 1 -ア主要フランチャイザー企葉(単体)の売上高販管費率の推移  →=セブンーノレブン  ローソン →-ファミリーマーゝ レ当 上三 千蝉二 販管費率は2008年度の48.0%か ら2012年度の59.1%まで約11 ポイントも増加している。さらに、 ミニストップも2008年度から 2012年度にかけて売上高が3.1% 減少したのに対して、販管費が 14.4%増加している。その結果、 ミニストップの売上高販管費率は 2008年度の59.5%から2012年度 の70.3%まで約11ポイントも増 加している。主要フランチャイ ザー各社とも売上高販管費率が上 昇しており、年々コストが増加し ていることがわかるO  フランチャイザー企業における 販売管理費の構成は、全社におい て地代家賃が最も大きな割合を占 めている。セブンーイレブンでは、 地代家賃だけで販売管理費の 27.1%を占めており、ミニストッ プは38.6%、スリーエフは27.6% と、各社における販管費の約 30%から40%が地代家賃で占め ている。この点では、ローソンは 2012年度37.8%、サークルKサ ンクスは2011年度41.2%と比較 的高めであり、セブンーイレブン の低水準が際立っているO  地代家賃は、どのようなタイプ の店舗がどの程度の比率でチェー ンを構成しているのかに依存して 変わる。近年のフランチャイザー 企業は、フランチャイジーを増や してくために、契約のタイプを多 様に揃えているOたとえば、初期 段階で典型的だった酒屋などのフ ランチャイジーの場合、フラン チャイジーが土地と建物を用意す るタイプのフランチャイズ契約で あったOこれをAタイプ店舗と いう。  これに対して、セブンーイレブ ンなどのフランチャイザー企業側 が土地と建物を用意して、フラン チャイジーが運営するタイプの契 約が近年は増えてきている。これ をCタイプ店舗と呼ぶ。ほとん どのフランチャイザー企業では、 Aタイプ店舗とCタイプ店舗の2 種類が用意されているが、その他 に、ローソンやミニストップなど ではAタイプ店舗とCタイプ店 舗の中間として、フランチャイ ジーが土地と建物の一部を負担す るBタイプ店舗を用意している。  土地と建物をフランチャイザー が用意するCタイプ店舗であれ ば、その分だけフランチャイザー 企業側の地代家賃負担が増え、こ れが販管費の増加をもたらすこと になるOそれゆえ、全体に占める Aタイプ店舗の割合が大きいほど、 販管費は抑えられ、逆にCタイ プ店舗の比率が多くなれば販管費 負担が増えるのである。  図6-1-8は、2008年度と2012 年度の主要フランチャイザー企業 における全店に占める店舗タイプ 別割合の推移を図示したものであ るO 2008年度から2012年度にか けて、3社ともCタイプ店舗の増 加により、全店舗に占めるA夕 イプ店舗の割合が減少しているO 閼6-1-8 2008年度と2012琴晨の韭麦フランチイ4づ一企爾俥皿jaタイプ11口I櫚扁皿 9) 圃賁発者 c夕心朏誦■Bタイプ翕●■Aタイプ晧● 疝ご ⊇↓ J  :  Cタイプ店舗の増加  Cタイプ店舗が増加した理由は 3点あるO  第一に、Cタイプ店舗の場合は 誰でもオーナーになれるため激し い出店競争の中でも優れたオー ナーの確保が可能になるからであ る。店舗の経営者としても優れて いて、土地も保有しているという 両方の条件を備えた人を探すのは 難しい。しかし、土地と経営者を 別々に探すのであれば、厳しい制 約条件から解放されることになる。 質の高い新規出店をスピーディー に行なう競争に勝つためには、C タイプ店舗の契約は非常に重要 だったのである。  第二に、土地と経営者を分離で きれば、自社の戦略に適した立地 を探す自由度も増える。Cタイプ 店舗の場合はフランチャイザー企 業の希望する場所に出店できるた め、その地域での支配的なポジ ション獲得(ドミナント戦略)が しやすいので、Cタイプ店舗の契 約は重要になっていったのである。  さらに第三に、各フランチャイ ザー企業は近年、ひとりのオー ナーが複数店舗を経営することを 奨励しているOこの点もCタイ プ店舗の増加を促している。なぜ なら、Aタイプ店舗で1店目を開 業したオーナーも、何力所も店舗 に適した土地を所有しているわけ ではない。そのため、複数店舗の 経営者は2店舗目をCタイプ店 舗で出店することが多くなるO各 フランチャイザー企業が複数店舗 経営をオーナーに促すのであれば、 Cタイプ店舗が増えてくる傾向が 高まるOこれら3つの要因によっ てCタイプ店舗の比率が高まり、 地代家賃が上昇し、各社の売上高 販管費率が上昇傾向となっている のである。  図6-1-8を見るかぎり、すべて のフランチャイザー企業でC夕 イプ店舗の比率が高まっているこ とは明らかである。しかし、視点 を変えて、フランチャイザー企業 全体に占めるAタイプ店舗の比 率を各社で比較してみると、異な る側面が見えてくるOすなわち、 セブンーイレブンのAタイプ店舗 比率は、この4年で低下したとは いえ、現時点ではファミリーマー トと並んで最も高い水準にある、 という点であるO他社はいずれも 20%程度あるいは10%台である のに、セブンーイレブンはまだ 28%を超えている。  なお、ファミリーマートのA タイプ店舗比率が高いように描か れているのは、同社がAタイプ 店舗とBタイプ店舗を一緒にし た「第一タイプ」の店舗数しか公 表していないためであるOここで は便宜上、両方ともAタイプ店 舗であるように図示しているが、 実際にはファミリーマートの「第 一タイプ」には相当数のBタイ プ店舗が含まれていると考えられ る。この点を考慮に入れれば、セ ブンーイレブンのAタイプ店舗比 率は業界屈指であり、それがセブ ンーイレブンの売上高販管費率の 低さを支えているということが理 解できるO  図6-1-9は、2012年度におけ る主要フランチャイザー企業のA タイプ店舗比率と売上高地代家賃 率の関係を示したものであり、縦 軸に売上高地代家賃率、横軸に全 店に占めるAタイプ店舗の割合 をとったものである。公表数字が Aタイプ店舗+Bタイプ店舗に なっているファミリーマートを除 いて各社を見れば、Aタイプ比率 が高くなるほど、売上高地代比率 は低くなる、という右下がりの傾 向が見えるはずである。セブンー イレブンは、1990年代前半に酒 屋からコンビニに転換したフラン チャイジーが多いことからA夕 イプ店舗比率が高いため、フラン チャイザー企業側の負担が少なく、 売上高地代家賃率が低いOこれが、 セブンーイレブンの売上高販管費 率が低いことにつながっている. 図6-1-9 1要フランチャイザー正葉{擧鉢}lAタイプ医罰比乖と売上高地代曾貫皐     {2012年度}  l丶'』  31                                     ファミ|リーマート  29                                           ●    ミニスkツプ  27        ローソン      ●リーグ」1Kリンクス              1 125 高 黔3 1で乙  J-・つ    |  17   二]]  15                ・  10   1b  2Q  2b  30  a5                    ♂sI          4タイプ比率  ili】:卜161可夕ぞプの冫1菻i;咒なー.,でぃるjlai;あるため,以l・の冫うに・堙-tも.11=x卜・sプIs夕   彳プとs『.タイプを.丶タイツlu-'y冫111タイプを.丶タイプE7・バ・』一々-り衢!夕iプを」夕   イま  ilモ2:寸一?JkK寸.yxai]IりinfillがλfM●であ・コたため.2卜|]年嘖の芻訥を使剛  FII鳬:各11'4・jl匍;・ja.,'jjl尊・鈿j」.「瓜肴袙・tl=|.,セブン・元イホールテ・・ンダズ「.コーポレー   |・アウ・・jイ冫JIり?者1ヤ巉 囲まとめ  セブンーイレブンのROSの高さ は、売上高総利益率の点でも、売 上高販管費率の点でも他社とは異 なる構造をもつことで説明できる。 セブンーイレブンの売上高総利益 率の高さは、まず売上高総利益率 の側面から見るならば、加盟店の 比率の高さとロイヤリティ収入の 高さによって説明できるO売上高 販管費率の側面から見れば、セブ ンーイレブンは特にAタイプ店舗 と呼ばれる土地オーナーのフラン チャイズ契約の比率が高いことか ら販管費を下げて利益率を高める ことになっていることが明確に なった。  売上高総利益率の側面と売上高 販管費率の側面は、連動している という点にも注意が必要であろう。 なぜなら、売上高総利益率を高め ようとしてフランチャイジーを増 やそうと思っても、それを増加さ せるためには近年ではどうしても Cタイプ店舗の契約を増やしてい くしかない。そうなると、地代家 賃の負担が増え、売上高販管費率 が高まることになるO  もちろん、今後の店舗数増加の 局面ではCタイプ店舗を増やさ ないとならないという点ではセブ ンーイレブンも同じ状況にある。 セブンーイレブンが売上高販管費 率で他社に対して優位に立ってい るのは、過去にAタイプ店舗の 契約の蓄積が大きかったからであ るOその意味では今後の店舗数増 加に際しては、他のフランチャイ ザー企業との有利不利の差はこの 点では出にくいように思われるO そう考えるならば、セブンーイレ ブンが他のフランチャイザー企業 に比して決定的に優位に立ってい る点は、ロイヤリティ収入の差だ ということが示唆されるO  ロイヤリティ収入の差は、フラ ンチャイジーが達成できる売上高 の多寡とそこにかけられる料率 (チャージ率)の積で決まってく る。セブンーイレブンは、業界内 の他のフランチャイザー企業より もチャージ率が高いことで有名で ある。Aタイプ店舗の場合、ロー ソンは34%、ファミリーマート は35%など各社30%台のチャー ジ率であるにもかかわらず、セブ ンーイレブンは45%のチャージ率 である。この高いチャージ率をフ ランチャイジーに要求しつづける ことが可能なかぎり、他のフラン チャイザー企業に比べて高い利益 率を達成することができる。  また同時に、フランチャイジー が年間を通じて大きな売上高を達 成でき、より大きな売上総利益を 獲得できれば、その分だけやはり セブンーイレブンが受け取るロイ ヤリティ収入は大きくなるO後に 見るように、この2つは連動して いるOセブンーイレブンに加盟す れば、フランチャイジーが高い売 上高・売上総利益を達成できるが ゆえに、フランチャイジーは高い チャージ率も支払うのである。セ ブンーイレブンはフランチャイ ザー企業として強力なポジション を達成しているがゆえに、他のフ ランチャイザー企業との利益率の 二極化はさらに続いていくことに なると思われるO 第2節 コンビニ業界に    おける4つの競争  第1節の分析によって、フラン チャイジーに対して高いチャージ 率を課し、しかもより多くの売上 げを達成させることで、ロイヤリ ティ収入を高めていることこそが セブンーイレブンの強さの秘訣だ ということが示唆されたOこのよ うな強力なポジションを確立して いる背後にはどのようなロジック があるのだろうか。この点を明ら かにするためには、単に財務の数 字を操作するばかりでなく、業界 構造に注目して、企業間競争の分 析を行なう必要がある。多様な取 引関係を構造分析の観点で考察す ることで、セブンーイレブンの戦 略的強みを明確化するのである。  コンビニ業界の業界構造分析を 行なう際には、フランチャイザー 企業が複数の複合的な競争に直面 しているという視点をもって臨む 必要があるO  @ 消費者獲得競争  A 良き立地への出店競争  B メーカーの協力的姿勢の   獲得競争  C 優良なフランチャイジー   の獲得競争  以上の4種類の競争であるO実 は、この4つの競争は相互に原因 となり、結果となって、良循環・ 悪循環を生み出すようになってい るOたとえば、良き立地を占めて、 多数の顧客を獲得できた企業は、 メーカーにもプライベートブラン ド(以下、PB)の開発などで協 力を要請でき、その結果、より良 い商品が生み出せるので、さらに 多くの顧客を獲得できる。こうし て売上高が高まれば、より多くの 優れたフランチャイジーを獲得で き、良い店舗運営を行なって「1 店舗当たりの1囗の販売額」(以 下、囗販)を高めることができる とともに、より多くのチャージ率 を要求できるくフランチャイザー 企業としての魅力〉を保つことが 可能になるO  もちろん逆に1つの競争で負け 始めれば、負のサイクルが回り始 めるOつまり、これら4つの側面 の競争が良循環・悪循環に作用し ており、このサイクルを良い方向 に回せた企業は、良循環を享受し てますます成功し、逆にマイナス のサイクルにはまった企業はます ます業績を悪化させていき、簡単 には抜け出せない状況になるOこ れがセブンーイレブンと下位フラ ンチャイザー企業の間の格差拡大 の背後に作用していると思われる のであるO  図6-2-1は、ロイヤリティ収入 を分解したものである。囗販から 商品原価と廃棄ロスの仕入値を引 いた売上総利益に対して、チャー ジ率をかけた値がロイヤリティ収 入になる。このように、ロイヤリ ティ収入は主に日販と商品粗利率、 チャージ率の3つにより構成され ているため、これら3つにどのよ うなインパクトを与えられるかが 重要となる。 図6-2-1ロイヤリテ4収入の分解          − 卜[コ吊コ] 二丁コ匚゛卜卜Sに笋口 囗イキリテし収入。    巾 ニニづ三子一白  図6-2-2は、コンビニ業界にお ける循環メカニズムを簡潔に示し たものである。ロイヤリティの収 入は、日販と商品粗利益率、 チャージ率によって決まる。囗販 は、より多くの消費者に、より多 くの品目で、より高価な商品の魅 力を感じてもらえれば、高まる。 だから、囗販を高める競争とは、 簡単にいえば消費者を獲得する競 争であるOこの消費者の獲得競争 は、PBの開発力と店舗運営の品 質、より良い立地によって決まるO PBの開発力は、そのフランチャ イザー企業でしか手に入らない魅 力的なPB商品や留め型商品(特 定のフランチャイザー企業のみで 販売する専用商品:以下、簡便の どのような出店を行なえるかに よって決まり、PBの開発力は メーカーの協力をどれほど得られ るかによって決まる。この両者と 店舗品質は、良きフランチャイ ジーを獲得できるかどうかで決 まってくるO良いフランチャイ ジーを得て、良い立地パターンと 高い店舗品質を達成できれば、そ の分だけ囗販も上がり、メーカー の協力も得やすくなる。メーカー の協力が得られれば、より魅力的 なPBを開発できるばかりでなく、 仕入れ原価を下げることができる ため、商品の粗利益率が高くなる (粗利益率は、良き立地パターン で出店による配送コストの削減に よっても達成できる)。  こうして各店舗の囗販が上がり、 商品粗利益率が上がると、フラン チャイザー企業のロイヤリティ収 入が上がり、店舗全体への共通サ ポートを手厚く展開できるように なるO こうしてフランチャイジー の収入も上がるので、多くのフラ ンチャイジーにとって魅力的なフ ランチャイザー企業となり、フラ ンチャイザー企業全体として良き フランチャイジーを獲得する競争 で有利になるとともに、チャージ 率を高くしておくことができるO こうして、多様な要因が互いに原 因となり、互いに結果となり、良 循環と悪循環をつくり出している のであるO  以下では、優良なフランチャイ ジーの獲得競争を中心にコンビニ 業界の良循環と悪循環のメカニズ ムについて考察を加えていく。 顫良循環と悪循環による格差  拡大  ネットワークの経済性  コンビニ業界はフランチャイ ジーの側から見ると、ある種の 「ネットワーク外部性」が作用し ている。正確にはネットワーク外 部性とは少し異なるので、ここで はネットワークの経済性と呼んで おくことにしよう。新たにフラン チャイジーになろうとするオー ナー(コンビニ経営者)は、より 優良で、それゆえに多数派のフラ ンチャイザー企業に参加すること でメリットを得ようとする。その 結果、多数派になったフランチャ イザー企業には、メーカーとの交 渉力やフランチャイジーへのサ ポート体制の構築などという点で 有利になり、結果的により魅力的 なフランチャイザー企業になるO このようにして生まれた強いフラ ンチャイザー企業は、チャージ率 を高く設定し、高いロイヤリティ 収入を得ることが可能になり、ま すます強力になっていくO  フランチャイジーのオーナーが フランチャイズ契約を結ぶとき、 オーナーの生活に大きな影響を与 える選択であるため、高い収入が 得られるフランチャイザー企業を 選ほうと真剣にフランチャイザー 企業選びをするOそれゆえ、高い オーナー収入が得られるフラン チャイザー企業にフランチャイ ジーの人気が集中し、優秀な新規 オーナーがトップ企業に応募するO 存続可能な店舗経営ができる上積 みの新規オーナーを獲得できるフ ランチャイザー企業は、その結果 として長期で維持可能なネット ワークの規模を拡大させることに より、メーカーとの交渉力を高め、 多様な売れ行き動向の情報を集め、 ますます優れた経営をできるよう になっていく。それを本部が活用 してフランチャイザー企業全体の 利益になるように活用することで、 このネットワークに参加している フランチャイジーのメリットが大 きくなるO  このように、フランチャイジー の獲得競争によリネットワークの 経済性が働き、企業間格差が拡大 していくのである。  ロイヤリティ収入とオーナー  月収一際立つセブンーイレブ  ンの優位性  このメカニズムは、個々の店舗 に注目して、ロイヤリティ収入と オーナー月収を試算してみると、 明確になるO表6-2-1は、主要フ ランチャイザー企業のAタイプ 店舗とCタイプ店舗の主なフラ ンチャイズ契約条件を一覧にした ものである。この契約条件を基に して、図6-2-3では、フランチャ イザー各社と契約したときに、フ ランチャイジーのオーナー収入と フランチャイザー企業のロイヤリ ティ収入が1店舗当たり月にどの くらいになるかを試算したO 毒6-2-1・翌フランチャイザーfl望叨主なフランチャイヌ・契約条ft一貰 lt : 各彳|;・)夕!莉夕4プの名冨!li・な・,¬c1・1蜀ai:あ石i;g,踝|恂ぶう!こ壑斤.する卩-=・}・,ソ】5夕iプ々寸  タイプ.ML夕1プic夕1ylp・・IMン】ljiプを1夕ぞプ17yミ111・・7・・1112夕iヅを癶jiプffl  タイプをc夕fプ 釟I両:各11:ll.u47元冫チャfiチJ.-ン鴎会aヒ畊……s・・1・●・.jl'・lc111・.jl・.・jjり¶ll・11:咸 06-2-3ま瞿フうンチトイサー企塰の1店錙泡たり収支モデjしの試胯(月月) ]フ,レ,|ljj -'IK !ljl 韭白無  囗販に30囗を乗じて月収を算 出し、その月収に原価率を乗じて 売上原価を算出したO売上高から 売上原価を引いた売上総利益に対 してチャージ率を乗ずることによ りロイヤリティ収入が試算される。 さらに、売上総利益からロイヤリ ティ収入と人件費、廃棄ロス、水 道光熱費、消耗品、その他経費を 引いた値がフランチャイジーの収 入となる。セブンーイレブンの1 店舗当たりロイヤリティ収入はA タイプ店舗の場合、ミニストップ より128.8万円高く、スリーエフ より143.8万円高い。さらに、C タイプ店舗の場合でも、セブンー イレブンのロイヤリティ収入はミ ニストップより195.0万円高く、 スリーエフより191.9万円高い。  セブンーイレブンの店舗から本 部へ納入されるロイヤリティ収入 は他のフランチャイザー企業より も高いが、オーナー収入もセブ ンーイレブンはミニストップとス リーエフよりも高い水準にある。 セブンーイレブンオーナーの月収 は、Aタイプ店舗で72.5万円、C タイプ店舗で6.3万円、ミニス トップのオーナーよりも多い。ス リーエフとセブンーイレブンの差 はさらに大きいOセブンーイレブ ンとスリーエフのオーナー月収は、 Aタイプ店舗で142.3万円の差、 Cタイプ店舗で94.1万円の差で あるO  セブンーイレブンは、オーナー 収入が他のフランチャイザー企業 より高いため、フランチャイジー を容易に獲得することが可能であ るO図6-2-4は、主要フランチャ イザー企業の今期の店舗数から前 期の店舗数を引いた年間純増誡店 舗数の推移を示している。2012 年度において、ミニストップが 122店増加、スリーエフが35店 減少させているなかで、セブンー イレブンは1067店増加しているO 二番目に増加店舗が多いローソン でさえも687店であり、セブンー イレブンの店舗増加数が圧倒的で あることがわかるOこの店舗数の 増加はフランチャイジーから高い 支持を受けていなければ不可能な 数字であるO しかも、月収が一番 多いフランチャイザー企業である がゆえに、最も経営的に成功しそ うなオーナーほど、まずセブンー イレブンに加盟しようとするはず である。それゆえ、他のフラン チャイザー企業よりも出店数が多 いばかりでなく、その店舗運営の 質を高く保てる可能性も一番高い と考えられるo 図6-2-4主旻フランチャイザー企秦の年月純増友の店舗数  →-37ンーイレフン  凵-ソン →一ノ7ミ|亅-マート  ●●・●●iリーグJLKリンクス  ミニズトう・ノ  スリーユフ 、澀 2Go・        -―●●●●囑● 千喜 二    ̄ ̄ ̄ ̄  ̄ ̄ ̄ ̄  21JりF.1 ()9  ・口  |1  1冫{9趨} jllli;ait・皿可禰皿資剞・JJり1者作成  メーカーに対する交渉力  優良なフランチャイジーを獲得 したフランチャイザー企業は、 メーカーの協力姿勢の獲得競争で も有利になるO  ネットワークの経済性が働くこ とにより、フランチャイジーの数 が増加する。これにより、フラン チャイザー企業がメーカーから購 入する金額が大きくなり、メー カーがフランチャイザー企業の販 売力を無視できなくなるO通常、 商品をフランチャイザー企業側の 販売力に依存するメーカーは、フ ランチャイザー企業側からのPB や留め型の商品開発に対して抗え なくなるO  例えば、2014年6月、全国の セブンーイレブンにおいてセブンー イレブン専門のコカ・コーラが発 売された★6.正確には過去に あった「コカ・コーラレモン」の セブンーイレブン限定復活ではあ るが、世界的なブランドであるコ カ・コーラが特定の小売店向けに 留め型を用意することはきわめて 稀なことである。このように、セ ブンーイレブンのような規模の大 きいコンビニによる消費者に対す る影響力は大きく、メーカーも協 力せざるをえない環境になってい る。  ドミナント出店の容易さ  フランチャイジーから人気があ るフランチャイザー企業は出店戦 略の貫徹も容易であるOフラン チャイザー企業は新規出店時に、 特定地域に集中して出店するドミ ナント戦略をとることで「密度の 経済性」を享受している。密度の 経済性とは、ある一定のエリアに 集中して事業を展開することで、 共有の活動・サービス部分が効率 的に活用され、単位当たりの経済 性が高まることである。最も典型 的なメリットは、店舗間の距離が 近くなることにより、各店への配 送コストを低下させることができ ることと、複数店舗を指導する店 舗指導員の活動の効率性を高めら れることなどがあるO  この密度の経済性を達成するた めには、特定の地域をターゲット に定めたら、その周辺に集中して 出店していく必要がある。密度の 経済の論理で、フランチャイザー 企業側が主導権をとって新規出店 の立地を決定していかなければな らないのである。この点でも、潜 在的なフランチャイジーから人気 のあるフランチャイザー企業は有 利であるOAタイプ店舗の契約で あれ、Cタイプ店舗の契約であれ、 自社の戦略に沿って自由にフラン チャイジーを選ぶことができるか らである。  まとめ  取引規模を背景とした魅力的な PB・留め型の開発力、また高質 なフランチャイジーを獲得して店 舗品質で有利になったフランチャ イザー企業は、消費者から高い支 持を受けることができるO しかも、 ドミナント戦略を会社の意志どお りに貫徹できるので、効率性を高 く保てる。高い効率性は、その分 だけ製品開発やプロモーションに 資金を回すことを可能とし、その 結果としてさらに消費者から見た 魅力度が高まることになるO  こうして得られた消費者からの 支持は売上高、すなわち囗販と なって表れる。近年のコンビニ業 界では、フランチャイザー企業に よって囗販に大きな格差が生まれ ている。図6-2-5は、2008年度 から2012年度にかけての主要フ ランチャイザー企業における、全 店の平均囗販の推移を示しているO セブンーイレブンと他のフラン チャイザー企業の囗販には約20 万円の差があるOいちばん囗販の 高いセブンーイレブンといちばん 囗販の低いスリーエフの差は24.2 づ三 イザー企業が受け取れるロイヤリ ]口 ユい。ユj口……j]口]  囗販が高い企業は、フランチャ イジー収入とロイヤリティ収入の 双方を高く維持することができる。 フランチャイジー収入が大きい場 合、チャージ率を高く設定しても、 他社よリフランチャイジー収入が 高くなるため、チャージ率を高く 設定できる。これにより、フラン チャイザー企業のロイヤリティ収 入が増加することになるOさらに、 フランチャイザー企業のロイヤリ ティ収入が大きい場合、フラン チャイジーに対する手厚いサービ スを提供することができるため、 新規加入希望者に安心感を与え、 新たなフランチャイジーを獲得し やすくなる。このように、優良な フランチャイジーを獲得すること ができたフランチャイザー企業は 良循環となり格差が拡大しつづけ ることになる。 目急速な上昇が予測される業  界集中度  前項の結果、コンビニ業界は良 循環の働くフランチャイザー企業 と悪循環に陥ったフランチャイ ザー企業の二極化か起こる構造で あることが明らかになったO優良 なフランチャイジーを獲得するこ とができたフランチャイザー企業 は、良循環が働くことにより収益 力を拡大させることができるO し かし、良循環が途絶えてしまうと、 悪循環が働き収益力が低下してし まうことになる。それゆえ、セブ ンーイレブンと下位企業の格差は 今後も拡大しつづけると考えられ る。  各企業に注目すると良循環か悪 循環が作用し、コンビニ業界の トップと下位企業との差はますま す拡大していくO個々の企業から 見て格差が広がるということは、 業界全体として見ると集中度が高 まることを意味する。この集中度 の高まり方は、特にコンビニ業界 では急速であるように思われる。  コンビニ業界は、オーナー収入 の高い企業に新規加入フランチャ イジーの人気が集中するため、新 規オーナーを募集して新規開店を 行なっているかぎり、フランチャ イザー企業の集中化が急速に進むO また、すでに他のフランチャイ ザー企業に加入しているフラン チャイジーも、契約期間満了後に はフランチャイザー企業を変わる 可能性があるO しかも、すでに数 十店舗を多店舗展開するフラン チャイジーが現在の契約期間修了 後に、他のフランチャイザー企業 に全店を切り替えるということも 起こりえるOこれらの要因が重 なって、コンビニ業界は集中度が 高まるスピードが高いのであるO  図6-2-6は、2008年度から 2012年度にかけて、コンビニ業 界とスーパー業界の集中化がどれ ほど進行したかを示したものであ り、縦軸に集中度を表すハーフイ ンダール・ハーシュマン指数(以 下、HHI)、横軸に市場の5年平 均成長率をとったものである。 2012年度年平均成長率はコンビ ニが6.9%、スーパーが2.2%で あったOスーパーの成長率のほう が低いが、両業界とも市場規模が 拡大している点では共通している。 しかし、コンビニ業界の集中度は、 スーパー業界と比較して、急速に 高まってきていることがわかるO 2008年度から2013年度にかけて、 スーパー業界のHHIは0.002ポ イントの増加にとどまっているの に対して、コンビニ業界のHHI は0.044ポイントの増加であったO スーパー業界はすべて直営店とし て特定地域に腰を据えて経営をし ているのに対して、コンビニ業界 はフランチャイジーにより運営さ れているため、新規出店やフラン チャイザー企業の鞍替えが起こり やすいO新規出店や契約更改時の 鞍替えは、オーナー収入の高い企 業に集中し、比較的速いスピード で集中度が高まっていくのである。 回6-2-6コンビニ業界とスーパー業界の集中化噸向  I刪 言下  〇 1 2 3 4 5 6 7 8             f恥;       宀碯II'白戉弖亟 出叭各釿「右傾,||卜4卜II一皿」,卜卜7、タンヅ・;・イズ彳-x・-ン綸穴「コン1ぞ二xン乂Xトー」■'≪ .1調卜.  lh・lDswsJI・I-「I:・T.11p:・iTI IC・|(.U)h・mll,「イー-yスト7」.yyI.乱|;卜F5り||]り一回卜乱,  j呀涸卜勺」囗卜pp,Mぷより筆削卜成 万万 ブンーイレブンにとっては、自社 に有利な状況がっくり出されてい くOまず、集中度が上がると、互 いに相手の手を読み合える少数企 業間の戦いとなるので、激しい消 耗戦が生じる可能性は低下する。 少なくとも上位層にとっては比較 的利益を出しやすい構造へと変わ るのである。また、売り手の交渉 力がさらに低下するOいまでもす でにコンビニの主要企業の数は少 ない。今後ますます集中度が高ま ると、メーカーに対する交渉力は さらに高まるO  重要なことは、このようなコン ビニ業界の構造変化が、通常の小 売業の変化スピード以上の速さで 生じるということである。コンビ ニ業界の下位企業が衰退している 様子を同情のまなざしで観察して いる時間的余裕はないO  ここまでに論じてきたコンビニ 業界の良循環・悪循環のメカニズ ムは下位と上位の間にのみ作用し ているのではない。第1位のセブ ンーイレブンとその他企業の間で も作用するのである。焦らずに高 質なフランチャイジーを獲得・維 持し、良循環を回し続けていかな いかぎり、上位企業といえども悪 循環に陥る可能性があるOまた、 供給業者(メーカー)の利益ポテ ンシャルはこれまで以上に急速に 低下する。コンビニ業界の集中の 進み方はスーパー業界以上であるO コンビニ業界に利益ポテンシャル を奪われないようにするための対 策をとれる時間的余裕は非常に少 ないのであるO  第3節 まとめ一若干    の可能性の考察  セブンーイレブンには良循環が 働いており、下位企業には悪循環 が作用しているO財務分析の結果、 セブンーイレブンは高い売上高・ 売上総利益を達成できるがゆえに、 高いチャージ率も維持できること が明らかになったO悪循環・良循 環のメカニズムを分析した結果、 他社より10万円以上高い囗販を 得ているセブンーイレブンは、高 いチャージ率を維持するだけでな く、フランチャイジーの獲得競争 においても有利であることが明ら かになった。この強いポジション と良循環により、セブンーイレブ ンと他のフランチャイザー企業間 における利益率の二極化はさらに 続いていくことになると思われるO  もちろん、このような二極化か 起こる局面では、M&Aによって セブンーイレブンの独り勝ちを阻 止する企業が登場する可能性もあ るO悪循環に陥った下位企業の業 績が悪化しつづけると、その企業 を安くM&Aで手に入れる企業が 出てくる可能性がある。この場合、 下位企業を買収した企業は、一度 に新たなフランチャイジーを獲得 することができるOそうなれば、 取引規模の大きさを使ってメー カーへの交渉力を高めるなど、セ ブンーイレブンに対抗する競争力 を手に入れることができるかもし れないO しかし、コンビニ業界で はフランチャイジーが契約更新の ときに他のフランチャイザー企業 に切り替えるという手が使えるこ とを考えると、このようなM&A による大規模な規模増加を武器に する魅力度がそれほど高くないよ うに思われるO  さらに、セブンーイレブンの良 循環の環は、優れたオーナーと強 いフランチャイザーによって店舗 の魅力度が高く維持されている点 であることを忘れてはならないO 単に数を増やせば、それだけで即 座に強みを発揮して、良循環に持 ち込めるのではない。あくまでも 最終顧客から見た魅力度を高める ために、どのようにさまざまなメ カニズムをうまく連動させるかが 重要なのであるOその点で、 M&Aによる規模の増加はそれほ ど魅力的な打ち手にはならないの ではないだろうか。セブンーイレ ブンの店舗オーナーの高齢化など、 店舗品質の変化をもたらすような 何らかの他の要因に注目しながら。 それに対抗する会社の店舗品質を 地道に高めていくという競争が今 後のコンビニ業界の焦点になるの ではないだろうか。 参考文献 〈新聞〉 『日本経済新聞』2014年7月1日朝  刊、p.ll 〈雑誌〉 『月刊コンビニ』「オーナー収入と  コンビニの将来」2010年11月号、  pp.9-15 『月刊コンビニ』「大量出店という 戦略」2013年5月号、pp.12-13 『チェーンストアエイジ』「市場占  有率」2013年5月1日号、pp.  35-62  『チェーンストアエイジ』「市場占  有率」2008年5月1日号、pp.  38-55  〈ウェブサイト〉 一般社団法人日本フランチャイズ  チェーン協会ホームページ「コン  ビニェンスストア統計データ」  (http://wwwjfa―良.0rjp/'particle/  320.html) スリーエフホームページ「IRライブ  ラリ」(http://www.three-Ecoj p/  about/ir/ir-library .html)  「経営者募集」(http://www.three-f-  franchise.com/) セブン&アイホールディングスホー  ムベージ「IR情報」(http://www.7  andi.com/ir/) セブンーイレブン・ジャパンホーム  ページ「フランチャイズ募集」  (http://www.sej.coj p/owner/) ファミリーマートホームページ「IR  ライブラリ」(http://  www.family.coj p/company/investor_  relations/library/) ミニストップホームページ「IR情  報」(https://www.ministop.eoj p/  corporate/ir/)  「経営者募集」(http://  www.ministop.coj p/corporate/  franchise/) ユニークループホールディングス  ホームページ「IR資料室」(http://  www.unygroup-hds.com/ir/) ローソンホームページ「IR(株主・  投資家)情報」(http://  www.lawson.coj p/company/ir/) ★1 フランチャイザーとはチェー ンストアの本部のことであり、セ ブンーイレブンやローソンなどがこ れに当たる。これに対して、加盟 店を運営する企業や個人をフラン チャイジーという。 ★2 一般社団法人日本フランチャ イズチェーン協会ホームページ 「コンビニエンスストア統計デー タ」(http://wwwjfaモ.orjp/particle/ 320.html)。 ★3 同上。 ★4 以下、本章における売上高は、  営業総収入合計(直営店売上+口  イヤリティ収入)とする。 ★5 各社の売上高に即した勘定科  目は名称が異なっている。本章で  は、セブンーイレブン、ローソン  における「営業総収入」、フアミ  リーマート、サークルKサンクス、  スリーエフにおける「営業総収入  合計」、ミニストップにおける「営  業収入」の数値を売上総収入とす  る。 ★6『日本経済新聞』2014年7月 1日朝刊、p.ll 執筆者紹介 沼上 幹(ぬまがみつよし=全体編 集責任および序章担当)  1960年 静岡県生まれ  1983年 一橋大学社会学部卒業  1988年 一橋大学大学院商学研究  科博士後期課程単位取得退学  2000年 一橋大学博士(商学)  現在  一橋大学大学院商学研究  科教授/国立大学法人一橋大学理  事・副学長 尾茂田 秀−(おもだ しゅういち: 第1章)  1980年 広島県生まれ  2003年 北海道大学工学部卒業  2014年 一橋大学大学院商学研究  科経営学修士コース修了  現在  地方自治体勤務 中村 有佑(なかむら ゆうすけ=第 2章)  1981年 東京都生まれ  2004年 東京大学文学部卒業  2014年 一橋大学大学院商学研究  科経営学修士コース修了  現在  住宅設備機器メーカー勤  務 高橋 淳一(たかはし じゅんいち= 第3章)  1986年 東京都生まれ  2009年 慶應義塾大学経済学部卒  業  2014年 一橋大学大学院商学研究  科経営学修士コース修了  現在  金融機関勤務 杉浦 孝昌(すぎうら たかよし=第 4章)  1981年 愛知県生まれ  2003年 大阪大学経済学部卒業  2014年 一橋大学大学院商学研究  科経営学修士コース修了  現在  機械メーカー勤務 宮本 聡治(みやもと としはる=第 5章)  1987年 北海道生まれ  2010年 創価大学法学部卒業  2014年 一橋大学大学院商学研究  科経営学修士コース修了  現在  コンサルティングファー  ム勤務 平井 智大(ひらい ともひろ=第6 章)  1990年 東京都生まれ  2012年 学習院大学経済学部卒業  2014年 一橋大学大学院商学研究  科経営学修士コース修了  現在  コンサルティングファー  ム勤務 一橋MBA戦略ケースブック 電子版発行日 2015年3月12日 Ver. 1.0 著 者  沼上 幹十一橋MBA戦略   ワークショップ 発行者  山縣裕一郎 発行所  東洋経済新報社      〒103-8345      東京都中央区日本橋本石町   1-2-1      電話 東洋経済コールセン   ター      03(5605)7021      皿 装 丁  吉住郷司 編集担当 黒坂浩一 制作協力 丸井工文社 c2015