成功し続ける人の6つの習慣_ブレンドン・バーチャード はじめに 「どうして高みを望むことがそんなに怖いのか な?」  私は、大きなオークのデスクの向こうにいるリ ンにそう問いかけた。  彼女は深く座り直し、一瞬、窓の外を見つめる。 ここは42階のオフィスだが、見下ろす海から、目 線の高さまで朝霧が立ちのぼっていた。  この質問が彼女に嫌がられることは、訊く前か らわかっていた。  リンは、いわゆる「優秀な人材」の一人だ。集 中力が高く、仕事をバリバリこなし、クリティガ ルシンキング(批判的思考)やリーダーシップに 長けている。この5年で大きな昇進を3度も果た した。みんなに、次世代リーダーとか、「素養」 があると称賛されている、そんな人物だ。  だから、そんな彼女に「怖い」という表現は似 つかわしくなく感じるかもしれない。  でも、私は見抜いていた。  彼女は私に視線を戻し、答え始めた。  「いやあ、別にそういうわけではないと思うんで すけど……」  私は身を乗り出して首を横に振った。  するとリンは思い直したようにうなずき、乱れ てもいない茶色い髪に手櫛を入れた。  もうごまかしは利かないと悟ったようだ。  「そうですね、おっしゃるとおりかもしれません。 私は次のレベルに進むことを恐れてるんです」  その理由を尋ねると、彼女はこう答えた。  「それは、今の段階ですでにいっぱいいっぱいだ からです」  すごい人が、すごいワケ  本書は、すごい人がすごいワケと、そうでない人 が、自身の可能性を自ら妨げているワケについて書 いたものだ。卓越した人、うまくいかない人、そし て挑戦さえしない多くの人たちが、それぞれそう なっている理由を、明確かつ的確に示した。  私は、ハイパフォーマーコーチとして、リンのよ うな人だちと多くかかわってきた。成果を出す人だ ちは、グリッド(※)と勢いをバネに、長く懸命な 努力を続けるが、まさかのタイミングで停滞したり、 情熱を失って燃え尽きてしまったりすることもある。  傍で見ている人には、ただゴツゴツと着実に進ん でいるように見えるが、デキる人本人は心の奥底で、 大量の優先事項や機会に飲み込まれ、手足をばたつ かせている感覚を覚えていることが多いのだ。何に フォーカスし、どうすれば、自信を持って成功を安 定的に再現したり拡大できるのだろう。これまでの 人生で大きな成長を遂げてきたものの、成功を持続 させるための思考と行動の原理原則が定まっていな い。実際に能力はある。でも、自分は、一段階上の 成功に必要となることをさばききれないかもしれな い……とか、大失策を犯すかもしれない……と、絶 えず恐れている人が多い。  なぜ苦労を想像して怖気づくのか? 一方で、な ぜ一部の人たちは、そんな認識を振り切って、さら なる高みを目指し、多くの人がうらやんだり、高嶺 の花とするような、生き生きと満ち足りた人生と、 長期にわたる豊かさを享受できるのだろうか?  本書は、この現象を理解するために、私の20年に わたる研究、10年にわたるエリートレベルのパ フォーマンスコーチングから得た洞察、そして世界 中の成果を出し続ける人びとに関する膨大なデータ をまとめたものである。このデータは、アンケート 調査や、構造化面接(※)、専門的な評価手法をも ちいて抽出した。これらを利用して、単に成果を出 せる人になるだけではなく、(イパフォーマーー すなわち、長期的に、心身の幸せと、目に見える成 功の両方を達成し続ける人−になるために必要な ことを明らかにする。  その探求を進めるなかで、世に広まっている「成 功」神話の真実を暴いていこう。  たとえば、グリッドや、意志力、練習、また生ま れ持った長所や才能だけでは次のレベルに進めない 理由を明かす。付加価値を高め、他者をリードし、 競合する優先事項や複雑なプロジェクトを管理する ことが求められる世界では、それだけでは不十分な のだ。  成功し続けるためには、個人的な情熱や努力以上 のものを検討する必要がある。自分の好きなこと、 いいと思うこと、生まれつき得意なことの範囲を大 きく超えなければ、到底行きつけない。なぜなら、 世の中にとっては、他者にどれだけ有意味な貢献を するかが大事で、あなた個人の長所や個性など二の 次だからだ。 ※グリッド  重要な目標に向かって努力を続ける不屈の精神。心理  学者のアンジェラーダックワースによって提唱された。 ※構造化面接  全員に事前に決めておいた同じ質問をする面接手法。  あなたの可能性を引き出す「すごい習慣」  これからお伝えする内容は、「これを実践すれば 超人になれる」とか「ハイパフオーマーになるため にはそうなる必要がある」と説くものではない。あ なたの可能性を最大限に引き出す方法だ。人生のさ まざまな状況、さまざまな領域での長期的成功に自 らを確実に導くための、思考と行動の原理原則と、 実証済みの一連の習慣が身につく。  本書で提供する情報を武器にすれば、あなたは、 自分の潜在能力を存分に発揮し、心身ともに生気に 満ち、他者のことも卓越するよう導く力を持ち、深 い充実感にあふれるだろう。しっかりしたパーパス (※)と自己規律をもって行動に移せば、あなたは 人生とキャリアの大転換期を迎えることになる。以 前にも増してすごい人になるだろう。  仕事で新しいプロジェクトを始めたり、大胆な新 しい夢を追いかけたりするのに、成功に本当に必要 なことは何かなどと二度と迷わなくなっているはず だ。  自分の干不ルギーをどこに集中させ、どうすれば 最大限の貢献ができるかを知ることによって、これ までにないバイタリティと自信がわいてくるだろう。 人生初期の成功を収めた後も、どうすれば成長し続 けることができるのかがわかる。非常に優秀な人だ ちと肩を並べて仕事をしたり競争したりするような 場面でも、自分がどのように考え、何をすべきかが、 正確にわかるようになる。  そして、自分にこう言えるようになるだろう。  「どうすれば常に最大限の能力を発揮できるのかが やっとわかった。課題を解決する自信がついたし、 成功を阻む障害を乗り越える力も十分についた。も う一生困らない」  本書で扱う6つの習慣は、多様な性格やさまざま な状況で有効であることが実証されている。フォー チュン500企業のCEOから、芸能人、オリン ピック選手、子育てをする親、また世界的レベルの 専門家から高校生に至るまで、あらゆる社会的立場 の人びとの成果が劇的に変わるのを見てきた。科学 的に裏づけられた、効果実証済みの、本格的な人生 改革術を探している人には、本書こそがその答えで ある。 ※パーパス  白身の存在意義や志。  なぜこの本か?なぜ今か?  私は世界の何百万人もの人びとに自己啓発や能力 開発のトレーニングを行ってきた。そのなかで、特 に昨今、どこへ行っても肌で感じること。それは、 人びとが、どうすれば競争に勝てるのか、どうする ことが、自分や家族、あるいはキャリアにとって正 しい決断なのかわからず、大きな不安に苛まれてい ることだ。  自身をスケールアップさせたいが疲れ切っている。 懸命に努力しているのにどうしても壁を突破できな い。やる気はあるが、自分が具体的に何を望んでい るのかわからない。夢に向かって突き進みたい気持 ちはあるが、頭がどうかしているという批判や失敗 が怖くて挑戦できない。  それに加えて、容赦ないタスク量、自己不信、仕 事以外の面倒な義務や責任、圧倒的な選択肢と責任 の量……。疲れるのは当たり前だ。状況が改善され ることはけっしてなく、この先も生活の雑事に追わ れ混迷と失望が渦巻く海を泳ぎ続ける自分をイメー ジしている人があまりにも多い。  あなたも心当たりがあるなら気をつけたほうがよ い。そして、希望を持ち、変化を起こす気があった としても、正しい方向性と習慣を持っていなければ、 刺激に欠け、目的意識を持てず、満たされない人生 を送ることになるかもしれない。  もちろん、幸せですばらしい人生を送っている人 もたくさんいるが、そうであっても一貫性に問題が あるケースが少なくない。自分の有能さを実感し、 時にはピークパフォーマンス(※)を出せたりして も、ピークの向こうには、必ず険しい崖がある。そ のため、パフォーマンスの激しいアップダウンにう んざりし、どうすれば、成長と成功を高い状態に維 持できるのか考えているはずだ。彼らに必要なのは、 より良い精神状態や気分に入るための秘訣だけでな く、人生とキャリアをトータルでレベルアップさせ るための、本格的なスキルと手法なのだ。  それは簡単なことではない。人生をあらゆる意味 でレベルアップさせたいという願望は誰にでもある が、多くの人は、リンのように、夢を追い求めるこ とで弊害が生じることをひどく心配している。人間 関係の破綻、経済的破綻、世間からの嘲笑、過剰な ストレス、といったものだ。誰でも、そういうこと が気になるときはある。  何かを成し遂げる方法を知ってはいても、現状す でに忙しく、ストレスをためながら無理をしている ために、将来展望をわざと描かないようにしていな いだろうか?  あなたは、自分のパフォーマンスを一時的にあげ ることはできるかもしれない。だが仕事のあるプロ ジェクトは楽勝で成功しても、別の似たようなプロ ジェクトでは苦戦したり、ある社交場面ではスター になれても、別の社交場面ではそうでなかったり、 自分のやる気を出す方法を知ってはいても、Netflix を3シーズン分一気見しただけで一日を終え自己嫌 悪に陥る日があったりしないだろうか。  一方で、自分よりも成長が速い人たちがいること にも気づいているかもしれない。複数のプロジェク 卜を次から次へと優雅にやってのけ、どんな障害が あっても必ず成功する同輩の姿を見たことがあるだ ろう。たとえどんな状況、どんなチーム、どんな会 社、どんな業界に放り込まれても、やってのけそう な人だ。  彼らはいったい何者で、どんな秘密を持っている のか? 彼らこそが成果を出し続ける人びとであり、 その秘密は彼らの習慣にある。うれしいことに、あ なたも、その一人になれる。バックグラウンドや、 性格、短所、活動分野にかかわらず、同じ習慣を活 用することができるのだ。正しいトレーニングをし て習慣を身につければ、誰でもハイパフオーマーに なれる。私はそのためにこの本を書いたのだから。 ※ピークパフォーマンス  パフォーマンスの頂点、すなわち最大限の能力を発揮  できる状態。  成功の基準が変わった  私たちは、平凡な日常と、自分が夢見るすばらし い人生とのあいたにギャップを感じている。それは、 この何十年のあいたに、成功の基準が変わったから だ。  50年前は、世渡りも競争に勝つことも、今より簡 単だったかもしれない。それは、成功の基準が単純 だったからだ。言い方に違いはあれ、たいていはこ んな感じだ。  「懸命に働け。ルールを守れ。頭を柢くして、控え めにしていろ。ゴチャゴチャ質問するな。リーダー に従え。時間をかけてクビにならないスキルを習得 せよ’・」  だが20年ほど前にその基準がつぎのように変わっ た。  「懸命に働け。ルールを破れ。頭を高くして、堂々 − としていろI楽観主義者が勝つ。専門家に質問せ I よ。君がリーダーだ。急いで答えを出せ!」  今はすべてが混沌としている。仕事が予測可能で、 自分が周囲に期待されていることが「決まってい た」時代は終わった。変化が加速した。上司、恋人、 顧客が常に新しいものを求めている。しかも今すぐ 欲しいと。  あなたの仕事は、サイロ化(※)が解消された分、 かつてのように単純ではなくなった。  さらにストレスを高めているのが、すべてがつな がっている環境だ。何か1つ間違えると、ネット ワーク全体の他のものにも影響が及んでしまう。ミ スはもはや自分I人の問題ではない。皆に知られる 全体的な問題となった。  世界は変わった。確実性が低下する一方、期待さ れることは増えた。今の私たちには、懸命に働け、 ルールに従え、頭を低くあるいは高く、といったス ローガンこそないが、このような不文律的な規範が あるのだ。  「のんびりした朝食時の様子を投稿して友人たちを 感心させ、そんなに懸命に働いていないフリをしつ つ、裏で懸命に働け。ルールはないのだから、指示 待ちをするな。クビにならないよう努力せよ。いつ 何か起こるかわからないのだから。質問するのはい いが、誰かが答えを知っていると期待するな。各自 が先頭に立つことになっているので、リーダーは存 在しない。だからとりあえず自分の得意なことを見 つけ、そこに付加価値をつけろ。どうせ何事も完全 には理解できないから、ひたすら変化に対応し続け よ。明日になればまたすべてが変わるのだから」  こんな環境は不安であるばかりではない。混沌の 中で競争に勝つのは、水深3メートルの濁った水の 底で走ろうとするようなものだ。先が見えない。必 死にもがくが前に進めない。藁をもつかむ気持ちで 助けを、水辺を、命綱を探すが、水面も階段も見つ からない。あなたはまじめな心がまえと強い労働意 欲を持っていたが、それらをどこで生かせばいいの かさえわからない。周囲から頼りにされているが、 彼らに指し示す方向もわからない。  溺れているとまでは感じなくても、停滞は感じて いるかもしれない。あるいは、自分が取り残され、 沈んでいくような気がするとか。たしかにあなたは、 情熱とグリッドと努力だけでここまで勝ち抜いてき た。いくつかの山をのぼってきた。だが、次のよう な問いに頭を抱えてはいないだろうか。  これからどこへ向かうのか? どうすればさらな る高みにのぼれるのか?  なぜ他の人たちは私より早くのぼっていくのか?  いつになったらリラツクスして落ち着くことがで きるのか?  仕事とは、常にこうも退屈なものなのか?  私は本当に自分にとって最高の人生を送っている だろうか?  あなたに必要なのは、自分の能力を最大限に発揮 するための、確実な一連の具体的行動なのだ。ハイ パフォーマーを研究すれば、彼らの成功を後押しす るシステムが、日常に組み込まれていることがわか るだろう。システムこそが、プロと初心者を分かち、 科学と机上の空論を分かつものなのだ。システムが なければ、仮説を検証することも、進捗状況を追う ことも、卓越した結果を繰り返し出すこともできな い。自己啓発と能力開発におけるそのシステムや手 順とは、つまるところ習慣である。  だが、どんな習慣が効果的なのだろう? ※サイロ化  組織内の部署や業務に応じた複数の情報システムがバ  ラバラに管理され、情報共有や連携が難しかった状態。  よく耳にするアドバイスを信じるな!  私たちがよく耳にするアドバイスはこんな感じだ。 「懸命に働け」 「情熱的であれ」 「自分の強みに集中せよ」 「練習を積め」 「根気強く続けよ」 「感謝の気持ちを持て」  たしかに人受けがよく、ポジティブで、役に立つ アドバイスだ。堅実で、いつの時代にも通用する。 間違いのない真理。卒業式のスピーチの鉄板ネタと しても確実だ。  だが、このアドバイスは適切だろうか?  あなたの知り合いに、これらすべてを地で行って いるにもかかわらず、自分の望むレベルの成功や人 生の充実度には程遠い勤勉な大びとはいないだろう か?  何十億人もの勤勉な労働者が社会の底辺にいるの が現実ではないだろうか? あなたの地元にも、仕 事への情熱は熱いのに停滞している人たちがたくさ んいないだろうか? 自分の強みを知ってはいても、 それを明確にしきれていないために、新しいプロ ジェクトが始まっても何をすればいいのかまったく わからず、自分より能力の柢い人たちに追い抜かれ てばかりいる人を何人も見ていないだろうか?  彼らには「1万時間の法則」(※)と言われるよ うに、修練が足りないのだろうか? だがいくら練 習しても、全員が優勝できるわけではない。では姿 勢が問題? もつと感謝し、いろいろなことに気を つけるべきなのだろうか? しかし、すべてをあり がたかって将来性のない仕事や人間関係に耐えてい る人たちはたくさんいる。  だとすれば、いったい何かダメなのだろうか? ※1万時間の法則  マルコムーグラッドウェルが提唱した、ある分野で成  功するには1万時間の努力が必要であるという考え方。  よりよい方法の模索  実は私もそんな一人だった。若かった私は溺れて いた。19歳のとき、初めて愛した女性と別れて落ち 込み、自殺を考えるようになった。まさに暗黒の時 代だった。  皮肉なことに、当時の私をボロボロの精神状態か ら救い出してくれたのは交通事故だった。友人が運 転する車に乗っていて、時速85マイル(約137キ 口)で走行中に高速道路からはみ出してしまった。 2人とも血まみれで恐怖に怯えながらも、命を取り 留めた。この事故は、私に「モータリティーモチ ベーション(※)」と呼ぶ意欲を授け、私の人生を 変えた。  人生は言葉では言い表せないほど尊い。セカンド チャンスを与えられたらI毎朝も、毎回の決断も、 セカンドチャンスになるI一度落ち着いて、自分 が本当は何者なのか、本当は何を望んでいるのか、 はっきりさせてみよう。私の場合、自分が望んでい たのは、命を絶ったりすることではなく、生きるこ とだと気づいた。失恋はしたが、愛したい気持ちは なくなっていなかった。セカンドチャンス、すなわ ち第2の人生を与えられたと考えていた私は、それ を意味あるものにして、世の中に変化をもたらした いと思った。「にVE. 」OVE. MATTER.(生きよ。愛 せよ。重要な存在になれ)」、それが私のスローガンに なった。同時に私は変わろうと決めた。そして、 もっと熱く、人とつながり、貢献できる人生を送る ための答えを探し始めた。  まず誰もが思いつくようなありきたりなことをし た。自己啓発本を読みあさり、心理学の授業をとり、 セルフモチベーション講座のCDを聴いた。自己啓 発セミナーにも行ったし、彼らに教えられたやり方 に従った。懸命に働き、情熱を持ち、自分の強みに 集中し、練習を重ね、根気強く続け、その過程で感 謝の気持ちを忘れなかった。  結果は大成功。私の人生をがらっと変えてくれた。 数年間で、良い仕事、良い彼女、良い友人、悪くな い住まいに恵まれたのだ。ありかたいことばかり だった。  ところが、こうした基本的なグッドアドバイスを 実践している最中にも停滞が始まり、人生がさほど 進展しない時期が6〜7年続いた。もどかしかった。 懸命に働き、情熱と感謝の念を持っているのに進め ない、進歩を実感できないというのはなかなか苛立 たしいものだ。そして神経が磨り減る。力を発揮で きることもたまにあるが、疲れ果てていることのほ うが多かった。グリッドがあり、報酬もそれなりに 得ているが、やりがいが感じられない。やる気はあ るのだが、たいした勢いが出ない。他者とかかわっ ても、本当に心を通わせることができない。価値を 付加しても、物事を進展させるには至っていない。 そんな状況は、私たちの望む人生の展望ではない。  何をもってそう言えたのかわからないが、自分は ある程度の成功を収めた。だが自己規律も、能力も、 貢献も、自分の望むレベルとは程遠い。もっと速く 学び、もっと役に立ち、もっとこの旅路を楽しむた めに、日常、そしてあらゆる新しい状況下で何をす べきかという厳密なプランが欲しいと思った。  私かこの過程で気づいたのは、「懸命に働け」「情 熱的であれ」「自分の強みに集中せよ」といった従 来の成功への定石は、大部分において個別の成果や、 人生初期の成功を念頭に置いたものだということだ。  これらを守っていれば、あなたは土俵に上がるこ とができ、取り組みを続けることができる。だが、 出だしの成功を収めた後はどうだろうか。  良い成績を取る、やりたいことが見つかる、就職 する、夢が実現し始める、専門性が身についてくる、 お金が貯まる、恋をする、勢いかつく、といったこ とがいったんかなったら、次はどうするのか?  一流になりたい、リーダーになりたい、長期的な 功績を残したい、などの自己実現に役立つ方法は?  どうすれば、次のレベルの成功に到達するために 必要な自信を生み出るか?  どうすれば、喜びをもって長期的に成功を持続さ せることができるか?  どうすれば、他者も同様に成功できるよう意欲を かき立て、力づけることができるか?  これらの問いの答えを見つけ出すことが私の執念 となり、最終的には職業となった。 ※モータリティーモチベーション  死を意識すると時間をありかたく感じられるようにな  ること  パフォーマンスにまつわる教訓  本書は、以後20年間の探究の集大成だ。私か解明 に努めたのは、次の3つの問いだ。  I 個人やチームによって、早く成功し、それを   長期的に維持できる人と、そうでない人がいる   のはなぜか?  2 成功できる人の中にも、その過程がしんどい   大と、なんともない大がいるのはなぜか?  3 そもそも大はどんな動機でより高いレベルの   成功を目指すのか? また、どんな習慣、ト   レーニング、サポートが、研鑚のスピードアッ   プに役立つのか?  こうした問いへの私の取り組みと研究は、ハイパ フオーマンス研究として知られるようになり、私は 数多くの、世界で最も成功し、最も幸福度の高い人 びとを対象に、インタビューや、コーチング、ト レーニングを行うようになった。そこには、企業の CEO、有名人、ハイレベルな起業家、オプラー ウィンフリーやアッシャーなどの芸能人もいれば、 子育てをする親、数十の業界の専門職、そして私の オンライン講座やトレーニング動画の受講者、 195力国160万人以上が含まれる。  仕事の舞台は、張り詰めた空気の役員室や、スー パーボウル(全米アメフト優勝決定戦)のロッカー ルーム、オリンピックの競技場、億万長者だちと同 乗したプライベートーヘリコプターなどもあった一 方、世界各国のレストランで食卓を囲みながら、受 講生や、調査の被験者、人生向上を目指す一般の人 だちと話すことも多かった。  そうした活動の産物として、ハイパフオーマンス 関連で世界一の人気を誇るオンライン講座や、最大 の購読者数を持つニュースレター、アンケート調査 で集めたハイパフオーマーの性格特性の最大のデー タセットができた。  ハイパフォーマンスーインスティテュートの設立 もその一環だ。この研究所では、成果を出し続ける 人がどのように考え、行動し、他者に影響を与え、 成功しているのかについて研究し、世界で唯一有効 性が確認されたハイパフォーマンス診断や、この分 野で初のハイパフォーマンスコーチ認定プログラム 「[Certified High Performance Coaching ]を創設した。  ハイパフォーマンスーインスティテュートは、幸 運にも、世界のどの組織よりも数多いハイパフォー マーの育成、コーチング、能力測定を行っている。 私自身で、年間200人以上のエリートレベルの八 イパフォーマンスコーチを認定している。  本書には、こうした取り組みから得られた洞察が 満載だ。20年にわたる私自身の自己啓発と自己実験 だけでなく、何千人ものクライアントへのコーチン グ介入から得られたデータ、対面講習の参加者数子 人の詳細なビフォー・アフター評価、各分野の第一 人者数百人を対象とした構造化面接、学術文献のレ ビューから集めた洞察、講座受講生や、1億回以上 再生されている無料のオンラインートレーニング動 画視聴者からの何十万ものコメント。膨大なデータ セットと20年の経験をもとに、プライベート生活と 仕事の両方で効果が実証された習慣を発見した。そ の過程で学んだ教訓を以下にまとめる。  正しい習、を身につけ ’v、どんなi動 咀’で  I  も、  4nでも劇的に成果を‘げ、成果を出しツけるこ  とができる  パフォーマンスは、年齢、学歴、収入、人種、国 籍、性別とは強い相関関係を持だない。よく使われ る成功できない言い訳の多くは、理由として単に間 違っている。高いパフォーマンスは、ある種の人間 が発揮するものではなく、ある種の習慣によって実 現するのだ。それが私の呼ぶところの「成功し続け る人の習慣」である。  その習慣は、経験や、長所、性格、社会的立場に 関係なく、誰でも身につけることができる。これ以 上前進できず悩んでいる人は、本書を読めば、人生 を再生させ、競争に勝ち、潜在能力を十分に発揮で きるようになる。また、すでに成功している人は、 次のレベルに到達するために活用できる。  −  人生と仕事で自分の可能性を最大限に発揮するた めの習慣にも、ピンからキリまであることがわかっ た。効果的な習慣を手に入れるためには、日常でど のような行動を選び、どのように順序づけるかが重 要となる。私の研究チームの特筆すべき成果を挙げ るとすれば、どの習慣が最も重要なのか、そして、 その習慣を強化し、持続させるには、どのような行 動をすればいいのかを解明した点だ。  たとえば、感謝日記。これを始めれば、より幸せ を感じられるだろう。だがそれだけで、新しい朝の ルーティンを始めただけで、生活や人生全体のパ フオーマンスと幸福感を大きく向上させることがで きるだろうか?(ちなみに答えはノーだ)  では、どこに重点を置けばいいのか。それこそ本 書でこれから紹介する6つの習慣だ。そして習慣に は、戦術的に競争に勝つためのものと、戦略的に人 生を楽しむためのもの、2種類があることも学んで もらう。  ヨ ’V、タスクの完了自fで’Vなく、  1  これを読んでいるあなたの課題は、おそらく、夕 スクをこなすこと自体ではないだろう。あなたは、 目標を設定し、チェックリストを作成し、TODO リストをやっつける方法はすでに知っていて、自分 の選んだ分野で卓越することに力を注いでいるはず だ。それなのにけっこうなストレスと重圧を感じて いるのではないだろうか。  いくら遂行能力があっても、すべてのデキる人が 本書で学ぶべきことがある。それは、あなたが優秀 なばかりに周囲が多くの仕事を振ってくるかもしれ ないが、そんなことをされる筋合いはないというこ とだ。「できるタスク=重要なタスク」とは隕らな い。できることがたくさんあるあなたにとって重要 な問いは、「どうすればより多くのことをこなせる か?」ではない。「自分がどう生きたいか?」なの だ。達成すること自体が目的化し、ひたすら外的成 功を追い求める生活から脱出しよう。   「幺’条」’V成長とパフォーマンスの である  この世界の混沌の中で「絶対」を求める人のなん と多いことか! 「絶対」は愚か者が夢みること、 つまりはペテン師の売り文句だ。「絶対」という言 葉は、最終的にはあなたの判断を鈍らせ、間違った、 あるいは思い込みの限界を植えつけ、ネガティブ思 考につながる無意識の習慣をつくり、あなたがライ バルに追い越される隙をつくる。  信じて疑わない人は、新しいことを学ぶ姿勢がな く、定説にきわめて弱く、イノベーターに不意打ち を食らって、先を越される可能性が高い。一方、成 果を出し続ける人は、若さゆえの「絶対」への欲求 を卒業し、好奇心と本物の自信に置き換える。  テクノロジーで’l私たち’l`わ ない  私たちは、新しいガジェットが自分たちを、より 賢く、速く、良くしてくれるという、魅力的な世界 像を信奉してきた。だが、そのブームの裏側も見え 始めている。  道具は知恵の代わりにはならない。世界中のあら ゆるガジェットを手に入れ、歩数から、睡眠時間、 心拍数、一日の一瞬一瞬までを記録し、スコア化し、 ゲーム化する「自己定量化」のムーブメントに飛び つくのはいい。だが、常にインターネットにつなが り、追跡していても、孤独で悩んでいる人もたくさ んいる。さまざまなアプリや測定植にはアクセスし ていても、自分の本当の志や魂を見失っている人も 多い。  テクノロジーも私たちの生活を向上させてくれる が、最も効果的なのは、結局のところ、高いパ フォーマンスを発揮するためのシンプルな人間の習 慣だ。  高いパフォーマンスを出し続ける  本書における「「高い匸パフォーマンス」とは、 長期にわたり、一貫して、標準的基準を超えた成功 を収めることを意味する。  ハイパフォーマーは、その活動分野における成功 がどのように定義されるにせよ、ともかく、より長 く、より優れた成果を出し続ける人や、チーム、企 業、文化などを指す。しかしパフォーマンスの高さ は、たゆみない向上のみを意味するわけではない。 多くの人は、向上はしていても、大成功というほど ではなく、前進のベースがその他大勢と同じでゆっ くりなのだ。また進歩はしていても、亶]の意味で大 きな影響を及ぼす人は少ない。ハイパフォーマーは 常識を打ち破り、常に期待値や成果を上回る。  またパフォーマンスの高さは、単に専門知識を深 めることとも違う。新しいスキルや言語を習得した り、チェスの名人や世界的ピアニスト、CEOに なったりするだけではハイパフォーマーとは言えな い。成功し続ける人は、いかなる分野であれ、単一 のタスクやスキルに長けていることに加えて、専門 的な知識やスキルを補完する周辺能力も習得してい る。成功を長続きさせ、他者をリードするための複 数のスキルセットを持つ。人生の複数の領域で卓越 できる習慣を実践しているのだ。  スーパーボウルで優勝したクォーターバックは、 ボールの投げ方だけを知っているわけではなく、メ ンタルの強さや、栄養学、自己規律、筋力や柔軟性 のトレーニング、契約交渉、セルフプランテインク など、さまざまなことをマスターする必要があった はずだ。どのようなキャリアでも、ハイパフォーマ ンスの領域に到達できる人は、その仕事に付随する 多くの領域において有能でなければならない。  「長期にわたり、一貫して」という言い方は重複表 現のように聞こえるかもしれない。だが実は「長期 にわたり」と「一貫して」は、似て非なる意味を持 つ。  ハイパフオーマーなら、10年間努力を重ねてきた 末に、最後の最後で成功するといった、ラストス パートで成功のフィニッシュラインを突破するよう なサプライズウィナーにはならない。彼らは繰り返 し期待を上回る仕事をする。彼らの努力には、同僚 には真似できない一貫性があるのだ。  この「長期にわたり、一貫して、標準的基準を超 えた成功を収める」には、自分の心身の幸せを守り、 良好な人間関係を維持し、他者に貢献しながらレベ ルアップできるようになる習慣が必要だ。自分自身 を追い込んでしまっては、基準を上回る成果は出せ ない。  「強みに集中せよ」とか「1万時間の法則」といっ た、よく知られた教えでは対応しきれないのはここ だ。すばらしい強みを持っているが、成功を追い求 めるあまり健康を害し、パフォーマンスを維持でき ない人はたくさんいる。また、練習に異常なほど打 ち込んだり、時間をかけたりするあまり、自分の持 続的成長を支えてくれるはずの人間関係を棒に振っ てしまう人も多い。上達を助けてくれていたコーチ を遠ざけてしまう、恋人や配偶者との関係が壊れる、 感情的にも疲弊して続けられなくなる、投資家を怒 らせ、成長し続けるための資金が入ってこなくなる、 といった事態に陥るのだ。  あなたには、成功するだけでなく、  ポジティブな感情と人間関係に満ちた健全な人生 を送ってもらいたい。  高いパフォーマンスを出すことは、私か定義して いるとおり、またデータでも裏づけられているとお り、なんとしてでも競争に勝とうとするものではな い。人生のあらゆる領域で優位に立ち、それらを豊 かにする習慣を身につけることを最重要課題とする。  本書の提唱する習慣は、個人だけでなくチームや 組織にも有効だ。  今、経営幹部の多くが、エングージメントやパ フォーマンスの柢い企業文化と闘っている。彼らは 大胆なビジョンを持って、社員を駆り立てたいと躍 起になっている一方で、社員が燃え尽きていること に気づいてもいる。本書から、自社を健全化し、パ フォーマンスを発揮できる可能性を知ることができ るはずだ。  自社の卓越性を強化したいリーダーに伝えたい。 これを実践すれば、あなたの組織はきっと前回より も健全に、迅速に、自信を持って、一段階上の成功 に到達できる。より良い生き方やリーダーシップは 存在し、その方法は解明されている。本書で紹介す る習慣は、的確で、実行可能で、再現性、拡張性が あり、持続可能である。  ハイパフオーマーについてわかったこと  さて、長期にわたり、一貫して、標準的基準を超 えた成功を収める人びとについて、私たちが発見し たこととは何か? それは次のようなことだ。  同。よりも高い成果をあげているが、  感じているストレス’V1らより但い  成功を重ねるにつれ、より多くの負荷と不安が生 じ、それらに笑って耐えなければならないという俗 説は、神話にすぎない。あなたは、生き残るために 戦ったり、尻を叩かれてやり抜いたり、燃え尽きた りする多くの人びとの苦労とは程遠い、並外れた人 生を送ることができる。ハイパフォーマーとて、絶 対にストレスを感じないわけではなく、しっかり感 じている。ただ、彼らは対処が上手い。レジリェン ス(※)が高く、疲れや注意散漫、重圧などに見舞 われてもパフォーマンスがさほど低下しないのだ。  匆ヽが人 きで、逆 にめげ  目標を凉成する自信をおっている  人生におけるわずかな苦労も避けたがる人があま りにも多い。自分には対処しきれないのではないか、 批判されたり拒絶されたりするのではないかと恐れ ている。だがハイパフオーマーは違う。自分を疑う ことが絶対ないわけではないが、新しいことを試す のを楽しみにし、自分自身の問題解決能力を信じて いる。困難に尻込みしない姿勢は、人生における進 歩に役立つだけでなく、周囲の人びとをも感化する。  −  彼らはより健康的な食事をし、運動もよくしてい る。ハイパフォーマンス指標のスコアが上位5パー セントのハイパフォーマーが週に3回以上運動をし ている割合は、残りの95パーセントに比べて、40 パーセント高い。誰もが健康を望むが、成功を目指 すなら健康などにかまっていられないのではと思う 人も多いだろう。だが、それは間違いだ。私たちの 調査では、(イパフォーマーたちは、精神的にも、 感情的にも、肉体的にも、仲間より活力があると繰 り返し示されている。  喇楜刷倡口。  多くのことを成し遂げても満足できない人がいる が、これはハイパフォーマーには当てはまらない。 私たちが発見した成功し続けるための習慣はどれも、 たとえ単一で実践したとしても、人生の幸福度を高 めてくれる。だが本書の6つの習慣をまとめて実践 すれば、卓越した能力が身につくだけでなく、より 幸せにもなれる。それがデータで証明されているの だ。(イパフォーマーに特徴的な心の状態−エン ゲージメント、喜び、自信といったポジティブな感 情は、あなたも持つことができる。  刈僣刎閇。い。  ハイパフオーマーは、自分が能力で追い越した仲 間からも真に尊敬されている。なぜかというと、自 分のエゴよりも周囲への貢献を優先しているからだ。 彼らは、相手に尊敬・重視・感謝されていると感じ させ、その人自身をハイパフオーマーに育てるよう に接しながら人を動かす技を心得ているのだ。  より高い学業成1や、より高いポジションでの  繝渕劃収心。伺  ハイパフォーマンスはGPA(※)と統計的に相 関している。大学スポーツ選手200人を対象に私 たちが行った調査では、パフォーマンスの潜在能力 を測定する評価ツールである(イパフォーマンス指 標のスコアが高いほど、GPAも高いことが判明し た。また、ハイパフオーマーは、企業のCEOや経 営幹部になる確率も高い。成功し続ける習慣が、 リーダーシップの発揮や組織内での昇進に役立つか らだ。  1来的な  に関係なく情{的に仕 をする  パフォーマンスの高さは、報酬とは相関しない。 つまり、給与の額いかんでハイレベルな成果が出る 確率や能力が変わることはない。ハイパフオーマー たちが懸命に働くのは、お金のためではなく、必要 性と呼ばれるもののためである。勲章的なものや賞 賛やボーナスのためでもなく、やりがいのためだけ にがんばっている。そのため、彼らはアンケート調 査でも、必ずと言っていいほど、収入レベルに関係 なく、やりがいを感じていると答えている。そして 「仕事が割に合わない」「働きぶりが評価されない」 と感じることはめったにない。それは、彼ら自身が、 パーパスをもって仕事に取り組んでいるからである。 パーパスがあると、より高いエングージメントと自 信と満足感を実感できるのだ。   (正当に)アサーティブ(※)である  ハイパフォーマーが新しいことに臆せず飛び込ん だり、はっきり意見を言うのは、「勝つ」ためとか 競うためではない。彼らのアサ上アイブネスは、新 しい考えを共有したり、複雑な会話に入っていった り、本音や夢を語ったり、自分のために立ち上がっ たりする勇気を持つという習慣のひとつに起因する。 彼らはまた、他者のために主張したり、他者の考え を積極的に支持したりすることも普通の人より多い と、調査結果が示している。率直でインクルーシブ (※)なリーダーにいつでもなれるのだ。  自 のり を えた 点で貢 をする  自分の生まれつきの「強み」に焦点を当てるべき だという神話がある。だが、自分探しの時代はもう とっくに終わった。成長・貢献ができ、リーダー シップをとれる人間になるためには、生まれつきの 資質を超えて、自己を開発していく必要がある。八 イパフオーマーはそれを心得ており、「自分の強み を探す」ことよりも「状況に応じた貢献」、すなわ ち、変えなければならないところを探り、それを変 えられる人間に成長することを意識している。「自 分は何者か? 自分は何か得意なのか?」と問うよ りも「ここで必要とされている仕事は何か? それ を実現するには自分がどのように成長し、どのよう に他者を導けばいいのか?」と問う。実際アンケー 卜でも、(イパフォーマーたちが、自分の強みを伸 ばす努力を他の人以上にしているとは示されなかっ た。ハイパフォーマーの優位性は、個々の強みに起 因するものではない。  桁  に生産的で、質の高いアウト ットを人  州劉。溺司娟  彼らは、いかなる分野でも、重要で質の高いアウ トプットを他の人より多く生み出す。ハイパフォー マーは単にたくさんのことをこなすのではなく、そ の関心分野で重要性の高いことを多く成し遂げるの だ。彼らは、常に重要なことのみを重要視すること が重要だと意識している。そのフォーカスと、意味 のあるアウトプットだけを生み出そうとする努力が、 彼らの卓越性を高めている。  適応力のあるサーバントリーダー(※)である  私の研究が、流行りの世界のトップエキスパート 研究と一線を圉しているのは、孤高のエキスパート や並外れた人物を追い求めてはいない点だ。  ハイパフォーマーは、周囲の人間に大きな影響と 価値を与える。多くの場合、困難な状況に適応し、 部下も成功や貢献ができるよう導くことができる りIダーである。彼らは、そんなリーダーとして、 複数のプロジェクトを渡り歩いても、繰り返し成功 する。たとえどんな状況、どんなチーム、どんな会 社、どんな業界に放り込まれても、やってのける。 それは、他者にもポジティブな影響を与えて引き上 げる能力があってこそだ。単なる天才や一匹狼には 無理だろう。(イパフォーマーは、スキルを育てる だけでなく、大をも育てる。  こうして特徴を列挙すると、ハイパフオーマーは まるで無敵の必殺仕事人のように聞こえるかもしれ ない。だが、それはまったく違う。これらは、ハイ パフオーマーの一般的特徴を概略的に述べただけで、 当然、個人差や多様性が入る余地はいくらでもある。 10人が10人とも上記に当てはまるわけではない。そ れでも、本書で紹介する習慣を実践していれば、こ こに挙げた利点を自分のものにし、並外れた人生を 送れる可能性がだんだん高まってくる。  上記の特徴が、まだ一つも自分に当てはまらなく ても、心配は無用だ。ハイパフオーマーとてその資 質を持って生まれたわけではない。私か100万人 以上にトレーニングを行ってきた経験から言えるの は、(イパフォーマーに超人は存在しないというこ とだ。そのパフォーマンスは、生まれつきの長所で はなく、ある行動を続けた結果。それらを習慣とし て身につければ、ほぼどのような活動分野でもハイ パフオーマンスに到達できる。その結果は、測定可 能かつ証明可能なのだ。 ※レジリエンス  困難から立ち直る力。 ※GPA  Oracle Foint Averageの略。高校・大学の各履修科目の  5段階評価を数値に換算した評定平均値。 ※アサーティブ  高姿勢や攻撃的にならずに言うべきことをはっきり言  う態度。 ※インクルーシブ  多様性を認め合うこと。 ※サーバントリーダー  部下を支配するのではなく、明確な指示を与えたうえ  で、部下が仕事をしやすいよう環境を整え支えるりI  ダー。  HP6−成功し続ける6つの習慣  私の研究とトレーニングのアプローチは、特定の 習慣が、競争優位性をもたらし、平均的な人を高い パフォーマンスを出せる人に変える、という発想に 基づいている点が特徴である。ハイパフオーマーは、 長期的な成功に到達し、それを持続させるのに最も 重要な6つの習慣を、意識的あるいは成り行き上必 然的に身につけたにすぎない。  私たちはその6つの習慣を「HP6」と呼んでい る。I.明確性、2.干不ルギー、3.必然性、4. 生産性、5.影響力、6.勇気から成る。これらは、 ハイパフォーマーがあらゆる目標、プロジェクト、 チーム、人にかかわるうえで、継続的に行っている ことを類型化したものである。どの習慣も、人生の あらゆる場面で、学習可能、改良可能そして展開可 能だ。これらは、今日からでも使え、あなたを向上 させる。後章でそれぞれについて述べ、習慣を確立 するための行動を紹介していく。  だがHP6に入る前に、「習慣」という言葉につ いてひと言述べておきたい。  習慣は一般的に、何かを繰り返し行ううちに、そ うするのが癖になることを指す。私たちは、覚えや すい単純な行動を繰り返し、それに対する報酬を得 ると、じきに、意識せずとも自然にできるようにな る。靴ひもの結び方、車の運転、キーボード入力。 何度も繰り返したことから、自動的な動作になる。  だが本書で述べるHP6は、そのような習慣では ない。意識せずにできるようになるようなものでは なく、大きな戦いに挑んだり、山頂を目指して努力 したり、他者をリードしたりする際に、しっかり意 識すべき心の習慣だ。自身の人格を強化し、成功の 確率を高めるために、意識的に選択し、念頭に置き、 継続的に見直す必要がある。  パフォーマンスを向上させるうえで本当に大事な 心の習慣は、無意識にできるようなものではない。 長くやってさえいれば自然に、あるいは簡単にでき るようになるものではないのだ。なぜなら、より大 きな成功を求めるほど、世界がより複雑になってい くからである。高いところへ行けば行くほど、足元 に気を配る必要がある。  これらの習慣は、一朝一夕には身につかない。実 践するには、特に新しい状況が生まれた際は、かな り神経を注ぐ必要がある。行き詰ったり、新しいプ ロジェクトを始めたり、自分の進歩を測定したり、 他者を導こうとしたりするたびに意識しなければな らないのだ。パイロットが行う飛行前点検のような、 事前確認用チェックリストとして必要なのである。  だが、これはむしろいいことだと私は思っている。 自分のクライアントが、無意識に、受動的反応とし て、あるいは、衝動的に人に勝とうとしてしまうの は、私の望むところではない。勝つために何をすべ きかを知ったうえで、しっかりした意図とパーパス を持って実行してほしいのだ。あなたには、自分の していることを自分で仕切り、意識し、明確にでき るようになってほしい。そうすれば、自分のパ フォーマンスがどんどん向上していくのがわかり、 他者の向上をも助けることができる。  これから学んでもらう成功し続ける人の習慣を実 践できるようになるには、かなりの努力が必要にな るが、努力を尻込みしないでほしい。  チャンスの扉をノックした結果、「努力」が現れ ても、驚いてはいけない。  人生を向上させるうえで肝心なのは、たやすさで はなく、成長である。6つの習慣は、絶えず注意と 努力を払う必要があっても、あなたに大きな変化を もたらすことは、データでも明らかになっている。 高いパフォーマンスを出すには、人生のあらゆる場 面で生涯にわたってこれらの習慣を意識し、実践し、 養っていく努力が必要なのだ。  真の成功−すなわち、全体的かつ長期的な成功 は、生まれ持ったものや、確実なこと、便利なこと、 考えずに済むことからは得られない。多くの場合、 偉大さへの旅路は、あなたの中で、挑戦や貢献を必 要とする大目的のほうが、心地よさや「絶対」を求 める気持ちよりも重要になった瞬間に始まる。  あなたが今持っているスキルや強みは、一段階上 の成功に到達するにはおそらく不十分だろう。した がって、弱点を克服し、新たな強みを伸ばし、新た な習慣に挑戦し、自分の考える限界や才能を超える 努力をする必要がないほうがおかしい。あなたに とって容易なことに集中すればいいという安易な解 決策を提唱するつもりはないのはそのためだ。この 先、多大な努力が必要になるだろう。  あなただけの成功マニュアル  習慣の他に多くの人の足かせとなっている要因は 何だろう? 私の経験から思うに、自分は次のレベ ルに進む資格がない、まだ早いと感じている人が多 い。自分の価値を疑ったり、昇進や資格、賞などの 外的な承認が必要と思ったりして、より大きなこと に着手できないでいるのだ。  そうした考えはもちろん間違っている。あなたに も、他の誰もと同様に、並外れた成功を収める権利 はある。そして、あなたが自分らしく生きはじめる のに誰の許可も必要ない。必要なのは計画だけだ。 約束する。本書にはその計画が記されている。  また「どうして今あるものに満足できないの か?」という声が強い環境で、より大きな成功を追 い求めずに生きてきた人も少なくない。そう言う人 たちは、ハイパフオーマーのことを知らない。今あ るものに大いに満足しながら、成長と貢献をしよう と努力する道もあるのだ。だから、自分の人生を良 くしたいという野心を、他人にとやかく言わせない ことだ。  何かあっても、周囲に遠慮して自分自身や自分の 夢を小さく見せてはいけない。より多くを望むこと は悪いことではない。新たな野心を恐れなくていい。 ただ、前回よりもっと焦点を絞り、もっと鮮やかに、 もっと満足感を持てるようにその夢に到達する方法 を学んでおこう。  次章では、ハイパフォーマンスの6つの習慣「H P6」を紹介し、それらをどのように特定したのか を詳しく説明していく。どのような科学に基づいて 発見されたものなのかを知れば、このアプローチの 意味合いと効力がより深く理解できるだろう。  そして6つの習慣の1つひとつを取り上げていく。 各習慣にI章を割いて、その習慣を確立するための 行動を3つずつ伝授する。  先に斷つておきたいことがある。  1つめ。私は、あなたのガイドとなり、新しい考 え方を提示し、その過程であなたを挑発し、あなた が本当に大事なことにもつと意識を向けるよう導い ていく。時折熱くなりすぎることもあるかもしれな いが、そこのところはお許しいただきたい。10年に わたってすごい人たちをコーチングしてきた経験か ら、努力の先に待つ結果のすばらしさを知っている かゆえのことなのだ。  2つめ。私は、ポットキャスターや学者とは違い、 測定可能な結果を出さなければ報酬を得られない。 そして、世界中のあらゆる社会的立場の個人とチー ムに対してその結果を出してきた。実践者がどう変 わるかを目の当たりにしてきたのだ。そして今この 瞬間も、それについて書くだけでワクワクしている。 私かこのことをぜひ広めたいと思う情熱の源泉は、 効果が現れた受講生たちを見てきた経験だ。しかも その効果は、データによって繰り返し証明されてい る。しばしば私のテンションが高くなりすぎる点も ご容赦願いたい。この研究の話になると、どうして も熱が入ってしまうのだ。  最後にもうひとつ。本書のなかで、ときにあなた に厳しい質問をしたり、面倒くさそう、あるいはや りにくそうな行動を提案したりする箇所がある。対 面のコーチングセッションでは、「全力を出すよう 私か圧をかけたり、ぽっぽをかけたり、強く求めた りすることもあります」と、前もって承諾を求めて いる。それと同じだ。この本を選んでくれたあなた は、すでに旅路への覚悟ができているはずだと信じ ている。  ここで、後の章では触れない事柄も1つ述べてお きたい。私は本書をできるだけ実用的なものにする よう腐心した。あなたの知らない人たちのエピソー ドや、あなたがおそらく気にかけないであろう学術 的詳細などよりも、あなたの人生を良くするために 使える戦略を優先している。  だから、この本が人間心理学や達成の科学のバイ ブル本だと言うつもりはない。本書は、私か20年の 経験から得た洞察を、あなたのために、実践的な ロードマップに濃縮しようという試みだ。ただし、 取り扱う範囲がこれだけ広いと、どうしても一般論 や答えのない問いを排除できず、私はせめてそれら を指摘することに最善を尽くすしかなかった。  本書の内容を実践的な習慣に絞り込むのは難し かった。初稿は1498ページに及んでしまい、何 を削るか、難しい選択を迫られた。その判断をする のに役立ったのが、非常に多くのハイパフォーマー に教わった、前述のアドバイスだった。  常に重要なことのみを重要視することが重要。  本書における「重要なこと」は、あなたがすごい 人になるための習慣を教えること。それらの習慣を 概念的に理解し、自信を持って実践できるようにす ることだ。  結局カットすることになったのは、読みものとし てはおもしろく、考えさせられるコンテンツだ。歴 史上の人物や、現代の指導者のプロフィール、実験 室での実験に関する興味深いエピソードなど。なぜ なら、こうした内容は、本書よりも、私のブログや ポットキャストに向いていると考えたからだ。  このような選択をしたのは、本書を、ケーススタ ディや学術的メモを集めた本というより、ユーザー マニュアル的なものにするためだ。ハイパフオー マーとのコーチングセッションの場面描写や、私だ ちの幅広い研究結果もたくさん紹介しているが、大 部分において、あなたが一段階上に到達するために 実際になすべきことに主眼を置いている。ヒューマ ンーエピソードやケーススタディをもっと見たい方 は、私のウェブサイトBre乱on.coヨより、ブログや ポットキャストをチェックしてほしい。そして、学 術的なアプローチや、私たちの方法論をより深く知 りたい方はHighPerfo日lance Institute.coヨを閲覧し てほしい。  本書は、あなたが生涯にわたって何度読み返して も、有用性、正確性を保てるよう、時代に左右され ずに役立つ指南を心がけた。よく受講生から、私は、 ハイパフォーマンスの習慣や行動を、どう実践して 今に至るのかと訊かれるので、私個人の例も共有し ている。とはいえ、それもつまるところ私自身が八 イパフォーマーだちから学んだ振る舞いを実践した だけである。  あなたのパフォーマンスを向上させるうえで最も 重要なのは6つの習慣なので、特定のハイパフォー マーの食生活やら、子ども時代、愛読書、朝のルー ティン、愛用アプリといったディテールに多くの ページを割いていない。個人差が大きいだけでなく、 どれもパフォーマンスとの強い相関関係が認められ ていないからだ。ハイパフォーマーの人となりや個 人生活ではなく、パフォーマンスについて、実証済 みのルーティンを伝授する。  とにもかくにも、この本の主役はあなただ。あな た自身が持つべき考え方、人生において意識的に実 践すべき習慣や行動について、きっと多くのヒント があるはずだ。  さあ、今すぐはじめよう  あなたが多忙なのはわかっている。今囗だってす べきことがたくさんあるだろう。私に好奇心をかき 立てられ、すぐにでも人生向上に取り組もうと意欲 を燃やしているかもしれない。  一方、あなたの関心がすぐさま行動に結びつかな い可能性も想定される。そこで、まずは今日、はじ めの一歩を踏み出すために、今すぐできることを2 つ提案したい。  I私のウェブサイトでパフォーマンス診断を受  ける  安心してほしい。診断は無料で、所要時間もたつ た5〜7分だ。結果は、ハイパフォーマンスと相関 する6つのカテゴリーのスコアで提示される。うま く行っているカテゴリーと行っていないカテゴリー がわかる。この診断によって、自分の現在のキャリ ア路線で、長期的目標や夢を達成できる確率が予測 できる。診断のスコアが出たら、講座案内や、その 他の情報を見ることができる。そしてそのリンクや 結果を仲間とシェアすることも可能だ。自分と他の 人たちのスコアを比較するのは歓迎だが、必ず本書 に戻って、向上の方法を学んでほしい。  2今日中に第1章と第2章を読む  そう、今すぐにだ。そんなに時間はかからない。 とりあえず次の2章を読むことに専念すれば、目標 が何であれ、あなたの長期的成功を助ける、統計的 に有意な要因がわかる。向上するための測定可能な 方法を学び取ることができ、もう二度と、長期的成 功を達成するためには何か一番重要なのか迷うこと もなくなるだろう。  ハイパフオーマンスは、あなたにも発揮できる。 並外れた人生があなたを待っている。さあ、今日か らけじめよう。 私の人生を変えた1通のメール  ブレンドンヘ  私は性格診断のMBTI(※)でINTJ型で した。しかし、それでわかった私の性格や能力が どう成功につながるかについては、まったく言及 がありませんでした。今のことも、数年先のこと も。  またストレングスーフアインダー(※)による 私の上位2つの強みは「成長促進」と「達成欲」 でした。これらもやはり、私の物事を成し遂げた り、具体的な成果をあげたりする能力はどうなの かは教えてくれません。  そしてコルベ (※)で最もスコアが高い指標は 「クィツクースタート(変化への志向性)」です。 でもこれがわかったところで何の意味もありませ ん。生まれてから長いあいだ実生活に適応するた めに、不得意な領域、「フアクトーフアインダー (詳細な事実や情報への志向性)」「フォロー・ス ルー(秩序や規則性への志向性)」「インフレメン ター(空間や物体を扱う器用さ)」も私なりにも向 上させてきたからです。  私は緑色より青が好き。  チンパンジーよりはライオンに近い。  グリッドはあるが、ものぐさで、四角よりは丸 に自分を重ねる。地中海式食事が多いが(ンバー ガーも好き。人と接するのは好きだが、しばらく すると、紅茶と分厚い本を抱えI人きりになりた くなる。週にI回ホールーフーズで食料品を買う が、ランチは、安いメキシコ料理に行くことが多 い。  こうしたことはどれも、私の能力や成功確率、 将来のパフォーマンスの指標としてはまったく意 味をなしません。  だからお願いですから、私を型にはめて特定の 「タイプ」に分類したり、私の「強み」や育ちが 何らかの優位性をもたらすと仮定するのはやめて いただけませんか。どのような手法であれ、人を タイプ分けしてもろくなことはありません。あな たも、こうした診断は、私自身について探求し学 ぶためのものであり、私をタイプ分けしたり誘導 したりする目的ではないと言ってはいますよね。  しかし、私の「強み」とされるものがわかって もなお、それが競争に役立つことはありません。 私の生まれながらの傾向は、キャリアでは役目を 果たさないのです。  私かどんな大聞かとか、私か何を好むか、私か 何を生まれつき得意とするかなんて、誰が知った ことかという場合が少なからずあるのです。大事 なのは、私か任務を果たせるようにレベルアップ できるかどうかであり、任務を私の限られた強み に合わせてレベルダウンさせられるかどうかでは ありません。  あなたは、人のバックグラウンドについてもよ く訊きますよね。私は中西部の出身ですが、今は カリフォルニアに住んでいます。私の母は、女手 一つで私と妹を育ててくれました。昼は美容師、 夜はビュッフェレストランの受付をしていました。 父は、私か14歳のときに、母と私たちを捨てて出 ていきました。私の学校の成績は普通。いじめら れたことはI〜2回しかありません。大学時代は ゴルフが大好きでした。大学卒業後の5年間で、 最悪の恋愛を2度経験しました。解雇されたこと もI度あります。でもいい友達が何人かできたお かげで、徐々に自信がつきました。今の仕事に出 会ったのは偶然のようなものですが、すばらしい と思っています。  こうしたバックグラウンドの中にも、私の潜在 能力を示唆する要素は皆無です。今の私か人より 抜きん出るための決定的なヒントや道筋はどこに もありません。  正直に言わせてください。あなたは好んで性格 診断を使ったり、バックグラウンドを訊いたりし ていますよね。しかし、過去や生い立ちのストー リーは誰にだってあるものですから、それらが人 に優位性をもたらしているわけではないのは明白 です。  私の言いたいこと。それは、自己分析ならいく らでも自分でできるということです。私があなた にコーチングを頼んだのは、次のレベルに進むた めに何をすべきかを教えてほしかったからです。  性格うんぬんに関係なく役に立つのは、どんな 習慣や行動なのでしょうか?  (イパフオーマーがどんな人だちなのかではな く、彼らが、具体的に何をしているのかを詳しく 教えてください。どんなプロジェクトにも適用で き、再現可能な行動。そのくらいの具体性がほし い。それが究極の目当てです。  あなたがそれを見つけてくれるなら、私はクラ イアントとして生涯あなたについていきます。さ もなければ、そろそろお別れすべきかと思います。 ※MBTI  世界50力国で採用されている、ユングのタイプ論に  基づいた性格診断、マイヤーズーブリッグスータイ  プ指標。93の質問にべaシoで答えると、16種類の  性格タイプの1つに分類される。 ※ストレングスーフアインダー  アメリカのギャラップ社が開発した「強みの元=才  能」を見つけ出す「クリフトンストレングスーテス  卜」。上位資質5つが診断できる。 ※コルベ  教育者、起業家、コンサルタントのキヤシー・コル  ベが開発した「コルベAインデックス」。人の生得  的本能と行動傾向を4つの指標に分け、それぞれの  割合を出す。  私にこのメールを送ってきたのは、私かコーチン グを始めた頃のクライアント、トムだ。これは私に とって、控えめに言っても驚きだった。トムは、重 役として成功している、心やさしい人だった。とて も協力的で、いつでも新しいことに躊躇なく挑戦し た。そんな彼が、「究極の目当て」を私か提示でき なければ関係解消という最後通告をしてくるなんて、 まったく意外だったのだ。そして、その後の彼との 会話はさらに単刀直入で、彼は苛立ちまで見せてい た。  トムは成果を求めていたのに、どうすればそれが 得られるのか、私はわかっていなかったのだ。  これは10年前の話である。私かどこにでもいる普 通のライフコーチだった当時、クライアントのパ フォーマンスを向上させる方策を考えるのに、4つ のステップを踏むのがスタンダードな手法だった。  たいていの場合、まず、クライアントが何を望ん でいるのか、それを邪魔している「リミティングー ビリーフ(※)」が何なのかを知るための質問をす る。また、過去についても聞き出し、今の行動に影 響を与えていそうな出来事を特定しようとした。  第2ステップは、診断ツールによる、性格のスタ イル、傾向、嗜好の特定だ。その人が自分自身をよ り深く知り、成功に役立ちそうな行動を見つけるた めにやっていた。よく使われたツールは、マイヤー スープリックス、クリフトンーストレングスーフア インダー、コルベATMインデックス、DiSCG性 格診断などだ。クライアントにこれらを受けさせる ために、ライフコーチが各ツールの認定資格を持つ 専門家やコンサルタントを雇うことが多かった。  第3ステップは、360度評価だ。コーチが、ク ライアントの職場の勤務評価を丹念にチェックした り、職場の人たちに聞き込みを行ったりし、その人 が周囲からどう見られているか、何を求められてい るかを探る。クライアントと一緒に暮らしている人 たち、働いている人たちの双方から話を聞く。  第4ステップは、クライアントが実際に生み出し ているアウトプットの評価だ。過去の仕事の実績か ら、その人がどのような際立った功績を残している か、良い成果を生み出すのに役立った業務プロセス は何か、どんな手柄を立てるのを好むのかを探る。  私もこれらすべてを慣例どおりに行っていたのだ。 トムは、目に見えるデータや結果報告書を好んだの で、私たちは各種診断とそれについての考察に多く の時間を費やした。また、さまざまな診断ツールを 専門に扱うハイレベルなコンサルタントを数人雇っ た。分析結果は、バインダー数幵に及んだ。  こうしてクライアントの特性や、才能、成績、生 まれ育ちや経歴を知ったにもかかわらず、私はその 後2年間にわたって、失敗続きのトムを見ているだ けで、申しわけない気持ちでいっぱいだった。彼が なぜ、自分の望む結果を出せないのかわからなかっ たのだ。彼があのメールを送ってきたのはそんな矢 先だった。 ※リミティングービリーフ  自分自信にブレーキをかけている思い込み。  成功の要因は努力で伸ばすことができる  トムのメールから早10年。私は幸運にも、世界最 大級の自己啓発と能力開発のラボ(調査研究会社) を持つに至った。世界中のオーディエンスとプラッ トフォームを実験室に見立ててそう呼んでいるのだ。 本書を執筆中の今現在、オーディエンスには、 Facebookページのフォロワーー000万人以上、 ニュースレターの購読者200万人以上、オンライ ン講座やトレーニング動画の修了者150万人、数 日間のライブーハイパフォーマンスーセミナーの参 加者数千人、モチベーションや、心理学、人生改革 に関する書籍やブログの読者数百万人、YouTube チャンネルの登録者50万人以上が含まれる。この オーディエンスのおかげで、私の自己啓発の動画 チャンネルは総再生回数が1億回を超えた。  このオーディエンスのユニークな点は、視聴の目 的が、自己啓発のアドバイスとトレーニングに絞ら れていることだ。彼らは私たちに、大びとが何に悩 んでいるのか、人生で何を望んでいるのか、彼らを 変えるには何か役立つのか、という知見を提供して くれる。私たちハイパフォーマンスーインスティ テュートでは、この膨大な一般支持者を、アンケー ト調査やインタビューの実施、受講者の行動やコメ ントからのデータ収集、オンライン講習や一対一の パフォーマンスコーチングのビフォー・アフター評 価に利用させてもらっているのだ。私たちは、人の 行動やハイパフォーマンスについて何か知りたいと 思うたびに、このラボヘ行って、洞察を得るのだ。  この膨大なオーディエンスやデータセットから私 たちが学んだことは、一般的な常識と重なる部分も 多い。成功するためには、努力や情熱、練習、レジ リエンス、そして人間力のほうが、往々にして、− ○ヽや、生まれつきの才能や、出自よりも重要だった りする。私たちが研究から得た知識は、成功や一流 のパフォーマンスに関する現代の研究とも一致して おり、驚くようなことは何もない。最新の社会科学 の文献を1つでも読めばわかるはずだが、だいたい どんな活動分野でも、成功をもたらす要因というの は、概して努力で変えたり伸ばしたりできるものな のだ。以下に例を挙げよう。 ●心の持ち方 ●好きな道に注ぐ力と、それを追求する執念深さ ●練習量 ●他者への理解と接し方 ●目標達成を目指すうえでの自己規律と一貫性 ●損失からの立ち直り方 ●脳と身体を鍛え、心身の健康を維持するための  運動  私たちの研究および科学文献や学術文献から浮か び上がってきたのは、「特定のタイプの人」が成功 するのではなく、いかなる社会的立場であっても 「一連の特定の習慣を実践する人」が成功するもの である、という洞察だ。「その習慣を実践するのに 最も効果的な行動は何か?」という問いが、本書執 筆の動機となった。  何か重要かを見つける  私たちが過去数年にわたって集中的に研究してき たのは、人が長期的な成功を収める手助けをするう えで、最大の効果をもたらすのは何かということだ。 それで見つけた答えは、トムが直感していたことと 同じで、(イパフォーマーは、普通の人とは違うや り方で物事を行っており、その習慣は、本人の性格 や過去、嗜好に関係なく、すべてのプロジェクト (そしてほとんどすべての状況)でも再現できると いうことだ。  私たちはさらに、分野に関係なくパフォーマンス の成果に最も大きな違いをもたらす習慣を6つ発見 した。あなたの最大の長所や生まれつきの能力も、 それらを支える習慣がなければ意味を成さないのだ。  どのような習慣が最も重要かを明らかにするため に、私たちは、関連する概念を、学術文献や、私だ ちの世界規模のラボ、そして3000同を超える コーチングセッションから拾い集めた。そしてそれ らのインプットをすべて整理し、構造化面接で(イ パフォーマーに尋ねる設問を作成した。  (イパフォーマーの特定には、質問内容にどの程 度当てはまるかを尋ねるアンケートや、客観的なパ フォーマンス測定(学業成績、スポーツ成績、客観的 な業績や財務成果など)といった、標準的な社会科学 の手法を使った。  たとえばアンケート調査では、次のような記述が どの程度当てはまるかを尋ねた。 ●私は、仲間のほとんどからハイパフォーマーだ  と思われている。 ●私は過去数年間、総じて高いレベルの成功を維  持してきた。 ●「高いパフォーマンス=長期にわたって成功す  ること」と定義するなら、私は、他の大多数の人  に比べて、ハイパフォーマーだと言える。 ●私は、主な関心分野において、仲間よりも長く  成功を収めてきた。  以上のような記述が自分に強く当てはまると回答 した人たちに対し(そして多くの場合、対照群にも) 私たちは一対一のインタビューを行った。そして自 己申告のハイパフオーマーたちに、さらなるアン ケート調査でこのようなことを尋ねた。 ●あなたが新たなプロジェクトを始める際に、成  功するために絶えず意識的に行っていることは何  ですか? ●プライベートと仕事の双方において、あなたが  大事なことにフォーカスし、干不ルギーにあふれ、  クリエイティブで、生産的で、優秀であり続ける  ために役立つルーティンを教えてください。 ●始めたけれどもやめた習慣、必ず効果があり続  けている習慣を教えてください。 ●あなたが、新しい状況に臨むとき、逆境や失望  に対応するとき、他者を助けるとき、それぞれの  場面で最高のパフォーマンスを発揮するために、  いつも意識的に自分に言い聞かせていることやア  フアメーションはありますか? ●自分を成功に導いてくれるものを3つ、次の大  きなプロジェクトで、その3つしか使えないと仮  定して選んでください。 ●本当に大事な会議(あるいは試合、パフォーマンス、  シーン、会話)に備えるとき、あなたはどんな準  備や練習をしていますか? ●明日、大きなチームプロジェクトを引き受ける  としたら、あなたはチームを成功に導くために、  彼らに具体的に何を言い、何をしますか? ●短期間で成果をあげるための習慣、長期的に卓  越するための習慣を教えてください。 ●間近の締め切りに追われているとき、あなたは  どうやって、心身の健康を維持、あるいは守って  いますか? ●自分を疑ったり、自分に失望したり、失敗しそ  うだと感じたとき、いつも自分に何と言い聞かせ  ていますか? ●あなたに自信を与えてくれるものは何ですか?  また、自信が必要なときにどうやってそのスイッ  チをONにしていますか? ●あなたの人生であなたを支持してくれる人、支  持してくれない人、支持してほしいのにしてもら  えない人に対し、それぞれどのように接していま  すか? ●大きな目標に向かって努力する中で、幸せと健  康の維持に役立つのはどんな習慣ですか?  以上の質問のほか、数十のこれに類する質問に よって、ハイパフオーマーたちが、自らの成功に最 も大きな影響をもたらしていると答えた要因や習慣 を絞り込んでいった。すると、20あまりの明確な テーマが浮かび上がってきた。  次に、一般人を対象に、ハイパフオーマーに自己 申告してもらった質問と同じような質問でアンケー ト調査を実施した。そして、普通の人の答えとハイ パフオーマーの答えに最も大きな差異が見られた心 がけや習慣を抽出し、リストをさらに絞り込んだ。  最後にその中から、意図的で、観察可能で、努力 で変えることができ、訓練可能で、何より分野に関 係なく効果を発揮するものを厳選した。つまり私た ちが探していたのは、1つの専門分野だけでなく、 多様なテーマ領域、活動、業種で成功するのに役立 つ心がけや習慣である。誰でも、どこでも、どんな 活動分野でも、何度でも適用することができ、パ フォーマンスを定量的に向上させることができるも のを求めていた。  最終的に、その基準にかなうものが6つ残った。  それが、ハイパフオーマンスの習慣「HP6」で ある。  Iすべてを明確にする  2エネルギーを高める  3必然性を高める  4生産性を高める  5影響力を高める  6勇気を出す  私たちは、HP6を特定した後、さらなる文献調 査と妥当性テストを行った。そして、6つの習慣お よび実証済みの成功尺度に基づいたハイパフォーマ ンス指標(HPI)を策定した。  195力国、3万人以上の人びとに対してHPI のパイロット版を試し、その妥当性、信頼性、有用 性を定量的に証明した。6つの習慣を総合したスコ アの高さがパフォーマンスと相関するだけでなく、 1つひとつの習慣の単独のスコアの高さもパフォー マンスと相関していることが判明したのである。そ して、6つの習慣をすべて一緒に実践すれば、他の 重要な人生のクオリティーたとえば全体的な幸福度 や、良好な健康、良好な人間関係などとも相関する のである。  HP6は、あなたが学生であろうと、起業家であ ろうと、管理職、CEO、アスリート、子育て専業 の親であろうと、成功を後押しする。HP6は、あ なたがすでに成功しているいないにかかわらず、次 のレベルに到達させてくれるだろう。  長期的な成功を左右する要因はこの他にも、運、 タイミング、周囲のサポートや応援、クリエイティ ブ分野における突然のブレイクなど、外的要因もい ろいろ考えられるが、あなた自身でコントロールで きる要因の中で考えると、HP6は、他のいかなる 要因よりもパフォーマンス向上に役立つという測定 結果だった。  HP6は、どんな状況でも高いパフォーマンスを 出したい人に必要な6つの習慣だ。人びとから寄せ られた何百種類もの個人的心がけや社会的行動を見 てきた中で、劇的にパフォーマンスを向上させる効 果が最も大きいと私たちが結論づけた6選である。  強みだけではまったく足りない  すでにお気づきかもしれないが、HP6にはどこ にも、あなたの生まれつきの資質や才能、天性、過 去、強みなどにフォーカスしようとは書かれていな い。なぜなら、あなたがどれだけすばらしい性格や、 天性の強み、お金、美貌、創造力を持っていようが、 どんな才能を伸ばしてこようが、過去にどんな功績 を収めていようが、それだけでは、さほど意味を持 たないからなのだ。いくら先天的な優位性やお金や 過去の功績があっても、自分が何を求めているかわ からない(明確性の欠如)、疲弊していて成果をあげ られない(干不ルギーの欠如)、やり遂げなければと いう意欲やプレッシャーを感じない(必然性の欠如)、 最も重要なことに的を絞ったアウトプットが生み出 ない(生産性の欠如)、対人スキルがなく他者からの 信用や支持を得られない(影響力の欠如)、リスクを とって自分や他者を毅然と擁護できない(勇気の欠 如)、といった状況があると、せっかくの優位性が 発揮できないのだ。HP6がないと、どんなに素質 に恵まれた人でも、迷子、疲弊、無気力、非生産的、 孤独、不安な状態に陥る。  人生で成功したければ、自分が無意識に、簡単に、 あるいは自然にできることだけに専念したのでは不 十分だ。そうではなく、意識的に自分の(Iドルを 上げ、居心地のいい領域を卒業し、自分の偏った考 えや嗜好を乗り越え、他者を理解し、愛し、奉仕し、 導くよう努めてこそ、成功できるのだ。  これを言うと、二の足を踏む人が一定数いる。そ れは「強み」ブームの影響である。私も個人的には、 自分自信をより深く知るためのツールが大好きだし。 ストレングスーフアインダーを考案し「強み」革命 をリードしてきた世論調査会社ギャラップは大いに 尊敬している。ただ、他者を指導したり、自分が一 段階上の成功を目指したりする手段として、強みを 探ろうとすることはすすめない。「強み」ブームは、 人間には「生得的」な強み、すなわち、持って生ま れた才能があるという考えに基づいている。せっか く「生まれながらにして」何かに長けているなら、 それに専念すべきだという考えである。これはたし かに聞こえのいい定石であり、絶えず自分の短所に 執着するよりはましと言える。  ただ私か強みブームに抱く最大の懸念は、複雑で 急速に変化する世界において、先天的な資質だけで 頂点に立てる人などいない、ということだ。前にも 述べたとおり、あなたの先天的な資質がどんなもの であれ、高みを目指すなら、生まれつき、あるいは 十代の頃から自然にできていたことだけでは不十分 なのだ。資質重視説にあまり説得力がないというの はそういうことだ。  不確実性に満ちた現実世界では、成長するための ハードルがどんどん上かっているので、卓越したパ フォーマンスに到達し、長期的に成功するには、自 分にとって簡単にできること、性に合ったことを大 きく超えた能力を身につける必要がある。あなたが 持って生まれた「天性の」強みだけではやっていけ ないのだ。  本章の冒頭で紹介したメールで、トムが「大事な のは、私か任務を果たせるようにレベルアップでき るかどうかであり、任務を私の隕られた強みに合わ せてレベルダウンさせられるかどうかではありませ ん」と言っている。もしあなたが、並外れた貢献を したいという大志を抱いているなら、自分の適性を 大きく超えて成長しなければならない。ハイパ フォーマンスの域に達するには、弱点を克服したう えで、自分が簡単にできることや「好きなこと」を 超えた、まったく別のスキルセットを身につける必 要がある。当たり前のことだが、本当に自分の名を 上げたいなら、より成長し、より貢献しなければな らない。それは楽々と自然にできるようなものでは ない。  あなたが私の考え方に賛同してもしなくても、こ の事実は変わらない。自分の性格タイプや生得的な 強みとされるものを知ったところで、不確実な環境 下で、あなたの次の大きな目標達成に役立つことは ないのだ。自分のタイプや強みを見極めて「適性を 伸ばそう」とするのは、未踏の崖を登ってハチの巣 から蜜を取ろうとする熊に「もっと熊らしくなって がんばれ」とアドバイスするようなものだ。  会社経営をしている諸君、もう、強みや性格診断 に高い金を費やし、人を分類するという無駄な試み はやめ、その代わりに、誰もがパフォーマンスを上 げられる、実証済みの習慣を習得させることに力を 注ごう。  朗報なのは、どの習慣も、できないように「生ま れついた」人などいないということ。ハイパフォー マーは、強みがいっぱいに詰まった袋を持って生ま れた幸運な人間ではない。先ほど説明した成功し続 けるための習慣を、仲間よりも一貫して発揮してい る。ただ、それだけの違いなのである。  したがって、あなたが外向的か内向的か、INT JかESFPか、キリスト教徒か無神論者か、スペ イン人かシンガポール人か、アーティストかエンジ ニアか、マネジヤーかCEOか、達成者タイプか分 析家タイプか、お母さんか火星人かに関係なく、成 功し続けるための6つの習慣は、一つひとつが、あ なたの最も重要な分野に劇的な影響を与える力を 持っている。そしてすべてが組み合わされば、あな たの人生で重要なすべての領域でのパフォーマンス に革命を起こす力を持っている。  HP6が生まれつき身についている人などいない ので、努めて実行する必要がある。新しい目標やプ ロジェクト、夢を成功させたいと思うたびに、HP 6を全開にしなければならない。潜在能力を十分に 発揮できていない自分に気づくたびに、HP6を発 動させるのだ。自分がうまく行かない原因がわから ない人は、ぜひHPIの診断を受け、どの習慣のス コアが柢いか特定してみよう。その部分を改善すれ ば、軌道に戻ることができる。  そうした意識的なフォーカスこそが、重要な違い を生む。それによって「先天的な資質」を持つ人が 成功しやすいという誤解が解けるからである。私か 過去10年でサポートしてきた多くのエリートレベル のデキる人たちや、これまでのアンケート調査や各 種診断を振り返ってみても、ハイパフォーマンスと、 性格や、10.、生まれつきの才能、創造性、経験、 性別、人種、文化、報酬とのあいだに、一貫した相 関関係は見られないのだ。  また、過去20年ほどの神経科学とポジティブ心理 学においても、研究者たちが同じことに気づき、従 来のモデルが覆されている。どんな先天的資質を 持っているかよりも、持っているものをどう使うか のほうが、はるかに重要なのだ。あなたがどう世界 を見るか、どう自分を成長させるか、どう他者を導 き、困難を乗り越えて粘り強くがんばるかと比べれ ば、何か生まれつき得意かは、さほど重要ではない。  まれた生い立ち、すばらしい性格、クリエイティ ブな頭脳など、諸々の有利な条件に恵まれているの に、ソファから腰を上げない人、成功しない人を、 誰でもI人や2人は知っているだろう。また、高い 給料をもらっているのに、高いパフォーマンスを出 せていない人も多い。組織内でチームのメンバーに 資質診断を受けさせたことのある人なら、自分の強 みを知り、おまけにその強みに関連した仕事をして いてもなお、すばらしい成果が出せない同僚がたく さんいると断言できるはずだ。  どんなに立派な企業文化のもとでも、ハイパ フォーマーとローパフォーマーは必ず存在する。な ぜかというと、パフォーマンスの高さは、特定タイ プの人間の話ではないからだ。また「遺伝ガチヤ」 に当たったかどうか、何年働いているか、肌の色、 周囲に支持者がどのくらいいるか、給料がいくらか とか、そういうことも関係ない。  問題は、成功し続けるための習慣を実践できるか どうかだ。そしてこれは、完全にあなたがコント ロールできることである。  この発見はぜひとも強調しておきたい。というの も、成績不振を上に挙げたような要因のせいにして いる人があまりに多いからだ。  あなたは、このような言い訳をどれだけ耳にして いるだろうか。 ●「私はそもそも上昇志向の性分ではない。そも  そも外交的(または直感的/カリスマ人間/受容  的/誠実)ではない」 ●「私はそもそもそんなに賢くない」 ●「私はそもそも彼らのような才能に恵まれてい  ない。そんな素質は持ち合わせていない。最適な  強みの組み合わせを持つていない」 ●「私は右脳人間ではない」 ●「私には経験が足りない」 ●「私は女(黒人男性/ラテン系/巾年の白人男性/  移民)だから成功できない」 ●「うちの社風では支持が得られない」 ●「私の本当の価値に見合った給料がもらえれば、  もっと良い仕事ができる」  私たちは、こうした理由づけが、実は、成績不振 の苦しい言い訳にすぎないことにそろそろ気づくべ きだ。内発的な要因(※)がまったく関係ないと言 うつもりはない。内発的要因は、特に小児期の発達 においては、重要なもので、大人になってからの気 分や、行動、選択、健康、人間関係などに劇的な影 響を及ぼすことが明らかになっている。  リーダーは注意して聞いてほしい。以上に挙げた 要素(性格、IQ、生まれつきの才能、創造性、経験、 性別、人種、文化、報酬)はどれも、目を向けたとこ ろで、部下のパフォーマンス向上にはほとんど役立 だない。こうした要素は、定義するのも、管理する のも、改善するのも容易ではない。  あなたの率いるプロジェクトチームでパフォーマ ンスが振るわない人に、たとえばこのようなことを 言いに行くことがいかにナンセンスか、考えてみよ  「性格さえ改善してくれたら……」  「10、さえ改善してくれたら……」  「持って生まれた資質をちょっと変えてくれた ら……」 「もう少し右脳人間になってくれたら……」 「経験年数があと5年くらいあったら……」 「もう少しアジア大(または黒人/白人/男性/女性) ぽくなってくれたら……」  「ここの社風をちょっと改善してくれれば……」  「君が希望どおりの給料を取ってもっと生産的に なってくれたら……」  もうおわかりだと思うが、これらは、フォーカス しても仕方のない要素なのである。  要は、チームのパフォーマンスを向上させるため に、何かしらに力を注ごうとするのであれば、まず HP6から取りかかるべきだということだ。 ※内発的な要因  個人の内面にわき起こる興味・関心・情熱など。  1つの習慣が他のすべてを底上げする  HP6は、人生におけるすべてのよい習慣に適用 できるという点で「メタ的習慣」と言える。明確化 を心がければ、問いを立てる、内省する、自分の行 動を観察する、自分が軌道を外れていないか評価す るといった習慣もつく。エネルギーを培えば、適切 な休息、健康的な食生活、運動を心がける習慣に結 びつく、という具合に。  私たちの研究でわかったHP6のすばらしい点は、 1つの習慣を実践すると、全体的なパフォーマンス も向上することである。たとえば、明確化ができる ようになると、干不ルギーも、必然性、生産性、勇 気、影響力も高くなることが多い。  もう1つのすばらしい点は、すべてのHP6に、 全体的な幸福感との相関が見られる点だ。どの習慣 も、そのスコアが高い人ほど、幸せに暮らしている という回答率が高いパフォーマンスだけでなく、幸 福の強力な要因となるのだ。  ハイパフオーマンスを出す「精神状態」は  あるのか?  私かよく受ける質問に、長期的成功を助ける「精 神状態」というのはありますか? というのがある。 だが、そもそも心の状態とか、精神状態というのは、 移ろいやすい一過性のものだ。それなら気分や機嫌 のほうがまだ長続きする。そして最も持続するのが 習慣である。私たちが習慣にフォーカスするのはそ のためなのだ。  だがおそらく、人びとが本当に訊きたいのは、こ ういうことだろう。  「ハイパフオーマンスに達するとどんな感じがする ものなのか? それがわかれば真似から入れるので はないか?」  その答えはデータが知っている。一般のハイパ フオーマー3万人以上を対象にしたアンケート調査 の結果を分析してみると、明確な答えが出た。ハイ パフォーマンスを発揮しているときの感覚として、 没頭感とか、喜び、そして自信(以上、多かった 順)を味わっているという同答が多かった。  つまり、(イパフォーマーたちは、自分のやって いることにすっかりのめり込み、それを楽しみ、何 かを考え出せることに自信を感じているのだ。  そして自山同答の文章を分析すると、ハイパ フオーマンスの域に達したときの感覚を表すのに使 われた言葉の上位5位は、パーパスとフロー(「フ ロー状態」の「フロー」。なお似た意味の「ゾーンに入 る」は、言葉でなくフレーズなので、多肢選択式質問の 選択肢には入れなかったが、白山回答式の質問では、最 も多い回答だった)、そして決意している、フォーカ ス、意図的、意識的、誠実だった。  この分析結果を参考に、これらの感覚を意図的に 再現する機会をつくつてみることで、気分向上だけ でなく、パフォーマンス向上にも役立つだろう。だ が、「強み」のときと同様、効果的な習慣を実践せ ずに理想の精神状態をつくるだけでは、ハイパ フォーマンス到達には不十分だ。  HP6の効果を試す  HP6と本書のアドバイスは、私自身のプライ ベートやキャリアだけでなく、私たちの受講者や オーディエンス数十万人の人生を測定可能なほどに 向上させた。彼らには、オンライン講座や、ライブ セミナー、コーチングの前と後にHPIを受けても らうのだが、皆、自分の人生が向上したことを実証 するデータを見てとても喜ぶ。私たちは、受講者の ハイパフォーマンスの総合スコア(および人生全体 の幸福度)が上がるのを日常的に見ている。またH PIを組織に導入し、社員とチームが伸ばすべきと ころをピンポイントで特定するのに役立てている ケースもある。  さらに、コーチングのクライアントヘの介入でも、 めざましい成果が出ている。私たちが育成した認定 ハイパフオーマンスコーチによる3000時間分の コーチングセッションでは、数年ではなく数週間で、 人びとの行動が劇的に変わり、人生のさまざまな領 域でのパフォーマンスが上がったことがわかってい る。  とはいえ、成功し続けるための習慣が、人生にお けるすべての課題を解決する特効薬というわけでは ない。私は、ハイパフオーマンスコーチおよび研究 者として、過去10年で、HP6の否定的な証拠がな いかも、よくよく探してきた。それらも喜んで本書 で共有したいと思う。  私たちは、HP6が間違っている証拠がないかを 確認するために、本書で紹介する習慣を実践してい るのに、ハイパフォーマンスを発揮していない人を 探した。積極的に明確化を心がけ、干不ルギーを培 い、必然性を高め、生産性を上げ、影響力を高め、 勇気を示しているのに、期待された成果が出せな かったり、失敗したりする人は、果たしているのだ ろうか? 私個人は、そのようなヶIスを見たこと がないが、常識で考えれば、どこかしらに例外は存 在するはずだ。  また、習慣の1つが欠けていても成功できるか? という問いも立てた。明確化が不十分なのに大成功 を収める人はいるだろうか? それはもちろんいる。 勇気が足りないのに成功する人もいるだろうか? それもきっといるだろう。  だが忘れてならないのは、本書で言う成功とは、 出だしの、もしくは短期的な成功ではなく、長期的 な成功であるということだ。HP6のいずれかがで きていない状態が長く続くと、(イパフォーマンス (および幸福度)のスコアが低下してくる。その状 態では、潜在的能力も卓越性も最大限に発揮できな いのだ。  私たちの成果を出し続けるための習慣の説明や、 HPIで使われている記述が、曖昧、あるいは解釈 の余地が広すぎるという批判もあるだろう。それは、 人間の行動を文章化する際に、避けては通れないリ スクだ。たとえば、ある大について「グリッドがあ る」「クリエイティブ」「外向的」「集中を維持でき ずに困っている」と記述すると、表現が曖昧だとか、 一般化されすぎているという批判がつきまとう。  でも、だからといって、人の様子や言動を定義、 測定したり、それについて教育したりする試みをや めるべきだとは考えていない。人間心理の研究は曖 昧さを伴う分野だが、それが、大を(イパフォー マーにする要因を知る手掛かりとなるなら、努力の 価値はある。効果が実証されながらも曖昧さを伴う ツールを使って、成果を出し続けるための習慣を正 確に記述できるよう目指すしかない。  自らが間違った思い込みをしていないかを積極的 に検証した他、アンケート調査の回答者の自己申告 バイアス(※)の克服にも努めてきた。そのために、 調査後に回答者の一部をランダムに選んで面談し、 客観的なパフォーマンス測定の結果や、周囲の人び とのフィードバックと照らし合わせて、彼らの回答 が実際の生活と一致しているのかチェックした。  結果、皆が大部分において正直な回答を共有して くれていたことがわかった。それは、各自が、自分 の状況を正確に評価して、改善すべき点を発見した いと望んでいたからだろう。また、まじめに質問を 読んでもらうために、ところどころに逆転項目(た とえば、仕事へのやる気の高さを測定したいときに「仕 事に対するやる気がわいてこない」など、あえて否定形 や逆の特徴で問う設問)を仕込んだ。  私は幸運にも、この分野では世界匸咼い報酬を得 て、最多の支持者を抱えてはいるか、これほど広範 囲で複雑なテーマを扱おうとする著者や実践家なら 誰でもそうであるように、誤りを免れないことは明 らかである。私にも、ハイパフォーマンスについて、 まだまだ学ぶべきことがたくさんある。この分野全 体でまだ解明されていないこと、探求しなければな らないことがたくさんあるのだ。精神疾患や、幼少 期の経験、社会経済的要因、神経生物学的要因は。 HP6の形成と維持にどんな影響を及ぼすのか? 特定の業界、職業、学歴の人に、最大の効果を発揮 するのはどの習慣なのか?  あなたには、本書全体を通して、自分自身に問い を投げかけ、私の主張に対しても疑問を持ち続けて ほしい。本書の内容の何か効果的で、何か効果的で なかったか、各自でテストしてほしい。そして、こ の先のページに書かれたことに同意してもしなくて も、自分に効果があったことのみを続け、あとは無 視してくれればいい。 ※自己申告バイアス  回答者が社会的望ましさを意識して、良い行動を過大  報告したり、望ましくない行動を過小に報告したりす  る傾向。  地図を持つべきときは、森に入る前だ  私たちの研究で1つだけ、とてもはっきりしてい ることがある。それは、自分には「適切な資格」が ないからといって、けっして、夢を追いかけたり、 価値を付加したりするのを先延ばしにしてはいけな いということ。ハイパフオーマンスは、より高いレ ベルで卓越し、奉仕するために、常日頃から意識的 に考え、行動することで達成できるのだ。そうして、 自身に挑戦することで、優れた習慣を身につけ、活 気づいて、自分の可能性を最大限に発揮できるよう になるのである。  私の育ったモンタナ州にはこんな格言がある。 「地図を持つべきときは、森に入る前だ」  あなたは遠からず、自分のパフォーマンスが本当 に重要になるような状況に直面するだろう。その囗 が来る前に、本書を読み、成功し続けるための6つ の習慣を実践し始めよう。本書があなたの地図とな り、あなたの人生を成功へと導いてくれるだろう。  次章では、その地図の目的地に印をつける。あな たが何者で、人生のその段階でどこへ行きたいのか を明確にするのだ。 HPI診断を受けてみてほしい。ヨghPerform回ce Indicator.comで無料で受けられる。所要時間はたった 数分。結果は、6つの習慣のそれぞれのスコアで提示 され、あなたを「タイプ分け」したりはしない。さら にメールアドレスも入力すれば、7〜10週間後にもう 一度診断を受けてもらうためのリンクが届く。再診断 であなたの人生が数週間でどれだけ変わり始めている かがわかるだろう。  今私の前で泣いているヶイトは「すべてを手に した」女性だ。  業界大手の企業で、数千人の社員を束ねる管理 職として何十年もの経験を持ち、人望の厚いリー ダーである。会社が大いに儲かっているため、同 じ職位の平均の倍近い、6桁後半(7000万〜 1億円)の年収を稼ぐ。だが、それを鼻にかけた りもせず、唯一自慢げに語ることと言えば、自分 のチームヘの賞賛くらいだ。皆の懸命な働きぶり や、互いを支え合う様子を誇りに思っている。  ケイトは人と話しているとき、どんな話題で あっても、相手に心から関心を持っているのが伝 わってくる。なんとも言えない慈愛に満ちた人だ。  彼女が部屋に入ってくるたびに私はこの名言を 思い出す。  「世の中には2種類の人間がいる。部屋に入って きて『我ここにあり’・』とアピールするタイプと、 大に『ああ、お会いできましたね’・』と声をかけ るタイプである」  ケイトは3人の子どもを育てている。自分の母 親を15歳のときにがんで亡くしているので、子ど もだちと一緒にいることをとても重視している。  最近、ケイトがまた昇進したので、夫のマイク が仕事を辞め、家で子どもの面倒を見るように なった。夫と子どもたちは、一緒に過ごす時間が 増えて喜んでいる。  ケイトは、コーチとして雇った私と親睦を図ろ うと、自宅でのバーベキューに招いてくれた。晴 れた囗の午後、郊外にある彼女の家に到着した私 は、数分もしないうちに、彼女の友人4人とキッ チンでワインを飲みながら談笑していた。彼女た ちに、ケイトがどんな人なのかを訊くと、口々に 「すばらしい人間」「ギバー(与える人)」「自分も こんなふうになりたいと思わせる人」「私たちが 皆怠け者に見えてしまう成功者」などと言う。ケ イトは、どんなに忙しくてもいつも自分に寄り 添ってくれると評する友人もいれば、すべてをこ なしながら、ルルレモン(人気のヨガウェアブラン ド)が着られる体型も維持していていつも感心す る、と言う人もいた。「どうやってすべてを切り 盛りしているんだか……」とI人が言うと、他の 3人も大きくうなずく。  ほどなく、ケイトが、ちょっと話しましょうと 私をホームオフィスに招き入れた。床から天井ま である窓から光が差し込むその部屋は、両開きの フレンチドアを開けると、マイクがバーベキュー を焼くデッキに出られるようになっている。  ケイトは普通に楽しそうにしていた。しかし、 私か友人たちが彼女を絶賛していたことを伝えた とたん、彼女の声がうわずった。そう言ってもら えるのはありかたいと言うや否や、目に涙を浮か べた。顔と視線をそらせ、別のことを考え始めた 様子だ。  こんなとき、私はユーモアで返すようにしてい る。「ついていけてない自分かいるんですけ ど……もしかしてあの中のI人を密かに恨んでる とか?」  「は?」彼女は一瞬困惑するも、私の冗談に気づ くと、我に返った。笑って「ああ、そんなことは ないです。今、ちょっと感情的になってしまった だけで」。  「そうみたいですね。どうしたのかな?」  彼女は窓の外にいる夫や友人たちに目をやった。 気を取り直そうと、居住まいを正し、指の端で涙 を拭う。「友達に褒めてもらえるのは、私にとっ てすごく大事なことなんです。ブレンドン、あな たが彼女たちやマイクに会ってくれてよかった」。 彼女は再び声をうわずらせ、今度は涙をとめどな く流した。そしてまた目をそらし、下を向いて頭 を横に振る。  「ごめんなさい。私の人生は今ボロボロで、どう しようもないんです」  「ボロボロ?」私は訊き返した。  彼女はうなずき、涙を拭いて、再び姿勢を正し た。「バカみたいですよね。仕事にも家庭にもこ んなに恵まれた女が何やら不満げで『悲劇のヒロ イン』ぶってる。昼ドラじゃあるまいしね。あな たが心理セラピーをしに来たわけじゃないのも承 知してます。でも、自分が恵まれた境遇にいて、 人からも尊敬されていると自覚するほどに、愚痴 を言いづらいんです。あなたに来てもらったのは そのためです。傍目にはわからない苦労があるん です。だからといって、同情してほしいとか、 『あなたはボロボロなんかじやない』と言ってほ しいわけでもありません。ただ、吐き出したほう がいいかと思ったんです。順風満帆なのに、何か がおかしいっていうことを」  「話してみてください」  ケイトは大きく息をして言った。「あなたは、 自分が、ただ流されるように物事をこなしている、 その状態が長く続きすぎている、と感じたことは ありませんか?」  私は心の中で自問した。流されるような生活を このくらいなら続けてもいいという基準なんてあ るのか? でも口には出さなかった。なぜなら、 私かそう感じることはないかと、彼女が訊いてき たからだ。人はよく、感情を持て余すと、その状 況を客観化し、自分事を他人事に置き換えて質問 してくる。  「ケイト、それは、あなた自身がそう感じてるっ てことですか? 流されるように仕事や用事を処 理していると」  「まあ、そういうことです」  私は身を乗り出した。「流されるようにさばい ていることと、ボロボロだと感じていること。こ の2つはどうつながっているんだろう?」  彼女は一瞬間を置いて言った。「はっきりはわ かりません。だからあなたの考えが聞きたかった のです。私はいろんなことを抱えすぎています。 いつも非効率なことをしていて、やってもやって も追いつかない感じです。ボロボロという気持ち はそのせいもあるでしょう。ただ私は、仕事は得 意ですから、すべてを回すことができてしまう。 でも流されるままにやっているだけで、そのカオ ス状態が……通常運転になってしまってるんです。 私はいろいろなことを同時にやっていても、忙し さに溺れてはいません。ただなんだか気が立って、 落ち着かないんです。わかりますか?」  「わかります。そういった気持ちに今までどう対 処してきましたか?」  ケイトは自信なさげな顔で、窓の外を見た。 「そこが問題なんです。私は、世の中で定石とさ れていることはすべて実践しています。家族と一 緒に過ごし、愛せよと言われれば、ベストを尽く し、子どもたちやマイクのために良き人間である よう心がけています。有能であれと言われれば、 TODOリストやチェックリストを使ってタスク を成し遂げます。情熱をもって仕事をせよ、粘り 強く打たれ強くあれ、と言われればそのとおりに してきました。仕事ではたくさんの男女差別を乗 り越え、ここまできたんです。自分でも満足感を 得ているし、人の同情を買いたいなんて少しも思 いません。何か問題なのか、それが自分でもわか らなくなっているんですよ、ブレンドン……」  「いや、あなたは『わかっている』と思います。 話してください」  ケイトは、イスに深く座り直した。肩を落とし てワインを一口すすると涙があふれてきた。「こ うしてすべてをやろうとして駆けずり回っている うちに、目的意識を持てなくなってきたんです。 迷子になったような感じで……」  私はうなずき、これまでの経験でだいたい予想 がつく次の言葉を待った。  「自分が何を求めているのかわからないんです」  あなたもきっと、ヶイトのような大をたくさん 知っているはずだ。ヶイトは努力家で、賢くて、能 力が高く、思いやりにあふれている。典型的なデキ る人の例に漏れず、目標のリストをつくり、そのほ とんどを達成している。だが、どうすれば人生に生 気を取り戻せるのかわからないという状態になって いた。  こういう大は、すぐに習慣を変えないと困ったこ とになる。  とは言っても、燃え尽きてしまうわけではない。 現実にデキる人が葛藤を抱えている場合、ドラマの ような展開にはならない。大きな葛藤やミツドライ フークライシス(※)に陥り、ある週末、突然狂っ たように事業や人間関係をご破算にして、すべてを 投げ出す、などということにはならないのだ。  デキる人は、不調に陥ってもI特に自分が何を 求めているのかわからないようなときはI良き兵 士のように前進を続ける傾向にある。彼らは、壊れ ていないものを壊したくない。現状が「良好」なの で、それを急に変えたりはしたくない。懸命な努力 で築いてきたものから逃げ出そうとは思わない。後 戻りするのも、失速するのも、同僚やライバルに追 い抜かれるのも不本意だ。  でも心のどこかでは、自分のレベル、自分の生活 の質はこんなものではないはず、とわかっている。 ただ、今現在うまく同っているものを変えるのもど うなのか、大きな不安を感じている。デキる人に とって、悪いところを改善するのは容易だが、良い ところを改悪するのは、恐ろしく勇気のいることな のだ。  そして、自分が本当に求めているものがわからな いまま、がんばり続けるという選択をする人が多い。 しかし、どこかの時点で、自分が何者なのか、そし て「人生の現段階において」自分が何を望んでいる のかを「ごく明確に」しておかないと、すべてがほ ころび始める。  最初のうちは、パフォーマンスの低下はごくわず かだが、何かが違うと感じ始め、努力にブレーキを かけるようになる。少しだけ手を緩めるのだ。けれ ども、人生に不満を感じるわけではないので「私に は感謝すべきことがたくさんある」と言う。問題は、 その「感謝すべき」外的要素ではなくて、彼らが心 の内に抱えている、何かがおかしいという違和感な のだ。ヶイトのように、「順風満帆な生活を送って いても」、実はイライラや焦燥感を抱えていたりす る。  これまで人生をかけて自分の「道」を究めてきた にもかかわらず「私は自分の本当の道を見つけてい ないのかも」などと気にし始める。そして夜、オ フィスの電気を消したときや、何週間もがんばり続 けた末にやっと静かな時間が訪れたとき、自分の現 実について、心の中で議論が始まる。 ●これまでの人生でのさまざまな面倒ごとは、関  与する価値があったのか? ●これは、現段階の私自身と家族にとって正しい  方向性か? ●今、仮に数力月の休みを取って新しいことを学  んだり、新しい方向に挑戦したら、私は機会や昇  進を逃すだろうか? ●現状がうまく行っている中で、私か新しいこと  に挑戦したら、みんなに狂っていると思われるだ  ろうか? 私の考えは馬鹿げているのか? 欲張  りなのか? ●私はもういっぱいいっぱいだ。これ以上尽くす  ことができるだろうか? ●私には本当に次のレベルでプレーするだけの実  力があるのか? ●最近いろいろなことに気を取られるようになっ  たのはどうしてか? ●人間関係がくだらなく感じるのはどうしてか? ●どうして今頃、自信のなさを感じるのか?  こうした問答を、答えが出ないまま悶々と続けて いると、ほころびが始まる。ヶイトのように、これ までの人生で登頂してきた山々を振り返り、のぼる べきでなかった山もずいぶんあったかもしれないと 悩むようになる。「やればできること」と「重要な こと」がイコールではないことに気づくのだ。  まもなく、日々のやる気が萎えてくる。躊躇や欲 求不満を感じ始める。前に進むよりも、すでに達成 した成功を守ることに意識が向いてくる。もはや何 に対してもワクワクしない。だが、周囲は誰も気づ かない。デキる人はそのくらいではボロを出さない からだ。本人がかつてのような情熱を感じていない としても、少なくとも家や職場では、誰も困らない (もしくは単に気づかない)。  ケイトが置かれた状況が、まさにこれだった。誰 も彼女が「ボロボロ」だなんて知るよしもない一方、 本人はこの気持ちから逃れられないでいた。  こうした状態が進むと、やがて本人の不満が家庭 や職場の人間関係に影響するようになり、周囲に気 づかれる。自分への失望のストレスからとげとげし い態度になり、家族や同僚を動揺させる。その影響 で、会議を忘れる、電話を取らない、折り返さない、 提出が遅れる、よいアイデアが出ない、といったミ スが出るようになる。仕事を「こなしているだけ だ」ということが、本人にも周囲の人びとにも明ら かになる。本人はワクワク感、喜び、自信を失うと 同時に、パフォーマンスも低下する。  このような状況に心当たりがあるなら、本章は状 況を打開する良い機会となる。大げさに聞こえるあ なたは、予防策を頭に入れておこう。 ※ミツドライフークライシス  主に40代、50代が、それまでの自分の生き方や価値観  を振り返り、これでよかったのかと思い悩むこと。  まずは、白分か何者なのかを明確にしよう  本章では、人生の明確なビジョンを持つことにつ いて論じる。明日のことをどう考え、今日重要なこ とを常に意識するために何をするか、という内容だ。 すべてを明確にするという基本的な習慣は、ハイパ フォーマーが長期にわたってエングージし、成長し、 充足感を得るために役立つ。  私たちの調査では、ハイパフォーマーは同輩と比 べて、自分が何者で、何を望み、そのためにどうす ればいいか、どんなことを「有意味」「充実してい る」と感じるのかを、明確にしている。明確化がで きている人ほど、ハイパフォーマンスの総合スコア が高いことが判明しているのだ。  人生のビジョンが明確な人もそうでない人も、心 配はいらない。明確化は習得できるからだ。明確性 は、一部の人が「生まれ持つ」特性ではない。発電 所は干不ルギーを「持っている」わけではなく変換 している。それと同じで、人も特定の状態を「持っ ている」わけではなく、つくり出している。明確性 も「持っている」ものではなく、つくり出すものな のだ。  だからあなたも、自分が次にほしいと思うものが ひらめくまで待っていないで、自ら能動的に明確に していこう。自問したり、リサーチしたり、新しい ことをやってみたり、これまでの機会を整理・分析 したり、自分に合ったものを探り出したりすること で明確化するのだ。それは、ある日外を歩いている と天から「パーパスのピアノ」が降ってきてあなた の曲を奏で、すべてが明確になる、というようなも のではない。明確化は、慎重な検討と意識的な試行 の産物なのだ。自分にさまざまなことを問い続け、 人生観を磨き上げてこそ得られる。  私たちの明確化に関する調査では、成功している 人は、次のような基本的な問いの答えを知っている ということがわかった。  自分は何者か?(価値観、長所、短所など)  目標は?  そのための計画は?  こうした問いはごく基本的ではあるが、その答え を知ることが人生に与える影響は驚くほど大きい。  自分が何者かを明確にすることは、全体的な自尊 心にも関係する。つまり、あなたがどれだけ自分自 身を「知っている」かが、自分自身をどれだけ肯定 しているかに結びついているのだ。また逆に、明確 化ができていないことは、神経症的傾向や否定的感 情と強く関連する。人生初期の成功を収めるのに自 己認識がそれほど重要なのもそんな理由からだ。自 分が何者で、どんなことに価値を置き、どこが長所 で、どこが短所で、どこを目指したいのか、といっ たことの答えを知っておく必要がある。そうした知 識があれば、ポジティブなセルフイメージや人生観 を持てるのだ。  次に、明確かつチヤレンジングな目標を持つ必要 がある。私たちの何十年におよぶ研究でわかっだの は、具体的で困難な目標がある大ほどパフォーマン スが高いということだ。その目標が本人が考えたも のか、与えられたものかは関係ない。はっきりした 「ストレッチーゴール(背伸びした目標)」は人の意 欲をそそり、それが仕事の楽しみや、生産性、収益 性、満足感につながる。人生の各領域でストレッ チーゴールを選ぶことは、ハイパフォーマンスの良 い出発点となる。  また、目標には期限を設けるべきだ。さもないと 追求をやめてしまう。チヤレンジングな目標は、達 成するための具体的な計画−すなわち、いつどこ で何をするかIがあったほうが、達成率が「倍以 上」になるという研究結果もある。明確な計画を持 つことは、モチベーションや意志力を持つことと同 じくらい重要なのだ。明確化はまた、気移りやネガ ティブな気分の克服にも役立つ。つまり、目標や計 画がはっきりしているほど、怠け心や疲れを乗り越 えて目標を達成する可能性が高まる。目の前に階段 が見えていれば、それを無視するほうが難しいのだ。  以上の事実は、私たちの研究でさらに立証されて いる。私たちは、2万人以上を対象としたアンケー ト調査で、次のような記述が自分にどの程度当ては まるか、5段階で答えてもらった。スコアは「まっ たく当てはまらない」にI、「非常に当てはまる」 に5を割り振った。 ●私は、自分がどんな人間かわかっている。自分  の価値観、強み、弱みがはっきりしている。 ●私は、自分が何を望んでいるかわかっている。  自分の目標や情熱がはっきりしている。 ●私は、自分の望みをかなえる方法を知っている。  夢を実現するための計画がある。  結果は、この質問への回答のスコアが高い人ほど、 (イパフォーマンスの総合スコアも高かった。また。 こうしたハイパフォーマンス指標のデータによって、 明確性のスコアの高さが、自信や、全体的な幸福度。 アサーティブネスの度合いと大きく相関しているこ ともわかった。明確化ができている回答者は、自分 は同輩よりもパフォーマンスが卓越している、より 大きな違いを生み出していると答える傾向にある。 学生の場合は、明確性のスコアが高いほどGPA (数値化された学業成績)も高い。つまり、価値観や 目標、進むべき道がはっきりしている若者のほうが、 GPAが高い傾向にあるということだ。  これらは誰もが常識で知っていることのように聞 こえる。「自分が何者で、何を望んでいるのか認識 せよ」というのは、さほど新しいアドバイスではな い。それでも検討する必要はある。  あなたは、こうしたことを明確化できているだろ うか? できていないなら、まずここから始めよう。 明確化をするための日誌をつけるという、とても簡 単な方法を後ほど紹介する。今ここでは、本書のメ リットである、あなたのパフォーマンスを目に見え て向上させるという上位概念の説明に集中したい。  まず、ケイトのように、すでに自分が何者かを知 り、何十年にわたってチヤレンジングな目標を設定 し達成してきた人にどんなアドバイスをするのか、 検討していこう。  ゴール志向の明確性  私の最新の研究テーマは、自分が何者で、何を望 み、そのためにどうすればいいかを明確化している ハイパフォーマーに、特に共通して見られる世界観 はあるだろうかということだ。ハイパフォーマーが 人一倍はっきりさせようとしている事柄があるとす れば何だろうと考えたのだ。  それを知るために、私はハイパフォーマンス講座 の受講者たちのコメントを分析したり、アチーブメ ントの研究者たちに相談したり、認定ハイパフォー マンスコーチにクライアントに優位性を与える要素 を尋ねだりした。また、アンケート調査でハイパ フォーマーだと自己申告した人約100人に対し、 明確性だけにテーマを絞った構造化面接を行い、次 のような質問をした。 ●あなたが完全に明確化している事柄の中で、自  分か同輩より高いパフォーマンスを発揮するのに  役立っているものはどれですか? ●最も重要なことを常に明確にしておくために、  あなたが意識を向けていることは何ですか? ●あなたが明確化「できていない」事柄は何です  か? それはあなたのパフォーマンスにどう影響  していますか? ●あなたは、何かに迷ったり、方向性がわからな  くなったりしたとき、どうしていますか? ●あなたがメンターとして指導している人に、あ  なだの成功要因を説明するとしたら、何と言いま  すか? ●自分の価値観や長所や計画の他に、あなたが自  覚している成功要因は何ですか?  調査の結果、自分が何者で何を望んでいるのかと いった基本的質問のほぼすべての回答で、ハイパ フオーマーたちは、先のことに意識を向け、どうす ればそこで卓越できるかを見極める能力に長けてい ることが示された。彼らは、単に自分を知っている だけではない。むしろ、今の自分の性格や嗜好には ほとんど意識を向けておらず、一様に、どんな人間 でありたいか、そしてどうすればそうなれるかを考 えていた。彼らは、今の自分の強みをわかっている だけでなく、次のレベルで卓越した貢献をするため に、何力月あるいは何年のうちにどのような幅広い スキルを身につける必要があるか知っていた。彼ら は、今四半期の目標を達成するための明確な計画を 持っているだけでなく、より大きな夢に向けた将来 のプロジェクトのリストを持っていた。彼らは、今 月自分がほしいものを手に入れることだけでなく、 他者が人生全般、キャリア全般で望むものを手に入 れられるよう思慮を尽くしていた。  この「ゴール志向」は、自分がどうなりたいとか、 どうやって自分や他者が目標を達成するかといった ことにとどまらない。彼らは、これからの活動分野 で自分がどのような「気持ち」でありたいかをとて も明確に説明でき、自分の意欲や、満足感や成長が 損なわれるのはどのような状況かも、具体的にわ かっていた。  この研究から、私たちは、こうしたゴール志向の 明確化を行うための具体的な行動を編み出した。  ACTI()XI  4つのビジョンを描く  ハイパフオーマーたちは、「自分自身」「対人関 係」「スキル」他者への「貢献」という各領域で自 分がどうしたいのか、どうなりたいのかを明確にし ている。私は、これら4領域における展望を「4つ のビジョン」と呼んでいる。  自分自身  「汝自身を知れ」とは、2400年以上前に、古代 ギリシヤの都市国家デルフォイのアポロン神殿に刻 まれた、不朽のアドバイスだ。だが「汝自身を『知 れ』」は「将来の自分を『想像せよ』」という意味で はない。ハイパフォーマーたちは、自分自身を知っ てはいるか、それにとらわれてはいない。それより も、今より強く、有能な人間になることに意識が向 いている。この「内省」と「意図」の違いが、ハイ パフォーマーのもう1つの特徴だ。  ハイパフォーマーは、なりたい自分を普通の人よ りも明確に、すらすらと表現できることを、私たち は発見した。「あなたの目指す自己像、なりたい自 分を説明してもらえますか?」と質問すると、ハイ パフオーマーは、すぐに、思慮深い答えを、確信を もって返してくる傾向にあった。  面接の録音をチェックすると、ハイパフオーマー たちは、こうしたことを普通の人よりも普段から考 えているのが見て取れた。彼らの答えは、中身のあ る答えIすなわち「う〜ん」とか「そうです ね〜」の後の部分が、普通の人よりも平均7〜9秒 速く始まっていた。そして話が蛇行することも少な かった。なりたい最高の自分を3語で表現してくだ さいという質問にも、より早く、より自信に満ちた 口調で答えた。  自分の行く先を明確に想像するのは、誰にとって も難しい。だから、たいていの人はやるとしても年 にI度、来年の抱負を考える年末年始くらいだ。し かし(イパフオーマーたちは、自分がなれる最高の 自分や、目指したい理想像について、多くの時間を 費やしている。クライアントの中でHPI指標のス コアが最も高かった10人と、最も柢かった10人に面 接をした結果、上位10人のハイパフオーマーは、下 位10人よりも、なりたい自分を考えたり、それに関 係する活動を行う時間が、週に60時間多いことがわ かった。たとえば、優れたコミュニケーション能力 を持つ将来の自分をイメージしているなら、自分が 他人と話しているシナリオをよく想像したりするだ けでなく、実際に他人とのおしゃべりに長い時間を 費やしている。将来の自己像に沿った行動を積極的 にとっているのだ。  ここでのポイントは、内省的かどうかではない。 ハイパフォーマーでなくても、毎週ジャーナリング (※)をするなど、内省が得意な人はたくさんいる。 だがその多くは、常に自分のことを考えてはいても、 大部分がネガティブな思考だったりする。では、ど こが違うか? ポジティブな将来の自己像を思い描 き、それに近づこうと積極的に取り組むところだ。 この積極的な取り組みという部分が重要なのである。 ハイパフオーマーは、来週、あるいは来月からそん なふうに振る舞うようにしようと思うのではなく、 「現在形で」なれる最高の自分になろうとしている のだ。  これで、ゴール志向の重要性はおわかりいただけ たと思う。このアドバイスを簡単な習慣に落とし込 むとこうなる。  なりたい自分をもつと意識する。自分の現状の先 にあるビジョンを持つ。なりたい自分を思い描き、 今日からその自分になったつもりで振る舞う。  そんなに難しいことではない。交通事故から立ち 直るのに苦労していた19歳の私は、3つの命令形の 単語に救われて、人生を逆転させることができた。 「にVE. 」OVE. MATTER.(生きよ。愛せよ。重要な存 在になれ)」というシンプルな言葉である。  この3つの単語は、自分の人生の明確性をチェッ クする基準になった。それから20年以上にわたって、 毎晩ベッドで眠りにつく前に、「私は今日1日を しっかり生きたか? 人に愛情を注いだか? 重要 な存在だったか?」と自問するようになった。現実 には、毎晩すべての問いにきっぱり「イエス」と答 えて床に就けたわけではない。誰でもそうであるよ うに、うまく行かない囗もある。だが、3つともイ エスでクリアしたIすなわち明確さと順調さを実 感できた夜は、最高の眠りにつける。このシンプル な習慣は、これまでの人生で一番明確性をもたらし てくれた。私は今でも、この3語が刻まれたブレス レットをつけている。ブレスレットと寝る前の自問 をしないと習慣が崩れるわけではないが、明確さと 順調さを維持できるので続けている。  実は、ケイトにも似たようなワークをやっても らった。ケイトは、アイデンティティ形成の習慣を 行えていなかったのだ。  彼女はバージョンアップした自分というものを長 いこと考えていなかった。  すべてがうまくいっていたからだ。  そこであるコーチングセッションで、過去数週間 の生活でのさまざまな場面で、彼女自身がどんな人 であったか、説明してもらった。帰宅したとき、子 どもだちと遊んでいるとき、仕事のプレゼンをして いるとき、友達とのやり取り、マイクとデートの最 中などに、どんな言動をとったかを思い出しても らった。そしてもう一度、今度は、バージョンアッ プした将来の自分なら同じシーンでどう振る舞うか を思い浮かべてもらった。すると彼女は、過去数週 間の自分は、数年後になりたい自分ではないと気づ き始めた。誰でも、こうなったら目を覚まさなけれ ばいけない。  次にやってもらっだのは、彼女がなりたい将来の 自分を表す言葉を3つ選ぶことだ。それは「生き生 きしている」「楽しい」「感謝している」たった。こ の中に、彼女が最近感じていた「流されるように物 事をこなしている」に関係する言葉はひとつもない。  こうした単純な思考プロセスによって、フォーカ スがリセットされることはままある。ケイトは、お しなべて自信に満ちた人だが、なりたい将来の自分 を思い描くことをやめていたことが問題だった。ビ ジョンがないから、熱も入らないことが彼女を苦し めていたのだ。そこで私は、彼女が選んだ3つの言 葉を、スマホのアラームのラベルとして登録するこ とを勧めた。アラームが嗚ると、3つの言葉が画面 に表示され、リマインドされるようにしたのだ。  では、あなたもやってみよう。  I過去数カ月間の次のような場面における自分  を、あなた自身がどうとらえているか、記述す  る。パートナーと一緒にいるとき。職場。子ど  もといるとき。チームのメンバーといるとき。  知らない人と交流するとき。 2次にこう自問する。「これは私の目指す姿  か?」「なりたい自分は、今の自分と比べて、  このような場面で、どのように見え、感じ、振  る舞っているだろう?」 3なりたい自分を3つのポジティブな単語で表  現するとしたら、どんな言葉か? それらはな   ぜあなたにとって有意味なのか? 3つの言葉   が見つかったら、スマホのアラームのラベルと   して登録し、I囗数回鳴るように設定する。  対人関係  ハイパフオーマーたちは、他者とどう接するかに ついても、明確な意志を持っている。彼らが成功し、 リーダーシップを発揮しているのは、そもそも高い 状況認識力と社会的知性を持っているからなのだ。 あらゆる大事な局面で、自分がどうあるべきか、他 者とどのように接するべきかを心得ている。  そんなのは当たり前だろうと思うかもしれないが、 あなたは自分の生活で当たり前に実践できているの かチェックしてみよう。 ●直近の会議に出る前に、参加者の一人ひとりと  どう接しようか考えたか? ●直近の電話をする前に、その相手に対しどんな  口調で話そうか考えたか? ●最近パートナーや友達と出かけたとき、どのく  らいの熱量で場を盛り上げようか、計画したか?  以上のような自問は、自分の内面を見つめ、自分 がどの程度はっきりした意志をもって物事に臨んで いるかを測るのに役立つセルフチェック項目だ。私 の見たところ、ハイパフオーマーたちは常日頃人と 接する直前に、次のような基本的な質問を自らに投 げかけているようである。 ●今回の場面で、優れた人間あるいは優れたりI  ダーとして振る舞うにはどうすればいいか? ●相手が必要としているのは何か? ●どんな雰囲気や方向性をつくり出そうか?  興味深い発見はまだある。ハイパフォーマーに、 他者にどう接したいかの理想を表す単語を選んでも らったところ、「思慮深い」「ありがたく思ってい る」「敬意を持っている」「受容的」「正直」「共感 的」「愛情深い」「親切」「やさしい」「一緒にいる」 「公平」などが多く挙がった。そして、自分が他者 にどう扱われたいかを最もよく表す単語を複数挙げ てくださいという問いで、ハイパフオーマーたちが 最も重視していたのは、尊敬されることと、ありが たがられることだった。  尊敬や敬意は、ハイパフオーマーだちとの会話に とりわけ頻繁に出てくるキーワードだ。他者から尊 敬されたいし、自分も他者に敬意を払いたい。これ は家庭生活も含め、人生のすべての領域に当てはま るようだ。結婚生活40年以上で「今もなお」円満だ と答えたアメリカ人夫婦200組を実地で調べた調 査によると、最も多くの夫婦が重視し、強みとして 挙げていたのが「尊敬」だったという。そして、離 婚につながるワースト4の行動は、「批判」「自己防 衛的態度」「軽蔑」「コミュニケーションの放棄」で ある。これらが相手にとってしごく不愉快なのは、 まさに、軽視されている、敬意が欠如していると感 じられるためだ。  すべての(イパフォーマーに共通して見られるの は、  人とのポジティブな交流を期待し  それを実現しようと、絶えず意識的な努力をして いることだ。  これは万国共通に見られるハイパフォーマーの特 徴だ。他者との交流に関しては、彼らは、気ままに 振る舞ったりしない。しっかりした意図をもって人 とかかわり、それゆえにパフォーマンスが向上する のだ。  将来のことに関しても、ハイパフォーマーは、社 会における自分というものを俯瞰的に考えているこ とが明らかだ。自分がどのように記憶されたいか Iつまり、後世に語り継がれる自らの人物像のこ とまで考えている。ハイパフォーマーは、今日のこ と、会議でのこと、今月のTODOリストや社会的 義務のことだけでなく、「私は、愛する者たちや貢 献する人びとの記憶に、どのように残りたいの か?」と「常に」考えているのである。  ケイトのコーチングをしていて、彼女が家族をと ても大切にし、愛していることがよくわかった。に もかかわらず、本人は、あまりに多くのことを抱え ているために、家族との時間が思うように取れてい ないと感じていた。一度こんなふうにこぼしたこと があった。「私はもっと家族に尽くすべきと感じる んですが、どうにも融通がつかない」。さて何か問 題なのか、あなたはわかるだろうか? 常にたくさ んのことを抱え、消耗しているときは、先のことま で考えが及ばない。今日を生き延びるのに精いっぱ いで、明日は家族やチームとこうかかわろうという 明確な意図を持てなくなるのだ。  これはデキる人が抱えがちな葛藤である。もっと 良きパートナー、良き親でありたい。だが、もう いっぱいいっぱいなのである。そして皆ヶイトと同 じ間違いをする。彼女は、良き母親や妻になるため に必要なのは、もっと多くの「時間」だと思い込ん でいた。いつか時間さえできれば、ずっとなりた かった、子どもたちの良き母、良き妻になれる、と 思っていた。だが、あなたもご存じのように「いつ か」は「絶対来ない」。私は、ヶイト自身を変え、 彼女の対人関係を改善するために、こんなアドバイ スをした。なりたい自分が人と接している姿をあら かじめ頭に描き、毎日、それを意識して生活するよ う指導した。彼女に必要なのは時間でも、あと1日 待つことでもない。量の問題ではなく、質の問題 だったのだ。では私かヶイトにやってもらったその ワークを、あなたもぜひ試してみてほしい。 a家族とチーム一人ひとりの名前を書き出す。 b各人が、20年後に、「なぜ」あなたのことを大好  きで尊敬しているか説明している場面を想像する。  それぞれが、あなたとのかかわりを3つの単語で  語らなければならないとしたら、彼らにどんな言  葉を使ってほしいか? e次回その人と顔を合わせるとき、上で選んだ3  つの特性を発揮する機会だと思うようにする。3  つの言葉を目標にし、その特性を体現するのだ。  なりたい自分に「今すぐ」なりきってみよう。こ  れでその人との関係性を復活させることができる  だろう。  私はヶイトに始終言っていた。明確で強力な意志 があれば、「流されるように物事をこなす」ような ことはやりたくてもできないと。  スキル  私たちが次に発見したのは、(イパフオーマーた ちは、自分が将来成功するために今身につけるべき スキルを、とても明確に認識しているということだ。 「来年もっと成果を発揮するために今習得しようと しているスキルを3つ挙げてください」という質問 を投げても、彼らは空欄回答などしない。  私は、フォーチュン500企業の経営幹部への コーチングを頼まれると、受講者に、私の前でカレ ンダーを開いてもらい、数日後、数週間後、数力月 後の予定を話してもらう。それでわかったのは、H PI指数が高い幹部は、柢い幹部に比べ、より多く の時間を、学びの時間として確保しているという傾 向だ。オンラインートレーニングに1時間、エグゼ クティブーコーチングに1時間、読書に1時間、そ して趣味の習い事(ピアノ、外国語、料理など)に1 時間といった具合に予定が入っている。自分を成長 させるためのマイーカリキュラムを組んで、積極的 に学習しているのだ。そうした予定は、いろいろな スキルを身につけようという彼らの願望の反映であ る。たとえばオンラインートレーニングは、プログ ラミングや財務管理の方法を学ぶため、エグゼク ティブートレーニングは、傾聴のスキルを学ぶため、 読書は、戦略や、会議での傾聴、ストーリー開発な どについて学ぶため、そして習い事も、単に楽しむ だけの趣味ではなく、スキルを積極的に習得するつ もりでやっている。  そしてハイパフォーマーの学習の最大の特徴は、 私かPFI(Primary Field of Interest)と呼ぶ、主な 関心分野に的を絞って取り組んでいる点だ。彼らは、 やみくもにいろいろなことを習っているわけではな く、自分が情熱を持っている関心事にポイントを絞 り、その領域でのスキル習得のために活動や日課を 設定している。たとえば音楽好きなら、学びたい ジャンルを専門に勉強しているのだ。つまり彼らの PF−は「ピンポイント」なのである。ただ「音 楽」に興味があると言って、あらゆる領域−ギ ターを弾く、オーケストラに入る、バンドのボーカ ルをやるなど、手当たり次第に挑戦したりはしない。 たとえば、5弦ギターというマニアックなジャンル に的を絞り、一流の先生を探し、「興味本位」では なく、真剣にスキルを習得する人向けのレッスンに 時間を費やす。言い換えれば、自分の情熱がはっき りわかっており、その技能をマスターするために時 間を割いているのだ。つまり、(イパフォーマーは、 学習や習い事にも、ゼネラリストではなくスペシャ リストとして取り組んでいる。  では、ここまでである程度把握してもらっている 私のキャリアを例にとって説明したいと思う。私は、 大学院を卒業後、チェンジマネジメント(※)アナ リストとして、国際コンサルティング企業に就職し た。入社後半年間は、同期の大半と同じく、ゼネラ リストとして仕事に向き合った。会社とクライアン ト、そして世界について、すべてを学ぼうとした。 新人というのはだいたいそんなものだ。  だがまもなく気づいたのは、パートナー(※)の 多くが、専門分野を持っていることだ。もし8万人 の社員の中から抜きん出るなら、即刻何かのスキル セットを身につけるべきだと思った。そこで私か選 んだのは「リーダーシップ」である。これは大学院 で学んだ分野だった。具体的には、リーダーと傘下 のチームのために学習カリキュラムを組むスキルを 習得しようと考えた。リーダーシップが私のPF−、 カリキュラム設計がそのスキルということになる。 私は、カリキュラム設計に関連するプロジェクトを 会社に申請して立ち上げた。私のキャリアは一気に 花開いた。  そしてフルタイムのライター兼トレーナーになる ために大企業を辞めたときも、同様の考え方で決断 した。PFIは自己啓発だ。ただそれだけでは、同 じことを考えているライターやブロガー、講演者、 トレーナーが、私の他にもたくさんいる。どうすれ ばその中から突出できるか? そう考えて気づいた。 自己啓発というテーマなら、同じ関心分野のライバ ルがたくさんいるが、自己啓発を世の中に売り込む マーケティング法なら、私も含め、やっている人は あまりいない。自己啓発はもともと私の情熱で、プ ライベートの読書時間、心理学や、神経科学、社会 学、行動経済学の勉強に使っていた。こうしたテー マにすでに興味津々だったので、「それ以上」目を 向ける必要はない。私かフォーカスすべきは、自分 のブランドを構築することだった。そこで私は大き く舵を切り、マーケティングをPFIにしたのだ。  これは、マーケティングの才能も、スキルも、強 みも、経歴も持ち合わせていない私にとって、とて つもない決断だった。だがやはり、新たなキャリア での成功の扉を開ける鍵はマーケティングだと認識 した。そこで私は、自分に必要なスキルセットを調 べ始めた。ゼネラリストのように、マーケティング に関するすべてのスキルに目を向けるつもりはな かった。前職の組織の中で、リーダーシップのすべ ての関連分野を学ぼうとしなかったのと同様だ。そ の代わりに、私はEメールマーケティングと動画制 作に的を絞った。それらに関するオンライン講座を 受講したり、セミナーに参加したり、コーチをつけ たりした。私のスケジュールは、この2つのスキル を習得するための活動で埋め尽くされた。  1年半のあいだ、Eメールマーケティングと動画 制作に関する勉強と試行だけに専念した。具体的に は、メルマガ購読者を集め、メンバーに毎週リンク を送って、自分のトレーニング動画が載ったブログ に誘導する方法や、オンラインのメンバー専用エリ アにすべての動画を載せ、有料でアクセスしてもら う方法などを学んだ。  1年半後、私は、オンライン講座の初期のパイオ ニアとして成功していた。私のオンライン講座は、 受講料が1000ドルを超えるものもあったが、数 千人が申し込んでくれた。多くの業界人は、私か手 品みたいなことをやってのけたとか、インターネツ 卜の天才なのだろうと思ったらしい。だが実際そん なことはなくて、単に将来を見据え、数年後の業界 で勝つための方策を割り出し、そのために必要なス キルを習得するために自分の活動を再編成しただけ なのだ。  私はこの体験から、シンプルかつパワフルな教訓 を得た。  将来を見据え、  スキルを割り出し、  それらのスキルを徹底的に習得する。  ただこれは、なかなか「言うは易し、行うは難 し」なのだ。誰もがさまざまなことに気を取られ、 状況の変化に受動的に対応している今の時代、将来 のためのマイーカリキュラムを考えるなどというこ とは、忘れ去られた技といえる。  これはハイパフォーマーでも難しい。私はかつて、 光栄にも、オプラーウィンフリー(有名なトーク番 組司会者)とそのエグゼクティブーチームに呼ばれ、 講演をさせてもらったことがある。そのとき彼らに 最も響いたのは、(イパフォーマーは、マイーカリ キュラムを構築しているという内容だったらしい。  意外に思っだので今でも覚えている。彼らは、後 でそのセッションを総括するひと言として、私か伝 えたいろいろなことの中からこのI節を引用したの だ。  「自分の成長を成り行きまかせにしていると、生涯、 凡庸な世界の住人に甘んじることになる」  この教訓があなたに明確に伝わっていることを願 う。あなたの今のパフォーマンスがどんなレベルで あれ、自分のPFIと、一段階上の成功のために身 につけるべきスキルを明確にすること。それを最優 先事項の1つにしなければならない。  自分の情熱と再びつながり、それに関するスキル をさらに習得するためのシステムを立ち上げること は、大きな変革となる。ケイトの場合は、たったそ れだけで、自分が流されるように物事をこなしてい る感覚を打ち破ることができた。私は、ケイトと時 間をかけて、この先10年で彼女が自分のPFIで成 功するために何か必要かを話し合い、習得可能な、 業界関連の新しいスキルをいくつか割り出した。い くつかの講座に申し込み、それについてアドバイス をしてくれるメンターを職場でも見つけた彼女は、 私にこんなメールを送ってきた。  信じられないことに、私はいつの間にか業務が得 意になりすぎ、自分が学ぶことをどれだけ好きだっ たか忘れていました。将来のために学ぶべきことか ら目をそらしていたのです。でも今日オンライン講 座を1つ修了した私は、こんな行動1つで、言葉に できないほどの達成感を得ることができました。高 校を卒業したときのような気分を再び味わいました。 このように、将来を再び楽観できるようになったの は、学習が心を素直にし、楽しむように仕向けてく れるからでしょう。学び直しという選択をしただけ で、こんなに簡単に自分の気持ちを変えられたこと が信じられません。  ヶイトの次はあなたの番だ。次のことをやってみ よう。  I自分のピンポイントなPFI(主な関心分野)   を考え、その分野での成功に役立つスキルを3   つ書き出す。  2挙げたスキルのそれぞれについて、学ぶため   の具体的な行動−本を読む、練習する、コー   チをつける、研修を受けに行くなどIを書き   出す。いつやるかも決めて、スキル習得の計画  を立て、スケジュール帳に書き込む。そして実  行する。 3次に、そのPFIの分野で、今から5〜10年  後に成功するために必要なスキルを3つ書き出  す。つまり、将来を思い描いてみようというこ  と。そのときに必要となりそうな新しいスキル  セットは何か? それらを、常に心の片隅に置  いておき、できるだけ早く習得するようにする。 貢献  ヶイトは、自分が変化をもたらしている実感を久 しく持てていなかった。貢献の精神を失ってしまい、 そのせいで、職場で流されるように仕事をしている だけと感じるようになった。職場でこれといった変 化があったわけでもないのに、毎日が空虚な作業の 連続に感じられるようになった。具体的にはこうい うことだった。彼女は、職場ではすばらしいリー ダーであり、自身でもチームのメンバーを導くこと に貢献の精神を実感していた一方、自分たちの仕事 の影響を最終的に受ける末端顧客とのつながりを 失っていた。  聞いてみると、ケイトはもう何年も顧客との「会 話をして」いなかった。大企業の社内幹部となり、 現場の最前線−すなわち、会社のサービスを受け る一般人からは遠く離れていた。そこで彼女は、顧 客を訪ね歩いて、彼らが会社にこの先何を望んでい るかにしっかり耳を傾けることを毎月行うように なった。するとまもなく、仕事への熱意がわき戻っ てきた。  これまで、4つのビジョンのうち「自分自身」 「対人関係」「スキル」について説明してきたが、最 後は、ハイパフオーマーが、将来どのように世界に 「貢献」することを思い描いているかについてた。  どういうことかというと、ハイパフオーマーは、 他者、そして未来全般に対し、自分がどんな変化を もたらすことができるかをとても気にかけている。 その貢献を、心を込めて、巧みに実現する未来図か ら逆算して今日の行動を考えているのだ。ずいぶん 話が大きいと思うかもしれないが、これはハイパ フォーマーたちが実際に使っている表現なのだ。  彼らはよく、レガシーを未来に残すためには、今 このように努めて人びとを感動させることが非常に 重要なのだと言う。多くのハイパフォーマーが、人 との接し方や仕事への取り組み方の細部までこだわ るのは、そのためなのだ。  パフォーマンスが高いウェイターは、テーブルが きちんと正確にセットされているかどうかにこだわ る。それは、単に自分の仕事としてではなく、全体 的な顧客体験と、レストランの今、そしてこの先の 評価を上げようと心を砕いているからである。  秀でたプロダクトデザイナーが、商品のスタイル、 フィット感、機能にこだわるのは、今シーズンの売 上げを伸ばすためだけでなく、熱狂的なファンをつ くり、ブランドの全体的なビジョンに役立てようと 考えているからである。  これらすべてに通じるのは、将来志向、すなわち 「どうすれば世のため人のために卓越した貢献がで きるか」を意識しているということだ。それができ ていない状態はすぐわかる。  将来や、自分の将来的な貢献が意識できなくなっ た人はパフォーマンスが落ちる。  明日の楽しみがないから、今日細かい気配りをし なくなる。だからこそ、リーダーが明日についての 会話に部下を巻き込み続けることはとても重要なの だ。  ハイパフオーマーは常に、お客さまに「最大の価 値」をもたらすものは何か? という問いにこだ わっている。私は「こだわる」という言葉を軽々し く使っているわけではない。面接による調査で、八 イパフオーマーたちが、貢献に関する問いIどの ように価値を加えるか、周囲の意欲を喚起するか、 変化をもたらすか、といった質問−に並々ならぬ 思慮をめぐらせていることがわかったのだ。こうし たことへの意識の高さは、有用性、自身の差別化、 卓越性を追求するハイパフオーマーの特性の表れで ある。  「有用性」とは、もはや重要ではないことを捨て去 ることを指す。ハイパフオーマーは、過去のやり方 を通そうとしたり、自分が長年追求してきたプロ ジェクトを優先させたりはしない。彼らは常に「今 大事なのは何か? どうすればそれを実現できる か?」と考えながら動く。  「自身の差別化」は、業界、キャリア、対人関係に おいて自分自身がいかに特異な存在かを指す。ハイ パフォーマーは、抜きん出た存在として、他者より も大きな価値をもたらすことを目指している。  「卓越性」は、「どうすれば期待以上の成果を出せ るか」という内面の基準を指す。ハイパフォーマー の場合、「どうすれば卓越した貢献ができるか?」 という問いが、おそらく他の何よりも気になる。  これとは対照的に、ローパフォーマーは、「貢献」 よりも「自分自身」を重視しすぎる。「顧客が今望 んでいるものは何か?」ではなく「自分が今望んで いるものは何か?」という問いが意識の大部分を占 めている。「どうすれば卓越した貢献ができるか?」 ではなく「どうすれば最小限の努力でやっていける か?」と問いながら動いている。ハイパフオーマー は「どうすれば自分ならではの貢献ができるか?」 と問うのに対し、ローパフオーマーは「どうして私 ならではの強みが認められないのか?」と問う。  本セクションの最後に「4つのビジョン」のまと めと内容確認を兼ねたワークシートを用意してある。 まずは、本書で紹介する各習慣の最後に設けられた この「マイノート」というコーナーについて説明し たい。このシートは、そのセクションで学んだ要点 をおさらいしながら、あなた自身を省察し、書き込 めるようになっている。できれば、本に書き込むの ではなく、専用ノートを用意して、すべての文章を 書き写すことを強くおすすめする。  本書のマイノートに書き込むにせよ、自分のノー トに自由に考えを書きつづるにせよ、あなたが自分 の人生に望むものをじっくり考えて、書き出してほ しい。目標なしには成長できない。明確にしなけれ ば変化は起きない。 ACTION -のまとめ  「4つのビジョン」マイノート ー「4つのビジョン」−自分自身、対人関係、  スキル、貢献の中で、私か十分に考えてこな  かった領域は…… 2顧客や部下についてより明確な意図を持つとし  たなら、これをする…… 3レガシーを未来に残すために、今から始められ  る貢献は…… ※ジャーナリング  定期的に、あるテーマについて、自分の考えを思うま  まに書き出すか、決まった問いに答えて頭の巾を整理  していくメンタルセルフヶア。 ※チェンジマネジメント  組織の変革の人的側面を管理する手法。 ※パートナー  役員クラスのコンサルタント。  ACTI()X2  どんな気持ちを持ちたいか、あらかじめ決  めておく  人生において明確性を高め維持するのに役立つ2 つめの行動は、常にこう自問することだ。  「私はどういう気持ちでこの状況に臨みたいか? そしてこの状況によってどういう気持ちになりたい か?」  これは、多くの人がとても苦手とする習慣である。 ローパフォーマーはとりわけ、自分がどんな感情や 気持ちを持っているのか、あるいは持ちたいかに注 意を払っていない。さまざまな状況に直面するたび に、自分の気持ちをその場に委ねてしまう。だから 自己認識能力も自制心も弱いのだ。  一方ハイパフォーマーたちは、自分の感情を客観 的に捉え分析する能力と、いわゆる「気の持ちよ う」をコントロールする能力が非常に高い。彼らは パフォーマンスを発揮する場面で生じる情動を正確 に言語化でき、何より、そうした情動から解釈した 意味を自分なりにアレンジし、長期的にどのような 気持ちでいたいかを選択することができる。  例で示そう。かつて私かコーチングをしたある短 距離走のオリンピック選手は、その年の世界ランキ ングがI位だった。だが、その前年まで、彼のパ フォーマンスは不安定なことが多く、大会で優勝し たかと思えば、予選落ちしてしまうこともあった。 私かコーチングの依頼を受けたときは、連勝が1年 にわたって続いていた。セッション初回で私か「今 勝ち続けている理由を3語だけで表現するとしたら、 それはどんな言葉ですか?」と訊くと「一にも、二 にも、三にも気の持ちようです」と言う。  どういうことか尋ねると、彼はこう答えた。  「僕は、自分が競技場に足を踏み入れる前、スター ティングブロックにスタンバイしているとき、短距 離走の最中、ゴールインした瞬間、通用口から退場 するときに至るまで、自分の心と身体がどう感じる べきなのかを明確にしたんです」  私か、それは情動をコントロールし、緊張しない ようにすることかと訊くと、彼は笑ってこう答えた。  「違います。スターティングブロックで用意の姿勢 をとると、身体はどうしても、その場に満ちている いろいろなもの、このレースに何かかかっているか とか、(恐怖などの)情動とかを、身体が嫌でも感じ 取るんです。でも僕は、それで不安な気持ちには陥 りません。自分の気持ちを、自分で定義づけるんで す。今、身体が感じ取っているのは、準備よしとい う気持ちなんだとか、高揚感なんだと自分に言い聞 かせるのです」  言い方の違いはあれ、実にたくさんの(イパ フオーマーから同じような発言を聞いている。彼ら はよく、ある瞬間に自分の心の状態を感じ取っても、 それを意図的に、自分に望ましい定義で上書きした りする。  ここで「情動」と「感情や気持ち」の違いを確認 しよう。「情動」の定義は諸説あるが、「情動」と 「感情や気持ち」が違うことは多くの研究者が認め ている。  「情動」は、概して本能的な機能と言える。ある出 来事−外的な状況も、頭の中の予想も含まれる Iが引き金となって、恐怖や、喜び、悲しみ、怒 り、安堵、愛情などの情動反応が引き起こされる。 情動反応は、多くの場合、自分の意志に関係なく生 じる。急激に生起するのは、起きたことを、脳が瞬 時に解釈し、過去の同じような状況で自分がどう感 じたかというデータを参考に、意味と感情を付与す るからだ。しかし、私たちは自分の情動を100 パーセント認知しているかといえば、そうではない し、情動を意識的に引き起こすのは100パーセン ト無理かといえば、そうでもない。たとえば、赤 ちゃんに笑いかけられて心に生じる喜びの情動。そ の情動は、実際の知覚的刺激がなくても、そのとき の光景を後で思い起こしただけで呼び起こせる。だ が、日常生活で生じる情動はだいたいにおいて、自 動的で身体の生理的反応を伴う。  一方、ここで言う「感情や気持ち」とは、情動を 頭で解釈したものを指す。これは、あまり厳密な説 明ではないが、便宜上簡単に言うと、情動は主に反 応、気持ちは解釈、といえるのだ。先ほどの短距離 走者が言ったように、恐怖の情動が引き起こされた からといって、必ずしも怖いと感じて逃げ出す必要 はない。恐怖の情動が突発的に起こっても、次の瞬 間に、頭で、自分は冷静だと思い直すという選択が できるのである。  自分自身を落ち着かせるとは、生起した情動とは 別の感情を選択する、ということなのだ。ハイパ フォーマーたちは、パフォーマンスを発揮する状況 に臨む前に、いかなる情動が生じたとしても、それ に対しどう感じたいかをあらかじめ検討し、いかな る情動が生じたとしても最終的にどんな気持ちでそ の状況から立ち去りたいかを、あらかじめ思い描い ている。このようなセルフコントロール法で、意図 を達成しているのである。  この感情の選択がどのように行われるのか、もう 一例紹介しよう。  もし自分が参加している会議で、他の人たちがケ ンカ腰の議論を始めたら、きっと私はふいに、恐怖 や、怒り、悲しみといった情動に襲われるだろう。 そして、心臓がドキドキする、手に汗をかく、呼吸 が浅くなるなどの反応が出るはずだ。その後に、怖 いとか大丈夫かという気持ちが起きてくるだろう。 だが、これらの反応は前もって予測できることで、 もし会議中に何かあって本能的にネガティブな情動 が生じたとしても、私は、別の気持ちを持つ選択が できる。この情動は私に「注意を払えと教えてくれ ているだけだ」とか「自分の意見をはっきり言えと 教えてくれているだけだ」「人の身になって考えろ と教えてくれているだけだ」と、自分に言い聞かせ ればいいのだ。恐怖の情動をそのまま怖いという気 持ちに移行させる代わりに、何度か深呼吸をし、警 戒しながらも冷静な気持ちでいることを選択できる。 そうすることで、深い呼吸を続け、落ち着いた口調 で話し、イスにゆったりと座り、その場にいる人た ちのことを肯定的に考え、嵐の中の穏やかな影響力 になることを選択できる。その選択によって、最初 に「生起した」情動とは別の気持ちを生み出すこと ができるのだ。  自動的に生じた情動に主導権を握らせる必要はな い。  気持ちこそが、自らの所産だ。  かつては恐怖の情動が、そのまま怖いという気持 ちに移行していたとしても、そこから自分の望む気 持ちをつくり出すようにしていると、時間の経過と ともに、その気持ちが脳に刻まれるようになる。す ると恐怖の情動が起こっても、怖いとは思わなくな る。脳が、私はうまく対処できるという体験を学習 するからだ。そうして記憶が書き換えられると、自 動的な情動の威力が薄れてくる。恐れの情動がわき 起こっても、脳が、自分で選択した気持ちを記憶か ら想起するようになるのだ。  情動は、浮かんでは消える。ほとんどの場合、即 時的で、本能的で、身体的なものだ。一方、気持ち は長続きし、多くの場合頭で考えた結果なので、自 分でコントロールできる。「怒り」は、自動的に生 じる情動だが、「恨み」という持続的な感情を一生 抱え込むかどうかは、あなたが決められるのだ。  言葉の定義ばかりを説明しているように聞こえる かもしれない。そうかといって、先ほども認めたと おり、これらは厳密な説明とも言えない(心と身体 のいかなる機能も、正確に説明する理論は存在しない。 なぜなら、常に諸説が存在し、考えや感情はけっして孤 立したものではないからだ。人間の感覚と意志は、広大 な神経ネットワークで互いに作用し合い、重なり合って いるのだ)。それでもこの話をここで共有するのは、 (イパフォーマーたちはたいてい、降ってわいた情 動をそのまま受け取るよりも、そこから自分の望む 気持ちをつくり出していることが、あまりにも明白 だからだ。  ハイパフォーマーのアスリートが「ゾーンに人 る」と言うとき、それは、意識的に集中力を極限ま で研ぎ澄まして、ゾーンという「精神状態」に入る ことを意味する。ゾーンに入っている状態は、自動 的には起こらない。一部のアスリートは、雑念を最 小限に抑え、その活動に没頭することで、意識的に 自身をゾーンに持っていくことができるのだ。ハイ レベルなアスリートや、あらゆる立場のハイパ フォーマーにとって、没頭は、自分で選ぶ気の持ち 方なのである。試合開始時に偶然降ってわくラッ キーな情動ではなく、意識的に呼び起こすものなの だ。  自分の感情を意識するのをやめてしまうと、世の 中のネガティブな事柄が、ネガティブな情動を引き 起こす。そうした情動の意味づけをコントロールし なければ、持続的なネガティブ感情が生じ、悲惨な 人生の下地となってしまう。  しかし、いかなる人生も積極的に経験し、その浮 き沈みの中でどんな情動に襲われても、冷静で、円 満で、強い、愛情深い気持ちに切り替える選択をす れば、とても強力なことを成し遂げられる。気持ち の選択という技を使いこなせば、突然、思いどおり の気持ちで人生を生きていくことができるようにな る。  ヶイトが忘れていたのはまさにそれだった。彼女 は、予測不能な情動の海にのまれ、それに対して持 つべき気持ちを自分で選択していなかった。自分が 情動や体験をどう扱っているかに気づいていなかっ たのだ。流されるように仕事をしていただけでなく、 情動にも流され、自分が思うような気持ちで生きら れなくなっていたのである。  私か指導したことはただ1つ。それは、彼女がさ まざまな状況に臨むたびに、自分がどんな気持ちで いたいかを選択させることだった。そういう意志を 持って行動しただけで、彼女の人生に活気と彩りが 戻ってきた。  今日はどんな気持ちでいたいか? 思いどおりの 気持ちで過ごすには、今日という日をどう意味づけ ればいいか? 今度デートに出かけるとき、どんな 「気持ち」をつくり出したいか考えよう。子どもの 算数の宿題を手伝う前には、どんな気持ちで子ども を手伝うべきか自問しよう。このような明確性と意 志を持つと、人生経験が変わる。 ACTION2のまとめ  「どんな気持ちを持ちたいか、あらかじめ決めてお く」マイノート ー最近よくわき起こる情動は…… 2得たい感情が得られない人生の領域は…… 3人生でもっと味わいたいと思う感情は…… 4ネガティブな情動がわき起こったときに自分に  言い聞かせることは……  ACTI()X3  自分にとって何か有意味かを定義する  ハイパフオーマーは、自分が心に決めたことなら、 ほとんど何でもできてしまう。だが、すべての山に 登る価値があるわけではない。ハイパフオーマーが 普通の人と違うところは、何か自分の人生経験に意 味をもたらすかを見極める眼識だ。彼らは、自分が 有意味だと考える事柄により多くの時間を費やし、 それで満足感を得る。  私たちを空しい人生に閉じ込めるのは、長所の欠 如ではなく、明白な動機の欠如だ。心を燃え立たせ、 前進させてくれる、野心的な目的が欠けているとそ うなる。有意味な人生を生きようとする努力は、心 の健康につながる一大要因である。  だが、有意味の「意味」はなんだろう?  人が「働く意味」について語るとき、それはたい てい次の3つだ。 ●作業そのものの楽しさ ●自分の価値観と仕事の一致 ●仕事の成果から得られる充実感  人びとにとって何か有意味なのかを特定しようと する研究者たちは、あなたが、ある活動をどれほど 重要と見なしているか、それにどれほど時間を費や しているか、どれほど力を注いでいるか、どれほど 愛着を持っているか、柢い報酬でもその仕事をする かどうか、といった切り口に焦点を当てる。  仕事の場合、あなたがそれを、ただの収入を得る ための仕事と見なしているのか、重要なキャリアと 見なしているのか、それとも天職と見なしているの かを見極めようとする。そして、明確なパーパスと 人生全体の意義を結びつけることが多い。  さて、ハイパフォーマーたちの考える「意味」も このようなものだろうか?  私たちは、HPIのスコアが上位15パーセントに 入った人の中から、1300人を無作為に抽出し、 以下のような質問をした。 ●何をもって、自分のしていることが有意味だと  判断していますか? ●有意味なことをしているときはどのような気持  ちになりますか? ●もし2つの良いプロジェクトのどちらかを選ぶ  必要に迫られたら、どのような基準で、自分に  とって最も有意味なプロジェクトを選びますか? ●何をもって、自分のしていることが人生に意味  をもたらさないと判断しますか? ●何をもって、人生の終わりに、それが有意味な  人生だったか判断しますか?  これらの質問は自由記述式だったため、私たちは、 答えの中にパターンを探し出そうと隅々までチェッ クした。そして浮かび上がっだのが、多くのハイパ フオーマーが「意味」をもたらすものとして挙げて いた4つの事柄である。  彼らが意味を感じている事柄そのIは、「熱意」 だ。たとえば、2つのプロジェクトのどちらかを選 ぶ必要に迫られたら、自分が熱くなれるほうを選ぶ と答えた人が多かった。この発見は他の研究結果と も一致する。「熱意」は、満足度、ポジティブな情 動、ネガティブな情動の少なさ、環境制御力(※)、 自己成長、ポジティブな人間関係、自己受容、人生 の目的、エングージメント、意義、達成の独立予測 因子(※)であることがわかっているのだ。ポジ ティブな人生を望むなら、可能なかぎりの熱意を奮 い起こすべきなのは明らかだ。こうした研究結果に 触発された私は、毎朝シャワーを浴びながら自分に こう問いかけている。「今日はどんなことに、ワク ワクしたり熱くなったりできるか?」 このシンプ ルな問いかけが、私の毎日への向き合い方を変えて くれた。あなたもぜひ試してほしい。  ハイパフオーマーが意味を感じる事柄その2は 「人とのつながり」だった。社会的に孤立した人た ちは、人生の意味を失ったと回答している。社会的 な関係性−特に身近な人だちとのつながりが、人 生の意味をもたらすという回答が最も多かった。  ハイパフオーマーたちも、皆と同じように、生活 や仕事における人間関係を大切に思っている。ただ ハイパフオーマーに特徴的なのは、特に仕事で、人 とのつながりに意味を見いだしていることが多い点 だ。人とのつながりに、「安らぎ」を求めているの ではなく、むしろ「刺激」を求めている。言い換え れば、ハイパフオーマーは、互いに切磋琢磨できる 仲間たちの中にいたほうが、仕事がより有意味に感 じられるのだ。日常生活においても、たとえば、一 緒にいて楽しいだけの人や、普通にやさしい人とつ き合うよりも、自分を成長させてくれ、刺激となる 人だちとのつきあいに価値を置く。  ハイパフオーマーが意味を感じる事柄その3は、 「満足感」だ。彼らは、自分のしていることに個人 的満足感を覚えると、人生が有意味だと感じる。一 般的な人びとから、その人にとって何か「満足」を もたらすのかを聞き出すのは、彼らが「有意味」を どう定義しているのかを聞き出すのと同じくらい難 しい。だが、ハイパフォーマーの場合、何か個人的 満足感につながるのかという方程式がはっきりして いるのだ。彼らは、努力の対象が自分の主な情熱と 一致すると、個人的あるいは仕事での成長につなが り、他者にも明確でポジティブな貢献をすることが できる。そんなとき、努力に満足感を覚え、努力の かいがあったと言うことが多い。  情熱十成長十貢献=個人的満足感  また、安心感、自律性(※)、ワークライフバラ ンスも、特に仕事における満足感に重要だという研 究者もいる。  努力をした「意味」があったとハイパフォーマー に言わしめる事柄その4は、自分の人生が「理にか なっている」と感じられることだ。これを心理学用 語で「首尾一貫感覚」という。これは、自分の人生 −または最近の出来事−のストーリーが腑に落 ちるという感覚を指す。  この首尾一貫感覚は、(イパフォーマーにとって ことさら重要らしい。彼らは、自分の努力が、重要 性の高いものと一致しているか、自分の仕事が意味 深いものであるか、自分の人生がレガシーを残し、 より大きな目的の役に立つか、といったことにこだ わっている。  この首尾一貫性を求める気持ちは、多くの(イパ フォーマーにとって、自律性やワークライフバラン スよりも大切らしい。彼らは、自分のしていること が理にかなっており、より大きな全体に貢献してい ると感じられれば、コントロールやワークライフバ ランスの追求を後回しにすることもいとわない。  ハイパフォーマーたちが何を有意味と見なしてい るかについては、さらなる研究が必要なのはたしか だ。しかし、私たちが行った研究は、第一歩として 価値があると思う。わかりやすく説明するなら、こ のシンプルな方程式が役立つかもしれない。  熱意十つながり十満足感十首尾一貫性=個人 的満足感  有意味感を持つには、これらすべての要素が一度 に揃わなければならないわけではない。ときには、 部屋を歩く自分の子どもを見るだけで有意味感を得 られる。重要なレポートを仕上げるだけでも、すて きなデートに出かけたり、メンター・ランチを開い たりするだけでも、人生を有意味にすることができ る。  重要なのは、人生に意味をもたらすものは何かを、 もっと意識的、継続的に考える必要があるというこ と。まずは、あなた自身にとっての有意味な人生と は何か、より有意味にするにはどうすべきかについ て、自分自身の定義を模索することから始めよう。 雑用的な仕事とライフワークの違いを学ぶことが、 人生の目的を追求する第一歩になる。 ACTION coのまとめ  「自分にとって何か有意味かを定義する」マイノー I私の今の活動の中で、最も意味があると思える  ものは(複数可)…… 2私の今の活動やプロジェクトの中で、有意味感  を得られないのでやめるべきなのは(複数可) 3より大きな意味をもたらしてくれる活動を新た  に始めるとしたら、最優先で加えるのは(複数  可)…… ※環境制御力  自分の心理状態や能力に適した環境を選択したり、つ  くり出したりする能力。 ※独立予測因子  実験心理学の文脈における要因や、因子、原因となる  変数。 ※自律性  他者からの支配や制約を受けずに、自分白身で目標や 規範を立て行動すること。  内省の習慣をつける  本章ではさまざまなことを取り上げたが、どうす れば、これらすべてを組み合わせ、明確化の習慣を しっかり定着させることができるだろう?  それにはぜひ、私かヶイトにアドバイスしたのと 同じワークを実践してほしい。ヶイトは、仕事でも、 対人関係でも、人生でも、流されるように物事をこ なしているだけの自分に悩んでいた。彼女は、もう 努力の余地もないほど優秀だ。そのためか、将来ど うしたいとかこうなりたいという、強い意志を持つ ことを忘れ、忙しく働いているのに、充実感を得ら れていなかった。そして、自分が何をしたいのかわ からない迷子のような感覚に苛まれていた。彼女の リセットを手伝うために始めてもらっだのが、シン プルな内省の習慣だ。これ1つで、本章で学んでも らった習慣をすべてカバーできる。  私はヶイトに「明確化ジャーナル」というI同I ページの日誌を渡し、毎週日曜日の夜に書き込む ワークを12週間続けてほしいと言った。次ページに 部分的な見本を示すが、フルバージョンをご希望な ら、HighPerfo日lanceHabits.coヨペtoolsからダウン ロードできる。  毎回同じ設問なので、もちろん毎週書き込む必要 はない(そもそもあなたは、私の勧めを1つも実践する 必要はない)。だがこれだけは約束しよう。これを毎 週行うと、たとえあなたの答えが毎週変わらないと しても、間違いなくあなたのためになる。あなたが 書いた内容を意識の前面に載せることで、明確化と いうハイパフオーマンスの習慣が定着するからであ る。  本章で取り上げたような事柄は、あなたも時折考 えたことはあると思う。だが私たちの狙いは、こう した事柄にこれまで以上に継続して意識を向けても らうことにある。それでこそ、効果が出るのだ。意 識をより集中させることで、自分の目標や価値観が より明確になり、ひいては、行動に一貫性が生まれ、 究極的にはハイパフオーマンスが発揮できるように なるのだ。  「このベースで働き続けたら、そのうち燃え尽き るか、下手をしたら死ぬんじやないかね」アル ジュンは、もじもじしながら笑った。「そしたら 元も子もないね」  何力月もほとんど寝ていないような憔悴ぶりで ある。肌がたるみ、目は赤く、内面からの輝きが 消え失せた顔をしている。去年ビジネス誌の表紙 を飾ったときの精彩はどこにもない。  私は驚いたふりをして「えっ、死ぬ?『そのう ち』つて、あとどのくらいでそんな状態になりそ うですか? 来週とか、今年中とか、来年と か?」と聞いた。  「わからないよ。でもここだけの話だよ」  私に打ち明けるのも勇気がいったことだろう。 誰だって、自分が過労死寸前だなんて認めたくな い。ことにここシリコンバレーでは、休まず働く ことは勲章のようなものだ。サンフランシスコの ペニンシュラと呼ばれるこの地域一帯には、若く て賢いワーカホリックが集まっていて、カフェイ ンの過剰摂取と「数年で億万長者になる夢」で意 気盛んだ。  この面会の6時間前、ある友人が、私にアル ジュンを紹介するからグループ通話をしたいと 言ってきた。3人で社交辞令的な雑談を交わした が、その2時間後、アルジュンが迎えによこした プライベートジェットが到着した。そうして私は、 サンフランシスコ郊外にある彼のオフィスのガラ ス張りの会議室に座っていた。午前3時にビル内 にいたのは私たちだけだ。デキる人の中には、こ うして真夜中を過ぎるまで警戒を解かないという 大もいるのだ。  彼が飛行機を差し向けてまで私を呼んだ理由は さだかではなかった。電話では、急ぎで相談した いことがあるとだけ言っていた。この大には、 前々から会ってみたいと思っていたから承諾した までだ。  「それで、どうなさったんですか?」私は言った。 「もっと寝なきやだめ、なんてお母さんみたいな 小言を言わせるために、私を飛行機で呼ぶわけは ないですよね」  彼は笑って、イスに深く座り直し、こう答えた。  「ああ、そんな相談じやないよ。ただ休む必要が あることはわかってる」  「なのに休まないんですか?」  「休むようにするよ」  よくある受け答えだ。いつの囗か、健康管理を ちゃんとしようとは思っている。けれども「今は がんばり時」なのだと皆言う。  「事業を拡大するため、世界を席巻するために」  「アルジュンさん、燃え尽きるか過労死か、とい うのは違いますよ。あなたのような方は、現実に は、燃え尽きないで、そのまま狂ったベースで懸 命に働き続けるんです。あなたが過去15年間な さってきたように。  燃え尽きるようなことはないんですが、ただも う、死ぬほど惨めな気持ちになります。ある囗目 が覚めたら、たとえそのとき、富や功績が今より あったとしても、自分の思ったような人生を生き ていないと感じる。  しかし、それでもまだ燃え尽きたりはしません。 その代わり、急に悪い決断を下すようになるんで す。何かを放棄してしまったり、自身が機能しな くなったりするのです。そして、心や体を病んで そうなったわけではなく、自分が選択を誤ってき たせいだと気づきます。あなたも、もうおわかり なんじやないでしょうか」  「うん」そう言いながら彼は、シャツの左袖をま くり、注射の後を指差した。  「驚かなくていいよ。ドラッグじやないから。マ イヤーズカクテルつていう、ビタミンB群やらな んやらが入っだ点滴をやってるんだ。何の効果も ないんだろうけどね」  私はあえて反応しなかった。今まで、ありとあ らゆる対処療法だとか、処方薬、流行のサプリな どを見てきた。皆、なんとか活力を取り戻そうと 藁にもすがる思いで手を出す。人は、アドバン テージがほしいとき、まずは自分の外を探すのだ。  「アルジュンさん、じやあ、どんなものなら効果 がありそうだと思いますか? あなたは聡明な方 です。すでに答えをご存じでしょう。今のあなた の時間を無駄にしたくありません。朝の3時、私 は何をしに来たんでしょう?」  「元気を取り戻したいんだよ。感情の浮き沈みを どうにかしたい。疲労感もどうにかしたい。幸せ を損なわずに成功する方法があるはずだ。世間で はあると言われてはいるか、私は40年かかっても まだ、その方法を見つけられない、どうしても。 でも、あなたなら助けてくれそうだと思うんだ」  「どうしてそう思われるんですか?」  アルジュンはもう片方の袖をまくり上げ、手首 を上げて、革のブレスレットを見せてくれた。そ こには私の名言が刻まれている。彼はそれを突っ ついて言った。  「私か取り戻したいのは、これだよ」  「どうしてそれをお持ちなんですか?」  「妻からだよ。お恥ずかしい話だが打ち明けると、 私たちには問題があってね。妻はあなたのイベン トに行って、別人のように変わった。彼女が、そ のイベントで、買って来たんだよ。私にはこれが 必要だって。『2人とも』これが必要だって」 「奥様の言うことは正しかったですか?」  すると彼はため息をついて、立っている私に加 わった。部屋の外の自分のオフィスのほうを見て。  「私にはみんなをリードできない……私かこんな に落ち込んでいては、みんなを高みに連れてなん かいけない。エネルギーがだだ下がり。チームも 感じ取っているだろうな。私はこの状態が嫌で、  いい加減どうにかしたいんだよ」   革のブレスレットに刻まれていたのは、喜びを つくり出せという言葉だった。  自分の中に眠るエネルギーを引き出す  ご想像のとおり、長期的な成功にはたくさんのエ ネルギーが必要になる。ハイパフォーマーは、精神 的・身体的・感情的な活力が魔法のごとく三拍子 揃った、ポジティブで持続的な、最上格の干不ル ギーを持っている。それを原動力に、彼らは人生の さまざまな領域で高いパフォーマンスを発揮してい るのだ。ハイパフォーマーたちが、人よりもはるか に大きな情熱や、スタミナ、モチベーションを持つ ているのは、そのおかげなのである。あなたも、自 分の中に眠る最上格の干不ルギーを引き出せば、世 界はあなたのものだ。  私たちの(イパフォーマンス研究では、参加者に、 次のような記述が自分にどの程度当てはまるか、5 段階で答えてもらうアンヶIト調査を行って、干不 ルギーを測定した。 ●一日中集中を保てる精神力がある。 ●毎日の目標を達成するだけの身体的干不ルギー  がある。 ●基本的に、明るく元気で楽観的だ。  また、次のような、あえて否定形や逆の特徴を含 む問いも設けた。 ●頭の同転が鈍く、ぼんやりしている。 ●肉体的に疲れ切っていることがほとんどだ。 ●ネガティブな干不ルギーや感情をたくさん感じ  る。  エネルギーといえば、多くの人は、「身体的」エ ネルギーをイメージするだろうが、それだけではな い。頭の働きがいかに活発か、心がいかに元気でポ ジティブかも重要だ。実際、3つともすべて、パ フォーマンスとの相関が認められている。本書で私 か言う「干不ルギー」とは、身体的・精神的・感情 的活力のすべてを指す。  ところで、私たちの研究報告書に「エネルギーの 低さは、パフォーマンスの総合スコアの低さと相関 する」という見出しがある。これはI見当たり前の ことに思えるが、詳細な研究結果には目を見張るも のがある。エネルギーのスコアが柢い人ほど、他の スコアにも以下のような傾向が見られたのだ。 ●全体的な幸福感が柢い。 ●チャレンジ精神が柢い。 ●同輩と比べた自分の成功レベルの自己評価が柢  い。 ●逆境に直面したときの自信が柢い。 ●他者への影響力が柢い。 ●健康的な食生活や運動を実践する確率が柢い。  干不ルギーが柢い状態にあると、パフォーマンス を発揮できないだけでなく、人生のすべての側面に 影響を及ぼす。幸福感が得られず、大きな挑戦をせ ず、皆に追い越されているように感じ、自信がなく なり、食生活が乱れ、太る。そして、人からの信頼 も、注文も、支持も得られず、ついてきてもらえな くなる。  逆を言えば、干不ルギーを上げれば、これらすべ ての要素を向上させられるということだ。  それだけではない。干不ルギーは、学歴や、創造 性、アサーティブネスとも相関している。つまり、 干不ルギーが高ければ、高度な教育を受けたり、仕 事でクリエイティブなアイデアを思いついたり、自 分の意見をはっきり言えたり、自分の夢に向かって 行動を起こしたりできるということだ。したがって、 世界中の組織や教育機関は、社員や学生の干不ル ギー・スコアを伸ばすことに、本気で取り組むべき である。  企業内の職位別で言うと、最も干不ルギーが高い のは、CEOと経営幹部で、調査した他のポジショ ン(巾間管理職、新入社員、学生およびインターン、管 理人など)と比較して、はるかにスコアが高かった。 この結果は、年齢を調整してもなお同じだった。そ れどころか、CEOと経営幹部は、プロのアスリー ト並みの高い干不ルギーを持つという驚きの結果と なった。つまりCEOになるには、それだけ干不ル ギーが必要なので、NFLのクォーターバックと同 等に、管理に気を配る必要があるということだ。  要は、エネルギーがある人ほど、幸せになり、関 心分野でトップにのぼり詰める可能性が高いと言え る。  そして、エネルギーは、生産性と大きく関係して いる。もっと多くのことをこなしたいと思うなら、 新しいアプリを買ったり、書類を整理してみたりす ることはない。メールの管理術よりも、干不ルギー の管理術のほうが大事なのだ。  並外れた人たちをコーチングした私の経験も、こ のデータと一致するし、それ以上の発見もある。私 かよく見るのは、キャリアを築いていくにつれ、エ ネルギーに目を向けることを忘れ、突然災難に見舞 われるパターンだ。エネルギーの柢さが原因で、結 婚生活が破綻したり、親切な人がストレスモンス ターと化したり、CEOが燃え尽きて、わずか数力 月で数年分の利益が吹き飛んでしまったりするのを 見てきた。  現代における健康関連の研究のほぼすべてが、心 身の健康の重要性を裏づけている。心身の健康は、 より全人的な活力を指す言葉としてよく使われる。 だが残念ながら、私たちは、心身の健康をおろそか にしがちだ。  アメリカ人は人口の3分のI以上が肥満で、その ために、国が年間1470億ドル(約23兆億円)以 上の医療費負担を強いられている。国民の約8割が、 CDC(疾病予防管理センター)が推奨する最低限の 有酸素運動と筋トレさえ行っていない。  また他の調査では、アメリカの成人の网パーセン トが、十分なストレス管理をしていないと答え、20 パーセントが、ストレスマネジメントの活動をまっ たくしていないと答え、5人にI大が「精神的に支 えてくれる大がいない」と答えている。  働いているアメリカ人の3人にI大は、職場に慢 性的なストレスを抱え、就労先が従業員の心身の健 康をサポートしてくれていると答えた人は半分以下 だった。そして、社員の心身の健康促進を図ってい る企業は、生産性が高く、医療費の負担が柢く、社 員定着率が高く、より適切な意思決定を下している。  ストレスは、干不ルギーと心身の健康を蝕む諸悪 の根源だ。ストレスによって、新しい脳細胞が生ま れにくくなり、気分の調節に重要な役割を果たすセ ロトニンとドーパミンを減少させ、扁桃体を興奮さ せると同時に、海馬の機能を柢下させる。そうやっ て、身も心も疲れ果て、記憶力まで柢下した人間が でき上がるのだ。  心身の健康については、本を数冊書いても、表面 をなでる程度の説明しかできない。だが私は、本章 の冒頭で説明したような干不ルギーの測定植に焦点 を絞って、それらが個人の(イパフォーマンスとど のような相関関係を持つのかを探ることとする。  朗報なのは、シンプルな習慣をいくつか実践する だけで、エネルギーと全体的なパフォーマンスを劇 的に向上させられることだ。干不ルギーというのは、 精神/身体/感情の一定の状態を指すのではない。 前にも述べたように、発電所が干不ルギーを持って いるわけではなく、変換して送電しているのと同じ で、あなたも、幸せを持っているわけではなく、わ き起こった思いを、自分で幸せな気持ちあるいは不 幸せな気持ちに変換しているのだ。悲しみも持って いるとかいないとかというものではなく、わき起 こった悲しみは別の気持ちに変換される。  つまり、喜びや、モチベーション、愛情、ワクワ ク感などのポジティブ感情があなたの囗常に舞い降 りてくるのを待つ必要はないということだ。これら の感情は、習慣のパワーを使って、好きなときに、 オンデマンドでっくり出せるのである。人生の他の 領域、他のスキルと同様に、改善可能なのである。  では、私の研究から、ハイパフォーマーたちがア ドバンテージと干不ルギーを維持するために活用し ている3大行動を紹介していく。  ACTI()XI  身体の緊張をゆるめ、次にやることの意図  を設定する  ハイパフォーマーを10年間コーチングしてきた私 の経験では、彼らの干不ルギーを高めるには、「ト ランジションの活用」を指導するのが、最も簡単で、 速く、効果的だった。皆、活動の合間のスキマ時間 をうまく活用できていないせいで、日々、多大な集 中力と、意志力と感情的干不ルギーを失っている。 またそのせいで、精神的・身体的なスタミナを高め るチャンスをI囗に何度も逃している。  たとえば、あなたが毎朝起きてからI囗を始める ときに、休息モードから活性モードに移行する。こ のI囗の始まりは、1つのトランジションだ。  そして、子どもを保育園や幼稚園に送り届け、職 場に向かうとき。それは、家族時間から運転時間へ のトランジションだ。職場に到着して車のドアを開 け、オフィスに足を踏み入れるときは、独り時間か ら協働時間へのトランジションだ。  職場では、プレゼンを作成し終わって、メール チェックを始めるときは、クリエイティブモードか らEメールモードヘのトランジション。会議が終 わって、自分のデスクに戻ってすぐカンファレンス コールを始めるときもトランジションだ。勤務時間 を終えて、車に乗り、ジムに向かう。そこにはトラ ンジションが2同ある。長いI囗を終え、家に車を 止めて、ママやパパになるときもトランジションだ。  私たちの1日は、一連のトランジションの連続だ。 こうしたトランジションは、活動の合間の有効な自 由時間として、とてつもなく貴重である。このスキ マ時間こそ、あなたが干不ルギーを取り戻し、増強 する最高のチャンスなのだ。  あなたが日中経験する、あらゆるトランジション を考え、数個書き出してみよう。 ● ● ●  では、それらのトランジションについて、いくつ か質問をしよう。 ●あなたは、ある活動で生じたネガティブな干不  ルギーを引きずったまま、次の活動に移行するこ  とはないか? ●消耗し、休憩すべきなのに、休まず次の活動に  突き進んでいないか? ●朝から時間が経つにつれ、「今ここ」感覚(※)  や、人生や他者に対する感謝の念が薄れてこない  か?  ほとんどの人がこれらすべてにイエスと答える。  これはチャンスだ。活動の合間のスキマ時間にす るあることを学べば、あなたの人生をよみがえらせ ると私は確信しているからだ。  今日から、大きな活動から活動に移行するときに、 次のことをやってみてほしい。  II〜2分間目を閉じる。  2その間、心の中で繰り返し「リリース」と唱   える。これを言いながら、肩や首や顔、あごの   緊張を緩めるよう、自分の身体に命令する。背   中と脚の緊張も緩める。そして心と魂の緊張も  緩める。これが難しいという人は、深い呼吸を  繰り返しながら、身体の各部位に意識を集中さ  せ、心の中で「リリース」と唱える。そんなに  時間はかからない。I〜2分のあいだ「リリー  ス」と繰り返すだけだ。 3緊張が少し緩んだと感じたら(あなたが抱える  「すべての」緊張とは言わない!)、次の「意図設  定」に移る。この後目を開けて始める活動で、  どんな気持ちになりたいか、何を達成したいか  を考える。そして「次の活動にどのくらいのエ   ネルギーで臨みたいか?」「どうすれば次の活   動で卓越性を発揮できるか?」「どうすればそ   の過程を楽しめるか?」と自問する。質問はこ   のとおりでなくてもいいが、次の活動でもっと   「今ここ」に集中するよう、自分の心に指示す   るには、このような問いがいい。  このシンプルなワークを、意識的に、I囗を通し て実践すれば、ストレス管理がうまくなり、もっと 「今ここ」感覚を感じられるようになる。驚くほど パワフルだ。  信じられないというなら、今すぐやってみてほし い。やり方は説明したとおりだ。1分間だけこの本 を置いて、その間、深い呼吸をし、身体の緊張を緩 める。そして「読書を再開したらどんな干不ルギー を感じたいか?」「どうすればもっと情報を記憶し ておけるか?」「どうすれば、さらにこの本を楽し めるか?」と自問しよう。  もしかしたら、読書中に「今ここ」感覚を深く実 感できる、より多くの箇所に線を引く、読書をもっ と楽しむためにお気に入りの場所に移ったり、コー ヒーを買ったりする、といった行動が出るかもしれ ない。ぜひ効果を試してほしい。  このワークの効果がわかったら、スキマ時間を探 してみよう。メールの返信を終えてプレゼンの作成 に移る合間はどうだろう。デスクから少しイスを引 いて、I〜2分目を閉じよう。緊張が緩んで、つか の間の平穏が訪れるまで心の中で「リリース」と念 じ続ける。そして、どんな気持ちでプレゼンを作成 したいのか、どんな出来栄えを望んでいるのか、と いう意図を設定する。簡単だ。  私はこの「緊張を解除し、意図を設定する」ワー クを、運動の前後、誰かに電話をかける前、チーム にメールを書く前、動画を撮る前、友人とのランチ に行って車を降りる前、2万人の聴衆を前に登壇す る前にやっている。オプラーウィンフリーにインタ ビューされる部屋に入る前、大統領との夕食の席に 着く前、妻にプロポーズする前など、このおかげで 不安を感じたり粗末なパフォーマンスをせずに済ん だことが何度もあった。本当にありかたいワークと しか言いようがない’・  あなたもスキマ時間に、新たな干不ルギーと、そ の瞬間の人生を呼び起こすことができる。一瞬だけ 休んで、目を閉じ、緊張解除と意図設定をする、と 覚えておこう。  もう少し本格的な瞑想をしたい人は、20分のリ リース瞑想術(RMT: Release Meditation Technique) を試してほしい。私はこの瞑想術を200万人に指 導してきた。これまで実践した中で最も人生を激変 させる習慣の1つだ。目を閉じ、背筋を伸ばして、 深い呼吸をする。心の中で「リリース」と唱え、身 体の緊張が解けるまで続ける。この間、雑念が浮か んできても、それを追い払おうとする必要はないが、 集中するのもよくない。注意がそれたことに気づい たら、淡々と「リリース」のマントラに戻ろう。こ の瞑想の目的は、身体の緊張だけでなく、精神的な 緊張も解きほぐすことだ。誘導音声とBGMの入っ たYouTube動画の活用をオススメする。  どのようなストレス対処法を行うにしても大事な のは、ともかく習慣化して続けることだ。瞑想は、 だいたいどのようなものでも、ストレスや不安を大 幅に軽減し、注意力、「今ここ」感覚、創造性、そ して心身の健康を高める効果がある。  瞑想の効用は神経科学研究によって続々と証明さ れている。瞑想の経験が豊富な人ほど、脳の注意 ネットワーク(※)間の結合がより強く、集中を維 持したり、乱れても元に戻すといった認知スキルに 重要な、注意領域と前部島皮質領域の結合も強いこ とがわかっているのだ。瞑想の効果は、瞑想中だけ に生じるものではなく、日常生活にも顕著に表れ続 ける。ある研究では、わずか数力月の瞑想によるプ ラスの効果(不安の減少など)が3年以上続くとい う結果が示されている。  冒頭で紹介したテック企業の大物創業者、アル ジュンの話に戻ろう。彼は、なんとか燃え尽きを回 避し、もっと人生の喜びを経験できないかと悩んで いた。あの夜、話を終え、彼の運転手に空港まで 送ってもらっだのは午前4時半頃だったが、私はそ の直前にこのワークを教えた。ところがたった2日 後に彼からこんなメールが届いた。   先日はわざわざ飛行機でお越しいただき、あり  がとうございました。あなたと話ができたこと、  特に急なお願いにもかかわらず時間を割いてくれ たことに感謝しています。  ここで、私の小さな成功を報告させてください。 今日、車を自宅に止めてすぐ、教わったリリース 術をやってみました。すぐ家に入らずに、運転席 に座ったまま、数分間目を閉じて「リリース」と 念じました。多く見積もっても5分くらいです。  そしてこう自問しました。「どうすれば、仕事 やビジネスのことを忘れて家に入れるか?」「も し世界一良い夫だったら、そのとき妻に何と挨拶 するか?」と「娘にとって今この時期がいかに貴 重かを考えた場合、どうやって一緒に時間を過ご すか?」「理想とする自分と同じ干不ルギーが あったら、どんなふうに部屋に入るか?」といっ た問いかけです。頭に浮かんだ答えをすべて思い 出すことはできませんが、家に入ったら、妻に対 して私の全干不ルギーを注ごうと決めました。  結果、私は生まれ変わって、まるで人生の宝く じでも当たったような調子で家に入っていったの です。あなたから、実行したとき何か起こるかも、 ちゃんと聞いておくべきでした。というのは、 (妻に) 一瞬、おかしくなったと思われたからで す。でも彼女も、娘も、すぐに以前の私だと気づ いてくれました。そしてさっきまで3人で最高の 夜を過ごしていました。このうれしさを言葉でど う言い表せばいいのかわかりませんが、とにかく あなたは私の家族を取り戻してくれたのです。  彼女たちは今寝る支度をしています。私は、早 くあなたにお礼メールを送りたくてうずうずして いました。本当に久しぶりに生気を取り戻したと  いうのを、あなたに伝えたかった。あなたは(妻  によると)意図の力に初めて気づかされた人たち  の事例を紹介しているそうですが、私もその一例  に加えてください。ありがとうございました。 ACTION -のまとめ  「身体の緊張をゆるめ、次にやることの意図を設定 する」マイノート ー日々の生活で、私に最も緊張をもたらすものは   (複数可)…… 21日の中で、どのような文言で緊張解除を自分  にリマインドするか…… 3もっと干不ルギーがあったら、日々どんな自分  でいられるか…… 4毎日、このワークで干不ルギーをリセットする  とき、各活動にどんな気持ちで臨みたいか…… ※「今ここ」感覚  相手とともにそこにいることに全力を注ぐ誠実な態度。 ※注意ネットワーク  意図的で集中的な注意を向けるために眼球運動や知  覚・運動を制御する脳内ネットワーク。  ACTI()X2  喜びをつくり出す  私たちの調査では、喜びが、(イパフォーマーの 成功に非常に大きくかかわっていることがわかって いる。喜びは、高いパフォーマンスを出している状 態における特徴的な3大ポジティブ感情の1つたっ たことを覚えているだろうか(あとの2つは「自信」 と、「フロー状態」だ)。そこで、エネルギーを高め人 生を変えるような意図を設定したい人は、日々の生 活に「もっと喜びをつくり出す」ことを目指すとい いだろう。喜びは、あなたを(イパフォーマーにす るだけでなく、人生で私たちが望む、他のほぼすべ てのポジティブ感情を呼び起こしてくれる。私は、 愛情より大事な感情を知らないが、喜びのない愛は きっと空しく感じられるはずだ。  ポジティブな感情を持つ人は、より充実した夫婦 関係を築き、より多くのお金を稼ぎ、より健康だ。 ポジティブな感情を持っていると、学生はテストで より良い成績を取り、管理職はより良い意思決定を 下し、チームをよりうまく統率する。医師はより的 確な診断を下し、人は他者によりやさしく親切にな る。神経科学では、ポジティブ感情が神経細胞の新 生を促進し(脳の可塑性(士)、ネガティブ感情は それを疎外するという研究結果まで出ている。  私たちのデータでも、パフォーマンスが高く、同 輩よりも長期的に成功していると答えている人は、 自分が同輩に比べ陽気で楽観的だと答えている。ま た、ネガティブな干不ルギーや感情を持つことが少 ないとも答えている。  面接においても、(イパフォーマーたちが、自分 の技能や、キャリア、人間関係について話すとき、 心をときめかせている様子が明らかだった。すばら しい成果をあげるための努力をすべて楽しんでいる わけではないが、おしなべて、自分の生業や機会を ありかたいと感じ、うれしそうな様子である。実は、 喜びは、最上格の干不ルギーをもたらす要因として 何ものにもまさる。喜びを感じれば、心も、身体も、 感情も、すべてが高揚する。  「成功の8割はその場に顔を出すこと」という格言 を聞いたことがないだろうか。(イパフォーマーを 目指すなら、顔を見せ、さらに喜びをもたらそう。  以上、ポジティブ感情のすばらしさを挙げ連ねて きたが、もし自分にそれが欠如していたら、どうす ればいいのか? あなたの人生が楽しいものでな かったら? 周囲の人たちがネガティブだったら?  その場合は、状況を変えるようにしよう。ポジ ティブ感情は(イパフォーマンスになくてはならな いものだ。そして、あなたの情動体験を持続的にコ ントロールできるのはあなただけである。前章の教 訓を思い出してほしい。あなたは、持ちたい気持ち を選ぶことができ、その選択的解釈を繰り返すうち に、情動の感じ方が書き変えられる。感情の感じ方 を自分で決められるのだ。  では、ハイパフォーマーが「いつも」機嫌がよく、 完璧で、すばらしいのかと言えば、そうではない。 他の人だちと同様に、ネガティブな感情を持つこと だってある。ただ彼らは、それらにうまく対処して いるのだ。そして何より重要なのは、ポジティブ感 情を生み出すために、自分自身の思考や行動を意図 する方向に導けるという点だ。繰り返すが、(イパ フォーマーたちは、自分自身を「意志の力で」ポジ ティブな状態に持っていけるのである。アスリート が「ゾーン」に入るためにやっている儀式と同じよ うに、(イパフォーマーは、意識的に喜びをつくり 出している。  それをどうやっているのかを調べるために、私は、 HPIのスコアが高かった人の中からランダムに選 んだ集団に、どのようにポジティブ感情や気持ちを つくり出しているのか訊いてみた。彼らの生活に喜 びをもたらすのは(そしてもたらさないのは)具体的 にどんなことか? 喜びに満ちた状態を長く維持す るために努めて実践している習慣があれば、それは どんな習慣か? 彼らの回答から浮かび上がったの は、次のような傾向だった。 I大事なイベント(あるいは1日)の前に、どん  な感情で臨みたいかをフライミンク(刷り込み)  しておく。そのときにどう感じたいかを考え、  その気持ちを生み出すような問いを自分に投げ  かけたり、場面を想像したりする(これはアク  ションー「気持ちを選択する」のマイノートを参  照)。 2自分の行動がポジティブな結果を生み出すと  期待している。彼らは楽観的で、自分の行動が  報われると確信している。 3起こり得るストレスフルな状況と、なれる最  高の自分だったらそれにどう対処するかを想像  している。彼らは、ポジティブな結果を期待す  るのと同じくらい、問題が発生する可能性も現  実視し、困難に備えている。 4自分のI囗に、感謝、サプライズ、感嘆、挑  戦を取り入れるよう努めている。 5人との交流を、ポジティブな感情や体験が得  られる方向に導いている。ある回答者の言葉を  借りると、(イパフォーマーは「意識的な善意   の拡散者」なのだ。  6ありかたく感じていることを、定期的にすべ   て洗い出している。  あなたも、これら6つのすべてを、絶えず意識的 に実行すれば、多くの喜びに満たされるだろう。そ れは私か身をもって体験したことだ。  人生巻き返し  それは2011年のこと。友人だちと砂漠地帯の オフロードアドベンチャーに出かけた私は、4輪バ ギーで湖岸の砂浜を時速40マイル(約64キロ)で疾 走中に、車両を全損させる事故に遭った。私は、手 首骨折、股関節脱臼、肋骨亀裂骨折を負い、後に、 外傷性脳損傷による脳震とう後症候群と診断された。  私の人生の中で非常に辛い時期だった。外傷性脳 損傷のせいで、集中力、抽象的推論能力(※)、記 憶力、平衡感覚が落ちた。流れに身を任せ、情動に 流され、理性を失った状態が数週間続いた。日常生 活での苛立ちをうまくコントロールできなかった −というか、正直な話、十分な努力をしていな かったと思う。身体のケガを治すことばかりに意識 が向いて、頭部外傷の影響を受けた精神面を整える ことをおろそかにしていたのだ。その結果、チーム に対して怒りっぽかったり、妻に対してぶっきらぼ うな態度を取ったり、先のことを考えられなくなっ たりなど、ともかく不機嫌だった。  だがある囗、(イパフォーマーに関する調査結果 を読んでいた私は、自分が朝の習慣を実践していな いこと気づいた。そして、何か新しいメンタルトリ ガー(X)をつくり、生活にもっとポジティブな感 情や体験を取り込むようにしないと、脳の損傷に負 け、情動に反応してネガティブな気持ちになり、惨 めな思いをするのがデフォルトになってしまうと思 い至った。そこで、ハイパフォーマーたちが自らの 人生に喜びをつくり出すために実践している6つの ことを調べ、新しい朝の習慣とトリガー設定を始め た。  まず、ポジティブな1日を送るためのフライミン クとして、毎朝シャワーを浴びながら、次の3つの 問いを自分に投げかけた。  I今日は、何にワクワクできるか?  2今日、足をすくわれる、あるいはストレスの   もとになるかもしれない物事や人は? なれる   最高の自分なら、それにどう反応するか?  3今日、サンクスカードや、ごほうび、承認・   称賛を与えて驚かせたい相手は?  最初の問いを選んだ理由は、非常に多くの(イパ フォーマーたちが、イベントそのものの喜びと同じ くらい、それを楽しみにしてワクワクする気持ちを 楽しんでいると言っていたからだ。神経科学の研究 でも、期待感は、実際のポジティブなイベントその ものと同等に、ドーパミンなどの幸せホルモンを出 すことがわかっている。  ワクワクすることなど何ひとつ思いつかない日は こう自問する。  「じやあ今日、何かワクワクしそうなことをするか、 つくり出すことはできないか?」  2つめの問いは、(イパフォーマーたちが、スト レスフルな状況を想定して、なれる最高の自分なら どう軽やかに対処するだろうと想像しているのを参 考にした。  二人称の立場で声に出して自問し、その答えも声 に出すことが多い。シャワーの中で「おいブレンド ン、今日君のストレスになりそうな人は誰だ? そ のとき、理想の君だったらどう対処する?」とか 「ブレンドン、○○が起きたら、○○を考え、○○ をするんだぞ」などと言うのだ。  その問題に対処している自分を思い描き、そのと きに持つであろう感情を実況することもある。「例 の会議に緊張気味のブレンドンが出ている。心臓が ドキドキしている。自分ばかりに意識が向いて、呼 吸を忘れてるな。今すぐリラックスして、今に集中 し、人に質問したいことや、貢献することを考えな いと」といった具合に。  シャワーの中でストレスフルな状況を想像して、 ひとリブツブツ言うなんて、異様な光景かもしれな い。だが、障害に考えをめぐらせ、二人称で自分に 語りかけるほうが、一人称の独り言より、はるかに 効果的なのだ。私はこれをセルフコーチングと呼ん でいる。自分を離れ、ある程度客観的な立場で困難 な状況に対処する方法をコーチするからだ。実際に 多くのハイパフオーマーがこれをやっている。  この手法は、困難な感情や状況と、自分自身を切 り離すための心理学のテクニック、「脱フュージヨ ン」に似ている。たとえば、不安に対処しようとし ている人なら、不安やネガティブ感情を擬人化して 「へそ曲がりテープ」などと名前をつけるよう指導 される。不安感をどこかの悪者のせいにすることで、 当事者と問題を切り離すのだ。これにより当事者は、 その問題がどこかからやってきて、ドアをノックし てくるイメージを持てる。ドアを開けるかどうかは、 その人が選択できるというわけだ。  3つめの問いを選んだ理由は、毎日、いいことを した実感を得るために、自分で種をまくようにした いからだ。前々から、人にどうやってサプライズで 謝意を伝えようかと考えたりしているとき、二重の 喜びを味わえることに気づいていた。まず、感謝す る相手のことを考えているときにありかたい気持ち でいっぱいになり、それを相手に伝えたときにもう 一度実感できる。また、この問いを続けることに よって、自分のI囗に、感謝の念や、サプライズ、 感嘆、挑戦を盛り込む癖がつくのだ。  毎朝、この3つの問いを意識する習慣によって、 私は、熱意を持ってI囗を始め、最高の自分で課題 に対峙し、感謝の念をもってワクワクしながら他者 に接することができるようになった。  このシンプルな朝の習慣により、期待感、希望、 好奇心、楽観が生まれる。これらのポジティブ感情 は、あなたを幸せに導き、コルチゾール値とストレ スを柢下させ、寿命を延ばすなどの、健康効果があ る。  メンタルトリガーをつくる  私か面接した(イパフォーマーは皆、自分で自分 の思考をコントロールし、ポジティブな精神状態に 導いていると、口々に語っていた。彼らは、喜びが 舞い降りてくるのを待つのではなく、自らつくり出 しているのだ。  そこで私も、脳の損傷からの回復過程を利用して、 人とのかかわりをポジティブな感情と体験にするよ う自分にリマインドするためのメンタルトリガーを つくることにした。結果的に、次のようなトリガー を設定した。  I「通知」トリガー  「喜びをつくり出す」というモットーを携帯のア ラームのラベルとして登録し、アラームがI囗3回 鳴るように設定した。会議中でも、電話中でも、 メール作成中でも、携帯のアラームが鳴ると、「喜 びをつくり出す’・」という文字が表示される。(「明 確化」の章で言ったように、私は、自分がどんな人間で いたいか、どのように人と接したいかを自分にリマイン ドするようにしてい亘。誰でも、携帯が振動すれば 必ず見るはずだ。おかげで、事故からの回復途上、 流されるように物事をこなしていたときも、日中携 帯が鳴って、今ここに喜びをつくり出すようリマイ ンドしてくれた。このリマインダーは、もう何年に もわたって、日常生活でポジティブな気持ちをつく り出すよう、私の顕在意識と潜在意識の両方に働き かけてくれている。  2「入口」トリガー  私は、部屋の戸口などをくぐるたびに、自分自身 に「この部屋にはいいことがある。私は、幸せな、 貢献したくて仕方がない男としてここに大ってい く」と言い聞かせているのだ。この習慣によって、 「今ここ」感覚が得られ、人の良いところを見いだ すことができ、人の役に立つ心がまえができる。あ なたが入口をくぐるたびに自分に言い聞かせるのは、 どんなモットーや言葉だろう?  3「レジ待ち」トリガー  買い物中のレジ待ちのときに「今の私か感じてい る『今ここ』感覚とポジティブな『気』は、Iから 10のあいだのどの程度か?」と自問している。この 質問によって、自分の心の状態を点数で自己評価し、 自分の合格点に達しているかをチェックしているの だ。レベルが5以下だとハッとして「でも生きてい てよかったよな。エネルギーを上げて、人生を楽し もう’・」と言うのだ。自分が望むレベルのポジティ ブな気を感じられていない自覚とそれに対する罪悪 感が、パワーアップのモチベーションになることも あるのだ。  4「スキンシップ」トリガー  私は、人から誰かに紹介されるたびに、その相手 に(グをしている。それは、生まれつき(グ魔だか らというわけではない。スキンシップが、いかに心 身の健康と幸せに不可欠かを示す研究結果があまり にも多いので始めたのだ。  5「恩恵」トリガー  身のまわりでポジティブな出来事があるたびに、 私は「なんという恩恵’・」と言っている。これも、 多くの(イパフォーマーたちが、日々、崇敬の念や 神聖さを感じていると言っているのを参考にした。 神の恵みを心からありかたく思う宗教的な気持ち、 あるいは、この世の美しさに対する感動と畏敬の念 を指す。  また、自分の人生における天与の贈り物に対し 「恵まれていることへの罪悪感」を持っている人だ ちもいる。自分はこれまであまりにも多くのものや 機会に恵まれてきたので、恩恵を受けるにふさわし い者になるべく、お返しをする責任があると考えて いるのだ(聖なる感覚を日々の活動や交流に注ぎ込む能 力は、スピリチュアルーインテリジェンス(魂の知性) という、もう1つの人間的知性だとする科学者もい亘。 そんなわけで、取引きが決まったり、誰かが大事な 人に関する良い知らせを聞いたなど、何かしら予期 せぬポジティブなことが起きると、私は「なんとい う思恵だろう’・」と言っている。  6「ストレス」トリガー  私は、脳の損傷のせいで、常に焦りを感じ、ほぼ パニック状態だった。だがある囗、私はもう焦燥感 とストレスとは縁を切ってやろうと決心した。スト レスは自分でっくり出しているものだから、もう生 産をストップしようと決めたのだ。私はもともと、 混沌の中でも内なる平静と喜びを選択することはで きると常に信じていたので、それを実行しようと。 そして、手に負えない焦燥感に襲われそうになった ら、立ち上かって10同深呼吸をし、「私か今集中で きるポジティブなことは何か? 今取るべき、品格 のある正しい行動は何か?」と問うことにした。時 とともに、この習慣が、ケガによるストレスフルな 焦燥感から力を奪っていった。  私は、トリガーにつけ加えて、毎晩ジャーテリン グをし始めた。昼間、うれしかったことを3つ書き 出し、ほんの数秒間目を閉じて、そのときのことを 追体験するというアクティビティだ。そのとき体験 した状況に再度身を置き、見たもの、聞いたもの、 感じたことを再現する。すると、実際のそのときよ りも、振り返っているときのほうが、より丁寧に集 中してその出来事のありがたみを感じたりする。脳 内で再生しているときのほうが、笑い方も、心臓の 鼓動も、泣き方も大きいし、驚嘆、満足、感謝の気 持ち、人生の意味やありがたみも、増幅されて感じ られるのである。  さらに、毎週日曜日の夜にもう一度同じことをす る。その週に見つけたうれしかったことのすべてを 再度、魂を込めて追体験するのだ。5分間目を閉じ て、その間、感謝することが絶え間なく思い浮かぶ ようなら、その週をきちんと過ごせたあかしだ。  ご存じのとおり、感謝は、数ある感情の中でも究 極のポジティブ感情だ。感謝がポジティブ心理学運 動の中核となっているのは、効果があるからに他な らない。感謝日記を始める以上に幸福度を上げてく れる方法は他にないのだ。  感謝は、人生の意味を見ることができる黄金の額 縁。  以上のような方策のおかげで、喜びを、私の心と 生活の最優先に据えて、頭部損傷からの回復期を過 ごすことができた。  また、同じような習慣とトリガーを実践して身体 の不調から立ち直った(イパフオーマーにもたくさ ん出会っている。本章の冒頭で紹介したテック業界 の大物、アルジュンともこの話を共有したが、彼は、 ポジティブ感情を喚起するためトリガーを意識的に つくったことがなかった。彼は「バランスがとれて いて、人生で起きたことに淡々と対応するのが得 意」だと自負していたが、人生にうまく対応するだ けでは、隕られた人生しか送れないことに気づいた。 自分の人生に喜びをつくり出そうという意図を持っ て、リマインダーを設定しなければ、人生のすべて を味わい尽くせない。  アルジュンは、生活に、たった3つか4つのトリ ガーを設定しただけで、すっかり変わった。彼のお 気に入りのトリガーは2つ。1つは、I人きりのと きにストレスを感じたら、立ち上がって10同深呼吸 し、「なれる最高の自分ならこの状況にどう対処す るだろう?」と自問するというもの。もう1つは、 奥さんに名前を呼ばれるたびに、自分に「お前がこ の地球に生まれてきたのはこの女性のためなんだか ら、彼女の人生に喜びをもたらせ」と言い聞かせる というトリガーだ。  周囲のために自分の干不ルギーを高めようという 彼の意図は、皆さんにもぜひ見習ってほしいものだ。 自分が、常に、あわただしさや、心配、ストレス、 忙しさにかまけている状態では、大にエネルギーを 高めろなどと言えない。自分のために、生活にもっ とマインドフルネスや喜びを取り入れようと思わな いなら、周囲の人のためにやろう。あなたの野放し のネガティブ感情が伝染し、迷惑しているかもしれ ない。  (イフォーマーたちは、自分の考え方や、フォー カスの対象、エングージの仕方、日々の振り返り方 を選択的にコントロールすることによって、喜びを 培っている。自分で決めているのである。喜びをつ くり出すために、自らの意志や行動を変えているの だ。それが、自分自身を生き生きとさせるだけでな く、他者のためにもなる。今こそ目を覚まし、若々 しいスピリットで世の中への再デビューを果たそう。 ACTION2のまとめ 「喜びをつくり出す」マイノート ー ー囗を通してポジティブ感情を引き出すために、  毎朝自分に投げかける3つの質問候補は…… 2 自分にスイッチを入れるために新たに設定する  トリガーの候補は……(私の通知トリガー、入口ト  リガー、レジ待ちトリガーなどを参考にしてほしい) 3 その囗に起きたポジティブな出来事を追体験す  るためにどんなルーティンを始めるか…… 4 今度ネガティブな情動がわき起こったときに自  分に言い聞かせたいことは…… ※可塑性  脳が環境や経験の刺激に応じて、自らを変化させる能  力。 ※抽象的推論能力  不慣れな問題でも、物事の道理を推測して解釈を導き  出す能力。 ※メンタルトリガー  それをきっかけに自分に自然とスイッチが入るような 特定の儀式や環境。  ACTI()X3  健康状態を最適化する  この章を書き始める前、私はコンピューターの前 から立ち上かってキッチンヘ行き、水を一杯飲んで、 地下室へ降り、フィットネスバイクで3分間スプリ ントをし、ストレッチとして、ヴィンヤサーフ ロー・ヨガを2分。そして仕事部屋に戻って座り、 目を閉じて、「緊張解除と意図設定」をやった。セ ミナーの控え室でも、仕事に臨む前に、身体を活性 化し、心を整えるという、同様のル上アインを実践 している。こうした自己規律もやはり、常に運動や 呼吸法で干不ルギー向上を図っている(イパフオー マーだちから学んだものだ。彼らは、一般的な人よ り健康的なものを食べ、多く運動していたので、私 も真似し始めたのだ。  だがずっとそうだったわけではない。20代後半の ときは、かなり不健康な生活だった。コンサルタン トとして、毎日12〜16時間働いていた。仕事の大半 は、コンピューターの前に座ってプレゼンやカリ キュラムを作成する作業。座りっぱなしだっだので、 古い傷が腰痛を引き起こした。その腰痛のせいで、 運動もままならなくなった。するとまもなく、多く の人が陥る、健康管理を怠るという落とし穴には まった。きちんとした睡眠をとらず、不健康な食事 をし、運動もめったにしなかった。  それが、職場でのパフォーマンスにも生活全般に も影響していることはわかっていた。だが、悪循環 を断ち切るのは難しかった。それは、健康になるな んて至難の業だというでたらめを自分に言い聞かせ ていたからだ。  不健康な状態にある人というのは、健康維持の方 法を知らなくてそうなっているのではない。身体的 干不ルギーを高める方法など、今どき、誰だって 知っている。運動−もっと頻繁にワークアウトす る。栄養−もっと健康的なものを食べる。睡眠 −7〜8時間は寝るようにする。常識だ。  異論の余地などないはずだが、馬鹿げた屁理屈を こねて、これらのことができていない自分を正当化 する人が少なくない。自分の干不ルギーの柢さを、 自身の体質や、業界/社風/義理のせいにする人が あまりにも多い。  何を隠そう私もそうだった。以下のような、ずさ んなこじつけを言っていた。   「ウチの業 で’Vこのくらいハードに1くのが  普通だから、  私もどこかでnかを  にしなくて’l」  それで何を犠牲にするかというと、健康への気配 りだ。もちろん私の言う「ウチの業界」とは、周囲 にいる5人の超仕事人間のことだ。彼らも、同じよ うに健康や家族を顧みていなかったので、それが業 界全体の基準だと勘違いしていたのだ。  幸運にも、私か当時在籍していたのはグローバル 企業だったため、自分と同じ職位でも、それどころ か、私と同じかそれ以上の職位でも、私よりも健康 に気を配り、人生を楽しみ、より大きな成果をあげ ている人がたくさんいることに気づいた。私と同じ 仕事をしながらも、健康をしっかり管理する方法が あることは明らかたった。   「だって、今まで5ヽ間 ―で業幺’をあげてき  たのだから、  私の口合、 l’V(エネノギー仞下と)関係な  I  い」  では、もし睡眠を2時間よけいにとればあとどの くらい業績をあげられるか、という当たり前の思考 展開ができず、私はこんなことを言っていたのだ。 実際に、睡眠不足は、私か成功した要因ではない。 寝なかったおかげで優位に立てたわけではない。で も若くて愚かだった私は、短時間の睡眠でいかに疲 れを取るかという、睡眠パックのリサーチを始めた。  調べるうちに、50年にわたって行われた睡眠研究 の結果に行きついた。適切な睡眠時間(大部分の成 人の場合、約7〜8時間)は、より高い認知スコア、 柢いストレス、高い生活満足度、良好な健康状態、 高い生産性、高い収益性、少ない対立につながると いうものだ。その文献には、睡眠不足が、精神疾患、 肥満、冠状動脈性心疾患、脳卒中など、多くの問題 と関連づけられていると明記されていた。   「3ヵ月経ったらまた 康や幸 に気を酉るよ  うにする。  今’Vどうしても忙しいんだ」  これを言う人は、往々にして、疲労の悪循環から 永遠に抜け出せない。3ヵ月というが、現実には、 今までもこれからも、その人が休んで生き返った実 感を得られるのは、何年も先になるだろう。私も一 時期、その状態に陥っていたが、日々−集中的な 短期間も含めてIやっていることが積み重なり、 抜け出せない悪習慣となるのだ。   「私’Vそういうf質だから」  私は、先天性の脊椎の異常を持っていたり、交通 事故に遭ったりしたために体調が悪いという、生物 学的/遺伝的要因説を唱えていた。だがそれは、説 得力に乏しい。  たしかに、家族歴や特定の遺伝的要因が引き起こ す病気はある。とりわけ、がんや、心疾患、糖尿病、 自己免疫疾患、精神疾患などは、家族歴の影響が大 きい。  ただ、健康状態は自分で変えられるという現実に 気づくのに、インスタグラムのビフォー・アフター 写真をたくさん見る必要はない。人間は、全般的、 長期的健康をコントロールする、すごい力を持って いるのだ。日々の習慣や環境で、遺伝因子の発現が 活性化されたり抑制されたりもする。また、運動不 足があらゆる健康問題を引き起こす主要因の一つで あることが、あらゆる研究分野で繰り返し証明され ている。   「OOしているIなんてない」  この言い訳を使いたくなる○○というのは、たい てい運動だとか、健康的な食事や食品・食材の買い 物、瞑想などだ。だが私は、このどれもが、たいし た時間を要さないことを知った。逆に、これらに よって元気になり、生産性が上がることで、時間の 元が取れることが多い。運動や健康な食事に時間を 費やすことによって、頭の同転がよくなり、注意が 行き届くようになって、ひいては大事なことをもっ とアウトプットできるようになるのだから、時間の 損にはならない。  今こんなことを申し上げたのは、こうした間違っ た考えに陥るのは、自分だけではないとわかってい るからだ。不健康な選択を続ける言い訳として、他 にどんなことを自分に言い聞かせているだろう? 嫌な質問だとは思うが、考えてみる価値はある。  そこで、今ここで、あなたの身体の健康状態を測 定してみよう。あなたの身体の健康状態を10段階で 評価してほしい。Iを死にそうな状態、10を基本的 にいつも身体が干不ルギーと力に満ちている状態と する。さて、あなたのレベルはいくつだろう?  7以上でない人は、このセクションが本書の中で 最も重要になるだろう。身体の健康にもっと気を配 るだけで、精神的・感情的干不ルギーが、即刻上が るはずだ。心の状態や身体的干不ルギーは、世界の 見えかたを変える。気分が最悪のときは、物事が最 悪に見え、最高のときは最高に見える。あなたには、 最高の状態でいてほしい。  今すぐ体づくりを始めよう  自分に正直になれば、あなたには運動が必要だと いう研究結果が決定的であると認めざるを得ないは ずだ。あなたはもっともっと運動する必要がある。 認知機能を重視するならなおさらだ。運動は、BD NF(脳出来神経栄養因子)の産生を増やす。BDN Fが海馬などの領域でニューロン(神経細胞)の新 生を促すので、脳の可塑性が高まり、学習が速くな り、記憶力が上がり、脳の全体的な機能が向上する。 運動は学習能力を向上させる、というとても大きな ポイントを、あまりにも多くの人が見逃している。 運動はまた、ストレスを軽減する。ストレスは、B DNFと全体的な認知機能を柢下させるので、運動 は、そのストレスの多くを取り除いてくれる最善の 方法なのだ。  運動は干不ルギーを高めてくれるので、一般的な タスクをこなすスピードや効率も高まる。さらに、 ワーキングメモリーも、気分も、注意力も向上し、 頭の同転が速くなる。これらはすべて、パフォーマ ンス向上につながる。  したがって、仕事や生活で学習の速さが求められ るなら、ストレスに対処し、頭が活発に働き、注意 を払い、大事なことを記憶し、前向きな気分を保て なければならない。それには、もっと本気で運動に 取り組む必要があるのだ。  世界に対する自分の貢献度を気にかけるなら、自 分自身のケアが大切だ。だからといって、ルームラ ンナーで死ぬほどがんばる必要はない。実は、前に 挙げたほぼすべての効果が、軽度の運動で得られる。 週に数回でいい。適切な運動メニューを再開すれば いい。たった6週間の運動でも、脳内のドーパミン の産生と受容が促進し、気分と認知機能が向上する ことが証明されている。運動はまた、ノルアドレナ リンの分泌も促し、それによって、頭を使うタスク でのミスを減らすことができる。運動は、身体・精 神・感情すべての面の干不ルギーを向上させるとい うことを覚えておこう。  2万人以上の(イパフオーマーを対象とした私だ ちの調査では、驚くべきことに、HPIスコアが上 位5パーセントの(イパフォーマーは、週に3同以 上運動をしている割合が、残りの95パーセントに比 べて、40パーセント高かった。人生の成功者に仲間 入りしたいなら、明らかに、真剣に運動に取り組む べきときが来ている。  子どもがいる人は、その倍の本気度で臨むべきだ。 子どもたちに健康的な習慣を受け継ぐことが不可欠 だからである。運動能力が正常な子どもは、そうで ない子に比べ、注意力が高い。運動は、IQと長期 的な学業成績に明確な違いをもたらす。  そしてあなた自身はもう子どもではなく、高い年 齢層に属するので、運動がすべてと言って過言では ない。  運動は、うつにも、薬と同じくらい効果があるこ とが研究で示されている(ただし、薬の代用になると 考えるべきではない)。運動量が多い人ほどうつにな りにくいのは、脳内のドーパミン分泌量が増えるた めと考えられている。  運動はまた、セロトニンの分泌も促し、よく眠れ るようになる。それによって、さらにセロトニンが 分泌される(ご存じないかもしれないが、ほとんどの抗 うっ薬は、脳内のセロトニン濃度を上昇させるために、 放出されたセロトニンの再取り込みを阻害することを標 的としている。非常に多くの研究者が、抗うっ薬を服用 している患者にも、していない患者にも、運動を推奨し ているのはそのためなのだ)。  運動はまた、鎮痛作用(テトラヒドロカンナビノー ル(THC)の作用にほぼ匹敵する)や、不安を軽減 する作用も持つ。この2つは、高齢者にとって大き な問題である。  昨今、人びとのストレスが高まっていることは誰 もが認めるだろう。肌で感じているはずだ。その脅 威に対処する一番の方法は、自身で(日々、意図的 により多くの喜びをつくり出すことで)ポジティブな 気持ちを感じ、運動で緊張を緩めることだ。約束す る。運動を、きわめて重要な生活の一部に位置づけ れば、他のいろいろなことがおのずと魔法のように うまく行くようになる。  運動の日課を決めたら、次は食事の改善に取りか かろう。アメリカでは現在、成人の60パーセントが 肥満だ。その原因は、身体を動かす活動が減ったせ いだけではない。過食も大きな原因である。  とにかく食べ過ぎているために、健康にひどい悪 影響が及んだり、パフォーマンスが下がったりして いる。過食は依存症とよく似ており、一部の人は、 脳の仕組みのせいで食べ過ぎてしまうことが研究で わかっている。とはいえ、一般的には、単に間違っ た判断をしたIすなわち、長期的な健康よりも短 期的な満足を選んだI結果であると結論づけられ ている。  すべての医師や療法家が繰り返し提唱する原則を 1つ挙げるとすれば、それは「栄養補給のための食 事よりも、ネガティブな気分を解消するためのやけ 食いに注意すべき」であるということだ。  ネガティブな気持ちになったら、とにかく身体を 動かそう。食事の前に散歩に出かけ、気分転換を図 ることだ。必ずしも簡単でないことはわかっている。 でも、努力する価値はある。なぜなら、食事前に気 分を変えることができれば、よリヘルシーな選択が できるからだ。それが鍵である。何を食べるかは、 健康と生産性を高める要因として、運動と同じくら い重要なのだ。「食事を改善し、気分を改善し、パ フォーマンスを改善せよ」というのは真理である。 これは個人だけの問題ではない。きちんとした栄養 を摂ることは、国全体のマクロ経済パフォーマンス に大きな効果をもたらす。特に子どもの場合、認知 能力や学業成績が、適切な栄養摂取と直接結びつい ている。  あなたは、食生活を改善する必要性をとっくにわ かっているはずなので、私から言えるのは、始めよ うのひと言だ。また栄養士に、食物アレルギーー 干不ルギー消耗のよくある原因−の検査を頼み、 あなたのパフォーマンス向上に最適な食事を考えて もらおう。  何から始めるか  干不ルギー向上を目指す多くの人たちを個人指導 してきてわかったのは、健康増進に取り組もうとす る場合、健康状態がおおむね良好な人は、定期的な ワークアウトの計画から始めるのがいいということ だ。ワークアウトを始めると、自然と食事や睡眠に も気を使うようになる人が多いからである。  一方、私の経験から思うに、健康状態がよくない 人は先に食習慣の改善をしてから運動を始めるほう がやりやすい。減量は、週3同ジムに通うよりも、 食生活を変えたほうが、達成しやすいからだ。ジム 通いは慣れない習慣だが、食事はそうではない。食 べるものを変えさせるほうが、定期的な運動という、 まったく新しい習慣を取り入れさせるより簡単なの だ。  常に言われるように、身体の健康にかかわるルー ティンを変えるときは、事前に医師に相談しよう。 良い医者なら必ず、質の高い睡眠と、栄養と、運動 メニューを提案してくれるはずだ。逆に、あなたの 健康習慣を細かく訊いてくることもなく、あなたの 健康目標に沿った食事や運動や睡眠パターンを勧め もしない医療従事者なら、よそに相談したほうがい い。  また自身だけでなく、自分の周囲も、健康に気づ かう人で固めるように、環境を整えることを勧める。 勤めている会社が、運動や、多岐にわたる心身の健 康−安全、身体の健康、幸福、充実感などIを 推進していないなら要注意だ。社員の心身の健康に 配慮しない企業は、競合他社よりも業績が柢いのだ。 とは言っても、自分の会社が社員の心身の健康をサ ポートしていると答えたアメリカの労働者は、全体 の半分に満たない。そして、3人にI人が、仕事で 慢性的なストレスを感じていると答えている。また、 雇用主が社員の健康的なライフスタイルの確立と維 持を支援していると答えたのは、わずか41パーセン トだった。心身の健康管理は、誰かがやってくれる ものではなく、明らかに、私たち一人ひとりにか かっていると思ったほうがいい。  私か企業の幹部にコーチングをするときは、これ に関して厳しく言っている。その人がI週間を捧げ ている組織が、心身の健康を推進していないなら、 社員の心身の健康を重要事項にする社内イニシア ティブを自分で旗揚げするか、そうでなければ、転 職先を探し始めるようアドバイスしている。もちろ ん、(イパフオーマーだちと仕事をし、自分も(イ パフオーマーになりたいなら、という前提での助言 である。  私のセミナーでは、これから12ヵ月で自分を人生 最高の健康状態にする、というチャレンジを受講者 に課している。こういうことに本気で取り組んだこ とのない人の多さには驚く。以下、挑戦したい人の ためのコツをいくつか紹介する。  ●健康の最適化のためにやるべきとわかってい   ることから始める  運動をもつとするべき、植物性食品をもつと食べ るべき、睡眠をもっととるべきなど、目標はもう決 まっている。そして、自分の胸に訊けば、具体的に どうすればいいかもわかっているだろう。コミット できるか、習慣化できるかだけの問題なのだ。  ●自分の身体に関する、わかる限りの計測値や   数値を知っておく  かかりつけ医に行って、総合的な健康診断を受け よう。今後12ヵ月のあいたに、人生最高の健康状態 になりたいと伝え、あなたの健康状態を評価するの に妥当な検査項目をすべて盛り込んでもらおう。B MI値や、コレステロール値、中性脂肪値、さまざ まな検査によるリスク要因などがわかる。スタン ダードな健康診断ではなく、その医療機関が提供す る最も総合的な検査を希望しよう。今年の大きな買 い物を選ぶなら、ぜひ自分の健康にしよう。いつも の健康診断ではやってもらえない血液検査や、胸部 X線検査、予防接種の見直し、がん検診、脳の画像 診断などもやっているところを探そう。  ●かかりつけ医に加え、地元で一番のスポーツ   医学の専門医を探す  プロのアスリートを診ている人を見つけたい。ス ポーツ医は、まったく異なる角度から健康の最適化 にアプローチする。  ●町一番の栄養士を見つけて、オーダーメイド   の食事プランを立ててもらう  栄養管理も、何をどうすればわからないなら、町 一番の栄養士を見つけて、オーダーメイドの食事プ ランを立ててもらおう。必ず食物アレルギーの検査 を受け、何を、いつ、どのくらい食べるべきかを明 確に理解したい。すばらしい栄養士のカウンセリン グを一度受けただけで、人生が永久に変わることも ある。  ●毎晩8時間寝る訓練を始める  「訓練」と言ったのは、朝まで目を覚まさずに寝ら れる人は少数だからだ。それは生物学的原因ではな く、寝るための身体と環境の準備を整えていないた めだ。そこで次のことを試してほしい。寝る前の1 時間は、スマホ、パソコン、テレビなどの画面を見 ない。夜間の室内温度を摂氏20度に調整する。外か らの光や音を遮断する。夜中に目が覚めても、起き 上がったり、スマホをチェックしたりしない。その ままじっと横だわっていることに慣れる。何かあっ ても8時間はベッドで横になっていなければならな いと自分の身体に教え込むのだ。この他の睡眠のコ ツについては、私のよき友人アリアナー(フイント ンの著書『スリープーレボリューション 最高の結 果を残すための「睡眠革命に(本間徳子訳・日経B P社・2016年)を一読することを勧める。  ●パーソナルトレーナーをつける  最適な体づくりを、人生の主要目標の1つに掲げ るのなら、何かあっても、トレーナーなしで健康の 最適化に取り組むべきではない。もちろん、自宅で ワークアウトの動画を見たりするのはかまわないが、 トレーナーをつけて逃げられない環境をつくったほ うが、良い成果が得られる。もしトレーナーを雇う 金銭的余裕がない場合は、驚異的な体づくりに成功 している友達を探して、一緒にワークアウトをして くれないか訊いてみよう。この際、邪魔なプライド は捨てる。友達についていけなくても、行くのをや めないこと。ワークアウトのついでに社交も日課に しよう。  ● 「2・2・2」プラン  シンプルなビギナープランをお望みの人には、医 師が許すなら、「2・2・2」プランを提案したい。 20分間のウェイトリフティングと、20分間の有酸素 運動を、それぞれ週に2同ずつ行うというものだ。 すべてのセッションを、全力の約75パーセントくら いIすなわち高強度で行う。激しい運動は週に4 同だけと言い換えることができる。あとの3囗は、 早足のウォーキングを20〜45分間程度でいい。  繰り返すが、これがあなたに最適なメニューかど うか、主治医に相談してほしい。そして強度は、 徐々に上げていくこと。何もしたことがない状態か ら、いきなり75パーセントの強度を目指さない。さ もないと、ケガやひどい筋肉痛を起こして、この運 動は自分には無理と結論づけてしまいかねない。そ れは最悪のシナリオだ。  ●ストレッチをもっともっと頻繁に行う  5〜10分の軽いストレッチかヨガを、毎日の朝晩 に行うと、身体が柔らかく、動きやすくなる。身体 のコリや緊張がほぐれるのだ。 ACTION roのまとめ 「健康状態を最適化する」マイノート ー私か人生の現段階で可能なかぎり健康になりだ  い理由は…… 2人生最高の体づくりのために、まずやめるべき  3つのことは…… 3まず始めることは(複数可)…… 4健康になるために続けたい週間スケジュール  は……  身体づくりへのコミットメント  干不ルギーは、ハイパフォーマンスに不可欠だ。 他の習慣をすべて実践しながら人生を生きたとして も、干不ルギーの生み出し方をマスターしていなけ れば、コンディションが整わない。頭がぼうつとし ていたり、ネガティブ感情に溺れたり、身体が疲弊 していたりしてはだめだ。ただ幸いなことに、そう した状態は、往々にして悪い選択の結果であり、悪 い遺伝子のせいではない。つまり、あなたが選択す れば、総体的な干不ルギーのレベルを最適化するこ とができるということだ。それは、私たちの究極の 義務とも言える。なぜなら、仕事、愛情、運動、敬 愛、リーダーシップなど、すべてが干不ルギーにか かっているからだ。  干不ルギー増強をコミットメントにしよう。まず は日中、もっとこまめに心と身体の緊張を緩めるよ うにし、日々の生活で自ら喜びをつくり出すところ から始める。そして、これから12ヵ月以内に人生最 高の健康状態になる決意を、今すぐ固めよう。  たしかに(Iドルの高い目標ではある。だが今ま で、この手の本を読んで一念発起したことなどない 人なら、その努力をするだけで、人生が変わるはず だ。1年後にあなたから「ブレンドン、あなたの勧 めは何ひとつ実践していませんI健康増進を除い ては」というメールをもらえたら、私はそれだけで も最高にうれしい。  「他に何かできたっていうんだ?」  アイザックがそう言うと、彼を囲む3人の海兵 隊員がうなずく。  ウエイトレスがコーヒーを注ぎ足しにきた。  私は「他に選択肢がなかったんですね?」と訊 くと、彼は笑って言った。  「いや、いつだって選択肢はありますよ。そのと きは、漏らすか、逃げるか、海兵隊らしく振る舞 うか、という3つの選択肢がありました」  誰よりも大笑いしたのは私だった。他の男たち は、この手の話に慣れていてなんとも思わないよ うだ。  私は続けて訊いた。  「爆発があったほうに走っていくとき、自分に何 と言い聞かせたんですか?」  それはちょうどアイザックが徒歩で警備をして いたときだった。彼の小隊の車両が手製爆弾に当 だったのだ。彼は爆風に吹き飛ばされた。意識が 戻ると、立ちのぼる煙に包まれ、くすぶっている 車両が、さらなる攻撃を受けているのが見え、す かさずそこに向かって走り出したのだった。  「部下に死んでほしくないという一心。それしか 考えていません。部下のことしか」  アイザックが、カフェの窓から外を見つめると、 沈黙が訪れた。皆がそれぞれの回想にふけってい た瞬間だ。  「たまにあるんですよ」と、アイザックは続けた。  「自分のすべてが脳裏にフラッシュバックしてく るような瞬間が。実際は数分の出来事が、2時間 映画のように長く感じられました。自分の生涯と 信念のすべてが、この瞬間のためにあったという ような感覚でした」  そして、自分の車イスに目をやってこう言った。  「でも自分が思っていたようには終わらなかった。 私はもう使いものにならない。おしまいなんで す」  アイザックは、二度と歩けないかもしれない。 彼は、爆発で生き残ったI人をかばって、避難を 手伝ったヒーローだ。親しい友人のI人たった負 傷兵を安全な場所に避難させたところで銃弾を受 けたのだ。  そこにいた海兵隊員の1人が一蹴する。  「おしまいなんかじゃないって。治るよ。ちゃん と元通りになるさ」  アイザックがすかさず噛みつく。  「俺をちゃんと見て言ってるのか? 自分で何も できないんだぞ。自国に尽くすこともできない。 こんなふうに生きて、何の意味があるんだ?」  彼の仲間たちが、目で私に助けを求めてきた。  「たしかに」と私は言った。  「無意味かもIあなた自身が意味を生み出そう としなければ。あなたの苦しみは、『私はあきら めるという対処法を選びました』と世間に伝える ためだったのか、それとも、ご自身と海兵隊の皆 さんと世間に、あなたの奉仕の精神を止めるもの は何もないことを示すためだったのか? どちら の意味づけをするかです」  私の言葉は不発に終わった。  アイザックは腕を組んで「それでも意味がわか らない」と言う。  すると仲間のI人が体を寄せて言った。「意味 はずっとわからないままだよ。ただ、自分の存在 する理由がなかったら終わるが、理由を自分で選 ぶんだよ。回復しなくちやいけないことはないよ。 でも、しなくちやいけないと思う選択もアリだ。 どっちを選ぶかはお前だ。1つは、人生を惨めに する最低の選択肢。もう1つは、自分をベッドか ら引きずり出す選択肢だ」  アイザックは「そんなことするかよ」とつぶや いて、黙り込んだ。あきらめるべきか、生きるべ きかの瀬戸際に立つ人を目の前に何も言えないと いう、誰もが避けたがる沈黙だった。  そして彼が、そんな選択を今することはないと 思っていることが明らかになった。その態度に、 仲間たちがイラついているのもわかった。うやむ やな態度は、海兵隊員の得意とするものではない。 ついに仲間のI人が、アイザックから数インチの 距離まで顔を近づけ、軍人でなければあり得ない 気迫で彼を見つめた。  「なあ、お前には他の選択肢はないんだよ。お前 は、回復に専心するしかないんだ。自分の小隊を 訓練したときと同じように、海兵隊員らしくな。 家族がお前を頼つてるし、俺たちも寄り添うさ’・ でも、言い訳は許さないぞ。戦士が背負う運命は、 自分の傷よりも偉大なんだから」  私かこのエピソードを紹介したのは、感動とは対 極にある事実−すなわち、誰も無理する必要はな いということ。人生でも、仕事でも、家族のために も、いつも期待を上回る必要などないのだ。キツい 囗に、ベッドから這い出る必要もないし、できる限 り最高の自分でいようと気にかける必要もないし、 並外れた人生を送るためにがんばる必要もない。そ れでも、そうせねばと思う人たちがいる。それはな ぜか?  その答えは、パフォーマンスの必然性という言葉 で説明できる。これは、人間のモチベーションと卓 越性を生み出す最強の原動力の一つだ。  アイザックの身体は良くなるのかどうかは、多く の意味で、ひとえに彼自身の努力にかかっていた。 医師たちは、がんばれば歩けるようになる可能性が ある、保証はできないが可能性はあると言っていた。  では、心の回復はどうか? それも彼次第だ。彼 には、周囲の人びとの多くの支えがある。ただ、自 分に必要な支えを周囲が申し出てくれても、それを 受け入れない人もたくさんいる。その違いを生むの は、その人が、ぜひとも回復しなければならないと 心に決めるかどうかなのだ。必然性を感じなければ、 努力を続けられないのだ。  必然性とは、偉大なパフォーマンスを発揮「した い」ではなく、「しなければならない」と思う、感 情的動因(心理的欲求)なのだ。何かをしたいとい う弱めの願望とは違って、必然性は、行動を起こせ という、自らへの要求である。必然性を感じたら、 ああしたいとか、こうなればいいなと願うのではな く、何か何でもやり遂げる。そうするしかない。あ まり選択肢はない。心と魂と、その瞬間のニーズが、 あなたに行動しろと命令する。そうするのが正しい、 という感覚であり、その行動を起こさなければ、自 分で自分に失望する。自分の基準に従っていない、 自分の義務や責任を果たしていない、自分の背負っ た使命や運命をまっとうしていないと感じるのだ。 必然性は、自分のアイデンティティにかかわってい ることもあり、行動を起こさねばという切迫感を伴 い、普段より強烈なモチベーションをわき上がらせ る。  こうした「心と魂」だとか「運命」うんぬんは、 なんだか感傷的に聞こえるかもしれないが、現に、 これが(イパフオーマーの多くの行動の裏にあるモ チベーションだと、当事者たちが説明しているのだ。  たとえば、私はよく、(イパフオーマーたちへの インタビューで、あなたはなぜそんなにがんばるの か、なぜそんなに意識がブレないのか、なぜそんな に覚悟が揺らがないのかと訊くのだが、返ってくる 彼らの答えは、おしなべて以下のようなものだ。 ●私はそういう人間なんです。 ●私はそのように生まれてきたんです。 ●そうしないことは考えられませんね。  また、責任感や必然性をこんなふうに言い表して いる。 ●みんなが今、私を必要とし、私を頼りにしてい  るんです。 ●この機会を逃すわけにはいかないんです。 ●今これをしなかったら、一生後悔するでしょう。  彼らの言っていることは、アイザックが「自分の 生涯と信念のすべてが、この瞬間のためにあったと いうような感覚」と言ったのと重なる。  高い必然性を感じている人は、次の文言が、自分 に非常に当てはまると答えている。  「成功への深い感情的動因とコミットメントを感じ、 絶えずそれに突き動かされて、懸命に努力し、自ら を律し、追い込んでいる」  このような記述に当てはまると答える人たちは、 HPIのおよそすべてのカテゴリーにおいてスコア が高い。また、長期的な自信、幸福度、成功度を測 る質問でも、同輩よリスコアが高い。この必然性と いう感情的動因がなければ、どんな方策や、ツール や、戦略があっても役に立だないのだ。  私の研究と、10年にわたる(イパフオーマー育成 の経験から学んだものを1つ選ぶとすれば、それは、 何としても卓越せねばならないという意識なしには、 並外れた人間にはなれないということだ。自分のし ていることにもっと感情的にコミットし、成功(ま たは何であれあなたが追い求めている結果)を、気まぐ れな願望ではなく、必然性として魂の底から追い求 める境地に達していなければならない。  では、どうすればそうなれるのか、というのが本 章のテーマである。  必然性の4大原動力  パフォーマンスを発揮するための必須要素(私は これらを「必然性の4大原動力」と呼んでいる)には、 アイデンティティ、熱中、義務感、切迫感がある。 アイデンティティと熱中は、ほとんどの場合、内発 性、すなわち当事者の心のうちからわいてくる干不 ルギーで、義務感と切迫感は、ほとんどの場合、外 発性、すなわち他者や社会を意識したものだ。それ ぞれが、モチベーションを高める力だが、4つが合 わされば、ほぼ確実に、高いパフォーマンスを発揮 させてくれる。  必然性は、意味合いが必ずしも明確ではないので、 処方を紹介する前に、少し時間を割いて説明したい。 あなたの人生でも、どの領域で必然性を高めれば、 優位性が大きく変わるか特定できるようになるので、 ぜひおつきあい願いたい。  人を内側から突き動かす必然性  あなたは、自分が自身の価値観に沿わない行動を したり、最高の自分を発揮できなかったりして、罪 悪感を抱いたことはないだろうか? たとえば、本 来は正直な人なのに、嘘をつくことが多いと感じて いる、目標を決めたのに達成しないなど。逆に、自 分の言ったことや願望のとおりに行動できたり、良 い人間でいられたりしたときは、とても気持ちが良 いのではないだろうか。そのように、自分のパ フオーマンスに対して悔しがったり満足したりする 気持ちが、私の言う内側から突き動かす必然性であ る。  私たち人間を内側から突き動かし、行動を形づく る必然性にはI価値観、期待、夢、目標、安全・ 帰属・調和・成長への欲求など、いろいろある。こ うした内側からの必然性は、あなた自身の「自分ら しさ」を保ち、なれる最高の自分に近づくよう促す、 内なる羅針盤ともいえる。内側からの力によって、 あなた自身のアイデンティティと行動の形成・再形 成が、生涯繰り返されていくのだ。  私たちは、人を内側から突き動かす必然性の中で も、人が長期的に成功できるかどうかにとりわけ影 響する2つを特定した。それは、自分なりの卓越性 の基準と、特定テーマに対する熱中である。  卓越性に対する高い基準とコミットメント  ハイパフォーマーは、言うまでもなく、自らに高 い基準を課している。もっと具体的に言うと、自ら のアイデンティティに重要と思われるタスクや活動 で良いパフォーマンスができるかどうかに心を砕い ている。そのタスクが自ら選んだものかどうかにか かわらず、また、自分が楽しめるものかどうかにも かかわらず、気にかけているのだ。彼らが良い仕事 をする原動力になっているのは、自身のアイデン ティティであり、必ずしもそれが自ら選択したタス クだからとか、楽しいタスクだから、というわけで はないのだ。たとえば、アスリートが、コーチから 与えられたワークアウトを必ずしも楽しいとは思え なくても、しっかりこなすのは、自分は、向上する ためなら何にでも挑戦する一流アスリートだ、とい う自負があるからだ。組織研究でも、同じような研 究報告が出ている。人が高いパフォーマンスを発揮 するのは、そのタスクに満足しているからというよ りも、自分にとって有意義で、やりがいのある目標 を設定しているためだ、ということが示されている。 満足感は、偉大なパフォーマンスの原因ではなく、 結果なのだ。人がやる気になり、偉大な仕事をする のは、おしなべて、未来の自分のアイデンティティ と一致するような仕事のときだ。  誰でも、自分にとって重要なことにおいて、優れ た仕事をしたいと思うのは当然だ。  しかし、(イパフォーマーたちは、それ以外の活 動でも卓越性を重視し、  人よりも力を注ぐのである。  彼らが卓越性を重視していることをどのように 知ったかというと、自らの行動やパフォーマンスの 目標を、人より頻繁にセルフモニタリングしている と、アンケートで答えているからだ。パフォーマン スが高い人たちは、自らに高い基準を課して、卓越 したいと思っているだけではない。自分がその基準 を満たす行動をしているかどうか、囗に何度も、 チェックしているのである。このセルフモニタリン グは、競争に先んじる要因となっている。何百人も の勤務評価を見てきた私に言わせると、一方のパ フォーマンスが柢い大たちは、往々にして、自らの 行動や成果をさほど気にしていなかったり、ともす れば無頓着であったりする。  これらの調査結果は、目標や自己認識に関する外 部の研究結果とも一致する。たとえば、目標を設定 し、定期的にセルフモニタリングを行っている大は、 行っていない人のおよそ2・5倍の確率で目標を達 成する。また、そういう大は、より正確な計画を策 定し、その通りに進めようという意欲も高い。 138件、延べ1万9000人以上の参加者を調べ た勤務評価では、進捗状況のモニタリングが、最初 に明確な目標を設定するのと同じくらい重要である ことがわかっている。進捗をモニタリングする気が ないなら、目標を決めたり、自分の基準に従って生 きる意味もないと言える。これは、人生のほぼすべ ての側面−もっと次元の柢い事柄にも当てはまる。 たとえば、ある人が、健康な自分を思い描いて、何 キロか痩せようとしたとする。だが目標を設定して 進捗状況を追跡しなければ、失敗は目に見えている。 あるメタ分析では、セルフモニタリングが、減量の 成果を出す最も効果的な手段の1つと判明している。  これをハイパフォーマンスにどうつなげるのかと いうと、自分の基準に従って生きているかをセルフ チェックする習慣が必要になる。といっても、毎晩 ジャーテリングを行って、次のようなことを自分に 問うだけでいい。  「今日は卓越したパフォーマンスを発揮できた か?」  「最大限の優れた仕事をするという自分の価値観と 期待に沿えたか?」  この手の質問を毎日自分にしていれば、厳しい現 実が浮かび上がってくるかもしれない。完璧な人な どいないので、あなたにもきっと、自分が誇れない パフォーマンスをする日があるはずだ。だが、それ がセルフモニタリングの重要な一部である。セルフ モニタリングをしなければ、決めたことをきちんと 守れず、レベルアップのスピードも遅くなる。した らしたで、思いどおりにいかず悔しい思いをするこ ともあろう。でもセルフモニタリングとはそういう ものなのだ。  (イパフォーマーたちは、たしかに、自分の成長 や卓越性を認識できないと自分を責めたりすること もある。だが、彼らが欲求不満だったり、いつもう まくいかない自分を気に病んで神経症のような状態 になったりするのかといえば、そうではない。私た ちのデータを思い出してほしい。(イパフォーマー たちは、同輩に比べて、ストレスが柢く、より大き な違いを生み出し、その努力が報われていると実感 している。そのように感じられるのは、正しい道を 歩んでいる自負があるから。そして、正しい道を歩 んでいることは、常にセルフチェックを行っている からこそわかるものだ。  私か多くのハイパフオーマーだちと話をして感じ たのは、皆、自分の失敗に向き合い、弱みに対処し ようという意志を強く持っていることだ。彼らは、 そうした話題を避けようともしなければ、完璧な人 間を装うこともしない。それどころか、改善法につ いて積極的に話そうとする。それは、根本的に、成 長というものが、自分のアイデンティティと人生の 楽しみに結びついているからである。  では、ハイパフォーマーたちは、なぜそんなに しよっちゅう自分と向き合っても失望しないのだろ うか? それはおそらく、自己評価をすることに慣 れているというだけだと思う。慣れているから大丈 夫なのだ。いつもやっているので、自分自身や欠点 などを観察することをいちいち恐れないのだ。頻繁 にやるほど、痛みを感じない。  とはいえ、(イパフォーマーたちは、やはり失敗 すると自分に厳しくなりがちだ。それは、卓越性が、 自分のアイデンティティにとって、非常に重要だか らである。「私は、物事をやり遂げ、卓越性をもっ てそれらを実行する人間だ」「私は、物事の細部と 出来栄えにこだわり、成果をあげる人間だ」という アイデンティティがあれば、当然、そのとおりにな らないと気になるだろう。  こうした言葉は、ハイパフオーマーにとっては、 単なるアフアメーションではなく、自分自身の重要 な一部である。つまり、良い仕事をせねばという内 なるプレッシャーがあり、それを制御したり、消し たりはできないのだ。  当然ながら、ハイパフオーマーの高い基準は、気 をつけないと、逆効果になることもある。自分に批 判的になりすぎ、自己評価=つらいものというイ メージがついてしまうこともあろう。そうなると自 分が卓越性を発揮しているだろうかと自問するのを やめてしまうか、逆に、しょっちゅう自問し続けて 自分を追い詰めるかのどちらかになる。失敗を気に しすぎることで不安が高まり、パフォーマンスが低 下する。スターゴルファーが18番ホールで突然緊張 が高まって思うようにプレーできなくなるのは、う まくやらねばという必然性を感じていないからでは ない。その必然性によって、運動に支障をきたすほ どの期待感やプレッシャーが生じてしまっているの だ。  だが、緊張による失敗は、ハイパフオーマーたち には驚くほど少ない。それはやはり、大きな必然性 を伴う場面に非常に対処し慣れているからだろう。  そして、パフォーマンスが柢い人たちに関する私 たちの調査結果も考慮すべき重要事項だ。セルフモ ニタリングを週に何回行うかという質問で、彼らが 答えた頻度は、(イパフォーマーの3分の1から2 分の1だったのだ。また「私は卓越性を追求しなが ら成長する特性を持っており、日々の行動でそれを 示している」といった記述に「非常に当てはまる」 と答えることはめったにない。卓越性を掲げるアイ デンティティは、おそらく自分にとってリスクが高 すぎるのだろう。自分のパフォーマンスが柢いこと を常に気に病んでいるようなら、自己評価を避けた くもなるだろう。しかしこれが、パフォーマンスが 柢い人たちにとっての、非常に皮肉なジレンマなの である。もっとセルフモニタリングをしないとパ フォーマンスが向上しない。でも、セルフモニタリ ングを頻繁にすれば、自分への失望や批判は避けら れず、それと闘わなければならない。  すべてのローパフォーマーが目標にすべきは、新 しい基準を設定し、  セルフモニタリングをより頻繁に行い、  自身のパフォーマンスをひるまず見つめることに 慣れることだ。  それは正直、簡単ではない。ネガティブな気持ち になる可能性を回避したくなるのは、人間に深く根 づいた本能である。強い必然性を抱くことは、良い ことばかりではないという事実を無視するつもりは ない。人生のいかなる領域でも、最高の実力を発揮 しようとがんばることは、恐怖や不安と隣り合わせ だ。自分に多くを求め、能力の限界に挑戦するのは 怖いことである。良い仕事ができないかもしれない。 失敗するかもしれない。いざというときに対処でき なくて、悔しい思いや、気まずい思い、罪悪感、悲 しみ、恥ずかしい思いをすることもあるだろう。 何々せねばならないというプレッシャーは、必ずし も心地よいものではない。  それは、ハイパフォーマーにとっての究極のト レードオフと言えるのではないだろうか。何かを成 功裏に遂行しなければならないと感じるゆえに、失 敗するとネガティブ感情に苛まれるのだから、仕方 ない。彼らは、強い必然性から、パフォーマンスの 優位性を重視するあまり、自分に厳しすぎるのだ。 それで苛立ちを感じることもあるが、それに見合う だけの見返りはある。  この必然性という概念を怖からないでほしい。多 くの人は、私かこの概念を紹介すると警戒モードに なる。自分が、実際の困難なニーズに対応できない のではと恐れてしまう。だが、必然性は、起きた 「悪い」ことに対応「する必要がある」という意味 だけではない。そのニーズが、ネガティブな負担に なるとは隕らないのだ。  だから私はよく、パフォーマンスがあがらない人 たちにこう言っている。  仕事で返り咲くための最短の道は、自分自身に期 待を持つことだ。  良い仕事をすることを自分のアイデンティティに しよう。そして、適度に難しい目標を設定すること。 4万人の参加者を何十年にわたって追跡した調査で は、困難で具体的な目標を設定した人のほうが、抽 象的で容易な目標を設定した人より優れたパフォー マンスを発揮することが示されている。  自分のことを、挑戦することが好きで、大きな夢 に向かって突き進む人間だと見なそう。あなたは、 自分が思っている以上に強く、将来は、良いことが 待ち受けている。失敗することもあるだろうし、そ れでいやな思いもするかもしれない。  でも、他の選択肢を考えてみよう。躊躇するの か? 人生の最後の最後に全力を出し切らなかった と後悔するのか?  それとも、自分の安全地帯から一歩も出ずに、退 屈、あるいは現状に甘んじながら、とぼとぼと人生 を歩むのか? あなたには、そんな結末を迎えてほ しくない。  ハイパフオーマーが、長期的に成功しなければな らないと思っているのは、大胆にも、自分に大きな 期待をかけているからだ。彼らは、何かをしなけれ ばならない、そしてそれをうまくやらなければなら ないと、繰り返し自分に言い聞かせている。なぜな ら、その行動や成果が、自分の理想のアイデンティ ティと一致するからである。  並外れた人生を生きたいという(イパフォーマー たちの夢は、ただの希望や願望ではない。彼らは、 自らの夢を「使命」としている。それらを将来の自 分のアイデンティティに結びつけ、実現することを 自分に期待する。そして実現するのである。  特定テーマを理解しマスターすることへの熱中  自分の内なる卓越性の基準が、たしかなパフォー マンスを求めるとすれば、「好奇心」という内なる 原動力は、その過程を楽しくしてくれる。  ご想像どおり、ハイパフォーマーたちは、好奇心 に満ちあふれる人びとだ。自分の関心分野を理解し 習熟したいという好奇心は、彼らの成功要因の一つ であり、すべてのハイパフォーマーに共通して見ら れる特徴である。皆、関心分野に長期的に力を注ぎ、 知識やスキルを高めたいという内的動因(※)を 持っている。心理学には、内発的動機づけが高いと 表現される。つまり、報酬や称賛や罰などではなく、 活動そのものが、自分にとって興味深い、あるいは 楽しい、やりがいがあるからやりたい、ということ だ。(イパフオーマーたちは、他者からの報酬や ニーズのためではなく、活動そのものから得られる 満足のためにやるのである。  こうした、特定のテーマや分野に対する深く長期 的な情熱は、成功に関する研究のほぼすべてで認め られている。「グリッド」という言葉も、情熱と粘 り強さをかけ合わせたような意味で使われる。また 「計画的訓練」という言葉を聞いたことがあるだろ うか。よく、1万時間の法則のことだと誤解される が、何かを究めるには、そのことに力を注ぎ、訓練 した時間の長さが大事なのだ。上述の研究結果は単 純明快で、何にせよ一流になる人たちは、その技能 により長く、より懸命に取り組んでいることが示さ れている。  ただ私に言わせれば、(イパフオーマーが持って いるのは、ただの情熱を超えるものがある。情熱は 普遍的に理解され、受け入れられるものだ。「情熱 的であれ」「情熱的に生きよ」「情熱的に愛せよ」と よく言われている。情熱は、当たり前に求められる もので、成功への最初の扉である。だがそれに加え て、感情的エングージメント(精神的没頭)と、的 を絞った集中を長期的に続けると、すごいレベルに 到達できる。たとえ関心の波や、モチベーションや 情熱の浮き沈みがあっても……他者から(まんざら 間違いでもないと思える)批判をされても……何度失 敗しても……自分が楽に登り続けられるレベルを大 きく超えざるを得なくなっても……報酬や認知が得 られなくても……他の皆があきらめたり、次に進ん だりしても……あらゆる兆候が、やめるべきだと示 していても、取り組みを続ければ、グリッドを大き く超えた、無責任な熱中とも言うべき域に到達する。 私はこのポイントを前著『自分を貫く 絶対に目標 を達成する9つの方法』(プレシ南日子訳・フォレス ト出版・2017年)で、こう取り上げている。   私たちの課題は、これらとは正反対のことを −つまり、大胆な行動やすばやい前進は、何や ら危険で無謀な行為であるとI信じるように慣 らされていることだ。しかし、どのようなものを レベルアップあるいは革新するにも、新しい、ま たはすばらしい、または有意味な貢献をするにも、 ある程度の無謀さが必要なのである。これまで、 少々の無謀さなしに成し遂げられた偉業はあるだ ろうか? 海を渡る、奴隷制を終わらせる、人間 を宇宙に送り込む、高層ビルを建てる、ゲノムを 解読する、新事業を立ち上げる、業界全体を革新 する、といった並外れたことを実現するには、い わゆる無謀さが必要だった。前例のないことに挑 戦したり、型破りな言動をしたり、すべての条件 と準備が整う前に始めたりするのは、実際に無謀 だ。しかし、成功するためにはまず始める必要が ある、と大胆な人は心得ている。また、本当に報 われることがあるなら、一定のリスクは避けられ ないし、必要であることもよくわかっている。た しかに、未知の世界に飛び込むことは無謀である が、そこにこそ宝があるのだ。  きれいごとを並べているように思われるかもしれ ないが、これは、世界中のハイパフオーマーだちか ら、実際に聞いた言葉だ。  自分のやっていることに情熱を持って取り組んで いるだけなら、  人に理解してもらえる。一方、熱中していると、 無謀だと思われる。  それが違いだ。  この、ほぼ無謀とも言える熱中が、私たちに、よ り高いパフォーマンスを発揮せねば……と思わせる のである。  いかなる活動分野においても、熱中していない人 はすぐわかる。中途半端な興味を持つ雑学家、本気 でない恋人、本腰でないリーダーなどは、たいてい 強い関心や情熱や願望に欠けるが、たまに、大いな る関心を持っている場合もある。だが、そうした人 たちが絶対に持っていないあるもの。それは、揺る ぎない、飽くなき熱中である。会ったばかりの人が 何かに熱中しているかどうかは、ものの数分でわか る。熱中事を持っている人は、好奇心に満ち、エン グージメントが高く、自分にとってとても重要な特 定テーマについて学んだり、語ったりするときに、 嬉々としている。「仕事が大好きで、とりつかれた ように熱中しています」「これは、生きて、食べて、 息をするのと同じようなもの。これ以外のことをす るなんて想像すらできない。これは私そのものなん です」などと言う。彼らは、卓越性を究めることに ついて熱狂的に、具体的に語る。そしてそのために、 勉強や、練習、準備に費やした時間を記録している。 彼らの熱中は、実際の取り組みとして、予定表に書 き込まれる。  あることが情熱を超えて、熱中の域に達した瞬間 を実感するのは、そのことが自分のアイデンティ ティに結びつけられたときだ。  そうなると、ある心の状態−つまり情熱−を感じ たいという願望が、  ある種の人になりたいという探求に変わる。それ は、あなたの一部、  すなわち他のことより重要視するものとなる。あ なたにとっての必然となるのだ。  自分自身に高い基準を設けることを恐れる人がい るように、熱中することを恐れる人も多い。そうい う人たちは、気軽な興味や一時的な遊びを好む。自 分のアイデンティティに影響しない情熱を持って生 きるほうが楽なのだ。  特筆すべきは、ハイパフオーマーは、そうした、 内なるプレッシャーに耐えられるということだ。彼 らは、情熱の深みにはまることをいとわない。熱中 は恐れるものではない。むしろその逆で、勲章のよ うなものである。何かに熱中した人は、それが楽し すぎて、人に弁解する必要性など感じない。ある作 業に取り組んだり、スキルを向上させたりするため に何時間も失うが、それを楽しんでいる。  では「不健全な」熱中というのはあるだろうか? それは、熱中をどう定義するかにもよるだろう。中 毒になったり、考えずにはいられないほど何かにと りつかれるようなら、健全とは言えない。『メリア ムーウェブスター辞典』が、熱中の1つの意味とし て「そのことが頭を離れず心がかき乱されるほど特 定の物事に何かに強く引かれること」と定義してい るように、「心がかき乱される」レベルなら、たし かに不健全だろう。だが辞書には、熱中のこのよう な定義も載っている。 ●ある人が、特定の人や物事のことを、異常なほ  どいつも、あるいは頻繁に考えている状態 ●ある人が、いつもあるいは頻繁に考えている人  や物事 ●ある人が、特定の活動に夢中になり、多くの時  間を費やすこと ●特定の人や物事に、持続的でアブノーマルな強  い興味や関心を持つこと  このような意味合いなら、特に不健全な要素は含 まれていない。繰り返すが、あなたがどの定義を選 ぶかによる。ハイパフオーマーに関して私か知って いるのは、彼らが、たしかに多大な時間を使って自 分の熱中事に思考をめぐらせているという事実だ。 これは「アブノーマル」か? たしかにアブノーマ ルだ。  ノーマルが健全とは限らない。  正直に言おう。今日の、気移り・目移りしやすい 世の中で、いかなることでも人の注意力が持続する ノーマルな時間は、2分程度だ。したがって、アブ ノーマルな集中が「不健全」なら、(イパフオー マーたちもそのとおり不健全と言えるのかもしれな い。だが、どこの誰よりも(イパフオーマーを観察 してきた私の目には、彼らは不健全には見えない。 自分の熱中が不健全かどうか知りたいなら、簡単に 見分ける方法がある。あなたが自分の熱中をコント ロールできず、熱中にコントロールされるように なったり、そのせいで大生や人間関係が壊れ始めた リ、周囲に不幸が生じるようになったりしたら、問 題だ。  だが、(イパフォーマーたちにそんな心配はいら ない。そのような問題があれば、そもそも(イパ フォーマーになれていない。それはアンケート調査 のデータにも表れている。(イパフォーマーは、幸 せで、自信を持ち、健康的な量の健康的な食べもの を食べ、運動し、同輩よりもストレスにうまく対処 し、挑戦が大好きで、自分が違いをもたらしている ことを実感している。つまるところ、彼らはコント ロールがしっかりできているのだ。  だから私は、特別な関心をそそる物事を見つける まで、人生でいろいろなことを試すよう皆に勧めて いる。そして、それが自分の価値観やアイデンティ ティと一致するようなら、飛び込んでみよう。好奇 心を持って、思い切り打ち込み、ディープに探究す ること。何かに熱中しマスターしたがっている自分 のオタクな部分を目覚めさせよう。自分の高い基準 が、深い熱中と出会うと、高い必然性、ひいては( イパフオーマンスが生まれる。だがここまではあく までも、自分の内側からわいてくる必然性の話だ。 自分を外へ突き動かす必然性の話は、もっとおもし ろくなる。  外に向けられた力の話に移る前に、以下のことを じっくり考えてみてほしい。 ●私にとって重要な価値観は…… ●最近、私か自分の価値観に従わなかった場面  は…… ●そのとき、自分の価値観に従う必然性を感じな  かった理由は…… ●最近、自分の価値観に従ったことや、ある種の  人間であることを誇りに思った場面は…… ●そういう人間であることの必然性を感じた理由  は…… ●私か気づくと熱中しているテーマは…… ●健全な熱中を十分にしてこなかったテーマ  は…… ※内的動因  自分の内面にある心理的欲求。  人を外へ突き動かす必然性  外へ突き動かす必然性とは、あなたを駆り立てる 外的要因を指す。心理学でのいわゆる「プレッ シャー」であるが、プレッシャーという言葉にはネ ガティブなニュアンスが含まれているため、私は めったに使わない。(イパフォーマーの場合、継続 的なネガティブなプレッシャーが卓越性への動因と なることはほとんどない。  誰もがそうであるように、彼らにももちろん義務 や締め切りがあるが、何か違うかというと、彼らは、 そうした責務を意識的に選択しているので、やらな ければというネガティブなプレッシャーとしてとら えていない。(イパフォーマーはパフォーマンスを させられているのではなく、パフォーマンスに引か れているのである。  私自身も、以前はそこを誤解していた。HPI指 標を作成するための予備的調査の1つで、このよう な記述がどの程度当てはまるか、参加者に採点して もらったことがある。「私は、同輩、家族、上司、 メンター、所属する組織の気風など、外からの、高 いレベルで成功してほしいという要求を感じてい る」という記述が当てはまる人=HPIスコアが高 い人、という相関が見られなかったことに、私は当 初驚いた。  だが、なぜこのような結果なのか。成功しなけれ ばという彼らの思いは、他者に求められてのもので はないからだとわかった。より高いパフォーマンス を出してほしいというプレッシャーを他者から感じ ることがあるとするなら、それは、彼ら自身がすで にやると決めた選択や行動に対する応援に応えよう とするものだと思われる。言い換えれば、ハイパ フォーマーは、外に向けられた必然性を、必ずしも ネガティブなこと、あるいはパフォーマンスを上げ る理由とは見なさないのである。  ハイパフォーマーは、心理学で「心理的リアクタ ンス」と呼ばれる、人から言われて侮辱や脅威を感 じたときの反発心で行動しているわけではないとい うことだ。たしかにネガティブなモチベーションだ けでは長続きもしないし成果もあまり出ない。  それよりも、ハイパフォーマーは「ポジティブ な」外向きの必然性をパフォーマンスを上げる理由 と見なしている。彼らは、自分が有意味だと思う パーパスを果たすために良い仕事をしたいと考えて いる。崇高なパーパスを果たすことは、ポジティブ なプレッシャーととらえられる。多くの人が苦手と する、義務や困難な納期でさえも、(イパフォー マーは、パフォーマンスアップのポジティブな機会 ととらえる。  これを念頭に、パフォーマンスを上げるモチベー ションあるいはプレッシャーとなる、ポジティブな 外向きの必然性を2種類紹介する。  社会的義務感、責任感、パーパス  (イパフォーマーたちが感じる優れたパフォーマ ンスをする必然性は、自分ではなく、特定の人や物 事に対する義務感からくることが多い。誰かに頼ら れているとか、約束や責任を果たそうとしている状 況である。 「義務」という言葉は、(イパフォーマーたちに倣 い、あえて広い意味で使っている。彼らが義務と言 うとき、誰かに対して何かをする義理を意味するこ ともあれば、パフォーマンスをする責任がある(そ れを人に頼まれたかどうかにかかわらず)という意味 のこともある。また、他者の期待に応える責任や、 ある集団の規範や価値観に従うこと、あるいは、道 徳的判断基準に従うことを、義務と言うこともある。  パフォーマンスの原動力となる義務感を最もよく 説明するのは、人はよく、自分のためよりも人のた めに多くをするという真理だ。自分に睡眠が必要と わかっていても、夜中に泣く子をなだめるために起 きる。誰かのためにすることのほうが、私たちの心 の中では、必然性が高いのだ。この手の必然性は、 とかく最強の影響力を持つ。  そこに責任が加わるIすなわち、人を手伝うこ とがあなたの役割だと期待されているIと、必然 性がさらに増す。非常に多くの研究で、人は、結果 に責任を持だされたり、頻繁に評価されたり、専門 性を発揮したり、奉仕する相手から敬意を表される 機会があったりするほうが、モチベーションを維持 し、一層努力し、高いパフォーマンスを達成するこ とがわかっている。誰かのために良い仕事をしなけ ればと義務感を覚え、良い仕事をすれば専門性を発 揮できると思っていると、高いレベルのパフォーマ ンスをする必然性も一層高まるのだ。たとえば私た ちは、勤務評価がより頻繁にあり、チームのパ フォーマンスに責任を持だされているほうが、努力 も成果も増す。  すばらしい話ばかりに聞こえるが、ご存じのとお リ、他人に対する義務感は、そのときどきには、と かくネガティブに感じられる。オムツ替えで夜中に 起きるのが待ち遠しいという親はまずいない。その 作業は、温かい愛情の表現というよりは義務に近い。 親は、その義務について不平を言うか? もちろん 言うだろう。だが、長い目で見れば、自分たちはそ の「ポジティブな」義務をきちんと果たした良き親 であると自負できる。それが、オムツ替えの動機の 少なくとも一部である。つまり、人生の義務を果た さねば、と私たちに思わせる対外的ニーズは、その ときは不快に感じられるが、後々、優れたパフォー マンスの成果につながる。  義務は必ずしもネガティブなものではない、とい う概念は、パフォーマンスの柢い人たちには理解し にくい。彼らが、ハイパフォーマーよりも、職務に 対する不平をこぼすのはそのためだ。たしかに、誰 でも愚痴を言いたくなるような義務というのはある。 親の近くに住んだり、送金したりといった、家族へ の義務感などがその例だ。そのような、家族に対す る責任を足かせのように感じる人は多いが、その責 任を果たしている人は、心身の健康が良好であると いう、偶然の相関関係があるのだ。  職場でも、「正しいことをしている」という感覚 が、ポジティブな感情やパフォーマンスを生み出す。 組織研究でこのようなことが明らかになっている。 コミットメントの非常に高い社員は、変革期などに おいて、自分かいなくなることで会社の将来が損な われるようなら、自分が会社を辞めるのは「間違っ ている」と感じるという。また、たとえ労働時間が 長くなっても、上司を手伝うために倍の努力をする。 ミッションを果たす義務感が、目先の楽に取って代 わるのだ。  (イパフオーマーは、自分が義務を果たす必要性 を理解しているため、成功するために行うタスクや 義務について不平をこぼすことはめったにない。自 分の役割をまっとうし、他者のニーズに応えること は、成功過程の一環だと認識している。たとえ今日 は面倒でも、明日はポジティブなことになる。私自 身も、こうした研究結果に感化され、人生における 義務を違った視点でとらえるようになった。やらな ければならないことに対する態度を改め、不平不満 を減らし、私か「持っている」義務は、実は恩恵な のだと気づいた。  奉仕する機会を得た人は、それに労力を費やすこ とに不平を言わないことを学んだ。  他者に奉仕する意欲があるときのほうが、優れた パフォーマンスが長続きするのだ。これは、たとえ ば、軍人に並外れた人物が多い理由の1つだろう。 彼らは、自身を超えるものIすなわち、国家や同 志−に対して義務感を持っているからだ。  また、ハイパフオーマーの多くが、最高のパ フォーマンスを出す動機として「パーパス」を挙げ るのもそのためだ。崇高なビジョンや、ミッション、 使命に対する義務感や責任感が原動力となり、達成 するための苦難を乗り越えていけるのだ。  事実、ハイパフオーマーだちと話をすると、皆 口々に、自分のしていることに長ける「以外の選択 肢がない」と言う。それは、たとえばワンマンな リーダーに何かを強要されたなど、選ぶ自由がない という意味ではない。神の思し召しだから従うのが 必然だと思っているのだ。自分は、唯一無二の恵み、 すなわち機会を授かったと考えている。そして、今 の自分のパフォーマンスが、自分のみならず、おそ らく多くの人びとの将来に大きな影響を与えると感 じているケースが多い。  (イパフォーマーの上位15パーセントと話をする と、ほぼ全員にこうした職業召命観(※)が見られ る。レガシー、運命、天与のタイミング、神、後世 の人びとに対する道徳的責任、といったことを、自 らのパフォーマンスの主な原動力として挙げること も珍しくない。自分は召し出された存在であると自 覚しているからこそ、優れたパフォーマンスをする 必要があるのだと言う。  本当の締め切り  なぜアスリートは、リングや競技場に上がる直前 の数週間に、よリバートなトレーニングをするの か? なぜセールスパーソンは、四半期末に業績を 伸ばせるのか? なぜ専業主婦や主夫は、子どもの 新学期が始まる直前のほうが、家を片付けられるの か? それは、厳しい期限ほど有効なモチベーショ ンはないからだ。  「本当の締め切り」は、パフォーマンスーマネジメ ントにおいて過小評価されているツールだ。皆、目 標や期限について語り、それらの目標を達成するた めに「できたらこの日くらいまでに」という期日を 設定しがちだが、ハイパフオーマンスは、本当の期 限を知って初めて実現するものなのだ。  「本当の」締め切りとは何かというと、もし守れな ければ、実際に悪いことが起こるし、守れば努力が 報われるという、大事な期日のことだ。  誰もが、締め切りを抱えて暮らしているが、ハイ パフオーマーはどこが違うかというと、常に、自分 が重要だと思う本当の締め切りを意識して物事に取 り組んでいる点だ。締め切りの期日と、守れなかっ た場合の現実的な影響、守れた場合の報いを念頭に 置いて仕事をしている。その反面、表向きの締め切 りは、守ろうとしない。  「表向きの締め切り」は、たいてい、誰かの「希 望」程度の期限が設けられた粗末な企画で、守られ なかった場合の現実のリスクが明確な、亶]のニーズ ではない。私のクライアントであるグリーンベレー (陸軍特殊部隊)では、「無意味な火災訓練」と呼ば れている。  私の生活における、本当の締め切りと表向きの締 め切りの違いがどういうものかをメール文で例示し よう。私は、人から何らかの要請がメールで来ると、 そこに締め切りが書いてあってもなくても、このよ うに返事している。   要請ありがとう。この件の「本当の締め切り」  を教えてもらえますか?  本当の締め切りとはつまり、世界がぶっ飛ぶと か、あなたのキャリアがぶっ飛ぶとか、あなたと 私双方の終焉につながる連鎖反応が実際に始まる 日を意味します。  そうなる以前の期日は、あなたの希望です。失 礼ながら、あなたのメールが来る前に、私は 100件ほどの希望的要請を受け取っているので す。あなたのためにも、現実の期日順に優先順位 をつけたいので、ガチの締め切り日と、なぜその 日でないとダメなのかという具体的理由を教えて  ください。そこから優先順位を決めて、適切に調  整を進め、いつもどおり、卓越性をもって貢献し  たいと思います。ありがとう’・   −ブレンドン  私かこのようなメールを送るのは、他の人たちの、 真のニーズではないニーズにいちいち応えていたら、 容易に(イパフオーマンスから脱落してしまうとわ かっているからだ。私は基本的に人を喜ばせたい夕 イプで、すぐに気移り・目移りしてしまう。本当の 締め切りを明確にする習慣は、私自身を含め、私の 知るすべてのハイパフオーマーにすばらしい効率を もたらしている。  1100人を対象とした最近のアンケート調査で、 ローパフオーマーは、ハイパフオーマーの3・5倍 の頻度で、表向きの切迫感や締め切りにつき合うこ とがわかった。(イパフォーマーは、本当に大事な ことに、大事なタイミングで集中している。  それは、単にハイパフオーマーが超人的で、常に 自分なりの締め切りに注意しているからではない。 実際、(イパフォーマーが対応しようとしている本 当の締め切りも、他者から課せられたものだ。オリ ンピックの試合の開催日は、選手側では選べないし、 企業に対する四半期ごとの市場要求もCEO自らが 決められるものではない。  私にしても、自分自身の裁量に任されていたら、 この本を書き上げることはできなかっただろう。だ がある時点で、原稿を提出できなければ、家族に反 乱を起こされ、友人に拉致され、出版社に捨てられ ると認識したのだ。私自身が設定した表向きの締め 切りを何度か破ったが、いったん本当の締め切り I出版社が小売店に約束した納期とか、妻が旅行 を期待している囗がはっきりすると、1時間に書け る量がいっぺんに上がった。  なにも(イパフォーマーは、間に合わなかった場 合のリスク回避のためだけに締め切りを守ると言い たいわけではない。実際、彼らのほとんどは、自分 の仕事を世に出すのが楽しみで締め切りを守ろうと している。また、自分が選んだ次のプロジェクトや 機会に早く移行したいというのもある。私がなんと か本書を書き上げようとしたのも、遅れた場合の悪 影響が怖かっただけでなく、この本をあなたの手に 届けるのが待ち遠しかったからだ。また、家族に注 意を向けたい、この内容をより多くの受講者に広め たい、という理由もあった。  この事例は、本当の締め切りのもう1つの側面を 示している。それは、本当の締め切りも、そもそも 「社会的な」締め切りであるということだ。ハイパ フォーマーたちは、自分が間に合うか間に合わない かが、他者に影響を与えることを認識しているため に、物事を成し遂げようとするのだ。  現実は、他者を思いやり、世の中に大きな変化を もたらそうとすると、  自分の抱える締め切りの数は増えていくというこ とだ。  時間的なプレッシャー=たいへんな思いをさせら れる、と思い込んでいる人もいるだろう。しかし、 私か見てきたことと、他の研究結果では、そうでは ない。最近の研究で、人は、締め切りがあったほう が、アクティビティを完了させることにより注意を 払うだけでなく、「そのアクティビティを終わらせ」 て、次のアクティビティにより大きな注意を割きや すいことがわかっている。つまり、締め切りは、1 つのアクティビティを終わらせ、次のアクティビ ティに専念することを助けるのだ。  原動力を絶やさない  アイデンティティ。熱中。義務。締め切り。ご想 像どおり、これらの必然性はどれも単一ではベスト プレーに結びつかない。しかし、内側からのニーズ と対外的ニーズが合わさったとき、必然性が高まり、 強力な追い風となってあなたの背中を押してくれる。  このテーマのデリケートな部分を繰り返そう。多 くの人は、必然性を心から嫌っている。そういう人 は、いかなる種類のプレッシャーを感じることも嫌 なのだ。内なるプレッシャーは、不安を引き起こす し、外からのプレッシャーは、不安に加えて実際に 失敗するリスクがあるから嫌なのだ。それでもハイ パフォーマーはあえて必然性を好むと、データが証 明している。彼らの場合、好むどころか必要として いる。必然性が感じられないと、原動力が途絶えて しまうのだ。  どういうことか、事例で説明しよう。あなたが、 (イパフォーマーの上位2パーセントに属する天を コーチングをしていると仮定してほしい。その人か ら「なんだか最近、前ほど意志力や継続力がなく なってきた」と相談されたら、あなたはどうするだ ろう? 性格診断やストレングスーフアインダーを 受けることを勧めるか? それとも森の中のリト リートヘ行くことを勧めるだろうか?  私ならそのどちらでもなく、必然性について、率 直な話をするだろう。その人に継続力があった頃の 話を聞いて、必然性の4大原動力−アイデンティ ティ、熱中、義務感、切迫感が、かつてのすばらし いパフォーマンスに、どのようにつなかっていたか を探り出す。そしてもう一度4大原動力を説明し、 その人がアイデンティティ、熱中、義務感、切迫感 を使って、自分の中の達成したい気持ちともっと深 くつながれるよう導くだろう。もしその人が、熱中 事を持たず、義務感も覚えず、機会を逃すリスクも 感じていないようなら、その人が大切にしている物 事を、私の前で見つけ出してもらう。どんなことが 4大原動力になるのかがはっきりするまで帰さない。  これは、自分が役立たずになったと悩んでいた兵 士、アイザックに対して私か行ったコーチング内容 だ。彼にやってもらっだのは、これまでと違う未来 図を描き、ケガをする前に熱中していたことと再び つながり、家族と、仕事への復帰のために、健康と マインドセットの向上に本気で取り組むことだ。そ の過程は容易ではなかったが、アイザックは、徐々 に自分自身とのつながりを再構築し、人生への熱意 を取り戻してくれた。  結論。人は時とともに変化し、向上するが、それ を強いられる状況にならなければ変われない。中か らの強い力と外からの強い力が働いて初めて変わる。 よじ登るのだ。そして最大の困難にぶつかって初め て、大義を思い出すのだ。不安におののき、困難や 闇と闘っているとき、自分が光となるために生を受 けたことを思い出し、長期的に、ポジティブなパ フォーマンスを維持する。  では、より大きな必然性を感じるための行動を3 つ紹介する。 ※職業召命観  自分の職業を、神から与えられた天職と考え、勤勉に  職務をまっとうすることが神の意志にかなう行為であ  り、救いにつながるとするプロテスタントの思想。  ACTI()XI  誰があなたのベストプレーを必要としてい  るか知る  内・外両方のニーズからの必然性を利用するため に、このシンプルな習慣を試そう。机に座るたびに 次のように自問する。そのための「テスタートリ ガー」を設定する。  「私のベストプレーを今、最も必要としているのは 誰か?」  イスに腰を下ろした瞬間にこれを自問し、答える のだ。たったそれだけ。私かこの習慣をすごく気に 入っているのには、次のような理由がある。 ●シンプルで誰にでもできる。 ●仕事用のイスに座るという、頻繁な動作をトリ  ガーにしている。そのイスがキッチンテーブルに  あろうが、高層ビルの角部屋オフィスにあろうが、  頻繁に座っているイスであることがポイントだ。 ●「ベストプレー」という言葉が出てくるだけで、  ちょっとした自己省察を余儀なくされる。私に  とってのベストプレーとはどんなことを指すの  か? 今日はそれができているか? この1時間  ほどのあいだにできる私のベストプレーとは具体  的にどんな状態か? という問いにも答えること  になる。 ●この質問は、人のことも考えさせられる。それ  が義務であれ、責任であれ、大義であれ、あなた  のアンテナに引っかかったということは、あなた  に期待する人や集団が外にいるということだ。他  者のために行動するときのほうが、優れたパ  フォーマンスを発揮できる。 ●「今、最も」という部分が良い。即時性が出て  いると同時に、「最も」が優先順位を考えさせる。  そう、これはあなたの本当の締め切りを指してい  る。  私かこの習慣をクライアントに教え始めた理由は、 それまで出会ったすべてのハイパフオーマーたちが これをやっていたからだ。自らのため、人のために 自分の最大限の能力を発揮できているかを絶えず考 えていない(イパフォーマーはいなかったのだ。皆、 自らのパフォーマンスを定期的に評価することを習 慣にしていた。  自分のベストプレーをする状態、目の前の1つの 仕事に全力で集中するためには、内・外両方のニー ズによる必然性をあおり立てる必要がある。  具体的には、ハイパフォーマーになったつもりで、 何かに没頭せざるを得ない状況をつくり出す。(イ パフォーマーとしての自覚と没頭から、ペストプ レーに入るのだ。  人生というゲームでは、自分のアイデンティティ ーどんな大になりたいか、どのように振る舞うか Iを自分で決めることができる。どういうアイデ ンティティを自覚するかの選択が、あなたのパ フォーマンスを大きく左右するのだ。  以下、ハイパフォーマーと、そうでない人の心が まえの違いを説明する。  三日坊主は、人生のゲームにおいて、物事への興 味関心が長続きしない。いろいろなものに目を向け、 手を出すが、何事にも、深く関与したり献身したり はしない。  ビギナーは、物事に興味を持つことに加え、少な くとも、特定の領域で専門性を身につけるつもりに はなる。その分、三日坊主よりは関与度が深いが、 問題は、挫折に弱いことだ。ビギナーは、そこに自 分自身のアイデンティティを確立していないため、 障壁にぶつかるとそこでやめてしまう。  アマチュアは、興味関心だけにとどまらず、情熱 を持つ。特定のテーマに深く入り込み、積極的にか かわり、上達を望む。ビギナーよりは多くの障害を 乗り越えられるが、すぐに、ポジティブなフィード バックや評価を得られない限り、未熟なレベルにと どまる傾向にある。外部からの承認をたくさん浴び ないと続かないのだ。  実力者は、情熱があるだけでなく、コミットメン トとスキルも高い。高い集中力を発揮すれば、その 活動のある領域に力を注いで、独学で究めることが できる。自分の活躍の場が確保され、報酬が得られ ている限りは、卓越し、満足感を得る。  しかし、ルールと、決まった段取りをこの上なく 必要とし、混乱や崩壊、ネガティブなフィードバッ クが苦手である。自身の参加する枠組みには、高度 な公平性を求める。自分のポジションで成功するこ とにはコミットするが、その活動(あるいは人生) 以外の領域で、総体的レベルの成功を収めることは まれだ。あくまで自分の領域で自分が成功すること が彼らのパーパスであり、それ以上のことに関心は ない。  (イパフォーマーは、実力者に似ているが、高い 総体的必然性、スキル、チームスピリットを持って いる。彼らは、その活動に全力投球する。自分かど のような評価や褒賞を得るかに関係なく、高いレベ ルで活躍する。なぜならその活動は自身に内発的報 酬(※)をもたらす他、世の中への奉仕活動の一環 と見なすことができるからだ。  彼らは、その活動だけでなく、チームや、奉仕の 対象となる人びとを、自らのアイデンティティに結 びつけている。また、活動の一領域だけを究めよう とはせずに、全体を代表するような存在を目指す。  その反面、実力者とは違って、自分だけが脚光を 浴びるのではなく、他者と進んで共有する。彼らは、 人としての卓越性と、チームに対する責任感が非常 に強いため、どんな活動でも人に頼られる。彼らが 突出するのは、自分が卓越したパフォーマンスを発 揮するだけでなく、周囲の一人ひとりを向上させる べく影響を及ぼすからである。  以上は、本書のどの部分よりもくだけだ説明だが、 個々が選択肢を持っていることを皆に気づいてもら うために、この類型を示している。ペストプレーを 目指すなら、三日坊主や、ビギナー、アマチュア、 実力者でいてはいけない。常に(イパフォーマーの 自覚を持ち、努めてそうした行動をとらなければな らない。毎回ベストプレーをしたいなら、ハイパ フォーマーのアイデンティティを自分に読んで聞か せ、毎日、それを演じることだ。  ハイパフォーマーとしての自覚を持つことに加え て、自分に背伸びを強いるような活動に没頭する必 要がある。自分は人より優秀だと思って跳ね回って いるだけではだめだ。自分を卓越させる状況に身を 置かなければならない。幸いにも、チヤレンジング で没入感のある体験をするために、具体的にどうす ればよいかが、研究で明らかになっている。それは、 没頭という、ポジティブ心理学でよく知られる概念 である。  これを提唱したミ(イーチクセントミ(イによれ ば、没頭状態は、次の要素がいくつか揃ったときに 起こる。  I明確で、チヤレンジング、かつ達成可能な目  標がある。 2高い集中力と注意力。 3内発的報酬をもたらす活動に取り組んでいる。 4自意識がやや消失し、穏やかな気持ちである。 5今に集中するあまり時間感覚がなくなる。 6パフォーマンスのフィードバックが即時に得  られる。 7自分の技能水準と作業の難易度のバランスが  とれており、難しくてもがんばればできるとわ  かっている。  8自分が状況と結果をコントロールしていると   いう感覚がある。  9身体的ニーズを考えなくなる。  10意識が目の前のアクティビティに完全に絞ら   れる。  このような状態をつくるようにすれば、奉仕した い相手のためにベストプレーができる可能性が高ま る。この「人のため」という要素があると、没頭の 効果がさらに高まるかもしれない。だからこそ、こ の習慣を、誰かのためにベストプレーをする機会と とらえてほしいのだ。  個人としての自分のパフォーマンスや気持ちを超 越して、人のためにベストを尽くす理由と向き合お う。そのためにがんばる価値がある相手や物事を見 つけるのだ。人助けのために自分のベストを尽くす 必然性を駆り立てることができれば、より早く、よ り長期にわたってハイパフォーマンスを発揮できる だろう。 ACTION -のまとめ  「誰があなたのベストプレーを必要としているか知 る」マイノート ー人生の現段階で、私のベストプレーを必要とし   ている人びとは…… 2その一人ひとりが私を必要としている理由  は…… 3その一人ひとりのために私かハイパフオーマー   になりたい理由は…… 4自分がベストプレーをしていると実感できるの  は、どのような思考や、気分、行動のとき  か…… 5私のベストプレーを邪魔する要因は…… 6どうすればそれらの要因にもっとうまく対処で  きるか…… 7人生の大事な人たちのためにベストを尽くすこ  とを思い出すために、どんなリマインダーを設  定するか(数バージョン)…… ※内発的報酬 やりがいなどの精神的報酬。  ACTI()X2  大義を掲げる  ハイパフオーマーたちは、自分の目標とその大義 を秘密にしたり、黙っていたりしない。目標を、自 身に対しても、他者に対しても、堂々と標榜する。 必然性に関する行動で、ハイパフオーマーとローパ フオーマーの違いが最も大きいものを1つ挙げると したら、これである。ローパフオーマーは、目標の 理由を明確にしていないことが多いし、それらを標 榜するどころか、口にすることもない。  標榜とは、何かを宣言したり、それが正しいこと を断言あるいは確認したりすることを指す。「○○ は○○だ」「○○が起こる」と自信を持って言い切 るのである。(イパフオーマーは、そのように、自 分の目標とその大義を語る。歯切れの悪い話し方は しない。自分が努力をする理由に自信を持ち、パー パスを誇りを持って伝えてくる。  私か見たところ、(イパフオーマーたちは、何を するにしても、その理由を逐一語るのが好きだ。た とえば、アスリートの(イパフォーマーは、自分の トレーニングや、とりわけ、その日、その運動を選 んだ理由を、嬉々として、メニューの内容説明と同 じくらいの時間をかけて説明してくれる。「今日は 身体のバランスが崩れている気がしたので、スク ワットを75パーセントの負荷で3セットやっていま す」というように。  (イパフォーマーたちのコーチングを始めた当初、 この人たちは外向的でビッグマウスなだけなのか? それとも、一種のカリスマ性を持っているために、 語っている行動理由が人より立派に聞こえるのか? とよく疑問に思ったものだ。だが、そのどちらも間 違っていた。性格と(イパフォーマンスに相関性は ない。内向的な人が(イパフォーマーである確率は、 外向的な人と同等なのだ。  また、(イパフォーマーたちは、自分の行動理由 をうれしそうに人に話すものの、そのやり方が必ず 正しいと断言したりはめったにしない、ということ にも気づいた。彼らのほとんどは、自らのパーパス そのものに自信は持っているが、自分のやり方が利 用可能な最善の方法かどうか、常に疑いを持ってい る。成功するためのより良いプロセスが見つかるな ら、いつでも新しいやり方を受け入れるつもりでい る。理由には自信を持っているが、そのやり方につ いてはこだわらない、ということだ。  ハイパフオーマーが行動理由を人に宣言するのは、 自信を感じるためだけでなく、自分に社会的強制力 や責任を課す目的もある。仮に私かあなたに、ある 目標に向かって取り組んでいることと、それが重要 である理由を話すとする。そのとき、私はそれを実 現します、と断言するような言い方をすれば、そこ に私の自尊心や威信がかかってくる。かくかくしか しかになると約束して、もしそうならなければ、私 は自分の約束を果たせなかったことになる。つまり、 宣言することで、面目を潰したり、いい加減な人間 と思われたりと、望ましくないリスクをあえて自ら に課すことになるのだ。  そのようなわけで、あなたにも、もっと頻繁に自 分の大義を、自身に対しても他人に対しても表明す ることを勧める。  大義を自身に対して表明するというのはつまり、 アフアメーションによって、自分に言い聞かせるこ とを意味する。  私の個人的な事例を紹介しよう。約H年前、私は、 モチベーションと、自己啓発、能力開発でより多く の人にリーチしたいという目標を掲げた。YouTube や、ネット動画マーケティング、オンライン講座が、 まだ初期段階にありながらも勢いを増していた時代 だったので、動画撮影や、オンライン講座の制作を 始めようと決めたのだ。だが問題は、カメラの前で 話すのがどうにも苦手な私自身たった。カメラが回 りだすと、お金をもらったとしても、3文も覚えら れず、自然に振る舞えず、手をどこに置いていいか もわからず、どうしようもない状態だった。  ただ1つだけ有利な点があった。それは、自分の 大義を自身と他人に表明するという習慣を知ってい たことだ。そこで動画撮影に入る直前に、自分にこ んなことを言い聞かせていた。  「ブレンドン、これをやる理由は重要だからだ。受 講生を思い出せ。彼らの手本になって、目標達成を 手伝ってあげよう。それが君のパーパスだ。彼らの ためになることをしろ。君はこの仕事が大好きにな り、たくさんの人の役に立つ」  これは、カメラ前でうまく演じたい理由を自信を 持って自分に言い聞かせるアフアメーションである。 そしてこのリマインダーが、パフォーマンスの必然 性を生んだ。  もう1つ注目してほしいのは、私か自分自身に二 人称で語りかけていた点だ。このアフアメーション は、外発的報酬(※)よりも内発的報酬に基づいて いる点だ。あなたにも、これを参考にしてほしい。 アフアメーションなら何でもいいというわけではな く、内発的なアファメーションのほうが効果的だか らである。  こうした話を眉唾だと思ってしまう人は、実際に (イパフォーマーともっと時間を過ごしてみるべき だ。彼らは本当に、こういうことを言ったりやった りしているのである。自分にI声に出してI語 りかけ、大事なことをリマインドしている。  競技場の選手人場口に立ってみれば、自らに話し かけるオリンピック選手の姿が見られる。彼らは、 たとえそうは呼んでいないにしても、自分の行動の 意義を自らに宣言しているのだ。  世界的に有名な講演者にバックステージで耳を傾 ければ、彼らはスピーチを練習しているだけではな く、自分がそこにいる意義を見つめ直していること がわかる。  精神医療現場でのアフアメーションの効果を確認 した調査報告もある。不安症の患者が、症状を克服 する勇気を得た最も有効な手段として挙げたのが、 自分の目指す目標の価値を自身に言い聞かせるとい うものだった。  私は、動画でもっとうまく話せるようになるため に、動画制作の意義をたくさんの身近な人に宣言し た。オンライン講座の撮影を始めることと、なぜ私 にとってそれが重要なのかを、家族や友人に話した うえで、出来上がった講座へのアクセスを翌週送る と宣言し、その週のうちにフィードバックを送って ほしいと頼んだ。  当然、笑ったり、半信半疑で聞き流す人が多かっ た。だが、ポイントは彼らに認めてもらうことでは なく、私自身が人前で大義を標榜し、有言実行せね ばならない状況をつくり出すことだった。その約束 をしたとたん、言行を一致させようとする人間的欲 求によって、パフォーマンスを一層向上させ、約束 の期日を守ろうという意欲がわいた。公言によって、 私か何かをする外発的期待をつくり出して、実行し たのである。  私かこれをしていなければ、これまで動画シリー ズや講座を修了した100万人以上の受講生がベネ フィットを享受することはなかっただろう。大義を 標榜することは、私の大量アウトプットの秘訣と なっている。  言語化すると、それは自分の中でより現実的で重 要なものとなる。宣]実に沿った生き方をする必然性 が増す。だから、今度パフォーマンスの必然性を高 めたいと思ったら、自分が何を望んでいるのか、な ぜそれを望んでいるのかを自他に表明しよう。 ACTION2のまとめ  「大義を掲げる」マイノート I並外れた能力を発揮したい3つの活動は…… 2そのそれぞれについて私か卓越したい理由  は…… 3これらの目標とその大義について話そうと思う  人たちは…… 4これらの目標とその大義を声に出して自分に表  明−すなわちアフアメーションーする際の  文言は…… 5これらの重要な目標とその大義について、どん  な言葉で自分にリマインドするか…… ※外発的報酬  制作の完了、講座の販売による利益、受賞、ポジティ  ブなフィードバックなど  ACTI()X3  仲間をグレードアップする  (イパフォーマンスのコーチングを依頼された場 合、クライアントに成功を体験させる最も手っ取り 早い方法の1つは、彼らのサポートネットワークの 中で、最もポジティブで成功している人だちとつき 合う時間を増やすことだ。サポートネットワークと は、家庭、職場、コミュニティ、そして人生で、常 にあなたの身近にいる人たちを意味する。あなたが 最もよく話をしたり、顔を合わせたりする人たちだ。 私はクライアントに「あなたの課題は、仲間の中で 最も優れた人達と過ごす時間を増やし、ネガティブ な人だちとの時間を減らすことだ」と言っている。 それが一番手っ取り早い方法なのだ。だがそれがす べてではない。  本当に人生のあらゆる領域でパフォーマンスを上 げたければ、(イパフォーマンスを期待し、重視す る新しい人たちとのつきあいを広げよう。つきあい の輪を広げ、自分より優れた専門知識を持っている 人や、成功している人と知り合って、彼らと過ごす 時間を増やすのだ。今の仲間内のポジティブな人や 成功者とのつきあいを増やすだけでなく、新しい人 をそこに加えるのだ。  「朱に交われば赤くなる」とよく言われるように、 こうしたほうがいいことはあなたもわかっているは ずだ。ただ、人が社会的環境から受ける影響の強さ に関しては、そこまで理解できていないかもしれな い。  ここ10年ほどで「クラスタリング」と呼ばれる現 象についての研究が進み、興味深い発見がなされて いる。人の行動、態度、健康状態が社会的なクラス ターを形成する傾向にあることがわかっている。あ なたは、睡眠時間、食べもの、お金の使い方、貯金 額に至るまで、周囲の人びとに感化されているのだ。 「社会的伝染」と呼ばれるこの相互作用は、良い影 響にも悪い影響にもなることが示されている。  悪影響としては、喫煙、肥満、孤独感、抑うつ症 状、離婚、薬物使用などの望ましくない行動や結果 が、社会的クラスターをなして広がるという研究結 果が出ている。あなたの友達がタバコを吸っている なら、あなたも吸うようになるだろうし、肥満、あ るいは離婚した友達が多ければ多いほど、あなたも そうなる確率が高い。  同様に、幸福感や向社会的行動(※)も、同じ社 会的集団内で伝染するようだ。たとえば、人生に満 足している友達が1人いると、あなたが幸せを感じ る確率が25パーセント上がる。また、音楽、サツ カー、芸術、野球、テニスなどの専門知識や、世界 レベルのパフォーマンスさえも、クラスターで生起 することが、研究で認められている。  この「伝染」効果は、通常、3次の隔たりまで波 及するという。つまり、あなたは、あなたの家族や 友達だけでなく、友達の友達、そして友達の友達の 友達の影響まで受けているという研究結果が出てい る。隔たりが1次増えるごとに、影響力は徐々に弱 まり、3次以上の隔たりがある人には、目立った効 果がなくなる。だからこそ、つきあいの輪に入れる 相手を、慎重に選ぶことがとても重要になる。  もちろん、つきあいの輪に入ってくる人は、自分 で決められるとは隕らない。とりわけ若いときはコ ントロールできないことが多い。昨今、好ましくな い行動をとる人がこれほどまでに多いのは、そのた めIすなわち悪影響がまん延しているからである。 大きな機能不全(離婚、薬物乱用、精神疾患、ネグ レクト、虐待など)を抱えた家庭で育った人は、後 に、心と身体の健康に関連したネガティブな状況に 陥るリスクが高い。そうした家庭の子どもたちは、 経験した虐待によって、認知的にも感情的にも重大 な影響を受ける(たとえば、意思決定を司る脳領域で ある前頭前皮質が小さくなる、記憶巾枢である海馬が小 さくなる、過剰なストレス反応など)。また、貧困の中 で育つ子どもたちは、犯罪や、暴力、懲役刑、親の 監督不行き届き、薬物使用、性的および身体的虐待 を経験する確率が高い。  これはどのエビデンスを突きつけられると、親ガ チヤに外れた人たちは打ちのめされ、「私は、同じ ような育ちの仲間と同じようなレベルで生きていく しかないのか?」と問いたくなるかもしれない。  だが答えは、明白で断固としたノーだ。優れたパ フォーマンスは、あなたが育った文化や社会的環境 とは関連していないことがわかっている。なぜなら、 優れたパフォーマンスは、これまで述べてきたとお り、長期的なアプローチだからである。あなたは、 長い時間をかけて、自分の人生をネガティブな影響 から取り戻し、パフォーマンスを出すことに向けて、 マインドの習慣や社会的環境を整えることができる。  これはくさい励ましではない。人は、正しい信念 と戦略を持てば、自分に組み込まれた文化的プログ ラミングと影響を乗り越えられる、という一貫した 研究結果が示されている。  たとえば、努力次第で向上できるという信念を持 つだけで、恵まれない地域に住む子どもたちが、ひ どい成績からクラスでトップになれることが、多く の研究で示されているのだ。そのことは、16万 8000人以上の高校1年生を対象に行われた最近 の調査でも証明されている。  研究者らは、学生たちの、学業成績、社会経済的 ステータス、そして努力すれば学力が上がるかどう かの考えをデータとして集めて分析した。  予想されるように、社会経済的ステータスの高い 学生は、低所得家庭の学生よりも、学業成績がはる かに高かった。  しかし、努力すれば学力が上がると信じている子 だけで比べると、この相関関係は消失していた。家 庭の社会経済的ステータスが下位10パーセントに 入っていても、努力で学力が上がると信じている子 たちは、社会経済的に上位20パーセントに入ってい ても努力で学力は上がらないと信じている子だちと 同等の成績を収めていたのだ。  これはつまり、努力すれば向上できると信じてい る子どもたちにおいては、経済的格差−およびス トレスの高さ、学校のレベルの低さ、栄養状態の悪 さといった経済的ステータスの低さにとかくつきま とうすべてのネガティブ要因−が、ほとんど帳消 しになるということだ。  科学研究によって一貫して示されているのは、あ る種の人びとは、自分が置かれた環境や文化が理想 的でなくても、強さを維持できるということだ。そ の人たちは何か違うのかというと、考え方である。 つまり、周囲のサポートがあってもなくても、自分 の考え方次第で、心や、気分、記憶、反応、幸福度、 そしてパフォーマンスを向上させることは可能なの だ。  本当の意味で、過去や環境に縛られている人はい ない。私たちは、人生やパフォーマンスを向上させ る要因を自在にコントロールするすべを持っている。  私かこの話をするのは、理想的な仲間の中で育だ ないと成功できないと思っている人があまりにも多 いからだ。もっと良い仲間とつき合えと言う前に、 自分の力で自分の人生を改善するのは無理だと考え るなと言っておきたい。ただ、社会的サポートは、 自己啓発や人生全般で成功する過程を、より楽に、 早く、楽しくしてくれる。  このようなわけで、ハイパフォーマーは、ネガ ティブな人だちよリポジティブな人だちとつき合っ ているのだ。  (イパフォーマーは、能力や、経験、全般的成功 のレベルが自分と同等かそれ以上の人たちとかかわ るようにするという、より戦略的で一貫した心がけ をしている。  彼らは、人脈づくりでも、集団に帰属する場合で も、より成功している人とつき合うよう努めている。 仕事では、経験がより豊かで、組織図でも自分より 「上」の人と多くコミュニケーションをとり、私生 活では、ボランティア活動により多くの時間を費や し、ネガティブな人や、対立しがちな人間関係は避 け、頼みごとをする相手には、仲間の中でもより成 功している人を選んでいる。  とは言っても、(イパフォーマーたちは、人生に おけるネガティブな人や難しい人をすべて切り捨て てしまったわけではない。幸せになったり成功した りするためには、あなたの人生にいるネガティブな 人とはすべて「縁を切る」必要があるという神話が ささやかれ、「あなたの夢を支持してくれない友達 は捨てましよう」「あなたを応援し、すべてのニー ズを満たしてくれないパートナーなら離婚’・」「息 子さんが学校で嫌われているなら転校’・」などと言 われているのを耳にする。  だがそれはいい加減なアドバイスだ。自分と違う 人や、自分を脅かす人とのつきあい方を学んでいく ことも、精神力のある成熟した大人になる一過程な のだ。常に光り輝く存在でないからといって自分の 人生から「人を切り捨てる」ようなことをしている と、やがて自分が孤島にひとり、ヤシの実を話し相 手に暮らすことになるだろう。  誰にでもうまく行かない囗があるし、苦労もある。 そしてすべての人がすべての局面であなたを応援す る義務はない。このことを受け入れ、常にご機嫌な わけではない人を見捨てたりしないようにしたい。  あなたの家族も、友達も、同僚も、ついていない 囗はいくらでもある。そんな囗にたまたまあなたへ の態度が芳しくなくても、それはあなた個人とは何 ら関係ない場合が多い。彼らは自分の世界でたいへ んな思いをしているのだ。ほとんどの人が心の病を 経験するし、人生の中で、友達のほとんどが入れ替 わるのも事実だ。だから、気に入らない人を自分の 人生から一掃してしまうという考えは、大人ではな いし、合理的でもない。愛は、時として、思いやり と忍耐である。  必要なものは自分で築く  愛は思いやりと忍耐とは言ったが、だからといっ て、ネガティブな人たちに特別多くの時間を費やし たり、大きなマインドシェア(※)を割く必要はな い。パーパスに向かって突き進んでいる人は、波乱 を起こしている暇もない。そこでネガティブな人だ ちをすべて「排除」したりせずに(特に彼らが親族、 友達、昔からの仲間、あるいは困窮していたりする場合)、 ポジティブで成功している仲間とつき合う時間を増 やし、ポジティブな仲間と新しいグループをつくる ことを勧める。  人に絶交やお役御免を言い渡して波乱や対立を起 こしたりする時間を考えれば、その時間を、新しい つきあいの輪を築くことに費やしたほうがよいでは ないだろうか。人間関係を取り壊すのか、新しく築 くのか? 私なら、築くほうに力を注ぐ。  そしてよく、特に若い天だちから耳にする「私に は成功者に近づくすべがない」という言い訳につい てもひと言述べたい。これはだいたいの場合、やっ たこともないのに最初から決めつけている、個人的 な思い込みだ。グローバルにつなかった今の世の中 で、誰かに近づくすべがないというのは、説得力に 乏しい。自分の人生をレベルアップするために、ど こかの誰かとつながり、その人から学ぶ、コラボす る、働かせてもらう、少なくともフォローするなど、 やりようはある。本当の問題は、そのような人を見 つけたり、連絡を取ったり、しつこく追いかけたり、 その人たちの仲間入りを果たすまでがんばったりす る意志があなたにあるかどうかだ。  成功している仲間同士でグループをつくるには、 どんな方法があるのか?  私の鉄板のリストを共有しよう。  Iすごい友達をI大増やす  自分の人生に変化を起こすためとはいえ、新しい 友達を何十人もつくる必要はない。最高のあなたを 引き出してくれる友達をI大増やせばいい。最高に ポジティブで成功している友達を見つけ、次にどこ かに出かけるとき、その人の友達をI〜2人連れて きてもらうのだ。そして、彼らと会う頻度と時間を 少しずつ増やしていく。週に30分増やす程度でいい。 ポジティブな大がI大加わるたび、良い人生に一歩 近づく。  2ボランティア活動をする  大事なのは、世のため人のために尽くすこと、あ らゆる世渡りに必要な共感力や奉仕の精神を養うこ とだ。ネガティブな大が周囲にいて、常に不快な思 いをしているなら、ボランティア活動で世界の大局 観を養うことで、冷静になれるかもしれない。  まず、ボランティアにかかわる大たちは、積極的 でポジティブな大たちだ。彼らはギバー(※)であ る。彼らの奉仕の精神に触れることは、あなた個人 の精神の成長に役立つ。  加えて彼らは、おしなべて教養が高く、成功して いる。高学歴の大は、柢学歴の大よりも高い確率で ボランティア活動をする。アメリカでは、学士号以 上の学位を取得している25歳以上の人の40パーセン ト近くがボランティアをしている。対して、短大や 専門学校卒など准学士号取得者は、26・5パーセン ト、高卒で15・6パーセント、高卒以下だとわずか 8・Iパーセントだ。そしてNPO法人に、特に理 事会や委員会レベルで携わる大たちは、たいてい地 域社会で最も裕福である。  世界に大きな変化をもたらそうと努力する人たち に出会えば、あなた自身にも大きな変化がもたらさ れる。友達を訪ね歩く、ネットで検索するなど、ま ずは機会を見つけに行こう。  3スポーツをする  学内リーグに参加する、ラケットボールクラブを 訪れる、ゴルフ場の会員になる、公園でやっている ピックアップゲームにもっと頻繁に参加する機会を つくろう。人と競い合う状況は、自分のパフォーマ ンスにもっと目を向けさせる。パフォーマンスの自 己評価は、さらにパフォーマンスを向上させる。競 争のプロセスを、卓越性、自己ベスト、チーム貢献 のための努力ととらえるようにすれば、あなたの最 大限の能力が引き出される。一方、順位や結果、圧 勝することばかりを気にしていると、悪く不適応な (不健全な競争心に動機づけられた)パフォーマンスし か発揮できない。  4メンターを見つける  私は(イパフォーマーたちに、年配者で、賢く、 尊敬を集め、成功している人の中から、生涯のメン ターをI〜2人持つよう言っている。そういう大に、 月に一回は電話をしてほしいのだ。同時に「分野ご とのメンター」−あなたの特定分野における専門 知識を持っているメンターを、3年にI大増やし、 その大にも毎月電話をしてほしい。人生のメンター と、特定専門分野のメンターがI大ずついれば、彼 らから並外れた視点を学べるはずだ。  やはり、まずは友達や家族に訊くことだ。偉大な 知恵と影響力があって、いろいろ学ばせてもらえる 人。職場や、上記のボランティアやスポーツ活動で、 メンターが見つかるかもしれない。また、YouTube で「how to fi乱Qヨ回耳(メンターの見つけ方)」と入 力して私の動画を視聴するのもよいだろう。  5自分自身がレベルアップする  もっと多くの成功者に近づきたいなら、自分が自 分の活動で卓越し、成功者の仲間入りを果たそう。 懸命な努力を重ね、(イパフォーマンスの習慣を実 践し、あきらめないで、偉大な価値を生み出し、習 熟への道を歩み続けるのだ。自分の道で熟練を究め て成功すれば、扉が開いて、どんどん並外れた人だ ちと出会えるようになる。  あなたの友達の輪にレベルの高い人たちが加わっ てくれたら、あなたの人生もどれだけレベルアップ するか想像してみよう。ちなみに友達とは、 Facebookの友達ではなく、実際に会ったり、電話 したり、一緒に仕事をしたり、出かけたり、運動し たり、レジャーを楽しんだりできる生身の人間のこ とだ。  あなたの人生に喜びや成長をもたらしてくれる一 方、自身も安定し、あなたが輝いていようがもがい ていようが揺るぎない友情を注いでくれるような人 たちで周囲を固めるようにしたい。  ともかく、仲間とその水準をグレードアップする のだ。並外れた人たちの中に身を置くことで、あな た自身も一層並外れた人になれる。 ACTION roのまとめ  「仲間をグレードアップする」マイノート ー知人友人の中で、私かもっとつき合うべき、最  もポジティブな人は…… 2もっと多くの(イパフォーマーの友達を増やす  ためにできることは…… 3ポジティブでサポ圭アイブな知人友人同士で親  交を深めるための新しいルーティンや集まりの  アイデアは…… ※向社会的行動  金銭などの外的報酬を期待することなしに、自発的に、  援助や親切など、人のために良いことをしようとする  行動。 ※マインドシェア  心の中に占める相手の割合。 ※ギバー  得ることよりも大に与えることを優先させる大。  自らに与える理由づけの強さがあなたを強  くする  誰の知り合いにも必ずこんな人がいるはずだ。学 校ではあまり勉強ができず、何をするにも要領が悪 く、長所より短所のほうが多いように見えたが、ど うしたことか、後に成功し、みんなを驚かせたとい う人が。そういう人に、どうやって自分より恵まれ た、あるいはスペックの高い他者を超えたのかと訊 くと、こんな答えが返ってくることが多い。  「「ングリー精神です。何としても成功したかった。 他に選択肢がなかったのです」  つまり、必然性があったのだ。  このメンタリティを持だない多くの人が、自分の 最大限の能力を引き出せないでいる。必然性がなけ れば、突き動かすものもなく、ポテンシャルも発揮 できない。  すべての成功し続けるための習慣と同様に、必然 性のレベルも、自分で意識的に上げる必要がある。 常に、こういうことを考えながら生活しなくてはな らない。  「今日の重要なアクティビティを、私のアイデン ティティと責任感に結びつけただろうか?」 「この夢を追うことがなぜそんなに重要なのか?」 「なぜこれをやる必要があるのか?」 「いつやる必要があるのか?」 「どうすれば、もっと多くのすばらしい人たちに囲 まれて、彼らに引っ張られ、ワンランク上の貢献が できるだろうか?」  こうしたことを問い続け、再検討を重ねれば、こ れまでにないレベルのコミットメントとやる気がね いてくるだろう。あなたがいかに強く、並外れた存 在になれるかは、あなたが自分に与える理由づけの 強さ次第なのだ。  だから、まずは自分のマスト事項を決めよう。あ なたの強さは、あなたが自らに与える理由づけの強 さにかかっている。実感を伴った理由づけをし、そ れを腹の底から感じるのだ。世界は今、あなたの出 現を必要としているのだから。 「どうにも成果が追いついてこないんです」  教育長(※)のアシーナが気落ちした口調で言  私は彼女のオフィスに出向いて、彼女の目標や、 これまでのキャリアでどれはどの成果をもたらし てきたかについて話を聞いていた。背後の棚には 分厚いバインダーがびっしり並んでいる。デスク の横には小さな窓。何の飾りもない白壁は、古さ で黄ばんで見える。このオフィスーというより、 事務局の建物全体が、1970年代に建てられて 以来、一度も塗り替えられていないと思わずには いられない状態だった。そんな部屋で、アシーナ は14年間働いていた。  「今、私のキャリア始まって以来の忙しさなんで す。私の管理する学校のうち、2校が閉校される ところで、急ぎの業務がたくさんあって。オフィ スに缶詰め状態で、ランチに出る暇もないくら い」  そう言って、窓台に置いてあるテイクアウトの 箱2つを指差した。  「一日中、教員や、校長、父兄、地域のリーダー だちとの会議や面談があって、その合間にメール を処理するようにしています。そして毎晩遅くま で提案書を読んでいるんです。こうして働きづめ の日々がかれこれ4年くらい続いてるでしようか。 タスクを次から次へとこなしているのに、前に進 んでいる実感がまったくありません」  そこで私は、タイプA人間が生産性の話をして いるときに最も嫌がる質問を、あえてぶつけるこ とにした。  「あなたは幸せですか?」  アシーナはムツとした表情で言った。  「ブレンドン、私は不満を言ってるつもりじゃな いんです。ひどい生活だとか、最低のキヤリアだ とかっていう話ではなく、私自身が、自分の思う ような、あるいは周囲に求められているような成 果をちゃんと出せていない、という問題なんです。 あなたに来ていただいたのはそのため、つまり効 率性の向上に注力するためです」  私の経験では、とても忙しい人たちは、とかく 幸福度の話題から逃れたがる。  「なるほど。じゃあ、聞きます。アシーナさん、 あなたはちゃんと幸せですか?」  彼女は笑って答えた。「まあ、幸せだと思いま す。夢のような毎日を過ごしているとは言えませ んが、この仕事は大好きです。ただ、もっといい やり方があるはずだと思うだけです」  「何と比較してもっといいやり方ですか?」  「こんなに必死で働いても結果が出ないという状 況です。私は勤続20年でリタイアするつもりです が、それはまだ6年も先です。こんなペースで働 いていたらあと2年も持だない気がするし、もし 持ったとしても、退職時に振り返ったとき、すべ てはいったい何のためだったのか? 私は実質、 何を達成したか? と考えてしまいそうで怖いん です」  「すべては何のためだと思いますか?」  「学校のため、というのははっきりしています。 この道に進んだのはそのためですから。地域の学 校を健全化できれば、何学年もの子どもたちの人 生を改善できるとわかっているからです」  「なるほど。すばらしいミッションですね。さっ き、実質何を達成したのか考えてしまいそうと言 いましたが、何を達成したいんですか?」  「学校が何年にもわたって恩恵を受けられるよう な、大きなプロジェクトをあといくつか達成でき たらいいと思っているんですが、どうにもそれは 難しそうです。すでに必死の努力をしていますが、 現状維持がいいところです。時間を費やしている のに、思うようなスピードでレベルアップできて いません。プロジェクトの進捗が遅く、思ってい たような変化を生み出していない。おまけに私の ワークライフバランスはボロボロです。いつもが んばり続け、やりくりを続け、いつもプロジェク トのたびにIからやり直さなくてはならず、いつ も雑務に追われ、少しでも持続的なことを達成し ようと躍起に……」  彼女は声を詰まらせ、何もない黄ばんだ壁を見 つめた。  「何をどんなにがんばつても大きなプロジェクト を達成できないので、やり方が間違つているん じやないかと思うようになりました。何をしても どうしても……」  彼女からは強烈な干不ルギーが感じられた。こ ちらまで胸に熱いものがこみ上げてくる。どうい うことか、私にはもうわかっていた。ビジョンを 持った人が、こんなオフィスに閉じ込められてい るのを見るのはつらい。  「どうしても……何ですか?」  「何をしても、どうしても……」彼女はまばたき して涙をおさえている。  「……至らないんです」 ※教育長 公立学校を切り盛りする教育行政の専門家。教育委 員会の策定した教育政策を実施する。  とてつもなく忙しいのに、何も進んでいないと感 じるのは、世界一嫌な気分の一つだ。健闘している のに、やり方がまずくて、健康を害したり、健全な 暮らしまで損なわれている。プロジェクトがなかな か進まない。進捗が遅すぎる。幸せはいつも、遠い 地平線のごとく、届かぬ場所にある。アシーナはそ んな気持ちになっていた。ほとんどの人が、人生の どこかで経験したことのある状況だ。  だが、このアシーナがそんなふうになっているの は見ていて辛い。一見、特別機動隊を女一人でやっ ているようながんばり屋だからだ。毎日、大量のT ODOリストをこなしていた彼女だが、そんな彼女 でもわかっていなかっだのは、ワークライフバラン スをとることも、もっと大きく進歩することも可能 であるということだ。また、彼女がやっている 雑用的な仕事とライフワークは違うことも知っても らう必要があった。やることをきちんとやっている だけではだめな場合がある。なぜなら、何をいくら 達成したところで、それが本来の自分や、自分が本 来望んでいた仕事、自分の本来の技量とずれていれ ば、空虚なものになってしまうからだ。彼女は、単 にタスクをこなすことと、(イパフォーマンスな生 産性に到達することの違いを学ぶ必要があった。  優れたパフォーマンスを出す人たちは、スケ ジュールや、プロジェクト、タスクの計画を周到に 練っている。(イパフォーマーは、生産性の高い人 たちの大半と同じく、アンケートの、記述がどの程 度当てはまるかという質問で「優先順位を決めて、 重要なことに取り組むのが得意だ」とか「集中力を 維持し、注意散漫や誘惑を避けている」という記述 がよく当てはまると答えている(こうした記述に当て はまる度合いが高い人ほど、HPIの総合スコアも高い)。 ハイパフオーマーと、ただ生産性が高い人の違いは、 ハイパフオーマーは同輩に比べて、より生産性が高 いだけでなく、より幸福度が高く、ストレスが低く、 長期的に報われていると自認している点だ。  幸福度に関する結果は、特に大きな意味を持つ。 というのは、多くの人が、心身の健康やワークライ フバランスを損なわずに生産性を上げるなど不可能 だと思い込んでいるからである。だが、それは実は 間違いなのだ。(イパフオーマーたちは、同輩より 生産的であると同時に、より健康的な食事をし、よ り運動し、さらに新しい挑戦に大きな喜びを見いだ している。また、(イパフオーマーは、雑事も雑に こなしているわけではなく、同輩よりも多くのこと をやり遂げ、より卓越性を重視していると答えてい る。彼らの自認は、私か過去10年多くの(イパ フオーマーやその同僚にインタビューした結果とも 一致している。  この万能ぶりは、(イパフオーマーが超人だから とか、カフェインの摂りすぎだからというわけでは ない。また、昨今の私たちが信奉しがちな生産性向 上の理想論のせいでもない。自分は同輩よりも貢献 度が高いとか、変化をもたらしているという自負に よって、モチベーションや満足感は上がるが、それ で実際に生産性が上がるとは限らない。「ギバー」 タイプの人だからといって、優先順位をつけたり、 気移り・目移りを防いだりするのが得意とは隕らな い。心根はいいかもしれないが、始めたことをきち んと完了できるとは隕らない。  では、ハイパフォーマーがより生産的、かつ、心 身の健康とワークライフバランスをうまく保ってい るのはなぜなのか? それは、彼らが、たくさんの 習慣を意識的に実践しているからだ。本章ではそれ らを学んでもらう。  本章から最大限の学びを得るためには、ワークラ イフバランスや、人生において目に見える成果を追 求することが価値ある目標かどうかについての先入 観をいったん脇に置くことが重要になる。ぜひオー プンマインドで読んでほしい。なぜなら、この習慣 を身につけると、人生のあらゆる領域−特に、自 分自身と世界一般についての認識−に効果が及ぶ からだ。  私たちの調査では、自分がより生産的だと感じて いると、統計的に、より幸せで、より成功し、より 自信を持つ可能性が高いことがわかっている。また、 生産性が柢いと自認している人に比べて、より高い 確率で、自分自身を大切にし、昇進が多く、収入が 高い。これらは私の意見ではなく、人びとの人生の 状況を、複数の調査や分析で定量的に示した、重要 な結果なのだ。  もう1つ、私のコーチング経験ではっきりしてい ることは、(イパフォーマーたちが、組織内で、最 も高く評価され、高い報酬をもらっていることだ。 組織が(イパフオーマーのリーダーを求めるのは、 集中力、タスク管理能力、プロジェクトを遂行する 成功率が高いためである。そして彼らは、仕事に押 しつぶされることが少なく、普通の人よりも長期的 に、大きな喜びと連帯意識を感じながら目標に取り 組む。  人生のこの領域を究めることは、明らかに、大き な力になる。  では、テーマの基礎を確認したうえで、高度な習 慣に進もう。  目標を設定し、エネルギーと集中を維持す  る  生産性を上げるための基本は、目標を設定し、エ ネルギーと集中を維持することだ。目標がなければ、 集中力もエネルギーも出ず、立ち往生することにな る。  生産性は、目標から始まる。明確でやりがいのあ る目標があったほうが、集中力も干不ルギーも高く 保つことができ、ひいては、作業により大きな没頭 感や楽しみを感じられる。そして楽しみが大きいと、 前章で説明した内発的なモチベーションが生まれ、 それが、量と質の両面でアウトプットの向上につな がる。チームにも同じことが言える。明確で、適度 に困難な目標を持つグループは、たいてい、目標が 明確化されていないグループよりも優れた成果を出 す。人は、グループ目標があったほうが、より迅速 に、より長く働く気になり、重要なタスクにより注 意を払い、注意散漫が減り、全体的により努力する、 という一貫した研究結果が出ている。  そして干不ルギーも、生産性の決め手となる大き な要因だ。第3章で論じたように、自分自身をケア するための心がけはだいたいどれも、パフォーマン スを高めるためにも重要なのだ。良い睡眠、栄養、 運動は、生産性向上に非常に役立つ。これらの生活 習慣によって改善されるのは、あなたの生産性だけ ではない。たとえば、国民全体の栄養習慣は、その 国の経済全体のアウトプットと関連づけられたりす るのだ。  干不ルギーの章で言及した「最上格の干不ル ギー」も、睡眠や、栄養、運動などの身体面に気を つけるだけでは得られず、ポジティブ感情も必要不 可欠となる。幸福度が高い人ほど生産性が高いとい うのは、まぎれもない事実なのだ。実際、200以 上の研究における延べ27万5000人以上を対象と したメタ分析では、幸福度が高い人は生産性が高い だけでなく、仕事の質、信頼性、創造性においても、 より高い評価を得ていることがわかっている。  別の研究では、大学時代に明朗だった人は、卒業 後10年以上にわたって、同級生と比べ、経済的に成 功していたことが判明した。「笑顔でいればより多 くを成し得る」という昔からの言葉には、一定の真 理があるのだ。また、真剣な作業の前にお笑い動画 を見て生活に喜びを得るだけで生産性が上がるとい う研究報告もある。  最後の生産性向上策は、集中を維持することだ。 これが、現代社会においてはなかなか難しい。情報 の氾濫や、気移り・目移り、タスクの中断は、私た ちの健康と生産性の両方に、悲惨な事態を招く。  情報過多は、気力を消失させ、仕事の質を柢下さ せる。絶え間なく入ってくるインプットに対応した り、データの熟読や検索に一日の大部分を費やした りして疲弊してしまう。分析麻痺という言葉− データの収集と分析に時間を費やしすぎて逆に行動 できなくなることIもそんなところから来ている。  これは、朝一番にメールをチェックしてはいけな い理由の1つでもある。大量のメールに押しつぶさ れそうになり、受け身の態度になる。こんな感情や マインドセットで一日を過ごすのは避けたい。その 代わりに、干不ルギーの章で説明した活動をいくつ か試してほしい。  気移り・目移りも生産性を下げる。ある研究では、 注意が妨げられると、生産性が20パーセント低下す ると判明している。頭を使うチヤレンジングなタス クに取り組んでいる場合は、注意散漫の悪影響がさ らに大きく、生産性がほぼ半減することもある。ま た複数の研究で、マルチタスクはそれ自体が注意散 漫状態であると示されている。マルチタスクは、( イパフォーマンスや質の高い仕事に不可欠な、極度 の集中状態とは相容れないものなのだ。マルチタス クをしているときは、目の前のタスクに取り組んで いても、脳はまだ前のやりかけのタスクを処理して いるため、完全に集中できない。  最後に挙げる生産性低下の大きな要因は、中断だ。 大きな組織で働く人の大半は、どんなタスクや活動 や会議をしていても、数回は中断を余儀なくされる。 一度中断すると、もともとやっていたことに再び集 中し、追いつくのは難しい。すぐに「舞い戻る」こ とはできず、集中を取り戻す前に、平均して2つの 他のタスクやプロジェクトに手をつけるという。私 かコーチングするフォーチュン50企業のクライアン トの場合、いくら高い業績をあげている大でも、I 囗のうちにI度大きな中断があると、予定されてい た重要なタスクが2〜3時間ずれ込むようだ。  これらの事実を考えると、やりがいのある目標を 設定し、干不ルギーと集中を維持するよう、しっか り自己管理していく必要がある。とはいえ、それは かなりの努力を要することで、到底無理だという思 い込みも手伝って、やめてしまう人が多い。大きな 目標を立て、干不ルギーと集中を維持するというこ とは、ワークライフバランスが崩れるので、無理だ と言うのだ。このワークライフバランスをめぐって は、おかしな誤解が広まっているので、生産性向上 の習慣に移る前に、この問題を取り上げておきたい。  ワークライフバランスをめぐる議論  最近、ワークライフバランスをとることを放棄し ている人が多い。だがあきらめるのは早すぎる。無 理だという不正確な思い込みが、人びとから力を 奪っているようだが、生活のバランスを見いだすこ とは可能なのだ。  私は、生産性について、文字どおり何百万人もの 人びとをトレーニングしてきた中で気づいた。人び とがワークライフバランスは不可能だと思っている 原因は、次のどちらかだ。 ●ワークライフバランスを定義し、追求し、測定  するための、意識的・継続的な努力を本気でした  ことがないから。 ●ワークライフバランスを、達成不可能な基準で  定義しているから。  まず、よく言われる「ワークライフバランスをと るなんて不可能だ」という考えについて考察しよう。 いかなる活動分野に関しても、それを不可能と断じ ることは、例外なく、世間知らずのおごりである。 ワークライフバランスをとるのは無理だと言ってく る人に、私はこう言って聞かせている。人間は海を 渡り、高い山に登り、高層ビルを建て、月に降り立 ち、太陽系を超える飛行物を飛ばしてきた。人間の 能力は驚くべきもので、私たちの試みを制約するの は、自身の信念のみだ。だからあなたに言いたい。 あなたがワークライフバランスの改善は不可能だと 信じているのなら、その時点ですでに闘いに負けて いる。  もう1つ、この問題をあきらめているクライアン トによく指摘するのは、彼らは、ワークライフバラ ンスに、他の事柄ほど本気で注力したことがないだ けでは? ということだ。仕事のプロジェクト達成 のためになら、10ヵ月かけて計画を練っても、翌週 のワークライフバランスの調整には、I囗も費やし ていないのではないだろうか。  自分の生活バランスをとることに他のプロジェク トの達成と同等の注意を向けていないということは、 適当に片付けているということだ。そうであるなら、 ワークライフバランスという概念全体を批判するの ではなく、鏡の中からあなたを見ている、努力を拒 んだ人を責めるべきである。  この議論にオープンマインドな態度で臨めば、 ワークライフバランスのとらえ方に大きな問題が あったことに気づけるはずだ。  ほとんどの人が犯している最大の間違いは、「バ ランス」を、時間を均等に配分するという意味にと らえていることだ。  彼らは、仕事と「生活」に同等の時間を費やさな くてはいけないと思っている。「質」ではなく「量」 で考えているのである。この2つを混同すると、 困ったことになる。  多くの人が、この時間的バランスがとれていない と思っているが、実はそれもとれている。私たちの 大多数が、30パーセントを仕事に(週に40時間働く のが標準と考えて)、30パーセントを睡眠に、そして 30パーセントをその他のことI家族との時間、趣 味や健康、生活の基本的ニーズへの対応などに費や している。ほとんどの人が、実際は自分が思ってい るよりはるかに多くの余暇や家族と過ごす時間を とっているのに、意識的に行っているわけではない ために、そうした時間を「十分に」堪能していない だけなのだ。毎日4〜5時間テレビを見ている平均 的なアメリカ人が、時間がない、ワークライフバラ ンスがとれていない、と言っているのは皮肉なこと だ。  公正を期すために言っておくと、週40時間よりは るかに長く働いている人もたくさんいる。そして、 昼夜を問わずいつでも応答が求められる今日の常時 接続の文化では、ワークライフバランスがとれない ように感じられることが多い。  もっといいワークライフバランスのとらえ方が あっていいはずと私か思うのはそのためだ。重要な 生活領域に費やす時間のバランスをとるのではなく、 そこで生まれる幸せや進展のバランスをとるように してはどうだろうか。  詳しく説明しよう。自分の生活バランスが「崩れ ている」と言う人は、たいていの場合、生活の一領 域が、他の領域よりもハードだったり、重要だった り、時間を要したりしているためにそう感じている。 たとえば、健康や結婚生活がおろそかになるほど仕 事に熱中しているとか、逆に仕事がおろそかになる ほど家族の問題に意識が向いている、というように。  そうした状況を解消するには、重要な生活領域の 質や進展をモニターすることで、適切な生活バラン スが保てる。重要な生活領域が、目指している状態 になっているかどうかを週にI度チェックするだけ で、ワークライフバランスを取り戻したり、少なく ともそのための計画を立てたりできる。  私の経験では、人生を10の領域−健康、家族、 友人、パートナー(内縁あるいは婚姻関係)、ミッ ション・仕事、お金、冒険、趣味、スピリチュアル、 感情−に分類するのがおすすめだ。私はコーチン グで、よくクライアントにこんなワークをさせる。  毎週日曜日の夜、10の生活領域のそれぞれに関す る幸福度をIから10の尺度で評価し、目標を書いて もらうのだ。ほとんどのクライアントがこんなこと をするのは初めてだと言うが、まず状態を測定しな いことには、「バランス」など判断できるわけがな いのだ。  人生の主要領域の幸福度を常に計測しなければ、  あなたが求めているバランスがどんなものなのか、  あるいはどんなものでないのか、わかるわけがな い。  このワークは、単純な確認作業だが、その効力に は驚くべきものがある。かつて、16人の企業幹部の 集団に、この週Iのワークをやらせて結果を測定し たところ、たった6週間で、心身の健康とワークラ イフバランスが劇的に向上した。サンプル数の少な い非公式な調査だったことは認めるが、それでも、 10の生活領域を毎週評価する以外、仕事でも私生活 でも何も変えていないのに、ワークライフバランス が2絎台の増加率で向上したのには驚いた。このよ うに、生活全体を俯瞰するだけで、物事を自分でコ ントロールできていると実感できたり、必要に応じ て軌道修正できたり、バランスを改善できたりする ものなのだ。  これこそが、本章冒頭で登場した教育長のアシー ナがぜひとも必要としていたものだ。あのとき彼女 のオフィスを訪れた私か、10の領域を評価してほし いと言うと、彼女は、驚いたことに、もう何年も仕 事以外の多くの人生領域のことは頭にないと言う。  さて彼女の過重労働は誰のせいなのか? 悪いの は彼女の上司か? それとも社会なのか? いや、 正直に言えば、私たちが人生の重要部分に注意を払 わないのは、誰のせいでもなく、自己責任なのだ。 アシーナが必要としていたのは、自分の現状と、自 分にとっての「バランス」とは何かを見極めるため の週I同の儀式であったことが、このワークでわ かった。  ワークライフバランスについて、よく見過ごされ ているもう1つの誤認識は、均等な時間配分という より、気持ちの問題であるという点だ。各領域に何 時間費やすかではなく、全体的な調和をどのくらい 実感できているかだ。  よくあるのは、自分の仕事に不満を感じたり、何 のためにやっているのか、何を目指しているのかわ からなくなったりしているケースだ。好きではない 仕事に多くの時間を費やしていたら、ワークライフ バランスが崩れていると感じるのは当然。ビジー ワークはライフワークではないこと、そして考えと 行動の不一致は、精神的苦痛を生むことに気づかさ れるだろう。だからこそ、自分が本当に望むことに 沿って生き、「明確化」の章で取り上げたワークを 実践することが重要なのだ。  自分が興味をそそられない仕事、有意味だと感じ ない仕事をしていると、必ずバランスが崩れている ように感じる。  また、仕事に夢中になり、楽しんでいたとしても、 ストレスと長時間労働で疲弊しているパターンもあ る。忙しいことと、燃え尽きた状態は紙一重で、そ の一線を越えると、仕事以外の人生領域がどんなに すばらしくても、バランスを欠いているように感じ る。1つの人生領域で燃え尽きていると、他の領域 にも簡単に燃え広がるのだ。  ではどうすればいいのか? 「干不ルギー」の章 でたくさん取り上げた基本的な改善法−緊張をほ ぐす、睡眠時間を増やす、運動量を増やす、食事を ヘルシーにするIを参考にしよう。幸いにも、も し燃え尽きの症状が疲労感だけであることが多いな ら、もっと簡単な解決策がある。私たちの伝授する、 脳と身体のリフレッシユノリセットを1時間ごとに 行えば、体調と、ワークライフバランスの劇的な改 善を実感できるはずだ。言い換えれば、ほとんどの 人の場合は、実はワークライフバランス問題で仕事 を辞めるような必要などなく、エネルギーのバラン スを整えるための仕事の合間に行うセルフケアを変 えるだけでいいということだ。うれしいことに、そ のケア方法はあなたが思っているより簡単なものだ。  小刻みに休憩を取る  そして脳も、あなたが思っている以上にダウンタ イムを必要としている。生産性を高めるためには、 脳がダウンタイムに情報を処理し、働きを回復し、 生活に対処する必要があるのだ。生産性を最適化す るには、休憩時間を長く取るだけでなく、有給も消 化すべきである。一日を通して断続的に休憩を取る ことを勧めているのも、そのためだ。  仕事の合間の休憩が、ポジティブな感情や生産性 の向上につながることは、研究によってかなり前か ら知られていた。たとえば、毎日昼休みには自分の デスクを離れるといった単純な行動でも、仕事のパ フォーマンスを大幅に向上させる。また、近所の公 園でほんの数分休憩を取るだけでも、リフレッシュ した状態で仕事を再開でき、集中力も高くなるとい う認知的な効果がある。デスクから離れたくないな ら、断続的に、その場で立ち上がって仕事をするだ けで、一日中座っているのに比べ、生産性が45パー セントも上がるのだ。  一部の研究者は、私たちに休憩が必要なのは、人 間の認知資源には限りがあり、心理的処理能力や自 制心を「使い果たし」てしまうからだと言う。この 説には疑問もあり、自制心や集中力を使い果たすと いうより、単にモチベーションを失っているだけで はないかとも言われているが、1つだけ確かなのは、 休憩なしで一日中働き続ければ、機嫌が悪くなり、 生産性が低下することだ。  たとえ気に入っている仕事でも、デスクで作業中 に注意力が低下していくのに気づいたり、大好きな 仕事をしていても疲れを感じたり、問題を解決しな いと本当にヤバい状況にあってもアイデアが出てこ なかったり、という経験は誰にでもあるだろう。そ して、給水機前での同僚との雑談や、トイレ休憩、 あるいはランチ後に数分間ぼうっとするだけでも、 リフレッシュ効果があることを皆知っている。これ らはすべて、あなたに休みが必要なことを脳が教え てくれているサインだ。脳内の神経伝達物質の働き を回復させ、注意力をチャージするためには、頭を 休ませる必要があることは自明である。  このことは、科学的に疑いようがないので、組織 学の専門家のほとんどが、従業員の満足度を高め、 パフォーマンスを向上させるためには、少なくとも 卯〜120分ごとにデスクから離れて、短い休憩を とるよう勧めている。だが、私たちの調査や他の複 数の研究では、その時間間隔を半分にすべきである ことが示されている。  職場でもつとエネルギーや、創造性、成果を感じ Iかつ「生活」領域にも十分な活力を残したいな ら−45160分ごとに作業を中断して、脳と体に休 息を与えるのが理想的な間隔だ。  つまり、脳と身体を休ませずに働き続けるのは長 くても1時間までにする、ということだ。1時間ご とに2〜5分休憩するだけで、仕事でも生活全体で も、より頭が冴え、活性化する。たとえば、メール 処理やプレゼン資料の作成に2時間半費やす予定な ら、50分作業した時点で、立ち上がってオフィス内 を歩き、水を取りに行ったりして、デスクに戻り、 60秒の「緊張解除」瞑想をする。「干不ルギー」の 章で説明したとおり、目を閉じて、深呼吸に集中し、 「リリース」などのマントラを唱え続ける。ここで ボーナスポイントを狙うなら、「必然性」に関する 前章で紹介したテスタートリガー「私のベストプ レーを今、最も必要としているのは誰か?」を自分 に問う。  この休憩では、メールチェックや、ショートメー ル、SNSはやらないよう注意しよう。チェックイ ンは、ここでの目標−充電するためのチェックア ウトの真逆の行為だ。  デキる人は、えてしてこのアドバイスを聞かない。 彼らは、何時間もコンピューターの前、あるいは会 議室に座り込み「ぶっ通しでがんばり抜く」タイプ だからだ。しかしそれゆえに家庭生活で疲れ果て。 アンケートでもワークライフバランスが最悪だと回 答している。ともかくワークライフバランスは、家 庭と職場の時間配分の問題というより、気分や全体 的な活力の問題。ぶっ通しはおすすめできない。私 たちが何十もの分野にまたがる世界中のトップパ フォーマーたちを調査した結果、彼らは、必ずしも 普通の人より長く練習したり働いたりしているわけ ではないとわかった。何か違うのかというと、彼ら は、一回一回の練習がより効率的、あるいは、練習 の回数が多い(1回1回は長くない)のである。生活 バランス、幸せ、持続的なハイパフオーマンスを目 指すのであれば、一度に長時間を費やすやり方は、 たいていうまく行かない。一見不合理だがこれが真 実だ。ペースを落としたり、たまに休んだりしたほ うが、仕事がはかどり、生活の他の領域により多く の時間を充てることができるのである。  私のクライアントたちには、この45〜60分間隔の 休憩を習慣化してもらっている。コーチングの最初 のI〜2ヵ月で、厳しい決まりとして実践させてい るのだ。  「イスに腰を下ろしたら、携帯かコンピューターの タイマーを50分後にセットしてください。50分経っ たら、たとえ何に取り組んでいようが、立ち上かっ て、動いて、深呼吸し、意図を設定してから、仕事 に戻ってください」と言っている。  このルーティンで大事なのは「立ち上がる」とい う部分だ。デスクに座ったまま目を閉じて瞑想した だけではだめで、座りっぱなしの姿勢から身体を解 放する必要がある。だから、立ち上がって少し動き 回り、何らかの基本的なストレッチをしてから意図 設定をしよう。1時間ごとに立ち上がって、目を閉 じ、10回大きく深呼吸をしながら、その場で飛び跳 ねるだけでも、生活全般で、集中力と生産性がリ セットされるのを感じるだろう。  私の場合は、飛行機の中、カフェ、職場、会議、 ソファなど、どんなところにいても、必ず50分で立 ち上がり、自重トレーニング、気功、ヨガを組み合 わせた2分間のエクササイズをしている。この50分 ルールは、何かあっても絶対に破らない。たとえ人 と面談中でもだ。相手にも立ってもらいパワー チャージに付き合わせることもよくあるし、席を外 して2〜3分リフレッシュできる場所を探すことも ある。日々、こうした数分の短い休憩を取ることで、 集中力と能力を何時間も引き延ばしているのだ。  本章で説明する手順に従えば、より良いワークラ イフバランスを見いだすことができるので、生産性 や達成目標を上げることを怖がらなくていい。ただ し、毎週、自分の10の生活領域を評価し、それぞれ の目標を決め、ワークライフバランスを計測する習 慣だけは守ってほしい。そして、45〜60分ごとに 2〜3分の休憩を取る。ここまでが基礎だ。では、 生産性を高めるための高度な行動に移ろう。  ACTI()XI  重要なアウトプットを増やす  並外れた存在を目指すなら、自分の分野や業界で 重視される生産的なアウトプットとはどのようなも のなのかを把握する必要がある。たとえば、著名な 科学者は、さほど知名度や功績が高くない科学者よ りも、重要な論文を多く産出している。モーツァル トやベートーヴェンを偉大にしたのは、天才的才能 だけではなく、生産的なアウトプットでもある。ボ ブーディラン、ルイーアームストロング、ビートル ズも同様だ。そしてアップルは、最も好調な時代に は、ヒット商品を連発していた。ベーブールースは 当時の他の選手より多く打席に立ち、マイケルー ジョーダンは多くシュートを打ち、トムーブレイ ディは多くパスを投げた。セスーゴーディンはブロ グを、マルコムーグラッドウェルは本や記事を書き まくり、ケイシー・ナイスタット(英語圈で大人気 の乙O脂q)はべO5口g動画を上げまくる。シャネ ルは新鮮なデザインを発表し続け、ビヨンセはすば らしいアルバムを出し続ける。  (イパフォーマーたちは、量産すべき良質なアウ トプット(PO、○)を心得ているのだ。彼らは、質 の高いアウトプットを、同輩や競合よりも多く、長 期にわたって生み出している。彼らがより有能で、 よく知られ、名を残しているのは、そのためなのだ。 彼らはPQOに一貫した注意と努力を払い、自分の 得意なことから遠ざかってしまうような気移り・目 移り(機会を含む)を最小限に抑えている。  このことは、今の世の中では、ほぼ例外なく見過 ごされている。昨今の平均的な人は、I週間の就業 時間の門パーセント以上をメールの管理に、20パー セントを情報探しに費やしている。皆、それらが真 の生産性につながらなくても、無価値なダスター たとえばフォルダの作成やメールの整理などIに 何時間も費やしているのだ(申しわけないが、あなた の複雑な振り分けフォルダは、役に立っていない。メー ルユーザー345人の8万5000件におよぶ行動を調 べた2011年の調査によると、受信フォルダを複雑に 分けている人は、検索機能やスレッドで済ましている人 よりも、必要なメールを探し出す効率が悪いのであ亘。  私かメール管理を例に取り上げたのは、デキる人 たちが、ほぼ例外なく、自分の生産性の柢さをメー ルのせいにしているからだ。だが、メール自体が悪 いわけではない。元凶は、私たちの、仕事に対する 考え方なのだ。みんなの緊急っぽいメールに返信し たり、書類を整理したり、迷惑メールを削除したり、 体裁を装ったり、会議に出たりすることは、本当の 仕事ではない。本当の仕事とは、質の高い重要なア ウトプットを生み出すことなのだ。  あなたがやるべきは、自分にとっての「意味のあ るPQO」とは何かを見極めることだ。それは、た とえばブロガーなら、より優れたコンテンツをより 頻繁に投稿することだろうし、カップケーキ店の オーナーなら、売れ筋トップ2のフレーバーを見極 め、その2つに限って販路を拡大すること、子育て 中の親なら、子どもたちの自由時間とすばらしい体 験を増やすこと。セールスパーソンなら、可能性の 高い見込み客との商談率を増やすこと。グラフィッ クデザイナーなら、すばらしいグラフィックをより 多く生み出すこと。学者なら、カリキュラムや授業 の質を向上させる、あるいは、執筆論文や書籍の数 を増やすことだったりするだろう。  自分が生産すべきものは何かを見極めること、そ して、自分が目指すべき生産の優先順位、品質、ア ウトプットの頻度を知ることは、あなたがキャリア で得ることのできる最高のブレークスルーの一つで ある。  どんなビジネスアイコンでも、その軌跡を振り 返ってみると、彼らがキャリアと富の転機を迎えた のは、自分のPO、Oを発見したときだというのがわ かる。  たとえばスティーブージョブズの場合、それは、 アップルの製品リストから多くを切り捨て、少数の 製品を大々的にスケールさせ、その結果世界を変え たときだった。ウォルドーディズニーにとってのそ れは、映画製作を増やすことだった。そして現代の デジタル時代における最も偉大なサクセスストー リーは、たとえばFacebookや、instagraヨ、 Snapchatなど、人びとがよリオリジナルで多作なコ ンテンツを共有できるようにしただけの事業である ことが少なくない。自分の重要なPo、○−量産す べき良質なアウトプットを発見すれば、ブレークス ルーと富がついてくると言ってもいいだろう。  私は2006年に企業コンサルティングの仕事を 辞めた。理由は、自分が収入を稼いでいるアウト プットにやりがいを感じられなかったからだ。そこ のパートナー(役員クラスのコンサルタント)たちを 見ている限り、彼らにとってのPQOとは、基本的 に、年間何件の大口顧客と契約するかであった。そ れを達成する過程で、いろいろなすばらしいもの I取引きをしたり、変化をもたらしたりする能力 などIが得られるのはたしかだが、私はどうして も、取引きで成立するキャリアに人生を捧げること に共感できなかった。そして私のような下っ端に とってのPO、Oは、ありていに言えば「プロジェク トの渡り歩き」すなわち、できるだけ多くのプロ ジェクトに参加して、仕事の全体像を把握し、人脈 を広げ、出張手当をもらうことだった。それらにも もちろん利点はあるが、やはり自分には当てはめら れなかった。あの仕事の最終目的が、どうにも心に 響かないのだ。  自分が対価と引き換えに提供するアウトプットが、 胸躍るものでも、満足すべきものでもないとわかっ たら、それは人生の大きな気づきの一つだ。そうい う気づきを得たなら、その事実を尊重し、変化を起 こす時が来たということだ。  私は会社を辞め、ライター、講演家、オンライン 講師としてのキャリアを歩むことを選んだ。そうし た取り組みI人に勇気と力を与えるコンテンツを つくることIをアウトプットとするなら自分に とって意味があると考えたのだ。  ただ、具体的に何を、どうやって始めればいいの かまったくわからないのが問題だった。そこで専門 的な業界に入りたての人たちの多くがそうであるよ うに、私は、執筆業、講演業、オンライン講座の世 界をまず理解しなければと思った。そして各業界を 把握しようと、何十ものカンファレンスに行くとい う過ちを犯した。実際、執筆、講演、オンライン講 座はどれも、オピニオンリーダーとして発信すると いう同一のキャリアであり、最重要のアウトプット も皆同様であることに気づかないまま探索した。  1年近く、本当に重要なアウトプットは何かを明 確にしないまま、あれこれ模索を続けた。やること がとっ散らかっていた。雑誌やブログの記事を書い てみたり、ある集団に講演させてほしいと懇願し、 少しでも報酬がもらえたらいいなと願ったり、オン ラインマーケティングのアイデアー00選を学んだ りして時間を浪費していた。  そんなある日、カフェに座っていて気づいた。一 日中「働いている」のにほぼ何の成果も出ていない ことに。今日やったことの中で、キャリアアップに つながるとか、10年後にI自分または他人のI 記憶に残るようなことは1つもないなと思ったのだ。 あのときの頭の中の会話を今でも覚えている。  「ぶっちやけ、お前は重要なものを生み出したいん だよな。一日中がんばったかいのある何か、世のた め人のためになる大事な何か、自分の志を示す何を 生み出したいんだ」  もちろん、毎日がすばらしい完璧な一日になるわ けではないことはわかっていた。やることなすこと すべてが地球を揺るがすような、金字塔になるなん て期待していない。功績にならなくてもやらなけれ ばならないタスクというのは、誰にでもある。たと えば、ゴミ出しなどは、あなたのすばらしい功績の 足しにはならないが、やらなくてはならない。  あの囗、私のキャリアの軌道を変えたのは、自分 のPO、Oは何かをまとめた1枚の紙だ。著者として やっていくつもりなら、私の生産的なアウトプット は、本でなければならない。今あなたが手にしてい るのは、あれから6冊目の本だ(そして未発表の原稿 があと2本、引き出しの巾で待ってい亘。そして私か 書いた、何千通ものメール、ブログ記事、セールス レター、ソーシャルメディア投稿は、生産的アウト プットに含まれていない。私の主な取り組みは本の 執筆である。私のメンターであり、惜しまれる友人 であるウェイン・W・ダイアー(『思い通りに生きる 人の引き寄せの法則−宇宙の「意志の力」で望みをかな える』(ダイヤモンド社・2007年)の著者)は、30 幵以上の本を執筆・出版しており、彼に比べれば私 はまだ駆け出しだ。しかし、自分の重要なPQOは わかっている。そのおかげで、ウェインの呼ぶとこ ろの「意志の力」を得ることができた。  プロの講演家を目指す以上、一定以上の講演料を もらえる仕事を何件取れるか、を私のPO、Oにした。 そして、講演の機会をいただけませんかと頼む無駄 なやり取りはいっさいやめ、自分が目指す料金レベ ルで仕事をしている他の講演家たちを参考にして、 マーケティング資料や動画の作成を始めた。  そして、オンライン講座の講師−2006年当 時では比較的新しい職種−になるなら、私のPO、 Oは、カリキュラム、講座の動画制作、そして出来 上がったオンライン講座だ。「明確化」の章で述べ たように、私は、世に出る新しいマーケティングテ クニックを手当たり次第に学ぼうとするのをやめ、 自分のオンライン講座の制作とプロモーションに専 念した。  陳腐な表現だが、あとは知ってのとおりである。 私のオンライン講座や動画シリーズには200万人 近くの人びとが登録し、干不ルギー満タンの人生を 送る方法を教える無料動画は、1億回以上再生され ている。私かもし、自分の重要PQOを見つけてい なかったら、こんなにもの受講者にリーチするとい う恩恵を受けることはなかっただろうし、オプラー ウィンフリーのウェブサイトで「史上最も成功して いるオンライン講師のI人」と称されることも、 『サクセス』誌のトップ自己啓発インフルエンサー に何年も連続で選ばれることもなかっただろう。  私かこの話をするのは、自分の功績を自慢するた めではないことをどうかわかってほしい。そうでは なく、自分のPO、○を決め、それに向かって突き進 むことがいかに大きな力となるかを伝えるためだ。 私のキャリアがこうなったのは、私か特別だからで も、才能があるからでもない。自分のキャリアにお いてPQOに焦点を絞り、そのアウトプットに執拗 なまでの注意と力を注ぎ、長期にわたって継続的に 取り組んだ結果なのだ。  この戦略の重要性は、いくら強調してもし足りな い。私かクライアントのパフォーマンス向上を手伝 うときは、即刻彼らの生み出すべきアウトプットを 発見するのが私のスタンダード戦略だ。その人が、 どのようなテーマあるいは成果物の生産性向上を目 指そうと決めたのであれ、その活動分野に向けて、 仕事のスケジュール全体の方向性を調整してもらう。 週の就業時間の6割以上をPO、○に費やす状態に。 できるだけ早く変更するのだ。私か過去10年の経験 で見てきたかぎり、この6割という数字が、当事者 のキャリアで本当の結果が出始めるスイートスポッ トのようだ。ほとんどの場合、残りの4割は、戦略、 チームマネジメント、日々の雑務、事業運営などに 充てられる。  私か週の就業時間の6割を費やしている仕事は、 執筆、オンライン講座のカリキュラムづくり、動画 撮影だ。残りの4割は、戦略、チームマネジメント、 業界内でのつきあい、顧客エングージメントーS NSや受講者とのやり取りIに充てられている。 この4割はあくまでも、6割の仕事−すなわち量 産すべき良質なアウトプットをサポートし、手助け するための業務と言える。  もちろん、誰もが私のような仕事をしているわけ ではないし、6対4という黄金比は、誰にでも実現 可能ではないので、私と同じようにすることを目指 せとは言わない。ただ、あなた自身にとっての最適 な時間配分を見つけ、できる限りそれを守ることを 目標にしよう。私は、執拗なまでにこの6対4を守 り、PQOに充てる時間が6割を割ったら、最適な 生産性を達成できていないという目安にしている。  この時間配分を極端に感じる人は、これが「全力 投球しろ」とか、情熱に100パーセントの時間を 費やせというアドバイスとはまったく違うことをわ かってほしい。そのようなアドバイスはそもそもナ ンセンスだ。1つのことに100パーセントの時間 を費やすことなど誰もできない。他人と一緒に仕事 をしたり、家族の面倒を見たり、社会に大きな影響 を与えようとしているなら、なおのこと無理だ。必 ず、他の人たちの指導や、仕事の詳細部分の管理・ 運営、それこそメールなどに一定の時間を割く必要 が出てくる。何か言いたいかというと、そうしたこ とをやらないわけにはいかないが、重要で影響力の あるキャリアを築くためのアウトプットに取り組む 時間を戦略的に最大化することはできるし、そうし なければならない、ということだ。  ではなぜ、4割の時間は、避けて通れない雑務に 充てていいと言っているのに、もっと多くの人が、 量産すべき良質なアウトプットを出すことに専念し ないのか?  その最もよくある理由づけ(というより幻想と言う べきかこは、先延ばしと完璧主義である。  先延ばしのせいにすることは、すっかりお馴染み になっているが、実は先延ばしというのは実在する 「物事」ではない。先延ばしは、人間心理の一種で も、性格的特徴でもない。さらには、よく言われる、 時間管理能力が欠如した結果でもない。  では何なのかというと、実はモチベーションの問 題であることが、研究でわかっている。先延ばしは、 自分にとって本質的に重要なことに取り組んでいな いことから来る問題なのだ。まれに、失敗への不安 や恐れが原因の場合もあるが、それよりもはるかに 多いのは、自分がワクワクしないこと、夢中になれ ないこと、重要でないことに取り組んでいるために 先延ばししているケースだ。だからこそ、自分が納 得できるPQOを見つけることが重要なのだ。自分 が生み出しているものや、世の中で貢献しているこ とが大好きならば、先延ばしは減る。  もう1つ、私かアウトプットを増やせと言うと、 必ず出くわすのが完璧主義者だ。彼らは「でもブレ ンドン、世に送り出すものを数だけ増やすなんてで きません。私は完璧主義者なんで、絶対正しい、絶 対ウケると確信できなければだめなんです」という ようなことを言いだす。  だが、完璧主義というのは、遅延を体裁よく見せ かけるための屁理屈である。人がより多くのことを できない原因は、完璧主義ではない。始めることす らできなかったり、疑心暗鬼や注意散漫に陥ったり してやり遂げられないのだ。宣]の完璧主義者ならば、 少なくとも作品や著作物を完成させ、発表している だろう。というのは、何かを「完璧にする」という 行為は、いったん完成して発表された仕事にさらに 改良を加えることを意味するからだ。  誰でも、生産性を上げるのが難しい理由を見つけ られる。だが言い訳探しにこれ以上の精神力を使う のなら、仕事に取りかかろう。自分にとって最も重 要なことを思い出して、意識を集中させ、自分が誇 れる実質的なものを生み出そう。そして多作をして、 世界を変えよう。 ACTION -のまとめ  「重要なアウトプットを増やす」マイノート ー私の仕事で最も重要なアウトプットは…… 2量産すべき良質なアウトプットのために、より  集中的に取り組むためにやめてもいいと思える  ことは…… 3週の就業時間の何割をPO、oに充て、どのよう に調整するか……  ACTI()X2  5つの段取りを計画する  人間は、巧みにマルチタスクをこなす。複数のプ ロジェクトを並行して管理したり、たくさんのタス クを同時進行したり、食卓を囲みながら複数の人と 複数のI暗黙あるいは明示的なI対話をしたり できる。これは誰にとっても役立つ強みだが、度を 超すと人をダメにする。  多くの場合、卓越したマルチタスク能力があれば、 出だしの成功にこぎつけることはできる。たとえば、 ある人がカップケーキの店を開こうとしているとす る。彼女は、成功するために必要なあらゆる役割を I人で務め、あらゆる機会を追い求めるだろう。原 材料の発注係、カップケーキをつくる職人、注文を 聞く店員、クーポンを郵送するマーケター、近所の 友達をつくるネットワーカーを兼任する。何十もの 役割をてきぱきとこなし、何百ものタスクをさばく。 やがてある時点で利益が出るようになり、成功する。 このままいけば(イパフォーマンスに到達する可能 性もある。  しかし、初期の成功を収めると、新しい機会が訪 れる。すると彼女は、他のスタートアップへの助言 をするようになる。そして他の機会にも手を出す。 まだ、世界的なカップケーキ店という第一目標に達 していないにもかかわらず、悠々としている。今で もカップケーキのビジネスが最優先事業の1つだと 口では言うが、彼女のスケジュールをよく見ると、 もはや店の仕事が「最優先」ではないことがわかる。 さらによく見ると、彼女の取り組んでいることのほ とんどが支離滅裂だ。彼女は忙しくはしているが、 目的に向かって前進していない。  さて、彼女が軌道に戻るには、今何をすべきだろ うか?  答えは、シンプル化し、よけいなものを削ぎ落し て重要な部分だけに集中し、ディープーワーク (X)志向になることだ。そして彼女に何より必要 なのは計画である。  意欲に満ちている人たちでも、その多くが、自分 には明確な計画など必要ないと思っている。自分に は才能があるので、とりあえず参戦し、出たとこ勝 負でがんばってみて、成り行きに任せようと考える。  スタート当初は、それでもうまく行くかもしれな い。周囲がまだ誰も知識を持っていないので、生ま れ持った天与の才能だけで勝負できるかもしれない。 だがその優位性は、長くは続かない。アメフトにた とえると、他のチームや選手たちが、経験を積むう ちに計画を立てるIポジションやチーム構成、パ スルートや、プレイコール(※)を決めるIよう になるので、あなたが無計画なままだと、あなたは もうおしまいだ。  これは、(イパフォーマーにとって、ひどく耳の 痛い話だ。どれだけの(イパフォーマーが、焦点の 定まらない取り組みから生じる避けられない気移 り・目移りのせいで、トップの座を失っていること か。ただ、気が散って怠惰になると言っているので はない。ハイパフオーマーは、ちゃんと物事を実現 できる人びとだ。  だが、まとまった方向性を持たずに、たくさんの ことを実現するようになると、彼らは力を失い始め る。  次に情熱を失う。そうなると、細かいことばかり たくさんやって、大きな、意味のあることを成し遂 げられなくなる。問題は、今まで長いこと、計画を 立てずにやってこられてしまった大というのが、少 なからずいることだ。単純なタスクをやり遂げるの にたいした計画は必要なく、たいていは、明白な手 順さえわかっていれば、大とのやり取りもほとんど 必要なく、自分I人の手でできてしまうのだ。しか し、複雑なタスクや目標には、計画を立てることが 不可欠だ。1つの目標を達成するにしても、さまざ まな戦略があり、それぞれ効果や望ましさが異なる。 戦略目標が大きいほど、管理すべきことが多く、他 者とのやり取りも多くなる。ハイパフオーマーにな るためには、行動する前にもっと考える必要がある のだ。  ただ、すべての道筋とすべてのタスクを事前に考 えておかなければならないわけではない。長期プロ ジェクトは、できる限りの計画を立て、あとは臨機 応変に解決していくことが多い。だがやはり、目標 やプロジェクトが複雑な場合は、事前計画があった ほうが必ずパフォーマンスが向上すると、研究で明 らかになっている。  計画を立て、それを一歩一歩進めていくことは、 あなたが思っている以上に重要なのだ。計画を立て ると、散らかった思考を集中させることができる。 そしてやる必要のある重要なタスクを1つひとつ終 わらせるたびに、脳内にドーパミンが放出され、や りがいを感じると同時に、作業を続ける意欲が増す。 計画があると、活動を完了できる可能性が高まるだ けでなく、プロジェクトに取り組む楽しみも増える し、より多くの認知資源を次の目標に回せる。  さて、ここまでは、量産すべき良質なアウトプッ トは何かを見つけることについて述べてきたが、次 は、計画を立てる番だ。自分が取り組んでみたい、 最も野心的な夢を思い浮かべ、自分が本当に望むも のは何かを見極めて、こう自問しよう。  この目標をかなえるための取り組みを5つの大き な段取りに分けるとしたら、それは何か?  大きな段取りとは、活動のかたまり、つまリプロ ジェクト、と考えればいい。夢の実現への段取りで ある5大プロジェクトのそれぞれは、成果物、締め 切り、複数のタスクでできている。それらが明確に なったら、スケジュールに落とし込む。その際、時 間の大部分を、自分の決めた活動に専念するために 確保し、その時間枠の中では、その活動を進める以 外のことは何もしないようにする。  もし私かあなたの家を訪れ「スケジュール帳を見 せてください」と言ったら、あなたがどんな主要な プロジェクトに取り組んでいるのか一目でわかる状 態にしてほしい。だがもし、あなたの毎週、毎月の スケジュールからそれが読み取れないようなら、あ なたは、自分の時間を最適化できておらず、起きた ことへの対応(リアクション)と気移り・目移り (デイストラクション)に終始する人生に飲み込まれ る可能性が高い。あるいは、他の人なら数力月で出 せる結果を、何年もかけて手に入れなければならな いだろう。  (イパフオーマーたちは、ローパフオーマーに比 べ、何につけIワークアウト、学習、会議、旅行 などI計画をよく練る。ただ、誰でも、計画をし ている最中に混乱し、やっていることについ没頭し たり、綿密すぎる計画を立ててしまったりすること がよくある。この過程を複雑にしすぎる人が多いの だ。  そこでいったん立ち止まり「常に重要なことのみ を重要視することが重要だ」という言葉を思い出そ う。そして、あなたをゴールに導く5つの主要な段 取りを特定し、いついつまでにどのタスクを完了す るというスケジュールに落とし込む。あなたのPO、 Oと一致している段取りのみに専念すれば、あなた は秀でることができるだろう。  私の事例は周知のとおり、自分でも驚くほどうま く行った。作家になるという私の夢は、先に共有し たとおりだ。ただ、私のPO、Oが本を書くことだと わかる以前は、目標の焦点が定まらず、あちこちで いろいろな執筆をしてはいたが、実質的な進歩を遂 げられないでいたのだ。  いったん、自分が量産すべきは書籍だとわかって からは、他の活動をやめた。そして、本を出すため の5つの主要な段取りは何なのか思索し始めた。  私か目指しだのは、具体的には『ニューヨークー タイムズ』紙のベストセラー著者だ。私か望んでい たのは、ベストセラー入りの栄誉ではなく、それが 意味するものである。つまり、私の本でたくさんの 人たちの生活を向上させることだ。しかし問題が あった。私はすでに本を出していて、それがベスト セラー入りしていなかった。そのときの私は気を腐 らせ、ベストセラーリストは「システム」が崩壊し ていて、新人作家は落とされるのだという勘違いに 走った。いろいろな人のせいにしてしまったが、実 は自分の計画が甘かったという厳しい現実と向き合 うべきだった。本を執筆し、宣伝するという過程全 体において、初心者の私は無計画すぎたのだ。  今度こそ、前回のような無秩序なやり方で新刊の 運命を台無しにしてなるものかと決心した。I冊目 のときのように、一日を通してだらだらと書くのは やめた。ライターのカンファレンスに行ったり、ラ イティングの指南書を読みあさったりする衝動も抑 えた。百のことを百の方向でやらないようにした。 それをしてしまうと、また疲弊や、焦り、失敗につ ながるとわかっていたからだ。  代わりに、何人かのナンバーワンーベストセラー の著者にインタビューし、彼らの主要な活動を分解 した。シンプルにこう尋ねた。  「あなたの本を大ベストセラー入りさせるのに最大 の違いをもたらした5つの主要な段取りは何でした か?」  あなたも同じようにするといい。あなたが何らか のかたちで見倣いたいと思う成功者を探して、彼ら の5つの段取りを聞き出すのだ。  私かそこから学び取ったことは、意外だった。 ●ベストセラー著者たちが語ったのは、「文筆家で  あること」についてのロマンや理想論ではなく、  気分が乗らなくても枚数を書く努力と自己規律に  ついてたった。 ●ライターのカンファレンスに参加したことを成  功要因として挙げる人はいなかった。 ●フォーカスーグループ(※)や読者層について  語らなかった。 ●執筆前に何年もリサーチを重ねたことを、売れ  た要因として語る人はいなかった(調査を行った  人は何人かいた)。 ●大手メディアヘの露出や従来的なブックツアー  (※)に言及する人は少なかった。 ●ブッククラブ(※)について言及した人はいな  かった。 ●有名人に序文を書いてもらったことを成功要因  とする人はいなかった。  これを聞いたときは、驚きだった。出版に憧れを 持っていた私にすれば、これらはすべて重要な施策、 というか、これこそが正しいやり方だと思っていた からだ。私は、著者たちに話を聞きに行くとき、自 分が出版に備えてやっておきたいことの長いリスト を持っていった。そこには、たとえばこんな項目が あった。 ●「独自の文体を確立する」ために、ライティン  グーワークショップに参加して、自分の文章への  フィードバックをもらう。 ●自分の本の読者層の人にたくさんインタビュー  して、私のコンテンツに何を求めているかを探る。 ●出版後メディアに大々的に取り上げられるよう、  メディアが取り上げたくなるような要素や切り口  のアイデア出しをして、本に取り入れる。 ●本を有名人に推薦してもらう。  これらの施策は何ら間違っていない、という意見 もあろう。実際役に立ちそうでもある。ただ私か言 いたいのは、こうした動きが成功の決め手になった と言うベストセラー著者はI人もいなかった、とい うことだ。著者をベストセラー入りさせたり、より 多くの人に本を買わせた施策はこの中に一つもない のだ。  結局、ナンバーワンーベストセラーという結果を 得るために本当に重要なのは、次の5つの基本的な 動きであることを発見した。  I良書を書き上げる。それを終わらせないこと   には何も始まらない。  2出版社との出版契約を望むなら、出版エー   ジェントを利用する。そうでなければ自費出版   をする。  3ブログとソーシャルメデイアヘの投稿を始め、  それらを通してメルマガ購読者のメールアドレ  スを集める。メールがすべてだ。 4書籍の販促用のランディングページを作成し、  本を購入してもらうための魅力的な特典を用意  する。特典は非常に重要。 5多くの登録者を持つメルマガ配信者5110人  に、本の販促をしてもらう。お願いをする際は、  その人が販促を必要とするときは協力する旨を  メールで伝える。そして、今回の販促であなた  が本と一緒に販売する他の商品がその人たちの   メルマガ経由で売れた場合は売上げの一部を支   払う。  たったそれだけだ。「真の自分を見つけ、毎日、 壮大な情熱と愛をもって読者のために書き続け、そ の人たちの心と魂に永遠の影響を与えよう」などと いうメッセージに比べるとドライだが、この5つは、 話を聞いた著者のほとんどが挙げた大きな段取り、 つまり、最も重要な5つだ。私は唖然とした。やり 方がまったくわからないことばかりで、怖くもなっ た。  しかし、自信はあった。なぜなら、これで計画が 立てられるからだ。そしてこれから話すように、真 の自信とは、自分の、なんとかする力を信じるとい うことだ。最初は夢だけを持っていた。だがここで 秘密の5つの段取りがわかった。私は、どうすれば 5つの段取りを実現できるか、なんとか見つけ出し てみせると意欲に燃えていた。  そして私は、この5つの動きに全力を注ぎ、他の 活動をほとんどやめた。それぞれの活動を達成する ためのスケジュールを立てた。しばらくのあいだは、 第1項の「本を書き上げる」が私のスケジュールの 9割近くを占めた。それをやり終えてからは、他の 活動に深く取り組むために、週の大半の時間を確保 し、5つの動きを1つずつ完遂していった。その間、 それ以外のことは、「気移り・目移り」か「人に任 せること」と見なした。  話を単純化しすぎているように聞こえるだろうが、 もう少しおつきあい願いたい。たとえば良書を書き 上げるという第1の段取りを完遂できない原因は、 何百通りも考えられる。リサーチをやめられない、 ライティングの勉強をする、独自の文体が見つかる 日を待つ、人にインタビューする、先延ばしする、 小さなくだらない記事をたくさん書こうとするなど。  だが、話を聞いたベストセラー著者全員に強く言 われたのは本を書き上げろということ。「それを終 わらせないことには、何も始まらないんだよ」と。  これこそが、自分の5つの段取りを決めることの すばらしい効果だ。第1、そして第2、第3、第4、 第5の主要な活動が何かを知ることで、案内図、計 画、明確な道筋が見えてくる。それで大筋を見失わ ないで済む。  そうして私は他のことをすべてストップした。次 に、残りの4つの動きを速やかに遂行していった。 第2の出版に関しては、基本的に自費出版を手伝っ てくれる会社から出版することにした。本の企画を 出版社に「認めてもらう」かたちの商業出版とは 違って、私か渡した原稿をそのまま本の形に仕上げ てもらう形式である。表紙はPowerPointを使って 自分でデザインした。第3のメールリストは、以前 から自分でメールアドレスを収集しており、さらに、 私の動画をプロモーションしてくれるというメルマ ガ配信者の友人を10人ほど見つけた。そのメンバー を揃えるための連絡やお願いや催促に2週間くらい かかった。SNSには、3囗かけて動画を撮り、4 囗かけてブログにアップし、メール配信用に編集し た。  このようにして、延べ60囗で、前著『人助け起業 〈ミリオネアーメツセンジャー〉』を、企画から、 『ニューヨークータイムズ』紙、『USAトウデイ』 紙、バーンズーアンドーノーブル、『ウォールスト リートージャーナル』紙のナンバーワンーベストセ ラーにのし上げたのである。スケジュールの内訳は、 執筆に30囗、出版準備と、SNS投稿、ランディン グページ作成、特典準備、動画へのリンクをメルマ ガに載せてもらう依頼に30囗だ。5つの段取りを60 囗で完了し、ナンバーワンーベストセラーを生んだ のである。  そんなことができたのは、幸運にも、すでに販促 を手伝ってくれるパートナーを知っていたり、ウェ ブページや動画作成のスキルがあったりしたからだ ろう、と言う人もいるだろう。それは100パーセ ント正しい。だが、そうした「ズルい」アドバン テージは、あくまでもそれまで何年もかけて努力し た結果だ。なにも、生まれ落ちたら、分娩室でプロ モーションのパートナーと動画撮影のセットアップ が待っていたわけではない。それどころか、プロ モーションのパートナーなど、5つの段取りに欠か せない存在と知るまで、一度も持ったことはなかっ た。  ここに重要なポイントがある。  「5つの段取り」をどうやって達成するかを知って いる、いないは問題ではないのだ。重要なのは、あ なたの大きな目標の一つひとつを達成するための 「5つの段取り」をはっきりさせること。この段取 りを知らなければ負ける。  また、達成のスピードもポイントではない。60囗 で何をしたとかしなかったという話ではない。大事 な段取りを特定し、それらを実行したことが大事な のだ。実行にたとえ2年かかったとしても、それは それで、自分が望んでいた結果をもたらしたはずだ。  だが、5つの段取りに専念していなければこの結 果は得られていない。私はこのシンプルな計圉づく りを実践することで、人生の大きな目標を何十も達 成した。「5段階計画」のおかげで、自分の大好き なビジネスを構築し、アメリカの大統領に会い、大 ヒットのオンライン講座を効率的に作成し、大規模 な講演の仕事を依頼され、応援する非営利団体や チャリティの何百万ドルもの資金調達に貢献できた のだ。私のクライアントたちもこれを繰り返し実践 して、同等にすばらしい結果を得ている。  そのシンプルなプロセスとは…… ●自分の成し遂げたいことを決める。 ●その目標に大きく近づくための「5つの主要な  段取り」を特定する。 ●5つの主要な段取りの1つひとつに、ティー  プーワークー週の就業時間の少なくとも6割を  その活動に費やすIで取り組み、完了させる。 ●それ以外のことはすべて「気移り・目移り」か  「人に任せるタスク」、あるいは「残りの4割の時  間でやること」に割り振る。  単純すぎる方法論に思えるのはわかっている。だ が、私か「自分の望むことを達成するために取り組 んでいる5つの主要なプロジェクトは何か、順番に 教えてください」と訊くと、希望に満ちた努力家で も答えられない場合が、あまりにも多いのだ。焦点 の定まっていない人は、思いつきで答えたり、不必 要なことを並べ挙げたり、いろいろなことを頭に浮 かんだそばから垂れ流したりするが、(イパフォー マーは、ちゃんと把握できているのだ。自分がどん なことに取り組んでいて、なぜそのような順序なの か、厳密に答えることができる。スケジュール帳を 開いて、主要な目的とプロジェクトのために確保し た時間枠を見せることができるのだ。  あなたも自問してみてほしい。もし私かあなたの 家を訪ねたら、あなたはスケジュール帳を開いて、 特定の大きな目標につながる主要な活動に充てるた めの時間枠を見せられるだろうか? 見せられない ようなら、次にやるべきことはもうおわかりだろう。  だがここでこんな声が聞こえてきそうだ。  「でも、計画なんて立てないのにめちやくちや成功 している人を知っている。彼らはいろんなことに次 から次へと手をつけて、触れるものすべてを黄金に 変えていく。長期プロジェクトも計画も持っていな いのに」  そういう型破りな人はたしかに存在する。しかし、 問題はそういう人がいるかいないかではなく、彼ら が無計画なためにやり残していることがどのくらい あるかだ。そういう人も、少し計画を立ててみれば、 貢献度が飛躍的に向上するだろう。一方、大多数の 私たちは自己規律がなければ、夢は永遠に妄想のま まであることを忘れてはならない。  きちんと計画し集中的に実行すれば数力月ででき ることに、何年もかけるべきではない。自分の5つ の段取りを特定し、それらに懸命に取り組もう。そ して、意味深いもの、自分の誇れるもの、自分を並 外れた存在にしてくれるものを生み出すには、次に 何をすればいいのかを、常に意識するようにしよう。 ACTION2のまとめ 「5つの段取りを計画する」マイノート ー今すぐ計画すべき最大の目標または夢は…… 2その夢の達成に大きく近づくための5つの段取  りは…… 35つの段取りのスケジュールは…… 4同じ夢を叶えた人で、私か調査し、探し出し、  インタビューし、手本にすべき人は…… 5今後3ヵ月間、5つの段取りに集中的に時間を  割くためにスケジュールから外す、重要でない  活動または悪習慣は…… ※ディープーワーク  本当に大事なことに集中するスキル。 ※プレイコール  コーチから伝達される指示。 ※フォーカスーグループ  自社商品について直接意見を訊く少人数の消費者グ  ループ。 ※ブックツアー  著者が全国の書店をめぐって読者と交流を図るプロ  モーション。 ※ブッククラブ  出版社から大量の新刊を低価格で買い取り、会員に、  書店で購入するより安値な価格で提供する。  ACTI()X3  重要スキルを究める  より生産的になるには、より有能になることだ。 そのためには、自分の関心分野で勝つための主要ス キルをマスターしなければならない。  昔から、重要なスキルの習熟は、マクロレベル、 個人レベルの双方における生産性やパフォーマンス の向上と関連づけられてきた。スキルの向上が、よ く国全体の教育や経済政策の目標となるのは、それ によって経済成長が促されることが多いからだ。ス キル向上は、労働者個人にとっての特効薬とも考え られている。より深いスキルを持つ人は、一般的に、 より高い収入を稼ぎ、仕事の満足度も高いからだ。 ただ、必ずしもそうとは言えないケースもある。熟 練労働者でも、間違った戦略、リーダーシップ、職 務設計、人事慣行によって潰されてしまうことがあ る。多くのスキルを持ちながら、職場でチャンスを 与えられなかった人を、誰でも知っているはずだ。  1つだけ確かなのは、自分の分野での成功に必要 なスキルを持っていないのは、致命傷ということだ。 さらなるスキルの習得なくして、そのキャリアでの 躍進はあり得ないので、現在そして将来、勝ち残る ために身につけるべき主要なスキルを特定すること が不可欠だ。  「スキル」という言葉は、ある分野で、適切なパ フォーマンスをするための幅広い知識と能力を意味 することが多い。一般的なスキルとしては、コミュ ニケーション、問題解決、システム思考、プロジェ クトーマネジメント、チームワーク、コンフリク トーマネジメント(※)の能力などがある。また、 特定の仕事や企業に特化したスキルもある。コー ディング、ビデオ制作、財務、計算などの技能だ。 さらに、セルフコントロール、レジリェンスなど、 さまざまな感情的知性を指す、パーソナルスキルも ある。  このセクションでのあなたの目標は、なりたい自 分に成長するために今後3年間で身につける必要の ある5大スキルを特定することだ。  この取り組みは、ある原則が前提となっている。 すべてのことは訓練によって習得可能である、とい うものだ。どんなスキルでも、訓練と練習と意図が 十分なら、うまくなれるのだ。これを信じないなら、 あなたのハイパフォーマンスヘの旅は、ここで終わ りだ。現代で最も優れていると言える3つの研究が 示しているとおり、人は「成長マインドセット (※)」を持ち続け、情熱と粘り強さをもって目標に 集中し、卓越性をもって練習すれば、どんなことで も上達するのだ。  人が「できない」と言うときは、たいてい「それ を達成するために必要な長い訓練と調整をする気が ない」ことを意味する。  だがぜひ覚えておこう。すべてのことは訓練に よって習得可能なのだ。  この言葉は、私の人生を永遠に変えた。本書では、 個人的すぎる内容になってしまうリスクを承知であ えて、私自身のキャリアの事例をたくさん共有して いるが、この話は、私かおそらく最もよく受ける質 問に関係するし、多くの人が恐れていることでもあ るので、話させてほしい。人前でのスピーチについ てである。  20年前、交通事故後に大学に復学した私は、親し い友人たちに事故の話をした。意図をもっとしっか り持って生き、今度人生最後の問いI自分は生き たか? 愛したか? 重要な存在だったか?−に 直面したら、満足して答えられるようにしたい、と いう気持ちも話した。みんながみんな、私の体験や 教訓を拝聴してくれたわけではないが、何人かに、 この話を彼らの友達にも話したらどうかと勧められ た。「勇気づけられる話」だと言ってくれた。  その当時の私は、友達からは外向的と見なされて いたようだが、実は自分の内面は見せないタイプ だった。男同士で冗談を言い合ったりふざけたりし ていたし、人を理解し、心を通わせ、楽しい時間を 過ごしたかったので、人見知りもしなかった。だが、 自分の個人的内面をさらけ出すかと言ったらそれは 別だ。自分の本当の考えや、ニーズ、夢などを他人 に話すことなどめったになかった。  ちょうどその頃、私は、心理学、哲学、自己啓発 を学び始めていた。答えを探していた。どうすれば、 もっといい人生を生きられるのか知ろうとしていた のだ。そうしたテーマの本をたくさん読んでいくう ちに、著者たちの多くが歩んできた旅路が、私のそ れとよく似ていることを発見した。つまり、何かが 彼らの身に起こり、それに感化されて、自分の人生 を向上させ、その過程で他者を助けようと思うよう になったのだ。彼らのストーリーを読むうちに、自 分自身の話を他者と共有したくなってきた。  また、そうした著者たちの多くが、著者紹介で 「講師」「プロの講演家」「ワークショップ主宰者」 といった肩書きを記していることにも気づいた。著 者は、講演家としても活躍していることが多かった のだ。そこで私は、彼らのオーディオブックや、 ネットで公開されているスピーチを探した。すると、 話がうまい人ほど、メッセージを伝えるのも、他者 の変化を促すのもうまいことがわかってきた。私は、 人前で話すスキルをマスターすることは、自分の人 生にとっても必須と判断した。  世の中の役に立ちたい、そのためのスキルを身に つけたい、という願望が、恐怖心に勝ることはまま ある。私は本気になり、自分で「漸進的マスター 法」と呼んでいる学習法を始めた。すると人生がす ぐに変わった。  スキルをマスターしようというなら、あなたには 2つの選択肢がある。ある程度の練習と反復で、そ のスキルが身につくのを願うか、あるいは、漸進的 マスター法によって、そのスキルで世界的レベルま で上達するかだ。  漸進的マスター法の考え方は、多くの人が考える スキル習得のアプローチとは大きく異なる。ほとん どの人は、あることに興味を持ったら、数回やって みて、それが自分の「得意」なことかどうか測ろう とする。うまくできなければ、生まれ持った資質や 才能がないからだと決めつけてしまう。この時点で、 たいていの天がやめる。一方続ける天は続ける天で、 上達するには徹底的に繰り返すしかないと考える。 数をこなすことで上達し、レベルアップできるだろ  たとえば、水泳がうまくなりたいとしたら、たい ていの天は、泳ぎ方を知っている人から教わるだろ う。そして泳ぎ始める。持久力とスピードを上げよ うとして、どんどん泳ぐ。繰り返しプールに天って、 うまくなろうとする。水の中にいる時間こそが、泳 ぎがうまくなる秘訣だと想像している。  だがこれは、実は最も非効率なスキル習得法の1 つだとわかっている。反復練習が(イパフォーマン スにつながることはまずないのだ。そこで「漸進的 マスター法」を知っておくことが重要になる。  漸進的マスター法のやり方は以下のとおりだ。  Iマスターしたいスキルを決める。  2少しずつ高めの目標を設定しながら、スキル  を習得していく。 3その歩みと結果に、深い感情と意味を結びつ  ける。 4成功に不可欠な要因を特定し、それらの領域  での自分の強みを伸ばす(そして同等の熱意を  もって弱みを直す)。 5どのような状態が成功、あるいは失敗なのか、  はっきり頭に描けるよう、視覚化する。 6専門家による、あるいはしっかり計算された、  適度に困難な練習メニューを策定する。  7進捗状況を測定し、外部からのフィードバッ   クを得る。  8他の人と練習したり競い合ったりして、学び   や努力に人づき合いを取り入れる。  9向上を続けられるよう、より高いレベルの目   標を更新し続ける。  10自分が学んだことを人に教える。  この、漸進的マスター法の10原則は、アンダー スーエリクソンが考案した計画的練習にアレンジを 加えたものだ。漸進的マスター法も、計画的練習も、 コーチを雇うこと、自分にコンフォートソーンを超 えたハードルを課すこと、成功とはどうあるべきか というイメージをつくり上げること、上達を追跡す ること、弱点を修正することが共通点だ。  では何か違うかというと、漸進的マスター法は、 感情、人づき合い、人に教えることに重点を置いて いる点だ。言い換えれば、習得過程に感情を結びつ ける、他者への指導や他者との競争を通して自分の 能力を高める、教えることの大きな力を活用して自 分自身の技をより深く理解する、ということを、規 律をもって、戦略的に行うのが特徴なのだ。こちら のほうが、より人間的、社会的で、楽しいスキルの 習得法でもある。  では、これらの原則に従うと、いかにして単なる 反復練習よりずっと早く上達するのか、水泳の練習 を例に取って見ていこう。時折プールに飛び込んで うまくなろうとする代わりに、こうしてみたらどう なるだろう?  I自由形の選手としてのスキルを伸ばしたい   (背泳ぎや、平泳ぎ、バタフライには巾途半端に手   を出さない)と的を絞る。  2入水、I周の泳ぎ、ターン、ラスト10メート   ルをいかに速く、効率的に泳ぐか、目標を設定   する。  3各目標については、事前にあなたのパフォー   マンスを気にかけてくれる人に相談する。毎回  練習を始める前に、上達が自分にとってそれは  ど大事な理由を自問する。たとえば、身体を鍛  えたい、大会で優勝したい、周回遅れの親友を  何度か追い越したいなど。 4成功するための重要要素は、水中で腰をうま  く使うこと、大きな弱点は、最後まで持久力が  持だないことだと特定する。 5毎晩、完璧なレースを思い描き、どのように  水の中を進み、どのようにターンのキックをし、  疲れを乗り越え、最後の数ストロークでラスト  スパートをかけるかイメージする。 6熟練コーチをつけて、定期的にフイードバッ  クをもらい、目標を徐々に上げていくような練  習メニューを設計してもらう。 7泳ぐたびに自分の上達を測って日誌に記録し、  それを見直して、自分のパフォーマンスについ  ての洞察を引き出す。 8一緒に泳ぐのを心から楽しめる人だちと常に  一緒に練習し、自分より優れた選手と競うため  に大会に出場する。  9毎回泳ぐたびに、次のセッションに向けてよ   り高い目標を設定する。  10週にI度、チームの他のスイマーの公式指導   に当だったり、地元の水泳教室で教えたりする。  このアプローチなら、ただプールに飛び込んで上 達を目指すよりもずっと良い結果につながることが わかると思う。プールに入っている時間がまったく 同じでも、このやり方に従ったほうが、何も考えず に反復するよりはるかに効率が良い。  これは、私か一流講演家になると決めたときに自 分自身のために編み出したアプローチだ。さて、た だ講演の回数を積んで上達を祈るべきか、それとも 本当の気持ちを入れ込み、卓越性をもって学習すべ きかと考えた。結果、漸進的マスター法に専念する ことを選んだことは、私の人生で最も優れた決断の 一つとなった。  私は、シンプルに前述の10原則に従った。この中 で私にとって、最大の効果を発揮した原則は、2と 3と10だ。  私は、講演の回数を積むごとに、メモの量を減ら していくことを目標にした。たとえば、初めて大学 で講演をしたときは、すべての内容を原稿に書いて、 基本、それを棒読みするかたちだった。2度目の講 演では、メモを紙1枚に収めた。次は、半ページほ どの箇条書きにし、それをさらに、5項目に絞った。 そして、5つの単語だけをカードに書いておくだけ にした。大学を卒業する頃は、まったくメモを使わ ずにプレゼンができるようになっていた。これが第 2項目「少しずつ高めの目標を設定しながら、スキ ルを習得していく」を私なりに実践したかたちだ。  これはけっして私の秀でた能力を意味するもので はない。初めてお金をもらって講演をI人間関係 について、大学のある女子社交クラブでIしたと きは、登壇直前に緊張で吐いてしまった。でもあれ は、それだけ自分のパフォーマンスを気にかけてい たからこそだと言える。つまり、第3項に従い、自 分の歩みと結果に「深い感情と意味」を結びつけて いたのである。そして失敗したときは、落胆せずに、 やる気を起こすこと、自分に腹を立てることを許し た。私の言葉で人びとを鼓舞するためにはこのスキ ルアップがいかに重要かを自分に言い聞かせ続けた。 また、マーティンールーサー・キングージュニア、 ジョン・F・ケネディ、ウィンストンーチャーチル といった偉大な演説家たちの演説を見たり、史上最 も偉大だと言われている演説の書き起こしを何百本 も読んだりした。  第10項の「自分が学んだことを人に教える」も、 私の上達に大きく影響した要因だ。大学院で、ス ピーチの授業を2学期間にわたって教える機会に恵 まれたのだが、今思えば、何もわかっていない教師 だった。しかし、学生たちのコミュニケーションカ を向上させる仕事に、日々、熱心に向き合った。そ うやって、自分が学んだことを彼らと分かち合って いるつもりだった。でも実は、私か学生たちに教え た以上に、こちらが彼らから教わっていたのだ。人 に教えていると、教えられる側の苦しみを感じたり、 彼らの躍進の機会を喜ぶ体験ができる。学生たちを 観察することで、異なる立場をいわば擬似体験する ことができ、それが自分自身のスキルアップにつな がった。  10段階の漸進的マスター法を習慣化したことで、 私のすべてが変わった。人前で話すことが怖かった 青年から、たった数年で、メモも見ずに聴衆を前に して話す、自信あふれる演説家になることができた。 今では、4〜5日間のセミナーで何千人もの参加者 に、多くの場合私I人で、I囗8〜10時間ぶっ続け で教えている。また、何万人もの聴衆で埋め尽くさ れたアリーナで、何十もの分野の大物、リーダー、 著名人の多くとステージを共にする機会に恵まれて きた。かつてはカメラの前に立つのがどうにも苦手 な私だったが、その後、何十ものオンライン講座と 幾多の動画撮影で、あの黒いレンズに、躊躇なく、 繰り返し向かってきた。私か望む場所への道のりは いまだ遠く、学ぶべきことがたくさんあるし、目標 に及ばない部分をすべて厳しく見直す必要がある。 それでも、常に新たなレベルに挑戦していくこのプ ロセスが大好きなのだ。  漸進的マスター法のおかげで、もう怖くはないし、 アマチュアでもない。もし、規律あるアプローチな しのべ夕な努力で、スピーチの上達を「図って」い たら、これほど卓越することはなく、これほど多く の人びとに影響を与えることもなかっただろう。  私は、漸進的マスター法のテクニックを使って、 オリンピック選手のタイムを向上させ、NBAのス ター選手がもっとジャンプシュートを打てるように し、CEOがより良い戦略を立てられるようにし、 子を持つ親がもっと効率的なスケジュールを立てら れるようにしてきた。人生で、漸進的マスター法の 実践によって改善できないことはないのだ。  もちろん、新しく学ぶスキルのすべてに、このよ うな戦略的で規律あるアプローチを適用する必要は ない。あなたの必要とするフィードバックを与えて くれるコーチやメンターを見つけるのが難しい場合 もあるし、自分の学びを人に教える機会が隕られて いる場合もあるだろう。自分をコンフォートソーン から追い出し、向上させるために懸命な努力を続け るのは、時として難しい。  でももし……もし、次のスキル習得の取り組みに、 もっとよく考えられたシステムを取り入れたなら? あなたの主な関心分野で世界的レベルに達すること ができたなら? 腕を磨いて、量産すべき良質なア ウトプットを生み出せたなら? 高い技量で5つの 段取りをより速いスピードで完遂できたなら? も し今日、この場で、一段上の推進力と卓越性を追求 すると決心したならどうなるだろう? ACTION roのまとめ  「重要スキルを究める」マイノート ーより自信と自己効力感を得るために身につけた   い3つのスキルは…… 2それらのスキルを上達させるための大まかなス  テップは…… 3それらのスキルについて相談したいコーチやメ   ンターは…… ※コンフリクトーマネジメント  組織内で意見の対立やもめごとが起きた際に問題解決  を図る取り組み。 ※成長マインドセット  努力すればできるようになるという信念。  人生はI度きり  人生は短い。成功するために私たちに与えられた 時間は隕られている。だからこそ、意識を集中させ る必要があるのだ。魂をワクワクさせないアウト プットを生み出すのはやめよう。誇りに思えないこ と、世の中に影響を与えないことを、きちんと、あ るいは効率的にやろうとするのも避けよう。人生の 現段階で、自分にとって本当に重要なアウトプット は何かを見極め、大きな夢を達成するための5つの 段取りを描き、スキルを磨きながら、夢を実現させ よう。そうなると、世界はあなたのものだ。  このCEOは危機に直面していた。  ファンの世界的アパレル企業は、7四半期連続 で業績が低迷している。10年間好調を維持してい た後に売上げが続落したので、アナリストたちは、 ファンのリーダーシップとブランドの存在意義の 双方を疑問視し始めていた。  私は、その程度の情報しか持たずに、8月のあ る暑い午後、彼の社用ジェット機に乗り込んだ。 私の旧友であるアーロンが同社のCFOを務めて おり、私に、彼らと一緒に国を横断するフライト に乗り込んで、意見を聞かせてほしいと依頼して きたのだった。ファンとアーロンが、世界各地の 幹部40人が集まる全社会議に向かうフライトだ。  軽い社交辞令を交わした後、私はファンに、会 社の問題の中核は何だと思うかと訊いた。  「彼女だよ」彼は、ファッション雑誌のあるペー ジを指差して言う。その女性の写真がIページ全 面を占めていた。「ダニ子フ。彼女が元凶なんだ」  ダニェラは、同社が新しく迎えたチーフデザイ ナーだ。彼女は別の高級ブランドの新進気鋭のデ ザイナーとしてメディアの注目を浴びていたとこ ろ、ファンの会社に引き抜かれた。だがファンに よると、着任して数力月も経たないうちに、2人 は衝突するようになった。ファンは、これまでの 中心的なデザインと定番商品を継続させたい。そ れに対しダニ子フは、ブランドを未来へと押し進 めるべく、シーズンごとにもっとエッジーなデザ インを取り入れたい。結果、社内がファン派とダ 二子フ派の査]つ二つに分かれてしまった。新しい 商品ラインが会社全体の支持を得ていない状況の 中、内紛と非難が社内のあちこちで起こるように なった。プロジェクトは停滞。マーケティングは 失敗。収益は柢落した。  それを説明するファンの口調からは、ダニ子フ を蔑んでいることがひしひしと伝わってきた。 「彼女はあなたの年代だから、扱い方を教えても らえないかね」と私に言うときの口調にも人を見 下した態度が見え隠れしている。  「それは年齢の問題ではないですね」私は冷静に 答えた。「影響力の使い方の問題です。その基本 を如実に示す言葉があります。伝説的なバスケッ トボールのコーチ、ジョンーウッデンが『物は 扱っていいが、人とは協力し合うこと』と言いま した」  ファンは、この言葉には馬耳東風で、ダニ子フ の社内での影響力を最小化するにはどうすべきか という話を始めた。彼女の好きにさせないように、 予算を削り、チームメンバーを入れ替えたい。フ ァン自身がやりたいことに特化した事業部門を立 ち上げたい。ダニ子フの商品を見るバイヤーの数 を制限したい。そうした作戦を20分ほどかけて説 明してもなおファンの鼻息は収まらず、しまいに は「他にどんなことができるかねえ?」と私に訊 いてきた。  私はこのような立場に置かれるのを好まないが、 こういうことはままある。業績不振を部下のせい にし、社内政治と個人への嫌がらせで人をコント ロールしようとするリーダーがいるのだ。私はこ のようなたくらみには関心がない。もし高度4万 フィートの機内で身動きできない状態でなければ、 その場を去っていただろう。  少しも共感できない私に気づいたアーロンが切 り出した。  「ブレンドン、今日君を連れてきたのは、ファン に君の見解を聞かせてもらうためだよ。ファンは 威勢のいいことを言ってるが、社内抗争は、君が 関知すべきところじゃないとわかっていて、君の コーチングに耳を傾ける気はあるから大丈夫だ。 ストレートに言ってやってくれ」彼はファンの顔 を見て同意を求めた。  ファンも言った。「遠慮は無用だ」  私は「アーロン、ありがとう」と言ってから続 けた。  「そしてファン、この件についてはずいぷんと強 硬な見解をお持ちなんですね。でも、あなたが最 終的にどうしたいのかとか、ダニエラがどう考え ているのかを知らずに、フィードバックを差し上 げるのは難しいんです。あなたは、ダニエラと徹 底抗戦して、彼女を辞めさせ、メディアを騒がせ て、あなたのブランドに永遠に傷をつけるつもり なのかなあ……というように見えるんですが、間 違ってますか?」  アーロンが驚いて座り直し、気まずそうに笑う。 ファンは表情ひとつ変えずに「別にそんなつもり じゃないよ」と答えた。  私はアーロンに合わせて笑った。  「じゃあ、彼女を辞職に追い込もうというわけで はないんですね?」  「それはない。彼女が辞めたら、チームの半分が ついて行っちゃうだろうからね」  「なるほど。じゃあ、あなたは何を望んでるんで すか?」  「もう少しお手柔らかに願いたいんだよ」  「それは、あなたに賛成し、あなたの計画を実行 してほしいという意味ですか?」  ファンは一瞬考え、肩をすくめて言った。  「それって、そんなに問題かね?」  そこにはうぬぼれが垣間見えた。  私は彼が本気で言っているのか確かめようとし たが、どうやら本気らしかった。この男は、古い 指示命令型のリーダーシップから抜け出せていな いのだ。私はこう答えた。  「ダニ子フにとっては、たしかに良くないことで しよう。私は彼女を知りませんが、自分のことし か考えられない上司に就くのは誰だって嫌です。 ダニエラが目指すべき唯一の目標が、あなたに合 わせることだとしたら、彼女にとっていいことは 何もない。あなたは彼女のベネフイツトは何も望 んでいないんですか? そもそも、どうして彼女 を雇ったのですか? 彼女は、あなたが評価する ような資質やビジョンを持っていたんじやなかっ たのですか? 彼女にこの仕事を引き受けさせる ために、あなたは何を約束しましたか?」  ファンは、長いあいた忘れていた記憶をたどる かのように、これらの質問と格闘していた。人は 闘いに夢中になると、もともと自分が何の約束を 破ったせいで相手から攻撃を受けたのか、忘れる ことがよくある。  ファンは、ダニ子フを雇った理由を詳しく話し 出した。彼女がいいアーティストで、人と接する のも得意という、珍しい組み合わせを兼ね備えて いたからだと言う。  「それで彼女に、うちのブランドで成長できるよ うな基盤を約束したんだ。彼女にはもちろん成功 してほしかったし、その機会を与えたいと思った。 だけど彼女はそれをいいように利用して、私じゃ なく、彼女自身のビジョンを会社の中心に据えよ うとし始めたんだ」  そこでアーロンが口を挟んだ。  「てなわけで、にっちもさっちもいかない状態な んだ」  私は言った。  「いや誰もそんなふうにはなってない。彼らには、 見えてないことがあるだけだ」  ファンが訊いてきた。  「われわれに見えてないものとは? ダニ子フが 望むことは、皆わかってるが」  「それは何ですか?」  「会社を乗っ取ることだよ」  「本当にそうでしょうか?」  「本人がそう言ったわけじやないが、絶対そうい うことだと思う」  「まあ、この件の全貌を知らない私に、あなたの 憶測を疑うことはできないし、ここにいない彼女 に訊くこともできません。とりあえず、あなたの 言うことが正しいと仮定しましよう。これであな たの視点がわかり、彼女の視点もわかったと仮定 すれば、見えていないのは、影響力というものが どのように発動するかだと思いますね」 「どうやって発動するんだ?」 アーロンが訊い てきた。  「相手の意欲を駆り立てることです。人に影響を 与える唯一の方法は、まずその相手とつきあい、 相手がより良い視点を持ち、より良い行いをし、 より多く与えるよう、意欲を駆り立てることです。 まず相手とつき合うには、非難するのではなく、 頼むこと、訊くことが有効。そして、意欲を駆り 立てるには、相手の見方・考え方を形成し、向上 を促すことで実現します。私か問題だと思うのは、 あなたが、ダニ子フの野心をわかっていながら、 その実現を手伝う代わりに阻正していることで す」  ファンは驚いて首を横に振りながら、テーブル にもたれかかった。  「冗談はやめてくださいよ。彼女に会社を渡せと いうんですか?」 「それはまったく違います。相手を弱体化させた リ、野心を削いだりすることで、有益な影響は与 えられないと言ってるだけです。人は、より大き く考えることをサポートし、成長させてくれる りIダーとしか働きたがらない。ダニェラに影響 を与えたいのであれば、あなたは、彼女と改めて 心を通わせ、彼女がさらに大きく考えることを手 伝って、驚かせてあげましよう。そしてさらなる サプライズとして、一緒に野心を満たそうと彼女 を駆り立てることです。彼女の野心は、会社を 乗っ取ることじやないかもしれませんよ。彼女は あなたが恐れるほどそれを望んでいないような気 がします。いずれにしても、あなたがた2人は、  一緒に目指すべき新たな野心を必要としています。 共通の新たな野心を持だなければ、これまでどお りの問題が続きます」  ファンはまた首を振る。  「どういうことかな? 会社の新しいビジョンが 必要ってことですか?」  「違います。あなた個人が、ダニ子フに影響を与 えるための新しいビジョンを必要としているんで す。あなたがダニ子フにうまく影響を与えられれ ば、彼女はあなたのチームに加わり、あなたは大 きなことを成し遂げられます。もしそれができな ければ、さっきおっしやったように、あなたの チームは彼女について行ってしまうでしょう」  「じやあ、どうしろって言うんです?」  ファンの苛立ちが見て取れたので、さらに指示 した。  「今言ったばかりですよね。彼女がより大きく考 えることを手伝ってください。何かすばらしいこ とをI緒にやろうと駆り立てましよう」  彼は腕を組んで言った。「わからないな」  私も腕組みして言った。  「いや、あなたはわからないんじやなく、賛同で きないだけですよね。私か提案しているのは簡単 なことです。あなたが彼女に対してすべきなのは、 今私かあなたにしていることです。私は今、あな たに見方・考え方を変えてくださいと頼み、彼女 への接し方を変えるよう促していますよね。そし て、彼女のことを、再び、コラボレーターと見な しましよう。彼女が自分の役割や、チームや会社 について、より大きな考えを持てるよう手助けす るんです。それによって、あなたの影響力が増し ます。彼女の好きなことで、今よりさらに飛躍す るよう鼓舞してあげることで、あなたの影響力が 増す。彼女を阻止するのではなく、挑戦の(Iド ルを上げてあげることで、あなたの影響力が増す のです。今のあなたと彼女には、それが欠けてい るように思います」  「わかった。だけど、それで何になるんですか? 私か一生懸命影響力をつけたところで何かできる と?」  私はリスクをとって、自分自身の経験則に従う ことにした。すべてのリーダーが共通して好きな ことの1つが、挑戦だというのを私は知っていた。 そして心の奥底では、模範になりたいと思ってい る。だから率直に言った。  「ファン、あなたが影響力を高めれば、彼女や チームにとって、前より良いリーダーになれるん です」  彼は、イスに深く座り直し、腕組みを解いた。  そして会ってから初めて、笑顔を見せ、同意し てくれた。  ファンとこのやり取りをした後、私はノートを取 り出して、影響力のモデル図を描いた。  本章では、それを学んでもらう。ファンの事例が どうなったかは、このモデルを知ってもらった後に 話そう。他者への影響力を高めるための新しい習慣 を設けるだけで、すべてが一変することがあるのだ。  だが、影響力とはいったい何か? その核心に迫 るために、私たちは、影響力を測定するアンヶIト で以下のような記述がどのくらい当てはまるかを訊 いて、自己採点してもらった。 ●私は人びとの信頼を勝ち取り、絆を築くのが得  意だ。 ●私は、自分の目標を達成するために必要な影響  力を持っている。 ●私は人を説得して思いどおりに動いてもらうの  が得意だ。  また、このような逆転項目も設けた。 ●私はよく不適切な発言をして、人間関係を損な ●人に私の言うことを聞いてもらったり、私の頼  みを聞いてもらったりするのに苦労している。 ●他人に共感することがあまりない。  ご想像のとおり、前半の記述がよく当てはまり、 後半の記述がまったく当てはまらない人ほど、影響 力スコアも、総合的な(イパフオーマンスースコア も高い。  では、影響力スコアとHPIに最大の影響を及ぼ す要因は何だろう?  先に、影響しない要素から見ていこう。まず、気 前が良い=影響力が高い、という関係性はなさそう である。気前のいい人ほど影響力スコアが高そうだ と皆思いがちだが、実はそうではないのだ。たとえ ば、「私は、同輩に比べて気前がいい」という記述 がよく当てはまると答えた人が高い影響力を持って いると答える確率は、高くなかった。なんだか残念 だが、そう言われてみれば、人に与えまくっている のに、たくさんの人の支持・支援を取りつけられな い大というのを、誰でも知っているだろう。気前の 良さは必ずしも影響力にはつながらないのだ。  一方、影響力は、自分が世の中に変化をもたらし ているという自負と、強い相関関係にある。つまり、 影響力の高さにつながるのは、自分は大より気前が いいという自認ではなく、自分の努力が役に立って いるという自認なのである。コーチングセッション でも明らかになっているが、自分はしょっちゅう大 に与えているつもりなのに、変化をもたらしていな いとか、見返りが得られないという人は、自分が正 しく評価されていないたとか、不満足、そして自分 には実質的な社会的影響力がないと感じている可能 性が高い。  また創造性も、影響力と強い相関を持だない。私 たちは、創造性だとか、個人がクリエイティブな作 品やアートを発表することがやけに重んじられる文 化の中で生きている。しかし私たちのアンケート調 査では、クリエイティブだと自認している人=人よ り影響力が高いと自認している人、という相関関係 は特に見られなかった。クリエイティブな才能に、 対人スキルがついてくるとは隕らないのだ。  重要なのは、他のHPIのカテゴリー同様、自分 自身が人からどう認識されているかである。自分は 仲間から成功している(イパフォーマーと見なされ ていると思えるなら、当然自分でも人より影響力が あると思うようになる。だが、影響力は、評価や認 識だけの問題ではない。影響力が高いほど、より良 い人生が送れるというのは、周知の事実で、大勢の クライアントからいつも聞かされている。あなたの 影響力が高いほど、子どもたちはよく言うことを聞 く。争いを速やかに解決できる。自分が推している プロジェクトが通る。自分のアイデアがより多くの 賛同を得る。より多くの売上げをあげられる。リー ダーシップも向上する。CEOや経営幹部になった り、自営業で成功したりする可能性が高まる。自信 が増して、パフォーマンスも向上する。  ところが、そのチャンスを自分で台無しにしてし まう人がとても多いのだ。彼らは「でも自分は外向 的じゃないので影響力なんか持てない」とか「対人 関係が苦手」とか「人を説き伏せるなんて好きじゃ ない」などと言う。こういう人たちはなぜか、影響 力には性格が関係すると信じ込んでいるようだが、 それは間違いだ。社会的スキルに関するある包括的 なメタ分析で、性格は「政治的スキル」とは相関し ないことがわかっている。政治的スキルとは、研究 者らがよく使う用語で、影響力、あるいは、他者を 理解し、目的に向かって行動させる能力を指す。こ のスキルが高いと、タスクをやり遂げる能力や、 きっとうまくできるという自分に対する信頼感(自 己効力感)、また人からいかに肯定的に見られてい るかという自己認識も高い。またそういう天は、ス トレスレベルが柢く、出世してキャリア全般で成功 する確率が高い。そして何より、政治的スキルを 持っていると、天としての評判が高まり、他者への 影響力がさらに高まるのである。  こうしたキャリア上の効果に加えて、人生全般の 幸福度がアップすることも証明されているとなれば、 人生で身につけるべき主要なスキルの一つが影響力 だと私かよく言うのも納得してもらえるだろう。  影響力を持つ  本書の成功し続けるための習慣は、「影響力」以 外は、ほとんどが自分で直接コントロールできるも のだ。「すべてを明確にする」は自分の意志ででき るし、心身の「干不ルギー」レベルも、おおよそ自 分で管理できる。「生産性」のアウトプットをどれ だけ量産できるかも、自分次第だ。  しかし「影響力」はどうだろう?  このテーマを幅広い観点で検討するために、少な くともここから数ページにわたっては、「影響力を 持つ」とは、他者の信念や行動を自分の思いどおり に形成する能力と定義したい。つまり、人にあなた やあなたの考えを信じさせたり、あなたから買わせ たり、あなたを模範としたり、あなたの要求に応じ た行動をとらせたりできることを指す。  もちろん、影響力は双方向に働くものだが、あな たが他人にどう認識されるか、ひいては、あなたが 彼らにどれだけ影響を及ぼすかは、かなり自分でコ ントロールできるということが、研究でどんどんわ かってきている。実は、たとえどのような性格でも、 あなたが想像している以上に、世の中への影響力を 高めることが可能なのだ。  訊く(依頼/質問)  仕事でも私生活でも、人が影響力の向上に苦労す る理由の1つは、自分の望むことを人に頼んでいな いだけだったりする。  頼まない理由は、自分にかかわり、自分を助けよ うとする他人の意志を過小評価しているのである。 だが実は、他人が頼みを聞いてくれる確率は、当事 者が思っている3倍以上であることが、複数の再現 研究で明らかになっている。つまり私たちは、他人 が自分の頼みに応じてくれるかどうかを正しく予測 できないのである。  天が依頼を躊躇するもう1つの理由は、頼んだり したら相手にどうこう思われるのでは、という考え だ。だがこの予想も、ひどくあてにならないことが わかっている。皆、自分が人から批評される度合い と頻度を過大評価していることが研究で示されてい るのだ。  あなたが同僚に対して影響力を持っているかどう かは、何かを頼んでみるまでわからない。それは、 相手がパートナーでも、近所の人でも、上司であっ ても同じだ。「訊いてみなければわからない」とは よく言ったものである。「求めよ、されば与えられ ん」という聖書の言葉もある。人にたくさん頼みご とをすることに慣れ、頼み上手になる(それには練 習を積むしかない)のも、他者への影響力を高める 一環である。多くの人が影響力を持つことを夢見る が、頼むという、影響力を得るための最も基本的な 手段を使いこなしていないのだ。  パフォーマンスが柢い人たちは、常に頼むことを 避ける。彼らは、批判や拒絶を恐れるあまり、率直 に発言したり、助けを求めたり、先頭に立ったりで きないでいるのだが、悲しいかな、そうした恐れは 間違っているのだ。  私は、このキャリアに就いてからずっと、メディ アに出ている人たちにアドバイスする機会に恵まれ てきたが、彼らも、頼みごとに関し、驚くほど神経 質だ。長年スポットライトを浴び続けていたせいか、 世間体を恐れて判断力が鈍ってしまうことが多い。 そして、番組や舞台を降板したり、副業でビジネス 取引きをしたりするとき、自分が本当に望んでいる ことを言えずに悩むのだ。そんなとき、私はよく、 厳しい態度をとる。  「人からどう思われているか気になるのはわかりま す。でも、誰もあなたに言及していないならば…… いいですか? ほとんどの天は、あなたのことなん かまったく考えていないんです。そしてたとえあな たが彼らに面と向かって何かを頼み、斷られたとし ても、数分も経ては、あなたのことなど忘れてしま うでしょう。人は、あなたのことを余念もなく ジャッジしているわけではなく、自分自身の生活で 精いっぱいなんです。だからさっさとお願いしてみ ましょう。さもないと、あなたの夢は、本当は存在 しないであろう批評のために脇に置かれたままにな ります」  私はこんな研究結果も紹介している。あなたの頼 みに応じてくれた人は、その手伝いをした後、あな たのことをさらに好きになる傾向があるのだ。人は、 嫌々ながら手伝ったりはしない。もし嫌なら斷るだ ろう。直感に反するかもしれないが、もし人から もっと好かれたければ、相手に頼んでみよう。  最後になるが、あなたが望むものを天に頼むとき は、一回こっきりでやめないようにしよう。ある研 究によると、影響力を持つ天は、繰り返しの力を理 解しているので、感化しようとしている相手に自分 の考えを伝えようと、何度も試みるようだ。頼みご とによって、自分の考えを共有すればするほど、天 びとがあなたの要求に慣れ親しみ、あなたの考えを 気に入ってくれるようになる。  「訊く」というのは、自分がしてほしいことを要求 するという意味だけではない。自分の部下たちへの 影響力を高めたれば、彼らが何を考え、何を感じ、 何を望み、必要とし、志しているのかを引き出すよ うな質問をたくさんするようにしよう。偉大なリー ダーはたくさん質問する。これは覚えておこう。  人は、自分自身が手掛けたものを支持する。たと えば、アイデアを募集すると、案を出した人はその プロジェクトに対し当事者意識を持つ。自分が剔出 過程に参加して決まったアイデアを後押しする。自 分たちは、歯車や駒ではなく、プロセスの一部だと 感じてくれるのだ。周囲に質問を投げかけ、今後の 道筋をブレインストーミングさせるリーダーは、自 分の要求や要望を人に押し付ける「独裁者」タイプ のリーダーよりも、高い成果をあげることは、誰も が認めるところである。  この原理は、恋愛関係や夫婦関係、子育て、地域 活動にも当てはまる。相手が何を望み、どのように 協力し合い、どのような結果や効果を重視している のか、訊いてみよう。すると一気に相手のエングー ジメントが高まり、あなたの影響力も増す。  影響力を高めたければ、どんどん訊くことだ。  与えよ、されば与えられん  依頼するときも、質問するときも、忘れてはなら ないのが、与えることだ。どんな活動分野において も、見返りを求めずに他者に与えることが、全般的 な成功を助ける。もちろんそれによって、あなたの 要望がかなう確率が上がる。先に与えてから何かを 頼むと、他者への影響力が、そうでない場合と比較 して倍増することもある、という研究結果はかなり 以前から知られている。  ハイパフォーマーは、与えるマインドセットを 持っている。どんなときでも、どうやって他者を助 けられるかを考えてさまざまな状況に臨み、人びと が直面する問題を注意深く考慮し、提案や、リソー ス、人脈を提供する。人に促されてそうしているの ではない。職場の会議でも、誰かの家を訪問したと きでも、常に自分から、他者に何かを与えようとし て動く。  組織の中で上から下に与えることのできる最大の ものは、多くの場合、信頼や、自律性、意思決定権 だ。研究者らはこのことを、「オーナーシップ」を 与える、と表現する。これは、どんな仕事にどのよ うに取り組むべきかを部下自らで選択できる権限を 指す。  (イパフォーマー未満のデキる人はよく、「与え 疲れ」−すなわち、与えるばかりでストレスや疲 弊が生じることIを心配する。しかし、そうはな らない。燃え尽きは、于不ルギー管理がうまく行っ ていないことや、明確性の欠如によって起きる問題 であって、与えすぎでは起きない。  以上のように、与える姿勢というのはすばらしい が、実際、自らをどう役立てるかという視点で状況 をとらえる大はなかなかいない。それは、大半の人 の人間性がなっていないからではなく、おそらく、 自分が燃え尽きの一歩手前だから怖いのだと思う。 自分が疲れていたり、ストレスを抱えていたりすれ ば、大に与える余裕はない。そこで、「干不ルギー」 や「生産性」に関する習慣をマスターすることが重 要になるのだ。これらの項目で高得点を取る大は、 より大きな影響力を持つ傾向がある。たしかに理に かなっている。エネルギーが高く、目標達成に向 かって着々と前進している人は、他者を助けたい気 持ちが概して高いというわけだ。  人を評価・称賛・応援する  米国心理学会の「Work a乱Weil-Being Survey(仕 事と心身の健康調査)2016年版」によると、アメ リカで雇用されている成人の中で、雇用主から評価 され、自分の努力が十分に報われ認められていると 感じている人は、全体の約半数しかいない。従業員 の大半(68パーセント)が自分の仕事には満足して いるが、半数が、意思決定や、問題解決、目標設定 に十分に関与できていないと感じており、そうした 活動に常にかかわっている人は、全体の46パーセン トにすぎない。  報われない、認められない、関与していないと感 じている社員が半分もいる会社がいったいどんな状 態か想像してみよう。モチベーション、士気、パ フォーマンスが柢く、離職率は高く、給水機前での 愚痴や、会議での抵抗は多いはずだ。  だが朗報なのは、その状況を変えるのは簡単だと いうこと。あなたが影響を与えたいと思っている人 たちに対し、誠実な感謝の気持ちを示せばいいのだ。 多くの人が、蚊帳の外に置かれている、認められて いない、過小評価されていると感じているので、あ なたがその人に直接、心からの賞賛や、敬意、感謝 の意を伝えれば、あなたの存在が際立つ。ともかく 人に感謝すること。感謝を伝えるだけで、その相手 がまたあなたを手伝ってくれる確率が2倍以上にな るのだ。会議で謝意を表明したり、礼状を書いたり、 部下の望ましい行動への言及にもっと時間を費やし たりしよう。人のことを最も評価する大は、自身が 最も評価される。  大びとを評価することは、他者への影響力を高め るための一歩だ。次は、彼らを応援してやることだ。 部下が情熱を持って取り組んでいることを探って、 良いアイデアを応援する。良い仕事をしたら一緒に 喜び、人前で称賛する。あなたがその大たちを本当 に支持していることの究極のあかしとなるのは、彼 らを信頼し、重要な決定を下す自律性を与え、うま くやったら人前で褒めることだ。それでこそ、人は 自分が本当に応援されているとわかる。  こうしたことは、基本的すぎるように聞こえるか もしれない。しかし、私かこれまでコーチングをし てきたりIダーの誰もが口を揃えて、自分の至らな さを認めていた。自分は、部下にもっと感謝を伝え、 もっと信頼、自律性、賞賛を与えなくてはと。実際 は、私自身も含め、そうしたことに誰よりも世界一 気を配っている人だちなのに、不十分だと言ってい るのだ。したがって、あなたをはじめとし、誰でも 他者への影響力を高める余地はかなり大きいと言え る。  以上は、影響力を得るための、手の届きやすいア イデアだ。  次は、より高度な戦略に焦点を当てる。  変化をもたらす者  あなたが人生で最も感化を受けた大を2人挙げて みよう。その2人のことを今一度考え、次の質問に 答えてほしい。 ●2人のどういうところが、あなたにそれほどま  での影響を与えたのか? ●それぞれがあなたにもたらした最大の人生の教  訓は? ●あなたが彼らに触発されて自分の人生に取り入  れた価値観や特性は?  私はこの3つの質問を、世界中の聴衆に投げかけ てきた。それに対し、各々が、家族や、学校の先生、 親しい友達、初めての就職先の上司、メンターなど の名前を挙げる。誰がどんな人を、最も影響力の強 い人物として挙げるかは、まったく推測できないが、 これまでの経験で、その人たちの影響が最も強いと 言う理由は予測できるようになった。  一般的に、人を感化する人たちは、いくつかの共 通項を持つ。彼らは、意図的にせよ、無自覚にせよ、 次の3つのモデリング行動のI〜2つを行って、人 に影響を与えているのだ。  第1に、彼らは人の見方・考え方を形成している。 事例や、教訓や、言動を示すことで、人を啓発し、 自己や他者、世界についての見方・考え方を変える のだ。  第2に、彼らは何らかのかたちで大びとを挑発し ている。やっていることにダメ出ししたり、私生活 や、人間関係、社会貢献での向上意欲をかき立てた りする。  第3に、彼らは模範となっている。大びとは、彼 らの人柄、大とのかかわり方、人生の課題にどう向 き合ってきたかなどを見て触発される。  ではもう一度、あなたが最も感化を受けた2人の ことを考えてほしい。あなたが彼らから影響を受け た理由を、上に挙げた3つのモデリング行動の1つ 以上が説明していないだろうか? もしあなたが、 その人から立派な人間になることを学んだのだとし たら、それは、そのときはわかりにくかったかもし れないが、その天が、3つのモデリング行動のいく つかを行っていたからではないだろうか?  私はこの3つのモデリング行動を「究極の影響力 モデル」と呼んでいる。私はCEOのクライアント たちに、このモデルを、全社会議で社員に向けてス ピーチする際のアウトラインとして使うよう指導し ている。また、夫婦がティーンエイジャーの子ども に影響を与える、軍人が、敵軍が地元の抵抗勢力を 感化する方法を理解する、起業家が、セールスープ レゼンテーションやマーケティング資料を構成する、 といったケースでも、このモデルは役立っている。  本章の残りのセクションでは、このモデルを使っ た、3つの新しい行動を伝授する。また、私を感化 した人びとが、これらの習慣でどのように私の人生 を形成したかも共有する。  私の願いは、いつか、あなたの名前が、誰かの、 最も感化を受けた人リストに加えられることだ。そ れこそが、私たちが目指すべき、究極の影響力であ る。  他者への影響力をつけるには、@自己や他者、世 界についての見方・考え方を教える。A人間性、対 人関係、貢献を向上させるよう促す。B相手に取り 入れさせたい価値観の模範を示す。  ACTI()XI  人に見方・考え方を教える  あなたには、抽象的な概念モデルの理解で終わっ てほしくないので、どうすれば人びとの人生に影響 を与えられるようになるか、いくつかの日常的な具 体例で説明したい。人に、見方・考え方を教えると いうのは、誰もが実生活で知らず知らずのうちに やっていることだ。次のようなフレーズをあなたは これまで何回言ったり言われたりしているだろう? ●「こう考えてみよう……」 ● 「〜についてどう思う?」 ● 「〜してみたらどうだろう?」 ●「どんな考え方で〜に臨むべきか?」 ●「注意を払うべきことは何か?」  あなたも、このうちのどれかを、最近誰かに言っ ているはずだ。そのときあなたは、相手からある考 え方を引き出したり、思考を導いたりするつもり だったと思う。だが実は、それによって、おそらく 自分でも気づかないうちに、あなたの、相手に対す る影響力が増しているのだ。  私の目標は、あなたにそれをもっと意識してやっ てもらうことだ。それが習慣化された頃には、すっ かり上達し、人への影響力が増した自分に気づくだ ろう。  仮に、あなたに8歳の子どもがいたとしよう。そ の子がキッチンのテーブルで宿題をしている最中に イライラして「宿題なんて大嫌い」と言う。さあ、 あなたはどう反応するか?  こうしたことには、普遍的なルールも、「正しい」 やり方、「間違った」やり方もないが、子どもに宿 題をさせようとする代わりに、宿題に対する考え方 を形成するように話したらどうだろう?  自分の子どもであれ、職場の仲間であれ、人が文 句を言っているときというのは、こちらがその人の 見方・考え方を形成する、めったにない機会なのだ。 こんなとき、子どもに、あなたが子ども時代に宿題 についてどう思っていたか、また、その考え方を変 えるだけで成績が良くなり、その過程さえ楽しめる ようになったことを話してあげたらどうだろう? また、その子が宿題をやっている自分をどう思うか 訊き出し、アイデンティティを再構築してあげたら、 先生やクラスメートのことをどう見なすべきか教え てあげたら、物事をやり抜く人を世間がどう見なす かを話し合ったら、どんな変化が起きるだろうか?  私かリーダーにコーチングをするときに一貫して 言っているのは、部下たちが、自分自身や、競合他 社、また市場全体をどうとらえ、考えるべきかを、 常に教えるべしということだ。全員メールを送るた び、全社会議のたび、投資家向け説明会のたび、メ ディア出演のたびに、文字どおりに伝えるのだ。た とえば全社会議で「成功するつもりなら、自分たち のことをこう認識すべき」「競争するつもりなら競 合他社のことをこうとらえるべき」「世界を変える つもりなら、世界と未来についてこう考えるべき」 というように。  ここで少し時間をとって、今度は、あなたが影響 を与えたいと思う相手を思い浮かべてほしい。どう すればその人の見方・考え方を形成できるだろう? まずは、自分がその大にどんな影響を与えたいのか 特定しよう。あなたはその大にどんな行動をとって ほしいのか? そして、その大に会うまでに、以下 の問いの答えを考えておこう。 ●その大自身に自分をどう認識してほしいか? ●他者をどう見なしてほしいか? ●世界全体をどうとらえてほしいか?  覚えておこう。部下に教えたいのは、@その人自 身、A他者、B世界全体(世界の仕組み、ニーズ、先 行き、影響を与えられる行動)についての見方・考え 方だ。  見方・考え方を学んだ私の体験  私自身も、人生で感化を受けた人や、自分自身や、 他者、世界全体に対する認識を形成した人は誰かと インタビューでよく聞かれる。その答えを共有しよ う。まずは、私の両親から。  私か両親から見方・考え方を教わった出来事は数 えきれないほどある。私か5、6歳の頃、私たち家 族はモンタナ州ビュートに住んでいた。ある冬、家 のヒーターが壊れた。地域によっては、単に不便で 済む話かもしれないが、冬の気温がしょっちゅう華 氏20度(摂氏マイナス約7度)を下回るビュートでは、 深刻な事態だ。問題は、うちにはヒーターを修理す る金銭的余裕がなかったことだ。父も母も、私たち 4人の子どもを世話するために懸命に働いていたが、 給料ギリギリの暮らしをしていたので、父が次の給 料をもらって修理代を払えるようになるまで、少な くともI週間はかかりそうだった。  今思えば、親はもちろんのこと、私たち子どもに も、とんでもないストレスがかかりそうな状況だ。 しかし、両親にはいろいろな問題に対処する才覚が あり、2人とも、日々の生活に喜びをもたす努力を していた。母は、パニックにならず、ガレージで キャンプ用のテントを見つけてきてリビングに張り、 中に、みんなの寝袋やコートや電気毛布を放り込ん だ。そんな深刻な状況だとはつゆとも知らない私た ち子どもは、普通にキャンプをしていると思ってい た。学校に行って友達に「ゆうべどこに寝た?」と 訊き、相手が寝室と答えると、うちはリビングで キャンプをしたんだと自慢して歩いた。両親は、困 難な状況を楽しさに変えてくれたのだ。逆境を豊か な時間に変えるというのは、人生の最高芸術の一つ であり、母と父はそれに長けていた。  両親は、子育てで直面したあらゆる困難をとおし て、私たちに自立することを教えてくれた。つまり、 どんな状況に置かれても精いっぱいの対処ができる 人間だという自己認識を植えつけてくれたのだ。  母からはいつも、お前は賢くて愛されている子な んだから、兄弟を大事にしないとね、私たちには私 たちだけしかいないのだから、と言われていた。  父からはいつも「ありのままの自分でいろ」「正 直であれ」「ベストを尽くせ」「家族を大事に」「敬 意をもって人に接しろ」「善き市民であれ」「夢を追 いかけろ」と言われていた。  私の子ども時代をこうした教えで導くことで、父 と母は、私に自己をどう認識すべきかを教えてくれ たのだ。  彼らは、他者のことをどう見なすべきかを、その 人たちに思いやりをもって接するという手本で教え てくれた。  私か中学のとき、父は、地元の運輸支局の局長を していた。有資格者に運転免許証を交付するのが彼 らの仕事だ。ここでキーワードとなるのは、有資格 者で、筆記試験に落ちた、視力が足りない、縦列駐 車ができない、赤信号で止まらなかった、あるいは 身分証明書や社会保障カードなどの必要書類を忘れ たなどの理由で免許が交付されない人がたくさんい た。理由はさまざまでも、ほとんどの人に共通して いたのは、その囗に免許がもらえないと告げられた ときの反応だ。皆、憤慨した。  運輸局を訪れる人の体験をさらに悪化させている のは、同局の深刻な資金不足だ。そのせいで、利用 者が長蛇の列で待だされたり、システムが古くて不 便だったり、どうすればいいのかわからなかったり することがよくある。一方職員は、たいした給料も もらえず、それでいて一日中不機嫌な大びとの相手 をしなければならず、限りなく煩雑な官僚主義的手 続きに阻まれている。そんな中で最善を尽くしてい るのである。少なくとも私の父はそうだった。  私は、よく父の職場について行った思い出がある。 父は心底幸せで、思慮深い人たった。20年間アメリ カ海兵隊に所属し、退役後は、大学の学位を取るた めに夜間学校に通いながら、3つの仕事に就いた。 父も母も育ちが貧しく、私たち4人を育てるために 懸命に働いていたが、その間ずっと貧乏だった。  私は父をとても尊敬していた。だから職場で、必 要書類を忘れたり試験に落ちたりして免許をもらえ なかった人たちが、代わる代わる父を怒鳴りつける のを見た私の気持ちはご想像いただけると思う。私 は、彼らが父の知性や、部下、職場、顔、また存在 そのものを侮辱するのを聞き、父にテスト用紙を投 げつけたり、唾を吐きつけたりするのを見た。  自分の父をけなしたり責めたりする人びとに、私 はいつもこう言ってやりたかった。「父さんがどん なに懸命に働いてるか、知らないのか? 州が決め たルールの中で最善を尽くしてるのを知っている か? 20年も兵役について、お前たちの自由を守る ために銃撃を浴びたのを知らないだろ? 苦しんで るのがわかるか? 彼は僕の父さん、僕のヒーロー だって知らないのか?」  私は、父にひどい仕打ちをする大びとを見ていた 一方、父の反応も見ていた。父はめったに動じな かった。対立的な状況にも、優雅に冷静に対処して いた。大を笑顔にしたり笑わせようとしていた。い つもうまい冗談を言い、いつも人の役に立とうとし ていた。書類や試験に問題があって不機嫌な大たち のことも、辛抱強く案内していた。窓口で無礼な態 度をとられた部下には、背中を叩き、励ましの言葉 をささやいていた。  帰宅後の父は、たいてい穏やかで落ち着いていた。 たまに、職場でのいざこざが内側に鬱積しているの を感じることもあった。そしてごくまれに、それら が私たちに向かってこぼれ出すこともあった。だが 総じて、ことさら晩年は、ストレスを職場に置いて きたように、家ではソファでくつろいで新聞を読ん だり、ゴルフに出かけたり、私をラヶツトボールの 練習に連れて行ってくれたり、庭の手入れをしたり していた。  子どもの私には、父が職場で平静を保つたいへん さは想像できなかったが、今思えば、元海兵隊の下 士官が、窓口の向こうの人の首を絞めなかったのは 偉いと思う。  父が職場で粗末な扱いを受けるのを何度も見たが、 それよりも多く目にしたのは、帰宅後、誰かが、職 場の皆へのお礼にとクッキーを差し入れしてくれた 話をする姿だった。父によると、何があっても過剰 反応しないのは、たいていの大が、本当は善良で思 いやりがあるとわかっているからなのだという。た だ大は、急いでいると、不愛想だったり、軽蔑的 だったり、無礼だったりする態度をとるのだと言っ ていた。父はいつも人のことを好意的に解釈してい た。誰をも隣人と見なして、手助けしようとしてい たのだ。  そのようにして、私は父から、他者のことを隣人 と見なし、常に好意的に解釈し、役立とうとするよ うに教わった。そして、大が急いでいたり、がっか りしたりして態度が悪くても、忍耐とユーモアを もって接するようにと。  そして母もすばらしい大だ。母は、フランス人の 父とベトナム人の母のあいたに、ベトナムで生まれ た。私の父(彼女の後の夫)がベトナム戦争に従軍 するずっと前に、母方の祖父は、インドシナ戦争 (※)で亡くなった。父親を亡くした母は、「チルド レンーオブーウォー」プログラム(※)によって、 強制的にフランスに送られ、兄とも引き離されて、 虐待的な全寮制の学校で暮らすことになった。そし て21歳になったときアメリカに移住した。やがて、 ワシントンD.C.で同じアパートに住む父と出 会った。2人は恋に落ち、私たちを育てるために、 父のふるさとであるモンタナに引っ越した。  父が母に惹かれた理由は明らかだ。彼女は、これ 以上ないというほどに、明るく、活力に満ちた人間 なのだ。  結婚してモンタナに引っ越した後、父は運輸支局 で、母は、さまざまなパートを掛け持ちして、大き くなっていく家族を支えた。私か中学生になった頃 には、母は地元の病院でナースエイトとして働いて いた。私の10代の多くの思い出の中心には、夜、ソ ファで泣く母を父が慰める姿があった。母は、病院 で他の女性たちにいじめられていたのだ。外国訛り があり地元の人間ではなかったからだ。英語が第3 言語で、医療用語や発音に苦労していたために、同 僚だちからバカにされたり、邪険にされたりしてい たのだ。小さな町は、よそから来た者にとって辛い こともある。  それでも母はポジティブな態度を貫き、私たち子 どもを、たとえ意地悪な大にでも思いやりを持って 接するようしつけた。また父と同様に、母も、いつ も人のことを好意的に解釈していた。皆、自分なり に精いっぱいやっているけど、助けを必要とするこ とがよくある、と私たちに言い聞かせていた。私の 子ども時代の思い出の多くは、母が人のために菓子 づくりをしたり、大びとの家に食料やプレゼントを 届けたりしている光景だ。大びとが私たちの関心と 寛大さを必要としている、と言っていた。  母は、今でも、誰にも負けないくらいポジティブ で、寛大で、愛情深い。私のセミナーでもよく、何 千人もの参加者の受付を手伝ってくれているのだが、 参加者は、彼女が私の母だとは知らない。私はイベ ントの最終日によく、母をステージ上に呼びだして 感謝を伝える。母がステージに向かって歩き出すと、 参加者たちは、彼女がイベント中ずっとクルーとし て働いていたあの人だと気づいて、わあ、すてき’・ と思ったり、おっと、もっと早くわかっていれば、 もっとやさしく接したのにと思ったりしているよう だ。どちらにしても、皆必ず立ち上がって、彼女に 拍手を送ってくれる。我慢だらけの人生を送ってき た自分の母親が、数子人からスタンディングオベー ションを浴びるのを目にするのは、言葉にならない 感動である。  私は、両親の行動を見聞きして、他者のことをど う見なすべきかを学んだ。母も父も、性善説を信じ て、忍耐と、やさしさと、ユーモアがあれば、天は 心を開き、変わり、友好的になってくれると私に教 えた。  そして何より、両親は、世界をポジティブにとら える方法を授けてくれた。そしていつも、世の中か ら授かったものに感謝し、明日への可能性にワクワ クしていた。とはいえ、両親は大きな夢や壮大な計 画を持っていたわけではなく、懸命に努力すれば、 世界が公平なチャンスをくれると信じているだけの、 シンプルでやさしい人間だ。私に、人生は自分の手 で生み出すもの、楽しむためにあるものだと示して くれた。私は、この教訓のない人生など想像できな い。  誰もが、自分により良い影響を与えてくれた人た ちのストーリーを知っている。私の両親の話が、あ なた自身が影響を受けた人のストーリーを呼び起こ し、あなたが家族やチームにどのように見方・考え 方を教えるべきかのヒントになるかもしれない。 ACTION -のまとめ  「見方・考え方を教える」マイノート I私の人生で私かもっと影響を与えたい人たち  は…… 2その人たちにどうやって影響を与えたいか…… 3彼らに、自分自身をどう認識すべきか教えるな  ら何と言うか…… 4彼らに、他者をどう見なすべきか教えるなら何  と言うか…… 5彼らに、世界全体をどうとらえるべきか教える  なら何と言うか…… ※インドシナ戦争  1946年から1954年にかけて、旧フランス領イ  ンドシナの独立をめぐって、ベトナムとフランスとの  間で起こった戦争。 ※「チルドレンーオブーウォー」プログラム  フランス人の血が流れている植民地の国際児を「救済」  するという大義のもとに、フランス大として育て上げ  るプロジェクト。  ACTI()X2  人を成長へと駆り立てる  ハイパフオーマーは、自分の周囲の人びとをもよ り高いパフォーマンスに引き上げるために彼らを挑 発する。ハイパフォーマーのリーダーシップを細か く観察してみると、常に部下を挑発して、ハードル を上げていることがわかる。向上するように彼らを 追い込んで、それを悪いとは思わない。  これはおそらく、本書の中で一番実践が難しい行 動だろう。他人を挑発するなんて怖くてできないと 思ってしまうのが一般的だ。敵対的な行動にも思え るし、抵抗されたり、自信を無くしたり、「いった い何様のつもり?」と言われたりしそうだ。  だが、ここでの挑発はけっして敵対ではない。相 手を卓越に駆り立てるために、いい意味での挑戦状 を、さりげなく、あるいはストレートに突きつける ことを指す。  どんなコミュニケーション戦略でもそうなのだが、 ここで大事なのは、意図と言い方だ。もしあなたが 相手を貶める意図で挑発すれば、相手にネガティブ な影響を与えるだろう。また、上から目線の物言い をしても同様の結果になる。だが、相手の成長や向 上を助けようというあなたの意図が明らかで、相手 への敬意や誠実さをもって話せば、あなたの挑発が より良い行動を促すはずだ。  ただ、どんなに良い伝え方をしても、あなたに成 長と貢献を促されるのを嫌がる人もいるのはたしか だ。それは、あなたが変化をもたらし、人生で真の 影響力を得たいなら、覚悟しなければならない代償 だ。自分の子どもたちが人間性を向上させ、他者に 良くし、貢献するよう挑発する覚悟が必要だ。それ は、子ども以外の家族や、同僚、そしてあなたが仕 え、導こうとするすべての人に関しても同じだ。  今不安定な時代に生きる私たちは、とかく、他者 に対する期待値の基準を設けることを躊躇しがちで ある。「期待値の基準を設ける」とは、要するに 「いい意味での挑発をする」ことだ。皆、人を挑発 などしたら、対立につながると思っているようだが、 そんなことはめったにない。相手が挑戦好きな(イ パフオーマーなら、なおのことだ。挑戦は彼らの原 動力なので、彼らは挑発を受けて立つどころか、あ なたが影響力を持つ側なら、あなたからの挑発をむ しろ期待しているだろう。もし挑発を躊躇してしま うなら、ハイパフオーマーは挑戦が大好きという、 私たちの調査結果を思い出してほしい。これは私た ちが導き出した(イパフオーマーの特徴の中で最も 共通性が高いものの1つなのだ。彼らは、次のよう な記述が非常に当てはまると答えている。 ●人生の困難や緊急事態にすばやく対応し、回避  したり先延ばししたりしない。 ●人生の新たな課題に挑むのが大好きだ。 ●障害や抵抗に遭っても目標を達成する自信があ  る。  これらの記述が非常に当てはまると答える人は、 必ずと言っていいほど(イパフオーマーだ。課題に 立ち向かうことは、(イパフオーマーが得意とし、 得意としたいと思っている大きなテーマ。挑発を躊 躇することで、そんな彼らを否定してはならない。  人間性  影響力のある人は、3つの領域で他者を挑発する。  第1は、人間性へのダメ出しだ。どういうことか というと、正直さ、誠実さ、責任感、自制心、忍耐 強さ、勤勉さ、根気強さといった普遍的な価値観に 沿うよう、大びとを指導鞭撻したり、高い期待をか けたりすることを指す。  他人の人間性にダメ出しするなんて、敵対的な行 為に思えるかもしれないが、実際は、その人の支え や助けになる贈り物である。あなたも、人生で影響 を受けた大に「君ならもっとできたはずだ」「君は 本来そんな大じゃない」「君にはもうちょっと期待 していた」などと言われたことがないだろうか。こ れらは、あなたへの期待値の基準を設け、人間性に ダメ出しする発言である。耳の痛いコメントではあ るが、気になって、自分の行動を見直すきっかけと なったはずだ。  間接的挑発で、もっとさりげなく人間性の向上を 促す手もある。たとえば「ベストの君なら、この状 況にどう対処するかな?」と尋ねれば、相手にもっ と意識的な行動をとるよう促すことができる。間接 的挑発の例を他にもいくつか挙げよう。 「振り返ってみて、全力を出したと思う?」 「この状況で、ベストの自分を出せている?」 「それをしたとき、君はどんな価値観を実現しよう としていたの?」  ただしリーダーには、部下に、将来の自分自身に どう挑戦するか訊くという、直接的なアプローチを おすすめする。たとえば「どんな人として記憶され たい?」「君が全力を尽くしたら、どんな人生にな るだろう?」「君はどんな領域で言い訳をしてい る? もつと良い結果を出せたら、人生がどう変わ るだろう?」というように。  対人関係  人を挑発する領域の2つめは、周囲の人たちの他 者とのかかわり方、すなわち対人関係だ。人との接 し方や人に価値をもたらす方法について、あなたの 期待値を設定したり、質問したり、例を示したり、 ストレートに指示したりして、指導しよう。  許してならないのは、社会的に好ましくない行動 だ。(イパフォーマーのりIダーたちは、チームの 中で、誰かが誰かに対し、不適切、無礼、あるいは 軽蔑的な態度を取ったりすれば、その場で注意する。 (イパフォーマーの親も、子どもに対して同じこと をする。問題行動は見逃さない。  ここで重要なのは、(イパフォーマーたちは、人 びとが互いにどう接するべきかについての期待を明 確にしていることだ。彼らが、人との接し方を、ス トレードに、繰り返し指導している様子にはいつも 驚かされる。たとえ周囲の人びとが互いを大事にし ていても、さらに団結するよう求め続けているのだ。  部署のミーティングで(イパフォーマーのリー ダーを観察してみると、彼らが、チームワークの高 め方を逐一提案していることがわかる。 「互いの話をもつとよく聞こう」 「もつと互いを尊重しよう」 「もつと互いに支え合おう」 「もっと一緒に時間を過ごそう」 「もっとフィードバックを出し合おう」  彼らが部下を指導するときの言葉には、「もっと」 という単語が目立つ。  私は、このことを世界中で教えてきた中で、(イ パフオーマーがチームに「厳しい」と誤解されるこ ともあると気づいた。だが、必ずしもそうではない。 (イパフオーマーたちは、たしかに、自分が影響を 与える相手への期待値は大きい。だが、彼らが互い のつながりを高めるように指導するのは、明らかに、 家族や部下に結束と連帯感をもたらそうとしてのこ とだ。(イパフオーマーは、周囲の人びとが、他者 との一体感を高めることを望んでいる。なぜなら、 それが彼らの成果を高めるとわかっているからだ。  貢献  人を挑発する領域の3つめは、貢献だ。人にもっ と価値を与え、寛大になるよう促すのだ。  これは、(イパフオーマーが周囲に突きつける挑 戦の中で最も難しい1つかもしれない。「なあ、君 はこの職場に十分に貢献していない。もっとなんと かなるはずだ」とはなかなか言いにくい。だが(イ パフオーマーは、そんなことも臆せず伝える。  (イパフオーマーがもっと貢献するよう挑戦を突 きつける場合、たいてい、相手が今出している成果 の質にダメ出ししているというより、むしろもっと 先を見据えて貢献を促している。より良い未来を目 指して創造や革新をしようと言っているのだ。  私か行った詳しいインタビューのほぼすべてで明 白なのは、(イパフォーマーが人に何か意味のある 貢献をするよう促すときは、未来のことを考えてい るということだ。より優れたウィジェットを今日つ くれと求めるだけでなく、先行きを考慮して、商品 群を再構築する、まったく新しいビジネスモデルを 発案する、狙うべき隣接市場を見つける、未知の領 域に挑戦する、新しい価値を付加するといったこと を求める。  私は当初、(イパフオーマーがこうした挑発をす るのは、大局的なレベルでのみIつまり、より大 きな未来を築くよう、チーム全体に言っているだけ かと思っていた。だがそれは間違いで、(イパ フオーマーは、個々を挑発していた。デスクを1つ ひとつまわって、チームの一人ひとりに注文をつけ ていたのだ。彼らは、指導する相手一人ひとりに合 わせて、挑発のレベルを調整している。人びとの貢 献を画一的に促したりはしない。(イパフオーマー のリーダーはここが違う。彼らは、相手のレベルに 合わせて、相手の言葉で話し、チーム全体がより良 い未来に向かえるよう、その人ならではの方法で協 力してほしいと求める。  忍耐とリーダーシップへの私の挑戦  両親以外で、私か幼少期に大きな影響を受けたの は、リンダーバリューだ。リングは、私か高校を中 退しようとしていた重要な局面で私の人生に現れた。  中退といっても、学校が嫌になったとか、そうい うことではない。ことの発端は、私の家族が、フラ ンスの親戚に会いに行く機会を得たことだ。両親の 仕事の都合で、どうしても学校の学期中にしか行け なかった。残念なことに、うちの学区では、10囗以 上学校を休むと、その学期は停学処分になってしま うという、新しい厳格な欠席規定が施行されたタイ ミングだった。うちの旅程は2週間なので、もし旅 行に行けば、その学期は学校に戻れなくなる。そう なると、夏休みの補習を受けないと、高校を卒業で きない。しかし夏休みはいつも、大学の学費を貯め るために、フルタイムのアルバイトをすることに なっていた。両親と私は、私か旅行に行っても学校 に戻れるよう例外措置を求めて校長や教育委員会と 闘った。私たちは、わが家にとって、この旅行は一 生に一度の機会であること、そして私たちはすでに 先生だちと相談し、旅行から戻ったら、その体験を レポートにして提出することで欠席の埋め合わせを する、という主張を訴えた。  残念ながら、私たちの訴えは認められず、私か旅 行に行けば、学校には戻れないことになった。そし て夏休みはアルバイトがあるので補習には出られず、 クラスメートとともに卒業できる見込みはない。私 は打ちのめされた。  それでも、家族旅行は決行した。というのは、 マークートウェインが言ったように「学校に教育の 邪魔をさせるべきではない」からだ。私は、教育委 員会を批判する投書を地元新聞に送りつけ、ヨー ロッパへの飛行機に飛び乗った。旅行中、私は文化 や、訪れた場所の記録を、たくさんの写真と内容の 濃いメモに残した。あの旅行は、私の人生最大の学 習体験となり、私たち家族の絆をさらに深めてくれ た。  案の定、旅行から帰った私は、通学を許されな かったが、フランス語の先生が、私を授業に呼んで、 写真や体験談を発表させてくれた。そして美術の授 業でも同じことをさせてもらった。しかし学校にい ることが校長に知られ、私は物理的につまみ出され る形となった。私はその一件を根に持って、もう学 校を辞めてやろうと思った。高校を中退し、敷地管 理人として独立しようという壮大な計画を考えたの だ。  そんなときに出会ったのがリンダーバリューだ。 リングは英語教師で、学生新聞『イニワ』紙の報道 顧問をしていた。彼女は地方紙に載った私の投書を 読み、美術の先生からフランスの写真のことも聞い て、私を捜し出してくれた。  話をする中で、彼女は私の投書を褒めると同時に、 まだまだ改善の余地があると言った。そして執筆時 に私かどのような思考プロセスを経たのかを訊いて、 いくつかのヒントをくれた。彼女は称賛と挑発をと ても上手に組み合わせた。私たちの関係は、このと き彼女が私の貢献を促したことから始まったとも言 える。  それに対し私は「もう何を言ってくださっても無 駄です。学校には戻らないんで」と言った。そのと きの彼女の応対を私は一生忘れない。リングは、バ カなことを言わないでとか、学校側は決められた方 針に従っただけよと言い聞かせたり、高校を卒業す ることの価値を説いたりする代わりに、敬意をもっ て私の人間性に訴えた。  「ブレンドン、あなたは簡単にあきらめる人じゃな いし、そんなことを望んでもいないわよね。学校側 に辞めさせられるようなやわな人間でもないでしょ う」  そして、私にはポテンシャルがあるので、来学期 復学したら、高校の新聞部に入るべきだと言ってく れた。彼女は、私の復学と入部が、きわめて当然か つ必然のことだと思っていたようだが、私はそれで も辞めると言い張った。すると彼女は、私の人間性、 対人関係、貢献について一挙に挑発してきた。この ようなことを言われた。  「それは残念だわね。せっかく潜在能力があるのに。 この学校では、たくさんの生徒があなたみたいな人 を必要としてるのよ。自分の信念のために行動を起 こせるような人を。あなたはこの学校ですごい貢献 ができたはず。それから優れたアートやライティン グを学ぶこともできたでしようね。そのあふれる才 能とポテンシャルをクリエイティブ活動に使わない のはもったいないわ。一度考えてみて。そして、少 しでも復学する気になったら、私に言って。協力す るから。あなたは物事を放り出すタイプには見えな いのよ」  私は、自分がどう反論したか思い出せないのだが、 それに対する彼女の対応は覚えている。彼女は私に 耳を傾け、私の意見を尊重してくれた。私と真に心 を通わせ、また会えることを願っていると言った。  私は次の学期に復学した。  その年、リングは、私を含む新聞部員を率い、私 たちがそれまで経験したことのないような見方・考 え方、チームワーク、貢献をするよう私たちを鼓舞 した。リソースと経験が隕られた私たちでも、全米 最優秀の高校新聞になれる希望を持たせてくれた。 彼女は卓越性への期待を生み出した。それは、私だ ちに賞を獲ってほしいという期待ではなく、自分自 身や互いを見て、ベストを尽くすことに誇りと仲間 意識を感じてほしいという期待だ。彼女が私たちに 望んでいたのは、誠実に人を導くリーダーになるこ とだった。  リングの指導は、まさに「人は、自分自身が手が けたものを支持する」という原則を形にしたもの だった。彼女はあらゆる面でジャーナリズムに精通 しているのに、第一面から、見出し、写真、著名欄、 レイアウトまで、すべてを私たちに選ばせた。そし て、競合を分析する方法や、前号の改善に励むこと を教えてくれた。ブレない態度と思いやりをもって、 私たちに力量と自信をつけてくれた。リングは私た ちの人間性を、いろいろな面で向上させた。  また、私たちの締め切りに間に合わせるために、 毎週末、夜遅くまでつき合ってくれた。そして、 ジャーナリストとして私たちにしてほしいことI すなわち問い正すことIを常に手本で示してくれ た。私か最終の写真や記事をレイアウトするとき、 後ろから「それはそこでいいの?」「これが最終の 最終?」「他に加えたいものはない?」と訊いてく る彼女の声が今でも耳に残っている。彼女は常に問 い続けた。この状況にどう対処するのがベストなの か、私たちはどんな人間になるべきなのか、どんな メッセージを世界に伝えたいのか、どうすれば卓越 した新聞ができるか、私たち生徒やうちの学校をど のように見せたいか、と。  その年、全米ジャーナリズム教育協会の総会で、 私たちの新聞は「最優秀賞」に選ばれた。全米I位 である。モンタナ州の弱小校が、10倍、20倍の予算 やリソースを持つような大きな学校に勝ったのだ。 リンダーバリューの指導のもと、私個人も、写真、 レイアウト&デザイン、ニュースライティング、調 査報道の部門で、全米および地域のI位と2位を獲 得した。その後私は編集長になった。私の卒業後も 『イニワ』紙は10年にわたって、さまざまな優秀賞 を受賞し続けた。  リンダーバリューは、資金不足の高校の、資金不 足のジャーナリズムープログラムを指揮していたに もかかわらず、常に経験の浅い新入生を受け入れ、 国内外の最高賞を受賞するような秀でた若手ジャー ナリストに育て上げた。同紙は、高校新聞界で表彰 されるほぼすべての部門でI位を獲得し、リングは、 おそらくわが国で史上最多の受賞歴を誇る高校 ジャーナリズム教師となった。  何か彼女をこれほどまで卓越させたのか? その 要因は3つに絞られる。@私たちに見方・考え方を 教えた。A私たちを挑発した。B卓越したパフォー マンスにチームを駆り立てる手本を示した。  高校を中退しようとしていた私の決定的な転機と なったあの囗、リンダーバリューは、たったI回の 会話で、私の人生を永遠に変えた。彼女がいなけれ ば、あなたはこの本を読んでいなかっただろう。 ACTION2のまとめ 「大を成長へと駆り立てる」マイノート あなたが良い影響を与えようとする人のことを考え て、次の文を完成させよう。  [人間性] I私か良い影響を与えようとする大は、次のよう  な性格的長所を持つ…… 2その大は、もし……すれば、長所をさらに伸ば   せる。 3その大は、おそらく……の領域において、自分   に厳しすぎる。 4もし私かその人の人間性を向上させる方法を教  えるとしたら、こう言う…… 5その人の人間性を向上させる意欲を駆り立てる  としたら、おそらくこんなことを言う……  [対人関係] Iその人の、大とのかかわり方のこんなところを  変えてほしい…… 2その人が、私か望むほど人と通じ合えないこと  が多いのは、彼/彼女が……だからだ。 3その人はどんな刺激を受ければ、他の人ともっ  とうまく接するようになるか……  [貢献] Iその人がしている最大の貢献は…… 2その人が十分に貢献していない領域は…… 3その人にぜひもっと貢献してほしいことは……  ACTI()X3  やり方の模範を示す  ハイパフオーマーたちは、大きなマインドシェア を割いて、自分のロールモデルとしての役割につい て考えている。彼らの71パーセントが、そのことを 毎日考えると答えている。家族、チーム、そしてよ り大きなコミュニティにおける良き模範でありたい と。  もちろん、人の手本になりたいという思いは誰で も同じだ。しかし、私かハイパフォーマーたちを見 て発見したのは、大に影響を与えることについて、 彼らは普通の大よりずっと頻繁に、ずっと具体的に 考えているということだ。つまり、ロールモデルと いうと、良い人間−親切、正直、勤勉、寛大、愛 情深い大−であることとイメージするのが一般的 だが、ハイパフォーマーが考えているロールモデル とは、それだけではない。彼らはそれより一歩踏み 込んで、自分がどんな行動を取れば大がついてきて くれるかとか、人に特定の成果を達成してもらうた めにはどう手助けすべきか、といったことを考えて いる。「マザー・テレサみたいになりたい」という ような考えではなく、「特定の行動の模範を示して、 人に見習ってもらったほうが、特定の結果に向かう ことができる」と考えている。  誤解を避けるために言っておくが、(イパフォー マーも、良い人間、良き模範と思われたい気持ちは 持っている。だがそれはあくまで人間的な一部分で あって、彼らを(イパフオーマーたらしめるのは、 自分がどのように行動すれば、特定の相手の人間性 を向上させることができるか、特定の成果が得られ るか、という意図に意識を集中させているところだ。  それがどういうことか、本章の冒頭で取り上げた、 アパレル会社CEOのファンの事例に戻って説明し よゝつ。  彼は、新任のデザイン責任者ダニエラと対立して いた。私はそんな彼に、彼女やチーム全体に対して もっと良いリーダーにならなければとダメ出しし、 「究極の影響力モデル」を提示した。ファンと一緒 にそのモデルに沿って、状況を整理し、彼は、ダニ 子フが、彼女自身の役割、チーム、そして会社をど うとらえてほしいのか探っていった。そしてダニエ ラのあるべき姿、対人関係、貢献について、彼女に どのような挑戦を促せるか話し合った。  もう1つ大事なのは、2人の立場を反転させて影 響力モデルを考えてみたことだ。つまり、もしダニ エラがリーダーで、このモデルに基づいてファンに 助言するとしたら、どんな見方・考え方を彼に助言 し、どんな課題をぶつけてくるか、彼に想像しても らったのだ。  彼の最善の推測では、ダニェラは、ファンに自身 の役割、チーム、そして会社についてどうとらえて ほしいと望むだろう? 彼女は、彼のあるべき姿、 対人関係、貢献について、何を促すだろう? 彼女 の視点に立って影響モデルを検討するのは、彼に とってやりにくかったようだが、そのおかげで彼は ある考えに目覚めた。それは、ダニェラが社内で影 響力を広げようとしていることを、自分は、リー ダーシップというより脅威と受け止めていたかもし れないと気づいたのだ。ダニェラは、ファンや、会 社の現状に対し、実はプラスとなるような、壮大な 挑発をしていたのではないかと、気づき始めた。  もちろん、彼女の視点についてはあくまでも推測 だが、確実にわかっていたのは、ファンが状況を変 えたければ、彼が変わらなければならないことだ。 そのためには、彼に、それまでの自己防衛的マイン ドセットとは大きく異なる、ロールモデルとしての マインドセットを身につけてもらう必要があった。  その考え方を開拓するために、ファンが人生で最 も影響を受けた人たちについて話してもらった。そ の話から、究極の影響力モデルの構成要素を抜き出 し、なぜその人たちが彼にそれほどまでの影響を与 え、挑発し、見方・考え方を教えたのかを、具体的 に示した。  彼が最も感化を受けた大は、父親と、最初のビジ ネスパートナーだった。その話を聞いた後、私は、 彼らの価値観や精神をファンの会社に取り入れて。 2人のレガシーを受け継ぐ方法がないか尋ねた。 「彼らのすばらしいところを、どのように、あなた の会社やあなた自身のリーダーシップのスタイルに 取り入れられるでしょう? その2人から示された 模範を、あなたが自分の会社の大たちに示す方法は ないでしょうか?」と言った。この会話が彼を揺さ ぶったのは明らかだった。こんなことを考える大は あまりいないからだろう。  そして私は言った。  「では、本題に戻りましよう。あなたの会社のそん なにも多くの人がダニ子フを手本と見なすのはどう してだと思いますか?」  ほんの数分前は、ダニ子フについて何もいいこと を言わなかった彼だが、悔しいながら感心する点を いくつか探し出した。1つには、彼女の歯に衣着せ ぬ物言いをI個人的には嫌いだがI尊敬してい た。というのも、彼自身が彼女の歳のときはそんな 度胸を持ち合わせていなかったからだそうだ。そし て、彼女がまたたく間に自分のビジョン実現に人び とを巻き込み、彼の一部の支持者をも奪っていった ことに感心していた。また、彼女の根気強さも褒め ていた。そして皆がダニエラを手本と見なすのは、 彼女のほうがファンよりも、皆に前を向くよう鼓舞 していたからではないか、と彼は考えていた。  私は一瞬、このワークが功を奏しているのかいな いのかわからなかった。彼は、悔しい思いをしてい るのか、それとも新しい視点でものを見られるよう になったのか。  そこでもうI押ししてみた。  「ファン、どうでしよう? あなたもいつか、ダニ 子フの良い模範になれないでしょうか? 彼女が会 社の人たちに示したみたいに、そしてあなたのロー ルモデルたちがあなたに示したみたいに」  この最後の質問ですべてが氷解した。ファンに光 が差しだのがこの目に見えた。彼が何力月も抱えて いたフラストレーションがスツと取り除かれたかの ようだった。  すべての波乱を水に流し、自分が再び模範となる にはどうすればいいか問うとき、人生に奇跡のよう なことが起こる。  ファンは、この状況の中で自分が模範になるには、 ダニ子フに求めていることを、まず自分自身が示さ なければならないと気づいた。つまり、かたくなな スタンスを貫くのではなく、問いを立てながら人び とを導く必要がある。皆の考えに耳を傾ける必要が ある。彼女にリーダーシップをとらせる必要がある。 いつかダニ子フに自分の考えを受け入れてほしいと 望むなら、まずは自分が彼女の考えを受け入れる必 要がある。尊敬されたいなら、自分も同様に彼女に 敬意を払う必要がある。だが、一番大事な気づきは、 ファン自身が父親やビジネスパートナーに教え込ま れた価値観を実現していないということだった。  「私は怒りっぽいような気がするが、あの2人はそ んなりIダーシップのとり方を私に望まないだろ う」  飛行機が目的地に到着するまで、ファンは究極の 影響力モデルを何度も見直し、アーロンと私と一緒 にアイデアを出し合っていた。  全社会議の会場に到着すると、ファンは、アーロ ンにも私にも内緒で、会議のアジェンダをすべて投 げ出す計画を立てていた。その代わりに、チーム全 体に究極の影響力モデルを教える研修とし、その過 程で、ダニ子フの味方についた人たちも含め、グ ループ全体と本当の対話をしようと計画していた。 続いて、団結したグループとして皆に、自社や、競 合相手や、市場をどう見なすべきか、問いただす。 そして、個々がリーダーとしてどのように向上でき るか、チームとしてどのように成長できるか、会社 としてどうすれば市場にもっと大きく貢献できるか、 計画を考えるよう促す。  彼は、熱意にあふれ、受容的で協力的な態度で、 かつ皆の意欲をかき立てていた。それは偽物ではな い。彼のそれまでとはまったく違う態度にチーム全 体が驚き、好感を持っているのが見て取れた。  研修が終わると、ファンはチーフデザイナーのダ ニェラを前に呼んだ。彼は、自分が彼女や、チーム、 そしてブランドに対して抱いていた誤った考えを認 め、自身が、人間性、対人関係、貢献に関してどん な課題を抱えていると思うかを共有した。そしてダ ニ子フに、彼女の究極の影響力モデルを共有してく れないかと頼んで、自分は席に着いた。  ダニエラは、最初は驚いて、慎重に話を進めてい たが、ファンが彼女に声援を送り続け、もっと話し てほしいと促した。そして2時間が過ぎた。その間 ずっと、彼は座ったまま彼女の話に耳を傾け、さら なる見解を求め、メモを取った。  話が終わると、彼は皆を促して、スタンデイング オベーションで彼女をたたえた。夜のチームデイ ナーでは、ダニ子フがファンと乾杯する際、私か仕 事で見てきた中で最も心のこもった、感動的な音頭 をとった。  帰りのフライトでファンが私に言った言葉が忘れ られない。  「本当に影響力のある人間になるための本当の資質 は、被影響力(影響を受ける力)だったりするかも な」 ACTION roのまとめ  「やり方の模範を示す」マイノート ー私かもっと優れたロールモデルになって人間関  係とキャリアに向き合うとしたら、最初に取り  組みだいことは…… 2私のリーダーシップと優れた模範を今本当に必  要としている大は…… 3どうやってその人の模範になるか(いくつかの案) 410年後に、私の身近にいる5人が私をロールモ デルと呼んでくれるとしたら、私についてどん なことを言つてほしいか……  汚れなき成功者  私か、他者への影響力の話をしたり、究極の影響 力モデルを共有したりすると、必ず受ける質問があ る。それは操作についてだ。それはきっと、誰もが、 過去の交際相手や友達、ビジネス相手にコントロー ルされ痛手を受けた経験があるからだと思う。また、 消費者が本来買えないような物を買わせるために、 見方・考え方を教えたり、挑発したりするマーケ ターやメディアの上層部がいることも知っている。 本章で述べた「影響力」は、他者を操作したり、悪 い意味で感化したりするのにも適用できてしまうだ ろうか? もちろんその可能性はある。  私の願いは、本章から、一段上の奉仕について、 いくらかの洞察を得てもらうことだ。(イパフォー マーは、大を操作するようなことはしない。それは、 究極の影響力モデルの図が交差している真ん中の部 分−すなわち人の模範になるという理想−が彼 らにとって、原動力として魅力的すぎるからである。 当然(イパフオーマーなら、人のことを操作しよう と思えばできる。ただそんなことをしないだけだ。 なぜそんなことが言えるのかというと、私は、世界 中のあまたの(イパフオーマーをインタビューし、 追跡し、トレーニングし、コーチングしてきた過程 で、彼らのチームや、家族、愛する大たちを知るこ とになったからだ。(イパフオーマーの周囲の大た ちは、操作されているなどと感じていない。信頼さ れ、敬われ、鼓舞されていると感じている。  他者を操作することで、のし上がることはできる だろうか? もちろん、短期的になら、可能だ。し かし大を操作・支配する大(マニピュレーター)は、 最終的にはすべての橋を自ら燃やすIすなわち孤 立無援の状態となる。そういう大は、人間関係や心 身の健康面で長期的にうまく行きはしない。もし成 功したとしても、それは偽りと不和と毒々しい干不 ルギーの上に築かれたものだ。もちろん、マニピュ レーターがよくできた人の仮面をかぶって大きな外 的成功を収めている極端な例もあるだろう。だがそ れは、まれな例外的ケースだ。一握りのマニピユ レーダーは平均ではない。私か強調したいのは、長 期的な成功を収めた大のうち、マニピュレーターよ りも、ロールモデルのほうが圧倒的に多いというこ とだ。  私かこの話をするのは、この混沌とした世の中に は、黒い思惑もあちこちに渦巻いているからだ。で もそれは、私たちが光となる機会でもある。この激 動の時代に私たちが考えなければならないのは、人 の模範となる努力をどれだけ熱心にできるか? 他 者がより大きなことを考える手助けにどれだけ注力 できるか? 他者の成功を助けるためにどれだけ大 胆な挑発をするか? 私たちが地球で長い年月を過 ごした後の世代が模範となるよう、彼らをどれだけ 鼓舞できるか? という問題である。  電話で起こされ、しわがれ声でハローと言って 時計を見ると、午前2時47分たった。  女性の声で「あなたにぜひ見てもらいたいもの があるんです。SNSですごい数の誹謗中傷を受 けていて、危険を感じています」  「えっ?」。私はベッドで上体を起こしながらつ ぶやいた。電話の主は、有名人クライアントの1 人、サントラだった。彼女は、オーバーに騒ぐと ころがある。 「危険って、どんな? 大丈夫ですか?」 「ええ、今のところは。でも、今送ったリンクを クリックしてもらえますか?」  クリックした先は、サントラが映っている YouTube動画だった。[告白]というタイトルが ついていて、30万回以上再生されている。私は 「ちょっと待って」と言いながら手探りでシャツ を着て、寝ている妻をこれ以上邪魔しないよう、 寝室を抜け出した。  キッチンに降りてやっと話せるようなった。彼 女は必死な口調で続ける。「とにかく動画を見て もらえますか? コメントも見てもらえますか? それで折り返し電話ください。いいですか?」と 言って電話は切れた。  その動画は、サントラが座って、カメラに向 かってしゃべっているだけのものだった。彼女は 開口一番、世間に対して正直でなかったところが あると言った。これまで仮面をかぶっていたと。 いつも明るく(ツピーに見せかけているが、カメ ラとメデイアは、本当の姿を映し出さない。皆さ んを欺いてきたことを申しわけなく思っている。 これからは、自分の抱える苦難についてもっと正 直に伝えていく。そのことを皆さんに知ってほし かった。−という内容だ。  私は真っ先に拒絶反応を起こした。わざとらし い感じがするし、タイトルも釣りっぽい。感情的 な面持ちでストーリーを語っているも、詳細が いっさいない。「ああ、かわいそうな有名人。い ろいろたいへんだって知ってほしいのね」という 感想は引き出せても、話が具体性に欠けるので、 まったく響かない。コメントを見ても、ほとんど の人が私と同意見だった。たくさんの人が彼女を 揶揄し、そうでない人は、詳細を聞きたがってい た。同情の声は少ない。それは皆が薄情だからで はなく、動画の内容が曖昧だからだ。共感できる ものがいっさいないのである。  私はサントラにメッセージを送った。  「動画を見てコメントを読みましたが、あなたが さらされている危険とはどんな危険ですか? 動 画のウケは良くなかったみたいだけど、別に大丈 夫だと思いますよ」  すると彼女から、返信が来た。  「いや、わかりません。明日ランチできます か?」  私はランチの約束をし、会話を終えた。私はあ きれて首を振り、落ち着いてコメントを読み続け た。イライラして眠りに戻れそうになかったから だ。  そして明日のランチで何を話そうか想像し始め た。  「ブレンドン、私は、あなたの言うとおりに勇気 を出したつもりだったの」  もっと頻繁に本当の自分を出したほうがいいと いうのも、私か言っていたことじやないかと言う だろう。そして、これまでの経験に鑑みれば、私 を責めるか怒鳴りつけるだろう。彼女は、私の継 続的クライアントの中ではまれに見る、喜怒哀楽 の激しい人だ。それでも続けているのは、心根は いい人だとわかっているからだ。  でもやはり明日は、言いたいことは決まってい るが、本心をぶつけないようにしなくてはならな い。動画をアップしたことは褒めておいてから 「サンディ、残念ながら、動画を上げるというの は、勇気のうちに入りません」と言うつもりだ。  でもそこで、私の思うところを延々とまくした てないよう注意せねばならない。それは、最近 「勇気」という言葉が滑稽なほどインフレを起こ していることについてだ。私はこの話になると毒 づいてしまうところがある。最近は、誰かがSN Sに今回のような、初めての日記みたいな動画を 投稿しただけで、拍手喝さいして「よく勇気を出 したね’・」と褒めなければならない風潮がある。 ブレインストーミングーセッションで誰かがアイ デアを出したら「よく勇気を出したね’・」、子ど もが競走でゴールインしたら、ビリでも「よく勇 気を出したね!・」と。  だが、お願いだ。動画の投稿は、たしかに本章 の習慣2の「真の自分や野心をさらけ出す」に当 たるが、単に注目されたいとか、何か言いたくて やっている場合も多い。誰もがやっているような メッセージの発信を、勇気と言えるのだろうか? 今日1日でも10億人が何かを投稿している。その 大たちは皆、勇気ある大なのだろうか? また、 職場のブレインストーミングーセッションでアイ デアを出すことは、仕事でやっているのだから、 勇気をたたえるハグなどしなくても、「すばらし いアイデアだ」とコメントするだけでよくないだ ろうか。また、がんばりもせずに59位でゴールイ ンした子どもに、泣き言を言いっぱなしで、参加 さえ嫌がっていたのによく勇気を出してゴールイ ンしたねと褒め、ダブルハイタッチをしてやる必 要は本当にあるのか?  そんな自分の心の声に、毒づいているなと感じ るも、独白は止まらない。アメリカ独立戦争中に、 大陸軍を率いるジョージーワシントンが、水に閉 ざされたデラウェア川を渡って、優勢の敵軍を攻 撃した。それこそが勇気だ。宇宙飛行士がカプセ ルを操縦して地球と月のあいだの大いなる暗黒の 中を飛行した。それこそが勇気である。ローザー パークスがバスの中で自分の席を譲ることを拒否 し、公民権運動に火をつけた。それこそが勇気と いうものだ!。  サントラには、本来こう言ってやるべきなのだ。  「いいですか。なにも、革命に勝つとか、歴史的 な社会運動を始めるとか、英雄や殉教者になる必 要はないのだけれど、あなたの投稿のような小さ な利己的行為は、人生の最後に誇れるような勇気 ある行動には該当しません。人生の最後に誇れる ような勇気ある行動というのは、先の読めない状 況や現実的なリスクがあったり、大きな利害がか かっていたりする状況でも、安全や報酬、成功の 保証なしに、大義や自分以外の人のために何かを することをいうんです」  そうだよ、明日は、そういう勇気ある行動につ いて話そう。そう考えながら、ベッドに戻った。  翌日、サントラと会うカフェに向かう車で、私 はサントラの考える勇気とはどういうものだった のか、考えをめぐらせた。サントラへのコーチン グをこれだけ続けているからわかっていた。彼女 は、勇気の定義をとらえ直す必要がある。私は確 信していた。  サントラは、他の客の目につかないよう、サン グラスをかけて、カフェの一番奥のブース席に 座っていた。私は席に着くと、ひと呼吸し、この セッションで学んでほしいことを吐き出そうとし た。良いコーチは受容的に振る舞わなくては、と 自分に言い聞かせる。そこがあまりうまくできて いなかったので、努力しようと思った。  「始めましよう、サンディ。元気ですか?」  「動画がもう130万回再生され、ほとんどの人 に酷評されてます」と意気消沈している。  「それについてどう思いますか?」  「私は誇りに思ってました。あれを投稿するのは 怖かっだけれど。ただ、当然ながら、もっといい 反応を期待してました」  私は、彼女の「怖かった」という発言にひっか けて、宣]の勇気とは何かの説教を始めようとした が、ウエイトレスがオーダーを取りに来た。私は 紅茶を注文し、サントラはコーヒーをおかわりし た。すると、彼女は言った。  「何か食べませんか? 今日は長くなりそうなん で。私は本当にあなたの助けが必要なんです」  私は、長いセッションなど予定していなかった。 たかがくだらない動画のために?沈黙が流れた。  私はしびれを切らして本題に入った。  「では、サンディ、この件の何かそんなに怖かっ たんですか? 動画については、今更どうこうで きるとは思えないので、放置しましょう。今週の 後半に、さらなる詳細を伝える動画を出してもい いですね。そのうちほとぼりが冷めるでしょう。 こういうことは収束するもんです」  するとサントラのサングラスの下から涙がこぼ れ落ちた。  「サンディ、大丈夫ですか?」  「怖かったというのは、動画のことだけじゃない んです、ブレンドン。私は、勇気あることをした つもりでした。あれは助けを求める叫びだったの だけど、バカなことをしたと思ってます」  そう言って泣き出したので、私は身を乗り出し て彼女の手を取った。  「ちょっと、大丈夫ですか?」  いったい何事なんだ? 何かあったのか?  サントラはコーヒーを一口すすると、さりげな くサングラスを外した。目のまわりが真っ黒だっ た。  「えっ、サンディ’・」。私は息をのんだ。「どうし たんですか?」  彼女は少しすすリ泣いてから教えてくれた。  「夫です。もっとずっと前に言うべきでしたが、 実はずっと……彼から虐待を受けてたんです。長 いあいた、ピクピクしていました。それで昨日、 そんなんじやいけないと思って、あの動画を投稿 したんです。それが第一歩になればいいと……」  言葉が涙に溶けていった。  私は後悔の波にのまれた。私の推測こそ愚か だった。私としたことが、とすぐさま自分を責め にかかった。ある人が最初の一歩を踏み出したな ら、それは、他人がどう思おうと、勇気あること なのだ。  「夫が動画を見て怒り狂ったんです。投稿する前 によく考えればよかった。でも何かしないと、と 思ったんですよ。わかりますか?」  サントラと私は、それから3時間かけて、彼女 の避難と、滞在先と、これからのことを計画した。 彼女はそのまま家に戻らず、友達に荷物を取りに 行ってもらった。そして夫のもとを去り、けっし て振り返らなかった。  サントラは、彼女自身のデラウェア川を渡った のだ。自分の人生に革命を起こした。そして私に、 勇気について教えてくれた。  (イパフォーマーは、勇気ある大たちだ。私たち の調査データは、勇気とパフォーマンスの高さが有 意に相関していることを示している。実際、勇気の スコアが高い大ほど、成功し続ける人の6つの習慣 「HP6」の他のスコアもすべて高い。つまり、人 生で大きな勇気を身につけた大は、「明確性」「干不 ルギー」「必然性」「生産性」「影響力」のすべてに おいてレベルが高い傾向にあるのだ。  勇気は、サントラの事例のように、あなたの人生 に革命を起こせる。事実、私たちのコーチング介入 の経験では、勇気を出すことは、(イパフォーマン スの基盤となる習慣だと言える。  勇気を出すというのは、世界を救うとか、何か壮 大なことをしなければならないわけではない。この 予測不可能な世界で、本当の変化を起こそうとして 一歩踏み出すことも立派な勇気だ。サントラにとっ てのそれは動画の投稿だった。小さな一歩にすぎな いが、その投稿によって、彼女は次の大きなステッ プを踏む自信をつけ、最終的には自由を取り戻した。 たかが動画投稿だが、彼女にとっては、最初の勇気 の灯だったのである。  私たちはアンケート調査で勇気の度合いを調べる ために、回答者に、次のような記述が自分にどの程 度当てはまるか、あるいは当てはまらないかを尋ね た。 ●私は言いにくいことでも、自分の意見ははっき  り言う。 ●私は人生の困難や緊急事態にすばやく対応し、  回避したり先延ばししたりしない。 ●私は怖いと思いながらも行動を起こすことが多  い。  また次のような、あまリポジティブでない記述も、 どの程度当てはまるか採点してもらった。 ●私は本当の自分を表現する勇気がない。 ●私は、たとえそれが正しいとわかっていても、  自分が批判や嘲笑、脅威にさらされてまで、誰か  を助けようと思わない。 ●私は、自分の安全地帯を超えるような行動は  めったにとらない。  何万人ものデータを分析して明らかになったのは、 (イパフォーマーは、恐怖を感じながらも行動を起 こすと答える人の割合が、普通の人よりもはるかに 高いことだ。  この事実は、インタビューやコーチングセッショ ンでも見て取ることができる。(イパフォーマーは 皆、自分にとって勇気とは何かをよくわかっており、 どんなときに勇気を出すべきかも明確に説明できる。  誰でも、人に勇気について考えるよう言われたり、 ヒントを出されれば、自分かとっだ勇気ある行動を 1つや2つは思い出せるだろう。  しかし、勇気さえあれば誰でも(イパフォーマー になれるわけではなく、「明確性」「干不ルギー」 「必然性」「生産性」「影響力」のすべてを併せ持つ ていなければならない。何度も言ってきたように、 HP6は、そのすべてが連動して、長期的成功を生 み出すのである。  ところで、人の勇気の「ある・なし」を決めるの は何だろう? 私たちの調査では、年齢も性別もあ まり関係ないことがわかっている。自分にはすごく 勇気があると自己申告する傾向にある大は、次のよ うな特徴を持つ。 ●挑戦に勝つことが好きだ。 ●自分はアサーティブだと認識している。 ●自分は自信を持っていると認識している。 ●自分は(イパフォーマーだと認識している。 ●自分は同輩よりも成功していると認識している。 ●人生全体に満足している。  この結果はたしかに理にかなっている。挑戦する ことが好きなら、困難や障害に臆さず立ち向かうだ ろうし、自信と行動力があるタイプの人なら、必要 なときに行動できるだろう。だが、幸福度が高い (満足している)大のほうが勇気がある、というの はどういうことか?  理解に苦しんだ私は、20人の(イパフオーマーに 構造化面接を行って調べてみた。彼らはこんなこと を言っていた。  「自分が幸せならば、自分の心配をせずに大に注意 を向けられる」  「幸せだと、自分はとてつもないことができると思 えるようになる」  「人生に満足できるような境地に達するには、それ なりのセルフコントロールカを身につける必要があ る。その能力があるなら、不確実な状況でもコント ロールできるという自己効力感も持てるだろう」  それぞれ、優れた説明だったが、幸福感がどのよ うに大きな勇気に結びつくのかについては、明らか に統一した意見がなかった。  これは勇気についての一般的な事実を示している。 それは、どの角度からアプローチしても説明が難し いということだ。勇気というものは、ほとんどの大 にとって、定義することさえ難しい。まして習慣と して考えるなどなおさらだ。勇気は、私たちが研究 する人の特性のどれにもまして、持つ大だけが持つ 人間の美徳であると思われているようだ。しかしそ れは間違いなのだ。勇気は、誰でも身につけられる ところが、むしろスキルに近い。勇気を理解し、安 定的に発揮できるようになれば、すべてを変えられ る。  恐れを感じながらも行動し、成し遂げる  「勇気は、怖いもの知らずであるということではな く、恐れを感じながらも行動し、成し遂げること だ」というマークートウェインの名言には、心理学 者たちも同意している。しかし、勇気を発揮してい るうちにやがて恐れを感じなくなることは、多くの 領域で起こり得る。  たとえば、心理学者たちは、パラシュートの訓練 生のほとんどが、初めて飛行機から飛び降りるとき は恐怖を感じ、勇気を振り絞る必要があるが、繰り 返すうちに自信がついてきて、怖さを感じなくなっ てくる。やがて、飛行機から飛び降りるという行為 が、日常的に感じられ、爽快ですらあり、もはや恐 怖を感じることはなくなる。研究では、爆弾処理班 や、兵士、宇宙飛行士も同様であるIすなわち、 恐怖に直面する経験を積めば積むほど、恐怖やスト レスを感じなくなることがわかっている。  この現象は誰にでも生じる。何かの成功体験を積 めば積むほど、慣れていく。だからこそ今からもっ と勇気ある人生を生きることが重要なのだ。恐怖に 立ち向かう、自分を表現する、人助けをするといっ た行動は、やればやるほど、楽に、ストレスを感じ ずにできるようになる。  しかし、誰かが恐怖に立ち向かうと起きることは それだけではない。勇気は、パニックや、臆病と同 じように、伝染することがわかったのだ。あなたが 人生に恐れを抱いている姿を子どもたちが見ていれ ば、彼らはそれを肌で感じ、真似するようになる。 もちろん子どもだけでなく、チームや、あなたが指 導する相手や、サービスする相手にも恐れは伝染す る。あなたがもっと頻繁に勇気を出すことが、社会 全体が美徳を身につける入り口となるのだ。  勇気の種類  勇気を定義し、分類するのは難しい。勇気という 言葉が具体的に何を意味するかについてさえ、研究 者のあいたでも意見がまとまっていない。結局、意 見が一致しているのは、人がどんなときに勇気を出 すのか、ということくらいだ。人が勇気を出すのは、 リスク、恐怖心、行動を起こすに足りる相当な理由 が存在するときである。  それでも、さまざまな種類の勇気について考察し てみることは有益だ。  まず肉体的勇気とは、崇高な目標を達成するため に危険な状況に身を置くことを指す。たとえば、車 にはねられそうな人を助けに交差点に飛び込む、あ るいは生きるために病気と闘うといったたぐいの勇 気である。  そして道徳的勇気は、大きな善のため、自分が正 しいと信じることのために、他者を擁護する意見を 述べたり、苦難に耐えたりする勇気を指す。見知ら ぬ人がいじめられているのを止めたり、不当な法律 に抵抗してバスの後部座席に座ることを拒否したり、 物議を醸すようなテーマについて自分の考えを述べ る動画を投稿したり。世の中のために、価値観を 守ったり、理念を主張したりする無私の行為だ。そ の要となるのは、社会的責任や、利他の心、「正し いことをする」精神だ。  精神的勇気は、周囲に同調せずに本来の自分を表 現し、たとえ誰かに嫌われる恐れがあっても、世界 にありのままの自分を示すため、あるいは、たとえ 個人的な小さな成功であっても、人として成長する ために、自分の不安や、心細さ、恐怖心に立ち向か うことを指す。  日常的勇気は、まったく先の読めない状況(たと えば新しい町に引っ越すなど)や、健康問題、苦痛 (支持されそうにないアイデアを提案する、職場で嫌なこ とがあっても毎日出勤するなど)があっても、ポジ ティブな姿勢を保ったり、行動したりすることだ。  以上の分類はどれも決定的なものではなく、互い に両立し得ないものでもない。これらの用語は勇気 を概念化するのに役立つ。  大切なのは、自分にとって、もっと勇気を出すと は何を意味するのかを定義し、それを実践しながら 生きることだ。  私自身にとっての勇気とは、リスクや、恐れを感 じても、逆境、あるいは人の反対に遭っても、崇高 な目標、あるいは人生を向上させる目標のために、 やると決めたことを決行することだと思っている。  私にとって重要な定義は「崇高」と「人生を向上 させる」という部分だ。なぜなら、恐怖に立ち向か う行動のすべてが勇敢とは言えないからだ。たとえ ば、自爆テロ犯も、勇気の条件を満たしているよう に思われるかもしれない。間違いなく恐怖を感じて いても、やると決めたことを決行しているし、自分 なりの崇高な目標を持っている。また、最低でも刑 務所行きのリスクを冒して空き巣を働くのも同じで ある。  そうした行為は勇敢と言えるだろうか? ほとん どの人がノーと言うだろう。なぜなら、たとえ勇気 の条件をある程度満たしていても、彼らの行為は、 少なくとも社会の大多数にとっては、危険だったり 破壊的だったりするからだ。危害を加えないという のは、勇気の大事なポイントである。  また、否定されることを恐れながら行動を起こす ことも、そのすべてが勇敢とは言えない。たとえば、 ティーンエイジャーが、仲間に受け入れられるため に、高いベランダから飛び降りる危険行為は勇敢に 思えるかもしれない。だが承認されたいがために怖 さを乗り越えるというのは、勇敢と言えるだろう か? 一部の人はイエスと言うかもしれないが、た だの同調とか愚行と言う人もいるだろう。  そして、大胆な行動をとること=勇気とも限らな い。しそうだと思われていることをしないのも勇気 だ。その好例が、非暴カデモだ。売られたヶンカを 買わずに立ち去って自分の身体を守るのも勇気。弱 腰に見られようとも言い争いに加わらないのも、自 分の品位を保つためなら、勇敢な行動だ。  きれいごとに聞こえるかもしれないが、定義とい うのは重要だ。勇気とは、多くの人が思っているよ うに、恐怖を乗り越えることのみを指すのではない。 勇気を出したその先に、あなたがどんな結果を求め ているかが非常に重要だ。また逆に、良かれと思っ てしたことでも、結果的に誰かを傷つけてしまえば、 それも勇敢な行動とは見なされないだろう。実際、 多くの人から勇気ある行動と見なされるのは、きち んとやり遂げられたり、良い結果に終わったりする ヶIスだけである、という研究報告があるのだ。た とえば、あなたが自分の意見を主張し始めたものの、 誰かに遮られたとたんにやめてしまったとしたら、 あなたは、自分が勇気ある行動をしたと考えるだろ うか? あるいは、誰かが溺れている人を助けよう として川に飛び込むも、2人とも溺れてしまったと か、2人とも救助が必要な結果になったという場合、 それは勇気ある行動か? それとも単なる向こう見 ずか? おそらく後者だろう。  とはいえ、勇気に関する私たちの調査結果の根底 には、ある明確な傾向が見られた。それは、(イパ フォーマーは、たとえその行動の結果に恐怖や、高 いリスクや、不確実性を感じても、総じて、行動に 出る傾向が強いということ。この10年、数多くの八 イパフォーマーの話を聞いてきた私はこう結論づけ ている。  大には、自分ではやってみるまで予測もできず、 けっして知り得ないような、すごいことをやっての ける能力がある。  私か聞かせてもらった話は、驚きのストーリーば かりだった。I人のハイパフォーマーが、疑念や恐 怖に直面するも、一念発起して誰かを助けたりする。 彼らの勇気は、最初から持ち合わせていたわけでも、 思索の末に見いだしたわけでもない。行動が、彼ら の心を目覚めさせ、道筋を開いたのである。彼らは、 いつかの未来を願っていたわけでもなく、うじうじ と悩んだりもせず、ただ行動した。行動せずに良い 成果をあげたいと願うのは、助けを求めずに助けを 願うのと同じだとわかっていたのだ。  また、人生の進路を変えた人たちの話もたくさん 聞いた。勇気を出して仕事を辞めた、虐待的な関係 から抜け出した、新しい町へ引っ越した、というエ ピソードだ。勇気ある行動というと、一歩前に踏み 出すことをイメージしがちだが、ある意味後戻りす る勇気を奮ったという人も多かった。昔あきらめた 夢を追いかけるといった話だ。夢をいったんあきら めても、あなたの心が達成したかったと思い焦がれ ているなら、その苦しみを癒すのは行動しかない。 軌道修正に遅すぎるということはない。  逆に、(イパフオーマーの口から聞かれなかった のは、先延ばしにしたとか、長いあいだ愚痴を言い 続けたという話だ。泣き言を言い続けると気力が失 われる。不平不満があれば、すぐに進歩に向けた現 実的な取り組みで対処しないと、意志が萎えてしま うのだ。何十人ものハイパフオーマーに言われた。  「愚痴を言わずに行動せよ」  インタビューに答えてくれた人の多くが、勇気あ る行動は自然発生的なものだと語っていたが、私の 心に最も響いた話−そして、習慣としての勇気が 再現可能であることを最もよく表している話−は、 勇気ある行動が計画にのっとって実行されたエピ ソードだった。その人たちは、自分が何を恐れてい るのか心得ていて、覚悟と準備をしたのである。勉 強し、メンターを見つけ、恐怖心に立ち向かった。 私たちは、恐怖心を自分の成長計画に変えることが できて初めて、習熟の道に踏み出せるのだ。  ここでさらに私の個人的見解を述べることもでき るが、あなたにとって勇気をもって生きるとはどう いうことなのかを決めるのは、最終的にはあなた自 身だ。勇気のあるなしは、他者が決めることではな い。人生の現段階で自分が勇気をもって生きている と言うに足りるのか、見極めることが重要である。  皆の思考を手助けするために、私はよくこの質問 を投げかけている。  もし、未来の最高のあなたI自分が想像してい るよりさらに強く、能力が高く、成功している、10 歳年上の自分−が、今日玄関に現れ、あなたの現 況を見たとしたら、その未来のあなたが、今のあな たの人生を変えるために、今すぐとれと助言する勇 気ある行動は何だろう? 今のあなたに、どんなふ うに生きろと言うだろう?  この質問をもう一度読んで数分じっくり考えてみ よう。  私はこの質問を実にたくさんの人にしてきた。あ なたの答えは知らないが、1つだけ推測できるのは、 未来のあなたは、けっして控えめに行動しろとは言 わないだろうということ。最高のあなたなら、人生 を突き進めと言うはずだ。その助言どおりにするに は、基礎以上の知識が必要だ。恐怖心や障害を新し くとらえる視点が必要なのである。それが、これか ら学んでもらう3つの行動だ。  ACTI()XI  苦労を尊ぶ  これほど多くの人が勇気ある生き方をしていない のはなぜなのか? 皆、自分の意見を主張すべきだ とわかっていながら、そうしない。恐怖心に立ち向 かいリスクをとりたいと思いながら、そうしない。 もつと大胆になり、もつと大きな夢に向かって努力 し、意義深く尊いやり方で人助けをすると言いなが ら、そうしない。  これは、コーチングの仕事を始めたばかりの私に とって、最も歯がゆい問題の1つだった。多くのク ライアントが、ビジョンや、大きな夢を語ったり、 模範的な人生を送って変化を起こしたいと口では言 う。でも何も行動を起こさないのだ。すばらしい人 生を送りたいとは言うが、そのための新しい習慣に ついて話をすると、たいてい忙しいとか怖いとか 言ってはぐらかす。よそのセミナーでつくったビ ジョンボード(※)を私に見せるも「ではビジョン ボードはできているので、今度の月曜日から実践す る飛躍行動のトップ3は何ですか?」と訊くと、ま ともな返事も計画も出てこない。勇気ある行動は、 100枚のビジョンボードに勝る’・ と理解できて いないのだ。  あなたも、なかなか大胆な行動がとれない人、あ るいは自分自身に、イライラした経験はあるだろう。 その問題の本質は何だったのか? そしてどうすれ ば解決できたのだろう? 実は、こうしたことはマ インドセットの問題だと、私は学んだ。  今日の私たちは、奮闘することを避けているため に、社会全体で勇気を失っている。そしてその選択 によって、人格と強さが未熟な状態で止まっている のだ。ちなみに、人格と強さは、重要な勇気のもと である。  どういうことか説明しよう。私たちは今、歴史上 類を見ない時代に生きている。かつてないほど多く の国や地域社会が、かつてないほどの豊かさを手に しているのだ。だが、そのような恩恵の裏にはI 人びとが苦労を嫌うようになるという弊害もある。 今の時代は、本格的な努力や、試行錯誤、困難、粘 り強い辛抱を必要とするようなアドバイスはウヶな い。楽で便利なことがもてはやされる。皆、少しで も困難の兆しが見えると、すぐに結婚や学校や仕事、 友人関係をやめてしまう。日常生活で困難の兆候が 見えるや否や投げ出すような人が、本当の恐怖や脅 威に直面したら、それに耐えられる確率は果たして どのくらいだろう?  勇気を出すために必要な強さを身につけるには、 まず人生の基本的な困難や不都合にもっとうまく対 処できるようになる必要がある。ちょっとしたこと でイラツとするのをやめて、苦労を、人格向上の一 環と思うようにしなければならない。苦労を尊ぶこ とを覚えなければならない。  残念ながら、私の業界でも「苦労」は人気がなく て売れない。常に言われるのは、たとえば、私のア ドバイスやカリキュラムなら、複雑さと難しさを軽 減し、もっと魅力的にしたほうがいいということ。 「努力を強いてはだめ」なのだそうだ。「ブレンドン、 難しい手順が多すぎると実践しないからだめだ。レ ベルを落とせ。簡単にしろ。小6でもわかるように するんだ。人は努力したがらない。だから簡単にで きることをやらせないと」と(これらはすべて、本書 に執筆巾に言われたことだ)。  こうしたコメントの前提にあるのは、人びとは怠 け者で、挑戦を嫌い、成長を犠牲にしてでも楽する ことと確実性を求める、という認識だ。私たちは、 この前提をどれだけ頻繁に吹き込まれているだろう。 特に、メデイアの世界全般において取り上げられる 「コツ」や「パック(うまい、ずるい手口)」のすべて が、生活を限りなく簡単にして、人を苦痛や負担か ら引き離そうというテーマで構成されている。自分 の長所だけに意識を向けよう。そのほうが気分が良 くなり、人にもよくしてあげられる。わざわざ欠点 と向き合って苦しむ必要はない。それは不快な体験 であり、努力に値しない。すべてをアウトソーシン グしよう。本当のスキルを学ぶ価値はないからだ。 ダイエットだって、魔法の錠剤でパックすれば、ひ どい食生活を変えないで済む。  インターネットミームやメディア、インフルエン サーが私たちに寄ってたかって吹き込んでくる。苦 労なんてするものではない、人生は楽に流れるべき で、そうでないなら間違った道を歩んでいる、と。 その影響で、私たちの能力がどんなことになってい るか、考えてほしい。その影響で、私たちが勇気あ る行動を起こす確率がどうなっているか、考えては しい。  私たちが人びとに、簡単なことだけをするよう言 い続けていたら、難しいことをしようなどと誰が考 えよう?  朗報なのは、今、世界中の人びとが、手っ取り早 い解決策や、パックや、いわゆる特効薬ではできな いこともあると気づき始めていることだ。もともと 知っていた常識を思い出し始めている。その常識と は、卓越性を達成するには、懸命な努力や、自己規 律、退屈しそうな日課が必要で、学習に常につきま とう苛立ちや、私たちの心と魂、そして何より勇気 が試されるような逆境も必要である、ということだ。 [イパフオーマンスには、宣]の意図が必要だし、難 しい習慣を身につける必要もある。本書で紹介する 研究が、その重要な事実を把握する一助になれば幸 いだ。本書の習慣は、実行可能だが、やはり長期に わたって意識を集中させ、奮闘し、忠実な努力をす る必要がある。  私だちより上の世代なら、苦労を避ける選択肢が なかった時代の話をするだろう。昔は皆、何の困難 もなく、情熱だけを追い求める快適な人生など望め ないことをわかっていた。平坦な道のりなど期待し なかった。艱難辛苦は、人格を形成する動力源だと 言うだろう。彼らが支持した理想とは、手を汚して、 誰よりも懸命に働き、たとえ苦難に直面しても壮絶 な根気強さで夢に向かって努力するという姿勢だ。 そういう努力が、人をより優れた、より有能な人間 にすると考えられていたからだ。困難に見舞われて も、落ち着きと威厳をもって対処する人間が尊敬を 得て、リーダーになった。  懐古主義のように聞こえてしまうかもしれないが、 これは真実だ。偉業を達成した人の中に苦労を避け たという人は1人もいない。皆、苦労と対峙し、 がっつりとかかわっだ。亶]の難題が自分を追い込み、 能力を伸ばし、出世させてくれるのだから、しっか り向き合う必要があるとわかっていたのだ。彼らは 苦労を尊ぶことを学んだ。苦労を覚悟し、歓迎し、 糧として、より多くを与える原動力にするというマ インドセットを身につけたのだ。  人生の葛藤や、困難、ひどく厄介な状況にまっす ぐ向き合うことで、私たちは、恐怖心の壁を、1つ ひとつ取り崩していく。このマインドセットは、他 のどの考え方よりも、私の著書の根底に据えられて いる。前著『自分を貫く』『自分に自信を持つ方法』 『奇跡が起こる遊園地』を読んでもらえれば、私か、 ほぼ崇拝といっていいくらい、苦労を深く尊重して いることがわかるだろう。  苦労は、あなたの成長の旅路の、必要で、重要で、 ポジティブなI環だととらえられるようになったと き、真の平穏と、自己の力を見いだすことができる。  それができないと、壊滅的な状況になる。苦労を 嫌ったり、恐れたりする人は、やがて愚痴ばかりに なり、モチベーションを失い、投げ出してしまう。  苦労を尊ぶ姿勢は、私たちの最新の調査でも、勇 気の予測因子であることが証明された。勇気ある人 は、「人生の新たな課題に挑むのが大好きだ」「障害 や抵抗に遭っても目標を達成する自信がある」とい う記述が当てはまると答えている。(イパフオー マーたちは、ともかく課題に挑戦することや、失敗、 学びや成長に伴う困難をいとわないのだ。そして、 新しいことに挑むのが大好きで、困難に遭遇する可 能性があっても、目標を達成できる自信を持ってい る。過去のたいへんだった経験について彼らに聞い てみると、パフォーマンスや、成長や、成功のため に自分の安全地帯から出ざるを得なかった状況のこ とを、嫌な経験としてではなく、むしろ崇拝するか のように話してくれた。  私たちの発見は、成長マインドセットを持つ人び とに関する数十年におよぶ心理学研究の結果とも一 致している。そうした人たちは、自分は向上できる と信じ、挑戦が大好きで、困難から逃げずに取り組 む。彼らは他の人ほど失敗を恐れない。なぜなら、 自分は学習でき、努力と鍛錬によって、向上できる とわかっているからだ。彼らはそうした姿勢のおか げで、人生のあらゆる分野で、長期にわたって、よ りモチベーションが高く、物事をより執念深く追求 し、よりレジリェンスが高く、より成功する。  一方の「固定マインドセット」を持つ人は、信念 も行動もすべてその正反対だ。彼らは、自分の能力、 知性、性格特性は変わらず、固定されていて、限定 されていると信じている。自分が変わって成功する ことはないと思っているため、自分の「生まれなが らの」強みと能力を超えた物事に直面すると、すぐ に恐怖心を抱く。彼らは失敗を嫌がる。なぜなら彼 らは、失敗を、自分自身の評価に直結するものとと らえているからだ。ミスや子フーによって、自分が 無能に見えてしまうと思っている。また、簡単にで きないことはすぐあきらめる。これらがいかに破壊 的かを示す研究報告がある。固定マインドセットの 人が挑戦を回避する確率は、成長マインドセットの 人の5倍だという。これは、私たちが観察したハイ パフォーマー対ローパフォーマーの比較とも一致す る。  人生における避けられない苦労や、ミス、厄介な 状況、困難を覚悟したり、それに耐えたりする意志 がない人は、いばらの道を歩むことになる。勇気が ないと、自信も、幸福度も、成功度も柢くなる。そ れはデータで証明されている。  2つの人間の物語  人間の物語には、奮闘記と成長記の2つしかない。 そして、前者なくして後者を記すことはできない。 その浮き沈みが私たちの人間味を育てる。人生、山 もあれば谷もある。喜びも絶望も、勝利も敗北も経 験しながら、幅広い人間に成長していく。  皆、それをわかってはいるのだが、困難な状況に 陥ると忘れがちだ。ちょっとした苦労もいとう人が 多いが、それはやめなければならない。物事を忌み 嫌っていると、その対象が、実際よりどんどん大き く恐ろしいものに膨れ上がってくる。私たちは、自 分か苦労によって破滅させられるか、成長するかの どちらかしかないことを受け入れる必要がある。そ してどちらを選ぶかは結局自分次第という、厳しい 現実もだ。どんな困難に陥っても、次にどうするか を選ぶのは自分自身なのだ。だが選べることに感謝 しよう。  人生での困難をありかたく思うのを超え、崇拝す るような気持ちを抱くこともできる。(イパフオー マーたちの話を聞いて明らかになったのは、卓越す るためには、苦労を、強さと(イパフォーマンスヘ の足がかりと見なせる自分になる必要があるという ことだ。苦労は成長過程の一部であり、どんな価値 ある活動分野にも欠かせない一部であるというとら え方は、ハイパフオーマンス精神の一環なのだ。そ して、苦労を受け入れる決断をしたときに、私たち の内面の奥底から勇気が引き出される。  私が今直面している苦労は、必要なものであり、 私が貢献し、強くなり、自分と愛する者たちのより 良い未来をつくり上げる糧となる。  ただし、苦難の道を尊ぶというのは、ただ逆境を 受け入れ、パンチをかわしながら、改善の努力を何 もしないということではない。苦難に立ち向かい、 学ぼうとする姿勢があれば、最高の自分を引き出せ るというマインドセットを取り入れることを意味し ている。辛いときもあるだろうということを受け入 れれば、現実感覚と覚悟を持って目覚め、問題を予 期しそれに対する心づもりができ、二流のリーダー なら倒れてしまうような変化の風が吹いても、落ち 着いていられる。  そうした、エングージメントとアクションを志向 する傾向も、(イパフォーマンス精神の1つの特徴 だ。人生で避けられない困難がある? ならば、全 精力を注いで取り組もう、というスタンスだ。押し つぶされそうなときでも、散歩に出て、呼吸に集中 し、その問題を避けるのではなく、考える。問題を 直視して「私か今すぐとるべき正しい行動は何 か?」と問う。まだその行動を起こす準備ができて いないなら、計画し、勉強し、霧が晴れてあなたが りIダーとして召喚されたときのために備える。  ではこのセクションの締めくくりに、私の受講生 が役に立つと言っている2つの格言を紹介しよう。  1つめは、私か陸軍特殊部隊の隊員にコーチング をしていたときに教わったものだ。それは、兵役の 苦難に耐えなければならないことを説く「最悪なこ とを受け入れろ」という有名な格言だ。  兵役には最悪だと思うこともままある。最悪な訓 練。最悪なパトロール。最悪な天気。最悪な状況。 でもそれらを避けることはできないし、文句を言う わけにもいかない。ただ対処し、立ち向かい、耐え 抜いて立ち上がれと自分に命じなければならない。 最悪なことを受け入れなければならない。私か、軍 隊について最も尊敬していることを1つ挙げるとす れば、それは、兵士たちが文句を言わないことだ。 不平不満は尊重されず、繰り返されもしない。私は そこに感動している。人生のいかなる領域でも、世 の中に奉仕する機会の恩恵を得たなら、そのための 努力について不平を言ってばならないのだ。  苦労を受け入れ尊ぶのに役立ちそうな2つめの格 言は、「あなたはやり抜くことができる」である。 自分のポテンシャルが認めてもらえない、自分のビ ジョンが共感されない、自分がどうなるかわからな い、怖いからといって、あなたに資格がないことに はならない。空か曇っているからといって、太陽が ないことにはならない。  物事がうまくいくことを信じよう。世間ではよく、 苦しいときは「自分が受けている恩恵を数えよう」 と言われるが、私としては、恩恵に期待しようと言 いたい。宇宙は豊かで寛大だから、良いことが向こ うからやって来ると信じていい。自分自身と未来を 信じようというのは、困難な状況にある人への究極 のメッセージだと思う。  私は脳挫傷で苦しんでいたとき、こんな言葉を カードに書いて財布に入れて持ち歩いていた。  「忘れるな。君は自分で思っているより強い。そし て未来には、良いことが待っている」 ACTION -のまとめ  「苦労を尊ぶ」マイノート ー私か人生で直面している苦労は…… 2この苦労に対する視点を変えるとしたら、どう   とらえるか…… 3この苦労から何かすばらしいものが得られると   したらそれは何か…… 4人生における不可避の苦難に今後どう向き合つ  ていくか…… ※ビジョンボード  夢や目標、決意などを可視化して一枚のボードにまと  めたもの。  ACTI()X2  真の自分や野心をさらけ出す  私は前著『自分を貫く』で、人間の主要な動機は、 自由であること、本当の自分を表現し、制約を受け ずに夢を追い求めること、そして、いわゆる個人の 自由を体験することだと主張した。私たちが奮い立 つのは、恐怖心や同調圧力に妨げられないと感じる ときだ。自分に忠実に生きてこそIすなわち、あ りのままの自分、本当の気持ち、本当の願望や夢を 表現できてこそI正真正銘の自分であり、自由な のだ。だが、それには勇気がいる。  誰だって、束縛され、周囲に同調しながら生きた いとは思わない。しかし『自分を貫く』を出版する と、個人の自由を実現することがいかに難しいかを 述べる手紙やコメントが何千通も送られてきた。世 間に、本当の自分をありのまま、堂々と見せること は、大きなリスクを伴う。人はよく、自分らしくあ りたいと口にはするが、現実にそれをすると、多く の批判や拒絶を招く。自分のありのままの姿を見ら れたら、体裁を保てなくなる、周囲の期待に応えら れなくなる恐れがある。  しかし、私に言わせれば、誰かの期待どおりの自 分や実力に達する努力をすべきなのは、その誰かが あなたを応援するロールモデルであると信じている ときだけだ。誰かがあなたを信じ、あなたにすばら しい可能性を見いたしてくれているのであれば、も ちろん、それに応えようとすべきである。  あなたを疑ったり、軽んじたりする相手のことな ど考えなくていい。そんな人たちをわざわざ喜ばせ ようとする必要はない。自分らしい人生を生きよう。 懐疑的な人たちの承認は求めなくていい。他者の承 認を求め、それが満たされても、その喜びは長続き しない。人に認められても、すぐに物足りなさを覚 え、キリがなくなる。  となると、残された道は、真の自分を表現し、自 分の夢を追い求めることだけだ。それをすれば、批 判は免れない。だが、それも苦労の一環として最初 から覚悟しておけばいい。何をしても常にジャッジ はつきまとう。常に曇りの囗があるのと同じだ。批 判に揺さぶられて信念を曲げてはならない。自分の 夢を信じるなら、その道から逸れてはならない。希 望で魂をときめかせることに誰の許可もいらない。  正直に告白しよう。多くの(イパフォーマーたち の話を聞いてから、私は、あなたが批判や抵抗に遭 うようにと願うようになった。なぜなら、それは、 あなたが自分自身の道を進み、偉大なものを目指し ているあかしだからだ。  最近、誰からも横目で見られたり、「何様のつも りだ?」「それ本当に大丈夫か?」と言われたりし ていないなら、もしかすると、あなたの生き方は大 胆さに欠けるのかもしれない。  こうした話は以前にもしたことがあり、その後、 あるファンの人から反論のメッセージをもらった。 「でもブレンドン、私はありのままの自分を誇りに 思っていないので、そんな自分をさらけ出したくあ りません。自分を恥じているわけですから。宣]の自 分は、人に見せたいものではないんです」と言って きたのだ。私はこう答えるしかなかった。  「いいですか、もしあなたが真の自分を恥じている なら、あなたがまだ真実を見つけていないというこ となんです」  自分を小さく見せなくていい  『自分を貫く』の読者からの感想で1つ意外だっ たのは、真の自分をさらけ出すこと自体とはまた別 の恐れだった。自分が人から柢くジャッジされるの が怖いのではなく、自分のベストを出したら、他者 に引け目を感じさせてしまう恐れがある、という意 見を寄せた天が多かったのだ。周囲の天たちが劣等 感を抱いてしまう可能性があるので、自分の本当の 野心や、喜び、力を表現することに躊躇を感じてい るのだ。  彼らは、周囲に劣等感を持たせないよう、自分の 夢は最小限に語り、大きな考えは封印し、自分自身 のレベルを下げ、口調も控えめに、低姿勢を心がけ るべきだと考えていた。  そういう心配を寄せてきた読者にはよく、私かあ らかじめスマホで自撮りした動画を送っている。そ こではこんなことを言っている。    いいですか。絶対に控えめに立ち回ったりし   てはダメです。高い目標を持っていることを悪   いと思わないでください。あなたの魂にその夢 が宿ったのは、それなりの理由があってのこと なんですから、あなたには、それを尊重してあ げる義務があります。周囲を安心させたり、機 嫌を取ったりするために自分を押し殺してはい けません。自己開示しないことは、謙虚さでは なく、嘘をつく行為です。あなたの本当の考え や、気持ちや、ニーズ、夢を周囲がわかってい ないとしたら、それは彼らのせいではなく、あ なたのせいです。あなたのポテンシャルが理解 されない壁があるのは、彼らの理解力や野心が 欠如しているせいではなく、あなたが黙ってい るせい、弱みをさらけ出さないせい、力が足り ないせいです。もっと自分のことを伝えれば、 あなたのことを支え、元気を与え、引き上げて くれるような、本当の人間関係が築けるでしょ う。そして、たとえその人たちに支えてもらえ なかったり信じてもらえなかったとしても、あ なたは、少なくとも自分の人生を生き、少なく ともすべてをさらけ出し、少なくとも自分の心 の希望と魂の使命を尊重したことになります。   そうしてすべてを表現した先に、あなたの自由   があるのです。いいですか。一段階上のパ   フォーマンスは、一段階上の真実から始まるの   です。  本章は、説教がましくなっているが、これはとて も大事なことなのだ。今でも、本を読んで数年経っ た読者から、このメッセージに助けられたという声 が寄せられる。だからあなたもこのメッセージをそ ばに置き、今度、誰かに気をつかって自分の夢を封 印しようと思ったときに、声に出して読めるように しておいてほしい。  だからどうかおつきあい願いたい。あなたの人生 で、一段階上の勇気を出せるようにするには、一段 階上の自己開示、つまり、あなたの本当の自分、望 み、実力、覚悟について、正直にオープンにするこ とが必要だ。それをしにくくしている唯一の障害は、 他者を不快にしないよう、自分を小さく見せたほう がいいかもという考えだ。  だが、それを謙虚さだと勘違いしないでほしい。 自分を小さく見せるのは本当の野心を偽る行為だ。 神や、宇宙や、運が授けてくれた才能、そして自ら の努力の賜物に罪悪感を抱いていることになる。ま たそれはこそこそした行為でもある。他者への気兼 ねを手放さない限り、それによって、永遠に、本当 にありのままの自分でいることも、満足することも、 真の可能性を発揮することもできなくなる。それに よって、目標が下方修正され、卓越性も失われてし まう。いったい何のためにそこまで落ちる必要があ るのか?  あなたはこんなふうに考えるかもしれない。私の 意欲や願望が、周囲に引かれるのではないか。私の 野心はよく思われないのではないか。嘲笑されるの ではないか。だから目立たないようにしているのが 一番。ともかく、野心も勤労意欲も、下げ気味にし ておこう。  私は、この誤った考えのあらゆるバージョンと変 化形を耳にしてきた。だがあなたの心に刻みつける べくもう一度言う。このような考えは謙虚とは違う。 恐れであり、偽りであり、抑制であり、思春期の子 どものような心配だ。この考え方をしていると、血 の通った純粋な人間関係が損なわれる。他者に引け 目を感じさせないように自分を小さく見せておけば、 短期的には、たしかに人間関係が楽になるかもしれ ない。けれども、こんな弊害もある。  誰も、仮面をかぶった人間とはつきあいたがらな い。  もしあなたが、5年つき合っている知人から、あ る囗突然こう言われたとする。  「君は本当の僕を知らない。今までずっと、すべて を正直に言っていなかった。僕の本当の夢のこと、 君には黙っていたんだ。反応が怖かったし、心の狭 い君が機嫌を損ねると思ったから」  こんなことを言われたあなたは、どんな気持ちだ ろう? 相手との距離を縮めるだろうか? 動揺す るだろうか? そしてどんなリアクションを返すだ ろうか?  あなたはきっと驚き、傷つくはずだ。あなたも、 隠すことで他の人を傷つけたいだろうか?  よく聞いてほしい。もしあなたが、人に合わせる ためや、人に引け目を感じさせないために、自分の 本当の考えや夢を語らずこらえているなら、それは 相手や他人のせいではない。あなたが、自分の首を 自分で絞めているのだ。そしてついでに、人間関係 から生気を絞り出している。  私は、世界中のだくさんの大たちが、歪んだ「謙 虚さ」を装って、自分を苦しめているのを見てきた。 「まわりの臆病者たちの機嫌を損ねるから、私は輝 かないほうがいい」などというのは、謙虚でもなん でもない。お願いだからやめよう。  これまでずいぶん多くの人の反応を見てきた私に は、あなたが思わず言いたくなることがわかる。こ んなことを思っていないだろうか? いやいやブレ ンドン、あなたはわかっていない。私の夫が……コ ミュニティの大たちが……ゝつちの社内が……ゝつちの 母親が……私のコーチが……私のファンが……ゝつち のブランドが、どんな人間なのか。私の[(あなた の言い訳)】状況が……。  さあ、今度は私か否定する番だ。  あなた以外の誰もあなたを黙らせることはできな い。  あなた以外にあなたのセルフイメージを小さくで きる人はいない。  そして、あなた以外に、あなたの心を開き、あな たにフルパワーを発揮させられる大はいないのだ。  ありのままでいられない、弱みをさらけ出せない ことを「あの大たち」のせいにすることもできるが、 今日という日を選んで、たとえ人の反感を買う可能 性があっても、自己開示を始め、全力で生きるよう にすることもできる。一部の大にバカにされるので はないか? 愛する大が信じてくれなかったり、離 れていったりしないか? 仲間にクレイジー呼ばわ りされ、のけ者にされないか? 近所の人やファン に「身のほど知らず」と嫌われないか? そうした 疑念に1つひとつ答えるならば、どれも可能性はあ る。だが、律儀に皆が望むレベルに自分を合わせる のと、自分にとって正しいことを主張するのと、ど ちらが高潔だろう? 結局、人生のテーマは恐れな のか自由なのか、自分に問わなければならない。一 方の選択肢は檻、もう一方が勇気なのだ。  このテーマに対する私の情熱は果てることがない。 いろいろなところでたくさんの人にコーチングして きたからわかるのだが、いつか、誰かI私か、あ なたのメンターのI人か、あなたの心の奥底からの ささやきIが自己開示をするようあなたを説得す るだろう。  あなたが、会ったこともない一介の著者の言うこ とを聞く筋合いはない。だがもし、私かどうにかこ こまであなたの関心を引きとめたのなら、どうかも う少しだけ私につき合ってほしい。あなたが気をつ けなければならないのは、抑制が、目に見えぬスト レスとなって、長期にわたり、あなたの心と人生に 重くのしかかることだ。そしてあなたの周囲の人び とに、あなたの本当のすばらしさと能力を隠し立て することになる。さらに悪いことに、それによって、 あなたにふさわしい人たちがあなたの人生に現れな くなってしまう。  私はそういうケースをいつも見ている。成績のい い人が、密かに努力する選択をしたために、一段階 上の成功を達成できないケースだ。そういう人は、 自己開示や主張をしたがらない。「身の丈をわきま えた」「現実的」で「分別のある」人間であろうと し、周囲の人を「上機嫌にし」「安心させ」ようと 努める。彼らは、自分のすばらしいアイデアを胸に しまい込んでいるだけでなく、助けを求めないとい う、もっと致命的な過ちを犯す。助けを求めなけれ ば、あなたにふさわしい人があなたの人生に入って こられない。だからもし、宇宙があなたの望むもの を与えてくれないとしたら、それは、いろいろなこ とに気を取られたり、黙っていたりするあなたが何 を求めているのか、宇宙が知らないだけなのかもし れない。  最近、あるオリンピック金メダリストにコーチン グをした。私か「あなたのキャリアで最大の収穫が あったのはいつですか?」と訊くと、彼女はこう答 えた。  「私か、ついにオリンピック金メダルの夢を口にし 始めたときです。それから急に、人びとが私を正し い方向に導いてくれるようになりました。何をすれ ばいいのか、どんなスキルが必要なのか、誰に相談 すればいいのか、プロはどんな道具を使っているの か、最高のコーチは誰なのかなどを教えてくれまし た。それで学んだんです。自分が人生で何をしたい のか、口を開いて屋根の上から大声で叫べば、村の 中には、私かできない理由を叫び返してくる愚かな 連中も出てくるでしょう。でも、村の指導者たちが こぞって手伝いに来てくれる。そういうふうに、人 生はすばらしいと思います」  あなたの人生にしかるべき理由でかかわっている 人たちは、真のあなたに耳を傾けてくれる。彼らは あなたの野心に拍手を送り、喜んで本当のあなたに 会おうとしてくれる。あなたが真実を伝えたこと、 ありのままを見せたこと、自分たちを信頼したこと に感謝してくれる。人を信頼して真実を伝えれば、 本当の人間関係と愛情の黄金の価値が、失われた宝 物のように姿を現す。さらなる勇気を出すには、過 去にあなたを支えてくれた人たちに対してそうする 義務があると自分に言い聞かせよう。彼らがあなた に与えてくれた力に報いるためにも強くあり続けよ う。お世話になったすべての人への返礼として、不 平を言わず、行動しよう。批判せずに、応援しよう。 同調せずに、真の自分を生きよう。利己的にならず、 奉仕しよう。楽な道を選ばず、成長と並外れた人生 を目指してがんばろう。  そして、あらゆることが崩壊しそうなときこそ、 今後の自分自身が形成される瞬間なので、最高の自 分を出すようにしよう。  日々気軽に話す  ありのままの自分で他者と関係を築くために最も 重要なのは、相手に自分の本当の望みを伝えること だ。それを相手に承認してもらったり、手伝っても らったり、アイデアを出してもらったりする必要は ない。相手のことは巻き込まなくていい。ポイント は、宇宙があなたに開かれているのと同様に、あな たも人に心を開く勇気を持つことなのだ。毎日、自 分の考えていることや、気持ち、夢見ていることを 人に話す、というのをやってほしい。その結果、目 の前の人が即何かをしてくれるわけではないが、世 の中何かあるかわからない。もしかしたら、遠隔力 が働いて、あなたの必要とする時間と幸運と運命の さざ波が1つにまとまり、あなたのもとに、次のス テップヘのヒントを届けてくれるかもしれない。そ れは、あなた自身の勇気によって発掘された宝の地 図と言える。  この「真の自分や野心をさらけ出す」という習慣 は、あなたの知り合いの一人ひとりに、折り入った 話をして回るとか、大事な人たちの前でかしこまり、 これまで言えなかった理由をすべて打ち明けるとか、 これまでの人生や哲学を語る動画を撮るとか、そう いうことではない。ただ、自分の考えや目標や気持 ちを人に話すことを、日常の習慣にしようというこ とだ。毎日、あなたの本当の考えや望みが伝わるよ うな何かを共有しよう。たとえば「あのさあ、今日 考えてたんだけど、僕は○○するのが大好きだから、 △△を始めようかと思うんだ」というように。 ●本の書き方というのを調べてみようと思うんだ。  自分は伝える価値のあるストーリーを持ってると  思うから。 ●毎日ジムに通い始めようかと思ってさ。もっと  生き生きと干不ルギッシュに過ごしたいから。 ●転職先を探そうかと思ってるんだ。仕事にもっ  と情熱を感じたいし、もっと評価されたいから。 ●新しいコーチを探して、何人かに連絡をとって  みようと思う。もっと高いレベルで競技したいか  ら。  こんな、気軽な話し方でいいのだ。話の構成もシ ンプルだ。あなたは何を話したいだろうか? 何で もいいので話そう。そして毎日思い切った行動をし てそれを実現させよう。 ACTION2のまとめ  「真の自分や野心をさらけ出す」マイノート ーすごくやりたいけれど、まだあまり人に話して  いないこと…… 2もっと「私らしい」日常を過ごすとしたら、何  をするか…… 3もし自分をさらけ出して誰かにからかわれても、  こう言って一蹴する…… 4これから人に話して手伝ってもらいたい大きな  夢は……  ACTI()X3  がんばるモチベーションとなる相手を見つ  ける  2006年、私は有り金をはたいてしまった。本 書であなたにやれと鼓舞してきたことを実行した Iすなわち行動を起こしたI結果だ。私は著者 兼コーチになるために仕事を辞めた。その夢を皆に 話した。  多くの人たちに狂っていると思われた。そこには 私自身も含まれていた。本の書き方も出版の仕方も 知らなかった。私は名前も知られていないし、頼る コネもない。当時は、Facebookも、YouTubeも、 lTunesもまだ黎明期にあり、自分の声を発信するの はたいへんなことだった。  私か発信したかったのは、自分が交通事故の経験 から学んだこんな教訓だ。人生の終わりには、自分 の生涯が幸せだったかどうかを自問することになる。 そのとき何を問うかを今はっきりさせることができ れば、毎朝目覚めたときから、人生の終わりに満足 に答えられるよう、意識して生活できる。私にとっ てのその質問は「私はしっかり生きたか? 人を愛 したか? 重要な存在だったか?」であると学んだ。  このシンプルなメッセージを多くの人に届けた かったので、私は毎日遅くまで、ウェブサイトのつ くり方や、オンラインマーケティングのやり方を勉 強していた。  本当にすっからかんだったので、彼女のアパート に転がり込み、母の古い裁縫部屋から借りてきた折 り畳みの机を「デスク」にし、部屋がとても狭いの で、ベッドを脇机代わりにして、そこに請求書や、 メモや、恐怖心を積み上げていた。  私の私生活の暗黒時代だった。モチベーションと (イパフォーマンスの習慣を専門にしようという男 が、そのどちらもほとんど持っていない。ただ執筆 とコーチングという、自分の望みだけははっきりし ていた。冷蔵庫に「ストレスを感じているときこそ、 大胆かつ勇敢であれ」というホラティウスの有名な 格言を貼っていた。しかし、どちらの目標にも近づ くことなく、日にちばかりが過ぎていた。  カフェで他の人たちがパソコンを叩いているのを 見て、こんなことを思ったのを覚えている。僕はな んてインチキなんだ。みんなああして働いてるのに、 僕はほとんど何もしてない。そして立ち上がって、 公園を歩き回りながら自分に言い聞かせた。もっと やる気が出るような環境に自分を持っていかなきや いけない。こうして歩けば、頭がすっきりして、 もっといい文章が書けるようになるだろう。そう やって何週間、何力月と、公園をぐるぐる歩き回っ たが、頭の中はずっとモヤモヤしたままだった。自 分のモチベーションが、夢のレベルに追いついてい なかったのだ。  そして習慣も同様だった。スマホのアラームを 使ったリマインダーや、メンタルトリガーを設定し、 毎朝同じ時間に起床して、執筆を始めようと思って いた……が、その前に、執筆のためのパーフェクト な状態に入るために、パーフェクトな緑茶をいれた り、最高のオムレツをつくったりしていた。そうい う習慣だけはわりと続き、汚れた食器のほうが、書 けたページ数より多くなっていった。すべての習慣 がすばらしい結果につながるとは隕らない。重要な 材料が抜けていれば、なおのことだ。  だが、あるふとした瞬間に、すべてが変わった。  ある夜、先に寝ていた私は、彼女が寝室に入って くるところを見た。私を起こさないように、そして 私かベッドの上に散らかしていた請求書やメモを落 とさないように気をつけて、そうっと布団に入って きた。  人生の最愛の大が請求書に埋もれて寝る姿に、胸 が締めつけられた。  私は、狭いアパートを見まわした。一文無しの自 分が家賃も入れられなくて、あるのは2人の愛だけ のアパート。役立たずで惨めな自分が、I章はおろ かIページも書けず、夢見た使命も達成できずに 座っているだけのアパート。私は思った。これは、 僕の望む2人の生活じゃない。彼女にこんな生活を させちゃいけない。  その瞬間、私の中で何かが弾けたというか、開け たというか、はまった。それまでの私のパフォーマ ンスは、自分の人生の志向やニーズだけを思ったら それでいいかもしれない。でも、自分のモチベー ションの弱さや、だらしない習慣のせいで、この女 性の人生を台無しにしてなるものかと思ったのだ。 皆に狂っていると思われた私を信じてくれた女性。 私を食べさせてくれた女性。つき合ってまもない頃、 恥ずかしそうに「愛してる」と告白してくれた女性 である。  自分が勇気を出したことを実感するときというの は、何か、断固たる決断をしたときだ。それは、え てして自分のためではなく、誰かに尽くしたい、誰 かを愛したい、誰かのためにがんばろうと思う気持 ちからくる。この女性のために奮闘して、人気著者 兼コーチになり、どんな障害があっても、人の役に 立つことに集中し、とにかく成功するまでがんばる か、それとも……それともどうするのか? いや、 他に選択肢はなかった。  あの瞬間から、私は、夢を追いかけることにもっ としっかり集中しようと決めた。もう、いろいろな ことに気を取られて日々を無駄にしない。もっと大 きなことを考え、ちまちましたビジネスで自分の了 見を狭くするのはやめよう。もっと大きな変化をも たらせるよう、自分の専門分野で奮闘して、自分の 声を轟かせよう。批判者のことなど気にとめず、人 生にポジティブな姿勢と前進を求めている人だけに、 誠心誠意を尽くそう。そして、あの女性と結婚しよ う。そう決心した。以来、望みどおりの人生を2人 で歩めるようがんばろうという思いが、私のモチ ベーションと最大限の貢献度を保っている。  私のストーリーは、たいして珍しい話ではない。 本章を書きながら、(イパフオーマーの中でも最高 レベルの人たち(HP6それぞれの平均スコアが最高 の人たち)へのインタビューを思い返してみたが、 やはり、彼らに共通する姿勢は、私の話と似通って いた。  (イパフォーマーは、自分のためより、世のため 人のために何かをすることが多い。人に尽くすこと の中に、勇気を出す理由や、集中し卓越性を発揮す る目的を見いだしているのだ。  インタビューした最高のハイパフオーマーたちは 皆、自分を卓越へと駆り立てている誰かの話をして いた。皆それぞれに、卓越する理由があり、その理 由は、多くの場合、特定の目的や集団のためではな く、特定の大だった。それは、子どもたちや従業員、 親戚一同、地域社会のニーズなど、複数の場合も あったが、たったI人の大を挙げるケースが大多数 を占めていた。  私かこの話をするのは、今の私たちの文化では、 人生の目的を見つけようと推奨されることが多いか らだ。たいてい「世界を変える」とか「何百万人に 恩恵をもたらす」ような、偉大で崇高な大義を見つ けるのがよいとされている。多くの人がそれを探し 求め、中には、人生の高い目的を見つけられる人も いる。そんな目的が持てたらすばらしい。  私たちの、勇気に関する画期的研究で示されたの は、自分以外の崇高な目的のために行動する人びと の中でも、(イパフォーマーの場合は、その崇高な 目的が、たった1人あるいは数人の人間であること が多いということだ。  だから、今すぐ自分の目的を見つけろと言われて いる若い人は、そんなに遠くを見る必要はない。身 近な誰かがあなたを頼りにしているかもしれない。 そうして人を助ける中で、新たに発見できる自分自 身の力もあるだろう。そして目的探しは必要ない中 高年は、自分が次に登る山を探しながらも、まわり の人たちを忘れないようにしよう。  私の調査で、火を見るよりも明らかだったのは、 (イパフオーマーの勇気は、どのような理由で引き 出されたにせよ崇高で、その動機は称賛に値するも のだったことだ。そこには、人間の善意があった。 それは、以下のようなインタビューの答えを見れば 明らかだ。  「彼女が私を必要としていました。そのときは、彼 女を助ける以外の選択肢は考えられませんでした」  「彼らに苦しんでほしくなかったのです」  「誰も気にかけていない様子でした。そんなところ に私か行き合わせたのです」  「彼のためにやりたかったんです。彼もそれを望ん だはずです」  「皆が見て見ぬふりをしているようだったので、私 か立ち上がったんです」  「私はレガシーを残したい。だから自分のメンタル ブロックを外して、やってみることにしました」  「これは、物事を、最初より良い状態にして去るた めの行動です」  「愛が勝つはず。だから私は戻っていったんです」  時として、とっさの勇気が出るような状況もある。 だが、たいていの場合は、何か、あるいは誰かのこ とを、長年にわたって深く気にかけてきた末の表現、 あるいは行動であることを、私は発見した。だから まず、あなたが大切に思う物事や人を見つけること から始めよう。そして与える。今日から、何かを深 く気にかける。今日から何かのために立ち上がる。 そうすることで、いざというときに勇気がわく。 ACTION roのまとめ  「がんばるモチベーションとなる相手を見つける」 マイノート ー今週私か、愛する人が私の力を必要としている  ためにとる、勇気ある行動は…… 2今週私か、信じる大義のためにとる勇気ある行  動は…… 3今週私か、自分の夢をかなえるためとらなけれ  ばならない、勇気ある行動は……  複雑な世の中で勇気を出す  宇宙の複雑さが減らないのと同じように、人生は なかなか楽にならない。でもあなたは強くなってい く。より多く貢献し、よりうまく対処し、批判や苦 難にさらされてもより自分に忠実で意識的であるこ とを学んでいく。するとやがて、障害が小さく見え 始め、道が自分のものになっていく。だから、何か あっても、自分を信じ、前のめりで行こう。あなた が次の勇気ある一歩を踏み出せば、一段階上のレベ ルが開かれる。  そうしたステップをどんどん踏んでいけば、自尊 心を持って過去を振り返れる。では、本章の冒頭で 共有した話に今一度戻ろう。  人生の最後に誇れるような勇気ある行動とは、先 の読めない状況や現実的なリスクがあったり、大き な利害がかかっていたりする状況でも、安全や報酬、 成功の保証なしに、大義や自分以外の人のために何 かをすることだ。  これは、私も身に染みて感じている。なぜなら、 過去に2度、人生の終わりに直面したことがあるか らだ。ホスピスで死にゆく人だちと向き合い、彼ら がどんな話をするのか、どのように人生を回顧し、 何をしておけばよかったと思い、何を大切に思い、 彼らの自尊心や誇りやレガシーがどこから来たか、 知っているからだ。  そしてこのようなことを学んだ。ほとんどの人に とって、勇気ある行動をとることは、まれな出来事 ではあるが、それらは記憶に残り、小さな出来事と 同じくらい、自己認識や人生観の形成に影響する。 だから、より大きな勇気を発揮できるよう、常日頃 から次のような問題を考えるようにしてほしい。今 から心の準備をしてこそ、必要なときに、本当のや さしさと勇気をもって奉仕することができるのだ。 ●プライベート生活で、やれば家族の生活を永続  的に向上させられるのに、たいへんそうだから避  けてきたことは何か? ●職場でできることの中で、大きなリスクを伴う  が、やれば状況が一変し、大びとの役に立つこと  は何か? ●自分より気高いものへの道義的責任を示すよう  な決断を私か下せるとしたらそれは何か? ●いつもなら緊張や不安を感じてしまうような状  況に立ち向かうにはどうすればいいか? ●怖いけれども、その変化を起こせば愛する人の  助けになることは何か? ●良いことだが、自分の人生をレベルアップさせ  るために捨てる選択肢もあることは何か? ●身近な大たちに言いたくても言っていなかった  ことは何か? そしていつ、どのように勇気を  もってその真実を宣言しようか? ●私を必要としているのは誰か? 今年いっぱい  は、この人のために奮闘しようと思う相手は?  以上は、勇気ある考えや行動を駆り立ててくれる 質問だ。これらを常日頃から自分に問いかけ、本章 の習慣を実践すれば、このような真実にたどり着く だろう。喧騒から離れた心の奥底では、愛が心を包 み込み、夢が待ち受ける。そこでは恐れを感じない。