戦略的健康法_田中航太郎 はじめに 「ちょっと具合が悪いから、病院 に行こうO」  「医師は病気を治してくれる人O できれば関わりたくないO」 そのように考えている人も多いの ではないでしょうかO でも、病気になってから慌てて医 師を探して治してもらうより、そ もそも病気にならなくて済むなら、 早期に発見して辛い思いをしなく て済むなら……もっといいと思い ませんか? 多くの人々は、異常を自覚してか ら初めて医師のもとを訪れますが、 ビジネスの世界では問題が発生す る前に専門家と相談しながら予防 策を講じるのが常識ですO 企業が顧問弁護士を雇うのも、専 門家をつけてサイバーセキュリ ティ対策を行うのも、将来起こり 得る問題を未然に防ぐためですO この考え方を健康管理にも応用す る時代が訪れていますO はじめまして、株式会社ウェルネ ス代表取締役・医師の中田航太郎 と申しますO 私は医療現場で多くの患者さんと 接する中で、予防医療の重要性 を痛感してきましたO 特に、経営者のような多忙で社会 的責務の大きい方々にとって、健 康管理は経営戦略と同じくらい重 要ですO というのも、経営者の方 が倒れたら、会社の経営も傾いて しまう危険性が非常に高いからで すO 実際、経営者が重病になって突然 現場を離脱してしまい、業績悪化 や倒産に至ってしまう事例も多数 目の当たりにしてきましたO 経営者の離脱・急死が会社や家庭、 社会に与える影響は想像以上に大 きいので、課題が顕在化してから 事後対応をするのではなく、起こ り得る問題を未然に防ぐための 「戦略的健康法」が求められるの ですO 健康も、計画的かつ長期的に取り 組むべき課題です。 私か早々に王道の医師キャリアを 捨てて病院を離れ、予防医療を社 会に広めるためにウェルネス社を 創業した理由について、少しお話 ししましょうO 私は4歳の頃に小児ぜんそくで入 院した経験がきっかけで、医師を 志すようになりましたO 医学部に合格した後、「人に安心 感を与え、良い人生の支えになれ る医師になりたい」という思いで 医療の道を進みましたO 医療現場で働く中である囗余命を 宣告された経営者の患者さんの、 こんな言葉を耳にすることになり ましたO  「もし病気になる前に、先生のよ うに親身になって考えてくれる医 師に出会えていたら、僕の人生は 変わっていたかもしれない」 彼は年商数百億円を誇る企業を経 営する素晴らしい経営者でしたO ですが、ある囗突然、呼吸困難に 陥って救急搬送されたのですO そして、いきなり「肺がんステー ジ4」と診断されましたO これまで、簡易的な健康診断は受 けていましたが、勧められていた 精密な人間ドックは受けるタイミ ングを数年逃し、体の小さな異変 を覚えながらも忙しさを優先して 受診を後回しにしていましたO その結果がこれでしたO 彼の突然の病気の発覚は会社にも 大きな影響を及ぼしましたO彼が 倒れたことにより、彼の事業は停 滞し、多くの経済的損失が発生し てしまったのですO 私は、人々の良い人生の支えにな ることを目標に医師を志したにも かかわらず、病院を訪れたときに はすでに打つ手がないような患者 さんとたくさん出会う中で、医師 としての無力感を日々感じていま したO そこで、彼の言葉を聞いた私は、 「そうか!病気になる前に出会う 医者がいてもいいのか」と、ハツ と気づきましたO その一言が、「パーソナルドク ター」というサービスの発想の原 点となったのですO 経営においては必ず戦略を立てて、 時に専門家の力を惜りながら、計 画的に長期的に取り組んでいくO なのに、自己流や囗コミに頼って しまったり、その場しのぎの対症 療法になってしまったりするO 身体はなによりも資本なのに、そ れはおかしな話ですよねO 予防医療・健康管理も、経営と同 様に戦略的に取り組む必要があり ますO病気が進行してから治療す るよりも、「病気にならないこと」 や「早期に発見すること」に フォーカスする方が重要O それによって健康で幸せな時間を より長く過ごすことができますO そのためには、医師という専門家 をもっと効率的に活用することが 効果的だと考えたのですO 私は戦略的に健康を管理するため の仕組み・知見を体系化すること にしましたO そして、これまでに500名以上の 経営者や芸能人の方々に予防医療 の知見と実践法を提供してきまし たO 本書では、これらの経験と実績を 基に、病気を未然に防ぎ、健康で 幸せに過ごすための具体的な方法 や考え方をご紹介しますO また、海外の医療サービスからも 多くのことを学べますO欧米では 「データに基づく戦略的予防」や 「ホームドクターによるプライマ リケア」が効果的とされ、注目さ れていますO事前に自分の健康リ スクを把握し、適切な管理を行う ことで病気の発症を防ぎ、気にな ることがあればすぐに医師に相談 できる環境を持つことで早期発見 につなげるのですO さらに、健康寿命と平均寿命の ギャップを埋める方法や、病気が 見つかる前からパーソナルドク ターを持つことの重要性について も詳しく解説しますO 私たちが目指すのは、「病気のな い状態」ではなく、「心身ともに 健康で豊かな生活」を送ることO つまり、ただ長生きするだけでな く、「いい人生を送れること」が 一番だと考えていますO 大きな病気を早期に発見し治療す るだけでなく、健康データを蓄積 して病気になるリスクを事前に知 り、対策することが大切ですo 健康管理は、今や経営者の重要な 仕事の一つですo財務(Finance)、 マネジメント(Management)、 そしてヘルスケア(Healthcare) 0 これら三つこそが経営者のフォー カスすべき重要な仕事であると米 国のスタートアップ経営者たちは 語りますo 健康は日々の仕事のパフォーマン ス・企業の持続的な成長、そして 何より幸福な人生につながりますo この本を読んで戦略的健康法を学 び、ぜひ後悔のない人生を送るた めの知恵を手に入れてください! 第1章健康も投 資、戦略の時代 1.1時代の流れは「戦 う」から「守る」へ これまで、私たち医師は「病気と 闘う」ことに重きを置いてきまし たO患者さんが体調を崩して病院 に来たとき、その原因を見つけて 治療するOこれがこれまでの医療 の基本的な考え方でしたOそして、 この「闘う医療」によって、多く の命が救われてきたことは事実で すO しかし、今の時代、医療の考え方 が変わりつつありますOこれから は、「病気と戦う」よりも「健康 を守る」ことがより重要になっ てきているのですOその理由をお 話ししましょうO まず、病気の種類が近年大きく変 わってきたことが挙げられますO 昔は、感染症が人間にとって一番 の脅威でしたO しかし今は、生活 習慣病やがんなどが大きな問題と なっていますOこれらの病気は、 一度進行してしまうと完治するの が難しく、長い間付き合っていく 必要がありますO だからこそ、「病気を治す」だけ ではなく、「病気にならないよう にする・早期に発見する」、つま り予防することが大事なのですO また、医療技術・テクノロジーが 進歩したことで、検査や日々の健 康データ管理によって、病気を早 く見つけたり、発症前に防いだり することが現実的に可能になって きましたOこれらの背景から、症 状が現れる前に予防的に健康管理 を行うことが、従来にも増して重 要なテーマになっていますO 予防的な健康管理が進むことで、 病気になるリスク・重症化して手 遅れになるリスクを減らし、長期 的に健康を維持することが可能に なるのですO そして、健康に対する人々の意識 も変わっていますO単に「病気 じゃなければいい」という考え方 から、もっと前向きに「健康で 充実した生活を送りたい」とい うニーズが高まっているのですO これが、「守る医療」、つまり予防 を重視する考え方を支えていますO しかし残念ながら、日本ではまだ この「守る医療」が十分に広まっ ていませんO私はアメリカの医療 市場を見てきましたが、そこでは 予防を重視する動きが進んでいま すO 例えば、「プライマリケア医」と 呼ばれる、総合的に健康を見てく れる医師による定期的な接点を持 つことが一般的ですO また、国の 予算も、病気の治療に対してだけ でなく、病気の予防に対しても分 配される方向にシフトしていますO 一方、日本では「病気になったら 病院に行く」という考え方が依然 根強いですO医療システムとして も、予防医療の体制がまだ整って いないのが現状ですO 多くの医師が予防の大切さを感じ ているものの、治療を中心とした 従来の診療に追われている中、患 者さんの健康を守るために十分な 時間やリソースを確保することが 難しいのですO この結果、予防や健康管理の分野 での進展自体が遅れており、最新 の医療技術やデジタルツールの活 用が進んでいない状況ですO例え ば、自らの健康情報を統合的に管 理するためのPHR (パーソナル ヘルスケアレコード)の普及や、 個々の体質や生活習慣に合わせた 個別化予防医療(パーソナライズ ド予防医療)の実践がまだ十分 に行われていませんO しかし、今こそこの状況を変える ときが来ていますO私たちは、病 気を「治す」だけでなく、健康を 「守る」ための新しいアプローチ を取り入れていく必要がありますO 例えば、個々の生活習慣や体質に 合った予防戦略を立て、定期的に 健康チェックを行い、健康的なラ イフスタイルを支援するための取 り組みを進めていく必要があるで しょうO この変化には、医療提供者だけで なく、患者さん側の意識改革も必 要ですO「病気になったら病院に 行く」というのではなく、「健 康を維持するために定期的に医療 の専門家に相談する」という新 しい文化を創る必要がありますO  「戦う」から「守る」へのシフト は、単なる一時的な流行ではあり ませんOこれは現代の疾病に適合 した効果的な医療システムに進化 するための重要なステップであり、 人々がより長く、より健康的な人 生を送るための鍵となる変化なの です0 1.2健康にも「投資」 の波 近年、「健康への投資」という 考え方が急速に広かっていますO 特に若い世代、いわゆるY世代 (ミレニアル世代)やZ世代は、 この健康投資の波に自然に乗って いますO彼らにとって健康である ことは、人生の質を高めるための 大切な資産と考えられているので すO 日々パーソナルドクターとして多 くの経営者の方々と接する中で感 じるのは、20代、30代、そして 40代の方々の健康への関心が非 常に高まっているということです0 50代、60代の方々と比べても、 若い世代の方がむしろ積極的に検 査を受けたり、健康情報を調べた り、フィットネスや健康食品にお 金をかけたりしていますO この背景には、価値観の大きな変 化があるように思いますO昔は、 高級車や高級時計、豪華な住宅な どを所有することが豊かさの象徴 でしたO「高価なものを持ってい ることが成功の証(あかし)」と いう考え方が一般的だったのですO しかし、今の若い世代の考え方は 大きく変わってきていますO 彼らにとっての「豊かさ」とは、 どれだけ素晴らしい体験をしたか、 どれだけ素晴らしい人だちと時間 を過ごしたか、またどれだけ自己 成長ができたか、というように、 目に見えないものにシフトしてい ますO体験や人間関係、自己実現 が重要視されているのですO 例えば、高級車を所有するよりも、 いろいろな国を旅して異文化を体 験することに価値を感じお金を使 う人が増えていますO また、高価 な時計を買うよりも、自分を成長 させる学びやスキルアップに投資 する人が多いですOこうした体験 を楽しみ、人生を豊かにするため には、健康であることが欠かせま せんO どんなに素晴らしい車を持ってい ても、病気で寝込んでしまっては、 その価値を感じることはできませ んO健康でなければ、自由に旅す ることも、新しいスキルを学ぶこ とも難しいですよねO このように、若い世代が体験を大 切にし、それを実現するための手 段として健康を重視するように なっているのですOそれに伴って、 お金の使い方も健康維持にシフト していますO健康な体でさまざま な体験をすることが、彼らにとっ ての新しい豊かさの象徴になって いるのですO さらに、健康への投資は将来への 備えでもありますO健康でいるこ とで、長い目で見たときに大き な経済的メリットがありますO たとえば、医療費の節約や仕事の パフォーマンス向上、長く働ける ことで収入が増えるなど、健康で いることが経済的にもプラスにな るのですO 最近では、デジタル技術の進歩も 健康投資を後押ししていますOス マートウォッチやフィットネスア プリなど、誰でも簡単に自分の健 康状態をモニターし、データを活 用することができるようになりま したOこれにより、健康管理が もっと身近で簡単になり、毎日の 生活の中で健康への意識を高める ことができるようになっていますO また、新型コロナウイルスのパン デミツクも、健康の重要性を再 確認するきっかけとなりましたO 多くの人が健康を失うリスクを実 感し、その大切さを改めて認識す ることとなったのですO これらの理由から、今後ますます 「健康への投資」の流れは強まっ ていくでしょうOそれに伴い、戦 略的予防医療の重要性も高まって いくと考えられますO健康であり 続けることが、豊かな人生を送る ための重要な要素になっているの ですO 私たち医療従事者も、この流れに 対応していく必要がありますOこ れまでの「病気を治す」という役 割に加えて、「健康を維持し。 さらに増進する」という新しい 役割が求められているのですOこ れからの医療は、個々の健康投資 をしっかりサポートし、皆さんが より良い人生を送るためのパート ナーであることが大切だと考えて います0 1.3時間がない人ほど、 健康を失ったときのコ ストが大きい 経営者にとって、健康を失うこと の代償は非常に大きいですOもし 突然倒れてしまったら、その影響 は社員、家族、そして会社の売り 上げにまで及びますO言い換えれ ば、経営者の健康を失うことは、 会社にとって最大のリスク、つま り「ブラックスワン」なのです0 50代の経営者Aさんは20社ほど の会社の経営や顧問を務める、非 常にエネルギッシュな経営者でし たOAさんは毎日忙しく、定期的 な健康チェックを後回しにしてい ましたO「自分は元気だから大丈 夫」と思い込んでいたのですO し かし、その油断が命取りになりま したO ある囗、Aさんは突然激しい腹痛 に見舞われ、緊急入院しましたO 詳しく検査をしてみると、ス テージ4の膵臓がんであること が分かりましたO残念ながら、発 見が遅かったため、手術は難しく、 抗がん剤治療しか選択肢がありま せんでしたOAさんはその後、約 2年間入院し続けることになりま したO この間、彼が関わる会社すべてで 意思決定が滞り、深刻な影響が出 始めましたOまず、進行中だった 大規模なM&Aプロジェクトが、 Aさんの判断が得られないことで 頓挫してしまったのですOプロ ジェクトは方向性を失い、最終的 には破談にOこれにより、関連す る3社が大きな損失を被りましたO さらに、Aさんが新たに立ち上げ た会社2社も、彼のリーダーシッ プがないために資金繰りが悪化し、 閉鎖に追い込まれましたOこれに より、100名以上の従業員が職を 失ってしまったのですO Aさんの家族もまた、突然の事態 に混乱しましたO相続の準備を全 く始めていなかったため、急いで 弁護士や税理士を交えた手続きを 進めなければならなくなりましたO 複雑な資産構成や、多くの関連会 社があることで相続対策は難航し ましたO 最終的には、Aさんのメイン事業 で最も成功していた会社も、彼の 不在により業績が悪化O最終的に はライバル企業に買収されてし まったのですOAさんやその家族、 そして彼を支えてきた多くの従業 員が、長い年月をかけて大事に築 き上げてきた事業が、病気によっ て他人の手に渡ってしまったので すO もしAさんが定期的に健康 チェックを受け、早期に問題を発 見できていれば、状況は大きく 違っていたでしょうOAさんの場 合、家族にも膵臓がんの方が複数 いたため、膵臓がんの早期発見に 役立つ検査を定期的に受けるべき でしたO膵臓がんには遺伝の側面 もあるからですOもしステージ1 や2の段階で見つかっていれば、 手術が可能で治療の成功率も高 かったはずですO手術をすること になったとしても、その間の会社 の運営について十分に準備する時 間もあったでしょうO さらに、健康への投資をしていれ ば、そもそもがんの発症を防ぐこ ともできたかもしれませんO例え ば、定期的な検査に加え、自分の リスクに合わせた生活習慣の改善 やストレス管理を行うことで、が んの発症リスクを下げることも可 能だからですO Aさんの例は、決してまれなケー スではありませんO私かこれまで 関わってきた多くの経営者の中に も、似たような経験をされた方が いますOBさんは上場を控えた会 社の社長でしたO多忙を理由に健 康診断を後回しにしていたところ、 心筋梗塞で急逝Oその結果、上場 計画が中止になってしまったので すOその結果、Bさんが経営して いた会社の成長は止まり、本来な ら社会に大きなインパクトを与え るはずだった機会も失われてしま いましたO このように、経営者の健康問題 は個人だけの問題ではありませ んOそれは会社の業績や従業員、 取引先、さらには社会全体にまで 影響を及ぼす重大な問題ですO だからこそ、私は強調したいので すO 健康への投資は、単なるコ ストではありませんO自分自身 はもちろんのこと、家族、会社、 そして社会の未来への大切な投資 なのですO特に多忙で責任の大き い経営者こそ、健康への投資が不 可欠ですOなぜなら、彼らの時間 の価値は非常に高く、健康を失う ことによる損失は非常に大きいか らですO 定期的に自分の健康と向き合い、 リスクに応じた健康診断を受けた り、生活習慣を見直したりするこ と(予防医療)は、決して時間 の無駄ではありませんOそれどこ ろか、長期的に見れば最も効率的 で、高いリターンを生む投資ですO ぜひ健康を経営戦略のひとつと考 え、積極的に投資してくださいO それが、あなたと、あなたが関わ るすべての人々の幸せにつながる のですO 1。4健康と経営は密接 に関係する。戦略なく して成功なし! 健康管理と経営には、多くの共通 点がありますOそれは、どちらも 長期的な視点が求められ、計画を 立てて継続的に取り組む必要があ るという点ですO しかし、経営 ではしっかりと戦略を立てるのに、 健康管理になるとついつい場当た り的な対応をしてしまう人はとて も多いですOこれでは健康を損な い、結果として経営にも悪影響を 及ぼすことになりかねませんO 健康管理も経営と同じように戦略 を立てましょうOここで言う戦 略とは、「長期的な目標を設定し、 その達成に向けて計画的に行動す ること」を意味しますOそれはつ まり、目標を達成する上で「自分 には何か必要か?」「何か不足し ているか?」をしっかり把握した 上で、それに向けて計画的に行動 することが必要だということですO しかし、多くの方が「このサプリ メントが効く」「この治療が良い」 といった万人に向けた「うわさ 話」に飛びついてしまいがちですO この傾向は特に忙しい経営者の 方々に多く見られますO時間がな いため、すぐに効果が出るように 錯覚するような分かりやすい解決 策を求めてしまうのですO たとえば、40代の経営者Cさん は、疲れを取るためにさまざまな サプリメントを試したり、高価な 点滴療法を受けたりしていましたO ですが、疲れがなくなることはあ りませんでしたOCさんの場合、 重症の睡眠時無呼吸症候群を抱 えており、睡眠の質が極端に低下 していたことが疲労の原因でしたO 課題の原因を分析することなく、 友人に勧められるがままに分かり やすい解決策に飛びついてしまい、 本質的な問題に取り組めていな かったのですO 世の中にはさまざまな健康法がは びこっていますが、その方法が本 当に自分に合っているかは簡単に は分かりませんO というのも、 人によって体質も違えば、生活環 境、健康上の問題が異なるから ですO誰かにとってよいとされる サプリメントや治療法が、自分に は合わない、あるいは逆効果であ ることも往々にしてあるのですO 後ほど詳しくご紹介しますが、た とえば、ビタミンAやベーダカ ロテンのサプリメントは一般的に 健康に良いと言われていますOで すが、喫煙者が大量に摂取する と、逆にがんのリスクが高まる という研究結果もありますOまた、 高負荷の筋力トレーニングはある 人にとっては健康を増進しますが、 別のある人にとっては体に負担が かかりすぎ、健康を害することも ありますO このように、健康管理においても 「全ての人に同じ方法が効果的で ある」ということはまずありませ んO個々の体質や状況に合わせた パーソナライズド戦略が必要な のですO では、健康管理における「戦略」 とは具体的に何を指すのでしょう かO簡単に言えば、自分の理想と する健康状態を定義し、それに向 けて計画的に取り組むことです。 ここでは、50代の経営者Dさん を例に挙げながら考えてみます。   理想とする健康状態を明確に   する:まず、自分が目指す   健康状態を具体的に考えます。   Dさんの場合は、「70歳に   なっても週に3回テニスを楽   しみたい」「100歳まで自立   した生活を送りたい」といっ   た具体的な目標を設定します。   現在の健康状態を正確に把握   する:次に、現在の自分の   健康状態を正確に把握します。 定期的な健康診断や遺伝子検 査、生活習慣の可視化などが これにあたります。Dさんは、 精密な健康診断によって、動 脈硬化が進行していることが 分かりました。また、デスク ワークが中心で1日に3000 歩しか歩けていないことが分 かりました。 ギャップを分析する:理想 と現状のギャップを分析し、 何が不足しているのか、どこ にリスクがあるのかを明確に します。Dさんは、心血管疾 患や脳卒中のリスクが高まり つつあり、今の生活を継続し ていると理想状態を達成でき ない可能性があることを認識 しました。 適切なソリューションを選 ぶ:ギャップを埋めるため に、最適な方法を選びます。 食事の改善、適切な運動プロ グラム、適切な頻度でのパー ソナライズされた検査、ワク チンなど、その人の課題に応 じた方法を見つけることが大 切です。Dさんは、運動不足 が課題の原因の1つと分かっ たため、通勤時の早歩きを習 慣化し、休正していたジムを 再開することを決めました。 実行する・モニタリングす る:選んだ方法を実行し、 その効果を検査やウェアラブ ルデバイスなどを通じてデー タ化してモニタリングします。 検査結果や体調の変化を見な がら、戦略を必要に応じて修 正していきます。Dさんは、 Apple Watch を活用して歩数 を可視化し、カレンダーに固 定でジムの予定を入れてしま うことで習慣化を実現しまし た。 継続する・見直す:健康管 理は一度の取り組みで終わる ものではありません。継続的 に自分の健康状態をチェック し、必要に応じて戦略を見直 していくことが重要です。D さんの場合、半年後の検査で 脂質バランスが改善していま したが、理想を達成する上で はまだ十分な水準でないこと が判明しました。運動の習慣 化は継続しつつ、魚・ナッ ツ・オリーブオイルといった 良質な脂質の割合を増やすこ とも決めました。 このように、健康管理を戦略的 かつ継続的に行うことで、事後 対応に翻弄されることなく根本的 な予防・健康増進が可能になりま すOこれにより、将来の疾病リス クを減らすことはもちろん、仕事 のパフォーマンスも向上し、より 良い意思決定ができるようになり ますO健康な体と心は、創造性を 高め、ストレスに対する抵抗力を も強化しますO 繰り返しになりますが、健康管 理にかける時間やお金は単なる 「コスト」ではありませんO「投 資」として考えてみてくださいO そして、ビジネスと同じように戦 略的にアプローチすることで、よ り豊かで成功した人生を手に入れ ることができるのですO 健康と経営は切っても切れない関 係ですO 戦略なくして健康なしO 健康なくして持続的成功なしO この考え方をぜひ心に留めておい てくださいO 1。5身体を可視化でき る今だからこそ、戦略 的予防が可能に 現代の医療技術は大きく進歩し、 私たちの体を「見える化」するこ とができるようになりましたO こ れは、健康管理の面でまさに革命 的な変化ですO以前は、症状が出 てから病院に行き、その時点での 状態を診断して治療するのが一般 的でしたO しかし今では、さま ざまなデータを継続的に収集して 分析することで、現在の体の状 態を正確に把握しながら、あわせ て将来のリスクを予測することが できるようになったのですO 例えば、血液検査O昔は病気の 有無を確認するために病気の診断 基準となる数項目をチェックする だけでしたが、今では数十項目に わたる詳細な検査によって、白黒 判定に留まらず将来のリスクを分 析することも可能ですOさらに、 遺伝子検査の技術も進化し、個 人の遺伝的な特徴やリスク因子を 特定することができるようになり ましたOこれにより、将来的にか かるかもしれない家族性の病気を 予測し、事前に対策を取ることが できるかもしれませんO また、スマートウォッチなどの ウェアラブルデバイスや食事管理 アプリの普及により、心拍数や 睡眠の質、運動量、さらには食事 に含まれる栄養素まで、日常生活 のデータを簡単に収集・蓄積し、 リアルタイムでモニタリングでき るようにもなりましたOこれらの データを総合的に分析することで、 個々の健康リスクを高い精度で評 価し、それぞれに最適な対策を提 案することが可能になっていますO 例えば、遺伝的に心臓病のリスク が高い人には、より頻繁な心臓検 査と適切な運動プログラムが推奨 されるかもしれませんOまた、糖 尿病のリスクがある人には、血 糖値の変動を詳しくモニタリング し、食事内容や食べ方を調整する ことが勧められるでしょうOこの ように、体のデータを活用するこ とで、自分に合った健康管理がで きるようになりましたO これまでのように「このサプリメ ントが良い」といった蓋然性(が いぜんせい)の低い情報に頼るの ではなく、自分の健康状態を正 確に把握し、自分にとって本当に 必要なものを科学的に考えること ができるのですO さらに、このデータを長期的に追 跡できるようになったことも大き なポイントですO例えば、コレ ステロール値や血圧の変動を長期 間にわたって観察することで、 将来の心臓病のリスクを予測し、 問題が起きる前に予防策を講じる ことができますO検査の目的も、 「病気を見つける」から「現在の 状態を知り、将来のリスクを予測 する」へと変わってきているので すO こうした技術の進歩によって、私 たちの健康管理の方法は大きく変 わりましたO従来のような「病 気になってから治す」ではなく、 「病気になる前に予防する」にO また、「一般的な健康法」ではな く「カスタマイズされた健康法」 を立てることが重要になってきて いますOこの新しい考え方を取り 入れて戦略的に健康管理を行うこ とが、長期的な成功、つまり健康 で豊かな人生につながるのですO これは特に重要な変化ですOなぜ なら、特に経営者の方々にとって、 健康は個人の問題であると同時に、 会社の持続可能性にも直結してい るからですO自分の体のデータ を継続的にモニタリングし、それ に基づいた健康管理を行うことは、 会社経営と同じく戦略が必要ですO 短期的な結果に惑わされず、長 期的な視点で「健康」という資産 を育てることが、最大のリター ンをもたらすのですO ですから、まずは自分の体の データをよく知り、現在の状態と 将来のリスクを考えることから 始めてみてくださいO定期的な健 康診断や人間ドックはもちろん、 可能であれば遺伝子検査やパーソ ナライズされた精密検査も受けて みましょうOそして、それらの データを基に、専門家と相談しな がら、自分だけの健康戦略を立て ていくのですOそれが、現代の技 術を活用した新しい健康管理の方 法であり、長期的な成功のため の鍵となります0 1.6経営者の3つの仕 事 最近、アメリカの経営者の間で 「経営者の仕事は3つある」と言 われていますoその3つとは:   Finance (経営)   Management (マネジメン   ト)   Health Care (ヘルスケア) ですo まず、Finance (経営)はもちろ ん欠かせない仕事ですo資金調達 や収支の管理、投資の判断など、 会社のお金をしっかり管理するこ とは、経営者の最も基本的な役割 の一つですoこれがうまくできな ければ、会社が存続できないこと は言うまでもありませんo 次に、Management (マネジメン ト)o優秀な人材を採用して、 適切に配置し、チームとしてのモ チベーションを高め、組織全体を 効果的に動かすo 人材は会社の 最も重要な資産であり、その管 理は経営者の大切な仕事ですo そして、三つ目のHealth Care (ヘルスケア)、つまり健 康管理ですo一見すると、これは 個人的な問題のように思えるかも しれませんo しかし、経営者の健 康管理が経営資源として非常に重 要な役割を果たしているのですo 囗本において、経営資源といえば、 「ヒト・モノ・カネ」と一般的に 言われていますOこの価値観は高 度経済成長期から変わっていませ んO しかし、世の中が豊かになり モノがあふれた現代においては、 経営資源として「ヘルスケア」が 重要なのですO なぜ健康管理が経営者の重要な仕 事の一つとされるのでしょうかO それは、経営者の健康が会社の 成功と持続可能性に直結している からですO 先にお話ししたように、例えば、 経営者が病気で倒れてしまえば、 会社の重要な意思決定が滞り、全 体の動きも鈍くなりますOこれは、 目まぐるしく世の中が変化する VUCAの時代において致命的で あり、最悪の場合、会社の存続が 危うくなりますOまた、健康でな ければ、長時間の会議や海外出張 など、経営者ならではのハードな スケジュールをこなすことも難し くなりますO さらに、経営者の心身の健康状 態は従業員にも影響しますO元 気で活力に満ちて明るい経営者が いると、従業員も前向きに仕事に 取り組みやすくなりますO逆に、 病気がちで不調を訴え、メンタル が安定せず暗い経営者のもとでは、 従業員の不安が高まり、生産性が 下がるリスクもありますO 最近では、日本でも健康管理の重 要性を認識する経営者が増えつつ ありますO定期的な検査によるリ スクの適切な把握はもちろん、 日々の運動や食事管理、十分な睡 眠の確保など、健康を維持するた めの取り組みを意識的かつ効率的 に行うことは、自分自身のためだ けでなく、会社全体の持続的な 成功のために必要な投資なので すO  「健康経営」という言葉があり ますが、これは従業員の健康管理 だけでなく、経営者白身の健康 管理も含んでいますo経営者が 率先して健康管理に取り組むこと で、従業員全体の健康意識も高ま り、結果的に会社全体のパフォー マンスが向上しますo Finance、Management、Health Careの3つにフォーカスするこ とが、現代の経営者に求められる 重要なスキルですo特にHealth Care、つまり健康管理は、これ まであまり重視されてこなかった かもしれませんOですが、その重 要性は今後ますます高まっていく でしょう0 1.7健康管理ができる 人は、将来を見据えて 行動できる人 健康管理ができる人は、将来を見 据えて行動できる人ですOこれは、 経営においても同じことが言え ますO 緊急ではないけれど重要 な課題にしっかり取り組める経 営者こそが、中長期で成功を収め るのですO 私かこれまで多くの経営者と接し てきて感じたことは、真に成功し ている経営者は常に未来を見据え ているということです0 10年後、 20年後に成長し続けているため には何か重要になるのかを考え、 それに向けて今から行動を起こし ているのですOそれは経営面だ けではありませんO健康管理につ いても同じO常に先を見据えた行 動が重要ですO たとえば、ある成功している40 代経営者は、どんなに忙しくても 毎囗1時間の運動は欠かしませんO 彼は「今は忙しくて、健康に取り 組む時間がもったいないように思 えるかもしれないけれど、10年 後、20年後も第一線で活躍する ためには、今、健康に投資するこ とが必須なのです」と話してい ましたO 一方で、目の前のことだけにとら われてしまう人は、健康の重要性 に気づかないことが多いです。 「今は忙しいから」「まだ若いか ら」と、健康管理を後回しにしが ちです。そして、睡眠不足、不規 則な食生活を繰り返し、のちに生 活習慣病を患うことに。たいてい の方が、取り返しのつかない状態 になって初めて、「もっと若い頃 から健康に気を遣っていた ら……」と言います。けれど、 後悔先に立たずOしかも、健康 は一朝一夕に手に入るものではあ りませんO 日々の積み重ねが大 切なのですO 繰り返しになりますが、健康管 理も経営も本質は同じO重要な アプローチであればあるほど、短 期的な視点では、その効果がすぐ に見えないかもしれませんO しか し、長期的に見れば、必ず大きな リターンをもたらしてくれるで しょうO健康を長期に維持するこ とができれば、時代の変化にも 適応しながら、高いパフォーマン スを発揮して仕事を続けること ができますOまた、健康であるこ とで、的確な判断もできますし、 新しいアイデアや創造性も生まれ やすくなりますO 何より、健康であることによっ て、仕事を通じて得た成果や資産 を大切な体験や家族との時間など、 かけがえのないものに変えて豊か な人生を送ることができますO 私か経営者の方にいつもお伝えし ていることがありますOそれは、 「健康管理は最も重要な経営戦略 の一つであるO単に病気を避け るためではなく、より良い経営判 断を行い、高いパフォーマンスで 仕事を続け、あらゆるステークホ ルダーに安心を与え、持続可能な 成功をもたらすための戦略であ るO」ということですO 健康管理ができる人は、人生全体 を長期的な視点で考えることがで きる人なのですO彼らは、今日 の行動が10年後、20年後の自分 にどう影響するかを常に考えてい ますOそして、そうした視点を 持つ人こそが、ビジネスでも人生 でも真の成功を手に入れることが できるのですO 1。8健康は仕事のパ フォーマンスにいい影 響を与える 先ほども少しお話ししましたが、 健康は仕事のパフォーマンスに大 きく影響しますO「今は健康だか ら(=症状がないから)大丈夫」 と思ってしまいがちですが、実際 には健康状態やメンタルの状態、 睡眠の質などが、気づかないうち にパフォーマンスに影響を与えて いることも多いのですO 人間の脳が一度に処理できる情報 量には限りがありますO健康状態 は、脳の処理能力(ワーキング メモリ)に大きく影響しますO 体調が悪いとそれが思考のノイズ となり、判断力や思考力が低下し、 重要な意思決定を誤るリスクが高 まりますOまた、慢性的な疲労 や睡眠不足は、創造性を低下さ せ、新しいアイデアを生み出す力 を弱めてしまいますO 仕事ができる人・一流の人は、 領域によらず脳の処理スピードが 早い傾向にありますO健康であれ ば、さまざまな情報や経験を効果 的に吸収することができ、複雑な 問題にも柔軟に対応することがで きますO 集中力を長時間持続さ せることも可能ですO さらに、身体の健康は精神的な 面でも大きなメリットがありま すO健康ゆえに維持できる自信に 満ちた態度や前向きな姿勢は、取 引先やチームメンバーとの関係を 良好に保ち、新たなビジネスチャ ンスを広げることにもつながるの ですO たとえ病気の診斷がつくほどでは なくても、健康状態がベストでは ない場合には、仕事のパフォーマ ンスや成果は大きく低下してしま いますOこのように、経営者が 自分の健康に投資することは、会 社の生産性や業績を向上させるこ とにつながりますO健康が日々 の仕事の質・時間効率を高め、持 続的な成長を支える基盤となるの ですO また、健康であることは、新し い知識やスキルを身につける能力 にも影響しますOビジネス環境 が急速に変化する今の時代、継続 的な学習と適応力は成功の鍵ですO 健康な状態であれば、新しい情報 を素早く吸収し、それを実践に生 かす能力が高まりますOこれがイ ノベーションを生み出す力や、市 場の変化に柔軟に対応する能力に つながり、結果として企業の競 争力を強化しますO さらに、健康な経営者はワーク ライフバランスを保ちやすくな リ、それがさらに良いサイクルを 生み出しますO仕事以外の時間に リフレッシュし、充実した体験を 積むことで、新たな発想や視点が 生まれ、それがビジネスにも良い 影響を与えるのですO休囗にひた すらベッドの上で寝ているような 生活では、かえって疲れもたまり ますし、事業へのユーモアも生ま れませんO このように、健康は単に病気では ないということを超えて、経営 者としての能力を最大限に発揮し、 持続的な成功を達成するための重 要な要素ですO 健康への投資は、 将来の収入や事業の成功に直結す る、最も効果的な投資の一つと 言えるでしょう0 1.9医師に「病気を治 してもらう」から「病 気を予防してもらう」 へ これまでの医療システムは、症状 が現れてから病院を訪れ対処する 『事後対応型』のものでしたO し かし、このアプローチでは、病気 が進行してから治療を始めること になるケースも多く、手遅れに なってしまうことも少なくありま せんO 一方で、予防に重点を置いた 「予防型」の医療では、病気の兆 候を早く見つけて、その発症を防 ぐことを目指しますO同じ病気で も、早期に見つければ見つけるほ ど治療の効果は高まりますO 例えば、大腸がんの場合、早期に 発見できれば5年生存率は90% を超えますが、進行がんになると その確率は20%未満に下がりま すO また、大腸がんのリスクにな る生活習慣についてもさまざまな 知見が蓄積されてきていますO毎 年の便潜血検査や定期的な大腸内 視鏡検査を受けることで、早期発 見が可能ですO家族歴や健康デー タから大腸がんのリスクが高いこ とを事前に知っていれば、食物 繊維を多く取る、適度に運動をす る、赤肉の多量摂取を控える、肥 満を防ぐといった、大腸がんの 発症リスクを減らすための取り組 みも積極的にできますO さらに、予防型の医療システムで は、病気の「予兆」にも注目し ますO例えば、高血圧や高血糖、 高コレステロールなどは、それ自 体では症状がないかもしれません が、放置すれば重大な病気に発展 する可能性がありますOこれらの 予兆を早めに見つけて対処するこ とで、心臓病や脳卒中、糖尿病と いった深刻な病気を防ぐことがで きるのですO このような予防医療を実現するた めには、定期的な健康チェック が欠かせませんO しかし、一般 的な人間ドックや健康診断をただ 漫然と受けているだけでは十分で はありませんOこれらの検査は、 主に一般的に頻度の多い病気の診 断に焦点を当てたものであり、 個々の特性やリスク要因を十分に 考慮していないからですO そこで重要になるのが、パーソ ナライズされた予防医療ですO 個人の生活習慣、家族歴、遺伝的 要因などを総合的に分析し、その 人に特有のリスクを評価しますO そして、そのリスクに基づいて、 最適な検査や予防策を提案しますO 例えば、家族に膵臓がんの患者が いる場合、通常の健康診断では行 わない膵臓の詳しい検査 (MRCP等)を追加することが検 討されますOまた、喫煙者であれ ば肺がんや膀胱がん、喉頭がんな どのリスクが高いため、定期的 な胸部CTや下腹部エコー検査、 喉頭のチェックなどが検討され ますO また、パーソナライズされた予防 医療では、日常の生活習慣の改善 も大切ですO医師はその時々の状 態に応じて、適切な食事や運動、 ストレス管理についてのアドバ イスを行いますOこれらは単なる 一般的なアドバイスではなく、そ の人の生活スタイルや健康状態に 合わせた、オーダーメイドの改 善プランですO例えば経営者で 日々の会食を避けられないような ケースでは、その中でどのように ベターな習慣を築くかという観点 でプランを組み立てていきますO このように、医師の役割は「病 気を治す人」から「健康を守る伴 走者」に変わりつつありますO 医師は、皆さんと長い付き合いを しながら、日々の健康管理から病 気の予防、そして万が一病気に なったときの早期発見・早期治療 まで、全面的にサポートする存在 ですO これからは「病気を治してもら う」のではなく、「病気を予防 してもらう」という意識に変え ていきましょうOそのためには、 皆さん自身も健康に対する意識を 高め、医師と協力して予防に取り 組む姿勢が求められますO この「予防型」「伴走型」の医療 モデルこそ、これからの時代に必 要な健康戦略ですO 長寿社会を 健康に生き抜くためには、病気に なってから治療するのではなく、 病気にならないための計画を立て て実行することが重要ですO その上で、私たち医師は、皆さん の豊かな人生に欠かせない信頼で きるパートナーとなりうるでしょ うO 第2章海外の ヘルスケア市場 に学ぶ「最強の 戦略的健康法」 2。1アメリカに学ぶ最 先端の予防医療サービ ス 予防医療に関して言えば、アメ リカが大きくリードしているこ とは間違いありませんOアメリカ では予防医療に特化したスタート アップが次々と登場し、革新的な サービスがどんどん生まれていま す。 アメリカの予防医療サービスから 学べることは多くありますが、特 に注目すべきなのはテクノロジー の活用により実現する、「データ に基づく概略的予防」のアプ ローチです。これは、単なる健康 診断や症状が出てからの治療とは 全く異なる、革新的な健康管理方 法ですO これまで、囗本の予防医療では、 多くの人に共通する病気を対象に して、一律の検査を行う「全体最 適」のアプローチ(マスアプロー チ)が主流でしたOこれは隕られ た公的予算の中で最大多数の最大 幸福を実現するための合理的な方 法ですO しかし、この方法では 個々の健康状態やリスクに十分対 応できないこともありますO 一方、アメリカのスタートアップ で話題の「データに基づく戦略的 予防」では、一人一人の体の状態 や遺伝的要因、生活習慣などを考 慮したパーソナライズドなアプ ローチを取りますOこれにより、 個人の健康を最大限に守ることが できますO このアプローチの最大のメリット は、病気の兆候を早期に発見し、 時には病気が発症する前に対策を 講じることができる点ですOど んなに優れた医師でも、病気が進 行してからでは治療の成果には限 界がありますO しかし、戦略的予 防によって早期に病気を見つけ治 療したり、ハイリスク疾患に対す る予防策を事前に講じたりするこ とで、より高い生存率を得ること ができますO 例えば、ステージ4のがんを世界 一の名医に治療してもらうよりも、 ステージ1のがんをかかりつけの 病院で早期に発見し治療するほう が生存率ははるかに高いのです0 40代の経営者Eさんは、定期的 に人間ドックを受診し、詳細な健 康データを収集・蓄積していまし たoその結果、まだ明確な症状は 出ていないものの、空腹時血糖値 のわずかな上昇、HbAlcの上昇 傾向、体重増加、運動量の減少な どの変化から、「2型糖尿病のリ スク」が高まっていることが分 かったのですo また、Eさんは2 型糖尿病の家族歴もあるため、よ り注意が必要な状況でしたo この情報に基づいて、Eさんは 食事を改善(糖質制限と野菜の摂 取量を増やす)、また週3回の 有酸素運動と筋トレを始めましたo その結果、1年後には空腹時血糖 値やHbAlcも改善し、5kgの減 量にも成功しましたo もしEさんが漫然と健康診断を 受けているだけであったなら、基 準値を超えて始めて異常に気づき、 病院で治療を行うことになってい たでしょうo健康診断すら受けて いなかった場合には、もっと深刻 な状態になっていたかもしれませ んO多くの2型糖尿病患者は何ら かの症状が現れたり、基準値を超 えてから診断されたりしますが、 その段階では、すでにさまざま な合併症のリスクが高くなってい るのですO アメリカでは、このような「デー タに基づく予防医療サービス」が 急速に普及していますO遺伝子検 査と生活習慣データを組み合わせ て将来の健康リスクを予測する サービスや、ウェアラブルデバイ スから得られるリアルタイムデー タを分析し、日々の健康アドバイ スを提供するアプリなどが人気で すO さらに、AIを活用した画像診断 システムも進化していますOた とえば、皮膚がんの早期発見を支 援するAIシステムは、患者の画 像データから熟練の皮膚科医と同 等の精度で病変を見つけることも できつつありますO こうしたテクノロジーの進歩によ り、個々人の健康データをより 詳細に、頻繁に収集・分析するこ とが可能になり、そのデータに基 づいて最適な予防策を提案するこ とができるようになりましたO しかし、ここで大切なのは、 データを収集して分析するだけで は不十分だということですOそ の結果を正しく解釈し、個人に最 適な予防策を提案し、それを習慣 化するためのサポートが必要ですO つまり、テクノロジーと医師の 専門知識を組み合わせることで、 初めて本当の意味での戦略的予防 が可能になるのですO アメリカの予防医療サービスの成 功要因は、テクノロジーと医師の 融合にありますO AIやIOTと いったデジタル技術をうまく活用 しつつ、専門家によるリアルな 接点も組み合わせていることが 特徴ですO日本もこれらの成功事 例を参考にしながら、個々人に最 適化された予防医療サービスを開 発・普及させることで、国民の健 康寿命を延ばし、医療費の削減に もつなげていけると理想ですO データに基づく戦略的予防は、ま さに21世紀の医療の姿を表して いますOこれからは、自分の健 康データを積極的に収集・活用し、 専門家のアドバイスを受けながら、 自分の健康を戦略的に管理してい くことが大切ですOこれこそが、 「約分の健康は約分で守る」とい う本当の意味なのです0 2.2アメリカの医療は 「アウトカム主義」の アプローチ アメリカの医療システムの大きな 特徴の一つに「アウトカム主義」 がありますOこれは、治療の結 果が良くなることに対して、医師 に報酬が支払われるという考え 方ですOつまり、患者の健康状 態が改善されることが最も評価さ れる仕組みなのですOこの考え 方が、医療のあり方を大きく変え、 特に予防医療の重要性を高めてい ますO アウトカム主義の下では、医師は 患者の長期的な健康改善に焦点 を当てますOたとえば、風邪で 病院を訪れたとき、「今回はウイ ルス感染が疑われるので、薬は不 要ですO 自然に治るので安心して ください」と言われることがあり ますOこれだけ聞くと何もしてい ないように感じるかもしれません が、実はこれこそが適切な医療 行為なのですOなぜなら、不必 要な抗生物質の使用を避け、患者 の自然治癒力を信頼することで、 長期的には患者の健康にも良い結 果をもたらすからですO 一方、囗本の医療システムは「出 来高制度」が主流ですOこれは、 医師が行った行動(例えば、薬を 処方する、手術を行うなど)の量 に対して報酬が支払われる仕組 みですOこのシステムのもとでは、 必要以上の薬の処方や検査が行わ れるリスクがありますOたとえば、 軽い腰痛であっても、すぐにレン トゲン検査を行い、痛み止めを長 期間処方されることがあるかもし れませんO 出来高制度の下では、医師は患者 に何かしらの処置を行うことで報 酬を得るため、必ずしも患者の 長期的な健康を最優先にした判断 がされていないこともありますO 例えば、患者さんの話をじっくり 聞いて予防的なアドバイスを行う 場合と、薬を出すだけの短い診療 では、医師が得る報酬に大きな 違いがないため、短時間で多く の患者を診る方が効率的だと構造 的に考えられてしまいがちですO 検査や薬を多く提供することが、 医療機関の収益につながることも ありますO このようなシステムの違いは、 医療の質や患者の健康への取り組 みに大きな影響を与えますO囗 本の医療システムでは、病院経営 を維持するために必要のない検査 や薬の処方が行われることがあり ますO しかし、アウトカム主義を 採用しているアメリカのようなシ ステムでは、患者の健康を最優 先に考えた医療が提供される方向 に医師のインセンティブが働く のですO アウトカム主義のアプローチは、 不要な治療を減らし、本当に必要 な予防や治療に集中することを可 能にしますOこれは患者にとって も、医療システム全体にとっても 非常に有益な考え方だと考えられ ますO 医師が患者の健康を最優 先に考え、その結果を重視するア プローチが広まることで、医療 の質は大きく向上する可能性があ りますO この考え方は、経営者の皆さん にも大いに参考になるでしょうO ビジネスにおいても、短期的な利 益にとらわれず、長期的な成果を 目指すことが重要ですO健康管理 も同様で、目先の症状を改善する だけでなく、長期的な健康を維 持するための戦略的な取り組み が求められますOアウトカム主義 のアプローチを医療だけでなく、 日々の生活やビジネスにも取り入 れてみてはいかがでしょうかO 2。3過去のデータから 未来の病気の可能性を 予測 現代の医療技術の進歩により、 過去の健康データから未来にどん な病気になりうるかを予測する ことができるようになってきまし たOこれは、ビッグデータの蓄積 とAI技術の進化によるものですO 従来の健康診断や人間ドックでは、 その時点で病気があるかどうかを 調べることが主な目的でしたO し かし、今の時代、それだけでは十 分ではありませんO 過去の検査結果を活用して、その データの変化やトレントを分析 することで、将来の病気のリスク を予測し、早めに対策を講じるこ とが重要になっていますOこれは、 ビジネスにおける財務分析と似て いますねO単に今月の売り上げが 良いからといって安心するのでは なく、過去のデータを分析して将 来の見通しを立てるのと同じです0 50代の経営者Fさんの10年分の 健康診断データを分析したところ、 心血管疾患のリスクが年々上昇し ていることが分かりましたO具 体的には、LDLコレステロール 値や血圧が少しずつ上昇傾向に あったり、体重の増加などが見ら れましたOこれらは虚血性心疾患 発症のリスクと関連していますO 一見、各数値は「正常範囲内」で したが、そのトレントを分析する ことで、潜在的なリスクが浮き彫 りになりましたO この情報を基に、Fさんは人間 ドックの際に冠動脈CT検査をオ プション追加し、すでに部分的 に血管の石灰化か始まっているこ とを知り、危機意識を持ちまし たOそして、食生活の改善と定 期的な運動を始めましたO具体的 には、飽和脂肪酸の摂取を控え、 野菜や魚を多く取り入れた食事に 変更し、調味料を減らすことで減 塩を意識するようになりましたO また、週に3回、30分以上の有 酸素運動を習慣化しましたOその 結果、6ヵ月後にはコレステロー ル値や血圧が改善傾向にシフトし、 健康状態が向上し、将来の重病リ スクを低下させることに成功しま したO このように、過去のデータを活 用することで、将来の健康リスク を予測し、検査の適正化や効率的 な生活習慣改善など、早めに対策 を取ることができるのですOこ れはまさに「データに基づく戦略 的予防」の本質ですO しかし重要なのは、データをた だ集めるだけではなく、それを正 しく理解し、行動に移すことで すO多くの人が健康診断の結果を 受け取っても、それを十分に活用 できていないのが現状ですOそこ で、パーソナルドクターの役割 が重要になってきますO専門家の 目で今の問題点だけでなく、潜在 的なリスクも分析し、個々人に最 適な予防策を提案することで、よ り効果的な健康管理が可能になり ますO さらに、最新の技術では健康診断 のデータだけでなく、日々の生 活習慣データも活用できるよう になっていますOスマートウォッ チなどのウェアラブルデバイスを 使えば、日々の活動量、睡眠の質、 心拍数の変動などを継続的に記録 できますOまた、スマート体重計 やスマート血圧計などのIOTデバ イスを利用することで、簡単に身 体データを記録することもできま すOこれらのデータを健康診断の 結果と組み合わせることで、よ り正確な健康リスクの予測が可能 になりますO 例えば、30代の女性起業家のG さんは、毎年の健康診断では「異 常なし」と言われていましたが、 スマートウォッチのデータを分析 したところ、慢性的な睡眠不足と 運動不足が明らかになりましたO これらは将来の健康リスクを高め る要因となる可能性がありますO この情報をもとに、彼女は起床時 刻を一定にした上で毎晩の就寝時 間を30分早めることと、毎日15 分の早歩きを習慣化しましたOそ の結果、3ヵ月後には睡眠時間だ けでなく睡眠の質も向上し、血圧 や血液検査の結果も改善しましたO また睡眠の質の改善によって、イ ライラすることが減り、日中の集 中力が高まったことを自覚できま したO このように、データから未来の リスクを予測し、早期に対策を講 じることは、単に病気を防ぐだけ でなく、より良い人生を送るため の基盤となりますO健康でいる ことは、仕事のパフォーマンスを 高め、人生の質を向上させる重要 な要素ですO特に経営者や起業家 にとっては、自分の健康が会社の 成功に直結する重要な資産と言え るでしょうO このように、健康データを「情報 資産」として捉え、積極的に活用 していくことが大切ですO デー タを蓄積し、それを分析し、行動 に移すOこの一連のプロセスを習 慣にすることで、より戦略的な健 康管理が可能になりますOそし て、その先には、より充実した人 生が待っているのです0 2.4健康寿命と平均寿 命とのギャップを埋め るには冫 日本は世界でもトップクラスの長 寿国として知られていますO しか し、単に長く生きることが幸せと は限りませんOここで重要になる のが「健康寿命」と「平均寿命」 という2つの概念ですO 健康寿命とは、健康上の問題で 日常生活が制限されることなく、 自立して活動的に過ごせる期間の ことを指しますO一方、平均寿 命は健康かどうかに関係なく、 平均的な生存期間を意味しますO 理想的には、この2つの寿命がで きるだけ近いことが望ましいと言 われますが、現実には大きな乖離 (かいり)がありますO 厚生労働省の最新データによると。 日本人の平均寿命は男性が81.41 歳、女性が87.45歳ですOしかし、 健康寿命は男性が72.68歳、女性 が75.38歳とされていますOつま り、男性では約9年、女性では 約12年もの「不健康な期間」が 存在することになりますOこの期 間、多くの人が何らかの支援や介 護を必要としながら過ごすことに なるのですO このギャップは、個人の生活の質 を大きく低下させるだけでなく、 社会全体にも大きな負担になりま すO例えば、医療費や介護費用 の増加、労働力の減少など、さ まざまな社会問題につながる可能 性がありますO では、このギャップを埋めるため には何か必要でしょうかOその答 えは、私たち医療従事者のゴー ル設定を根本的に見直すことに ありますO これまでの医療では、単に「病気 を治す」ことや「患者を死なせな い」ことがゴールとされがちでし たO しかし、これからは「患者さ んが最期まで豊かな人生を送れる ようにサポートすること」が求め られていますO ここで重要なのが、「ウェルネ ス」という概念ですOウェルネ スとは、単に体が健康であるだけ でなく、心の健康や社会的な健 康、さらには環境的な健康まで を含む、広い意味での健康を指し ますO例えば、体は元気でも友人 がいなくて孤立している場合、そ れは真のウェルネスとは言えませ んO 私たちのサービスでは、クライア ントご自身の身体的な健康だけで なく、家族を含めた周囲の人の健 康課題にもともに向き合い、 パーソナルドクターとして広い意 味での心理的安全性を確保する仕 組みを提供していますOまた医 学的なアプローチに留まらず、 居住環境やライフスタイルも踏ま えながらゴールに近づくためのア プローチを考えますO この考え方は、従来の医療の枠を 超えたものですO金融界のプライ ベートバンカーが資産管理だけで なく、クライアントの子どもの教 育相談等にまで対応するように、 パーソナルドクターも体の健康だ けでなく、人生全体の幸福を視野 に入れているのですO つまり、私たちのゴールは、患者 さんが人生で成功し、満足感を 持って生きられるようサポートす ることですO経営が順調で、社会 的にも充実し、心身ともに健康で あることOこれらすべてを含めた 総合的な幸福感を追求することで、 結果的に体と心の健康も向上し ますO このアプローチによって、単に平 均寿命を延ばすだけでなく、健 康で充実した期間を最大化するこ とができますOそれこそが、健 康寿命と平均寿命のギャップを埋 める鍵ですO 私たち医療従事者は、この新しい ゴール設定のもと、患者さんの人 生全体をサポートする存在へと進 化する必要がありますOそれが、 真の意味で健康寿命を延ばし、豊 かな人生を実現するための道筋で すO そして健康寿命と平均寿命の ギャップを埋めることは、個人の 幸福だけでなく、社会全体の持続 可能性を高めるためにも重要で すOこの新しい医療のあり方を通 じて、一人一人の人生をより豊か にし、同時に社会全体の健康と幸 福を増進させることができると私 は考えています0 2.5日指すのは「ヘル ス」ではなく「ウェル ネス」 これまでの医療の歴史を振り返る と、主に「病気を治す」ことに 重点が置かれてきましたOつまり、 「ヘルス」、すなわち「病気がない 状態」を目指してきたわけですO しかし、寿命が延び、価値観も多 様化した現代社会においては、単 に病気がないというだけでは十分 とは言えませんOこれから求めら れるのは「ウェルネス」という 考え方ですO ウェルネスとは、ただ病気がない というだけでなく、心身ともに 健康で、充実した生活を送れる状 態のことを指しますO世界保健 機関(WHO)の健康の定義にも あるように、「健康とは、病気で ないとか、弱っていないというこ とではなく、肉体的にも精神的に も、そして社会的にも、すべてが 満たされた状態にあること」を意 味しますOこれは、まさにウェル ネスの考え方を表しているのですO ウェルネスの概念は、身体的健 康、精神的健康、社会的健康、知 的健康、職業的健康など、多面 的な要素を含んでいますOたとえ ば、適度な運動やバランスの良い 食事、十分な睡眠といった身体的 健康はもちろんのこと、ストレ ス管理やポジティブな思考と いった精神的健康、良好な人間 関係や社会とのつながりといっ た社会的健康七重要ですOまた、 継続的な学習や創造的活動による 知的健康、仕事のやりがいやワー クライフバランスといった職業的 健康も、ウェルネスを構成する重 要な要素となりますO つまり、たとえ体が健康でも、仕 事でストレスを感じていたり、人 間関係に問題を抱えていたりすれ ば、それはウェルネスの状態とは 言えないのですO 目指すべきは、 これらすべての面でバランスの取 れた状態を達成することですO 従来の医療モデルでは、病気の症 状が出てから治療を行う「反応 型」のアプローチが主流でしたO しかし、ウェルネスを目指す新し い医療モデルでは、予防や健康 増進に重点を置いた「プロアク ティブ型」のアプローチが求め られますOつまり、病気になって から治すのではなく、病気にな らないための取り組みを重視し、 身体的な健康だけでなく、精神的、 社会的な面も含めた総合的な健康 を目指すのですO また、すべてを医療専門家に任せ るのではなく、自分自身が自分の 健康に責任を持ち、健康リテラ シーを高め、積極的に管理してい くことも重要ですO薬だけに頼 るのではなく、食事、運動、睡 眠などの日々の生活習慣を見直し、 改善することが求められますO さらに、ウェアラブルデバイスや AIなどの最新技術を活用して、 日常的な健康管理をサポートする ことも、新しい医療モデルの特徴 ですO ウェルネスを実現するためには、 医療だけでなく、ライフスタイ ル全体を見直すことが必要ですO 従来の健康診断や人間ドックに加 え、メンタルヘルスチェックや生 活習慣の評価なども含めた総合 的な健康チェックが求められま すO また、遺伝子情報や生活習慣 などを基にした個人に最適化さ れた健康管理プランを作成し、 実行することも重要ですO さらに、ワークライフバランス を見直し、新しいスキルを習得し たり、趣味を楽しんだりすること も、ウェルネスの実現には欠かせ ませんOコミュニティ活動への参 加を通じて社会とのつながりを維 持することも有用ですO環境面で の健康にも注意を払い、自然環 境の保護や持続可能な生活様式 を取り入れることも考慮する時代 になっていますO これからの時代に求められるのは、 単なる「ヘルス」ではなく、総 合的な「ウェルネス」ですO私た ち一人一人が、ウェルネスの重要 性を理解し、日々の生活の中で実 践していくことが、真に健康で豊 かな人生につながるのですOウェ ルネスは、100年時代をよりよく 生き抜くための最も重要な戦略の 一つと言えるでしょう0 2.6望むのは「永遠に 死なない体」ではなく 「いい人生だった」と 思える最期 私たちの寿命は飛躍的に延びまし た0 20世紀初頭には平均寿命が 50歳程度だったのに対し、現在 では80歳を超えていますOさら に、再生医療やゲノム技術の進展 によって、「不老不死」の夢が現 実味を帯びてきたという声もあり ますO しかし、私たちが本当に目指すべ きは「永遠に死なない体」で しょうか?私は、そうではないと 考えていますO日本の四季が美し いように、命にも終わりがあるか らこそ、その瞬間瞬間が尊く、人 生もまた美しいのですO大切なの は、最期のときに「いい人生だっ た」と心から思えるような生き方 をすることではないでしょうかO これは、単に長生きすることでは なく、生きている間の質、つまり QOL(生活の質)を高め、後悔 のない人生をデザインすることを 意味しますO 人生100年時代と呼ばれる今、た だ寿命を延ばすことだけを考える のではなく、いかに充実した人 生を送るかが重要ですOそれは、 健康で活動的な期間をできるだけ 長く保ちながら、人生の終わりに 向けて徐々に準備を進めていくこ とを意味しますO そのためには、まず計画的な健 康維持が不可欠ですO自分のリ スクを事前に把握し、病気を予防 するための早期発見や早期治療を 行うことで、健康寿命を延ばすこ とができますO定期的な健康診断 を受けるだけでなく、その結果を もとに最適な生活習慣を築き、 自分の健康に積極的に向き合うこ とが求められますO しかし、健康であること自体は 人生の「目的」ではありませんO 健康は、豊かで充実した人生を送 るための「手段」にすぎないので すO真に大切なのは、その健康な 体で何を成し遂げるかですO大切 なのは、健康な体を使って、や りたいことをやり遂げたり、自分 の夢を追いかけたり、周りの人々 を助けたりすることですOそう した活動を通じて、自分の人生に 意味や満足感を感じることが重要 ですO また、良好な人間関係を築き、 維持することも非常に重要ですO 例えば、定期的に家族や友人と食 事をしたり、趣味のサークルや地 域のボランティア活動に参加した りすることで、人とのつながりを 深めることができますOこうした 関係は、私たちに大きな喜びと支 えを与えてくれますO現代社会で は孤独が大きな問題となっていま すが、他者との交流を通じて心の 安らぎを得ることが、より豊かな 人生につながりますO さらに、知的好奇心を持ち続け、 学び続ける姿勢も大切ですOた とえば、新しい料理に挑戦したり、 絵を描く教室に通ったり、異文化 交流のイベントに参加することが 考えられますO年齢を重ねても新 しいことに挑戦し、世界への興味 を持ち続けることで、人生をより 豊かにすることができますO新し い趣味を始めたり、旅行で新しい 文化に触れたりすることで、常に 新たな刺激を受けながら、人生の 最後まで成長し続けることができ るのですO 精神的な充足も忘れてはなりませ んO例えば、ガーデニングや音 楽、アートなど、自分が本当に楽 しいと感じる趣味に時間を使うこ とは、日常生活に彩りを加えますO これらの活動を通じて自分を表現 したり、新たなスキルを習得した りすることで、自己実現の喜びを 感じることができ、それが人生の 質を高めることにつながりますO これらの要素をバランスよく追求 することで、最期を迎える際に 「いい人生だった」と振り返るこ とができる最高の人生を送るこ とができるでしょうOそのような 人生を送ることができるのであれ ば、死を恐れる必要はありませんO むしろ、死を人生の自然な一部と して受け入れ、それまでの人生を 肯定的に振り返ることができるは ずですO  「永遠に死なない体」を追求す るのではなく、一日一日を大切に 生き、自分の人生に満足できる ことOそれこそが、私たちが本 当に目指すべき姿です0 100年と いう長い人生をどう生きるか、そ の答えは一人一人異なるでしょうO しかし、最後に「いい人生だっ た」と思えるような後悔のない人 生を送ることOそれが私たちの共 通の目標であり、それを支援する ことが、これからの医療に求めら れる重要な役割なのですO 2。7 PPK (ピンピンコ ロリ)を目指すなら  「ピンピンコロリ」という言葉を ご存じでしょうかOこれは、健康 で長生きして、最期は苦しまずに 安らかに亡くなることを指す日本 独特の表現で、多くの人が理想と する最期の姿ですO略して 「PPK」とも呼ばれるこの概念は、 単なる理想ではなく、適切な健康 管理と生活習慣の改善によって十 分に実現可能な目標ですOしか し、それを達成するためには、計 画的で継続的な取り組みが必要で すO PPKを目指すためのアプローチ は、大きく2つに分けられますO 1つは、大きな病気を早期に発見 して治療すること(二次予防)O もう1つは、そもそも病気になる リスクを減らすこと(一次予防) ですOこの2つのアプローチをう まく組み合わせることで、健康寿 命を最大限に延ばし、PPKの実 現に近づくことができますO まず、大きな病気の早期発見と 治療について考えてみましょうO ここで重要なのが、定期的な健 康診断と最新の検査技術の活用 ですO多くの重大な病気は、早期 に発見できれば治療が可能ですO たとえば、がんの場合、早期発 見・早期治療によって生存率が大 幅に向上することが知られていま すO しかし、注意すべき点は、一般 的な健康診断や人間ドックだけで は不十分な場合があることですO 年齢や家族歴、生活習慣によって、 かかりやすい病気は異なりますO そのため、自分に合った検査項 目を適切に選ぶことが重要ですO たとえば、家族に特定のがん患者 が多い場合は、そのがんの検診を 通常よりも頻繁に受けるべきですO また、血液検査から血管疾患のリ スクが高いと分かっている人は、 脳MRIや頸動脈超音波検査など 画像でのリスク評価を定期的に受 けることも重要ですO 一方、そもそも病気になるリス ク自体を減らすことも、PPKの 実現には不可欠ですOここで鍵と なるのが、データに基づく日々 の生活習慣の改善ですO まず、個々に最適化された食習 慣の確立が大切ですOたとえば、 LDLコレステロールが高くHDL コレステロールが低い場合、魚や ナッツ、オリーブオイルなどの良 質な脂質を取るように心がけるこ と、有酸素運動を取り入れること などが効果的ですO しかし、なん となく体重を落とせば解決するだ ろうと、友人に勧められるがまま に極端な糖質制限ダイエットを 行った結果、肉類の摂取が増え てLDLコレステロールがむしろ 悪化してしまうといったケース も想定されますO 適切な食習慣 を知るためには、自分の健康デー タをしっかりと理解し、エビデン スに基づいた適切な判断をする ことが不可欠ですO 次に、適切な運動習慣も欠かせ ませんO WHOの基準では、成人 は週に150分以上の中強度の有酸 素運動、または75分以上の高強 度の有酸素運動を行うことが推奨 されていますOさらに、筋力ト レーニングも週に2回以上行うこ とが推奨されていますO運動は、 心臓病や糖尿病などの生活習慣病 のリスクを減らすだけでなく、認 知機能の維持や一部のがんのリス ク低減にも効果がありますO また、 健康状態に応じた運動の調整も 必要ですOたとえば、糖尿病があ る場合は、運動を始める前に眼底 検査を行うなど、個々の状況に応 じた対応が求められますO 十分な睡眠時間の確保と安定した 睡眠リズムの確立も、健康維持 には欠かせませんO睡眠不足は、 肥満、糖尿病、心臓病などのリス クを高めるだけでなく、精神的な 健康にも悪影響を及ぼしますO一 般的に、成人には1日7〜8時間 の睡眠が必要ですOもし不眠の症 状がある場合、その原因を探り、 適切な対策を取ることが重要ですO たとえば、中途覚醒や日中の眠気 がある場合、睡眠時無呼吸症候 群の可能性もあり、放置すると 高血圧や脳卒中のリスクが高まる ことがありますO ストレス管理も非常に重要な要 素ですO慢性的な精神的ストレス は、肥満やその他の疾病の原因と なり、疲労感やパフォーマンスの 低下にもつながりますO 自分に かかっているストレスを理解し、 適切に対処する習慣を見つける ことが重要ですOたとえば、瞑想 (マインドフルネス)は、ストレ ス軽減やうつ病の再発リスクの低 下に効果があるとされていますO 最後に、社会的なつながりも重 要ですO孤独や社会的孤立は健康 に悪影響を与えることが分かって いますO家族や友人との交流を大 切にし、ビジネスや共通の趣味の コミュニティ活動に参加するなど、 積極的に人とのつながりを持つこ とが健康維持には不可欠ですOま た、どのような人間と時間をとも に過ごすかも大切ですOたとえば、 肥満の人と一緒に過ごす時間が長 いことが自らの肥満リスクを高め ることを示唆する研究も存在して いますO これらの生活習慣の改善を総合的 に実践することで、病気になるリ スクを減らすことができますO し かし重要なのは、これらの取り組 みを一時的なものではなく、生 涯を通じて続けることですO健 康的な生活習慣を囗常に根付かせ、 それを自然な習慣として続けてい くことが、PPKの実現には不可 欠なのですO PPKの実現は簡単なことではあ りませんが、不可能でもありませ んO 早期発見・早期治療と健康 的な生活習慣の両方を組み合わせ ることで、健康寿命を最大限に延 ばし、最期まで充実した人生を送 ることができるのです0 2.8「パーソナルドク ター」をつけよう 現代社会において、私たちはさま ざまな専門家のサポートを受けな がら生活しています。たとえば、 法律が絡む事象については顧問弁 護士に相談し、資産運用について はフアイナンシヤルアドバイザー に助言を求めます。効率的な筋肥 大やスポーツでのパフォーマンス 向上のためにパーソナルトレー ナーのサポートを受けることもあ りますよねOそれでは、人生で最 も大切な「健康」についてはど うでしょうか? そこで私か皆さんにおすすめした いのが、「パーソナルドクター」 という存在ですOパーソナルドク ターとは、人生のゴールを達成す るために、個人の健康を継続的 に管理し、予防から治療までを一 貫して伴走してサポートする医師 のことですO 従来のかかりつけ医やホームドク ターとどう違うのかと思われるか もしれませんOこれらの医師は、 主に症状が出たり、検査で異常 が見つかったりしたときに相談す る相手でしたOつまり、何か問 題が顕在化したときに対応する 「反応型」のアプローチですO し かし、パーソナルドクターは、 「予防型」「能動型」のアプローチ を取りますO症状が出る前からあ なたの健康状態を把握し、病気の リスクを減らすための戦略を立て ていきますO では、パーソナルドクターの具体 的な役割について詳しく見ていき ましょうO まず、パーソナルドクターは定 期的な健康チェックとデータ分析 を行いますOただ一般的な健康診 斷を受けるのではなく、年齢や家 族歴、生活習慣、過去の健康デー タなどを考慮して、必要な検査を 選定しますOこれにより、一般検 査で見逃されがちな希少疾患等の 見逃しを防げる確率を高めますO そして、そのデータ変化を継続的 に蓄積し分析することで、健康状 態のわずかな変化も見逃さず、 リスク低減や次の適切な検査選定 に活用していきますO また、パーソナルドクターは365 日直接コミュニケーションをとる ことができるという特徴があり ますO通常の遠隔医療相談サービ スでは、相談に乗ってくれる医師 が毎回変わってしまうことも多い でしょうO しかし、その人の過去 の健康状態やライフスタイルを事 前に理解していることは、適切 な問題の見極めに非常に意義が ありますO また、パーソナルな関 係であるからこそ、ささいな疑問 や異変を感じた段階ですぐに相談 できる深い関係値を築けること も特徴ですOまた、必要に応じて 適切な専門医療機関・専門医を選 定した上で、最適な医療を受け るためのコーディネートも行い ますO さらに、パーソナルドクターは 個々の健康データに基づいて、 パーソナライズされた生活習慣の 改善アドバイスを行いますO最 新の研究をもとに、個々のリスク に応じた健康習慣を提案し、実行 と継続を支援しますO具体的には、 複数の選択肢を示し、それぞれの メリットやデメリットを説明しな がら、最適な方法を見つけ出すサ ポートをしますO 理想論を押し つけるのではなく、継続・習慣化 が可能な選択肢をともに模索し ていく姿勢が特徴的ですO パーソナルドクターを持つことの 最大の利点は、単に病気の予防 や早期発見にとどまりませんO 自分の健康状態やライフスタイル をよく知っている信頼できる医師 が常にそばにいることは、心理 的な安心感にもつながりますO 特に経営者の場合、メンタル不調 や重病など健康の深刻な悩みを周 囲に相談できないことも多いです が、パーソナルドクターがいれば、 気兼ねなく相談することができる ため、大きな支えとなりますO このように、パーソナルドクター を持つことはまさに、アクティ ブで豊かな人生を送るための戦略 的健康法の中核ですO自分の健 康は自分で守るという意識を持ち ながらも、専門家のサポートを継 続的に受けることで、最適な健 康管理を行うことができますO これこそが、長寿時代を健康に 生き抜くための鍵ですO ただし、パーソナルドクターを選 ぶ際には注意も必要ですO単に 経験や知識が豊富なだけでなく、 人間性や拊陸も重要ですO価値 観や人生観が合う医師を選ぶこと で、より効果的で続けやすい健康 管理が可能になりますO初めての カウンセリングや面談で、医師が どれだけ親身になってくれるか、 話をよく聞いてくれるかを観察し、 フィーリングを大切にすることが 大切です。質問に対して真摯に向 き合い、丁寧に説明してくれる医 師であれば、信頼関係を築きや すいでしょう。 私たちの会社でも、クライアント の人生を豊かにするために「ライ フクルー」として伴走できる医師 を、パーソナルドクターとして選 出していますO 健康は私たちの 人生の質を左右する最も大切な要 素の一つですO信頼できるパー トナーを持つことで、日々の生活 に安心感を持ちながら、自分らし い人生を楽しむことができますO まずは、自分に合ったパーソナル ドクターを見つけることから始め てみてくださいOその一歩が、 健康的で充実した未来への扉を開 くかもしれませんO 第3章過信しす ぎてはいけない 人間ドックの大き な誤解 3。1人間ドックの注意点 を知る 年に一度は人間ドックを受けてい るという人も多いのではないで しょうか。人間ドックは確かに健 康状態をチェックする上で重要な ツールの一つです。しかし、人間 ドックの結果を過信することで、 かえって健康管理を誤り、思わぬ 健康リスクに直面する可能性があ ることも理解しておくことが大切 ですO この章では、人間ドックの持つ限 界と、それをより賢く活用するた めのポイントについて詳しく解説 しますO まず、人間ドックの結果が示す意 味について正しく理解することが 大切ですO人間ドックの結果は、 「検査を受けた時点で」「検査した 項目の中で」「基準値を超える異 常がないか」を示すものであり、 これはあくまで一部の健康状態 のスナップショットに過ぎませ んOつまり、人間ドックの結果が 良好であったからといって、絶対 的な健康を保証するものではない のです0 45歳の男性Hさんのケースを見 てみましょうO彼は毎年欠かさず 人間ドックを受け、常に良好な結 果(A判定)をもらっていましたO ところが、最後の人間ドックから わずか4ヵ月後、急速に進行する 体調不良で緊急入院し、進行し たステージ4の膵臓がんが見つ かったのですOHさんの受けてい た一般的な人間ドックには、膵臓 の病気を早期発見するための検査 が十分に含まれていませんでしたO このため、病気の発症・進行に気 づかなかったというわけですOこ の例から分かるように、人間ドッ クの判定を過信しすぎることは危 険を伴うのですO さらに、多くの人間ドックが一般 的に頻度の多い疾患に焦点を当 てていることも理解する必要が ありますOもちろん、これらの検 査を定期的に受けること自体は重 要ですO しかし、個々の遺伝的 な背景や生活環境によって、標 準的な検査だけでは十分でない場 合もありますOたとえば、家族に 特定の病気を持つ人が多い場合、 その病気に関連する特別な検査を 選択的に受けるべきでしょうOま た、職場や住環境が特定の病気の リスクを高める場合も、追加の検 査が必要になることがありますO さらに、人間ドックの結果の見方 にも注意が必要ですO多くの場合、 結果は「正常」か「異常」かの二 択で表示されますが、健康状態は それほど単純ではありませんO 「正常」の範囲内であっても、数 値のトレントが変化している場合 は、将来的なリスクが高まってい る可能性がありますO例えば、血 糖値が仮に正常範囲内でA判定 と記載されていたとしても、その 数値が年々上昇し上限値に近づい ているのであれば、将来的に糖尿 病を発症するリスクが高まってい ると考えられるのですO このような病気の予兆を見逃さな いためには、単に結果を「正常」 や「異常」で判断するのではなく、 過去の結果と比較したトレントを 把握することが重要ですO また、人間ドックで行われる検 査の精度についても理解してお く必要がありますOどんな検査で も完璧ではなく、誤って「異常」 と判定されたり(偽陽性)、見逃 されたりする(偽陰性)リスクが ありますO新しい検査方法が次々 と登場している中で、それぞれの 検査の正確さや適用範囲を理解し ておくことが重要ですO さらに、通常の人間ドックでは 見逃されがちな健康課題もあり ますO例えば、発作性心房細動 (不整脈の一種)は、検査時に発 作が出ていないと正常と判断され ることがありますO また、睡眠時 無呼吸症候群なども、標準的な人 間ドックではほとんど評価されま せんが、日々のパフォーマンスの 低下はもちろん、中長期では脳卒 中や高血圧などさまざまな疾患の 大きなリスクとなりえますO これらのポイントを踏まえて、人 間ドックを賢く活用することが 大切ですO健康状態や生活習慣に 応じて検査をカスタマイズし、そ の結果をもとに効果的な健康習慣 を築くことが重要なのですO人間 ドックは重要な健康管理ツールで すが、その限界を理解し、より 戦略的に活用することで、より 豊かな人生を送るための一助とな りますO 次のセクションでは、さらに人間 ドックや健康診断の限界について 掘り下げ、どのように検査を選び、 結果を活用していくべきかを考え ていきます。 3.2一般健康診断だけで は不十分になりうる理由 多くの人が年に一度、職場や地域 の健康保険組合が提供する「一般 健康診断」を受けていることで しょうO多くの日本人にとって健 康管理の基本となっていますO し かし、年に一度の一般健康診断だ けで健康をしっかり管理できてい ると思うのは、大きな間違いですO なぜなら、一般健康診断には注 意が必要な限界があるからですO 第一に、一般健康診断の検査項 目は、主に日本人に多い病気を 対象としていますO具体的には、 高血圧、糖尿病、脂質異常症と いった生活習慣病や、胃がんや大 腸がんなど、比較的よく見られる 病気が中心ですOこれ自体は、国 や自治体、企業が限られた予算の 中で、多くの人の健康を守るため には合理的なアプローチですOし かし、個々の大がどのようなリス クを抱えているかという点では十 分とは言えませんO 個々の健康 状態や遺伝的な背景、生活環境は 大きく異なり、それによって必要 な検査も変わってくるのですO たとえば、これまでもお話しして きたように、両親や兄弟に膵臓が んの家族歴がある場合、一般の大 よりも脈臓がんのリスクが高くな りますOさらに、糖尿病や肥満と いった問題を抱えていると、その リスクはさらに高まりますOです が、一般健康診断には通常、騨 臓がんの精密検査は含まれていま せんOもしリスクが高いことが 分かっていれば、腹部MRIや MRCP(磁気共鳴胆管脈管撮影) などの精密検査を受けることが望 ましいのですが、そのような選択 肢が知られていないことが多いの が現状ですO また、職業によっても健康リス クは変わりますOたとえば、建 設業や製造業などで粉じんや化学 物質にさらされる機会の多い方々 は、肺の病気のリスクが高くなり ますOこの場合、一般健康診断に 加えて、より詳しい肺の検査や胸 部CT検査が必要になるかもしれ ませんO また、一般健康診断の結果は、 「今」の健康状態の一部を示すに 過ぎませんO私たちの体は日々変 化していますから、一度の検査 結果だけでは将来のリスクを十分 に把握することはできませんO 例えば、血糖値の検査を考えてみ ましょうO一般健康診断では空腹 時血糖値が測定されますが、これ は「今」の血糖値を示しているだ けですOこの結果が正常範囲内で あっても、糖尿病のリスクがない とは言い切れませんO 血糖値の 変動や長期的な血糖管理を示す HbAlcなどの指標も合わせて見 ることで、より正確にリスクを 把握できますO また、一般健康診断では、個人の 生活習慣や環境因子が十分に考慮 されていないことも多いですO例 えば、ストレスや不眠・睡眠リズ ムの障害はさまざまな健康問題の 原因となりますが、年一回の健 康診断でこれらを評価することは 難しいですOまた、デスクワー ク主体のワークスタイルは、紫外 線照射不足によるビタミンD欠 乏や長時間の座位による心血管疾 患リスク増加などを引き起こしま すが、これらも一般健診で指摘さ れることはありませんO さらに、一般健康診断の結果は 「異常なし」か「要精密検査・要 受診」かといった大まかな判定 になりがちですO しかし、「異常 なし」とされた中にも、将来的な リスクが潜んでいることがあるの ですoたとえば、コレステロール 値の基準は140mg / dL未満と なっており、139mg / dLの値は 「異常なし」と判定されますoで すが、限りなく「アウト」に近 づいたセーフですよねoこれは 決して安心できる(対策を講じな くてよい)値ではありませんoこ のような「グレーゾーン」の結 果をどう解釈し、対策を取るかが 重要ですo これらの限界を克服するためには、 より包括的で個別化されたアプ ローチが必要ですOまず、過去 の健康データや家族歴、生活習慣 を考慮した上で、個人に合わせた 検査を受けることが重要なのですO また、定期的な検査を受けるだけ でなく、そのデータを日々の健康 管理に活用することも欠かせませ んOデータを深く読み解くことで、 自分の健康課題や将来のリスクを 把握し、発症を防ぐための適切な 生活習慣に結びつけることができ ますO 検査は病気を見つけるた めだけではなく、未来の健康を守 るために活用してこそ意義があ るのですO 一般健康診断は確かに国全体の健 康を守るための重要なツールです が、それだけでは個人の健康を十 分に守ることはできませんO個々 の健康管理をしっかりと行うため には、「自分の健康は自分で守 る」という意識を持ち、必要な 検査を追加で受けることや、検査 結果をもとにした行動を見直すこ とが必要ですOこれこそが、長く 健康で充実した人生を送るための 鍵となるのですO 3。3A判定の落とし穴と 検査結果の正しい解釈 多くの人が健康診断でA判定を 受けると、「健康だ」と安心しが ちですO しかし、このA判定に は落とし穴があり、その本当の意 味を理解していないと、かえって 健康を損ねるリスクがあります。 まず、「A判定」とは何かにつ いて整理しましょうOA判定は、 通常「基準値内にあるため異常な し」とされる状態を指しますO し かし、この「基準値内」という評 価は、現時点での検査項目におい て重大な異常が見つからないこと を示すに過ぎませんO 健康診断 でA判定を受けたとしても、そ れが必ずしも「完全に健康」であ ることを意味するわけではない のですO たとえば、LDLコレステロール (悪玉コレステロール)とHDL コレステロール(善玉コレステ ロール)の比率を考えてみま しょうoこれらの数値がそれぞれ 基準値内であっても、その比率 (L/H比)が高い場合には、動脈 硬化のリスクが高まることがあ りますoA判定であっても、その 内容を深く理解しなければならな いのですo 例えば、LDLコレステロールが 126mg/dL、HDLコレステロール が42mg/dLの場合、それぞれの 基準値は超えていないため、健康 診断では「A判定」とされますo しかし、この場合のL/H比は (126/42 = 3.0)。 理想的な比率は 2.0未満とされているので、A判 定であっても実際には動脈硬化進 行のリスクが高いことを示してい ますOこのような情報を見逃さな いことが重要ですO また、検査結果は「点」ではな く「トレント」を見ることも大 切ですOたとえば、血糖値が年々 少しずつ上がっている場合、各年 の検査結果がA判定であっても、 将来的には糖尿病になるリスクが 高まっている可能性がありますO 具体的に考えてみましょうo空腹 時血糖値の基準値は70〜109 mg/dLですが、ある人の数値が以 下のように推移していたとしま す:   1年目:85 mg/dL   2年目:95 mg/dL   3年目:105 mg/dL この方は毎年A判定を受けてい るかもしれませんが、血糖値が 徐々に上がっていることは見逃せ ないサインですoこのような場 合には、たとえ「A判定」であっ ても、将来の発症を防ぐために対 策を始めることが推奨されますO こうした「兆候」を見逃さないこ とが、戦略的な健康管理につな がりますO A判定を受け取ると、誰でも安心 したくなるものO しかし、A判定 は「今は大丈夫」の証拠にすら なりませんO個々の数値だけで なく、それらが示すトレントも含 めてしっかり理解することOさら に、今回の検査内容が自分のリス ク要因をきちんと考慮した上で網 羅的に選定されているかどうかを 確認することも大切ですO 総合判定はあくまで参考程度に留 め、それぞれのデータが示す意味 を深く理解し、うまく活用してい くことで、より効果的な予防医 療が実現します。 3.4あなたのリスクに基 づいたパーソナライズ検 査の重要性 現代の多様化した社会において、 健康管理も一人一人の状況に合わ せて「パーソナライズされたア プローチ」が重要になっていま すOすべての人に同じ方法が効果 的とは限らないからですO特に、 人間ドックを受ける際には、個 人のリスクに応じて検査を取捨選 択することが必要不可欠ですO ここでは、パーソナライズ検査が なぜ重要なのか、そしてそれがど のようにあなたの健康と生活を向 上させるのかを探りますO まず、私たちはそれぞれ異なる 遺伝的背景や生活習慣、環境要因 を持っていますO例えば、ある人 は心臓病のリスクが高く、別の人 は特定のがんのリスクが高いかも しれませんOこうした個別のリ スクを無視して、全員が同じ検査 を受けるのは、健康リスクを見逃 すことや、過剰検査にもつながり かねません0 40代の女性Iさんの事例です0 I さんは毎年の会社の健康診断で 「問題なし」と言われ、安心して いましたO しかし、パーソナルド クターに相談して過去の検査歴を 調べたところ、乳がん検診と子 宮頸癌(しきゅうけいがん)検診 は毎年受けられていた一方で、卵 巣や子宮体部を評価するための経 膣(ちつ)エコーや婦人科MRI 検査は一度も受けたことがない ことが判明しましたOそこで人間 ドックのオプションで卵巣の検査 を行ったところ、早期卵巣がん が発見されましたO結果、幸い にも早期治療により完治すること ができたのですO言われるがまま に受けている一般的な検査では見 逃され得るリスクを、カスタマ イズされた検査によって克服で きたのですO 検査を適切にパーソナライズして いく上で重要なのは、過去から の健康データや遺伝子データ・生 活習慣データ、検査歴などを元 に調べるべき病気・臓器を把握し、 それぞれの検査の特性を理解した 上で取捨選択することですO 例えば、特定のがんについて濃厚 な家族歴がある人は、該当する がん検診をより頻繁に受けること が推奨されるかもしれませんOま た、脂質異常や高血圧が長年指摘 されているような場合には、動 脈硬化の進行度をより精密に評価 するための画像検査をオプション で選択することが有用なことも ありますO パーソナライズ検査のもう一つの 利点は、不必要な検査を避ける ことができる点ですOたいていの 検査にはコストやリスクが伴いま すが、個人のリスクに基づいた 検査を取捨選択することで、必要 な検査にコストを集中でき、効率 的な健康管理が可能となりますO また、有月陸が乏しい一方で全身 に被ばくを浴びてしまうなど、 リスクにベネフィツトが見合わな い過剰検査を避けることにつな がりますOこのようにパーソナラ イズ検査は、見逃しのリスクを減 らすだけでなく、過剰な検査によ る心身の負担・経済的負担を軽減 することにもつながりますO ただ、ルーティンで毎年同じ検査 を受けているだけでは、個々の リスクに対応しきれないことが あるのですO年々変化する自分の 健康状態をしっかり把握し、その 時々の自分に必要な検査を選び取 ることが重要ですO 健康管理をより効果的に行うため には、自分の健康リスクを理解 し、それに基づいて適切な検査を 選ぶことが必要です。これに よって、健康状態をより正確に把 握し、早期発見・早期治療を可能 にし、さらには不要な検査を減ら すことで効率的な健康管理が実現 できるのです。 3.5単発の数値だけでな くトレントを見る重要性 健康管理において重要なのは、単 発の検査結果だけではありませんO 実際には、時間の経過とともに どう変化しているか、つまり 「トレント」を見ることが非常に 重要なのですOなぜトレントを重 視することが大切なのか?そして それがあなたの健康管理にどのよ うに役立つのでしょう? まず、私たちの体は常に変化して いるということを理解するのが重 要ですO一回の検査結果は、その 瞬間の状態を示しているに過ぎま せんOたとえば、血圧が今回の検 査では正常範囲内だったとしても、 過去数年間で徐々に上昇傾向に あるのだとしたら、見過ごせない サインかもしれませんO数値がま だ「異常」とされるラインを超え ていなくても、トレントに悪化が 見られる場合には、生活習慣を 見直すなど早めの対策が必要で すO また、トレントを可視化するこ とは、病気の予兆を捉えるだけで なく、改善傾向を確認し習慣を維 持するためにも重要ですOたと えば、健康的な生活習慣を取り入 れて努力している場合、その効果 が実際に数値として現れているか をトレント把握により見ることが できますOこれは良好な習慣を 継続するモチベーションにつな がりますO実際、日々の体重をレ コーディングしトレントを可視化 すること自体が減量に効果を示す というエビデンスもありますO また、トレントを把握することは、 検査の数値だけでなく、画像デー タにおいても重要ですO例えば、 人間ドックで胆のうポリープを指 摘されたとしましょうOその場合、 その時々の大きさの絶対値はもち ろん、増大傾向がないかという トレントも把握することが大切 ですO胆のうポリープの多くは良 性ではありますが、サイズが年々 大きくなっている場合には、悪 性化(がん化)している可能性 を考える必要がありますOこのよ うに、過去からの変化を見ること で、リスクを早期に察知すること が可能になりますO このように自分の健康データを中 長期で蓄積し、トレントを分析し ていくためには、健康データを 紙で保管するのではなく、デジタ ル化して統合管理することも重 要ですO現代では、PHR (パー ソナル・ヘルスケア・レコード) を活用し、グラウト上に自分の健 康データを保管するのもいいで しょうOこれにより、異なる検査 機関で得たデータや、さまざまな 健康デバイスからのデータも一元 管理でき、より包括的に自分の 健康状態を把握することができ ますO また、トレントを正しく解釈する には、時に専門家の助けも必要 ですO例えば血糖値の上昇も、緩 やかな上昇と急激な上昇では、考 えられる原因やリスクが異なりま すO緩やかな上昇であれば生活習 慣の乱れ等による2型糖尿病など を考えますが、急激な悪化傾向は 1型糖尿病の発症や膵臓(すいぞ う)疾患など重大な病気の可能 性もあるため、専門的な精査が 検討されますOこのような観点か らも、過去データも含め中長期で 自分の健康と向き合ってくれる専 門家を持つことが非常に重要と いえますO 経営においてもデータの絶対値だ けでなく、トレントを把握するこ とは重要ですよねO同じ売上高で あっても、それが昨年と比べ成 長しているのか衰退しているのか によって、対策は大きく異なる でしょうO健康管理も同じ。デー タをしっかり収集・管理し、トレ ントを理解することで、より戦 略的な健康管理が可能になりま す0 3.6商業化する検診業界 にだまされない、賢い人 間ドックの選び方 最近、健康意識の高まりとともに、 人間ドックやがん検査の人気が急 上昇していますO多くの病院や健 診センターが、さまざまなプラン を競い合って提供しているのを目 にして、「どれを選べばいいの か?」と悩む方も多いのではない でしょうかO しかし、商業化が進 む健診業界では、しっかりと自 分に合ったもの・精度の高いもの を選ばなければ、かえって効果的 な健康管理につながらないこと もありますOここでは、賢く人間 ドックを選ぶためのポイントにつ いて詳しく見ていきましょうO 人間ドックを選ぶ際に最も重要な のは、「検査の内容」ですO豪華 な施設やおいしいランチ、快適な 空間などについ目を奪われがちで すが、本当に大事なのはそこでは ありませんOもちろん、検査時の 体験自体が重要であることもいう までもありませんが、健康を守 るというアウトカムを得るために 大切なのは、どのような検査が受 けられ、その結果からどんなフォ ローアップがあるかという点で すO ここで、賢い人間ドック選びのた めのポイントをいくつか挙げてみ ましょうO   検査のカスタマイズが可能か   どうか   標準的な検査プランだけでな   く、あなたの年齢、性別、   家族歴、生活習慣に合わせて   検査内容をカスタマイズでき   る施設を選ぶことが大切で   す。一定以上の喫煙者なら胸   部CT検査を加えるとか、家   族に大腸がんの方が多かった   り一定の年齢を超えたなら大 腸内視鏡検査を追加したりす るなど、個人のリスクに合 わせた検査が幅広く追加でき るかどうかを確認しましょ う。 最新の医療技術を使っている か 医療技術・医療機器は日々進 歩しています。たとえば、最 新のMRI機器を使っている 施設では、より鮮明な画像 が得られ、小さな異常も見逃 しにくくなる可能性があり ます。一方で、高額な検査が 含まれているからといって必 ずしも安心とは言えません。 例えば、全身のPET-CTは特 定の病気のスクリーニングに は有効ですが、すべての人に 必要なわけではなく、場合に よっては被ばくのリスクが ベネフィツトを上回るケース もあります。そのため、 個々に適切な検査内容を見極 めることが重要です。 検査のエビデンスが十分かど うか 検査が最新であることは、一 方でリスクも伴います。 十 分なエビデンスが蓄積されて おらず、検査の有用性や安全 性が十分に証明されていない ケースもあります。例えば、 リキッドバイオプシーという 「血液や尿一滴でがんが分か る」といったキャッチフレー ズの検査が一時期急激に増え ましたが、その多くは精度 に疑問が残り、医師の信頼も 得られず社会問題になった ことがあります。 精度の低 い検査を受けることは、偽陽 性によって無駄な不安を抱え たり、偽陰性によって見逃さ れたりするリスクが高いと いうことを意味します。新し くて気になるからなんとなく 受けてみようと検査を選ぶの は危険な行為になり得ます。 データの継続管理ができるか 一度の検査結果だけでなく、 過去のデータと比較して健康 状態の変化・トレントを見て アドバイスをしてくれる施設 を選ぶと良いでしょう。特に、 デジタルで健康データを管理 し、継続的にモニタリングで きるシステムがあると、過 去のデータと比較して経年変 化を把握するのに非常に役立 ちます。 アフターフォローの充実度 検査後に異常が見つかった場 合、どのような対応をしてく れるのかを事前に確認しま しょう。 精密検査の紹介や 生活習慣の改善アドバイス など、検査後のフォローアッ プがしっかりしている施設を 選ぶことで、より効果的な 健康管理ができます。検査 施設自体でのフォローが難し い場合は、パーソナルドク ターなど外部の専門家と連 携してフォローを受けるの も良い方法です。 価格と内容のバランス 価格が高ければよいというわ けではありませんが、安さだ けで選ぶのも考えものです。 重要なのは、その価格に見 合った検査内容が提供されて いるかどうかです。 自分の 健康リスクに見合った必要な 検査が受けられ、過剰な検査 が含まれていないかを確認 しましょう。 結局のところ、人間ドックの本当 の価値は、個々の健康リスクに 合わせた検査をしっかり取捨選択 し、検査結果を基にした的確なア ドバイスとフォローアップを受け られてこそ発揮されますO周囲 の評判や広告の派手さに惑わされ すぎず、本質的にあなたの健康 管理に役立つ人間ドックサービス を選ぶことが大切ですO 第4章「あなた の”本当 の”体調が分 かる人間ドック の受け方」 4。1人間ドックの歴史 と現状 人間ドックは、多くの人にとって 重要な定期的な健康状態確認の機 会ですO しかし、その結果判定 に対する過信や、人間ドックの 気がつきにくい点に気づかず、 活用方法を誤ってしまうヶ−ス が多く見られますOここでは、人 間ドックの歴史と現状の課題に ついて見ていきましょう。  人間ドックの歴史 人間ドックが日本で導入されたの は1954年であり、被保険者の疾 病予防を目的として始まりまし たO当時は、1週間の入院に よって全科的な検査・診察が行わ れていましたO しかし、1959年 には1泊2日の短期検査が普及 し、1970年には半日で実施可能 な自動化健診としてよリスムー ズな形へと変わっていきましたO 日本では「人間ドック」の名称で 広く知られ、普及していく一方、 米国では健康保険制度の違いから このようなシステムは広がりませ んでした。  人間ドックの重要性の変  化 人間ドックが重要視されるように なった背景には、疾病構造の変 化と少子高齢化がありますO戦 前までの日本人の主な死因は結 核などの感染症でしたが、戦後、 生活習慣の欧米化の影響を受けて、 がん・心疾患・脳卒中などの生 活習慣病が主な死因となりまし たOさらに、少子高齢化に伴い。 これらの病気の有病率が高まる ことになりましたO 生活習慣病はサイレント・キ ラーとも呼ばれ、自覚症状が現 れるまでに長いタイムラグがあ りますOそのため、従来の「症 状が出てから病院に行けば良い」 というモデルは通用しなくなり、 症状が出る前に体の状態を検査 で把握し、早期発見・早期治療 を行うことが重視されるようにな りました。  人間ドックの現状の課題 囗本の医療は、国民皆保険制度 に基づき、平等な医療を提供す ることを重視しています。人間 ドックもこの考えを継承し、全 員が同じ検査を受けるモデルが 一般的ですO頻度の高いがんや生 活習慣病のマーカーを中心に検査 が行われ、これはポピュレー ション・アプローチと呼ばれま すO限られたコストでより多くの 人の課題を拾い上げるという点で は、有効な施策ですO しかし、個々の健康リスクを最小 化するためには、一般的な検査 だけでは不十分ですO自分や家 族の病歴、生活習慣、過去の検査 データをもとに、リスクの高い 疾患に合わせたパーソナライズさ れた検査を選ぶことが必要ですO このような方法をハイリスクア プローチといいますO また、指定された検査を毎年受 けるモデルは、国として最大多数 の幸福を実現するためのコスト 効率の良いアプローチですが、 個々のリスクを最小化するには限 界がありますO したがって、 パーソナライズされたアプローチ とポピュレーション・アプロー チの区別が必要ですO さらに、人間ドックは早期発見 を目的としていますが、発症予 防や健康寿命の延伸ば必ずしも 主目的ではありませんO異常がな ければA判定とされ、より健康 な期間を維持するための助言は 少ないのが現状です。  人間ドックの限界と未来  への対応 人間ドックや一般健康診断は、国 や自治体によってその内容が規定 されるケースが多く、変化への 適応が遅いという問題もありま す。疾病構造は大腸がんや膵臓 がんの増加など、ここ数年で大 きく変化していますが、ガイド ラインの見直しは追いついていま せん。そのため、自分自身で最 新の疾病トレントを理解し、適 切な検査を選ばなければ、重大な 病気が見逃されるリスクがありま す。 この章では、今後人間ドックを受 ける際に、どのような点に注意 すべきかを最新のデータも元に 紹介していきます。 4.2最適な人間ドック 項目の選び方 人問ドックは、ただ毎年漫然と受 ければ良いというものではありま せんO あなたの健康状態、生活 習慣、そして家族歴などのデー タに基づいて、最適な検査項目 を取捨選択することが重要ですO ここでは、自分に合った人間 ドック項目の選び方について詳 しく見ていきましょうO  1.自分の健康リスクを正  しく知る まず第一に、自分の健康リスク を正しく把握することが大切で す。健康リスクは、年齢・性別・ 過去の病歴・家族の病歴(遺伝 性)・生活習慣や居住環境など、 多くの要因で変化します。例えば、 がん家系の人と血管疾患家系の 人では、重点的に調べる項目が異 なります。特定のがん(例えば大 腸がんや乳がんなど)の家族歴が ある場合、通常のガイドライン より早期にスクリーニングした 方が良い場合もあります。  2.年々の体の変化に応じ  た検査内容の見直し 第二に、自分の体の変化に応じ て検査内容を見直すことが重要 ですO多くの人は、会社で指定さ れた同じ内容の検査を毎年受けて いますが、年齢や生活習慣の変 化に応じて検査内容も変えるべ きですO例えば、血圧やLDLコ レステロールが悪化傾向にある 場合、心筋梗塞や脳卒中などの リスクが高まっている可能性があ りますOそこで、頸動脈超音波 検査や冠動脈CT検査などを追 加して、血管の状態を評価するこ とが有効ですO 3。検査の精度を考慮する 第三に、検査の精度を理解する ことも大切です。例えば、胃が んの検査には、胃バリウム検査 と上部内視鏡検査があります。 胃バリウム検査の感度は約70% であるのに対し、上部内視鏡検 査は約95%です。コストや体へ の負担を考慮する必要があります が、見逃しのリスクを減らした いなら、上部内視鏡検査を選択 するのが適切でしょうO 最近では、リキッド・バイオプ シーと呼ばれる「血液や尿一滴 でがんが分かる」といった検査 が増えていますO しかし、これら の検査はまだ精度が不十分なもの も多く、偽陽性や偽陰性のリス クが高い場合もありますO実際 に、特異度が低い検査によって 不安を感じる患者が増えたこと もありましたO したがって、検 査の数を増やせば良いというわ けではないのですO 4。検査のベネフィツトと  リスクのバランスを考え  る 第四に、検査に伴うベネフィッ トとリスクのバランスを考える ことが必要ですO例えば、PET- CT検査は全身に放射線を浴びせ てがんや炎症性の病変を検知しま すが、放射線被ばくのリスクや高 額な費用が伴います。「なんとな く受けてみよう」と安易に選ぶの ではなく、自分にとって本当に 必要な検査かをよく考えましょ う。  5.検査の目的を明確にす  る 最後に、「検査はネクストアク ションを決めることに意義があ る」ということを忘れないでく ださい。検査の目的が病気の早 期発見なのか、生活習慣改善の データ収集なのか、将来リスク 分析なのかを明確にして、適切 な検査を選びましょうO最近増え ている「がんリスク検査」などは、 生活習慣改善に役立つかもしれま せんが、病気の早期発見には結 びつかないこともありますO このように、検査を受ける際には、 さまざまな観点を考慮し、自分に 最適な人間ドックを選択すること が重要ですO検査は戦略的に活 用してこそ、意義があるもので すO 4.3人間ドックのよく ある注意点と選択法 人間ドックの内容は、個々の健康 リスクに基づいて最適化する必要 があります。ここでは、具体的な 注意点とそれに対する対応策につ いて説明しますO 囗契煙者のハイリスク疾患 喫煙は肺がんやCOPD(肺気腫) など肺に大きな影響を与えること はよく知られていますが、喫煙 者は特に注意すべき検査項目が あります。   Brinkman Index (ブリンク   マン・インデックス)という   指標があります。「1日の喫   煙本数」×「喫煙年数」で計   算され、400以上で肺がんリ スクが高まると言われていま す。 例えば、50歳の男性が20歳 から毎日20本喫煙している 場合、Brinkman Index は 「20×30=600」となり、肺が んのリスクが高まります。胸 部CT検査を定期的に受け、 場合によっては耳鼻科での ファイバー検査も推奨され ます。 膀胱がんのリスクも喫煙で 高まることが知られています。 喫煙者で血尿が見られた場合 には、膀胱がんを疑うべき  です。早期の発見が重要です  ので、血尿が見られたらすぐ  に検査を受けましょう。 2.飲酒習慣がある人のハイリ スク疾患 過度の飲酒が健康リスクを高める ことは周知の事実ですが、脳動 脈瘤(りゅう)との関連はあま り知られていません。 脳動脈瘤(りゅう)の破裂は くも膜下出血を引き起こし、 致死率が40〜50%と非常に 高いリスクを伴います。 過 度な飲酒はこの脳動脈瘤の最 大のリスク因子です。定期 的に頭部MRI/MRAを受け、 脳動脈瘤がないかチェックし ましょう。 飲酒は、肝臓や消化管(咽 頭・食道・胃・大腸)のがん リスクも高めます。定期的な 胃カメラや大腸カメラの検  査を受け、飲酒習慣がある場  合は注意が必要です。  フラッシャー(飲酒で顔が赤  くなる人)は、食道がんのリ  スクが高いことが知られてい  ます。同じ飲酒量でも、フ  ラッシャーは食道がん発症リ  スクが4倍以上に跳ね上がり  ます。定期的な食道がん検査  が特に重要です。 3.日本人に急激に増える膵臓 がん 膵臓がんば早期発見が難しく、進 行してから発見されることが多い ため、予後が非常に悪いですO特 に、家族に膵臓がん患者がいる場 合や肥満・糖尿病の人は、膵臓 がんのリスクが高いですO   膵臓がんの家族歴がある場   合、リスクは約7倍に跳ね   上がります。一般的な腹部超   音波検査では感度が低いため、   膵臓がんの早期発見を目指す   場合は、MRCP (特殊な   MRI検査)を選ぶのが推奨   されます。   膵臓がんのリスクが高い人  は、通常の検査項目に加えて、  このような検査をオプション  で選ぶことが重要です。 4.若年女性の乳がん検査:マ ンモグラフィーVS乳房エ コー 乳がん検診といえばマンモグラ フィーが一般的ですが、若年女 性(20〜30代)には注意が必要 です。 デンスブレスト(高濃度乳 腺)の人は、マンモグラ フィーで乳腺も乳がんも同じ ように白く映るため、異常 が見逃されやすいです。こ の場合、乳腺エコー検査の 方が有効です。若年女性や乳 腺が発達している方は、マ ンモグラフィーではなくエ コーを選択するのが賢明で す。 このように、喫煙、飲酒、家族 歴、体質などによって、それぞ れに適した検査を選ぶことが重要 ですO 全員が同じ検査を受けるだけでは 不十分であり、自分の健康リス クに応じて戦略的に検査を選択 することが、健康管理において 非常に大切ですO 4。4人間ドックの結果 を正しく読み解く 人間ドックを受けた後、多くの方 が結果表を手に「A判定だから 安心」とか「D判定が出たから 大変」といった一喜一憂の反応 をしますO しかし、これでは人 間ドックの本来の目的を果たして いるとは言えませんOここでは、 人間ドックの結果をより深く、正 確に読み解くコツについて説明 します。  1.判定にとらわれない 健康診断や人間ドックは決まっ たロジックに基づいてアルファ ベットで判定が下されますが、 これはあくまで参考程度に留め るべきもので、実際にはより深 くデータを理解する必要があり ますO A判定だからといって健 康であることを保証するわけでは ありませんOまた、C判定だか らギリギリセーフという解釈は、 将来的に大きな後悔を生む可能 性がありますO 例えば、LDLコレステロールの 正常範囲は140未満、HDLコレ ステロールの正常範囲は40以上 とされるケースが多いですOつま り、LDLコレステロールが139、 HDLコレステロールが41の場合、 異常ラインを超えていないためA 判定となりますO しかし、近年 ではLDLコレステロール・HDL コレステロールそれぞれの値だけ でなく、そのバランス(L/H比) が非常に重要とされており、2.0 未満が理想とされていますOこ の場合、L/H比は約3.4となり、 非常に動脈硬化リスクが高いこ とになりますO また、検査項目が少ないほどA 判定が出やすいということも理 解しておく必要がありますO人間 ドックでは、総合判定を見るだ けでなく、一つ一つのデータを深 く観察することが重要ですO 2。過去データとの比較:  トレントを見る重要性 自分の健康状態を正確に把握し、 健康寿命を延ばすためには、過去 のデータとの比較が非常に重要 ですO 一回の検査結果だけを見 て安心するのではなく、過去の データと比較してトレントを捉え ることで、病気の予防や早期発 見に役立てることができます。 例えば、血糖値が年々上昇傾向 にある場合、まだ正常範囲内で あっても糖尿病へのリスクが考 えられますO判定がAであって も、過去からの悪化傾向を見逃 さずに課題に気づくことが重要 ですO また、トレントを見ることで発 症予防だけでなく、重大な病気の 早期発見にもつながりますO例 えば、肥満の悪化に伴う血糖値 の上昇は2型糖尿病の予兆かも しれませんが、急激な血糖値の 上昇は1型糖尿病や膵臓がんな どの可能性を考える必要がありま す。絶対値が同じでも、その数 値に至る経過が異なれば考慮す べき病気も異なるということを 知っておくと良いでしょう。  3.検査の限界を理解する 人間ドックの結果を過信しないこ とも大切です。どんな検査にも 限界があり、偽陽性(実際は異 常がないのに異常ありと判定され る)や偽陰性(実際は異常があ るのに異常なしと判定される)の 可能性は常にありますO 特に、がん検診の精度を理解す ることが重要ですO例えば、マ ンモグラフィーの感度は約80% とされており、20%程度の見逃 しの可能性がありますO検査結 果が陰性でも、定期的な検査や セルフチェックの習慣化、そし て乳腺エコーの併用など、見逃 しを防ぐための複数の対策を考 えることが重要ですO また、検査を受ける際には検査 前確率(検査対象者の有病率) を考慮することが重要ですO 不 要な検査が増えれば増えるほど、 偽陽性や偽陰性のリスクが高まり、 意味のない検査はむしろ害になる 可能性がありますOそのため、 自分に合ったパーソナライズされ た検査を選ぶことが大切ですO ここまで、人間ドックの結果を正 しく理解するための注意点につ いて説明しましたOこれらを踏ま えて、現状の課題や将来のリス クを理解し、それを改善するた めの具体的なアクションを起こ すことが重要です。また、次回 の検査内容を最適化するための情 報として活用することも必要ですO せっかく受けた検査ですから、 そのデータを最大限に活用して いただければと思います0 4.5テクノロジーの活 用 ここまで話してきた限界や注意点 を理解した上でうまく活用するこ とができれば、人間ドックが健 康管理において非常に重要な材料 になることは間違いありませんO しかし、人間ドックはあくまで検 査を受けたその日時点での現在地 を全体的に見るための検査でしか ありませんOそのため、日々変化 する体を可視化するという意味で は年一度の検査では不十分ですO 人間ドックの間の期間の身体デー タを継続的にとるための新しい方 法として普及しつつあるのが、 ウェアラブル・デバイスですo Apple Watch やFitbitのような時 計型のデバイスや、Oura Ring の ような指輪型のデバイスなどさま ざまなものが出てきていますoこ れらのデバイスはもともとは睡 眠時間・歩数などの生活習慣情報 を可視化するためのツールとし て生まれましたo しかし近年では、 転倒の検出機能や不整脈検知の機 能などによって病気の早期発見 にも活用されるようになってき ましたo 特に、発作性心房細動のような 発作的に症状が出るような病気の 場合、人間ドック当日に症状が なかった場合には検査で異常は 指摘されませんOしかし、継続 的に日々のデータをとっていくこ とによって、今まで年一の検査 だけでは捉えられていなかった 疾患の早期発見につながる可能性 がありますO また、スマート体重計などのIoT デバイスをうまく活用して、自 分の身体データを習慣的にとるこ とも非常に有用ですO例えば、 肥満の予防において、毎日体重計 に乗り体重を記録するだけでも体 重減少に寄与するというエビデ ンスがありますO毎日体重に乗っ た数値をノートなどにメモするの は大変ですが、このようなスマー トデバイスを使うことによって、 簡単に日々の身体状況を可視化 することができますO また、検査やデバイスによって 収集されたデータは、一度見るだ けでなく定期的に振り返ることに 意義がありますO今までは紙で もらった結果をファイルなどで保 管するケースが多かったですが、 最近ではPHR (パーソナルヘル スケアレコード)の活用によって、 自分の健康データにいつでもどこ でも簡単にアクセスできるよう な世界が実現しつつありますO これらの新しいテクノロジーを うまく取り入れていくことで、 従来よりもより効率的で戦略的 な健康管理を実現することがで きますO ITは人々の生活を豊か にするために活用されるべきもの でもあるため、ぜひヘルスケアに おいてもどんどん活用していただ けたらと思いますO 第5章「あなた に最適な健康法 を見つける」 5。1健康法は万人に当 てはまるものではない 世の中には数え切れないほどの健 康本があふれていますOテレビや インターネットでも、さまざまな 健康法やダイエット法が紹介され ていますO 「これさえ守れば健 康になれる」「この方法で確実に 痩せられる」といったキヤッ チーな文句に、思わず飛びつきた くなる気持ちはよく分かりますO しかし、ここで一度立ち止まって 考えてみてくださいO 本当にそ の健康法はあなたに合っているの でしょうか? 私は日々多くの患者さんと接する 中で、こう実感していますO 健 康法の正解は一つではないOむし ろ、万人に当てはまる完璧な健康 法などというものは存在しないの ですO なぜなら、私たち一人一人の体質、 生活環境、遺伝的背景は千差万別 だからです。ある人に効果的な方 法が、別の人には全く効果がない、 あるいは逆効果になることさえあ るのです。 例えば、ビタミンAのサプリメ ントの注意点を聞いたことがあり ますか?確かにビタミンAは人 体にとって重要な栄養素ですが、 喫煙者がこのサプリメントを習慣 的に摂取すると、逆に肺がんや膀 胱がんのリスクが高まることが研 究で明らかになっています。 「ビタミンだから体に良いに決 まっている」などと安易に考え て摂取すると、思わぬ落とし穴に はまる可能性があるのです。 また、近年流行しているグルテン フリー食事法についても同様ですO 確かに、セリアック病(グルテン 摂取により誘起される自己免疫疾 患)の人や非セリアック性グルテ ン過敏症(セリアック病ではない ものの、グルテンを摂取すると体 調が悪くなる症状)の人にとって は重要な食事法です。 しかし、日本人でこれらの症状を 持つ人は約1%に過ぎませんO つ まり、99%の日本人にとっては、 あえてグルテンフリーにする必要 はないのですO むしろ、過度に グルテンフリーにこだわることで、 必要な栄養素を摂取できなくなる リスクもあります。 ダイエット法も然りですO糖質制 限、カロリー制限…さまざまな 方法がありますが、どの方法が最 適かは個人によって異なりますO 例えば、尿酸値が高い人が糖質制 限等による急激な減量や高負荷の 筋力トレーニングを行うと、か えって痛風発作のリスクが高まる 可能性があります。 健康法を選ぶ際に最も重要なのは、 まず自分白身の身体の状態を正 確に把握することですOそのた めには、定期的な健康診断や血液 検査が欠かせませんOこれらの データを基に、自分に本当に必要 な健康法を見極めることが大切で すO また、健康法を実践する際は、短 期的な効果だけでなく、長期的 な影響も考慮する必要がありま すO一時期流行した「糖質制限 ダイエット」は確かに短期的な減 量には効果的かもしれませんが、 半年以上続けるとリバウンドして くることが示されています。また、 長期間PFC(タンパク質・脂質・ 炭水化物)バランスが偏った食事 を続けると、必要な栄養素が不足 したり、別の健康リスクが高まっ たりする可能性があります。 さらに、健康法を選ぶ際は、自 分の価値観やライフスタイルとの 柎陸も重要です。いくら効果的 な方法でも、自分の生活リズムに 合わなければ長続きしませんO例 えば、朝が弱い人に「毎朝5時に 起きてジョギングをしましょう」 と言っても、続けられないですよ ねO 健康法には決して「一つの正解」 があるわけではありませんO 自 分白身の体と向き合い、自分に最 適な方法を見つけることが大切で すO ベストセラーの健康本やち またではやっている健康法の情報 は時に役立つこともありますが、 それがどれだけの妥当性のあるも のなのか、また、自分自身にも有 効なものなのかは慎重に判断する ことが重要なのですO 5。2病気発症のメカニ ズムと確率論 「健康な生活を送っているのに、 なぜ私か病気になるのか?」「不 健康な生活を送っているのに、な ぜあの人は元気なのか?」 こういった疑問を持ったことはあ りませんか?実は、病気というの は確率論的に起こるものなので すOこの項目では、病気発症のメ カニズムと確率論について、詳し く解説していきましょうO まず、大前提として理解しておく べきことがありますOそれは、 「完璧に健康な生活を送れたとし ても、病気にならない保証はな い」ということですO逆に言えば、 「どんなに不健康な生活を送って も、必ず病気になるわけではな い」のですO 病気のリスクは、遺伝要因と環 境要因の掛け合わせによって決 まります。交通事故による外傷 (100%の環境要因)やごく一部 の遺伝性難病(100%の遺伝要 因)を除き、ほとんどの病気が遺 伝的要因と環境的要因の両方の影 響を受けて発症するのです。つま り、生活習慣をどれだけ整えたと しても、遺伝的要因によって病気 が起こるリスクは残ります。逆に 家系に全くがんの人がいなかった としても、生活習慣の乱れによっ てがんの発症リスクが高まる可能 性もあるのですO 例として、日本人最大の死因であ るがんについて考えてみましょ う。がんば細胞のDNAに突然変 異が起こり、エラーが蓄積するこ とで発生します。通常、細胞には DNAの修復機能がありますが、 さまざまな要因によってこの機能 が低下したり、突然変異が修復能 力を上回るペースで蓄積したりす ると、がん化のリスクが高まりま す。 ここで重要なのは、DNAの突然 変異自体は確率的に誰にでも起こ りうるということです。つまり、 どれだけ健康的な生活を送ってい ても、運悪く突然変異が発生して しまう可能性はありますし、逆に、 不健康な生活を送っていて細胞に かかるダメージ頻度が多かったと しても、運良く変異が起こらない 可能性もあります。 ただし、ここで誤解してはいけな いのは、「健康な生活を送る意味 がない」ということではありませ んO健康的な生活習慣は、突然 変異の発生確率を下げたり、修復 機能を高めたりする効果があり ます。つまり、健康的な生活を送 ることで、病気になるリスクを0 にはできずとも、大幅に低減す ることはできるのです。 予防医学において重要なのは、 「(発症や重症化の)確率を下げ る」という考え方です。完全に 病気の発症を予防することは難し くても、適切な生活習慣や適切 な頻度・内容での検査によって、 発症の確率を下げたり、重症化し てから発見され手遅れになるリス クを減らしたりすることは可能な のですO ここからは、実際にどのような生 活習慣を送ることが疾病のリスク に関連するかについて見ていきま しょう。 5.3デスクワークが引 き起こす健康リスク 現代社会において、デスクワーク は多くの人々の日常となっていま す。特に都市部のオフィスワー カーや、汀業界で働く人々は、 一日の大半をデスクの前で過ごす ことが当たり前になっているかも しれませんO しかし、このような 働き方が私たちの健康に与える影 響について、十分に認識している 人は少ないのではないでしょうかO 実は、デスクワークは私たちの健 康にさまざまなリスクをもたらし ますOその影響は、単に運動不足 というだけではありませんO 長 時間座り続けることによる血流の 悪化、日光不足によるビタミン D不足、姿勢の悪化による筋骨 格系の問題、長時間PCと対面す ることによるドライアイ・眼精 疲労など、多岐にわたりますO これらの問題は、短期的には気づ きにくいものの、長期的には深刻 な健康問題につながっていくので すO 最も顕著な影響として挙げられる のが、血管系のリスクです。長 時間座り続けることで、下半身の 血流が滞り、下肢静脈血栓症のリ スクが高まります。また、全身の 血流が悪くなり代謝も低下するこ とで、高血圧・脂質異常症・糖尿 病や動脈硬化のリスクも上昇しま す。実際、一日中座っている時間 が長い人は、そうでない人に比べ て心血管疾患や脳卒中のリスク が約2倍になるという研究結果 や、座位時間が2時間増えるご とに死亡率が15%高まるとする 研究結果もありますO 次に注目すべきは、ビタミンD 不足の問題ですOデスクワーク が多い人は、必然的に屋内で過ご す時間が長くなりますOそのため、 日光を浴びる機会が減少し、体内 でのビタミンDの産生量が不足 しがちですOビタミンDは、カ ルシウムの吸収を促進し、骨を強 くする働きがありますが、それだ けではありませんO近年の研究で は、ビタミンD不足が上気道感 染症リスクの増加や、がん、心 臓病、糖尿病などのリスク増加と 関連することが分かってきていま すO さらに、長時間同じ姿勢を保つ ことによる筋骨格系への影響も 見過ごせませんO特に、首や肩、 腰への負担が大きくなりますOい わゆる「ストレートネック」や 「スマホ首」と呼ばれる症状は、 デスクワークの増加と密接に関連 していますOこれらの症状は、単 に部分的な痛みを引き起こすだけ でなく、長期的には脊柱の変形や 全身の慢陸的な痛み、気分障害な どの原因となる可能性がありますO また、デスクワークは目の健康 にも悪影響を及ぼしますO長時 間パソコンやスマートフォンの画 面を見続けることで、ドライアイ や近視の進行、さらには青色光に よる睡眠障害のリスクも高まりま す。 さらに無視できないのが、メン タルヘルスへの影響です。 デスクワークは身体的な問題だけ でなく、精神的なストレスも引き 起こします。同じ環境で長時間作 業を続けることで、ストレスや疲 労が蓄積されやすくなります。ま た、人との直接的なコミュニケー ションが減少することで、孤独感 や疎外感を感じやすくなる可能性 もあります。 これらの問題は、単に個人の健康 問題にとどまりませんO企業に とっても、従業員の健康悪化は 生産性の低下や医療費の増加に つながる重大な問題ですO実際。 アメリカでは座りすぎによる健康 問題が年間100億ドル以上の医療 費を生み出しているという試算も あります。 では、これらのリスクにどのよう に対処すればよいのでしょうかO まず、「意識的に動く」ことを 習慣に取り入れることが大切で す。例えば、1時間に1回は立ち 上がって体を動かしたリストレッ チをしたりする、昼休みに15分 程度の早歩きをする、なるべくエ スカレーターでなく階段を使うな ど、小さな意識でも積み重ねれば 大きな効果が期待できます。最近 では、立ち上がって作業ができる スタンディングデスクや、歩きな がら作業ができるトレッドミルデ スクなども注目されています。 また、デスクワークの合間に外 に出て日光を浴びることも重要 です。ビタミンD不足を防ぐた めには、季節にもよりますが、1 日15〜30分程度の日光浴が効果 的です。ただし、皮膚へのダメー ジを考慮し、強い日差しの時間帯 は避け、必要に応じて日焼け止め を使用すること・適宜保湿を行う ことを忘れないでください。また、 どうしても外出が難しい場合には、 ビタミンDのサプリメントを活 用することも効果的ですO適切量 のビタミンD補充は、上気道感 染のリスクを減らし、骨の健全性 を保つことに寄与してくれますO さらに、座る際の姿勢にも注意 を払いましょう。正しい姿勢を保 つことで、首や肩、腰への負担を 軽減できます。椅子やデスクの高 さを適切に調整し、モニターの位 置も目線よりやや下になるように 設定することが大切です。また、 長時間同じ姿勢を続けないよう、 定期的に姿勢を変える・立ち上が ることも効果的ですO 目の健康を守るためには、意識 的にまばたきをするようにする他、 「20−20−20ルール」を意識し ましょう。これは、20分ごとに 20フィート(約6メートル)先 を20秒間見るというルールですO これにより、目の疲労を軽減し、 眼精疲労を抑制する効果が期待で きますO また、ドライアイの自覚 がある場合には、禁煙・十分な睡 眠・ω3系不飽和脂肪酸(フィッ シュオイルなど)の摂取なども推 奨されますO 最後に、メンタルヘルスケアも 忘れずに。定期的に休憩を取り、 リフレッシュする時間を設けるこ とが大切ですO また、リモート ワークが中心であったとしても可 能な限り同僚や友人とのコミュニ ケーションを大切にし、孤独感を 感じないよう心がけましょう。 デスクワークのリスクは確かに存 在しますが、それは決して対策で きないものではありませんO 自 らの健康リスクのモニタリングと 意識的な行動変容により、これ らのリスクは大幅に軽減すること ができます。 健康的にデスクワークを続けるこ とは、単に個人の健康を守るだけ でなく、仕事の生産性向上にも つながりますO心身ともに健康 であれば、創造性も高まり、より 良いパフォーマンスを発揮できる はずです。デスクワークとのうま い向き合い方をマスターすること は、企業や社会全体に対しても大 きな利益をもたらすでしょう。 5。4糖質制限ダイエッ トの功罪 近年、糖質制限ダイエットが大き な注目を集めていますOテレビや 雑誌、SNSなど、あらゆるメ ディアで糖質制限の効果が喧伝さ れ、多くの人がこのダイエット法 に挑戦しています。確かに、短期 的には劇的な減量効果が得られる こともあり、一時期は「魔法の ダイエット」とまで呼ばれまし た。しかし、糖質制限ダイエット には光と影の両面がありますOこ の章では、糖質制限ダイエットの 功罪について、医学的な見地から 詳しく解説していきましょうO まず、糖質制限ダイエットの 「功」の部分から見ていきましょ うO 糖質制限の最大の利点は、短期 的な減量効果が高いことです。 糖質の摂取を制限すると、体は脂 肪を主要なエネルギー源として利 用するようになります。これによ り、体脂肪の燃焼が促進され、比 較的短期間で体重が減少します。 現代では無意識的に糖質を多く取 りがちですが、これを減らすこと で肥満や糖尿病、心臓病のリス クを下げることができます。ま た、糖質中心の食事を控えること で、血糖値の急な変動を防ぎ、 食後の眠気や空腹感も抑えられま すOこれにより、日々の集中力や 仕事の効率もアップするかもしれ ませんO しかし、ここからが重要です。過 度な糖質制限ダイエットには、看 過できない「罪」の側面も存在 するのですO まず、日々の生活パフォーマン スへの影響が懸念されます。人 間の脳は主にグルコース(糖)を エネルギー源としています。極端 な糖質制限を長期間続けると、脳 の機能に悪影響を及ぼす可能性が あるのです。集中力の低下や気 分の変動、さらには認知機能の低 下などが報告されています。 また、糖質制限によって副次的に 食物繊維の摂取量が減少すること も問題です(炭水化物は、糖質 と食物繊維で成り立ちます)O食 物繊維は血糖の急激な上昇を抑え てくれることに加え、腸内細菌の 餌となり、腸内環境を整えるのに 重要な役割を果たしますO 食物 繊維の不足は、便秘や大腸がんの リスク上昇につながる可能性も 指摘されていますO さらに、糖質制限に伴って、糖質 を減らす代わりに、肉や魚、卵 などの動物性タンパク質や、チー ズやバターといった動物性脂質を 多く取ることになる点も注意が 必要ですo特に、動物性タンパク 質や飽和脂肪酸の過剰摂取は、 心臓病や腎臓病のリスクを高める 可能性がありますo実際、長期 的な糖質制限ダイエットと心血管 疾患リスクの上昇との関連を示す 研究結果も報告されていますo 糖質制限ダイエットはリバウン ドのリスクも高いという点も見 逃せませんo New England Journal of Medicineに2008年に掲載され た論文『Weight Loss with a Low- Carbohydrate, Mediterranean, or Low-Fat Diet』において、糖質制 限食は最も短期で大きな減量効果 を示した一方で、リバウンド率 についても他の減量法(地中海食 や脂質制限食)に比べて大きい ことが示されましたo糖質制限に よる減量とリバウンドを繰り返し 体重変動が激しくなることは、 体のさまざまな臓器に負担をかけ る可能性がありますo また、糖質制限ダイエットを行う 際、多くの人が赤肉の摂取量を 増やす傾向にありますo しかし、 赤肉の過剰摂取は大腸がんのリス クを高めることが知られていま す。世界がん研究基金は、赤肉の 摂取量を週300〜500g以下に抑え ることを推奨していますO さらに、極端な糖質制限は体内 の水分バランスを崩す可能性が あります。糖質1gあたり約3gの 水分が体内に貯蔵されるため、糖 質摂取量を急激に減らすと、体内 の水分量も減少しますOこれによ り、脱水症状やめまい、頭痛な どの不快な症状が現れることが あります。 糖質制限ダイエットは、特定の疾 患を持つ人にとっては危険な場合 もありますO例えば、腎臓病や 肝臓病の患者さんが高タンパク 質・高脂質の食事を続けると、病 状を悪化させる可能性がありま すOまた、妊婦や授乳中の女性、 成長期の子どもたちにとっても、 栄養バランスの観点から糖質制限 は推奨されませんO では、糖質制限ダイエットをどの ように考えればよいのでしょうかO まず重要なのは、極端な糖質制 限ではなく、適度な糖質コント ロールを心がけることですO 日 本人の平均的な糖質摂取量は総力 ロリーの約60%ですが、これを 50%程度に抑えるだけでも、多く の人にとって十分な効果が得られ ます。また、糖質の「質」にも 注目しましょうO精製された糖質 (白米、白パンなど)よりも、全 粒穀物や豆類、野菜などに含ま れる複合糖質を中心に摂取するこ とが望ましいです。これらの食品 は、糖質だけでなく食物繊維やビ タミン、ミネラルなども豊富に含 んでいますO さらに、糖質制限に偏重するので はなく、バランスの取れた食事 を心がけることが大切です。地 中海式食事法などが良い参考にな るでしょうOこれは、野菜や果 物、全粒穀物、豆類、魚介類を中 心とし、適度に赤身肉や乳製品 を取り入れる食事法ですO多くの 研究で、地中海式食事法が心臓病 や糖尿病、がんなどのリスクを低 減することが示されていますO 最後に強調したいのは、どんな ダイエット法も、個人の体質や生 活スタイル、既往歴などに合わせ てカスタマイズする必要がある ということですO糖質制限ダイ エットも例外ではありませんO自 分に合った方法を見つけるために は、専門家のアドバイスを受けな がら、自身の体の反応を注意深く 観察し、適宜修正していくことが 大切ですO 健康的な減量とは、単に体重を減 らすことではありませんO 栄養 バランスを保ちながら、持続可能 な方法で体脂肪を減らし、筋肉量 を維持または増加させ、さまざま な疾病リスクの低下につながるこ とが理想的ですOそのためには、 適度な運動と、バランスの取れた 食事はもちろん、自分の健康状 態を正確に可視化しながら状況に 応じて習慣を微修正していくこと が不可欠です。 5.5グルテンフリーの 誤解と真実 近年、「グルテンフリー」という 言葉を耳にする機会が増えてきま した。スーパーマーケットの棚に は「グルテンフリー」と表示され た商品が並び、レストランではグ ルテンフリーメニューが用意され ています。多くの人が「グルテン フリー」を健康的な食生活の象徴 のように捉えているようです。し かし、この「グルテンフリー」 ブームには、多くの誤解と真実が 混在していますOこの章では、グ ルテンフリーについて、医学的な 観点から詳しく解説していきま しょう。 まず、グルテンとは何かから説 明しましょうOグルテンは小麦、 大麦、ライ麦などに含まれるタン パク質の一種です。パンやパスタ などの食感や弾力性を生み出す重 要な要素であり、多くの加工食品 にも使用されています。 グルテンは小麦などに含まれるた んぱく質で、セリアック病やそ の類似疾患を持つ人にとっては確 かに有害です。しかし、日本人 でセリアック病と診断される人は、 人口の約0.1%未満と非常にまれ です。欧米では1%程度と言われ ていますが、それでも決して多く はありません。これらに該当しな い人々にとって、グルテンフ リー食は特に問題ではありませ ん。 では、なぜこれほど多くの人がグ ルテンフリーダイエットに注目し ているのでしょうか? その理由の一つは、「非セリ アック性グルテン過敏症」という 状態の存在ですOこれは、セリ アック病ではないものの、グルテ ンを摂取すると腹痛や下痢、頭痛 などの症状が現れる状態を指しま すOしかし、この状態の診断基準 はまだ確立されておらず、その 実態には不明な点が多いのが現状 ですO また、グルテンフリーダイ エットを始めると体調が良くなっ たという「個人の成功例」が、 メディアやSNSを通じて広く伝 わったことも、このブームの一因 と言えるでしょう。 しかし、ここで注意が必要です。 グルテンフリーダイエットを始め て体調が良くなったという人の多 くは、単にグルテンを避けただけ でなく、全体的に食生活を見直 した可能性が高いのです。加工 食品や甘いものを控え、野菜や果 物を多く取るようになれば、それ だけで体調が改善することは十分 考えられます。さらに、プラセ ボ効果の可能性も否定できませ んO「健康に良い」と信じて始め たダイエットで、心理的に前向き になり、結果として体調が良く なったと感じる可能性もあるので すO ここで、グルテンフリーダイ エットの問題点についても考え てみましょうO まず、栄養面での懸念がありま す。精製されていない小麦食品は、 多くの人にとって重要な栄養源で す。ビタミンB群、鉄、食物繊 維などの重要な栄養素を含んでい ますOこれらを単に避けるだけで は、栄養不足に陥る可能性があ りますO また、グルテンフリー食 品には食物繊維が不足している ことが多く、腸の健康や血糖ス パイクへの影響を考えるとデメ リットもありますO そして、最も重要な点は、不必 要なグルテン制限が、かえって体 に悪影響を与える可能性がある ということですO グルテンを含む 食品を避けることで、体がグルテ ンに対する耐性を失う可能性があ りますO また、グルテンフリーを 実践することで冠動脈疾患や2 型糖尿病のリスクが高まる可能 性があることを示す研究結果も出 てきています。 グルテンフリー食は、特定の 人々にとっては非常に重要です が、大多数の人々にとってはほと んど効果は期待できませんOグル テンフリーがダイエット(減量) に良いと勘違いされているケース もありますが、これも研究で否定 されていますO 健康的な食生活とは、特定の食 品を完全に排除することではなく、 個々の健康リスクを踏まえながら もさまざまな食品をバランス良く 摂取することですOグルテンを含 む全粒穀物は、多くの重要な栄養 素を含んでおり、適度に摂取する ことで健康に寄与する可能性が高 いのですO 最後に、どのようなダイエットや 食事法を選択する場合も、自分 の体調をよく観察し、必要に応じ て医療専門家に相談することが 重要ですO一人一人の体質や生活 スタイルは異なりますO 自分に 合った、持続可能な食生活を見つ けることが、真の健康への道な のですO 5。6インターミッテン ト・フアスティングの 活用法 近年、健康や減量の方法として注 目されているのが「間欠的断食 (インターミッテント・フアス ティング)」です。この方法は、 特定の時間帯のみ食事をし、それ 以外の時間を断食するというもの ですO単なるカロリー制限とは異 なり、食事のタイミングに焦点 を当てる手法で、多くの人に取 り入れやすいことから人気を集め ていますO インターミツテント・フアスティ ングの基本的な考え方は、1囗の 中で「食事をする時間帯」と 「断食をする時間帯」を設定する ことですO一般的な方法には、 16時間の断食と8時間の食事可 能時間を設定する「16:8法」、 週5囗は通常の食事をし、残りの 2囗は摂取カロリーを大幅に減ら す「5:2法」、1日おきに通常の 食事と低カロリーの食事を交互に 行う「隔日断食」などがありま す。これらの中で、最も一般的で 実践しやすいのは「16:8法」で す。 例えば、正午から午後8時までの 8時間を食事可能時間とし、それ 以外の16時間は水やお茶などカ ロリーのない飲み物のみを摂取す るという方法がよく採用されてい ます。この方法は、多くの人の生 活リズムに合わせやすく、実践し やすいという利点があります。 インターミツテント・フアスティ ングが注目される理由の一つは、 その潜在的な健康効果です。研 究によると、体重減少、インス リン感受性の改善、細胞の修復 促進、炎症の軽減、脳機能の改 善などの効果が示唆されていま す。さらに、動物実験では寿命 延長の可能性も示されています。 人間における長期的な効果につい てはまだ十分に解明されていませ んが、アンチエイジングの観点で もポジティブな影響をもたらすか もしれません。 しかし、これらの潜在的な効果が 魅力的であっても、インターミツ テント・フアスティングがすべ ての人に適しているわけではあり ません。妊娠中や授乳中の女性、 成長期の子どもや青少年、治療中 の糖尿病患者、摂食障害の既往歴 がある人、高齢者や体力が弱って いる人、特定の薬を服用している 人、筋力増強が必要なアスリート などは、この方法を避けるか、 医師の指導のもとで行う必要が あります。 健康な成人であっても、インター ミツテント・フアスティングを始 める前には注意が必要ですOまず、 いきなり長時間の断食を始めるの ではなく、徐々に断食時間を延ば していくことが重要ですO また、 断食中七十分な水分を摂取し、 食事可能時間内でもバランスの 取れた食事を心がけることが大 切ですO食事可能時間になると、 つい食べ過ぎてしまうことがあり ますが、これでは効果が半減して しまうため、適量を守ることが 求められますOさらに、適度な 運動と組み合わせることで、よ り効果的な結果が期待できますが、 断食中の高強度の運動は避けるべ きですO 具体的な実践例として、朝食を取 る習慣がない方や夜の会食が多い 経営者は、午前中は水やブラック コーヒーのみで過ごし、12時か ら20時までを食事可能時間とす るスケジュールが考えられます。 この時間帯にバランスの取れた昼 食と夕食を取ります。インター ミッテント・フアスティングを始 める前に、自分の健康状態を把 握し、必要に応じて医師に相談す ることをお勧めします。特に開 始してすぐの期間は空腹感や頭痛、 消化器系の不調などをきたすこと もあるため、自分に合ったスタ イルが見つかるまでは専門家の意 見を参考にしましょうO 従来は朝食をしっかり食べる1 日3食の生活リズムこそ正義だ と考えられてきましたが、人に よっては間欠的断食を取り入れる ことが体重維持やさまざまな疾 病の予防に効果的であることが 分かってきましたO価値観やワー クスタイルが多様化し均一な生活 リズムを実践することが非常に難 しくなっている現代において、こ れは朗報です。ぜひうまく日々の 生活の中に取り入れてみてくださ い0 5.7脂肪吸引の危険性 と正しい理解 美容外科医療の発展に伴い、脂肪 吸引手術が多くの人々の注目を集 めていますO特に、ダイエットや 運動で思うような結果が得られな い人々にとって、脂肪吸引は魅力 的な選択肢に映るかもしれませんO しかし、この手術には多くの人 が認識していない危険性が潜ん でいます。 脂肪吸引とは、皮下脂肪を物理的 に除去する美容外科手術です。通 常、麻酔下で皮膚に小さな切開を 入れ、カニューレと呼ばれる細い 管を挿入し、真空吸引によって脂 肪を取り除きます。主に腹部、太 もも、腰、二の腕などの部位で行 われるこの手術は、一見すると即 効性のある魅力的な方法に思える かもしれません。 しかし、脂肪吸引にはさまざまな リスクと問題点が存在しますO まず、これは外科手術であるため、 感染症、出血、麻酔による ショック、血栓症などの合併症 のリスクがあります。特に、大 量の脂肪を一度に吸引すると、循 環系に深刻な影響を与える可能性 があります。 さらに、手術後の見た目の問題も 無視できませんO 皮膚のたるみ や凹凸が生じる可能性があり、 特に大量の脂肪を吸引した場合や、 皮膚の弾力性が低下している高齢 者の場合、この問題が顕著になる ことがありますOまた、局所的な 脂肪除去であるため、体全体の バランスを崩す可能性もありま すO 脂肪吸引の最大の問題点の一つ は、中長期で疾病リスクを高め る可能性があることですO脂肪 吸引は皮下脂肪のみを対象とし ており、内臓脂肪には影響を与え ませんO 内臓脂肪こそが多くの 疾病リスクと関連しているため、 脂肪吸引によって皮下脂肪細胞だ けを大量に除去することは、リバ ウンドをした際に内臓脂肪がより 増えやすくなることにつながり得 ます。 例えば、ある40代の男性経営者 は腹部の脂肪吸引を受け、一時的 に体形が改善しました。しかし、 その後の不適切な食生活と運動不 足により、1年後には元の体重に 戻っていました。さらに悪いこと に、内臓脂肪CT検査の結果、 内臓脂肪の割合が増加している ことが判明しましたO皮下脂肪の 減少により見た目は以前より痩せ て見えるものの、実は健康リスク がむしろ高まっていたのですO このような事例は、脂肪吸引が 決して「簡単な解決策」ではない ことを示していますO脂肪吸引は あくまで部分的なボディライン を整えるために活用すべきであ り、減量のために大量の脂肪吸 引を行うのは長い目では自殺行為 になりうると言えるでしょうO 脂肪吸引に興味がある方は、手 術のリスクや限界を十分に理解 し、その上で専門の医師と十分 に相談することが重要ですO健 康的な体形を維持するためには、 バランスの取れた食事と適度な 運動が基本であり、脂肪吸引は その補完的な手段として慎重に考 慮するべきですO 第6章「その健康 法、本当に合つて いますか曷 6.1見た目と健康度は 必ずしも一致しない 日常生活で、私たちはついつい外 見から人の健康状態を判断しがち です。痩せている大を見れば「健 康的だ」と感じ、少しふくよかな 大を見ると「もう少し健康に気を つけた方がいいのでは」と思って しまうことがあるでしょう。 しかし、実際には見た目と健康 度は必ずしも一致しません。こ の誤解が、自分自身の健康管理に おいても大きな落とし穴になるこ とがあります。 まず、「痩せていることが健康の 証とは限らない」という点を考 えてみましょうo確かに、極端な 肥満はさまざまな健康リスクを伴 いますが、痩せているからと いって必ずしも健康とは言えない のですo最近では「隠れ肥満」と いう概念が注目されています。こ れは、見た目は痩せているのに、 体の中には過剰な脂肪、特に内臓 脂肪が蓄積している状態を指しま す0 40代の男性Oさんの例を見てみ ましょう。Oさんは身長175cm、 体重70kgで、一見すると標準的 な体型に見えました。 しかし、詳しく検査をしてみると、 内臓脂肪が基準値を大きく超えて いたのですO彼は「外見的にも 痩せているから大丈夫」と思い込 み、食事や運動に無頓着でしたO その結果、血糖値や中性脂肪の 値が危険なレベルまで上昇して しまっていたのですO このような「隠れ肥満」の状態を 把握するためには、単に体重を測 るだけでは不十分ですO 体脂肪 率の測定や、さらに詳細には内臓 腹部CTスキャンなどの検査が必 要ですOまた、内臓脂肪の蓄積 の結果として上昇しうる血圧・脂 質・血糖といった数値を確認する ことも重要ですO 健康状態は外 見で判断するのではなく、科学的 なデータに基づいて評価すること が不可欠ですO 一方で、少しふくよかな、いわゆ る「ぽっちゃり」した体型の方が 実は健康的である可能性も指摘さ れていますOある大規模な疫学調 査では、BMIが23から25の範 囲(日本の基準では「標準」の上 限から「肥満」の下限にあたる) の人たちが、最も死亡リスクが低 いという結果が出ていますO また、筋肉量も見逃せない要素で すO体重が標準でも、筋肉量が少 なく体脂肪率が高い「隠れ肥満」 の状態は、さまざまな健康リスク を伴いますO逆に、筋肉量が多い アスリートのような人たちは、 BMIだけで見ると「肥満」と判 定されることがありますが、実 際の健康状態は非常に良好ですO 健康を評価する際には、体重や外 見だけでなく、体脂肪率、筋肉量、 血液検査など、さまざまな健康指 標を総合的に見ることが必要で すOこれらのデータを定期的に測 定し、その変化を把握し続けるこ とが、真の健康管理につながりま すO 兌たμと健康度は必ずしも一致し ないーこの事実を忘れずに。 6.2年齢と健康の誤解 を解く 年齢と健康の関係について、多く の人が誤った思い込みを持ってい ます。  「若いから大丈夫」「年だから仕 方ない」といった考え方です。 しかし、こうした思い込みは、 健康管理において大きな落とし穴 になりかねません。私のパーソ ナルドクターとしての経験からも、 これらの誤解が重大な健康問題を 引き起こす場面を数多く目にして きました。 まず、「若いから病気にならな い」という考えは大きな間違い ですO もちろん、加齢とともに疾患のリ スクは高まりますが、若いからと いって健康に無関心でいると、 予想外の健康問題に直面するこ とがあります。 例えば、28歳の汀起業家の例を 挙げましょうO彼は「若いからど れだけ無理をしても問題ないだろ う」という過信から、毎日3時間 睡眠で、ほぼ毎日のように深夜ま での会食を続けていました。 数週間前から起床時や空腹時に強 い腹痛を自覚していましたが、日 中の隙間のないアポイントと夜の 会食に翻弄され、病院を受診する 時間を作れずにいました。 ある囗の朝、大量の吐血と下血 でベッドが真っ赤に染まっている ことに気づき、朦朧とした意識と ふらつく体でなんとか救急車を呼 ぶことができました。 診断は消化管穿孔O十二指腸潰 瘍からの大量の出血による重度の 貧血と、消化管穿孔による腹膜炎 を起こしていることが判明し、入 院期間は約2ヶ月に及びましたO 消化管穿孔の致死率は約30%と 言われますので、まさに生死の 境目を彷徨ったと言えるでしよ うOまた、入院期間中、彼の会社 のほとんどの機能がストップして しまったことは言うまでもありま せん。 若さは健康を守る万能の盾ではな いということを如実に物語るエ ピソードです。 一方、「年だから仕方ない」とい う考え方もまた、大きな誤解ですO 確かに年を重ねることで体に変化 は起こりますが、適切な予防策 と管理を行うことで、老化の影響 を大きく軽減することができる のです。 60代の元アスリートでもある経 営者の方がいますが、彼は定期的 なメディカルチェックは勿論、毎 日のルーティーンとしての運動と 食事管理を徹底的に行うことで、 30代の平均的な人よりも良好な 体力と健康状態を維持していま すO 年齢を重ねるごとに一部臓器の機 能が低下することは確かですが、 適切な対策をとることでその進行 を遅らせることは可能ですO 健康管理において大切なのは、 年齢に関係なく、自分の体の変化 に常に敏感であることです0 20代や30代の若い頃から定期的 な健康チェックを行い、年齢に応 じた適切な検査項目を選びながら、 経年変化を見ていくことが重要で すO これにより、潜在的な健康リス クを早期に発見し、予防的に対処 することができますO さらに、どの年齢でも持続する 体調の変化はすぐ専門家に相談す るべきですO  「若いから」「年だから」と安易 に片付けず、適切な医療の評価 を早期に受けることが重要ですO 同じ症状であっても、年齢や健康 状態によって想定される原因は 様々であり、過去の経験や周囲 の意見に惑わされると誤った解釈 をしてしまう可能性もありますO 健康は年齢だけで決まるものでは なく、日々の選択と行動の積み 重ねです0 20代であっても不健康な生活を 続けていれば問題が生じますし、 80代であっても適切なヶアと生 活習慣を維持すれば、活動的で充 実した日々を送ることができますO 年齢は確かに一つの重要な要素で すが、それは健康管理の指標の一 つに過ぎませんO 個々人の遺伝的背景、生活環境、 習慣、そしてその時々の健康状態 を総合的に考慮し、パーソナラ イズされた健康管理を行うことが、 本当の意味での健康長寿につな がります。 6。3連続的な老化と非 連続的な老化を理解す る 健康的な老後を迎えるためには、 老化のプロセスを正しく理解する ことが非常に重要です。特に、 「連続的な老化」と「非連続的 な老化」の2つの概念を把握し、 それぞれに適切に対処することが、 健康長寿の鍵となりますOここで は、これらの概念の違いと重要性 について詳しく説明します。 まず、連続的な老化と非連続的 な老化とは何かを明確にしま しょうO   連続的な老化は、私たちが   一般的にイメージするような   老化です。これは、時間の   経過や生活習慣の乱れととも に徐々に進行する変化で、 しわやたるみ、筋力や柔軟性 の低下、視力や聴力の衰え、 代謝の低下などが含まれます。 年をとったり紫外線などの外 部刺激で体が酸化することで、 ほぼ必然的に起こる連続的な 変化です。 一方、非連続的な老化は、 重大な健康イベント等による 急激な細胞老化・細胞死を 指します。ある囗突然起こる 心筋梗塞や脳卒中などにより 血流が途絶え、栄養を失った   細胞が突然死んでしまうケー   スがこれに該当します。 多くの人は、連続的な老化にば かり注目しがちですO多くのア ンチエイジング製品やサービスも、 主にこの連続的な老化を対象とし ています。 しかし、私の綛験上、非連続的 な老化への対策が非常に重要であ ることを痛感しています。 例えば、ある55歳の経営者の例 を見てみましょうO彼は見た目を 若く保つために高額なアンチエイ ジング治療を複数受けていました が、定期的な人間ドックや食習 慣の見直しなど基本的な健康管理 を軽視していましたOある囗突 然心筋梗塞で倒れ、一命は取り留 めたものの、長期間の入院が必要 となり、後遺症を抱えてしまい、 従来のようにアクティブに活動す ることができなくなってしまいま したO彼は、見た目を気にする 前に、体の内部の健康状態にもっ と目を向けるべきだったと後悔 することになったのですO もし彼が非連続的な老化のリス クにもっと注意を払っていれば、 この事態は避けられたかもしれま せんO そもそもの健康の土台として、 非連続的な老化の予防にまず力を 入れることが重要です。 その上で、より良い人生を送ると いう観点から、連続的な老化対 策もバランスよく行うことが、 本当の意味での「アンチエイジン グ」です。 そして、戦略的に老化と戦うため には、自分の体の中身をデータ によって可視化することが不可 欠ですO 経年的に自らの健康情報をトラッ キングしていくことで、自分の 各臓器の連続的老化がどれくらい 進んでいるか、非連続的老化のリ スクとなりうる兆候が隠れていな いかを早期に捉えることができ ますO 分かりやすい外見や体調だけに目 を向けるのではなく、体の内部 の状態を適切に把握しながら、 連続的老化と非連続的老化の両方 を防ぐことが重要なのですO 6。4食材と栄養素の違 いを正しく理解する 多くの人が「この栄養素が良い」 と聞くと、その栄養素を多く含む 健康食品やサプリメントを積極的 に摂取しようとします。しかし、 それが必ずしも効果的であるとは 限りませんOここでは、食材と して栄養素を摂取することと、栄 養素を単体で摂取することの違い、 さらに食材を加工することによ る変化について見ていきましょ う。 例えば、リコピンを例に挙げて みますO リコピンはトマトに豊富 に含まれ、抗酸化作用があり健 康に良い成分という情報が広まっ ていましたO しかし、リコピンを抽出してサ プリメントとして単体で摂取して も、病気の予防や死亡率の低下に は効果を示さないことが判明し ましたO 一方、トマトをそのまま食べる こと自体は一定の健康効果が見 込めますが、必ずしもその成分を 単体で摂取することが体に良いと は限らないのですO この事例は、栄養素を単体で摂 取することと、食材として摂取す ることが全く異なることを示し ていますO トマトにはリコピン以 外にもビタミンC、カリウム、 食物繊維などが豊富に含まれて おり、これらの栄養素が複合的 に作用することで健康効果が発揮 される可能性がありますO また、食材はその食べ方によっ ても健康効果が異なることがあ りますO 例えば、生の果実をそのまま食 べることは肥満や2型糖尿病のリ スクを下げることにつながりま すが、100%果汁のジュースにし て飲んだ場合にはむしろこれら のリスクが高まりますO 果汁100%ジュースと聞くと健 康的な印象を抱きがちですが、 食物繊維を含む果実を食べること と、精製されたジュースを飲むこ とは全く異なる行為なのですO 加工肉についても同様のことが言 えますO加工肉は、高塩分であ ることや保存料の使用など、 様々な影響を受け、純粋な赤肉 と比較しても肥満、高血圧、発が んのリスクが高まる可能性が指 摘されていますO もちろん、少量の加工肉を食べ ることが短期的に人体に悪影響を 及ぼすわけではありませんが、 習慣的な摂取は体への負荷とな るため、できるだけ避ける方が良 いでしょうO 人の生活を便利にする加工技術に は良い面もありますが、それに 伴って健康リスクも多少なりと も高まるという事実は無視でき ませんO このように、食材の摂取方法や 加工方法によって栄養素の働きが 変わることを理解することが、 健康的な食生活を送るために非常 に重要です。 単体の栄養素に過度に依存せず、 バランスの良い食事を心がける ことが、長期的な健康維持につな がるのですO 第7章「医師が やってる毎日の ちよつとした健康 習慣」 7。1年2回の定期的な 検査とデータ活用 私は医師として、定期的に健康 データを確認することの大切さを 感じていますOここでは、どうし て定期的な健康チェックが重要な のか、そして具体的にどのように 行えばいいのかを分かりやすく説 明します。 まず、私か実践している健康管理 の方法を紹介しましょうO私は1 年に2回、健康診断を受けていま すOただし、毎回すべての検査 をするわけではありません。例え ば、血液検査や血圧のチェックな ど非侵襲的な検査は半年に1度 行いますが、レントゲン検査や CT/MRI検査は年に1回程度です。 これは、体への負担を最小限に しつつ必要十分な情報を得るため です。 血液検査を半年に1回行う理由は、 新しい問題が起きていないかを定 期的に確認することはもちろん、 直近の生活習慣の積み重ねが体に どのような影響を及ぼしているか を確かめるためですO 血液検査 は、体のいろいろな部分(各臓 器)の状態や機能を客観的に知る 手がかりになりますO前回から のトレントも踏まえながら現在の 生活習慣に課題がないかを定期的 に振り返り、健康管理のPDCA を効果的に回すために活用してい ます。 ただし、健康データの改善を極 端に追い求めすぎると、かえって ストレスになってしまうこともあ りますO健康管理は、より良い 人生を送るための手段ですので、 健康データを改善すること自体が 目的になってしまわないよう注意 しましょう。現状や直近のトレン トを正確に把握した上で、理想の 人生とのギャップが生じていない かを確認し、持続可能な方法で 戦略を立て維持・改善していくこ とが重要ですO 7。2魚を意識的に取 る:良質なタンパク質 と健康に良い脂質の源 私か日々の食生活で特に気をつけ ているのが、「できるかぎり魚を 食べること」です。医師として の経験や最新の栄養学の研究から、 魚が健康に大きなメリットをもた らすことを実感していますO 魚 は良質なタンパク質を提供するだ けでなく、体に良い脂質もたくさ ん含んでいますO特に青魚に含 まれるDHAやEPAといったオ メガ3脂肪酸は、さまざまな健康 効果が科学的に証明されていますO 魚を食べることには多くの利点が ありますOまず、心臓や血管の 健康を守る効果があることですO オメガ3脂肪酸は血液をサラサ ラにし、血栓ができるのを防ぐた め、動脈硬化の予防に役立ちま すOこれにより、心筋梗塞や脳 卒中のリスクを減らすことにつな がりますO また、DHAは脳内の神経伝達物 質の合成に不可欠な成分で、記憶 力や集中力を高める効果が期待さ れていますOさらに、アルツハ イマー型認知症以外の認知症の予 防にも役立つと言われていますO 年齢とともに衰える脳の健康を保 ちたい方には、特に意識して取っ てほしい栄養素ですO さらに、脂質のバランスを整え る効果もありますO魚を食べる と中性脂肪が下がり、善玉コレス テロール(HDL)が増えること が知られていますOこれにより、 心血管疾患や脳卒中のリスクが低 減し、生活習慣病リスクが総合的 に改善されますO また、フィッシュオイルは目の 健康にも良い影響を及ぼしますO DHAは目の網膜においても重要 な構成成分で、視力の維持に役立 つ可能性が指摘されていますOま た、EPAはドライアイを改善す る効果もあり、デスクワークが 多くドライアイの症状を自覚しや すい方にもおすすめですO 私自身、普段の食事でできるだ け魚を選択するよう心がけていま す。特に一人で食事をするとき は、「魚か肉か」と聞かれれば迷 わず魚を選びます。このちょっ とした習慣を続けることで、さま ざまな疾患リスクが低下してい ます。 魚を食べる方法については、それ ほどシビアに考える必要はありま せんO刺し身、焼き魚、煮魚、フ ライ、どれでも大丈夫です。大切 なのは、定期的に魚を食べるこ とを習慣にすることですO例え ば、青魚には特にオメガ3が多く 含まれていますが、白身魚にも良 質なタンパク質がたくさん含まれ ています。サーモンはDHAや EPAが豊富で、健康に良い選択 です。完璧を目指しすぎず、魚 を習慣的に食べられることを意識 しましょうO もし魚を毎日食べるのが難しい場 合は、フィッシュオイルのサプ リメントを活用するのも一つの方 法です。私も魚を食べていない 日はサプリメントで補っていますO 選ぶ際は、EPAやDHAの含有 量が明確で、無駄なものが含まれ ておらず品質が高いものを選び ましょう。 健康を管理するには、長期的な 視点が大事ですO魚を意識的に 食べる習慣をつけることは、将来 の健康への投資となります。毎日 の食事で魚を意識的に選択する という習慣を築くことで、あな たの健康と生活の質が向上するで しょうO 今すぐに体感できる変 化がなくても、長い目で見れば大 きな違いが生まれますOぜひ今 日からあなたも意識してみてくだ さい。 7。3オリーブオイルの 活用:悪玉コレステ ロール対策 私の日々の食生活で欠かせないの が、オリーブオイルです。特に、 エキストラバージンオリーブオイ ルは血管の健康維持にとても重要 な食材です。 オリーブオイルが健康に良いとさ れる一番の理由は、オレイン酸 というオメガ9系の脂肪酸が豊富 に含まれているからですO オレ イン酸には、悪玉コレステロール (LDLコレステロール)を減らす 効果がありますOまた、オリー ブオイルには抗酸化作用のある ポリフェノールも含まれていて、 体の中の酸化を防いでくれますO 私自身、悪玉コレステロールの数 値が少し気になる水準に入ったと きは、オリーブオイルを積極的 に使うようにしていますOだと えば、サラダにかけたり、パン に塗ったり、料理の仕上げに使っ たりしますOサラダにはオリー ブオイルをかけるだけで、風味が 増し、健康効果も高まりますO パンに塗るときはバターの代わり にオリーブオイルを使うと、より 健康的ですOパスタや魚料理の 仕上げに少し加えるだけでも、味 が引き立ち、健康にも良いですO 料理での使い方も多様ですO オ リーブオイルは炒め物やソテーに も使えますO高温でも比較的安 定しているので、他の植物油より も健康的ですOまた、自家製ド レッシングのベースにオリーブオ イルを使うと、ヘルシーでおいし いドレッシングが簡単に作れま すO最近では、みそ汁に少しだ けオリーブオイルを入れること も試していますOこれで味にコク が出て、満足感が増すとともに、 健康効果も得られますO 和食に オリーブオイルを加えることで、 和食の良さとオリーブオイルの健 康効果を同時に楽しむことができ ますO ただし、注意点もありますO オ リーブオイルは脂質コントロール に有効ですが、脂質であるため カロリーが高いですO 「体に良 いから」と言って取りすぎてしま うと、かえって健康に悪影響を与 える可能性もありますO1囗大さ じ1〜2杯程度にするなど、過剰 摂取にならないための目安を設定 しておくことも重要ですO また、LDLコレステロールが高 くなる原因はさまざまで、生活習 慣だけでなく、遺伝の影響もあり ますO遺伝的な要因が強い場合は、 食事の改善だけでは十分な成果が 出ないこともありますOその場合 は、心筋梗塞や脳卒中予防の観 点から内服薬を開始するなども選 択肢になるため、医師と相談し ながら適切な対策を考えることが 大切です。 オリーブオイルを選ぶ際には、 エキストラバージンオリーブオイ ルがおすすめです。ただし、必 ずしも高価なものを選ぶ必要はあ りませんO 信頼できるメーカー の製品で、自分の好みに合うもの を選ぶと良いでしょう。また、 オリーブオイルは光や熱に弱い ので、暗く涼しい場所で保管し、 早めに使い切るようにしましょうO オリーブオイルには、悪玉コレ ステロールを減らすだけでなく、 体の炎症を抑えたり、血糖値の上 昇を抑えたりする効果もありま すOこれらは、糖尿病や心臓病 などの予防にも役立ちますO 日々の食事にオリーブオイルを取 り入れるときは、他の健康的な 食習慣とも組み合わせることが重 要ですO例えば、地中海式の食 事法では、オリーブオイルを主 な脂肪源にしながら、野菜や果物、 全粒穀物、魚を多く食べ、赤身の 肉を控えめにしますOこの食事法 は、心臓病やその他の病気のリ スクを大幅に減らすことが多くの 研究で示されていますO オリーブオイルの活用は、健康的 な生活を楽しむための一つの方法 ですOぜひ、毎日の食事にオリー ブオイルを取り入れて、長期的 な健康習慣として活用してみて くださいO 7。4季節や生活スタイ ルに応じたビタミンD 摂取:免疫力向上と骨 の健康維持 健康管理の一環として、私はビ タミンDサプリメントを習慣的 に摂取しています。特に10月か ら翌年の5月までの期間は、より 積極的に意識するようにしてい ますOここでは、なぜ現代人に とってビタミンDに注意を払う ことが重要なのか、そしてビタミ ンDの健康効果についてご紹介 します。 10月から5月の夏を除いた期間 にビタミンD摂取が特に重要な 理由は、この期間では囗本にお いて紫外線への暴露量が減少す るからです。冬は気温が下がるた め、長袖の服を着ることが多く、 肌の露出が少なくなることも拍車 をかけますO ビタミンDは皮膚 に紫外線が当たることで体内で生 成されますが、秋から春にかけ ては日光を浴びる機会が減り、自 然にビタミンDを作ることが難 しくなりますO ビタミンDは体にとって非常に 重要な役割を果たします。まず、 上気道感染症のリスクを減らす効 果が示されていますO ビタミン Dは免疫システムをサポートし、 風邪やインフルエンザなど感染症 の予防に役立ちますO特に、寒 くて風邪をひきやすい季節におい ては、ビタミンD摂取を意識す ることが感染症リスクを減らすこ とにつながりますO また、骨の健康を維持するため にもビタミンDは欠かせませんO ビタミンDはカルシウムの吸収 を助け、骨を強く保つ役割があ りますO特に日照時間が短くなる 冬の間は、骨粗しょう症のリス クが高まるため、ビタミンDを しっかり取ることが大切ですO さらに最近の研究では、ビタミ ンDが特定のがんのリスクを低 減する可能性が示されていますO 特に大腸がんや乳がん、前立腺 がんなどに対する効果が報告さ れています。確実なことはまだ言 えませんが、安全性が高いことも 踏まえると、予防策の一つとし てビタミンDを意識する価値は あります。 私の経験から言うと、現代の日本 人はビタミンD不足の人が非常 に多いですO特にデスクワーク が中心で外出の機会が少ない人に とって、ビタミンD不足は深刻 な問題です。ビタミンDが不足 すると、風邪をひきやすくなった り、骨がもろくなることがあり ますO実際、20代や30代の経営 者でも、日中全く外に出ないよう なワークスタイルの方では骨粗 しょう症寸前まで骨密度が低下 している事例も少なくありません。 自分のビタミンDの必要量を知 るためには、血中濃度をチェッ クすることも大切です。ビタミ ンDの数値は通常の健康診断で は測られないことが多いので、 必要に応じて追加で検査を受ける ことをおすすめしますO私自身も 定期的にビタミンDの血中濃度 を確認し、それに合わせてサプ リメントの量を調整しています。 サプリメントを選ぶときのポイン トとしては、市販のマルチビタ ミンにはビタミンDが含まれて いるものの、その量は通常非常に 少ないですO私は、ビタミンD を単体で取ることを推奨してい ますO 目安としては、1日あたり 1000〜2000IU (25〜50マイクロ グラム)を摂取するのが良いで しょうOただし、ビタミンDは 脂溶性ビタミンなので、過剰に 取ると体内に蓄積されてしまうリ スクがありますO 極端に高用量 のサプリメントは避け、必要な量 だけを取るようにしましょうO また、ビタミンDの吸収を良く するためには、適度な脂質と一緒 に摂取することが効果的ですO たとえば、オリーブオイルを 使ったサラダと一緒にビタミンD のサプリメントを取ると、効率よ く吸収されますOさらに、サケ、 イワシ、サンマなどの魚類やシイ タケなどのキノコ類にもビタミ ンDが豊富に含まれていますの で、これらの食品を意識して取る ことも大切ですO 私自身、ビタミンDを取るよう になってから、風邪をひく回数 が減り、体調が全体的に良くなっ たと感じていますO また、ビタ ミンDは心の健康にも良い影響 を与える可能性がありますO冬の 時期に気分が落ち込むことがある 人も、ビタミンDを摂取するこ とが予防につながるかもしれま せんOビタミンDはサプリメン トの中でも有効性に関するエビ デンスが豊富で、安全性も比較 的高いため、医師がおすすめでき るサプリメントといえますO 室内ワークが多い方や風邪を引き やすい自覚がある方、骨密度低下 を指摘された方などは、ぜひビ タミンDを意識的に活用してみ てください0 7.5休肝囗をつくるこ とよりも、1囗あたり の摂取量に注意する 多くの人が「休肝囗」を作って肝 臓を休ませることが大切だと考え ています。もちろん、アルコール を飲まない日を設けることは悪く ありませんOしかし、休肝日を 作るよりも重要なのは、適量飲酒 を心がけることです。「今日はた くさん飲むけど、その分明日は休 肝日にする」といった意思決定を する方もいますが、これは体への 負担を考慮するとあまり良くあり ません。 なぜなら、一度に大量のアルコー ルを摂取すると、胃腸や肝臓と いった臓器に大きな負担がかかる からです。肝臓はアルコールを分 解するために働きますが、その能 力には限りがありますO 一日の アルコール摂取量が一定ラインを 超えると、肝臓が処理しきれず、 結果として肝臓にダメージを与え てしまいますO 大切なのは、1日あたりのピーク 飲酒量を抑えることですOある 研究によると、トータルの飲酒量 を同じとした場合、アルコール 量の多い日と休肝日を交互にとる よりも、適量で毎日アルコールを 摂取していた方が身体へのダメー ジが少ないことが示されていま すOまた、無理に休肝囗を意識す ることによって、反動で飲み過ぎ てしまうリスクもありますO 1日あたりの目安の摂取量として は、日本酒なら1合(180m1)、 ビールなら中瓶1本(500ml)、 ウイスキーならダブル1杯(60 m1)程度を目安にするとよいと 言われていますoこれくらいの量 に抑えられれば比較的体へのダ メージは少なく済みますが、それ 以降は一日量が増えれば増えるほ ど死亡率も高まることが分かって いますoアルコールの代謝能力は 遺伝的要因や体格などによりさま ざまなので一概にはいえませんが、 1日あたりグラス2杯くらいに抑 えると良いでしょうo また、ゆっくり飲むこと・チェ イサーとして水分をよくとること も大切ですO 時間をかけて飲む ことで、アルコールの吸収を緩や かにし、肝臓への負担を軽減で きますO私もお酒を飲むときは必 ず食事と一緒にし、ミネラル ウォーターや炭酸水を交互に飲む ようにしていますO また、飲み会 が終わった後も積極的に水分をと り、睡眠中の脱水を防ぐように 心がけていますOこれは、脳梗 塞などの血管疾患を予防する観点 からも非常に重要ですO さらに、強いお酒を飲む場合は 水やソーダで薄めて飲むのも良 い方法ですOこれにより、アル コールの濃度を下げ、体への刺激 を和らげることができますO例 えば、ウイスキーはストレートよ りも水割りやハイボールにした 方がアルコール血中濃度の急上昇 を防ぎ、肝臓への負担が軽くな りますOまた、濃度の高いお酒は、 咽頭・食道・胃腸などの消化管へ の刺激が強く、消化管がんのリス クを高める可能性もありますO 私も、時々おいしいウイスキーを 楽しむときはストレートやロック を楽しみますが、日常の会食や ホームパーティーではなるべく 薄めて飲むよう心がけていますO アルコールは、人同士のコミュ ニケーションツールにもなりま すし、人生を豊かにするものの 一つだと思います。また、さま ざまな国や地域でこだわりを持っ て作られたお酒にはアートの側面 もあり、非常に興味深いものです。 もちろん、お酒が好きでない人が 無理をして飲む必要はありません が、お酒が好きな人が絶対にやめ た方が良いということもありませ んO ぜひアルコールの及ぼす影 響を理解し、定期的に自分の体の データとも向き合いながら、うま く付き合う方法を見つけていきま しょうO私自身も、生涯お酒を たしなめるよう、データを活用 して日々自分の体をヶアしてい ます(笑)0 7.6週150分の有酸素 運動と週2回以上の筋 トレ 私か日々実践しているのは、 WHO(世界保健機関)のガイド ラインに基づいた週に150分の 有酸素運動と週2回の筋力ト レーニングです。この習慣は、 健康維持と病気の予防に非常に効 果的であることが多くの研究で示 されています。 まず、有酸素運動について説明し ましょう。週150分というと多 く感じるかもしれませんが、1日 に換算すると約20分ですO例え ば、毎日15分の早歩きをするだ けでもかなりの運動になります。 私自身も、毎日15分の早歩きを 2〜3回行うことを習慣にしてい ますOその他にも、休日に犬の 散歩や30分程度のランニングな ども時間が取れた際に行っていま す。有酸素運動はリフレッシュ の観点からも非常に有効ですし、 適度な運動は疲労の軽減(アク ティブ・レスト)にも効果があ りますO 現代では、デスクワークが増え、 車社会が進んでいるため、意識し ない限り有酸素運動は不足して しまいます。そのため、私はこれ をルーティーンに組み込んで実行 することを心がけています。 また、筋力トレーニングも健康 維持において重要ですO私は週ご とのメニューを自分で決める方法 もありますが、短時間でしっか り追い込むため、またルールを 決めて漏れを防ぐために、パー ソナルトレーナーの指導を活用し ています。筋力トレーニングが 体に及ぼす医学的ベネフイツト について深く理解しているので、 具体的なトレーニングの方法や意 識する部位などは、パーソナル トレーナーの指導を受けること で、より効果が出ることを実感し ていますO ただし、筋力トレーニングを行う 際には、持病がある方は注意が 必要ですO例えば、尿酸値が高 い状態で強度の高いトレーニン グを行うと、痛風リスクが高ま りますOまた、糖尿病で網膜症 などの合併症がある方や動脈硬化 が進行した方は、強度の高いト レーニングが病気を引き起こす可 能性もありますOさらに、 フォームを間違えたトレーニング を習慣化すると、頚椎や腰椎の 椎間板ヘルニアなどの整形外科 的疾患を引き起こすリスクもあり ます。 運動は、心身の健康を維持する上 で不可欠ですが、自分の現状の 体の状態を理解し、ゴールを定め た上で戦略的にメニューを決める ことが重要です。特に、体に良い はずの運動が、場合によっては 病気を引き起こす引き金になる こともあるので、注意が必要です。 体重や体形などの基本的なデータ に加え、人間ドックなどで得ら れる体の内側のデータも参考に しながら、ライフスタイルも踏ま えて自分に最適で継続可能な運 動習慣を築いてほしいと思いま す0 7.7ナッツの摂取で健 康習慣を取り入れる 私の食生活で欠かせないのが、 ナッツを積極的に取り入れること ですO特に間食には、無塩の ミックスナッツを選んで食べて いますOここでは、ナッツがなぜ 健康に良いのか、そして私の取り 方についてご説明します。 ナッツの健康効果は数多くありま すOまず、血管の健康に良いこ とです。ナッツに含まれる不飽 和脂肪酸は、悪玉コレステロール (LDL)を下げ、善玉コレステ ロール(HDL)を上げる効果が 報告されています。特にクルミ は、動脈硬化の予防に効果的な オメガ3脂肪酸を多く含んでい ます。 また、血糖値の安定にもナッツ は効果的です。ナッツには食物 繊維とタンパク質が豊富で、食 後の血糖値の急上昇を防ぐ働き があります。糖尿病のリスクが ある方や、すでに糖尿病と診断さ れている方には、これらのベネ フィットは特に重要です。さらに、 ナッツは高タンパク・高脂質で 食物繊維も多いため、少量でも 満腹感を得やすく、無駄な間食 を減らすことで体重管理にも役 立ちます。 ナッツは栄養価が全体的に高い食 品ですO 抗酸化作用を持つビタ ミンE、マグネシウム・亜鉛な どのミネラルをはじめ、多くの 重要な栄養素が含まれています。 これらは日々の食事では不足しが ちな栄養素で、ナッツを習慣的 に食べることで戦略的に補うこ とができますO 私のナッツの取り方としては、1 日に30〜60グラムを目安にして いますOこれは小袋1〜2つ分く らいの量で、手のひらで1つかみ くらいとカウントすることもあ りますOこれは、ナッツによる 脂質改善・心臓血管疾患リスクの 低下を証明する多くの論文が、 このくらいの量(1日30〜60g ) の習慣的摂取を推奨しているため です。 ナッツの種類にはあまりこだわら ず、アーモンド、クルミ、カ シューナッツなどをミックスし た無塩のものを選ぶようにして いますOナッツは高カロリーなの で、取り過ぎには注意が必要ですO 健康に良いとはいえ、カロリー過 多になると体重増加につながる こともありますO また、ナッツ アレルギーには十分注意しま しょう。 日本では、ナッツを習慣的に食べ る人が比較的少ないように感じて いますが、ナッツ類の不足は良 質な脂質・食物繊維・マグネシウ ムなどの欠乏につながります。 間食として便利で、健康効果も 高いので、ぜひナッツを積極的 に取り入れることをおすすめし ますO 7。8炭水化物は玄米や 全粒粉パンを選ぼう 私か食生活で特に意識しているの は、炭水化物の選び方です。で きるだけ白米の代わりに玄米を、 白いパンの代わりに全粒粉パンを 選ぶようにしています。これは 単なる好みではなく、健康を守 るための重要な方法の一つです。 ここでは、なぜ玄米が良いのか、 そして私自身の生活への取り入れ 方についてご紹介します。 玄米が白米より健康に良い理由は、 その栄養価の高さに起因しますO 玄米は白米に比べて、食物繊維。 ビタミンB群、ミネラル、抗酸 化物質などが豊富に含まれてい ますO特に注目したいのは食物 繊維であり、玄米は白米の約5 倍の食物繊維を含んでいますO 食物繊維には多くの健康効果があ りますOまず、腸内環境を整え る効果ですO食物繊維はプレバ イオティクスと呼ばれ、腸内の 善玉菌のエサとなり、腸内フ ローラを整えることに良い影響 を与えますOまた、食物繊維の十 分な摂取は、大腸がんのリスク を減らす効果も期待できますO さらに、食後の血糖値の急上昇 を抑えるため、糖尿病の予防や 管理、肥満の予防にも役立ちま すO 玄米には、ビタミンB群も豊富 ですOビタミンB1、B2、B6な どは、体のエネルギー代謝を助 ける重要な栄養素ですO特にビ タミンB1は、炭水化物をエネル ギーに変える際やアルコールを分 解する際にも必要なので、お酒 を飲む方には特におすすめです。 また、玄米はマグネシウムや亜 鉛、鉄などのミネラルも多く含 んでおり、栄養素をほとんど含ま ない白米などのエンプティカロ リーと比較すると、効率よく微 量栄養素を補える食材と言える でしょう。 私自身、家でご飯を炊くときに は必ず玄米を使うようにしてい ます。最近では、玄米パックも スーパーやコンビニで手軽に購入 できるので、時間がないときでも 簡単に取り入れることができますO 外食時に玄米が選択肢にある場合 には、必ず玄米を選ぶようにし ています。 個人的には、納豆と玄米を一緒 に食べることが多いです。納豆 に含まれる納豆菌でプロバイオ ティクス(善玉菌)をとりつつ、 玄米に含まれるプレバイオティク ス(食物繊維)を同時に効率よ く摂取できますO しかも、手軽に 用意できておいしいというのも魅 力です。 炭水化物の選び方は、「玄米か白 米か」という選択だけではあり ませんO 全粒粉のパンやそば、 雑穀米も良い選択肢ですOポイ ントは、できるだけ自然な形の 精製されていない炭水化物を選 ぶことが大切ですO もちろん、白米を楽しむことも問 題ありませんが、日々のルー ティーンとして玄米を選ぶ意識 を持つことが重要ですO玄米を習 慣的に取り入れることで、さま ざまな疾患を予防し、より健康な 日々を送る上で大きな効果が期 待できます。ぜひ、皆さんもこの 習慣を取り入れてみてください! 7.9気軽な相談が命を 救う:専門領域はプロ に任せる習慣 最後に私か特に大切だと感じてい るのは、あらゆる分野において プロに気軽に相談できる環境を 持つことの重要性ですO財務・法 律・税務など、専門性の高い領 域については、自分でゼロから 勉強するよりも、勉強量も経験 値も圧倒的に多い専門家に任せる 方が効率が良いですOもちろん、 専門家とコミュニケーションをと る上で、自分自身のリテラシー を一定以上高めることは必要で すが、一人で全ての領域をカ バーするのは時間的にも限界が ありますOまた、問題が大きくな る前に、気軽に相談できるプロ を持つことが重要ですO 私は、法務や税務などは起業の 初期からプロにお願いしていま したし、採用やマーケティングな ど新しい取り組みをする際には、 必ずプロの意見を聞くようにし ています。知識によって避けら れる失敗は、わざわざする必要は ないと考えているからです。 これは医療についても同様ですO 多くの人は、「こんな小さなこと でも医者に相談していいのか」 とためらいがちです。しかし、実 際には多くの重大な病気が、最 初は軽い症状やほとんど自覚症 状のない状態で始まりますOそ のため、わずかな違和感でも大 きな病気の前兆である可能性を 見逃さないことが大切ですO 例えば、冠攣縮性狭心症という 病気がありますOこれは冠動脈 が一時的に収縮して胸痛が起こ る病気で、痛みは5〜10分程度で 治まることが多いですOこうした 短い痛みを軽く考えがちですが、 適切な治療を受けないと心筋梗 塞につながることもありますO 実際、私のクライアントの中にも、 一時的な胸痛を相談したことを きっかけに診断がついたケース が複数ありますO とはいえ、医療機関に行くこと にはハードルが伴いますO仕事 や家事が忙しいと物理的に時間 を取るのが難しいですし、初め ての医師に相談することに心理 的な負担を感じるかもしれませ んO また、初めて話す医師だと、 病歴や健康状態を説明する時間的 コストもかかりますO そこで、健康を守る伴走者とし てパーソナルドクターを活用す ることをお勧めしますOパーソナ ルドクターとは、あなたの健康 状態を継続的に把握し、能動的に アドバイスを提供しつつ、いつ でも気軽に相談できる医師のこ とですO 自分にどのような課題や リスクがあるかを事前にレク チャーし、問題が大きくなる前に 予防的に対処することができま す。 特に経営者にとって、パーソナ ルドクターの存在は非常に有益で す。経営者の健康は優れた経営 をするために不可欠な要素です が、多忙な日々の中で健康に時間 をかけることが難しい場合もあり ますO プロの力を借りることで、 無駄な時間コストを減らしつつ、 効率的に健康リスク対策が可能 になりますO 特に、立ち上げたばかりのスター トアップや、中小零細企業で社 長に多くの機能が依存している 場合、社長が倒れたときの損失は 大きくなりますOパーソナルドク ターを活用することで、限られ た時間で健康リスクを減らし。 日々の不調にもすぐ対応できる環 境を持つことができますOこれ により、対処すべき異変を見逃 さないだけでなく、不要な受診 を減らし時間コストの削減も図 れますO 自分の強みを持つ領域にリソース を集中することは、アウトプッ トを最大化するために重要です。 そのためにも、専門性の高い領域 はプロに任せるのが合理的です。 顧問弁護士や顧問税理士を問題が 起こる前に予防的につけるように、 経営者の健康リスクを回避するた めにパーソナルドクターを持つこ とが当たり前になることを願っ ています。 終わりに ここまでお読みいただき、ありが とうございます。 本書を通じて、皆様には「戦略 的な健康管理」の重要性をお伝 えしてきましたO私たちは今、公 衆衛生の向上や医療技術の進歩に より、人生100年時代を迎えよ うとしていますOこの長い人生を 健康で充実したものにするために は、従来の「病気になったら治 す」という考え方から、「健康 を戦略的に管理する」という新 しいアプローチにシフトする必要 があります。そして、その健康戦 略を立てる上で、鍵を握るのが 「データ」の活用です。 AI技術も急速に進歩する中、生 まれてから今に至るまでの健康状 態(検査)データ、食事内容や運 動といった生活習慣データ、遺伝 子データなどを集積し組み合わせ ることによって、現状を分析する ことはもちろん、将来のリスク を的確に予測できる世界が近々 訪れるでしょうO健康リスクが正 しく可視化できるようになると、 様々な業界が変化し、健康であ ること自体が経済的価値をもたら す時代が到来します。 例えば、どのような病気になるリ スクが高いかを可視化することが できれば、疾病を限定したパー ソナライズ保険などの提案が可 能になるかもしれません。また、 健康リスクの度合いを正確に分析 することができれば、健康情報か ら高精度に保険料を規定し、健 康であるほど保険料が安くなる ような仕組みを構築できるでしょ うO実際、米国では健康データに よって保険提案をカスタマイズす る技術をAIを用いて行うことを 目指すスタートアップが複数出 てきています。 また、30年後に健康に労働でき る状態で生きている確率などを 高精度に分析することができれ ば、経営者の健康状態に応じて企 業融資の金利が変わったり、不動 産購買者の健康状態に応じて ローン金利が変わるような未来 が訪れる可能性もあります。へ ルステック領域とツインテック領 域は、今後切り離せない関係に なっていくでしょうO データに基づいてパーソナライズ された予防医療を提供すること は、防ぎえた後悔を防ぎ、豊かな 人生を送る上でも不可欠ですO 私か創業し経営しているウェルネ ス社では、自分の健康状態・健康 リスクを可視化するための統合 PHRの開発と予防医療知見の民 主化を通じて、パーソナライズ ヘルスケアプラットフォームを構 築することを目指していますO広 告や囗コミによってヘルスケア商 品を購買する時代を終焉させ、 自分の健康データを分析した結果 から必要なものだけを適正コスト で購入できる世界を実現したい と考えていますO 情報の非対称性が大きい医療ヘル スケアの領域では、誤った情報 やエビデンスのない情報を元に高 額な自由診療サービスやサプリメ ントを提供するクリニックや企業 が少なからず存在していますOこ れらの危険から自身の身体を守る ためには、自らの健康データを 蓄積・分析・解釈し、適切なソ リューションを選択するためのリ テラシーを身につけることが不 可欠ですO 世の中から防ぎえた死や後悔を なくすために、まずは社会的責 務を持つ全ての経営者が健康リ スク対策として予防のためにパー ソナルドクターをつけることをカ ルチャーにしていきたいと考え ていますが、長期的には、(実 際のパーソナルドクターはつかず とも、)健康データをAIで分析 しパーソナライズされたソリュー ションを選択していくことで、 パーソナライズ予防医療を誰もが 安価に受けられる世界も実現し たいと考えています。 家庭・ビジネス・趣味・スポーツ など、あらゆる人間活動において **「健康」**はすべての土台に あります。「失ってから気づく」 を世の中からなくし、すべての 人が最高の人生を送るために不可 欠な存在となれるよう、邁進し ていきたいと思いますO 私か尊敬する、世界一の時価総額 を誇るアップル社を創業したス ティーブ・ジョブズ氏は、56歳 という若さでこの世を去りましたO 彼が最期に語った言葉の中に、次 のような一説があります。  厂あなたのために、ドライバーを 誰か雇うこともできる。お金を 作ってもらうことも出来る。けれ ど、あなたの代わりに病気になっ てくれる人は見つけることはでき ない。物賁的な物はなくなっでも、 また見つけられる。しかし、一つ だけ、なくなってしまっては、再 度見つけられないものがある。人 生だよ。命だよ。手術室に入る時、 その病人は、まだ読み飭えてない 本力句冊あったことに気付くんだ。 厂健康な生活を送る本刀 この書籍が、志の高い経営者の後 悔を防ぐために不可欠な「健康な 生活を送る本」になることを願っ ていますO 最後になりましたが、本書の執筆 にあたり、多くの方々のご支援と ご協力をいただきましたO私のビ ジョンに共感し信じてくださった クライアントの皆様、同僚の医師 たち、そして家族に心から感謝申 し上げます。皆さんの存在が あってこそ、一歩ずつビジョンの 実現に近づけていると日々感じ ています。 そして、ここまでお読みくださっ た読者の方々にも深い感謝をして います。戦略的予防医療の重要 性は高まる一方ですが、まだまだ 社会への啓蒙が必要な段階です。 ぜひ大切な方々にも、データに 基づく正しい健康管理の重要性 を広めていただけたら幸いです。 皆さんの人生が、最期の瞬間まで 後悔のない素敵なものになること を心より願っていますO           中田航太郎