毎日5分の「日経新聞」道場「データウオッチ」と「連想」で経済が分かる(角川SSC新書) はじめに 「ドバイ経済が発展すれば、わが国の花屋の店頭に並ぶバラの種類が増えるのはなぜ?」 数年前、『日本経済新聞』がこんなクイズを出しました。つまり「ドバイ経済の発展」と「バラの種類が増える」の間をつなげることができるか、という謎解きだったのです。 正解は、「ドバイ経済の発展」→「ハブ空港としてのドバイ空港が発展」→「ケニアからドバイ空港経由での日本向けバラの輸出が活況を呈する」でした。つまり、この問題を解くには「ドバイは一大ハブ空港である」、「日本のバラの相当部分はケニアからの輸入に頼っている」という二つの事実を知っていることが必要だったのです。 新聞、テレビ、雑誌、インターネットなど、さまざまな媒体でひっきりなしに流される経済・金融、あるいは投資情報。これらの情報の多くは、「AだったのでB」とか「HになればKになる可能性が高い」といった、経済事象間の関係を扱います。この場合、「こんなこと言わなくてもいいだろう」ということは省略されています。であればこの省略されている部分が分からなければ、その情報は本来チンプンカンプンなのです。 このことは、「経済は連想ゲームのようなものだ」ということを示しています。言い換えると、経済が連想ゲームのように動いていることが分かれば、日々動き続けている経済をもっともっと楽しんで眺めることができるのです。 本書では、景気のよしあし、為替、金利、債券、株式、物価といった、経済の構成要素間の基本的な関係について説明しました。これが、経済・金融の世界を貫いている最も重要なメカニズムなのです。それを知っていただくことが、本書の狙いその一です。 本書が目指した二つ目のテーマは、「最低限のデータを定点観測しよう」ということです。つまり、経済データをきっちりと把握することで、よりリアルに経済の動きを実感しよう、という提言です。本文の中では、特にマーケットを理解するために必須となるデータを22ばかり解説してあります。もちろん、そのデータが日経新聞紙上でどのように報じられているかも示しておきました。 さらには、毎日5分だけ使ってこうしたデータを自前のシートに記入し、オリジナルのパーソナルデータベースを作成する方法にも言及してあります。 これにより、「このところ円がちょっと安いな」から一歩進んで「2009年11月末には一時84円台まで円高が進んだが、今は93円台なので10%円安だな」と認識できるようになります。あるいは、「08年10月に日経平均株価は6994円まで下げたけれど、今は1万1000円台なので、底値から6割方上げた」というように、マーケットの動きがよりくっきりと見えてくるはずです。 このように、経済・金融を理屈だけではなく、具体的なデータに照らして見る癖が付くと、「預金はインフレに弱いと言われているが、それはむしろ誤りである」とか、「REITと株式とは異なった動きを示すと言われるが、実証データで見るととてもよく似た動きを示す」といった一般に流布されている経済の常識のウソが、くっきりと浮かび上がってきます。 どのように日経新聞の数字を読みこなしていけばいいのか、そしてそれらのデータ間の関係をどのように連想的にたどっていけば良いのか、そのための初歩的なガイドとなることを目指したのが本書です。この道場で、データウオッチングと経済連想ゲームの基本を知っていただけたなら、とてもうれしく思います。 金融データシステム代表 角川総一 目 次 はじめに 第1章 アークから経済・金融のズノを連想する あなたの経済・金融感覚をチェック 新聞記事の行間に隠されている経済メカニズムを見できる あなたの間違った常識を掃す なぜ誤解に満ちた通説を信じてきたのか? 1. なぜ「預貯金はインフレに弱く、株はインフレに強い」と思い込んでいられるのか? 2. は、果たして常に正しいのか? 3. 円と日本株は逆に動き、その他の通貨と株価は同じ方向に動くことを知っていた? 4. 「REITとは逆の動きをするからリスク分散に有効」の落とし穴 5. 消費者物価指標と庶民感覚とかけ離れるのには立派な理由があった 6. 日本の実質的なGDPはとっくの昔に中国に抜かれていたことを知っていた? 7. 「TOPIXと日経平均は同じように動く」なんて信じていたら大変 第2章 経済・金融現象間に働く11通りの基本メカニズム 「風が吹けば桶屋が儲かる」的連想ゲーム事始め 連想ゲーム①「物価が上がる」→「金利が上がる」インフレが金利上昇を招くメカニズム 連想ゲーム②「景気が上向く」→「金利が上がる」景気のいい時は預金金利が高いに決まっている 連想ゲーム③「金利が下がる」→「景気が上向く」だから景気対策のために中央銀行は利下げをする 連想ゲーム④「金利が上がる」→「通貨が高くなる」お金は高金利通貨に流れる→「物価が下がる」物価の番人が市中の通貨をコントロールする 連想ゲーム⑤「物価が上がる」→「消費者物価指数が上がる」 連想ゲーム⑥「通貨が高くなる」→「輸入が安くなる」同じモノでも円高なら安く買える 連想ゲーム⑦「通貨が安くなる」→「金利が上がる」金利を動かす要因は投資家の思惑 連想ゲーム⑧「金利が上がる」→「株価が下がる」金利上昇は企業業績にマイナスに働く 連想ゲーム⑨「株価が上がる」→「金利が下がる」 第3章 経済メカニズムの誤作動をどう読むか 1. 「逆はおおむね真ならず」と心得よ 2. メカニズムが作動するときはどこに原因があるのか 3. マーケットはより力なエネルギーによって動く 4. 市場内部要因による株価変動は、時として外部要因によることもある 5. データが連鎖反応を起こすときのプロセスは、いつも同じとは限らない 第4章 22の基礎データが読めればマーケットが分かる すべての道はアークに通ず!定点観測のススメ 読吉速度を学習中… 1. 国内外の長短金利はこれだけ見ておけばひとまずOK ①無担保コール翌日物金利/②TIBOR3ヵ月物金利/③10年新発長期国債(固定利付き)の利回り/④5年利付国債の利回り/⑤FFレートと短期国債(TB)3ヵ月物利回り/⑥欧米の10年物長期国債の利回り 2. 少なくともこの程度の外国為替相場を押さえておこう! ⑦銀行間直物相場(ドル円、ユーロ円)/⑧対顧客電信売相場(TTS)/⑨日経通貨インデックス 3. これだけの市場の全体像をウォッチしておけば、分かる! ⑩国内の株価指数(日経平均株価)/⑩売買高(出来高)/⑩時価総額/⑩時価収益率/⑩配当利回り/⑩業種別株価指数/⑩時価純資産倍率/⑩配当利回り 4. 実体経済との接点にある商品・不動産市況のデータも要チェック! ⑩WTI/⑩ニューヨーク金先物、ロンドン金現物/⑩ロイター・ジェフリーズCRB指数/⑩東証REIT指数 第5章 基本メカニズムを改めてデータで検証する 論より証拠!本当に理屈通りに市場は動いているのか 1. 「金利が上がる」は果たしてどこまで実証できるか? 2. 「通貨安くなる」は本当だった! 3. 「金利が上がる」はやはり「物価が高くなる」、だから外債ファンドは安定していた! 4. にわかには信じられない「物価が安くなる」は本当だった! 52007年までの企業業績拡大は、実質実効為替レートで見て初めて納得! 第6章 さあ!自分のアークベースを作ってみよう 今日から実践!千里の道も一歩から 1. 自前のアーク表を作成すると、経済を見る目が確実に変わる 2. 日経新聞以外のあなたのアークベースも活用しよう! おわりに あなたの経済・金融感覚をチェック! 本題に入る前に、まずは「腕試し」から。あなたの経済感覚をテストしたいと思います。以下に、経済・金融の基本的な知識に関する15の設問をご用意しました。あなたは何問正解できるでしょうか? 1. 日本の「政策金利」は現在の水準は(  )%だ。 2. 日本の「長期金利」の代表と言えば(  )だ。 3. 債券価格が上昇すると、債券利回りは(  )する。 4. 株価と債券利回りは(  )方向に動きやすい。 5. 中央銀行が政策金利を引き下げると、物価は(  )しやすい。 6. 高いインフレーション(インフレ)率が続いている国の通貨の価値は、中期的には(  )しがち。 7. 為替レートには、名目為替レートと実質為替レートの3種類がある。輸出企業は、この中の(  )為替レートを特に重視する。 8. 一方的に円安が進行している時期には、わが国の長期金利は(  )しやすい。 9. 日本のゼロ金利政策からの脱却が米国より遅れそうだという見通しが強くなると、外国為替市場では円(  )になりがち。 10. 円キャリートレードが活発に行なわれているときには、円相場と日本株は(  )方向に動くが、ユーロ相場とドイツ株、オーストラリア(豪)ドル相場と豪州株などは(  )方向に動きがちだ。 11. 米国の中央銀行である連邦準備制度理事会(FRB)が物価の動向を予測する際、とりわけ重視しているのが(  )指数という国際商品先物指数だ。 12. 過去30年のデータで見る限り、全期間の少なくとも50%以上の時期で、預金はインフレに(  )ている。 13. ある国の格付けが下がると、その国が発行している国債の利回りは(  )するのが原則だ。 14. 日経平均株価の過去の高値は、1989年12月の(  )万(  )円。 15. 不動産市況の今を知るには、東京証券取引所に上場されている不動産ファンド(J-REIT)の平均的な価格水準を示す(  )指数が参考になる。 答えは178ページ 新聞記事の行間に隠されている経済メカニズムを発見できるか。 では、経済・金融に関する基礎的な15の設問にチャレンジしていただきました。手応えはいかがでしたか?たとえ毎日熱心に『日本経済新聞』を読んでいる方でも、中には「あれ、これって何だったっけ?」と、立ち止まってしまった箇所があったかもしれませんね。 日経新聞はデータの宝庫です。何しろ、世界中の景気や物価、株価など、経済・金融の今を示す情報が無数に盛り込まれているのです。それらは、ビジネスマンであれば必ず押さえておきたいものばかりです。とはいえ、字面だけを眺めて分かったつもりになっていても、記事が伝えている物事の本質はつかめません。そして、本質をつかめていない方は、冒頭の15問に苦戦してしまうことになるのです。 重要なのは、あるデータから別の事象を連想していくことです。例えば、設問の3番目に「債券価格が上昇すると債券利回りはどうなるか」というものがありましたね。これは、経済・金融の世界では基本中の基本です。日経新聞などの記事では、すでに当たり前の共通認識となっていていちいち丁寧に理屈を説明することはありません。つまり、経済・金融について個々の現象の関係が分からないと、新聞記事を読んでいても半分しか理解できない、という状況に陥るのです。 新聞記事では、データとデータの間に存在する基本的な関係については述べてくれません。必要最低限のことだけが、ギュッと詰め込まれているのです。その行間を正しく判断する力が、私たちには求められています。「日経新聞をいつも読んでいるのに、どうも経済が分からない」と感じているなら、その力が不足している可能性があります。 次の記事例を見てみましょう。米連邦準備制度理事会(FRB)の政策金利引き上げ観測が強まったことで、円安が進んだ。 FRBは、米国の中央銀行です。さらりと書かれていますが、FRBが政策金利を引き上げるとの見通しで、なぜ円安が進んだのでしょうか。その行間を、読み手自身が埋めていかなければなりません。経済・金融の本質が分かっている人であれば、訳なく瞬時に理解できるでしょうが、漠然と新聞を眺めているだけの人にとっては、ちょっとした難問ですね。 この記事の前提には、「金利の動きと為替相場は密接にかかわっている」という原則があります。後ほど詳しくご説明しますが、原則として、政策金利が上がると、国中のあらゆる金利が上昇します。預貯金の金利やローン金利、国債の金利も上がります。 米国でこのような現象が起こると、例えば日本の投資家は、「米国国債や米ドル預金で運用をすると得だから、米国の債券を買おう。米ドル預金に預けよう」と考えるはずです。こうしてドル買いが増え、ドルが高くなります。その結果、ドル円の為替レートは「円安」になる、というわけです。 これでようやく米国の金利引き上げと円安がつながりましたね。たった一行の新聞記事の背景を語るには、これだけの文字を費やさなければならないのです。そして、私たちはこういった一連の現象を、例えば「政策金利引き上げ」といった最初のキーワードを目にしただけで、瞬時に連想できることが望ましいのです。 株価と金利のニュースの背景にあるもの。 前述の例は金利と為替の関係でしたが、そのほかにも記事例を基に、いくつかデータとデータの関係性を見てみましょう。 まずは、次の記事例をご覧ください。ニューヨーク市場のダウ平均株価が急落したことを受けて、円キャリートレードの巻き戻しが加速し、豪ドルの対円相場が下落しました。新規受注高を示す指標が予想を大きく下回った等々、さまざまな状況が考えられます。いずれにせよ、ここでは「米国株が急落」→「米国経済のコンディションが悪い」→「世界経済にも不安」との連想が働くのです。 こうしたときには、収益を求めて世界中を駆け巡っているお金が「ちょっと世界経済のコンディションが良くないぞ。円キャリートレードを通じて儲けるために、円以外で運用しているお金はいったん円に戻しておこう」と考えるのです。そうした負の発想のスパイラルからリスクを回避するため、世界中の投資家がお金を円に戻すために、豪ドルが売られて円が買われたことを示しています。このような円キャリートレードの巻き戻しが行なわれるときには、ユーロ、ブラジルレアル、ロシアルーブルなどの通貨も下落して、円高になるのが一般的です。 株価と為替相場は、このように連動しているものです。それが分かっていないと、ごく短い新聞記事の意味さえ分かりません。前述したのは少々複雑な例でしたが、もっと連想を働かせやすい例もあります。 例えば、次のような記事は比較的よく見かけるのではないでしょうか?円高が進み、トヨタ自動車など輸出関連銘柄が売られました。円高を受けて、海外ブランドショップが続々と円高還元セールを開始しました。 なぜ、円高だと輸出関連企業の株価が下がるのでしょうか。なぜ、円高だとブランドショップはわざわざセールを開催するのでしょう。これも後の章で詳しくお話しするので、ここでは簡単な説明にとどめておきます。まず、円高になると一般に輸出業者は損をしてしまいます。逆に、輸入業者は安く商品を仕入れられるので得をします。円高還元セールが行なわれるのは、そのせいです。 円高で特に打撃を被るのは、トヨタ自動車のように、海外への輸出比率が高い企業です。比率の高い輸出で損をするとなれば、減益は必至です。当然、失望した投資家は株を売ります。日本には輸出比率が高い企業が多いので、円高になると株式市場全体が落ち込んでしまうのです。そのため特に株式に投資している人の中には「円高=株安」と、条件反射のように考える人が多いのです。このように考える人が多ければ、実態はそこまで深刻な円高でなくとも、輸出企業は売りを浴びせられるという状況が起こりがちです。 とはいえ、輸出比率が低い企業であれば、円高になってもほとんど関係がありません。そのため、前掲の記事が載るような相場では、次のような見出しもよく見かけます。相場全体は弱含みだが、通信、不動産、建設など内需関連株は好調。 行間から背景を連想するテクニックが、徐々に分かってきたでしょうか?念のため、もう少しだけ試運転を繰り返してみましょう。次は、物価と金利の関係を連想してみます。このような記事を目にした場合、あなたは行間に何を読みますか? 日本のインフレ率が当初の予想よりも大幅に上昇したことを受けて、10年物国債の利回りが上昇しました。物価が上がって通貨の価値が下がる、これがインフレが進んでいる状態です。前年比で物価指数がどれだけ進行したかを示す指標が、「インフレ率」です。記事では、このインフレ率がかなり上昇したと言っています。それがなぜ、10年物国債の利回りと関係するのでしょう?一見すると、あまり関係がないようにも見えますよね。 10年物国債の利回りは、長期金利を代表する金利です。金利にはいくつもの種類がありますが、どの金利もおおむね同じ方向に動きます。つまり、上がるときは一緒に上がり、下がるときは一緒に下がるのです。記事では「10年物国債の利回りが上昇した」とありますが、そのほかの金利も上がっていると考えていいでしょう。 少し視点を変えてみます。物価が上がるのはどんなときでしょうか。思い出されるのは、やはりバブル時代でしょう。バブル時代には物価がうなぎのぼりに上昇しましたが、同時に景気も上々でした。景気が良ければ、人々はどんどんお金を使います。そしてモノの値段も上がっていきます。出口の見えないデフレーション(デフレ)下にある今の日本とは、正反対ですね。 とはいえ、物価が上がりすぎるのも考えものです。景気が良くなるのはハッピーなことですが、ある程度インフレが進んだら、今度は引き締めなければなりません。インフレが急激に進みすぎると、さまざまな弊害が生じます。例えば賃金の上昇は通常は物価の上昇に大きく遅れるため、人々の暮らしに悪影響を及ぼすかもしれません。また、「100万円の車が半年で150万円になった」といった事態が頻発すれば、社会的な混乱も生じます。 さらに、通貨の価値が下がるということは、預貯金の価値も下がることを意味します。そこで、日本銀行(日銀)は金利を上げて、世の中に流通しているお金の量を減らし、モノを買おうとする力を弱めようとします。金利を上げると、企業も個人もお金を借りにくくなりますね。使えるお金が少なくなるので、モノをあまり買わなくなります。すると物価は下がり、これで物価の鎮静化が狙えるのです。こうして金利が上がれば、連動している10年物国債の利回りも上昇するというわけです。 短い新聞記事の行間に、いろいろな情報が凝縮して隠されていることはお分かりいただけましたか?ところが、中にはセンテンスですらなく、データ間の関係が極限まで省略されて、熟語になっているものさえあります。「円高デフレ」という言葉などはその代表例です。為替相場と物価の関係を示す言葉ですが、新聞記事からの連想ゲームの例として、最後にこの間の関係性を解説しておきます。 まず、「円高は輸出企業にとってマイナス」とは、先にもご説明しました。輸出企業が失速して業績が悪化すると、そこで働く人々の賃金が下がります。悪くしたことに、日本には輸出企業が多いので、国民の大多数が賃下げに嘆くことになります。 さらには、円高になると同じモノが安く輸入できるようになります。1ドル=160円だと、10ドルのモノを輸入するには1600円必要ですが、1ドル=100円の円高になれば、1000円で輸入できてしまいます。同じモノを輸入するにしても、円高によってより安い価格で買えるようになるのです。 こうして、同じモノがより安くなれば、国内物価も全体的に下がって物価安、すなわちデフレになるのです。このように、一つのデータだけを見るのではなく、関連させて思考する癖を付けておけば、経済・金融への理解が飛躍的に深まります。理解が深まれば、冒頭の設問の多くも難なくクリアできるはず。そして、日経新聞の短い記事から、世界経済の動向や力関係、いま起こっている問題、機関投資家の行動の意味などが、面白いように見通せるようになるのです。 そして、日経新聞のデータから、為替相場や株式市場、債券市場、不動産市場などの現状を読み解き、いくつかのシナリオを描くことは、とてもスリリングだということが分かってくるでしょう。とはいえ、正しい連想ゲームを展開するには、これまで深く意味を考えずにうのみにしていた固定概念を捨てて、経済・金融の世界の根本的なメカニズムを知る必要があります。マーケットを歩く物差しとなるデータも押さえておかなければなりません。 そこで次章では、あなたの中にはびこっている(かもしれない)間違った固定概念、間違った常識を、まず一掃していくことから始めたいと思います。 毎日5分の「日経新聞」道場「データウオッチ」と「連想」で経済が分かる(角川SSC新書) 経済・金融の世界には、いくつもの「常識」があります。もちろん疑いようのないものも多いのですが、中にはちょっと見方を変えたり、データを検証すると、実は「常識」ではなく「非常識」だった……と気付かされるものも少なくありません。 第1章では、マーケットにはびこるそうした誤解、間違った固定概念について取り上げます。これをお読みになれば、自身でかみ砕くことなく受け入れ、信じ込んでいる情報の中に、いかにいい加減なものも多いかが、お分かりいただけるでしょう。 なぜ「預貯金はインフレに弱く、株はインフレに強い」と思い込んでいられるのか? 「貯蓄から投資へ」のスローガンも空しく、なかなかリスク資産への投資が浸透しない日本。この低金利下にもかかわらず、日本国民の預貯金の総額は700兆円にも上ります。 とはいえ、本当に預貯金にはリスクがないのでしょうか?この問題を考えるとき、しばしば指摘されるのが「インフレーション(インフレ)に弱い」という点です。物価が上がり、通貨の価値が下がるインフレ局面では、額面こそ減らなくても、預貯金の実質的な価値は目減りすると言われます。 逆に「インフレに強い」とされているのが株式です。原則としてインフレは景気が過熱したときに発生するので、その結果として企業が潤い、人々の購買力が上がれば、株式市場も好転すると説明されます。 しかし、この「預貯金はインフレに弱く、株はインフレに強い」という主張には、実はあまり根拠がありません。それを実証するのが上のグラフです。これは過去30年程度の「消費者物価指数(CPI)」(前年同月比)と「1年定期預金金利」の推移を示したものです。ちなみに消費者物価指数とは、あらゆる商品の小売価格の平均的な水準を示すもので、インフレになると跳ね上がります。 このグラフで興味深いのは、物価上昇時には定期預金金利も一緒に上昇していることです。しかも、ほとんどの時点で1年定期預金金利は消費者物価指数を上回っています。インフレでもそれ以上に金利が上がれば、預貯金の価値は目減りしないのです。 では、なぜインフレになると金利が上がるのでしょうか?インフレのときには、「少しでも安いうちに」と人は急いでモノを買おうとするでしょう。それにはより多くのお金を必要とします。銀行借り入れが増えたり、企業は社債を積極的に発行したりします。そうすると、金利は上昇します。預金金利も上がるのです。グラフはおおむねこうした理屈通りに動いてきたことを示しています。こうした循環から、預貯金はインフレに弱いどころか、むしろ強いインフレヘッジ機能を持つと言えるのです。 株価と物価の動きには、あまり因果関係がない ただし、極端なインフレ局面では、預貯金でも対応するのが困難です。過去3回ほど消費者物価指数が1年定期預金金利の水準を上回っています。これは、直前に起きたオイルショックや消費税アップといった大事件が原因でした。 かといって、資産を株にしておけば良かったかといえばそうでもありません。なぜなら、これらのタイミングでは株式市場も冷え込んでいたからです。実際、インフレが進行したときの消費者物価指数と日経平均株価の推移をグラフにして見てみると、はっきりした因果関係は認められません。つまり、「株はインフレに強い」説はデータでは検証できず、疑問点が多いのです。 では、今後も預貯金で安心かといえば、これも実は判断の難しいところです。仮に、この先消費税率が引き上げられてインフレが起きた場合、今の経済状態で金利が上昇するかどうかは、不透明だからです。 「金利は短期の方が長期よりも低い」というのは、果たして常に正しいのか? お金の貸し惜しみには、金利が付き物です。いわば手数料のようなものですね。住宅を買うにあたって銀行にお金を借りれば、ローン金利を支払わなければなりません。逆に預金をすれば、銀行にお金を貸したのと同じことになるので、代償として預金利息を受け取れます。利息を受け取ることは、お金を貸す側の権利なのです。 金利にはさまざまな種類がありますが、ひとまず押さえておきたいのが「短期金利」と「長期金利」の区別です。短期金利とは、満期までの期間が1年以内の金利のこと。その代表が、日経新聞でも目にすることの多い「無担保コール翌日物金利」です。銀行では、日々の取引によって日常的に資金の過不足が発生するため、銀行同士で互いに資金を融通し合っています。この銀行同士がお金をやり取りをする特殊な市場で、一日だけ資金を借りる取引を「無担保コール翌日物」と呼びます。無担保で翌日には必ず返済をすることから、この名が付きました。この取引の際に付いた金利が、無担保コール翌日物金利です。 ちなみに、日本銀行(日銀)は、この無担保コール翌日物金利をあらかじめ決めた一定水準に誘導することを目標にして、金利政策を行なっています。その目標値が「政策金利」です。 それに対し、長期金利は、満期までの期間が1年を超える金利を指します。具体的には、満期までの期間が長い債券などの金融資産の金利がこれに当てはまります。代表は「10年物国債」の利回り。私たちにとってなじみ深い住宅ローン金利は、この長期金利にほぼ連動して決定されます。長期金利は、経済の状況に比例して推移します。もし、経済状態が低調なら長期金利も下落。逆もまたしかり、といった具合です。 短期金利が長期金利を逆転する現象が起きている 以上が短期金利と長期金利の基本的な定義なのですが、以下では単に「より短期、より長期」という意味合いで「短期金利」「長期金利」という言葉を使います。「1ヵ月定期より3ヵ月定期は長期である」といった程度の意味です。 さて、金利は原則的に、長期の方が短期よりも高いというのが「常識」ですね。なぜなら、預金をする(お金を貸す)側は、お金を使う権利を一定期間、相手に委ねることになるわけで、その期間が長いほど、支払う犠牲は大きくなります。その間はお金を使えないわけです。そのため、「犠牲に見合う高い金利を受け取るのは当たり前」という考え方です。 しかし今は、この常識を覆す金融商品がたくさん存在しています。例えば「年利12%の豪ドル2ヵ月定期預金(自動継続タイプ)」という商品。預入期間が1ヵ月という短期でありながら、異様に高い利回りです。 果たして、銀行はどのような思惑からこの商品を売り出したのでしょう。背景にあるのは「集客のために高い金利を提示しても、1ヵ月しか払わなくていいのだから、支払う金利は少なくて済むし、自動継続後は金利を通常の状態に戻すという約束なのだから儲けもの」という考えです。これは実に合理的な発想だと言えます。実際に、D一%の金利にひかれて契約した人は多かったのですから。この手の商品はどんどん増えており、今では1年定期預金の選択肢も多様化しています。 金よりも1ヵ月の外貨定期預金の方が高利回りといった逆転現象も常態です。短期金利の方が長期金利より低いという固定概念は、あらゆる場面で通用する常識ではなかったのです。 円と日本株は逆に動き、その他の通貨と株価は同じ方向に動くことを知っていましたか? 昨今の日本では、「円安だと株価は上昇し、円高だと株価は下落する」が通説です。理由を聞かれたら「日本には輸出関連企業が多く、円高になると損だから」と答える人が多いでしょう。確かに日本には、製品を海外に輸出して外貨を得る企業が数多く存在します。例えば、ドルを得て円に換金する場合、為替レートが「1ドル=80円」と「1ドル=100円」とでは、明らかに後者が得です。要は、ある製品を売って1ドル獲得し、80円に換金できるのと100円に換金できるのとでは、どちらが儲かるかという話ですからね。 後者はドルの価値が高い(=円の価値が低い)状況であり、こちらの方が輸出業者にとっては好都合です。逆に前者のようなドルの価値が低い(=円の価値が高い)状況になると、同じ製品を売っても20円損してしまうのでたまりません。円高で株価が下がるのは、こうしたメカニズムからです。 ところが、ドイツなどのユーロ圏やオーストラリア、その他の国々では、株や高金利通貨から急いで資金を引き揚げました(これがいわゆる円キャリートレードの巻き戻しです)。おかげで世界中が株安・通貨安へと急降下。それまでは売られていた円だけは買い戻されて円高となり、日本株は停滞したのです。 ここまでで「日本円・日本株」と「他国の通貨・株価」の関係が逆になるカラクリはお分かりいただけたでしょう。つまり、円キャリートレードとその巻き戻しという流れがグローバル市場で顕著なときには「円高・日本株安」となる一方、ユーロやオーストラリア(豪)ドル、あるいは新興国などでは「通貨高・株高」という関係になるのです。 ところが、最近になって、日本と同じように株価と通貨が逆の動きをする国が現れました。それは米国です。米国は昨今の経済情勢の悪化に伴い、ゼロ金利政策に踏み切りました。日本と同様、超低金利国になったのです。おかげでドルは、景気が良いときには売られ(=ドルキャリートレード)、景気が悪いときには買い戻される(=ドルキャリートレードの巻き戻し)通貨へ移行してきたのです。つまり、景気が良ければ株価は上昇するため、米国株とドルの動きは逆になります。今や、日本とよく似た動き方をしているのです。 ある程度まとまったお金を持っている人なら、「複数の資産にお金を分散した方がいい」とアドバイスされた経験があるのではないでしょうか。そうでなくとも、投資の基本は分散投資とは、資産運用の教科書で、イの一番に出てくるような決まり文句です。 一ヵ所にまとめた方が何かと便利そうなのに、なぜわざわざ資産を分散させるのでしょう? 答えは簡単、資産全体の目減りを防止するためです。いかに有望であっても、元本割れのリスクがある株式に全財産をつぎ込むのは、どう考えても無謀です。債券も同様です。惚れ込んだ会社の社債を大量に買った後で、万が一にもその会社が倒産したら、その債券は紙くずになってしまいます。これらは極端な例ですが、ともかく何か一つの資産に資金を偏らせることには、大なり小なりリスクが伴うのです。 そこで、誰でも簡単に分散投資ができるようにと設計されたのが、「バランス型」の投資信託です。バランス型の投資信託は、「株式型」や「債券型」とは異なり、単一の資産だけでなく、さまざまな資産をバランス良く組み込んで運用します。 バランス型の投資信託で多いのは、株式、債券、不動産(不動産投資信託〈REIT〉)という三つの資産に分散投資するタイプです。この三者は、よく「値動きの仕方が異なる」と言われます。具体的には「株価が下がると債券価格は上がり、株価が上がると債券価格は下がる」「不動産価格は株式とも債券ともあまり連動しない」というものです。もし、あなたが銀行などでバランス型の投資信託について質問をすれば、「株式、債券、不動産という、値動きの仕方が異なる資産に投資をしている商品なので、一気にすべての資産が値下がりする危険性が少なく、運用で損失を出すリスクが低い」と説明されるでしょう。実際、こうした説明を受けて、バランス型の投資信託を買った人も多かったはずです。 しかし、データを見る限り、この説は信憑性があるものとは言えません。現に、リスク分散効果が高いはずのバランス型投資信託の多くは、08年秋のリーマンショック以降、大いに値下がりしています。09年3月頃には基準価額が20~40%下落するファンドが多かったのです。すなわち「三資産は値動きが異なるから大丈夫!」説は、幻想だったのです。 データは明らかに「REITと株が同じ方向に動く」ことを示しています。その証拠に、03年からの「東証株価指数(TOPIX)」と「東証REIT指数」の推移を比較したグラフを見てみると、両者は示し合わせたかのように、似た波形を描いています。つまり、株価と不動産価格はほとんど同じように動いているのです。何もリーマンショックで一時的に両者の関係性が変質したわけではありません。ここ数年来、ずっとこの傾向が続いているのです。これでは、資産を分散する意味は全くないでしょう。 冷静に考えると、不動産価格の下落時に株式市場も弱くなるのは当然のことです。バブルの際も、地価と株価の急騰・急落のタイミングはほぼ同じでした。にもかかわらず、私たちは「不動産と株の動きは連動しない」というまことしやかな常識を信じ込まされていたのです。自分でデータを確認しないと、こんなワナに簡単に引っ掛かってしまいます。 消費者物価指数が、ともすれば庶民感覚とかけ離れるのには立派な理由があった。景気の方向性を見るときに用いられるのが、各種の景気指標です。「景気動向指数」や「国内総生産(GDP)」「鉱工業生産指数」など、指標の種類は数多いのですが、中でもよく取り上げられるのが、毎月末近くになって発表される「消費者物価指数」でしょう。 ニュースなどで耳にする機会も多い消費者物価指数。総務省統計局のホームページを見ると、「全国の世帯が購入する家計に係る財及びサービスの価格等を総合した物価の変動を時系列的に測定するもの」と説明されています。でも、これではちょっと分かりにくいですね。要は「さまざまな商品の平均的な小売価格の水準を示すもの」と考えてください。調査対象は、タクシー代やクリーニング代といったサービスの代金も含め、500品目以上に上ります。インフレになればモノの値段が上がり、デフレになればモノの値段が下がるので、消費者物価指数の動きを見れば、今がインフレ傾向なのかデフレ傾向なのかが分かります。 それにしても、実際に発表された消費者物価指数を見たときに「自分の景気実感とは随分異なるな」と感じることはないでしょうか? 例えば、10年2月の消費者物価指数は… (生鮮食品を除く総合)は「前年同月比マイナス2%」でした。しかし、スーパーへ行けば食品や日用品が異常なほどの特価で売られ、家電の価格も軒並み下がり、数百円のジーンズが飛ぶように売れる。ファストファッション旋風が巻き起こる今、もっとデフレが進行していたとしても、ちっともおかしくないように感じられます。なぜ、庶民感覚とデータの間に、このような乖離が生じてしまうのでしょうか。 購入頻度別消費者物価指数を見れば一目瞭然です。原因の一つは、一般に知らされる消費者物価指数は「総合」指数であり、商品の「購入頻度」は考慮されていないことにあります。私たちは、食品や日用品ならしょっちゅう購入しますが、冷蔵庫やパソコン、液晶テレビといった家電製品はそうそう買いません。にもかかわらず、消費者物価指数は、値段が上がっているもの、下がっているもの、価格が高いもの、低いもの、購入頻度が高いもの、低いものなど、あらゆる商品の価格を合算して平均値を出します。そのため、身近な物の価格から景気を読み取ろうとする庶民感覚とは、しばしばずれてしまうのです。 ただし、より庶民感覚に近い物価動向が分かるデータもちゃんと発表されています。それが、消費者物価指数の中の「購入頻度別消費者物価指数」というデータです。これは「年間にどの程度購入されているか」という切り口で対象商品を分類したものです。頻度は「0.5回未満」から「15回以上」まで、7段階あります。食料品や日用品、あるいは通信費などの公共サービスは、購入頻度が高い方に、家電などは低い方に入ります。 これを見ると、購入頻度の高い物の指数は近年大きく下落しており、庶民感覚と同じく「物価は本当にかなり下がっているんだ」ということが実感できます。このように、消費者物価指数の総合指数だけを見ている限りは、実感とデータは往々にして乖離しがちなのです。 いま世界中で最も大きな経済規模を持つ国はどこでしょうか?答えはもちろん、米国です。08年から09年にかけて、深刻な金融不安に襲われた米国ですが、それでもその経済規模はダントツ。今後も当分は、他国にトップの座を譲ることはないでしょう。次点は今のところ、われらが日本。そして、第3位に中国が続きます。07年までは長らくドイツが第3位だったのですが、破竹の勢いで経済成長を遂げた中国にあっさりと抜き去られました。さらに今年10年には、中国が日本を追い抜くのは確実と言われています。 さて、この経済規模のランキングですが、基準になっているのは各国のGDPです。GDPとは、1年間に国内で生産されたモノやサービスの金額の合計です。近年、日本経済は不調なので、GDPは縮小傾向にありますが、これまでの「貯金」があるおかげでいまだに世界第2位をキープしています。 GDPには「名目GDP」と「実質GDP」の2種類があります。通常、GDPと言えば前者ですが、単純に生産されたモノの金額を足しただけでは、インフレが生じた場合にGDPが経済の実態以上に膨れ上がってしまいます。そこで、物価変動の影響を取り除いて算出する実質GDPも発表されるようになりました。ただし、よく目にするGDPランキングは、各国が名目GDPをドル換算した数字を単純に比較した結果です。 GDPランキングには種類があり、名目GDPではなく「購買力平価ベースのGDP」ランキングというものも存在します。これによると、日本のランクは08年には第3位で、すでに中国に追い抜かれているのです。購買力平価とは「同じ物の値段はどこで買っても同じ」という考え方のことです。例えば、日本では200円で売られているお菓子が、米国では2ドル、中国では20元で売られているとします。同じ物の値段はどこで買っても同じであるなら、この場合の為替レートは「100円=1ドル=10元」となるはずです。 しかし、この数字は現実の為替レートと食い違っています。なぜなら、現実の為替レートは物価だけでなく、国の経済力や需給といった、さまざまな事象を反映しているからです。これに対し、購買力平価の交換レートは、あくまで「物価の格差」を排除したレートになります。名目GDPランキングはドル換算なので、為替レートの変動に大きく左右されます。その上、途上国の物価水準が先進国より低いことも考慮していません。しかし、購買力平価ベースでGDPを算出すれば、各国の物価の差を修正して比べることが可能なので、実態をより正確に把握できると考えられます。 わが日本は、購買力平価ベースのランキングですでに第3位に転落しながら、政治家などはいまだに「経済力第2位のわが国」を連呼します。しかし、本当は中国にとっくに抜かれ、引き離されていくばかりとも考えられます。さらに、一般的に報じられる名目GDPについても「一日にして中国は日本を抜くことができる」と言えば驚かれるでしょうか。実に簡単なことです。それは「中国人民元の対ドル相場をほんの少し、例えば5%程度切り上げればいい」のです。何しろ、各国の名目GDPのランキングを行なう際はドルベースにそろえるわけですから、中国人民元相場をほんの少し経済実態に合うように切り上げれば、一夜にして日本と中国のGDPは逆転してしまうのです。 経済について少しでも聞きかじった人なら、東証1部全上場銘柄の動きを示すTOPIXと、東証1部を代表する225銘柄の株価の平均を示す日経平均株価はご存じでしょう。これらはいずれも日本株の平均的な株価水準を示すもので、株式相場の水準を判断する際に用いられます。指数が上昇していれば、相場は全体的に上り調子、反対に下落していれば、多くの銘柄が値下がりしていると考えられます。日本にはいくつか株式市場がありますが、大企業の多くは東証1部に上場しています。そのため、東証1部のTOPIXと日経平均株価は、日本株全体の平均的な動きを示すものでもあります。 どちらも同様に「日本株の平均」を表すことから、両者は同じように動くと思われがちです。しかし、実際には必ずしもそうとは限りません。現に、09年のTOPIXと日経平均株価の動きには、大きな差が出ました。後者の上昇率の方が、前者よりもはるかに高かったのです。 毎日5分の「日経新聞」道場「データウオッチ」と「連想」で経済が分かる!(角川SSC新書) 日経平均株価の方が上昇率がはるかに高い さて、どちらが本当に日本株の平均を表しているのでしょうか。答えはTOPIXでも日経平均株価でもあり、両方なのです。 二つの指数の性格は大きく異なります。そもそも、TOPIXと日経平均株価の算出方法は全く異なります。TOPIXは東証1部に上場する全銘柄を対象として算出されるものです。全銘柄の時価総額(株式を全部お金に換えたときの金額。「株価×発行済み株式数」で算出)を合計したものが基準になります。ちなみに、09年3月現在の東証1部上場銘柄数は約1700弱です。 これに対して、日経平均株価は日本経済新聞社が選んだ225社の株価の平均的な水準を表しています。225社は、日本を代表する大企業の中から、業種などのバランスを考慮して、時々入れ替えを行ないながら選定することになっています。 算出方法の違いから、両者は異なる性格を持っています。TOPIXは「時価総額の大きな銘柄の株価変動に影響されやすい」というのが定説。一方の日経平均株価は「株価の平均的な水準を示すものなので、株価が高い銘柄の変動に影響されやすい」のです。 それぞれの指数は、どんな銘柄に影響されやすいのでしょうか。TOPIXに関しては、国内時価総額ランキング1位のトヨタ自動車が、その筆頭です。時価総額は日々変動しますが、トヨタ自動車の時価総額はランキング2位(三菱UFJフィナンシャルグループ)の2倍近くに及び、長年、不動のトップであり続けています。 そして、日経平均株価に最も影響するのは、「ユニクロ」で知られるファーストリテイリングです。また、工作機械用FA装置や産業用ロボットを手掛けるファナックや、電子機器メーカーの京セラも、強い影響力を持っています。この三社の値動きが日経平均株価を左右していると言っても過言ではありません。 指数の変動要因になっている銘柄がここまで違っていれば、当然、指数の動きも異なります。09年に日本株は上昇しましたが、この相場を支えたのは時価総額の大きい金融株や証券株、薬品株などではなく、値がさ株と呼ばれる株価の高い機械セクターやハイテク株、小売関連株でした。ここまで来れば、なぜTOPIXが日経平均株価よりも鈍い動きになったのか、お分かりになるでしょう。 さて、データを自分の目で見てその意味をきっちり理解しないと、思わぬ「ダマシ」に翻弄されるということは、実感できたでしょうか。この章で認識していただきたかったのは、一つの数字、一つのデータだけを見るのではなく、複数の数字やデータを引き合わせて物事を判断することの大切さです。 そこで次章からは、あるデータを見たときに、どんなデータと関連させて考えればいいのかという、ごく基本的なメカニズムをご紹介していきましょう。 第2章 経済・金融現象に働く11通りの基本メカニズム 経済・金融の構造は、一見複雑極まりないと思われがちですが、「景気」「金利」「株価」「物価」「為替」などの主要な経済ファクターは、互いに強く関連し合っているものです。第2章では、これらの間に働く基本的なメカニズムをご紹介します。メカニズムを知れば、例えば為替が円安になったとき、世界がどのように動くのかが「連想」できるようになります。 ちょっと茶化して言うと、「風が吹けば桶屋が儲かる」のようなものです。そのココロは「風が吹く」→「目にゴミが入って失明する人が増える」→「三味線弾きが増える」→「三味線に張る猫皮が多く必要になる」→「猫が捕獲される」→「猫が少なくなってネズミが暴れまわる」→「桶をかじる」→「桶屋が儲かる」というわけです。 一つのデータを原因として、どんな結果がもたらされるかという流れを思い描く。この作業を、私は「経済連想ゲーム」と呼んでいます。日常的に頭の中で経済連想ゲームを働かせる癖を付ければ、経済・金融への苦手意識もグンと薄らいでくるはずです。 連想ゲーム①「物価が上がる」→「金利が上がる」 まずは、物価と金利の関係について。一見するとあまり関係のなさそうな両者ですが、実は「物価が上がると、自動的に金利も上がる」と連想できるのです。言い換えると「インフレーション(インフレ)になれば金利は上昇、デフレーション(デフレ)になれば金利は下落」ですね。この連想が成り立つ背景については第1章でも触れましたが、さらに踏み込んで考えていきます。 物価上昇→連想ゲーム① 物価上昇→金利上昇 まず、インフレになると人々は消費を増やします。「値上がりする前に買おう」というのです。食料品も生活用品も車も住宅も、どんどん売れるでしょう。すると、銀行にお金を借りてでも物を買いたいという人が増えます。それに応えるために、銀行はどんどんお金を調達しなければなりません。そのため、銀行は「インターバンク市場」(金融機関同士が資金を融通し合う市場)でお金をかき集め、高い金利を付けて貸し出します。インフレのときは、多少高い金利を提示しても借りてくれる人がいるので、銀行も強気でローン金利を引き上げることができます。 また、銀行は債券を売ることによっても、お金を集めようとします。債券が市場にたくさん出回れば、価格が下落して利回りは上昇します。さらに、インフレ時には消費が一時的に増える一方で、預金が減少します。そうなると、銀行は預金金利を引き上げざるを得ません。こうして、世の中のあらゆる金利が上昇するわけです。 さらに中央銀行も、物価上昇を抑えるために政策金利の引き上げに動くのが一般的です。ここ最近の日本はデフレで、長らく超低金利時代が続いているので、若い読者の方はあまりピンと来ないかもしれませんね。しかし、40歳代以上の方なら、預貯金金利が今の何十倍も高かった時代をご記憶の方も多いはず。 2010年4月現在、都市銀行の普通預金金利は0.04%。定期預金金利は10年物でも0.4%前後です。ところが、バブル時代には、郵便局の10年定額貯金で金利8%という、仰天の商品もありました。預けておくだけで元本割れのリスクを取らずに資産が何倍にも膨れ上がるわけですから、預貯金希望者が金融機関に殺到しました。今からはとても考えられませんね。 一般にバブルと呼ばれる時代は80年代後半から90年代初頭ですが、当時は未曾有のインフレで、物価も高水準でした。超高級マンションや何百万円もする外車を、何の躊躇もなく買う人が大勢いたのです。物価はどんどん跳ね上がり、それに伴って金利も上昇していきました。 しかし、バブル崩壊後は物価が暴落し、デフレに突入。特に不動産価格の下落ははなはだしく、高値で不動産を買っていた人は資金繰りに行き詰まり、その人たちにお金を貸していた銀行も大いに苦しむことになりました。銀行が長年にわたって、そのツケを払い続けていたことは、ご存じの通りです。 連想ゲーム②「景気が上向く」→「金利が上がる」 金利の先行きを推測することは、たとえ経済・金融の専門家であっても、決して容易なことではありません。物価の上昇によって金利が上昇するメカニズムは前項でご紹介しましたが、金利を動かす要因は物価だけにとどまらず、さまざまな事象が複雑に関係しているからです。例えば、 「景気が上向けば、金利も上昇する」ともよく言われます。そこで、次からは景気と金利の関係を見てみましょう。 景気が拡大すると、企業活動が活発化し、賃金が上昇し、消費が活発化します。企業業績が拡大し、資金需要も増加します。景気の良い時は預金金利が高くなるのが一般的です。 景気が良くなるとは、全般的に企業が元気になることを意味しています。企業が元気になれば、そこで働く私たちの生活も、さまざまな形で潤うことになるでしょう。毎月の給料が上がり、夏・冬のボーナスも増えれば、おのずと生活にゆとりが生まれます。その結果、自動車や家電製品、ブランド品といった高級品や、旅行などへの消費が増えていきます。 私たちがモノやサービスにどんどんお金を使うようになれば、それらを提供する企業はますます儲かります。すると、儲かったお金を新しい設備などへの投資に充てて、事業規模の拡大を図る企業も増えるはずです。工場を建てたり、新しい機械を購入したりする企業がたくさん出てくれば、次は建設業界や運送業界が忙しくなります。トラックや建設機械がどんどん売れて、車メーカーや建設機械メーカーにもお金が流れます。 忙しくなるのは銀行も同じことです。設備投資には莫大なお金が必要なので、銀行にお金を借りたい企業が列を成すようになります。とはいえ、銀行だって常時大量の資金を保有しているわけではありません。不足を補うため、銀行は資金調達に奔走することになります。 ここからの流れは、前項と同じです。銀行はまず、インターバンク市場でお金を借りてきます。お金を借りたい銀行が増えれば、インターバンク市場の金利は上昇するため、必然的に銀行が顧客に貸し出す金利も上がります。さらに、銀行は債券の売却や預金金利の引き上げといった行動も起こすため、あらゆる金利が上昇します。 預金金利引き上げの背景には、企業による定期預金解約の影響もあります。個人と同じように、企業も銀行にお金を預けていますが、設備投資を実施するとなれば、こうした定期預金を解約する動きが加速します。その額は個人とは比べ物にならないほど莫大なので、解約された銀行の資金不足は一層深刻化し、金利上昇の傾向がますます強まります。 景気と金利の関連性はご理解いただけたでしょうか。日経新聞を眺めていると、「予想を上回る経済成長率の上昇で、国債の利回りが上昇」「景気減速懸念で、米国短期金利が低下」といったフレーズをよく見かけますが、その背景にはこのようなメカニズムが働いているのです。実際、「高度経済成長期」と言われて好景気だった1960~70年代の日本の金利は、常に高い水準をキープしていました。「定額郵便貯金に10年間預けておけば、元本が2倍」になったのです。多少まとまったお金があれば、利子だけで食べていけた時代を覚えている人にとって、今の超低金利は隔世の感があると思います。 金利は常に影響を及ぼされる側というわけではありません。金利の動きが原因で、物事が大きく動き出す局面もたびたび見受けられます。仮に、何らかの事情で金利が大きく下落したとして、例えば景気の行方はどうなると思いますか? A社を例に挙げて考えてみましょう。A社は「事業規模の拡大を目指して、新たに工場を建設したい」と考えています。そのためには、少なからずお金を集めなければなりません。そこで、A社は懇意にしている銀行に融資を頼むことにしました。銀行から融資を受ける場合、借り手にとっては金利が低ければ低いほどありがたいものです。私たちが住宅ローンを組むときと、全く同じです。 融資の金利は、当初3%程度になるはずでした。ところが、計画の進行中に世の中の金利が大きく下落し、融資金利も2%になったとします。金利が3%のときと2%のときでは、後者の方がはるかに負担は少ないですよね。そこで、A社は借りるお金を増やすことにしました。その結果、工場の規模を予定よりも大きくすることができたのです。 さて、これと正反対の現象が起こったらどうでしょう。融資金利が、突如として3%から4%に上がってしまったら……。当然、負担が増えてしまうため、A社の借りられるお金は減ってしまいます。資金不足で工場の規模を縮小せざるを得ず、これまで3レーンの予定だった生産ラインを、2レーンに減らすことになるかもしれません。 以上の例は、いわば経済の縮図のようなものです。金利が下がれば、企業は気兼ねなく借金して活発に事業を展開し、景気の上昇に貢献します。逆に金利が上がれば、企業の活動は縮小することとなって、景気は下落に転じるというわけです。 企業に限らず、私たち一般消費者も金利動向には振り回されがちです。80年代後半の住宅ブームを覚えていますか? 当時は急激に円高が進み、景気が悪化することを恐れた日本銀行(日銀)は、急激に金利を下げました。金利が下がれば、住宅や自動車などを購入する際の負担が減るため、消費が促進されます。その一環として起こったのがあの空前の住宅ブームだったのです。それは、やがて狂乱のバブル経済をもたらすわけですが、そもそものきっかけは、金利の引き下げにあったのでした。バブル崩壊後の日日本は、超低金利政策で景気の刺激を狙いましたが、残念ながらその効果はあまり表れていません。 ですが、最近の米国に成功例を見ることができます。2007年のサブプライムローン問題勃発以降、米国のみならず世界中が金融危機に見舞われたことは記憶に新しいでしょう。これを受けて、米国の中央銀行である連邦準備制度理事会(FRB)は、急速に金利を低下させました。その結果、米国の景気は上昇とまでは行かないまでも、何とか下げ止まることができたのです。緊急利下げやゼロ金利政策といった英断を次々に下して危機を救ったFRB議長のベン・バーナンキ氏は、その手腕を評価されました。 水は低きに流れ、お金は高金利通貨に流れます。二十四時間休みなく変動し続ける外国為替相場は、世界各国の金利が動けば、すぐさまその影響を受けて揺れ動きます。外国為替相場を見る上で、金利は特に重要な指標です。なぜなら、外国為替の取引にあたっては、ある通貨とある通貨の金利差というものが、少なからず意味を持つからです。 もし、米国の政策金利が上がれば、米ドル預金金利や米国国債の利回りもつられて上昇します。そうなると、低金利の通貨を売って、高金利のドル建て資産を買う動きが増加します。例えば、米国の10年物国債の利回りが3%から5%に上がったとしましょう。一方で、日本の10年物国債の利回りは1%台だとしたら、どう見ても米国国債の方が魅力的ですよね? そこで、円建ての資産を売り、米国国債を買う投資家が増えます。こうしてもたらされるのが、円安・ドル高という状況です。 このように、金利の上昇は通貨の上昇を招きます。もし米国の金利が上昇すれば、すなわちドルも強くなると読めるのです。逆に、金利の下落は通貨の下落につながります。 じて円安傾向が続いていました。ところが、例のサブプライムローン問題を境にして円高に転じ、09年早々には1ドル=90円前後まで動いたのです。この場合は「円が高くなった」というより、むしろ「ドルが異常に安くなった」と言った方が正確でしょう。ドル安の要因となったのは、FRBが米国の政策金利である「フェデラルファンド(FF)レート」を06年半ばから引き下げ続けたことです。FFレートは、短期間のうちに5.25%から実質ゼロ金利の0.25%まで下落しました。これを受けて、ドルは急激に安くなったのです。これは、金利の下落で通貨が下落した典型例と言えます。 ちなみに、このときは米ドルだけでなく、オーストラリア(豪)ドルやニュージーランドドル、ノルウェークローネも売られました。その代わりに買われたのが円だったため、円高はどんどん進行していったのです。一方的な円高に戸惑っていた日本でしたが、ほどなく原油などの資源価格が上昇して、資源大国であるオーストラリアやノルウェーの景気が回復。それに伴って両国は金利を引き上げたため、為替レートは豪ドル高、ノルウェークローネ高に進みました。 また、こんな例もあります。サッカーワールドカップやオリンピックといったビッグイベントを相次いで開催予定のブラジルは、10年3月時点の政策金利が8%超です。リーマンショック以前も以後もその水準は変わらず、他国に比べて相対的に高かったため、ブラジルの通貨であるレアルは上昇しました。日本でも、ブラジルレアルに投資する投資信託が人気を集めました。こうした投資行動も、「金利が高くなれば、通貨も高くなる」という連想を働かせることができれば、すぐに納得ができるのではないでしょうか。 連想ゲーム⑤「金利が上がる」↓「物価が下がる」では「物価上昇↓金利上昇」というメカニズムについてご説明しました。しかし、物価よりも先に金利が上がると、今度は物価が下がるという状況が生まれます。預貯金にあたっては、金利が高い方が好都合なわけですが、借り入れをするとなると話は別です。何しろ負担する利子が増えてしまうわけですから。金利がかなり上がっているときに、わざわざお金をたくさん借りようと考える人はあまりいません。それまで3%だった住宅ローン金利が6%に跳ね上がったら、誰もが借り入れには消極的になるでしょう。企業にせよ個人にせよ、「今は少し消費を抑えて、金利が下がるのを待ってみようかな」と思うのが自然ではないでしょうか。 こうしてみんなの消費意欲が減退すれば、次第にモノやサービスが売れなくなっていきます。市中に出回るお金は減少し、財布のヒモはガッチリ固くなります。こうなると困るのは、モノやサービスを供給する側です。利益が減少することを覚悟の上で価格を下げざるを得なくなり、物価はみるみる下がります。これが、「金利上昇↓物価下落」の大まかなメカニズムです。 金利が引き上げられるのは、往々にして物価が上昇している局面です。長期的なデフレに悩まされる日本にはあまり縁のない話ですが、新興国を中心とする海外の国々は、今もインフレに度々苦しめられています。インフレを退治したいとき、各国の中央銀行は金利の引き上げを行います。 日本の中央銀行である日銀が「物価の番人」と呼ばれていることはご存じでしょうか?日銀は、物価をコントロールするための手段の一つとして、政策金利である無担保コール翌日物金利の上げ下げを行います。無担保コール翌日物金利が上がると、民間の銀行が資金を集めるためのコストがかさみます。その分、銀行は貸し出しの際の金利を高く設定するため、前述のように消費意欲の減退を招くというわけです。 07年に原油価格が急騰した際、日本の消費者物価指数(CPI)は久しぶりに上昇しました。これは1990年代のバブル崩壊以来のことです。この結果を受けて、日銀はゼロ金利政策の見直しを実行し、政策金利をわずかに引き上げています。原油価格が上昇すると、原油を原材料とする製品の価格や輸送コストなどが上がって、相対的に物価が上昇してしまうため、その抑制を狙ったのです。 最近では、インフレやデフレが過度に進むのを防ぐため、各国の中央銀行が頻繁かつ早期に金利を上げ下げする傾向が強まっています。金利引き上げで狙い通りに物価が下落し、景気が落ち着きを取り戻すと、次第に金利の水準も元に戻っていきます。そこから再び物価が上がってくれば、またしても金利の引き上げという物価鎮静化の動きが働くのです。マーケットは根本的に、こうした一連の流れを何度となく繰り返しながら動いているものなのです。 連想ゲーム⑥「物価が上がる」↓「通貨が安くなる」では、「金利が上がると通貨も高くなる」ことをご説明しましたが、物価が上がるとその国の通貨はどうなるでしょう。高くなるでしょうか、それとも安くなるでしょうか?これまでのメカニズムを応用すると、「物価上昇↓金利上昇」であり、「金利上昇↓通貨上昇」でした。そのため、「物価上昇↓通貨高」となりそうなものです。しかし、必ずしもそうとは限りません。ここが経済の面白いところなのです。 A、Bという二国の通貨があるとします。両者の為替相場は、互いの金利差や両国の経済成長率、景況感の違い、あるいは貿易収支など、さまざまな要因によって決まります。しかし、これらのポイント以上に重視しなければならないのが、実は両国の「インフレ率の差」なのです。インフレ率とは、前年に比べてどれだけ物価が上昇しているかを示す指標です。 インフレだということは、通貨の価値が下がっている状態です。通貨の価値が下がるということは「そのお金で買えるモノが少なくなる」ことを意味します。これをちょっと難しい言い方で「購買力が低下する」と表現します。ここで思い出していただきたいのが、「購買力平価」というキーワードです。購買力平価とは、「同じ物の値段はどこで買っても同じ」という考え方のことでした。 再び例を挙げましょう。米国ではマクドナルドのビッグマックが1ドルで、日本では150円だったとします。この場合、購買力平価の考えに基づいて考えれば、1ドル=150円であるはずです。しかし、米国だけがインフレになって、米国のビッグマックの価格が1.5ドルになったとしたらどうでしょう。購買力平価のレートは1ドル=100円に変わってしまいます。つまり、日本に比べて米国のインフレが進んだことで、ドルの購買力平価は低下してしまったわけです。 物価の上昇が為替相場を揺り動かす要因となります。要するに、ある国のインフレ率が他国と比べて高くなると、インフレ率が高い国の通貨の価値は低下しやすいのです。そのため、物価動向を示す代表的な指標である「消費者物価指数」を見たとき、これが大幅に上昇している場合には、通貨が下落する可能性が高いと推定できます。幸か不幸か、日本は物価上昇から縁遠いため、円は強い状態を維持しています。これに対してタイ、韓国などのアジア諸国の多くは、過去に激しいインフレを経験し、その影響で通貨が大暴落するという事態にも見舞われています。それが、97年のアジア通貨危機です。相対的にインフレ率が高い国の通貨は、中期的には為替相場のレートも低くなるのです。 日本と米国のインフレ率を比べると、今のところは米国の方が高い状態。この分なら、まだしばらくは継続して円高傾向が続くと考えていいかもしれません。 日本は鎖国をしているわけではないので、国内企業も海外との関係を無視して事業展開することはできません。国内企業が海外と貿易をする際、何の通貨で決済するにしろ輸入にしろ、多くはドルで決済しています。そのため、ドル円の為替レートは貿易業者にとって非常に重要な意味を持つのです。 それにしても、日本ほど円高・円安に一喜一憂する国も珍しいかもしれません。日本は輸出関連企業が多いので、基本的には円安で得する人が多いのです。例えば、1ドル=160円だった時代と1ドル=80円まで円高が進んだ時代を比較してみましょう。ある企業が自動車を1万ドルで売った場合、1ドル=160円時代なら売り上げは160万円です。しかし、80円の時代には80万円しか手元に入ってきません。 仮に160万円の売り上げがないとペイしないとすれば、利益を出すためには同じ自動車を2万ドルで売らなければならない、という理屈になります。そうなると、輸出先の国で値上げをするしかありません。これでは売れるものも売れなくなります。円高がいかに輸出企業に対して大きなマイナスか、お分かりになるでしょう。 極端な円高が進んだときは、深刻な景気後退を覚悟しなければなりません。そもそも日本の産業構造は、自動車、電気、精密、機械といった、輸出でお金を稼いでくる企業がその中核を成しています。いずれの産業も、国際競争を勝ち抜くことができる非常に高い技術を持ってはいるのですが、輸出に依存しているおかげで、急激な円高に対してとても脆い体質なのです。例えば、トヨタ自動車は1ドルにつき1円の円高になっただけで、約250億円もの損失を出すと言われています(営業利益ベース)。同じ条件下では、ソニーも約10億円の損失です。つまり、為替レートは輸出企業の、さらには日本経済全体の命運を握っているのです。 サブプライムローン問題やリーマンショックでドルが弱くなったときには、相対的に強い円が買われ、急激に円高が進みました。このとき、日本を代表する優良企業の多くが収益を大幅に減らして赤字決算となり、景気全体に大打撃を与えたのです。日経新聞を見ていると、2005~07年半ば頃までは「円安により、自動車、精密、機械製品の価格競争力が強まる」といった見出しが多かったものです。しかし、07年後半からの経済危機以後の見出しを見ると、「企業業績、円高長期化で懸念」「円相場急伸、輸出関連、利益下振れ懸念」といった文句が目立つようになりました。 ちなみに、同じく輸出大国である中国は、08年7月以降ドルに対する人民元の為替レートを固定しています。米国は人民元の切り上げを求めていますが、人民元高は中国国内の輸出企業へのダメージが大きく、経済成長を損なうとの懸念から、中国当局は時期を慎重にうかがっている状況なのです。 現在、日本経済は「円高デフレ」に陥っていると言われます。円高デフレとは、円高に伴って物価が継続的に値下がりしている状況のこと。反対語は「円安インフレ」ですね。こちらは、為替が円安に振れた影響で、輸入品の価格が上昇する状況を指しています。円高デフレに苦しめられる私たち日本人にとって、円安インフレはあまりイメージが浮かばないかもしれません。 それとは対照的に、世界の多くの国は、かつて米国がドル高政策を実施していた影響から、長期的に自国通貨がドルに対して下落する事態を目の当たりにしてきました。おかげで輸入品の価格が上昇し、物の値段が相対的につり上がるという状況に悩まされてきたのです。 一体なぜ、通貨が高くなると物価は下がり、通貨が安くなると物価は上がるのでしょうか? 例えば、日本の輸入業者が米国の輸出業者から自家用ジェット機を購入するとしましょう。決済通貨別に考えてみると、次のようになります。 ジェット機の価格が1億ドルだとすると、1ドル=160円のとき、日本の輸入業者は手持ちの160億円を1億ドルに換金して支払うことになります。これが1ドル=80円になったら、80億円を1億ドルに換金して支払います。つまり、80円の円高になれば日本の輸入業者にとっては80億円が浮くことになるのです。 円決済で輸入する場合、ジェット機の価格が160億円だとすると、1ドル=160円のときは、米国の輸出業者に160億円をそのまま支払います。そのため、米国の業者は160億円を1億ドルと換金します。一方、1ドル=80円になったときに日本の輸入業者が160億円を支払うと、米国の輸出業者は2億ドルに換金できます。つまり、米国の業者にとっては、儲けが1億ドル分増えることになります。 しかし、日本の業者は「せっかく為替相場が円高になったのに、160億円は高い」と感じるでしょう。そこで価格の引き下げ交渉を行ないます。米国の輸出業者としては「かなり儲かっているし、多少なら安くしてもいいか」と値下げに応じる可能性が高くなります。 さて、日本の輸入業者がドルで決済する場合、円高になると円安時と同じものを少額で手に入れられるため得だということは分かりますね。円で決済するにしても、円高になれば輸入価格の引き下げ交渉がしやすくなるため、安く仕入れられる可能性が高いのです。つまり、日本の輸入企業にとって円高は、決済通貨にかかわらず、歓迎すべき状況だと言えます。 円高によって輸入品が安く仕入れられれば、輸入業者は国内での販売価格を安く設定します。輸入品が安くなれば国産品も値下げしないと売れなくなるため、物価は全体的に下がっていきます。そう、デフレが進行するのです。 私たちはみんな、多かれ少なかれ為替相場に翻弄されています。日本人だけでなく、世界中の人々が為替相場の影響下にあるのです。景気も物価も輸出入のボリュームも、為替相場次第で大きく変動してしまいます。 金利も、為替相場に翻弄されるものの一つです。各国の金利は、為替相場の動向を受けてしょっちゅう上下動しています。日経新聞でも「円安が急激に進行して金利が急騰」、その結果として「日本の国債発行利回りが上昇し、財政赤字が膨らみ、財政事情が悪化する」といった内容の記事をしばしば見掛けます。つまり、為替相場を見れば金利の動きを連想でき、金利の動きを見れば経済の方向性をイメージできるのです。 この新聞記事の例からも分かるように「通貨安→金利上昇」というメカニズムが働きます。円安になれば、日本の金利も上がるというわけです。その理由は、急激な円安時の投資家の動きを分析すれば分かります。日本市場には国内投資家のほかに外国人投資家も数多く参加しているので両者の動きを追ってみましょう。 円建て資産の魅力が低下し、外貨建て資産に資金がシフトしています。円建て債券の売却が増加し、円資産を売却する動きが強まります。債券価格が下落し、利回りは上昇します。差益が狙える海外の金融商品にシフトしようという傾向が強まります。今後、円安が進みそうだというときに外貨預金や外債ファンドを買う人が増えるのは、こうした理由からです。 外国人投資家も円安が進んで為替の差損が増えるのを避けようとして、円資産を外貨に換えようとする傾向が強まります。両者の動きから結論付けられるのは、将来的にある通貨が安くなると想像される場合、その通貨建ての金融商品は売却されやすいということです。円安傾向なら円建て資産が売られます。 特に売りが顕著になるのが、円建ての債券でしょう。円建て債券の売却が増えれば、市場に出回る債券の量が増えます。すると、債券の価値は下がってしまうので債券価格が下がるとともに利回りが上昇します。新規に発行する債券も、こうした状況下では金利が高くないと誰も買わないので、利回りを引き上げます。 金利を動かす要因は投資家の思惑です。為替相場の動向が直接的に金利に作用するのではなく、今後の為替相場が「上昇する」「下落する」という投資家の予想や思い込みが、金利に作用しているということです。つまり、投資家の大多数が円安と思えば金利は上がるというわけですね。 日経新聞にも「大幅な円安を受けて東京国債市場で売りが先行」というような記事がよく載っています。この裏側には、為替の下落から金利の上昇を連想して動く投資家の姿があります。 株式市場にとって代表的な悪材料と言えば、金利の上昇です。日銀や米国のFRBといった中央銀行が「政策金利を引き上げそうだ」という噂レベルの情報が流れただけで株式市場は下落しがちです。それは「金利が上がると、株式よりも相対的にリスクの少ない預金や債券にお金が流れ込むため、株式は売られる」という連想が働くためですが、実はこのほかに、もっと深いメカニズムがあることをご存じでしょうか? 金利が上昇すると、企業業績にマイナスに働きます。金利が3%から5%に上昇した場合で考えてみます。銀行から借り入れている企業は大いに焦るでしょう。金利の負担が増えれば、たとえ売上が変わらなかったとしても、収益を圧迫されることになります。 金利が上がれば、私たち一般消費者を対象としたローン金利も上がります。みんながローンの負担に苦しむようになれば、モノやサービスにお金を向けなくなり、全体として個人消費が減少します。こうなると、モノやサービスを提供する企業の業績はさらに落ち込んでしまいます。 借金が多い企業ほど、金利の上昇によるダメージは大きいものです。こうした企業は、株式市場で「金利敏感銘柄」あるいは「金利感応度が高い企業」と呼ばれています。金利が上昇すると、この金利敏感銘柄から値下がりするのが普通です。具体的には、不動産、商社、電力、鉄鋼、金融などの業界に属する企業がそれです。これらの業界は、普段から多くの資金が必要であり、どうしても借金が増えてしまいます。 米国のサブプライムローン問題が表面化する直前の2007年当時、日本では外国人投資家が積極的に不動産投資を行なっていました。その影響で、お台場や有明といった都心の臨海地区などに、超高層ビルやマンションがたくさん建てられました。1980年代後半から1990年代初頭のバブルの頃には遠く及びませんが、「プチ不動産ブーム」の到来と言われました。プチ不動産ブームは、多くの不動産会社に多額の借金を背負わせました。 ところが、期を同じくして日銀がゼロ金利政策からの脱却を図ったのです。ほんのわずかな利上げにすぎませんでしたが、不動産関連会社の株価は一斉に下落しました。追い打ちをかけるように、米国ではサブプライムローン問題が大々的に取り上げられ、不動産会社の株価は地に落ちました。株式市場がいかに金利上昇を嫌うか、お分かりになるでしょう。 その一方で、借金の少ない企業にとっては、むしろ金利上昇がプラスに働きます。こうした企業はお金に余裕があり、余裕分を預金などによって運用している場合が多いからです。金利上昇で預金金利も増えれば、その企業はさらに潤います。しかし、現実には利上げを歓迎しない企業の方がずっと多いと考えるべきでしょう。 金利の引き上げは物価上昇を抑制する効果をもたらします。しかし、企業の資金コストを上昇させて企業業績の悪化を招くことから、「諸刃の剣」でもあるのです。 景気がとても良く、株価上昇の気運が高まれば、誰しも「株を買ってみようかな」と思うのではないでしょうか。普段は地道に個人向け国債だけを買っているような人でも「これだけ盛り上がっているなら、債券より株の方が面白いかも」と、ポリシーを変えるかもしれません。 このように、株価が上昇し始める頃には、「株価は今後も上昇しそうだ」という投資家の期待が、みるみる市場に広がっていきます。ポジティブな考え方が支配的になれば、株式市場には次々と新たな資金が入ってくるものです。個人のお金だけでなく、企業や投資信託といった機関投資家の莫大な資金も、どんどん流入してきます。 ここで注意すべきは、投資家が株を買うための資金の出所です。よく見られるパターンは、保有していた債券を売って株式投資に回すというものです。債券より株の方が魅力的であれば、債券を手放す人が増えるのも道理です。そうなれば債券価格は下落し、債券利回りは上昇します。このことから、「株価が上がると金利も上がる」と連想できるのです。 さらに、株高は企業に多くの恩恵をもたらします。「株高→増資」で資金が潤沢になった企業は、設備投資や人材の確保などを積極的に行ないます。そのためのさらなる資金集めの手段として、社債を発行するかもしれません。あるいは、すでに保有している債券などを売って、資金を確保する企業も出てくるでしょう。こうして世の中に出回る社債が増えれば価格は下落し、債券の利回りは上昇するのです。また、銀行貸し入れが増えることも、金利上昇の一因となります。 40歳代以上の方は、80年代後半から始まったバブル時代のことを思い出してみてください。当時は記録的な株高が話題になっていました。バブル景気の高揚とともに株価は急騰し、1989年12月の大納会では、日経平均株価が史上最高値の3万8915円87銭を付けました。いまだにこの記録は破られていませんし、2010年4月現在の日経平均株価が1万1000円そこそこであることを思うと、驚くべき高さです。 このような株高の印象は強いと思いますが、それでは同時期の日本の債券利回りがどの程度だったか覚えているでしょうか。答えは5~8%弱です。バブル時代が始まった当初、日銀は急激な円高による不況を警戒し、公定歩合を2.5%に引き下げていました。ところが、株価が急騰したため、債券が売られて国債の利回りが5%前後まで上昇。今度は逆に景気の過熱を心配した日銀は、1989年半ばから公定歩合を連続的に引き上げました。すると、今度は国債の利回りが一気に8%弱まで上昇しました。「株価上昇→金利上昇」のメカニズムが、明らかな形で機能したわけです。 めたときも、やはり株価の上昇とともに、債券利回りが上昇しています。このように、株と債券、金利の動きは切っても切り離せない関係なのです。 なお本章を終えるに際して、以上で述べた経済メカニズムの基本を次ページで図にしておきました。経済事象は互いに緊密な関係のもとに動いていることが、改めてお分かりいただけるでしょう。 ここまでで、金利や為替、物価、株価、債券価格などが変動する大まかなメカニズムはお分かりいただけたと思います。ただし、実際のマーケットではこうしたメカニズムに逆行する現象が起こることもしばしば。そのため、「こんなメカニズムなんて、全然あてにならないよ」と、うそぶく人もいるかもしれません。 とはいえ、メカニズムに狂いが生じるのは、全体を通して見るとごくわずかな期間です。やはり、原則としてマーケットはメカニズムに従って動くものであり、それを知らずに変則的な動きだけを論じようとするのはナンセンスです。 第3章からは、マーケットを見る上での応用的な視点をご紹介していきますが、あくまで基本のメカニズムを踏まえた上での説明になりますので、その点はご理解ください。 突然ですが、どんな物事にも「原因」があって「結果」があるものです。例えば、第2章では「金利上昇(下落)↓株価下落(上昇)」のメカニズムをご紹介しましたね。その裏側にはさまざまな流れがあるわけですが、よく言われるのは、金利が下がると企業は借り入れをしやすくなるため、業績が好転するという理屈です。金利の下落が「原因」となって多くの企業業績が好転すれば、おのずと全体的に株価が上がるという「結果」がもたらされます。 しかし、金利が下がるより先に株価が上がることも多いものです。株価の上昇が「原因」で債券の利回りが上がり、あらゆる金利の上昇につながるというメカニズムについても、すでにご紹介しました。整理すると、「金利下落↓株価上昇」「株価上昇↓金利上昇」となります。この通り、「株価上昇」が「原因」になり、はたまた「結果」になるかで、金利との関係は全く逆転しています。同様のことが物価と金利の関係でも言えます。つまり、マーケットで連想ゲームを繰り広げるにあたっては、「A↓B」が「B↓非A」という関係になりがちだ、と覚えておくべきなのです。 では、ここ10年の米国政策金利(フェデラルファンドレート)と、ニューヨーク市場のダウ工業株30種平均(NYダウ)の推移から両者の関係を見てみましょう。大前提として、米国は日本より大胆に金利を動かす傾向があり、為替や株価への影響も大きいことは認識しておいてください。 たとえば、2004年から米連邦公開市場委員会(FOMC)が17回連続利上げに踏み切った際は、それが「原因」となって株価が調整局面に入りました。しかし、近年になって急激に株価が下落すると、その「結果」として米国はゼロ金利にシフトしています。このときは、株価下落が金利低下という事態を招いているのです。 このように「原因」と「結果」の組み合わせは時々変わるものです。いま起こっていることが、何か「原因」で動き出したのか判断しなければ、正しい連想はできません。 前のページで、「原因」が大切だと言いました。例えば、金利上昇が株安の「原因」なのだとしたら、金利上昇が起こった「原因」についても連想する癖を付けたいものです。 このところ、ギリシャの財政難のニュースが大きく取り上げられていますね。多額の債務を抱え、国家の破綻すら懸念されているギリシャは、国債の信用度を示す格付けのランクを引き下げられてしまいました。これは、ギリシャ国債の債務不履行(デフォルト)の可能性が高くなっていることを意味しています。 ところで、ギリシャの長期金利は上昇中です。通常、金利が上昇する理由としては「経済が成長している」「物価が上がっている」「株価が高い」などが考えられます。しかし、ギリシャの場合はこれらのいずれにも当てはまりません。しかも、「金利上昇↓通貨高」のメカニズムも機能せず、むしろユーロは安くなっています。 そこで連想しなければならないのは、先にも述べた「ギリシャが財政難である」という事実です。財政難になると国は何をするでしょう。お金を捻出するために、国債などの債券をより多く発行するはずです。 ただ、格付けを下げられた国の債券をわざわざ買う人はそうそういません。こうした事情を反映して、通貨安がもたらされます。ユーロ圏にはギリシャ以外にもスペイン、ポルトガルなど深刻な財政難に見舞われている国が複数あるため、なおさら下落します。債券が増発されれば利回りが上昇し、それ以外の金利も上昇します。 ここでようやく、この例では財政難という非常事態が「原因」となって、さまざまなメカニズムが「誤作動」したのだと理解できるわけです。 為替相場が円安に動いていたとします。日本は輸出関連企業が多いため、円安は株式市場にとってプラス……とはよく言われる話。しかし、外国人投資家が日本株から手を引き始めるため日本株は下落傾向にあり、この状況はしばらく続くものと思われます。さて、金利はどのように動くでしょうか? ここで思い起こすべきメカニズムは二つあります。一つは「通貨安↓金利上昇」です。円安になると国債などが売られて価格が下がり、債券利回りが上がるため、金利が上昇するという流れでしたね。もう一つのメカニズムは「株価下落(上昇)↓金利下落(上昇)」です。株に人気がなくなれば、債券にお金が回り、債券価格が上昇。すると、債券の利回りがダウンするため、金利は下がるという流れです。 しかし、この例では円安であり、同時に株安でもあるという状況。前述の二つのメカニズムから導き出される答えは正反対なので、どちらを信じればいいのか悩ましいところです。判断のヒントは、メカニズムの「強弱」にあります。 行する勢いを比べたとき、どちらがより強いかチェックしてみましょう。仮に、円安はそれほど急激ではなく、ゆるやかに進行している状況だとします。逆に株安は深刻で、全体的に相場が急降下しているとしたら……明らかに株安の勢いの方が強力ですよね。そうなると、「株安↓金利下落」のメカニズムの方が強く作用し、「金利は下落する可能性が高い」と考えることができます。 ご自分のことに置き換えて考えてみてください。人が行動を起こすときは、たいてい他者から影響を受けているものです。上司の命令や恋人の希望、友人の依頼等々、あなたの行動は、周囲からのあらゆる働きかけに左右されています。 とはいえ、すべての他者の言葉にいちいち従うわけにはいきません。上司の残業命令と友人に頼まれた合コンのセッティング、恋人からのデートの誘い、これら三つの要求に同時に応えるのは不可能でしょう。よって、あなたは最も強い力に従わざるを得ません。株価などが変動する際も、あらゆる現象の中で最も強い力に影響されることも、同じ原理なのです。 円高になると、輸入品の価格が下がって輸入量が増えます。そうなると、国内全体の物価が下がるということは、すでにご説明した通りです。ドル=100円から90円まで円高が進むと、それまで「10ドル=1000円」だった輸入品を「10ドル=900円」で仕入れられるので、輸入業者は販売価格を下げることができます。あらゆる輸入品の値段が下がれば、競争力を保つために、国内の商品も値下げせざるを得ません。かくして、物価はどんどん下落するのです。円安時は逆の動きが起こって、物価高になります。 とはいえ、円高になったからといって、すぐさま物価が安くなるわけではありません。現実に物価が下がるのは、かなり時間が経ってからのことです。だからといって「メカニズムが作用していないじゃないか」と早とちりしないでくださいね。 タイムラグが生じる原因にはいくつかありますが、よく指摘されるのは貿易業者の為替予約による影響です。貿易を行なうにあたって、業者はすぐに決済する直物のレートを使うわけではなく、決済の数ヶ月~半年程度前から為替レートを予約しておくのです。 少し横道にそれますが、なぜ貿易業者が為替予約をするのかをご説明しておきましょう。仮に、業者Aが保有しているドルを4ヶ月後に円に替える予定だとします。この間に急激に円高・ドル安が進むと、業者Aは大損をしてしまいますよね。しかし、現時点でドルを売って円を買うレートを予約しておけば、そのリスクを回避できるわけです。ただし、将来の決済時の為替レートが業者Aにとって有利な方向(=円安・ドル高)に進んでいたとしても、予約した為替レートは取り消せないため、為替差益を得ることはできません。 貿易業者は為替予約をコンスタントに行なっています。そのため、為替が円高になっても、即座には影響が出ないのです。「円高↓物価下落」のメカニズムがすぐさま機能しなくても、それは当然のことと言えます。 逆に、タイムラグなしで起こるメカニズムもあります。その好例が、金利の上げ下げが株価や為替に与える影響でしょう。変動幅にもよりますが、株式市場や為替相場は金利の影響を敏感に反映して、スピーディーに動くことが多いものです。 例えば、景気があまりに悪いと、緊急利下げが行なわれることがあります。米国では、08年1月に突如として大幅な緊急利下げを実施したことがありますが、株価はすぐ翌日から反発しました。 このように、各メカニズムが機能するスピードには差があるものです。私たちが飲む薬も、即効性があるタイプとじわじわ時間をかけて効くタイプがありますが、それと同じようなものです。為替と株価は即効タイプですが、貿易収支、景気、物価はじわじわタイプと言っていいでしょう。 そのため、中長期的な収益を狙って運用を手掛けるファンドマネージャーなどは、中長期的な戦略を立てる場合に、物価の動向を強く意識していることがよくあります。 「株価下落(株価上昇)↓債券価格上昇(債券価格下落)」とはよく聞く話です。例えば、景気が良いときは株式市場にお金が流れ込みやすくなりますが、景気が悪くなると一転して株式市場からお金が流出し、債券が買われます。それゆえに、株と債券の値動きは逆行すると言われているのです。 しかし、これは絶対の現象ではありません。時には株も債券もそろって値下がりすることがあります。なぜ、こうしたメカニズムの誤作動が引き起こされるのでしょうか? それでは、一つずつ丁寧に分析してみましょう。日本株市場が世界有数の巨大市場であることはご存じの通り。市場には日本人のみならず、外国人投資家も大勢参加しています。その割合は、全体の約3分の2にも及んでおり、もはや日本株市場は外国人投資家の動向によって左右されていると言っても過言ではありません。 さて、景気の悪化などの原因から日本株がどんどん値下がりしたとします。結果として外国人投資家も大いに損失を出したとしたら、彼らは次に何を考えるでしょうか。損失を少しでも補填するために、多少は利益が乗っている日本の国債を売り払ってしまったとしても、不思議ではありませんね。そうなると、今度は日本国債の投げ売りが始まるというわけです。 外国人投資家は日本株市場のキープレーヤーですから、派手に売り込まれれば、株式、債券市場は共に氷河期に突入します。こうして、日本株と日本国債のダブル安という状況が生じるわけです。 外国人投資家の動向は日本株市場の方向性を決定付けるところで、株価を動かす要因には「市場内部要因」と「市場外部要因」があります。前者は、外国人投資家や金融機関・投資信託といった大口機関投資家の動向など、株価の動きにダイレクトに影響する材料を指しています。一般に、外国人投資家や機関投資家は動かすお金が大きいため、株価は彼らの投資姿勢に引きずられがちなのです。 後者は、文字通り株式市場の外部で起こったことで、株価に影響を及ぼす材料です。金利や為替、景気の動向、政局などがこれに当たります。株価を動かす原因となるメカニズムは、いずれも市場外部要因に基づくものです。しかし、前述の外国人投資家の動向のように市場内部要因による影響が強いときは、メカニズムの論理を超えてマーケットが動く場合も珍しくありません。 通常であれば「円安(円高)↓株高(株安)」というメカニズムが働きますが、外国人投資家にとってはむしろ円高の方が為替差益が期待できます。そのため、円高になると日本株買いが進み、円安傾向になると売りが先行することもあるのです。外部要因によりメカニズムが機能しないときは、市場内部要因にも考えをめぐらせてみてください。 「原油価格が上昇している」というニュースが飛び込んできたら、あなたはどんなことを連想しますか。普通に考えると、「原油を材料とするさまざまな製品が値上がり」↓「物品の輸送コストも上がる」↓「物価高がもたらされる」という流れが浮かぶでしょう。物価高、すなわちインフレーション(インフレ)傾向が進んでいくと。 消費や投資が前倒しになって銀行の資金需要も前倒しとなり、金利が上昇します。この経緯に関しては、これまでにも何度となく触れました。インフレを食い止めるには、市場に出回っているお金を減らす必要があるので、そのために利上げが行なわれる、という連想も成り立ちます。いずれにせよ、「原油高→利上げ」という構図になるわけです。 利上げにもかかわらず米国10年物国債利回りは上がらず、ところが、これと全く逆の状態になったことがありました。2004年半ばのことです。米国では不動産バブルが発生し、さらに原油などの一次産品が値上がりして、インフレ傾向にありました。それを鎮静化するために、約2年間にわたって17回連続の利上げが行われたのです。それまで1%台だった米国の政策金利・FFレートは、最終的に5.25%まで跳ね上がっていました。 しかし、不思議なことに長期金利の代表である10年物国債の利回りは、この間ほとんど変化しなかったのです。この現象が発覚したときには、当時の米連邦準備制度理事会(FRB)議長のアラン・グリーンスパン氏でさえ、首を傾げました。FFレートは短期金利ですが、短期金利が上がれば長期金利も上昇するのが普通だからです。 そのカラクリが判明したのは、しばらく経ってからのことでした。原油価格が上昇すると、原油消費国にとっては負担ですが、中東などの産油国は儲かります。その莫大なお金の運用先として、彼らが選んだのが米国国債でした。米国国債の大量の買いによって価格は上昇し、利回りは上昇しなかったのです。短期金利が上昇したにもかかわらず10年物国債の利回りがほとんど変動しなかったのは、こうした事情からだったのです。結果として原油高なのに金利は上がらないという、通常あり得ない事態になりました。 さらに、前ページのグラフを見ると、米国の景気は大して良くなっていないのに、2008年末から10年物国債の利回りが急に上昇しているのが分かります。通常なら「景気拡大→金利上昇」となるはずでした。背景にあるのは、国債の増発だったのです。経済危機で財政赤字に陥った米国は、国債を大量に発行しました。先のギリシャの例と同じです。結果として債券価格が下がり、利回りが上昇。ここでも「景気は回復していないにもかかわらず金利上昇」という、基本メカニズムと逆の状況が生まれたのです。 このように、経済・金融の世界では、一つの現象が相反する二つの結果を導くことがよくあります。例えて言うなら、普段は許せる彼女の言動が、時と場合によっては無性に腹立たしく、ついにはケンカに至ってしまうのと似ているのかもしれませんね。 第2章では、主に景気、金利、為替、物価のうち、二者のかかわり合いについて見てきました。「景気拡大→金利上昇」「金利上昇→株価下落」など、さまざまなパターンがありましたね。しかし、実際には「A→B」というパターンだけでなく、「A→C→B」や「A→E→D→B」という具合に、いろいろなルートを迂回して影響が及ぶこともあります。 例えば、「株価上昇→金利上昇」というメカニズムがあります。株価が上がると相対的に見て債券のうまみが減るため、債券が売られて債券価格が下落。すると、債券の利回りが上がるため、金利は上昇に転じるという理屈でした。 しかし、株価上昇が金利上昇につながる原因は、ほかにもあります。株価が上がるということは、株で儲けている人が増えるということです。儲かったら次に何をするでしょう。やはり、そのお金を使いたいと思いますね。そうして消費に意欲的になる人が増えれば、自然と物価は上がります。物価が上がってインフレ傾向になれば、日銀は引き締めのために金利を上げることになります。この流れだと、「株価上昇→物価上昇→金利上昇」というプロセスをたどることになります。 ほかにも、例はいくらでも挙げられます。「景気拡大→金利上昇」のメカニズムについて考えてみましょう。景気が良くなれば、企業も個人も余裕が出てくるため、お金を借りて設備投資なり住宅購入なりに充てようと考えます。すると、必然的に物価は高くなるでしょう。さらに、高い金利でもお金を借りて物を買う人が増えるため、金利が上がります。「景気拡大→物価上昇→金利上昇」です。 一方で、景気上昇時にお金を貸しすぎると、銀行は資金繰りに困ります。お金を貸したくても手元にお金がない。そんな状況になれば、手持ちの債券を売って資金調達をしようと考えても不思議はありません。債券が売られれば、債券価格が下がります。すると利回りが上がって、全体的に金利が上がるという構図です。流れとしては「景気拡大→債券価格下落→金利上昇」となりますね。 このように、連想はいかようにも広げることが可能で、経済・金融データが動く背景には、一面的ではなく多面的な要素が絡み合っているものなのです。 ある子供が、社会のテストで60点を取ってきたとします。さらに、次のテストでは75点でした。「前よりは点数が上がったよ!」とその子は言うかもしれません。ただし、お母さんとしては、数字だけでなく平均点も気にしたいところ。仮に、前回のテストの平均点が65点で、次が85点なのだとしたら、むしろその子の成績は、相対的に見て悪くなっていますね。 経済・金融の世界でも、データの絶対値だけを見るのではなく、相対的にデータを見ることが大切です。例えば為替相場を見るときも、「今日のドル円相場は円高」という情報だけでは不十分です。もしかすると、円はドルに対しては高かったとしても、その他すべての通貨に対しては安くなっているかもしれません。そう考えると、今が必ずしも円高だとは言えなくなってしまうからです。 さて、金利と為替の関係についてはすでに何度もご紹介しましたね。金利が下がるとその国の通貨は安く、逆に金利が高くなれば通貨も高くなる、というのが王道のメカニズムでした。日本の場合、日銀が利下げをすると、円と外国通貨との金利差の拡大につながります。通常、お金は少しでも金利が高い通貨の方に流れていくため、利下げによって金利差が拡大すれば、金利の低い円は売られて円安になるという仕組みです。 ところが、仮に日本と米国とで同時に利下げを行なったとすると、どうなるでしょう。円はドルに対して、セオリー通り安くなるのでしょうか。しかし、米国も利下げしているなら、円とドルの関係は簡単ではありません。 ここでも、重要なのは両者の勢いを比べることです。仮に、日本が「0.5%から0.3%」に利下げして、米国が「5%から4.5%」に利下げしたとしたら、相対的に見て後者の方がインパクトは強いですね。そのため、日本と米国の利下げ幅が前述の通りなら、たとえ数字上は日本の金利の方が低くても、米国の金利の方がより低くなったと見なければなりません。こうなると、円高に振れる可能性が高いのです。もし、国内の金利だけを見て「利下げしたから円安だな」と単純に判断してしまったら、痛い目にあうでしょう。 似たような例ですが、ずっと下がっていた金利がさらに微妙に下がった場合と、ずっと上昇中だった金利が突然反落した場合とでは、やはり後者の方が為替相場に強く影響する可能性が高くなります。 相対的な視点を持つにはデータが不可欠です。相対的に物事を見る重要性は、第1章の43ページでご紹介した、日本と中国の国内総生産(GDP)比較の例でも言えることです。10年初頭の時点では日本の名目GDPは世界第2位で、中国が第3位。しかしGDPは米ドルベースで発表されるため、為替変動に大きく左右されるのです。 高くなれば、それだけでGDPのランキングは塗り替えられてしまうでしょう。いま起こっている事象を正確に理解するには、さまざまなデータから相対的に物を見る姿勢が求められているのです。 毎日5分の「日経新聞」道場「データウオッチ」と「連想」で経済が分かる!(角川SSC新書) 第4章からは、経済・金融の動きを正確に見通す上で、実際にどんなデータが役に立つかという具体例を挙げていきましょう。世の中にはありとあらゆる経済・金融データが存在しています。それらをすべてチェックするというのは、現実には不可能です。そこで、ここでは「金利」「為替」「株式関連」「不動産・商品」の四分野について、最低限チェックしておくべき22項目のデータを取り上げます。『日本経済新聞』に掲載されているこれらのデータを定点観測するには、毎日5分でOK。データウオッチングを毎日の日課にすれば、マーケットを見通す視力が飛躍的に上がります。 1. 国内外の長短金利はこれだけ見ておけばひとまずOK。金利は国内のものだけでなく、主要国の政策金利をはじめとする短期金利や、主な長期金利は押さえておくのがベターです。国内の金利は火~土曜日の日経新聞朝刊の「マーケット総合2」面に、海外の金利は夕刊の「マーケット総合2」面(土曜日は「マーケット総合」面)に掲載されており、これらは景気や為替、株価動向などを読み解く基本データになります。 無担保コール翌日物金利は、日本の短期金利の中で最も注目されている金利です。なぜか。この金利が日本の政策金利(バンクレート)だからです。政策金利という言葉は、誰しも一度くらいは耳にしたことがあるはず。各国の金融政策の柱となる重要な金利を指しています。昔、学校の授業で「日本の政策金利=公定歩合」と教わった人も多いでしょう。公定歩合とは、日本銀行(日銀)が民間の銀行に貸し出す際の金利です。かつて日銀はこの公定歩合を操作することで、低迷した景気を刺激したり、反対に過熱感を抑制したりしていました。 公定歩合を低くすれば、銀行がお金を借り入れやすくなるためローン金利が下がり、企業や個人はお金を借りやすくなります。すると、設備投資や住宅購入にお金が回り、景気拡大の一助になるというわけです。逆に公定歩合を高くすれば、ローン金利も上がるため、借り入れる人が減り市中に出回るお金も減少して、景気は落ち着きを取り戻します。 しかし、1994年に預金金利が自由化された頃から、公定歩合による銀行金利の操作ではなく、日銀は無担保コール翌日物金利の操作により金利政策を行うようになったのです。ただし、この金利は市場で決まるため、日銀が操作するのはその誘導目標にすぎません。2010年4月現在で、0.1%です。 無担保コール翌日物金利は、民間の銀行同士が短期的にお金を融通し合うための市場で付いた金利です。資金の貸し借りは、都市銀行などの慢性的に資金が不足しがちな金融機関と、農林中央金庫や信託銀行といった、資金が比較的潤沢な金融機関との間で頻繁に行われています。 公定歩合もなくなったわけではありません。今でも民間銀行は公定歩合で日銀から借り入れができますが、民間の銀行間で融通し合う方法が主流になりました。その結果、無担保コール翌日物金利が重視されるようになったのです。この金利が上下すると、中長期の市場金利や銀行の預金金利、貸出金利なども連動して動きます。 もし、あなたが外国為替証拠金取引(FX)に興味があるなら、無担保コール翌日物金利は必ずチェックを。FXでは、二国間の金利差がダイレクトに利益となって跳ね返ってきます。この金利差を見る際に基準になるのも、政策金利なのです。 「TIBOR」3ヵ月物金利は、東京市場における銀行間取引において、資金を出す側が「これくらいだったら貸してもいいよ」と提示する金利を指します。都市銀行など18の金融機関が東京時間の時点で提示した金利のうち、上位2行と下位2行のレートを除いた平均値を算出したものがTIBORです。全銀協が毎日正午に発表しています。信用力の高い大手企業に対して、1年以下という短期の条件でお金を貸す際、日本の銀行はこのTIBORの3ヵ月物金利を参考にしています。そのため、この水準を見れば、いま日本の大企業がどれくらいの金利で資金を調達しているかが分かるのです。 短期金利を代表するのは無担保コール翌日物金利ですが、満期までの期間が1年を超える長期金利の代表格は「10年新発長期国債(固定利付き)」の利回りです。国は歳入不足を補うため、ほぼ毎月のように10年新発長期国債を発行しています。 債券には「新発債」と「既発債」がありますが、新発債はこれから発行される新しい債券で、既発債は文字通りすでに発行されているものです。これらは日常的に債券市場で売買されています。ここで注目したいのは新発債です。 これから新しく発行される新発債については、大手の機関投資家、証券会社、銀行などが発行に先駆けてあらかじめ頻繁に売買を繰り返しています。ここで付いた利回りが「新発10年国債利回り」です。日経新聞紙上では単一の利回りとして示されるだけですが、実際には一日を通して頻繁にその利回りは変動しています。 10年新発長期国債の利回りは、前述のように長期金利の代表であり、この動きに応じてさまざまな金利が決まります。例えば、企業が設備投資などの目的で銀行に資金を借りる際の金利や、個人が住宅ローンを組む際の金利は、10年新発長期国債の利回りに準じています。この10年新発長期国債の利回りは景気動向に大いに左右されやすく、景気下落予想の下に株価が下がれば、債券価格は値上がりし、利回りはダウンしやすいという傾向があります。 今や国債と言えば四半期に一度発行される「個人向け国債」が一般に知られています。ただし、利回りをチェックする上では、そのほかの中期国債の方が重要です。中期国債とは、国が発行する債券のうち、満期までの期間が2~5年物の国債を指しています。前述の個人向け国債(固定5年)のほか、同じく固定金利の「2年利付国債」「5年利付国債」(以上は原則として毎月発行)といった種類があります。額面5万円から気軽に買えるので、保有している人も少なくないはずです。 TIBORのところで「3ヵ月」という期間が意識されやすいとご説明しましたが、これは短期的な利回りの話。中期的な利回りを見る上では「5年」という期間が市場関係者にとって一つの目安になりやすいものなので、5年利付国債の利回りについても注意を払っておくべきでしょう。 外国為替相場とは、異なる通貨同士の交換比率のことです。外国為替相場は時々刻々と変動しており、注意しておかないと外貨預金やFXといった外貨投資の収益管理に支障が出ます。投資をしていなくても、外国為替相場は各国の景気や力関係を如実に反映するので、基本的なデータは押さえておきたいですね。私が特に重視しているのは「銀行間直物相場」と「対顧客電信売相場」、「日経通貨インデックス」の三つです。いずれも、火~土曜日の日経新聞朝刊の「マーケット総合2」面に掲載されています。 外国為替相場は、大きく二種類に分けられます。一つは「銀行間市場(インターバンクレート)」、もう一つは「対顧客市場(カスタマースレート)」です。前者は、銀行同士がいわば内輪で為替取引をする際のレートで、後者は銀行と一般消費者(企業を含む)が為替取引をする際のレートです。私たちが外貨預金をしたり、トラベラーズチェックを発行してもらったりするときに示されるのは、後者のレートです。 ドル円、ユーロ円 3408-1.3111 3292-1.3293 5362-1.5366 5154-1.5158 0779-1.0783 9295-0.9303 11111 米ドル 日経通貨インデックス ポンド 231-0.9239 市場 1.3350-1.3445 (1.3350 1.3360) 上海市場=中国人民元 米ドル 6.8239 (6.8245) 7.2833 (7.3) 対顧客市場のレートは、毎日午前10時頃に銀行間市場で取引されているレートに基づいて決定されます。このレートを「仲値(TTM=Telegraphic Transfer Middle Rate)」と呼びます。 対顧客市場において、銀行が顧客に外貨を売るときのレートは「対顧客電信売相場(TTS=Telegraphic Transfer Selling Rate)」、銀行が顧客から外貨を買うときのレートは「対顧客電信買相場(TTB=Telegraphic Transfer Buying Rate)」と呼びますが、これらはいずれも仲値を基準として決まります。TTSは仲値に手数料を上乗せした、TTBは仲値から手数料を差し引いたレートを提示しているのです。 これは、魚屋さんが卸市場で仕入れた魚介類を売る際、仕入れ値に利益分を上乗せして販売するのと同じ理屈です。銀行は、顧客に外貨取引というサービスを提供するにあたりレートを調整することで手数料を取っているわけです。 さて、銀行間市場の中にも、さらに二つの種類があることを覚えておいてください。「直物相場(スポットレート)」と「先物相場(フォワードレート)」です。直物相場とは、外国為替取引における実際の通貨の受け渡し日(バリューデート)が、取引成立から2営業日後となる取引のレートです。ニュースなどでは、よく「東京市場のドル円相場は、1ドル=90円10~20銭で推移しています」といった具合に報道されますが、これは銀行間市場の直物相場のことなのです。 これに対し、受け渡し日が3営業日目以降になる取引のレートを、先物相場と呼んでいます。日経新聞を見ると、先物相場は1ヵ月物、6ヵ月物などの参考価格が掲載されていますが、実際には顧客(貿易業者など)が自由に受け渡し日を設定できます。 銀行が関与するさまざまな外国為替取引の基準になるのは直物相場の方なので、こちらを見ておけばいいでしょう。数ある通貨の中でも、取引量の多いドル円とユーロ円のレートは、最低限チェックしてください。 外国為替相場の重要データ 対顧客電信売相場(TTS) 一般消費者といった顧客に外貨を売るときのレートがTTSです。顧客から外貨を買い取るときのレートはTTBです。TTS、TTBのレートは、日々の銀行間市場の仲値を基準に決まりますが、銀行によって微妙に差があります。 ちなみに、並み居る大手銀行の中でも特に為替業務に強みを持つ三菱東京UFJ銀行では、常時30種類以上の通貨の対円レートを公表しています。TTSに関しては、直物相場のレートのように毎日チェックする必要はないですが、海外へ行くときや、外貨投資を始めたくなったときは、真っ先に調べてみてください。 日経通貨インデックス インデックスと聞くと、まず株価インデックスを思い浮かべる方が多いかもしれません。そもそもインデックスとは、市場全体の動きを示す指数のこと。通貨にもインデックスがあり、その日本における代表格が「日経通貨インデックス」です。 これは、円、米ドル、ユーロという3通貨について、「実効為替レート」の考え方を取り入れて指数化したもので、日本経済新聞社が開発しました。実効為替レートとは、ある通貨の価値がほかの通貨に対し、平均でどれだけ変動しているかを示すものです。 例えば、ドル円相場が円安だったとしましょう。ところがユーロ円相場は円高だった場合、果たして平均的に見ると円安なのか円高なのか、という話になります。これを判断する際に使われるのが、実効為替レートです。つまり、総合的な通貨の実力を示すと考えてもいいでしょう。実効為替レートは、ある通貨がその他の通貨に対して強くなるほど、数値が大きくなる仕組みになっています。 その実効為替レートの考え方を取り入れた日経通貨インデックスを見れば、単なる米ドル円相場やユーロ円相場、ユーロ米ドル相場単体を見ても分からない通貨同士の力関係を、数値から総合的に把握することが可能なのです。 これだけのデータをウオッチしておけば、株式市場の全体像が分かります。株式市場が今どんな動きをしているかを判断するためには、いくつかの指標を複合的に見ることが求められます。代表的な株価指数はもちろん重要ですが、それだけを見ていても正確な動向はつかめません。しかし、株価に関する指標はあまりにもたくさんあります。そこで、ここからはその一部を厳選してご紹介します。 なお、以下で取り上げる株式関連の国内のデータは、火~土曜日の日経新聞朝刊の「マーケット総合I」面に、海外のデータは夕刊の「マーケット総合1」面(土曜日は「マーケット総合」面)に掲載されています。 国内の株価指数(日経平均株価、東証株価指数) 日経平均株価は、東証1部に上場している約1700の銘柄の中から、活発に売買されている225銘柄を抽出しその平均的な水準を算出したものです。銘柄は、業種のバランスなどを考慮した上で日本経済新聞社が選んでいます。一方の東証株価指数(TOPIX)は、東証1部に上場する全銘柄を対象に算出します。両者は根本的に算出方法が異なっており、そのため動きも多少異なっているのです。 こちらを二どちらも日本株を代表する東証1部上場銘柄の動向を見る上では、最もベーシックで有効な指標です。 国内の株式関連の重要指標 今はどうだか分かりませんが、昔の証券会社では、新入社員が入社するとすぐに「日経平均株価」と「売買高」と「ドル円相場」くらいは毎日手帳にメモしておけと教えたものでした。証券マンがイの一番に叩き込まれるほどこの経済・金融を見る上で三つは基本中の基本であり、重要な指標なのです。 このうちの売買高とは、出来高とも呼ばれ、市場で実際に売買が成立した株式の数を指します。ある日の株式市場で、40億株の売り注文に対して30億株の買い注文が入り、30億株の取引が成立したとしたら、その日の売買高は30億株です。このとき、買い手が売り手に支払う代金の総額を「売買代金」と呼びます。 一般的に、売買高が増えているときは株式市場全体が上昇傾向、減っているときは株式市場も下落傾向にあることが多いものです。ただし、増えるにしてもその増え方を見ることが重要です。着実に売買高が増えているなら、本当に勢いがあるものと判断できるのですが、それまで少なかった売買高がある日突然増えたようなときには、注意を払わなければなりません。 例えるなら、前者は中身がぎっしり詰まったバームクーヘン、後者はスカスカのスポンジケーキのようなものです。売買高が増加するまでの過程がスカスカの真空状態だと、徐々に売買高が増えたときとは異なり、すぐさま急減するともに株価も急落する可能性が高くなります。「真空地帯で上げた(下げた)」と表現されるときがそれです。売買高から市場の動向を見るには、日々の推移を追っておかないと判断を誤ってしまうのです。 騰落レシオは相場の過熱感を見る指標で、「過去n期間の値上がり銘柄数÷過去n期間の値下がり銘柄数」で計算し、パーセントで表示します。算出期間はいくつかありますが、市場関係者の間では「25日移動平均値」がよく使われます。 中立の状態は「100%」で、このときの相場は過熱しても冷え込んでもいない状態です。100%を超えると、値上がりしている銘柄が多いということになるため、相場は「強気」。120%に達すると、強気を通り越して「過熱気味」(反落の恐れあり)ということになります。逆に、100%を下回ると値下がりしている銘柄が多く、相場は「弱気」。70%を割ると、さすがに株価は下げすぎていると判断され、相場全体が上昇に転じやすいと連想することができるのです。 騰落レシオを見れば、株価が景気の実態から逸脱した動きをしていないかどうかが分かります。景気が足踏みしているのに騰落レシオが120%以上だと、株価は明らかに過熱傾向であり、「近々下落する可能性が高いな」と連想できるのです。 株価に発行済み株式の総数を掛け合わせたものを「時価総額」と呼びます。もし、時価総額が1億円なら、その企業の株は1億円で買い占められるということです。時価総額は日々変動しますが、今のところ日本でぶっちぎりのトップはトヨタ自動車で、その時価総額は約13兆円にも上ります(2010年4月現在)。 個々の銘柄の時価総額だけでなく、東証1部全体の時価総額もデータとしては重要です。単純に全上場銘柄の時価総額を足し合わせて算出するもので、10年になってからは300兆円前後で推移しています。バブル期には590兆円を超えていたことを考えると、いかに規模が縮小しているか分かるでしょう。 ちなみに、世界最大規模を誇る米国・ニューヨーク市場の時価総額は、東証1部のおよそ3倍です。日本株市場の規模は米国株市場に次いでナンバー2ですが、近年は縮小傾向である上に、中国などの新興勢力の台頭も著しい状況となっています。世界の株式市場における日本の存在感は徐々に薄れつつあるのかもしれません。 株価収益率(PER)は「株価÷1株当たり利益」で算出する指標です。「1株当たり利益」とは、企業の収入から税金などを差し引いた最終利益を、発行済み株式の総数で割ったものです。 PERの計算から導き出されるのは、企業の1株当たり利益に対して株価が何倍であるかということです。もし株価が1000円で1株当たり利益が50円なら、PERは20倍となりますよね。しかし、株価が500円で1株当たり利益が同じく50円なら、PERは10倍です。後者の方が利益が同じで株価は安いわけですから、割安と言えるでしょう。つまり、PERを見ればそのときの株価が高いか安いかが判断できるのです。PERが低い方が割安、高い方が割高です。 ところで、PERには「予想PER」と「実績PER」があります。分子はいずれも現在株価ですが、前者の分母は予想最終利益、後者の分母は直近の決算の実績値です。予想利益は度々変更されるため、参考程度の認識でよいのですが、予想PERと実績PERを比較したとき、前者が後者より低くなっていれば、その企業の利益は増加すると推測できます。 また、PERは業種によって大きく異なるということも覚えておいてください。PERから株価の割安感を見たいなら、同業他社の数値を比較検討するといいでしょう。なお、日経新聞の「マーケット総合1」面には、東証1部、2部など主要市場ごとのPERが掲載されています。これは、個別銘柄のPERの平均的な水準を示すものです。 株価純資産倍率(PBR)は「株価÷1株当たり純資産」で算出する指標です。まず「純資産」とは、企業が持っている返済する必要のないお金のこと。総資産から負債を差し引いたものです。ここには、株主が投資したお金も含まれています。この純資産を発行済み株式数で割ったものが「1株当たり純資産」です。借金が少なく、資産が潤沢であればあるほど、1株当たり純資産は大きくなるという仕組みです。 株価が1500円で1株当たり純資産が1000円ならPBRは1.5倍です。企業の純資産だけでその企業が評価されている場合は、PBRは1倍になるはずですが、1.5倍ということは、その企業が保有する資産額以上に評価されていることを意味します。逆に1倍以下になっていれば、その企業の価値は資産額で見た実態以上に低く評価されているということになるため、一般に株価は割安だという判断ができるのです。 日経新聞の「マーケット総合1」面では、主要市場ごとにPBRを掲載しています。これは、個別銘柄のPBRの平均的な水準を示すものです。 配当利回りは「1株当たりの年間配当÷株価」を算出したものです。配当とは、企業が株主に利益還元として支払うお金のことですね。配当が高く、株価が安ければ配当利回りも高くなります。 仮に1株当たりの年間配当が100円で、株価が1000円だとしたら、配当利回りは10%です。株価が2000円なら5%です。 ひと昔前には、株価の割安・割高感を見るときには、もっぱら配当利回りが重視されていました。景気拡大が著しかった頃の日本は、今の新興国のように高配当企業が多く、配当利回りと預貯金の金利を比べて「どっちが得か?」と検討していたくらいだったのです。 しかし、発展途上の有望企業の中には、あえて配当を出さずにその分のお金をどんどん内部留保したり設備投資に回したりして、事業規模を拡大しようと考えるところもあります。そのため「配当利回りだけを見るのはあまり意味がない」という考え方が広がり、次第にPERやPBRが注目されるようになってきました。PERやPBRは、いわば企業の「資産」や「稼ぐ力」にスポットを当てた指標で、有望なのに割安な企業を分かりやすく選別できることから、多くの市場関係者に重視されています。 日経新聞の「マーケット総合」面には、主要市場ごとの平均的な配当利回りが掲載されています。わが国の企業は歴史的に見て、欧米企業に比べて株主に支払う配当金比率が低かったのですが、近ごろは株主重視の考え方が高まってきたこともあり、徐々に上昇してきています。 ニュースで頻繁に取り上げられる日経平均株価とは異なり、なかなか見聞きする機会も少ない「業種別日経平均」。読んで字のごとく、業種別の日経平均株価です。日経新聞では「日経500種平均株価」と呼ばれる指数も日々発表しているのですが、これは東証1部から500銘柄をピックアップして、その平均値を出したものです。先の業種別日経平均は、日経500種平均株価の採用銘柄を利用して、36の業種別に平均株価を算出しています。いわば、業種別インデックスです。 日経平均株価が下落していたとしても、個々の業種が一様に値下がりしているとは限りません。また、日経平均株価が前日比5%の上昇でも、ある業種では2%下落していることだってあるのです。つまり、この業種別日経平均を見ておけば、各業種の勢いを正しくとらえ、立体的に株式相場を見渡すことができるのです。 日本株市場は、前日の米国株市場の動きから多大な影響を受けます。米国株は日本時間の23時半~翌朝6時の間に取引されていますが(サマータイムにはそれぞれ1時間早まります)、その日の相場が荒れ模様だと、3時間後に始まる日本株市場も変動しやすくなります。米国株が急騰すれば日本株も上昇、急落すればつられて下がるケースがしばしば見られます。そのため、米国株の主要株価指数である「ダウ工業株30種平均」や「S&P500」、「ナスダック総合指数」などは要注目なのです。 欧州の主な株価指数としては、ドイツの「DAX」や英国の「FTSE100」などが挙げられます。また、最近ではアジア諸国も世界経済を動かすキープレーヤーに成長しつつあるため、中国の「上海総合株価指数」やインドの「SENSEX指数」なども余裕があれば押さえておきたいものです。 米国からの影響が突出していることは確かですが、世界各国の株式市場は互いに影響し合いながら動いています。新聞を読むときに、国内の記事だけ読んでいても国際情勢がまるでつかめないのと同じで、グローバルな経済・金融の潮流を見るには、世界中の株式市場の動向を追わないと全体像は理解できません。最初は漠然とでも構わないので、「いまA国の株価は上がっているけど、B国は下がっている。A国は景気がいいのかな」といった具合に、想像をめぐらせる練習をしてみましょう。 経済・金融の世界でいう「商品」とは、原油などのコモディティや貴金属、とうもろこしや大豆といった農産物などのことです。これらの市況商品もまた、株や債券などと同様に買い手と売り手のバランスによって価格が変動します。中でも原油や金の価格は、ときとして世界中の金利や為替、株価などを動かす要因になるため見逃せません。 米国における先の金融不安のトリガー(引き金)となったのは、住宅価格の下落でした。不動産市況もその国の景気や物価などを如実に反映するので、定期的にデータを追っておくことは有意義です。ここからは、商品・不動産市況の代表的なデータを見ていきましょう。 原油価格といえば、セットで登場する「WTI」という言葉。これは「West Texas Intermediate」の略で、米国のテキサス州を中心に産出される原油の先物価格を指しています。通常、原油価格が上がっているか下がっているかを見るときは、WTIのデータが使われます。 あまり知られていませんが、米国もれっきとした産油国です。中東産の原油がこれほど出回る前、米国は自国内で原油を調達していたのです。テキサス産の原油は世界の中でも純度が高く、非常に高品質です。とはいえ、その量はごくわずかであり、全世界の原油産出量の1~2%程度にすぎません。もちろん、日本には一滴も入ってこないものです。それでも、WTIは世界中の原油価格の指標的な存在となっています。一体なぜなのでしょうか? 注目すべきは、指標となっているのが現物価格ではなく先物価格であるという点です。先物取引とは「一定の期日に商品を売る(買う)」という約束をすることですが、実際に商品のやり取りをすることなく、取引を終えることも可能です。 さんから80万円で同じ車を仕入れる約束ができたとします。その場合、あなたは自分のお金をまったく動かさずに、20万円の儲けを出すことができます。これが、先物取引の原理です。原油の先物市場でも、原油の売買の約束をして期日までに儲けが出れば、原油を実際に手にすることなく取引を終えるという投資家が大勢います。現物のやり取りをするには産油量の少ないWTIが原油価格の指標になっているのは、WTI先物がニューヨーク・マーカンタイル取引所という大市場で取り扱われ、世界中で圧倒的な取引量を誇っているからです。 ちなみに、その他の原油指標としては欧州の「北海産ブレント原油」や中東の「ドバイ産原油」などがありますが、いずれもWTIの影響下にあります。原油はあらゆる製品の材料として欠かせないほか、輸送や工場の稼働といった経済活動になくてはならないもの。そのため、WTIの上下動は景気に深刻な影響を及ぼします。日本においても、エネルギー価格の上昇は物価高を招き、そこから派生して金利上昇や景気の下落といった事態に展開しがちです。原油の一大消費国である日本にとって、WTIは非常に重要な指標と考えるべきでしょう。 WTIのデータは、火~金曜日の日経新聞夕刊の「マーケット総合1」面、土曜日の「マーケット総合」面に掲載されています。 金は装飾品としてだけでなく、工業製品などにも用いられる稀少な金属です。劣化することはなく、世界中で普遍的な価値を持っています。株や債券は、企業の倒産や国の経済破綻といった事態に陥ると、無価値の「紙くず」になってしまいますが、金にはそうした心配はありません。そのため、戦争や極端な金融不安といった有事の際には、高騰しがちです。リーマン・ショック以降に金価格が上昇を続けたのは、こうした事情からです。 金もやはり、先物と現物で取引されています。前者の代表的な指標が「ニューヨーク金先物」相場、後者の代表は「ロンドン金現物」相場です。金価格をめぐる動きを見る上では、この両方をチェックしたいところです。ちなみに、国内の貴金属会社の金の小売価格は、ロンドン金現物市場の価格を円換算した上で、マージン、消費税を上乗せしたものが提示されています。 ニューヨーク金先物、ロンドン金現物のデータは、火~金曜日の日経新聞夕刊の「マーケット総合1」面、土曜日の「マーケット総合」面でチェックできます。 米国FRBの総裁が特に気にする指標、それが「ロイター・ジェフリーズCRB指数」です。エネルギーや貴金属、農産物など、19種類の代表的な商品を網羅する国際商品先物指数で、商品市況全体の動きを見るために使われます。そもそもは、1957年に米国のCRB社が発表したものですが、より精度を高めるために品目の入れ替えなどが行われ、今の形になった2005年からは、ロイター・ジェフリーズCRB指数と呼ばれています。 このデータは、米国の物価動向の先行指標と見なされています。実際に、米国の物価動向とロイター・ジェフリーズCRB指数を比べてみると、後者が上がれば前者も数ヶ月遅れて上がっていくという具合に、高い連動性があります。そのため、金融政策を考える上ではなくてはならない指標となっており、私たちが米国のインフレ動向を予測するときにも有用なのです。 火~金曜日の日経新聞夕刊の「マーケット総合1」面、土曜日の「マーケット総合」面で確認できます。 REITとは、不動産投資信託のこと。「Real Estate Investment Trust」の略です。株や債券の代わりに複数のオフィスビルやマンション、商業用ビルといった不動産に投資をする商品です。賃貸料ならびにそれら不動産価格の上昇が収益源となります。 普通の投資信託とは違って東証に上場しており、株と同じように時価で売買することができます。当然のことながら、不動産価格が上がればREITも値上がりし、下がればREITも下落します。10年4月現在、東証には38のREITが上場されていますが、この全銘柄を対象に平均値を出した指数が「東証REIT指数」です。 不動産市況を見る上でもさまざまな指標がありますが、最も簡単かつ正確に状況をつかむには、この東証REIT指数を見るのが手っ取り早いでしょう。日本のバブル崩壊を見ても米国のサブプライムローンショックを見ても、不動産市況は金融不安の引き金になるケースが多いので、REIT指数の方向には注意を払っておきたいものです。なお、東証REIT指数は、火~土曜日の日経新聞朝刊の「マーケット総合1」面に掲載されています。 重要データと、そのデータを物差しにしたマーケットの見方については、ここまでのところでご理解いただけたのではないでしょうか。ただ、理屈をこねているだけというのは味気ないですよね。やはり、「本当にメカニズムの通りに物事が動いているんだ!」ということを実感していただきたいものです。 そこで第5章では、第2章のメカニズムと関連するデータ、チャートをいくつかお目にかけましょう。「株価が上がる→金利が上がる」は果たしてどこまで実証できるか?各国の株価指数と長期国債利回りを比較すれば、事実が見えてきます。 手始めに、第2章82ページの「株価上昇→金利上昇」というメカニズムを検証します。日米の代表的な株価指数と、長期金利の代表である10年物国債の利回りを比べてみましょう。左のグラフに見る通り、日米ともに株価と債券利回りは連動性が強いもの。長期的にもこの傾向は崩れません。債券利回りが上がるとは、債券価格が下がるということ。つまり、グラフは「株価と債券価格が正反対の動きをする」ことを証明しているのです。 株価と債券利回りはこれだけ連動している 新発10年物国債利回りとTOPIXの推移 米国10年物国債利回りとNYダウ 次に、「通貨安(高)↓物価上昇(下落)」のメカニズムをデータから検証してみましょう。物価と為替相場が密接にかかわっていることは、すでにご説明した通りです。為替相場において通貨が安くなると、輸入品の値段が高くなり、結果としてその国の物価が高くなります。いわゆる「輸入インフレ」です。 日本を除くアジア諸国の通貨が暴落した1997年の「アジア通貨危機」のときも、当該国で激しい輸入インフレが起こりました。さらにさかのぼって80年代には、ブラジル、アルゼンチンなどの南米諸国で、巨額の財政赤字を背景とした通貨の暴落が起こり、やはり輸入インフレが発生しています。 以上はやや極端な例ですが、ドル円相場と日本の消費者物価指数(前年同月比)を比べてみても、やはり「通貨安↓物価上昇」のメカニズムは確かに機能しています。円安になると国内物価が高くなり、円高になると物価が安くなっているのがお分かりになりますね。 この程度には円相場と物価は関係していたのです。ちなみに2000~03年にかけては逆の動きをしていますが、これは中国から大量に安価な製品が日本に輸入されたことが原因で一時的にメカニズムが誤作動したと考えられます。 ところで、物価上昇局面にあるインフレ率の高い国では資産運用を始める際にインフレ率をよく考慮しなければなりません。というのも、たとえ「年率3%の運用利回り」を目指しても、インフレ率が4%だとしたら、運用資産の実質的な価値は減ってしまうからです。総じて通貨が高くインフレ率の低い日本には、縁遠い話かもしれませんが。 「金利が上がる↓通貨が高くなる」、だから外債ファンドは安定していた 61ページで、「金利上昇↓通貨高」というメカニズムについて説明しました。この原則を実感するには、実際に10年物国債の利回りと為替相場の推移を見ていただくのが早道だと思います。 次ページのグラフは、「米国の10年物国債の利回りとドル円相場」「ドイツの10年物国債の利回りとユーロ円相場」を比べたものです。どちらのグラフでも、債券利回りと為替相場が寄り添うような形で推移しています。米国の債券利回り上昇時にはドルが高く(=円安)なり、利回り下落時には逆にドルが安く(=円高)なっているのが分かります。 後者のチャートでも、読み取れることはほぼ同じです。つまり、国や通貨の違いに関係なく、金利が上がれば通貨も上がり、金利が下がれば通貨も下がる。少なくともここ数年は、こんなメカニズムが機能しているのです。 金利と通貨の関係が、外債ファンドの収益を安定させる このメカニズムを応用しているのが、外国債券に投資する投資信託(外債ファンド)です。日本では外債ファンドの人気が高いので、実際に保有している方も多いでしょう。運用経験がある方なら、投資信託の価格が一斉に下落した07年以降の金融危機に際しても、外債ファンドの価格はそれほど値下がりしなかったことをご存じでしょう。その理由がお分かりでしょうか? 外債ファンドの収益は、大きく分けて「債券の収益」と「為替差益」の2種類があります。債券自体の値上がりなどのほか、その外債を発行している通貨(米国債ならドル)が、円より高くなったときにも儲かるという仕組みなのです。 ここで思い出していただきたいのが、例の「金利上昇↓通貨高」というメカニズムです。金利上昇(=債券の利回りが上がる)ということは、債券の価格は下がるということですね。であれば、債券の価格が下がるときには通貨が上がっていると考えられます。となると、たとえ債券が値下がりして収益が下がっても、他方で為替差益はしっかり得られているわけです。逆に、債券が値上がりしたときには利回りが下がり、通貨も下落します。為替差益は失いますが、債券の収益は得られたのです。 つまり、両者の収益の方向性は逆で、互いに損益を相殺し合っているのです。金融危機のような非常事態にあっても、外債ファンドの収益が安定していたのには、こうした理由がありました。 にわかには信じられない「物価が上がる↓通貨が安くなる」は本当だった! 為替相場を変動させる要因の一つに「金利差」があります。特に、ここ数年で外国為替証拠金取引(FX)の投資経験がある方なら「やっぱり相場を動かすのは金利差だね」という思いを強くしているのではないでしょうか。利上げや利下げによって2国間の金利差が変われば、確かに為替相場は変動するものです。 しかし、それは短期的な変動にすぎません。中長期的に見ると、金利差以上に物価の差(インフレ率の差)の方がよほど大きく作用するのです。このことについても、第2章でご説明しましたね。 そこで、この事実をグラフから検証してみましょう。 長期的には金利よりもインフレ率が為替を決めていた 上のグラフは、「日米のインフレ率の差」と「日米の短期金利の差」、さらに「ドル円相場」の長期的な推移を比べたものです。これを見ると金利差と為替相場の関係にはあまり一貫性がないことが分かりますね。ここ数年だけを見れば、連動する傾向は強いのですが、長い目で見ると食い違いが大きいのです。 これに対し、インフレ率の差と為替相場は、比較的よく連動していることに気が付くでしょう。米国の方がインフレ率が高くなり、両者の差が大きくなると、ドル円相場は円高に振れています。日本は長らくデフレなので、両者が逆転することはあまりないのですが、1998年頃に日本のインフレ率が米国を上回っています。このときは、際立って円安になっています。 中長期的に見て、金利差よりもインフレ率の差の方が為替相場を合理的に説明している、という根拠を実感していただけたでしょうか? 5。2007年までの企業業績拡大は、実質実効為替レートで見て初めて納得! 第5章の最後では、初心者レベルを抜け出して、より深く投資環境を知るために役立つ、いくつかの具体的なグラフをお見せしようと思います。 昨今「円高不況」といった言葉を耳にしがちなその背景には、日本の多くの企業が輸出関連であり、円高になると収益を圧迫されるという現実がありました(70ページ参照)。そのため、円高になると連鎖的に株価も下落し、世の中の景気はますます冷え込むという状況が起こっていたのです。 ここでも検証データを示していきたいのですが、その前に質問です。あなたは「名目為替レート」と「名目実効為替レート」、「実質実効為替レート」の違いが分かりますか? 名目実効為替レートは、円の総合的な実力を表すものです。まず、名目為替レートとは、普段よく目にする為替相場のことです。何の注意書きもなく為替相場のチャートが表示されていたら、それは名目為替レートだと思ってください。 次に名目実効為替レート(以下、実効為替レート)ですが、具体例を挙げながら説明してみます。日本の輸出企業のお得意さまといえば、長年米国でしたが、何も米国に対してだけ輸出しているわけではありません。それどころか、最近の対米貿易シェアは年々減っているのです。 2009年中の地域別輸出統計で見ると、対米貿易総額は14兆2500億円。輸出入金額全体(105兆6700億円)の13%程度です。これに対して、アジア向けは52兆3300億円(50%)、EU向けは12兆2700億円(12%)に達しています。 これだけ米国以外の国に輸出する企業が多いということは、決済通貨もドルに限らないということです。もちろん基軸通貨であるドルのウエートは重いのですが、ユーロなどの他通貨で決済している企業も少なくありません。そういった企業にとっては、たとえドル円レートが円高でも、収益に影響しない可能性があります。つまり、ドル円の名目レートだけを見て「円高だから輸出が伸び悩む」というのは早計なのです。 円の実効為替レートはすでに史上高水準を更新しています。主要貿易相手国との貿易シェアに応じて、それぞれの国(通貨)と円との為替レートを加重した上で作成した合成指数です。簡単に言うと、あらゆる通貨に対する円の総合的な実力を示すものです。 円の実効為替レートとドル円の名目為替レートを比べたグラフを見てみましょう。両者の動きはよく似てはいるものの、それなりにブレていますね。例えば、みなさんは世にいう円高のピークがいつで、いくらだったかご存じですか?正解は1995年4月で、79円75銭でした。これはドル円の名目為替レートの話です。ここ数年も円高基調ですが、名目為替レートで見れば、95年の水準は超えていません(実効為替レートは、数値が高いほど通貨高を示すことに注意)。 しかし、実効為替レートで見ると、円高のピークだったとされる95年当時よりも、2009年の方が円高は進行しています。つまり、実効為替レートで考えると、09年は史上最高水準を更新する超円高だったのです。これは、ドルだけでなく、それ以上に他通貨に対しても総じて円高だったことを意味しています。 次に実質実効為替レートですが、こちらは実効為替レートに、各国の物価の違いを加味して作成されます。海外諸国のインフレ率(平均)が日本に比べて高いときは円安に、逆に日本に比べて海外諸国のインフレ率が低いときは円高になります。名目為替レートが変わらなくても、日本に比べて海外諸国のインフレ率が高ければ、外貨ベースで値上げが容易に行なえます。この場合、名目為替レートは同じであっても円の手取り金額は増えます。これは実質的に「円安が進んだと同じこと」と考えるのです。 左のグラフは、ドル円の名目為替レートと、円の実質実効為替レートを比べたものです。1988年から2002年あたりまでは似たような動きをしていましたが、03年から両者はどんどん大きく乖離しています。前者は円高に振れているにもかかわらず、後者は逆に実質40%もの円安に動いているのです。名目為替レートで見て超円高だった09年には、実質実効為替レートもさすがに大きく円高に動いていますが、07年までは強い円安基調でした。 つまり、07年までの円は、ドル以外の通貨に対して安かった上に、インフレ率が非常に低かったのです。実質実効為替レートがドル円の名目為替レートと乖離したのは、日本のデフレが深刻だったからです。 さて、あなたがグローバルに業務を展開する輸出企業の財務担当者だとしたら、名目為替レートと実質実効為替レートのどちらに注目すべきでしょうか?答えは当然、後者ですよね。輸出相手国との名目上の為替レートが一切変化していなくても、相手国のインフレ率が日本のそれを明らかに上回れば、商品をより高い価格で売ることが可能になって、輸出採算は好転するわけですから。 さて、ここまでくれば、名目為替レートが一気に円高になったからといって、輸出企業全体が困っているわけではない、ということが理解できるでしょう。こちらを参照)でご案内した「通貨が高くなると輸出が伸び悩む」というメカニズムは確かに正しいのですが、単純にうわべのデータだけで決めつけず、どのようなデータをもって通貨が上がったと判断するかが重要だということは認識しておいてください。 第6章 さあデータベースを作ってみよう 今日から実践!データの逆も司日5分から 1。自前のデータ表を作成すると、経済を見る目が確実に変わる さて、経済・金融データの読み方については、ひとわたりお分かりいただいたでしょうか。しかし、それらを「使いこなす」域に達するのは、案外難しいものです。そこで最終章では、データを手なずけるためのコツについてお話しします。 一つのデータを単体で見るのではなく、ほかのデータと関連させて見ることの重要性は、これまでに何度も繰り返してきた通りです。それに加えて覚えておいていただきたいのは、それぞれのデータの最新値のみならず、そこに至るまでの「流れ」も見ておかなければならないということです。 例えば、「日経平均株価が1万1000円」というデータと、「日経平均株価が前日比で300円安」という情報では、どちらが有用だと思いますか?答えは明らかに後者ですよね。前者だけでは、日経平均株価が好調なのか不調なのか、という肝心の点が分かりません。株価に限った話ではありません。「10年物国債の利回りが1.40%」と、「10年物国債の利回りが前日比で0.05%上昇」なら、やはり後者の方が、債券利回り、ひいては世の中の金利の方向、勢いが分かるのです。 書き込むひと手間が、連想力をアップさせる このように、経済・金融データは日々更新されていくもの。データの流れを追うためには、発表される主要データを毎日自分で記録して、アップデートしていくのが一番です。何かを学習しようというときも、ただ参考書を眺めているだけでは不十分です。 いるより、ノートにどんどん書き出していった方が頭に入る、ということがありますよね。それと全く同じで、経済・金融のデータも、毎日記録して自前のデータ表を作れば、流れが自然と把握できるようになるのです。 もちろん自作しても構わないのですが、「それはちょっとしんどい」という方のために、本書ではコピーして使える「マーケットセンス養成のためのシート(日次)」と「景気関連データに慣れるためのシート(月次)」を掲載しています。 前者は、金利や為替相場、株価など、日々激しく変動する数字を記録するもので、毎日の『日本経済新聞』からデータを見つけることができます。後者は、主に月に一度発表されるデータで、国内総生産(GDP)をはじめとする景気観測に有用な指標を記録するもの。こちらも日経新聞を探せば、漏れなくデータを拾えるでしょう。最も効率的に後者の表を作成するのなら、日経新聞の毎月曜日に掲載される「景気指標」面をご覧になることをお勧めします。 まずは日々データの流れを記録する癖を付けてください。最初はちょっぴり面倒かもしれませんが、慣れてしまえばものの5分で済むので、それほどハードルは高くないですよ。 毎日データウオッチングをしていると、例えば「10年物国債の利回りが0.1%上昇した」という事実があったときは、反射的に株価をチェックし、「日経平均株価が212円上昇しているから、債券が売られて、10年物国債の利回りは0.1%上昇したわけか」などと連想できるようになるはず。また、「ああ、今日のドル円相場は大幅に円高に動いたな」といったときは、「なるほど、今日は米国・ニューヨーク市場のダウ工業株30種平均(NYダウ)が大きく下落したから、円買いの動きが高まったわけか」という具合に連想できれば楽しいですね。データを見比べて、マーケットのメカニズムを実感できるようになれば、あなたは経済連想ゲームにおいて相当の高段者だと言っていいでしょう。 自分なりの工夫を凝らし、シートを使いやすく改造するためには、各データの中で数値が前日より上昇している箇所に、マーカーなどで目立つように色付けするのです。どのデータが上昇しているか一目瞭然にしておけば、データ同士の相互の関連性がより鮮明になります。例えば、日本の10年長期国債の利回りと日経平均株価の欄は、ほぼ7~8割程度は同じ箇所(日付)のところに同じマーカーの印が付くはずです。これで「ああ、理屈だけではなく、実際に株価が上がるときには長期国債の利回りも上がるんだな」と実感できるのです。 さらに、データの推移から判断して、異常な暴騰や暴落が見られるときは、また別のマーカーなどで印をしておくといいでしょう。過去の暴騰や暴落は、各市場の値動きの節目として意識されやすいものです。例えば株価なら、一日で勢いよく暴落し、そこから値を戻した場合、再び値下がりしても、前回の暴落時の安値で反発することがままあります。つまり、暴落したときの価格が、値動きの成り行きを決める節目になっているのです。為替相場も同じで、極端な円高・円安の値は、相場の動きを見る上での節目になります。そのため、大きく動いたデータを表中で分かりやすく示しておくことは、何かと役に立つのです。 さらに、シートの余白を使って、その日(週・月)にあった印象的な出来事を、簡単にメモしておくといいでしょう。政府要人の発言や企業決算のニュースなど、何でも構いません。市場には何か影響するか分からないので、気になったことは何でもメモしてみるようにしましょう。 毎日5分の「日経新聞」道場「データウオッチ」と「連想」で経済が分かる川角川SSC新書 そうこうするうち、シートのコピーに手書きするだけでは飽き足りなくなるかもしれませんね。もっともっと使いこなしたいという方は、やはりエクセルなどで、自作のデータ表を作るのがいいと思います。 日経新聞以外のデータベースも活用しよう! 新聞は鮮度の高い情報が手に入る媒体ですが、スピードという面ではどうしてもインターネットに劣ります。インターネットなら、株価も金利も為替相場も常にほぼ最新の数字を知ることができますし、データの検索がしやすいという意味でも、優れた媒体だと言えます。毎日、日経新聞を読みつつ、インターネットのリアルタイム情報も併せて活用すれば、さらにデータウオッチングの視野は広がっていくはずです。そこで、ここからは、ぜひブックマークしておきたい経済・金融情報関連サイトをご紹介します。 毎日5分の「日経新聞」道場「データウオッチ」と「連想」で経済が分かる川角川SSC新書 新装になった日本経済新聞電子版のサイト 日経新聞のウェブサイトである「日本経済新聞電子版」は、従来の「NIKKEINET」が2010年3月にリニューアルし、紙媒体と同レベルの情報が閲覧できるようになりました(ただし、無料ページと有料ページがあります)。このサイトで特に便利なのは、前出の「景気関連データに慣れるためのシート(月次)」で取り上げたような各種の統計・経済指標の昔のデータを、さかのぼってチェックできる点です。例えば「過去5年分の消費者物価指数の推移が知りたい」と思っても、新聞だけでデータを探すのは難しいもの。その点、「日本経済新聞電子版」なら、消費者物価指数に限らず、あらゆる主要データの過去の記録が簡単に閲覧できるのです。しかもこのデータは、エクセルなどに簡単にコピーして使えますので、とても便利です。 金利データは日銀、株価データは東証のサイトを見る日本銀行(日銀)のサイトでも、日銀が発表したデータに関しては、過去にさかのぼって閲覧することが可能です。第4章で重要データとしてご紹介した無担保コール翌日物金利や債券市場の利回り、平均的な定期預金金利などのほか、景況感を見る「日銀短観」(景気の現状と先行きについて、日銀が企業に直接アンケート調査をするもの)といった有用な情報についても、過去データが一覧できるように詳しく掲載されています。 株式関係のデータなら、まずは東証のサイトへ!東京証券取引所(東証)のサイトは、株式市場の今が分かるデータを常時掲載しています。やはり第4章でご紹介した東証株価指数(TOPIX)の動向、市場全体の時価総額、売買高・売買代金、株価収益率(PER)、株価純資産倍率(PBR)などを調べるには、このサイトが便利でしょう。株式市場を分かりやすく解説する初心者向けコンテンツも充実しています。 いま売れているファンドが分かる投資信託協会のサイト現在の日本で、どのような金融商品が脚光を浴びているか知りたいときには、投資信託協会(投信協会)のサイトを見るのがいいかもしれません。株が注目されていれば株式型投資信託が買われますし、外国債券が流行れば外債ファンドが買われます。投信協会のサイトでは、そうした投資信託業界の動向を示すデータを定期的に更新しています。各投資信託のパフォーマンスなども調べられるほか、これから新しく設定運用がスタートするファンドについての情報(一覧表)もあります。 最後は「経済統計リンク集SITE」という、とても便利なサイトです。景気に関するデータといっても、出所はさまざま。例えば、GDP統計や機械受注、貿易統計は財務省の管轄、労働統計は厚生労働省……と、担当省庁が分かれています。このサイトでは、主要な統計をどの機関が発表しているかが一目で分かりますし、所定の項目(URL)をクリックすれば、該当ページに一気に飛んでくれます。直近の指標発表スケジュールなども掲載されているのでぜひマークしておいて下さい。 ひとつ分かっていないな」という箇所があれば、当該ページに戻っておさらいしておくといいでしょう。 口1 本の「政策金利」は(無担保コール翌日物)で現在の水準は(0.1)%だ。 口2 本の「長期金利」の代表と言えば(10年新発国債利回り)だ。 口3 債券価格が上昇すると、債券利回りは(下落)する。 口4 株価と債券利回りは(同)方向に動きやすい。 口5 中央銀行が政策金利を引き下げると、物価は(上昇)しやすい。 口6 高いインフレーション(インフレ)率が続いている国の通貨の価値は、中期的には(下落)しがち。 口7 為替レートには、名目為替レートと(名目実効)為替レート、(実質実効)為替レートの3種類がある。輸出企業は、この中の(実質実効)為替レートを特に重視する。 口8 一方的に円安が進行している時期には、わが国の長期金利は(上昇)しやすい。 口9 本のゼロ金利政策からの脱却が米国より遅れそうだという見通しが強くなると、外国為替市場では円(安)になりがち。 口10 円キャリートレードが活発に行なわれているときには、円相場と日本株は(逆)方向に動くが、ユーロ相場とドイツ株、オーストラリア(豪)ドル相場と豪州株などは(同)方向に動きがちだ。 口11 米国の中央銀行である連邦準備制度理事会(FRB)が物価の動向を予測する際、とりわけ重視しているのが(ロイター・ジェフリーズCRB)指数という国際商品先物指数だ。 口12 過去30年のデータで見る限り、全期間の少なくとも50%以上の時期で、預金はインフレに(勝つ)ている。 口13 ある国の格付けが下がると、その国が発行している国債の利回りは(上昇)するのが原則だ。 口14 日経平均株価の過去の高値は1989年12月29日の(3万8915)円。 口15 不動産市況の今を知るには、東京証券取引所に上場されている不動産ファンド(J-REIT)の平均的な価格水準を示す(東証RE-IT)指数が参考になる。 おわりに 数年前に、京都の公立高校の社会科(公民)担当教諭から問い合わせを受けたことがあります。もちろん、見も知らぬ方です。「今度、学習指導のための教材研究会を行ないたいのだが、角川さんが提唱している経済は連想ゲームという発想法を、その席で披露したい」ということでした。もちろんOKです。そのときは、私のいくつかの書物をご紹介したにとどまったのですが、それから数ヶ月して、私のもとへ教材研究レポートが送られてきました。 そこには「原油価格が上がると、中東産油国の貿易黒字が(拡大)、その黒字額の相当額が米国国債の購入に回って米国の長期金利が(低下)、これが米国企業の設備投資を(促進)する効果が期待される」といった穴埋め問題がいくつか並んでいました。「そうか……」。今でもまだこの種の、経済現象に働くメカニズムを連想的にたどっていくという訓練の場が、高等学校でもほとんどないのだな、と改めて思い知ったのです。 まさに改めて、だったのです。なぜなら、それまでにも「そんなマーケットを巡る連想的な考え方なんて、今まで教わったことはなかった」という言葉を、金融機関やファイナンシャルプランナーの方々を相手に行なうセミナーの席上で、嫌というほど聞かされてきたからです。 私は、学校で一般に教えられている経済・金融の学習がとても偏っていたことに気付かざるを得ないのです。経済・金融の分野については、そのほとんどが制度、仕組み、経済理論を教えることに費やされていること。そのため、いま目の前でめまぐるしく動いている世界の株価、政策金利、一次産品価格、債券利回り、為替レート、そして各国の主要な景気関連指標、政策の方向性の間に働く基本的な力学には、ほとんど言及されないことを思い知るのです。 さらには、ごく一部でそれらの間に働くメカニズムが述べられていたとしても、それを実証データの裏付けのもとで実感を以って知る、というプロセスが決定的に抜け落ちていることに気付かされます。かくして、「株式はインフレに強い」「日本の産業構造は、先進各国と比較してみても輸出比率がとても高い」「トヨタ自動車が2006~07年度に2兆円超の営業利益を上げたのは、省エネ技術で勝ったから」といった、とても一面的な情報が「常識」として流布され、それを多くの人は疑わないのです。 しかし、これらの「常識」を具体的なデータに照らし合わせてみると、とても一面的な物の見方であることが分かります。インフレ率が急上昇する時点ではむしろ株価は下がることが多いこと、経済協力開発機構(OECD)各国の「輸出額÷GDP」を見ればわが国はほとんど米国に次ぐ低い水準であること、円年ごろから06年までは輸出企業の採算を実質的に左右する円の実質実効為替レートが急落し続けてきたこと(=実質的な円安)を、データは明らかに示しているのです。 つまり、こうです。「理屈だけで、その実証データを見ないままに何となく信じ込んでいる」というレベルでの「分かった」が多すぎるのです。経済・金融の世界は優れた実証科学でもあります。であれば、理屈だけではなく、実際に具体的なデータを通して経済世界を認識しませんかというのが本書の最大のメッセージです。 その思いのいくばくかは、お分かりいただけたでしょうか? 本書は、角川SSコミュニケーションズの武蔵おりえさんとフリーランスライターの元山夏香さんから多くのアドバイスならびにご尽力をいただいた結果、初めて世の目を見ることになったものです。どうもありがとう。 コアータを押さえながら経済事象を連想的にたどっていくことが、こんなに面白いものだとは……!と思っていただけたら、とてもうれしく思います。 2010年4月 金融データシステム代表 角川総一 著者略歴 角川総一(かどかわ・そういち) 1949年大阪府生まれ。68年京都大学文学部入学、74年中退。公社偵新聞社、日本債券新聞社等を経て、85年10月に金融データシステムを設立。わが国初の投資信託データベースを管理・運営するかたわら、各種雑誌、新聞、ラジオなどで金融・証券を中心とした経済評論家として活躍中。ファイナンシャルプランナーや金融機関向けのセミナー講師なども務める。著書に『経済の動きが手にとるように見えてくる』(中経出版)、『金融データに強くなる 投資スキルアップ講座』(日本経済新聞社)、『時代即応版 為替が動くとどうなるか』(明日香出版社)、『日本経済新聞の歩き方 2010』(ビジネス教育出版社)など多数。