生涯、超一流であり続ける人の自己演出力_中谷彰宏                  この本は、 3人のために書きました 1 印象が薄く、覚えても らえない人。 2 自分の何を際立たせれ ばいいか、わからない人。 3 「盛ること」に、疲れた 人。 1 はじめに 演出は、自分のためでは なく、 人を幸せにするサービス 精神だ。 知名度ではなく、 サービス精神が人を輝か せる。 「演出」は、相手を幸せにするサービス精神で  「演出」イコール「盛る」というのは、勘違い です。  一部のSNSの世界では、盛ることが基準に なってしまっています。  「演出」と「盛る」は、違います。  「盛る」は、自分をいかに大きく見せるかです。  結果として、自分にサービスをする人は、そ の人自身が小さく見えます。  人に対してサービスをする人は、きちんと際 立って、輝いてくるのです。  自信のある人ほど、人に対するサービス精神 があります。  サービスをすればするほど、相手に喜んでも らえます。  それが「役立った」という自信になっていく のです。  演出することによって自己肯定感が上がりま す。  盛ると、「本当はこうじやないんだけど」と いうことで自己肯定感が下がります。  動画もSNSの文章も、どちらも情報量が少 なく、相手に対面していません。  その分、「この人は盛っている」というのは、 バレるのです。  盛っている人は、やがてバレて人気がなくな ります。  それでさらに盛っていくという負のスパイラ ルヘ入るのです。  盛ることによって知名度を上げるという手法 になりがちです。  私の仕事は演出をすることです。  20代からCMの演出、サービスの現場での演 出、ホテルの企画の演出などをしています。  どこに行っても「ここはもう少しこうやって 演出すればいいのに」とつい考えているのです。  今まで出会ってきた人の中で、「この大は感 じがいいな」と思う大は、よく覚えています。  そこには大を幸せにする演出がありました。  まずは、大に対してサービス精神があるかど うかです。  自分のためではなく、まわりの人のため、そ の場の空気のためにすることが演出なのです。         ここ一番で魅力的になる小さな工夫 1 自分のためではなく、 人のためにしよう。 ノックの仕方で、誰だか わかる。 自己表現とは、 誰だかわかるということ だ。  演出は何もドラマだけのことではありません。  日常生活の中にも演出はたくさんあります。  演出力は、「感じのいいこと」と、「感じの悪 いこと」を感じ取る力です。  クヨクヨする人は演出に向いています。  たとえば、スターバックスで、お店から出よ うとして重いドアを押している人がいたので、 ドアを開けてあげる。  相手がまったく気づかなくても、演出です。  ふだんイラッとしやすい人、クヨクヨしやす い人は演出のタネを持っているので、それを生 かせばいいのです。  看護師さんのノックの音が人によって違いま す。  病院のドアには「ノックしてください」と書 いてあります。  ドアの上の方でノックする人は、音が優しく なります。  下の方でノックする人は、音が怒った感じに なります。  みんな叩きやすいところを叩いているのです が、怒っていたり、トイレで焦っている時は下 の方を叩きます。  ふだんより少し高いところを叩くだけで、体 が上がり、音が軽くなって、感じのいい音にな るのです。  これが演出です。  面接もノックの音で勝負が決まります。  面接で通る人は、ドアの上の方を叩いて、軽 い音がします。  入る前に勝負がついているのです。  演出には本人の生き方がすべて出てしまいま す。  ノックひとつで、ドアに対しての優しさ、中 にいる大への優しさがわかるのです。  演出力は、中にいる大に不快な感じを与えな い叩き方を考える力です。  初めて会う人のノックの音で、今後もおつき 合いしたいか、あまりかかわり合いたくないか を判断されるのです。  文言や画像でいくら感じよく見せようと頑 張っても、ふだんしていることは出てしまいま す。  「この人は感じがいい」「この人はかかわり合 いたくない」ということに対して、繊細さを持 つことが大切です。  ドアをノックする時は、いつもより少し上の ところを叩くように、ふだんの習慣から変えて いきます。  演出は、特別な時に特別なことをすることで はありません。  ふだんから無意識にしていることが、演出に なるのです。          ここ一番で魅力的になる小さな工夫          ドアの上の方を叩こう。 演出とは、 エネルギーを生み出すこ とだ。 日常の中に、行き詰まる瞬間があります。 会議でも、ブレストでアイデアが行き詰まる 時に、一瞬、沈鬱な空気が流れることがありま す。  「何かいいアイデアはないの?」と言われても、 固まってしまって何も出てこないのです。  その空気を変えられるのが、演出の力です。  演出力のある人は、その人が入ってくるだけ で空気がパツと明るくなるのです。  私はTOKYO MXの『モーニングCRO SS』という朝のニュース番組に出演していま す。  「おはようございます」と言ってスタジオに入 ると、MCの堀潤さんが「中谷さんが入ってく るだけでスタジオが明るくなりますね」と言い ました。  私か明るくしたのではありません。  その言葉を言った堀潤さんが、その場を明る くしたのです。  私は、コシノヒロコさん、ジュンコさん、ミ チコさんの3姉妹と親戚です。  いろんな機会に誘ってもらっています。  小篠綾子お母ちゃんも含めて、ファッション デザイナーの肩書には、もはやおさまっていま せん。  ファッションデザイナーの仕事は、服をつく ることではなく、服を通して人を元気にするこ とです。  ヒロコ姉ちゃんが神戸でファッションショー 「GET YOUR STYLEI」を企画し ました。  ステージに出てくる人も、モデルさんではな く、普通のシロウトの人です。  車椅子の人も出演しました。  ファッションの目的が着飾ることではなく、 落ち込んでいる時でも着る人に元気を与えるこ とだとわかります。  3姉妹は、ファッションデザイナーの枠から はみ出たことをしています。  ジュンコさんは、器や名刺、花火のデザイン をしています。  一見、ファッションデザイナーと関係ないよ うですが、実は違います。  ファッションデザイナーは、「パッションー デザイナー」なのです。  パッションを生み出し、パッションをデザイ ンする人です。  私の演出の仕事も、コシノ家と同じDNAと して、同業の演出をしているんだなとわかりま す。  上司が部下に対して「元気を出せ。頑張れ」 と言えば言うほど、部下は「頑張つてるのにわ かってくれない」という気持ちになります。  演出は、「頑張りたいな」という気持ちにさ せることです。  サッカーで、(Iフタイムの間に選手が監督 の言葉に感激して、後半は泣きながら出てくる ことがあります。  上司の役割は、部下を感激させることです。  「頑張れ」と言わなくても、頑張りたくなるよ うな空気をつくるのです。  一流のカメラマンは、「笑ってください」と 言わなくても、モデルさんが勝手に笑ってしま うようなことをしています。  それが演出です。  演出は、自分に対してだけではなく、相手に 対してすることでもあるのです。          ここ一番で魅力的になる小さな工夫          「j          パッションーデザイ          ナーになろう。 きちんとした服装をした 人の話を、 女性は聞く。  私はTVに出る時も、きちんとした格好で行  服装の指定は別にないので、自前の服装です。  プロデューサーに「中谷さんが来てくれると、 予算のかかった番組に見えるから助かる」と喜 んでもらいました。  これは萩本欽一さんから学んだことです。  萩本さんは「TVに出る人間は、とにかくき ちんとした服装をしなさい。そうしないと女性 は話を聞いてくれないよ」と言っていました。  実際、女性に聞いてみると、やっぱり服装で 話を聞く人と聞かない人とに分かれるのです。  講演の感想にも「今日の先生の服がよかっ た」と書かれています。  『紅白歌合戦』ではありませんが、話を聞く時 も衣装は大切な要素です。  インターネットの動画でも、勝負は服装です。  服装がきちんとしていないと、どんなにコン テンツの中身がよくても見てもらえないのです。  見られる情報には限りがあります。  その人の人となりがわからない場合は、どん な服を着ているかで、その人のバックグラウン ドを判断するのです。  男性は、スーツだろうがTシャツだろうが関 係ないと思っています。  女性は、男性よりもはるかに服に対するセン スがあります。 「これは高い」とか「これはいいモノだ」とか 「この色がいい」ということに対して敏感です。  動画の世界では、オシャレな服を着た人が見 られるのです。  「服装より、中身で勝負でしよ」と思うかもし れません。  服装がだらしないと、中身を聞いてもらえな いのです。  まずは、服装でマイナスにならないことです。  きちんとすることで、プラスになります。  きちんとするとは、高級であるということで はありません。  「清潔感がある」ということと「信頼感があ る」ということです。  「清潔がある」ためには、きちんとクリーンン グされていて、アイロンがかかっているという ことです。  「信頼感がある」ということは、ボタンを外し たりしないで、きちんとした着こなしをしてい るということです。          ここ一番で魅力的になる小さな工夫          4          きちんとした服装で出          よう。 着慣れている人は、 時間がたっても着崩れな い。  気配りの達人・飛橄耗芬さんは、ミスーイン ターナショナルを主催している一般社団法入国 際文化協会の会長もされています。  下村さんは、ふだん、会の時には着物を着て います。  凄いのは、ふだんも着物を着ているから時間 がだっても着崩れないことです。  ふだん着ている人と、着ていない人は、ひと 目で違いがわかります。  演出力を磨くためには、ふだんが大切です。  本番だけ勝負服を着ている人は、「ふだん着 ていないよね」と、七五三状態になります。  それは、スーツであっても、ネクタイひとつ にしても同じです。  サラリーマン経験のない人がネクタイをする と、ふだんしていないことがすぐにわかります。  高校生のネクタイがだらしないのは、ネクタ イをしている回数が少ないからです。  サラリーマンをしていた人が役者になると、 役柄でネクタイをしたり、スーツを着ても、着 こなせます。  ダンスをする人は、燕尾服を着こなしていま す。  野球選手は、野球のユニフォームを着こなし ている人が優秀です。  スカウトマンは、ユニフォームの着こなしが いい人を探すのです。  料理人も、シェフのコックコートの着こなし がいいだけで「こいつはできる」とわかります。  特に着物は、最初に誰かに着せてもらっても、 ふだん着ていない人はどんどん崩れていきます。  ふだんからずっと着ている人は、最初の着方 もいいですが、着ている時のしぐさが身につい ているので長時間たっても着崩れません。  下村さんの着物の崩れない感じを見ると、ふ だんの生活は見ていなくても、着物を着慣れて いることが伝わってきます。  演出力は、その場だけで何かを頑張ることで はありません。  その人の向こう側に見えてくるふだんの生活 が勝負なのです。          ここ一番で魅力的になる小さな工夫          5          着慣れよう。 作法は、最高の演出だ。 贈り物は、中身よりも、 きちんとした風呂敷で、 贈り主が立つ。  演出は、マナーです。  マナーは、しなければいけないことではなく、 自己表現です。  マナーは、自己の個性を抑えつけるものとい うのは思い込みにすぎません。  美しいマナーは、その人の見事な表現になる のです。  その一例が、贈り物です。  木下和子さんと、一般社団法人日本プロト コール&マナーズ協会の理事でご一緒していま す。  木下さんが水戸の納豆を贈ってくれました。  納豆もさることながら、納豆を包んでいた風 呂敷がカッコいいのです。  風呂敷をほどくのがもつたいないほどでした。  風呂敷でモノを贈るのは日本の美学です。  これは自己表現のひとつです。  どんなラッピングも、風呂敷には勝てません。  風呂敷の素材もさることながら、選んだ色や 結び方でも個性が出ます。  結び方を見れば、この人がどれぐらい風呂敷 で包み慣れているかがわかります。  ワインも風呂敷で包めます。  リーズナブルなワインでも、風呂敷で持って いくだけで外国人は大喜びです。  これこそが囗本の自己表現の文化なのです。          ここ一番で魅力的になる小さな工夫          ″○          きちんとした風呂敷に 包んで贈ろう。 緊張を、 ほぐしてくれる人に惹か れる。  自分を大きく見せようとして、「オレはこん なに凄いんだ」と、マウンティングする人がい ます。  結果として、相手は緊張してしまいます。  自己演出は、相手にリラックスしてもらうこ とが大切です。  相手が緊張していると、その人の凄さとか魅 力は大ってこないのです。  初対面の大と会う時は、ほとんどの大が緊張 状態にあります。  緊張を冒頭でほぐしておいて、話を聞いてい るうちに、「面白いな」「凄いな」「魅力的だな」 と感じられる受け皿をつくっていくのが演出で す。  緊張をほぐす達人が稲川淳二さんです。  稲川さんの怪談は、聞き手を緊張状態に追い 込みます。  稲川さんは、たとえ2000人の会場でも、 最初と終わりに1人ひとりに脱臼しそうなぐら い手を振ります。  それだけで5分や10分はかかっています。  みんなの拍手の時間よりも、稲川さんが手を 振っている時間の方が長いのです。  怪談の冒頭は、まったくの素のしやべりです。  友達と話しているかのようなカジュアルの話 し方で、それがいつの間にか怪談に入っていく のです。  今日は怪談を聞きに行くということで、みん なは少しドキドキしながら、会場へ来ています。  冒頭でいったん笑わされて、ほっと油断した 後、気がついたら稲川さんの霊界ワールドヘ スーツと持っていかれるという流れになってい るのです。  演出で大切なのは、相手の緊張をほぐすこと です。  私は司会の人に「できるだけみんながかたく ならないように、むしろちょっと間違って、み んなの笑いをとって」と言っています。  かたい中で講演に入ると、そこからアイスブ レークをする手間がかかります。  一番いいのは、すでに笑いが起こった状態で 入ることです。  稲川さんの怪談は、まずは相手の緊張をほぐ すことから始まります。  話を聞いている時は、聞く人はどこか幽体離 脱しています。  稲川さんは、最後に手を振つてほつとさせる ことで、それをもとに戻してあげているのです。         ここ一番で魅力的になる小さな工夫         1人ひとりに、手を振         ろう。 8 相手を名前で呼ぶ人が、 覚えられる。  ファッションの帝王カールーラガーフェルド は、「こんにちは。わざわざ来てくれてありが とぅ」とは言わず、必ず「ワオ、ヤマモト」と、 名前で呼んで(グします。  ほかは何も言いません。  人間は、名前を呼んでもらうだけで「覚えて いてくれた」と、凄く歓迎されたように感じま す。  「わざわざ来てくれたんですね。ありがとうご ざいます」と言うだけで、ずっと名前を呼ばれ ないと、「この人、私の名前を覚えているのか な」と心配になります。  名前で呼ぶためには、今日は誰が来るという 一覧表を見ておくことが大切です。  ダンスパーティーの時は、参加人数とダンス タイムの回数を聞いて、「そうか、30分が2回 か。ということは、3分で1曲として、20曲で このメンバーがまんべんなく踊るには、こうい うふうにしよう」と、最初にダンドリを立てま す。  私は博報堂時代に、CMソングをある大御所 の作曲家に頼みました。  「宣伝部長は何さんだっけ」と聞かれて、 「○○さんです」と言うと、「ああ、OK。わか りました」と引き受けてくれました。  プレゼンの部屋に入っだ時、その作曲家が 「ああ、○○さん、ごぶさたしてます」と宣伝 部長の名前を言ったのです。  これでプレゼンは全部通ります。  宣伝部長が「大作曲家が自分の名前を覚えて いてくれた」と喜ぶことで丸くおさまるわけで す。  こんなありかたい作曲家はいません。  だから大御所なのです。  本来、大御所はそんなことをする必要はあり ません。  曲を書いてほしい依頼者の方が頭を下げる側 です。  CMはスポンサーさんがOKを出してくれな いと話がうまくまとまりません。  仕事をスムーズに進めるために、名前を覚え ていくことが演出なのです。          ここ一番で魅力的になる小さな工夫          只)          相手の名前を、確認し          ておこう。 9 みんなが座りにくい椅子 こ I 座る人が愛される。  ある女優さんの結婚式で、みんなが遠慮して 上座のテーブルに座らないということがありま した。  そのテーブルに一番に座っだのが、片岡鶴太 郎さんでした。  「中谷さん、ここ座ってあげましようよ」と笑 いながら誘ってくれました。  鶴太郎さんは、誰も座らないから、配慮とし て座ったのです。  最初に誰かが座ると、後の人は座りやすくな ります。  自由に席を選べる時は、上座があいていると、 なんとなく場が盛り上かつていない感じになり ます。  「上座」イコール「偉い人が座るところ」では ありません。  座りにくい上座に座っている人は、その場を 盛り上げることのできる人です。  その後に鶴瓶さんも来て、TVの番組ができ るぐらい、楽しく盛り上げるテーブルになった のです。  大切なのは、自分がどの席に座ったら、みん なが楽になるかです。  たとえば、先輩が下座に座ると、その場がギ クシヤクした空気になります。  本人は、いいカッコしているつもりです。  それは間違った演出です。  講演会の後、隣の部屋で懇親会が開かれまし た。  立食なので、少し高いテーブルにドリンクが 置かれて、そこで乾杯したりするのです。  その時に、「皆さん、どうぞ前の方へお詰め ください」というアナウンスがありました。  ほとんどが入口で固まって、「私はトイレに 近いところで大丈夫ですから」と、遠慮してい るのです。  遠慮は、主催者側からすると本当に迷惑なこ とです。  主催者が一番助かるのは、前の方へ前の方へ と詰めてくれることです。  主催者の演出に協力することが大切です。  移動も、一番に来てくれると、みんなが動く 誘導になるのです。  大阪であるブランドのオープニングイベント がありました。  みんなはしやいでいて、遠慮もあって、なか なか動きませんでした。  そこで一番に動いたのが、私ともう1人の大 です。  その大も広告代理店出身でした。  広告代理店の人間は、いつもイベントを企画 しているので、「こうしてもらわないと困る」 ということがわかるのです。  私は、もともと演出する側の人間でした。  演じる側にまわった時も、「今、演出してい るディレクターやプロデューサーはどうしてほ しいのか」ということを常に考えています。  演出する側と意思疎通できる出演者と長年一 緒に仕事をすることになるのです。  自分のポジションだけで物事を考えないよう にすることです。  ほかのスタッフが今どうしてほしいのかを考 えることが、一番の演出になるのです。 ここ一番で魅力的になる小さな工夫 座りにくい上座に座ろ 10 自分を出さないで、 場を盛り上げる人が際立 つ。 相手を輝かせる役者が、 輝く。  役者さんは、輝く人と輝かない人とに分かれ 「私が私が」と、目立とうとする人は輝かない  演技は1人でできるものではありません。  相手がいます。  相手を輝かせることができた人が、より輝く のです。  月がきれいに見えるのは、太陽が頑張ってい るからです。  月がいることで、太陽の存在もわかります。  お互いがお互いを輝かせているのです。  輝く役者さんは、事前に準備をしてきても、 それを捨てて相手の演技に合わせることができ ます。  演技はうまいのに、輝かない役者さんは、家 でっくり込みすぎて、相手の演技とかみ合わな いのです。  これは演奏家にもあります。  リ(Iサルでは、指揮者やほかのパートの人 に合わせて(Iモニーをつくることが大切です。  自分が目立ちたいと思えば思うほど、その人 は目立だなくなります。  悪目立ちしてしまうこともあります。  主役が目立つ時は、わき役の人が主役を目立 たせています。  主役が目立ちたい時は、わき役を目立たせれ ばいいのです。  プロレスは、いかに相手の技を引き出すかが 勝負です。  ライバル同士の試合が面白いのは、一番お互 いの技を引き出せるからです。  最初からワンサイドゲームで勝つプロレスは、 最低のつまらない試合です。  それでは相手の強さがわかりません。  最後に勝つ側か途中まで徹底的に負けている ことで、相手の強さがわかるのです。  私か出ていたころの「朝まで生テレビー」で は、西部邁さんと大島渚さん、栗本慎一郎先生 と舛添要一さんが名コンビでした。  お互いが相手の技を知り尽くしています。  ライバル同士が一番仲よしで、わざと相手の 発言を引き出すように持っていけるのです。  さらに、名演出家の田原総一朗さんは、話し たい時に話させないことで相手を怒らせます。  話せないことで、輝くのです。  演出は、いかに自分が輝くかではなく、まず は相手を輝かせることを考えるのが大切なので す。 ここ一番で魅力的になる小さな工夫 10 相手を輝かせよう。 11 客席は、 扇状に並べることで盛り 上がる。 私は講演に行くと、いつも机を並べかえます。  コロシアム型の扇状に並べるのです。  机が水平に並んでいると、盛り上がりません。  まっすぐ並べるのは、お葬式でみんなが静粛 になる時の並べ方です。  扇状に並べると、コロシアムの形だから、み んなのテンションが上がるのです。  センターに対して体が正面に向いていくこと で温度が上がります。  電子レンジでたこ焼きをチンする時に大切な ことは、円状に並べることです。  そうすると、たこ焼きが均等に熱くなります。  たこ焼きを真ん中に固めると、真ん中が冷た くなってしまうのです。  これと同じです。  客席も均等に温度を上げる必要があります。  コロシアム型にすると、お客様との距離が近 づきます。  講演会では、「こんな講演会がありました」 という記念写真を後ろから撮っています。  コロシアム状にして撮ると、みんなが凄く盛 り上かつているように見えます。  もうひとついいことは、「皆さん、椅子を 持って前へ寄ってきてください」と言って、き れいに整っているのを前に詰めてもらうと、盛 り上がるのです。  小劇場は、よく「すみません、もう1個お詰 め合わせ願えますか。膝送りお願いします」と 言って、詰めてもらいます。  あれは別にしなくてもいいのです。  自分でビニール袋に靴を入れて持つというの も演出です。  「なんかにぎわっているな」という空気をつく り、「活気」の温度を上げるのです。  部屋の温度が少しでも寒かったり、暑かった リ、風があったりという不快な要素はできるだ け取り除いておきます。  由布院「玉の湯」の溝口薫平さんが、私の講 演にわざわざ来てくださって、「さすがですね。 中谷さんが話す時、後ろに倒れていた体が、全 員、波打つように前に行きましたよ」と言われ ました。  それも、その場に一緒にいた溝口さんが応援 してくれる協力者になっていたからです。  聞き手の側としては、椅子に背中をつけてい るよりは前のめりになることが大切です。  拍手も、より上の高さですることです。  私は、コシノジユンコさんと一緒にコンサー トに行きます。  コシノジュンコさんは、いつも手を上に挙げ て拍手をします。  上で拍手されるのは凄くうれしいことです。  コシノジュンコさんは、いつも自分が拍手さ れる側だからそれがわかるのです。  きちんとした拍手をするには、3つのコツが あります。  @ 立だなくても、椅子の背中から、前に乗 り出す。  A ひじを高く上げる。  B 相手に向かって、拍手する。  感じの悪い拍手は、手だけでする拍手です。  感じの良い拍手は、全身でする拍手です。  僕は、拍手をする時、いつも隣にコシノジュ ンコさんがいるつもりで、拍手しています。         ここ一番で魅力的になる小さな工夫         11         ひじを上げて、拍手を しよう。 12 落語家は、生声が届くよ うに、  マイクの音量を極力下げ る。  講演をする時は、私はできるだけマイクを下 の方におろします。  聞いている人は、ナマの声が一番伝わります。  マイクを通すと、響きは2%しか入らないの です。  機械の音で人を感動させることはできません。  せっかく直接会えるところに来ているのだか ら、ナマの響きで聞いてほしいのです。  私は稲川淳二さんの怪談に27回目まで毎年 行っています。  TVでは、あの怖さは出ません。  怖いのは、隣の人が怖がっている空気です。  お化け屋敷で怖いのも、お化けではなく、お 客さんの「キヤー」です。  知らないところで知らない人の「キヤー」が 聞こえると、「何か起こっているんだ」と、怖 くなるのです。  大切なのは空気の振動です。  落語家は、ナマの声にこだわっています。  2階席があってマイクを使うような会場でも、 マイクのレベルを極力下げて、10段階の1ぐら いにしています。  準備の段階で、聞こえるギリギリまでマイク を小さくするチェックをしているのです。  私かマイクを下におろしていると、時々、そ の演出がわかっていないまじめなホテルマンに 「もうちよつと上でお願いします」と言われま す。  上にすればするほど、マイクの音になってし まいます。  そういう時は、マイクをこつそリオフにして います。  誰も気づかないし、音声担当の人も気づきま せん。  1200人までは大丈夫です。  それぐらいナマの声は伝わるのです。  マイクがあるところでも、マイクを使わない で話すことが演出なのです。 ここ一番で魅力的になる小さな工夫 12 マイクを使わず、生声 で話そう。 13 講演では、前の席に座る 人が、 覚えられる。 ゴキゲンな人が、愛され る。  講演では、遠慮して大体1列目があいていて、 2列目から埋まっていきます。  ここで1列目に座る人は、熱烈なファンでは ありません。  「ここを埋めないと盛り上かつてないように見 える」と思って座ってくれる大です。  講演をしていて助かるのはゴキゲンな人です。  どうしても難しい顔で聞いている大が多いの です。  「人の話を笑って聞いてはダメ」というのが、 日本人のひとつの道徳観です。  「なにヘラヘラ笑ってるんだ」と言われたくな いのです。  「難しい顔」イコール「シリアス」イコール 「まじめ」イコール「よい」という思い込みが あるのです。  話し手としては、難しい顔をされると、「話 がつまらなくて怒っているのかな」と感じます。  聞き手に笑ってゴキゲンな人がいると、話し 手は本当に話しやすいです。  私は、横の席で紹介されている間に、会場で 笑っている人を見つけて、その人を中心に話し ます。  その人は話す前からゴキゲンで笑っています。  何も言っていないのに拍手しています。  そういう人を覚えるのです。  韓国に講演に行った時に、会場には5000 人が集まっていました。  覚えるのは、やっぱリゴキゲンな人です。  自分が今ゴキゲンなのかフキゲンなのかは、 本人は気づきません。  たいていはフキゲンです。  演出とは輝いて見えることです。  ゴキゲンでいることが、輝いている状態なの です。          ここ一番で魅力的になる小さな工夫          1 ゴキゲンでいよう。 14 研修で、社長がメモをと る。 メモをとる人が、信用さ れる。  研修に行くと、社長さんが「みんな、先生の 話をよく聞くんだぞ。私は中座させていただき ますので」と、後ろに座って途中でいなくなる ことがあります。  一方で、社長さんが一番うなずきながらメモ をとる場合もあります。  メモをとる人は、  @ 本当に勉強している  A そのしぐさをみんなに見せている  という2通りが考えられます。  演出力のある経営者は、両方です。  自分で勉強する経営者は、まわりの社員も 「そうか、社長があんなにメモをとっているん だから、自分もメモをとらなければ」という空 気ができ上がります。  「みんな、メモとれよ」と言って、自分が腕を 組んだままメモしないと、社員は誰も聞かなく なります。  社長が最前列でうなずきながら、たくさんメ モしている時は、話し手も凄く話しやすいし、 社員も一生懸命話を聞いてくれます。 メモすることも演出なのです。        ここ一番で魅力的になる小さな工夫        14        上の人ほど、メモをと  お店の商品を、  買う人が優先される。  人気番組『鶴瓶の宗族に乾杯』で、鶴瓶さん は知らない人にも気さくに話しかけます。  鶴瓶さんの人間的な優しさから出ているので す。  町の商店のオジチヤン、オバチヤンに、きわ めてフレンドリーにスッと入っていきます。  食べ物屋さんなら、必ず「1個ちょうだい」 と言って何か買います。  「おいしい」と言って食べながら、「ここ長い んですか」という話が始まるのです。  フリートークの苦手な人は、何も買わないで、 「NHKの番組なんですけど」から入ります。  「NHKの番組ですけど」と言えば、ウヶては くれますが、固まってしまいます。  「ついしやべっちやう」のか「ビビらせて話を 聞く」のかの違いです。  あの番組は鶴瓶さんにしかできません。  鶴瓶さんに話しかけられると、つい油断して、 今まで話したことのないことまで話してしまう のです。  インタビューで大切なのは、いかに相手に心 を開いてもらって、「ついしやべっちゃった」 という状態になってもらえるかです。  人間は気持ちがブロックしていると、用意し た原稿しか話せなくなります。  普通は初対面の人間に自分の大切な話はしま せん。  「何かあったら、なんでも相談しろ」と言われ ても、ビビらされたら相談できないのです。  たとえば、部下が上司に「ご相談があるんで すけど、お時間いいですか」と言いました。  その後、一緒にごはんを食べに行って、席に 座るなり、「で、相談って何?」と言われたら、 相談などできません。  関係のない話をして、「この人には相談でき る」とわかった時点で、初めて相談できるので す。  演出とは、「相談しろ」とか「何でもいいか ら企画を出せ」という言葉ではなく、空気をつ くり出していくことです。  たとえば、小学校のホームルームで、子ども たちに文化祭の出し物について意見を出しても らいます。  大切なのは、どんなくだらない意見でも黒板 に書くことです。  「その意見はこれと似ているね」と言って、そ の意見を黒板に書かないのは、まずい対応です。  似ている意見もちやんと書いてあげることで、 意見を言いやすくなるのです。  「これはこれと同じだね」と言った時点で、手 が挙がらなくなります。  アイデアが浮かんでも、「これって、グルー プ分けしたら、あれと同じかな」と、自分で フィルターをかけてしまうからです。  私の師匠の藤井達朗は、「あほなこと言うと んなあ」と言いながら、私の出したくだらない 企画をホワイトボードに書いてくれました。  書いてもらえると、もつと「あほなこと言う とんなあ」と笑わせたいという気持ちが湧いて くるのです。          ここ一番で魅力的になる小さな工夫          1          自分が、お客さんにな ろう。 16 振ると、すぐやってくれ る人が、 かわいがられる。 NHKのクイズ番組に、コロッケさんと一緒 に出演した時のことです。  楽屋からスタジオに入る時に、私はコロッケ さんに「コロッケさんの『大友康平さんから二 ワトリになるというモノマネ』が好きなんです よ」と言いました。  コロッケさんはパッとやってくれました。  これが演出力です。  単に自分が好きなもの、最近、感動したもの を言っただけです。  「やって」とは言っていないし、思ってもいま せん。  しかも、これからスタジオに入っていく廊下 です。  その芸をつくるために、コロッケさんがどれ だけ修練と練習をしてきたかを考えたら、 「やって」と言われても「プロとして、そんな 簡単にはできない」と斷ってもおかしくないの です。  講演に行くと、ラストに質疑応答がセッティ ングされていることがあります。  「何か質問ある人」と言った時にヘンな間があ くと、一番白けます。  演出力のある人は、「誰も質問を出さないだ ろうな」と感じたら、自分でパッと質問してく れます。  何か聞きたいことがあるわけではありません。  この場でヘンな間があくのはいけないとわ かっているのです。  私は漫才師の太平サブロー・シローさんとラ ジオ番組を一緒にやっていました。  スタッフと一緒にみんなでカラオケに行った 時に、部屋に入るとすぐ、座る前にシローさん がマイクを持っています。  本当なら、主役のシローさんは最初に歌わな くていい立場です。  にもかかわらず、曲が流れ始める前から歌っ ているのです。  カラオケのトップバッターは、みんなが譲り 合います。  誰かが一番に歌ってくれると、後が歌いやす くなるのです。  演出する人は輝く人です。  輝く人は覚えています。  講演する側からすると、一番に質問した人を 覚えています。  主催者側も、「あの人は気を使って一番に質 問してくれた」というのはわかります。  その質問も、高尚な質問ではなく、みんなが 共感できる、きわめてくだらない質問です。  これで印象に残ります。  これが演出なのです。          ここ一番で魅力的になる小さな工夫          1 一番に質問をしよう。 7 1 ノータイムでする人が際 立つ。  大阪桐蔭高校は野球も強いですが、吹奏楽部 も凄いです。  年間卯回のコンサートのチケットが、なかな か手に入らないのです。  コンサートでは、スクリーンに100曲の曲 名が出ています。  それを会場の観客がリクエストするのです。  「レイダース聞きたい」とか「スター・ウォー ズ聞きたい」と言うと、「「イ、1、2、ポン」 で演奏が始まります。  楽譜をめくっているヒマはありません。  これが大阪桐蔭吹奏楽部の素晴らしいところ です。  前に来たことのあるお客様は、自分の聞きた い曲をリクエストします。  スクリーンにない曲でも、「1、2、ポン」 で出ます。  スクリーンに出ている曲以外のレパートリー も練習しているのです。  もちろん準備は必要ですが、準備していない ことを振られても、さっと出せることが演出力 です。  ダンスで大切なのは、「中谷さん、踊って」 の「中谷さん、おど……」の時点でお尻が上っ ていることです。  すぐ前に出られるのが、ダンスを習う意味で す。  演出力のない人は、  「エッ、何を踊るんですか」 「エツ、曲は何ですか」 「エツ、どんなふうに踊るんですか」 「エツ、今ですか」 「エツ、僕ですか」 と言ってしまいがちです。 これが一番白けることになるのです。         ここ一番で魅力的になる小さな工夫         1 準備していなくても、 さっと出よう。 00 1 台本を見せて、わざと捨 てる。  ダミーは、演出で大切なことです。  オリンピックの牡行会などでは、大体の政治 家は秘書官が書いてくれた挨拶を封筒からパッ と出して読み上げます。  ある時、総理大臣が「これは係の人に渡して おきますから、後で皆さんで読んでください。 ちよつと私、自分で言いたいことを言います」 と言うと、みんながその話に聞き入りました。  これはダミーの可能性もあります。  それでも、人はその話に思わず惹きつけられ ます。  私は講演の時、事前にレジュメをつくってい きます。  バインダーで持って行き、本番ではまったく 開きません。  ホワイトボードのところに置いておくだけで す。  たとえば2時間の講演では、1時間50分ぐら い過ぎたころ、「あ、今日、用意してきた話を まだ何もしてない。今したい話をしちやった」 と言うと、女性は大体喜びます。  用意された話はうれしくないのです。  まじめな男性に「用意された話は何だったん ですか」と、後で質問されることもあります。  そういう時は、後の懇親会で「実はこういう 話をしようと思ったんですけど、今日は皆さん の話を事前に聞いて、こういう質問があったか ら、皆さんの聞きたい話に持っていった」と説 明します。  私は、今日ここでしか聞けない話を味わって ほしいのです。  事前に用意されている話を聞くのはあまり (ツピーではありません。  これが演出です。  わざとバインダーを持っていくのです。  実際、準備した10個の話を全部した時は自分 でもいまいちです。  10個のうち2個は話したけれども、残り8個 は違う話をした時の方が面白い話になっている のです。         ここ一番で魅力的になる小さな工夫         18         台本を最後まで、見な         い。 19 偶然を、 つくり出す人が生き生き する。 時には偶然も起こります。  偶然は、必要に応じてつくり出せばいいので す。  私の博報堂時代にリクルートにいた東さんは、 小細工の天才です。  スポンサーさんと一緒にカラオケに行くと、 そのスポンサーさんがあるスター歌手の歌を歌 いました。  そこで「お好きですか。呼びますか」と言っ て、スター歌手に電話をかけました。  「どうも東ですけど、今ね、あなたの歌を歌つ だので、来る?」と誘うと、「行きます」と本 人が来たのです。  普通は電話がつながるわけはないので、ビッ クリします。  東さんが、来てもらえるための今までのおつ きあいもちゃんとして、「この時間に連絡する から、お願いしますね」と、ちゃんとダンドリ をしていたのです。  しかも、一緒に行ったスポンサーさんがその スターの歌が好きで、歌うことも想定して、 歌ったから呼んだという準備をしているわけで す。  ある人が、ニューヨークの下町のマフィアが たくさんいるようなイタリアンレストランで デートをした時に、チンピラに襲われました。  そのチンピラをこてんぱんにやっつけて、何 ごともなかったかのようにデートを続けたので、 当然、そのデートはうまくまとまりました。  私か「さすがですね。いやあ、そんなことっ てあるんですよね」と言うと、「あるわけない よ。ニューヨークでホールドアップに抵抗し ちやダメだよ。死んじやうからね」と言われま した。  実は、雇われたチンピラが出てきたのです。  これは、演出された偶然です。  どうしたら場が盛り上がるかというストー リーをつくることも、気配りのひとつです。  常に、どうしたら相手が盛り上がってくれる かを考えればいいのです。          ここ一番で魅力的になる小さな工夫          1          相手のために、偶然を 仕込もう。 0 `ノー 驚きを、用意する人が好 かれる。  演出は驚かせることです。  ほとんどの人が、ある程度の予想を立ててい ます。  予定調和の中にいると、驚きを生み出せない のです。  コシノジュンコさんと丸ビルでクリスマスの トークイベントをすることになりました。  その打ち合わせで、ジュンコさんは「やっぱ り何かサプライズがあった方がいいよね」と言 いました。  私は「いいですね。なんでも協力しますよ」 と言いました。  「ジユンコさんは何か仕込もうと思っている な」というのはわかります。  たとえ急に「ポールダンスを踊れ」と言われ ても、やれる態勢で行くぞという気持ちでいま した。  「これはちゃんとスタッフに伝わっているかな。 ジユンコさんは突発的にやるから大丈夫かな」 と心配していたら、ミスインターナショナルの 日本代表の筒井菜月さんがスペシャルゲストで コシノジユンコさんの衣装を着て登場したので す。  それは私には内緒でした。  筒井菜月さんをジユンコさんに紹介したのは、 私です。  そのお返しとして、私にサプライズをかけて くれたのです。  ジユンコさんと私は、お互いにサプライズの 仕掛け合いをしています。  ジュンコさんに内緒で、歌手の米良美一さん と、こっそりジュンコさんの誕生日サプライズ パーテイーを仕掛けたこともあります。  米良さんと私とジュンコさんのトークイベン トなのに、来ている人が知り合いしかいないの です。  普通はそこで気づきます。  ジュンコさんは、「今日は私の誕生日なのに、 誰も企画のダンドリをしてくれていない」と 思って、自分で店の予約までしていました。  すっかりだまされているのです。  しかも、去年も一昨年もサプライズがあっだ のに、ジュンコさんは毎年だまされています。  サプライズをされやすい人が、サプライズで きる人なのです。 ここ一番で魅力的になる小さな工夫 20 サプライズをし合おう。 21 人を驚かせるためには、 まず、人の演出に驚く。 私はマリックさんの手品が大好きです。 手品をするのも好きですが、手品で驚かされ るのも好きなのです。  マリックさんも同じことを言っていました。  手品師になろうと思う人は、大体子どもの時 に父親とか手品売場の人に手品を見せられてい ます。  「ウワー、凄い。自分もこんなのやりたい」と いうことで、手品の世界に入ってくるのです。  私か作家になったのも、子どもの時に本を読 んで、「ウワツ、こんな凄い仕事があるんだ。 自分もなりたい」と思ったからです。  大を驚かせるためには、まずは人の演出に驚 くことです。  世の中には驚く大が少ないのです。  マリックさんは、いろんな手品のタネを持っ ていて、それを誰に見せるかでアレンジしてい ます。  出演者の名前を全員スラスラ言えるように、 経歴も全部調べています。  相手を徹底的に研究して、相手に合わせた演 出をするのです。  お笑いの世界に入る人は、大体子どもの時に お笑いの友だちがいる人です。  漫才コンビではありませんが、2人組でお笑 いをし合いながら、2人で切磋琢磨して伸びて いくのです。  私は子どもの時からモノマネが好きでした。  学校時代はモノマネを一緒にやる友達がいて、 お互いにモノマネを競い合っていたから伸びた のです。  サプライズも、驚かし合いをする友達を1人 持っておくことです。  2人で伸びていくのです。          ここ一番で魅力的になる小さな工夫          21 驚かし合い仲間をつく ろう。 22 ほめられたネクタイを、 プレゼントする人が、 プレゼントされる。 女性書出版の達人・楼井秀勲さんの会で、楼 井さんが自分の似顔絵が描かれているネクタイ をしていました。  「それ、オシヤレですね」とほめると、楼井さ んはすっとはずして、  「あげる」  「エツ、いいんですか」  「もう1本あるから」  「2本しかないのに1本もらっていいんです か」  と、私にそのネクタイをくれたのです。  表の大剣に楼井さんの似顔絵が描かれていて、 めくると小剣に「あなたとつながりたい」と書 いてあるのです。  「これ、美人の前で活躍しているんだな」と、 想像するだけで楽しくなります。  その後、楼井さんの会がある時に、いただい たネクタイをして行きました。  それも、「今日してきました」と、すぐ見え るようにはしません。  ベストの中に仕込んでおいて、いざ何かの話 の流れの中で「実は……」と出します。  これも演出です。  最初から見せると、演出としてはあまり面白 くありません。  何かの話の流れの中で、終わり際にさらりと 出すのです。  同じものでも、最初からではなく、途中で、 さも偶然であるかのように出せることが大切で す。  時々、最後まで忘れていて、帰り際に「あ、 これ見せるの忘れてた」という時もあります。  これはこれで演出になります。  ある船上パーティーに行った時、コシノジユ ンコさんにシャンパングラスを渡したら、「気 がきくよね」と喜んでくれました。  船に乗る時間になり、「揺れますから、グラ スを預かりましよう」と言って、私はグラスに ついた水滴を拭こうとしてジュンコさんがデザ インした(ンカチを出しました。  別にジュンコさんの(ンカチでなくてもいい わけです。  そこで、ジュンコさんが「あ、それ、見たこ とあるわ」と、ちゃんと気づいてくれたのです。  最初から「「ンカチ使っていますよ」ではな く、何かを拭く時にさりげなく出すのが演出の コツです。  使うかどうかわからなくても、手品師と同じ ようにいろいろ仕込んでおくのです。  私は手品が好きです。  小細工は手品と同じです。  手品師の服の中には無限の仕込みが入ってい ます。  手品師の人は、会うと手品をしてくれるので す。  私は、マリックさんの通信講座も習っていま した。  実際にマリックさんのお手伝いをして、ドキ ドキした経験もあります。  ある手品師の師匠に、「手品をする時のコツ はなんですか」と聞きました。  「それは、『やるよ』と言わないでやること。 終わった時に、さらりとしていること」と教え てくれました。  「どうだ!」と、あからさまにするのはNGで す。  手品師の人とI緒にごはんを食べていると、 「さっきから僕、気になっているんだけど、不 思議な胡椒があるな。これは魔法の胡椒です よ」と言って、突然その胡椒をお皿にかけまし た。  すると、お皿がす1つと動いたのです。  私か「ウワーツ」と驚いていると、手品師の 人に「まあ、こんな感じ」と、さらつと言われ ました。  レストランの人も見て、「ウワーツ」と驚い ていました。  宙に浮いたりしなくても、お皿が少し動くだ けで、「エツ、今動いたよ!・」とシロウトには インパクトがあります。  さりげなさが、演出のコツなのです。         ここ一番で魅力的になる小さな工夫         22         会う時は、こっそり仕         込んで行こう。 `j `ノー 見えない工夫で、 世界観をつくる。  芝居は、画面に映らないところまでどぅ工夫 するかが演出です。  たとえば、主人公のかたせ梨乃さんがマン ションの管理人さんで事件を解決するというド ラマがあります。  事件が解決した後、かたせ梨乃さんが「もう 引っ越そうか」と言った時に、「今度、引越し てきました○○です」と私か来て、「あ、やっ ぱりこのマンションの管理人を続けよう」と言 い、子どもがにっこり笑うというのが最後の シーンです。  私のセリフはひと言だけです。  その時、メイクさんと相談して、「二枚目役 は難しいよね。アイスピックみたいなもの、な いかな」と探して、アイスピックをポケットに 入れた少し危ないヤツという設定にしました。  話がわからなくなるのでカメラには映らない ようにします。  それでも、私の心持ちが違います。  アイスピックを忍ばせて、さわやかな男を演 じたのです。  NHKのドラマ「ひまわり」では、(ロー ワークの職員の役で、松嶋菜々子さんが(ロー ワークに来るという設定でした。  一九五〇年代の映画に、男性がジャケットを 脱いできれいに裏返して畳んで引き出しにしま うというシーンがありました。  私は、まじめで凄いかたい男を演じるために、 そのシーンをマネしました。  カメラにひとつも映っていなくてもいいので す。  使われるかどうかは関係なしに、役柄の世界 観をつくるのは日本人の美意識です。  ゲームの中には世界観があります。  世界観があって、キャラクターが出てくるの です。  これは西洋にはない考え方です。  日本人はまず世界観をつくります。 それこそが演出なのです。        ここ一番で魅力的になる小さな工夫        23        見えない部分の工夫を 24 ムダな準備が、 演出できない演出を生む。 ムダを覚悟で、驚かせる 小細工をする。  私は、『月刊ザーホテル』で「大人のホテル」 という連載をしていた時に、高橋ひとみさんと 囗光に行きました。  これは、女優さんと2泊3囗で全国の一流ホ テルをまわるという企画です。  日光東照宮に行って、おみくじをひくと 「『小細工するな』と書いてあります」と、ひと みちゃんがかわりに読んでくれました。  それは、「でも、中谷彰宏から小細工をとっ たら何か残るの」という疑問になりました。  演出は、小細工なのです。  小細工を自分で楽しみ、人を喜ばせることを 楽しんでいくことです。  仕事でホテルに行く機会が多いと、「中谷さ んは、仕事で来る時とプライベートで女性とホ テルに来る時と、どっちか大変ですか」と、ホ テルマンに聞かれたことがあります。  その時、私は「仕事は一生懸命やっても、た かが知れている。プライベートの方がはるかに 大変」と答えます。  たとえば、プライベートで2泊3囗の旅行に 行きます。  ホテルマンとの打ち合わせは綿密です。  「あそこはこうして、お昼はここで食べて、こ の階段の踊り場にテーブルを置いて食事を運ぶ ことはできますか」とか、「通常レストランで ないところで食事したりできないですか」とい う相談をします。  そうすると、ホテルマンは、その後のアイデ アに使えます。  ほかにも「ここで花を持ってきてもらって」 と、最低でも10個のプロジェクトを考えます。  あまりにも複雑なことをしているので、全部 がうまくいくわけではありません。  10個用意して、5つぐらいは不発です。  「おかしいな。ここで花が来るはずなんだけど な。まあ、いいか。ほかにも作戦は立てている し」という時もあります。  複雑なことをしているから、花束が別の時間 に届くのです。  そうすると、私もビックリします。  予期せぬところで来るからそれが大ヒットに なるのです。  私も相手も構えていないから、本当のサプラ イズです。  私にとってもサプライズになっています。  予定通りいかないことが、もっと大きな効果 を生むのです。  時には、花火が上がったりします。  そうすると、「これも中谷さんね」となるわ けです。  それはよその人が上げた花火です。  ドンピシヤで目の前に満月が来ることもあり ます。  「これもやったわね」と言われても、月までは 動かせません。  いろいろなことをしていると、想定外のこと まで全部、「これも準備してくれたんだな」と 思われます。  中にはムダになる準備もあります。  ムダになることを恐れないで小細工すること が一流の演出力になるのです。          ここ一番で魅力的になる小さな工夫          4          小細工を楽しもう。 25 ホワイトボードの位置を、 黙々と準備する人に人は 集まる。 あるビジネススクールで合宿セミナーがあり ました。  いくつも分科会が分かれていて、私の一番初 期の『達人シリーズ』の本をつくっていた藤原 和博さんも講師で来ていました。  ちょうど私と同じ時間だったので、挨拶に行 くと、聴講者がポツポツ人ってきている中で、 藤原さんは1人で一生懸命ホワイトボードを直 していました。  ホワイトボードの位置は重要です。  落語でも、座布団が少し曲かつていたり、敷 物が少しでも折れていたりすると、聞いている 人はそれが気になって集中できないのです。  どうしたら聞いている人が快適に過ごせるか が演出です。  私は講演に行くと、まずは控室ではなく会場 に入ります。  会場の一番前と一番後ろの両端に座って、ど ういうアングルで立てばどう見えるか、ホワイ トボードは見えやすいか、細かくチェックをし ています。  ある時、桂米團治師匠から「明日、朝から中 谷塾で先生の話を聞きに行きます」という留守 番電話が人つていました。  私か部屋でホワイトボードとか、つい立ての セッテイングをしていると、米團治師匠が生徒 より早く来てくれました。  たまたまその日は、いつもと違う細長い部屋 でした。  あまりにも細長いと、声の返りが逃げてしま います。  正面につい立てを置くと、自分の声が当たっ て返ってくるので話しやすいのです。  米團治師匠も話す仕事なので、それをわかっ ています。  一緒に「この辺でいいんじやないですか」と いうことで、手伝ってくれたのです。  演出は、臨機応変もさることながら、どれだ け準備をゴツゴツしているかです。  そしてその準備をいかに見せないかが大切で す。  コシノジユンコさんが「おもてなしというの は、表にはなしにすることだ」と言っていまし た。  お寿司屋さんは、どれだけ準備していても、 「こんなに準備しました」「1週間寝かせてまし た」ということは一々言いません。  あたかも何もしていないかのように出すので す。  これがおもてなしです。  演出は、準備が勝負なのです。         ここ一番で魅力的になる小さな工夫 準備しよう。 6 `ノー 出会いを演出する人が、 出会う。  パーティーで一番大切なのは、席順です。  上下関係をどぅするかという会議的な問題で はなく、実際は誰と誰を隣り合わせると一番盛 り上がるかを考えます。  知り合い同士を固めてしまうと、つまらない からです。  「この人とこの人はたぶん初対面で、隣や向か い合わせにしたら、化学反応が起こって、きっ と面白くなるだろうな」という基準にします。  コシノジュンコさんのパーティーに呼んでも らうと、面白い人と隣り合わせてくれて、大体、 その後、おつき合いすることになるのです。  なんとなく席が決まるのではありません。  「Aさんは来られなくなって、Bさんは来られ るようになった」という時は、またIから シャッフルし直します。  「ご自由にどうぞ」で、席を決めないことです。  誰と誰がどこに座るのかを常に計算して席を 決めるのです。  私は、高校時代に席がえ係をしていました。  本来、席がえ係などありません。  毎月、席がえをして、「前がいい」「後ろがい い」「○○の横にしてくれ」というみんなの オーダーを聞く係をしました。  その延長線上で、修学旅行の部屋割り係、移 動する電車の席割り係もしました。  盛り上がるかどうかは、席の演出ひとつで決 まるのです。 ここ一番で魅力的になる小さな工夫 26 出会いを演出する席を 配置しよう。 一″ パーティーでは、 自分のテーブルを 快適にする人に人が集ま る。  パーティーに行くと、私はスナックの息子と してテーブルをいかに快適な環境にするかを考 えます。  着席ビュッフェで知らない人と同席した時は、 「知らない人に話しかけるのが一番うまいAさ んがそれぞれを紹介し合う係をやってください。 BさんとCさんは料理をとりに行く係、僕と君 はお皿を下げる係だね」と役割分担をします。  お皿を下げる係もいるのです。  テーブルに、あいたお皿やグラスが残ってい るのは快適ではありません。  スナックのテーブル管理で大切なことは、あ いたお皿やグラス、吸い殼が1本でもある灰皿 を下げることです。  どんなパーティーでも、ひとかけのピザが 残った大きいお皿があったり、濡れた跡がある のは快適ではありません。  大体、私とゲイのオネエさんがテーブルを拭 いている係です。  いらないグラスやあいたお皿を並べないよう に協力してくれる人がいるとうれしくなります。  時々、「私、大丈夫です」と言って、なかな か協力してくれない人がいます。  「そこに食べかけのものがずっと残っている じやない」と言っても、「これはまだ食べます ので」と言われます。  「それはこの場として美しくない」ということ に早く気づくことです。  パーティーでの演出は、たまたま同席した テーブルを「この会で一番楽しいテーブルだ な」と、まわりからうらやましがられるぐらい 快適な環境にすることなのです。         ここ一番で魅力的になる小さな工夫         27         自分のテーブルを、快         適にしよう。 28 知らない部署の人と座れ る人が、 愛される。 研修に行くと、その会社が盛り上かつている かどうかは一目でわかります。  盛り上かつていない会社は部署ごとに固まっ ています。  たとえば、航空会社は8つの部署があります。  8つの部署ごとに全部分かれているのです。  ホテルも、フロントーベル・厨房・(ウス キーピング、それぞれの担当ごとにユニフォー ムがあります。  部署ごとの指定席かと思うぐらい、ぴっちり 分かれていると、「縦割りになっているな。こ の会社はコミュニケーションがよくないぞ」と いう空気を感じます。  そこで、「この人は見どころがある」「この人 がチームを活性化させていくだろう」と感じる 人は、違う部署の中にポツンとまじっている人 です。  研修は、ふだん話せない別の部署の人だちと 話せるいい機会です。  組織が見事に活性化している会社は、違う部 署の人だちとコミュニケーションがよくとれて います。  社員食堂でも、常に同じ部署同士、同じ派閥 の仲間とばかり食べていると、その部署がどん どんタコつぼ化して、コミュニケーションの風 通しが悪くなります。  新幹線の車内清掃をする会社は、座席指定で 昼食を食べます。  それは、毎日ランダムに席を入れかえるため です。  そうすると、知らなかった人と相席になって、 やがて全員と話せるようになります。  ランダムな席も演出のひとつなのです。          ここ一番で魅力的になる小さな工夫          知らない部署の人と座 ろう。 9 `ノー 協力できる人が、助けて もらえる。  面白かったら笑うけど、面白くなかったら笑 わないという人は、協力者になってぃません。  人を輝かせるためには、協力することが大切 です。  ビンゴで一番つまらないのは、「私、いいで す」と言って、ビンゴカードを人にあげる人で す。  「こんなのどうたっていい」とばかりに、机の 上に置きっぱなしにする人もいます。  そこで協力できる人は、ひとつ目のボールの ナンバーを言った時に、ウソでも「ビンゴ」と 言ってくれます。  「あっ、まだたった」とジョークを言って、み んなを笑わせます。  とりあえずカードの真ん中の数字を破って、 会に参加しようとするのです。  景品が欲しいわけではありません。   一緒にゲームを盛り上げる出演者の気持ちで いるのです。  そういう人は、司会者から見るとよくわかり ます。  その人がいてくれると、ポンドに助かるので す。  私はサラリーマン時代、毎年忘年会のオーク ションの司会をしていました。  金田さんという先輩がいて、オークションを いつも盛り上げてくれるのです。  オークションでは、誰も手が挙からないこと があります。  最低2人が競り合ってくれないと盛り上がら ないのです。  大切なのは、金額が上がることではなく、盛 り上がることです。  金田さんは、誰も手が挙がらないと、自分で 金額を上げてしまいます。  「金田さん、自分で上げてるし」「あっ、そう か?」というオトボヶをしてくれるのです。 「ここではこうした方が盛り上がるな。司会が 困っているから助けてやろう」と考える遊び心 が演出です。         ここ一番で魅力的になる小さな工夫         29         協力者になろう。 0 `j 紹介される人より、 紹介する人が覚えられる。  パーティーに行くと、しきりに誰かに紹介し てもらいたがる人がいます。 「自分から挨拶に行ったら負け」と、つぃ勝負 を持ち込んでしまうのです。  紹介される大よりは、紹介してまわっている 人の方が、きちんと輝くことができます。  コシノジュンコさんのパーティーには世界中 の多彩な大たちが来ます。  それを秘書の竹田さんが紹介してくれます。  その紹介している竹田さんが一番カッコいい のです。  パーティーでデーブースベクターさんに、 「中谷さん、あそこにいる美女を知っています か。紹介しましよう」と言って連れてきてくれ ました。  「どうも初めまして。こちら中谷さん。僕、 デーブースベクター」と言うので、おかしいな と思ったら、テープさんはその女性に「あなた 誰ですか」と聞いたのです。  「エツ、テープさんも知らない人だったの」と、 ビックリしました。  知らない人でも紹介しようとする姿勢がカッ コいいのです。  紹介されるのを待っている人は壁の花になり ます。  「向こうから挨拶してくるのを待つ方が勝て る」という思い込みが、オシヤレではないので す。 ここ一番で魅力的になる小さな工夫 30 知らない人でも、紹介 31 落として、上げる人が好 かれる。 「落として上げる」が演出としては大切です。  最初からほめると、あまり盛り上がらないの です。  いったん落として上げるという落差をつける ことが一番効果的です。  高田純次さんは、この達人です。  「きれいですねえ。オレ、目悪いんだ」と、ほ めます。  これは「上げて落とす」という逆技です。  以前、柿澤弘治さんの励ます会に出席すると、 会報に購入申込用紙が入っていました。  その時に、後援会長である元東急エージェン シーの前野徹さんが「質問!」と手を挙げて、 「先生、月2万は高くないですか」と言いまし た。  私か「後援会長が高いと言ったらヤバくない ですか。みんなが高いと思っちやうから」と 思っていると、秘書の人から「前野さん、年で す」というフォローが入りました。  すると、前野さんは「エツ、最近、目が悪く なってきちやって」と、眼鏡をわざわざかけて 「年2万? 柿澤さん、安すぎるよ」と言った のです。  その時は「さすが東急エージェンシーの会長、 やるな」と感心しました。  この落差を使うというのが、ひとつの見事な 芸です。  みんなも笑っていました。  演出は、みんなが共犯者です。  みんながわかっていて、それを楽しめるとい う共犯関係になれるのです。  演劇も同じです。  演者と観客が共犯関係になっていけるのが楽 しい舞台です。  ドリフの後ろにお化けが出てきて、「後ろ、 お化け、お化け!・」と言ったり、みんなが 「シーツ」となるところは、観客との共犯関係 です。  まわりの人と一番仲よくなれるのが、共犯関 係なのです。          ここ一番で魅力的になる小さな工夫          31          落として、上げよう。 32 わざと、録音をしないこ とで、 リラックスしてもらう。 フランスの二枚目俳優ヴアンサンーペレーズ のインタビューする機会がありました。  カトリーヌードヌーヴに大抜擢されて、28歳 で映画『インドシナ』に出て、「カトリーヌー ドヌーヴの恋人だ」と言われた二枚目俳優です。  日本でその映画が公開される時に、16社が彼 にインタビューをしました。  私は16番目で、彼はもうヘトヘトです。  質問は大体同じものばかりです。  その時、私か「これが最後です。お疲れで しょう。映画の話はいいですわ。彼女の話でも しようか。彼女、どんな人?」と言った瞬間、 彼はほっとした様子でした。  映画の話は15社にして飽きていたのです。  「僕の彼女はチョーかわいいんだよ。店に入っ てくると、みんなが振り向くんだよ」と、素敵 な彼女の自慢を始めました。  私か「エーツ、それは凄いな」と言うと、彼 は「レコーダーをまわさないの?」と聞きまし た。  インタビュアーはみんな「録音いいですか」 とレコーダーをまわすからです。  「君はなんでレコーダーをまわさないのか」と 聞かれた時、私は「大丈夫です。全部、頭の中 に入るから」と答えました。  実際は、レコーダーを忘れたのです。  それが功を奏しました。  レコーダーがまわっていないので、オフレコ の話をたくさんしてくれました。  私はレコーダーを持っていく時、早めに取材 を終えて「ありがとうございました。凄くいい 話をお伺いできまして」と、レコーダーを目の 前でわざとパチツととめます。  そこからいい話がとれるのです。  その内容は頭で覚えます。  原稿で使うのは、ほぼレコーダーをとめてか らの話です。  レコーダーがまわっている間の話は、よそで もよく話していたり、資料原稿にも出ているも のばかりです。  それを書くのはライターとしては最低なので、 レコーダーをわざととめて、よそにしていない ような話を聞くのです。  TV番組では、私は打ち合わせの段階からカ メラをまわしておきます。  本番よりその話の方が面白いのです。  よく「これ、まわしておけばよかったな」と 言う人がいます。  私は、本番前と本番後の話が猛烈に面白いと わかっているので、本番以外も全部まわしてお きます。  これが演出です。  そのためにダミーのレコーダーやカメラをと めます。  オフレコにすることによって相手はリラック スして、面白い話が出てくるのです。          ここ一番で魅力的になる小さな工夫          ほかの人がしているこ とをしない。 33 フレンドリーに話し始め、 語尾が丁寧になることで 品がある。 中谷塾の遠足塾は、文化的なところをいろい ろ訪ねるという企画です。  遠足塾で、芦屋にあるコシノヒロコ姉ちゃん が昔住んでいた家を訪問しました。  そこは今、ギャラリーになっています。  ご本人がいるわけではありません。  世界中を飛びまわっています。  当日、本人が来てくれたのです。  ご本人は「たまたまいたから」と言っていま したが、わざわざ来てくれたのです。  いきなりの本人登場で、塾生のみんなは緊張 してしまいました。  みんな大人なので、ヒロコ姉ちゃんの凄さが わかっているだけに、固まってしまったのです。  それに対して、その緊張をほぐすために、ヒ ロコ姉ちゃんはフレンドリーに岸和田のノリで みんなに話しかけました。  ヒロコ姉ちゃんはフレンドリーでありながら、 晶があるのです。  言葉の初めをフレンドリー、最後を丁寧にす ると、フレンドリーで晶のある展開になります。  最初から丁寧な言葉では、緊張します。  最後までフレンドリーでは、あまりにもカ ジュアルすぎて晶がなくなります。  「フレンドリー」と「晶」は両立できます。  ひとっの文章で、主語が頭に来て述語が後ろ に来る時に、前のトーンと後ろのトーンをミッ クスできるところが日本語のいいところです。  同じ品でも、冷たく感じる品もあります。  フレンドリーでも品のあることが、相手のた めの演出なのです。  品は、伝染します。  1人が、品を落とすことで、全体の品が落ち ます。  1人が品を上げることで、全体の人が上がり ます。  品のある人とは、全体の品を上げることがで きる人です。  オネエキャラの人で、辛口の人が愛されるの は、辛口だけど、品があるからなのです。           ここ一番で魅力的になる小さな工夫           「j           「j           フレンドリーな品を持 と・つ。 4 `j 目立つことをするより、 共感力を持つ。  ネット社会では、他者承認で自分を大きく見 せよう、目立とう、「いいね!」を集めようと すると、逆にムリが来ます。  より大きく見せようとしていることまでバレ てしまうのがネット社会です。  私は、デカ目アプリもヘンに感じます。  もともとの目の大きさでいいと思うからです。  デカ目にして、あごを小さくすると、人間の 顔のバランスが崩れます。  私は絵を描くので、デカ目アプリは目の位置 がズレて違和感があるのです。  あごを小さくしてもかわいくなるとは限りま せん。  美容整形の専門家も「もとの方がいい」と、 みんな言っています。  柴犬の目が大きくなると、柴犬ではなくなり ます。  柴犬は、目が少し小さいところがかわいいの です。  柴犬の目を大きくする人は、本当に柴犬を好 きではないということがなんとなくわかります。  私は柴犬の写真集が好きです。  デカ目の処理はしなくていいです。  一番の演出は、目が小さいなら「それもいい よね」と引き立てることです。  「ツーショットで撮っていいですか。フェイス ブックに上げていいですか」と言われた時に、 快諾したら、私の顔にもデカ目・小あご処理が されていました。  その写真を見ると、自分がマンガのような顔 になっていて不思議でした。  結局、演出は多様性をより極めることが大切 なのです。  みんなが「いい」と言う方へ寄せていくこと ではありません。  「小さいものは小さくていいよね」「気が弱い こともいいよね」と、その人の個性をより立た せていくことが演出です。  ネットは多様性を認めていくものであったに もかかわらず、それをそぎとって、同じ方向の 盛り方をする大がいます。  アクセサリーでも、時計が好きな大は時計が 目立たないようにします。  そうしないと、時計と比べて本人がしょぼく 見えるからです。  「いい時計のわりには、している人がしょぼい な」となると、オシヤレではありません。  どこがオシヤレかわからないけれども、全体 にオシヤレというのが一番いいのです。  そのためには、どこかが目立つということは 避けるのがコツです。  究極の演出は、何もしていないように見える ことです。   いかに目立つところを削っていくかというの がオシャレなやり方です。  オシャレな人は、シャツを黒にして、ひげを のばして、サングラスをかけてみるというおか しげな格好はしません。  「結婚相談所で結婚がなかなかできない」「お 見合いがまとまらない」と言う人ほど、お見合 いの席にその格好で来てしまうのです。  目立つことをするより普通でいいのです。  実際は、オーソドックスで普通のものが最終 的に一番目立ちます。  今は特にネット社会なので演出力が大切です。          ここ一番で魅力的になる小さな工夫          共感力を持とう。 一5 `j 最初に笑う人が、優しく される。  会社の研修で社長が、「一番後ろに座ってい る」より「一番前に座っている」方が、和みま す。  マーケッターの谷口正和さん主催で、いろん な講師を呼ぶ勉強会があります。  谷口正和さんは、講演者が何かジョークを言 うと、一番最初に笑ってくれます。  面白くなくても、「これは笑わねば」という ところで、笑えるのです。  アメリカ人は、よく面白くないジョークで 笑っています。  アメリカのジョークのレベルが低いわけでは ありません。  あれはマナーです。  相手がジョークで笑わせようとしていると気 づいたら、笑ってあげます。  それで相手との距離が縮まって、空気が和み ます。  ジョークは、話し手と聞き手との共同作業で す。  聞き手が、いい間で笑うことによって、その ジョークが面白くなるのです。         ここ一番で魅力的になる小さな工夫         35         大声で、笑おう。 6 `j 明るい挨拶ができる人が、 覚えられる。  話し方で一番大切なのは、挨拶が明るいこと です。  私か聞いた最高の挨拶が、山東昭子さんです。  私かある会で司会をしている時、山東昭子さ んが来てくださいました。  その時、「皆さん、明けましておめでとうご ざいます」と新年の挨拶をされたのです。  山東さんほど明るい「明けましておめでと う」は聞いたことがありません。  現役のアナウンサーでもマネできないぐらい、 山東昭子さんの素敵な人柄があらわれていたの です。  私はH年間、信越放送ラジオで朝の番組を担 当しています。  そこで心がけていることは、「おはようござ います」を明るく言うことです。  挨拶のトーン次第で聞いている人の気分が全 部変わるからです。  今日1日、「このラジオを聞いていてよかっ たな」と思ってもらえるように、私は「おはよ うございます。中谷彰宏です」と、明るく挨拶 するのです。  私か出演しているTOKYOMXの『モー ニングCROSS』は、エンディングで宮瀬茉 祐子さんが「行つてらつしやい」と、ひと言言 います。  私は、このセリフにはかぶらないようにして います。  視聴者は、宮瀬さんの「行つてらつしやい」 を楽しみにしているのです。  「行ってらっしやい」と言ってもらえない人が たくさんいます。  1人暮らしならともかく、宗族と暮らしてい ても「行ってらっしやい」を言われない人が、 このひと言で、その囗も楽しく仕事ができるか らです。  宮瀬さんの「行ってらっしやい」は、聞いて いる人を明るくさせるのです。  「明けましておめでとうございます」は、一番 明るい言葉です。  「明けましておめでとうございます」という言 葉のトーンで、「おはようございます」「こんに ちは」「こんばんは」「行ってらっしやい」「た だいま」「お帰りなさい」という言葉を言えば いいのです。  同じ文言でも、どういうメロディーをのせる かで、気分が明るくなるかどうかの分かれ目に なります。  「おはようございます」が明るく言えると、そ の後の「中谷彰宏です」も明るいトーンで言え ます。  早口言葉で滑舌をよくするより、滑舌がどん なに悪くても明るく挨拶することが大切なので す。          ここ一番で魅力的になる小さな工夫 36 ふだんの挨拶を、新年 の挨拶のように明るく しよう。 7 `j 誰がスタッフか、 わからない写真が楽しい。  旅の達人・高萩徳宗さんは、障害のある人も 旅行に連れていくベルテンポートラベルーアン ドコンサルタンツという旅行会社を運営してい ます。  障害がなくても利用できますが、障害のある 人を断らないという旅行会社です。  ベルテンポの旅行の集合写真を見ると、誰が お客様で、誰がスタッフかがわかりません。  これが正しいのです。  通常、福祉サービスで旅行すると、この人は ボランティア、この人は患者さんと、くっきり わかります。  それでは楽しくありません。  私かそれを学んだのは、実家のスナックです。  実家のスナックは、一見、誰がお客様で誰が マスターかがわかりません。  マイクを持って放さないのがマスターで、カ ウンターの中でグラスを洗っているのがお客様 です。  この状況が楽しいのです。  今から思えば、私の父親がカラオケが好きで マイクを放さなかっだのは、お客様にあえてそ ういう状況を楽しんでもらいたいという演出 だったのです。  マイクを持って放さないわりには、「あそこ で注文とらなくちやいけない」「こことここは ケンカしてるぞ」という状況は全部把握してい ました。  誰がどんな役か、一見してわからない、実は 思ったのと真逆になっているという状態をつく れるのが一流の演出なのです。         ここ一番で魅力的になる小さな工夫         37         誰がスタッフか、わか         らない写真を撮ろう。 38 写真で、 頭を押さえられている社 長と、 押さえている社員が伸び る。  特に会社の中での写真がつまらないものにな るのは、上下関係があって気を使うからです。  誰が社長、部長、課長というのは、写真を見 るだけでわかります。  外資系の会社の写真は、誰が上か下かまった くわかりません。  年齢も上下バラバラに写っています。  アメリカのI丁の大企業の写真では、頭を押 さえられて顔が半分しか写っていないのがCE Oという場合もあります。  頭を押さえているのが若造の新入社員です。  日本なら左遷モノです。  その1枚の写真で、「この会社はのびのびし ているんだな」とわかるのです。  この演出でうまいのは、まず頭を押さえられ て二コニコ笑っている社長と、その社長を押さ えている新入社員です。  社長は中心ではなく、半分しか写っていない 状態で撮影しているのがカメラマンの演出です。  写真には、矢印で「CEO」「新人」と書か れています。  演出力は、1人では成り立ちません。  みんなのチームワークとしてひとつの演出が あって、その写真をリクルーティングの会社案 内に使えるわけです。  「うちの会社は自由な社風」といくら書いても、 グーで握りしめている写真では、自由な雰囲気 は伝わらないのです。          ここ一番で魅力的になる小さな工夫          「j 写真は、前に寄って密 着させよう。 9 `j 席は男女交互が、女性が 引き立つ。  パーティーの写真を撮る時、放っておくと、 片列男性、片列女性という集団お見合いのよう な写真になってしまいます。  特に女性がオシヤレをしている時は、男性は タキシードや燕尾服を着ています。  男性の黒い服は女性を際立たせる額縁です。  男性が間に挟まることで、女性の衣装がきれ いに見えます。  写真を撮る時だけでなく、テーブルでも、男 女が隣り合わせているのが一番オシヤレな座り 方です。  ともすれば、男性同士、女性同士が固まって 話が盛り上がりがちです。  それでは2つのグループに割れてしまい、 まったく面白いテーブルになりません。  結婚式などで、「お写真を撮りましよう」と テーブルで撮影する時は、男性は立つことです。  男性が座ったままでいると、引きの絵で顔が 小さく写ります。  男性が女性の後ろ側に立つと、みんなが寄っ た状態で和やかな写真になります。  写真を撮る時は、さっと男性が立って、女性 の後ろ側にまわるというフットワークが必要で す。  結果として、後で写真を見た時に「この人、 素敵」と、女性を立てる演出力が魅力的な印象 になるのです。         ここ一番で魅力的になる小さな工夫 39 女性のために、正装し 40 写真を撮る時、 女性を真ん中にできる男 性ヵ 愛される。  写真を撮る時、男性が前に来て、女性は遠慮 して後ろに行ってしまいがちです。  まず遠慮している女性を前にして、男性は外 を取り囲んだ方がオシヤレで、仲のいい優しい 写真になります。  男性は「オレがオレが」で前に出るのではな く、「女性が真ん中に来て。僕たちは外にまわ ろう」という形をつくることです。  どんなチームでも、女性をどれだけ大切にす るかが勝負です。  女性を中心にした写真を撮れると、活性化し ているチームになります。  活性化させるには、チームを演出していく力 が必要です。  ホテルのブライダル写真で「総支配人はオッ サンだな」と思うのは、新郎がセンターになっ ている場合です。  新郎がカメラ目線で、新婦が新郎を見ている のです。  一流の演出力のない写真です。  新婦が中心で、ウェディングドレスを後ろの 階段になびかせて、新郎は新婦を見ているとい う写真がベストです。  センターのピントは新婦に合わせます。  結婚式場が流行っているかどうかの分かれ目 は、集団写真1枚を見れば一発でわかるのです。          ここ一番で魅力的になる小さな工夫          4          女性を中央にしよう。 41  「端っこの人、入ってま せんよ」と、 カメラマンが、前に寄る。 今はこれだけ写真を撮る機会が増えています。  どこに行っても白撮りをしている人がいます。  写真の撮られ方は、大昔から変わっていませ ん。  集合写真を撮ると、みんな横一列に並んで、 手をヒザに置いてグーで握りしめています。  これは江戸時代の写真です。  幕末に写真が囗本に入ってきた時に、どうし て写真の撮られ方は輸入されなかったのだろう と思います。  私はCMの写真をクリエイティブする仕事を していました。  写真の撮り方で損している人が多いのです。  グループやツーショットで写真を撮る時は、 その写真が仲よさそうで楽しそうに見えること が大切です。  講演が終わって写真を撮る時も、みんなが グーで撮ると楽しそうな写真に見えないのです。  君島(当時、吉川)+和子さんと2人芝居を やった時に、芝居が終わった後の楽屋に大阪か ら私の父親と妹が来ました。  十和子さんは、父親の肩にふっと手をかけて 写真を撮りました。  ここにサービス精神を感じます。  「十和子さんは優しい大なんだな。それが魅力 なんだな」ということがわかったのです。  魅力的な写真は、大と人がくっついています。  横一列に並んで手をグーにしていると、ヒジ とヒジが離れて、人と人との間に距離ができま す。  それでは仲のよさは出ません。  ほとんどの写真は、自分で感じているより距 離がスカスカにあいています。  合成したかのように、休んだ人を張りつけた ような絵になるのです。  自分が写真を撮られる場合は、できるだけ人 とくっつくようにします。  撮る側になった時は、後ろに下からないこと です、  今立っているところから撮ろうとすると、フ レームからはみ出ています。  その時に、自分は動かないで、「端っこの人、 人ってませんよ」と言ってくっつけるのが演出 です。  「人ってません」と言われると、みんな必死で ギューギュー詰めてくるのです。  主役の大をセンターに置きたいのに、左右が 不均等なことがあります。  多いところから少ないところにまわれる大が、 演出力のある大です。  いい写真は写る人の顔が大きいのです。  つまらない写真は、エッフェル塔が大きくて、 大がポツンと小さいのです。  撮りたいものは、後ろの建物ではありません。  そこにいる自分です。  みんなが自撮りをしたがるのは、自分の顔が 大きく写るからです。  くっつくといっても、顔だけくっつくと気持 ち悪いです。  胸をくっつけるという感覚でいると、いい写 真になるのです。 ここ一番で魅力的になる小さな工夫 41 写真は、くっつくこと で、仲のよさを出そう。  幻」  リスペクトを持てる人が、  リスペクトされる。  三ツ星レストランや一流ホテルに行く時は、 誰でもきちんとした格好で行きます。  もつと大切なのは、B級グルメのレストラン に行く時も、きちんとした服を着て行くことで す。  それは料理をつくってくれる人に対するリス ペクトです。  せっかくおいしい(ンバーグ、おいしいオム ライスをつくってくれているのです。  たい焼を買いに行く時にちゃんとした格好を して行ったからといって、浮くことはないので す。  よく「TPOに合わせて」と言われます。  たい焼ならこの格好でいい、オムライスなら この格好でいいというのは、リスペクトの考え 方からはズレています。  B級グルメの時ほど、きちんと正装して行く ことが演出で大切なのです。          ここ一番で魅力的になる小さな工夫          `。乙          4 B級グルメのレストラ ンに、正装して行こう。 `j 4 リズムをつくるのが、演 出だ。  演出は、リズムが大切です。  リズム感のある人は演出がうまいのです。  リズム感とは、間があるということです。  打っている時ではなく、休んでいる時が勝負 です。  「落差がある」ということです。  たとえば、ホテルで窓からの景色が売りの部 屋がありました。  それをホテルマンが「どうです。凄いでしょ う」と言って見せても、感動はありません。  最初はカーテンを閉めておいて、お客様を部 屋に案内した時に、ベルマンがカーテンをさっ とあけて見せることで感動するのです。  テーマパークでも、そういう見せ方をしてい ます。  たとえば、(ワードーヒューズの飛行機の テーマパークでは、超大型スプルースーグース が生まれるまでの映像が写されます。  映像がちょうど終わったところで、スクリー ンがサーツとあくと、ホンモノのスプルース・ ダースが後ろに置いてあるのです。  そうした落差感をいかに見せるかが演出です。  「凄いよ、凄いよ」と言っても、凄さは出ませ ん。  映像で大きさを見せる時は、タバコの箱など 比較するモノを置いておきます。  それがないと、そのモノの大きさはわからな いのです。  映画『スター・ウォーズ』では、大きな宇宙 船が、より巨大な宇宙船に吸い込まれていく映 像を見せています。  そうすることで、宇宙船の大きさを見せてい るのです。  演出で失敗する人は、大きいモノだけで大き さを見せようとしています。  人間のキャラクターも、「私はこんなに凄い」 と自慢している人は、あまり凄さを感じません。  その人の気の小ささを見せることで、「こん な気の小さい大が、こんな大きいことをやって いる」という落差感で、「この大は凄い」と感 動できるのです。           ここ一番で魅力的になる小さな工夫           『j           4           落差をつくろう。 44 場を盛り上げる人が求め られる。 ありもののBGMより、 自分で曲を選ぶことで、 場の空気が変わる。  現代は、いくらでも音楽を持ち歩ける時代で す。  それなのに、講演に行くと、結婚式で流れる ようなクラシックなど、いわゆるホテルの会場 が持っているBGMが常に流れています。  私か、「好きなのかけようよ。なんでこの 曲?」と言うと、  「今、この曲しかないので」  「スマホに好きな曲、人っているだろう。スマ ホを音響設備につなげて流せばいいよ」  「え、いいんですか」  というやりとりになるのです。  人間は、無音の場所と音楽のある場所がある と、「何か音が鳴ってるな」と、足が勝手に音 楽のある方へ向かいます。  音楽によって、その人のテンションはまった く変わります。  今日の会をどんな気分でみんなに味わっても らいたいかは、音楽を選曲した人間の気持ちが 入るわけです。  どんなところでも、「ここにはどんなBGM が一番いいだろうか」と常に考えることが大切 です。  私は、モンキー・パンチさんのお葬式に行き ました。  小学校5年生の時、TVで『ルパン三世』に 出会って、「将来はルパン三世になろう」と 思っていた白分か、まさかモンキー・パンチさ んのお葬式に行くなんてと感慨無量でした。  「うわあ、お葬式で『ルパン三世』の曲が流れ てる。まさかこんな状況で聞くとは。今、僕は お話の中に入っているのか」と思いながら、い よいよ献花の段階になりました。  『ルパン三世』ですから、通常は白い花ですが、 赤い花を献花します。  「ここでは『カリオストロの城』のエンディン グで流れる『炎のたからもの』がいいな」と 思っていると、違う曲が流れました。  「銭形警部がカップラーメンをすすっている時 の、この曲じゃないんだよ」と思いながら、私 の番がまわってきた瞬間、心の中で(ミングし ていた「炎のたからもの」にポンと切りかわっ たのです。  「うわ、ここまでサービスしてくれるか」と 思って鳥肌が立ちました。  それぐらい、どんな場面にもそこにピッタリ なBGMがあるのです。  朝ごはんを食べる時に流れてほしい曲もあり ます。  朝ごはんに合う曲と晩ごはんに合う曲は違い ます。  演出力のある人は、自分の生活に音楽があり ます。  ふだんから、「今この状況だったらどんな音 楽かな」と選べることが演出なのです。          ここ一番で魅力的になる小さな工夫          4          4 自分のスマホのお気に 入り曲を選ぼう。 45 ムダなコメントをしない で、 テンポを上げる司会が際 立つ。  私が司会をする時に気をつけていることは、 自分のコメントをクタクタ言わないで、とにか くテンポを上げることです。  司会をする時に、自分を出そうとする人は、 自分のコメントをどんどん挟み込んでしまうの です。  私は同期の結婚式の司会をたくさん経験しま した。  そこで学んだことは、とにかく式場の人は時 間どおり終わってほしいことです。  次の会場の回転があるからです。  来ている人も、「あっという間に終わったね」 という印象が一番いいのです。  司会をする時は、いかに早く終わらせるかを 考えることです。  演出では、話の長い大をいかに早く終わらせ るかが勝負です。  これは、自分ではないから難しいのです。  詰めていくコツは、1人の来賓の挨拶が終わ ると「ありがとうございました」と言って、そ の大がまだ壇上にいる間に「続きまして」と言 うことです。  そうしないと、なかなか壇上からおりてくれ ないのです。  「続きまして」を早く言わないと、次の人がも う1杯飲んで、テーブルのまわりの人に挨拶を して出てくるまでの尺がかかります。  「続きまして、○○様にご挨拶をお願いいたし ます。○○様、どうぞ」と言うと、次の人が慌 てて登壇します。  ここで時間が詰まっていくのです。  できるだけ最初の人に挨拶を短くしてもらう ように、新郎新婦からも頼んでおいてもらいま す。  最初の人が短いと、それが基準になります。  「短いながらも素晴らしいですね」と、短さを ほめて、深層心理で「速いのがいいんだぞ」と アピールして、どんどん巻いて、時間通りピッ タリ終わらせます。  途中で、「私も今の話で思い出したことがあ りまして」というヘンなコメントを挟む司会者 はNGです。  司会者は、何か自分の色を出さなければと思 いがちです。  自分のコメントを入れないことが一番いい色 になります。  頑張りすぎなくていいのです。  自分の欲を抑えて、全体のトーンを考えます。  最後には、「今日この会を支えてくださった ホテルの皆さんにどうぞ拍手をお願いします」 と、ホテルの人も立てます。  この場でみんなが忘れている存在の人も紹介 して、どんどんアップテンポにすることが大切 なのです。          ここ一番で魅力的になる小さな工夫          4          自分のコメントより、 テンポを優先しよう。 6 4 演説より、雑談する人が 聞かれる。  自分をいいように見てもらおうと思う人は、 つぃ演説をしがちです。  オヤジが好きなのが演説です。  スピーチ・名刺交換・会議は、オヤジの三大 好物です。  演説は、みんなから「また演説が始まつ ちやつたよ」と思われて、意外にその人が輝き ません。  説教の大がかりなものが演説だからです。  演説よりも輝く人は、雑談が面白い人です。  長谷部誠選手が日本代表のキャプテンの時、 試合開始前に必ず審判と話していました。  事前の雑談が、後で微妙な判定になった時に 役立つのです。  食レポの達人・ホンジャマカの石塚さんが食 レポする時は、事前に必ず1回、商店街を歩い て現場のオバチヤンと仲よくなっています。  これは、ヤラセではありません。  ヤラセは、ないことをするものです。  事前に和んでおいて、初めて行ったようにオ バチヤンと和んで話せるというのは、石塚さん の優しい演出です。  シロウトのオバチヤンは緊張します。  事前に石塚さんが温めておくと、話しやすい 空気ができ上がっていて、番組が楽しく収録で きます。  先に雑談をしてリラックス感を生み出してい るのです。  前説は、若手芸人がする仕事です。  鶴瓶さんは自分で前説をします。  私も講演に行くと、自分で前説をします。  時には、先に始めようとすると、とめられる こともあります。  「中谷さん、入場曲のここで出るような大がか りなダンドリをしているので、先に出ていると 値打ちがないですから」と言われると、できま せん。  「前説、いいですね。面白いですね」と、のつ てくれる人が、どちらかというと私は好きです。  私か前説をすると、すでに会場に来ている人 はビックリされます。  時間通り来た人も「もう始まつてるぞ」と ビックリするので、「まだ始まつてないですか らね」と説明をします。  中には、1時間前から来ている人がいます。  その人たちに「本編が始まる前に早く来てい てよかった」とお得感を味わってほしいのです。  時間どおり来た人には、何ごともなかったか のように「初めまして」と始めると、早く来た 人はお得感があります。  お得感を味わってもらうことが演出になるの です。  遅れている人を、待ってあげることも、優し さです。  遅れている人のために、早くから来ている大 を待たせるのは、優しさではありません。  早く来た大には、早く来た分のお得をプレゼ ントするのが、優しさです。  公式なものより、非公式なもののほうが、お 得です。  本番の話が公式なら、雑談は「ここだけの」 非公式な話です。  雑談は、最高のプレゼントになるのです。 DVDに人つている特典映像になるのです。        ここ一番で魅力的になる小さな工夫        46        先に、雑談しておこう。 47 ステージで、 動かないで立つ人が注目 される。 ステージ上で目立とうとして、つい「オレは こんなに動ける」とばかり動きまわる人がいま す。  ダンスや立ちまわりがうまいことをアピール するのです。  劇団☆新感線の古田新太さんは、立ちまわり もうまいのです。  中でもズバ抜けて輝いているのは、じつとし ている瞬間です。  ほかの人が演技している時に、それを邪魔し ないでじっとしている古田新太さんが一番目立 つのです。  立ちまわりをした後は、普通は息が切れて( ア(アしています。  それを少しも見せないで、針に糸を通して縫 物をするような細かいしぐさをするのです。  『題名のない音楽会』で、石丸幹二さんが司会 をされています。  やっぱり石丸さんはステージの人だとわかる のは、石丸さんは動かないためです。  人間は緊張するとグラグラします。  スティーブージョブズは、いつも歩きながら 話しています。  自分の意思で歩くのと、よろけて動いている のとでは、全然違うのです。  特に、音楽のコンサートホールは天井が高く て空間が立派です。  その中でまっすぐ立てる人は目立つのです。  ボールルームダンスの世界でも、ダンスパー ティーを競技と間違っている人がいます。  目立とうとして、プンプン動いています。  うまいところを見せたいのでしょうが、それ は「ミズスマシ」と呼ばれる状態で、かえって 目立だないのです。  本当にうまい人は、真ん中の30センチの円盤 状の中でずっと揺れています。  足も動いていません。  それが結果として一番目立つのです。  人形浄瑠璃に「クドキ」という場面がありま す。  恋愛で口説くことではありません。  浄瑠璃用語では、「自分の心情を吐露する」 ことです。  クドキをする時は、ほかの人形は動いてはい けないというルールがあります。  目立とう目立とうとして動きまわるより、み んながワサワサ動いている時は、動かないこと の方が目立つし、輝くのです。         ここ一番で魅力的になる小さな工夫         47         ほかの人が動いている         時は、動かない。 00 4 短くほめる人が、ほめら れる。 「自慢」の逆は「ほめる」です。  自分をほめるのが「自慢」で、相手をほめる のが本当の「ほめる」です。  結果として、ほめられる人より、相手をほめ ている人が輝きます。  自慢しているうちは、輝きません。  ほめる時のコツは、リアリティーです。  短くほめるのが、一番リアリティーがありま す。  リアリティーのないほめ方は、長いほめ方で す。  長くほめられると、「ムリからにつくつてい るでしょう」「頭の中で今考えながら言ってい るでしょう」と、感じます。  本当においしい時は「おいしい」しか言いま せん。  手品を見て驚いた時は、「ウワツ」しか出な いのです。  たかの友梨さんのイベントで司会をしたこと があります。  たかの友梨さんが入ってきた時、「中谷さん、 速くていい」と、ひと言でほめられました。  それは、私もうれしかったです。  経営者はスピーディーなので、テンポを大切 にします。  私はとにかくテンポを上げて、みんながだれ ないように気をつけました。  そもそも演出では盛り上げる台本ができ上 かつていたので、その演出を壊さないようにテ ンポをキープすることを考えたのです。  長い文章でも、いかにノンブレスで読むかが 勝負です。  それでみんなのリズム感を8ビートから16 ビートにすることが話し手として求められてい るのです。  「今日はありがとう。忙しいのにね」より「速 くていい」の方が、一番こだわっている演出を 見抜いてくれている短いほめ方なのです。 ここ一番で魅力的になる小さな工夫 感謝より、ほめよう。 49 語尾に「ね」が入ること で、 優しくなる。 共感する人が、愛される。  演出力で一番大切なのは、仕切ることではな く、いかに共感するかです。  予備校の先生は、生徒がどこを理解していな いのか気づく必要があります。  数学も、中身を理解し、どれだけうまく説明 するかは重要ではありません。  どんなにうまく説明できても、聞いている人 が理解できなければ意味がないからです。  理解していない人は「わからない」とは言い ません。  わかっているフリをします。  だからこそ、相手が理解していないことを感 じ取る力が役に立つのです。  講演をする時は、ホワイトボードー・客席9 の割合でセンサーを張ります。  これが人に向かって話すコツです。  「今、この人はわからないのに、わかっている フリをしている」と気づくのは、ある種の共感 性です。  正解がわかっているのに、わざと間違える優 等生もいます。  気を使ってくれているのです。  それにも気づいてあげることです。  勉強ができる子は、「ここで正解を言ったら 先生に悪いだろうから」と、わざとボヶます。  そこで先生は「わかってないのかな」と思わ ないことです。  演出力のある人は、「この子は、正解がわ かっているのにわざとボヶているんだな」と気 づきます。  私は高校時代、美術の土井先生に「おまえ、 手を抜かないで一生懸命描けよ」と言われまし た。  私は父親に絵を習っていました。  土井先生は、私か絵を描けることを見抜いて いたのです。 「早くソフトボールをしに行きたいから、手を 抜いている」という私の心理も見抜かれました。  「おまえは、描けば描けるのに」と見抜いてく れていることは、凄い安心感になります。  展覧会の時には、「今は絵よりも文章に興味 がいっている」と見抜いて、「おまえ、展覧会 の思いの丈を書け」と、言ってくれました。  なんとなく共感性があることが一番の安心材 料になるのです。  「ね」は、共感性のある言葉です。  「ね」を使えるかどうかで、演出力があるかど うかが分かれます。  たとえば、人に対してほめる時に、「おいし いよ」と言うのは評価です。  「おいしいね」が共感です。  これを言える人と言えない人とで大きく分か れます。  演出は、1文字で差がつくのです。  たとえば、プレゼントをもらいました。  「うれしいよ」と言うと、上から目線を感じま す。  「うれしいね」と言う人は、共感性があります。  「ありがとう」に「ね」がつくだけで、優しい 印象になります。  「楽しいよ」より、「楽しいね」は、相手との 時間を共有しています。  だんだんオヤジになってくると、「ね」が 減って「よ」になります。  「うれしいね」「楽しいね」「ありかたいね」 「おいしいね」と言うことで、その場にいる人 と一緒に喜びをかみしめたり、楽しみを味わう ことができるのです。           ここ一番で魅力的になる小さな工夫           4           「うれしいよ」を「う れしいね」と言おう。 章四心一こ 濃むを J匹に鄒才」しご  ↓小」        。 る す 夫 工 0 ・‥`″ 臨機応変を、楽しむ。  舞台の本番では、ダンドリ通りいかないこと がたくさんあります。  それもありで、「だったらどぅする?」と、 追い詰められて考えることの方が楽しいのです。  これは千利休の考え方です。  私は、堺出身で千利休のDNAです。  千利休の実家は、それほどお金持ちではあり ません。  魚問屋です。  千利休の時代にも、ほかにもっといい器を 持っている代々の名家はあります。  中には、中国から入ってきた唐物という立派 な茶器を持っている家もあります。  千利休の家には、代々伝わっているものがあ りません。  そこで千利休はひねって、魚をとるためのえ さかごや、ひびが入っている竹をポンと切って 花生けにしました。  田の字に切れている松花堂弁当の箱は、種入 れをヒントにしたものです。  そもそも農家の人が種を分けて、田の字に仕 切った箱に入れていたのです。  松花堂昭乗がそれを持ってきて、「これをお 弁当箱にすると面白いね」と考えました。  今、われわれが何げなしに松花堂弁当で使っ ている箱も、もともとは農機具を転用したもの なのです。  あり合わせで楽しむということが臨機応変で す。  コシノジユンコさんがミャンマーでファッ ションショーをした時は、停電が頻発しました。  停電でも全然平気でショーを続行しました。  音楽がとまれば手拍子をして、ライトが消え たら照明はカメラマンのフラッシュだけという 状況です。  そうなると、見ている人は「これは演出なん だな」と思います。  あり合わせのものでも、見ている人がそのア クシデントに気づかないことが大切なのです。  ダンスの発表会では、1曲の前提が3分です。  当日、私は力が入ってしまい、途中で、いつ もの決められている振りよりも大きくまわり、 1分ぐらい先のところへ飛んでしまいました。  その間に1分の振りがあります。  私はすぐに気づかず、「ホテルのアンプは練 習場と違って遅いな」と考えていました。  時間が余ったことで、「これ、飛んだな」と 感じて、一緒に踊っている女性の先生に「好き に踊っていいですか」と聞くと、先生が「いい よ」と言ってくれました。  その状況で踊ったことは、今でも記憶に凄く 残っています。   事前に決められたことをするより、「この 先生に習ったことを全部ためしてみよう」と 踊ったことが、より大きな思い出になったので す。 ここ一番で魅力的になる小さな工夫 50 追い詰められて、楽し 1 ・‥`″ 自分が先に、笑う。  「自分が先に笑ったら負け」という思い込みが あります。  カメラマンが「笑ってください」と言うと、 失敗しやすいのです。  上手なカメラマンは、撮られる側が勝手に 笑っています。  それはカメラマンが先に笑っているからです。  人間にはミラー効果があります。  相手が笑っていると、自分も笑ってしまうの です。  「笑ってください」と言われた瞬間、意識して 笑おうとします。  結果、どう笑えばいいかわからなくなって、 ひきつっだ笑いになるのです。  写真を撮るのが苦手な人は、「「イ、笑って ください」「もっと笑ってください」「顔がかた いですよ」と言ってしまいます。  そんなことを意識したら笑えなくなるのです。  私はドラマでお笑いのカリスマ役を演じたこ とがあります。  市民会館を借りて、客席に人に入ってもらっ て、私か何か言って客席の笑いをとる場面でし た。  ドラマなので、切り返して撮ります。  私か何も言わない状態で、客席側か笑わない といけないのです。  そこで刑事役の左とん平さんが笑ってくれま した。  とん平さんが1人笑うことで、みんなも笑う し、私まで笑ってしまいました。  左とん平さんの笑いに巻き込まれていくので す。  人間は、面白いことに笑うというより、笑い 声に笑っています。  「きっと楽しいことがあるに違いない」と思う だけで笑えるのです。  笑っていると、どんどん笑えてくる状況にな ります。  いい笑い方ができる人が1人いるかどうかで す。  この時も、「用意、3、2、1、スタート、 ハイ」で、左とん平さんが笑ってくれたのです  上平ドンベイちゃんは、今はもう50歳を過ぎ ています。  28歳で役者デビューをしたころは、Vシネマ で私の弟分役をしていました。  時々来るドンベイちゃんからの留守番電話は、 笑い声しか入っていません。  この笑い声だけでドンベイちゃんからかかっ てきたことがわかります。  留守番電話は、ともすれば声が暗くなります。  留守電話で1分笑えるのは、特技です。  それだけで人を(ツピーにできるのです。  笑い声には個人差があります。  感じのいい笑い方もあれば、ムリに笑ってい る笑い方もあります。  笑いのお手本を持っておくことです。  私の中では、左とん平さんです。  笑いは、ジワツときたり、はじけるような感 じが大切です。  人を笑わせようとするよりも、自分が一番に 笑って、まわりの笑いを巻き込んでいく方がい いのです。          ここ一番で魅力的になる小さな工夫          1          厂D 笑わせるのではなく、 自分が笑おう。 52 笑う人が、笑わせる人を 輝かせる。 笑う人が、笑わせる人よ 惹かれる。  デーブースベクターさんは、まじめで一生懸 命な人です。  いまだに毎日新しい日本語を覚えています。  日本人より、はるかに日本語が上手です。  ジョークも家で準備してきます。  テープさんのジョークはアメリカンジョーク なので、囗本のジョークと違うアングルなので す。  アメリカンジョークは笑わないスタイルです。  テープさんはもともとプロデューサーで、囗 本の番組を買いに来た人です。  囗本のTVに出るようになってから、「囗本 のジョークは笑いながらやった方がいいです よ」とアドバイスされたそうです。  それでもテープさんはアメリカンジョークの スタイルを続けています。  それができるのは、テープさんが何を言おう が、奥さんの京子さんが笑ってくれるからです。  夫婦なので死ぬほど聞いているジョークでも、 「最高に面白い」と笑ってくれるのです。  面白いから笑うのではありません。  笑うから面白くなるのです。  人を笑わせようとすると、どうしてもオヤジ ギャグになってドン引きされます。  人が言ったことに笑ってあげることで、その 人自身が輝くのです。  笑わせる側にまわるのではなく、いかに笑う 側にまわるかです。  笑う人がいることで、笑わせている人がより 輝くことができます。  このいい循環に入るのです。  これが演出なのです。  おじさんも、人を笑わせるのが好きです。  他の人が、笑いを取ると、ムツとします。  白分か、目立だなくなってしまうように感じ てしまうからです。  白分か笑わないで、人を笑わせようとしても、 笑ってもらえません。  受けないので、ますます、他人の話に笑わな くなるという負のスパイラルになってしまいま す。  他の人の話に笑える大に、余裕を感じるので す。          ここ一番で魅力的になる小さな工夫          どんな話にも、楽しそ          うに笑おう。 53 空腹を満たすためだけで はなく、 おいしく味つけし、 楽しく盛りつけする。  洋服で、「そんなカッコつけなくてもいいん じやないの?」という人がいます。  食べ物も「別におなかが膨らめばいいんです よ」と言う人がいます。  安くて満腹になるランチを食べているサラ リーマンは多いです。  これを続けていると、オヤジになっていくの です。  同じ食べ物をどうおいしく「味つけ」できる か、どう楽しく「盛りつけ」できるかを考える ことで料理は生まれました。  そこに自己表現があるわけです。  家で食べる時は、大体ごほんの上からカレー をかけます。  お店では、カレーをごはんの横にかけます。  親が出かけている時、私は妹に、ごはんをお 皿の片方へ寄せて、その横にカレーをかけて出 しました。  すると、妹が「お店みたい」と言ったのです。  そう言われて、私は「もっと工夫してやろ う」という気持ちが湧きました。  「ただ食べられればいい」「ただカロリーをと れればいい」「ただ寒さをしのげればいい」で はなく、「少しおいしい味つけ」「少し楽しい盛 りつけ」をすることです。  この少しの違いが、自己表現の大きな分かれ 目になるのです。  服装は、いい格好をすることではなく、自分 を表現することが演出です。  みんなと同じを目指す必要はありません。  「こうすると嫌われない」とか「『あいつ、 カッコつけてる』と言われないように」「自意 識過剰と言われないように」と意識するより、 何かを表現することを考えます。  「自分はこういうふうにしたい」「ちよつとこ こをこうしたらオシヤレ」と、工夫する表現欲 が演出につながるのです。  ビュッフェに行くと、いろいろなところに食 材が並んでいます。  たいていの人がひとつのコーナーでそのお皿 の盛りつけを完結します。  私は、しゃぶしゃぶのお肉があると、「あそ こにある大根おろしを載せたい」と思います。  大根おろしは別のコーナーにあります。  その大根おろしをとりに行っていると、料理 人のシェフが見ていて「その手もありですね」 と言われたりします。  ヨーグルトをとる時も、そのコーナーだけで 終わらせないことです。  「あっちにあるブルーベリーを載せたいな」 「ここに字を書いて女のコに持っていったら楽 しいかな」と、離れたところにあるモノを組み 合わせることが演出なのです。          ここ一番で魅力的になる小さな工夫          「j          服装を、自己表現にし よう。 54 使っていないものを、 使う人が求められる。  料理は、自己表現です。  料理は、ただおなかが膨らめばいいと考えて するものではありません。  家でも、料理の自己演出で特に差がつくのは、 あり合わせのものでつくれるかどうかです。  あり合わせのもので料理できる人が一番凄い のです。  「この料理をつくるために、スーパーで食材を 買ってくる」というのは、料理としてまだ入門 編です。  それは誰にでもできます。  現代は、ネットで調べればレシピができ上 かつています。  冷蔵庫にあるものは、たいてい残り物です。  何かをつくった時に半分残ったり、4分の1 残ったり、かけらが少し残ってしまった食材の 在庫処分として何かつくれるかというのが演出 です。  あり合わせの残り物を使ってどうするかを考 えるのが「ブリコラージュ」というフランスの 考え方です。  あり合わせなので、よけいに想像を超えたも のができ上がります。  レシピに従って必要なものを買ってくると、 ダンドリ通りに完成します。  CMの演出では、台本通り撮るのは簡単なこ とです。  プロが集まっているので、Iテイクで撮れて しまいます。  それでも、CMは四アイク撮ります。  2ティク目から頑張るのは、この場でしかで きないことです。  IティクでOKになると、私は「ここで帰っ てしまうと、凄くサボつてる感があるので、少 し遊んでこういうのをしてみませんか」と出演 者に言います。  その時、「私、こういうのをしたら面白いと 思うけど」という提案が出演者から出たら、 「いいね、それやってみよう」と、ムチヤク チヤほめまくります。  CMの世界は「いいね!」しかないのです。  そうすると、「それ、できるんだったら……」 と、新しいアイデアが出てくるので、台本では 想像できなかったアクシデントやアドリブ込み のものをつくります。  スポンサー試写の時は、台本通りのものとア ドリブでできたものの2本を見せて、プレゼン の仕方を工夫して、最終的にアドリブのものを オンエアします。  アドリブ的なものは、台本以上のものができ 上がります。  それはスタッフがプロだからです。  世の中で話題になっているCMは、ほとんど NGギリギリのアドリブです。  「よくこれ、台本でできたね」と思うのは間違 いです。  台本ではできないものばかりです。  私が演出をする時に心がけているのは、「天 気待ち」をしないことです。  雨なら雨で撮ります。  「それだと、絵が後の場面とつながりません」 と言われても、「雨だって急にやむことはある でしょう。だから、その方がリアルだよ」と、 雨のまま撮影します。  その時々の状況を、「これは神様がくれたア ドバイス」と考えることです。  スタッフは、「雨降ってますけど、どうしま す?」と必ず監督に聞きます。  その時は「これ、困つたな」と考えるより、 「これを狙いでいこう」と、その雨を生かせば いいのです。         ここ一番で魅力的になる小さな工夫 54 あり合わせで料理をつ 55 自分の意見より、 決定した意見に従う人が 抜擢される。 会議などでは、どうしても自分の意見を通し たくなります。  自分の意見を頑として主張することが演出で はありません。  ある審査会で、審査員同士で意見が割れまし た。  多数決では、自分か推した人が入らないこと はよくあります。  ある女性の審査員が「私か推している人がな んで人つてないんですか」と、文句を言いまし た。  もう1人の審査員が、「言わせてもらえば、 私の勧めた大も大っていない。今それを言っ ちやダメでしょう」と言いました。  その大は企業の社長さんです。  決まった後の講評で、女性審査員の大は「私 か推した大は大っていない。ちょっと納得いき ません」と言いました。  次は社長さんの審査員が言う番です。  私は、その社長さんが「私だって入ってな い」と言うだろうと想定して、それを調整する ための意見を頭の中で用意していました。  ところが、その社長さんは「みんなで忖度な しに意見をぶつけ合いました。この決定は非常 に納得です」と言ったのです。  ここで「納得いかない」と言うと、見ている 人がこの会全体の審査を納得できなくなります。  大切なのは納得できることです。  私か審査会に呼ばれるのは、もめた時の調整 役を期待されているからです。  軍隊の中で、AにするかBにするかで意見が 分かれることがあります。  最後は一階級でも上の役職の人の意見で決ま ります。  これは会社の論理と同じです。  多数決では、議論がいつまでたっても納得で きません。  多数決で決まっても、最後まで少数派の「で も」が残ります。  軍隊式のやり方は、自分はBたったとしても、 階級がたった1個上の上司がAと言ったら、A を成功させるために動きます。  これが潔いのです。  「リーダーは、自分と反対意見でも、一度決 まった決定には合わせられるのだな」と感心し これが演出ということなのです。        ここ一番で魅力的になる小さな工夫        55        決定意見に、従おう。 6 ・‥`″ 話す人より、 聞く人が聞いてもらえる。  京大の火山学の権威の鎌田浩毅教授が、私の 講演を聞きに来てくれました。  私は先生に喜んでもらおうと思って、ウヶ狙 いで笑いをとりにいって盛り上げていました。  一番前に座っていた先生は、二コリともしま せん。  「しまった。笑いをとろうとして逆に怒らせ ちやったかな。後でI緒にごはんを食べる時に 謝ろう」と思いました。  鎌田先生は、話の中身より話し方を研究して いたのです。  研究者として、研究するだけではなく、火山 とか地震の危険性を広報する仕事を自分のミッ ションとしているのです。  私から大への伝え方を持ち帰ろうとしていた ので、聞く時も真剣です。  ホワイトボードには、後で質問したい人のた めに私のアドレスがあらかじめ書かれています。  講演の途中でホワイトボードを使う時に、 「これは消して大丈夫ですか。オッ、誰が書い たんだ? いい字だな」と言いながらアドレス を消しました。  私としては、何げなしにしていることです。  鎌田先生は「あれにやられました。あの時、 みんなが『この人の話を聞こう』と思ったと思 います」と言うのです。  ただの連絡事項でも、いい字はいい字です。  私は字が好きなので、消す前に「消すのが もったいないな」「もうちょっと端っこに書こ うかな」と、一瞬味わってしまうのです。  この時に輝いているのは、話している私より、 聞いている鎌田先生です。  白分か輝きたいと思う人は、つい話そう話そ うとしてしまいます。  いい聞き方は、相手のどこが素晴らしいかを 見つける聞き方です。  ダメなところを見つけても輝かないのです。  聞いている側の方が輝いています。  二コニコ笑って聞くだけではなく、真剣に聞 くこともひとつの立派な聞き方です。          ここ一番で魅力的になる小さな工夫          にJ          話し方の素晴らしいと          ころを見よう。 57 単調な鳴き声の動物は、 モテない。 演出は、退屈からの脱却 だ。  動物も、虫や鳥なども、鳴き声が単調な動物 はモテないそうです。  人間も、単調では退屈で、楽しくありません。  異性に一番モテる人は、楽しそうな人です。 「楽しそうであること」が演出なのです。 「楽しませること」ではありません。  演出の感覚として、楽しませようとすればす るほど、本人に悲壮感が出てきます。  本人が楽しんでいると、結果として、動物七 人間もモテるのです。  単調でないのは、メリハリがあるということ です。  「後でこういうのを見せたいから、最初はこう しよう」という演出は、天然ではなく計算がい るのです。  稲川淳二さんの怪談は、最初は三人称でゆっ くり話しています。  途中から、知らないうちに一人称に変わり、 話し方が速くなります。  ゆっくり話しているものがだんだん速くなっ てくると、聞き手は集中力が増します。  集中して緊張させる状態にするという演出で、 怖い世界に引っ張っていかれるのです。  中谷塾の遠足塾で、東京ステーションギャラ リーと東京ステーションホテルに行きました。  東京ステーションギャラリーに行った後、東 京ステーションホテルのマネジャーの岡泉幹雄 さんに、ホテルを案内してもらいました。  すると、いつもより説明の声が小さいのです。  お客様が宿泊されているから、うるさくしな いようにしているのだと考えました。  東京ステーションホテルの売りは、駅のそば なのに静かなことです。  近所の大企業の会長さんが、静けさの中で ぐっすり眠りたいと泊まるぐらいのホテルです。  宿泊者だけが入れる上層階のレストランにも 行きました。  そこには、東京ステーションギャラリーと同 じ、100年以上前のレンガがあります。  この時に岡泉さんが「今、皆さんが見ている レンガは、ギャラリーではさわったらダメで しょう。ここはホテルです。さわってくださ い!・」と、突然、大きな声で言っだので、みん ながビックリしました。  このひと言のために、岡泉さんは今まで小さ い声で話していたのです。  これがメリ(リという演出です。  演出は、その場その場で考えるだけではあり ません。  先まで考えた上で逆算していくのです。  誕生日のサプライズパーテイーで大切なこと は、本番までむしろ冷たくしていることです。  誕生日のことなんか忘れていると思わせるの です。  いい人は、この演出ができません。  「いい人」イコール「演出力がある」ではない のです。  サッカーのように少しずる賢い計算が、結果 として相手を喜ばせます。  いい人だからといって、必ず相手を幸せにす るわけではないのです。          ここ一番で魅力的になる小さな工夫          r’J          ここ一番のために、小 さい声で話そう。 58おわりに 自分の欲より、 友達を優先する人が浮か び上がる。 私か子どものころ、5人の友達でアイスク リームを食べようとなった時、A君が「僕、お なかいっぱいだからいらない」と言いました。  それを聞いた私も「じやあ、僕もいいや」と 言って、3人だけがアイスクリームを食べまし た。  その話は母親も知っていました。  本当は私はアイスクリームを食べたかったの です。  A君は、おなかいっぱいだからではなく、お 金がなかったのです。  「僕、お金ないから食べられない」とは、子ど もでもプライドがあるので言えません。  それに気づいた私か一緒に食べなかったこと に対して、「その気持ちを忘れちやいけないよ」 と、母親にほめられた時はうれしかったです。  これが後の演出にもつなかつています。  「目立ちたい」、「大きく見せたい」という気持 ちが先行するのは、カッコいいことではありま せん。  大勢の中で生活するためには、かわいそうな 人をつくったり、悲しませるようなことはしな いと考えることです。  とぼけて「僕も、さっき食べたからいいや」 と言えることが大切なのです。  ベースは「私か、私か」ではなく、今、隣に いる友達が「お金がない」と言えないことに気 づいてあげる共感性を持つことです。  本人が共感性を感じている時は、まわりの人 たちも気づきます。  私の母親が気づいたように、まわりの思いや りに気づいてあげられるベースは共感力なので す。   自己演出力とは、いかに自分の欲望を抑え ることができるかです。  この本に登場していただいた人に、共通して いることは、ストイックであるということです。  自己演出力とは、他者演出力です。  他者演出力とは、「気配り」です。  「気配り」ができることが、自己演出力なので す。          ここ一番で魅力的になる小さな工夫 58 自分の欲より、友達を 優先しよう。