稼ぎ方20_村上臣 はじめに  y誰もが「パラレルキャリア」が必要な時   代  「日本企業の部長クラスの年収は、タイよりも 低い」  経済産業省が2022年5月に発表した「未 来人材ビジョン」という報告書が衝撃的な事実 を明らかにし、各メディアを賑わせました。  「日本が過去20年、給与が上がっていないこ と」、しかも「主要先進国の中で唯一日本だけ が上がっていないこと」は、皆さんすでにご存 知のことかと思います。  しかし、それでも心のどこかでは、「日本は 先進国だ」と信じ、我々を取り巻く現状があた かも普通のことだと思っている人が大半でしょ  そんな日本人に「日本企業の本当の”ヤバ さ乙を指摘したのが「未来人材ビジョン」で した。日本は「アメリカや中国に負けている」 などというレベルではなく、これまで後進国だ と思っていた「東南アジアにも負けている」。  このような例は枚挙にいとまがなく、例えば これまで日本に出稼ぎに来ていたベトナム人な どの外国人労働者が、今となっては日本では稼 げなくなってしまったため、本国に出戻る例が 後を絶たないのです。「自国のほうがまだ稼げ る」ということです。  安いニッポンー。  これはもはや現実のものとなっており、今後 日本で収入を上げていくためには(もっという と、下げないようにするためには)、これまで の「1度に1社だけに勤める」という「20世紀 的キャリア観」自体を根本的に改めなければな りません。  たとえあなたが会社員であっても、1社に勤 めながら同時に別キャリアを複数作る。そうし て「パラレルキャリア」を築くことにより、複 数の収入源を確保しなければ、ジリ貧となって しまう時代がもう来ているのです。  y わかってはいるけど、パラレルキャリア   などできない「2つの原因」  こんにちは、村上臣です。私は2022年3 月までリンクトインージャパンの代表をしてい ました。  リンクトインというと、まだ日本では詳しく は知らない人もいるかもしれませんが、グロー バルでは200以上の国々、計8億7500万 人超(2023年1月現在)が利用しているビ ジネス特化型SNSです。「世界人口白書 2021」によると、世界の総人口は78億 7500万人ですから、ざっと世界の10人に1 人は使っています。  海外では例えば展示会などに行って名刺を渡 しても捨てられてしまうくらいで、ではどうす るかというと、その場でリンクトイン上でつな がって、その後のビジネスのやり取りをするの がスタンダードです。「リンクトインに最新の レジュメ(履歴書)が載っていないことは、社 会人ではない」といえるくらいで、だからこそ、 大学によっては一般教養の課程で「リンクトイ ンの使い方」が授業にもなっています。  つまり、その日本のトップを務めていたとい うことは、「世界の働き方の潮流」のデータが 私のもとに集まっていたということです。本書 では、この膨大なデータを踏まえ、皆さんに 「稼ぎ方の最先端の情報」を届けたいと思いま す。  さて、自己紹介はこれくらいにして、冒頭の 話に戻りましょう。  日本では1社だけでは収入が増えない。だか らこそ、誰もが1社に勤めながらも、同時に別 キャリアを複数作らなければならない時代が来 ている。こう申し上げました。  このことを聞いたあなたは、こんなことを 思ったのではないでしょうか。  「とはいっても、そんなことできたらやってる よ」  そのとおりです。「パラレルキャリアを作り ましょう」などということは、何もいま私がは じめて言い出したことではありません。こうし て最先端の働き方の本を読んでいるあなたでし たら、もう耳にタコができるほど聞かされてい ることでしょう。  ● ● ●  ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ●  ● ● ● ●  問題は、そんなことを言われても、実行にま ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● で移せる人はほとんどいないということです。 なぜでしょうか。大きくは以下の2つの問題が あるからです。   原因@ そもそも「個」で稼げるコンテンツ      なんて「作れない」   原因A 仮にコンテンツがあっても「個」で      は「売れない」  そうです。「別キャリアを作ろう」などと言 われても、誰もそう簡単に売れるものなど個人 で作れないし、仮にあなたが何かを作れたとし ても収入になるほどの金額で売ることなどでき ない。本当にそのとおりなのかは別として、少 なくともあなたはそう思い込んでいるからこそ、 パラレルキャリアを実行しようなどとは思わな いのでしょう。  しかし、それが本当に「思い込み」にすぎな い時代がやってきているといったら、どうで しょうか。  y誰もがパラレルキャリアを築ける”クリ   ェイターエコノミー”の到来  これまでの「別キャリアを作ろう」という キャリア論は、実際には理想論にすぎませんで した。しかし、実は欧米では、この理想が現実 になってきている「現象」が起こっています。  欧米では今、会社員が、勤めている会社とは 別で、個人でもキャリアを作るというブームが 起こっているのです。それを可能にしたのが、 「クリエイターエコノミー」です。  皆さんも近年のNFT熱の高まりで、一度は 聞いたことがあるかもしれません。クリエイ ターエコノミーとは、テクノロジーの発達に よって、クリエイターがものを作ったり、売っ たりする環境が整ってきた現象を指します。  「そんなのクリエイターだけのものでしよ?」 と思われるかもしれませんが、いま欧米で起 こっているのは、実はそういった限定的な現象 ではありません。欧米では、プ囗のクリエイ ターに限らず、一般の会社員が売れるものを作 れるようになっています。そして、作ったもの を十分な収入源として売ることで、パラレル キャリアを実現する人が増えているのです。  つまり、クリエイターエコノミーは、多くの 人がこれまでパラレルキャリアに踏み出せな かった「2つの原因」を見事に解決している潮 流なのです。  では、実際にどのように「作る「Iドル」と 「売る「Iドル」を解消しているのでしょうか。 ここで少しだけ、「クリエイターエコノミー」 を象徴するテクノロジーについて触れておきま しょう(詳しくは第1章でお話しします)。  例えば、「作る「Iドル」を解消するツール の一つが「Midjouヨey(ミッドジャーニー)」 です。ミッドジャーニーは、A−が説明文や キーワードとインターネット上にある絵を結び つけ、画像を生成してくれるサービスです。  簡単にいうと、自分で絵を描かなくても、 「こういう絵を描きたい」というイメージを ちょっとした言葉で伝えると、それに合った絵 が自動で生成される技術です。「絵を描く」と いう技術を持っていない人でも、簡単に「絵」 というコンテンツが作れてしまうのです。  ほかには、文章の自動生成をする 「(1115PT-3(シーピーティーースリー)」という ツールがあり、欲しい文章のタイトルや要約だ けを入力すれば、それに基づいてA−が長文を 作ってくれます。こちらも同じように「文章 力」などなくても、「文章」というコンテンツ が作れてしまいます。  クリエイターエコノミーでは、こういった 「作る技術などなくても高品質のものが作れる」 テクノロジーが次々に出てきているのです。 「とはいえ、仮に作れても、収入源になるよう な値段で売れないでしよ?」と思う方もいるか もしれません。  そんな「売る「Iドル」を解消しているツー ルに、「Fanhouse(ファン(ウス)」というプ ラットフォームがあります。これは個人がコン テンツを有料で提供することを助けるサービス です。買い手に対して、月額課金を取ることも でき、個人が稼ぐことができています。  また、趣味としてやっていたことが、大きな 収入源として売れる例もあります。それが、会 員制のオンラインスクール(講座)を個人が作 れる「7一aven(メイブン)」というプラット フォームです。このサービスによって1対1の オンラインレッスンを開催したり、レッスン動 画や教材などを配信したりできるようになって おり、海外では普通の会社員でも、趣味で培っ た知見を人に教えることで、収入源にしている 人が増えています。  これらはたくさんある例の一部にすぎません が、クリエイターエコノミーではこのようなテ クノロジーが次々に出てきており、多くの人が 「パラレルキャリアを持つのが当たり前」の世 界になってきているのです。  y ”クリエイターエコノミー”時代に活躍   する「稼ぎ方一一一」とは?  「とはいっても、それは海外の潮流であって、 日本には来ないでしよ?」と思う方もいるかも しれません。しかし、過去を遡れば「欧米のテ クノロジー」と「テクノロジーに端を発した新 しい働き方」は確実に日本にも影響を及ぼして きました。  さらに、日本では今後、大企業を中心に副業 解禁の流れが加速すると予測されていますから、 一気にクリエイターエコノミーが活性化すると 考えられます。  本書では、そんな誰もが「個」で稼げる「ク リエイターエコノミー時代」に活躍する最先端 の「稼ぎ方2.0」を提唱したいと思います。従来 の日本人の働き方である「稼ぎ方一一一」と「稼ぎ 方2.0」とを対比する形でまとめたのが次の図表 になります。  詳しい説明は本文に譲りますが、匸言で説明 するなら「クリエイターエコノミー」は「楽し んで働いたもの勝ちの世界」だということです。 なぜなら、個人の提供するものやサービスが売 れるかどうかは、「共感」が重要になってくる からです。  だからこそ、「自分が好きで好きで仕方ない こと」を第二のキャリアに据えるべきです。  そうして、「自己実現」を中心に、「やりたい ことを仕事にする」。それにより皆さんの心に 生まれる「熱狂」こそが、買い手の「共感」を 呼びます。  「遊ぶように働く人」こそが成功する時代。そ れが「クリエイターエコノミー」であり、そん な新時代に適した働き方が「稼ぎ方2.0」なので す。  本書はこの対比図を基に構成しています。  まず序章では、「そもそもなぜ今、パラレル キャリアが必要なのか」、日本社会や企業が置 かれた環境の変化に言及しながら明らかにして いきます。  続く第1章では、「クリエイターエコノミー」 の全容について理解を深めるとともに、「誰も がパラレルキャリアを築ける時代であること」 を、事例を挙げながらお伝えします。  そして、第2章では、クリエイターエコノ ミー時代に求められる「稼ぎ方2.0」とは何か。 なぜ「目的」「考え方」「価値基準」「行動」「人 間関係」の5つの観点において、考えをアップ デートすることが必要なのか、その理由をお伝 えしていきます。  そして、第3章〜第7章では5つの観点のそ れぞれから、クリエイターエコノミー時代に活 躍するために「具体的に皆さんがやるべきこ と」をご提案していきます。  読み進めていただけたら、私が提唱する働き 方が理想論ではないことがわかっていただける でしょう。  変わらないことがリスクの時代。ぜひ本書を 通じて最先端の働き方に触れ、「稼ぎ方2.0」に 一歩足を踏み出してみましょう。  あなたの働き方が変わり、望ましい人生を実 現していただくことを心から願っています。                  村上 臣 安いニッポン  なぜ今、会社の外にもキャリアを持だなけれ ばならないのか。  一つの根本的な理由は、「1社で働いている だけでは給料が増えないから」です。  囗本の平均給与(実質)の推移を見ていくと、 1992年に472・5万円のピークを迎え、 以降は徐々に下かつていることがわかります。  2009年にはリーマンショックの影響で 421・1万円まで下がり、そこから少し持ち 直してはいますが、2018年時点で433・ 3万円。ピーク時から40万円近く下かつていま す。  「失われた30年」という言葉があるように、日 本はバブル崩壊後、現在に至るまで長期的な経 済低迷を続けています。日経平均株価は 1989年に3万8915円の史上最高値をつ けてから、一度も高値を更新していません。  もちろん国もこの状況を黙って見過ごしてい るわけではなく、「生産性を向上させよう」「イ ノベーションが経済成長のカギ」みたいなこと を主張してはいます。  けれども、実際には景気回復に向けた展望は 見えていません。このまま失われた40年、50年 が続く可能性も現実味を帯びています。  皆さんも薄々感じているとは思いますが、こ のまま給料は増えないと考えるのが現実的では ないでしょうか。 日本の平均年収は「シンガポール」 「タイ」より低い卩  そもそも、どうして日本で働く人たちの給料 がずっと上がらないのでしょうか。  原因は諸説あり、簡単に説明することはでき ません。ただ、あえて主な原因を挙げるとする と、第一に日本の国際競争力の低下があります。  かつての日本企業はグローバルな競争で強さ を発揮してきましたが、バブル崩壊以降は徐々 に新興国に追いつかれる状況が目立つようにな りました。  GDPは2011年に中国に抜かれ、一人当 たりGDPも韓国や台湾に追い抜かれようとし ています。  今までは、グローバルで稼いだお金を給料と して従業員に還元していたわけですが、国際競 争力が低下した結果、それができなくなってい るわけです。  このまま国際競争力が低下すれば、給料が増 えないどころか、減る危険性も考えられます。  そして、将来の日本を担う子どもたちを育成 する「教育」の面でも、日本の国際競争力の低 下は如実に表れています。  イギリスの教育専門誌であるタイムズー(イ ヤー・エデュケーション(THE)が世界の大 学の中から104の国と地域の1799校を独 自の基準でランク付けした「世界大学ランキン グ」というものがあります。  この2023年版において、日本からランク インしたのは117校。その中で日本のトップ は東京大学の39位。2021年版の36位、22年 版の35位から順位を下げています。  日本で2番目の京都大学は68位であり、 200位以内に入っているのは、東大と京大の 2校にとどまっています。  ちなみに、ほかに500位台を上回った日本 の大学は、東北大学(201〜250位)、大 阪大学(251位〜300位)、名古屋大学・ 東京工業大学(いずれも301位〜350位) となっています。  200位以内に中国からH校が、韓国から6 校がランクインしているのと比較すると、ずい ぶん寂しい結果です。  そんな日本の国際競争力低下を反映し、今や 日本人の給料よりも、タイやシンガポールと いった東南アジアの国々の給料が高くなってい るという話もあります。  経済産業省によると、日本の大企業の部長職 の平均年収は約1714万円。一見すると高そ うに思えますが、アメリカ(約3399万円)、 シンガポール(約3136万円)、タイ(約 2053万円)と比べると、かなり低い水準で す。  OECDが発表している平均賃金を見ても、 日本は34か国中24位と低迷しています。韓国 (19位)には2013年に抜かれていますし、 ここ数年ではスロベニア、リトアニアといった 中東欧の国々にも抜かれている状況です。  ちなみに、このランキングは円安が加速する 前の2021年時点の為替レートで計算されて おり、現在の為替水準に置き換えると、囗本の 低落傾向は決定的になると見られています。  実際に、囗本の給料が一向に上からないため、 囗本に出稼ぎに来ていた外国人が母国に戻って しまう動きが出てきています。  例えば、日本では近年ベトナム人労働者の数 が急増してきましたが、もはや日本で働く金銭 的なメリットは薄れつつあります。  経済発展が著しいホーチミンや(ノイといっ た大都市では、日本とベトナムで大きな収入の 差はなくなっています。しかも、ベトナムでは これから年10%くらい給料が上かつていくと見 込まれています。  あと10年もすれば両国の給料には決定的な差 がつく可能性が大です。だったら、母国に帰っ て普通に働こうと考えるベトナム人が増えるの は当然の成り行きです。  海外からの出稼ぎが減少するのと対照的に、 「安いニッポン」に見切りをつけて、海外に出 稼ぎに行く人たちも出始めています。  日本では低賃金で働いていた寿司職人や美容 師などが、アメリカやシンガポール、オースト ラリアなどに渡り、収入が数倍になったという 話を頻繁に聞くようになっています。  特にワーキングホリデーの制度を利用できる オーストラリア、カナダといった国では、アル バイトをしながら旅行を楽しみ、なおかつ給料 の半分くらいを貯金するような囗本の若者がい ます。  もちろん海外では給料だけでなく物価も高い わけですが、上手にやりくりすれば1か月20万 円くらいは貯金ができます。日本で月収20万円 で働いていた人にとっては、どちらが魅力的な 労働環境であるかは一目瞭然です。  これまでの日本では、手に職をつけるタイプ の仕事をする人たちは、若い頃に下積みをゴツ ゴツとこなし、いずれ独立して自分の会社や店 を持つというモチベーションを持っていました。  しかし、これからは専門学校で基礎的なスキ ルを身に付けたあと、すぐに海外を目指すとい う動きが加速するかもしれません。  少なくとも、今、一流の寿司職人はこぞって ニューヨークを目指しています。気がつけば、 一線級の職人たちはみんな海外で働いていると いった状況が現実のものになるかもしれないの です。 なぜ日本の労働生産性は「低すぎ る」のか?  日本の給料が上がらない第二の原因は、年齢 や勤続年数に合わせて役職や給料が上かつてい く「年功序列」や、定年まで同じ企業で雇用し 続ける「終身雇用」といった日本型雇用にあり ます。  日本型雇用の下では、一度上げた給料は下げ ることができないので、経営者には文句を言わ れない程度の限定的なベースアップにとどめた いという意識が働きます。  なおかつ、給料を上げると従業員の年金積立 金なども雪だるま式に増えるので、やはり給料 を上げることには消極的になります。内部留保 が増えても、簡単には従業員に還元できないジ レンマがあるのです。  そして3つ目の原因としては、労働生産性が 低いという問題があります。  公益財団法人日本生産性本部が発表した「労 働生産性の国際比較2021」によると、0 ECDのデータに基づく日本の時間あたり生産 性は49・5ドルで、OECD加盟38か国中23位。  また、一人あたり労働生産性は7万8655 ドルで、OECD加盟38か国中28位。労働生産 性が比較的低いとされるイギリス(19位)、ス ペイン(20位)にも差をつけられ、韓国(24 位)の後塵を拝しています。  囗本には、もともと製造業の分野で労働集約 型の改善に成功し、世界を席巻した過去があり ます。その成功体験が強かったこともあり、 ツールを活用してドラスティックに生産性を向 上させるような取り組みを行なってきませんで した。  一方で、欧米諸国には労働生産性の向上に成 功し、利益率を高め、賞与や給与の原資を作っ てきた歴史があります。  こういったところに、「日本では給料が上が らないのに、海外では上かつている」という違 いが生じているわけです。  なお、「国際競争力が低い」「日本型雇用の慣 行がある」「労働生産性が低い」という3つの 要素は、それぞれが不可分に結びついています。  例えば、これから働き方改革などの取り組み が進めば、日本の会社の労働生産性が劇的に改 善するかもしれません。ただ、前述した日本型 雇用の慣行が変わらない限り、内部留保が積み 上げられる可能性が高いので、やはり給料に反 映されるとは考えにくいといえます。  逆に、近い将来、日本型雇用がなくなれば、 それによって労働生産性が上がる可能性はあり ます。  というのも、欧米各国の生産性が高いのは、 匸冐でいうと「中途入社が多いから」です。中 途入社が多い欧米では、最新のツールやデファ クトスタンダード(事実上の業界標準)となっ ているツールを導入し、効率的な働き方を実現 しています。  アメリカのように平均勤続年数が4年程度で 従業員が入れ替わっている社会では、業界とし てデファクトスタンダードのツールを整えてお く必要があります。  転職希望者から「お宅の企業は、こんな超ア ナログな手法で働いているんですか? とても じやないけど入社するのは無理ですね」と言わ れたら、採用がたち行かなくなるからです。  例を挙げると、代表的なツールがセールス フォースです。  セールスフォースとは、セールスフォースー ドットコム社が提供するグラウト型のビジネス アプリケーション。営業活動の最適化や業務効 率化を目的に、顧客管理や営業管理などの情報 管理で活用されています。  セールスフォースを導入すれば、セールス パーソンは、どの会社に入社しても同じツール を活用して働くことができます。その会社特有 の仕組みをイチから覚えなくても、前の会社で やっていたのと同じようにセールスの仕事を継 続できるわけです。  極端にいうと入社した翌日から即戦力として 働けるため、必然的に労働生産性が高まるとい うわけです。  日本では、1社で働き続ける人が比較的多く、 OJTを通じて仕事の仕方をじっくり教える時 間的な余裕があります。つまり、あえて労働生 産性を上げる必要性に迫られることなく、業務 が回るという状況が成立してきました。  そんな背景をもとに、ここ30年あまりの長き にわたって、働き方に大きなメスを入れるのを 避け続けてきました。  1980年代にトヨタを中心に囗本の製造業 が世界の頂点を極めたところまではよかったの ですが、その成功体験に味を占め、仕事の進め 方や、組織、教育といった分野にほとんど手を 付けることがないまま今日を迎えています。  国としても、失業者が少なかったこともあり、 転職者をサポートするような効果的な施策を行 なってきませんでした。就職や転職に向けて知 識や技能を学ぶための職業訓練校のような場は ありますが、活用があまり進んでいないのが現 状です。  仮にトヨタのような影響力のある企業が新卒 一括採用をやめれば、状況は大きく変わるかも しれません。大企業に就職したい学生は引き続 き存在するので、それに対応して大学の教育方 針が変わる可能性があります。  トップレベルの大学が変われば、高校教育が 変わり、日本人の職業観が一変するかもしれま せん。とはいえ、それが実現するには、少なく とも今後20年近くの時間を要するでしょう。  今現在、企業でバリバリ働いている中堅以上 の社員の働き方には、ほとんど影響がないと考 えられます。だから、今この本を読んでいる社 会人は、自分でいち早く働き方を変えていく必 要があるのです。 日本でも導入が進む「ジョブ型雇 用」  2020年、日本経済団体連合会(経団連) が「ジョブ型雇用を組み込んだ働き方ヘシフト する必要性」を提言したことにより、「ジョブ 型雇用」への注目が集まるようになりました。  ジョブ型雇用とは、企業があらかじめ職務内 容や責任の範囲を明示した上で、その職務やポ ストに対して必要な人材を採用する制度のこと。  ジョブ型雇用では、ジョブデイスクリプショ ン(職務記述書)に基づいて採用や人事評価が 行なわれることになります。  これまで日本では、業務内容を限定しないま ま「総合職」として新卒一括採用を行ない、職 種や仕事内容をローテーションさせながら適性 を見極める「メンバーシップ型雇用」が主流と なっていましたが、欧米型のジョブ型雇用に転 換すべきとする考え方が唱えられるようになっ てきたのです。  日本では、ここ数年、大手企業を中心にジョ ブ型雇用を導入する動きが少しずつ進んでいま す。  例えば、富士通は2020年度から国内の幹 部社員約1万5000人を対象に、ジョブ型雇 用を導入。2022年度からは対象を一般社員 にも拡大しています。  KDDIも「KDDI版ジョブ型人事制度」 という独自の制度を導入し、「人事」などの大 きなくくりでジョブを分ける取り組みを始めま した。  ほかにも、日立製作所、資生堂、SOMPO ホールディングスなどの大手企業が、続々と ジョブ型雇用を導入しています。  国もジョブ型雇用への転換に動き出しており、 岸田首相は「年功序列的な職能給をジョブ型の 職務給中心に見直す」と発言。具体的には、日 本企業に対してジョブ型雇用への移行を促す指 針を2023年春までに官民で策定することを 明らかにしています。  これに関連して、岸田首相は5年間で1兆円 のリスキリング(職業能力の再開発、再教育支 援)を行なうことも表明しています。ジョブ型 雇用に移行した場合、キャリアアップには学び 直しが必要不可欠となることを踏まえた政策と いえます。  特に日本では、デジタルスキルが不足してい るので、国の後押しによって支援していこうと いうわけです。  さらに細かいところでは、大企業でも転勤を 前提とした異動を行なうのではなく、採用時に 勤務地を明示する動きが少しずつ見られるよう になっています。  厚生労働省は異動の可能性がある範囲を、企 業が労働者に事前に明示することを義務づける 法制化(労働条件通知書の改定)を検討してお り、現在、法制化に向けての作業が進められて います。  これまでは、特に大企業では、会社から転勤 を言い渡されたら全国どこにでも引つ越さなけ ればなりませんでした。  転勤は会社への忠誠心を図る手段として利用 されてきたわけですが、これからは事前に合意 した勤務地でのみ働くことになります。これも ジョブ型雇用を意識した制度変更の一つといえ ます。  「囗本の企業がジョブ型雇用に移行している」 といわれても、大多数の人にはあまり実感が 伴つていないかもしれません。  けれども、実は日本ではジョブ型雇用のよう なものは、かなり昔から導入されています。そ れは何かといえば、いわゆる非正規社員に対す る雇用です。  派遣社員やアルバイトなどは、職務内容を限 定した上で採用されます。また、基本的に有期 雇用なので、契約が終了すれば解雇されること もあります。  実質的に、長らく非正規雇用の領域では欧米 型雇用が定着してきたということです。  あるいは、企業が中途採用を増やしているこ とも、ジョブ型雇用と無縁ではありません。  中途採用では、「総合職」としての採用は行 なわず、求人票に業務内容を明確に記載し、 「営業職」「経理職」といった職務内容を限定し た形での採用を行ないます。これは、まさに ジョブ型のプロセスといえます。  例えば、デジタル人材が不足している会社が、 特別専門職としてのデジタル人材を中途採用す るようなケースが増えています。これは、ジョ ブ型雇用が浸透していることを示す、わかりや すい事例といえるでしょう。 ジョブ型雇用で「ますます」給料は 増えなくなる  では、なぜ日本はジョブ型雇用を導入しよう としているのか。  最大の目的は、労働市場の流動性を高めるこ とです。流動性が高まることによって日本全体 の生産性が向上し、給料アップにつながること が期待されているわけです。  私自身も、労働市場が流動化するという意味 では、ジョブ型雇用の導入をポジティブに捉え ています。  ただし、本当に日本で欧米型のジョブ型雇用 が浸透していくかどうかについては、懐疑的に 見ています。大企業に関しては、正社員を解雇 しにくい状況が続くと考えられるからです。  ジョブ型雇用の核心は、「ジョブに人をつけ る」というところにあります。別の言い方をす れば、「ジョブが先で人は後」ということです。  しかし、囗本の会社では「人が先でジョブが 後」という考え方が定着しています。  大企業では、今でも新卒で総合職採用を行 なっています。総合職採用では、社員の能力が 低かった場合、「会社の中に職がいろいろある のだから、ほかの部署に異動させて様子を見れ ばいい」という発想に向かいます。あくまでも 人が先です。  現実には、中小企業では事実上解雇される社 員が少なからず存在するわけですが、大企業に おいては、労働紛争を嫌う経営者の多くが、社 員の解雇に消極姿勢を示しています。  本来の欧米型のジョブ型雇用では、ジョブに 人をつけるという前提があるので、「ジョブが なくなれば人を雇えなくなる」というルールが 明確です。けれども、総合職を抱えている企業 では、そのあたりのルールが不透明なままです。  仮に戦略の変更によって、ある部署の特定の 職が不要になっても、社員を解雇するという判 断にはなかなか踏み切らないでしょう。  結果的に、囗本の大企業ではジョブ型雇用が 骨抜きにされ、社員を解雇できない「囗本版 ジョブ型雇用」が浸透するのではないかと危惧 するのです。  囗本版ジョブ型雇用が浸透していくと、おそ らく労働市場の流動性は高まらず、生産性も向 上しないので、給料アップは望めないというこ とになります。  y ジョブ型雇用はジョブごとの給料の相場   が決まっている  そもそも、欧米型のジョブ型雇用が定着した としても、自動的に給料が上がるわけではあり ません。  まず、ジョブ型雇用に移行すると、日本型雇 用のように年次で給料が上がることはなくなり ます。「在籍しているだけで自動的に給料が上 がる」という期待は、日本の大企業に特有の考 え方にすぎません。  しかも、ジョブ型は基本的にジョブごとの給 料の相場がおおよそ決まっています。例えば、 営業職の給料相場が500万〜600万円たっ た場合、同じ職で働き続ける限りは、同じ会社 にいても別の会社に転職をしても、ほぼ同じ給 料を受け取ることになります。  これは、現在の日本で非正規労働を行なって いる人が置かれている環境と似ています。非正 規雇用では、同じ仕事をしている限り、時給は 決まっています。これが正社員にも適用される と考えると、イメージしやすいと思います。  だから、ある程度経験を積み、給料を増やし たいと考える人は、その上のポジションを目指 す必要に迫られます。マネージャーやシニアポ ジションを目指して社内で昇進試験を受けるよ うなイメージです。  試験に応募する場合は、外部の人材との比較 対象となります。  あくまでもジョブが先なので、会社としては ジョブに最適な人材を欲しがります。社内の人 がポジションを取ってくれるに越したことはな いですが、「一応社外からもいい人を探してみ よう」という動機も働きます。  ポジションの募集は完全公募の形で行なわれ ます。社内外に募集をかけ、同じように面接を 行なって、誰を採用するのかを決めるのです。 要するに、社内の異動であっても新規の中途採 用を行なっているようなものです。  つまり、ジョブ型雇用において給料を上げた いと思ったら、たえずリスキリングを行ない、 社内外で転職を繰り返す必要があります。常に 激しい労働市場での戦いを強いられるというこ とです。  yジョブ型雇用と人材流動性の関係  ここで少しだけジョブ型雇用と人材の流動性 の関係についてお話ししておきたいと思います。  前述したように、ジョブ型雇用でキャリア アップを図るためには、労働市場の競争を勝ち 抜く必要があります。  面接を受けて、合格を得ない限りは、社内で 上のポジションを取ることはできない。そうな ると、「だったら別の会社で働くのもアリ」と 考える人も増えます。  あるいは、社内の選考に落ちてしまった場合 に、同じようなポジションを得るため、社外の 選考を受けようとする人も出てくるでしょう。 合格すれば、その人は、当然転職していくこと になります。  ほかには、日本ではシニアポジションが用意 できないという理由で、社外に出ていく人もい ます。  特に外資系企業の場合、日本の市場はそれほ ど大きくないので、そこまで重要なポジション を置いていないケースが大半です。同じ会社で 働きながら上のポジションを目指す場合、本社 があるアメリカやヨーロッパ、シンガポールな どで働くことを希望するしか選択の余地がなく なるのです。  ジョブ型雇用では、こうしたもろもろの要素 が絡み合い、必然的に転職が増え、人材の流動 性が高まるという仕組みです。  現在のところ、日本ではまだまだ中途採用の 数も少ないですし、自分かやっているジョブが 常に社外に用意されているとは限りません。  転職希望者数自体は増えているのですが、実 際に転職を実行した人の数との間にギャップが ある状況です。  特に、40代、50代男性に顕著なのは、「今の 給料が高すぎて、社外に同じような条件のポジ ションが見つからない」という問題です。仕方 がないので、そのまま今の会社に残るという決 断をしている人が多いようです。  若い世代の人たちも、やりたい仕事が見つか らなかったり、転職の選考に受からなかったり といった理由で、転職活動をあきらめている人 が目立ちます。  転職の(Iドルをどれだけ下げられるかとい うのも、人材流動性を高められるかどうかを大 きく左右する要素だと思います。  「1社に依存」してはジリ貧になる  さて、ここまで1社にいても給料が増えない 理由についてお話ししてきました。  「1社にいても給料が増えない」というと、こ んなふうに考える人がいるかもしれません。  「給料が増えないのは残念だけど、このまま会 社にしがみついて、給料をもらえれば十分。あ えて会社の外にキャリアを築く必要なんて感じ ない」  しかし、会社にしがみつこうとしても、会社 そのものが消滅してしまうリスクがあります。 特に囗本には中小企業が圧倒的に多いという特 徴があります。中小企業庁によると、2016 年の中小企業・小規模事業者は約358万。企 業全体に占める割合は実に99・7%に達してい ます。  東京商エリサーチによれば、2020年の中 小企業の休廃業・解散件数は4万9698件と なっています。決して他人事ではなく、「いく らなんでも会社はつぶれない」というのは、正 常性バイアスと呼ばれる思い込みにすぎません。  特に大企業に勤務している人ほど、うちの会 社は大丈夫と思いがちですが、大企業も決して 安泰とはいえない状況です。現実に、コロナ禍 では創業100年を超えるような老舗企業も倒 産を余儀なくされるようなことがありました。  これまで100年安泰だったからといって、 この先100年安泰である保証などはIミリも ありません。  また、会社が倒産しないまでも、ある囗突然、 会社の経営が変わる可能性もあり得ます。これ からの日本企業は、外資に買収されることが増 えると考えられています。  買収された企業では、一夜にして経営陣が入 れ替わり、仕事のやり方や、評価の方法や人事 制度といった社内ルールが一新されるようなこ とも珍しくありません。  この場合、希望退職を募るケースも多いで しょうから、会社の外に出るという選択肢が浮 上します。  外に出ずに同じ会社にしがみつくにしても、 まるで転職したかのような新しい働き方を強い られることになります。いずれにしても、今ま でと同じような働き方を維持するのは難しくな る可能性が大です。  y仕事そのものがなくなる可能性も  さらに、会社がなくなるどころか仕事自体が なくなるリスクも高まっています。  よくいわれていることですが、今後AI・口 ボットによって代替され、なくなる職業が増え ていくということです。  2015年はオックスフォード大学と野村総 合研究所の共同研究により「10〜20年後に囗本 の労働人口の49%が人工知能やロボットなどに よって代替可能になる」と発表され、大きな話 題となりました。  マッキンゼーの調査による「未来の日本の働 き方」(2020年)では、「2030年までに 既存業務のうち27%が自動化される見込みであ り、結果1660万人分の雇用が代替される可 能性がある」と予測されています。  すかいら1くホールディングスは2021年、 ネコのような見た目の配膳ロボットを導入しま した。カストやしゃぶ葉などで食事をするとき、 ロボットが配膳する風景は、すでに日常のもの になっています。  もちろん、飲食チェーン店などがロボットを 導入する背景には、人手不足なのでロボットで 代替するしかないという事情もありますが、 「人から機械へ」という流れの中で、一部の仕 事が消えつつあるのは事実です。  事務系の仕事においても、RPAの導入によ る機械化が進められています。RPA(ロボ ティックープロセスーオートメーションー Robotic Process Automati呂)とは、人がパソコ ンで行なっている業務を自動化するテクノロ ジーのこと。  RPAを活用し、一定のルールに基づくデー タ入力作業などをロボットに覚えさせることで、 効率的・自動的に処理できるようになります。  例えば、会社では総務部や経理部の社員が行 なっていた交通費精算のチェック業務を自動化 することで、その分の業務が圧縮されます。  クリニックなどでもRPAを導入し、電子カ ルテへの入力やレセプト(診療報酬明細書) チェックなどを自動化する動きが見られるよう になっています。自動化が加速すれば、医療事 務スタッフの求人が減っていくと予想されます。  単純に今まで5人でやっていた仕事が2人で できるということになれば、自動化された仕事 に従事していた人は、仕事を続けられなくなる かもしれません。  囗本の現状では、正社員の場合、仕事がなく なったからといって簡単に解雇されるわけでは ありません。ただ、派遣社員や業務委託の場合 は、雇用契約を更新しない(雇い止め)の対象 になる可能性があります。  少なくとも、職場から人が消えていく傾向は、 今後間違いなく加速していくことでしょう。  確かに、ジョブ型雇用を採用している欧米で も、「給料は上がらなくてもいいから、とにか くマイペースに働きたい」というタイプの人は 存在します。  現実に、社内にロールが存在していて、必要 とされる仕事をきちんとこなしていれば、同じ 会社で働き続けることはできます。このタイプ の人たちは残業はせず、夕方4時には仕事を切 り上げて、趣味や家庭での時間を楽しんでいま す。  ただ、彼らも自分のロールが社内から消えて しまう可能性については、常に頭のどこかで想 定しています。  例えば外資系企業などにありかちなのは、母 国から支社が撤退し、全員が解雇されてしまう ような状況です。  この場合は、すみやかに同じようなロールを 社外から探すことになります。彼らは給料を上 げることには消極的なだけで、1社にひたすら しがみついているというのとは、少し違います。  いざ、仕事がなくなったときに、社外にネッ トワークを持っていれば、確実に次の仕事は見 つけやすくなります。  その社外との接点を作るために有効なのが本 業以外の副業を持つことです。副業でのつなが りから仕事が得られる可能性がありますし、副 業を持っていれば、とりあえずは収入がゼロに ならないという安心感も得られます。  だから、副業で本業とは別のキャリアを築く ことはリスクヘッジになり得るのです。 会社の外でも稼ぐべき「もう1つの ワケ」  会社の外にキャリアを持つべき理由は「給料 が増えない」「会社や仕事がなくなるかもしれ ない」だけではありません。  一つには、社外の空気に触れると、仕事のモ チベーションが上がる効果があります。私の周 りを見ると、「会社への不満はないけれど、仕 事にはいまいち刺激が少なくて退屈している。 成長している実感が得られない」という悩みを 抱える若者がたくさんいます。  そういった若者の中から、社外で本業とは まったく違う仕事を始める人が出てきています。  例えば、本業では営業職に就いている人が マーケティングに興味を持ち、週に1回スター トアップでお手伝いをするようなケースがあり ます。  そこでの仕事に楽しみを見いたし、日々の生 活に張り合いを持つ人もいますし、最終的に副 業でお世話になっている会社に転職を果たす人 もいます。  本業以外の仕事を持てば、単に収入が増える だけでなく、自分の「タグ」が増えることも期 待できます。  私は『転職2.0』(SBクリエイティブ)とい う本の中で、「タグ付け」の重要性について言 及しました。  「タグ({品}」とは、「荷札」「付箋」といった 意味の単語であり、ウェブの世界では情報を分 類するための単語や短いフレーズなどを指しま す。皆さんも「Twitterの投稿にタグ((ツ シュタグ)をつける」といった文脈で日常的に 使っている言葉だと思います。  「タグ付け」とは、あの(ツシュタグを自分に もつけるイメージです。例えば、「IT業界で、 中小企業相手に法人営業をし、顧客理解が得意 な人」であれば、「IT業界」「法人営業」「中 小企業相手」「顧客のことを理解するのが得意」 のそれぞれがタグになります。このタグの掛け 合わせが、あなたの希少性になり、ネットで夕 グを発信していれば、個人が想起されやすくな ります。たくさんタグを持っている人は、周囲 から認知されやすくなり、転職や起業、さらに 別の副業をする上でも非常に有利になります。  自分のキャリアに強みを付加しようとすると き、多くの人が思い浮かべがちなのは、資格の 取得です。しかし、現実には、法律上求められ る資格、実務経験を伴う資格以外は、ほとんど 効力を発揮しません。つまり、資格単体では夕 グになりにくいのです。  資格を取得するなら、本業以外のキャリアを 形成するほうが断然おすすめです。「実際に ○○の仕事をしたことがある」という実務経験 は、非常に強力なタグとなり得るからです。  パーソル総合研究所の調査では、正社員の副 業を容認している企業の割合は2021年時点 で55%に達しています。すでに副業は当たり前 のものとなっています。  企業側としては、副業を容認しないと採用面 で不利になりやすいという背景があります。ま た、「副業での経験が本業のイノベーションに つながる」という期待から副業を容認する傾向 もあるようです。  私自身の周囲にも、東京でマーケティングや 広報の仕事をしている人が、副業で地方自治体 のPRを手伝っていたりします。  このように囗本の働き方は大きな転換期を迎 えています。  過去の実績で未来を予測するのではなく、不 透明な未来に備えて、対処法を考えておく必要 があります。その対処法の一つが、会社外に キャリアを持つことです。この本では、本業の 仕事以外でキャリアを築く上で必要な考え方や 行動についてお伝えしていくつもりです。 −―――― まとめ ▼日本の平均給与は下がり続けており、今後は1つの会  社で働くだけでなく、会社の外にもキャリアを持ち、  複数のキャリアを同時並行する働き方が必要になる。 ▼日本の平均給与が下がり続けているのは、「国際競争  力が低い」「日本型雇用の慣行がある」「労働生産性が  低い」という3つの要因がある。 ▼日本では、ここ数年、大手企業を中心にジョブ型雇用  を導入する動きが少しずつ進んでいる。しかし、日本  版ジョブ型雇用が浸透していっても、おそらく労働市  場の流動性は高まらず、生産性も向上しないので、給  料アップは望めない。 ▼会社にしがみつこうとしても、会社そのものが消滅し  てしまうリスクがあるし、さらに、会社がなくなるど  ころか仕事自体がなくなるリスクも高まっている。 ▼本業以外の仕事を持てば、単に収入が増えるだけでな  く、自分の「タグ」が増えることも期待できる。 これまでの「キャリア論」は理想論  本書で私か「副業」「パラレルキャリア」な どという以前に、すでに日本では「副業で稼ご う」「複数のキャリアを持とう」といったこと が、さまざまなところで、さまざまな人によっ て語られてきました。  にもかかわらず、実際に実行に移している人 は、まだまだ少数派であるのが現状です。  2022年7月、LINEが全国の18〜59歳 の男女を対象に行なった調査によると、副業や 兼業について「いまはしていないが、いつかは したい」と答えた人が4割弱で最も高くなって います。  そして、「している」「いまはしていないが、 近いうちにしたい」と答えた人は、それぞれ1 割程度にとどまっています。  これに対して、「いましておらず、今後もし たいと思わない」と回答した大は、3割以上い ることがわかりました。  年代別では、20代、30代の若い世代に副業・ 兼業への興味関心が高い傾向がうかがえますが、 実際に副業や兼業をしている人の割合は、年代 によって大きな差が見られません。  ちなみに、副業や兼業をしている人が、何を しているのかについては、多いものからサービ ス業(22・3%)、ポイ活(ポイント活動) (14・5%)、株/FX(H・7%)、軽作業 (10・1%)の順となっています。  以上をまとめると、「多くの人は副業に興味 を持っているけれども、まだ実行に移していな い。副業をしている場合も、収入のためと割り 切って取り組んでいる仕事が多い」といった実 態がうかがえます。  書籍やネットなどでは、これまでインフルエ ンサーたちが「好きなことをして稼ぐ」「会社 に縛られないキャリアを築こう」といったメッ セージを繰り返し語ってきましたが、現実の世 界では理想論にとどまっているようです。 日本では個で稼ぐことが難しい「2 つのワヶ」  では、なぜ会社の外にキャリアを持ち、個人 が自由に稼ぐというスタイルが理想論にとどま り、現実になっていないのか。  大きな理由は2つに集約されると思います。  一つは、「そもそも個で稼げるコンテンツな んて作れない」という理由です。  「特に自分独自の売り物なんてないし、社外に キャリアを作るといっても、学生時代にやって いたアルバイトのような仕事をするイメージし か持てない。ただでさえ、本業で疲れているの に、副業でバイト? それは無理だな」  こんなふうに考える人が、社外にキャリアを 持つことに消極的になっているように見受けら れます。  そしてもう一つは、「コンテンツがあっても 個で売れない」という理由です。  「イラストを描くのが好きだけど、それがお金 になるなんて想像がつかない。仮にSNSで 『絵を売ります』といったところで、反応があ るとは到底思えないし、出版社とかに売り込み に行くというのも「Iドルが高そう」  そうやって悶々としている人も少なくなさそ うです。  みんなが会社の外にキャリアを持つことに尻 込みする背景には、結局のところ「フォロワー 至上主義」に対する絶望感があるのではないか と思います。  現実的に、SNSでたくさんのフォロワーを 抱え、人気を背景に自由にお金を稼ぐことがで きるのは一部の人に隕られます。  結局、好きなことをして稼いでいるのは TwitterやYouTubeなどでフォロワーをたくさ ん抱えている人だけ。そう考えて、一歩を踏み 出せない人が多いように感じています。  確かに私自身、フォロワーが多い人に対して 「自分はかなわない」と感じることがあります。 例えば、転職やキャリアの分野でさまざまな情 報発信をしている代表的なインフルエンサーの 一人に∃O{O(戸塚俊介)さんがいます。  ∃Otoさんは、『転職と副業のかけ算』(扶桑 社)、『WORK』(日経BP)などの著書がベ ストセラーになっているだけでなく、Twitter やべ呂ざg、noteなどでもたくさんのフォロ ワーを持っています。  彼の発信力や影響力の大きさを見るにつけ、 率直に「自分には同じことはできないな」と感 じます。だから、会社の外で個の力で稼ぐなん て難しいと考える人たちの気持ちもわからない ではありません。 誰もが個で稼げる”クリエイターエ コノミー”の時代がやってくる  しかし、前述した2つの理由が解消され、こ れからは誰もが個で稼ぐことができる時代が現 実のものとなります。それを実現するのが、ク リエイターエコノミーです。  クリエイターエコノミーとは、匸冐でいうと 消費者として経済活動に参加していた人が、消 費側・販売側のどちらにもなれる双方向型の経 済圏のこと。  かつて消費者と販売者の立ち位置は明確に分 かれていました。しかし、インターネットのテ クノロジーによってその垣根が崩れ、消費者が 販売者になることができるようになりました。 もちろん、販売者になった人は、引き続き消費 者でいることも可能です。  「クリエイター」というと、デザイナーやイラ ストレーターなど、特定のクリエイティブ業界 に属している人というイメージがあるかもしれ ないですが、クリエイターエコノミーにおける 「クリエイター」はもう少し広範なニュアンス を含んでいます。  本書ではクリエイターを次のように捉えてい ます。  「クリエイター=自らのスキルや表現を通じて、 何らかの収入を得る個人」  つまり、ゲーム実況を配信して収益を得てい る人も、おしゃべりの音声を配信して収益を得 ている人も立派なクリエイターです。最大のポ イントは「個人」に根差しているところであり、 クリエイターエコノミーにおけるクリエイター 活動は究極の個人芸であるといえるのです。  クリエイターエコノミーの源流を遡ると、お そらくブログなどのインターネットメディアに 行き着くのではないかと思います。  それ以前は、情報発信は4大マスメディア (テレビ、新聞、雑誌、ラジオ)の専売特許と なっていましたが、ブログが登場したことで、 個人が独自のメディアを持って自由に発信でき るようになりました。そして、数多くの読者を 持つブロガーが収益化に成功する事例が見られ るようになりました。  ただし、かつてのブログは収益手段が広告だ けであり、収益化を成功させるには相当なペー ジビューを獲得する必要がありました。  その後、クリエイターエコノミーが本格化し たのは、YouTubeやmstagramなどが一般に認 知されるようになった2010年代以降です。  スマホの普及に伴い、誰もがスマホで作った コンテンツを、簡単にmstagramなどに投稿で きるようになりました。  Snapchat(スナップチャット)など、画像投 稿用のSNSが人気になっているのも、まさに スマホ時代を象徴しています。スナップチャッ トは、投稿者が閲覧時間を1〜10秒、もしくは 無制限に設定でき、投稿が自動的に削除される 仕組みに特徴があります。より気軽なSNSと して10代を中心とする若者の支持を集めていま す。  時代とともに発信が手軽になってきたことで、 クリエイターエコノミーに参入しやすくなって きたということです。  収益化という意味では、投げ銭システムの導 人がクリエイターエコノミーを加速させる転換 点になったといえます。  投げ銭とは、動画や音声、文章などの配信者 にファンがお礼のお金を投げ込めるシステムの こと。日本ではいXOギ刃○○弍(ショールーム)、 台湾では七にく冖(イチナナ)といったライブ 配信サービスが誕生し、配信者が投げ銭で収益 を得ています。  ほかにわかりやすい例を挙げると否応があ ります。noteはブログと同じように文章などを 投稿して発表できるメディアプラットフォーム ですが、無料公開と有料公開を選択できるとい う特徴があります。有料記事は、記事単体でも 販売できますし、マガジン単位でも販売できま す。  また、投稿した作品に対して、「サポート」 という投げ銭機能があり、無料記事に対しても 金銭を送ることができます。  y NFTで注目が集まったクリェイターエ   コノミー  近年は、Web3.0時代の到来に関連して、N FTを活用したクリエイターエコノミーにも注 目が集まっています。  Web3.0は、ブロックチェーンを用いたコン テンツやサービスの総称であり、「分散型イン ターネット」などと呼ばれています。  これまでは、何かの情報を発信する場合は、 特定のプラットフォームを利用するのが一般的 でした。プラットフォームの管理者を中心とす る中央集権型のサービスが基本となっていたわ けです。  これに対して、Web3.0では特定のプラット フォームに依存せず、ユーザー同士でコンテン ツやお金のやり取りができる状況を目指してい ます。  Web3.0のサービスを利用する際には、企業 のサーバーに情報を登録する必要がなく、セ キュリティが向上するメリットも期待されてい ます。  NFT(フ「on-Fungible Token=ノンフアンジ ブルートークン」は、特定のデジタルデータ (デジタルアートなど)の取引記録をブロック チェーンに記録していく技術を意味します。簡 単にいうと、ネットワーク内で自身が購入した 履歴を証明することができます。  NFTは誰でも販売することができ、「NF Tマーケット」を通じて仮想通貨による売買が 行なわれています。やや乱暴な表現をすると、 どんなものでもNFT化できるので、クリエイ ターが販売者になる(Iドルが一気に下がりま した。  現在では、NFTとクリエイターエコノミー がセットで語られることが多いのですが、これ はクリエイターが個人で稼げるようになった象 徴的な例としてNFTが認知されているという ことです。  NFTの分野では、0penSea(オープン シー)、Mintable(ミンタブル)やBitski(ビッ トスキー)などの多種多様なマーケットプレイ スが乱立しています。  こういったマーケットプレイスで、クリエイ ターはもちろん、一般の人もアート作品を出 品・販売し、収益を得ている状況があります。  2021年には当時小学3年生の通称 「NO∃Ee loo Keeper(ソンビ飼育員)」さんが、 夏休みの自由研究にドット絵のNFTアートを 出品し、約380万円の価値がついたことが話 題となりました。  この背景には、有名なインフルエンサーが NO∃bie Xoo Keeperさんの作品を購入し、拡散 したことで、二次販売(転売)の価格が高騰し たということがありました。  今は「NFTバブル」と称される熱狂は下火 になっていますが、株と同じように値上がりし そうな作品を購入し、値が上がった時点で売ろ うとする投資家も多いので、特定の作品が値上 がりする現象が起きるのです。  2022年1月、Twitterが「プロフィール 画像としてNFTを設定できるようになった」 と発表しました。レアなNFT作品を持ってい る人が自慢するために公開しているケースもあ りますが、プロフィール画像にしているNFT アートを欲しいという人がいれば、マーケット プレイスで売買することもできます。  これにより、NFT画像をプロフィール画像 にするユーザーが増え、NFTそのものへの関 心も高まりました。 なぜ欧米で”クリエイターエコノ ミー″が「ブーム」になっているの か?  フ「eoReach Social Intelligence APIとInfluencer Marketing Hubの共同調査によると、2021 年5月時点でのクリエイターエコノミーの総市 場規模は約1042億ドルと推定されています。  また、SignalFire社のレポート(2021年) によると、クリエイターとして活動している人 が世界で約5000万人存在し、200万人以 上が生計を立てていると見られています。  欧米では、すでに普通の会社員がクリエイ ターエコノミーに参加し、普通の会社員が就業 後や休日の時間を活用して、クリエイター活動 を行なうことがブームとなっています。私の周 りでも、アメリカでは本業に加えて副業クリエ イターのキャリアを作る人が多い印象がありま す。  なかでも最も多いのが動画の配信です。 べ呂ぎぼ、TikTok Instagramなどでライブを 行なうなど、クリエイター本人が表に出て表現 活動を行なう取り組みです。  それと似たようなものに、趣味の延長で音楽 活動をするケースや、絵を描いて販売している ケースなどがあります。  ほかには、自分が作っているプラモデルなど を販売する「ものづくり系」のクリエイターも 目立ちます。すでに日本でもヤフオクなどでプ ラモデルを販売して収益を上げている事例はた くさんあります。  インターネット上のマーケットプレイスがで きたことで、趣味で作っていたものを販売する という行為はかなり一般的になっています。そ の気になれば、誰もが今日からクリエイターを 名乗れる環境が整っているのです。  さらに、最近はクリエイターの低年齢化も顕 著となっています。  2010年前後に生まれた新しい世代の人た ちにとって、インターネット上で作品を発表し て収益を得る状況はもはや当たり前の日常と なっています。  アメリカではRoblox(ロブロックス)とい うオンライングームのプラットフォームで自分 のゲームを制作し、「Robux(ロバックス)」と いう仮想通貨を稼ぎ、さらにロブロックス内で 課金して遊ぶ子どもたちが増えています。  そんな子どもたちは、5〜10年後になれば当 たり前のようにクリエイター活動を継続し、本 業と副業のキャリアを何事もなく両立させてい くはずです。  では、なぜ欧米でクリエイターエコノミーが 浸透してきたのか。  理由はいくつか考えられますが、一つは「収 益の多角化を目指す人が多い」という状況が影 響しているといえます。  欧米の人材市場は非常に流動性が高く、解雇 を経験している人の割合が比較的多くなってい ます。実際に私の周りでも解雇を経験した大は いますし、身近に解雇を経験したことがある大 は、ほぼ全員といっていいくらいです。  欧米人は「自分が解雇されるかもしれない」 という恐怖心と危機感を常に抱えており、その 感覚は私自身も持っています。それゆえ、生活 の安定を求め、リスクヘッジとしての副業に取 り組む人の絶対数が多くなっているわけです。  そういった背景をもとに、時代とともにイン ターネットで個人の力を発揮したり、個人の才 能を表現したりする場が格段に増えてきました。  今までは施設や人員がなければできなかった ようなことが、パソコンやスマートフォンが一 つあれば実現できるようなプラットフォームが 整っています。そのプラットフォーム環境に、 個人の発信を得意とする人たちが飛びつき、思 い思いのクリエイター活動を展開しているのが、 欧米の現状であるといえるのです。 テクノロジーの進化で個人がものを 「作る「Iドル」が大きく下がった  囗本の会社員が「会社の外にも複数のキャリ アを持ち、個人が自由に稼ぐというスタイル」 に尻込みしている理由として、「個で稼げるコ ンテンツなんて作れない」「コンテンツがあっ ても個で売れない」の2つが挙げられるとお話 ししました。  しかし、今やテクノロジーの進化によって2 つの(Iドルはほとんど解消されています。そ れが「クリエイターエコノミー」です。  例えば、「作る「Iドル」を解消してくれる テクノロジーの一例が「はじめに」でも触れた 「ミッドジヤーニー」です。  お伝えしたように、ミッドジヤーニーとは、 AIが説明文やキーワードとインターネット上 にある絵を結びつけ、画像を生成してくれる サービス。要するに、自分で絵を描くのではな く、「こういう絵を描きたい」というのを言葉 で伝えるだけで、それに合った絵が自動で生成 されるという仕組みです。  例えば、私か「ゴッホ風の村上臣」という指 示を出すと、インターネット上にある私の顔写 真などをAIが分析し、いかにもゴッホの作風 らしい作品に仕立て上げてくれるのです。  ミッドジヤーニーは、非商用利用ならIアカ ウントにつき25枚まで無料で利用できるため、 画像生成AIを試してみたいと考える人には気 軽に利用できるサービスといえます。Twitter やmstagramでは、すでに多くの人がミッド ジヤーニーで画像生成したアート作品を投稿し ています。  同様の画像生成AIサービスには、Stable Diffusion(ステーフルーティフュージョン)や ブ「OvelAI(ノベルAI)などがあります。  日本でもにX詢でテキストを送信すると、5 秒程度で画像が返信される「お絵描きばりぐっ どくん」というステーフルーティフュージョン を活用したにXMアプリなどもリリースされて おり、公開2か月で登録ユーザーが250万人 を突破しています。  こういったサービスを利用し、プレゼン資料 を作成するとき、AIが生成した画像を挿絵に 使うケースも増えています。これまではフリー のイラスト素材を使用するのが一般的でしたが、 AI画像への置き換えが進んでいるのです。  一方、文章から動画を自動生成するツールも、 現在世界中で開発が進められており、実用化さ れる囗七近いでしょう。  近い将来、画像生成ツールや動画生成ツール は、rnotoshopなどの既存のアプリケーション ソフトに内蔵されるだろうと予測されています。  これまでは、「富士山を背景にした画像を作 りたい」というとき、富士山の写真を自分で撮 影するとか、画像素材サイトなどからダウン ロードした素材と合成する必要がありました。  しかし、AIツールを活用すれば、思いどお りの素材が見つからずに探し回るといった苦労 から解放されます。ちょっとした言葉を入力す るだけで素材を作成でき、それを加工して思い どおりの作品を作れるようになるのです。  アニメを制作するときにも細かな背景を描き 込む作業が不要となり、相当な効率化につなが ることが期待されています。  さらに、画像や動画だけでなく、文章を生成 するAIを活用する方法もあります。  一つの例が「はじめに」でも紹介した{}PT-3 です。(jPT-3((jenerative Pre-trained Transformer)は、ot回とというAI研究機関 が開発した事前学習による自然言語技術処理モ デルのこと。要するに、文章の生成を行なって くれるAIです。  AIによる文章生成はそれ以前から行なわれ ていましたが、(3PT-3が注目を集めたのは、恐 ろしいくらいに人間が書いたような自然な文章 を生成できるようになったからです。この技術 を使えば、人間とチャットを行なっても、まっ たく違和感のない受け答えができるような世界 が実現するのです。  (jPT-3で文章を作成する場合、ユーザーは 「書かせたい文章のテーマ」「書かせたい記事に 含ませたいキーワード(タグ)」「書かせたい内 容の説明(サマリー)」を入力します。  その上でボタンを押せば、人間が書いたよう な記事が生成されます。  数行のタグやサマリーを入力しただけで、 500〜1000字程度の文章が生成されるの で、それを微調整すれば、SNSなどで堂々と 発信することができます。  センテンス単位で要素を入力するだけで文章 を補ってもらえるので、長い文章を短時間で書 きたいときに重宝するのは間違いありません。  (jPT-3は売りたいものをアピールするときの セールスライティングにも活用できるでしよう し、自分のファンになってくれた人とコミュニ ケーションを取るときなど、さまざまな用途で 活用できます。特に文章を苦手としている人に は、ありかたいツールではないかと思います。  以上、見てきたように、「自分には作品なん て作れない」という人も、クリエイターになる ことをあきらめなくて大丈夫。今の時代は、代 わりに創作してくれるAI技術を利用する手が あることを知ってほしいと思います。 テクノロジーの進化で個人がものを 「売る「Iドル」が大きく下がった  では、「コンテンツがあっても個で売れない」 に関してはどうなのでしようか。  「絵を描くのが好きで実際に描いているけど、 それが売れるなんて想像もできない。instagram に上げれば売れるとでもいうの? 無理に決 まっている」  「趣味でものを作っていて、自分が作ったもの が売れたらいいなって考えるけど、実際問題、 素人が作ったものを買ってくれる人なんていな い」  そんなふうにあきらめている人も多いのでは ないでしょうか。  しかし、個人がクリエイターエコノミー市場 でものを売ることをサポートするプラット フォームがあります。クリエイターがファンと 交流するための「パトロンサイト」と呼ばれて いるものです。それを活用すれば、個がコンテ ンツを売るのも不可能ではありません。  パトロンサイトとは、クリエイターがファン コミュニティを作って、月額課金ができるプ ラットフォーム全般を指します。もともとは、 ミュージシャンやコミック作家を応援するクラ ウドファンディングから派生したものであり、 今では多種多様なクリエイターを支援する場と して機能しています。  昔は「パトロン」というと特定の芸術家を経 済的に援助する資産家というイメージでしたが、 今ではクリエイターを支援する仕組みがイン ターネット上に展開されているわけです。  パトロンサイトでは、クリエイターとファン が交流できるだけでなく、作品を閲覧・購入し たり、協働で何かを創り上げたりすることもあ ります。いわば「推し活の場」なので、ファン にとってはコミュニティに参加することに価値 があり、究極的には何も売らなくても収益化か 可能です。  例を挙げると、「はじめに」で触れた「ファ ン「ウス」というプラットフォームがあります。 ファン(ウスとは、クリエイターがファンから 直接収入を得ることができるプラットフォーム の一つです。  ファンはクリエイターが提供するコンテンツ を有料で閲覧し、クリエイターにメッセージを 送って直接交流することができます。  ファン(ウスが特徴的なのは、月額継続課金 ができる、つまリサブスク型のプラットフォー ムであるところです。  このプラットフォームがサービスを開始する 以前も、個人のクリエイターが決済システムを 活用すれば、何かの商品やサービスを提供して お金を受け取ることはできましたが、サブスク サービスを提供するシステムはほとんど存在し ませんでした。  そこにファン(ウスが登場したことで、クリ エイターは継続課金を通じて収益の安定化を図 れるようになりました。結果的に、ファン(ウ スは有力なクリエイター支援サービスの一つと みなされるようになったのです。  もちろん、ファン(ウス以外にも類似のクリ エイター支援サービスはたくさんあります。  そのうちの一つである「冫回目(パトレオ ン)」はミュージシャンが開発に関わったクラ ウドファンディングプラットフォーム。  例えばクリェイターがYouTubeで動画を投 稿すると、パトレオンに登録しているファンか ら支援者(寄付金)を募ることができます。寄 付金は任意で決められるほか、サブスク形式に することも可能です。  パトレオンにはミュージシャンや映像クリエ イターなどアート系のクリエイターが支援を募 るケースが多いという特徴があり、クラウド フアンディングとコミュニティの機能が合体し たようなプラットフォームといえます。  そして「Substack(サブスタック)」は、 ニュースレター(メルマガ)を収益化するプ ラットフォームです。  これまでにもメルマガの配信サービスは多々 ありましたが、サブスタックはブログの記事を 書くとファンに向けてメール配信を行なってく れるサービスです。動画やPodcastなどの音声 ファイルの配信にも対応しています。  また、無料でニュースレターを配信するだけ でなく、オンライン決済サービスを利用すれば、 月額で有料配信にすることもできます。日本で いえば、noteの有料マガジンをイメージすると わかりやすいと思います。  y誰でもオンライン教育コースの先生にな   れる!・  何かをイチから創作しなくても、自分が持っ ている知識やスキルを簡単に売れる環境も整い つつあります。  例えば、「はじめに」でも触れた「メイブン」 というプラットフォームがあります。簡単にい うと、会員制のオンラインスクール(講座)を 作ることができるプラットフォームです。  メイブンでは、リアルタイムで1対1のオン ラインレッスンを開催することもできますし、 レッスン動画や教材などをたくさんの受講生に 向けて配信することもできます。  こういったプラットフォームを利用すれば、 普通の会社員でも自分の普段の仕事を教えてお 金を稼げるようになっています。  もちろんオンライン教育サービス自体は目新 しいサービスではないですし、今までも個人が 講師業を行なうこともできました。ただし、講 師になれる人は研修会社に属している人や、講 師派遣会社に登録している人などに限られてい ました。たとえていえば、予備校の先生が大勢 の生徒に向けてオンライン授業をするようなイ メージでしょうか。  しかし、メイブンなどのプラットフォームを 利用すれば、講師と受講生がより近い距離感で コーチングに近いレッスンを行なうことができ ます。前者との比較でいうと、自宅にいながら 個別指導塾の授業を受けられるようなイメージ です。個人が運営するオンラインスクールでは、 よりエングージメント(深いつながり)を高め ることができるのです。  ほかには「Teachable(ティーチャブル)」や 日斥日y(ユーデミー)」といった、オンライン スクールを作るためのプラットフォームもあり ます。  例えばティーチャブルはプランごとに受けら れるサービスが異なっており、「独自ドメイン が使える」「オリジナルのホームページを作っ て公開できる」「動画以外にテキスト文書やP DFファイルをアップロードできる」などの特 徴かあります。  ティーチャブルはオンラインスクールの後発 ということもあり、自由度が高いところに特徴 があります。メルマガと連動したり、ビデオ通 話でレッスンしたりといった、さまざまな機能 がついています。  ちなみにアメリカでは「ロヨごて(キヤンブ リー)」などの英会話サービスがよく知られて います。キヤンブリーは世界中のネイティブ講 師に英会話を教えてもらえるオンライン英会話 サービス。ユーザーは学習の目的などに合わせ て好きな講師を選ぶことができます。  日本でも英会話学習にキヤンブリーを活用す る人が増えていますが、英語圈では仕事の空き 時間などに副業で講師をしている会社員がたく さんいます。  しかも、オンライン教育コースでの売り物は、 ものすごい知識やスキルである必要はありませ ん。インストラクターの肩書きや特別な資格が なくても、プラットフォーム上で受講生さえ見 つけられれば、誰でも講師業を行なうことがで きます。  前述したオンラインスクールのプラット フォームで運営されているスクールは、「デザ イン」「アニメーション」「ケーキデコレーショ ン」「コーチング」「マーケティング」など多種 多様です。誰もが、本業で使っているスキルや ノウ(ウを提供することで、収益化を図ること ができます。  私の印象では、ティーチャブルではフィット ネス系のスクールが多く、ユーデミーではプロ ジェクトマネジメントやウェブ開発などテック 系のスクールが多いように感じています。  例えば、本業でトレーニングのトレーナーを している人が、副業でフィットネス系のスター ルを運営して稼いでいるケースもありますし、 本業でプロジェクトマネジメントをしている人 が、そのスキルを教えて収入を得ているケース もあります。  また、皆さんの中にも、今職場でエクセルの 使い方を同僚や部下に教える役割を担っている 人がいるかもしれません。それが有料でできる ようになると考えればイメージしやすいと思い ます。  現実に、メイブンやティーチャブルでは、一 般的なPCスキルを教えてお金を稼いでいる人 がいます。一般的なビジネスパーソン向けには、 エクセルやパワーポイントの使い方を教えるス クールや、ITの資格対策講座のようなものも 多々あります。  そもそもアメリカではTikTokでエクセルの HIを配信しているような人が、非常に人気 となっています。すぐ使える便利な関数などを ショート動画で紹介し、たくさんのフオロワー を得ています。  彼らも、おそらくは本業で日々オフィス製品 を使っている普通の会社員なのではないかと思 います。もはや「普通の会社員だから売るのは 難しい」という前提は過去のものとなっていま す。  「趣味がお金になるはずがない」も 解消されている  趣味的な分野でいうと、「Twitch(ツイッ チ)」「Mirrativ(ミラティブ)」などのゲーム配 信プラットフォームが登場しており、誰もがス マホで簡単にゲーム配信ができるようになって います。  特にミラティブでは、ゲームとライブ配信を 融合させた「ライブゲーミング」の機能を提供 しています。ライブゲーミングとは、配信者と 視聴者が一緒になってゲームをプレイできる ゲームのこと。ライブゲーミングでは、視聴者 が配信者にアイテムを買うなどの形で応援する ことができます。  今後は、自分ではゲームをプレイしない人も、 ゲーム実況を見て楽しむというスタイルが増え ていくと予想されています。要するに、普段 サッカーをしない人が、有料の動画配信サービ スを利用して国内外のサッカー中継を楽しむよ うなものです。  あるいは、前述したロブロックスのように誰 もが自分でゲームを作ることができるプラット フォームもあります。もちろん自分で作った ゲームで楽しんだり、友だちとプレイしたりも できますが、それを無料で公開するか、有料化 (ロブロックス内の仮想通貨であるロバックス を受け取る)するかを選ぶこともできます。13 歳以上の人はゲームを収益化できるので、欧米 では特にZ世代の若者や子どもたちが多く取り 組んでいるのが特徴です。  日本では「趣味はお金を消費して楽しむも の」「趣味がお金になるはずがない」という根 強い思い込みがあります。そのせいで、趣味を 極めているにもかかわらず、それを副業にする という発想に思い至らず、最初からあきらめて いる人もいます。  しかし、需要と供給が一致すれば、何を教え てもお金を得ることができる時代が到来してい るのです。 日本もいずれ”クリエイターエコノ ミー大国”になる  もっとも、こういった材料を提示しても、懐 疑的な見方をする人がいるかもしれません。  「クリエイターエコノミーが欧米で流行ってい るらしいことも、それを実現する技術的な環境 が整っていることもわかった。でも、あくまで 海外の話でしよ? 日本でも同じような働き方 がすぐに実現するとは思えない」  そんな声が聞こえてきそうです。  しかし、過去を遡れば欧米の働き方の潮流は 確実に日本にも影響を及ぼしてきました。  これまでも欧米のインターネットサービスは、 時間をおいて日本に普及するという歴史が繰り 返されています。欧米で流行ったプラット フォームの「日本版」が市場に流通し、利用者 が増えていけば、一気にクリエイターエコノ ミーが活性化する可能性があります。  また、日本では今後大企業を中心に副業解禁 の流れが加速すると予測されています。  私は副業解禁とクリエイターエコノミーは非 常に親和性が高く、日本でクリエイターエコノ ミーを普及させる上で大きなカギとなるとにら んでいます。  というのも、もともとクリエイターの大半は クリエイターの活動だけで食べているわけでは なく、アルバイトなどをかけもちしながら活動 をするケースが大半でした。ミュージシャンや 俳優、芸術家などを目指す人がアルバイトをし ているというのは誰でも知っている話です。  これまで本業で会社員をやっている大は、副 業禁止などのルールの制約で、クリエイターを したくてもできなかった大が多かったはずです。 これから副業が大々的に解禁されれば、こうし た制約はなくなります。そうなれば、会社員の 収入を維持したまま副業クリエイターを目指す 人のほうが安定的に活動ができるはず。  むしろ、囗本のほうがクリエイターエコノ ミーに向いている環境ではないかと思うのです。  すでにお伝えしたように、今後は日本でも ジョブ型雇用の導入が進みます。そして、私は 解雇規制が中途半端に緩和される「日本版ジョ ブ型雇用」が定着するのではないかと見ていま す。日本版ジョブ型雇用の下では、サボつてい てもクビになるリスクは限定的であると考えら れます。  アメリカなどでは本業が忙しすぎると、副業 に取り組む時間的な余裕がなくなることも往々 にしてあります。副業のせいで本業のパフォー マンスが低下すると、解雇の理由になる可能性 もあり、そこまで副業にアクセルを踏みきれな いジレンマも抱えています。  その点、囗本の職場では副業を細く長く続け られる環境が整いつつあります。いずれ「会社 の昼休みに副業用の原稿を書く」などという光 景が当たり前になるかもしれません。  さらにテレワークがもつと普及すれば、本業 と副業の境界線はますます曖昧になります。み んなが本業と副業を同時並行するようになれば、 近い将来に日本がクリエイターエコノミー大国 になる可能性は十分にあります。 「フォロワー数重視」のルールが崩 れている  「とはいえ、自分にはSNSのフォロワーもほ とんどいないから、商品やサービスを買ってく れる人もいないと思う」  そんな心配をしている人もいることでしょう。  確かに、クリエイターエコノミーで収益を得 るには、ファン(商品やサービスにお金を出し てくれる人)の獲得が前提条件となります。し かし、現時点でファンがいなくてもまったく心 配はいりません。  どんなに活躍しているクリエイターだって、 最初はファンがゼロの状態から始めています。 トップYouTuberも、最初はほとんど誰も見て いないような状態で動画をアップし、根気よく 取り組み続けたからこそ今日があるわけです。  特にクリエイターエコノミーの場合は、何千 人、何万人という単位のフオロワーが必要とい うわけではありません。  すでにSNSの世界では、フオロワー絶対主 義の時代は終わりを迎えつつあります。  いち早くその流れを作つだのがTikTokです。 TikTokはフオロワー数よりも内容のバズリ度 を重視するアルゴリズムが働いており、フォロ ワーが少ない大でもいきなり大バズリするよう なケースがたびたび起きます。つまり、良いコ ンテンツがあればフォロワーが少なくても勝負 できるということです。  フォロワーを1万人に増やすのは無理でも、 100人のファンに支持され、直接お金を得る ことができれば、副業クリエイター活動を成功 させるのはそこまで非現実的ではないはずです。 時間がなくても「大丈夫」  クリエイターエコノミーは普段の仕事と無理 なく両立することができます。もちろんファン を獲得するためには、それなりの努力が必要で すから、「無理をしないと続けられない」テー マで取り組むのはおすすめしません。  ただ、「好きで楽しめる」と「収益につなが る」がクロスしているテーマであれば、モチ ベーションを維持できると思います。  重要なのは、時間をたくさん注ぐこと(頻 度)よりも、定期的にアウトプットし続けるこ と(継続)です。  1週間に一度でもかまわないので、定期的に 発信して成果を発表する。継続していればファ ンが増える可能性は高まります。  YouTubeやPodcastなど情報を発信するツー ルであれば、「毎週金曜日に定期更新」などの ルールを決めておくとよいでしょう。事前に収 録を撮りためておいて、計画的に発信すれば無 理なく続けられるでしょう。  基本的にどのプラットフォームも、継続的に 活動しているユーザーを優遇する傾向がありま す。ティーチャブルなどのオンラインスクール でも、活動を続けることで信頼を高めていくの がベストといえます。  そして、クリエイターエコノミーはテクノロ ジーに疎くても参加できます。そもそも、テク ノロジーに強いクリエイターのほうが少ないの ではないかと思います。  動画配信などを行なう場合は最低限の技術が 必要かもしれないですが、マニアックな知識は 不要です。クリエイターエコノミーでうまく いっている人たちは、バリバリにテクノロジー に強い人というより、ファンが求めているコン テンツを提供している人たちです。  しかも、前述したように、(jPT-3など誰でも 気軽に使えるツールがたくさんあります。テク ノロジーの(Iドルが今後下がることはあって も、上がることはありません。  それでも、どうしてもテクノロジーに不安が ある人は、得意な人とコラボする方法がありま す。  今は個人がランサーズなどのクラウドソーシ ングを通じて、さまざまな仕事を受発注できる 時代です。コンテンツのネタを持っている人は 動画や文章を発注すれば、クリエイター活動を 成立させることは可能です。  理想をいえば、特に受発注の関係ではないク リエイター仲間と一緒に活動することです。仲 間と一緒に1つのアカウントを共同運営するの です。わかりやすい例でいうと、Podcastに 「コテンラジオ(noHM{こダ{}{○}」という番組 があります。3人のパーソナリティが歴史の面 白さを伝える人気番組です。  面白いのはパーソナリティ3人のうち2人が 歴史フリークであり、残りの1人は歴史に疎い と自認しているところです。その代わり、素人 目線から質問をしたり音源の編集をしたりする など、上手に役割分担をしています。  このようにチームを作ってコンテンツを創作 すれば、スキルを補い合いながらクリエイター 活動を続けることができます。心配は無用です。 理想論ではなく「本当の意味で」個 が稼げるのがクリェイターエコノ ゛丶−  日本ではすでに副業で冖g「口7の配達員を している人や、クラウドソーシング(企業や個 人がインターネットを通じて業務を発注する業 務形態)サイトを通じて仕事を請け負い、収益 を得ている人が増えています。  こういった、インターネットを通じて単発の 仕事を行なう働き方は「ギグーエコノミー」と 呼ばれています。「ギグ「樒巴」は、もともと ミュージシャンがライブ(ウスなどで単発で演 奏を行なうことを意味する業界用語でした。そ れが転じて、単発で仕事を請け負う働き方を示 す言葉になったものです。  ギグーエコノミーは、基本的に空き時間を効 率的にお金に換える手段です。タスクを決める のはプラットフォーマーの側であり、そのタス クをこなす人は特定の個人である必然性はあり ません。  つまり、ギグーエコノミーは「個人の表現が 入る余地はない(乏しい)」というところに特 徴があります。  これに対して、クリエイターエコノミーは個 人の表現をお金に換える手段といえます。  収益化のパターンは大きく2つに分かれます。 一つは、個人の表現に対してスポンサーがつく ことで間接的に収入を得るパターン。俗に「案 件」といわれる方式がこのパターンに当たりま す。  そしてもう一つは、ファンから直接お金をも らう直接課金のパターンです。現在は、ファン から収益を得ることをサポートするクリエイ ター支援サービスのプラットフォーム(パトロ ンサービスとも呼ばれる)が続々登場していま す。  単純に課金の仕組みを代行するサービスだけ でなく、動画編集など表現活動のサポートをす るサービスや、プロモーションページの作成と いった営業活動の一部を担うエージェント的な サービスも存在しており、それらもクリェイ ターエコノミー市場の一部を形成しています。  その文脈でいうと、クラウドソーシングを通 じ、何かのタスクをこなすことで収益を得てい る人が、継続的に指名を得るようになり、その ままプログラマーやデザイナーとして独立する ケースがあります。  これは純粋な意味でクリエイターエコノミー ではないかもしれませんが、「その人自身が指 名されて仕事を得る」「プロフェッショナルと して本業以外のキャリアを築く」という意味で は、クリエイターエコノミーに通じるものがあ ります。  欧米でギグーエコノミーからクリエイターエ コノミーへの転換が進んでいるのは、個人の 「好き」と収益のバランスが取りやすいからで はないかと思います。  ギグーエコノミーは自分の意思を介入させる 余地が少ないですし、プラットフォーム側の意 向に従って働く必要があります。例えば、竺4 回7では、配達員の動向はリアルタイムで管理 されており、効率の良し悪しでランク付けも行 なわれています。  しかし、クリエイターエコノミーではそこま でプラットフォームに縛られることはありませ ん。  最近は企業に所属していた個人がクリェイ ターとして独立するケースが少しずつ目立ち始 めています。例えば、企業で公式Twitterの 「中の人」をしていた社員が、独立してSNS マーケティングの会社を運営するような事例が あります。これも表現活動が個人中心にシフト していることの表れではないかと思います。  日本では、啣yg株式会社、note株式会社、 UUUM株式会社などが参加するクリエイター エコノミー協会が2021年に設立されていま す。同協会が目的としているのはクリエイター が活動しやすい環境の整備です。  海外の潮流やこうした動向を見るにつけ、日 本でも「1億総クリエイター」になる時代が間 近に迫っているのを強く感じます。 CHAPTER1 まとめ ▼会社の外にキャリアを持つことは重要で、多くの人は  副業に興味を持っているけれども、まだ実行に移して  いない。副業をしている人も、収入のためと割り切っ  て取り組んでいる場合が多いといった実態がうかがえ  る。 ▼多くの人が踏み出せない理由の一つは、「そもそも個  で稼げるコンテンツなんて作れない」という理由。そ  してもう一つは、「コンテンツがあっても個で売れな  い」という理由。 ▼しかし、テクノロジーの進化でこの二つの理由が解消  され、これからは誰もが個で稼ぐことができる時代が  現実のものとなっている。それを実現するのが「クリ  エイターエコノミー」である。 ▼欧米では、すでに普通の会社員がクリエイターエコノ  ミーに参加し、就業後や週末の時間を活用して、クリ  エイター活動を行なうことがブームとなっている。 ▼副業解禁の流れなどから、むしろ、日本のほうがクリ  エイターエコノミーに向いている環境である。日本で も「1億総クリエイター」になる時代が間近に迫って いる。 圓li闢M― 目的 勝つためにこそ「やりたいこと」 を徹底してやる    稼ぎ方1.0 会社のため    稼ぎ方2.0 自己実現  かつての日本では、会社の業績が伸びること で、そこに所属している人の給料が上がり、福 利厚生も充実し、幸福度が増すという好循環が 成立していました。  要するに、会社の成功と社員個人の成功が同 じベクトルを向いていたわけです。同じベクト ルを向いていたからこそ、多くの社員が会社の ために身を粉にして働き、残業や頻繁な出張、 転勤などを当たり前のように受け入れ、進んで 会社への忠誠心を示していました。  しかし、今では会社と個人のベクトルにはず れが生じ、同じ方向を向くのは非常に難しく なっています。  本書ですでにお話ししたように、現在は多く の会社が成長の伸び悩みに直面しています。成 長の伸び悩みだけでなく、会社が買収されたり 倒産したりするリスクも高まっています。  このような状況下では、会社という拠り所が 失われたときに、自分も共倒れになることが明 白です。会社を拠り所にして、自分のアイデン ティティを全面的に委ねるような生き方は危険 すぎるとの認識をみんなが持っています。  会社も社会も不安定で、先行きが不透明な時 代にあっては、不安定になっているものへの依 存が精神をむしばむという現象が起こります。  会社にすがろうとすればするほど苦しくなっ たり、不安が大きくなったりすることが避けら れないのです。  「会社のため」が通用しなくなった稼ぎ方2.0の 時代に優先されるのは個人の想いです。個人が 理想とするキャリアを追求するということです。  特に若い世代においては、「自分が仕事を通 じてどれだけ成長できるか」という成長実感や ワークーライフーバランスを重視する傾向が見 られるようになっています。  若い人ほど、「会社に入ったのだから、会社 のためにすべてを捧げる」という考えを持つ人 は少なくなっています。彼らは自分の成長と幸 福のために会社で何か得られるかを考え、自己 実現できる会社を選んで入社しています。  「会社は個人がやりたいことをやるための自己 実現の場である」という認識に変わってきてい るのです。  こういった自己実現を重視する価値観は、必 然的にクリエイターエコノミーにもつながりま す。クリエイターエコノミーでは、何か自分が 情熱を持っているものを仕事にして収益を得れ ば、自己実現欲求が満たされるからです。  今は、会社で自己実現を追求するだけでは飽 き足らなくなった人たちが、社外に飛び出して、 クリエイター活動を行ない始めている時代なの です。  y自己実現欲求が共感を呼ぶ  逆にいうと、クリエイターエコノミーで稼い でいくためには、自己実現を目指した働き方へ の転換を行なっておく必要があります。  何かをクリエイトする作業は決して簡単なこ とではなく、内なる情熱がないと活動をやり続 けられないという側面があるからです。  人はクリエイターのアウトプットそのものに 共感するだけでなく、作り手の情熱に共感しま す。クリエイターの試行錯誤や成長に共感して、 応援したいという気分になります。  最もわかりやすい例がアイドルグループの ジヤニーズ匂・やAKB48です。  ジヤニーズ匂・を応援するファンの人たちは、 「推し」の成長する過程を見ることに楽しみを 見つけています。「推し」が努力して厳しい競 争を勝ち抜き、グループを結成してデビューす れば、熱狂的に応援します。  AKB48も研究生を対象にオLアイションを 行ない、晴れてメンバー入りした人が大きな舞 台で活躍したり、選抜総選挙などで人気を争っ たりする過程をありのままに開示することで人 気を得ていった経緯があります。  今、クリエイターエコノミーの世界ではクラ ウドフアンディングを活用する事例が非常に多 く見られます。  例えば、漫画を描く人が作品を出版するため、 あるいは映像クリエイターが映画を撮るために 支援者を募るといったケースがあります。  実績がないクリエイターが支援者を集める場 合、最初は何一つ説得材料がありません。支援 したからといって作品ができあがるのかも不透 明ですし、作品ができても世の中に受け入れら れるかはまったくの未知数です。  それでも支援者が集まるかどうかを左右する 最大の要素は、情熱にほかなりません。 「とにかくこの人の情熱がすごいから応援した い!・」  そんな共感を持ってくれる大が集まれば、プ ロジェクトは動き出します。  つまり、クリエイターエコノミーの世界で成 功するためには、絶対的に共感のフックが必要 です。そして、共感を生み出す情熱は、クリエ イターの自己実現欲求に根差しているのです。  y クリエイターエコノミーは承認欲求を満   たす健全な手段  私は、最近ネットの世界で炎上や誹謗中傷が 起きるのは、健全に承認欲求を満たせない孤独 な人が、世代を問わず増えているからではない かと考えています。  例えば、企業や芸能人などの不祥事が報じら れると、Twitterなどで一斉に叩く状況が日常 化しています。  誰からも文句を言われない状況で、どこから どう見ても悪い企業や人を叩く行為は大きな快 感を伴います。「自分は正しいことを言ってい る」「みんなと同じ意見で叩いている」という 実感を持つことで承認欲求を満たしているわけ です。  それに比べて、クリエイター活動は、承認欲 求を満たすためのはるかに健全な手段であると いえます。  天は何かしら褒められたい・認められたいと いう欲求を持っています。そんな天にとって、 目の前の一人の人から「あなたの歌声が好きで すよ」「あなたの作品は素晴らしいですよ」と 言われる経験は、自己承認欲求を十分に満たす はずです。  承認欲求を満たす上では、1万とか10万と いったたくさんのフォロワーは不要です。 100人のファンがいれば十分な収益を得られ ますし、100人から応援されれば幸福感を得 ることもできます。  先ほどお話ししたファン(ウスのように、ク リエイターとファンをつなぐツールもたくさん 登場しています。そこでは実際に副業クリエイ ターが少数のファンに支えられながら活動をし ている事実があります。  普通に会社員をしている限り、100人の ファンから「あなたの活動っていいね」「応援 しているよ」と直接言ってもらう機会を作るの は難しいのが現実です。  特に、日本では多くの会社で大きく成長でき ない状況が続いており、職場で褒められたり認 められたりする経験を持つ大が少なくなってい ます。  また、家庭内でもパートナーを褒め合う文化 に乏しいですし、結婚しない人も増えているの で、家族間で自己承認欲求を満たせない人も増 えています。  しかし、今はインターネットによって、どん なに小さなマニアックな取り組みでも見つけて もらえる可能性があります。  例えば、趣味のプラモデルを作って塗装し、 インターネットオークションに出品して収入を 得ている人がいます。  クリエイター本人は単純に趣味としてプラモ デルを作っているだけなのですが、世の中には プラモデルにフィギュアとしての価値を見いた し、自分では作れない代わりに誰かが作った完 成品を買いたいというニーズが存在します。  だから、趣味のプラモデル作りでクリエイ ターエコノミーに参加し、褒めたり認められた りする機会を得られるのです。 圓−一闢MI− 考え方 ルールに縛られず、「共感」を重 視する    稼ぎ方1.0 ルール思考    稼ぎ方2.0 共感思考  稼ぎ方1.0の時代には、誰にとっても成功の ルールは明確に共有されていました。  多くの人が「いい会社に入ってバリバリ働い て出世して、結婚して2人くらいの子どもを育 て、マイホームを持ち、定年まで勤め上げて 悠々自適の生活を送る」といった人生を目指し ていました。  実際に、そんな人生を実現する人もいたわけ です。  しかし、今は成功のルールらしきものが崩壊 してしまっています。  クリエイターエコノミー時代にあっては、成 功の絶対的なルールは存在しません。先ほどお 話しした自己実現を個人にとっての成功とすれ ば、自己実現のあり方は多種多様であり、全員 に共通する正解が成立しないからです。  もちろん、「どれだけお金を稼げるか」とい うのはわかりやすい指標の一つではありますが、 副業クリエイターとしてそれほど稼げなくても、 少数の人から承認してもらえればいいと考える 天もいます。  あくまでも成功の方向性は天それぞれなので す。  ルール思考が効力を失った代わりに、重要に なっているのが「共感思考」です。  稼ぎ方2.0では、クリエイターエコノミーに参 加する全員が「自分がどういう状態になれば副 業クリエイターとして幸せなのか」を考えてい ます。  その中で、「ファンから共感してもらうこと」 を重視する価値観が広がりつつあります。  共感思考に注目が集まっだのには、コロナ禍 が少なからず影響しています。コロナ禍では、 ライブやオフラインのイベントを行なっていた クリエイターたちが、活動の自粛を余儀なくさ れました。  ステイホームの期間が続く中で、彼らはオン ラインで活動する方向性を模索し、オンライン レッスンを行なったり、ライブ配信をしたりと いった新たな取り組みを始めました。  そこで感じたのは「寂しさ」です。オフライ ンではファンを前にして承認欲求が満たされて いたのに、オンラインではファンから認められ ているという実感を得にくくなってしまったの です。  そのため、クリエイターの一部にはオンライ ンコミュニティをサロン化したり、月額課金を 行なったり、ボイスチャットなどで直接的に ファンと関わる機会を増やすなど、ファンとの 結びつきを強くしようとする動きが出てきまし た。  そこで必要となっだのが、ファンに共感して もらうことです。ファンに共感してもらうこと が、エングージメントを高めることにつながっ ているのです。  y フォロワー重視のルールも崩れている  SNS上においても、これまでのルールが崩 れつつあります。これまでのルールとは、フォ ロワー数が多い=善とするフォロワー至上主義 のルールです。  確かに今までは1万、5万、10万、100 万……といった単位でフオロワーを獲得したイ ンフルエンサーに価値があり、たくさんの尊敬 と報酬を得られるというルールが確立されてき ました。  特にアメリカなどの英語圈では、英語人口の 多さを背景に1億のチャンネル登録者数を持つ YouTubeのトップクリエイターなどが誕生し ています。  しかし、あまりにも影響力が大きすぎるがゆ えに責任の重さに耐えきれず、インフルエン サーであることに疲れ果ててバーンアウトする 人が急増しました。なかには、突然の自殺を図 るインフルエンサーもいたのです。  もちろん、今もフォロワー数が重要な指標で あることに変わりありません。フォロワー数と 共感の多さはある程度一致しているといえます。  けれども、クリエイターの中から「プラット フォームのルールに縛られたくない」「フォロ ワー数だけを追い求めたくない」と考える人が 登場してきたのも事実です。  この状況に呼応して、プラットフォーム側か らもルールを変えようとする動きが出てきてい ます。  例えば、Twitterやmstagramでは、フォロ ワーが多いコンテンツ=良いコンテンツという 解釈の下、フォロワー数が多いアカウントがお すすめされる仕組みが一般的となっています。  その仕組みを壊した唯一のプレイヤーが TikTokです。TikTokでは、フォロワー数が多 くても投稿した動画の再生回数が伸びるとは限 りません。フォロワーを100万単位で抱えて いるのに、再生回数は数万回といったケースが 目立ちます。  それは、プラットフォーム側か従来とは別の アルゴリズムでおすすめ動画を表示しているか らです。つまり、フォロワー数とは無関係に 「共感される動画がバズる」という新しいルー ルが適用されているのです。  今はいろいろなプラットフォームの選択肢の 幅が広がり、それぞれに共通したルールも存在 していません。  また、エングージメントの低いフォロワーを たくさん抱えていてもほとんど収益に結びつか ないし、あまり楽しくないということに、多く のクリエイターが気づいています。  だから、「フオロワー数を増やさなければな らない」と考えるのではなく、共感を重視し、 濃いファンコミュニティを作る方向にシフトし ているように見えるのです。  y職場でも共感思考が浸透している  余談ですが、会社組織においても共感思考の 浸透が見られるようになっています。  欧米の例でいうと、コロナ前とコロナ後を比 較して、マネジメントの仕方が大きく変わって います。変更点は大きく2つに集約されます。  一つは、「ウェルビーイング(幸福で肉体的、 精神的、社会的にすべて満たされた状態)」を 重視するようになったということです。  もちろん、従来からウェルビーイングを重視 した経営を行なう会社は存在しましたが、コロ ナ禍を経験してメンタルサポートが手厚くなっ ているのを感じます。  会社のほうから従業員に対して「あなたは ウェルビーイングを保てていますか?」と問い かけたり「何か困っていることがあれば会社で こういうサポートをします」とアナウンスした りすることが増えているのです。  2つ目はコミュニケーションが多様化したこ とです。  オンラインコミュニケーションツールの導入 に伴い、マネージャーが積極的に10111ミー テイングを行なったり、チャットなどで部下を ケアしたりする機会が増えました。また、従業 員サーベイを行なう会社も増えています。  会社が従業員をケアしなければ、従業員が孤 立し、退職やメンタル不調に至るおそれが出て きたことの表れといえます。  私は、アメリカの会社でコンパッションマネ ジメント(思いやりのマネジメント)がマネジ メントスキルの一つとみなされるようになった ことが、非常に大きな変化であると捉えていま す。  というのも、アメリカの会社ではパフォーマ ンスによる評価がすべてであり、共感思考の要 素がほとんど皆無だったからです。今後は、あ らゆる分野で共感思考が重視されていくのでは ないでしょうか。 圓lilM― 価値基準 予測せず、状況に柔軟に「適応」 する     稼ぎ方1.0 予測重視     稼ぎ方2.0 適応重視  クリエイターエコノミーで成功するためには、 価値基準を「予測重視」から「適応重視」にシ フトすることも求められます。  その理由は大きく2つに分かれます。  一つは、予測が難しい社会になっているとい うことです。  「予測不可能」「変化が激しい」といったこと は従来から言われ続けてきたわけですが、コロ ナ禍を経験したことで、変化をリアルに実感し た人も多かっだのではないでしょうか。  そもそも明日のことさえよくわからない状況 下では、予測するという行為自体が無効化しま す。「予測しても不確実なんだから、あえて 先々まで予測しなくてもいい」と考えるように なってきているのです。  そしてもう一つの理由は、プラットフォーム の進化です。  先ほど触れたように、あるときプラット フォーム側かそれまでのルールを変更するよう なことが起こり得ます。例えば、今までフォロ ワーの数さえ増やせば収益と直結していたのに、 急にフォロワー数が問われなくなる、といった 具合です。  それまでフォロワー数だけを見て、目標値か ら逆算して進捗管理をしていた人にとっては、 これまでの労力が水の泡になり、イチからやり 直しを強いられる状況が生じるわけです。  つまり、現在は予測が難しくなっているとと もに、管理が難しくなっている時代であるとい えます。予測を立てて、しっかり進捗管理を積 み上げていく手法よりも、目の前の変化をいち 早く察知し、それに対してどれだけ素早く対応 できるかどうかが重要になっているのです。  y 「共犯者を作る」マーケティング  企業活動においても、予測重視から適応重視 への変化は顕著なものとなっています。  例えば「20虱q(グロツシアー)」というア メリカで人気の化粧品ブランドがあります。同 社は自社のECサイトなどから直接顧客に販売 するD圃Cの成功事例として非常によく知られ た存在です。  このブランドは、創業者であるエミリー・ワ イスが個人的に始めたブログをきっかけに誕生 したというユニークな経緯があります。  もともとワイス氏は『VOGUE』などの有名 ファッション誌の編集アシスタントをしていま した。2010年、彼女はその経歴を生かし、 有名人から美の秘訣を聞いたり化粧品をレ ビューしたりする『ぼOThe Gloss J』というブロ グを開設します。  彼女がコメントに対して返答する双方向のコ ミュニケーションを取ったことから、ブログは 人気となり、読者から化粧品の囗コミを集める コミュニティが構築されていきました。  そのコミュニティを通じて、化粧品に対する 消費者のニーズを吸い上げ、独自ブランドでも 商品化が実現したというわけです。  同社のような事例は、決して珍しいものでは ありません。  今は、企画者と消費者の垣根がどんどん低く なってきています。ファンコミュニティから製 品のアイデアを募集し、それが実際に商品化さ れ、ファンが購入するという流れが当たり前に なってきています。  現時点では、ファンである消費者側への金銭 的なインセンティブが充実しているとはいえま せんが、今後大きなメーカーがファンコミュニ ティの活用にシフトしていけば、企画が採用さ れた人に謝金を支払うような仕組みが整えられ ていくのではないかと予想されます。  これまでのマーケティングでも企業はリサー チを行なっていましたが、最終的には企業が消 費者に結論を押しつける形で商品やサービスが 提供されてきました。  「いろいろ調べたけど、結局あなたたちが好き なのって、こういうものでしよ? うちではこ れがベストだと思うから使ってみてね」  二日でいえば、企業はこういう感覚で商品や サービスを売っていました。まさに予測重視の スタイルです。企業と消費者間のコミュニケー ションが乏しかったので、消費者は巻き込まれ ないし、与えられるばかりの立場にいたわけで す。  一方、ファンマーケティングの世界では、し ばしば「共犯者を作る」といった表現が使われ ます。細かいエングージメントポイントを作る ことで、消費者の「自分も参加している」意識 を高める手法を意味します。  クリエイターだからといって、「自分が作り たいものを作ればいい」というわけではありま せん。むしろ、プロのクリエイターは、ファン を巻き込み、ファンを喜ばせることに注力して います。  ですから、ファンから意見を聞き、自分の作 品に取り込み、アウトプットしていく適応思考 が非常に重要なのです。 圓lilMII 行動 高速で「改善」を繰り返す     稼ぎ方1.0 計画的     稼ぎ方2.0 アジャイル的  前項に関連しますが、稼ぎ方1.0の時代は変化 が少なかったので、物事を計画的に進めていく スタイルが通用していました。  例えば、半年や1年といった長期的なスパン で計画を立て、ロードマップを作成し、マス タープランどおりに達成していくのが最善とさ れてきました。  しかし、今は計画どおりにいかない時代であ り、変化に応じて柔軟に対応していかなければ なりません。象徴的なのが、システムやソフト ウェア開発の分野で一般化しつつある「アジヤ イル開発」です。  アジヤイル(冫弧邑は「素早い」「機敏な」 「迅速な」などと訳される言葉であり、アジヤ イル開発は小さな単位で実装とテストを繰り返 していく形式の開発手法を意味します。  アジヤイル開発では、計画段階でおおよその 仕様だけを決めておきます。途中で仕様変更が 求められたときに柔軟に対応するためです。  おおよその仕様を基に、「計画・設計・実 装・テスト」を繰り返しながらプロダクトの完 成度を上げていきます。この小さなサイクルは 「イテレーション(反復)」や「スプリント(短 距離走)」などと呼ばれます。  一般的に、アジヤイル開発では、1〜2週間 くらいのスパンでサイクルを回します。何かを 調べて、行動し、また意見を聞いて……という サイクルを速く回していきながら完成を目指し ます。  アジヤイルに適しているのは、t{}∩冫サイク ルではなく○○{}y(ウーダ)ループであると されています。  t{}∩冫サイクルは、Plan(計画)、uo(実行)、 n冨冫(測定・評価)、y巳呂(対策・改善)の ステップを繰り返し行なう手法です。t{}∩冫は 計画段階で時間を使うので、変化が少ない環境 下では効果を発揮します。  これに対して、ウーダループは次の4つのス テップを繰り返すフレームワークです。 @Observe(観察) F〇rient(状況判断、方向づけ) BDecide(意思決定) CyQ{(行動)  ウーダループでは、計画をするのではなく、 今置かれている自分の状況を冷静に観察して情 報を集めます。そこから仮説を立てていくので、 すぐに実行できるというメリットがあります。  また、1つの方向にサイクルを回すtuny とは異なり、前の段階に戻ったり、別の段階か ら再開したりする自由度の高さに特徴がありま す。そのため、変化に柔軟に対応できるという わけです。  クリエイターエコノミーの分野でもアジヤイ ル的な手法は浸透しつつあります。  自分が提供した作品や表現に対して、どうい う反応やコメントが行なわれているのか、周り のクリエイターがどのように活動しているのか を観察し、状況に応じて意思決定・行動してい くということです。  例えば、ティーチャブルで何かのスキルを教 えている人が、教えているときの相手の反応を 見たり、「こういう内容だったらいいな」とい う感想をもらったりして、教える内容や教え方 を随時変えていくという感じです。  あるいは、オフラインでリアルに講師をして いた人が、コロナ禍でオンラインに移行すると か、在宅勤務をしている休憩時間を利用して講 師業をするといったチャレンジもアジャイル的 といえるでしょう。  y コミュニティ内で進捗を共有する  ほかの例を挙げれば、支援者の多いクラウド フアンディングでは、プロジェクトのプロセス をオープンにして、進捗を細かくアップデート することがあります。  よくあるのが、クラウドフアンディングの支 援者を集め、彼らの意見を聞きながらスペック などを変更していき、リターンの品を送った直 後にyヨ弐呂などのECサイトにリリースする パターンです。  この場合、商品をリリースした時点で、ファ ンコミュニティを通じて高い評価が広まってい るので、一般の人にも囗コミを通じて「良さそ うだから買ってみよう」と訴求できるメリット があります。  最近は、ビジネス書の著者などが本を執筆す るときに、コミュニティを作ることもあります。  企画段階から小まめに進捗状況を共有し、デ ザインやタイトルなどの検討段階でみんなの意 見を求めるなどして、完成した本の謝辞のペー ジに、コミュニティに参加している全員の名前 を掲載するといった試みです。  名前が掲載されている人は、その本を買って 読みたいと思いますし、周りの人にもすすめて くれることが期待できます。  私の友人である、すがけん(菅原健二さん も、著書『小さく分けて考える』(SBクリエ イティブ)を執筆するプロセスをmstagramの ストーリーで公開し、ときおリインスタライブ でみんなと議論しながら制作を進めていました。  プロのクリエイターは、アジヤイル的な変更 を呼吸するように毎日行なっています。本業が クリエイターでない普通の会社員でも、1週間 に1回くらいは○○{}yループを回していく必 要があるでしょう。  ファンといかにコミュニケーションを取るか がポイントです。ファンの声を頻繁に聞いて、 素早く行動できるかどうかが、クリエイター活 動の成否を左右します。 圓lilM― 人間関係 会社外の人と「ゆるく」つながる     稼ぎ方1.0 タテのっながり     稼ぎ方2.0 ヨコのっながり  囗本の会社組織内では、タテの人間関係が大 きなウェイトを占めています。  稼ぎ方1.0の時代は上司部下、先輩後輩の上下 関係が強く、上役や年長者から信頼されて目を かけられれば、重要な仕事を任せてもらえまし た。  しかし、稼ぎ方2.0の時代に重要となるのはヨ コのつながりです。いくら会社内で強固なタテ のつながりを構築していたとしても、会社がな くなったら土台そのものが崩壊してしまいます。  そんなときに救いとなるのがヨコのつながり です。  会社の外に人間関係を持っていれば、「こん な仕事があるけど、どう?」「○○社がこうい うポジションの人を探しているみたいだよ」と いった情報が入りやすくなるわけです。  私は『転職2.0』の中で、「転職に不可欠なの は人脈ではなくネットワークづくりである」と お伝えしました。  ネットワークとは、友だちの友だちの友だち くらいまで含まれるゆるやかなつながりを指し ます。一緒に仕事をしたことがない人や、同じ 組織に所属したことがない人も含まれます。  「深い人間性までは知らないけど、お互いにな んとなく興味があって意識している」  「相手の活躍ぶりを認知している」  など、端的にいうとSNS上でゆるくつな かつている大をネットワークと捉えるとわかり やすいと思います。  ネットワークは、ヨコのつながりとほぼ同義 です。ヨコのつながりを持っている大は、大を 介して転職のオファーが飛び込む可能性があり ます。タテのつながりよりも、ヨコのつながり を持っている人のほうが市場価値が高い大とい えるのです。  また、「ヨコのつながり」という言葉は、フ ラットな人間関係という意味も表しています。  クリエイター同士のつながりには上下関係が なく、常に対等な関係であるのが基本です。  ジャンルによっては、クリエイターがニック ネームやペンネームで活動するケースもありま すし、仮想空間で別人格として活動するケース もあります。活動領域の特性からバーチャルで フラットなつながりが生まれるのは必然といえ ます。  ヨコのつながりでは年齢や性別はもちろん、 本業でどんな仕事をしているか、どんな役職に 就いているか、どの程度年収を得ているかと いったことは、まったく問われません。  ヨコのつながりは自由度の高い人間関係とも いえるでしょう。  y ヨコのつながりからファンを増やそう  クリエイターエコノミーの分野でも、ヨコの つながりは大きな意味を持ちます。  なぜ、ヨコのつながりが有利なのかというと、 一つは自分のファンを作るのに役立つからです。  会社員が副業クリエイターとして活動するに あたっては、ファンを作る必要があります。 ファンの数ゼロの人が、一人目のファンを獲得 するのは至難の業です。  副業のファンを増やすために、会社内で働き かけるというのも現実的ではありません。クリ エイター活動を会社の人には知られたくないと いう人もいるはずです。  そんなとき、SNS上でヨコのつながりを 持っている人が初期のファンになってくれたら、 非常にラクなのは間違いありません。  また、クリエイター活動をする仲間同士で ファンを増やす効果もあります。  例えば、同じようにプラモデルを作って販売 しているクリエイター同士が競合してファンを 取り合うということもあり得ますが、ファンが 全面的に重なっているケースは稀です。  「クルマのプラモデルを作るのが得意」「カン プラを作るのが得意」など、ジャンルが狭くな ればなるほど、ファンの重なりは小さくなるの で、コラボレーションをするとお互いのファン に認知してもらい、ファンになってもらえる可 能性が生じます。  さらに、ヨコのつながりのメリットをもう一 つ挙げるとすれば、クリエイターとしての幅が 広がるということです。  どんな商品やサービスを提供している場合で も、たった一人でクリエーションをしていると、 どうしても行き詰まることがあります。  プロの画家でも、絵を描くことに飽きてし まって活動を休正してしまうことがあるくらい です。  行き詰まったときに、ジャンルが違うクリエ イター仲間とつながることで、「こうすればい い」というヒントをもらえます。  ヨコのつながりの助けによって表現や活動の 幅が広がり、活動継続のモチベーションも得ら れるのです。 CHAPTER2 まとめ ▼「会社のため」が通用しなくなった稼ぎ方2.0の時代に  優先されるのは個人の想い。共感を生み出す情熱は、  クリエイターの自己実現欲求に根差している。 ▼稼ぎ方2.0では、「ファンから共感してもらうこと」を  重視する価値観が広がりつつある。ファンに共感して  もらうことが、エングージメント(深いつながり)を  高めることにつながっている。 ▼現在は予測が難しくなっているとともに、管理が難し  くなっている時代。クリエイターエコノミーで成功す  るためには、価値基準を「予測重視」から「適応重  視」にシフトすることも求められる。 ▼今は計画どおりにいかない時代。アジャイル的な変更  を呼吸するように行なうことが大事。 ▼日本の会社組織内では、タテの人間関係が大きなウエ  イトを占めてきた。しかし、稼ぎ方一一一の時代に重要と  なるのはヨコのつながり。友だちの友だちの友だちく  らいまで含まれるゆるやかなつながりを持つことが大  事。  改めて補足すると、自己実現が重要になって きた理由の一つには、単純に人間の寿命が延び たことが挙げられます。  かつては会社人生の終わりと人生の終わりと の間には、時間的な差があまりありませんでし た。だから、会社のために働くことを目的にす る人がたくさんいました。  しかし、今や平均寿命は男性81・47年、女 性87・57年にまで延びています(厚生労働省、 2022年)。会社の定年が65歳だとすると、 約15〜20年近くさらに長生きする計算です。  会社の仕事以外に生活の軸を持っていないと、 退職後の時間を漫然と過ごさなければならなく なります。  実際に、仕事一辺倒の生活を送っていた人が 定年を迎えたと同時にやることがなくなるとい う事態が社会問題化しています。  本業後の充実した生活のためにも、会社での 仕事とは別に、自己実現につながる取り組みを 探しておく必要があります。  「自分の幸せ」を定義する  私か、まず読者の皆さんにしてほしいのは 「自分の幸せを定義する」ということです。  副業クリエイターになるとは、匸冐でいうと 「何かをアウトプットして、ファンを作ってい く」ことにほかなりません。  ただ、細かく見れば、活動のスタンスは人に よってさまざまです。「自分がアウトプットし たものにお金を払ってもらえるのがとにかく嬉 しい」という人もいれば、「収入は期待してな いけど、それよりもみんなから褒めてもらえる のが一番嬉しい」という人もいます。  もちろん、両方を同時に追求したい人もいる ことでしょう。  同じ「お金を払ってもらうことを重視する」 タイプの人でも、あくまでも本業の会社員をメ インに副業の収入を最大化したい人と、副業か ら脱出してプロのクリェイターになろうと考え る人に分けることができます。  まずは、自分が何を求めているのか、どんな 状態が自己実現につながるのかを知っておくこ とが重要です。  欧米では、すでにさまざまなタイプの副業ク リエイターが活動しています。  ファンからの反応が欲しくて目立とうとする 人もいれば、黙々と好きなものを作ってリリー スしている職人っぽい人もいます。  自己実現には正解がありません。ただ、自分 がワクワクするもの、楽しいと思える状態を追 求していくことが正解への近道といえます。  y 「感情ノート」を作ってみよう  ワクワクするもの・自分にとって楽しいと思 える状態を知るための一つの方法が、本業での 仕事をひたすら振り返ることです。  そこでおすすめしたいのが、一日の中で嬉し いと感じたこと、つまらないと感じたことなど を振り返って記述する「感情ノート」の作成で す。  感情ノートは詳細に書く必要はなく、ちょっ としたメモ書き程度でかまいません。  例えば、「上司から『○○さんは周りに流さ れずに、言うべきことをきちんと主張してくれ るから評価している』と言われて嬉しかった」 などと書いておきます。  一日の中で、都合よく感情を揺さぶる出来事 が起こるとは限らないので、最低でも1週間単 位で記述するとよいでしょう。記述が増えてい くにしたがって、ノートの精度が上がります。  記述する対象は仕事中の出来事に隕らず、就 業後や休日などに起きた出来事でもかまいませ ん。  「帰りの電車内で年配の方に席を譲ったら、と ても褒めてもらえて嬉しかった」というのでも よいのです。  ネガティブな感情ばかり記録してしまう場合 は、ポジティブな感情に絞って書くようにして ください。  一日の終わりに出来事を振り返ろうとすると 忘れてしまっていることも意外と多いので、気 づいたときにすぐにメモをしておきましよう。 もちろん手書きで紙に書いても、スマホにメモ をするのでも何でもOKです。  自分の感情に素直になり、感じたことを記録 して振り返る行為は非常に有効です。  「どういう反応を得ると自分は嬉しく感じるの か」がわかると、コミュニティを運営していく 上での方向性を決めることができると思います。 これがクリエイター活動の大きなヒントになる のです。  なお、感情ノートの作成には、自分のモチ ベーションの源泉がわかるというメリットもあ ります。  会社員として仕事をする場合は、「上から言 われたからやらざるを得ない」という理由で仕 事をすることも多々あります。  一方、副業クリエイターとして活動する場合、 サボろうと思えばいくらでもサボることができ ます。自分で目標を設定し、クリアしていかな ければならないという意味では、孤独でつらい 作業が続きます。  だから、自分自身がワクワクする・楽しいと 思えるやり方でないと、継続が難しくなります。 最初は好きで始めたはずなのに、いつの間にか クリエイター活動が苦痛になってしまうことが あるのです。  副業を楽しむためにも、自分のモチベーショ ンへの理解を深めておきましよう。  y経験の数を増やす・いろいろな情報に触   れる  本書の読者の皆さんの中には、副業クリエイ ターになりたい気持ちがあっても、何をやれば いいのかわからない人もいると思います。  「やりたいことの見つけ方」については、さま ざまな人がさまざまな方法を提示しています。 それだけ、見つけ方に悩んでいる人が多いとい うことなのでしょう。  正直にいうと、私自身はやりたいことが見つ からずに困った経験がありません。どういう見 つけ方が適切なのか、実感に照らし合わせて答 えにくいところがあります。  ただ、自分の内側からやりたいことが見つか らない人にできるのは、何かからインスピレー ションを受けることだと思います。  やりたいことを知るためには、とにかく経験 の数を増やすのが一番です。経験を通じてイン スピレーションを得られることが多いからです。  私は学生に対して、「とにかくあらゆる種類 のアルバイトをしたほうがいいよ」と、しばし ばアドバイスしています。  1つのアルバイトだけをしている場合、たと えその仕事に楽しさを感じていても、最もやり たかった仕事なのかどうかはわかりません。い ろいろなアルバイトに取り組めば、一つひとつ の仕事を比較しながら自分が他人より得意なこ とや、モチベーションが湧く対象に気づけます。  だから、とにかく何でもやってみるべきです。  いろいろな情報に触れることも重要です。  私は昔から週に一度程度、書店の雑誌コー ナーをすべて見て回るのを習慣化しています。 周囲の人にもおすすめしている習慣です。  雑誌コーナーには、政治経済誌や文芸誌、女 性誌、育児誌など、さまざまなジャンルの雑誌 が並んでいます。興味のある棚はもちろん、興 味のない・薄い棚も徹底的にチェックするのを 自分に課しています。  雑誌コーナーの棚を一通り眺めて、気になっ たタイトルがあれば、パラパラとページをめ くってみます。そうやって雑誌を見ていると、 不思議とインスピレーションが湧いてくるので す。  私か仕事をする上で、直接的に学びが多かっ たのは女性ファッション誌です。  女性ファッション誌には、ティーン向けもあ れば60代向けのものもあります。ティーン向け の雑誌を読むと、レイアウトがごちゃごちゃし ていて、すんなり情報が入ってきません。ご ちやごちやしているから悪いのではなく、若者 に好まれるレイアウトを追求した結果、そう なっているのだろうと推測できます。  一方、ミセス向けの雑誌を見ると、レイアウ トは整然としていて、フォントも大きく読みや すくなっています。私かアプリを作る際には、 こういった違いを参考にしていました。  何かの情報に触れると、そこからインスピ レーションを得られます。興味の対象を狭めず に、いろいろな情報に触れてみるとよいでしよ  「情動」を起点に動く  次にお伝えしたいポイントは「情動を起点に 動く」です。  「情動」を起点にする理由は2つあります。一 つは、情熱がエングージメントの高いファン作 りにつながるからです。  人は情熱を持って何かに取り組んでいる人に ひきつけられます。ファンコミュニティを作っ て維持する上で情熱は不可欠な要素といえます。  2つ目は自分のモチベーションを保つためで す。  もちろん、前述したようにモチベーションの 源泉は人それぞれです。お金さえ得られればモ チベーションが続く人もいます。  私の周りにも自分ではゲームをまったくやら ないのに、ゲーム会社を経営している人がいま す。その人はゲームが好きではなく、まったく 思い入れもないのですが、マーケットがあるか らという理由でゲームを作り、まとまった収入 を得ています。  こんなふうに割り切ったスタンスで取り組む ケースもないわけではないですが、全体的に見 れば少数派です。  基本的には、自分が取り組む対象に思い入れ や情熱がないと、途中でモチベーションダウン してしまう可能性が高まります。クリエイター エコノミーでは情熱を持つ人ほど長続きしてい るのは間違いありません。  情動の力でファンをつかむためには、メッ セージを伝えることが重要です。  伝える手段は、「言葉で伝える」と「もので 伝える」の大きく2通りに分かれます。  言葉で伝えるとは、「自分がなぜそれをやっ ているのか」をストーリーにして伝えるという ことです。  ストーリーにはいくつかのパターンがありま す。  例えば「幼少期に不幸な出来事に直面したこ とで、○○に興味を持って取り組むようになっ た」といった原体験を語ると、受け手は感情移 人しやすくなります。  「自分も似たような経験をしたことがある」 「大変そうだなあ」という共感を得ることで、 ファンになってもらえる可能性が高まります。  あるいは、商品やサービスへのこだわりポイ ントを語ることで共感を得るパターンもありま す。  「こんな細部までこだわっている」「ここまで 練習を積み重ねている」という過程を伝えて ファンの心を動かすわけです。  ほかには社会的使命感をストーリーにして伝 えるパターンもあるでしょう。「○○を実現す るために売上の一部を社会貢献活動にあててい る」といったストーリーも共感につながります。  一方、もので伝える代表例は手の込んだ工芸 品などです。  明らかに時間をかけて作ったということが伝 われば、作り手の情熱は伝わります。カンプラ でも彫刻でも、見る人が見ればどれだけ手間暇 がかかっているのかがわかります。  言葉でストーリーを語るのが苦手なタイプの 人は、ものづくりに精魂を込めればメッセージ を伝えることができるはずです。  y本業との兼ね合いを考える  稼ぎ方1.0の時代は、本業に取り組む時間が仕 事に費やす時間のすべてでした。  これに対して、会社員の副業クリエイターが キャリアを作る場合、本業と副業の兼ね合いを 考える必要があります。  基本的には、多くの人が平日の始業前か就業 後、そして休日に副業に取り組むことになりま す。副業に取り組んだ結果「お金のために四六 時中仕事に追われる生活を送るようになった」 と考えると、精神的な負担が大きくなってしま います。  だからこそ、前述したように副業は情熱を 持って取り組めるものであることが重要です。  特に副業をしている時間は「働いている」と いう気分にならないほうがいいと思います。単 純に楽しくてクリエイター活動をしている時間 になるのが理想的です。  充実したクリエイター活動をするためには、 本業に取り組む際の意識も変える余地がありま す。  現在は働き方改革の浸透によって、会社員の 労働時間は総じて減少傾向にあります。ただ、 その中でも長時間労働を強いられる職場に勤務 している人は、定時で退社できる会社に転職す るのも一つの方法です。  もしくは本業への時間のかけ方をセーブする 方法もあり得ます。本業はライフワークとして 割り切り、会社から怒られない最低限の仕事を するスタンスです。  ただし、このスタンスが取れるのは安定して いる企業の正社員に限ります。また、自分の市 場価値が下がるという意味で、かえって会社へ の依存度が高まってしまうというデメリットも 覚悟しなければなりません。  私自身は、平日は基本的に本業に注力し、土 曜日は副業やインプットにあて、日曜日は趣味 にあてるというスケジュールで取り組んでいま す。  無理なく続けるためには、ある程度平日と休 日で本業と副業を使い分けるのが望ましいとい えます。  平日に副業に取り組む場合は、昼休みや就業 後のちよつとした空き時間に副業のための フィードバックをチェックしたり、情報収集を したりするなどの細かい作業にとどめておくと よいでしょう。  いずれにしても、自分でスケジューリングし て取り組んでみて、モチベーションが持続する かどうかを確認することが重要です。 時間ではなく「仕事の内容」で自分 を評価する  「会社のためではなく、自己実現のために仕事 をする」  そういわれても、会社で本業をしている以上 は会社のために頑張らなければいけないのでは ないかと考える人も多いと思います。  会社の期待にどれだけ応えられているのかわ からず、とにかく与えられた仕事をたくさんこ なそうとしているかもしれません。  そんな人は、考え方のパラダイムシフトを行 なう必要があります。  会社はもはや人生を預ける対象ではありませ ん。「会社あっての自分。会社によって自分が 生かされている」という考え方から、「まず自 分かあって、自分の一部が会社に貢献してい る」という考え方への転換を図るのです。  稼ぎ方1.0の時代は、会社の仕事が人生の中心 を占めていました。  労働時間も長く、休日も疲労を回復させるた めのもの、という位置づけで捉えられ、家族や 友人との時間はないがしろにされてきました。 よくある頭の中を円グラフにした図でいうと、 8〜9割が会社の仕事で埋められているような 状況です。  しかし、稼ぎ方2.0の時代はZ世代を中心に、 会社以外の要素を重視する考え方へのシフトが 進んでいます。  会社の仕事だけでなく、家族とのつながりや 友人関係、趣味や副業などの要素がすべて充足 してはじめて人生が充足すると考えるように なっています。  副業で成功したいのなら、やはり会社に依存 する思考から自律的な思考へとシフトをしなけ ればなりません。  パラダイムシフトをする上で、まず行ないた いのが「自分が仕事をしている時点で、すでに 会社に貢献していると信じる」と考えるという ことです。  囗本の大企業は総合職採用を行なっているの で、社員は会社からいわれたことはすべてやら ないといけないという思い込みがあります。し かし、ジョブ型雇用の欧米では、入社時から期 待されている仕事の内容が明確です。期待され ている仕事をきちんとこなしていれば、それ以 外の仕事をする必要はありません。  「会社の期待に応えられているか不安。もっと 会社に貢献しなければ」などと思い悩む余地が ないのです。  これから日本でもジョブ型雇用の導入が進む わけですから、このようなジョブ型のマインド セットを持っておいて損はないでしょう。  「求められる最低限の仕事をしているだけで、 会社のためになっている」と考え、胸を張って いいのです。  ジョブ型のマインドセットに転換できれば、 会社の仕事は定時できちんと終わらせて、帰宅 後はクリエイター活動に注力するという切り替 えもしやすくなるはずです。  実際に、アメリカではフルタイム就労者の 43・O%が副業をしているというデータがあり ます。もちろん、コロナ禍で生活のために副業 をせざるを得ない人が出ているという理由も否 定できませんが、副業をポジティブに捉えてい る人が多いのも事実です。  私の周りでも、副業をしている欧米人は相当 な数に上ります。公務員でも副業はできる場合 もありますし、副業が文化になっているのを実 感します。 社会との「接点」をたくさん持つ  本書では、話をわかりやすくするために「本 業である会社員の仕事」と「副業であるクリェ イター活動」を区分して語ることが多いですが、 実際には本業と副業を明確に分ける必要はあり ません。  本業=嫌なこと・やらざるを得ないこと、副 業=好きなこと・やりたいこと、という分け方 も表面的すぎると思います。  本業と副業は決して対立しているわけではな く、本来はゆるやかにつなかつているものです。  なぜかというと、一人の人間は会社の一社員 だけでなく、家庭人や地域人など、さまざまな 側面を同時に持っているからです。  人はいろいろな側面を持っているなかで、お 金に換算できるスキルを通じて社会につなかつ ています。  世の中には、会社で仕事をすることでお金に 換算できるスキルを発揮している人が多いとい うだけで、本業だけで社会とつなかつているわ けではありません。  例えば、私はドラムを叩くのが好きで、かつ てレストランでドラムを叩くという副業をして いた経験があります。  ドラマーとして出演料をもらっていたわけで はないですが、ドラムを叩いたあとには、まか ないの食事をさせてもらっていました。まかな いの食事が出演料代わりです。  ドラムを叩くとレストランで美味しい食事が できるし、オーディエンスにも喜んでもらえる。 そんな体験をして自己肯定感が上がりましたし、 お金とは別のバリューを得ることができました。  これは、自分の中にある何かを社会とつなげ る一例だと思います。  自己実現を目指す方法はさまざまです。あえ て本業と副業を区別せず、あらゆる側面から自 己実現の可能性を探っていくのがクリエイター の発想ではないでしょうか。  とにかく重要なのは、自分が持っている可能 性を最大化して社会とつなげることです。  その視点に立てば、本業への向き合い方に変 化が生まれてくるかもしれません。例えば、本 業で自己実現につながりやすいプロジェクトに 取り組むとか、自己実現につながりそうな部署 への異動を目指すといった行動が考えられます。  これまでは、会社からの指示に従って与えら れた仕事に黙々と取り組むケースが多かったと 思いますが、自己実現のために会社のリソース を使うという発想へと180度転換するのです。  もし会社の仕事に自己実現につながる要素が まったくないと感じられる場合は、転職をして 別の会社で働く選択肢もあり得るでしょう。  そのためには、まず「どんな仕事が自己実現 につながるのか、その仕事が会社の中にあるの か」を確認する必要があります。  自己実現につながる仕事が社内にある場合に は、戦略的に取りに行きます。  「ちょっと隣の部署の仕事に興味があるので、 手伝わせてください」などとアピールして、積 極的に関わっていくのです。  「会社を利用するなんて、なんだかズルい発想 だ」  「会社を自分の都合のいいように使っているだ けじゃないの」  そういいたくなる気持ちもわからないではな いですが、それは典型的な稼ぎ方1.0の考え方で す。  会社を利用することは、ズルいことでも何で もありません。  先にもお話ししたように、私たちは一定のア ウトプットをベースにお金をもらっているプロ です。求められた仕事をこなすだけで、最低限 の義務は果たしています。義務を果たしている 以上は、自分本位で会社を使っても悪いことな どないのです。  まずは、本業の会社内でどのように働き方を 変えられるかを考えてほしいと思います。 「何が仕事で何が遊びかわからな い」を目指す 「複数のキャリアを作りたいという思いは強い けれど、忙しくて現実には難しそう」  「仕事が2つになると考えると、負担が大きそ う」  そんなふうに感じる人は、公私の境界線を曖 昧にすることを目指しましよう。  私か知り合いのクリエイターを見ていると、 「公私の区別がない」という点が共通していま す。  専業クリエイターだけでなく、副業クリエイ ターも何か仕事で何か遊びなのかよくわからな いような生き方をしているのです。  「何か仕事で何か遊びかわからない」は、面白 いものに貪欲な姿勢に通じます。  クリエイターは、会社で取り組む業務であっ てもプライベートの趣味であっても、とにかく 面白そうなものは積極的に経験しようとします。 自分で経験してみて、何かを得たいという強烈 な欲を持っています。  あらゆる経験を通じて得た知見をアウトプッ トに昇華させているのです。  会社のために嫌々仕事をしている人、やらさ れ感の強いままズルズル働いている人は、本業 との関わり方を変える必要があります。  おすすめしたいのは、会社の仕事の中から面 白そうな仕事を見つけていくことです。  面白い仕事をしていれば、必然的に公私の区 別は曖昧になっていきます。それが難しいので あれば、前述したように転職を選ぶ選択肢もあ ります。転職して、公私の区別がない働き方を 目指せばいいのです。  もちろん、完全に割り切って会社にぶら下が るのも一つの方法ではあります。本業では最低 限の仕事だけをこなし、定時ピッタリに帰宅し て副業に取り組む。実際にそういうスタンスで 活動している人もいます。  ただ、失敗すると本業とのモチベーション ギャップが大きくなるリスクがあります。本業 の時間があまりに苦痛すぎるせいで、副業にも 悪影響が出たら元も子もありません。  だから、できれば本業と副業をつなぐコネク ションを持っておくのが理想です。  「文章を書く」とか「プレゼンをする」とか使 うスキルがつなかつているだけでも十分ですし、 「本業と副業がつなかつている」と自分が信じ ているだけでもかまいません。  いずれにせよ、本業=つまらない、副業=本 来の自分で生きられる楽しい時間、というのは ただの思い込みです。  最近は、VRワールドやメタバースの世界で 本業とはまったく別の人格を生きることが可能 になっていますが、私か見る限り、「現実世界 がつらくて苦しいからバーチャルな世界に居場 所を確保している」という人は意外と少数派で す。  むしろリアルが充実している人が、別の人格 を楽しんでいるというケースが結構多いのです。 例えば、私の友人に自宅でVRチャットに( マつている人がいますが、その人はリアルでも パーティ好きです。ただ、別人格を生きている というだけで、同じように人との関わりを楽し んでいるのです。  本業も副業も楽しめる人が、クリエイターと しても成功すると考えたほうがよいと思います。 CHAPTER3 まとめ ▼「自己実現」でまず大事なのは、「自分の幸せを定義  する」ということ。自分が何を求めているのか、どん  な状態が自己実現につながるのかを知っておくことが  重要。 ▼ファンコミュニティを作って維持する上で「情動」は  不可欠。クリエイターエコノミーでは情熱を持つ人は  ど長続きしている。 ▼会社はもはや人生を預ける対象ではない。「会社あっ  ての自分。会社によって自分が生かされている」とい  う考え方から、「まず自分があって、自分の一部が会  社に貢献している」という考え方への転換が必要。 ▼重要なのは、自分が持っている可能性を最大化して社  会とつなげること。あえて本業や副業を区別せず、あ  らゆる側面から自己実現の可能性を探っていくのがク  リェイターの発想。 ▼「何が仕事で何が遊びかわからない」は、面白いもの  に貪欲な姿勢に通じる。公私の境界線を曖昧にするこ  とを目指すべき。 共感を得るためにまずは「自ら共感 する」  最初に強調したいのは、まず「自分自身が共 感する」ことの重要性です。  クリエイターとしてファンの共感を得るため には、ファン心理を知る必要があります。ファ ン心理を知るためには、実際にファンコミユニ ティに参加してみるのが最善の方法です。  世の中にはクリエイターが主催する多種多様 なサロンやコミュニティがあります。そういっ た集まりに参加してみるのをおすすめします。  もっと(Iドルが低くてすぐにできるのは、 SNS上でファンとつながることです。 FacebookのグループやにZ冖のオープンチャッ ト、Twitterのコミュニティなどに参加して、 自分がベンチマークとしているクリエイターの ファンの人だちとコミュニケーションを取って みるのです。  コミュニティ内でファンの人たちが取ってい るリアクションを丁寧にリサーチすることを意 識しましよう。  みんながどんなポイントで喜んでいるのか、 あるいは悲しんでいるのかといった感情の動き を知る。そして、その感情に共感するのです。  「なるほど。こんなメッセージの伝え方をする と響くんだな!・」  「みんな、こういうポイントで興奮するんだ」  といった気づきを増やしていくのです。  人の感情が揺さぶられるポイントは多種多様 です。例えば「歌」に隕ってみても、歌詞に心 が揺さぶられる大もいれば、声色に感動する大 もいますし、メロディに感動する大もいます。 そういった細かいポイントを探って知ったり共 感したりする経験が、自分自身の副業クリエイ ター活動の大きなヒントとなります。  もっと簡単なのは、クリエイター自身のSN Sをフォローして定期的にチェックするとか、 「#○○ファンとつながりたい」といった(ツ シュタグをひたすら追っていき、みんなの発信 を見てみるといった方法です。  私は、有名な歌手が作詞をする際、Twitter でひたすら検索をして共感しやすい歌詞を探っ ているという話を聞いたことがあります。  例えば恋愛の曲を作るとき、Twitterで一般 人の恋愛に関するつぶやきを探して、そういっ たものからインスピレーションを得て、みんな が感情移入しやすい歌詞を作っているというの です。  「恋愛ソング」というと自分自身の体験や感情 を基に、自分の内側から湧き上がってくる表現 が共感を呼ぶと思われがちです。しかし、実際 にはマーケティング発想で作られた曲がヒット している現実があるわけです。  このエピソードは、裏を返せば誰もがみんな の共感を得られることを示唆しています。  特別な才能やひらめきがなくても、みんなの Twitterのつぶやきから共感を得る表現のネタ が見つかるわけです。  そもそもSNSが普及する以前は、市井に暮 らす人がどのような感情を持っているのかを知 る手段はほとんどありませんでした。  しかし、今は匿名性があるSNS上でさまざ まな人が素直な本音をつぶやくようになってい ます。つまり、誰もが労せずして、他人の心の 動きをリサーチできる時代が到来しているので す。  SNSにあふれている情報の多くはオープン になっています。自分がたくさんのフォロワー を持っていなくても、検索をするだけで瞬時に 探し出せます。  せっかく人の心の動きを知り、ファン心理を 学ぶチャンスが転かつているのですから、積極 的に活用しない手はありません。  人の心の動きを知って、「わかるわかる」「自 分もそう思う」と共感する機会を作る。これが 共感思考を身に付けていく第一歩となります。  「大きな市場」より、企業にはでき ない「ニッチな問題解決」を狙う  前項のようにリサーチを行なったら、次に取 り組みたいのがターゲット市場の設定です。  ここでのポイントは、大きな市場を狙うので はなく、企業にはできない「ニッチな問題解 決」を狙うということです。  なぜ大きな市場を回避するかというと、大き い市場には必ず企業が参入しており、個人で太 刀打ちするのは困難だからです。現在は企業が 参入していない市場であっても、後追いで企業 が参入してきた場合、個人の副業クリエイター には勝ち目がありません。  だから、最初から企業が相手にしないような 小さな市場をターゲットにすることが肝心なの です。  クリエイターエコノミーの魅力は、ゆるく、 細く、サステナブルに取り組めるところにあり ます。自己実現のベクトルはさまざまですが、 クリエイター活動を通じて人生を豊かにできる という共通点があります。  その意味では、身の丈に合った規模感が最も 重要です。企業がやろうとすると採算が取れな いけれども、個人がやれば十分なリターンが得 られる規模感が狙い目となります。  身の丈に合った小さな市場を見つけるコツの 一つは、身近な大が抱えている課題を見つける ことです。  とりあえずは、身近な一人の大だけを見て、 その人の問題解決を試してみましよう。そこか ら、自分に合った市場が見つかる可能性があり ます。  例えば、ママ友がPTAで作成する文書の作 成に悩んでいたので、添削を手伝ってあげるな ど、ちょっとしたことでよいのです。  ニッチな問題解決を狙うのと関連して、なる べく小規模で活動することにも意味があると思 います。  例えば、世の中にはスマホでPodcastの音声 を録音し、個人で配信している人がたくさんい ます。  スタジオで収録しているわけでも、特別な機 材を使っているわけでもないので、音質が良い とは限りません。それでも、コアなファンがつ いている番組はたくさんあり、番組にメッセー ジが寄せられたり、リスナーを集めて公開録音 を行なったりしています。  小規模で取り組むメリットの一つは、活動し ている姿がダイレクトに見えることです。クリ エイターとファンの距離感の近さが共感を生み 出すわけです。  そしてもう一つのメリットは、バイアスがか かりにくいということです。  今、多くの人はテレビや新聞などのメディア に疑心暗鬼になっています。 「どうせスポンサーに配慮して、言いたいこと が言えないんじやないの?」  「誰かに忖度して自主規制しているに決まって いる」  こんなふうに疑いの目を向ける風潮がありま す。   一方で、規制がゆるいインターネットの世界 で個人が行なっている表現には、比較的自由が 担保されています。既存のメディアに満足でき ない人が、そこに面白さを感じているという側 面があります。  ですから、クリエイターエコノミーに参加す る上では、小規模ならではの「小回りのよさ」 や「自由度」を意識するのもポイントといえま す。 完成品を待つのではなく、「制作過 程をすべて」公開する  稼ぎ方1.0の時代は、商品やサービスは完成し てからリリースするものと相場が決まっていま した。しかし、今の時代は制作過程に価値が見 いたされるようになっています。  完成品を作って売るだけではなく、制作過程 から収益を得ることを「プロセスーエコノ ミー」といいます。この概念は起業家のけんす う(古川健介)氏が提唱したのをきっかけに知 られるようになりました。  アイドルグループがメンバーオーディション の過程を公開しているのも、制作過程に価値が あるからです。これこそ、まさにプロセスーエ コノミーにほかなりません。  アイドルのファンは、メンバーがアイドルと してデビューし、成長する過程を見ながら共感 を深めていきます。制作過程は共感を得る上で の欠かせない要素であるといえるのです。  クリエイターエコノミーの世界でも「過程を 見せて共感を得る」コンテンツが増えています。  例えば、YouTubeでは「アンボックス動画」 が人気ジャンルの一つに定着しています。アン ボックス動画とは、商品のパッケージを開封す る(戉浮足)ところから撮影し、その商品の特 徴などをレビューする形式の動画を指します。  新しいiPhoneなどが発売されると、いち早 く手に入れたユーチューバーがアンボックス動 画を投稿するのが恒例となっています。  アンボックスは、もともとガジェットのレ ビュアーが新商品のレビュー動画を作っていた ところから派生したコンテンツだと思われます。  特にアップル製品は外箱もスタイリッシュで 美しかったので、外箱の様子から開封するまで のプロセスもレビューの一部として捉えられる ようになったというわけです。  淡々と商品の特徴だけを紹介するのと違い、 開封の過程を見せることで、視聴者は開封する 瞬間のワクワク感を追体験し、その商品を買わ ない人までもが買ったような気分で盛り上がり ます。  このアンボックス動画などは、視聴者の共感 度を高めるテクニックの一つであり、プロセ スーエコノミー的な要素を感じます。  アンボックス動画に限らず、クリエイター活 動をする上では、どんどん制作過程を公開して いくべきです。  特に個人で活動する場合、最初からうまくい くことなどありません。だから、完成品を待つ のではなく、失敗の過程をコンテンツにしてい けばよいのです。  「こんなものを作ろうと思ったんですけど、う まくいきませんでした」  そういった失敗の過程を臆せず公開し、エン ターテインメントとして楽しんでもらえば、 ファンの共感度は高まります。  たとえ失敗しても「トータルで見れば面白 い」「次は頑張ってほしい」といったポジティ ブな反応を引き出せれば、成功といえます。  「ナラティブ」を作る  次にお伝えしたい行動が「ナラティブを作 る」です。  ナラティブ(回2牙乙は「物語」「語り囗」 といった日本語に訳されます。映画やドラマな どで行なわれる「ナレーション」は、ナラティ ブと同じ語源の言葉です。  ナラティブとストーリーは、意味合いが異な るとされています。ストーリーは物語の内容や 筋書きを表すのに対して、ナラティブは語り手 が主体となって自由に語ることを意味します。  また、ストーリーが物語を一方的に語るのに 対して、ナラティブは語り手と聞き手の対話を 想定しています。  ビジネスにおいてナラティブが注目されるよ うになっだのは、企業が決められたストーリー を語るよりも、ユーザーと対話をしながら自由 に語ることに価値が見いたされてきたからとい えます。  2022年、人気スマホアプリゲーム「ウマ 娘プリティーダービー」と、サントリーのコー ヒー「啣OS」がコラボキヤンベーンを実施し ました。そのとき、サントリーの商品企画担当 が「啣OS担当者の想い」という文章を発表し、 大きな話題となりました。  「∽OS担当者の想い」は、コラボ企画が実現 するまでの経緯や、コラボ企画への熱い想いを したためたものであり、1万字を超える長文で す。  企業がリリースしがちな定型的な文章とは異 なり、自分自身がゲームに夢中になり、ウマ娘 の世界にどっぷりハマつていったエピソードが 綴られていて、その思い入れの強さがウマ娘 ファンからも好意的に受け止められたのです。 これなどは、ナラティブの成功例の一つといえ ます。  別の例を挙げると、「よなよなエール」など のクラフトビールで知られるヤッホーブルーイ ングが、2022年8月に低アルコール飲料 「正気のサタン」を発売した際の紹介ページも 反響を呼びました。  掲載された文字数は、なんと2万4955文 字。単に商品の魅力や素晴らしさを語るだけで なく、開発までの苦悩や試行錯誤を赤裸々に 語っているところがユニークであり、注目を集 めたポイントでもありました。  日本では、すでにノンアルコール・低アル コール飲料市場が確立されており、ヤッホーブ ルーインクは後発参入の企業でした。ありきた りのマーケティングでは、既存の商品に対抗す るのは至難の業です。そこで発信されたのが、 長文の開発秘話だったというわけです。  サントリーとヤッホーブルーインクの事例に 共通するのは、企業の公式なメッセージではな く、個人的な想いが多くの人の心に響いたとい う点です。  企業も個人の想いの重要性に気づいており、 担当者の自由な発信を応援しようとする傾向が 見られつつあります。  副業クリエイターは基本的に個人で活動して いるわけですから、個人的な想いを伝える上で 材料に困る心配はありません。ぜひ個人的な物 語を積極的に語るべきです。  y物語を語るときのポイント  物語を作って語るときのポイントは大きく2 つあります。  一つは、前述したように「個人的な想いを積 極的に開示する」ということです。エングージ メントの高いファンを作るには共感が絶対に必 要であり、個人的な想いは共感を生む大きな力 となります。  2つ目は、「なぜこれをやろうとしたのか」 という動機を語ることです。  スタートアップでも、経営者が株主やステー クホルダーに向けて「なぜこの会社を始めたの か」という動機を語っている姿をよく目にしま す。  それを見ていると、幼少期の不幸な体験や失 敗経験などをきっかけに、その壁を越えるため に取り組もうとした動機を語るヶIスが多いで す。動機は説得力につながり、共感を高める力 を持っています。  そして3つ目は、「課題意識を伝える」こと です。  課題意識は実体験に基づくものでもよいです し、友人や宗族の体験に基づくものでもかまい ません。  課題を解決するために取り組もうとする物語 は、多くの人の共感と支持を集めます。特に、 「社会的弱者を助ける」「環境問題に取り組む」 など、社会的課題の解決に取り組む姿勢は共感 を呼びやすくなります。  なお、ナラティブは商品やサービスをリリー スするときにだけに活用するものではありませ ん。  商品やサービスをリリースしたあと、新たな 物語の素材となるのが初期のユーザー(ファ ン)の声です。いろいろな企業が「お客様の 声」「体験者の声」などの情報を公開していま すが、これはユーザー同士の共感を呼びやすい からです。  あるいは、ユーザーからのフィードバックを オープンにして、次の商品・サービス開発に生 かすのも共感につながりやすくなります。これ は一種の共同開発であり、すでに言及したよう な共犯関係作りに通じる効果があります。  ちなみに、こういった共犯関係作りで成功し ているクリエイターの代表例が西野亮廣さんで す。西野さんは「制作過程を売る」という手法 にいち早く目をつけ、ファンを巻き込んで無料 の個展を開催するなどの取り組みを行なってき ました。ファンが西野さんのプロジェクトに参 加することそのものをエンターテインメント化 しているのです。  よく「神輿は見ているよりも担ぐほうが楽し い」といわれます。西野さんのファンにとって は、自分も物語の一部に加わっているという実 感が大きな満足感につながります。  クリエイターがファンを自分の物語に巻き込 む上では、祝祭感の演出や参加しやすい仕組み 作りが重要です。  西野さんは、自らオンラインサロンを主催し、 定期的にサロンメンバーにメッセージを発信し、 さまざまなプロジェクトへの参加を呼びかけて います。  やはりクリエイターとファンが物語を共有す るにあたっては、クローズドなコミュニティ作 りが有効といえます。  コミュニティを作るツールには、第1章で前 述したPatreon(パトレオン)などのクリエイ ター支援プラットフォームがたくさんあります。  西野さんのような有名人でなくても、誰でも 小さいコミュニティを作ることが可能な環境は 整っています。コミュニティを作り、そこで共 感しやすい物語を語っていけば、クリエイター 活動は成功しやすくなるはずです。  「1万人のフォロワー」より「エン グージメントの高い100人のファ ン」を作る  コミュニティを作ることにも通じる話ですが、 クリエイターエコノミーではフオロワー数を増 やすよりも、エングージメントの高いファンを 作れるかどうかが成功のカギを握ります。  確かにヨコのつながりを作る上では、SNS 上にフォロワーを得ておくことに意味はありま す。しかし、たくさんの人にフォローしても らっているだけでは、情報ソースが多いという ことにすぎません。  普通の会社員である副業クリエイターがファ ンからお金を得るには、それなりの(Iドルを 越える必要があります。SNSでつなかつてい るフォロワーは、商品やサービスを見て「面白 そう」「いいですね」と言ってくれるかもしれ ないですが、お金を払うとなると非常にシビア な評価をします。  「無料だったら商品やサービスを利用してもい いけど、お金を払うんたったら別にいらない」 という人が大半です。  だから、「フォロワーの数をひたすら増やせ ば、その○%くらいはお金を出してくれるだろ う」と考えるのは短絡的です。  副業クリエイターを成立させるためには、S NSのフォロワーからファンになってもらう必 要があります。ファンになってもらうことで、 何らかの商品やサービスを買ってもらえるよう になり、はじめて収益化への道が開かれるので す。  今までやみくもにフォロワーを増やそうとし ていた人は、濃いファン作りへと発想を転換し ましよう。  SNSで最低限のフォロワーを確保しておく 必要はありますが、あくまでもフォロワーは情 報でつなぎとめている状態です。フォロワーを キープし続けるためには、それなりの情報を定 期的に発信する必要があります。  常にネタ切れの不安を抱えつつ、フォロワー を維持する努力を続けなければなりません。最 終的に、何のために努力しているのかわからな くなり、モチベーションを失う可能性もありま す。  一方、フオロワーの数はそこそこでも、固定 ファンがつけば収益化かできますし、クリエイ ター活動に注力もできます。  ここでは1万人のフオロワーではなく「エン グージメントの高い100人のファン」として いますが、100人というのはあくまでも目安 の数字です。絶対に100人のファンが必要と いうわけではありません。  ただ、100人くらいのファンがつけば、か なり自由度の高いクリエイター活動ができるは ずです。1万人のフォロワーよりも、100人 のファンのほうが大きな価値があるのは間違い ありません。  y リアルイベントでファンを増やす  具体的なファンの増やし方ですが、最初は友 だちや友だちの友だちくらいの関係の近しい人 からファンになってもらうのが好都合です(た だし、個人を特定されたくない場合、この方法 は使えません)。  そこからファンを増やしていく方法の一つが、 前述したコミュニティ作りです。有料コミュニ ティを作っても参加者を獲得するのが難しいの で、最初は無料から始めるのが基本です。  おそらく、最初の10〜20人のファンがつくま では、コミュニティ内にいろいろなファンが入 れ替わり立ち替わり入ってきて、試行錯誤が続 くと考えられます。  その試行錯誤の中で、熱心なファンが一人く らい見つかれば可能性が広がると思います。熱 心な一人のファンが何を期待しているのかに注 目して、その期待に応えていけば、似たような ファンが少しずつ増えていく可能性があります。  また、熱心な一人のファンが、別のファンを 呼び込んでくれるかもしれません。  あるいは、イベントを開催するのも有効な方 法です。  インターネット上で、個人が自分で作った商 晶やサービスを1000円で買ってもらうのは 結構なハードルです。  例えば自作の詩集やラジオの音源に1000 円の値をつけたとして、1000円でも喜んで 買ってくれる人はごくごく稀だと思います。  けれども、コミュニティの中でオフ会を開催 し、1500円の会費を徴収することは比較的 簡単です。  やはりクリエイターとファン、ファン同士の 結びつきを強めながら、コミュニティを固めて いくのが原則です。クリエイターが提供してい る商品やサービスの価値だけでなく、コミュニ ティに参加することに価値を感じてもらえるか どうかが重要です。  なお、イベントを行なう場合、オンラインイ ベントよりリアルイベントを行なうほうがエン グージメントを高める効果があります。  イベントはあくまで収益化のための手段であ る以前に、エングージメントを高めるための手 段です。  人は直接会って話をすると、「情」が生まれ ます。リアルイベントを開催すると、ファンに 親しみを感じてもらうことができ、コミュニ ティへの定着効果が得られるのです。  イメージしやすいように例を挙げると、 Podcastで音声コンテンツを配信している人が、 公開収録と飲み会を兼ねたイベントを開催する ケースがあります。  みんなが集まった場所で、番組の企画を話し 合い、その結果が次の番組作りに反映されれば、 ファンのエングージメントは確実に高まります。  別に数十人を集めないとイベントを開いては いけないなどという決まりはありません。 「イベント」というと、仰々しく考えがちです が、単純に「オフ会」「飲み会」というイメー ジで考えれば取り組みやすくなると思います。  「オフ会」「飲み会」は数人でも参加者が集ま れば成立します。副業クリエイターが開催する イベントも同じです。仮にコミュニティに30〜 40人が参加していたとして、そのうち1割の3、 4人がリアルイベントに参加すれば十分です。  数人が集まって共通の話題で盛り上がり、楽 しい時間を過ごすだけでも大成功です。  20〜30人も集まるイベントを開催できると なったら、相当なファンを獲得しているといっ ていいでしょう。そこまでくれば副業クリエイ ターとして相当うまくいっていると自信を持っ ていいと思います。  100人近くの固定ファンが定着したら、コ ミュニティの中で有料会員向けコンテンツを 作っていくのもよいでしょう。 さまざまな「タッチポイント」を通 じてコミュニケーションを取る  ファンの共感を深めていく上では、さまざま なタッチポイント(顧客接点)を通じてファン とのコミュニケーションを取っていくことが大 切です。  「コミュニケーションを取る」とは、リアルや オンラインでファンと関わる機会を作ることが 第一に挙げられます。前項でお話しした飲み会 やオフ会などは、まさに有効なタッチポイント といえます。  それ以外に、さまざまな商品やサービスの提 供もタッチポイントを増やすことにつながりま す。  そもそも副業クリエイターが最初から1つの 商品やサービスで成功するのは困難です。挑戦 できそうなことは一通りチャレンジしてみて、 そこからファンの共感を得られそうな内容に絞 り込んでいくことが有効です(そこでのファン からのフィードバックの取り方については後述 します)。  第3章では情動を起点に動くことの重要性を お伝えしましたが、想いが熱ければ熱いほど、 1つのことにこだわってうまくいかないケース が起こり得ます。サンクコストにとらわれたり 自分を信じすぎたりして、身動きが取れなく なってしまうのです。  想いの熱さは重要ですが、それがファンには 受け入れられない可能性は覚悟しておく必要が あります。相Jいが受け入れられない場合は、柔 軟に別のアプローチを試してみましよう。 「人間味」を出す  副業クリエイターの中には、ファンの前で自 分を良く見せようとするあまり、無理をしてい る人が多いように感じます。  しかし、ファンは副業クリエイターのカリス マ性や格好の良さに共感するわけではありませ ん。共感を呼ぶのは人間らしい部分です。だか ら自分のダメな部分も恐れずにオープンにすべ きです。  要するに「格好をつけすぎるな」ということ です。  前述した「ナラティブを作る」の項目では、 失敗やうまくいかなかった経験も含めて試行錯 誤を公開することに意義があるとお話ししまし た。  「不完全で、ちっとも完璧ではなく、クールで もないけれど、そこに自分と距離感の近い人が いて、その人が頑張って何かを作っている」  そういう姿をありのままに見せることが共感 につながります。  制作過程の失敗はあえて隠す必要はありませ ん。繰り返しますが、失敗の過程もエンターテ インメントとして楽しんでもらうつもりで取り 組みましよう。  「英会話を学びたい一心で○○や口口などを やってみたけど、うまくいかずに挫折してし まった。そんな回り道を経験して、英語を学び たい初心者のためにわかりやすい教え方を考え るようになった」  そんな経験を伝えると、ファンは「自分にも できるかも」「自分もやってみよう」という勇 気が得られます。  人間味を出すという意味では、制作過程の失 敗を語るだけでなく、自分の人生の失敗談など を語るのもよいと思います。ただし、あまり自 分語りに偏ると鬱陶しさが生じるので、あくま でも自分が扱っている商品やサービスに関連し た失敗談にとどめておくとよいでしょう。  なお、人間味を伝えるにあたっては失敗談以 外にも、好きなことを熱っぽく語ることも大切 です。  「この人、○○が好きすぎてどうかしている」  「○○への愛か異常すぎて、すごすぎる」  こういった熱狂が人間味として伝われば、共 感度はアップします。 「切り口」を作る  クリエイターエコノミーにチャレンジしたい と考えている人からよく聞く悩みの一つが、 「やってみたいけど、商品やサービスに自信が 持てない」というものです。  例えば、誰かに英会話を教えたい気持ちは あっても、「じやあ、あなたの実力ってどの程 度なんですか?」と問われると自信を失いそう になります。  「自分より英語ができる人なんて山ほどいる」  「海外経験が長い人と比べたら自分なんてまだ まだ」  「発音のうまさということになると、ネイティ ブスピーカーには太刀打ちできない」  そうやって「上には上がいる」と考え始める と、尻込みしてしまいます。  自信がない人にまずお伝えしたいのは、「根 拠がない自信」を持ってほしいということです。 上には上がいるというのはそのとおりですが、 英語を教えたいと思うような人は、英語を使っ て仕事をしていたり、普段から英語を使ってコ ミュニケーションを取ったりしているなど、あ る程度の実績は積んでいるはずです。  だったら、初心者に教えられる要素は絶対に あるはずと信じて、とにかくやってみるのが一 番です。  そして、もう一つアドバイスをするとすれば、 「何か切り囗を作ってみる」ということです。 「英会話」という大きなくくりでは競争率も激 しいので、少し変わったアングルから攻めてみ るのです。  例えば、「超初心者が最初の一歩を踏み出す お手伝いをする」とか「業界の専門用語の解説 をする」とか「英語で不動産契約をする人のた めにレクチャーする」など、独自の切り囗を探 してみましよう。  切り囗を作ると対象者は減りますが、その分、 ニーズに合ったファンをつかみやすいというメ リットが生じます。  ちなみに、仮に私か英会話を教えるサービス を始めるとしたら「自分の体調の悪さを英語で 説明するときの会話を教える」といったサービ スを考えると思います。  実際に、私自身は海外で病院に行ったときに 「扁桃腺が痛いんです」といった症状を説明す るのに苦労した経験があります。また、ネット で検索をしても病院で話すための英会話に特化 した動画などがほとんど見つからなかったので、 それなりのニーズはあると思います。  切り囗を見つけるにあたっては、本書では何 度も繰り返しているように、とにかく実際にい ろいろ試してみて反応を探っていくしかありま せん。  競合にかなわない切り囗は回避して、自分が 勝負できそうな切り囗を探してください。 「体験してもらうこと」を意識する  今はものが売れない時代であり、商品やサー ビスの質だけでは勝負するのが難しくなってい ます。iPhoneですら、スペックだけでは買っ てもらえない状況です。  ものが売れないのは、よくいわれているよう に「ものがあふれているから」でもありますが、 もう一つは「広告が信じられなくなった」から でもあります。  一昔前まではテレビなどの大手メデイアが信 頼されていたため、テレビでCMを出せば良い ものだと信じてもらうことができました。  しかし、最近は既存のメデイアが力を失いつ つあります。  既存のメデイアの情報よりも、SNS上の囗 コミやレビューなどのリアルな声を参考に消費 行動を決定する人が増えています。  しかも、単純に囗コミを信頼するのでもなく、 「ステマかもしれない」「あえて大げさに良く見 せようとしているのかもしれない」という疑い の目を向け、ネットでさまざまな角度から情報 を入手し、検証した上でようやく消費行動に移 るようになっています。  そこで決定的な影響力を持つのが体験です。 体験は共感を喚起する有力な手段の一つです。 2020年、原宿の駅前に汲モ盾唐高 TOKYO(アットコスメトーキョー)がオープ ンしました。コスメ・美容の総合情報サイトで ある@cosme(アットコスメ)による路面店 希S〜Q回〇冲圃(アットコスメストア)の旗艦 店です。  このお店を訪れて驚いたのは、平日でもたく さんの人で賑わっていることです。店内を見る と、商品の棚には@cosmeのサイトでランキン グしている人気の商品が並んでいます。  ネットでレビューを見た上で、気になった商 品を実際に手に取り、チェックしてから購入で きるのです。ネットとリアルな体験を組み合わ せて、顧客の購入動機につなげているのです。  本書の読者である個人のクリエイターも体験 の機会を作ることはできます。例えば、ワーク ショップを開催するとか、体験会を行なうなど が考えられます。  体験の機会を作ると、同じような体験をした 人同士につながりが生まれ、よりコミュニティ の結びつきが強くなる効果があります。試して みる価値は十分あります。 CHAPTER4 まとめ ▼クリエイターとしてファンの共感を得るためには、  ファン心理を知る必要がある。まず「自分自身が共感  する」ことが重要。 ▼大きい市場には必ず企業が参入し、個人で太刀打ちす  るのは困難。最初から企業が相手にしないような小さ  な市場をターゲットにするほうがいい。 ▼完成品を作って売るだけではなく、制作過程から収益  を得ることを「プロセスーエコノミー」という。特に  個人で活動するなら、完成品を待つのではなく、失敗  の過程すらもコンテンツにしていけばいい。 ▼クリエイターエコノミーではフォロワー数を増やすよ  りも、エングージメントの高いファンを作れるかどう  かが成功のカギを握る。100人くらいのファンがつ  けば、かなり自由度の高いクリエイター活動ができる。 ▼ファンの共感を深めていく上では、さまざまなタッチ  ポイント(顧客接点)を通じてファンとのコミュニ  ケーションを取っていくことが大切。 ▼そのほかにも「人間味を出す」「切り口を作る」「体験 してもらうこと」などを意識すると共感を得ることが できる。 すぐに「小さく始める」クセをつけ る  最初にお伝えしたいのは、何事もすぐに、小 さく始めるということです。  まずは、アイデア段階でもコミュニティ内で どんどん発信してみて反応を探ってみる。そし て、未完成でもいいから何かを作ってアウト フットし、ファンからのフィードバックを得る ことが肝心です。  「商品を完成させる」という発想にとらわれて はいけません。とにかく興味を持ちそうな人・ 買ってくれそうな人にアプローチをするのが先 決です。商品を作るのは最後でよいのです。  スタートアップの業界では、「買ってくれる 人を先に見つけろ」という教訓がしばしば語ら れます。商品が完成した段階で買ってくれる人 を探そうとしても、「そんなものいらないよ」 と言われてしまったら、そこで終わりです。だ から、スタートアップで成功する人は、買って くれる人を先に探します。  「こういうツール(ソリューション)を活用す ることで、あなたの仕事や生活は○○のような メリットを享受することができます。この製品 が実際にあったら買いますか? 買うとすれば いくらまでなら出しますか?」  このように、買ってくれそうな人たちにアプ ローチをして、確実に買ってくれる人を先に確 保するのです。  y 「作ってもいない製品」を売り込んだビ   ルーゲイツ  学生時代のビルーゲイツには、まだ作っても いない製品を企業に売り込んだ逸話があります。  1974年、アメリカのMicro Instrumentation a乱Telemetry Systems(MITS) という会社が、「世界初のパーソナルーコン ピューター」と呼ばれるとtair 88呂(アルテア 毘呂)を発売しました。  ゲイツは、『ポピュラーエレクトロニクス』 という技術誌にアルテア沼呂の記事が載って いるのを目にして、アルテア沼呂用にま冫an という言語でプログラムを書こうと考えました。  ゲイツは尽{びに電話をかけ、実際にはまだ 何も書いていないのに「プログラムは現在開発 中で、もうすぐ完成する」と言いました。要す るに、パッタリで嘘をついたわけです。  弍{j側か「プログラムを持つてきたら契約 する」と答えたため、ゲイツは急いでプログラ ムの開発に着手しました。  このエピソードがすごいのは、このときゲイ ツはアルテア回呂の現物を持っていなかった ということです。そこで(Iバード大学にある コンピューターにアルテア沼呂の真似をする プログラムを作成し、それを使ってayanプ ログラムを書き上げたというのです。  ゲイツは、こうして完成したま冫anを 弍{jに持ち込み、見事30万ドルでライセンス を提供しました。そして、このときの30万ドル が、マイクロソフト社を設立するための資金と なったのです。  最近でいえば、テスラも「作る前に売る」企 業の最たる例といえます。  テスラの自動車を購入するとき、ユーザーは 先に予約金を入金する必要があります。現在の 予約金は1万5000円であり、予約金を払え ば誰でもネット上で注文できます。ただし、 キャンセルしても予約金は返つてきません。  テスラは、予約を起点に自動車の製造を始め ます。銀行に対しては「これだけお客が予約を しているから、融資をしてほしい」と説得材料 にします。  そのお金で材料を購入し、自動車を製造して 納車するという流れです。「お金を集めてから 作る」という意味では、テスラは世界最大のク ラウドフアンディングといえます。  個人がクリエイター活動をするときも、この 考え方は同じです。  「道具やスキルをそろえてからでないと取り組 めない」  「全部自分で完成させないとクリエイターとは いえない」  これらは単なる思い込みです。  必要なスキルや道具は、求められるアウト プットによって決まります。だからアイデア段 階でファンのフィードバックを得て改善を繰り 返し、ブラッシュアップしていくのが得策です。  その過程で足りないスキルや道具が見つかっ たら、学んだり買ったりして対応すればいいの です。 「大規模な市場調査」より目の前の 「1人2人の困りごと」にフォーカ スする  前項では、「買ってくれる人を先に見つける」 というお話をしました。買ってくれる人を見つ けるとき、大規模な市場調査は必要ありません。  例えば、1万人のフォロワーを集めてアン ケートを行ない、ニーズがありそうな商品や サービスを探っていくとしましよう。  アンケートの結果を参考にして、具体的なア ウトプットにつなげられるとは思いますが、そ れを本当に買ってもらえるかどうかまではわか りません。  大規模な市場調査でわかるのは、買ってくれ そうな人の「輪郭」です。「こういうものを作 れば買ってくれそう」という輪郭は見えるもの の、本当に買ってくれる大が実在するかどうか までは見えないのです。  大規模な市場調査よりも大事なのは、目の前 の1人2人の困りごとにフォーカスすることで す。目の前の1人2人の困りごとを解消すれば、 必ず商品やサービスを買ってもらえます。冒]つ てくれそうな大がリアルに見えている状況でア ウトプットができるようになるわけです。  「目の前の1人2人の困りごとにフォーカスす る」は、近所の便利屋さんをイメージすればわ かりやすいと思います。  便利屋さんは引っ越しの手伝いや、掃除、家 事代行、家具の組み立て、不要晶回収など生活 の中での困りごとを解消してくれるサービス業 です。  ユニークなものでは、クレームの電話対応や ストーカーからの電話対応といった厄介ごとに 対応してくれる便利屋さんもいるようです。  例えば、便利屋さんの近所に、腰痛で草むし りができないお年寄りが住んでいたとします。  「お困りでしたら、代わりに草むしりをしま しようか」  「ああ、それは助かりますね。おいくらでやっ てもらえますか?」  「5000円ではどうでしようか?」  「わかりました。それじゃお願いします」  2人の間にこんな会話が交わされれば契約は 成立です。  草むしりが終了したあと、便利屋さんがお年 寄りに尋ねます。 「ご近所に同じように草むしりの手が足りなく て困っているお宅はないですか?」  「そういえば、お隣さんも困っていると言って たよ。ちょうどいい。今からお隣さんに声をか けてみようか」  このようにしてお隣さんからも草むしりの仕 事を受注できたら、非常に効率良く「買ってく れる人」を見つけられます。個人で副業クリェ イターをする場合は、こんなふうにフツトワー ク軽く、シンプルに取り組むのがベストです。  私白身、この便利屋さんと同じような手法で 仕事をしていた経験があります。学生時代に個 人事業主としてプログラマーをしていた時代の ことです。  当時は、「ホームページを作りたい」という 人のところに行き、ホームページを制作し、 「周りにもホームページを作りたいと言ってい る人はいませんか?」と聞いて、その人を紹介 してもらい、受注したホームページを制作する というのを繰り返していました。  当時は営業らしい営業はまったくせず、紹介 だけで十分な収入を得られていました。  そのうち、毎回単発で契約するのが煩わしく なってきたので、企業に対して月額でコンサル 契約をするようになりました。  毎月、一定の範囲までホームページの更新を する取り決めをした上で、毎月一定額を支払っ てもらうようにしたのです。今でいうサブスク のはしりといえます。  サブスクモデルにしてから、さらに仕事の効 率が高まり、生活がかなり安定したのを覚えて います。  私か不特定多数の人に向かって「ホームベー ジを作りたいと考えていますか?」などと呼び かけていたら、ほとんどリアクションは期待で きなかったでしようし、十分な収益も得られな かったと思います。  大勢の人に向けて市場調査をすると、なんと なく「仕事をした」という気分になります。そ の一方で、調査の意義が見えなくなりがちです。  そもそも私から見て、企業レベルでも有効な 市場調査をしているケースは少ないように感じ ます。市場調査は専門的なスキルが必要であり、 それだけで食べていけるくらい希少価値のある スキルなのです。  中途半端な市場調査をして仕事をしたつもり になるくらいなら、リアルに困っている人のと ころに行って困りごとを聞いたほうが、本当に 喜んでもらえる仕事ができるはずです。  1人2人が困っているというとき、それがそ の大固有の困りごとであるケースは非常に稀で す。  一人でも本当に困っている課題を抱えている ということは、同じような困りごとを抱えてい る人がほかにもきっといるはずです。一人の困 りごとを見つめたら、あとは同じ困りごとを抱 えている人へのアプローチを考えていけばいい のです。  市場調査はマクロからミクロに課題を探して いく手法ですが、クリエイターエコノミーで有 効なのはミクロからマクロへ展開する手法が効 果的ということです。  「1つのキャリア」ではなく「複数 のキャリア」を持つ  世の中がどのように変わっていくかの予測が 難しい時代にあっては、社会との接点を1つに 絞るよりも、さまざまな接点を持っていたほう が変化に適応しやすくなります。  端的にいえば、1つの会社に勤務し、そこに キャリアのすべてを依存している場合、会社が 破綻した場合にキャリアも終了を余儀なくされ ます。  あるいは企業で営業職をしている人が、仕事 がうまくいかなくなると、とたんに人生が閉ざ されたような気分になります。  特にブラック企業でパワ(ラ気味の上司がい たりすると、毎日叱責されて、メンタル疾患を 患ってしまうかもしれません。  1つのキャリアがうまくいかないとわかって から新たなキャリアを構築しようとしても時間 がかかります。  しかし、複数のキャリアを同時並行していれ ば、1つのキャリアがうまくいかなくなったと きに、余裕を持って別のキャリアに取り組める ようになります。  収益化できないまでも自分の価値を認めても らえているキャリアを複数持っていれば、たと え1つがうまくいかなくなっても、残りの領域 から生き残りの道を模索することができます。  「営業成績は下降気味だけど、自分には副業の ○○がある。最悪それがあれば生きていける」  そう思えるだけで、気持ちに余裕が生まれま す。  私白身、本業の仕事以外に複数の企業の社外 取締役やスタートアップの戦略・技術顧問を務 めています。また、武蔵野大学アントレプレ ナーシップ学部で客員教員として学生に教える という仕事も持っています。  正直にいうと、すべてのキャリアが同時にう まくいっているときはあまりないと感じていま す。ただ、最低でも1つはうまくいっている キャリアがあるので、何かうまくいかないこと があっても、落ち込むことはありません。  仕事に苦しさを感じている人の多くは、「選 択肢のなさ」に苦しんでいるように見えます。 日本で働いている人の多くが、「ほかに道を選 べない」「我慢するしかない」という論理で自 分を追い込んでいるように見えます。  ですから、最低でも3つくらいのキャリアを 持っておいてほしいと思います。それだけ複数 のキャリアを持つことの精神的な安定感は大き いのです。  y複数のキャリアを両立させる方法  複数のキャリアを作るにあたっては、本書で お話ししてきたような副業クリエイターを始め るというのが第一の方法となります。  副業は本業から派生的に誕生するものもあれ ば、ただの趣味から派生するものもあります。  個人的な趣味であっても、ただのエンタメと して消費するのではなく、「誰かの問題解決を する」というスタンスに立てば、立派な副業と なり得ます。  私の場合でいうと、先ほど、ドラムを叩いて レストランのまかない食を食べさせてもらって いたお話をしました。あれもキャリアになり得 る趣味の一つといえるかもしれません。  出演料という形でのギャランティは受け取っ ていませんでしたが、食事をもらうという価値 交換は発生しているので「キャリア」といって もあながち間違ってはいないと思います。  ほかに例を挙げれば、趣味でDIYをしてい る人が、誰かの課題を解決すれば、それがキャ リアになる余地はあります。  特にこれからの時代はシニア世代の人口が確 実に増えるので、シニア世代向けの問題解決が 仕事になる可能性は十分にあります。  お金を払ってもいいから家の中の高い場所に ある電球を替えてほしいと思っている人は多そ うですし、スマホのアプリの使い方を教えてほ しいと思っている人も少なくないはずです。  実際に、街中にあるキャリアショップでは、 高齢者向けにスマホの初期設定サポートを 3000円程度の料金で請け負っています。 キャリアショップが3000円で行なっている サービスを個人が1000円で請け負えば、立 派な副業が成立するのではないでしょうか。  あるいは「ゲーム」など、もっと趣味性が高 そうな分野でも、キャリアの形成は可能です。  欧米では、オンライングームの上級者が、初 級者に向けてゲームを教えるためのサイトが充 実しています。昔でいえば、ファミコンの攻略 本などがゲームファンの人気を集めていました が、あの攻略の伝授がオンライン上で行なわれ ているようなイメージです。  特に今は、マルチプレイヤーゲーム(オンラ インを通じて、ほかのプレイヤーと遊ぶことが できるゲーム)が流行っているのですが、マル チプレイヤーゲームにド素人が参入するとすぐ に倒されたりして楽しめないという問題があり ます。  そこで上級者が、ある程度レベルを上げたり 装備をつけたりするサポートをして収入を得て いるのです。時代を反映した副業だと思います。  「タグ」を流通させる  複数のキャリアを持つことができている人の 多くは、ゆるいネットワークを持ち、その中で 引っかかりのあるタグを持っている天であると いえます。  つまり、タグを持ち、タグを見た人から声を かけてもらえるポジションにいることが非常に 重要です。  私か武蔵野大学で教員をするようになっだの は、アントレプレナーシップ学部の学部長であ る伊藤羊一さんが「インターネットビジネス基 礎」というカリキュラムを作ろうと考えたとき、 私の名前を思い出しだのがきっかけです。  伊藤さんが私のタグを見て声をかけてくだ さったのです。  すでに「タグ付け」という言葉は、人材市場 においても一般化しつつあります。  最近、学生の就職相談を受けるメンターのよ うな取り組みをしている友人から面白いエピ ソードを聞きました。  友人が新卒社員に最新の就活動向をリサーチ したところ、面接で一番多く聞かれたのが「あ なたにタグをつけるとしたら何ですか?」とい う質問だったというのです。  おそらく企業で採用担当をしている人たちの 多くが『転職2.0』を読んでくださっているとい うことなのでしょう。  今までは「ガクチカ」(学生時代に力を入れ たこと)が面接時の質問の代表格でしたが、 「タグ付け」がそれに取って代わる時代が来だ のかもしれません。  確かに「あなたのタグは?」と聞いて、わか りやすい答えができるかどうかによって、学生 のさまざまなスキルを確認できます。  単純に希少性の高いタグが尊重されるという だけでなく、面接官が求めているタグを類推し て答えるスキルも問われているということなの でしょう。なかなか高度な質問です。  私としては転職を考える社会人に向けて書い たつもりでしたが、予想外の使われ方をしてい るのを知り、思わず感心してしまいました。い ずれにしても、タグの発信がますます重要とな るのは間違いなさそうです。 声を聞くための「チャンネル」を複 数用意する  第4章では、共感を高めるためにさまざまな タッチポイント(顧客接点)を通じてファンと のコミュニケーションを取っていきましようと お伝えしました。  そこでは、単にファンとの心理的な距離感を 近づけるだけでなく、ファンの声を聞くための チャンネルを確保することが重要です。  声を聞くためのチャンネルは1つに隕らず、 複数用意するのが望ましいといえます。  具体的にはTwitterやmstagramなどのSNS でもよいですし、(joogleフォームなどの フォーム作成ツールを活用するのもよいでしよ う。ほかには単純にメールアドレス経由で フィードバックを得る方法もあります。  チャンネルを複数用意するのは、いろいろな フィードバックを得るためです。  ファンによってはTwitterのほうがコミュニ ケーションを取りやすいかもしれませんし、 メールフォームではしっかりした内容で伝えら れると考えるかもしれません。  いずれにしても、いろいろなチャンネルから フィードバックを得て、適宜修正できるように しておきましよう。  ファンの声の中には、ときに辛辣なものや耳 が痛いものがあると思います。  もちろん罵詈雑言は論外ですが、それ以外の 批判的な意見は改善のネタであるという意識を 持つべきです。  例えば「こんなサービス使えない」と言われ たとき、イラッとしたり感情的に反論したりす るのはもつたいない行為です。  逆に「どの辺が使えなかったですか?」「ど うすれば、使い続けようと思いますか?」など と、こちらから聞きにいくくらいの姿勢を持ち たいところです。  批判は、期待値と結果のギャップから生じま す。ファンが何かを期待していて、その期待を 上回ると高評価が得られ、下回ると低評価にな るわけです。  つまり、批判している人は「すごく期待して いたからこそ、がっかりしている」ということ でもあり、がっかりポイントを改善すれば、熱 心なファンになってくれる可能性を秘めていま す。  ただ、どんな期待をしていたのか、期待値を どう上回ったのか(下回ったのか)と、どんな 要素が評価に影響を与えたのか、といった情報 を知るのは困難です。  だからこそ、直接聞いて掘り下げていく必要 があるのです。  声を聞くときのポイントは、「とにかく具体 的に聞く」に尽きます。  「良かった」であれば、ピンポイントに「何か 良かったのか」を明らかにしていく作業をして いきます。そのためにも、ファンの声に真摯に 耳を傾ける姿勢を見せる必要があります。  ただし、同じように「どこが良かったです か?」と質問をしても、全員が全員的確に答え てくれるわけではありません。  どこまで掘り下げていっても「全体的にいい と思ったんですよね」「自分にぴったりきたん ですよ」など、雰囲気回答で終わってしまう ケースも結構あります。  そんななかで、的確なフィードバックをして くれる人は非常に貴重な存在です。自分の感想 を丁寧に言語化できる人を見つけたときは、そ の声を大事にしてほしいと思います。 目に見えている状況の「背景」を読 み解く  前項のフィードバックの受け方と関連して言 及しておきたいのが「背景の読み解き方」です。  よく「顧客は本当に欲しいものを自分で表現 することはできない」「自分が想像できる延長 線上でしか表現できない」といわれます。その ため、マーケティングのリサーチではユーザー に対して「何の機能が欲しいですか?」と聞く のはタブーとされています。  例えば、クルマが発明される以前の時代に、 馬車に乗っている人に「目的地に早く到着する ために何か欲しいですか?」と聞いたとすると、 「もつと速く走る馬が欲しい」と答えたはずで す。  自動車という概念を知らないので、「自動車 が欲しい」と表現するのは不可能なのです。  ファンからフィードバックをもらうときも、 「何か欲しいか」ではなく、「どんな課題を抱え ているか」という背景を聞き出す必要がありま す。  前述した馬車ユーザーであれば、「目的地に 早く着きたい」という課題を聞き出さなければ ならないわけです。  フィードバックをもらったときには、単純に 相手の言葉をそのまま受け取るのではなく、答 えている言葉の背景を丁寧に読み解く必要があ ります。  とはいえ、これは囗で言うほど簡単なことで はありません。「○○をすれば背景を確実に聞 き出せる」という明確な方法があるわけでもな いです。  「どうしてそう答えたのか?」「背景にどんな 課題を感じているのか」を想像し、「○○とい うことでしょうか?」と掘り下げていくしかあ りません。  あえて一つの方法を挙げれば、複数人からイ ンタビューをして情報を整理するやり方が考え られます。  似たようなカテゴリで困っている2、3人の 大に質問をして、そこで表現されている「困っ ていること」をすべて書き出します。  それを並べてクルーピンクしていくと共通項 が見いだせて、課題を絞り込める可能性はあり ます。ぜひチャレンジしてみてください。 CHAPTERS まとめ ▼何事もすぐに、小さく始めることが大事。未完成でも  いいから何かを作ってアウトプットし、ファンからの  フィードバックを得るといい。 ▼買ってくれる人を見つけるとき、大規模な市場調査は  必要ない。大事なのは、目の前の1人2人の困りごと  にフォーカスすること。 ▼予測が難しい時代にあっては、さまざまな接点を持つ  ていたほうが変化に適応しやすくなる。複数のキャリ  アを同時並行していれば、1つのキャリアがうまくい  かなくなったときに、余裕を持って別のキャリアに取  り組めるようになる。 ▼複数のキャリアを持つことができている人の多くは、  ゆるいネットワークを持ち、その中で引っかかりのあ  る「タグ」を持っている人。 ▼ファンからフィードバックをもらうとき、「何が欲し  いか」ではなく、「どんな課題を抱えているか」とい  う背景を聞き出す必要がある。フィードバックをも  らったときには、単純に相手の言葉をそのまま受け取 るのではなく、答えている言葉の背景を丁寧に読み解 く必要がある。 複数のアイデアを「同時に」動かす  商品やサービスをアウトプットする前に、自 分の頭で「これは絶対にうまくいくはず」「こ れはちょっとダメそう」などと判断してはいけ ません。  いったん「良い・悪い」の判断は保留し、と にかくアウトプットしてみる。そしてファンの 反応やフィードバックを見ながら判断していく のが望ましい進め方です。  また、最初から1つのアイデアに固執しない というのも大きなポイントです。  できれば5つくらいのアイデアを同時並行で 動かし、結果の評価を行ない、一番良かったも のをさらにチューニングしていくのが理想です。  例を挙げて考えてみましよう。  普段の仕事で培ったスキルを生かして、オ フィスソフトのjlを紹介しようと考えるA さんがいるとしましよう。  Aさんは、自分ではエクセルを最も得意とし ていて、エクセルの使い方に関しては自信を 持って教えられると自負しています。  ここでAさんにお伝えしたいのは、テーマを 1つに絞らないことです。例えば、「エクセル のlips J「パワーポイントのlips J「ワードの HI」「オフィス製品全般のHI」「整理整頓の HI」など、テーマを5つくらい立てて、それ ぞれ別アカウントを作って発信してみます。  その中で、「パワーポイントのlips Jに一番 引きがあった場合は、それに絞ってアウトプッ トを続ける、といったイメージです。  確かに5つのアイデアを同時並行するには結 構な労力が必要です。ただ、1個のアイデアだ け試して失敗して、また別の1個を試して…… という方法よりも、一度に試したほうがうまく いきそうなテーマが早く見つかるメリットがあ ります。とにかく最初が頑張りどころです。  5つのアイデアを立てるときのポイントは、 第一にわかりやすさを意識することです。  例えば、「社会人のお金の知識」というテー マは漠然としていてわかりにくいので、パッと 見で内容がわかりやすいものにするのが得策で す。  「月に○円貯金する方法」「○円を作ってFI REする」「○○投資で○円の資産を作る」な ど、内容を具体的にするとわかりやすさが出ま す。  また、差別化も欠かせないポイントです。  プラモデルを製作・販売している人であれば、 「カンプラが得意」「城を作るのが得意」などと ジャンルを細分化させることで、差別化ができ ます。  とはいえ、わかりやすい表現を心掛けて差別 化を意識しても、そこに潜在的なファンが存在 しなければ買ってもらえないという問題は残り ます。  だからこそ、頭の中で考えすぎず、「とりあ えずやってみる」が肝心です。  今、世の中でインフルエンサーとされている 人も、最初から大バズりしたわけではありませ ん。いったんアウトプットしたコンテンツを修 正しながら、徐々に注目度を高めていったア ジヤイルの歴史があります。  日本ではユーチューバーの代名詞的な存在で あるHIKAKIN(ヒカキン)氏も、最初は ヒューマンビートボックスの動画を上げていた ことで有名です。とにかくいろいろ取り組むな かで、進むべき方向性が見えてくる。この原則 を忘れないようにしてください。  「2週間×3回」のサイクルで見直 す  先ほど、「5つくらいのアイデアを同時に動 かす」といいましたが、では、どのくらいの頻 度で修正を行なえばよいのでしょうか。  「アジヤイル的」というとき、一般的にはおお よそ2週間が1つのサイクルとなります。先ほ どウーダループというフレームワークに言及し ました。  このフレームワークでいうと、何かを実践し てから2週間程度で、以下の4つのサイクルを 回すことになります。 @0bserve(観察) A〇rient(状況判断、方向づけ) BDecide(意思決定) CyQ{(行動)  このサイクルを繰り返しながら、精度を高め ていくわけです。  おおよその目安ですが、最初の2週間×3回 程度は、マイナーチェンジを行ないます。最初 から大きく変えすぎると効果が見えにくくなる ので、この段階では限定的な改善にとどめます。  2週間×3回くらいサイクルを回すと、それ なりの知見が蓄積されると思います。6週が経 過したら、蓄積した知見を基に大きな改善を図 ります。  例えば、5つのテーマを3つに絞り込む。あ るいは5つのテーマは維持したまま、そのうち の3つを入れ替えるといった具合です。  その状態で、再び2週間×3回のマイナー チェンジを行ないながら知見を積み重ねます。 6週が終わったら、また大きな改善を図ります。  このサイクルを繰り返して内容を固めていき ます。  2週間×3回というのはあくまでも目安です が、このくらいのスパンで取り組むと検証や改 善に取り組みやすいのではないかと思います。  2週間サイクルでのマイナーチェンジ、6週 間のタイミングでの大きな改善をする際には、 ファンの反応を丁寧に分析することが大事です。 「どういう人が利用しているのか」 「どういう人がフォローしているのか」 「どういう反応を示しているのか」 「どんなコメントをしているのか」  こういったポイントに注目して、反応を分析 します。それぞれのプラットフォームにはダッ シュボードがあるので、それをじっくり観察す るのが基本です。最初は反応が少ないので難し いと思いますが、地道に続けていくのが唯一の 道です。 「想定ファン」を探しにいく  アジヤイル的に行動していく上で意識してほ しいのは、「こういう人がファンになるだろう な」という「想定ファン」を自分から探しにい くことです。  ファンを探すときにカギとなるのが「タグ」 です。  基本的に何かのファン同士はタグを通じて、 ゆるくヨコにつなかつています。ですので、特 定のタグをつけて情報を発信している人を探し ていけば、ファンになってくれそうな人が見つ かりやすくなります。  既存のSNSであれば、ファンはどこからで も見つかるはずです。  例えば、Twitterやmstagramで趣味や感性が 合っていそうな発信をしている大を見つけたら、 そのアカウントに飛んで、つなかつてみましよ  つなかった大が自分のファンになってくれる 可能性もありますが、ファンになってくれなく ても、その人の発信を参考にすることはできま す。  自分のアウトプットの改善に役立ちそうな情 報を参考にして、商品やサービスを洗練させて いけば、確実にレベルアップできるはずです。 新しいプラットフォームには「とり あえず」飛びつく  環境の変化に対応するという意味では、新し いものが出たときに「とりあえず飛びつく」と いうスタンスも大事です。  特に、新しいプラットフォームが登場したら、 とりあえず試してみることをおすすめします。 飛びついてうまくいかなければ、すぐにやめれ ばいいだけです。  なぜ、新しいプラットフォームに飛びついた ほうがいいのか。大きな理由の一つは、先行者 利益を得やすいからです。  既存のプラットフォームには、すでにたくさ んのフォロワーを抱える強者がたくさんいます。 今からY呂Tubeを始めてすでに一定の影響力 を持っている競合に割って入るのは至難の業で す。  しかし、新しいプラットフォームに関しては、 全員が同じスタートラインからゲームを始める ことになります。  新しいプラットフォームが普及するのかどう かはわからないですが、早く始めたほうが有利 なのは間違いありません。  新しいプラットフォームは、コンテンツの発 信とファン作りの両方に活用できます。特に既 存のSNSに紐付いていればネットワーク効果 が働きます。  2021年のはじめごろ、音声SNSの 0ubhouse(クラブ(ウス)が登場し、ちょっ としたブームになりました。  そのとき、私は2か月にわたって毎日のよう に音声配信を行ないました。ちょうど初の著作 である『転職2.0』の発売直前だったので、営業 活動をかねてフォロワー数を伸ばそうと目論ん だのです。  いろいろなルームに飛び込みで参加し、せっ せと話をした結果、約2か月でフォロワー数が 4万人近くにまで増えたのを覚えています。  クラブ(ウスのブームは短期間で落ち着きま したが、私は今でも配信を行なうことがありま す。現在では、100人程度のルームでも人気 とされるような状況であり、コアなファンの集 まりへと細分化している印象です。  「安定的なファンがつくSNS」という捉え方 をすれば、クラブ(ウスにも十分に活用の余地 はあると思います。  新しいプラットフォームで発信するときも、 それまでのプラットフォームと同じコンテンツ を発信すれば基本的に問題ありません。  ただ、欲をいえば、そのプラットフォームの 特性や空気感に合わせて若干テイストを調整す るとよいかもしれません。  例えば、クラブ(ウスは音声のみで発信する ので、あまり長々と話すとうざつたく受け止め られるおそれがあります。  私白身、クラブ(ウスでは端的な表現を心掛 けるようにしています。端的に話すと賢そうに 聞こえるので、フォローしてくれる人も多かっ たように感じます。  プラットフォームの特性にうまく(マれば、 ほとんど同じコンテンツなのに急に人気が出る ようなことも期待できます。  実際に、YouTubeのブームには乗り遅れて しまった人が、TikTokで活躍しているような ケースもあります。しかも、狙って人気になっ たというより、「やってみたら当たった」パ ターンが多いように見受けられます。  もっと古い例でいえば、ブログでほとんど注 目を集めていなかった人が、Twitterを始めた とたんに人気に火がついたという話もあります。  何か(マるかはやってみないとわかりません。 繰り返しますが、「とにかくやってみる」が肝 心です。 ファンの「意見」を取り入れる  フィードバックを得るために、自分からファ ンの声を求めるのもおすすめです。  「ぜひコメントをください」  「ご意見があればお寄せください」  こんなふうに、オープンに意見を求める姿勢 を発信することには大きな意味があります。  ファンから有用なコメントを得られれば、商 品やサービスの改善につなげることができます。 仮に改善とは無関係なコメントをもらったとし ても、ファンとのエングージメントを高める きっかけになり得ます。  ですから、コメントをちらつたら、小まめに レスポンスをしましよう。  ファンは、自分のコメントがどのように受け 止められるかに注目しています。コメントがク リエイターに取り上げられれば、単純に嬉しく なります。  クリエイターが受け取ったコメントに対して 丁寧にレスポンスをしていけば、「ただ見てい る人」から、お金を払ってくれる人になってく れるかもしれません。  逆にコメントを放置していると、コミュニ ティからすぐに離脱されてしまうので注意して ください。  あるいは、定期的にコメントに答えている過 程を見せる機会を作ってもよいでしょう。  例えば、インスタライブやY呂Tube 」iveな どのライブ配信では、コメントを画面に表示さ せたり読み上げたりするのが定番になっていま す。  コメントを紹介するとみんなで盛り上がって いる空気感を演出できるので、アイドルがライ ブ中にひたすらコメント読みをしているのもよ く見かけます。ただコメントを読み上げるだけ でコンテンツが成立するのです。  「コメントを参考にして、コンテンツを作り変 えてみようと思います」  「○○というコメントをもらって、さっそく サービスを改善してみました」  日常的にこのような発信を行ない、参加意識 を高めていけば、ファンは「自分もコンテンツ の一部になっている」という感覚を持ってくれ るようになります。  自分の意見が直接反映されなくても、ファン のコメントが大事にされているという雰囲気が 伝わるだけで、親近感を覚えます。  ファンのコメントは生命線です。ぜひ大切に してほしいと思います。 コンテンツを「1つに絞れたら」や ること  先ほど、5つくらいのアカウントで異なるコ ンテンツを同時並行でアウトプットし、「2週 間×3回」のサイクルで見直していくプロセス についてお伝えしました。  見直しのサイクルを経て、うまくいきそうな コンテンツが1つに絞られたとしましよう。そ うなれば、ほかに費やしていた時間を1つに集 中して投入できるようになります。  そこで、コンテンツの精度を高めていくこと を考えましよう。  まず試してほしいのは「改善の頻度を高め る」です。前述した2週間のサイクルを1週間 にするなど、改善の回数を増やすということで す。  あるいは、発信の頻度やファンのコメントへ の返信を増やすのもよいと思います。発信を増 やした分だけ、ファンを増やす効果が高まりま す。  それに関連して、つながりを持てそうな人を フォローするなど、自分を見てもらうための努 力も根気よく行なう必要があるでしょう。  長く活動していると、コミュニティから離脱 するファンも当然出てくると思います。  「既存のファンを重視するか」「新たなファン を追い求めるか」というのは、副業クリエイ ターにとっても避けて通れない問題といえます。  既存のファンを重視しすぎると、コミュニ テイには新しいファンが入り込みにくい閉鎖的 な雰囲気が生まれます。常連さんが幅を利かせ て一見客が入りにくい飲食店みたいな感じです。  一方、新しいファン向けのコンテンツを充実 させていくと、既存のファンは物足りなさを感 じます。「昔はもつと楽しかったな。ちよつと 変わりすぎて自分はついていけない」と考えて 離脱してしまうわけです。  ある程度古いファンが離脱して、新しいファ ンが入ってくる新陳代謝が起こるのは自然の成 り行きです。  だから、この問題への対応に正解はありませ ん。  ファンの反応を見ながら、既存のファン寄り のコンテンツを重視するのか、新しいファン寄 りにするのか、アジヤイル的に対応していくし かありません。  ただ、基本的にはコアなファンは固定化され つつ、少しずつ新たなファンが増えていく展開 が理想です。長期的にファンを積み上げていく ことを意識しながら取り組んでいきましよう。  「常に」新たな機会を求める  アジャイル的に行動するという意味では、自 分自身のキャリアも状況に応じて柔軟に変えて いく必要があります。  何か面白そうなプロジェクトがあれば参加し てみる、転職してもっと副業しやすい働き方を 実現するなど、常に新たな機会を求めることが 重要です。  例えば、今では勤務地という概念を廃正し、 フルリモードOKにしている会社や職種も増え てきました。  キャンプに興味を持ち、キャンプ情報を発信 しているクリエイターが、こういった会社や職 種に転職して、キャンプをしやすい場所に引つ 越せば、副業クリエイターとして活動しやすく なるのは間違いありません。  私は「副業のためにはとにかく転職したほう がいい」というつもりはありません。同じ会社 で働き続けるのも一つの選択肢です。  ただ、最終的に転職しないにしても、世の中 の働き方はものすごいスピードで変化していて、 新たなスタイルの会社がどんどん誕生していま す。  こういった情報を感度高く受け止め、興味の ある話を聞きに行ったり、調べたりする姿勢を 持ちたいものです。  先ほど「新しいプラットフォームができたと きにとりあえず飛びついてみる」とお話ししま した。それと同じような感覚で、とりあえず新 しい働き方を見ておく・知っておくことが肝心 です。  本業と副業のバランスをどう取るか、そのた めに今の働き方をどう変えていくかを常に見直 していく。その姿勢を忘れないようにしてくだ さい。 CHAPTER6 まとめ ▼いったん「良い・悪い」の判断は保留し、とにかくア  ウトプットしてみる。そしてファンの反応やフィード  バックを見ながら判断していくのが望ましい進め方。 ▼ウーダループのフレームワークで、2週間×3回くら  いサイクルを回す。それにより、常に改善をし続ける  ことが大事。 ▼新しいプラットフォームが登場したら、とりあえず試  してみる。既存のプラットフォームと違い、全員が同  じスタートラインからゲームを始めることになるので、  早く始めれば勝ちやすい。 ▼オープンに意見を求める姿勢を発信することには大き  な意味がある。ファンから有用なコメントを得られれ  ば、商品やサービスの改善につなげることができる。 ▼コンテンツが1つに絞れたら、ほかに費やしていた時  間を1つに集中して投入できるようになる。そこで、  コンテンツの精度を高めていくことを考える。 ▼アジャイル的に行動するという意味では、自分自身の  キャリアも状況に応じて柔軟に変えていく必要がある。 何か面白そうなプロジェクトがあれば参加してみる、 転職してもっと副業しやすい働き方を実現するなど、 常に新たな機会を求めることが重要。  「会社人」から「仕事人」へと変わ る  ヨコのつながりを作るにあたって、最初に取 り組みたいのは、「会社人」から「仕事人」へ とマインドセットを変えるということです。  会社人は、自分が所属している会社をベース に物事を考えています。「会社から寄せられて いる期待に応えるために働く」「会社に守られ ているから仕事ができている」など、会社に自 分を合わせるという発想で動いています。  一方、仕事人は自分に何かできるかを考えま す。  自分か持っているスキルを生かすことを優先 し、それによって会社にどう貢献できるかを追 求しています。  「会社に守られているから自分がいる」ではな く、「自分がスキルを発揮できているから会社 にいる」というマインドで仕事に取り組んでい るわけです。  本業で1つの会社に在籍し続けている大も、 複数のキャリアを成立させるためには、仕事人 の考え方ヘシフトする必要があります。言い換 えれば、会社視点から個人視点へと視点を切り 替えるということです。  仕事人のマインドを持てば、会社内での仕事 の仕方が確実に変化します。  例えば、自分のスキルを生かせると思えれば、 新しいプロジェクトにも積極的に関わろうとす るでしょう。部署を超えて会社に貢献する余地 を探すようになるはずです。  部署横断のプロジェクトに取り組む場合、他 部署の大とのつながりが強くなります。必然的 にタテのつながり(上司や先輩)だけでなく、 ヨコのつながり(他部署)にも自然と目が向く ようになります。  つまり、仕事人のマインドに変えることで、 ヨコのつながりへの意識が確実に高まるのです。  「会社中心」より「プロジェクト中 心」で動く  仕事人のマインドを持つと、社内のプロジェ クトに隕らず、社外のプロジェクトでも貢献で きるかもしれないと考えられるようになります。 これがプロジェクト中心で動くという発想へと つながります。  「プロジェクト中心」で動く人は、もはや会社 に縛られることがありません。  社内の部署の枠を超えて仕事をするレベルか ら、会社の枠を超えて「プロジェクト中心」で 動けるようになるのです。  私か知る限り、スタートアップで成功してい る人は、ノリで始めたプロジェクトが盛り上が り、そのまま起業するようなパターンが多いで す。  「会社の仕事かどうか」などはたいした問題で はありません。興味があること、白分か貢献で きそうなことを積極的に見つけて動く習慣を身 に付けることが重要なのです。  ところで「社外のプロジェクト」というと、 会社の枠を超えたコラボ企画など、大がかりな ものをイメージする人がいるかもしれません。  社外のプロジェクトは選ばれた人しか参加で きない特殊な機会と思われがちですが、実は気 軽に取り組めるものもたくさんあります。  エンジニアの世界では、9呈呑(ギット( ブ)などのオープンソースのプロジェクトがた くさん存在しています。ギット(ブとは、世界 中の人が自分のプログラムのソースコードやデ ザインデータを保存・公開できるプログラム管 理サービスのこと。  エンジニアがプログラムを公開し、自分で履 歴を残しながら更新したり、ほかのエンジニア が修正したりする仕組みであり、今では多くの 開発現場で活用されるようになっています。こ ういったプロジェクトに最初はボランティアと して参加し、後々有償で仕事を得るようになる ケースもあります。  もちろん、エンジニア以外でも、知り合いや 友人が行なっている副業を手伝うとか、NPO での活動もあるでしようし、ボランティアワー クのような取り組みも考えられます。  実例を挙げると、私の周りでもヨコのつなが りから副業のキャリアを築いた人がいます。  私がYahoo! JAPANに在籍していたとき、社 内に非常にナレーションが上手な社員がいまし た。社内で動画を撮るときなど、その人にお願 いをして、ボランティアでアフレコなどをして もらう機会がたびたびありました。  本人もナレーションに興味と意欲があり、ボ ランティアで絵本の朗読を行なうなどさまざま なプロジェクトに関わりながらスキルを磨いて いました。  そんな経緯があり、私かリンクトインに移籍 した際、仕事としてナレーションを依頼し、e ラーニングの英語版の日本語吹き替えをお願い したことがあります。  このように、ヨコのつながりを生かして何か のプロジェクトに参加すると、また新たなプロ ジェクトに参加するチャンスが巡ってくるよう になります。  ヨコのつながりは、後々必ず役に立ちます。  「会社軸」より「興味・関心軸」で 人とつながる  参加するプロジェクトをもっと趣味的に捉え てもいいと思います。  例えば、別々の会社で働く人たちが「バイ ク」「グルメ」「キャンプ」など共通する趣味を テーマにPodcastで番組を作るといった事例が あります。好きな趣味で仲間とつなかつてクリ エイターエコノミーに参加するチャンスもたく さんあります。  もっと古くからあるポピュラーな趣味の集ま りは、アニメや漫画などの同人サークルです。  「好き」が共通している大たちが集まり、同人 誌を作り、コミケ(コミックマーケット)など で販売する。こういった活動は、すでに文化と して定着しています。そう考えると、コミケは クリエイターエコノミーを象徴するようなイベ ントではないでしょうか。  同人サークルで活動している人たちは、会社 という軸ではなく、「興味・関心軸」で趣味仲 間とつなかつています。  興味・関心軸で人とつながる最大のメリット は、普通に会社対会社で仕事をしているときに はつながれないような人とつながるところです。  会社の仕事においては、取引先の担当者と仕 事をしていくなかで、多少親しくなることは あっても、一緒に何かの活動をするという展開 にはなかなかなりにくいと思います。  一方、趣味の集まりであれば、すぐに興味関 心でつなかつて、一緒に活動ができます。副業 キャリアの機会の多くは、こういうネットワー クから得られるケースが大半です。つまり、興 味関心でつながるネットワークを持っていると、 副業がしやすいのです。  興味・関心軸で人とつながるためには、興 味・関心に関わるタグで検索して仲間を見つけ ておくのが一つの方法です。あとは、自分の周 囲の人に「○○に興味・関心を持っている」と 公言しておくことも大切でしょう。 ビジネスカンファレンスやイベント に「参加する」  ヨコのつながりを作る有力な手段の一つとし て、最近私か注目しているのが各種のビジネス カンファレンスです。  ビジネスカンファレンスが開催されるときに は、しばしばボランティアスタッフの募集が行 なわれます。例えば、日本最大級のビジネスカ ンファレンスである「I乱ustry no-Creation(円n)サミット」は、宿泊・交通 費などを自己負担するボランティアによって運 営が行なわれています。  こうしたカンファレンスの運営に参加するこ とは、会社では決して作れないヨコのつながり を構築できる非常にいい機会です。  もちろん、ビジネスに関連するイベントだけ でなく、趣味に関わるイベントもたくさん開催 されています。興味を感じたものには、とりあ えず参加してみる、飛び込んでみる姿勢を持ち たいものです。  ビジネスカンファレンスやイベントに参加す る場合は、主催者に近い人、あるいは(ブ的な 役割を担っている人と積極的につながることを おすすめします。いわゆる「キーパーソン」と 呼ばれるような人です。  主催者とつながるのもいいのですが、必ずし も主催者がキーパーソンであるとは限りません。 主催者以上に顔が広く、いろいろな人とつな かつているキーパーソンが、カンファレンスや イベントには必ず何人か存在します。  そういったキーパーソンと仲良くなると、ヨ コのつながりが一気に広がりますし、何かあっ たときに人とつなげてもらえたりします。  例えば「○○に興味があるんですよ」と話し たときに、「じやあ○○さんと話すといいん じやないかな。今度紹介してあげるよ」と言っ てくれることが多いのです。  ぜひ、キーパーソンとのヨコのつながりを意 識してみてください。 「一度一緒に」プロジェクトをやっ てみる  前項と関連して、何かのプロジェクトに一度 でも一緒に取り組んだ人の数を増やしていくこ とには大きな意味があります。  「同じイベントに参加して同じ場にいた」とい う関係性しかない人に対して、「こういうコ ミュニティを立ち上げるのでよかったら参加し てください」などとお願いしても、拒否される か身構えられてしまうのがオチです。  一方、一緒に何かのプロジェクトに取り組ん だという経験を共有していると、数年の時間を 隔てても普通に会話ができる関係を維持できま す。何かあったときに相談したり、コミュニ ティへの参加を呼びかけたりしやすくなります。  つまり、「何かを一緒にした」という人の数 を増やした分だけ、強いヨコのつながりが生ま れるのです。  私は、10年近く前に東京タワーで豆まきをす る「すごい豆まき」というイベントを主催した 経験があります。  「すごい豆まき」は、鬼のコスプレをした参加 者同士が無病息災を願って豆をぶつけ合うとい うイベントです。  使用する豆は、震災復興に少しでも貢献でき るよう、東北の農家から廃棄予定のクズ豆を購 入。イベント終了後は、豆を拾い集め、肥料と して再利用するという取り組みでした。  このイベントを最初に発案したのは、Yahoo! JAPANの現社長(2023年1月現在)であ る小澤隆生さんです。当時、小澤さんは楽天を、 私はヤフーを退社した直後であり、お互いに多 少時間の余裕がありました。  「何か面白いイベントをしたいね」などと雑談 をしているときに、たまたまスペインのトマト 祭りの話題になりました。トマト祭りはスペイ ン東部のブニョールという小さな町で行なわれ る祭りであり、大量のトマトを参加者が投げつ け合うインパクトのある光景がおなじみです。 読者の皆さんも、テレビなどで一度は目にした ことがあると思います。  トマト祭りの開催中、小さな町は参加者で盛 り上がり、貴重な観光資源ともなっています。 「あれってすごいイベントだよね」などと言い 合っているうちに、いつの間にか「うちらもあ あいうイベントをやってみようよ」という話に 発展しました。  ただ、日本でトマトを投げつけ合うと農家の 人に怒られそうですし、心理的にちょっと抵抗 があります。  「日本で投げても怒られなくて、ひんしゅくも 買わない食べ物つて何だろう」と考えていたと き、豆まきという伝統的なイベントを思い出し ました。  最初は、豆まきイベントを小さく試すことに しました。  知り合いと親しいカラオケボックスの店長さ んに「店内で豆まきをやってもいいですか?」 と許可をもらい、とりあえず30キロくらいの豆 を購入し、10人くらいの参加者で投げまくって みました。  まさに、本書で前述した「すぐに小さく始め る」の実践です。  30キロもの豆を投げ合う体験は思っていた以 上に楽しく、みんなで大盛り上がりすることが できました。  「次は、もつと大規模に、東京タワーで豆まき をやってみよう」  そんな経緯で「すごい豆まき」というイベン トが誕生したのです。  「すごい豆まき」のプロジェクトはコアメン バーが5、6人。あとは学生などに声をかけて、 ボランティアスタッフを60人くらい集めたと記 憶しています。単純に「面白そうなイベントだ から手伝いたい」というボランティアが集まっ たくれたおかげで、試行錯誤しながらもイベン ト開催にこぎつけることができました。  そして、当日は囗コミだけで600人ほどの 参加者を集め、1.2トン分の豆を盛大にまき合っ たのです。  イベントはテレビでも取り上げられ、想像以 上に大バズりしました。  翌年には参加者が1000人近くまで増え、 もともとは収益化を目的としていませんでした が、その後スポンサー企業がつき、「すごい豆 まき」は企業主催で数年にわたって継続される ことになりました。  今でも当時一緒にプロジェクトに取り組んだ ボランティアの人から連絡をもらい、チャット でコミュニケーションを取る機会があります。  「あのとき豆まきでボランティアをしていまし た」と言われると、感謝の気持ちも湧きますし、 とりわけ親しみも感じます。こういうつながり の人に対しては、困ったときには何か助けにな りたいという気持ちになります。  別に、新規のイベントを開催しなくてもかま いません。  子どもの学校のPTAに参加し、一緒に運営 する経験をするのでもよいと思います。一緒に タスクを共有して取り組んでいると、お互いの 人となりを知ることができます。それ以外にも 「この人、文章を作るのがうまいな」「みんなの 意見を取りまとめるのが上手」など、お互いの 得意分野も理解し合えます。  こういうヨコのつながりを作っておけば、 後々生かされることが多いと思います。 定期的に連絡を取る「クセ」をつけ る  ヨコのつながりを維持するためには、一度つ ながった人と定期的にコミュニケーションを取 り続ける必要があります。  とはいえ、つなかつている全員とコミュニ ケーションを取らなくても大丈夫です。  何かのプロジェクトで力を借りたいとき、相 談を求めたいときに助けになってくれるのは、 自分にできない役割を担ってくれる人、自分に はない視点からアドバイスをくれる人です。  だから、自分には真似できない特別な能力を 持っている人、尊敬できると思える人を中心に、 つながりのメンテナンスを行ないましよう。  コミュニケーションの方法としては、SNS で「お元気ですか?」「最近、どうされていま すか?」などと軽いメッセージを送るのもいい ですし、「久々にお茶でもしましよう」と声を かけるのもよいと思います。  お互いに近況報告をするだけで、つながりは 維持されます。相手に心理的な負担をかけない 範囲で、定期的に連絡を取るクセをつけましよ  私白身、定期的に連絡を取ってコミュニケー ションを取っている人が何人もいます。  例えば、『プロセスーエコノミー』の著者で あるIT批評家の尾原和啓さんとはしばしば連 絡を取り合っています。  尾原さんが囗本に来るときには、必ずお茶を 飲みながら話をする機会を作り、海外で見てき たことを教えてもらったり、私がしている仕事 について教えたりしています。  私か『転職2.0』を発表したとき、尾原さんか らプロモーションの方法を事細かに教えてもら い、そのとおりに実践しました。  本の出版は私にとってのクリエイター活動で あり、まさにヨコのつながりがクリエイター活 動に生かされた事例だと思います。 ファンとは「フラットに」付き合う  最後にお伝えしたいのは、ファンとの上下関 係を作らず、フラットに付き合うことの大切さ です。  会社では、どうしても年齢や役職に基づく上 下関係を意識する機会があります。日本では 「席順は○○さんが上座」「挨拶は○○さんが 先」など、配慮を求められる職場が多いと思い ます。  しかし、クリエイターエコノミーの世界では クリエイターとファンはフラットな関係である のが原則です。  特にヨコのつながりにおいては、誰に対して も同じように接することが基本です。私白身、 どの年齢の人と話すときも敬語を使い、「さん 付け」で呼ぶように意識しています。  もちろん、ファンとの関係はクリエイターと してのキャラクターに依存する部分が大きいの で、あえて上から目線で話すのもアリです。  例えば、デーモン閣下がファンに向かって急 に敬語を使ったら、かえって違和感が生じるで しょう。  ただ、副業クリエイターは少しずつヨコのつ ながりを広げていくわけですから、上から目線 でギャラ作りをしたり、偉そうに話したりする のは得策ではありません。  フラットな話し方以外に意識したいのは、一 言でいうと「謙虚さ」です。  クリエイターというと「我が道を行く」「自 信に満ちあふれていて当たりが強い」というイ メージを持つ人もいるかもしれません。  しかし、実際に優れたクリエイターには謙虚 な人が多い傾向があります。なぜなら、ファン の声を聞いて、アジヤイル的に変化を加えてい くにあたっては、親しみやすさや話を聞き入れ てくれそうな雰囲気を持つ必要があるからです。  謙虚なクリエイターは、苦言を呈されたとき にも、ピートアップして反論するのではなく、 貴重な意見を受け止めて改善へとつなげていま す。  逆に、うまくいったときも天狗にならずに、 ファンの声を大事にして自分を高める努力を続 けます。  そういった謙虚でオープンなマインドを持っ ているかどうかが、クリエイター活動の成否を 分けるのです。  最後に強調したいのは、「相手を決めつけな い」ということです。  ファンの中には、少しとっつきにくそうな人、 嫌みっぽい表現をしがちな人もいます。そうい う大と接すると、「話を聞きたくない」「この人 の言うことは受け入れたくない」と心を閉ざし たくなります。  しかし、そんなファンが貴重なアドバイスを してくれることもあります。  とりあえずは相手を一方的に判断せずに、一 度は謙虚な姿勢で話を聞く姿勢を持ったほうが よいでしょう。それでもどうしても受け入れら れない、目に余る態度を取るファンは、ある程 度の段階で見切りをつけ、そっと放置すればよ いのです。  ファンとフラットな関係を続けながら、クリ エイター活動を長く継続してほしいと願ってい ます。 CHAPTER7 まとめ ▼ヨコのつながりを作るにあたって、最初に取り組みた  いのは、「会社人」から「仕事人」へとマインドセッ  トを変えること。「自分に何ができるか」を考え、そ  れによって会社にどう貢献できるかを追求する。 ▼「プロジェクト中心」で動く人は、もはや会社に縛ら  れることがない。会社の枠を超えて「プロジェクト中  心」で動けるようになることが大事。 ▼会社という軸ではなく、「興味・関心軸」で趣味仲間  とつながる。普通に会社対会社で仕事をしているとき  にはつながれないような人とつながることができる。 ▼何かのプロジェクトに一度でも一緒に取り組んだ人の  数を増やしていくことには大きな意味がある。一緒に  何かのプロジェクトに取り組んだという経験を共有し  ていると、何かあったときに相談したり、コミュニ  ティヘの参加を呼びかけたりしやすくなる。 ▼ファンとの上下関係を作らず、フラットに付き合うこ  とが大切。謙虚でオープンなマインドでいられるかが、  クリエイター活動の成否を分ける。 おわりに  最後までお読みいただきありがとうございま す。  ここまでお読みになって、あなたはどんな感 想を持つたでしょうか。  クリエイターエコノミーの潮流を実感し、 キャリアを複数持つことの重要性を理解し、副 業クリエイターへの道を一歩踏み出したいとい う気持ちになったでしょうか。そうなってくれ たらと願っています。  振り返ってみると、私は人一倍多様な働き方 を経験してきました。  大学時代には個人事業主や起業を経験し、新 卒では大企業に入社して大企業の働き方を目の 当たりにしました。その後、スタートアップに 転職し、その企業が買収されて大企業となり、 さらに海外企業に移籍し……という具合に、さ まざまな職場でさまざまな働き方に触れてきま した。  だから経営者の視点で働き方を見ることもあ りますし、イチ会社員の視点で働き方を見るこ ともあります。  そんな経験を経て、現在は本業のほかに複数 の副業キャリアを並行させているわけですが、 ありがたいことにすべてのキャリアを存分に楽 しめていると自負しています。  これから私自身がどんな働き方をしていくの かは未知数です。  またまた本業が変わるかもしれませんし、副 業がもっと増えるかもしれません。本業と副業 と趣味の境界線がさらに曖昧になってくるよう な気もしています。  自分でも予測はつきませんが、いずれにして も変化を楽しみ、アジャイル的に改善を繰り返 しながら最善を追求したいと思います。  最後にお伝えしたいのは、自分のキャリアは 自分で決めるということです。  私は『転職2.0』という本の中で、「自分株式 会社」を意識しながら人生を歩んできたとお話 ししました。そして「自分株式会社」の発想が 求められると述べました。  「自分株式会社」を意識するとは、自分が自分 自身の経営者であるという自覚を持ち、自分に とっての幸せの最大化を目指すことを意味しま す。  「自分株式会社」という発想は、もちろん副業 のキャリアを考えるときにも重要となります。  まずは、自分のキャリアを会社任せにするの ではなく、キャリアのオーナーシップを持つこ とが肝心です。自分のキャリアに当事者意識を 持ち、何をすべきかを自分で考えていくのです。  「自分株式会社」を意識すれば、会社の仕事の 取り組み方も変わってくるはずですし、副業を 自分の幸せの最大化を実現する手段の一つであ ると捉え、モチベーション高く取り組むことが できると思います。  ……などと、あれこれ語ってきましたが、百 聞は一見に如かずです。  小さなこと・できることから、あなたの働き 方の変革にチャレンジしてみてください。  失敗も楽しみながら、自分の手で新しい働き 方を作っていってください。  そして幸せの最大化をぜひ実現してください。  この本の内容は自身の経験だけではなく、こ れまで関係しているすべての会社、示唆やイン スピレーションをくださるメンターや友人のみ なさんによってできあがっています。心から感 謝申し上げます。  特に、SBクリエイティブの編集者さんには 前著『転職2.0』に続き、出版の機会をいただき ました。そして前著に引き続き、渡辺稔大さん に言語化をお願いし、客観的に振り返りながら ブラッシュアップすることができました。本書 の第7章でも提案している「プロジェクト中 心」の働き方を今回も実践できたことを嬉しく 思うとともに、「一度一緒にやってみた」こと で強固になったヨコのつながりの力を実感して います。また、長年のスーパーアシスタント金 井由香里さんには、今回も執筆にあたり多くの サポートをいただきました。この場を借りて御 礼申し上げたいと思います。  また、いつかあなたと働き方の答え合わせを する機会を得られたら嬉しいです。  一緒に稼ぎ方2.0を楽しんでいきましょう’・                  村上 臣